説明

枯草菌を用いた発酵大豆粕の製造方法

【課題】植物性タンパク質源としての脱脂大豆粕の品質を改良または改善することができる低廉且つ効率的な発酵大豆粕の製造方法、および前記方法によって製造された発酵大豆粕を提供する。
【解決手段】大豆粕に水分を添加し、熱処理する段階と、前記熱処理された大豆粕を冷却した後、枯草菌を接種する段階と、および前記大豆粕に接種された菌を固体培養して発酵大豆粕を得る段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性タンパク質源としての脱脂大豆粕の品質を改良または改善することができる、低廉で効率的な発酵大豆粕の製造方法、およびこの方法によって製造された発酵大豆粕に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトに致命的な病気を引き起こす狂牛病などの疾病が、飼料に添加される動物性タンパク質成分に起因した結果として判定されることにより、全世界的に飼料に添加される動物性タンパク質を植物性タンパク質で代替しようとする動きが急速に広がっている。
【0003】
飼料市場において魚粉、肉骨粉または血漿などの動物性タンパク質の代替品として用いられている、植物性タンパク質原料の中でも最も大きい比重を占めるものは、脱脂大豆粕(以下、「大豆粕」という)である。韓国で植物性タンパク質飼料源として用いられる大豆粕は、全体飼料の60%を占めており、物量が年間200万トンに達している(2004年、韓国単味飼料協会)。
【0004】
大豆粕の代表的な一般分析値は、水分9.5%、粗タンパク質49.4%、転化糖22.1%および水溶性窒素27.2%である。一般に、植物性タンパク質は、動物性タンパク質に比べてタンパク質の含量が比較的低く、家畜に必要な必須アミノ酸の組成が動物性タンパク質に比べて良くなく、一部のビタミン、鉱物質およびUGF(Unknown Growth Factor)の含量が高くない。
【0005】
また、大豆粕は、様々な抗栄養因子(anti-nutritional factor、ANF)が含有されているため、飼料として用いられた場合に消化率が阻害されるという問題点がある。その中でも代表的なものはトリプシン阻害因子(trypsin inhibitor、以下「TI」という)である。陸上動物において、食餌TIは、トリプシンとキモトリプシンの適切な酵素機能を妨害し、その結果、大豆内に存在する全体タンパク質の約6%程度易溶性を低下させる。特に、このような抗栄養因子の影響は、幼畜の場合に著しいため、幼畜用飼料に添加される大豆粕の使用量を制限している。
【0006】
生大豆粕のTI活性は約39mg/gであるが、脱脂大豆粕は製造工程において熱処理によって抗栄養因子が破壊されるため、商品として販売される脱脂大豆粕のTI活性は一般的に4mg/g以下である。したがって、育成肥育豚または母豚では被害が少ないが、子豚では育成肥育豚とは異なり、大豆粕内の抗栄養因子として大豆粕の使用に制限を受けるので、飼料給与段階別に代替タンパク質を一部使用しなければならない。このような理由により、濃縮大豆タンパクや精製大豆タンパクなどの加工大豆製品が飼料として用いられて主に乳製品類の飼料を給与するときと類似の仕様成績を得ている。
【0007】
現在生産されている濃縮大豆タンパク質(SPC)、分離大豆タンパク質(SPI)または加水分解大豆タンパク質などの大豆タンパク質加工品は、物理化学的処理または酵素処理によって生産され、主に食品加工用として生産されるもので、飼料として使用するには高価である。
【0008】
したがって、大豆粕を良質の高タンパク質飼料として使用するためには、大豆タンパク質の品質を向上させることができる、低廉且つ効率的で大量処理が可能な新しい加工方法の開発が要求される。しかも、最近、地球温暖化などの地球気候変化により穀物の生産量が減少しており、飼料の主原料となるトウモロコシまたは大豆粕などの国際価格が上昇して飼料産業と畜産農家に大きい打撃を与えている実情なので、その必要性はさらに増大しつつある。
【0009】
前述したTI以外にも、大豆オリゴ糖(soy oligosaccharides)は下痢、腹痛を誘発し、大豆多糖類(soy polysaccharides)は栄養成分の吸収を阻害するものと知られている。飼料に大豆粕を混合した場合、よく腸炎を引き起こすが、その原因は未だ解明されていない。大豆粕中のアルコール可溶性多糖類に起因するものと推測されている(非特許文献1参照)。また、大豆多糖類は、鮭などの魚類と肉鶏雛の栄養成分の吸収を阻害するものと報告されている(非特許文献2参照)。
【0010】
そこで、最近では、このような抗栄養因子の除去による高品質飼料の製造方法として、酵素処理大豆タンパクフィターゼ(phytase)を用いてフィチン酸塩を除去した製品(HP300(デンマーク)−www.hamletprotein.com)あるいは発酵処理大豆タンパク(特許文献1、特許文献2、特許文献3および非特許文献3参照)などに関する研究が行われている。
【0011】
これらの中でも、発酵処理大豆タンパクは、発酵過程中で多数の抗栄養因子を除去することができるうえ、さらにタンパク質または炭水化物を消化し易い形態に分解するため、最も消化吸収の良い高品質の飼料用タンパク素材であるといえる。
【0012】
ところが、このような発酵処理過程の場合、適正水準以上の抗栄養因子除去効果を得るためには長い発酵時間を必要とする(前記特許文献1の場合は36時間、前記特許文献2の場合は48時間)。このような長い発酵時間は、製麹機の回転率を低めて全体的なコスト上昇をもたらす。このように従来の技術は、発酵処理大豆粕の製造過程中に長い発酵時間が要求され、全体的なコスト上昇を引き起こすという問題点があった。
【0013】
現在まで枯草菌、特にバチルスサブチリスTP6菌を用いて発酵時間を画期的に減らしながら発酵大豆粕を生産する研究結果については報告されたことがなく、特に大豆粕の固体発酵中に枯草菌が生産するプロテアーゼと機能性多糖類および前記微生物のプロバイオティクス(probiotics)としての効能を積極的に活用する製品についても報告されたことがない。
【0014】
