説明

架線拡幅具及び架線拡幅保持方法

【課題】簡単な構成でしかも作業性良く安定して3本の平行な架線の間隔を拡幅することができる架線拡幅具を提供する。
【解決手段】互いに平行な3本の既設架線2a〜2cの相互の間隔を拡幅する架線拡幅具1であって、1本の本体ロッド3の一端部とほぼ中央部に、架線2a、2bを把持する架線把持手段4、5を回転自在に設け、本体ロッド3の両架線把持手段4、5の中間位置に本体ロッド3の一端側3aを回動自在に連結して本体ロッド3を一直線状に伸展した状態と本体ロッドの一端側を折り曲げた状態との間で伸展・折曲可能とする折曲部10を設け、本体ロッド3の他端部に、架線2cを相対移動自在に保持する可動保持手段14を回転自在に設けるとともに、本体ロッド3の他端部を移動操作する遠隔操作工具の先端を係合させる係合部20を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに平行に架設された3本の架線に対して、例えば配線の切分工事を行う際などに、3本の架線の相互の間隔を拡幅して保持する架線拡幅具、及びこれを用いて架線を拡幅して保持する架線拡幅保持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いに平行に架設された3本の架線にバイパスケーブル線などを接続する切分工事を行う際に、切分工事を行う配線箇所の電源供給側回路を遮断した状態で工事を行うと、その工事中に広範囲の電力需要者に停電の影響が及ぶため、架線に電源を供給した活線状態で高い絶縁性を有する遠隔操作工具によって遠隔操作しながら配線する工法(以下、ホットスティック工法と称する)を採用することが好ましい。このホットスティック工法を採用するためには、切分工具の取り付けや取り外しを容易に行えるように、比較的狭い間隔で配線されている3本の架線の間の間隔を拡幅する必要がある。
【0003】
鉛直面内あるいは水平面内で互いに平行に架設された3本の架線の間隔を拡幅するための従来の架線拡幅具として、1本の本体ロッドのほぼ中央部に中央の架線を把持する架線把持手段を本体ロッドの軸心に対して垂直な軸心回りに回転自在に取付け、架線把持手段の配置位置から架線を拡幅すべき間隔に相当する距離だけ離れた本体ロッドの両端部にそれぞれ、外側の架線を相対移動自在に保持する状態と把持状態とに切り換えることができる架線保持把持切換手段を上記架線把持手段の回転軸心と平行な軸心回りに回転自在に取付け、本体ロッドの一端に、遠隔操作工具を係合させて本体ロッドを回動操作する係合部を設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この架線拡幅具を用いると、本体ロッドの中央部の架線把持手段にて中央の架線を把持し、本体ロッドを架線に対して斜め姿勢にして両端部の架線保持把持切換手段にてそれぞれ外側の架線を相対移動自在に保持した状態にし、その後遠隔操作工具を係合部に係合させて本体ロッドを中央部の架線把持手段を中心にして回動操作して中央の架線に対して本体ロッドを略垂直な姿勢にすることで、中央の架線と外側の架線との間の間隔を拡幅して所望の間隔を確保することができ、その状態で架線保持把持切換手段を架線把持状態に切り換えることで、架線を所望の間隔に安定して保持することができる。しかも、本体ロッドの中央部に架線把持手段を、両端部に架線保持把持切換手段を配設した単純な構成であり、架線間隔を広げるために本体ロッドに伸縮機構を設けた複雑で高価な構成とする必要がないため低コストにて構成できるとともに、手間のかかる伸縮操作を行う必要がないために高い作業性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−15877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記従来の架線拡幅具では、遠隔操作工具を係合部に係合させて本体ロッドの中央部の架線把持手段を中心にして本体ロッドを回動操作する際に、垂直な姿勢まで回動しなかったり、垂直な姿勢を超えて回動し過ぎた場合には、外側の架線の張力によって本体ロッドが中央の架線に対して略垂直な姿勢から離れて行く方向に回動付勢されるため、本体ロッドを中央