説明

架空線用保護具、及び、これを用いた架空線設備

【課題】架空線を外部の物理的影響から保護し、鳥害防止及び着雪防止を実現しうる保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供する。
【解決手段】本発明に係る架空線用保護具1は、基体部2と、突出部3と、開口部4とを含む。基体部2は、筒状であって、内部空間20を有している。内部空間20は、基体部2を軸方向Aに貫通している。突出部3は、基体部2の内面22に突設され、軸方向Aに沿って延びている。開口部4は、隙間を隔てて向かい合う一対の開口端41、42を有している。一対の開口端41、42は、内部空間20に向かって突出し、軸方向Aの全長に亘って延びている。本発明に係る架空線設備は、架空線7と、保護具1とを含む。保護具1は、架空線7に回転可能に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空線用保護具、及び、これを用いた架空線設備に関する。本明細書において「架空線」とは、電柱や鉄塔などによって屋外または空中に架設されている送電線や、電話線、その他通信用ケーブルなどを広く意味する。
【背景技術】
【0002】
電柱や鉄塔などによって屋外または空中に架設されている送電線や電話線その他の通信用ケーブル等の架空線は、その架設場所に起因して、外部の物理的影響を受けやすく、破損の不具合が生じやすいことが知られている。この種の架空線の破損原因として、例えば、栗鼠や鼠等のげっ歯類によって齧られること、樹木や看板などとの摩擦による磨耗、降雪時に付着した雪の荷重による破断などがある。
【0003】
さらに、架空線には、鳥害対策が求められる。架空線の破損原因に係る鳥害としては、例えば、架空線に止まった鳥の嘴で突付かれること、鳥の群れが架空線に止まった時の荷重により破断することなどがある。加えて、架空線における鳥害としては、上述した直接的な破損以外にも、架空線に止まった鳥の鳴き声による騒音や糞害などの問題が派生する。特に近年、都市部の木々の減少に伴い、夕方になると大規模な鳥の群れが飛来して架空線に止まり、騒音や糞害に悩まされるという問題が生じている。
【0004】
上述した問題を解決する従来技術として、例えば、特許文献1及び2が知られている。特許文献1記載の発明は、架空線に無端状の筒体を回転自在に装着するものである。他方、特許文献2記載の発明は、架空線に対して、外面に多数の棘を有する筒体を装着するものである。
【0005】
しかし、特許文献1、2の開示内容では、以下の点について問題が生じる。まず、特許文献1の筒体は、無端状であるから、取り付ける際、架空線を筒体の開口端から挿通させなければならない。従って、取り付け作業の効率が悪く、施工コスト高となる。
【0006】
また、特許文献1の筒体は、同公報の図2に示されている通り、取り付けられた状態で架空線に吊り下げられることにより、設置姿勢が安定している。従って、外面に鳥が止まったときに、筒体が円滑に回転しない不具合が生じる。この不具合は、筒体の内寸法と、架空線の外寸法との寸法差が大きくなるに従って顕著に現れる。特許文献1において、上述した不具合を回避するには、筒体と架空線との寸法差を、大きすぎも小さすぎもしない適当な範囲で予め設定する必要がある。すなわち、架空線の具体的な外寸法に対して、適当な内寸法の筒体を予め準備する必要があるから、製造効率が悪く、製造コスト高となる。
【0007】
特許文献2の開示内容では、棘の成形工程の分だけ、製造コスト高を招く。しかも、特許文献2の開示内容では、着雪による架空線の破断事故を充分に回避することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−179007号公報
【特許文献2】特開2006−204179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、架空線を外部の物理的影響から保護しうる保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供することである。
【0010】
本発明のもう1つの課題は、鳥害防止、及び、着雪防止を実現しうる架空線用保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供することである。
【0011】
本発明の更にもう一つの課題は、コストを低減しうる架空線用保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明に係る架空線用保護具は、基体部と、突出部と、開口部とを含む。基体部は、筒状であって、内部空間を有している。内部空間は、基体部を軸方向に貫通している。突出部は、基体部の内面に突設され、軸方向に沿って延びている。開口部は、隙間を隔てて向かい合う一対の開口端を有している。一対の開口端は、内部空間に向かって突出し、軸方向の全長に亘って延びている。