そこで、本発明者は、タンパク質飼料源である大豆粕の改良および改善のための発酵大豆粕の生産システム構築および効率的な発酵時間の減少による製品のコスト節減のために鋭意努力した結果、大豆粕の固体発酵に適した特性を持つ発酵菌株としてバチルスサブチリスTP6菌株を採用して大豆粕を固体発酵させることにより、タンパク質含量の増加、タンパク質品質の上昇、大豆タンパク質の加水分解による低分子化、TIの不活性化、非消化性多糖類のような抗栄養因子の含量減少などによる消化吸収率および飼料効率の増加だけでなく、既存の発酵処理大豆粕の問題点である長い発酵時間の画期的な改善が実現された高品質の発酵大豆粕を製造することができることを確認し、本発明を完成した。
【0015】
本明細書全体にわたって多数の特許文献が参照され、その引用が表示されている。引用された特許文献の開示内容はその全体として本明細書に参照として挿入され、これにより本発明の属する技術分野の水準および本発明の内容がより明白に説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】韓国特許登録第10−0645284号明細書
【特許文献2】韓国特許登録第10−0459240号明細書
【特許文献3】韓国特許登録第10−0925173号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Krogdahl, A. et al. Feeding atlantic Salmo salar L. soybean products. Aquac. Nutr. 6, 77-84, 200
【非特許文献2】Refstie, S. et al. Non-starch polysaccharides in soybean meals and effects on the absorption of nutrients in farmed Atlantic salmon and broiler chickens. Anim. Feed Sci. Technol. 79,331-3451999
【非特許文献3】Livestock Research for Rural Development 20(9) 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、抗栄養因子除去能力およびタンパク質分解能力に優れて発酵処理大豆粕の製造の際に発酵時間を最大限に減らすことが可能な枯草菌株、特にTP6菌株を用いた固体発酵法による発酵大豆粕の製造方法を提供することにある。
【0019】
本発明の他の目的は、前記枯草菌を用いて発酵させた高品質の発酵大豆粕を提供することにある。
【0020】
本発明の別の目的および利点は、下記の発明の詳細な説明、請求の範囲および図面によってさらに明白になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するための一つの様態として、本発明は、(a)大豆粕に水分を添加し、熱処理する段階と、(b)前記熱処理された大豆粕を冷却した後、枯草菌を接種する段階と、(c)前記大豆粕に接種された菌を固体培養して発酵大豆粕を得る段階とを含む、発酵大豆粕の製造方法を提供する。
【0022】
本発明者は、発酵によって大豆粕の品質を改良および改善することができると同時に、発酵時間を減らすための生産システムを構築するために鋭意努力した結果、発酵菌株として枯草菌を採用して大豆粕を固体発酵させることにより、上述した問題点が改善された発酵大豆粕を製造することができることを確認した。
【0023】
発酵大豆粕を製造するための本発明の方法を段階別に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0024】
(a)大豆粕への水分添加および熱処理
本発明の方法に用いられる大豆粕は、最終産物である発酵大豆粕が同一の品質を維持することができるように、同一の地域から持続的に同一種類の大豆粕を供給されてこれを用いることが好ましいが、原料としての大豆粕の品質差異による生産物としての発酵大豆粕の差異は原料上の栄養成分の初期含量による生産物の成分変化であり、発酵自体にはあまり問題とならない。特に、大豆粕の種類によるタンパク質含量の差異は、最終産物のタンパク質含量に差異を示す。好ましくは、本発明の方法に用いられる大豆粕は、タンパク質の含量が高くトリプシン阻害因子の含量が低いほど発酵大豆粕の品質は増加する。
【0025】
本発明の方法によれば、原料としての大豆粕を熱処理する前に、加水する工程が必要である。すなわち、原料大豆粕は固体発酵する前に適量の水を直接噴霧、混合して水分含量を調節した後、一定の時間熱処理する。この際、熱処理は、原料大豆粕中の雑菌を死滅させると同時に大豆細胞壁を破壊し、タンパク質を変性させることにより、目的の微生物が活発に生育することが可能な化学組成を提供するためである。
【0026】
本発明の好適な具現例によれば、前記段階(a)の水分添加された大豆粕は水分含量が30〜80%(v/w)であり、好ましくは30〜70%(v/w)であり、より好ましくは40〜60%(v/w)である。30〜80%(v/w)の範囲の水分含量は低水分による発酵速度の遅延防止、大豆粕の移送および発酵後の乾燥工程で多くの費用がかかる問題点の改善、並びに熱効率の面で好ましい。
【0027】
次いで、水分の添加された大豆粕を熱処理する。熱処理工程は、当業界における公知の多様な方法を用いることができるが、好ましくはスチームまたは過熱水蒸気を用いて熱処理することである。
【0028】
本発明の方法において、前記段階(a)の熱処理は温度70〜130℃のスチームで10〜60分間蒸煮し、或いは200〜300℃の過熱水蒸気で数秒〜数分間短時間熱処理することであり、好ましくは温度70〜130℃のスチームで10〜30分間蒸煮し、より好ましくは80〜121.1℃のスチームで10分〜30分間蒸煮することである。
【0029】
本発明の方法で熱処理を行うにおいて、熱処理温度が低い場合或いは処理時間が短い場合には、雑菌の殺菌効果が小さく、以後の発酵工程が円滑に行われない問題点があり、熱処理温度が高い場合或いは処理時間が長い場合には、大豆粕内タンパク質の変性による消化率が減少して最終製品の品質が低下する問題点があるので、かかる問題点が発生しないように熱処理温度または処理時間を採択することが好ましい。
