説明

柱脚固定構造

【課題】工期の短縮、及びコストの軽減が図られ、大地震時の建物の倒壊を防ぐことのできる高い安全性の実現が可能な柱脚固定構造を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリートからなる基礎梁と、基礎梁と一体に形成され前記基礎梁から垂直上方の所望の高さに突出して形成された鉄筋コンクリート柱と、下端部にベースプレートが溶接された鉄骨柱と、鉄骨コンクリート柱上部にベースプレートを緊結するアンカーボルトとから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨建築物における柱脚に関し、特に柱脚下部と基礎との固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨建築物のうち、事務所ビルなどに用いられる鉄骨ラーメン架構では、上部構造の柱及び梁が鉄骨部材、基礎梁が鉄筋コンクリート(RC:Reinforced Concrete)部材で構成されており、最下層の柱脚には、露出柱脚、根巻き柱脚、埋め込み柱脚などが用いられている(特許文献1)。柱脚は、上部の鉄骨部材で構成される柱と下部のRC部材で構成される基礎梁に応力を伝達する部位であるが、応力が十分に伝達されないと1階で大きな層間変形角が生じてしまう。柱脚は、異種構造の接合部であるため、異種構造間の応力の伝達について検討する必要がある。
【0003】
図17Aに従来の露出型の柱脚固定構造の概略平面構成を示し、図17Bに、図17AのA−A’線上に沿う概略断面構成を示す。図17A,Bに示すように、露出型の柱脚固定構造20は、鉄筋コンクリートからなる基礎梁23上部に、鉄骨柱24の下端部に溶接されたベースプレート29がアンカーボルト25によって緊結された構成とされている。基礎梁23は、補強用に配筋された複数本の鉄筋22と、その鉄筋22を埋め込んで打設されたコンクリート21で構成されている。ベースプレート29は、基礎梁23上部にモルタル部材28を介して配置されており、ベースプレート29及びモルタル部材28には、図示しないがアンカーボルト25を挿通する挿通孔が形成されている。アンカーボルト25は、下端部が基礎梁23に埋め込まれ、基礎梁23に埋め込まれたアングル材26にナット27で緊締されている。また、アンカーボルト25の上端部はモルタル部材28及びベースプレート29に形成された挿通孔を挿通して、ベースプレート29の上部に露出され、座金を介してダブルナット30により緊締されている。そして、このダブルナット30によって緊締されることにより、鉄骨柱24が溶接されているベースプレート29と基礎梁23が緊結される。
【0004】
このような露出型の柱脚固定構造20では、柱脚の回転剛性が小さいことから、最下層の層間変形角を抑えるために最下層の柱の断面を大きくするか、柱脚を金物等で基礎梁23に緊結する必要があり、後者では、接合部の施工が複雑になる。
【0005】
次に、図18Aに、従来の埋め込み型の柱脚固定構造の概略平面構成を示し、図18Bに、図18AのA−A’線上に沿う概略断面構成を示す。図18A,Bに示すように、埋め込み型の柱脚固定構造40では、鉄骨柱44が溶接されたベースプレート46は、上述同様、鉄筋42及びコンクリート41で構成された鉄筋コンクリートからなる基礎梁43の内部にてアンカーボルト47で固定されている。図18A,Bに示した柱脚固定構造40では、下端部が曲げ加工されたアンカーボルト47が用いられている。このような埋め込み型の柱脚固定構造40では、鉄骨柱44の周囲が鉄筋コンクリートで固められるため、柱脚がより強固に固定されるため、鉄骨柱44の水平剛性が高まり、地震時の水平変位が小さく収まる。しかしながら、図18A,Bに示した埋め込み型や、図示しない根巻き型の柱脚固定構造では基礎梁43に鉄骨柱44を埋め込む為、埋め込まれた部分の鉄骨柱44と基礎梁43の鉄筋42が干渉しあい、鉄筋42の納まりが悪くなる。このため、基礎梁43の断面を大きくするか、基礎梁43にハンチを設ける必要がある。
【0006】
また、このような埋め込み型の柱脚固定構造40では製造工程も複雑になる。図19A〜図19Cを用いて、従来の埋め込み型の柱脚固定構造40の製造工程を説明する。
【0007】
まず、図19Aに示すように、基礎梁43を構成する複数本の鉄筋42を配筋する。その後、図19Bに示すように、鉄筋42内にアンカーボルト47を配置する。
【0008】
次に、図19Cに示すように、ベースプレート46とアンカーボルト47とをダブルナット45で緊締することで、下端部にベースプレート46が溶接された鉄骨柱44をアンカーボルト47に緊結する。
【0009】
その後、鉄筋42が埋め込まれるようにコンクリート41を打設することで、図18Bに示すような埋め込み型の柱脚固定構造40が完成される。
【0010】
このような柱脚固定構造40の製造方法では、基礎梁43のコンクリート41の打設の前に鉄骨柱44が納入されている必要があるが、鉄骨柱44の発注、製造、製作図作成や、鉄骨柱44の工場加工、製作までには、着工からある程度の時間が必要となる。そのため、図19Bに示す基礎梁43の鉄筋42を配筋した後、鉄骨柱44の納入が遅れると、鉄骨柱44を固定する鉄骨建方までに作業が進まない時期ができてしまい、着工から鉄骨建方までにタイムラグを生じることとなる。このため工期に遅れがでることで人件費などのコストもかかるという問題がある。
