説明

核酸分析装置

【課題】本発明の目的は、前処理時間および蛍光測定時間の異なる複数の試料が連続的に分析依頼される場合に、分析中に次の試料の前処理を開始することで装置のスループットの向上を図り且つ、試料の劣化を最小限に抑えることができる核酸分析装置を提供することに関する。
【解決手段】本発明の核酸分析装置は、複数の試料を同時に前処理する前処理機構と、前処理機構で前処理された複数の試料を架設して蛍光測定する検出部とを備え、検出部にて行う蛍光測定に並行して前処理機構にて前処理を実行する核酸分析装置において、検出部の空き数,検出部にて蛍光測定中の各試料の分析終了予定時間、および次分析の各試料の前処理終了予定時間から、次分析の前処理開始のタイミングを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
前処理時間および蛍光測定時間の異なる複数の試料が連続的に分析依頼される核酸分析装置において、装置のスループット向上および、試料の劣化防止に関する。
【背景技術】
【0002】
前処理時間および蛍光測定時間の異なる複数の試料が連続的に分析依頼される核酸分析装置では、試料の測定が終了してから廃棄されるまでの時間がランダムとなる。このような装置のスループットを向上させるためには、試料は廃棄される時間を追跡して、試料が破棄される時間と次の試料の核酸増幅が測定される時間が最小限になるタイミングで、次の試料の前処理を事前に開始することが重要となる。
【0003】
また、核酸抽出された試料を手作業で装置に架設する場合には、分析が開始できる直前に試料を架設できれば、装置の稼動率を向上でき且つ、試料の蒸発や劣化を防止することができる。そのためには、オペレータが装置の稼動状態を適切に把握することが重要である。核酸分析装置の代表例としては、核酸抽出からリアルタイムPCRまでを自動化した製品が知られており、一度に最大96試料を分析できるが、連続的に依頼される分析フローには対応していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料について反応液調整等の前処理が必要な分析装置では、前処理時間が依頼される分析項目によって異なる。具体的な例では、DNA増幅検査とRNA増幅検査である。例えば、核酸分析法としてRNAを鋳型として検出するNucleic Acid Sequence based Amplification法(以下、NASBA法)を用いた場合、RNAを直接検出できるが、DNAに対しては鋳型DNAを制限酵素処理する工程が必要となり処理時間が大きく異なる。また、鋳型DNAの前処理では、37℃で15分間の制限酵素処理、95℃で5分間の加熱変性処理を行う必要があり前処理工程に時間的制約がある。特に41℃で酵素添加してからは、核酸増幅の反応過程を直ちに測定する必要があり、この時間差が分析性能に大きく影響する。
【0005】
また、前処理時間が同じであっても、分析項目により測定時間の異なる試料が依頼される場合もある。核酸検査の場合、増幅させる遺伝子領域の増幅効率は検査項目によって異なるため、増幅が最大値に到達するまでの時間が大きく異なってくる。例えばNASBA法では、増幅反応の最大値に達するまでの時間は、HIVウィルス検査で60分、Enterovirus検査では180分となる。
【0006】
このように、前処理工程から酵素添加後の測定開始まで試料が分注された反応容器を時間的制約通り且つ、停滞することなく各工程に試料を搬送することが核酸分析装置に求められる必須機能となる。
【0007】
このような前処理から測定開始までに時間的制約がある核酸分析装置のスループットを向上させるためには、前処理時間および測定時間が異なる全ての試料に関して進行状況を把握し、分析中であっても次の分析依頼されている試料が停滞することなく検出部に架設でき且つ、時間的制約を守れるタイミングで前処理を開始することが必要である。
【0008】
