説明

材料加工、特に屈折異常眼科外科手術のための装置

材料加工、特に屈折異常眼科外科手術のための装置およびコンピュータプログラムは、パルス状フェムト秒レーザにより動作し、個々の焦点は規則的で不都合な回折現象を防止するために、隣接する焦点の間隔が大部分変化するように格子構造が位置決めされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料加工、特に屈折異常眼科外科手術のための装置であって、パルス状レーザ光源と、レーザ光源から放出されたレーザビームを加工材料、特に眼に集束し、案内するための手段と、レーザビームの焦点が制御された軌道で案内されるように案内手段を制御するためのコンピュータ支援された制御部とを備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
以下に屈折異常外科手術に関して、特にLASIKに関して本発明を説明する。
【0003】
LASIKは、現在では屈折異常外科手術におけるほぼ定着した方法となっている。屈折異常外科手術では、眼の屈折特性をレーザビームによって変更する。
【0004】
LASIKで次第に重要となっている器具はフェムト秒レーザ、すなわち、数百フェムト秒までの範囲であってもよい極めて短いパルス長を有するパルス状レーザである。このような短いパルス長により、極めて小さい容量内でビームを集束することにより極めて高い出力密度の電磁ビーム、ひいては極めて高い視野強度を形成することが可能である。フェムト秒レーザは、LASIKにおいて現在では主にいわゆる「フラップ切断部」、すなわち、カバー(「フラップ」)を形成するための角膜による切断部を形成するための器具としての役目を果たす。一般にカバーは、カバーの下に位置する基質を露出するために持ち上げることができるように、小さい縁部により角膜に結合されたまま保持され、基質は、別のレーザビームによって、あらかじめ計算されたアブレーション断面に従い除去される。このように基質を新たに成形した後にカバーは元に戻され、一般に急速に再び基質により治癒する。フェムト秒レーザは、マイクロケラトームに次第に代替している。マイクロケラトームは、振動するブレードを備えた機械装置であり、これを用いてカバーを作製するための上記のような切断を同様に行うことができる。
【0005】
現在までに百万件以上のこの種の手術が世界中でフェイムト秒レーザにより実施されたと推定される。
【0006】
上記のような角膜における切断のためのフェムト秒レーザの使用は、Fs−LASIKとも呼ばれる。Fs−LASIKは、機械的なマイクロケラトームの使用に比べて幾つもの利点、例えば、合併症危険性が少ないこと、望ましいフラップ切断部厚さの精度の高さ、縁部切断部の良好な成形などの利点を有する。
【0007】
もちろん、Fsレーザによりマイクロケラトームの精密なブレードと同様の切断床精度を達成し、切断後に合併症を生じることなしにフラップの治癒を可能とするためには、Fs−LASIKにおいて方法のパラメータ、特に切断パラメータ(以下参照)を極めて微細に最適化する必要がある。
【0008】
Fs−LASIKのこのように微細な最適化が必要とされる原因は、切断部形成の物理学にある。基本的にFs−LASIK切断部は、例えば5μmの範囲の直径を有する微小ないわゆる「微小切開部」を密に連続して配列させることにより生じる。組織は、レーザの極めて高い局所的な出力密度、すなわち、高い視野強度により開かれ、角膜組織およびそこに位置する微小線維の局所的な分離が行われる。密に隣接する集束パルスの総体により、最終的に組織の面状分離が生じる。必要な視野強度は、現在使用できるレーザによって一般に焦点が合っている場合にのみ得られる。このことは、組織表面下のまさに焦点位置の深さで組織分離を行うことができるという利点も有する。
【0009】
上記の極めて繊細に最適化すべき方法パラメータは、特にレーザパルスエネルギ、焦点直径、焦点間隔、および個々の集束パルスの時間および空間における制御である。
【0010】
1つの軌道を案内された焦点を密に配置し、時間的に配列することにより密に隣接する連続した微小切開部を互い隣接して配列させてFs−LASIK切断を実施するためには、従来技術において様々なアプローチがある。この場合、フラップを形成するための切断全体を実施するための所要時間も基準となる。
【0011】
従来技術では、例えば個々のビームパルスの焦点をパルスからパルスへと螺旋軌道に沿って案内すること、および、例えば従来のブラウン管における電子ビーム制御のように、特に時間的に連続する焦点を行の形で案内することも公知である。
