説明

核医学画像の画像処理方法、画像処理装置、及び画像処理プログラム

【課題】心筋核医学画像において、肝臓や胆嚢といった心筋以外の高集積による心筋画像の影響を除去する方法、当該方法をコンピュータに実行させるプログラム、および当該方法を実行するための装置を提供する。
【解決手段】心筋核医学画像における各投影画像上において、心筋全体に関心領域を設定し、当該関心領域内に心筋部以外の高集積部位が存在している投影画像を削除し、残りの投影画像につき心筋領域に設定した関心領域以外の部位をマスク処理して除去するといった処理を行う。このような処理により、従来は除去が困難であった、心筋部位と心筋以外の高集積部位とが接近している投影画像における当該高集積部位の影響を、効果的に取り除く事が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、核医学画像の画像処理技術に関する。より詳しくは、心筋核医学画像において、アーチファクトを有効に除去し得る、画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患の画像診断の一つとして、SPECTに代表される、核医学画像診断法が用いられている。核医学画像診断法では、放射性同位元素で標識された薬剤(放射性医薬品)を被験者に投与し、放出されたγ線を検出して画像化処理を行う事により、診断画像を得る事ができる。心臓疾患の画像診断に用いる放射性医薬品としては、塩化タリウム−201、ヘキサキス(2−メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)、テトロホスミンテクネチウム(99mTc)、3−ヨードベンジルグアニジン(123I)、15−(4−ヨードフェニル)−3(R,S)−メチルデカン酸(123I)等が開発され、臨床において用いられている。
【0003】
これらの放射性医薬品のうち、放射性同位元素として99mTcを用いた製剤(以下、99mTc製剤という)は、キット化できるために汎用性に優れ、また、SPECT装置に適したエネルギーを有しているために良好な画像を得る事ができるといった利点を有している。しかし、99mTc製剤は、一般に分子サイズが大きく、肝胆道系に高い集積を有する。このような心筋以外における高集積は、再構成画像上でストリークアーチファクトの原因となり、診断の妨げになるといった問題がある(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。また、放射性ヨード製剤においても、肝臓に高集積し、心筋SPECTにおいて下壁部が欠損するといったことが報告されている(非特許文献5)。
【0004】
心筋以外への高集積に起因する再構成画像上でのアーチファクトの発生を防ぐ方法として、マスク処理によって高集積部位を除去する方法がこれまでに検討されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。これまでの報告によれば、再構成処理前の投影データにマスク処理を施す事により、当該高集積による心筋画像への影響を減少させ得ることが開示されている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。しかし、心筋以外の高集積部位が心筋に近接していた場合には、画像データ上で当該高集積部位を除去する事は難しく、心筋画像への当該高集積部位の影響を完全に取り除く事は困難である(非特許文献2、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【0005】
【非特許文献1】 久野晴丘 他、「99mTc−tetrofosminによる胆嚢の高集積が心筋SPECT画像に及ぼす影響と改善法についての検討」、日本放射線技術学会誌、2000年8月、56、8、p.1044−1051
【非特許文献2】 今井嘉門 他、「MIBIの心筋シンチのアーティファクトの原因に関して」、核医学、1995、32、3、p.307−310
【非特許文献3】 高木昭浩 他、「99mTc心筋血流製剤を用いたSPECT撮像における肝の高集積が心筋に及ぼす影響の軽減;マスク処理法の有用性と問題点」、核医学、1999、36、5、p.459−465
【非特許文献4】 大西英雄 他、「99mTc標識心筋血流製剤を用いた心筋SPECT画像への肝臓からの影響」、核医学、1998、35、6、p.375−383
【非特許文献5】 小林秀樹 他、「肝高集積が原因となって出現する123I−MIBG心筋SPECTの下壁欠損像の特徴とその対策−ファントムを用いた検討−」、核医学、1994、31、4、p.359−366
