説明

染色布帛とその製造方法

【課題】親水性が高くその持続性もあり、染色物の深色かつ濃色化をさらに高めることが可能な染色布帛とその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の染色布帛は、プラズマ処理前より濡れ張力が10mN/m以上高くかつ1週間以上持続する親水性を有する。この製法は、予め染色されている布帛(1)を、単位面積当たりの電力量:400W・分/m2以上、かつ常温・常圧であり、陰極ドラム(3,11)と、陰極ドラムの表面であって布帛の走行方向と直交する方向に配置された複数のセラミックでカバーされた陽極バー(4a-4c,12a-12c)を含み、陽極バーから陰極ドラムに向かってコロナ放電することにより、プラズマを発生させる大気開放型プラズマ装置を使用して表面処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理した染色布帛とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低温プラズマやコロナ放電で羊毛(ウール)繊維を処理することにより、その表皮部分(スケール)を適度に破壊して繊維表面を親水化し、染色性の向上及び樹脂加工剤の均一な付着を可能にする羊毛繊維の処理方法が提案されている(例えば特許文献1)。また、ポリエステル等の合成繊維の染色製品を低温プラズマで染色製品の表面処理をして堅牢度の低下がなく耐久性の高い深色かつ濃色化を可能にする染色繊維製品の濃色化方法が提案されている(例えば、特許文献2〜4)。
【0003】
しかし、特許文献1に提案されているコロナ放電による大気圧プラズマ処理は、布帛に対して1分間当り30〜300W/m2の範囲内の処理しかできず、親水性に乏しいという問題があった。このため、現在に至るまでウール繊維は塩素処理し、スケールを除去して親水性を付与し、深色かつ濃色化をしているのが実情である。
【特許文献1】特許第2849743号公報
【特許文献2】特開昭61−63791号公報
【特許文献3】特開昭61−97490号公報
【特許文献4】特開昭61−152887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、親水性が高くその持続性もあり、染色物の深色かつ濃色化をさらに高めることが可能な染色布帛とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の染色布帛は、プラズマ処理までのいずれかの工程で染色され、単位面積当たりの電力量:400W・分/m2以上、かつ常温・常圧であり、大気開放型プラズマ装置によりプラズマ処理された布帛であって、前記布帛は、前記プラズマ処理前より濡れ張力が10mN/m以上高くかつ1週間以上持続する親水性を有することを特徴とする。
【0006】
本発明の染色布帛の製造方法は、予め染色されている布帛を、単位面積当たりの電力量:400W・分/m2以上、かつ常温・常圧であり、陰極ドラムと、前記陰極ドラムの表面であって布帛の走行方向と直交する方向に配置された複数のセラミックでカバーされた陽極バーを含み、前記陽極バーから前記陰極ドラムに向かってコロナ放電することにより、プラズマを発生させる大気開放型プラズマ装置を使用して表面処理することにより、前記プラズマ処理前より濡れ張力を10mN/m以上高くかつ1週間以上持続する親水性を付与した後、樹脂加工し、深色加工布帛を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、染色された布帛に単位面積当たりの電力量:400W・分/m2以上、かつ常温・常圧であり、大気開放型プラズマ装置によりプラズマ処理することにより、前記プラズマ処理前より濡れ張力が10mN/m以上高くかつ1週間以上持続する親水性を有する布帛を得ることができる。得られた布帛は、親水性が高くその持続性もあり、染色物の深色と濃色化をさらに高めることが可能である。とくに深色と濃色化を要求されるフォーマルウェアに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は染色された布帛を対象とする。染色された布帛の親水性とその持続性を高め、染色物の深色と濃色化をさらに高めるためである。布帛を構成する繊維の親水性を高めると、後の工程において反応性樹脂加工をする際に、樹脂が繊維表面に強固にコーティングされるにより、染色物の深色と濃色化をさらに高めることができる。例えば同一色の染色布帛で比較すると、本発明の加工前の布帛に比較して加工後の布帛は、明度指数(L*)を約1以上低くでき、深色かつ濃色にできる。
【0009】
本発明で使用する布帛は、織物、編物、不織布等の種々の形態をした布帛であって、バラ毛染、トップ染、綛染、糸染、反染などの染色法により染色されている。染料及び染色方法はどのようなものであっても良い。
【0010】
プラズマ処理においては、単位面積当たりの電力量を400W・分/m2以上とする。好ましくは400〜1500W・分/m2、さらに好ましくは440〜1200W・分/m2、とくに好ましくは580〜1000W・分/m2の範囲である。前記において単位面積当たりの電力量が400W・分/m2以上であると、親水性の持続力が1週間以上、好ましくは2週間以上を経過しても保持しており、樹脂加工するまでの期間、布帛を待機させておいても親水性が変化することはない。したがって、親水性が安定した布帛を作成できる。プラズマ処理により繊維表面には、−C−OH,C=O,−COOなどの活性基が形成され、これらの活性基により親水性になると思われる。