一方、装置のオペレータは、試料の蒸発や劣化を防止するために、分析開始直前に検体容器を装置に架設する必要があり、また効率よく装置を稼動させるためにも、試料の準備を開始する適切な時間を知る必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の核酸分析装置は、複数の試料を同時に前処理する前処理機構と、前処理機構で前処理された複数の試料を架設して蛍光測定する検出部とを備え、検出部にて行う蛍光測定に並行して前処理機構にて前処理を実行する分析装置において、検出部の空き数,検出部にて蛍光測定中の各試料の分析終了予定時間、および次分析の各試料の前処理終了予定時間から、次分析の前処理開始のタイミングを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明を実施することで、ひとつまたは複数の前処理時間および、測定時間が異なる試料が連続して依頼されても、試料毎に分析開始から測定終了までの時間を管理することで、分析中であっても、次に分析依頼されている試料の前処理が開始できるかを適切に判断することができ、装置のスループットを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における核酸抽出装置の一実施例のブロック構成図。
【図2】本発明における核酸分析装置の全体構成図。
【図3】分析工程管理情報の詳細図。
【図4】実施例の核酸分析装置の動作を示すフローチャート図。
【図5】本発明における核酸抽出装置の一実施例のブロック構成図。
【図6】ユニット管理情報の詳細図。
【図7】実施例の核酸分析装置の動作を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態である実施例に関し、図面を引用して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明における核酸抽出装置の一実施例のブロック構成図である。分析条件や分析項目を入力するための入出力装置1と、前記入出力装置1から依頼された分析項目をもとに装置を動作させるためのスケジュール情報3を生成する分析計画部2と、生成されたスケジュール情報3に従い、装置を時系列的に実行する分析実行部4と、依頼された分析項目をもとに算出した試料毎の前処理終了予定時間,蛍光測定終了時間が格納される分析工程管理情報(予約)5aと、分析中に前処理時間,蛍光測定時間の経過時間を格納するための分析工程管理情報(実績)5bと、装置のモータなどを制御する装置制御部6で構成される。
【0014】
オペレータは、入出力装置1に分析依頼する試料の分析項目を入力し、前記分析計画部2に分析を依頼する。分析計画部2は、依頼された分析項目から装置を動作させるためのスケジュール情報3を生成すると共に、前処理工程および、蛍光測定工程の終了予定時間を算出し、試料毎に分析工程管理情報(予約)5aを生成し、分析未実行状態の場合には、分析開始を分析実行部4に依頼する。この際、生成されるスケジュール情報3の内容は、モータなどの機構の動作を時系列に列挙ものである。また、分析が開始されると分析工程管理情報(予約)5aは、分析工程管理情報(実績)5bに移される。
【0015】
分析実行部4は、スケジュール情報3に従い装置制御部6に対して機構を動作させるための命令を発行し、装置制御部6は命令に該当するモータなどの機構を制御する。分析実行部4は、各工程の分析工程管理情報(実績)5bに分析を開始してからの前処理経過時間,蛍光測定経過時間を周期的に且つ、試料毎に更新する。
【0016】
分析中の試料毎の進捗状態は、分析工程管理情報(実績)5bに格納された前処理工程および、蛍光測定工程の終了予定時間と経過時間を比較することで把握できる。
【0017】
分析中に入出力装置1から次の試料の分析依頼がされた場合、分析計画部2は前記と同様に分析項目から新たなスケジュール情報3と分析工程管理情報(予約)5aを生成する。
【0018】
この時、分析計画部2は、分析工程管理情報(実績)5bから試料毎の蛍光測定経過時間を取得し、新たに生成された分析工程管理情報(予約)5aの前処理終了予定時間とを比較する。『分析工程管理情報(実績)5bの蛍光測定経過時間>分析工程管理情報(予約)5aの前処理終了予定時間』の場合には、新たに依頼されている試料が蛍光測定を開始する時間には、分析中の試料の蛍光測定が終了するとみなし、新たに依頼された試料の前処理を開始する。もし、『分析工程管理情報(実績)5bの蛍光測定経過時間<分析工程管理情報(予約)5aの前処理終了予定時間』の場合には、前処理が開始可能になるまでの時間を算出し、表示部7に出力する。
【0019】