【0013】
本発明に係る保護具は、架空線と組み合わせれて架空線設備を構成するために用いられる。本発明に係る架空線設備において保護具は、架空線に回転可能に取り付けられている。
【0014】
上述のように本発明に係る架空線設備を構成する保護具は、基体部が筒状であって、内部空間を有し、内部空間は、基体部を軸方向に貫通している。この構造によると、保護具は、内部空間に架空線が配置されたとき、該架空線を外部の物理的影響から保護することができる。
【0015】
保護具の開口部は、隙間を隔てて向かい合う一対の開口端を有しており、一対の開口端は、軸方向の全長に亘って延びている。この構成によると、保護具は、一対の開口端の隙間を通じて、内部空間に架空線を案内することができる。違う言葉で表現すれば、保護具は、架空線へ取り付ける際、架空線を基体部の一端から内部空間に挿通させる必要はない。従って、取り付け作業の効率を向上させ、施工コストを低減することができる。
【0016】
しかも、一対の開口端は、基体部の内部空間に向かって突出しているから、保護具を架空線に取り付けして後は、一対の開口端が架空線の抜け止めとして機能する。従って、架空線から保護具が脱落する不具合が回避され、架空線を外部の物理的影響から確実に保護することができる。
【0017】
さらに、一対の開口端は、基体部の内部空間に向かって突出しているから、基体部の内部寄りに、保護具の重心を設定することが可能となる。その結果、保護具は、内部空間に架空線が配置された状態で、外部からの荷重に応じて円滑に回転することが可能となる。従って、鳥害防止、及び、着雪防止を実現しうる架空線用保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
【0018】
保護具において、一対の開口端は、内部空間に向かって突出し、軸方向の全長に亘って延びており、且、突出部は、基体部の内面に突設され、軸方向に沿って延びている。この構成によると、保護具は、一対の開口端、及び、突出部の突出高さの分だけ、内部空間の内寸法が軸方向の全長に亘って小さくなるから、横断面でみた内部空間の内寸法と、直径でみた架空線の外寸法との寸法差を調節し、適当な範囲に設定することができる。違う観点から説明すると、保護具は、内部空間における架空線の配置姿勢を、突出部、及び、一対の開口端によって制御することができるから、内部空間に架空線が配置された状態で、保護具を円滑に回転させることが可能となる。従って、鳥害防止、及び、着雪防止を実現しうる架空線用保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)架空線を外部の物理的影響から保護しうる保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
(2)鳥害防止を実現しうる架空線用保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
(3)着雪防止を実現しうる架空線用保護具、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
【0020】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は、単に、例示に過ぎない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る架空線用保護具の斜視図である。
【図2】図1に示した保護具の縦断面図である。
【図3】図1に示した保護具の横断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る架空線設備について一部を省略して示す正面図である。
【図5】図4の架空線設備の一部を拡大して示す横断面図である。
【図6】本発明のもう一つの実施形態に係る架空線設備の一部を拡大して示す横断面図である。
【図7】本発明の更にもう一つの実施形態に係る保護具の横断面図である。
【図8】本発明の更にもう一つの実施形態に係る保護具の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1乃至図8において同一符号は、同一又は対応部分を示すものとする。図1は本発明の一実施形態に係る架空線用保護具の斜視図、図2は図1に示した保護具の縦断面図、図3は図1に示した保護具の横断面図である。図1乃至図3の保護具は、可撓性、弾性、耐候性、耐腐食性、加工容易性、材料コスト等の観点からポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の合成樹脂材料を用い、押し出し成形法など周知の成形技術を用いて一体的に成形されている。もっとも、保護具は、機械的強度の観点からステンレスや、アルミ等の金属材料で構成することもできる。さらに詳細に説明すると、図1乃至図3の保護具は、基体部2と、突出部3と、開口部4とを含む。
