説明

本葺型の平瓦

【課題】 本瓦葺きにあって、雨漏れのない瓦の葺き上げ状態を得るとともに、その施工をきわめて簡易になし得る。
【解決手段】 瓦本体1Aが瓦の幅方向に所望深さの湾曲した谷部2となした本葺型の平瓦1であって、前記谷部2の両側縁の立上がり縁を瓦の頭部2から尻部3に向かう所望の長さまで瓦上面側を凸とする所望の高さの膨出支持縁部5,5となし、該両膨出支持縁部5,5はその頭部側端部を瓦の頭部3から小口6,6にかけて所望の角度に面取り形成した斜状面7,7となすとともに他方端部を該斜状面8,8とほぼ合致する斜状面となしたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、本葺型の平瓦、詳しくは、本瓦葺に使用され、所望深さの湾曲状の谷部を形成した平瓦に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、この種の本瓦葺に使用される平瓦は、単に、瓦本体を、その瓦上面側が凹となる所望深さの谷部を形成した湾曲形状に構成されたもの、または、前記のように構成された瓦本体の頭部側の両小口或いは片方の小口に所定の高さの水返し部を一体的に立設させて構成したものが主に採用されていた。そして、上記各平瓦は、屋根の流れ方向に対して下位から上位に順次所定の長さずつ重ね合わせた状態で葺き上げ、また、屋根の桁行き方向に対して瓦の小口どうしを突き合わせた状態で横に並べ、その突き合わせ部位に葺土を介在して丸瓦を被せて葺き上げられるものであった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来の平瓦にあっては、その平瓦自体の形状及び丸瓦との葺き合わせの構造の関係上、必然的に多量の葺土(とくに、丸瓦の下部の部位)を必要としたり、また、該多量の葺土を必要とすることに起因してその雨仕様に対しても完全に満足するには至らなかった。そこで、本発明は、上記した従来の問題点に鑑み、雨漏れのない瓦の葺き上げ状態を得るとともに、その施工をきわめて簡易になし得る本葺型の平瓦を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、請求項1の発明は、瓦本体が瓦の幅方向に所望深さの湾曲した谷部となした本葺型の平瓦であって、前記谷部の両側縁の立上がり縁を瓦の頭部から尻部に向かう所望の長さまで瓦上面側を凸とする所望の高さの膨出支持縁部となし、該両膨出支持縁部はその頭部側端部を瓦の頭部から小口にかけて所望の角度にめんとく形成した斜状面となすとともに他方端部を該斜状面とほぼ合致する斜状面となしたことを特徴とするものである。この構成によれば、屋根の流れ方向に対しては、下位に定置した平瓦における両膨出支持縁部の他方端部の斜状面に対して上位に位置される平瓦における両膨出支持縁部の頭部側端部の斜状面を突き当て、所定の長さ重ね合わせた状態で位置決めされて葺き上げるものである。そして、屋根の桁行き方向に対して瓦の小口どうしを突き合わせ、その突き合わせ部位において両瓦のそれぞれの膨出支持縁部が互いに突き合わせ状に合致されるので、この両膨出支持縁部上に葺土を介在して丸瓦を被せて葺き上げるものである。これによって、瓦どうしの重ね合わせ時の位置決めを容易にするとともに、瓦の谷部と膨出支持縁部における葺土との高さを十分に確保して雨水等の流れを常に谷部の底部位に集めて流下させることができるので、雨漏れのない安定した葺き上げ状態を得るものである。