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、心筋以外の高集積の心筋画像への影響を除去する方法、当該方法をコンピュータに実行させるプログラム、および当該方法を実行するための装置を提供する事を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は検討の結果、投影データセットにおいて、心筋以外の高集積部位が心筋部位に近接している投影画像を削除しても、残りのデータを用いて作成された再構成画像の画質に本質的な悪影響を与えない事を見出した。この知見に基づき、各投影画像上で心筋全体に関心領域を設定し、当該関心領域内に心筋部以外の高集積部位が存在している投影画像を削除し、残りの投影画像につき前記関心領域以外の部位(すなわち、心筋領域に設定した関心領域以外の部位)をマスク処理等を施して除去するといった処理を行う事により、上記の問題点が解消し、当該高集積部位の影響を効果的に除去しうる事を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
なお、本明細書において、投影データセットとは、一度の撮像処理により得られた各投影角度での投影画像のセットをいう。例えば、患者に対し、2°ステップで360°の投影を行った場合、投影角度2°、4°、6°、…、358°、360°において得られた180枚の投影画像のセットが、本明細書における投影データセットとなる。
【0009】
本発明の一側面に係る画像処理方法は、コンピュータが心筋核医学画像の投影データセットを取得する投影データセット取得ステップと、コンピュータが、前記投影データセットに含まれる各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定する関心領域設定ステップと、コンピュータが、心筋部以外の高集積部位が前記関心領域と重なっている投影画像を削除する画像削除ステップと、コンピュータが、前記画像削除ステップにて心筋部以外の高集積部位が前記関心領域内と重なっている投影画像を削除した後の投影データセットに含まれる各投影画像につき、前記関心領域設定ステップにて設定した関心領域以外の部分を削除する非関心領域削除ステップと、コンピュータが、非関心領域削除ステップ後の投影データセットを用いて画像再構成を行う画像再構成ステップと、を含む。
【0010】
本発明の別の一側面に係る画像処理プログラムは、コンピュータに、心筋核医学画像の投影データセットを取得する投影データ取得ステップと、前記投影データセットに含まれる各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定する関心領域設定ステップと、心筋部以外の高集積部位が前記関心領域と重なっている投影画像を削除する画像削除ステップと、前記画像削除ステップにて心筋部以外の高集積部位が前記関心領域内と重なっている投影画像を削除した後の投影データセットに含まれる各投影画像につき、前記関心領域設定ステップにて設定した関心領域以外の部分を削除する非関心領域削除ステップと、非関心領域削除ステップ後の投影データセットを用いて画像再構成を行う画像再構成ステップと、を実行させる。
【0011】
本発明のさらに別の一側面に係る画像処理装置は、心筋核医学画像の投影データセットを取り込む投影データセット取得部と、前記投影データセットに含まれる各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定する関心領域設定部と、前記投影データセットに含まれる各投影画像のうち、心筋部位以外の高集積部位が前記関心領域と重なっている投影画像を削除する画像削除部と、前記関心領域設定部の機能により設定された前記関心領域以外の部分を各投影画像上において削除する非関心領域削除部と、投影データセットを用いて画像再構成を行う画像再構成部と、を備える。
【0012】
従来技術において指摘されてきたように、投影画像上において心筋部位と心筋以外の高集積部位とが接近している場合には、当該高集積部位を完全に削除する事が難しく、このことが、再構成画像上で当該高集積部位の影響を完全に除去することを困難にしてきた(今井嘉門 他、核医学、1995、32、3、p.307−310;高木昭浩 他、核医学、1999、36、5、p.459−465)。本発明に係る画像処理方法および画像処理プログラムでは、心筋部位を包含するよう設定した関心領域と心筋部位以外の高集積とが重なった投影画像を画像ごと削除し、それ以外の投影画像では前記関心領域以外の領域を削除する処理を行っているので、再構成画像において、心筋以外の高集積部位の影響を、効果的に取り除く事ができる。
また同様に、本発明に係る画像処理装置も、心筋部位を包含するよう設定した関心領域と心筋部位以外の高集積とが重なった投影画像を画像ごと削除し、それ以外の投影画像では前記関心領域以外の領域を削除する機能を備えているので、心筋部以外の高集積部位からの影響を完全に取り除いた再構成画像を生成する事が可能となる。
【0013】
本発明に係る画像処理方法および画像処理プログラムにおいて、心筋部位に設定した関心領域以外の部分を削除する非関心領域削除ステップは、当該関心領域以外の部分をマスク処理によって削除するといった方法や、当該関心領域以外の領域に対応するピクセルにヌルコードやバックグラウンドにおけるカウントの平均値を代入するといった方法にて行う事ができる。
