核酸回収試薬およびそれを用いた核酸増幅試薬キット、ならびに核酸回収方法およびそれを用いた核酸増幅方法
【解決すべき課題】
生体試料等に含まれる核酸を、煩雑な操作を必要とせず、簡単な操作で核酸を抽出し、増幅することができる試薬および方法を提供する。
【解決手段】
本発明の核酸回収試薬は、無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩を含有し、該無機塩が核酸との沈殿を生成する。
生体試料等に含まれる核酸を、煩雑な操作を必要とせず、簡単な操作で核酸を抽出し、増幅することができる試薬および方法を提供する。
【解決手段】
本発明の核酸回収試薬は、無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩を含有し、該無機塩が核酸との沈殿を生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料等から核酸を回収する核酸回収試薬およびそれを用いた核酸増幅試薬キット、ならびに核酸回収方法およびそれを用いた核酸増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応を用いた核酸の増幅法の確立は、核酸の用途の拡大をもたらした。また、核酸をより高感受性で、またはより高速で分析するための技術(RT−PCR、LAMP等)の開発に伴い、核酸の増幅法は、研究のツール、診断ツール、治療剤等として、多様な用途において有用性が見出されている。そして、増幅法の出発材料または増幅産物である核酸をサンプル(体液、組織、細胞等)等から回収する技術も一層の改善が必要とされている。
【0003】
核酸を含む生体試料から核酸を回収する方法として、これまで多くの技術が開発されている。代表的な方法としては、フェノール、クロロホルム等の有機溶媒によりタンパク質等の夾雑物を変性させて沈殿させた後、水相中の核酸を回収する有機抽出法、核酸を含む溶液に沈殿剤(エタノール、イソプロパノール等)または共沈剤(高分子多糖類)を加え、沈殿となった核酸を遠心分離によって回収する沈殿法等が知られており、簡易的な方法としては、イオン交換水で希釈した試料を凍結融解を繰り返し、アルカリ溶液を添加後、油液分離、加熱処理等を行うアルカリ溶解法、細胞または組織を煮沸するだけの方法等が知られている。
【0004】
有機抽出法はタンパク質の除去能力が高いので、夾雑物を大量に含むサンプル(例えば、組織、血液等)から核酸を回収する場合によく使用されている。有機抽出法としては、例えば、回収率を高めるために、水不溶性の高分子化合物を含む有機溶媒を使用して核酸を水相に入りやすくし、核酸を水相に移行した後、水相にアルコールを加えて沈殿させ、遠心分離で回収する方法(特許文献1)が提案されている。しかし、有機抽出法は、フェノール等の毒性の強い有機溶媒を使用するため、試薬の取り扱いに注意が必要である。また、遠心分離後すみやかに液層を分取する必要があり、その手順は、特にサンプル数が多い場合複雑となる。
【0005】
沈殿法としては高分子多糖類(デキストランまたはグリコーゲン)等の共沈剤を加えて沈殿を行う方法(特許文献2)、陽イオン洗浄剤を用いて核酸を有機相(アルコール等)に溶解し、無機塩溶液を加えて沈殿させる方法(特許文献3)、2価以上の遷移金属イオンを接触させることにより、試料中の夾雑物を沈殿させ、上清に残るRNAを回収する方法(特許文献4)等が提案されている。沈殿法は、例えばアルコール沈殿の場合、高い回収率を得るために長時間の冷却または共沈剤の添加を必要とし、沈殿を回収するために高速遠心分離と乾燥を必要とする。また、回収される核酸は不溶化しているので、使用するためには再可溶化しなければならない。
【0006】
また、核酸をより簡易に回収するための方法として、様々な固相抽出法が開発されている。固相抽出法は、核酸と可逆的に結合する特性を有する固相担体に核酸を吸着させ、次いで担体を回収することによって、サンプル中の夾雑物から核酸を分離する方法であり、必要であれば、核酸を担体から分離する工程がさらに加えられる。固相抽出のための担体として、ガラス粉末、ガラス繊維、シリカ粒子、セライト、不織布等が知られている。固相抽出法としては、例えばBoom法が挙げられ、カオトロピック剤による核酸の溶解およびヌクレアーゼの不活化と、シリカ粒子または珪藻の核酸吸着作用とを組み合わせた核酸回収法(特許文献5)が提案されている。また、ゲル電気泳動によって核酸を分離し、不織布で吸着させて透析精製する方法も開発されている(非特許文献1)。対象とする核酸がmRNAの場合、RNAのポリペプチド配列の5’末端ポリA配列に相補的に結合するポリT配列を成分として含む担体を使用して、mRNAのみを回収することができる(例えば、オリゴdTカラムとして知られている)。さらに、特許文献6には、カオチン性基を結合させた固相担体に核酸を吸着させ、次いでアニオン性物質で処理することによって核酸とカオチン性担体とを分離する方法が開示されており、磁性を有する担体に核酸吸着特性を持たせる手段も開発されている。特許文献7には、酸化鉄等の常磁性粒子に核酸を吸着させ、磁場の作用を利用して常磁性粒子を回収する方法が開示されている。
【0007】
固相抽出法の場合、核酸の回収率は、担体の性質および担体の表面積に依存する。すなわち、繊維、粒子等の固相担体を用いる場合、使用可能な担体の量は溶液の容積に制限され、それによって吸着可能な核酸の量が制限される。したがって、サンプルが少量である場合、または目的とする核酸がサンプル中に微量しか存在しない場合等においては、核酸精製の段階で高い回収率を得ることが必要となる。
【0008】
以上のように、核酸を含む試料の種類あるいは抽出された核酸の使用目的により、様々な核酸抽出法が提案されているが、いずれの場合においても、沈殿、分離、洗浄、精製等の煩雑な操作を組み合わせて行う必要であり、簡易的と言われるアルカリ溶解法や煮沸法でも凍結、煮沸等の温度制御が要求される。また、DNAが回収できてもRNAの回収率が低い場合、あるいはその逆にDNAの回収率が低い場合や、短鎖の核酸の回収率が低い場合もあり、効率的で簡易な核酸回収法の開発が望まれている。
【特許文献1】特開平11−253158号公報
【特許文献2】特開平7−236499号公報
【特許文献3】特許2791367号公報
【特許文献4】特表2001−516763号公報
【特許文献5】米国特許第5,234,809号
【特許文献6】特開2001−352979号公報
【特許文献7】特開2000−159791号公報
【非特許文献1】渡辺および大竹、「アガロースゲルからの新しいDNA回収法―透析膜と不織布を用いたDNA回収チップの開発」、蛋白質核酸酵素、1999年、第44巻、第10号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、生体試料等に含まれる核酸を、従来のような煩雑な操作を必要とせず、簡単な操作で核酸を抽出し、増幅することができる試薬および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩と核酸を接触させると、核酸を含有する沈殿が生成し、夾雑物を含む試料等から核酸を効率的に回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩を含有し、該無機塩が核酸との沈殿を生成する、核酸回収試薬に関する。
【0012】
また、本発明は、無機陽イオンが鉄イオンおよび/または銅イオンである、前記核酸回収試薬に関する。
【0013】
さらに、本発明は、無機陰イオンがリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンである、前記核酸回収試薬に関する。
【0014】