【0030】
本発明の方法において熱処理過程を経て、大豆粕内の汚染菌が殆ど死滅し、後続工程である固体発酵が円滑に行われる化学的環境が造成される効果があるうえ、消化率を阻害するTIがやや減少する効果もある。
【0031】
本発明の好適な実現例によれば、前記段階(a)の前または後に、タンパク質分解能に優れた枯草菌を選別し前培養する段階をさらに含む。
【0032】
発酵菌株の選別および前培養
固体発酵では、一般に固体基質の水分含量が低いため、低水分でよく生育するアスペルギルスオリゼなどのカビが主に用いられる。ところが、カビで大豆粕を発酵させる場合、生産された発酵大豆粕の性状には飼料としての使用に適しない点が多い。カビと枯草菌との共培養などを用いて大豆粕を製造した前記特許文献1があるが、実際2つを同時に生育することは容易ではなく(カビは低水分でよく生育し、細菌は水分がある程度以上であればよく生育するため)、一つを後添加の形式にして後培養を行って製品を作らなければならないという弱点がある。この場合、全体的なプロセスが複雑になり(各菌株に対して種培養/主培養を行わなければならず、接種時間および条件も異にしなければならない)、それぞれ条件に合う水分含量などの変化を与えなければならないことが一般的である。このような点は、結局、プロセスの複雑さなどによるコスト上昇をもたらす。
【0033】
これにより、プロセス単純化のために、単一菌株を用いて、以前に複雑な共培養などを介して長時間発酵させて抗栄養因子を低めた製品と同等以上の品質を有し、発酵時間を最大限に減少させて全体的なコストを減少させることが可能な菌株を選定することが好ましい。
【0034】
一般に、細菌はカビより低水分でよく生育しないので、枯草菌を大豆粕に接種して本発明の目的を達成するためには、水分が不十分な大豆粕においても生育が活発であり且つ生育中に目的の酵素を多量生産する菌株を使用することが必須であるといえる。
【0035】
また、産業的に用いられる大量の固体発酵装置では、微生物の生育に要求される十分な酸素を供給することは難しいので、低酸素条件でも活発に生育し且つタンパク質加水分解活性にも優れる枯草菌が大豆粕発酵菌株として好ましい。それだけでなく、本発明の発酵大豆粕の未来志向的価値をさらに増大させるために、胞子形成生菌剤としての機能を持つ菌株を分離することがより好ましい。最近、全世界的に飼料に抗生物質の添加が禁止されている時点で、無抗生剤飼料の代案として腸内菌叢の改善による健康増進だけでなく、有害菌増殖抑制、免疫力向上、疾病抵抗性増進または飼料効率増進などの多様な生理的機能を持っているプロバイオティクス(probiotics)の使用が積極的に勧められている。プロバイオティクスとしては伝統的に乳酸菌が主流をなしたが、最近、胞子形成細菌の生菌剤としての価値が新しく認められることにより、無抗生剤飼料に添加されるプロバイオティクスとしての胞子形成細菌に対する関心が高まっている。胞子形成生菌剤の代表的な菌株は枯草菌である。
【0036】
本発明で解決しようとする課題を満足させる枯草菌を味噌、清麹醤(チョングッチャン)またはテンペ(Tempeh)などのアジアの伝統的な固相大豆発酵食品から分離するために多くの努力を行った結果、多数の優れた枯草菌の分離に成功した。
【0037】
本発明の好適な具現例によれば、本発明に使用するために選別された枯草菌は、バチルスサブチリス(Bacillus subtilis)、バチルスセレウス(Bacillus cereus)、バチルスメガテリウム(Bacillus megaterium)、またはバチルスクラウシ(Bacillus clausii)などである。
【0038】
好ましくはバチルスサブチリスであり、より好ましくはバチルスサブチリスTP6菌株(KFCC11343P、韓国特許第10−0753002号)である。
【0039】
特に、バチルスサブチリスTP6(以下、「TP6菌株」という)菌株は、水分含量40%以上の低水分大豆粕で好気性だけでなく非好気性条件でもよく生育し、大豆タンパク質の加水分解活性にも非常に優れていたうえ、発酵後半期にポリ−γ−グルタミン酸を生成する独特な特性を持っていた。また、バチルスサブチリスTP6菌株の場合、発酵時間を従前の方法より画期的に減縮させた。
【0040】
さらに、本発明の前記菌株は乳酸菌、または乳酸菌と枯草菌との混合菌株を接種するのに使用する菌株として選定できる。
【0041】
牛乳またはチーズなどから分離された動物性乳酸菌は主に乳糖を用いて生育するが、野菜などから分離された植物性乳酸菌はブドウ糖、果糖、砂糖または麦芽糖などの多様な糖を用いることができ、環境に対する適応性が非常に高いため、低pHなどの過酷な環境でも生育することができるので、動物性乳酸菌より胃での生存率が高く、腸管まで到達して生き残る菌数も多い。
【0042】
したがって、本明細書における用語「植物性乳酸菌」は植物性原料に由来した乳酸菌を意味する。
【0043】
韓国のキムチは植物性乳酸菌の代表的な宝庫であるといえる。キムチを漬ける際には唐辛子粉またはニンニクなどの香辛料が添加されるので、キムチ中の乳酸菌は一般乳酸菌より苛酷な環境で生育し、栄養素を分解、摂取する能力に優れるうえ、各種生理活性物質の生産力にも優れるものと知られている。
【0044】
したがって、一般乳酸菌ではなく、キムチから分離した植物性乳酸菌を用いて大豆粕を発酵する場合、特別な副原料の添加なしで活発に生育し、発酵中の抗菌物質、機能性ペプチドまたは有機酸などの生産を期待することができる。
【0045】
本発明では、大豆粕の発酵に適した乳酸菌をキムチから選抜しようと努力した結果、本発明の好適な具現例によれば、選抜された乳酸菌として、好ましくはラクトバチルスサケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルスブレビス(Lactobacillus brevis)、またはラクトバチルスプランタラム(Lactobacillus plantarum)であり、より好ましくはラクトバチルスプランタラムであり、最も好ましくは本発明者によってキムチから分離したラクトバチルスプランタラムP23(KCCM80048)である。
