説明

柱梁接合部の補強構造

【課題】柱1の側面2に、腰壁20を形成した梁10が接合されるコンクリート構造物の柱梁接合部で、高い剛性と耐力及び高い変形性能を併せ持ち、かつ施工容易な構造とする。
【解決手段】腰壁20は、腰壁主筋24が横方向に配筋され、腰壁主筋24の一端側25と梁10の下端主筋15Bとを囲うように環状の先端補強筋31を配筋する。柱1の側面2と、先端補強筋31との間に、環状の全体あばら筋33及び腰壁あばら筋35を配筋する。全体あばら筋33は、最上段の腰壁主筋24Aと、その下方の梁10の最下段の下端主筋15Bとを囲うように配筋する。腰壁あばら筋35は、最上段の腰壁主筋24Aと、その下方の梁10の最下段の上端主筋14Bとを囲うように配筋する。腰壁主筋24の一端25に定着板27を設け、同様に腰壁あばら筋35を配筋する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に鉄筋コンクリート構造物で、腰壁等が形成される柱と梁の接合部を補強する柱梁接合部の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柱梁接合部に、柱1の側面2から所定長さだけ、腰壁20を形成する場合があった。例えば、所定高さに窓枠等の建具を配置するために、窓枠の下枠の下方を腰壁としていた。
【0003】
この場合には、腰壁20内には一般の壁と同様に、縦筋51及び横筋52を格子状に配置して、各縦筋51、52の梁側の端部を梁10内に定着させ、各横筋52の柱側の端部を柱1内に定着させていた(図9。非特許文献1、第一の従来例)。
【0004】
また、この場合、腰壁20の厚さ内に縦筋51及び横筋52を2組配置するいわゆるダブル配筋をする場合もあった。
【0005】
また、腰壁20の機能は前述のように窓枠などを載せるための部材と考えて、腰壁20は一般に、非構造部として設計することが多かった。従って、力学的に、柱梁の接合部から切り離して設計し、例えば、柱1の側面2と腰壁20との間に構造スリット53を形成していた(図10。非特許文献2、第二の従来例)。
【0006】
また、柱梁接合部の曲げ耐力を強化するために、直角三角形の斜辺の位置に斜め主筋54を配置して、斜め主筋54一端部54aを柱1内に、他端部54bを梁10内に定着させていた。この場合、斜め主筋54の部分でコンクリートを増し打ちして、長方形状の腰壁20形成していた(図11。非特許文献3、第三の従来例)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本建築学会、「鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説」、2001年9月、pp.198-203
【非特許文献2】土交通省住宅局建築指導課ほか、「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書」、2007年8月、p.661
【非特許文献3】日本建築学会、「鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説」、2001年9月、pp.32-33、pp.190-193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記第一の従来例の場合、地震時の変更性能が高く、腰壁20の損傷(ひび割れの本数やひび割れ幅)が大きくなり、柱梁接合部の有効な補強にはならなかった。また、第二の従来例の場合には、もともと補強するものでは無かった。また、第三の従来例はある程度の補強効果は認められるが、鉄筋の加工や配筋が煩雑で、内部空間の意匠上の制約も生じていた。更に、腰壁20の上面21を整えるために事後的にコンクリートを増し打ちする必要があり、総じて施工が面倒となる問題があった。
【0009】