また、本発明は、無機塩が水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅およびリン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種である、前記核酸回収試薬に関する。
【0015】
さらに、本発明は、無機塩が水酸化鉄であり、さらに、マグネタイトを含有する、前記核酸回収試薬に関する。
【0016】
また、本発明は、無機塩がアルカリ水溶液中に含まれる、前記核酸回収試薬に関する。
【0017】
さらに、本発明は、さらに、アルブミン類を含有する、前記核酸回収試薬に関する。
【0018】
また、本発明は、前記核酸回収試薬を含む、核酸増幅用試薬キットに関する。
【0019】
さらに、本発明は、核酸と無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩との沈殿現象を利用して核酸を回収する、核酸回収方法に関する。
【0020】
また、本発明は、試料中の核酸と無機塩とを共沈させる、前記核酸回収方法に関する。
【0021】
さらに、本発明は、無機塩の沈殿物を生成させた後、核酸を添加し、該無機塩の沈殿物に該核酸を吸着させる、前記核酸回収方法に関する。
【0022】
また、本発明は、無機陽イオンが鉄イオンおよび/または銅イオンである、前記核酸回収方法に関する。
【0023】
さらに、本発明は、無機陰イオンがリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンである、前記核酸回収方法に関する。
【0024】
また、本発明は、無機塩が水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅およびリン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種である、前記核酸回収方法に関する。
【0025】
さらに、本発明は、無機塩として水酸化鉄を用い、水酸化鉄およびマグネタイトと核酸を接触させ、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物を生成させる、前記核酸回収方法に関する。
【0026】
また、本発明は、さらに、アルブミン類を含有する、前記核酸回収方法に関する。
【0027】
さらに、本発明は、アルカリ性条件下で行う、前記核酸回収方法に関する。
【0028】
また、本発明は、前記方法による核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程を含む、核酸増幅方法に関する。
【0029】
さらに、本発明は、核酸以外の物質を洗浄除去する工程を含む、前記核酸増幅方法に関する。
【0030】
また、本発明は、前記方法により回収した沈殿物について、以下の工程を施すことを含む、核酸増幅方法に関する。
a)核酸を含む沈殿物を磁性体により吸着させ、核酸以外の物質を除去する工程、および
b)核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程。
【0031】
さらに、本発明は、LAMP法を用いる、前記核酸増幅方法に関する。
【0032】
本発明によれば、核酸と無機塩との沈殿現象を利用して核酸を簡易に回収することができる。特に、無機陽イオンとして鉄イオンを用いた無機塩は、核酸との沈殿生成速度が速く、核酸を含む混合物から核酸を効率よく回収することができる。核酸は沈殿した無機塩に吸着させてもよいが、核酸の存在下で無機塩を加え、核酸を巻き込んで沈殿させるのがより効率的である。また、無機塩として水酸化鉄を使用する場合には、さらに試薬成分としてマグネタイトを加え、水酸化鉄およびマグネタイトの存在下で核酸を添加し、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物を生成させるのが効果的である。このようにして生成した複合体は全体として磁性を有するため、磁気分離が可能であり、また、核酸増幅等の後の処理において核酸を含む沈殿物を磁性体で吸着し、核酸以外の物質を洗浄除去することが可能である。
【0033】
さらに、本発明の重要な特徴は、生成した沈殿物から核酸を溶出させる操作を必要とせず、沈殿物に直接核酸増幅用試薬を作用させて沈殿物に含まれる核酸を増幅できることである。これは、本発明によって生成する核酸を含む沈殿物においては、核酸と無機塩による沈殿物を生成する場合、または核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物を生成する場合のいずれの場合も、核酸と無機塩または核酸と無機塩およびマグネタイトとがゆるやかな結合を形成するためであると考えられる。したがって、本発明によれば、より簡易に核酸を回収し、増幅することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
[I]核酸回収試薬
本発明の核酸回収試薬は、無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩を含有する。
【0035】
(1)無機塩
無機塩は、核酸と沈殿を生成するものであればよい。無機塩を構成する無機陽イオンは、好ましくは周期律表第3族〜第12族の遷移金属元素のイオンを含有する塩であり、より好ましくは鉄イオンおよび/または銅イオンを含有する塩であり、さらに好ましくは鉄イオンを含有する塩である。鉄イオンは2価であっても3価であってもよい。また、銅イオンは1価であっても2価であってもよいが、通常2価である。
【0036】
無機塩を構成する無機陰イオンは、無機陽イオンとの組み合わせにより、核酸との反応で生成する沈殿の生成速度の速いものが好ましい。無機陰イオンとしては、例えば、水酸化物イオン、リン酸イオン、ピロリン酸イオン、炭酸イオン等が使用可能である。無機陰イオンは、核酸の回収率の観点から水酸化物イオンおよび/またはリン酸イオンが好ましく、磁気分離等の観点からは水酸化物イオンが好ましい。無機陽イオンおよび無機陰イオンは、それぞれ1種ずつ用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明に用いる具体的な無機塩としては、水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅、リン酸銅等を挙げることができる。これらの無機塩は単独で用いても2種以上を併用してもよい。本明細書において、水酸化鉄は水酸化第一鉄(水酸化鉄(II))、水酸化第二鉄(水酸化鉄(III))、水酸化第二鉄第一鉄(水酸化鉄(III)鉄(II))等を含み、リン酸鉄はリン酸第一鉄(リン酸鉄(II))、リン酸第二鉄(リン酸鉄(III))、リン酸鉄(III)鉄(II)、ピロリン酸鉄等を含む。また、水酸化銅は水酸化第一銅(水酸化銅(I))、水酸化第二銅(水酸化銅(II))等を含み、リン酸銅はリン酸第二銅(リン酸銅(II))、リン酸銅ナトリウム等を含む。核酸回収試薬に用いる無機塩の量は特に限定されず、試料中の核酸の量に応じて適宜調整してよい。
【0038】
本発明の核酸回収試薬は、無機塩と試料中の核酸を接触させることができれば、試薬の形態はとくに限定されない。例えば、生体試料(血液、尿等)中に無機塩を直接添加する形態であっても、無機塩を含有する溶液(水溶液、バッファー(緩衝液)等)の形態であってもよい。無機塩が溶液中に含まれる場合、無機塩はその一部が無機陽イオンおよび無機陰イオンに解離していてもよい。
【0039】
無機塩を含有する溶液はアルカリ水溶液であるのが好ましく、アルカリ水溶液は、好ましくはpH7を超えて14以下であり、より好ましくはpH10〜13である。また、アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を含有する水溶液であっても、リン酸バッファー、トリスバッファー等のアルカリ性のバッファーであってもよい。また、アルカリ水溶液にアルコール等の有機溶媒等を添加してもよい。