【0012】
上記目的でレーザビームを成形し、空間を案内する手段が従来技術により公知である。上記のような焦点の行毎のラスタは広く使用されている。なぜなら、この場合入手できる走査技術(ミラーおよびミラー制御)を使用することができるからである。連続するレーザビームパルスの焦点をこのように行毎に案内して良好なFs−LASIK切断部を形成するために、例えば次の方法パラメータ、
レーザパルスエネルギ: 1μJ
焦点直径: <5μm
行内の焦点間隔: 〜8μm
行間隔: 〜12μm
フラップの直径 9mm
連続レーザパルス周波数 60kHz
が適している場合がある。これらのパラメータにより、例えばフラップ切断を30秒未満で行うことができる。
【0013】
しかしながら、最近では、Fs−LASIK切断との関連で、この形式で治療を受ける患者を当惑させる現象が生じている。患者はFs−LASIK手術後、ときおり物体の縁部で色が解消される縁部構造、すなわち、一種の虹を見る。これは「虹視」作用と呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、このような虹視作用を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明はこの課題を、屈折異常眼科外科手術において、パルス状レーザ光源、レーザ光源から放出されたレーザビームを眼に集束し、案内するための手段、および案内手段を制御するためのコンピュータ支援された制御部を備える装置により解決する。案内されたレーザビームの焦点は所定の軌道で眼に沿って、または眼の内部を案内され、隣接する焦点間隔は少なくとも大部分変化する。
【0016】
本発明は、屈折異常外科手術における使用に限定されておらず、むしろ上記虹視作用が生じる場合のあるあらゆる材料加工時、例えば光学構成素子などの加工時に一般に使用することができる。
【0017】
このために、本発明は一般に材料加工装置を制御するためのコンピュータプログラムを提案し、装置は、パルス状のレーザ光源、レーザ光源から放出されたレーザビームを加工材料に案内し、集束するための手段、案内手段を制御するためのコンピュータ支援された制御装置を備え、レーザ光線の焦点は所定の軌道で材料に沿って、または材料内を案内され、材料に沿った、または材料内の隣接する焦点の間隔は少なくとも大部分変化する。
【0018】
本発明は、上記虹視作用は、ビーム焦点の空間位置の従来の制御において、加工材料、すなわち特に角膜に構造が形成され、これらの構造が後に物理学的に、例えば格子のように作用し、この格子が、通過する白色光を回折によりスペクタル部分に分解してしまうことにより生じるという仮定から出発している。換言すれば、従来技術では、個々のビーム焦点の選択された空間的な位置決めにより等間隔の焦点間隔を有する規則的な構造が生じ、これらの構造は特に2次元の格子を形成する場合があり、この格子は、例えば眼の網膜に回折像を生成し、これにより、先鋭な縁部を観察した場合、白色光の個々の色はもはや正確に重ならなくなる。
【0019】
この作用は屈折異常外科手術では最も不都合であることは自明である。
【0020】
本発明によれば、隣接する焦点の間隔は、加工材料、特に角膜に上記のような規則的な構造がもはや生じないように選択される。換言すれば、本発明により、レーザビームの個々の作用点は、規則的で不都合な回折現象を引き起こす構造がもはや生じないように位置決めされる。
【0021】
従来の形式のFs−LASIK切断部の場合には、不都合な回折作用の原因となるこのような規則的な構造が、レーザビームの個々の焦点がほぼ等間隔に位置決めされており、フラップを元のように閉じ、治癒プロセスが終了した後にも屈折率の局所的な変化を伴う規則的な格子構造が残されていた。
【0022】
本発明の好ましい構成によれば、隣接する焦点の間隔は確率論的に変化する。この場合、例えば空間的に連続する焦点の個々の位置を計算するためには、計算時に等しい基本間隔が規定され、この間隔を次いでパルスからパルスへと所定の小さい限界内で変化させる。この場合、所定の偏差限界(すなわち、等間隔の連続した焦点に対する偏差の限界)は、焦点の間隔が不均一であるにもかかわらず結果として完全な切断部を形成するように選択されている。例えば、上記計算による基本格子の定数の5〜20%の偏差限界を調節することができ、計算上の基本格子の格子定数は、このようにして生じた焦点位置の間隔が最大限である場合にも連続的な微小切開部を生じさせるように十分に小さく設定される。