【0046】
本発明において、ラクトバチルスプランタラムP23菌株(以下、「P23菌株」という)は、大豆粕中の抗栄養因子である非澱粉多糖類を著しく減少させたうえ、優れた有機酸生成能と耐酸性を示した。
【0047】
キムチから分離した乳酸菌を種菌培養する培地としては、当業界における公知の多様な培地を用いることができ、好ましくはMRSブロス(deMan Regosa Sharpe broth)、APT(All Purpose with Tween)またはBHI(Brain Heart Infusion)培地であり、より好ましくはMRSブロス培地である。ところが、産業的に利用するにはMRSブロスの価格が非常に高いため、本発明者は乳酸菌種菌のための低価格培地を構成した。また、乳酸菌種菌を培養するための培地の炭素源および窒素源はCSL(Corn Steep Liquor)から構成した。
【0048】
また、枯草菌の種菌培養のためには変形栄養培地(5g/Lソイトン、5g/L牛肉エキスおよび20g/Lキシロース、pH7.0)を用いて37℃で12〜24時間培養することが好ましい。枯草菌の培地も産業化のための量産の際に費用が負担できるので、本発明者が考案したCSLを基本とした産業用培地で生育させることが有利である。
【0049】
乳酸菌種金培養のために本発明者が考案した産業用培地に、キムチから分離した乳酸菌を接種し、30℃で8〜24時間培養すると、所望の菌の活性を得ることができる。
【0050】
前記2つの菌株をそれぞれの産業用種菌培地で培養することにより種菌培養液の最終生菌数は(1〜5)×10cfu/mLの範囲となるようにする。
【0051】
(b)前記熱処理された大豆粕の冷却および微生物の接種
次に、本発明の方法によれば、前記段階(b)で熱処理された大豆粕を固体発酵可能な温度に冷却した後、枯草菌を接種する。
【0052】
本発明において、大豆粕の冷却は蒸煮が終わった後で自然に行えばよいが、冷却速度を高めて過熱を防止し、均一に冷却するために、コンベヤー式放冷器を用いた移送過程を経ると、容易に行うことができる(図1)。
【0053】
本発明の好適な具現例によれば、本発明の方法において、前記段階(b)の冷却した大豆粕の温度は30〜50℃であり、好ましくは35〜45℃であり、より好ましくは37℃である。
【0054】
熱処理された大豆粕を冷却した後、本発明の好適な具現例によれば、製造された大豆粕の培地に枯草菌を培養した前培養液をそのまま又は適切に殺菌水で希釈して出来る限り均一に接種することが好ましい。
【0055】
熱処理された大豆粕に接種する微生物の量は、大豆粕の固体発酵を左右する重要な要因となる。蒸煮した大豆粕への微生物の接種量は、接種直後の菌数が10〜10CFU/gとなるようにすることが好ましい。接種量が10CFU/g未満の場合、種菌発酵液の所要量が少ないが、大豆粕の発酵には多くの時間がかかって製品生産のための培養時間が長くなり、雑菌が汚染する可能性が高いという欠点がある。これに対し、接種量が10cfu/g超過の場合、発酵時間は相当短縮できるが、接種用種菌の生産に負担となるという欠点がある。特に、使用する菌株の生育特性と発酵装置の種類によって発酵成績が大きく左右されるので、生産段階で菌株の特性を考慮して接種量を適切に選定することが好ましい。
【0056】
(c)前記大豆粕に接種された菌の固体培養によって大豆粕発酵物の収得
本発明の最も大きい特徴の一つは、カビおよび酵母ではなく、固体発酵(培養)に一般化されていない枯草菌を大豆粕に接種して培養することにより、発酵大豆粕を製造することにある。
【0057】
本明細書に使用される用語「固体発酵(培養)」は、大豆から脂肪(大豆油)を分離して残った脱脂大豆粕を用いて微生物を培養することを意味し、大豆粕の抽出物を用いる「液体培養または液体発酵」とは区別される方法である。
【0058】
ある微生物は時々固体発酵過程でよく生育しながら菌体外酵素と他の様々な代謝産物を多量で生産するため、固体発酵は昔から主にアジア地域で伝統食品またはアルコール飲料の生産に採用された。大豆粕はフレーク(flake)または粒子状の固体基質であるから、微生物を用いて大豆粕の飼料価値を著しく向上させることができる最も低廉且つ効率的な発酵方法は固体発酵法である。
【0059】
本発明の方法において固体発酵法を用いるために枯草菌から選択される菌株が使用されるが、発酵大豆粕の最終製品特性に応じて菌株の種類および接種方法を調節することができる。好ましくは、バチルスサブチリスTP6菌株が使用され、それにより本発明の発酵時間を減縮させることができる。
【0060】
枯草菌のみを接種して製造する発酵大豆粕は、枯草菌が活発に生育しながら発酵大豆粕の品質を上昇させる作用をするが、優先的に活性の強力なプロテアーゼを生産する。枯草菌が生産するプロテアーゼは、大豆粕の消化を阻害させるタンパク質TIを加水分解して不活性化させるうえ、高分子としての大豆タンパク質を大部分加水分解して低分子化することにより、消化吸収率が増加する特徴を示す。
【0061】
また、枯草菌は、大豆粕の構成成分中の炭水化物を用いて活発に生育しながら、菌体を構成するタンパク質に転換されるため、大豆粕は、発酵中に相対的にタンパク質の含量が増加する効果を示す。これは、飼料の品質を評価する項目のうち最も重要なタンパク質の含量を増加させる重要な意味を持つ。
【0062】
大豆粕で生育した枯草菌は、乾燥の際に胞子を形成しながら高い比率で生存することにより、発酵大豆粕を乾燥させた後にも、生菌として存在する特徴がある。この枯草菌の胞子により、上述した胞子形成プロバイオティクスで家畜の腸機能改善効果が期待される。
【0063】
本発明の方法は、乳酸菌単独、または乳酸菌と枯草菌との混合菌を接種することができる。この際、キムチから分離した植物性乳酸菌のみを接種する場合、大豆粕を原料として旺盛に生育しながら多量の有機酸を生産し、α−ガラクトシダーゼの活性を示すため、大豆粕に含有しているガラクトオリゴ糖を分解する特性を示すうえ、大豆粕中の多様な多糖類抗栄養因子も加水分解して腸炎などを防止することができ、栄養成分の吸収率が顕著に向上するという利点がある。
【0064】