の架線に対して略垂直な姿勢で停止させることが容易でなく、熟練した作業者が慎重に作業する必要があり、作業性が良くないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、簡単な構成でしかも作業性良く安定して3本の平行な架線の間隔を拡幅することができる架線拡幅具及び架線拡幅保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の架線拡幅具は、互いに平行な3本の架線の相互の間隔を拡幅する架線拡幅具であって、1本の本体ロッドの一端部とほぼ中央部に、架線を把持する架線把持手段を本体ロッドの軸心に対して垂直な回転軸心回りに回転自在に設け、本体ロッドの両架線把持手段の中間位置に、前記回転軸心と平行な軸心の回りに本体ロッドの一端側を回動自在に連結し、本体ロッドを一直線状に伸展した状態と本体ロッドの一端側を折り曲げた状態との間で伸展・折曲可能とする折曲部を設け、本体ロッドの他端部に、架線を相対移動自在に保持する可動保持手段を前記回転軸心と平行な軸心回りに回転自在に設けるとともに、本体ロッドの他端部を移動操作する遠隔操作工具の先端を係合させる係合部を設けたものである。
【0009】
この構成によれば、本体ロッドの一端側を折り曲げた状態で、本体ロッドの略中央部の架線把持手段にて中央の架線を把持し、本体ロッドを架線に対して斜め姿勢にしてその他端部の可動保持手段を一方の外側の架線に係合させて架線拡幅具を架線に装着し、次に本体ロッドの一端側を回動させて一端部の架線把持手段にて、他方の外側の架線における上記略中央部の架線把持手段による把持位置にほぼ対向した位置を把持し、次に本体ロッドの他端部の係合部に遠隔操作工具の先端を係合させて本体ロッドの他端部を移動操作し、本体ロッドを架線に対して略垂直姿勢になるように回動させることで、本体ロッドの中間部と一端部で架線把持手段にて架線を把持しているので、本体ロッドの回動に伴ってこれらの架線把持手段の中間の折曲部が伸展されて本体ロッドの一端側が他の部分に対して一直線状となり、中央の架線に対して両外側の架線が押し広げられてそれらの間隔が拡幅される。かくして、1本の本体ロッドの中央部と一端部に架線把持手段を配設し、それらの中間位置に屈曲部を設け、他端部に可動保持手段と係合部を配設した簡単な構成であるため安価に構成できるとともに、一端部と略中央部の2つの架線把持手段にて2本の架線を把持しているので本体ロッドの他端部を単純に移動操作するだけで3本の架線の間隔を確実に拡幅することができて作業性を向上することができる。
【0010】
また、本体ロッドの他端部の可動保持手段に、架線を把持する把持手段を設けると、3本の架線を拡幅した状態でそれぞれ把持手段にて把持することで拡幅状態を安定して保持することができる。
【0011】
また、本体ロッドの一端側を回動自在に支持する折曲部の枢支軸を、本体ロッドの軸心に対して偏心した本体ロッドの側部に配置すると、本体ロッドが一直線状に伸展した状態で、外側の架線の張力によって本体ロッドの両端から圧縮力が作用しても、本体ロッドの伸展状態を保持するように作用して折り曲げるようには作用しないので、拡幅操作時における本体ロッドの伸展状態の安定化を図ることができる。
【0012】
また、折曲部に、本体ロッドの一端側が他の部分に並列した姿勢から適当角度開いた位置より並列した姿勢に向けて閉じないように本体ロッドの一端側に係合する係合手段を設けると、本体ロッドの中央部の架線把持手段にて中央の架線を把持させる前に、予め係合手段にて本体ロッドの一端側がある程度開いた状態としておくことで、その後本体ロッドの一端部の架線把持手段を一方の外側の架線に向けて移動させる際に本体ロッドの一端側を他の部分に対して容易に回動させることができ、作業性を向上することができる。
【0013】
また、折曲部に、本体ロッドを一直線状に伸展した状態で係止する係止手段を設けると、本体ロッドの伸展状態で係止手段にて係止しておくことで、3本の架線の拡幅状態をさらに安定して確保でき、その後の切分工事などを一層安全に行うことができる。
【0014】