【0011】
また、柱脚の固定度が高い架構では、梁降伏型であっても保有水平耐力設計時に柱脚の降伏は許容されている。しかし、架構が想定外の地震外力を受ける時、同程度の幅厚比ランクのH形鋼梁に比べて塑性変形性能が小さい角形鋼管柱で最大耐力に達する場合があり、最下層で層崩壊を引き起こす危険性がある。
【0012】
また、従来の梁降伏型の設計では、地震時に建物が終局状態となるとき、梁のみならず、柱脚で大きな損傷を生じ、最下層で層間変形集中を生じ、建物の倒壊に至るケースがある。
【0013】
最下層の柱脚が最大耐力に達し、部材崩壊することを防ぐためには、最下層の柱中央をピン接合とすることが考えられる(非特許文献1)。このようなピン継手に関する従来の研究では、柱中央にテーパーピンを用いることで耐震強度の向上が図られているが、基礎梁と、鉄骨柱の柱脚の接合部に関しては検討されていない。
【0014】
また、応力を伝達するためには、柱脚を鋼とする必要があるが、従来の露出型の柱脚固定構造では鋳鋼製品の露出柱脚金物を必要とし、コストがかかる。また、根巻き型、及び埋め込み型の柱脚固定構造では、ディテールが複雑となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−371628号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】岡田郁夫,辻聖晃,桑原進,関光雄,山下直紀,山田哲:テーパーピンを用いたピン継手を有する鋼管柱の履歴性状その1〜3,日本建築学会大会学術講演概集,C−1,pp.731−736,1005.9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述の点に鑑み、本発明は、工期の短縮、及びコストの軽減が図られ、大地震時の建物の倒壊を防ぐことのできる高い安全性の実現が可能な柱脚固定構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の柱脚固定構造は、鉄筋コンクリートからなる基礎梁と基礎梁と一体に形成され基礎梁から垂直上方の所望の高さに突出して形成された鉄筋コンクリート柱とを有する。また、下端部にシアプレートが溶接された鉄骨柱と、鉄骨コンクリート柱上部にシアプレートを緊結するアンカーボルトとを有する。
【0019】
本発明の柱脚固定構造では、鉄筋コンクリート柱が構成され、この鉄筋コンクリート柱の長さにより鉄骨コンクリート柱と鉄骨柱とを含む1層目の柱全体に係る曲げモーメントが制御される。これにより、1層目の柱部分での崩壊を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大地震時の建物の倒壊を防ぐ安全性の高い柱脚固定構造を得ることができる。また、工期の短縮、及びコストの軽減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】A,B 本発明の一実施の形態に係る柱脚固定構造の平面構成図及び概略断面構成図である。
【図2】A,B 本発明の一実施の形態に係る柱脚固定構造の施工方法を示す工程図である。
【図3】C,D 本発明の一実施の形態に係る柱脚固定構造の施工方法を示す工程図である。
【図4】A,B 本発明の一実施の形態に係る柱脚固定構造及び、従来例の柱脚固定構造の着工から鉄骨建方までのタイムテーブルである。
【図5】A,B 解析対象である6層の鉄骨ラーメン架構の軸組図、及びその平面構成図である。
【図6】柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4の6層鉄骨ラーメン架構における第1層の梁及び柱のM/M−θ/θ関係(荷重変形関係)図である。
【図7】柱の幅厚比が異なる6層鉄骨ラーメン架構のせん断力と層間変形角の関係を示す図である。
【図8】A,B 最大層間変形角δmax/hが0.02に達したときの層間変形角分布図、及び架構の構成部材が最初に崩壊したときの層間変形角分布図である。
【図9】柱梁耐力比Mpc/Mpbが異なる6層鉄骨ラーメン架構のせん断力と層間変形角の関係図である。
【図10】A,B 最大層間変形角δmax/hが0.02に達したときに層間変形角分布図、及び架構の構成部材が最初に崩壊したときの層間変形角分布図である。
【図11】A〜F 各架構において柱梁耐力比Mpc/Mpbが異なる6層鉄骨ラーメン架構の降伏部位と崩壊部位を示した図である。
【図12】A〜C 本実施形態例の柱脚固定構造、埋め込み型の柱脚固定構造、及び露出型の柱脚固定構造におけるモーメント分布図である。
【図13】地震応答解析で用いた5種類の地震動(EL Centro 1940 NS,Hachinohe 1968 NS,Taft 1952 NS,Kobe 1995 NS,BCJL1)の元波による弾性応力スペクトルである。
【図14】A,B 3層及び6層鉄骨ラーメン架構の総履歴吸収エネルギーEに対する最大となる柱端の履歴吸収エネルギーEc及び最大となる梁端の履歴吸収エネルギーEbの比を示す。
【図15】A,B 3層及び6層鉄骨ラーメン架構における柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4の架構の梁の塑性率μを比較した図である。