前記2つの菌の利点を全て含んだ発酵大豆粕を製造するために、2つの菌を同時にまたは時間差をおいて順次接種することができ、2つの菌の成長条件が同一ではないから、接種比率を異にするか或いは順次接種を行うことが完成品の品質を良くするという点から好ましい。ところが、同時にまたは同一の比率で接種してもその程度が異なるだけであり、目的の効果を達成することができないことを意味するのではない。
【0065】
本発明の好適な具現例によれば、前記段階(c)で目的の微生物を均一に接種した大豆粕を充填層発酵器(packed-bed fermentor)で発酵させる。充填層発酵器には回分式通気培養装置、密閉式培養装置、連続式通気培養装置などの様々な形式がある。そのいずれの装置であれ、本発明の方法を制限せず、生産規模に応じて適切な装置を選択して使用する。
【0066】
本発明の方法で充填層発酵器に大豆粕を厚さ5〜50cmで載置し、培養温度20〜50℃で12〜72時間発酵させる。出来る限り大豆粕の充填層の厚さは厚いほど好ましく、培養温度30〜45℃で12〜48時間発酵させることが好ましい。より好ましくは37℃で24時間発酵させる。
【0067】
(d)前記収得された発酵大豆粕の乾燥および粉砕
【0068】
本発明の好適な具現例によれば、本発明の方法は、前記段階(c)の後に、(d)前記発酵大豆粕を低温低湿乾燥および粉砕する段階をさらに含む。
【0069】
発酵過程で大豆粕中の水分は一部蒸発するが、発酵終了直後の残存水分含量は20〜50%(v/w)と相当高い。ところが、発酵大豆粕製品の最終水分含量は10〜12%(v/w)が好ましいので、乾燥工程が必要である。
【0070】
また、大豆粕をアスペルギルスオリゼなどのカビで発酵させた場合、菌糸生成により大豆粕が堅く固まり、胞子が飛散して乾燥と粉砕が非常に難しいという欠点がある。これに対し、本発明で細菌によって発酵させた場合は、発酵大豆粕の状態が非常に良好であるが、部分的に弱く固まった塊を形成するので、乾燥の後に発酵大豆粕の粒子サイズを均一に粉砕する必要がある。
【0071】
乾燥および粉砕は当業界における公知の多様な方法で実施することができるが、特に過度に高温で乾燥させる場合、発酵大豆粕中の生菌が大部分死滅するので注意する。好ましくは生菌が死滅しない低温で乾燥させなければならず、より好ましくは低温低湿度の熱風で乾燥させる。粉砕過程は発酵大豆粕を用いようとする目的に応じて多様なサイズに粉砕することができ、粉砕方法としてハンマーミル(hammer mill)を使用することが好ましい。
【0072】
上述した本発明の方法によって大豆粕を発酵させることにより、大豆粕に含有されたTIを始めとして各種抗栄養因子が減少し、タンパク質の加水分解によって消化吸収率が向上し、タンパク質の含量が増加することにより、飼料としての絶対的な価値が改善されるので、動物性タンパク質を代替することが可能な高品質タンパク質飼料源としての発酵大豆粕を得る。
【0073】
その他に、本発明の方法によって製造された発酵大豆粕は、流通中にも生存力の強い枯草菌が含有されているため、飼料を摂取した動物の整腸作用に役立つ機能を保有するという利点を持つ。
【0074】
別の様態として、本発明は、上述した本発明の方法によって製造された発酵大豆粕に関する。
【0075】
本発明の発酵大豆粕は、上述した本発明の方法によって製造されるため、これら両者の間に共通した内容は、反復記載による明細書の過度な複雑性を回避するために、その記載を省略する。
【0076】
バチルスサブチリスTP6菌株を接種して製造する発酵大豆粕は、枯草菌が活発に生育しながら発酵大豆粕の品質を上昇させる作用をするが、優先的に活性が強力なプロテアーゼを生産する。枯草菌が生産するプロテアーゼは、大豆粕の消化を阻害させるタンパク質TIを加水分解して不活性化させるうえ、高分子の大豆タンパク質を大部分加水分解して低分子化することにより、消化吸収率が増加する特徴を示す。また、枯草菌は大豆粕の構成成分中の炭水化物を用いて活発に生育しながら、菌体を構成するタンパク質に転換されるため、大豆粕は発酵中に相対的にタンパク質の含量が増加する効果を示す。これは飼料の品質を評価する項目のうち最も重要なタンパク質の含量を増加させる重要な意味を持つ。そして、大豆粕で生育した枯草菌は、乾燥の際に胞子を形成しながら高い比率で生存することにより、発酵大豆粕を乾燥させた後でも生菌として存在する特徴がある。この枯草菌の胞子により、上述した胞子形成プロバイオティクスとして家畜の腸機能改善効果が期待される。
【0077】
本発明の好適な具現例によれば、本発明の発酵大豆粕は、枯草菌から選択される微生物の栄養細胞または胞子を含む。好ましくはバチルスサブチリスTP6菌株である。
【0078】
本発明の他の好適な具現例によれば、本発明の発酵大豆粕は、家畜の体脂肪の蓄積を減少させるポリ−γ−グルタミン酸を含有する。
【0079】
本発明の他の好適な具現例によれば、前記枯草菌は、バチルスサブチリス(Bacillus subtilis)TP6菌株を含む。
【発明の効果】
【0080】
本発明の特徴および利点を要約すれば、次のとおりである:
(a)本発明は、大豆粕に、大豆抗栄養因子除去能力に優れた枯草菌、特にバチルスサブチリスTP6菌株を接種して固体培養することにより、タンパク質飼料源として特性が改良または改善された高品質発酵大豆粕を製造する方法を提供する。
(b)特に、本発明は、固体発酵時間を既存の特許または論文に比べて12〜24時間減らしながらも、既存のものと比較して同等以上の品質を確保することが可能な菌株(バチルスサブチリスTP6)菌株を用いた。本発明によって製造された発酵大豆粕は、従来の大豆粕に比べて、枯草菌が生産する強力なプロテアーゼによって、TIが加水分解されて殆ど不活性化され、大豆タンパク質がペプチドに低分子化されることにより、吸収率と飼料効率が向上した優れた高品質のタンパク質源である。
(c)このような発酵時間の減少は、製麹機の回転率を増加させて年間生産量を画期的に増加させる。これは製品のコストを低めて消費者に安い価格で高品質の発酵大豆粕を提供することができるという利点がある。
