説明

材料評価方法及びその評価方法を実施可能な処理装置

【課題】電気抵抗が大きい超純水を使用して、その超純水に対する材料の特性を評価する方法及びそのような評価に使用可能な処理装置を提供する。
【解決手段】本発明の処理装置は、超純水を圧送するポンプ21と、被処理部材を取り外し可能に保持するホルダ32と、前記ポンプの吐出部に接続されていてポンプから送られた超純水を前記被処理部材の面に向かって噴射するノズル41とを備え、前記被処理部材に超純水を噴射させることにより被処理部材の表面を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ、タービン、コンプレッサ或いはブロアー等の回転機械の部材として使用する材料の評価方法及びそのような評価を行うのに使用可能な処理装置に関し、より詳しくは、超純水を取り扱う流体機械或いは超純水を潤滑剤として使用するシール、軸受け等に使用する材料を超純水を使用して評価する方法及びそのような評価を行うのに使用可能な処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水を潤滑液として扱うポンプ等の回転機械の軸受け、軸シールにはシリコン系セラミックスである炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si)などが広く使用されている。これらセラミックスは水中潤滑下での摺動中に、摺動面にゲル状の水酸化物や水和物の膜が容易に形成され易く、この効果により、低摩擦、耐磨耗性に優れている。
キャンドモータポンプのジャーナル軸受け、スラスト軸受けには回転側、固定側ともにSiCで構成することが広く行われている。また、ポンプシール部材においては、回転側をSiC、固定側を炭素質成形体で構成したり、両者を共にSiCで構成することが広く行われている。
上記の部材について超純水環境下における使用の可否については、超純水環境下において部材評価のための摺動試験を実施する以外に方法がなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的に水道水は電気抵抗が0.001〜0.1MΩcmであり、このような環境下でシリコン系セラミックスを使用する場合は優れた特性を示す。しかしながら、電気抵抗4MΩcm以上の超純水(理論純水の電気抵抗は18.25MΩcmである。)を取扱い液とする場合、水中に含まれるSi濃度が小さいために、Si系水酸化物又はSi系水和物の水中への溶解速度が大きくなり、シリコン系セラミックスが腐食されていく。したがって、軸受け、シール部の表面があれて水膜切れを起こすことにより、滑り面が直接接触して磨耗し、水道水の場合と比較して極端に短い時間で回転トルクが上昇し、使用不能となる。
かかる材料を実際に軸受け或いはシール部材として使用した場合に、使用不能になるまでの期間は数ヶ月の単位になるので、材料評価を実機を模擬した摺動試験で行うと膨大な評価時間がかかってしまう問題がある。なお、上記腐食の例は水温が10〜20℃で発生するが、水温が高くなると一般的には化学反応の速度は大きくなるため、腐食速度は大きくなり、装置の寿命も短くなる。
【0004】
本発明は、かかる問題に鑑み成されたものであって、実機を模擬した摺動試験に比較して短い時間で評価可能な材料の評価方法及びそのような評価に使用可能な処理装置を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、電気抵抗が大きい超純水を使用して、その超純水に対する材料の特性を評価する方法及びそのような評価に使用可能な処理装置を提供することである。
本発明の別の目的は、超純水を評価したい材料でできた被処理部材の表面に衝突させてその被処理部材の壊食深さ又は体積減少量を測定し、それによって、材料の耐食性を評価する方法及びそれに使用可能な処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、材料の評価方法であって、超純水の噴流を評価したい材料でできた被評価部材に衝突させ、それによって材料の耐食性を評価する方法が提供される。
なお、本発明において、超純水とは、4MΩcmないし18.25MΩcmの電気抵抗を有する水を言う。
上記方法において、前記超純水の噴流の流速は、好ましくは10m/s以上、より好ましくは20m/s以上である。その理由は、流速が10m/sより低いと壊食量が小さくなり評価しにくくなるため、評価時間を長くする必要があり、結果的にコストも高くなるからである。流速が高いほど壊食量が大きくなり評価時間は短縮できる。