また、本発明の架線拡幅保持方法は、上記架線拡幅具を用いて互いに平行な3本の架線の相互の間隔を拡幅する架線拡幅保持方法であって、本体ロッドの一端側を折曲部で折り曲げた状態で、本体ロッドの中央部の架線把持手段にて中間の架線を把持する工程と、本体ロッドを架線に対して傾斜させ、本体ロッドの他端部の可動保持手段を一方の外側の架線に係合させる工程と、本体ロッドの一端側を折り曲げた状態から開いて一端部の架線把持手段にて他方の外側の架線における中間の架線の把持位置に対向する位置を把持する工程と、本体ロッドの他端部の係合部に遠隔操作工具の先端を係合させて本体ロッドの他端部を移動操作し、本体ロッドを一直線状に伸展した状態とする工程と、本体ロッドの他端部の把持手段にて架線を把持する工程とを有するものである。
【0015】
この構成によれば、本体ロッドの中間部と一端部の架線把持手段にてそれぞれ架線を把持し、他端部の可動保持手段にて架線を相対移動自在に保持した状態で、本体ロッドの他端部を移動操作して本体ロッドを回動させることで、本体ロッドの折曲部が伸展されて本体ロッドの一端側が他の部分に対して一直線状となり、中央の架線に対して両外側の架線が押し広げられてそれらの間隔が拡幅されるので、簡単かつ安価な構成の架線拡幅具を用いて作業性良く3本の架線の間隔を確実に拡幅することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の架線拡幅具及び架線拡幅保持方法によれば、1本の本体ロッドの中央部と一端部に架線把持手段を配設し、それらの中間位置に屈曲部を設け、他端部に可動保持手段と係合部を配設した簡単な構成であるため安価に構成できるとともに、一端部と略中央部の2つの架線把持手段にて2本の架線を把持しているので本体ロッドの他端部を単純に移動操作するだけで3本の架線の間隔を確実に拡幅することができて作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の架線拡幅具の一実施形態を示し、(a)は長手方向に一部を破断して示した側面図、(b)は同正面図。
【図2】同実施形態の折曲部において、本体ロッドの一端側を一直線状に保持した状態を示す斜視図。
【図3】同実施形態の折曲部において、本体ロッドの一端側を若干開いた位置に規制した状態を示す斜視図。
【図4】同実施形態の本体ロッドの一端側を折り曲げた状態を示し、(a)は長手方向に一部を破断して示した側面図、(b)は折曲部を拡大して示した斜視図。
【図5】同実施形態の架線拡幅具を用いて架線間隔を拡幅するため架線拡幅具を取り付けた状態を示す正面図。
【図6】同実施形態の架線拡幅具を用いて架線間隔を拡幅する途中の工程を示す正面図。
【図7】同実施形態の架線拡幅具を用いて架線間隔を拡幅した状態を示す正面図。
【図8】他の実施形態の折曲部を示す斜視図。
【図9】同実施形態の折曲部における係合ピンを示すを示す一部断面側面図。
【図10】同実施形態の折曲部において、本体ロッドの一端側を折り曲げて他の部分と並行にした状態を示す一部断面正面図。
【図11】同実施形態の折曲部において、本体ロッドの一端側を若干開いた位置に規制した状態を示す一部断面正面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の架線拡幅具及びそれを用いた架線拡幅保持方法の一実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。
【0019】
図1〜図4において、1は、互いに平行な3本の既設の架線2a、2b、2cの相互の間隔を拡幅するために用いる架線拡幅具であり、1本の本体ロッド3の一端部とほぼ中央部にそれぞれ架線把持手段4、5が取付けられている。これら架線把持手段4、5は、略C字状で、その一端部の架線受け部6aに架線2a、2bを受け入れて保持する受け部材6と、受け部材6の他端部を貫通して螺合されるとともに、先端に架線押圧部7aを、他端に回転操作リング7bを有する押圧ねじ軸7と、受け部材6を本体ロッド3に対して本体ロッド3の軸心及び架線2a、2bに対して垂直な軸心回りに回転自在に取り付ける回転支軸8にて構成されている。
【0020】