【0023】
基体部2は、横断面でみて円弧状の筒状体、管状体、又は、パイプ状体(以下、単に筒状と称する)であって、内部空間20と、外面21と、内面22とを有している。基体部2は、筒状の側壁部分において同一の厚み寸法を有し、断面でみた外面21の輪郭形状が、同じく断面でみた内面22の輪郭形状を拡大した相似形となっている。もっとも、外面21と内面22とは必ずしも相似形である必要はない。例えば、断面でみた外面21を略四角形形状とし、内面22を略円形形状とすることにより、保護具を、内面22が略円形形状の角パイプとすることもできる。
【0024】
内部空間20は、筒状の内面22によって画定され、基体部2を軸方向Aに貫通している。基体部2は、軸方向Aの両端に内部空間20の開口端面23、24を有している。内部空間20は、軸方向Aの全長に亘って同一の内寸法d20を有している。違う言葉で表現すれば、基体部2は、直径で向かい合う内面22、22間でみた差し渡し寸法(d20)が、軸方向Aの全長に亘って一定である。
【0025】
突出部3は、内面22に突設され、一点鎖線で示す基体部2の中心軸a1に向かって立ち上がっている。図1乃至図3の突出部3は、複数が、内面22において周方向Cに沿って等配されている。複数の突出部3は、内面22を基準として同じ突出高さt1を有している。突出部3のそれぞれは、先細り形状を有し、突出端31が断面円弧形状となっている。一点鎖線で示す円領域c1は、複数の突出端31を周方向Cに結んだものであって、横断面でみた内面22の形状を縮小した相似形となっている。円領域c1は、保護具(1)が架空線(7)に取り付けられた場合に、架空線(7)を保持する領域となる。突出部3は、軸方向Aに沿って、条状に、連続して延びている。
【0026】
開口部4は、隙間を隔てて向かい合う一対の開口端41、42を有しており、一対の開口端41、42の間の隙間は、内部空間20に開口している。一対の開口端41、42は、内部空間20に向かって突出する突出端43を有し、軸方向Aの全長に亘って延びている。図1の開口部4は、スリット状であって、基体部2を構成する筒状の側壁部分を軸方向Aに沿って条状に伸び、軸方向Aの両端で開放されている。
【0027】
突出部3と、一対の開口端41、42とは、内面22を基準として同じ突出高さt1を有している。さらに、開口部4は、一対の開口端41、42の基部でみた間隔g1が、突出端43でみた間隔g2よりも大きくなっている。端的に言えば、内部空間20に通じる開口部4の隙間は、外面21の側で拡大され、内面22の側で縮小された構造となっている。この構造によると、取り付けやすく、脱落し難い保護具1を提供することができる。
【0028】
図4は本発明の一実施形態に係る架空線設備について一部を省略して示す正面図、図5は図4の架空線設備の一部を拡大して示す横断面図である。図1乃至図3を参照して説明した保護具1は、架空線と組み合わされて、架空線設備を構成する。本明細書において「架空線」とは、電柱や鉄塔などによって、屋外または空中に架設されている電線(送電線)や、電話線、その他の通信用ケーブルなどを広く意味する。従って、架空線設備は、用いられる架空線の種類に応じて具体的に決定され、例えば、架空線が電線の場合には送電設備となり、架空線が光通信ケーブル等の通信用ケーブルである場合には通信設備となる。以下、図4及び図5を参照しながら、図1乃至図3の保護具1を用いた架空線設備について説明する。
【0029】
図4の架空線設備は、送電設備であって、複数の保護具1と、電柱6と、電線(架空線)7とを含む。電柱6、及び、架空線7は、当該技術分野において、周知の構成部分であるから詳細は省略する。架空線7は、隣接する複数の電柱6、6によって支持されている。
【0030】
複数の保護具1は、隣接する電柱6、6間に掛け渡された架空線7に対し、その全長に亘って数珠繋ぎ状に、連続して取り付けられている。保護具1は、図5に示すように、架空線7に回転(R)可能に取り付けられている。より詳細に説明すると、架空線7は、電柱6に支持された状態のまま、開口部4を通じて内部空間20に案内される。内部空間20に配置された架空線7は、複数の突出部3、及び、一対の開口端41、42によって形成される円領域(c1)内において、外面71が突出端31、及び、突出端43に接触することにより、支持されている。図5において、直径でみた架空線7の外寸法d7は、図示しない円領域(c1)と一致している。保護具1は、架空線7が内部空間20に配置された状態で、架空線7の周りを周方向Cに沿って回転(R)可能に取り付けられている。
【0031】