(d)本発明の方法は、固体発酵に一般に用いられない枯草菌を発酵菌株として用いることにより、本発明によって製造された発酵大豆粕は、従来の大豆粕に比べて、枯草菌が生産する強力なプロテアーゼによって、TIが加水分解されて殆ど不活性化され、大豆タンパク質がペプチドに低分子化されることにより、吸収率と飼料効率が向上した優れた高品質のタンパク質源である。
(e)また、本発明の方法で生産された発酵大豆粕は、枯草菌の活発な増殖によって、良質のタンパク質である菌体タンパク質が生産されるので、タンパク質の絶対量が増加すると同時に、大豆粕に含有された炭水化物が微生物の生育に必要なエネルギー源として消費されることにより、相対的にタンパク質の含量が増加するなど、タンパク質飼料としての価値がさらに上昇する。
(f)本発明によって製造された発酵大豆粕には、流通中にも生存力が強い枯草菌を多量含有しているため、発酵大豆粕を摂取した動物の整腸作用に役立つ機能を保有する特徴を持っている。抗生剤使用禁止による代案として、プロバイオティクスが勧められていることを考慮するとき、本発酵大豆粕の未来志向的価値はなお更大きいといえる。
(g)なお、本発明では、ポリ−γ−グルタミン酸生産能を持つ枯草菌を用いて大豆粕を発酵させることにより、付加的に家畜の体脂肪の蓄積を減少させることが可能な効果も得ることができる。
家畜の成長を促進するために、高エネルギー飼料を摂取すると、家畜の体脂肪が増加する。ところが、最近、消費者は健康に対する関心が高まるにつれて動物性脂肪の摂取をできる限り減少させることを願うから、家畜の体脂肪を減少させることが可能な飼育方法または飼料の開発が幅広く要求される。ポリ−γ−グルタミン酸は、韓国の清麹醤(チョングッチャン)または日本の納豆のねばねばとした粘質物の主成分であって、多様な機能を持つ機能性成分であり、最近では、特に家畜の体脂肪の蓄積を減少させることが解明された。
(h)上述したように、本発明の発酵大豆粕は、優れた品質と多様な機能性を持つ高タンパク質飼料源として飼料に幅広く適用できる。また、発酵時間を既存の時間に比べて12〜24時間減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】大豆粕を原料として発酵大豆粕を製造する本発明の一実施例を示す概略図である。
【図2】L.プランタラム(L. plantarum)P23単独培養、B.サブチリス(B. subtilis)TP6単独培養、およびL.プランタラム(L. plantarum)P23とB.サブチリス(B. subtilis)TP6との混合培養の場合のトリプシン阻害因子の活性変化を示すグラフである。
【図3】L.プランタラム(L. plantarum)P23単独培養、B.サブチリス(B. subtilis)TP6単独培養、およびL.プランタラム(L. plantarum)P23とB.サブチリス(B. subtilis)TP6との混合培養の場合のタンパク質パターンの変化を示す図である。
【図4】菌を接種してない蒸煮大豆粕の糖分析クロマトグラムを示すグラフである。
【図5】B.サブチリス(B. subtilis)TP6菌株で発酵した大豆粕発酵物の糖分析クロマトグラムを示すグラフである。
【図6】B.サブチリス(B. subtilis)TP6およびL.プランタラム(L. plantarum)P23菌株で発酵した大豆粕発酵物の糖分析クロマトグラムを示すグラフである。
【図7】B.サブチリス(B. subtilis)TP6発現によるタンパク質分解効果およびアレルギー誘発物質除去効果を示す。M:マーカー、(1):生大豆粕、(2):37℃45%、(3):37℃50%、(4):45℃45%、(5):45℃50%。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのものに過ぎない。本発明の範囲がこれらの実施例に限定されないのは、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者には自明なことであろう。
【実施例】
【0083】
本明細書全体にわたって、特定物質の濃度を示すために使用される「%」は、別途に言及しない限りは、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、液体/液体は(体積/体積)%である。
【0084】
実施例1:大豆粕の水分含量別枯草菌と乳酸菌の生育
細菌の培養に適した大豆粕の水分含量を決定するために、大豆粕の水分含量が30%、40%、50%および60%となるように均一に加水し、加水した大豆粕50gをビーカー(250mL)に入れ、アルミニウム箔でビーカーの上部を覆ってゴム紐で縛った後、80℃で30分間蒸煮し、しかる後に、放冷した。
ここで、大豆粕発酵には、本発明の具現例によって最も好ましい菌株として選定したバチルスサブチリス(Bacillus subtilis)TP6(KFCC11343P)(以下、「TP6」菌株という)菌株とラクトバチルスプランタラム(Lactobacillus plantrum)P23(KCCM80048)(以下、「P23」菌株という)菌株を使用した。TP6菌株の種培養には、キシロース2%、ソイトン0.5%および牛肉エキス0.5%を含有する培地を使用し、P23菌株はMRSブロス(Difco)を用いて温度37℃で24時間前培養した。
蒸煮した大豆粕の温度が約30℃まで冷却すると、クリーンベンチで前記各種菌培地を用いて前培養した各種菌を、水分含量を異にした各蒸煮大豆粕に5%接種し、汚染と水分蒸発を防止するためにビーカーをアルミニウム箔で密閉した状態でインキュベーターを用いて37℃で72時間発酵させた後、各大豆粕発酵物の菌数およびpH値を測定した。その結果を下記表1にまとめた。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から分かるように、接種後初期菌数が約1×10CFU/gであることを考慮すると、大豆粕の水分含量が30%の場合には発酵後にP23およびTP6菌が殆ど増殖しないことを確認することができる。大豆粕の水分含量が40%の場合には(4.5〜7.0)×10CFU/g、大豆粕の水分含量が50%の場合には(1.3〜2.5)×10CFU/g水準までそれぞれ増殖した。
水分含量が増加するほど菌の生育はさらに活発になって、水分含量60%の場合には発酵後にP23とTP6の最終菌数が3.2×10CFU/g水準まで増加した。また、P23菌株の場合は、有機酸の生成によって、発酵後にpHが著しく減少した。