また、超純水の噴流の直径は、好ましくは0.5mm以上、5mm以下であり、より好ましくは、1mm以上、3mm以下である。その理由は、直径が0.5mmより小さくなると流量が少なくなるため制御が難しくなる。一方、直径が5mmより大きいと所定の流速を確保するためには流量を多くする必要がある。従って、送水ポンプ、超純水製造装置などにハイグレードなものが必要になると同時に装置の寿命も短くなり試験コストが高くなるからである。
更に、超純水或いは試験片すなわち試料の温度は、好ましくは10℃以上、100℃未満である。その理由は、水温を10℃未満に下げると壊食量が小さくなって評価しにくくなるため、長時間の試験が必要になり試験コストが高くなるからである。一方水温が高いほど評価時間は短縮できるが、水温を100℃以上に上げると、気化してしまい評価不能となる。
超純水は、電気抵抗が好ましくは4MΩcmないし18.25MΩcmであり、より好ましく10MΩcmないし18.25MΩcmである。その理由は、超純水の電気抵抗が低いと壊食量が小さくなり評価しにくくなるため、評価時間を長くすると結局試験コストも高くなるからである。
更にまた、超純水を被評価部材に衝突させる時間は、好ましくは30時間以上、200時間以下であり、より好ましくは50時間以上、100時間以下である。その理由は、試験時間を30時間より短くしようとすると超純水の流速を高くする必要があり、前記のように試験のコスト高を招き、また、試験時間を200時間を超えるほど長くすると試験コストが高くなるからである。
【0006】
本発明によれば、超純水を圧送するポンプと、被処理部材を取り外し可能に保持するホルダと、前記ポンプの吐出部に接続されていてポンプから送られた超純水を前記被処理部材の面に向かって噴射するノズルとを備え、前記被処理部材に超純水を噴射させることにより被処理部材の表面を処理することを特徴とする処理装置が提供される。
超純水自体の温度制御装置あるいは試験片すなわち試料自体の温度を制御する装置があってもよい。ただし、高温環境での試験の場合、超純水自体の温度を高温にすると超純水流路内壁からの流出量が増加するため超純水の温度が低下する。従って、試料自体の温度を高温に制御することが望ましい。
上記発明において、処理装置が、超純水の衝突による被処理部材の壊食深さ又は体積減少量を測定することによって、材料の耐食性を評価する評価装置であっても良く、或いは超純水の衝突により被処理部材の表面を加工処理する処理装置であっても良い。
また、上記発明において、ノズルの内径は、好ましくは0.5mm以上、5mm以下であり、より好ましくは、1mm以上、3mm以下である。その理由は、[0005]で記載した理由と同じである。
また、前記超純水の噴流の流速は、好ましくは10m/s以上、より好ましくは20m/s以上である。その理由は、[0005]で記載した前記理由と同じである。
更に、使用する超純水の電気抵抗は、好ましくは4MΩcmないし18.25MΩcmであり、より好ましくは10MΩcmないし18.25MΩcmである。その理由は、[0005]で記載した前記理由と同じである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、次のような効果を奏することが可能である。すなわち、従来は水道水による潤滑下において優れた摩擦磨耗特性を発揮するシリコン系セラミックスは、水潤滑軸受け、シールとして広く使用されてきた。しかし不純物の非常に少ない超純水中での摺動環境ではシリコン系セラミックスは腐食により減耗してしまう。超純水中で優れた耐食性を有する材料を評価し、選定するには、摺動試験を実施すればよいが、壊食速度が非常に遅いため評価するために多くの時間を費やす必要があり、時間的及びコスト的に非常に効率が悪い。しかし本発明によれば、超純水の噴流を評価しようとする材料でつくった試料すなわち被評価材料或いは被処理材料に衝突させて行うので、実機による評価よりも短時間で評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明による評価方法及び評価装置について説明する。
図1及び図2において、本発明による材料の評価方法を実施するのに適した処理装置の一実施形態が示されている。この実施形態の処理装置1は、台板10上に配設された超純水の加圧供給部2と、評価したい材料でできた被評価部材(以下ここでは試料と呼ぶ)を保持する試料保持部3と、試料保持部により保持された試料に加圧された超純水を吹き付けるノズル部4と、ポンプ制御装置5とを備えている。加圧供給部2は、取り付け部材11を介して台板10に取り付けられた送水ポンプ21と、その送水ポンプに直結された駆動モータ25とを含んでいる。送水ポンプ21及びそれに直結された駆動モータ25は公知の構造のものでよいが、超純水を100kPaないし1000kPaの圧力で、0.5ないし5.0リットル/分の流量で供給可能な能力を有することが好ましい。送水ポンプ21の吸入部22は図示しない超純水の供給源に接続されている。なお、ここで超純水とは、4MΩcmないし18.25MΩcmの電気抵抗を有する水を言う。