前記で説明したブロック構成図によれば、分析中の試料毎の進捗状態は、分析工程管理情報(実績)5bに格納された前処理工程および、蛍光測定工程の終了予定時間と経過時間を比較することで把握できる。また、分析中に次の試料の分析依頼があっても、分析中の分析工程管理情報(実績)5bの蛍光測定経過時間と、新たに依頼された試料の分析工程管理情報(予定)5aの前処理終了予定時間から、蛍光検出中の試料の測定終了時間を予測して、次の試料を停滞することなく且つ、時間制約を保証して、適切な時間に試料の前処理を開始することができる。
【0020】
また、前処理が開始可能になるまでの時間を事前に表示部7に出力することで、装置のオペレータが、検体容器を装置に架設できる適切な時間を知ることもできる。
【0021】
図2に本発明における核酸分析装置の一例を示す。
【0022】
図2に示す核酸分析装置は、検体容器10,検体搬入ユニット11,分注部12,検体搬出ユニット13,分注ユニット14,分注アームロボットXY軸15,ノズルチップラック16,ノズルチップ17,グリッパユニット18,グリッパアームロボットXY軸19,反応容器ラック20,反応容器21,吐出ステーション22,反応ステーション23,回転反応ステーション24,第1の廃棄ボックス25,第2の廃棄ボックス26,試薬容器27,攪拌ユニット28,閉栓ユニット29,検出ユニット30を有する。
【0023】
分注ユニット14は、試料および試薬の吸引・吐出を行うユニットであり、分注アームロボットXY軸15に接続され、平面移動することができる。グリッパユニット18は反応容器21を掴む機構を有し、グリッパアームロボットXY軸19に接続され、分注アームロボットXY軸15と同様に平面移動することができる。
【0024】
ノズルチップ17は、ノズルチップラック16に格納されている。反応容器21は試料・試薬を吐出する容器であり、反応容器ラック20に格納されている。
【0025】
オペレータは、分析する検体容器10を検体搬入ユニット11に架設する。架設された検体容器10は、分析開始時に分注部12に自動的に搬入され、ひとつまたは複数の反応容器21に分注され、分注終了後に検体搬出ユニット13へ自動的に搬出される。
【0026】
試料・試薬を分注部に搬入された検体容器10および、試薬容器27から分注する際は、反応容器21をグリッパユニット18にて吐出ステーション22に搬送した後、ノズルチップ17を分注ユニット14に装着し、酵素などの試薬の入った試薬容器27から吸引する。それを、吐出ステーション22に並べられた反応容器21に吐出する。同様に分注部12に搬入された検体容器10から分析する試料を吸引し、吐出ステーション22の反応容器21に吐出する。試料または、試薬を吸引/吐出に使用したノズルチップ17は、第1の廃棄ボックス25に廃棄される。
【0027】
試料と試薬を吐出した反応容器21は、グリッパユニット19にて反応ステーション23に搬送され、規定された反応時間待機後、回転反応ステーション24に搬送される。回転反応ステーション24に架設された反応容器21へ、分注ユニット14にて試薬容器27から吸引した酵素を添加されることで、核酸の増幅反応が開始される。酵素添加後は、回転反応ステーション24を回転し、閉栓ユニット29にて反応容器21の蓋を閉めて密閉し、攪拌ユニット28にて攪拌した後、検出ユニット30に搬送される。検出ユニット30には複数の反応容器21を架設することができ、一度に複数試料の核酸増幅の反応過程を検出する。検出が終わった反応容器21は、第2の廃棄ボックス26に廃棄される。
【0028】
前記の核酸分析装置によれば、反応ステーション22で試料・試薬を吐出された複数の反応容器21は、グリッパユニット18および、グリッパアームロボットXY軸19にて反応ステーション23を経て検出ユニット30に架設され、計画された予定時間の間、蛍光測定を実行する。この状態で、次の分析依頼されると、分析計画部2によって新たに試料毎の分析工程管理情報(予定)が生成される。新たに生成した分析工程管理情報(予定)数が検出ユニット30の空き数より少ない場合には、直ちに分析開始可能なことを表示部7に出力する。オペレータが検体容器10を検体搬入ユニット11に架設すると検体容器10は分注部に搬入され、次の分析のための前処理が直ちに開始される。
【0029】
新たに生成した分析工程管理情報(予定)数が検出ユニット30の空き数より多い場合には、分析工程管理情報(予約)5aの前処理終了予定時間と分析工程管理情報(実績)5bの蛍光測定経過時間を比較し、分析工程管理情報(予約)5aの前処理終了予定時間の方が長い試料が存在する場合には、表示部7に前処理が開始可能になるまでの時間を表示する。