したがって、本実験の結果によって産業的水準に細菌を増殖させるために、大豆粕の初期水分含量は40%以上にならなければならないという事実を確認することができた。
【0087】
実施例2:大豆粕の熱処理条件
大豆粕の発酵において加水した大豆粕の熱処理は、雑菌の汚染を防ぐだけでなく、大豆粕の化学的環境が発酵に適するようにする重要な要因なので、本発明者は大豆粕の熱処理条件を検討した。発酵期間中に汚染菌が発生せず、接種菌株が活発に生育することができるなるべく最小限の熱処理条件を確立するために、大豆粕の水分含量を60%に調節した後、250mLのビーカーにそれぞれ50gを入れてビーカーの上部をアルミニウム箔で密閉し、60℃、80℃、105℃および121.1℃のオートクレーブでそれぞれ10〜30分間熱処理した後、放冷した。
蒸煮条件を異にした各蒸煮大豆粕に、実施例1と同様の方法で前培養したTP6およびP23菌株の種培養液をそれぞれ5%接種し、37℃72時間培養した。発酵過程中の雑菌汚染有無と培養終了後の発酵大豆粕中の各生菌数およびpHを測定した。大豆粕の発酵に及ぼす熱処理条件を下記表2に示した。
【0088】
【表2】

【0089】
表2から確認できるように、60℃の条件では、30分間殺菌をした場合、発酵24時間後に汚染して所望の発酵を行うことができなかった。ところが、80℃以上で10分以上熱処理した場合には、72時間発酵が行われる間にも汚染が発生せず、1×10CFU/g以上に菌が生育した。
【0090】
実施例3:乳酸菌および枯草菌をそれぞれ培養したときの発酵大豆粕の品質特性変化
原物大豆粕重量の70%および100%の水を均一に大豆粕に噴霧し、0℃で30分間蒸煮した大豆粕に、実施例1と同様の方法で前培養したP23とTP6菌株種培養液をそれぞれ5%接種し、あるいは2菌株の種培養液を同時に5%ずつ接種して発酵を行いながら、培養時間別にトリプシン阻害因子(TI)の含量とタンパク質分解程度をSDS−PAGEで分析してそれぞれ図2および図3に示した。
図2から確認できるように、TP6菌株を単独培養した場合、TI活性の変化を測定した結果、加水量70%のとき、培養24時間後にTI活性が著しく減少した。その後、緩やかに減少して培養72時間後には完全に不活性化された。加水量100%のときは、不活性化速度がさらに速くなり、発酵24時間後にTIがほぼ完全に不活性化された。その以後には殆ど変化が見られなかった。一方、P23菌株を単独培養した場合には72時間発酵後にもTIの残存量が高かった。TP6菌株とP23菌株とを混合培養した場合には、TP6菌株を単独培養した場合とほぼ同様の傾向を示した。
また、図3に示した発酵によるタンパク質パターンの変化を考察すると、TP6単独培養の場合、発酵48時間後に高分子ペプチドが加水分解されてバンドが殆ど無くなったことが分かる。ところが、P23菌株を単独培養した場合には、原物に比べてタンパク質パターンの変化が殆どなかった。一方、TP6菌株とP23菌株とを混合培養した場合にはTP6菌株を単独培養した場合とほぼ同様であった。
一方、菌を接種していない蒸煮大豆粕の多糖類分析結果は図4、TP6菌株で発酵させた大豆粕発酵物の多糖類分析結果は図5、TP6およびP23菌株で発酵させた大豆粕発酵物の多糖類分析結果は図6にそれぞれ示した。図4と図5とを比較すると、クロマトグラムの糖パターンがほぼ同一であることが分かる。これは、TP菌株が、プロテアーゼを始めとして各種酵素の活性は高いが、大豆多糖類を殆ど加水分解していないことを示す。ところが、図4、図5、およびキムチから分離した乳酸菌P23とTP6菌株とを混合発酵させた図6を比較すると、大豆粕中の抗栄養因子である多糖類がP23菌株によって殆ど加水分解されて消失したことが分かる。
【0091】
実施例4:乳酸菌と枯草菌の大豆粕における混合培養
水分含量を50%に調節し、110℃で15分間熱処理した大豆粕に、種菌培地で培養したTP6およびP23菌株の接種比または接種時間を異にして37℃で48時間培養した。具体的に、「混合培養1」は初期にTP6菌株を5%接種し20時間培養した発酵大豆粕に、種菌培地で20時間培養したP23菌株を5%接種した後、28時間さらに発酵を行ったものであり、「混合培養2および3」は初期にTP6菌株とP23菌株の接種比をそれぞれ1:0.5および1:1と異にして接種し、48時間発酵したものである。
【0092】
【表3】

【0093】
表3から分かるように、TP6菌株を単独培養した場合、P23菌株を追加接種した場合、またはTP6菌株とP23菌株を接種比を異にして同時に混合培養した場合は、最終菌数とTI値においてあまり大きい差異がない。このような結果からみて、単独および混合培養など発酵方法を異にしても、本発明で期待する大豆粕発酵物を得ることができる。
ところが、発酵大豆粕の品質は、最終菌数、酸度、風味などにおいて若干ずつ差異があるので、好ましくは目的の製品の仕様に応じて植物性乳酸菌、枯草菌、および前記植物性乳酸菌と前記枯草菌との混合菌よりなる群から選ばれる微生物の接種時間と接種比を適切に調節する必要がある。
【0094】
実施例5:発酵大豆粕の品質特性
水分含量を30%に調節した後、121℃で20分間殺菌した大豆粕に殺菌水を均一に噴霧することにより、水分含量を60%に調節した。水分含量を調節した大豆粕にそれぞれの種菌培地で24時間培養したTP6およびP23菌株を大豆粕の10%(v/w)となるように接種した後、37℃で48時間発酵を行った。発酵済みの大豆粕を乾燥させた後、理化学的特性を考察した結果を下記表4に示した。
【0095】
【表4】

【0096】
表4から確認できるように、本発明のTP6菌株の単独発酵大豆粕は、原物大豆粕と比較してタンパク質の含量が著しく増加したうえ、抗栄養因子としてのトリプシン阻害因子、大豆オリゴ糖および多糖類が減少して飼料の価値を幾段階上昇させた製品であるといえる。しかも、大豆粕発酵物には2.0×10CFU/g DMの生菌とポリ−γ−グルタミン酸が含有されており、その価値はさらに高いといえる。
【0097】
実施例6:培養条件によるTI含量の変化