【図16】A〜D 梁のバウジンガー効果による割り増し係数αβと架構の層数の関係を示した図である。
【図17】A,B 従来の露出型の柱脚固定構造の平面構成とそのA−A’線上に沿う概略構成図である。
【図18】A,B 従来の埋め込み型の柱脚固定構造の平面構成とそのA−A’線上に沿う概略構成図である。
【図19】A,B 従来の埋め込み型の柱脚固定構造の施工方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態に係る柱脚固定構造の一例を、図1〜図16を参照しながら説明する。本発明の実施形態は以下の順で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
1.一実施の形態に係る柱脚固定構造
1−1 構成
1−2 施工方法
2.静的解析
2−1 静的解析概要
2−2 静的解析結果
3.地震応答解析
3−1 地震応答解析概要
3−2 地震応答解析結果
【0023】
〈1.一実施の形態に係る柱脚固定構造〉
[1−1 構成]
図1Aに、本発明の一実地の形態に係る柱脚固定構造の概略平面構成を示し、図1Bに、図1AのA−A’線上に沿う断面構成を示す。
【0024】
図1A,Bに示すように、本実施形態例の柱脚固定構造1は、鉄筋コンクリートからなる基礎梁4と一体に形成された鉄筋コンクリート柱5上部に、下端部にシアプレート6が溶接された鉄骨柱7がアンカーボルト10により緊結された構造とされている。
【0025】
鉄筋コンクリートで構成される基礎梁4及び鉄筋コンクリート柱5は、補強用に配筋された複数本の鉄筋3と、その鉄筋3を被覆するように打設されたコンクリート2から構成されている。
【0026】
鉄筋コンクリート柱5は、基礎梁4と一体に形成され、基礎梁4から垂直上方に突出して形成されている。また、鉄筋コンクリート柱5は、断面が四角形状とされ、基礎梁4から所定の高さに形成されている。この鉄筋コンクリート柱5の高さh’(基礎梁4の中心から鉄筋コンクリート柱5の先端までの長さ)は、基礎梁4の中心から2層目の梁の中心までの高さをhとすると、h’=0.3h〜0.7hに設定するのが好ましく、また、より好ましくは、0.4h〜0.6hに設定する。すなわち、建物の1階分の高さ(≒h)を例えば3.6mとした場合には、1m〜2m程度に形成されるのが好ましい。
【0027】
鉄骨柱7は、角形鋼管で構成されており、柱脚である鉄骨柱7の下端部には、鋼板からなるシアプレート6が溶接されている。この鉄骨柱7の幅Bは、鉄筋コンクリート柱5の幅をB’よりも、100〜200程度小さく設計されている。また、本実施形態例の鉄骨柱7では、シアプレート6に溶接される側の下端部の各板面に、下端が開口した開口部8が形成されている。すなわち、角形鋼管の4つの面に、開口部8が形成された構成とされている。
【0028】
シアプレート6は、鉄筋コンクリート柱5の上部を被覆するプレート部6aと、プレート部6aから直角方向に延在して形成され、鉄筋コンクリート柱5の側面を所定の位置まで被覆する側面被覆部6bとから構成されている。鉄骨柱7は、シアプレート6のプレート部6aであって、側面被覆部6bが延在する側とは反対側上部に開口部8が形成された鉄骨柱7の下端部が溶接されている。そして、鉄骨柱7が溶接されたシアプレート6は、プレート部6a及び側面被覆部6bが、鉄筋コンクリート柱5の上側面を覆うように鉄筋コンクリート柱5上部に配置されている。この側面被覆部6bの側面を被覆する長さは、鉄筋コンクリート柱5の断面の長さに対して、10%〜20%であることが好ましく、例えば鉄筋コンクリート柱5の断面が700mm程度である場合には、例えば10〜15cm程度に設定する。側面被覆部6bが、鉄筋コンクリート柱5の断面の長さに対して20%の長さよりも長すぎるとシアプレート6にかかる曲げ応力が大きくなり、シアプレート6が耐えられなくなる。また、側面被覆部6bが、鉄筋コンクリート柱5の断面の長さに対して10%の長さよりも短すぎると、鉄骨柱7と鉄筋コンクリート柱5間のせん断応力の伝達がうまくなされないという問題がある。
【0029】
図示しないが、鉄骨柱7に形成された開口部8に相当するシアプレート6には、アンカーボルト10を挿通させる挿通孔が形成されている。アンカーボルト10は、下端部が鉄筋コンクリート柱5に埋め込まれて配置され、上端部がシアプレート6の挿通孔を通ってシアプレート6上部に露出されており、上部には座金を介してダブルナット9が螺合されている。このように、シアプレート6を介してアンカーボルト10上部にダブルナット9を緊締することにより、鉄筋コンクリート柱5上部に鉄骨柱7が緊結されている。本実施形態例で用いられるアンカーボルト10は、通常の鉄骨建築でもちいられている例えば直径16〜32mmのアンカーボルト10を用いることができ、アンカーボルト10の鉄筋コンクリート柱5への埋め込み長は、ボルト径の25倍以上とされている。また、本実施形態例では、アンカーボルト10の下端部は曲げ加工が施されている。
【0030】
本実施形態例の柱脚固定構造1では、アンカーボルト10は鉄骨柱7に形成された開口部8に形成されるため、より中央部分にて鉄骨柱7と鉄筋コンクリート柱5とを緊結することができる。これにより、本実施形態例の柱脚固定構造1は、鉄骨柱7と鉄筋コンクリート柱5との接合部を、よりピン接合に近い形として取り扱うことが可能となる。
【0031】
[1−2 施工方法]