【0009】
試料保持部3は、台板10に配置されていて支持フレーム12によってその台板10に配設固定された保持台31と、保持台31の中央部に配置されたホルダ32とを備えている。保持台31は平面形状が四角形(この実施形態では正方形)のトレー状になっていて、底には排水ポート33が形成され、その排水ポート33には排水管34が接続されている。ホルダ32のヘッド部32aには固定ねじ35が複数個取り付けられ、これらの固定ねじにより試料Mをホルダ32に着脱可能に固定できるようになっている。この場合、試料Mをねじ穴付きの支持部材に溶接等により固定し、その支持部材のねじ穴に固定ねじを螺合させることによってホルダへの試料の固定が行われてもよい。ホルダ32はトレー状の保持台31内で前後方向(後述するノズル部に対して接近、離間する方向で図1及び2において左右方向)に移動可能になっていて、ノズル先端と試料表面との距離を調整できるようになっている。保持台31に対するホルダ32の移動及び固定は公知の手段でよいが、本実施形態では、保持台上に固定された案内部材に複数のガイドロッド36を取り付け、そのガイドロッドをホルダ32の基部32bに形成されたそれぞれのスロット37内で受けて両者の前後(図で左右)に相対移動可能にし、固定ボルト38で基部32bを、それによってホルダを固定するようになっている。試料保持部3は、更に、透明なプラスチック或いはガラスのような透明な材料でできたカバー39を備えている。このカバー39は下端がトレー状の保持台内に受けられるようになっていて、装置の動作中に超純水が外部に飛散するのを防止する。
【0010】
ノズル部4は、送水ポンプ21と試料保持部3との間において保持台31に固定されたノズル支持板42に取り付けられたノズル41とを備えている。送水ポンプの吐出部はノズルの後端に接続され、送水ポンプから送られた超純水をノズル41から噴出できるようになっている。ノズル41は前後方向(図1及び2で左右方向)に一直線状に伸びており、超純水の噴流を試料の表面に衝突させるようになっていて、噴流と試料表面のなす角度は0゜〜90゜の任意の範囲で設定できる。ノズル41の先端のノズル孔の直径(内径)は、好ましくは0.5mm以上、5mm以下であり、より好ましくは、1mm以上、3mm以下である。ノズル41の構造自体は公知のもので良く、したがって、その詳細な説明は省略する。
台板10の上には、更に公知の構造のポンプ制御装置5が配設固定されている。このポンプ制御装置は、送水ポンプ22用の駆動モータの回転数を制御してノズルからの超純水の吐出量を制御できるようになっている。
【0011】
上記構成の評価装置において、評価したい材料でできた試料Mを前述のようにしてホルダ32に固定する。次に、ノズル41の先端から試料Mの表面までの距離が所定の値になるようにホルダ32を保持台に関して相対移動し、その位置でホルダを保持台に固定した後、保持台31にカバーを被せる。次に駆動モータ25により送水ポンプを作動させ、超純水をノズル41に送り、そのノズルから超純水を噴射させ、その超純水の噴流を試料Mの表面に衝突させる。かかる動作は試料の材質によって決まる時間、好ましくは30時間以上行う。所定の時間噴流を衝突させたらポンプの動作を停止させ、試料をホルダから取り出す。その後、試料の表面の状態、例えば壊食深さ或いは体積減少量を測定することによって、材料の耐食性を評価する。
【0012】
[試験例1]
前記処理装置1を用いて、焼結体SiCについて、水の純度(電気抵抗)を変化させて噴流衝突試験を行った。
ノズル41の先端から試験片である試料の表面までの距離を25mmに設定し、ノズルからの水の噴流が試料の表面に衝突するように(噴流と試料表面の成す角度は0゜〜90゜の任意の範囲に)設定した。内径1mmの噴出口を有するノズルから水を流速18m/sで100時間噴出させ、試料の表面に衝突させた。水は、電気抵抗が約0.007MΩcm(通常の水道水そのまま)、4.0MΩcm及び18.0MΩcm(超純水)である3種類使用し、各水を衝突させた試験片すなわち試料について体積減少量を測定した。
【0013】
図2は上記試験した試料の表面断面曲線を示す。図2から明らかなように、電気抵抗が18.0MΩcmである超純水の噴流を衝突させると、他の水(電気抵抗が0.007MΩcm及び4.0MΩcmの水)に比較して使用の表面が顕著に壊食されるのがわかる。上記試験結果に基づいて水の電気抵抗と最大壊食深さとの関係を示すと、図3に示されるようになる。なお、試験直後の試料表面には酸化物と思われる生成物が壊食部に付着して覆っているので、この付着物をブラシ等で除去した後断面曲線を測定した。電気抵抗が4.0MΩcmより大きくなると壊食が進行し始めるが、迅速な材料の評価には最大壊食深さがある程度大きくなっている必要があるので、評価方法としては電気抵抗が4.0MΩcm以上の水を使用するのが好ましい。