したがって、従来の補強構造に荷重を負荷して、変形−荷重のグラフで表すと、第一の従来例(B1)、第二の従来例(B2)、第三の従来例(B3)となる(図8)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこでこの発明では、腰壁に腰壁主筋を配筋するとともに、腰壁主筋を変形したので、あるいは腰壁主筋と梁主筋とを囲うせん断補強効果のある鉄筋を配筋したので、前記問題点を解決した。
【0011】
すなわち、 第1の発明は、コンクリート構造物の柱梁の接合部で、梁の上面又は下面に、腰壁状構造物を形成し、以下のように構成したことを特徴とする柱梁接合部の補強配筋構造である。
(1) 前記腰壁状構造物は、前記柱側面より前記梁の長さ方向の「長さ端面」までの長さをLとし、前記梁の上面又は下面から前記柱の高さ方向の「高さ端面」までの高さをHとし、かつ前記梁の巾Dより狭い巾Dで形成される。
(2) 前記梁は、梁上端主筋と梁下端主筋とを囲むように、梁あばら筋が配筋されている。
(3) 前記腰壁状構造物に、前記梁に沿った腰壁主筋を配筋する。
(4) 前記腰壁主筋の「長さ端面」の近傍に、前記腰壁主筋及び前記梁下端筋を囲うように「先端補強筋」を配筋する。
(5) (4)に加えて、または、(4)に代えて、前記腰壁の「長さ端面」の近傍で、前記腰壁
主筋を下方に向けて折り曲げて前記梁下端主筋の近傍に定着する「先端補強筋」部を形成する。
【0012】
また、第2の発明は、柱梁の接合部で、梁の上面又は下面に、腰壁状構造物を形成し、以下のように構成したことを特徴とする柱梁接合部の補強構造である。
(1) 前記腰壁状構造物は、前記柱側面より前記梁の長さ方向の「長さ端面」までの長さをLとし、前記梁の上面又は下面から前記柱の高さ方向の「高さ端面」までの高さをHとし、かつ前記梁の巾Dより狭い巾Dで形成される。
(2) 前記梁は、梁上端主筋と梁下端主筋とを囲むように、梁あばら筋が配筋されている。
(3) 前記腰壁状構造物に、前記梁に沿った腰壁主筋を配筋する。
(4) 前記腰壁主筋と前記梁上端筋の一部を囲う補強鉄筋、または前記腰壁主筋と前記梁下端筋の一部を囲う補強鉄筋、の一方又は両方を複数配筋した。
【0013】
また、第3の発明は、コンクリート構造物の柱梁の接合部で、梁の上面又は下面に、腰壁状構造物を形成し、以下のように構成したことを特徴とする柱梁接合部の補強構造である。
(1) 前記腰壁状構造物は、前記柱側面より前記梁の長さ方向の「長さ端面」までの長さをLとし、前記梁の上面又は下面から前記柱の高さ方向の「高さ端面」までの高さをHとし、かつ前記梁の巾Dより狭い巾Dで形成される。
(2) 前記梁は、梁上端主筋と梁下端主筋とを囲むように、梁あばら筋が配筋されている。
(3) 前記腰壁状構造物に、前記梁に沿った腰壁主筋を配筋する。
(4) 前記腰壁主筋の「長さ端面」の近傍に、前記腰壁主筋及び前記梁下端筋を囲うように「先端補強筋」を配筋する。
(5) 前記梁の長さ方向で、前記「先端補強筋」と前記柱の側面との間に、前記腰壁主筋と前記梁上端筋を囲う「腰壁あばら筋」と、前記腰壁主筋と前記梁下端筋を囲う「全体あばら筋」とを配筋する。
【0014】
また、前記第3の発明において、「腰壁あばら筋」と、「全体あばら筋」とを、交互に等間隔で配筋した柱梁接合部の補強配筋構造である。
【0015】
さらに、前記第1〜第3の発明において、腰壁主筋を腰壁状構造物の「高さ端面」の近傍にのみ配筋した柱梁接合部の補強構造である。
【0016】
前記における「腰壁状構造物」は、梁の上面側に形成される腰壁、梁の下面側に形成される垂れ壁の何れも含む構造物である。また、前記において「梁に沿った腰壁主筋」とは、腰壁主筋の向きを指し、梁の長さ方向(梁主筋の軸方向)と腰壁主筋の軸方向とが略一致していることを意味している。
【発明の効果】
【0017】
コンクリート構造物の柱梁接合部で、梁に腰状構造物を形成して、腰壁状構造物に腰壁主筋及び先端補強筋等を配筋したので柱際の変形を拘束し、腰壁の先端面位置近傍での変形を可能にするため、梁のスパンが構造計画上、短く評価することができ、高い剛性と耐力及び高い変形性能を発揮できる効果がある。
【0018】