【0040】
核酸回収試薬は上記の無機塩を直接含有してもよく、また安定性等を考慮して使用時に無機塩を調製してもよい。例えば、無機塩として水酸化鉄を用いる場合、塩化第二鉄(塩化鉄(III))(例えば、塩化鉄を含有する水溶液)と水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用意し、塩化鉄(III)にアルカリ水溶液を加えることにより水酸化鉄を調製してもよい。また、無機塩としてリン酸鉄を用いる場合は、塩化鉄(III)にアルカリ水溶液としてリン酸バッファーを加えることによりリン酸鉄を調製してもよい。ここで用いるアルカリ水溶液は、上記のアルカリ水溶液の場合と同様でよく、例えば、pHは好ましくはpH7を超えて14以下、より好ましくはpH10〜13である。
【0041】
(2)マグネタイト
無機塩が水酸化鉄の場合、核酸回収試薬の構成成分としてマグネタイトを加え、水酸化鉄およびマグネタイトと核酸試料とを接触させ、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトの複合体を生成させ、生成した核酸を含む沈殿物を磁気分離により溶液から分離することができる。マグネタイト(Fe3O4)は、核酸と無機塩との複合体を形成する観点から微粒子であるのが好ましく、マグネタイトの粒径は好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.2〜1μmである。マグネタイトの粒径をかかる範囲に調整することにより、核酸および無機塩との適度な複合体が形成され、核酸の回収効率を高めることができる。
【0042】
核酸回収試薬中のマグネタイトの量は特に限定されないが、核酸および無機塩との適度な複合体を形成する観点から、無機塩に対するモル比(無機塩:マグネタイト)が、好ましくは1:0.1〜10、より好ましくは1:0.5〜2である。
【0043】
(3)その他の成分
本発明の核酸回収試薬は、本発明の目的を損わない範囲で上記以外の成分を適宜含有してもよい。他の成分の例としては、pH緩衝剤、アルブミン類[牛血清アルブミン(BSA)等]等のタンパク質、界面活性剤、糖類等が挙げられる。特に、試薬にアルブミン類を添加すると沈殿生成の反応速度が速くなり、回収率が上昇するため好ましい。アルブミン類の添加量は、反応溶液の全質量に対し、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜4質量%である。
【0044】
本発明の核酸回収試薬は、例えば核酸増幅用試薬キットを構成する試薬として用いることもできる。本発明の核酸回収試薬で回収した核酸は、沈殿物から核酸を溶出する等の操作により分離する必要がなく、汎用性を有することから、PCR、RT−PCR、LAMP等の任意の核酸増幅用試薬に用いることができる。
【0045】
[II]核酸回収方法
本発明の核酸回収方法は、無機陽イオンと無機陰イオンを組み合わせた無機塩と核酸とを接触させることにより、核酸と無機塩との沈殿物を生じさせて核酸を回収するものである。沈殿物は、溶液中、核酸と無機塩を接触させて生成させてもよいし、無機沈殿物自体に核酸の吸着性があるため、予め無機沈殿物を生成させた後に核酸試料を添加して吸着させてもよい。試験の結果では、溶液中で核酸と無機塩を接触させて沈殿物を生成させた方が、高い回収率を示している。これは、無機沈殿物が生成する際に核酸を取り込んで一緒に沈殿するためと考えられる。もちろん、無機沈殿物生成後に核酸試料を添加しても核酸検出等の実用に価する回収率を達成できる。
【0046】
本発明の核酸回収方法は、溶液中、核酸と無機塩を接触させて沈殿物を生成させる場合、および予め無機沈殿を生成させた後に核酸を添加して吸着させる場合のいずれの場合も上記の本発明の核酸回収試薬を用いて行うことができる。
【0047】
本発明においては、核酸回収反応をアルカリ性条件で行うのが好ましい。また、遺伝子検査においては、測定対象のウイルス、細菌等をアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)で溶解して核酸を遊離させるという方法を用いることができるが、本発明によれば、アルカリ溶液を用いることにより核酸回収試薬が溶菌化試薬を兼ねることが可能であるため、操作がさらに簡便となる。
【0048】
沈殿した核酸の回収方法は、最終的な利用形態によって選択することが可能である。例えば遠心分離、ろ紙によるろ過等の汎用されている方法を用いることもできる。
【0049】
マグネタイトの存在下で、核酸を含む沈殿物を生成させる場合、マグネタイトだけでなく、沈殿物全体が磁性化するため、沈殿物の移送や核酸回収操作に磁力を用いることが可能となる。これは、マグネタイトの微粒子が効率的に沈殿物へ取り込まれるためと推察される。図10に示すように、磁力によって核酸を含む無機沈殿物を回収する方法は、核酸増幅反応の阻害成分等の不溶成分の混入が少ないため、遠心分離等の方法より高い精製度を有する。
【0050】
回収した無機沈殿物は、さらにバッファー等を用いて核酸以外の物質を洗浄することが可能である。核酸増幅反応等に供する場合、予め反応を阻害する物質を除去することが望ましい。
【0051】
本発明の核酸回収方法は、核酸として長鎖のDNAに限らず、RNA等の短鎖の核酸も回収することができる。例えば、542bの短鎖核酸であるSARS管理検体も回収することが可能である。
【0052】
このようにして抽出された核酸は、PCR法、LAMP法等の核酸増幅法やハイブリダイゼーション法等の公知の核酸分析等に利用できる。
【0053】
[III]核酸増幅法
代表的な核酸増幅法としてはPCR法が挙げられる。PCR法は、標的配列の両端の一方のセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドと、両端の他方のアンチセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドを2種類のプライマーとして用いた核酸増幅法である。相補的な2本鎖核酸を熱処理により1本鎖核酸に変性させ、各々の1本鎖核酸に3’側からプライマーを相補的に結合(アニール)させ、引き続き、鋳型依存性核酸合成酵素により結合したプライマーからDNA伸長させる。ここまでのサイクルを繰り返し行うことによって、標的配列を指数関数的に増幅することができ、その増幅産物は、電気泳動法、蛍光性インターカレーター法等を用いて検出できる。ただし、PCR法は各段階で反応温度が異なるため、反応の段階に応じて反応温度を制御する必要がある。
【0054】
本発明に使用可能な核酸増幅法はPCR法に限られず、好適な方法として例えば、LAMP(Loop−mediated isothermal AMPlification of DNA)法と呼ばれるループ媒介等温増幅法(国際公開第00/28082号等参照)が挙げられる。LAMP法は、鋳型となるヌクレオチドに自身の3'末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした核酸増幅法である。また、LAMP法では、プライマーの3'末端が常に試料に由来する領域に対してアニールするため、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能する。その結果、特異性の高い遺伝子配列の増幅反応が可能である。
【0055】
LAMP法では、計6領域の塩基配列を認識する少なくとも4種類のオリゴヌクレオチドからなるプライマー(インナープライマーFおよびRとアウタープライマーFおよびR)、鎖置換合成活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素、および基質を用い、熱変性を必要とせずに、終始等温で速やかに特異性の高い遺伝子増幅反応を進行させることができる。
【0056】