次に、図2、及び図3を用いて、本実施形態例の柱脚固定構造1を組み立てるための施工方法を説明する。
【0032】
まず、図2Aに示すように、基礎梁4及び鉄筋コンクリート柱5が形成される部分に、所望の型枠(図示せず)を組み立て、複数の鉄筋3をその中に配筋する。次に、図2Bに示すように、鉄筋コンクリート柱5となる部分の鉄筋3の所望の位置に、アンカーボルト10を配置する。このとき、アンカーボルト10は、その上端部が、後の工程で配置されるシアプレート6の挿通孔に挿通され得る位置にくるように配置し、鉄筋3よりも上側にくるように配置する。
【0033】
次に、型枠の中にコンクリート2を打設し、その後脱型することにより、図3Cに示すように、鉄筋コンクリートからなる基礎梁4と、鉄筋コンクリート柱5を形成する。この鉄筋コンクリート柱5の高さh’は、前述したように、建物の1階分の高さhとすると0.3h〜0.7hとなるように形成されるものである。したがって、鉄筋コンクリート柱5は、足場を組む必要がない高さとされる。このため、鉄筋コンクリート柱5の作製時において、作業時間が増加することがなく、足場を組むためのコストもかからない。
【0034】
次に、図3Dに示すように鉄骨柱7が溶接されたシアプレート6の挿通孔にアンカーボルトの上端部を挿通するようにシアプレート6及び鉄骨柱7を鉄筋コンクリート柱5上部に配置する。その後、座金を介してアンカーボルト10上部にダブルナット9を螺合する。そして、鉄骨柱7が溶接されたシアプレート6と鉄筋コンクリート柱5を緊結することにより、図1Bに示した柱脚固定構造1が完成される。
【0035】
本実施形態例の柱脚固定構造1の施工においては、鉄筋コンクリートからなる基礎梁4と鉄筋コンクリート柱5を形成した後に鉄骨建方が行われるので、従来の埋め込み型の柱脚固定構造のようなタイムラグを生じない。図4Aに、本実施形態例の柱脚固定構造1を有する鉄骨建築物の着工から鉄骨建方までのタイムテーブルを示し、図4Bに、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を有する鉄骨建築物の着工から鉄骨建方までのタイムテーブルを示す。図4A,Bは、共に、中層(6階建て程度)の中規模(床面積5000m程度)での鉄骨建築物を想定したものである。また、図4A,Bでは、杭工事がある場合のタイムテーブルを示している。以下の説明では、本実施形態例の柱脚固定構造1を施工する場合と、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を施工する場合を並行して説明する。
【0036】
図4A,Bに示すように、通常、杭工事が着工されると同時に、鉄骨工事に用いられる鉄骨が発注され、製造、作製図作成が行われる。杭工事はおよそ1ヶ月で終了し、その後、根伐、敷砂利、捨コン等の作業が1ヶ月程度かけて行われる。その後、基礎を作製する。本実施形態例の柱脚固定構造1とする場合には、基礎を形成後、続けて基礎梁4の形成が行われる。この基礎梁4の形成は、図2A〜図3Cで説明した通りである。一方、従来の埋め込み型の柱脚固定構造とする場合には、基礎を形成後、基礎梁の形成前に鉄骨建方に入る必要がある。しかしながら、この時期には、鉄骨柱が未だ納品されていないため、鉄骨が納品されるまでのおよそ2ヶ月間は作業が進まない。すなわち、基礎形成後から、鉄骨建方に入るまでには、2ヶ月のタイムラグを生じる。
【0037】
本実施形態例の柱脚固定構造1では、基礎の形成後、引き続いて基礎梁4の形成が行われるため、鉄骨が納品される時期に鉄骨建方にスムーズに移行することができる。このため、タイムラグが生じない。
【0038】
そうすると、図4A,Bに示すように、本実施形態例の柱脚固定構造1と従来の埋め込み型の柱脚固定構造とでは、工期におよそ2ヶ月の差が出てくる。すなわち、本実施形態例の柱脚固定構造1を用いた場合には、2ヶ月の工期の短縮が可能となり、コストの低減が可能となる。
【0039】
また、このような本実施形態例の柱脚固定構造1を架構に用いることで、最下層の柱脚での崩壊を防ぎ、完全な梁損傷型の架構とすることが可能となる。
【0040】
次に、本実施形態例の柱脚固定構造1を適用した鉄骨ラーメン架構を解析モデルとして実施した静的解析、及び地震応答解析(動的解析)について説明する。ここでは、剛性及び耐力をほぼ同等にした架構を設計し、静的解析及び地震応答解析を行い、各架構における損傷分布や架構の崩壊時性能を説明する。静的解析では、6層の鉄骨ラーメン架構を用い、地震応答解析では3層及び6層の鉄骨ラーメン架構を用いた。
【0041】
図5Aに、解析対象とした6層の鉄骨ラーメン架構の軸組図を示し、図5Bにその平面構成を示す。1層分の高さを3.60mとした6層構造で、9.00m毎に鉄骨柱が横方向及び奥行き方向に配置され、横幅は、9.00m×3の幅とされ、奥行きは、9.00m×2の幅とされている。図5Bに示すように、鉄骨ラーメン架構の接合部は最下層の鉄骨柱中央を除いて全て剛接合とし、地面と基礎との接合はピン接合としている。最下層の柱脚固定構造は、図1A,Bに示した本実施形態例の柱脚固定構造1とされ、解析モデルでは鉄筋コンクリート柱5と鉄骨柱7の接合部はピン接合として評価とした。また、解析モデルでは、図5Bに示す支配面積を解析構面とした。3層の鉄骨ラーメン架構の構成は、図5Aの軸組図を3層構造として考えれば良い。したがって、3層鉄骨ラーメン架構の図示及び説明は省略する。
