説明

架橋樹脂組成物および混合物

【課題】架橋処理を組み合わせることで、部位により弾性率が大きく異なる構造体を形成することができる架橋樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の架橋樹脂組成物は、ポリエチレンとポリブタジエン、および炭素どうしの二重結合を2箇所以上有する多官能モノマーを含む架橋助剤が混合されて所定の形状に成形され、電離性放射線により架橋処理された架橋領域と、前記架橋処理が施されない未架橋領域とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋樹脂組成物、より詳しくは、架橋処理により部分的に弾性率を向上させた架橋樹脂組成物、および当該架橋樹脂組成物の材料として利用可能な混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料に架橋処理を施すことで弾性率を向上できることが知られている。たとえば、エポキシ樹脂では、架橋処理によって高粘度であった樹脂が高弾性率を有するように変化する。また、シリコーン樹脂等においても架橋反応前後で弾性率が変化することが知られている。
また、特許文献1には、ポリエチレンとポリブタジエンとを混合した樹脂材料が記載されている。
【0003】
近年、上述の現象に着目し、樹脂材料の一部のみに架橋処理を施すことで、弾性率の大きい部位と小さい部位とを備える樹脂組成物を製造し、様々な分野に役立てることが検討されている。このような場合、架橋処理を行った架橋領域と行っていない未架橋領域との間の弾性率の差が大きいほど、様々な用途や目的に合った組成物が作りやすく、好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−089759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したエポキシ樹脂やシリコーン樹脂では、架橋領域と未架橋領域との間の弾性率の差を1.5倍以上にすることは困難であり、架橋領域と未架橋領域とで弾性率を大きく異ならせることは難しい。
【0006】
一方、特許文献1に記載の樹脂材料では、架橋前後の弾性率の差が大きいものの、架橋しない場合は、弾性率が低すぎて形状を維持できない。したがって、この樹脂材料を用いて一定の形状を保持する樹脂組成物を製造するには、全体に架橋処理を施すことが必要であり、一部に未架橋領域を有するように構成することはできない。したがって、部位により弾性率が大きく異なる構造体を製造することはやはり容易ではない。
【0007】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、架橋処理を組み合わせることで、部位により弾性率が大きく異なる構造体を形成することができる架橋樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、上述の架橋樹脂組成物を製造可能な混合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の架橋樹脂組成物は、ポリエチレンとポリブタジエン、および炭素どうしの二重結合を二箇所以上有する多官能モノマーを含む架橋助剤が混合されて所定の形状に成形され、電離性放射線により架橋処理された架橋領域と、前記架橋処理が施されない未架橋領域とを有することを特徴とする。
【0009】
前記架橋領域の弾性率は、前記未架橋領域の弾性率の2倍以上であってもよい。
また、前記未架橋領域の弾性率は、100メガパスカル以上1000メガパスカル以下であってもよい。
【0010】
本発明の混合物は、ポリエチレンとポリブタジエン、および炭素どうしの二重結合を二箇所以上有する多官能モノマーを含む架橋助剤が混合されており、電離性放射線により架橋処理されると、弾性率が架橋処理前の弾性率の2倍以上になることを特徴とする。
本発明の混合物においては、架橋処理前の弾性率が100メガパスカル以上1000メガパスカル以下であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の架橋樹脂組成物によれば、一部にのみ架橋処理を施し、架橋領域と未架橋領域とを設けることにより、部位により弾性率が大きく異なる構造体を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の架橋樹脂組成物の一例である医療用チューブを示す模式図である。
【図2】同医療用チューブをシースとして備えた内視鏡用処置具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の架橋樹脂組成物について、以下説明する。
本発明の架橋樹脂組成物は、ポリエチレンおよびポリブタジエンを、架橋助剤と混合して所望の形状に成形し、一部に電離性放射線を用いて架橋処理を施すことにより形成されている。
【0014】
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)等の公知の各種ポリエチレンを使用することができる。
架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート(TMAIC)、トリメチロールプロパントリアクリレート等の、炭素どうしの二重結合を二箇所以上有する多官能モノマーを含むものであれば、特に制限なく用いることができる。また、複数の多官能モノマーが含まれてもよい。