また、腰状構造物を、接合部の通常の施工の流れで、施工ができるので、簡易な施工で腰壁等を使用して、柱梁接合部を有効に補強できる。したがって、腰壁を形成することで、必要な性能を維持して梁の断面積を小さく設定することもできるので、設備施工の際に梁の貫通作業を軽減して、また建物の内部空間を有効利用できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1はこの発明の実施例の正面図である。
【図2】図2(a)は図1のA−A線における断面図、(b)はB−B線における断面図である。
【図3】図3は、せん断設計時の有効断面を表す図で、(a)は上端引張時、(b)は上端圧縮時を夫々表す。
【図4】図4(a)は、せん断設計時の先端補強筋の量を説明する概念図、(b)は先端補強筋の機能を説明する概念図である。
【図5】図5(a)〜(c)はこの発明の他の実施態様の縦断面図である。
【図6】図6はこの発明の他の実施態様の断面図である。
【図7】図7(a)(b)はこの発明の他の実施例で、図2(a)(b)に対応する。
【図8】図8はこの発明の実施例と従来例とを比較した、変形−荷重のグラフである。
【図9】図9は第一従来例で、(a)(b)は概略した縦断面図である。
【図10】図10は第二従来例で、(a)(b)は概略した縦断面図である。
【図11】図11は第三従来例で、(a)(b)は概略した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.柱梁接合部の補強構造
【0021】
(1) 柱1の側面2に梁10が接合された柱梁接合部で、梁10の上端主筋14は、最上段14A、14Aに6本、その下側に最下段14B、14Bの4本が配筋されたいわゆるダブル配筋である。また、下端主筋15は、最下段14B、14Bに6本、その上側に最上段14A、14Aに4本が配筋されたいわゆるダブル配筋である。
【0022】
また、構築予定の梁10は、幅D、高さ(せい)H で形成する。また、構築予定の腰壁20は、
幅D(<D)、
高さ(梁10の上面11から腰壁20の上面21までの距離)H
で形成する(図1、図2(a))。
【0023】
(2) 通常の施工と同様に、柱主筋(図示していない)、梁主筋14、15を配筋するとともに、柱帯筋(図示していない)、梁あばら筋16、16を配筋する。
【0024】
構築予定の腰壁20の上面21の近傍(上面21よりかぶり厚程度の距離を空けた下方)に、腰壁主筋24、24を、横方向(梁主筋14、15と平行)に配筋する。腰壁主筋24は、一端25側に定着板27を取り付けて、一端25は、定着27板を取り付けた状態で、構築予定の腰壁20の先端面(長さ端面)22の内側に必要なかぶり厚を確保した状態で配筋する。また、腰壁主筋24、24の他端26側は柱1内(柱帯筋の内側)に定着させてある(図5(c)参照)。
【0025】
最上段の腰壁主筋24A、24A(3本)と、その略鉛直で下方に位置する最下段の梁10の下端主筋15B、15B(3本)との間に、先端補強筋31、31を配筋する(図1)。先端補強筋31は、腰壁20と梁10が一体となって、内部に発生するせん断力に対しトラス機構(後述する)で抵抗する構造を想定し、合計6巻き分を形成する(複数巻きが望ましい)。従って、腰壁主筋24、24の全体と、その腰壁主筋24、24の略鉛直で下方に位置する「梁10の上端主筋14及び下端主筋15」とが、先端補強筋31、31で囲われる。従って、先端補強筋31は、腰壁主筋24Aの下方に位置する梁10の主筋14A、14B、15A、15Bであっても、腰壁20(幅D)から外れる部分の鉄筋を囲わない。
【0026】
(3) また、腰壁主筋24、24の長さ方向で、構築予定の柱1の側面2と、先端補強筋31、31との間に、交互かつ等間隔に、全体あばら筋33及び腰壁あばら筋35を配
筋する(図1)。
【0027】
全体あばら筋33は、最上段の腰壁主筋(3本)24A、24Aと、その下方に位置する最下段の梁10の下端主筋15B、15B(3本)との間に、幅D、せい「H+H」の梁を想定したコンクリートに対し、梁10のせん断補強筋の仕様に準じた構造で配筋する。従って、腰壁主筋24、24と、その腰壁主筋24の略鉛直で下方に位置する「梁の上端主筋14及び梁の下端主筋15」とが、全体あばら筋33で囲われる(図2(a))。従って、全体あばら筋33は、腰壁主筋24Aの下方に位置する梁10の主筋14A、14B、15A、15Bであっても、腰壁20(幅D)から外れる部分の鉄筋を囲わない。
