説明

柔軟性が変化する医療用チューブ

【課題】ガイドワイヤーの複雑な形状に応じて先端部の柔軟性が順次滑らかに変化し、耐キンク性やガイドワイヤー追随性が向上し、カテーテルの操作性やその製作が容易である医療用チューブの提供。
【解決手段】本発明の医療用チューブは、内層と外層の間にスプリング状4又は編組状5の補強体6を有する医療用チューブにおいて、前記補強体6が金属ワイヤー3からなり、かつチューブの手元部より先端側へ向かって金属ワイヤー3の断面積が小さくなる。また金属ワイヤーの断面積は、チューブの手元部から先端側に向かって多段階で若しくは連続して小となっており、補強体の断面形状は、円形状又は多角形状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血管造影カテーテル、各種ドレナージチューブ、気管支チューブ、排尿チューブ等の補強体を有する医療用チューブに関し、更に詳しくはこれら医療用チューブの先端部の柔軟性が順次滑らかに変化し、製作が容易な医療用チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、補強体を有する医療用チューブ、特に血管造影カテーテル等のカテーテルは血管造影に際し、ガイドワイヤーに沿って血管中を進行し、カテーテル先端を回転させたり、押し込んだりして、カテーテルが目的部位に到達した後、ガイドワイヤーを抜き、該カテーテルを介して血管造影による診断や治療が行われている。そのためこのようなカテーテル等の医療用チューブにおいては、その先端部に造影剤や薬液等(以下、造影剤等という。)を噴出する通路(貫通孔)を設けると共にカテーテルのトルク伝達性・押込み力・耐キンク性等に優れた材質のカテーテルが用いられている。このようなカテーテル等の医療用チューブは、開示されており、具体的には、金属線を編組したブレードチューブの内面に内層コートを設け、外面に合成樹脂からなる外層材を設けた医療用チューブ10が開示され、この外層材は、柔軟部4において、高硬度の合成樹脂製の円筒状の硬いチューブ片12と低硬度の合成樹脂製の柔らかいチューブ片13とを交互に連結した構成を有する。そして硬いチューブ片12は、先端側に向けてその長さがしだいに短くなっており、他方、柔らかいチューブ片13は、先端側に向かってしだいに長さが長くなっている。その結果、外層材は、その部位により硬度が異なっている。(例えば、特許文献1参照)。
また剛性付与体を有するカテーテルとして、キンクを防止したものが開示され、具体的には、ルーメン8と、ルーメンと連通する先端開口6と、軸方向に延び、線状体11により形成された剛性付与体5を備える本体部2と、ルーメンと連通する側孔4とを有するカテーテルチューブ10を備えている。そして、側孔4の少なくとも1つは、本体部2の末端部に位置し、かつ側孔4の開口内部には剛性付与体5を構成する線状体11が切断されることなく連続している(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
更に、医療用チューブの操作性の向上に関わる技術で、可僥性筒体からなるカテーテル本体10と、カテーテル本体10の基端に設けられた把手11とを有し、カテーテル本体10の先端にはソフトチップ12が取り付けられている。カテーテル本体10は、樹脂製内筒2、該内筒2の外周面を包囲する金属細線製編組3、および該編組3の外周面を包囲する樹脂製外筒4からなる。編組3は、一群の左回りの一方の螺巻線5と、一群の右回りの他方の螺巻線6とを編んで構成されている。一方の螺巻線5は、強細線51からなり、他方の螺巻線6は、弱細線61からなる医療用チューブが開示されている。
【特許文献1】特開2001-137347(段落0016、段落0018、図1、図5)
【特許文献2】特開平11-276592(段落0003、段落0012、図2)
【特許文献3】特開平8-317986(段落0001、段落0012〜0014、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のような特許文献1に開示されている医療用チューブは、外層材が、柔軟部4において、高硬度の合成樹脂製の円筒状の硬いチューブ片12と低硬度の合成樹脂製の柔らかいチューブ片13とを交互に連結した構成を有すると共に、硬いチューブ片12は、先端側に向けてその長さがしだいに短くなり、他方、柔らかいチューブ片13は、先端側に向かってしだいに長さが長くなるように構成するために、製造工程が煩雑とな
るばかりでなく、製造コストが嵩み問題となっていた。