本発明の核酸増幅法は、核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程を含む。本発明の核酸回収試薬によって得られる沈殿物は、沈殿物から核酸を溶出させる操作を必要とせず、そのまま上記の核酸増幅法を用いて増幅させることができる。また、核酸増幅において、核酸以外の物質を洗浄除去する工程を含んでもよい。
【0057】
本発明の核酸増幅方法の好ましい実施態様は、水酸化鉄およびマグネタイトの存在下で核酸試料を加え、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体を沈殿物として回収し、生成した核酸を含む沈殿物について以下の工程による処理を施すことを含む。
a)核酸を含む沈殿物を磁性体により吸着させ、核酸以外の物質を除去する工程、および
b)核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程。
【0058】
この方法は、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物が、沈殿物全体に磁性を有することを利用したものであり、これにより核酸以外の物質を洗浄除去することができる。また、本発明の回収方法により生成した沈殿物は、核酸が水酸化鉄およびマグネタイトにゆるやかに結合しているため、沈殿物を核酸増幅用試薬と直接接触させることにより、沈殿物に含まれる核酸を増幅することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1
リン酸鉄(III)を用いた共沈法による核酸の回収およびLAMP法による核酸増幅
1.100mMの塩化鉄(III)水溶液(50mMのHClを含む)2.5μLをPCRチューブ(MJ Research, Inc. 8−strip 0.2mL thin−wall tubes)に分注した。
2.検体液(鋳型核酸(104コピーのλDNA)を含む100mMのリン酸バッファー溶液pH8.0)5μLを添加し、得られた前処理液をピペッティングで混合した。ただちに金属イオンが反応し、リン酸化物の沈殿を生じた。
3.卓上小型遠心分離機(6000rpm)により10秒間遠心分離し、沈殿物をペレットにした。
4.洗浄バッファー(10mMリン酸バッファー、pH8.0、0.1% Tween20)92.5μLを添加し、軽くピペッティングした。
5.卓上小型遠心分離機で軽くスピンダウンした後、添加した洗浄バッファー95μLを抜き取った(洗浄1回目)。
6.洗浄バッファー95μLを加え、軽くピペッティングした後に添加した洗浄バッファー95μLを抜き取った(洗浄2回目)。この操作を2回(2回洗浄)または4回(4回洗浄)繰り返した。洗浄したペレットを核酸増幅の試料とした。
7.ポジティブコントロール(PC)として、塩化鉄(III)水溶液を添加せず、検体液のみを核酸増幅の試料とした。また、ネガティブコントロール(NC)として、100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液を核酸増幅の試料とした。
8.LAMP法による核酸増幅
以下に示すLAMP反応液20μLを上記試料に添加し、ABI−7700(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて沈殿物に含まれる核酸を増幅した。
LAMP反応液(Loopamp DNA増幅キット、栄研化学(株)製)の基本組成
Tris-HCl(pH8.8) 20mM
KCl 10mM
(NH4)2SO4 10mM
MgSO4 8mM
Tween20 0.1%
ベタイン(Betaine) 0.8M
dNTPs 5.6mM
インナープライマー(FIP,BIP) 3.2μM
アウタープライマー(F3,B3) 0.8μM
(ループプライマー 1.6μM)
YO(オキサゾールイエロー) 0.25μg/mL
Bstポリメラーゼ 8U/tube
【0061】
プライマー:
・DNA増幅系 λDNA LH4.3
FIP:AGGCCAAGCT GCTTGCGGTA GCCGGACGCT ACCAGCTTCT
BIP:CAGGACGCTG TGGCATTGCA GATCATAGGT AAAGCGCCAC GC
F3: AAAACTCAAAT CAACAGGCG
B3: GACGGATATCA CCACGATCA
鋳型
市販(タカラバイオ(株))のλDNA(48.5kbp)を希釈して使用した。
核酸増幅
検体液から回収した核酸を含む沈殿物に20μLに調製したLAMP反応液(1.25×)を添加し、そのままABI−7700を用いて反応温度64℃で増幅した。図1に示すように核酸の増幅を確認した。
【0062】
実施例2
水酸化鉄(III)を用いた共沈法による核酸の回収およびLAMP法による核酸増幅
検体液としてリン酸バッファーの代わりに0.25Mの水酸化ナトリウムを含む溶液を用いた以外、実施例1と同様にして実験を行った。図2に示すように核酸の増幅を確認した。
【0063】
実施例3
リン酸銅(II)を用いた共沈法による核酸の回収およびLAMP法による核酸増幅
塩化鉄の代わりに硫酸銅を用いた以外、実施例1と同様にして実験を行った。硫酸銅水溶液には50mMの硫酸を含む。図3に示すように核酸の増幅を確認した。
【0064】
実施例4
検体液からのRNAの回収およびLAMP法によるRNAの増幅
検体をSARS管理検体へ変更し、核酸増幅をRNA増幅系で行った以外、実施例1と同様にして実験を行った。
LAMP反応液(Loopamp RNA増幅キット、栄研化学(株)製)の基本組成
Tris−HCl(pH8.8) 20mM
KCl 10mM
(NH4)2SO4 10mM
MgSO4 8mM
Tween20 0.1%
ベタイン(Betaine) 0.8M
dNTPs 5.6mM
インナープライマー(FIP,BIP) 3.2μM
アウタープライマー(F3,B3) 0.8μM
(ループプライマー 1.6μM)
YO(オキサゾールイエロー) 0.25μg/mL
酵素混合物(enzyme mix) 1μL/tube
【0065】
プライマー
・RNA増幅系 SARSキット
FIP:TGCATGACAG CCCTCGAAGA AGCTATTCGT CAC
BIP:GCTGTGGGTA CTAACCTACC TGTCAACATA ACCAGTCGG
F3: CTAATATGTT TATCACCCGC
B3: CTCTGGTGAA TTCTGTGTT
FLP:AAAGCCAATC CACGC
BLP:CCAGCTAGGA TTTTCTACAG G
鋳型
SARS管理検体(400コピー/5μL;542b)を使用
核酸増幅
検体液から回収した核酸を含む沈殿物に20μLに調製したLAMP反応液(1.25×)を添加し、そのままABI−7700を用いて反応温度62.5℃で増幅した。図4に示すように核酸の増幅を確認した。
【0066】
実施例5
濾紙による核酸の回収
実施例1で生成した沈澱物を濾紙に回収する実験を行った。沈澱物を生成させた反応液を洗浄液で1mLとした後、ろ過デバイスでろ過し、1mLの洗浄バッファーで2回洗浄した後、その濾紙をLAMP反応液へ投入した。ポジティブコントロール(PC)およびネガティブコントロール(NC)についても同様の操作を行った。蛍光リアルタイム測定機ロータージーンを用いて増幅を調べた。図5に示すように核酸の増幅を確認した。
【0067】
実施例6
吸着法による核酸の回収およびLAMP法による核酸増幅
1.50mMのHClを含む100mM塩化鉄(III)水溶液2.5μLをPCRチューブに分注した。
2.鋳型を含まない疑似検体液(100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液)5μLを添加し、得られた前処理液をピペッティングで混合した。ただちに金属イオンが反応し沈殿(リン酸化物あるいは水酸化物)を生じた。