【0005】また、請求項2の発明は、前記請求項1に記載した本葺型の平瓦において、該瓦本体の全体を瓦の長さ方向に沿ってその瓦上面側を凸とする湾曲状に形成したことを特徴とするものである。この構成によれば、下位に位置した平瓦の尻部側とこれに対応して上位に位置された平瓦との間に所望の空所が形成されるように重ね合わせて葺き上げるものであり、上記した空所内における空気の流れが該重ね合わせ部位から内部に侵入(しみ込む)雨水等を押し出すように作用してこれを防止することができる。これによって雨漏れ防止を確実にするとともに、葺き上げ状態のさらなる安定化を図るものである。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図にしたがって説明する。図において、1は本実施の形態の本葺型の平瓦の全体を示し、その瓦本体1A全体は、瓦の幅方向に所望深さの谷部2を形成する湾曲した形状となし、かつ瓦の長さ方向に沿ってその瓦上面側を凸とする湾曲状に形成されている。
【0007】前記谷部2の両側縁の立上がり縁は瓦の頭部3から尻部4に向かう所望の長さ(図ではほぼ中央部)まで瓦上面側を凸とする所望の高さ(谷部の底面からの高さ)の膨出支持縁部5,5として湾曲状に形成されている。
【0008】この膨出支持縁部5,5における頭部3側と両小口6,6側との隅角部は該頭部3が細くなるように所望の角度に面取りされた前側の斜状面7,7が形成され、その後端部(ほぼ中央部に位置された部位)は前記前側の斜状面7,7とほぼ同様の所望の角度に面取りされた後側の斜状面8,8が形成されており、また、上面のほぼ中央部には上面を尖らせた多数本の線状の刻み凹凸面9,9が形成されている。
【0009】そして、前記谷部2の両側縁の立上がり縁における前記膨出支持縁部5,5の後端部から尻部4にかけて該膨出支持縁部5,5より低くした瓦上面側を凸とする重合縁部10,10が湾曲状に形成され、この重合縁部10,10と連続する水切縁部11が瓦本体1Aの尻部4側の瓦上面に形成されている。
【0010】また、前記瓦本体1Aの全体、すなわち、谷部2及びこれと連続する膨出支持縁部5,5、重合縁部10,10の全体形状の厚さは、該膨出支持縁部5,5と重合縁部10,10との段差部位を除き、ほぼ一様に形成されるとともに、瓦本体1Aはその両側縁の立上がり縁における前記膨出支持縁部5,5の後端部が最も高くなるように構成されている。
【0011】さらに、前記瓦本体1Aの尻部4側裏面ほぼ中央部には屋根の下地材W上に配設された横桟木Hに係止される引掛け部12が突出形成され、この位置の前部には該横桟木Hに打ち込まれる止釘用の釘孔13が貫設されている。
【0012】本実施の形態の本葺型の平瓦1は上述のように構成されたものであり、図5〜図8に示すように、屋根の流れ方向に対しては、屋根の下地材W上に下位となる位置に平瓦1をその引掛け部12を横桟木Hに引っ掛けるとともに該横桟木Hに対して配設された縦桟木H1にその湾曲した下面を当接して桁行き方向の水平状態を確保して定置するとともに、その釘孔13を介して該横桟木Hに釘(図示しない)着する。
【0013】そして、上記下位の平瓦1上に上位の平瓦1をその谷部2の湾曲面を合致させかつ該下位の平瓦1における両膨出支持縁部5,5の後端の斜状面8,8に対して上位の平瓦1の両膨出支持縁部5,5の前側の斜状面7,7を突き当て載置する。この状態は、下位の平瓦1上に対して上位の平瓦1がその頭部2からほぼ半分の長さ重ね合わせた状態となり、その重ね合わせ状態の位置決めが簡単かつ容易に行なうことができる。
【0014】そして、下位の平瓦1上に位置決め載置された上位の平瓦1は、前述のように、その引掛け部12を横桟木Hに引っ掛けるとともに、その一部(尻部4側)を縦桟木H1I当接して桁行き方向の水平状態が確保されて定置され、その釘孔13を介して該横桟木Hに釘着する。この場合、下位の平瓦1における重合縁部10,10上には、上位の平瓦1における膨出支持縁部5,5の湾曲状の内面が対応するように重ね合わせられるものである。