また特許文献2に開示されている医療用チューブは、キンクを防止したものであり、線状体11により形成された剛性付与体5を備える本体部2と、ルーメンと連通する側孔4とを有するカテーテルチューブ10とからなり、その先端部には、剛性付与体5を備えてなく、したがってルーメンと連通する側孔4の内部にも剛性付与体5を設けることによってチューブが潰れる(キンク性)のを防止されるとしても、側孔を設けることで製造工程が煩雑となるばかりでなく、製造コストが嵩み問題となっていた。
特許文献3は、カテーテル本体10の樹脂製内筒2の外周面を包囲する金属細線製編組3、および該編組3の外周面を包囲する樹脂製外筒4からなり、金属細線製編組3は、強細線51と弱細線61とからなっているものが開示されているが、これらの金属細線の断面積は、一定であり、手元部から先端側に向かって断面積が小さくなっているものではないので、先端部において硬度を順次変化させるものでない。
そこで、本発明者は、血管にガイドワイヤーを通して医療用チューブ、例えば、カテーテルを目的の箇所へ誘導する際、カテーテルの先端部がほとんど抵抗なくこのガイドワイヤーの形状に沿って導入されるべく種々検討し、カテーテルの先端部の柔軟性が一定ではなく先端に向かって多段階で柔軟性の変化を小さくし、若しくは連続して柔軟性が変化する、即ち柔軟性が滑らかに変化するように構成したところ、得られたカテーテルは、柔軟性が変化する箇所ではその柔軟性は極めて滑らかに変化し、ガイドワイヤーの複雑な形状に応じて滑らかにカテーテルを移行しうるばかりでなく、カテーテルの径による柔軟性の変化を金属ワイヤーの形状によって任意に調節することができるので、カテーテルの操作性即ちガイドワイヤーに対する追随性の向上に極めて優れていることを見出した。
【0005】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ガイドワイヤーの複雑な形状に応じて滑らかにカテーテルを移行することができ、先端部の柔軟性が順次滑らかに変化し、先端部(柔軟性の変化する部位)での耐キンク性やガイドワイヤー追随性が向上するばかりでなく、カテーテルの径による柔軟性の変化を金属ワイヤーの形状によって任意に調節することができるので、カテーテルの操作性が極めて優れており、その製作が容易である医療用チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は、以下の各発明によってそれぞれ達成される。
(1)内層と外層の間にスプリング状又は編組状の補強体を有する医療用チューブにおいて、前記補強体が金属ワイヤーからなり、かつチューブの手元部より先端側へ向かって金属ワイヤーの断面積が小さくなることを特徴とする医療用チューブ。
(2)金属ワイヤーの断面積は、チューブの手元部から先端側に向かって多段階で若しくは連続して小となっていることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
(3)補強体の断面形状は、円形状又は多角形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用チューブ。
【発明の効果】
【0007】
(1)本願発明の第1項に記載の医療用チューブは、内層と外層の間にスプリング状又は編組状の補強体を有する医療用チューブにおいて、前記補強体が金属ワイヤーからなり、かつチューブの手元部より先端側へ向かって金属ワイヤーの断面積が小さくなることを特徴とするもので、このような金属ワイヤーからなる補強体を先端部に有することによって、複雑な形状のガイドワイヤーにも十分対応することができ、使用時に、ガイドワイヤーの複雑な形状に応じて滑らかにカテーテルを移行することができ、先端部の柔軟性が順次滑らかに変化し、先端部(柔軟性の変化する部位)での耐キンク性やガイドワイヤー追随性が向上し、かつカテーテルの径による柔軟性の変化を金属ワイヤーの形状によって任意に調節することができるので、カテーテルの操作性が極めて優れており、その製作が容易であるという格別の効果を奏するものである。
(2)本願発明の第2項に記載の医療用チューブは、前記第1項において、金属ワイヤーの断面積は、チューブの手元部から先端側に向かって多段階若しくは連続して小となっていることを特徴とし、これにより先端部の柔軟性は大きな変化がなく、若しくは柔軟性が連続して変化するので、極めて滑らかにカテーテルの移行をおこうことができ、いっそうのカテーテルの操作性を向上させる。