本体ロッド3は、両架線把持手段4、5の取付位置の中間位置で、一端側3aと他の部分3bとに2分割されるとともに、その分割部に配設された折曲部10にて一端側3aが他の部分3bに対して、図1、図2に示すように一直線状に伸展した状態と、図3、図4に示すように、一端側3aが他の部分3bの側部に沿った折り曲げた状態との間で、伸展・折曲可能となるように回動自在に連結されている。折曲部10は、他の部分3bの連結端部に装着固定された、軸心方向から見た形状が、本体ロッド3の3方を取り囲むとともに本体ロッド3の側部に突出する突出端部11aを有するコ字状の連結ブラケット11と、一端側3aの連結端部に装着固定され、かつ一部が連結ブラケット11内に嵌合されるとともに本体ロッド3の側部に突出する突出部12aを有する連結ブロック12と、連結ブラケット11の突出端部11aと連結ブロック12の突出部12aを貫通して連結ブロック12を連結ブラケット11に対して回動自在に連結する枢支軸13にて構成され、枢支軸13の軸心は回転支軸8と平行である。
【0021】
本体ロッド3の他端部には、架線2cを相対移動自在に保持する可動保持手段14が回転支軸8と平行な回転支軸15回りに回転自在に取付けられている。可動保持手段14は、本体ロッド3の他端側に開放したコ字状の可動ブラケット16が回転支軸15にて回転自在に取付けられるとともに、架線2cを相対移動自在に係合する鼓型の保持ローラ17がこの可動ブラケット16にて回転自在に支持されている。また、可動ブラケット16から本体ロッド3の他端側に向けて斜め外方にL字状の取付部材18が延出され、この取付部材18の先端の屈曲部に設けられたボス部18aを貫通して、先端に架線押圧部19aを、他端に回転操作リング19bを有する押圧ねじ軸19が螺合されている。この架線押圧部19aと保持ローラ17との間で架線2cを把持できるように構成され、保持ローラ17と押圧ねじ軸19にて架線2cの把持手段20が構成されている。
【0022】
本体ロッド3の他端の両側には、本体ロッド3の他端部を移動操作する遠隔操作工具(図示せず)の先端を係合させる係合部21が設けられている。また、本体ロッド3の他端には、引き出し線を吊り下げ支持する吊り下げ紐(図示せず)を掛ける掛け止めフック22が設けられている。この掛け止めフック22には吊り下げ紐(図示せず)の脱落防止片22aが閉じる方向に付勢されて配設され、かつ脱落防止片22aを開く方向に操作するための操作リング22bが設けられている。
【0023】
折曲部10には、図1、図2に示すように本体ロッド3の一端側3aと他の部分3bを一直線状に伸展した状態で係止する係止手段23が設けられている。この係止手段23は、図2〜図4に示すように、本体ロッド3の一端側3a側を一直線状に伸展したときに連結ブラケット11内に嵌合する連結ブロック12の部分に形成された係止穴24と、この係止穴24に挿入した位置と抜き出した位置との間で出退可能に連結ブラケット11に配設された係止ピン25にて構成され、係止ピン25には遠隔操作具にて出退操作するための操作リング25aが設けられている。
【0024】
また、折曲部10には、図3に示すように、本体ロッド3の一端側3aが他の部分3bに並列した図4に示す状態から一端側3aを適当角度開いた状態で、図4に示す並列した姿勢に向けて閉じることがないように、本体ロッド3の一端側3aの連結ブロック12に係合する係合手段26が設けられている。この係合手段26は、図2、図3に示すように連結ブラケット11内に挿入されて連結ブロック12に係合する位置と、図4に示すように連結ブラケット11内から引き出されて連結ブロック12に係合しない位置との間で出退可能に連結ブラケット11に配設された係合ピン27にて構成され、係合ピン27には出退操作するための操作ノブ27aが設けられている。
【0025】
なお、本体ロッド3は、高い電気絶縁性を有するとともに吸湿性が少なくかつ強度を有する、例えばエポキシ樹脂系強化プラスチック(FRP)から成る肉厚2mm以上のパイプ材にて構成されている。また、架線把持手段4、5及び可動保持手段14の下部位置に、雨天での作業時の雨切り28が設けられている。
【0026】