図1乃至図5を参照して説明した保護具1、及び、これを用いた図4及び図5の架空線設備によると、以下の効果を奏することができる。まず、保護具1は、内部空間20が、基体部2を軸方向Aに貫通しているから、架空線7を内部空間20に配置することにより、架空線7を外部の物理的影響から保護することができる。具体的には、保護具1によって、栗鼠や鼠等のげっ歯類によって齧られること、樹木や看板などとの摩擦による磨耗、鳥の嘴で突付かれること等による破損から架空線7を保護することができる。
【0032】
この種の架空線7は、複数の電柱6、6によって極めて広範囲に張りめぐらされているため、架空線7を外部の物理的影響から保護するためには、架空線7への取り付け作業を効率よく行えることが重要となる。この点、保護具1の開口部4は、隙間を隔てて向かい合う一対の開口端41、42を有し、一対の開口端41、42は、軸方向Aの全長に亘って延びている。この構成によると、一対の開口端41、42を通じて、架空線7を内部空間20に案内することができる。違う言葉で表現すれば、保護具1は、架空線7へ取り付ける際、架空線7を開口端面23又は24から内部空間20に挿通させる必要はないから、取り付け作業の効率を向上させ、施工コストを低減することができる。
【0033】
しかも、一対の開口端41、42は、内部空間20に向かって突出しているから、架空線7に保護具1を取り付けして後は、一対の開口端41、42が架空線7の抜け止めとして機能する。従って、架空線7から保護具1が脱落する不具合が回避され、架空線7を外部の物理的影響から確実に保護することができる。
【0034】
ところで、この種の架空線7の破損原因として、降雪時に付着した雪の荷重による破断、鳥の群れが架空線7に止まった時の荷重による破断などがある。加えて、架空線7に起因する間接的な鳥害として、架空線7に止まった鳥の鳴き声による騒音や糞害などの問題が派生する。特に近年、都市部の木々の減少に伴い、夕方になると大規模な鳥の群れが飛来して架空線7に止まり、騒音や糞害に悩まされるという被害が発生している。ここで架空線7は、複数の電柱6、6によって極めて広範囲に張りめぐらされているから、鳥害を実効的に防止するためには、安価かつ単純な構造で、自動的に鳥を撃退しうることが重要となる。同様に、降雪時に付着した雪の荷重による架空線7の破断を実効的に防止するためには、安価かつ単純な構造で、着雪による不正荷重を自動的に除去しうることが重要となる。
【0035】
上述した問題を解決するため、保護具1は、架空線7に回転(R)可能に取り付けられている。この構造によると、架空線7上の保護具1に鳥がとまると、鳥自身の体重で保護具1が自動的に回転し、その結果、鳥はバランスを崩し、驚いて飛び立つ。同様に、架空線7上の保護具1に一定量以上の雪が付着すると、付着した雪の重みで保護具1が自動的に回転し、その結果、付着した雪が地上に振るい落とされる。従って、鳥害防止、及び、着雪防止を実現しうる保護具1、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
【0036】
一対の開口端41、42は、内部空間20に向かって突出しているから、基体部2の内部側、好ましくは中心軸(a1)に近接する位置に、保護具1の重心を設定することが可能となる。その結果、保護具1は、内部空間20に架空線7が配置された状態で、外部の荷重に追従して円滑に回転する。従って、鳥害防止、及び、着雪防止を実現しうる保護具1、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
【0037】
保護具1において、一対の開口端41、42は、内部空間20に向かって突出し、軸方向Aの全長に亘って延びており、且、突出部3は、内面22に突設され、軸方向Aに沿って延びている。この構成によると、内部空間20における架空線7の配置姿勢を、突出部3、及び、一対の開口端41、42によって制御し、内部空間20に架空線7が配置された状態で、保護具1を円滑に回転させることができる。従って、鳥害防止、及び、着雪防止を実現しうる保護具1、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
【0038】
保護具1において、一対の開口端41、42が内部空間20に向かって突出し、且、突出部3が内面22に突設されているから、保護具1が架空線7に取り付けられた状態で、基体部2の内面22と、架空線7の外面71とが直接接触することはない。違う言葉で表現すれば、架空線7が内部空間20に配置された状態で、内面22と、外面71との間には、突出高さt1に応じた空隙が形成される。この構造によると、架空線7から発せられる熱を、空隙を通じて効率よく排熱することができる。又、開口端面23、24から内部空間20に浸入してきた雨水等を、空隙を通じて速やかに流下させ、排出させることができるから、凍結による保護具1の回転不良を回避することができる。