消化吸収を防ぐ抗栄養因子の一つであるトリプシン阻害因子の含量変化を測定するために、発酵大豆粕のトリプシン阻害因子の含量を測定した。TI含量の測定は韓国単味飼料協会に依頼して進行した。その方法としてはAOAC方法を使用した。次の実験群について考察すると、「大豆」群:一般大豆、「大豆粕」群:大豆から大豆油を採って残った部分、「発酵24時間」群:大豆粕100gを水分45%に合わせて蒸煮し(90℃15分)、蒸煮された大豆粕にTP6菌株を5mLの2×10cfu/mL接種し、37℃で24時間恒湿が維持される条件で発酵させた。発酵後のTI(トリプシン阻害因子)の含量変化は下記表5のとおりである。
【0098】
【表5】

【0099】
発酵24時間で、トリプシン阻害因子の含量は前記特許文献1に記載された36時間発酵させた結果のTI含量0.6mg/gの50%水準である0.32mg/gであって、24時間発酵のみで以前実験の結果と同等以上の抗栄養因子低減効果を示した。
【0100】
実施例7:TP6菌株単一培養時の大豆粕発酵時間による粗タンパク含量の変化
(発酵温度は37℃)
大豆粕100gを水分45%に合わせて蒸煮し(90℃15分)、蒸煮された大豆粕にTP6菌株を5mLの2×10cfu/mL接種し、37℃で24時間恒湿が維持される条件で発酵させた。発酵時のタンパク質含量の変化は下記表6のとおりである。
【0101】
【表6】

【0102】
発酵時間24時間の水準で既存の特許(前記特許文献1)の混合菌株を用いた36時間発酵の結果、既存の特許(前記特許文献2)の単一菌株を用いた48時間発酵した結果と比較して同等以上水準のタンパク質含量を得ながらも、既存の特許または論文に比べて発酵時間を12〜24時間減らすことができた(配合比上で総粗タンパク含量が重要なので、タンパク質剤の役割を果たす大豆粕加工品の場合、粗タンパクの含量が重要である。)。このような発酵時間の減少は製麹機の回転率を高める。これは年間生産可能な培地数の増加に繋がり、より安い価格で良い品質の発酵大豆粕を消費者に供給することができるという点から、本発明の優秀性を確認することができる。
【0103】
実施例8:TP6菌株単一培養時の大豆粕発酵時間による粗タンパク含量の変化
(発酵時間は24時間)
大豆粕100gを水分45%に合わせて蒸煮し(90℃15分)、蒸煮された大豆粕にTP6菌株を5mLの2×10cfu/mL接種し、37℃で24時間恒湿が維持される条件で発酵させた。発酵時のタンパク質含量の変化は下記表7のとおりである。
【0104】
【表7】

【0105】
選定されたTP6菌株を用いて24時間発酵を行った結果、抗栄養因子であるラフィノースとスタキオースの比率が著しく減少した。また、既存の特許(前記特許文献2)の48時間発酵結果とほぼ同等水準の結果を24時間発酵によって得ることができた。
【0106】
実施例9:TP6発酵によるタンパク質分解効果およびアレルギー誘発物質(β−コングリシニン、グリシニン)の除去効果
発酵時間は全て24時間と同一であり、温度条件および水分条件を変化させて発酵実験を行った。発酵条件は実施例7および8と同一であり、蒸煮時の水分%のみに変化を与えた。それぞれの水分%は、それぞれ図7の2レインの場合には37℃45%、3レインの場合には37℃50%、4レインの場合には45℃45%、5レインの場合には45℃50%であった。図7の結果より、生大豆粕内のアレルギー誘発物質であるβ−コングリシニンとグリシニンは37℃の培養条件で水分含量45〜50%の間で最も除去がよくなされたことを確認することができ、高分子タンパク質が低分子ペプチドの形態に分解され、消化吸収に適した形態に変わったことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)大豆粕に水分を添加し、熱処理する段階と、
(b)前記熱処理された大豆粕を冷却した後、枯草菌を接種する段階と、
(c)前記大豆粕に接種された菌を固体培養して発酵大豆粕を得る段階とを含む、発酵大豆粕の製造方法。
【請求項2】
前記段階(a)の水分添加された大豆粕は水分含量が30〜80%(v/w)であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記段階(a)の熱処理は大豆粕を70〜130℃の温度で10〜30分間熱処理することにより行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記段階(b)の冷却した大豆粕の温度は30〜50℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記段階(b)の枯草菌は、バチルスサブチリス(Bacillus subtilis)、バチルスセレウス(Bacillus cereus)、バチルスメガテリウム(Bacillus megaterium)、およびバチルスクラウシ(Bacillus clausii)よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記枯草菌はバチルスサブチリス(Bacillus subtilis)TP6菌株であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記段階(c)の固体培養は20〜50℃の温度で12〜72時間行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記製造方法は、前記段階(c)の後に、(d)前記発酵大豆粕を乾燥および粉砕する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項の方法によって製造された発酵大豆粕。
【請求項10】
前記発酵大豆粕は枯草菌の栄養細胞または胞子を含むことを特徴とする、請求項9に記載の発酵大豆粕。
【請求項11】
前記発酵大豆粕はポリ−γ−グルタミン酸を含むことを特徴とする、請求項10に記載の発酵大豆粕。
【請求項12】
前記枯草菌はバチルスサブチリス(Bacillus subtilis)TP6菌株であることを特徴とする、請求項10に記載の発酵大豆粕。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate

【図7】
image rotate