同様に、本発明に係る画像処理装置における非関心領域削除部は、心筋部位に設定した関心領域以外の部分をマスク処理で削除するといった方法や、当該関心領域以外の領域に対応するピクセルにヌルコードやバックグラウンドにおけるカウントの平均値を代入するといった方法により、当該関心領域以外の部分を削除するものであって良い。
特に、バックグラウンドの平均値を代入するといった方法を用いれば、関心領域境界部における不連続性の影響を抑える事が可能となる。
【0014】
本発明に係る画像処理方法は、関心領域設定ステップの前に、コンピュータが、投影データセットに含まれる各投影画像において、心筋部位の中心を画面の回転中心に移動させる、画像シフトステップを含み、関心領域設定ステップは、コンピュータが、画像シフトステップ処理後の投影データセットにおける各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定するといった構成としても良い。
このような構成とすることにより、画像シフトステップ後は、心筋部位が全ての投影画像上で回転中心に位置しているので、代表的な投影画像上で関心領域を設定し、それを全ての投影画像に当てはめる事ができる。これにより、それぞれの投影画像につき別々に関心領域を設定する必要がなく、処理負担を大幅に軽減する事が可能となる。
【0015】
同様に、本発明に係る画像処理プログラムは、関心領域設定ステップの前に、コンピュータに、投影データセットに含まれる各投影画像において、心筋部位の中心を画面の回転中心に移動させる、画像シフトステップを実行させ、関心領域設定ステップにおいては、コンピュータに、画像シフトステップ処理後の投影データセットにおける各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定する処理を実行させる構成としても良い。
このような構成とすることにより、画像シフトステップの実行後においては、画像処理方法に係る発明と同様に、心筋部位が全ての投影画像上で回転中心に位置しているので、代表的な投影画像上で関心領域を設定し、それを全ての投影画像に当てはめる事ができる。これにより、それぞれの投影画像につき別々に関心領域を設定する必要がなく、処理負担を大幅に軽減する事が可能となる。
【0016】
また、本発明に係る画像処理装置は、投影データセットに含まれる各投影画像について、心筋部位の中心を画面の回転中心に移動させる機能を有する、画像シフト部を備えるものであっても良い。
このような機能を具備させることにより、全ての投影画像上で心筋部位を回転中心に位置させることができ、その結果、関心領域設定部は、代表的な投影画像上で関心領域を設定し、それを全ての投影画像に当てはめるといった処理を行う事ができる。これにより、それぞれの投影画像につき別々に関心領域を設定する必要がなく、関心領域設定部における処理負担を大幅に軽減する事が可能となる。
【0017】
本発明に係る画像処理方法は、コンピュータが、非関心領域削除ステップ後の画像上で、非関心領域削除ステップによって削除された領域を関心領域境界における値で補完する、データ補完ステップをさらに含み、画像再構成ステップは、データ補完ステップ後の投影データセットを用いて画像再構成を行うものであっても良い。
同様に、本発明に係る画像処理プログラムは、コンピュータに、非関心領域削除ステップ後の画像上で、非関心領域削除ステップによって削除された領域を関心領域境界における値で補完する、データ補完ステップをさらに実行させ、画像再構成ステップは、コンピュータに、データ補完ステップ後の投影データセットを用いて画像再構成を実行させるものであるものであっても良い。
同様に、本発明に係る画像処理装置は、非関心領域の削除処理後の画像上で、削除された領域を関心領域境界における値で補完する機能を有する、データ補完部をさらに備えるものであっても良い。
このような構成とすることにより、削除処理後における関心領域境界部の不連続性の影響を抑える事が可能となる。
補完は、例えば、非関心領域の削除処理後の画像につき、関心領域における境界部の値を、縦方向および横方向に延長させる方法を用いて行う事ができる。このとき、縦方向および横方向からともに値が延長されてくる座標におけるピクセルについては、縦または横方向からの何れか一方の値を埋めるか、縦および横方向からの値の平均値で埋める処理を行えばよい。また、縦および横方向の何れからも値が延長されてこない座標におけるピクセルについては、当該ピクセルの上下または左右方向に存在するピクセルに延長されてきた値を埋めるか、それらの値の平均値を埋める処理を行えばよい。