【0039】
図4の架空線設備を構成する保護具1は、複数が、架空線7の全長に亘って取り付けられている。複数の保護具1のそれぞれは、個別に回転(R)可能であるから、架空線7上のどの部分の保護具1に鳥が止まったとしても、また、架空線7上のどの部分の保護具1に一定量以上の雪が付着したとしても、それぞれの保護具1が自動的に回転する。従って、鳥害防止、及び、着雪防止を実現しうる保護具1、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
【0040】
図1乃至図5の保護具1及びこれを用いた架空線設備とは異なり、筒体(1)を電線(7)に装着する従来技術(特許文献1)では、取り付ける際、電線(7)を筒体(1)の一端から挿通させなければならない。従って、取り付け作業の効率が悪く、施工コスト高となる。また、電線(7)に対して、外面に多数の棘を有する筒体(1)を装着する従来技術(特許文献2)では、棘の成形工程の分だけ、製造コスト高を招く。
【0041】
もっとも、図1乃至図5を参照して説明したように、本発明の特徴の1つは、保護具1が架空線7に回転(R)可能に取り付けられる構造を有している点にあり、さらに言えば、保護具1の円滑な回転(R)を実効的あらしめる具体的な構造として、一対の開口端41、42が内部空間20に向かって突出する点、突出部3と一対の開口端41、42とが同じ突出高さt1を有する点、及び、突出部3と一対の開口端41、42とによって架空線7の保持領域(c1)を形成する点に発明の特徴の1つがある。端的に言えば、本発明は、基体部2の内面22の側の構造に工夫を加えた点に特徴があるから、外面21に多数の棘を立設し、棘を物理的な障害物として鳥を止まらせないようにしてもよい。
【0042】
図6は、本発明のもう一つの実施形態に係る架空線設備の一部を拡大して示す横断面図である。図6の実施形態は、カバー部材5を有する点、及び、架空線7が円領域c1よりも小さな外寸法d7となっている点で、図1乃至図5の実施形態とは異なる。以下、相違点を中心に説明する。
【0043】
図6の架空線設備を構成する保護具1は、カバー部材5を有する。カバー部材5は、可撓性、弾性、耐候性、耐腐食性、加工容易性、材料コスト等の観点からポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の合成樹脂材料を用いて、押し出し成形法など周知の成形技術を用いて一体的に成形されている。もっとも、保護具1は、機械的強度の観点からステンレスや、アルミ等の金属材料で構成することもできる。
【0044】
図6のカバー部材5は、被覆部50と、一対の結合部52、53とを有し、開口部4を覆っている。被覆部50は、間隔g1と同一の幅寸法を有し、開口部4に沿って軸方向Aに延びている。被覆部50の外面51は、基体部2の外面21と同一の曲率で湾曲されており、外面21とともに、一体的に連続する保護具の外面を構成している。
【0045】
一対の結合部52、53は、周方向Cでみた被覆部50の両端部分から、一対の開口端41、42に沿って、内部空間20の側に立ち上がり、且、一対の開口端41、42の突出端43に結合されている。図6の結合部52、53は、突出端43の形状に追従した凹状嵌合構造を有し、突出端43に凹凸嵌合されている。
【0046】
図6を参照して説明した実施形態によっても、図1乃至図5を参照して説明した保護具1、及び、これを用いた架空線設備の利点を全て奏することができる。さらに、図6の保護具1は、架空線7に取り付けられた状態で、カバー部材5によって開口部4が覆われている。この構造によると、開口部4を通じて内部空間20に雨水や雪が浸入する不具合が回避されるから、冬季に内部空間20に浸入した雨水や雪が凍結し、保護具1の円滑な回転が阻害される、との不具合は生じない。
【0047】
一対の結合部52、53は、一対の開口端41、42に結合されている。この構造によると、開口部4を周方向Cに押し広げるか、又は、基体部2の一端から、カバー部材5を挿通させることにより、基体部2に対して容易にカバー部材5を取り付けることができる。
【0048】
ところで、図6の実施形態では、保護具1は、内部空間20の内寸法d20よりも小さい外寸法d7を有する架空線7に取り付けられている。このような組み合わせについて、従来技術(例えば特許文献1の図2)では、電線(7)に対して筒体(1)が偏心した位置で吊り下げられた状態となり、筒体(1)に鳥が止まったときに、必ずしも円滑に回転しない不具合が生じる。この不具合は、筒体(1)の内寸法(d20)と、電線(7)の外寸法(d7)との寸法差が大きくなるに従って顕著に現れる。該不具合を回避するには、筒体(1)と電線(7)との寸法差を、大きすぎも小さすぎもしない適当な範囲で予め設定する必要がある。すなわち、電線(7)の外寸法(d7)に対して、適当な内寸法(d20)の筒体(1)を予め準備する必要があるから、製造効率が悪く、製造コスト高となる。