【0011】
プラズマ処理は、常温・常圧の大気開放型プラズマ装置を使用する。これにより特別なチャンバーやガス雰囲気を保持する装置は不要となる。このプラズマ処理により、オゾンなどのガスが発生するので、吸引ダクトなどの排気ガス装置を備えることが好ましい。
【0012】
前記プラズマ処理された布帛は、処理前より濡れ張力が10mN/m以上高くかつ1週間以上持続する親水性を有する。処理前より濡れ張力が10mN/m以上高いと、良好な親水性となり、樹脂加工において樹脂のコーティングを強固にできる。好ましい濡れ張力は10〜30mN/m、さらに好ましくは12〜25mN/m、とくに好ましくは14〜20mN/mの範囲である。
【0013】
本発明をウール等の獣毛繊維に応用すると、塩素を使用することなく安定した親水性を付与できる。ウール以外の天然繊維、化合成繊維又はこれらの混合繊維を使用した布帛にも適用できる。
【0014】
前記布帛は、導電性繊維を含むことが好ましい。フォーマルウェアなどの深色と濃色化をした布帛を用いた衣服は、静電気によりほこりが付着すると目立つため、静電気を帯電させないために導電性繊維を混入するのが好ましい。導電性繊維はフィラメント(長繊維)でも、カットファイバー(短繊維)でも使用できる。導電性繊維としては、銅、アルミ、カーボンなどの導電材料を用いて1〜10dtexの繊度とした繊維を、0.05〜5重量%の範囲で通常の繊維に混合するのが好ましい。本発明においては、セラミックでカバーされた陽極バーを用いることにより、導電繊維が混合されていても導電繊維にコロナ放電が集中することはなく、他の繊維と均一にプラズマ処理される。
【0015】
前記布帛は、プラズマ処理後に反応性シリコーン樹脂、反応性フッ素樹脂加工及び反応性ウレタン樹脂加工から選ばれる少なくとも一つの樹脂加工をするのが好ましい。
(1)反応性シリコーン樹脂の例:ニッカシリコンAM−202(日華化学) 3〜5wt%
(2)反応性フッ素樹脂の例:アサヒガードAG7105(明成化学工業) 3〜5wt%
(3)反応性ウレタン樹脂の例:シンタプレットBAP(DyStar) 3〜5wt%
(4)加工法:パディング(Pick Up 60wt%)−乾燥−キュアー
前記布帛がウール又はウールを含む布帛の場合、プラズマ処理した後の布帛の濡れ張力は57mN/m以上であることが好ましい。ウール又はウールを含む布帛の場合、とくに高級なフォーマルウェアとして使用されており、これに適用する布帛の濡れ張力が57mN/m以上であると好ましい深色かつ濃色化ができる。
【実施例】
【0016】
次に実施例を用いてさらに本発明を具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[各種測定法]
(1)濡れ張力
日本工業規格 JIS K6768
(2)色相
L*a*b*表色系 CIE(国際照明委員会)1976,日本工業規格 JIS Z8730
(3)バブリング
毛製品検査協会バブリング試験法
(4)染色堅ろう度
日本工業規格 JIS L0848,JIS L0849
(実施例1)
図1に示すプラズマ処理装置を用いて実験を行った。図1は本発明の一実施例のプラズマ処理を示す概略断面図である。図1において、布帛1は矢印aに沿って供給され、ロール2から陰極ドラム3へ供給し、陰極ドラム3の表面であって布帛の走行方向と直交する方向に配置された3つのセラミックでカバーされた陽極バー4a,4b,4cから陰極ドラム3に向かってコロナ放電させた。5a,5b,5cは前記陽極バーのハウジングである。陽極バー4a,4b,4cはそれぞれ5本のセラミックでカバーされた陽極バーで構成されている。10は第1段目のプラズマ処理装置である。片面8がプラズマ処理された布帛は、ロール3から取り出された。次に未処理面7を処理するため、ロール9から陰極ドラム11へ供給し、陰極ドラム11の表面であって布帛の走行方向と直交する方向に配置された3つのセラミックでカバーされた陽極バー12a,12b,12cから陰極ドラム11に向かってコロナ放電させた。13a,13b,13cは前記陽極バーのハウジングである。陽極バー12a,12b,12cは、それぞれ5本のセラミックでカバーされた陽極バーで構成されている。20は第2段目のプラズマ処理装置である。
【0017】
このようにして両面処理された布帛19は、ロール14,15,16,17,18を通過して矢印b方向に取り出される。
【0018】
図2は、第2段目のプラズマ処理の排出付近の拡大斜視図である。布帛は陰極ドラム11の表面に沿って通過し、陽極バーハウジング13c内の陽極バーからのコロナ放電によりプラズマ処理され、ロール14から取り出される。
【0019】
なお本実施例においてはプラズマ処理装置を両面に配置したが、片面配置とし表裏2回通過させても良いし、片面配置で1回だけ通過させても良い。
【0020】
以下に布帛とプラズマ処理条件を記載する。
1.布帛
(1)繊維:ウール81重量%、ポリエチレンテレフタレート(PET)19重量%
(2)経糸:番手1/50、撚数Z1200/m、緯糸:番手1/50、撚数Z1200/m
(3)織物組織:1/2綾
(4)糸密度(仕上):経糸103.4本/インチ、緯糸81本/インチ
(5)目付け:155g/m2
2.プラズマ処理条件