次に、以上の構成の架線拡幅具1を用いて、平行な3本の架線2a〜2cの間隔を拡幅する作業工程を図5〜図7を参照して説明する。まず、本体ロッド3の一端側3を折曲部10で折り曲げるとともに、その一端側3aが他の部分3bに並列した図4に示す姿勢から適当角度開いた状態にし、かつ係合手段26の係合ピン27を挿入状態にして図3に示すように、図4に示す並列した姿勢に向けて閉じることがない状態にセットしておく。その状態の架線拡幅具1を、架線2a〜2cの切分工事を行うためにそれらの間隔を拡幅すべき箇所に遠隔操作具(図示せず)にて配置し、図5に示すように、本体ロッド3の中央部の架線把持手段5にて中間の架線2bを把持する。その際には、受け部材6の架線受け部6aに架線2bを挿入して保持させた後、押圧ねじ軸7を遠隔操作具(図示せず)にて回転操作することで、架線受け部6aと架線押圧部7aの間で架線2bを把持する。
【0027】
次に、本体ロッド3を架線2a〜2cに対して傾斜した姿勢にして、本体ロッド3の他端部の可動保持手段14を下側の架線2cに係合させる。その際には、可動ブラケット16にて回転自在に支持されている保持ローラ17に架線2cを係合させる。次に、図6に示すように、本体ロッド3の一端側3aを折り曲げた状態から開き、本体ロッド3の一端部の架線把持手段4にて上側の架線2aを把持する。この架線把持手段4による架線2aの把持位置は、上記架線把持手段5による架線2bの把持位置に対向する位置であり、把持操作は、上記架線把持手段5の場合と同様である。
【0028】
その後、本体ロッド3の他端部の係合部21に遠隔操作工具(図示せず)の先端を係合させ、図6に一点鎖線の矢印で示すように、本体ロッド3の他端部を本体ロッド3が架線2a〜2cに対して垂直姿勢となるように移動操作する。すると、架線把持手段4、5が架線2a、2bの互いに対向する位置を把持して位置固定されているので、本体ロッド3の他の部分3bが架線2bに対して垂直になるのに伴って、屈曲部10を介して一端側3aも架線2aに対して垂直になるように回動して、図7に示すように、一端側3aが他の部分3bに対して一直線状に伸展した状態となるとともに、架線2a、2b間、2b、2c間の間隔が拡幅される。その後、本体ロッド3の他端部の把持手段20の押圧ねじ軸19を回転操作して架線2cを把持し、また係止手段23の係止ピン25を係止穴24に挿入して本体ロッド3を伸展した状態で固定する。
【0029】
このように架線2a〜2cの間隔を架線拡幅具1で拡幅した状態で、3本の架線2a〜2cにバイパスケーブル線などを接続する切分工事が実施される。その際、架線2a〜2cに電源を供給した活線状態で絶縁遠隔操作工具によって遠隔操作するホットスティック工法を適用しながら安全に作業性良く作業することができる。
【0030】
切分工事の所定作業が終了すると、以上の操作とは逆に、把持手段20による架線2cの把持を解除して可動保持手段14を相対移動可能な状態にするとともに、係止ピン27を引き抜いて折曲部10で本体ロッド3を折り曲げ可能な状態にして本体ロッド3を逆方向に回動させることで、図7の状態から図6の状態に戻し、次に本体ロッド3の一端部の架線把持手段4による架線2aの把持を解除して一端側3aを折曲部10で回動させて図5に示す折り曲げ状態とし、次に可動保持手段14の架線2cに対する係合を解除し、架線把持手段5による架線2bの把持を解除して架線拡幅具1を取り外して地上に降ろし、その後図4(b)に示すように、係合ピン27を引き抜くことで、図4(a)、(b)に示すように、本体ロッド3の一端側3aを他の部分3bの側部に沿った状態に折り畳むことによって、コンパクトな状態で工具袋などに収容して持ち運ぶことができる。
【0031】
以上の本実施形態の架線拡幅具1によれば、1本の本体ロッド3の中央部と一端部に架線把持手段4、5を配設し、それらの中間位置に屈曲部10を設け、他端部に可動保持手段14と係合部21を配設した簡単な構成であるため、安価に製造することができ、しかも、一端部と略中央部の2つの架線把持手段4、5にて2本の架線2a、2bを把持することで、本体ロッド3の他端部を単純に移動操作するだけで3本の架線2a〜2cの間隔を確実に拡幅することができて作業性を向上することができる。
【0032】