【0030】
図3を用いて分析工程管理情報(予約)5aおよび、分析工程管理情報(実績)5bのより詳細な内容を説明する。
【0031】
分析工程管理情報(予約)5aおよび、分析工程管理情報(実績)5bは、少なくとも試料を識別するためのユニークな試料IDと分析項目と機構の動作時間から計画された前処理工程および、蛍光検出工程の終了予定時間と前記工程における実際の経過時間が記録できる。工程経過時間は、分析実行部4にて各工程での時間が経過するごとに更新され、工程終了予定時間から工程経過時間を差し引いた残り時間が試料ID毎の測定終了時間となる。次に分析依頼されている試料の分析工程管理情報(予約)5aには、分析中の分析工程管理情報(実績)5bと同様に前処理時間が終了する時間が予め計画されており、この前処理に掛かる時間が分析中の分析工程管理情報(実績)5の蛍光測定残り時間より短い試料IDが存在する場合に、検体容器10から分注し、前処理を開始することができる。
【0032】
図3の例によると、分析依頼されている試料ID(T9)の前処理予定時間は、分析工程管理情報(実績)5bの試料ID(T7)の蛍光測定残り時間より短いため、試料ID(T9)の蛍光測定が開始されるタイミングで、試料ID(T7)の蛍光測定が終了していると予測して、試料ID(T9)の前処理を開始する。
【0033】
図4は同実施例における分析開始時のフローチャート図である。
【0034】
オペレータは、次に分析する試料の分析依頼情報を入出力装置1へ入力する(S1)。分析依頼された分析項目から試料毎の分析工程管理情報(予定)5aを生成する(S2)。分析工程管理情報(予定)生成後に、装置の稼動状態を確認し(S3)、装置が分析未実行状態または、分析状態且つ、次分析予定試料数<=検出ユニット30の空き数(S6)の場合には、次分析が直ちに開始できることを表示部7に出力しオペレータに通知する(S4)。オペレータにより検体容器10を検体搬入ユニット11に架設(S5)されると、直ちに分注部12に検体容器が搬入(S12)され、分析が開始される(S13)。
【0035】
また、装置が分析状態且つ、次分析予定試料数>検出ユニット30の空き数の場合には、分析工程管理情報(実績)5bから「蛍光測定予定時間−蛍光測定経過時間」を計算し、この時間が短い順に次分析予定試料数(n)を抽出する(S7)。
【0036】
次に、全ての分析工程管理情報(予定)5aと前記で抽出したn個の分析工程管理情報(実績)5bを比較して(S8)、ひとつでも分析工程管理情報(実績)5bの蛍光測定の残り時間が長い試料がある場合には、次の分析が開始可能になるまでの時間を表示器に出力する(S9)。
【0037】
これにより、オペレータは次の分析が開始可能になるまでの時間を把握し、表示部7に出力された時間から検体容器10を架設する適切なタイミングを判断できる(S10)。全ての分析工程管理情報(予定)がn個の分析工程管理情報(実績)の蛍光測定の残り時間より長い場合になったら、次に分析する試料の前処理を直ちに開始する(S13)。
【0038】
本発明は、表現することができる。検体容器を架設するための検体容器搬入部と前記検体容器の試料を分注して複数同時に前処理できる前処理機構と分注済みの前記検体容器を搬出するための検体容器搬出部と前記前処理機構で前処理された複数の試料を架設して同時に蛍光測定できる検出部と前記検出部にて蛍光測定中に平行して前処理を実行できる核酸分析装置において、前処理時間および蛍光測定時間の異なる複数の試料が連続的に分析依頼されても、全試料について分析開始から測定終了までの予定時間を計画し且つ、分析を開始してからの前処理経過時間および蛍光測定経過時間を管理することで前処理開始可能な時間を予測して、分析中に次の分析依頼されている試料の前処理を適切な時間に開始する核酸分析装置。本発明を実施することで、ひとつまたは複数の前処理時間および、測定時間が異なる試料が連続して依頼されても、試料毎に分析開始から測定終了までの時間を管理することで、分析中であっても、次に分析依頼されている試料の前処理が開始できるかを適切に判断することができ、装置のスループットを向上することができる。
【0039】
さらに、装置のオペレータに、試料を架設するために適切なタイミングを事前に通知することで、効率よく装置を稼動することができ且つ、試料を常温で放置する時間を最小限にでき、蒸発や劣化をすることができる。