【0023】
次に本発明の実施の形態を図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】屈折障害眼科外科手術のための装置を示す概略図である。
【図2】時間的な順序で制御される角膜におけるレーザパルスの焦点に従う軌道のための実施例を示す断面図である。
【図3】個々の焦点位置間の規則的な等間隔をなくした図2による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、フェムト秒範囲のパルス長さでレーザパルスを生成するためのレーザ光源10を備える屈折異常眼科外科手術のための公知の装置を概略的に示し、放出パルスを参照符号12により示す。レーザパルスは、レーザビームパルス12′を成形、特に集束し、案内するために手段14の内部で眼16の方向に向けられる。ビームを成形、集束および案内するための手段も同様に公知である。コンピュータ支援された制御部18がレーザ光源、およびビームを成形し、ビームを案内するための手段14を制御する。例えば、レーザビームパルス12′は、矢印20に従い屈折異常を治療しようとする眼の上部を案内される。個々のビームパルスが問題となるので、眼の上部のこのような案内は「ラスタ走査」と呼ぶこともできる。
【0026】
図2は、Fs−LASIK切断部における焦点Fのこのようなラスタ走査を概略的に示している。切断部の縁部はRにより示す。例えば、切断部は9mmの直径を有している。図2では、上半分にのみ個々の焦点Fを示し、焦点の下半分は対応して補足的に考えることができる。
【0027】
時間的に連続したレーザパルス12′の焦点Fは行Z内を案内される。行間を矢印により示す。したがって、パルスの時間的な順序は、行において右から左へ、または左から右に線形に進む。図2に示すように、規則的な格子構造が生じ、行Zにおける隣接した焦点Fは常に等しい間隔Δxを有している。行間の間隔Δyも一定である。上記のように実施された規則的な格子構造は回避すべきである。
【0028】
このために、図3に示す実施例では、行Zにおける隣接する焦点位置間の間隔Δxは変化している。例えば、隣接する2つの焦点Fの図示の間隔Δxは、後続の2つの焦点間の間隔Δxi+1よりも大きい。
【0029】
この間隔の変化は、少なくとも焦点間隔の大部分において各行について不規則に設けられる。「少なくとも大部分において」という基準は、全体として上述の意味で不都合な回折作用を生じさせる恐れのある十分に規則的な格子構造が生じないように選択することである。このような基準では、幾つかの少数焦点位置が等間隔となっていても不都合ではない。
【0030】
行内の集束間隔Δxを変化させる可能性は、次の確率論的アプローチ:
Δx=Δx+a(i・Δx) (i−1)番目およびi番目の焦点間
Δxi+1=Δx+a[(i+1)・Δx] i番目および(i+1)番目の焦点間
例えば、Δx=定数=5μm
a=0.10 百分率の調節率
I;(I+1) 0….1間に生じた乱数
により得られ、Δxは単純に計算により規定された、行Zにおける隣接する焦点間の基本間隔である。この間隔は上記式により確率論的に、すなわち、偶然に従い限界内で変化させられる。例えば、計算上の基本間隔Δxは、焦点直径が3μmの場合には5μmである。係数aは、隣接する焦点の間隔の許容される変化の限界を示す。aが0.10の場合、焦点間隔の許容される変化は10%である。すなわち、係数aは焦点間隔の調節限界を規定する。値i,(i+1)は、乱数発生器により発生させた数値間隔[0…..1]における乱数である。乱数は、隣接する焦点の間隔の個々の場合について確率論的に規定される。パラメータΔX,a,iは、間隔変化にもかかわらず、良好に関連づけられた「連続的な」切断床が形成されるように焦点が十分に密に互いに隣接しているように選択される。
【0031】
焦点間隔の変化により、それぞれの用途において不都合な回折像が規則的な格子構造により生じる可能性がもはやなくなることが重要である。
【0032】
同様に、行内の間隔変化に加えて、列S内の焦点間隔を変化させることもできる。これに対応して、y方向の焦点間隔の規則性を以下のようにしてなくすこともでき、
Δy=Δy+b(i・Δy) (i−1)番目およびi番目の行の行間隔
Δyi+1=Δy0+b[(i+1)・Δy] i番目および(i+1)番目の行の行間隔
例えば、 b=0.15 調節幅