また、本体ロッド3の他端部の可動保持手段14に、架線2cを把持する把持手段20を設けているので、3本の架線2a〜2c間の間隔を拡幅した状態でそれぞれ架線把持手段4、5と把持手段20にて架線2a〜2cを把持することで拡幅状態を安定して保持することができる。さらに、折曲部10に、本体ロッド3を一直線状に伸展した状態で係止する係止手段23を設け、本体ロッド3の伸展状態で係止手段23にて係止するようにしているので、3本の架線2a〜2cの拡幅状態をさらに安定して確保でき、その後の切分工事などを一層安全に行うことができる。
【0033】
また、本体ロッド3の一端側3aを回動自在に支持する屈曲部10の枢支軸13を、本体ロッド3の軸心に対して偏心した本体ロッド3の側部に配置しているので、本体ロッド3を一直線状に伸展させたときに、その状態で外側の架線2a、2cの張力によって本体ロッド3の両端から圧縮力が作用しても、折曲部14での折り曲げに対して本体ロッド3の伸展状態を保持するように作用するため、架線2a〜2c拡幅操作時における本体ロッド3の伸展状態の安定化を図ることができる。
【0034】
また、折曲部10に、本体ロッド3の一端側3aが他の部分3bに並列した姿勢から適当角度開いた位置で本体ロッド3の一端側3aの連結ブロック12が係合する係合手段26としての係合ピン27を設け、架線拡幅具1を作業位置に配置する前に予め係合ピン27にて本体ロッド3の一端側3aがある程度開いた状態にしておけるようにしているので、本体ロッド3の中央部の架線把持手段5にて中央の架線2bを把持させた後、本体ロッド3の一端部の架線把持手段4を外側の架線2aに向けて移動させる際に本体ロッド3の一端側3aを他の部分3bに対して容易に回動させることができ、作業性を向上することができ、かつ収納時には係合ピン27を非係合位置に引き出すことで、本体ロッド3の一端側3aを他の部分3bに並列した姿勢にしてコンパクトに収納することができる。
【0035】
上記折曲部10は、図8〜図11に示す実施例のように構成することができる。この実施例は、図2〜図4に示す折曲部10と同様に、コ字状の連結ブラケット11と、前記一端側3aの連結端部に装着固定され、かつ一部が連結ブラケット11内に嵌合されるとともに本体ロッド3の側部に突出する突出部12aを有する連結ブロック12と、連結ブラケット11の突出端部11aと連結ブロック12の突出部12aを貫通して連結ブロック12を連結ブラケット11に対して回動自在に連結する枢支軸13を有している。
【0036】
また、折曲部10には、本体ロッド3の一端側3aと他の部分3bを一直線状に伸展した状態で係止する係止手段23が設けられている。この係止手段23は、図2〜図4に示す係止手段と同様に、本体ロッド3の一端側3a側を一直線状に伸展したときに連結ブラケット11内に嵌合する連結ブロック12の部分に形成された係止穴24と、この係止穴24に挿入した位置と抜き出した位置との間で出退可能に連結ブラケット11に配設された係止ピン25にて構成され、係止ピン25には遠隔操作具にて出退操作するための操作リング25aが設けられている。
【0037】
また、折曲部10には、図11に示すように、本体ロッド3の一端側3aが他の部分3bに並列した図10に示す状態から一端側3aを適当角度開いた状態で、図10に示す並列した姿勢に向けて閉じることがないように、本体ロッド3の一端側3aの連結ブロック12に係合する係合手段26が設けられている。この係合手段26は、図9、図10、図11に示すように連結ブラケット11のボス部27gに、回転可能に軸支された係合ピン27cを備えている。この係合ピン27cの軸部横断面形状は半円であって、図10に示す回転位置では、その切欠平面27eが、連結ブロック12の係合辺12bに当接し、前記一端部3aと前記他の部分3bとが並列下状態となるようにし、図11に示す回転位置では、その円周面27fが、連結ブロック12の係合辺12bに当接し、前記一端部3aと前記他の部分3bとが適当角度開いた位置に保持されるように構成されている。
【0038】