【実施例2】
【0040】
図5は本発明における核酸抽出装置の別の実施例のブロック構成図である。
【0041】
分析条件や分析項目を入力するための入出力装置1と、入出力装置1から依頼された分析条件をもとに装置を動作させるためのスケジュール情報3を生成する分析計画部2と、生成されたスケジュール情報3に従い、装置を時系列的に実行する分析実行部4と、各温調ユニット(例えば、反応ステーション23)の温度条件・試料処理時間・温度調整時間(後に詳述)、依頼された分析条件や分析項目をもとに算出した試料が当該温調ユニットに到達するまでの時間(以後「前処理時間」と表記)、及び試料ごとの経過時間が格納されるユニット管理情報5と、装置のモータなどを制御する装置制御部6で構成される。
【0042】
オペレータは、入出力装置1に同一条件下で分析を行う試料群について分析条件や分析項目を入力(以後「RUN」と表記)し、分析計画部2に分析を依頼する。分析計画部2は、依頼されたRUN情報から装置を動作させるためのスケジュール情報3を生成すると共に、各温調ユニットの温度条件・試料処理時間,試料の前処理時間、及び試料IDをユニット管理情報5に登録する。
【0043】
分析未実行状態の場合には、分析計画部2は分析開始を分析実行部4に依頼する。この際、生成されるスケジュール情報3の内容は、モータなどの機構の動作を時系列に列挙したものである。分析実行部4は、スケジュール情報3に従い装置制御部6に対して機構を動作させるための命令を発行し、装置制御部6は命令に該当するモータなどの機構を制御する。
【0044】
分析が開始された場合、分析実行部4はユニット管理情報5に試料が当該温調ユニットに搬入されてからの経過時間を周期的且つ、試料毎に更新する。各温調ユニットの使用状況は、ユニット管理情報5に格納された試料処理時間と試料ごとの経過時間を比較することで把握することができる(後述する図6参照)。
【0045】
分析中に入出力装置1から次のRUNが入力された場合、分析計画部2は前記と同様に新たなスケジュール情報3とユニット管理情報5を生成する。
【0046】
この時、分析計画部2はユニット管理情報5から現行RUNの温度条件・試料処理時間、及び試料ごとの経過時間を取得し、試料処理時間・試料ごとの経過時間から『現行RUNの当該温調ユニットにおける使用残り時間(以後「残処理時間」と表記)』を算出する。さらに、現行RUNと次RUNの温度条件から『温度調整に必要な時間(以後「温度調整時間」と表記)』を算出する。
【0047】
ここで、温度調整時間について、補足する。図6において、RUN1では、温調ユニットを65℃にする必要があり、RUN2では、95℃にする必要ある。この時、温調ユニットを65℃から95℃に変更するためにかかる時間を、温度調整時間という。
【0048】
『残処理時間+温度調整時間<次RUNの前処理時間』の場合、次RUNの試料が当該温調ユニットに搬入される時刻には、現行RUNの最終の試料が通過、及び温度調整が完了できるとみなし、直ちに次RUNの前処理を開始する。また現行RUNの最終の試料が通過後、当該温調ユニットの温度制御を開始する。
【0049】
『残処理時間+温度調整時間>次RUNの前処理時間』の場合、当該温調ユニットの温度調整が完了したタイミングで、次RUNの試料が搬入できる前処理開始時間を算出する。
【0050】
分析中に次の試料の分析依頼があっても、残処理時間+温度調整時間と、前処理時間を比較することで、次RUNの試料が停滞することなく当該温調ユニットに搬入できる適切なタイミングで次RUNの前処理を開始することができる。また、残処理時間を把握することで、現行RUNの最終試料通過後すぐに当該温調ユニットの温度調整を開始することができる。これにより各温調ユニットを無駄なく使うことができ、次RUN開始までの待ち時間を短縮することができる。
【0051】
なお、本実施例の核酸分析装置は、図2と同じであるため、その説明を省略する。
【0052】
前記の核酸分析装置によれば、反応ステーション22で試料・試薬を吐出された複数の反応容器21は、グリッパユニット18および、グリッパアームロボットXY軸19にて反応ステーション23,回転インキュベータ24,攪拌装置28を経て検出ユニット30に架設され、計画された予定時間の間、増幅・検出を実行する。この状態で、次の分析依頼されると、分析計画部2によって新たに温調ユニット(例えば、反応ステーション23,回転インキュベータ24,攪拌装置28,検出ユニット30)ごとのユニット管理情報5が生成される。