【0028】
また、腰壁あばら筋35は、最上段の腰壁主筋24A、24A(3本)と、その略鉛直で下方に位置する最下段の梁の上端主筋14B(2本)との間に、幅D、せい「H+H(梁10の上面11から上端主筋14Bまでの長さ。図1、図2(b))」の梁を想定したコンクリートに対し、梁10のせん断補強筋の仕様に準じた構造で配筋する。従って、腰壁主筋24と、その腰壁主筋24の略鉛直で下方に位置する「梁の上端主筋14(14A、14B)」が、腰壁あばら筋35で囲われる(図2(b))。従って、腰壁あばら筋35は、腰壁主筋24Aの下方に位置する梁10の上端主筋14A、14Bであっても、腰壁20(幅D)から外れる部分の鉄筋を囲わない。
【0029】
また、腰壁主筋24、24で、定着板27を設けた側(先端面22側)にも腰壁あばら筋35を形成する(図1)。この場合、例えば、定着板27を貫通した腰壁主筋24の一端25付近に腰壁あばら筋35を配筋する(図1)。
【0030】
(4) 以上のようにして、配筋構造とする。配筋構造であるので、記載順は施工順とは必ずしも一致していない。
【0031】
また、前記において、腰壁主筋24は梁主筋14、15と同程度の性能の鉄筋(引張強度、径など)を使用し、全体あばら筋33、腰壁あばら筋35は、梁のあばら筋16と同程度の性能の鉄筋(引張強度、径など)を使用する。また、先端補強筋31は、本数によるが、一般に、性能では、
全体あばら筋33(腰壁あばら筋35)<先端補強筋31<腰壁主筋24
程度を使用する。ただし、鉄筋の選択は一例であり、求める性能を実現できるように、適宜選択して使用する。
【0032】
(5) 上記配筋と前後して、または同時に、従来と同様な構造の必要な型枠を構築して、型枠内にコンクリートを打設して、コンクリートが固化発現後に、この発明の補強構造40を構築する(図1、図2)。
【0033】
なお、前記において、梁10の上端主筋14、下端主筋15が、夫々上下2段(いわゆるダブル配筋)について、説明したが3段以上の場合にも同様に適用でき、また、梁10の上端筋14、下端筋15が上下1段(いわゆるシングル配筋)の場合にも適用できる(図示していない)。
【0034】
2.柱梁接合部の補強構造40の実際の設計及び評価
【0035】
(1) このように形成した補強構造40では、腰壁20と梁10とが一体的に挙動して、腰壁20の上面21に引張荷重が作用する際には、腰壁20を含む腰壁20の下に連続する梁10を含めて、壁梁としてせん断設計し、全体あばら筋量を決定する(図3(a))。
【0036】
また、腰壁20の上面21に圧縮力が作用した場合には、腰壁20とその下方の梁10の上端主筋14、14によって囲まれる部分を有効断面としたせん断設計をする(図3(b))。
【0037】
なお実験では、全体あばら筋33を、せん断補強筋比0.42%で、間隔を130mmとした。また、腰壁あばら筋35を、せん断補強筋比0.68%で、全体あばら筋33も考慮した間隔を65mmとした。
【0038】
すなわち、上端引張時には、全体あばら筋33で囲まれた範囲のコンクリートがせん断抵抗するものとして全体あばら筋必要量を計算し(図3(a))、上端圧縮時には、腰壁あばら筋35で囲まれた範囲のコンクリートがせん断抵抗するものとして「腰壁あばら筋及び全体あばら筋」必要量を計算する(図)3(b))。
【0039】
(2) 先端補強筋31、31は、腰壁20の高さHと梁せいHとの和L(H+H)、と想定する塑性領域の長さLによって決まる割合と、腰壁主筋24の荷重(腰壁主筋24の合計)との関係で決定する。即ち、先端補強筋31の引張力Tと腰壁主筋24の荷重Tとした場合、
:T=L:L
となる(図4(a))。
【0040】