前記係合ピン27cには、これを回転操作するための操作ノブ27dが設けられ、また、係合ピン27cを図10、図11のそれぞれの位置に保持するためのボールプランジャー27xが設けられ、このボールプランジャー27xのボールを係止するために、所定回転位置に形成された2つの孔27h、27iが、前記ボス部27gに設けられている。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の架線拡幅具及び架線拡幅保持方法は、1本の本体ロッドの中央部と一端部に架線把持手段を配設し、それらの中間位置に屈曲部を設け、他端部に可動保持手段と係合部を配設した簡単な構成であるため安価に構成できるとともに、一端部と略中央部の2つの架線把持手段にて2本の架線を把持することで本体ロッドの他端部を単純に移動操作するだけで3本の架線の間隔を確実に拡幅することができて作業性を向上することができるので、互いに平行な3本の既設架線に対する配線の切分工事を行う際などに、3本の架線の相互の間隔を拡幅して保持するのに好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 架線拡幅具
2a〜2c 架線
3 本体ロッド
3a 一端側
3b 他の部分
4 架線把持手段
5 架線把持手段
8 回転支軸
10 折曲部
13 枢支軸
14 可動保持手段
15 回転支軸
20 把持手段
21 係合部
23 係止手段
26 係合手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な3本の架線の相互の間隔を拡幅する架線拡幅具であって、
1本の本体ロッドの一端部とほぼ中央部に、架線を把持する架線把持手段を本体ロッドの軸心に対して垂直な回転軸心回りに回転自在に設け、
本体ロッドの両架線把持手段の中間位置に、前記回転軸心と平行な軸心の回りに本体ロッドの一端側を回動自在に連結し、本体ロッドを一直線状に伸展した状態と本体ロッドの一端側を折り曲げた状態との間で伸展・折曲可能とする折曲部を設け、
本体ロッドの他端部に、架線を相対移動自在に保持する可動保持手段を前記回転軸心と平行な軸心回りに回転自在に設けるとともに、本体ロッドの他端部を移動操作する遠隔操作工具の先端を係合させる係合部を設けた
ことを特徴とする架線拡幅具。
【請求項2】
本体ロッドの他端部の可動保持手段に、架線を把持する把持手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の架線拡幅具。
【請求項3】
本体ロッドの一端側を回動自在に支持する折曲部の枢支軸を、本体ロッドの軸心に対して偏心した本体ロッドの側部に配置したことを特徴とする請求項1記載の架線拡幅具。
【請求項4】
折曲部に、本体ロッドの一端側が他の部分に並列した姿勢から適当角度開いた位置より並列した姿勢に向けて閉じないように本体ロッドの一端側に係合する係合手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の架線拡幅具。
【請求項5】
折曲部に、本体ロッドを一直線状に伸展した状態で係止する係止手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の架線拡幅具。
【請求項6】
請求項1記載の架線拡幅具を用いて互いに平行な3本の架線の相互の間隔を拡幅する架線拡幅保持方法であって、
本体ロッドの一端側を折曲部で折り曲げた状態で、本体ロッドの中央部の架線把持手段にて中間の架線を把持する工程と、
本体ロッドを架線に対して傾斜させ、本体ロッドの他端部の可動保持手段を一方の外側の架線に係合させる工程と、
本体ロッドの一端側を折り曲げた状態から開いて一端部の架線把持手段にて他方の外側の架線における中間の架線の把持位置に対向する位置を把持する工程と、
本体ロッドの他端部の係合部に遠隔操作工具の先端を係合させて本体ロッドの他端部を移動操作し、本体ロッドを一直線状に伸展した状態とする工程と、
本体ロッドの他端部の把持手段にて架線を把持する工程とを有する
ことを特徴とする架線拡幅保持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−288399(P2010−288399A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141314(P2009−141314)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(591083772)株式会社永木精機 (65)