【0053】
図6を用いてユニット管理情報5の詳細を説明する。
【0054】
ユニット管理情報5は、分析依頼情報であるRUNを識別するためのユニークなIDと、現行RUNの温調ユニットの温度条件,当該温調ユニットで試料を処理する時間,分析項目と機構の動作時間から計画された当該温調ユニットまで検体が到達するまでの前処理時間、及び試料ごとのIDと試料が搬入されてからの経過時間が記録できる。
【0055】
経過時間は、分析実行部4にて試料搬入後に時間が経過するごとに更新され、当該温調ユニットから試料が搬出されるまでの時間は、処理時間から経過時間を差し引いた残り時間(残処理時間)となる。また、当該温調ユニットについて現行RUNの残処理時間は、処理時間から経過時間を差し引いた残り時間が最も大きい試料の時間となる。
【0056】
次に分析依頼されているRUNのユニット管理情報5にも、現行RUN同様の温度,処理時間,前処理時間が予め計画されており、現行RUNの残処理時間・温度調整時間と次RUNの前処理時間を比較することで、次RUNの試料が停滞することなく当該温調ユニットに搬入できる適切な時間で次RUNの前処理を開始することができる。また、現RUNの残処理時間を把握することで、最終試料通過後すぐに当該温調ユニットの温度調整を開始することができる。
【0057】
図6の例によると、当該温調ユニットにおいてRUN1は全試料処理済み、RUN2は試料ID6が処理中である。RUN2の残処理時間とRUN2からRUN3への温度調整時間を足した時間がRUN3の前処理時間より短ければ、RUN3の試料(ID7)が当該温調ユニットに搬入される時間には、RUN2の最終の試料(ID6)が通過、及び温度調整が完了できるとみなし、RUN3の試料ID7の前処理を開始する。またRUN2の試料ID6が通過後、直ちに温度制御を開始する。
【0058】
なお、RUN2の試料ID6の経過時間(1min)が処理時間(3min)に到達していないため、当該温調ユニット上にID6の試料が残っていることが把握できる。また、ID6の残処理時間は『処理時間−経過時間』の2minである。
【0059】
図7は同実施例における分析開始時のフローチャート図である。
【0060】
オペレータは、次に分析する試料の分析依頼情報を入出力装置1へ入力する(S1)。
【0061】
分析依頼された分析条件・分析項目から次RUNの前処理時間を算出する(S2)。
【0062】
分析依頼された分析条件、及びS2で算出した前処理時間からユニット管理情報5を生成する(S3)。
【0063】
オペレータにより検体容器10を検体搬入ユニット11に設置する(S4)。
【0064】
ユニット管理情報5生成後に、装置の稼動状態を確認し(S5)、分析中でなければ直ちに分注部12に検体容器が搬入(S12)され、分析が開始される(S13)。
【0065】
装置が分析状態の場合には、現行RUNにおける当該温調ユニットの残処理時間(S6),現行RUNと次RUNの温度条件から当該温調ユニットの温度調整時間をユニット管理情報5から算出(S7)し、また次RUNの前処理時間をユニット管理情報5から抽出する(S8)。
【0066】
残処理時間と温度調整時間を足した時間を前処理時間と比較(S9)し、前処理時間のほうが長い場合には、直ちに次RUNの処理を開始したとしても、前処理時間中に現行RUNの試料は当該温調ユニットから搬出され、またその後の温度調整も完了するとみなし、分注部12に検体容器が搬入(S12)、及び当該温調ユニットの温度調整を開始し分析が開始される(S13)。
【0067】
残処理時間と温度調整時間を足した時間のほうが長い場合には、温度調整が完了するタイミングで当該温調ユニットに試料を搬入できる前処理開始時間を算出(S10)し、S10で算出した時間経過後、分注部12に検体容器を搬入(S12)、及び当該温調ユニットの温度調整を開始し分析が開始される(S13)。
【産業上の利用可能性】
【0068】
前処理時間および蛍光測定時間の異なる複数の試料が連続的に分析依頼される核酸分析装置において、分析中に次の試料の前処理を開始することで、分析時間を短縮することができ且つ、オペレータに試料を架設する適切な時間を通知することで、試料の常温放置による劣化を最小限に抑えることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 入出力装置