境界部の値を延長する別の方法としては、画像の中心から外に向けて引いた放射状の直線に沿って、境界部の値を延長させる方法を用いても良い。このとき、値の延長されてこない座標におけるピクセルについては、当該ピクセルの上下または左右方向に存在するピクセルに延長されてきた値を埋めるか、それらの値の平均値を埋める処理を行えばよい。なお、上記の構成は、そのまま本発明に係る画像処理装置に適用する事も可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、心筋核医学画像において、心筋部位以外の高集積部位を実質的に除去する事ができ、再構成画像におけるストリークアーチファクトを効果的に減少させる事が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る画像処理方法の好ましい態様における処理の流れの一例を示す図
【図2】本発明に係る画像処理方法における画像シフトステップにおける処理の流れの一例を示す図
【図3】本発明に係る画像処理方法におけるシフトパラメータ算出処理の流れの一例を示す図
【図4】本発明に係る画像処理プログラムの好ましい態様における構成の一例を示す図
【図5】本発明に係る画像処理装置の好ましい態様における機能ブロック図の一例を示す図
【図6】心筋部位を画像の回転中心にシフトさせる前の画像(a)と、回転中心にシフトさせた後の画像(b)とを表す図(回転中心を丸にて表示)
【図7】マスク処理を実施した例。(a)関心領域外に高集積部位が存在している投影画像の例(マスク処理前)、(b)(a)の画像につきマスク処理を行った画像、(c)関心領域内に高集積部位が存在している投影画像の例、(d)(c)の画像につき、画像全体にマスク処理を行った画像
【図8】肝臓部に高集積を呈していないファントムにおける再構成画像(FBP処理)
【図9】肝臓部に高集積を呈しているファントムにおける再構成画像(FBP処理)
【図10】肝臓部に高集積を呈しているファントムにおける再構成画像(マスク処理後にFBP処理)
【図11】心筋部に設定した関心領域を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明につき、図面を参照して説明する。なお、以下に示す例は、あくまでも好ましい形態につき説明するものであり、本発明の内容はこれらの記載により何ら限定されるものではない。
【0021】
まず、本発明に係る画像処理方法について、説明する。図1〜図3は、本発明に係る画像処理方法における、処理の流れを示すフローチャートである。本発明に係る画像処理方法では、まず、投影データセット取得ステップをコンピュータに実行させ、処理に供する投影データセットを本発明を実施するコンピュータシステムに入力する(ステップS1)。投影データセットは、SPECT装置やPET装置といった、通常の核医学画像撮像装置にて撮像されたものを用いる事ができる。投影データセットは、DICOM形式等の、コンピュータで読み取り可能な形式で保存されたものを、ハードディスク、CD−ROM、DVD等といった、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に格納された状態で取得することができる。取得された投影データセットは、コンピュータシステムに備え付けられた読取装置により読み込まれ、当該システムに入力される。なお、上記投影データセットは、核医学画像撮像装置から、ネットワークを通じて直接入力されるものであっても良い。
【0022】
投影データの入力が完了したら、画像シフトステップをコンピュータに実行させ、各投影画像における心筋部位の中心を、各投影画像の回転中心に合わせる(ステップS2)。この処理は、別に算出したシフトパラメータを各投影画像に適用する事によって、行う事ができる(ステップS21、S22)。図3を参照し、このシフトパラメータの算出方法の好ましい例について、説明する。
【0023】
好ましい態様において、シフトパラメータの算出は、代表スライスの再構成画像を用いて行われる。まず、入力された投影データセットを用い、心筋部位を含む、代表スライスの横断像を一枚作成する(ステップS23)。代表スライスとしては、心筋の中心付近が含まれる横断像を、好ましく用いる事ができる。
【0024】
代表スライスが得られたら、代表スライス上で、心筋の中心部を決定する(ステップS24)。心筋中心部の決定は、ユーザがディスプレイ等を介して目視にて決定し、マウスポインタ等を用いて指定するといった方法にて行う事ができる。また、代表スライス上で心筋部位の重心を算出し、それを心筋中心部としても良い。
【0025】
代表スライス上にて心筋中心部を決定したら、画像のシフトパラメータを算出する(ステップS25)。シフトパラメータは、各投影画像において心筋部位を回転中心に移動させるためのシフトパラメータである。シフトパラメータは、上記で決定した心筋中心部の座標と代表スライスの回転中心との関係に基づき、各投影角度の投影画像について、容易に算出する事ができる。このステップにて算出されたシフトパラメータを、画像シフトステップにて用いるシフトパラメータとする。
【0026】