【0049】
上述した問題に対し、図6の保護具1は、図1乃至図5の実施形態と同様に、一対の開口端41、42が内部空間20に向かって突出し、且、突出部3が内面22に突設されていることにより、内部空間20に円領域c1が形成されている。この構成によると、内部空間20の内寸法d20は、突出高さt1の分だけ縮小され、内寸法d20と外寸法d7との寸法差が、大きすぎも小さすぎもしない適当な範囲(c1)に設定される。換言すれば、内部空間20における架空線7の配置姿勢が、突出部3、及び、一対の開口端41、42によって制御されるから、保護具1を円滑に回転させることができる。従って、鳥害防止、及び、着雪防止を実現しうる保護具1、及び、これを用いた架空線設備を提供することができる。
【0050】
図7は、本発明の更にもう一つの実施形態に係る保護具1の横断面図である。図7の実施形態は、開口部4の構造について、図1乃至図6の実施形態とは異なる。以下、相違点を中心に説明する。
【0051】
図7の開口部4は、スリット状であって、一対の開口端41、42の基部でみた間隔g1と、一対の開口端41、42の中間部分でみた間隔g2とが等しくなっている。さらに、一対の開口端41、42の突出端のそれぞれは、径方向で見て反対側に湾曲され、内面22に向かい合っている。一点鎖線で示す円領域c1は、複数の突出端31、及び、一対の開口端41、42の湾曲部分の頂点を結んだものであって、横断面でみた内面22の形状を縮小した相似形となっている。
【0052】
図7を参照して説明した実施形態によっても、図1乃至図6を参照して説明した保護具1、及び、これを用いた架空線設備の利点を全て奏することができる。
【0053】
図8は、本発明の更にもう一つの実施形態に係る保護具1の展開図である。図8の実施形態は、突出部3の構造について、図1乃至図7の実施形態とは異なる。以下、相違点を中心に説明する。
【0054】
図8の突出部3は、基体部2の内面22において、対角線上に沿って配置されている。この構造によると、基体部2が、図1乃至図7と同様の筒状構造となった場合、突出部3は、内部空間20の軸方向Aに沿って、螺旋状に配置されることとなる。
【0055】
図8を参照して説明した実施形態によっても、図1乃至図7を参照して説明した保護具1、及び、これを用いた架空線設備の利点を全て奏することができる。さらに、図8の突出部3は、内部空間20の軸方向Aに沿って螺旋状に配置されるから、1つの突出部3によって、図1乃至図7を参照して説明した円領域(c1)を形成することができる。従って、図1乃至図7の実施形態よりも安価かつ単純な構造で、図1乃至図7と同等の作用効果を奏することができる。
【0056】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種種の変形態様を採り得ることは自明である。例えば、本発明に係る保護具1は、所謂鳥おどし機であって、保護対象物に回転(R)可能に取り付けられている点に特徴の1つがあるから、ベランダの手すりや、テレビアンテナなどに鳥がとまって鳥害を生じる場合には、それらに保護具1を取り付けることにより、架空線7に用いた場合と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 架空線用保護具
2 基体部
22 内面
20 内部空間
3 突出部
4 開口部
41、42 一対の開口端
7 架空線
A 軸方向
t1 突出高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体部と、突出部と、開口部とを含む架空線用保護具であって、
前記基体部は、筒状であって、内部空間を有しており、
前記内部空間は、前記基体部を軸方向に貫通しており、
前記突出部は、前記基体部の内面に突設され、前記軸方向に沿って延びており、
前記開口部は、隙間を隔てて向かい合う一対の開口端を有しており、
前記一対の開口端は、前記内部空間に向かって突出し、前記軸方向の全長に亘って延びている、
保護具。
【請求項2】
請求項1に記載された架空線用保護具であって、
前記突出部と、前記一対の開口端のそれぞれとは、前記内面を基準として同じ突出高さを有している、
保護具。
【請求項3】
架空線と、架空線用保護具とを含む架空線設備であって、
前記架空線用保護具は、請求項1又は2に記載されたものでなり、前記架空線に回転可能に取り付けられている、
架空線設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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