【0015】以後、上述のようにして下位の平瓦1上に上位の平瓦1を重ね合わせて順次屋根の流れ方向に葺き上げられるものである。
【0016】この場合、瓦本体1Aが瓦の長さ方向に沿ってその瓦上面側を凸とする湾曲状に形成されているので、下位の平瓦1と上位の平瓦1との重ね合わせた状態は、図7,図8に示すように、下位の平瓦1と上位の平瓦1との重合部位において下位の平瓦1の瓦上面と上位の平瓦1の裏面との間に所望の空所Sが形成されるように葺き上げることができ、この空所S内における空気層(空気の流れ)が雨水等を押し出すように作用するため、該雨水等が該重合部位を伝って内部に侵入(しみ込む)ことを未然に防止することができる。
【0017】ついで、屋根の桁行き方向に対しては、図5R>5,図6に示すように、上記のようにして屋根の下地材W上に下位となる位置で縦桟木H1にその湾曲した下面を当接してその桁行き方向の水平状態を確保して葺き上げられた平瓦1に対し、左側に平瓦1をその瓦の小口6,6どうし、すなわち、それぞれの小口における膨出支持縁部5,5を突き合わせて合致させた状態で上記のようにして定置するものであり、以後、上記のようにして平瓦1を屋根の桁行き方向に対し順次左方向に位置させた状態で葺き上げ定置するものである。
【0018】そして、屋根の流れ方向及び桁行き方向に上述のようにして葺き上げ定置された各平瓦1〜1において、その屋根の流れ方向に沿ってその突き合わせ部位における各膨出支持縁部5,5上に葺土Tを介在して丸瓦W1を被せて葺き上げるものである。すなわち、各膨出支持縁部5,5の刻み凹凸面9〜9上に葺土Tを載置し、その上部に丸瓦W1をその両下端部を左右の平瓦1,1の谷部2,2上に位置させて順次葺き上げるものである。この状態は、各膨出支持縁部5,5が葺土Tを介して丸瓦Wを支持(受承)する状態となる。
【0019】この場合、膨出支持縁部5,5が瓦本体1Aより高く位置される、すなわち、瓦の谷部4の底面から膨出支持縁部5,5上の葺土Tまでの高さhを、既存の平瓦における谷部の両側縁の立上がり縁より相当高い位置に確保するととができるため、膨出支持縁部5,5による水切り効果とともに葺土Tに雨水等がしみ込む状態を可及的になくすることができ、これによって谷部2を流れる雨水等が葺土Tを伝う毛細管現象により平瓦の突き合わせ面から内部に侵入(しみ込む)ことを未然に防止することができる。また、葺土Tを膨出支持縁部5,5の刻み凹凸面9〜9上に載置することにより、該刻み凹凸面9〜9によってその抵抗を増して葺土Tが滑り落ちたり、ずれたりすることを防止してその載置状態の安定化をなし得、丸瓦W1の葺き上げ状態を良好にし得る。
【0020】さらに、該膨出支持縁部5,5は瓦上面側を凸とする湾曲状に形成されているため、その突き合わせ状態においてはほぼ半円形状となり丸瓦W1の形状に合致するので、該膨出支持縁部5,5に載置する葺土Tを可及的に少なくして該丸瓦W1を葺き上げことができるから、上述した雨水が葺土Tを伝う毛細管現象により平瓦の突き合わせ面から内部に侵入(しみ込む)ことを確実に防止することができる。
【0021】上述のように構成した本実施の形態における平瓦1によれば、上述のようにして葺き上げられるものであるから、屋根の本瓦葺き作業を熟練を要することなく簡単かつ容易に、しかも、膨出支持縁部5,5により雨水等を常に瓦の谷部に集めるようにして流下させて雨漏れのない安定した状態で葺き上げることができ、その本瓦葺き屋根の耐久性の向上を図ることができるものである。さらに、照り屋根等に対応して葺き上げた場合は、膨出支持縁部5,5による水切り効果が顕著に発揮されるものである。