(1)コロナ放電電力:5〜25kW
(2)コロナ放電周波数:16〜45kHz
(3)出力電圧(RMS):520〜600V(供給電圧による)
(4)織物走行速度:10〜20m/分
(5)単位面積当たりの電力量:147〜1471W・分/m2
(6)温度:常温(25℃)
(7)圧力:大気圧(常圧)、大気開放
(8)電極間間隙:2.5mm
以上の実験結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
以上の結果から、単位面積当たりの電力量は400W・分/m2以上であれば、濡れ張力(親水性)は変化が少なく安定化することが確認できた。
【0023】
(実施例2〜4)
図1に示すプラズマ処理装置を用いて実施例1と同様に実験を行った。使用した布帛は表2に示すとおりである。
【0024】
【表2】

【0025】
プラズマ処理条件は次のとおりとした。
(1)コロナ放電電力:15kW
(2)コロナ放電周波数:16〜45kHz
(3)出力電圧(RMS):520〜600V(供給電圧による)
(4)織物走行速度:20m/分
(5)単位面積当たりの電力量:441W・分/m2
(6)温度:常温(25℃)
(7)圧力:大気圧(常圧)、大気開放
(8)電極間間隙:2.5mm
比較例1〜3(塩素処理品)は染色前に塩素による脱スケール処理を行い染色したものを用い、プラズマ処理はしていない。得られた実施例2〜4(プラズマ処理品)と比較例1〜3(塩素処理品)を次の条件で樹脂加工した。
a.反応性シリコーン樹脂 ニッカシリコンAM−202(日華化学)4wt%
b.加工法 パディング(Pick Up 60wt%)−乾燥−キュアー
以上の実験結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
表3から明らかなとおり、本発明の実施例品は明度指数(L*)が比較例(塩素処理品)に比べて低く、深色かつ濃色の染色品が得られた。また、バブリングにおいても性能の向上が得られ、さらには堅ろう度でもアルカリ汗(汚染)、摩擦(湿)で改善が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明の一実施例のプラズマ処理を示す概略断面図である。
【図2】図2は第2段目のプラズマ処理の排出付近の拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1,19 布帛
2,6,9,14,15−18 ロール
3,11 陰極ドラム
4a,4b,4c,12a,12b,12c 陽極バー
5a,5b,5c,13a,13b,13c 陽極バーのハウジング
10 第1段目プラズマ処理装置
20 第2段目プラズマ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ処理までのいずれかの工程で染色され、
単位面積当たりの電力量:400W・分/m2以上、かつ常温・常圧であり、大気開放型プラズマ装置によりプラズマ処理された布帛であって、
前記布帛は、前記プラズマ処理前より濡れ張力が10mN/m以上高くかつ1週間以上持続する親水性を有することを特徴とする染色布帛。
【請求項2】
前記布帛は、導電性繊維を含む請求項1に記載の染色布帛。
【請求項3】
前記布帛は、天然繊維、化合成繊維又はこれらの混合物である請求項1又は2に記載の染色布帛。
【請求項4】
前記布帛は前記プラズマ処理前に染色されており、かつプラズマ処理後に反応性シリコーン樹脂、反応性フッ素樹脂加工及び反応性ウレタン樹脂加工から選ばれる少なくとも一つの樹脂加工されている請求項1〜3のいずれかに記載の染色布帛。
【請求項5】
前記布帛の親水性が、濡れ張力57mN/m以上である請求項1〜3のいずれかに記載の染色布帛。
【請求項6】
予め染色されている布帛を、単位面積当たりの電力量:400W・分/m2以上、かつ常温・常圧であり、陰極ドラムと、前記陰極ドラムの表面であって布帛の走行方向と直交する方向に配置された複数のセラミックでカバーされた陽極バーを含み、前記陽極バーから前記陰極ドラムに向かってコロナ放電することにより、プラズマを発生させる大気開放型プラズマ装置を使用して表面処理することにより、前記プラズマ処理前より濡れ張力を10mN/m以上高くかつ1週間以上持続する親水性を付与した後、樹脂加工し、深色加工布帛を得ることを特徴とする染色布帛の製造方法。
【請求項7】
前記布帛は、導電性繊維を含む請求項6に記載の染色布帛の製造方法。
【請求項8】
前記布帛は、天然繊維、化合成繊維又はこれらの混合物である請求項6又は7に記載の染色布帛の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂加工が、反応性シリコーン樹脂、反応性フッ素樹脂加工及び反応性ウレタン樹脂加工から選ばれる少なくとも一つの加工である請求項6に記載の深色布帛の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−291537(P2007−291537A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117844(P2006−117844)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(390018153)日本毛織株式会社 (8)
【Fターム(参考)】