(3)本願発明の第3項に記載の医療用チューブは、前記第1項又は第2項において、補強体の断面形状は、円形状又は多角形状であることを特徴とし、これにより柔軟性が連続的に変化するものが容易に得られるという優れた効果を奏するものである。このうち、特に円形状が好ましい。また多角形状でも円形状に近いほど好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について図面を用いて具体的に説明するが、本発明は、以下に説明する具体的事例に限定されるものではない。図1は、本発明のスプリング状補強体を有する医療用チューブを示す側面図であり、側面の外層の一部が省略されている。図2は、編組状補強体を有する医療用チューブを示す側面図であり、側面の外層の一部が省略されている。図3は、金属ワイヤーの線径を示すグラフである。図1において、医療用チューブ(例えば、カテーテル)Aは、内層1と外層2とからなり、これら内層1と外層2との間にスプリング状又は螺旋状4に巻かれた金属ワイヤー3からなる補強体6を有している。内層1は、補強体なし先端部21を形成する柔軟な樹脂で構成され、また外層2もまた補強体なし先端部21を形成する柔軟な樹脂で構成される。ここで、「補強体なし先端部」とは、先端部の内層及び外層の一部に補強体を有していないもので、樹脂のみからなる先端部分をいう。したがって、補強体なし先端部21は内層1と外層2とからなるが、先端部20には、補強体6が露出しないようにして補強体なし先端部21を有しているが、先端部21全体に補強体を有していてもよい。一方、補強体6を構成する金属ワイヤー3は、手元部22では、その線径は太く一定であり、先端部20において、手元部側から先端部側に向かってその直径が漸次細く形成されており、先端側の部分が最も細くなっている。
本発明の医療用チューブでは、このような金属ワイヤー3を内層1の上に設けることによって、医療用チューブAの先端部の剛性をチューブAの材質で剛性を調節するのではなく金属ワイヤーの径の大小によってチューブAの先端部の剛性を硬い部分から順次柔らかい部分へと任意に変化させることができるので、医療用チューブAの使用に際し、ガイドワイヤーの複雑な形状に応じて滑らかにカテーテルを移行することができ、先端部の柔軟性が順次滑らかに変化し、先端部(柔軟性の変化する部位)において耐キンク性やガイドワイヤー追随性が増してカテーテルの操作性が向上する。またこのような医療用チューブAは周知の従来の製造方法で製作することができ、その製作は容易であり、経済的にも優れている。この他、図3に示されるように、金属ワイヤー3としては、先端部20に位置する補強体6は手元部側から先端部側に向かってその直径が漸次細く形成されているもの(I)に代えて直径が段階的に細くなっているもの(II)でもよい。これらのいずれのものを用いるかは、良好な操作性を考慮してチューブの先端部20と手元部22の剛性との関係で選択するのが好ましい。尚、柔軟性が必要な先端部20の長さは50〜300mmであるが、先端部20の補強体6のみでなく、本体部22の補強体の先端側の一部を金属ワイヤー3も手元側から先端側に向かって漸次直径が細くなるようにして柔軟性が変化する中間部を設けてもよく、更に補強体の全部の金属ワイヤー3を手元側から先端側に向かって漸次直径が細くなるようにして手元側から先端側に向かって漸次細くして柔軟性が変化するように医療用チューブを形成してもよい。
本発明で補強体6として用いられる金属ワイヤー3は、別の実施の形態では、図2に示されるように、医療チューブ(例えば、カテーテル)Bは、編組状5の補強体が用いられる。即ち、内層1に、先端部20に位置する補強体は手元部側から先端部側に向かって漸次直径が細くなる金属ワイヤー3が、右回りに巻かれた第1金属ワイヤー3aと左回りに巻かれた第2金属ワイヤー3bを編んで形成されている。このように網目からなる編組状5の補強体6を用いることにより、トルク伝達性は向上し、医療用チューブの先端部20を
体腔の走行に適した方向に向かせることでガイドワイヤーに対する医療用チューブの操作性がいっそう向上する。また、金属ヤイヤー3の線径は、該ヤイヤー3の先端部31、中間部32及び後端部33において、先端部31は、線径小であり、中間部32は線径中であり、後端部33は線径大である。これらは、連続的又は断続的に形成されていてもよく、カテーテルに設けられる位置はチューブの所望の柔軟性を得る位置との関係を考慮して構成するのが好ましい。具体的には、本発明の医療用チューブにおいて、このような補強体6を設ける場所は、図1及び図2に示されるように、手元部22と先端部20の補強体なし先端部21を除いた部分が好ましい。そしてチューブの柔軟性が要求される部分(先端部20)は、例えば、50〜300mmまでの間では手元部側から先端部側に向かって金属ワイヤー3の断面積が小さくなるようにする。尚、先端部20の補強体6のみでなく、本体部22の補強体の先端側の一部を金属ワイヤー3も手元側から先端側に向かって漸次直径が細くなるようにして柔軟性が変化する中間部を設けてもよく、更に補強体の全部の金属ワイヤー3を手元側から先端側に向かって漸次直径が細くなるようにして手元側から先端側に向かって漸次細くして柔軟性が変化するように医療用チューブを形成してもよい。またチューブ径は、使用目的にあったものが用いられ、特に限定されるものではない。