図1に戻り、本発明に係る画像処理方法について説明する。画像シフトステップが完了したら、コンピュータに関心領域設定ステップを実行させ、心筋部位を包含する関心領域(図1ではROIと表示)を設定する(ステップS3)。関心領域の設定は、投影画像上で、心筋部位を包含する領域の関心領域を設定するといった公知の方法にて行う事ができる。関心領域の形状は特に限定する必要は無いが、画面の回転中心に中心を持つ円や楕円といった既定の形状の関心領域を用いるのがユーザ間の再現性を向上させる上で好ましい。その場合、回転中心に中心を持つ円や楕円形状の関心領域の大きさを、心筋領域を完全に包含するように調整するといった方法を用いる事ができる。また、閾値法等の公知の方法を用いて心筋部位の輪郭を予め抽出し、当該輪郭を構成する各点の回転中心からの距離の最大値を算出した上で、当該最大値より大きな半径の円として、関心領域を求める事も可能である。
また、本実施の形態においては、画像シフトステップを実行させる事により、予め各投影画像における心筋部位を、画像の回転中心にシフトさせる処理が行われている。従って、各投影画像において、心筋部位が、実質的に同じ位置に表示されている。従って、ある代表的な投影画像について、上記の様な方法によって関心領域を求めれば、全ての投影画像に同様の関心領域を適用する事によって、関心領域の設定が完了する。すなわち、各投影画像について別々に関心領域の設定を行う必要がなく、処理負担が大幅に軽減される。
なお、関心領域の大きさは、心筋部位全体を包含したできるだけ小さな領域とすることが好ましいことは、いうまでもない。
【0027】
関心領域が設定されたら、コンピュータに画像削除ステップを実行させ、心筋部以外の高集積部位が前記関心領域と重なっている投影画像を削除する(ステップS4)。画像削除ステップは、それぞれの投影画像を目視にて確認して該当する画像を削除するといった方法により行う事ができるが、サイノグラム上で、心筋部位以外の高集積部位が前記関心領域の輪郭に対応する線(中心をはさんで2本存在)の内側に存在している投影角度を調べ、当該投影角度に対応する投影画像を削除するといった方法を用いても良い。
【0028】
次に、画像削除ステップ後の投影データセットにつき、非関心領域削除ステップをコンピュータに実行させ、各投影画像上で、前記関心領域として選択された部位以外の部位を、削除する(ステップS5)。このステップは、各投影画像について公知のマスク処理を行って前記関心領域以外の領域を削除するといった方法や、当該関心領域以外の領域に対応するピクセルにヌルコードやバックグラウンドにおけるカウントの平均値を代入するといった方法にて行う事ができる。ここで、バックグラウンドにおける平均値は、例えば、投影画像上で信号を発しない部位(肺野等)に一定の領域を指定し、当該領域内にて各ピクセルのカウントの平均値を計算する事によって、容易に求める事ができる。
【0029】
非関心領域削除ステップが完了したら、画像再構成ステップを実施して、再構成画像を得る(ステップS6)。画像再構成は、公知の方法にて行う事ができる。そして、得られた再構成画像を、ディスプレイといった出力機器に出力する(ステップS7)。
以上の処理を実行する事により、本発明に係る画像処理方法が完了する。
【0030】
次に、本発明の別の一側面に係る、画像処理プログラムについて、説明する。図4は、本発明に係る画像処理プログラム20の最も好ましい態様における構成を、記憶媒体10とともに示す図である。好ましい態様において、本発明に係る画像処理プログラム20は、処理を統括するメインモジュール22と、投影データセット取得モジュール24と、代表スライス作成モジュール26と、心筋中心決定モジュール28と、シフトパラメータ算出モジュール30と、画像シフトモジュール32と、関心領域情報入力モジュール34と、関心領域設定モジュール36と、画像削除情報入力モジュール38と、画像削除モジュール40と、非関心領域削除モジュール42と、再構成モジュール44と、出力モジュール46とにより、構成されている。
好ましい実施態様において、本発明に係る画像処理プログラム20は、ハードディスク、CD−ROM、DVD等といった記憶媒体10に格納されて提供される。画像処理プログラム20が格納された記憶媒体10が、コンピュータに備え付けられた読取装置に挿入される事により、コンピュータが画像処理プログラム20にアクセス可能となり、後述する画像処理装置200として動作することが可能となる。なお、画像処理プログラム20は、記憶媒体を介さず、ネットワークを介して直接提供されるものであっても良い。
【0031】
投影データセット取得モジュール24は、コンピュータに、ステップS1に係る処理を実行させる。代表スライス作成モジュール26は、コンピュータに、ステップS23に係る処理を実行させる。心筋中心情報入力モジュール28は、コンピュータに、ステップS24に係る処理を実行させる。シフトパラメータ算出モジュール30は、コンピュータに、ステップS25に係る処理を実行させる。画像シフトモジュール32は、コンピュータに、ステップS2に係る処理を実行させる。
【0032】