【0015】
本発明の架橋樹脂組成物を製造する際は、まずポリエチレン、ポリブタジエン、および架橋助剤を溶融混合した混合物を所定の形状に成形して成形材料を得る。各材料の量としては、ポリエチレン20〜70重量部、ポリブタジエン80〜30重量部に対し、5〜10重量部の架橋助剤を混合する。
【0016】
次に、成形された成形材料の一部に電離性放射線を照射して、架橋領域を形成する。使用可能な電離性放射線としては、電子線、加速電子線やγ線、X線、α線、β線、紫外線などが挙げられるが、線源の簡便さや電離性放射線の透過厚み、架橋処理の速度等工業的利用の観点から、加速電子線、γ線が好ましく利用できる。加速電子線の電圧は成形材料の厚みによって適宜選定することが出来る。電離性放射線の照射線量は、たとえば電子線の場合、100〜500キログレイ(kGy)、好ましくは200〜400kGyの照射線量に設定すればよい。一般に照射線量が多くなるほど加療領域は硬くなり、弾性率が上昇する。使用環境において曲げられることが前提の架橋樹脂組成物を製造する場合は、架橋後の弾性率を1000メガパスカル(MPa)以下とすることで、好適な物性を付与することができる。
【0017】
成形材料の一部のみに架橋領域を形成する際には、例えば鉛等からなるシールドで架橋させたくない場所を被覆して電離性放射線を照射する。これにより、電離性放射線が照射された領域は架橋領域となり、シールドで被覆された領域は、架橋が起こらずに材料である熱可塑性樹脂の特性を残した未架橋領域となる。したがって、シールドで被覆する領域の位置や範囲を適宜設定することによって、成形材料の所望の位置及び範囲の部位に架橋領域を形成することができる。
【0018】
架橋処理が終了すると、架橋処理を施していない領域が未架橋領域として残存する。成形材料は架橋処理により弾性率が未架橋領域の2倍以上の値に向上され、架橋領域と未架橋領域とで弾性率が大きく異なる架橋樹脂組成物が製造される。従来、架橋領域および未架橋領域を有する樹脂組成物では、架橋領域の弾性率が未架橋領域の2倍以上となる樹脂組成物を製造するのは著しく困難であった。この点については、後に例を挙げて詳述する。
【0019】
本発明の架橋樹脂組成物は、所定の形状に加工することにより各種の構造体を製造することができる。構造体の形状に成形する工程は、成形材料を得る際に行われてもよい。この場合は、架橋処理が終了すると構造体が完成する。
【0020】
本発明の架橋樹脂組成物には、その用途や目的に鑑みて支障を及ぼさない範囲において、必要に応じて、加水分解抑制剤、加工安定剤、無機充填剤、カーボンブラックなどの着色剤、核剤、酸化劣化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、難燃剤などが添加されてもよい。
【0021】
次に、様々な組成の成形材料について、その製造手順と架橋前後の弾性率を示す。以下では、本発明の架橋樹脂組成物の材料として使用可能なものを「実施材料」、本発明の架橋樹脂組成物の材料として使用できないものを「比較材料」と称して説明する。
【0022】
(実施材料1)
弾性率150MPaのLDPE70重量部とポリブタジエン30重量部に、架橋助剤としてTMAICを10重量部加えた。これらを溶融して混合した混合物を100ミリメートル(mm)×100mm、厚さ2mmのシート状に加工して成形材料を得た。
(実施材料2)
実施材料1と同一のLDPEを20重量部とポリブタジエン80重量部に、架橋助剤としてTAICを10重量部加えた。これらを溶融して混合した混合物を実施材料1と同様に加工して成形材料を得た。
(実施材料3)
実施材料1と同一のLDPEを20重量部とポリブタジエン80重量部に、架橋助剤としてTMAICを10重量部加えた。これらを溶融して混合した混合物を実施材料1と同様に加工して成形材料を得た。
(実施材料4)
実施材料1と同一のLDPEを20重量部とポリブタジエン80重量部に、架橋助剤としてTAICを5重量部加えた。これらを溶融して混合した混合物を実施材料1と同様に加工して成形材料を得た。
【0023】
(比較材料1)
実施材料1と同一のLDPE70重量部とポリブタジエン30重量部を、架橋助剤を加えずに溶融混合した混合物を、実施材料1と同様に加工して成形材料を得た。
(比較材料2)
実施材料1と同一のLDPE100重量部に架橋助剤としてTAICを10重量部加え、ポリブタジエンは混合しなかった。溶融混合した混合物を、実施材料1と同様に加工して成形材料を得た。
(比較材料3)
ポリブタジエン100重量部に架橋助剤としてTAICを5重量部加え、LDPEは混合しなかった。溶融混合した混合物を、実施材料1と同様に加工して成形材料を得た。
【0024】
得られた各材料を試験片として、JIS K7171に基づいて曲げ弾性率を測定し、架橋処理前の(すなわち未架橋領域の)弾性率値を得た。その後、各材料に対して所定の線量の電子線を照射して架橋処理を行い、再度曲げ弾性率を測定して架橋処理後の(すなわち架橋領域の)弾性率値を得た。