3.卓上小型遠心機(6000rpm)で10秒間遠心分離し、沈殿をペレットにした。
4.上清5μL抜き取り、鋳型核酸(104コピーのλDNA)溶液5μL添加して軽くピペッティングし、10分間放置することによって鋳型核酸を無機沈澱に吸着させた。
5.以下、実施例1のプロトコールと同様の操作で洗浄を行い、核酸増幅の試料とした。
6.ポジティブコントロール(PC)として、検体液のみを核酸増幅の試料とした。また、ネガティブコントロール(NC)として、100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液を核酸増幅の試料とした。
7.上記の試料をLAMP反応に供した。実施例1および2の共沈法による場合と比較した結果を図6に示す。図6(A)および(B)に示すように、無機塩としてリン酸鉄を用いた場合、水酸化鉄を用いた場合のいずれの場合においても核酸の増幅を確認した。
【0068】
実施例7
マグネタイトを用いた核酸の回収
1.50mMのHClを含む100mM塩化鉄(III)水溶液2.5μLおよび0.2%マグネタイト懸濁液1μLをPCRチューブに分注した。
2.0.3M水酸化ナトリウム水溶液、0.15%Tween20を含む前処理液に鋳型核酸溶液(検体液)5μLを添加し、95℃で5分間加熱した後に室温で冷却したものを1のチューブに分注し、得られた液をピペッティングで混合した。
3.ネオジウム磁石上にチューブを配置し、沈殿を凝集させた。7.5μLを残して上清を抜き取った。
4.ネオジウム磁石上で洗浄バッファー(10mMリン酸バッファーpH8.0、0.1% Tween20)92.5μLを添加し、軽くピペッティングした後、添加した洗浄バッファー95μLを抜き取った。(洗浄1回目)
5.ネオジウム磁石上で洗浄バッファー92.5μLを添加し、軽くピペッティングした後、添加した洗浄バッファー95μLを抜き取った。(洗浄2回目)
6.対照として水酸化鉄を用いず、マグネタイトのみを添加した前処理液を調製し、これに検体液を加えて同様に処理した。また、ポジティブコントロール(PC)として、検体液のみを核酸増幅の試料とした。また、ネガティブコントロール(NC)として、100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液を核酸増幅の試料とした。
7.以下、実施例1のプロトコールと同様の操作でLAMP反応に供した。図7に示すように核酸の増幅を確認した。
【0069】
実施例8
核酸回収における牛血清アルブミン(BSA)の効果
実施例1および6の前処理液(反応溶液)にBSAを1質量%となるように添加し、実験を行った。図8(A)および(B)に示すように、前処理液中にBSAが存在してもリン酸鉄(III)への鋳型DNAの吸着を阻害せず、逆に、BSAを前処理液に1質量%含有する共沈法においては、LAMP反応の立ち上がり時間がPCコントロールとほぼ等しく、見かけ上高い回収率を示すことが分った。
【0070】
実施例9
検体液からの核酸の回収およびPCR法による核酸増幅
(1)実施例1と同様にして、検体液から核酸(鋳型DNA)を含む沈殿物ペレットを回収した。得られた沈殿物ペレットに洗浄バッファー(100mMリン酸バッファー、0.1% Tween20)100μLを加え、実施例1と同様にして洗浄した(この洗浄操作を4回繰り返した)。洗浄した沈殿物ペレットに以下のPCR反応液25μLを加え、以下の条件により核酸を増幅した。
PCR反応液の基本組成:
dNTP 1.8mM
Z−Taq(タカラバイオ(株)製) 1Unit
プライマー 0.5μM
BSA 1質量%
YO(オキサゾールイエロー) 0.25μg/mL
(Z−Taqバッファー中)
PCR装置: iCycler(バイオラッド社製)
プライマー配列:
F AAAACTCAAATCAACAGGCG
B GACGATATCACCACGATCA
PCR条件:
95℃−60℃−72℃を40サイクル行った。
【0071】
(2)対照実験
(a)ポジティブコントロール:検体の代わりに以下の擬似検体を用いた以外、(1)と同様にして核酸を増幅した。
擬似検体:0.1質量%Tween20、1質量%BSA、鋳型DNA(106コピー)を含む100mMリン酸バッファー(pH8.0)
(b)ネガティブコントロール:検体の代わりに100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液を用いた以外、(1)と同様にして核酸を増幅した。
(c)リン酸鉄なし:100mMの塩化鉄(III)水溶液(50mMのHClを含む)2.5μLを添加しなかった以外、(1)と同様にして核酸を増幅した。
【0072】
(3)結果
上記(1)および(2)により得られた結果を図9に示す。図9から明らかなように、リン酸鉄を用いた本発明のリン酸鉄共沈法の場合は、対照のリン酸鉄なしの場合より増幅サイクルが速かった。このことからリン酸鉄共沈法により回収された鋳型DNAを含む沈殿物から直接PCR法により増幅できることがわかる。ポジティブコントロールの増幅サイクルから推定したリン酸鉄共沈法の回収率は1〜10%であった。なお、ネガティブコントロールで起きている反応は非特異増幅と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図2】実施例2の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図3】実施例3の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図4】実施例4の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図5】実施例5の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図6】実施例6の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフであり、(A)はリン酸鉄を用いた場合を示し、(B)は水酸化鉄を用いた場合を示す。
【図7】実施例7の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図8】実施例8の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフであり、(A)は共沈法におけるBSAの効果を示し、(B)は吸着法におけるBSAの効果を示す。
【図9】実施例9の方法による核酸増幅反応において、サイクル数に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図10】(a)無機塩として水酸化鉄を用い、遠心分離によって核酸を回収する方法を示す概略図である。(b)無機塩として水酸化鉄を用い、磁気分離によって核酸を回収する方法を示す概略図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料等から核酸を回収する核酸回収試薬およびそれを用いた核酸増幅試薬キット、ならびに核酸回収方法およびそれを用いた核酸増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応を用いた核酸の増幅法の確立は、核酸の用途の拡大をもたらした。また、核酸をより高感受性で、またはより高速で分析するための技術(RT−PCR、LAMP等)の開発に伴い、核酸の増幅法は、研究のツール、診断ツール、治療剤等として、多様な用途において有用性が見出されている。そして、増幅法の出発材料または増幅産物である核酸をサンプル(体液、組織、細胞等)等から回収する技術も一層の改善が必要とされている。
【0003】