関心領域情報入力モジュール34は、心筋領域を包含するような関心領域に関する情報(形状、大きさ等)に関する情報を受け付ける。関心領域の形状や大きさは、上述した画像処理方法において説明した方法と同様の方法にて決定する事ができる。すなわち、ユーザインターフェースを介し、ユーザが投影画像上で設定した、心筋部位を包含する領域の関心領域を入力するといった方法や、回転中心に中心を持つ円や楕円といった既定の形状を、心筋領域を包含するように大きさを調整して関心領域とするといった方法を用いる事ができる。大きさの調整は、(1)ユーザがディスプレイ等で目視にて確認しながら行うといった方法を用いてもよいが、(2)予め公知の方法を用いて心筋部位の輪郭を抽出し、当該輪郭を構成する各点の回転中心からの距離の最大値を算出した上で、当該最大値より大きな半径の円として求めても良い。また、上記(1)および(2)の方法を組み合わせ、(2)と同様の方法にて自動的に関心領域の大きさを決め、これをディスプレイ等に表示させてユーザが確認を行い、必要に応じて微調整を行うといった方法を用いる事もできる。
【0033】
関心領域設定モジュール36は、コンピュータに、ステップS3に係る処理を実行させる。画像削除情報入力モジュール38は、後述する画像削除モジュール40にて削除すべき投影画像、すなわち、心筋部以外の高集積部位が上記で設定した関心領域内に含まれている画像に関する情報を受け付ける。この処理は、ユーザがディスプレイ上等でそれぞれの投影画像を目視にて確認して該当する画像を指定し、コンピュータがその入力を受け付けるといった方法により行う事ができる。また、サイノグラム上で、心筋部位以外の高集積部位が前記関心領域の輪郭に対応する線(中心をはさんで2本存在)の内側に存在している投影角度を検出し、当該投影角度に対応する投影画像を削除すべき画像として入力するといった方法を用いても良い。画像削除モジュール40は、コンピュータに、ステップS4に係る処理を実行させる。非関心領域削除モジュール42は、コンピュータに、ステップS5に係る処理を実行させる。再構成モジュール44は、コンピュータに、ステップS6に係る処理を実行させる。出力モジュール46は、コンピュータに、ステップS7に係る処理を実行させる。
【0034】
次に、本発明のさらに別の一側面に係る、画像処理装置について説明する。図5は、本発明に係る画像処理装置200の、好ましい態様における機能ブロック図である。好ましい態様において、本発明に係る画像処理装置200は、SPECTやPETといった、核医学画像撮像装置100と、有機的に結合されている。好ましい態様において、画像処理装置200は、機能的に、投影データセット取得部220と、代表スライス作成部320と、パラメータ算出部340と、入力部360と、画像シフト部240と、関心領域設定部(図5では、ROI設定部と表示)260と、判断部380と、画像削除部280と、非関心領域削除部300と、再構成部400と、出力部420とにより構成されている。
【0035】
本発明に係る画像処理装置200は、典型的には、前記画像処理プログラム20を読み込んだコンピュータとして構成されるが、それぞれの機能を機械的に実行する機能を有した部品の組み合わせによって構成する事も可能である。
【0036】
投影データセット取得部220は、ステップS1に係る処理を実行する。代表スライス作成部320は、ステップS23に係る処理を実行する。パラメータ算出部340は、入力部360を介して入力された心筋中心に関する情報を用い、ステップS25に係る処理を実行する。画像シフト部240は、ステップS2に関する処理を実行する。関心領域設定部(図5では、ROI設定部と表示)260は、入力部360より入力された関心領域の形状や大きさに関する情報を用い、ステップS3に関する処理を実行する。判断部380は、入力部360を介して入力された情報を用い、各投影画像が画像削除部280において削除すべき投影画像か否かを判断する。例えば、サイノグラム上で心筋部位以外の高集績部位が前記関心領域の輪郭に対応する線(中心をはさんで2本存在)の内側に存在しているか否かを確認し、内側に存在している投影角度における投影画像を、削除すべき投影画像と判断する。画像削除部280は、ステップS4に係る処理を実行する。非関心領域削除部300は、ステップS5に係る処理を実行する。再構成部400は、ステップS6に係る処理を実行する。出力部420は、ステップS7に係る処理を実行する。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の内容はこの内容になんら限定されるものではない。
【0038】
(心筋ファントムを用いた検証)
心筋ファントム(RH2型、株式会社京都科学製、心筋下壁部に人工欠損有り)を用い、心筋部にヘキサキス(2−メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)を15MBqとなるように注入した。