Δy=10μm 行間隔
となる。この場合、個々のパラメータは、行Zの間隔変化について上述したのと類似の意味を有している。すなわち、0.15の係数bはy方向の間隔変化のための限界を示し、ここでは15%であり、Δyは列Sにおける計算により規定された焦点の基本間隔である。ここでも個々のパラメータは、個々の場合に規定された焦点直径およびFsレーザの調節されたパルスエネルギにおいて、良好に関連づけられた切断面が生じるように選択し、最適化する必要がある。
【0033】
全体として、切断床には、不都合な回折作用を排除するために十分に不規則的な密度変動を有する荒さが残される。
【0034】
理論的には、乱数発生器などを介して計算により得られた可変の焦点間隔における上述の効果を、機械的に不安定なビーム案内により少なくとも部分的に行うことも可能であるが、しかしながら、計算による制御およびプロセス制御が有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折障害眼科外科手術のための装置であって、
パルス状のレーザ光源(10)と、
該レーザ光源から放出されたレーザビーム(12)を眼(16)に集束し、案内するための手段(14)と、
該案内手段(14)を制御するためのコンピュータ支援された制御部(18)とを備え、案内されたレーザビーム(12′)の焦点(F)が、所定の軌道(S,Z)で眼に沿って、または眼の内部で案内される装置において、
隣接する前記焦点(F)の間隔(Δx)が、少なくとも大部分変化し、
前記軌道が行として形成されており、該行(Z)における隣接した前記焦点(F)の間隔(Δx)が確率論的に変化することを特徴とする装置。
【請求項2】
屈折障害眼科外科手術のための装置であって、
パルス状のレーザ光源(10)と、
該レーザ光源から放出されたレーザビーム(12)を眼(16)に集束し、案内するための手段(14)と、
該案内手段(14)を制御するためのコンピュータ支援された制御部(18)とを備え、案内されたレーザビーム(12′)の焦点(F)が、所定の軌道(S,Z)で眼に沿って、または眼の内部で案内される装置において、
隣接する前記焦点(F)の間隔(Δx)が、少なくとも大部分変化し、
前記軌道が列として形成されており、該列(Z)における隣接する前記焦点(F)の間隔(F)が確率論的に変化することを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置において、
前記レーザビーム源(10)が、フェムト秒レーザである装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の装置において、
切断部、特にLASIKフラップ切断部のための焦点の軌道が計算されている装置。
【請求項5】
材料加工装置を制御するためのコンピュータプログラムであって、前記装置が、
パルス状のレーザ光源(10)と、
該レーザ光源(10)から放出されたレーザビーム(12)を眼(16)に集束し、案内するための手段(14)と、
該案内手段(14)を制御するためのコンピュータ支援された制御部(18)とを備え、案内されたレーザビームの焦点(F)が、所定の軌道(S,Z)で材料に沿って、または材料内を案内され、
隣接する前記焦点の間隔が、材料に沿って、または材料内で少なくとも大部分変化するコンピュータプログラムにおいて、
前記軌道が行として形成されており、該行(Z)における隣接する前記焦点(F)の間隔(Δx)が確率論的に変化するか、または、
前記軌道が列として形成されており、該列(F)における隣接する前記焦点(F)の間隔(Δy)が確率論的に変化することを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2−3】
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【公表番号】特表2010−523185(P2010−523185A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501432(P2010−501432)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002658
【国際公開番号】WO2008/122405
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(509114077)ウェーブライト アーゲー (7)