核酸を含む生体試料から核酸を回収する方法として、これまで多くの技術が開発されている。代表的な方法としては、フェノール、クロロホルム等の有機溶媒によりタンパク質等の夾雑物を変性させて沈殿させた後、水相中の核酸を回収する有機抽出法、核酸を含む溶液に沈殿剤(エタノール、イソプロパノール等)または共沈剤(高分子多糖類)を加え、沈殿となった核酸を遠心分離によって回収する沈殿法等が知られており、簡易的な方法としては、イオン交換水で希釈した試料を凍結融解を繰り返し、アルカリ溶液を添加後、油液分離、加熱処理等を行うアルカリ溶解法、細胞または組織を煮沸するだけの方法等が知られている。
【0004】
有機抽出法はタンパク質の除去能力が高いので、夾雑物を大量に含むサンプル(例えば、組織、血液等)から核酸を回収する場合によく使用されている。有機抽出法としては、例えば、回収率を高めるために、水不溶性の高分子化合物を含む有機溶媒を使用して核酸を水相に入りやすくし、核酸を水相に移行した後、水相にアルコールを加えて沈殿させ、遠心分離で回収する方法(特許文献1)が提案されている。しかし、有機抽出法は、フェノール等の毒性の強い有機溶媒を使用するため、試薬の取り扱いに注意が必要である。また、遠心分離後すみやかに液層を分取する必要があり、その手順は、特にサンプル数が多い場合複雑となる。
【0005】
沈殿法としては高分子多糖類(デキストランまたはグリコーゲン)等の共沈剤を加えて沈殿を行う方法(特許文献2)、陽イオン洗浄剤を用いて核酸を有機相(アルコール等)に溶解し、無機塩溶液を加えて沈殿させる方法(特許文献3)、2価以上の遷移金属イオンを接触させることにより、試料中の夾雑物を沈殿させ、上清に残るRNAを回収する方法(特許文献4)等が提案されている。沈殿法は、例えばアルコール沈殿の場合、高い回収率を得るために長時間の冷却または共沈剤の添加を必要とし、沈殿を回収するために高速遠心分離と乾燥を必要とする。また、回収される核酸は不溶化しているので、使用するためには再可溶化しなければならない。
【0006】
また、核酸をより簡易に回収するための方法として、様々な固相抽出法が開発されている。固相抽出法は、核酸と可逆的に結合する特性を有する固相担体に核酸を吸着させ、次いで担体を回収することによって、サンプル中の夾雑物から核酸を分離する方法であり、必要であれば、核酸を担体から分離する工程がさらに加えられる。固相抽出のための担体として、ガラス粉末、ガラス繊維、シリカ粒子、セライト、不織布等が知られている。固相抽出法としては、例えばBoom法が挙げられ、カオトロピック剤による核酸の溶解およびヌクレアーゼの不活化と、シリカ粒子または珪藻の核酸吸着作用とを組み合わせた核酸回収法(特許文献5)が提案されている。また、ゲル電気泳動によって核酸を分離し、不織布で吸着させて透析精製する方法も開発されている(非特許文献1)。対象とする核酸がmRNAの場合、RNAのポリペプチド配列の5’末端ポリA配列に相補的に結合するポリT配列を成分として含む担体を使用して、mRNAのみを回収することができる(例えば、オリゴdTカラムとして知られている)。さらに、特許文献6には、カオチン性基を結合させた固相担体に核酸を吸着させ、次いでアニオン性物質で処理することによって核酸とカオチン性担体とを分離する方法が開示されており、磁性を有する担体に核酸吸着特性を持たせる手段も開発されている。特許文献7には、酸化鉄等の常磁性粒子に核酸を吸着させ、磁場の作用を利用して常磁性粒子を回収する方法が開示されている。
【0007】
固相抽出法の場合、核酸の回収率は、担体の性質および担体の表面積に依存する。すなわち、繊維、粒子等の固相担体を用いる場合、使用可能な担体の量は溶液の容積に制限され、それによって吸着可能な核酸の量が制限される。したがって、サンプルが少量である場合、または目的とする核酸がサンプル中に微量しか存在しない場合等においては、核酸精製の段階で高い回収率を得ることが必要となる。
【0008】
以上のように、核酸を含む試料の種類あるいは抽出された核酸の使用目的により、様々な核酸抽出法が提案されているが、いずれの場合においても、沈殿、分離、洗浄、精製等の煩雑な操作を組み合わせて行う必要であり、簡易的と言われるアルカリ溶解法や煮沸法でも凍結、煮沸等の温度制御が要求される。また、DNAが回収できてもRNAの回収率が低い場合、あるいはその逆にDNAの回収率が低い場合や、短鎖の核酸の回収率が低い場合もあり、効率的で簡易な核酸回収法の開発が望まれている。
【特許文献1】特開平11−253158号公報
【特許文献2】特開平7−236499号公報
【特許文献3】特許2791367号公報
【特許文献4】特表2001−516763号公報
【特許文献5】米国特許第5,234,809号
【特許文献6】特開2001−352979号公報
【特許文献7】特開2000−159791号公報
【非特許文献1】渡辺および大竹、「アガロースゲルからの新しいDNA回収法―透析膜と不織布を用いたDNA回収チップの開発」、蛋白質核酸酵素、1999年、第44巻、第10号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、生体試料等に含まれる核酸を、従来のような煩雑な操作を必要とせず、簡単な操作で核酸を抽出し、増幅することができる試薬および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩と核酸を接触させると、核酸を含有する沈殿が生成し、夾雑物を含む試料等から核酸を効率的に回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩を含有し、該無機塩が核酸との沈殿を生成する、核酸回収試薬に関する。
【0012】
また、本発明は、無機陽イオンが鉄イオンおよび/または銅イオンである、前記核酸回収試薬に関する。
【0013】
さらに、本発明は、無機陰イオンがリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンである、前記核酸回収試薬に関する。
【0014】
また、本発明は、無機塩が水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅およびリン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種である、前記核酸回収試薬に関する。
【0015】
さらに、本発明は、無機塩が水酸化鉄であり、さらに、マグネタイトを含有する、前記核酸回収試薬に関する。
【0016】
また、本発明は、無機塩がアルカリ水溶液中に含まれる、前記核酸回収試薬に関する。
【0017】
さらに、本発明は、さらに、アルブミン類を含有する、前記核酸回収試薬に関する。
【0018】
また、本発明は、前記核酸回収試薬を含む、核酸増幅用試薬キットに関する。
【0019】
さらに、本発明は、核酸と無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩との沈殿現象を利用して核酸を回収する、核酸回収方法に関する。
【0020】
また、本発明は、試料中の核酸と無機塩とを共沈させる、前記核酸回収方法に関する。
【0021】
さらに、本発明は、無機塩の沈殿物を生成させた後、核酸を添加し、該無機塩の沈殿物に該核酸を吸着させる、前記核酸回収方法に関する。
【0022】
また、本発明は、無機陽イオンが鉄イオンおよび/または銅イオンである、前記核酸回収方法に関する。
【0023】
さらに、本発明は、無機陰イオンがリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンである、前記核酸回収方法に関する。
【0024】
また、本発明は、無機塩が水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅およびリン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種である、前記核酸回収方法に関する。
【0025】