また、肝臓に高集積を有する症例を再現するため、上記の心筋ファントムに、さらに肝臓部に心筋部の10倍の放射能濃度となるようにヘキサキス(2−メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc)を注入したファントムも用意した。
作成した各ファントムにつき、SPECT装置を用いた撮像を行った。SPECT装置並びに主な撮像条件は、表1の通りである。
【0039】
【表1】

【0040】
得られた投影データセットにつき、通常のFBP処理を用いて画像再構成を行った。また、肝臓部に高集積部位を設けたファントムについては、下記の方法による処理を行った。
(1)各投影画像につき、心筋部位が画像の回転中心にくるようにシフトさせた(図6)。
(2)心筋部位に楕円の関心領域を設定した。
(3)この関心領域内に肝臓部(高集積部)が含まれている画像については、画像全体にマスク処理を施し、画像全体の削除を行った。一方、それ以外の画像については、関心領域外にマスク処理を施し、肝臓部(高集積部)を含む心筋外の領域の削除を行った。(図7)
(4)マスク処理後の投影データセットを用い、表1記載の方法によるFBP処理を用いた画像再構成を行った。
【0041】
得られた再構成画像の一例を、図8〜図10に示す。肝臓部に高集積を有していないファントムでは、通常のFBP処理によって得られた再構成画像において、ストリークアーチファクトのない良好な画像が得られ、下壁部の人口欠損も良好に描出されていた(図8)。
肝臓部に高集積を呈したファントムにおいては、通常のFBP処理により得られた再構成画像においてストリークアーチファクトが発生し、その影響により下壁部の人口欠損も描出されていなかった(図9)。
一方、肝臓部に高集積を呈したファントムにおいて、通常のFBP処理に先立ちマスク処理を施した例では、ストリークアーチファクトが消失し、下壁部の人口欠損も明瞭に描出されていた(図10)。
【0042】
次に、肝臓部に高集積を呈したファントムにて得られた画像につき、同一断面における横断像上で心筋部位にドーナツ状の関心領域を設定し(図11)、%アップテークを求めてばらつきの比較を行った。その結果、通常のFBP処理を施した再構成画像では分散が97.45であったのに対し、FBP処理に先立ちマスク処理を施した再構成画像では分散が48.54と、減少していた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、核医学画像の画像処理プログラム並びに核医学画像処理装置の分野において、利用する事ができる。
【符号の説明】
【0044】
20 本発明に係る画像処理プログラム
10 記憶媒体
22 メインモジュール
24 投影データセット取得モジュール
26 代表スライス作成モジュール
28 心筋中心決定モジュール
30 シフトパラメータ算出モジュール
32 画像シフトモジュール
34 関心領域情報入力モジュール
36 関心領域設定モジュール
38 画像削除情報入力モジュール
40 画像削除モジュール
42 非関心領域削除モジュール
44 再構成モジュール
46 出力モジュール
100 核医学画像撮像装置
200 画像処理装置
220 投影データセット取得部
240 画像シフト部
260 関心領域設定部(図5では、ROI設定部と表示)
280 画像削除部
300 非関心領域削除部
320 代表スライス作成部
340 パラメータ算出部
360 入力部
380 判断部
400 再構成部
420 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが心筋核医学画像の投影データセットを取得する投影データセット取得ステップと、
コンピュータが、前記投影データセットに含まれる各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定する関心領域設定ステップと、
コンピュータが、心筋部以外の高集積部位が前記関心領域と重なっている投影画像を削除する画像削除ステップと、
コンピュータが、前記画像削除ステップにて心筋部以外の高集積部位が前記関心領域内と重なっている投影画像を削除した後の投影データセットに含まれる各投影画像につき、前記関心領域設定ステップにて設定した関心領域以外の部分を削除する非関心領域削除ステップと、
コンピュータが、非関心領域削除ステップ後の投影データセットを用いて画像再構成を行う画像再構成ステップと、を含む、画像処理方法。
【請求項2】
関心領域設定ステップの前に、コンピュータが、投影データセットに含まれる各投影画像において、心筋部位の中心を画面の回転中心に移動させる、画像シフトステップをさらに含み、
関心領域設定ステップは、コンピュータが、画像シフトステップ処理後の投影データセットにおける各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定するものである、請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項3】