(3) 上記の構造では、腰壁主筋24、24を腰壁20の上端部(腰壁20の上面21付近)にのみ配筋して、腰壁20の中立軸より離れた位置に鉄筋を集約することにより、腰壁20の曲げ耐力を向上させることができる(図1〜図6)。
また、少なくとも腰壁20の上端部に腰壁主筋24、24を配筋して、腰壁20の上端部に加えて、腰壁20の下端部や中間部への腰壁主筋24、24を配筋することもできる。例えば、求める性能によっては、腰壁20の高さ方向で、略均等に分散して腰壁主筋24、24を配筋することもできる(図7)。
【0041】
また、腰壁あばら筋35は、梁10(腰壁20)に上端圧縮の曲げ応力が作用した時に、主に、梁10のせん断力を柱1に伝達する。また、腰壁あばら筋35は、腰壁20のコンクリートを拘束することによって、コンクリートの圧縮靱性を向上して、梁10の変形性能を向上させる。
【0042】
また、全体あばら筋33は、梁10(腰壁20)に上端引張の曲げ応力が作用した時に、主に、梁10のせん断力を柱1に伝達する。また、全体あばら筋33は、腰壁20と梁10とが構造的に分離して、いわゆる目別れ43が発生することを防ぎ、柱1と梁10と腰壁20とからなる補強構造40の一体性を保つことができる(図4(b))。
【0043】
また、先端補強筋31は、上記全体あばら筋33の機能に加え、腰壁20の先端面22に生じるひび割れ42、42のひび割れ幅の拡張を抑制する(図4(b))。また、上端引張によって腰壁主筋24が降伏し、腰壁20の塑性領域(柱1の腰壁20側の側面2から腰壁20の先端面22側に形成される前記長さLの部分)が進展(腰壁主筋24が付着劣化)した際に、先端補強筋31と腰壁主筋24の定着とコンクリートの圧縮との三者でトラス機構を形成することにより、補強構造(柱梁接合部)40の靱性を確保することができる(図4(a))。
【0044】
腰壁主筋24を確実に降伏させるためには、腰壁主筋24の荷重Tが降伏荷重T1yに達したときに、先端補強筋31は許容引張力T以上の能力を有している必要がある。また、T1yとTによって生じる反力は、コンクリートの圧縮力C1によって抵抗する。T1y:T=L:Lの関係にある場合、コンクリートの圧縮力C1は、腰壁主筋24と先端補強筋31との交点から柱際と梁10の下面の交点に向かう右下方の角度で形成される(図4(a))。
【0045】
3.他の実施態様
【0046】
(1) 前記実施態様では、柱1の片側の側面2側で説明したが(図5(c))、柱1の両側面2、2に梁10、10が接合する場合(中柱)にも適用できる(図5(a)(b))。この場合、片側の側面2の梁10にのみ腰壁20を形成する場合には、腰壁主筋24の柱1側の他端26は、柱1内で他端26に定着板27を設けて定着する(図5(a))。梁10及び柱1の配筋は従来と同様である。
また、柱1の両面に梁10、10が接合する場合(中柱)で、両側の梁10に腰壁20を形成する場合には、腰壁主筋24は、柱1を貫通して腰壁主筋24の他端26は、一端25と同様に、腰壁20の先端面(右端面。長さ端面)22の内側に必要なかぶり厚を確保した状態で位置し、定着板27を設けて定着する(図5(b))。
【0047】
(2) また、前記実施例では、腰壁主筋24を水平に形成して、これに直交するように先端補強筋31を配筋したが、腰壁主筋24と先端補強筋31とを一体に形成することもできる。すなわち、腰壁主筋24、24の腰壁20の先端面22側を下方に折り曲げて先端補強筋部31を形成し、先端補強筋部31を配筋すべき位置に沿って、最上段の梁10下端主筋15、15まで先端を至らせて、定着することもできる(図6)。この場合、腰壁主筋24の下端(先端補強筋部31の下端)は、梁10の最上段の下端主筋15Aより下方に位置させる。
【0048】
(3) また、前記実施例において、梁10の上面21に上階の梁10の下面に高さが至らない腰壁20について説明したが、梁10の下面21aに下階の梁10の上面に高さが至らない垂れ壁に同様に適用した補強構造とすることもできる(図示していない)。また、梁20の上面21に腰壁20、下面21aに垂れ壁が形成された補強構造とすることもできる(図示していない)。
【符号の説明】
【0049】
1 柱
2 柱の側面