本発明の医療用チューブの材質は、この技術分野において用いられる周知乃至公知のものでよく、好ましくは、内層1及び外層2の材質としては、ポリ塩化ビニール、ポリプロピレン、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなど)、ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、フッ素系樹脂、これらのエラストマータイプの樹脂及び合成ゴムから少なくとも一つ以上の樹脂を選択して使用することができる。内層1と外層2の樹脂は、同じであっても異なっていてもよいが、好ましくは内層1は、外層2よりも柔軟性の樹脂がよい。血液と接触する医療用チューブにおいては、これら内層1と外層2の表面に抗凝血剤(例えば、ヘパリンやウロキナーゼなど)の被覆や電子線照射等の抗凝固性の処理をすることが望ましい。本発明に用いられる補強体6を構成する線材は、外層2よりも硬度の高いプラスチック線も考えられるが、プラスチック線は金属ワイヤーよりも硬度が低いので、適切な剛性を得るにはプラスチックの断面積をより大きくすることが必要である。しかし、医療用チューブは細径化が求められており、断面積をより小さくできる金属ワイヤーが好適である。本発明に用いられる補強体6を構成する金属ワイヤー3は、この技術分野において用いられる周知乃至公知のものでよく、好ましくは、合金細線、形状記憶合金、擬弾性合金、アモルファス合金から選択された少なくとも一種からなるが、合金細線としては、ステンレススチール、一般のチタン合金等が好ましく、形状記憶合金又は擬弾性合金としては、ニチノール(商品名)等が挙げられる。
【0009】
本発明の医療用チューブは、線材として使用される素線(径が同一)を予め素線の断面積を連続的に又は断続的に小径となるように周知の機械研磨又は化学研磨により研磨する。得られた金属ワイヤーを内層表面に周知の方法で巻きつけることによりスプリング状又は編組状に形成する。ついで、この上に外層2を設ける。また別の方法としては、素線を内層1の先端部21を除いた先端部側から手元部側22にスプリング状又は編組状に巻きつけて補強体を有する内層1を得た後、得られた補強体を有するチューブの先端部20を化学研磨液に浸漬して所望の径に腐食した後、この上に外層2を設ける。医療用チューブの製造方法は、一例を示したが、これらの例に限定されるものではない。本発明の補強体を有する医療用チューブは、血管造影カテーテルを例に挙げて説明したが、これに限らず、各種ドレナージチューブ、気管支チューブ、排尿チューブ等の医療用チューブに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の医療用チューブは、補強体の柔軟性(又は剛性)を先端部側から手元部側に向かって変化させたので、使用時における操作性が向上し、この医療器具の分野で好都合に
使用される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明におけるスプリング状補強体を有する医療用チューブを示す側面図である。
【図2】本発明における編組状補強体を有する医療用チューブを示す側面図である。
【図3】本発明における金属ワイヤーの線径を示すグラフである。
【符号の説明】
【0012】
1 内層
2 外層
3 金属ワイヤー
3a 右回り補強体の金属ワイヤー
3b 左回り補強体の金属ワイヤー
4 スプリング状
5 編組状(網目)
6 補強体
20 先端部
21 補強体なし先端部
22 手元部
31 先端部補強体線径小
32 先端部補強体線径中
33 先端部補強体線径大
I 連続的に線径小
II 段階(断続)的に線径小
A、B 医療チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と外層の間にスプリング状又は編組状の補強体を有する医療用チューブにおいて、前記補強体が金属ワイヤーからなり、かつチューブの手元部より先端側へ向かって金属ワイヤーの断面積が小さくなることを特徴とする医療用チューブ。
【請求項2】
金属ワイヤーの断面積は、チューブの手元部から先端側に向かって多段階で若しくは連続して小となっていることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
【請求項3】
補強体の断面形状は、円形状又は多角形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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