【0042】
下記の表1に、解析モデルに用いた6層鉄骨ラーメン架構の部材断面構成と、3層鉄骨ラーメン架構の部材断面構成を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
架構の名称の記号は、最初の数字が層数、2番目の数値が梁のモーメント(曲げ耐力)Mpbに対する柱のモーメント(曲げ耐力)Mpcの割合Mpc/Mpb(柱梁耐力比)、3番目の記号A,B,Cが柱の幅厚比の違いを示している。記号A,B,Cの意味は以下の通りである。
A:幅厚比大
B:基準となる幅厚比
C:幅厚比小
また、表1において、基礎の柱に相当する部分は、図1の鉄筋コンクリート柱5に相当する部分である。
尚、後述する図7〜図15において、従来の柱脚固定構造を用いた解析モデルには、架構名称の最後に「fix」の文字を表記している。また、従来の柱脚固定構造としては埋め込み型の柱脚固定構造を用い、鉄骨柱の柱脚と基礎梁との接合は剛接合として解析を行った。
【0045】
架構の部材断面は、保有水平耐力設計に沿って架構の剛性及び耐力が概ね等しくなるように選定し、梁及び柱の幅厚比をFAランク(基準法で定められた部材ランク)としている。高さ方向に関しては、3層毎に梁及び柱の部材断面を変更している。標準せん断力係数C=0.2のときの最大層間変形角が1/200以下を満足するものとしている。
【0046】
表2に、柱及び梁に用いられる鉄骨部材の材料特性を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
梁及び柱共に、鋼材のヤング係数Esteelを205.8×10N/mm、降伏応力σy-steelを235.0N/mmとしており、コンクリートのヤング係数Econcreteを27.3×103N/mm、降伏応力をσy-concreteを37.0N/mmとしている。
【0049】
〈2.静的解析〉
[2−1 静的解析概要]
静的解析では、本実施形態例の柱脚固定構造を用いた6層の鉄骨ラーメン架構を解析モデルとして解析した。また、静的解析における数値解析プログラムは、DRAIN−2DXを使用した。
【0050】
図6A,Bに、柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4の6層鉄骨ラーメン架構における第1層の梁及び柱のM/M−θ/θ関係(荷重変形関係)を示す。横軸が材端回転角θを弾性変形量θで除した値で、縦軸が材端モーメントMを全塑性モーメントMで除した値である。梁のM/M−θ/θ関係は、「加藤勉,秋山宏,帯洋一:局部座屈を伴うH型断面部材の変形,日本建築学会論文報告集,第257号,pp.49−58,1977.7」(以下文献1)の実験式により求めることができる。また、柱のM/M−θ/θ関係は、「加藤勉,秋山宏,北沢進:局部座屈を伴う箱型断面部材の変形,日本建築学会論文報告集,第268号,pp.71−76,1978.6」(以下文献2)の実験式により求めることができる。図6A,Bの実線Iは、文献1及び2で導出された値であり、図6A,Bの実線IIは、数値解析により得られた値である。
【0051】
梁及び柱に用いられる鉄骨部材の耐力劣化挙動は、周辺部材の塑性化等により材端支持条件の変化や架構内の応力再配分によって、端材の場合とは異なる挙動を示す可能性がある。本実施形態例の静的解析では鉄骨部材の劣化領域を余力と考え、架構内の部材が最大耐力に達する点を部材崩壊と定義し、最大耐力に達するまでの範囲を検討範囲とした。
【0052】
[2−2 静的解析結果]
図7に、柱の幅厚比が異なる6層鉄骨ラーメン架構のせん断力と層間変形角の関係を示す。横軸は、第2層の層間変形角δ/hであり、縦軸は第1層のせん断力Qを架構の層重量Wと振動特性係数Rで除した値である。層間変形角は、層間の変位δを階高hで除した値であり、せん断力Qは、地震時に角階の梁にかかる水平力の和である。
【0053】
図7の白抜きの逆三角形で示す点は、架構内のある一部材が最初に降伏する点を示し、後述する図12の番号1に対応している。これを部材の初期降伏と定義する。図7の黒塗りの逆三角形で示す点は、架構内のある一部材が最初に最大耐力に達する点を示し、図12の矢印zと対応している。これを部材の崩壊と定義する。架構では、黒塗りの逆三角形で示す点が、右側(すなわち、層間変形角が大きい側)にあるほど大地震に対しても安定した挙動を示し、高い安全性を有することが言える。
【0054】
この解析において、架構の初期剛性は柱脚支持条件によらず等しくなっている。架構の降伏後の耐力は、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を有する架構に比べて、本実施形態例の柱脚固定構造1を有する架構の方が10%程度低くなっている。また、最下層の柱脚を従来の埋め込み型の柱脚固定構造とした架構に比べて、本実施形態例の柱脚固定構造1を用いた架構の方が、部材崩壊に至までに大きな層間変形角を保持している。これは、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を有する架構では、塑性変形性能が小さい柱で部材崩壊を生じたためである。また、幅厚比が大きい柱を有する架構に比べて幅厚比が小さい柱を有する架構の方が部材崩壊に至までに大きな層間変形角を保持している。