結果を表1に示す。表1には、各材料に照射した電子線の線量もあわせて示している。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、比較材料1および2においては、架橋処理後の弾性率は架橋処理前の弾性率の1.5倍に満たない値であり、架橋処理によって弾性率を著しく向上することはできなかった。また、比較材料3においては、架橋処理後の弾性率が架橋処理前の弾性率の2倍以上となったが、弾性率の絶対値は架橋処理の有無に関わらず100MPaを切っていた。特に架橋前の弾性率は30MPaであり、一定の形状を保持する構造体を製造するには充分でない値であった。
【0027】
これに対し、実施材料1ないし4においては、いずれも架橋処理後の弾性率が架橋処理前の弾性率の2倍を超えており、具体的には2.2倍から3.7倍の範囲で変化した。また、いずれの材料においても架橋処理前の弾性率は100MPa以上であった。
以上より、実施材料においては、架橋処理により弾性率を著しく向上させることができ、かつ未架橋領域を残存させても所定の形状を保持する樹脂架橋組成物を製造できることが示された。また、架橋処理における照射線量を増加すると架橋処理後の弾性率値がより大きくなる傾向がうかがえた。
【0028】
本発明の架橋樹脂組成物の一例を図1に示す。図1に示す医療用チューブ10は、架橋領域11と未架橋領域12とが長手方向に交互に並べて設けられている。このような医療用チューブは、本発明の混合物で形成した管状のチューブ体を、例えば鉛等の電子線を通さない材料で形成された帯状のシールドを当該チューブ体の長手方向に等間隔で並べて被覆し、電子線を照射することで形成することができる。
【0029】
図2には、医療用チューブ10をシースとして使用した内視鏡用処置具50を示している。医療用チューブ10の基端にはスライダー31を有する操作部30が取り付けられている。スライダー31には、図示しない操作ワイヤーが接続されており、医療用チューブ10内を通って先端側まで延びている。操作ワイヤーの先端部には、体内で処置を行うためのスネアループ20が取り付けられており、スライダー31を操作部の長手方向に進退させることで、スネアループ20を医療用チューブ10の先端から突没させることができる。
【0030】
内視鏡用処置具50は、柔軟な未架橋領域12と、高弾性率の架橋領域11とが交互に配置された医療用チューブ10をシースとすることで、架橋領域11が潰れに耐える役割を担い、未架橋領域12が柔軟性を保つ役割を果たすため、内視鏡用処置具50を挿通した内視鏡が体内で蛇行したり湾曲されたりしても、シースが潰れたり折れたりしにくく好適に使用することができる。
なお、これはあくまで本発明の架橋樹脂組成物の一例であり、架橋樹脂組成物の形状や、架橋領域および未架橋領域の配置態様は、シールドの形状や電子線の照射態様を適宜変更することにより、様々に設定することができる。その結果、目的や用途に応じた多種多様な架橋樹脂組成物の構造体を製造することができる。
【0031】
以上、本発明の架橋樹脂組成物および混合物について説明してきたが、本発明の技術範囲は、上述した態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本発明の架橋樹脂組成物において、架橋領域の弾性率は、製造しようとする構造体の特性に応じて適宜定められてよい。したがって、照射線量を調節する等により、架橋領域の弾性率が未架橋領域の2倍未満に設定されても構わない。本発明の架橋樹脂組成物は、従来よりも広い特性範囲の構造体を製造する際に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 医療用チューブ(架橋樹脂組成物)
11 架橋領域
12 未架橋領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンとポリブタジエン、および炭素どうしの二重結合を二箇所以上有する多官能モノマーを含む架橋助剤が混合されて所定の形状に成形され、
電離性放射線により架橋処理された架橋領域と、前記架橋処理が施されない未架橋領域とを有することを特徴とする架橋樹脂組成物。
【請求項2】
前記架橋領域の弾性率は、前記未架橋領域の弾性率の2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の架橋樹脂組成物。
【請求項3】
前記未架橋領域の弾性率は、100メガパスカル以上1000メガパスカル以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の架橋樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエチレンとポリブタジエン、および炭素どうしの二重結合を二箇所以上有する多官能モノマーを含む架橋助剤が混合されており、
電離性放射線により架橋処理されると、弾性率が架橋前の弾性率の2倍以上になることを特徴とする混合物。
【請求項5】
前記架橋処理前の弾性率が100メガパスカル以上1000メガパスカル以下であることを特徴とする請求項4に記載の混合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−236936(P2012−236936A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107560(P2011−107560)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】