さらに、本発明は、無機塩として水酸化鉄を用い、水酸化鉄およびマグネタイトと核酸を接触させ、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物を生成させる、前記核酸回収方法に関する。
【0026】
また、本発明は、さらに、アルブミン類を含有する、前記核酸回収方法に関する。
【0027】
さらに、本発明は、アルカリ性条件下で行う、前記核酸回収方法に関する。
【0028】
また、本発明は、前記方法による核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程を含む、核酸増幅方法に関する。
【0029】
さらに、本発明は、核酸以外の物質を洗浄除去する工程を含む、前記核酸増幅方法に関する。
【0030】
また、本発明は、前記方法により回収した沈殿物について、以下の工程を施すことを含む、核酸増幅方法に関する。
a)核酸を含む沈殿物を磁性体により吸着させ、核酸以外の物質を除去する工程、および
b)核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程。
【0031】
さらに、本発明は、LAMP法を用いる、前記核酸増幅方法に関する。
【0032】
本発明によれば、核酸と無機塩との沈殿現象を利用して核酸を簡易に回収することができる。特に、無機陽イオンとして鉄イオンを用いた無機塩は、核酸との沈殿生成速度が速く、核酸を含む混合物から核酸を効率よく回収することができる。核酸は沈殿した無機塩に吸着させてもよいが、核酸の存在下で無機塩を加え、核酸を巻き込んで沈殿させるのがより効率的である。また、無機塩として水酸化鉄を使用する場合には、さらに試薬成分としてマグネタイトを加え、水酸化鉄およびマグネタイトの存在下で核酸を添加し、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物を生成させるのが効果的である。このようにして生成した複合体は全体として磁性を有するため、磁気分離が可能であり、また、核酸増幅等の後の処理において核酸を含む沈殿物を磁性体で吸着し、核酸以外の物質を洗浄除去することが可能である。
【0033】
さらに、本発明の重要な特徴は、生成した沈殿物から核酸を溶出させる操作を必要とせず、沈殿物に直接核酸増幅用試薬を作用させて沈殿物に含まれる核酸を増幅できることである。これは、本発明によって生成する核酸を含む沈殿物においては、核酸と無機塩による沈殿物を生成する場合、または核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物を生成する場合のいずれの場合も、核酸と無機塩または核酸と無機塩およびマグネタイトとがゆるやかな結合を形成するためであると考えられる。したがって、本発明によれば、より簡易に核酸を回収し、増幅することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
[I]核酸回収試薬
本発明の核酸回収試薬は、無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩を含有する。
【0035】
(1)無機塩
無機塩は、核酸と沈殿を生成するものであればよい。無機塩を構成する無機陽イオンは、好ましくは周期律表第3族〜第12族の遷移金属元素のイオンを含有する塩であり、より好ましくは鉄イオンおよび/または銅イオンを含有する塩であり、さらに好ましくは鉄イオンを含有する塩である。鉄イオンは2価であっても3価であってもよい。また、銅イオンは1価であっても2価であってもよいが、通常2価である。
【0036】
無機塩を構成する無機陰イオンは、無機陽イオンとの組み合わせにより、核酸との反応で生成する沈殿の生成速度の速いものが好ましい。無機陰イオンとしては、例えば、水酸化物イオン、リン酸イオン、ピロリン酸イオン、炭酸イオン等が使用可能である。無機陰イオンは、核酸の回収率の観点から水酸化物イオンおよび/またはリン酸イオンが好ましく、磁気分離等の観点からは水酸化物イオンが好ましい。無機陽イオンおよび無機陰イオンは、それぞれ1種ずつ用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明に用いる具体的な無機塩としては、水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅、リン酸銅等を挙げることができる。これらの無機塩は単独で用いても2種以上を併用してもよい。本明細書において、水酸化鉄は水酸化第一鉄(水酸化鉄(II))、水酸化第二鉄(水酸化鉄(III))、水酸化第二鉄第一鉄(水酸化鉄(III)鉄(II))等を含み、リン酸鉄はリン酸第一鉄(リン酸鉄(II))、リン酸第二鉄(リン酸鉄(III))、リン酸鉄(III)鉄(II)、ピロリン酸鉄等を含む。また、水酸化銅は水酸化第一銅(水酸化銅(I))、水酸化第二銅(水酸化銅(II))等を含み、リン酸銅はリン酸第二銅(リン酸銅(II))、リン酸銅ナトリウム等を含む。核酸回収試薬に用いる無機塩の量は特に限定されず、試料中の核酸の量に応じて適宜調整してよい。
【0038】
本発明の核酸回収試薬は、無機塩と試料中の核酸を接触させることができれば、試薬の形態はとくに限定されない。例えば、生体試料(血液、尿等)中に無機塩を直接添加する形態であっても、無機塩を含有する溶液(水溶液、バッファー(緩衝液)等)の形態であってもよい。無機塩が溶液中に含まれる場合、無機塩はその一部が無機陽イオンおよび無機陰イオンに解離していてもよい。
【0039】
無機塩を含有する溶液はアルカリ水溶液であるのが好ましく、アルカリ水溶液は、好ましくはpH7を超えて14以下であり、より好ましくはpH10〜13である。また、アルカリ水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を含有する水溶液であっても、リン酸バッファー、トリスバッファー等のアルカリ性のバッファーであってもよい。また、アルカリ水溶液にアルコール等の有機溶媒等を添加してもよい。
【0040】
核酸回収試薬は上記の無機塩を直接含有してもよく、また安定性等を考慮して使用時に無機塩を調製してもよい。例えば、無機塩として水酸化鉄を用いる場合、塩化第二鉄(塩化鉄(III))(例えば、塩化鉄を含有する水溶液)と水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用意し、塩化鉄(III)にアルカリ水溶液を加えることにより水酸化鉄を調製してもよい。また、無機塩としてリン酸鉄を用いる場合は、塩化鉄(III)にアルカリ水溶液としてリン酸バッファーを加えることによりリン酸鉄を調製してもよい。ここで用いるアルカリ水溶液は、上記のアルカリ水溶液の場合と同様でよく、例えば、pHは好ましくはpH7を超えて14以下、より好ましくはpH10〜13である。
【0041】
(2)マグネタイト
無機塩が水酸化鉄の場合、核酸回収試薬の構成成分としてマグネタイトを加え、水酸化鉄およびマグネタイトと核酸試料とを接触させ、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトの複合体を生成させ、生成した核酸を含む沈殿物を磁気分離により溶液から分離することができる。マグネタイト(Fe3O4)は、核酸と無機塩との複合体を形成する観点から微粒子であるのが好ましく、マグネタイトの粒径は好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.2〜1μmである。マグネタイトの粒径をかかる範囲に調整することにより、核酸および無機塩との適度な複合体が形成され、核酸の回収効率を高めることができる。
【0042】
核酸回収試薬中のマグネタイトの量は特に限定されないが、核酸および無機塩との適度な複合体を形成する観点から、無機塩に対するモル比(無機塩:マグネタイト)が、好ましくは1:0.1〜10、より好ましくは1:0.5〜2である。