【0055】
図8Aに、最大層間変形角δmax/hが0.02に達したときの層間変形角分布を示し、図8Bに架構の構成部材が最初に崩壊したときの層間変形角分布を示す。横軸は、各層の層間変形角δ/h、縦軸は、層数nである。最大層間変形角δmax/hが0.02のときでは全ての架構で第2層に最も大きな層間変形角が生じている。また、部材崩壊時では、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を有する架構の最大層間変形角に比べて、本実施形態例の柱脚固定構造を有する架構の方が大きくなっている。柱梁耐力比Mpc/Mpbが等しい架構の場合、最大層間変形角は、柱幅厚比の小さい方が大きくなっている。
【0056】
図9に、柱梁耐力比Mpc/Mpbが異なる6層鉄骨ラーメン架構のせん断力と層間変形角の関係を示す。横軸及び縦軸は、図7と同様であり、図9中の白抜きの逆三角形で示す点及び黒塗りの逆三角形で示す点も、図7と同様であるから重複説明を省略する。架構の初期剛性は柱梁耐力比によらず等しくなっている。柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.2の架構の降伏後の耐力は他の架構の降伏後の耐力に比べて10%程度高くなっている。それ以外の架構の降伏後の耐力はほぼ等しくなっている。柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.2の架構では塑性変形性能が小さい柱で崩壊が生じるため、他の架構に比べて部材崩壊に至までの層間変形角が小さくなっている。
【0057】
図10Aに、最大層間変形角δmax/hが0.02に達したときに層間変形角分布を示し、図10Bに、架構の構成部材が最初に崩壊したときの層間変形角分布を示す。横軸、及び縦軸は、図8A,Bと同様である。全ての架構で、第2層に最も大きな層間変形角が生じている。最大層間変形角δmax/h=0.02のときでは、柱梁耐力比の違いによらず、全ての架構で層間変形角がほぼ等しくなっている。部材崩壊時では、柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4の架構の最大層間変形角が最も大きくなっている。これは、柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4の架構の梁の塑性変形性能が柱梁耐力比Mpc/Mpb=2.1の架構に比べて優れている為である。
【0058】
図11A〜Fに、それぞれの架構における柱梁耐力比Mpc/Mpbが異なる6層鉄骨ラーメン架構の降伏部位と崩壊部位を示す。図11A〜Fに示す番号1〜5は、架構内の部位が降伏する順序であり、矢印zは、最初に崩壊する部位を示す。
【0059】
図11A〜Fから、本実施形態例の柱脚固定構造1を用いた架構の場合、全ての架構で初期降伏(番号1で示す)が第1層の梁端に生じている。柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.2の架構では柱梁耐力比が小さいため、早い段階で、第2層及び第3層の柱頭にも降伏が生じており、部材崩壊が第4層の柱頭に生じている。柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4で幅厚比が大きい柱を有する架構では、部材崩壊(矢印zで示す)が第4層の柱頭に生じている。柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4で幅厚比が小さい柱を有する架構及び柱梁耐力比Mpc/Mpb=2.1の架構では、部材崩壊(矢印zで示す)が初期降伏(番号1で示す)と同じ第1層の梁端に生じている。
【0060】
一方、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を用いた架構の場合、全ての架構で初期降伏が第2層の梁端に生じ、部材崩壊が塑性変形性能の低い第1層の柱脚に生じており、最下層で層崩壊する可能性がある。
【0061】
従来の柱脚固定構造を用いた場合に、第1層の柱が崩壊する可能性が高い理由を、図12を用いて説明する。図12Aに、本実施形態例の柱脚固定構造1を有する架構の柱及び梁にかかる部材崩壊時のモーメント分布を示す。また、図12Bに、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を有する架構の柱及び梁にかかる部材崩壊時のモーメント分布を示し、図12Cに、従来の露出型の柱脚固定構造を有する架構の柱及び梁にかかる部材崩壊時のモーメント分布を示す。図12A〜Cの実線は、柱にかかる曲げモーメントで、破線は、梁にかかる曲げモーメントである。
【0062】
図12A〜Cからわかるように、従来の露出型、及び埋め込み型の柱脚固定構造とした場合には、1層目の柱にかかる曲げモーメントのバランスが上下端で崩れている。例えば、図12Bに示すように、埋め込み型では、1層目の柱の下端部にかかるモーメントMは、上端部にかかるモーメントMよりも大きくなっており、図12Cに示すように、露出型では、1層目の柱の下端部にかかるモーメントはほぼゼロとなり、上端部にはモーメントMがかかる。このため、埋め込み型、及び露出型の柱脚固定構造を有する場合には、部材崩壊時に、1層目の柱に部材崩壊が生じる。
【0063】