2 分析計画部
3 スケジュール情報
4 分析実行部
5 ユニット管理情報
5a 分析工程管理情報(予約,予定)
5b 分析工程管理情報(実績)
6 装置制御部
7 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の試料を同時に前処理する前処理機構と、前処理機構で前処理された複数の試料を架設して蛍光測定する検出部とを備え、検出部にて行う蛍光測定に並行して前処理機構にて前処理を実行する核酸分析装置において、
検出部の空き数,検出部にて蛍光測定中の各試料の分析終了予定時間、および次分析の各試料の前処理終了予定時間から、次分析の前処理開始のタイミングを制御することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
検出部の空き数と、次分析の試料数を比較し、検出部の空き数が次分析の試料数以上である場合には前処理を開始することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項3】
請求項1において、
検出部の空き数と、次分析の試料数を比較し、検出部の空き数の方が次分析の試料数よりも少ない場合、次の(a)と(b)を時間が短い順に次分析の各試料数分同士を比較し、一つでも(a)の方が長い場合には、前処理を開始できるまでの時間を表示することを特徴とする核酸分析装置。
(a)蛍光測定中の各試料の分析終了予定時間
(b)次分析の各試料の前処理終了予定時間
【請求項4】
請求項3において、
前処理を開始できるまでの時間は、次分析の各試料全ての時間について分析終了予定時間の方が短くなるまでの時間であることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項5】
請求項1において、
検出部の空き数と、次分析の試料数を比較し、検出部の空き数の方が次分析の試料数よりも少ない場合、次の(a)と(b)を時間が短い順に次分析の各試料数分同士を比較し、全て(a)の方が短い場合には、前処理を開始することを特徴とする核酸分析装置。
(a)蛍光測定中の各試料の分析終了予定時間
(b)次分析の各試料の前処理終了予定時間
【請求項6】
請求項1において、
前処理終了予定時間および分析終了予定時間は、分析条件および分析項目を基に算出することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項7】
請求項1において、
次分析の前処理開始のタイミングを表示することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項8】
温度変更可能な温調部を有する核酸分析装置において、
温調ユニット上で処理中の試料の残処理時間、次の分析のために温調部の温度を変化させるのに要する時間、次の分析の試料が温調ユニットに到達するまでの時間を比較し、次の分析を開始するタイミングを制御することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項9】
温調ユニット上で処理中の試料の残処理時間と次の分析のために温調部の温度を変化させるのに要する時間の合計が、次の分析の試料が温調ユニットに到達するまでの時間よりも短い場合、直ちに次の分析を開始することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項10】
温調ユニット上で処理中の試料の残処理時間と次の分析のために温調部の温度を変化させるのに要する時間の合計が、次の分析の試料が温調ユニットに到達するまでの時間よりも長い場合、温調ユニット上で処理中の試料の残処理時間と次の分析のために温調部の温度を変化させるのに要する時間の合計が次の分析の試料が温調ユニットに到達するまでの時間と等しいか又は短くなったタイミングで次の分析を開始することを特徴とする核酸分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−47920(P2011−47920A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65409(P2010−65409)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】