【0022】そして、本実施の形態にあっては、上述したように、屋根の下地材Wに対して横桟木Hと縦桟木H1とを碁盤の目状に配設し、これに平瓦1を引っ掛け、載置する、いわゆる、縦桟工法により平瓦1を葺き上げる(本瓦葺きする)ことができるため、上記した効果とともに、屋根の下地材W上に対して平瓦の下面に葺土を置くことがないので、平瓦1を主体とする本瓦葺き構造の軽量化に大きく貢献できるものである。
【0023】なお、本実施の形態の平瓦1における膨出支持縁部5,5は図示のものに限定するものではなく、瓦本体の寸法或いは重ね合わせる長さによって種々選択して設定することが可能である。
【0024】また、瓦本体1Aの全体の重量を重くしない(軽量化を維持する)ように、谷部2及びこれと連続する膨出支持縁部5,5、重合縁部10,10の全体形状の厚さを、該膨出支持縁部5,5と重合縁部10,10との段差部位を除き、ほぼ一様としたが、これに限定するものではなく、膨出支持縁部5,5を別に膨出形成することもできる。さらには、軒平瓦等にも簡単に応用できるものである。
【0025】
【発明の効果】以上詳述したように、請求項1の発明にあっては、瓦本体の小口側に形成した膨出支持縁部の構成及び該膨出支持縁部における端部の両斜状面の構成により、本葺型の平瓦として瓦どうしの重ね合わせ時の位置決めを容易にして、その葺き上げ施工を簡単かつ容易でき、しかも谷部の底面から小口までの高さを膨出支持縁部により十分に確保することができ、丸瓦を葺き上げるために葺土を載置したとしても、該葺土に雨水等がその毛細管現象により吸い上げられることを未然に防止するとともに、雨水等の流れを常に谷部に集めて流下するようになして雨漏れのない安定した耐久性に富む葺き上げ状態を得ることができる。
【0026】また、請求項2の発明にあっては、瓦どうしの重ね合わせ状態において、下位に位置した平瓦の尻部側とこれに対応する上位に位置された平瓦との間に空所が形成されるように葺き上げるることができ、該空所内における空気の流れが該重ね合わせ部位から内部に侵入(しみ込む)雨水等を押し出すように作用してこれを防止することができる。これによって雨漏れ防止を確実にするとともに、葺き上げ状態のさらなる安定化及び耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示す平瓦の斜視図である。
【図2】図1のX−X線端面図である。
【図3】図1のY−Y線端面図である。
【図4】図1のZ−Z線端面図である。
【図5】平瓦の葺き上げ状態を示す平面図である。
【図6】平瓦の葺き上げ状態を示す横面図である。
【図7】平瓦の葺き上げ状態を示す縦面図である。
【図8】平瓦の葺き上げ状態における突き合わせ部位の縦面図である。
【符号の説明】
1 平瓦
1A 瓦本体
2 谷部
3 頭部
4 尻部
5 膨出支持縁部
6 小口
7,8 斜状面
S 空所
W1 丸瓦

【特許請求の範囲】
【請求項1】 瓦本体が瓦の幅方向に所望深さの湾曲した谷部となした本葺型の平瓦であって、前記谷部の両側縁の立上がり縁を瓦の頭部から尻部に向かう所望の長さまで瓦上面側を凸とする所望の高さの膨出支持縁部となし、該両膨出支持縁部はその頭部側端部を瓦の頭部から小口にかけて所望の角度に面取り形成した斜状面となすとともに他方端部を該斜状面とほぼ合致する斜状面となしたことを特徴とする本葺型の平瓦。
【請求項2】 前記請求項1記載の本葺型の平瓦であって、該瓦本体の全体を瓦の長さ方向に沿ってその瓦上面側を凸とする湾曲状に形成したことを特徴とする本葺型の平瓦。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平10−37389
【公開日】平成10年(1998)2月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−194811
【出願日】平成8年(1996)7月24日
【出願人】(596108438)山本瓦工業株式会社 (3)