一方、本実施形態例の柱脚固定構造1を用いた場合には、図12Aに示すように、部材崩壊時において、1層目の柱には、上下端でバランスのよいモーメントM,Mが生じており、鉄筋コンクリート柱5と鉄骨柱7との接合部でモーメントはほぼゼロになる。これは、1層目の柱中央に、鉄筋コンクリート柱5と鉄骨柱7との接合部があり、その接合部がピン接合とされているためである。このため、本実施形態例の柱脚固定構造1を用いた架構では、部材崩壊時において、1層目の柱の崩壊を防ぐことができる。また、本実施形態例の柱脚固定構造1では、鉄筋コンクリート柱5と鉄骨柱7との切り替え位置を変化させることで、実質的に最下層の柱の曲げ応力の半曲点位置を変えることができるので、最下層の水平剛性や柱の曲げ応力を制御することができる。
【0064】
以上の静的解析結果から、本実施形態例の柱脚固定構造1を有する鉄骨ラーメン架構では、部材崩壊時に、第1層の柱が崩壊することがなく、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を有する鉄骨ラーメン架構よりも建物の倒壊の危険性が少ないことがわかる。
【0065】
〈3.地震応答解析〉
[3−1 地震応答解析概要]
地震応答解析(動的解析)では、本実施形態例の柱脚固定構造を用いた3層の鉄骨ラーメン架構、及び6層の鉄骨ラーメン架構を解析モデルとして解析した。
【0066】
動的解析では、鉄骨ラーメン架構の粘性減衰はレーリー型とし、1次と2次の減衰定数は2%とした。降伏後の挙動には、移動硬化則を用いている。架構の1層あたりの質量は、188.3トンとしている。
【0067】
表3に、柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4の3層及び6層の鉄骨ラーメン架構の固有周期を示す。
【0068】
【表3】

【0069】
地震応答解析で用いる地震動は、EL Centro 1940 NS/EW,Hachinohe 1968 NS/EW,Taft 1952 NS/EW,Kobe 1995 NS/EW,模擬波BCJL1/BCJL2の10種類とした、地震応答解析では、時刻歴波形の最大速度を30〜70kineに基準化している。
【0070】
図13に、地震応答解析で用いた5種類の地震動(EL Centro 1940 NS,Hachinohe 1968 NS,Taft 1952 NS,Kobe 1995 NS,BCJL1)の元波による弾性応力スペクトルを示す。
【0071】
表3より、解析モデルは、一般的な架構であることがわかる。
【0072】
[地震応答解析結果]
図14Aに3層鉄骨ラーメン架構の総履歴吸収エネルギーEに対する最大となる柱端の履歴吸収エネルギーEc及び最大となる梁端の履歴吸収エネルギーEbの比を示す。また、図14Bに、6層鉄骨ラーメン架構の総履歴吸収エネルギーEに対する最大となる柱端の履歴吸収エネルギーEc及び最大となる梁端の履歴吸収エネルギーEbの比を示す。図14A,Bの横軸はEc/Eであり、縦軸はEb/Eである。
【0073】
本実施形態例の柱脚固定構造を用いた架構の場合、図14Aに示すように3層の鉄骨ラーメン架構では柱梁耐力比が増加するにつれて層履歴吸収エネルギーに対する最大となる梁端の履歴吸収のエネルギーの割合が高くなっている。図14Bに示すように6層の鉄骨ラーメン架構では全ての架構で総履歴吸収エネルギーに対する最大となる梁端の履歴吸収エネルギーの割合が高くなっている。3層及び6層の鉄骨ラーメン架構ともに層履歴吸収エネルギーに対する最大となる梁端の履歴吸収エネルギーの割合は20%程度を上限値としている。
【0074】
一方、従来の埋め込み型の柱脚固定構造を用いた架構の場合、3層鉄骨ラーメン架構では梁端に比べて柱端に履歴吸収エネルギーが集中しており、層履歴吸収エネルギーに対する最大となる柱端の履歴吸収エネルギーの割合は、30%程度を上限値としている。6層鉄骨ラーメン架構では、総履歴吸収エネルギーに対する最大となる梁端及び柱端の履歴吸収エネルギーの割合がほぼ等しく10%程度を上限値としている。
【0075】
図15Aに、3層鉄骨ラーメン架構における柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4の架構の梁の塑性率μの比較を示し、図15Bに、6層鉄骨ラーメン架構における柱梁耐力比Mpc/Mpb=1.4の架構の梁の塑性率μの比較を示す。図15A,Bの横軸は架構の最大層間変形角、縦軸は梁の塑性率μである。また、図15A,Bに示されている横線は、架構内の梁の最大耐力時における塑性変形性能のうち最小値を示している。原点からの各線は、静的解析による架構内の最大層間変形角と梁の塑性率μの関係を示している。各プロットは地震応答解析結果である。塑性変形性能を超えたプロットには色を付けている。地震応答解析における塑性率μの算出方法は、以下の通りである。
【0076】
1)各梁端の正側及び負側それぞれの累積履歴曲線から履歴吸収エネルギーを求める。
2)1)で求めた履歴吸収エネルギーをバウジンガー効果による割り増し係数αβで除し、骨格曲線の履歴吸収エネルギーを求める。
3)2)で求めた骨格曲線の履歴吸収エネルギーから図6A,BのM/M−θ/θ関係を用いて、塑性率μを求める。その際、正側及び負側の塑性率μのうち最大となる値を採用する。
【0077】