【0014】
次に電気抵抗18.0MΩcmの水を使用し、その水の噴流を100時間にわたって試料(SiC焼結体)に衝突させた場合の水の流速と最大壊食深さとの関係を示すと図4に示されるようになる。なお、水温は10〜25℃とした。図4から、噴流の流速が大きいほど最大壊食深さが大きくなる傾向を示すことがわかる。迅速な材料評価を行うために、噴流の速度は10m/s以上とするのが好ましい。
【0015】
一方、電気抵抗18.0MΩcmの水を使用し、水の流速を18m/sで前記と同じ材質の試料に衝突させた場合の試験時間(噴流を衝突させている時間)と最大壊食深さとの関係を示すと、図5に示されるようになる。この場合の水温も10〜25℃とした。迅速な材料評価を行うには最大壊食深さがある程度大きな値であることが必要であるが、図5から材料の評価に必要な試験時間は30時間以上であることが好ましいことがわかる。
【0016】
[試験例2]
SiC製のスパイラルグルーブ付きスラスト軸受け部材を実機ポンプに即した条件である電気抵抗18.0MΩcmの水中で軸受面圧2.2MPa、周速度12m/sで500時間運転した。水温は10〜25℃とした。この試験結果による軸受け部材滑り面の試験後の外観写真と断面曲線を示すと図6に示されるようになる。図6に示されるように、回転側軸受け部材は部分的に磨耗しているが、磨耗している位置は固定側軸受け部材に形成されたグルーブの終端近傍(環状の軸受け部材の半径方向内側近傍)に相当する部分であることがわかる。これは水に依るエロージョン・コロージョン作用によるものと推定される。最大壊食深さは、固定側の軸受け部材(スパイラルグルーブ付き部材)で約3μm、回転側の軸受け部材(スパイラルグルーブなしの部材)では2μmであった。500時間試験しても壊食量が少なく、実機に即した試験を評価方法として用いると評価時間が非常に長くなってしまうことがわかる。
【0017】
なお、上記実施例及び試験例は、処理装置を材料の評価方法に使用する場合について説明したが、処理装置は、材料の切断、表面の切削等の加工装置として使用することも可能である。
例えば、切断用の加工装置として使用する場合、切断しようとする部材に超純水の噴流を垂直に衝突させるように被切断部材をホルダで保持する。この場合噴流の位置に対して被切断部材の位置を変える必要があるときは、公知の手段を用いてホルダのヘッド部を他の部材、例えば保持台に対して2次元方向或いは3次元方向に移動可能にして、噴流の位置に対して被切断部材の位置を、噴流の向きに対して直角の方向に自動的に移動させるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、超純水を扱う流体機械の軸受け部材或いはシール部材用の材料の評価に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は本発明の材料評価方法に使用可能な処理装置の平面図で、(B)はその処理装置の立面図である。
【図2】SiC焼結体を用いた評価試験後の試験片の表面断面曲線を示す図である。
【図3】SiC焼結体を用いた評価試験に基づく水の電気抵抗と最大壊食深さとの関係を示す図である。
【図4】SiC焼結体を用いた評価試験に基づく噴流の流速と最大壊食深さとの関係を示す図である。
【図5】SiC焼結体を用いた評価試験に基づく試験時間と最大壊食深さとの関係を示す図である。
【図6】SiC製スパイラルグルーブ付き及びグルーブなしのスラスト軸受け部材の実機に即した滑り試験後の軸受け部材の外観写真及び表面断面曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 処理装置 2 加圧供給部
3 試料保持部 4 ノズル部
5 ポンプ制御装置 10 台板
21 送水ポンプ 25 駆動モータ
32 保持台 32 ホルダ
41 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水の噴流を評価したい材料でできた被評価部材に衝突させ、それによって材料の耐食性を評価することを特徴とする材料の評価方法。
【請求項2】
超純水を圧送するポンプと、被処理部材を取り外し可能に保持するホルダと、前記ポンプの吐出部に接続されていてポンプから送られた超純水を前記被処理部材の面に向かって噴射するノズルとを備え、前記被処理部材に超純水を噴射させることにより被処理部材の表面を処理することを特徴とする処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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