10 梁
11 梁の上面
12 梁の下面
14 梁の上端主筋
14A 梁の上端主筋(最上段)
14B 梁の上端主筋(最下段)
15 梁の下端主筋
15A 梁の下端主筋(最上段)
15B 梁の下端主筋(最下段)
16 梁のあばら筋
20 腰壁
21 腰壁の上面
22 腰壁の先端面
24 腰壁主筋
24A 腰壁主筋(最上段)
25 腰壁主筋の一端
26 腰壁主筋の他端
27 定着板
31 先端補強筋(先端補強筋部)
33 全体あばら筋
35 腰壁あばら筋
51 縦筋(従来例)
52 横筋(従来例)
53 構造スリット(従来例)
54 斜め主筋(従来例)
54a、54b 斜め主筋の端部(従来例)
55 補強筋(従来例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の柱梁の接合部で、梁の上面又は下面に、腰壁状構造物を形成し、以下のように構成したことを特徴とする柱梁接合部の補強配筋構造。
(1) 前記腰壁状構造物は、前記柱側面より前記梁の長さ方向の「長さ端面」までの長さをLとし、前記梁の上面又は下面から前記柱の高さ方向の「高さ端面」までの高さをHとし、かつ前記梁の巾Dより狭い巾Dで形成される。
(2) 前記梁は、梁上端主筋と梁下端主筋とを囲むように、梁あばら筋が配筋されている。
(3) 前記腰壁状構造物に、前記梁に沿った腰壁主筋を配筋する。
(4) 前記腰壁主筋の「長さ端面」の近傍に、前記腰壁主筋及び前記梁下端筋を囲うように「先端補強筋」を配筋する。
(5) (4)に加えて、または、(4)に代えて、前記腰壁の「長さ端面」の近傍で、前記腰壁主筋を下方に向けて折り曲げて前記梁下端主筋の近傍に定着する「先端補強筋」部を形成する。
【請求項2】
柱梁の接合部で、梁の上面又は下面に、腰壁状構造物を形成し、以下のように構成したことを特徴とする柱梁接合部の補強構造。
(1) 前記腰壁状構造物は、前記柱側面より前記梁の長さ方向の「長さ端面」までの長さをLとし、前記梁の上面又は下面から前記柱の高さ方向の「高さ端面」までの高さをHとし、かつ前記梁の巾Dより狭い巾Dで形成される。
(2) 前記梁は、梁上端主筋と梁下端主筋とを囲むように、梁あばら筋が配筋されている。
(3) 前記腰壁状構造物に、前記梁に沿った腰壁主筋を配筋する。
(4) 前記腰壁主筋と前記梁上端筋の一部を囲う補強鉄筋、または前記腰壁主筋と前記梁下端筋の一部を囲う補強鉄筋、の一方又は両方を複数配筋した。
【請求項3】
コンクリート構造物の柱梁の接合部で、梁の上面又は下面に、腰壁状構造物を形成し、以下のように構成したことを特徴とする柱梁接合部の補強構造。
(1) 前記腰壁状構造物は、前記柱側面より前記梁の長さ方向の「長さ端面」までの長さをLとし、前記梁の上面又は下面から前記柱の高さ方向の「高さ端面」までの高さをHとし、かつ前記梁の巾Dより狭い巾Dで形成される。
(2) 前記梁は、梁上端主筋と梁下端主筋とを囲むように、梁あばら筋が配筋されている。
(3) 前記腰壁状構造物に、前記梁に沿った腰壁主筋を配筋する。
(4) 前記腰壁主筋の「長さ端面」の近傍に、前記腰壁主筋及び前記梁下端筋を囲うように「先端補強筋」を配筋する。
(5) 前記梁の長さ方向で、前記「先端補強筋」と前記柱の側面との間に、前記腰壁主筋と前記梁上端筋を囲う「腰壁あばら筋」と、前記腰壁主筋と前記梁下端筋を囲う「全体あばら筋」とを配筋する。
【請求項4】
「腰壁あばら筋」と、「全体あばら筋」とを、交互に等間隔で配筋した請求項3記載の柱梁接合部の補強配筋構造。
【請求項5】
腰壁主筋を腰壁状構造物の「高さ端面」の近傍にのみ配筋した請求項1、2、3のいずれか1項に記載の柱梁接合部の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−215063(P2012−215063A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70427(P2012−70427)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)