塑性率μの算定で用いたバウジンガー効果による割り増し係数αBは2.0としている。梁の塑性率μでは、静的解析結果(実線)が地震応答解析結果(プロット)の下限値となっている。3層鉄骨ラーメン架構では柱の幅厚比が最も大きいA以外の架構で、梁の最大耐力時における塑性変形性能に達する部材が見られた。6層鉄骨ラーメン架構では、上述の解析範囲内では、梁の最大耐力時における塑性変形性能に達する部材が見られなかった。
【0078】
図16A〜Dに、梁のバウジンガー効果による割り増し係数αBと架構の層数の関係を示す。横軸は、架構の層数Nである。縦軸は梁のバウジンガー効果よる割り増し係数αBである。図16A〜Dに示す点線は、「日本建築学会:建築耐震設計における保有耐力と変形性能1990」(以下文献3)による梁の設計値2.0、各プロットは地震応答解析結果から算出した割り増し係数αB、太い実線は各プロットの平均値を示している。地震応答解析における割り増し係数αBは累積履歴曲線から算出した履歴吸収エネルギーを骨格曲線から算出した履歴吸収エネルギーで除した値である。全ての架構で6層鉄骨ラーメン架構よりも3層鉄骨ラーメン架構の方が割り増し係数αβのバラツキが大きくなっている。ただし、文献3による梁の設計値2.0と地震応答解析結果から算出した割り増し係数αBの平均値は概ね等しくなっている。
【0079】
以上の結果から、本実施形態例の柱脚固定構造では、従来の柱脚固定構造に比較して、地震時における柱の崩壊を防ぐことができるので、地震時における建物の倒壊を防ぐことができる。また、本実施形態例の柱脚固定構造では、埋め込み型の柱脚固定構造に比較すると工期も短縮でき、また、1層目の半分程度を鉄筋コンクリート柱で構成するため、鉄骨使用量を減らすことができるので、コストの低減を図ることができる。
【0080】
また、本実施形態例の柱脚固定構造では、鉄骨柱の柱脚部の曲げ応力はほぼゼロであるため、アンカーボルトを4本程度とした簡易な柱脚にすることができる。また、シアプレートの側面被覆部の長さを調節することで、せん断応力の伝達を向上させることも可能となる。
【0081】
なお、本実施形態例の柱脚固定構造では、鉄骨柱の下端部に開口部を形成し、その開口部に相当する位置で、アンカーボルトをボルト締めする構成としたがそれに限定されるものではなく、鉄骨柱よりも外側でボルト締めする構成としてもよい。本実施形態例のように、開口部を形成してその開口部に対応する位置でボルト締めした場合には、鉄骨柱と鉄筋コンクリート柱との接合点をより中央に寄せることができ、ピン接合により近い形とすることができるのでその部分での曲げ応力を低減することができる。
【0082】
また、本実施形態例の柱脚固定構造は、3層及び6層の鉄骨ラーメン架構を例に解析を行ったが、その他のブレース架構等の鉄骨建築物にも好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0083】
1・・柱脚固定構造
2・・コンクリート
3・・鉄筋
4・・基礎梁
5・・鉄筋コンクリート柱
6・・シアプレート
6a・・プレート部
6b・・側面被覆部
7・・鉄骨柱
8・・開口部
9・・ダブルナット
10・・アンカーボルト
20・・柱脚固定構造
21・・コンクリート
22・・鉄筋
23・・基礎梁
24・・鉄骨柱
25・・アンカーボルト
26・・アングル材
27・・ナット
28・・モルタル部材
29・・ベースプレート
30・・ダブルナット
40・・柱脚固定構造
41・・コンクリート
42・・鉄筋
43・・基礎梁
44・・鉄骨柱
45・・ダブルナット
46・・ベースプレート
47・・アンカーボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリートからなる基礎梁と
前記基礎梁と一体に形成され前記基礎梁から垂直上方の所望の高さに突出して形成された鉄筋コンクリート柱と、
下端部にシアプレートが溶接された鉄骨柱と、
前記鉄骨コンクリート柱上部に前記シアプレートを緊結するアンカーボルトと
を有して構成される柱脚固定構造。
【請求項2】
前記鉄筋コンクリート柱の高さは、1階分の高さをhとすると、0.3h〜0.7hとされる
請求項1記載の柱脚固定構造。
【請求項3】
前記鉄骨柱の下端部側面には開口部が形成されており、前記アンカーボルトは前記シアプレート上部であって、前記開口部に相当する位置において、ナットで固定されている
請求項2記載の柱脚固定構造。
【請求項4】
前記シアプレートは、鉄筋コンクリート柱の上面を被覆するプレート部と、前記プレート部に延在して形成され、前記鉄筋コンクリート柱の上端部の側面を所望の長さ被覆する側面被覆部とから構成されている
請求項3記載の柱脚固定構造。
【請求項5】
前記側面被覆部は、前記鉄筋コンクリート柱の幅の10%〜20%の長さで、前記鉄筋コンクリート柱の上端部の側面を被覆する
請求項4記載の柱脚固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−106186(P2011−106186A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263300(P2009−263300)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(596067021)株式会社構造計画プラス・ワン (3)