非関心領域削除ステップにおける関心領域以外の部分の削除が、マスク処理にて行われるものである、請求項1または請求項2に記載の、画像処理方法。
【請求項4】
非関心領域削除ステップにおける関心領域以外の部分の削除が、関心領域外の部分をバックグラウンドの平均値で補完する事により行われるものである、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の、画像処理方法。
【請求項5】
非関心領域削除ステップ後の各投影画像において、非関心領域の削除処理後の画像上で、削除された領域を関心領域境界における値で補完するデータ補完ステップをさらに含み、
画像再構成ステップは、データ補完ステップ後の投影データセットを用いて画像再構成を行うものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の、画像処理方法。
【請求項6】
コンピュータに、心筋核医学画像の投影データセットを取得する投影データ取得ステップと、
前記投影データセットに含まれる各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定する関心領域設定ステップと、
心筋部以外の高集積部位が前記関心領域と重なっている投影画像を削除する画像削除ステップと、
前記画像削除ステップにて心筋部以外の高集積部位が前記関心領域内と重なっている投影画像を削除した後の投影データセットに含まれる各投影画像につき、前記関心領域設定ステップにて設定した関心領域以外の部分を削除する非関心領域削除ステップと、
非関心領域削除ステップ後の投影データセットを用いて画像再構成を行う画像再構成ステップと、を実行させる、画像処理プログラム。
【請求項7】
関心領域設定ステップの前に、コンピュータに、投影データセットに含まれる各投影画像において、心筋部位の中心を画面の回転中心に移動させる、画像シフトステップをさらに実行させ、
関心領域設定ステップにおいては、コンピュータに、画像シフトステップ処理後の投影データセットにおける各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定する処理を実行させるものである、請求項6に記載の画像処理プログラム。
【請求項8】
非関心領域削除ステップにおける関心領域以外の部分の削除が、コンピュータにマスク処理を実行させる事により行われるものである、請求項6または請求項7に記載の、画像処理プログラム。
【請求項9】
非関心領域削除ステップにおける関心領域以外の部分の削除が、コンピュータに関心領域外の部分をバックグラウンドの平均値で補完する処理を実行させる事により行われるものである、請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の、画像処理プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、非関心領域の削除処理後の画像上で、削除された領域を関心領域境界における値で補完する、データ補完ステップをさらに実行させ、
画像再構成ステップは、コンピュータに、データ補完ステップ後の投影データセットを用いて画像再構成を実行させるものである、請求項6〜8のいずれか1項に記載の、画像処理プログラム。
【請求項11】
心筋核医学画像の投影データセットを取り込む投影データセット取得部と、
前記投影データセットに含まれる各投影画像上で心筋部位を含む領域に関心領域を設定する関心領域設定部と、
前記投影データセットに含まれる各投影画像のうち、心筋部位以外の高集積部位が前記関心領域と重なっている投影画像を削除する画像削除部と、
前記関心領域設定部の機能により設定された前記関心領域以外の部分を各投影画像上において削除する非関心領域削除部と、
投影データセットを用いて画像再構成を行う画像再構成部と、を備える、画像処理装置。
【請求項12】
投影データセットに含まれる各投影画像について、心筋部位の中心を画面の回転中心に移動させる機能を有する、画像シフト部をさらに備える、請求項11に記載の、画像処理装置。
【請求項13】
非関心領域の削除処理後の画像上で、削除された領域を関心領域境界における値で補完する機能を有する、データ補完部をさらに備える、請求項11または請求項12に記載の、画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−22119(P2011−22119A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185202(P2009−185202)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【特許番号】特許第4494510号(P4494510)
【特許公報発行日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000149837)富士フイルムRIファーマ株式会社 (54)
【Fターム(参考)】