【0043】
(3)その他の成分
本発明の核酸回収試薬は、本発明の目的を損わない範囲で上記以外の成分を適宜含有してもよい。他の成分の例としては、pH緩衝剤、アルブミン類[牛血清アルブミン(BSA)等]等のタンパク質、界面活性剤、糖類等が挙げられる。特に、試薬にアルブミン類を添加すると沈殿生成の反応速度が速くなり、回収率が上昇するため好ましい。アルブミン類の添加量は、反応溶液の全質量に対し、好ましくは0.1〜20質量%であり、より好ましくは0.5〜4質量%である。
【0044】
本発明の核酸回収試薬は、例えば核酸増幅用試薬キットを構成する試薬として用いることもできる。本発明の核酸回収試薬で回収した核酸は、沈殿物から核酸を溶出する等の操作により分離する必要がなく、汎用性を有することから、PCR、RT−PCR、LAMP等の任意の核酸増幅用試薬に用いることができる。
【0045】
[II]核酸回収方法
本発明の核酸回収方法は、無機陽イオンと無機陰イオンを組み合わせた無機塩と核酸とを接触させることにより、核酸と無機塩との沈殿物を生じさせて核酸を回収するものである。沈殿物は、溶液中、核酸と無機塩を接触させて生成させてもよいし、無機沈殿物自体に核酸の吸着性があるため、予め無機沈殿物を生成させた後に核酸試料を添加して吸着させてもよい。試験の結果では、溶液中で核酸と無機塩を接触させて沈殿物を生成させた方が、高い回収率を示している。これは、無機沈殿物が生成する際に核酸を取り込んで一緒に沈殿するためと考えられる。もちろん、無機沈殿物生成後に核酸試料を添加しても核酸検出等の実用に価する回収率を達成できる。
【0046】
本発明の核酸回収方法は、溶液中、核酸と無機塩を接触させて沈殿物を生成させる場合、および予め無機沈殿を生成させた後に核酸を添加して吸着させる場合のいずれの場合も上記の本発明の核酸回収試薬を用いて行うことができる。
【0047】
本発明においては、核酸回収反応をアルカリ性条件で行うのが好ましい。また、遺伝子検査においては、測定対象のウイルス、細菌等をアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)で溶解して核酸を遊離させるという方法を用いることができるが、本発明によれば、アルカリ溶液を用いることにより核酸回収試薬が溶菌化試薬を兼ねることが可能であるため、操作がさらに簡便となる。
【0048】
沈殿した核酸の回収方法は、最終的な利用形態によって選択することが可能である。例えば遠心分離、ろ紙によるろ過等の汎用されている方法を用いることもできる。
【0049】
マグネタイトの存在下で、核酸を含む沈殿物を生成させる場合、マグネタイトだけでなく、沈殿物全体が磁性化するため、沈殿物の移送や核酸回収操作に磁力を用いることが可能となる。これは、マグネタイトの微粒子が効率的に沈殿物へ取り込まれるためと推察される。図10に示すように、磁力によって核酸を含む無機沈殿物を回収する方法は、核酸増幅反応の阻害成分等の不溶成分の混入が少ないため、遠心分離等の方法より高い精製度を有する。
【0050】
回収した無機沈殿物は、さらにバッファー等を用いて核酸以外の物質を洗浄することが可能である。核酸増幅反応等に供する場合、予め反応を阻害する物質を除去することが望ましい。
【0051】
本発明の核酸回収方法は、核酸として長鎖のDNAに限らず、RNA等の短鎖の核酸も回収することができる。例えば、542bの短鎖核酸であるSARS管理検体も回収することが可能である。
【0052】
このようにして抽出された核酸は、PCR法、LAMP法等の核酸増幅法やハイブリダイゼーション法等の公知の核酸分析等に利用できる。
【0053】
[III]核酸増幅法
代表的な核酸増幅法としてはPCR法が挙げられる。PCR法は、標的配列の両端の一方のセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドと、両端の他方のアンチセンス鎖を認識するオリゴヌクレオチドを2種類のプライマーとして用いた核酸増幅法である。相補的な2本鎖核酸を熱処理により1本鎖核酸に変性させ、各々の1本鎖核酸に3’側からプライマーを相補的に結合(アニール)させ、引き続き、鋳型依存性核酸合成酵素により結合したプライマーからDNA伸長させる。ここまでのサイクルを繰り返し行うことによって、標的配列を指数関数的に増幅することができ、その増幅産物は、電気泳動法、蛍光性インターカレーター法等を用いて検出できる。ただし、PCR法は各段階で反応温度が異なるため、反応の段階に応じて反応温度を制御する必要がある。
【0054】
本発明に使用可能な核酸増幅法はPCR法に限られず、好適な方法として例えば、LAMP(Loop−mediated isothermal AMPlification of DNA)法と呼ばれるループ媒介等温増幅法(国際公開第00/28082号等参照)が挙げられる。LAMP法は、鋳型となるヌクレオチドに自身の3'末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした核酸増幅法である。また、LAMP法では、プライマーの3'末端が常に試料に由来する領域に対してアニールするため、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能する。その結果、特異性の高い遺伝子配列の増幅反応が可能である。
【0055】
LAMP法では、計6領域の塩基配列を認識する少なくとも4種類のオリゴヌクレオチドからなるプライマー(インナープライマーFおよびRとアウタープライマーFおよびR)、鎖置換合成活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素、および基質を用い、熱変性を必要とせずに、終始等温で速やかに特異性の高い遺伝子増幅反応を進行させることができる。
【0056】
本発明の核酸増幅法は、核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程を含む。本発明の核酸回収試薬によって得られる沈殿物は、沈殿物から核酸を溶出させる操作を必要とせず、そのまま上記の核酸増幅法を用いて増幅させることができる。また、核酸増幅において、核酸以外の物質を洗浄除去する工程を含んでもよい。
【0057】
本発明の核酸増幅方法の好ましい実施態様は、水酸化鉄およびマグネタイトの存在下で核酸試料を加え、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体を沈殿物として回収し、生成した核酸を含む沈殿物について以下の工程による処理を施すことを含む。
a)核酸を含む沈殿物を磁性体により吸着させ、核酸以外の物質を除去する工程、および
b)核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程。
【0058】
この方法は、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物が、沈殿物全体に磁性を有することを利用したものであり、これにより核酸以外の物質を洗浄除去することができる。また、本発明の回収方法により生成した沈殿物は、核酸が水酸化鉄およびマグネタイトにゆるやかに結合しているため、沈殿物を核酸増幅用試薬と直接接触させることにより、沈殿物に含まれる核酸を増幅することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例1
リン酸鉄(III)を用いた共沈法による核酸の回収およびLAMP法による核酸増幅
1.100mMの塩化鉄(III)水溶液(50mMのHClを含む)2.5μLをPCRチューブ(MJ Research, Inc. 8−strip 0.2mL thin−wall tubes)に分注した。
2.検体液(鋳型核酸(104コピーのλDNA)を含む100mMのリン酸バッファー溶液pH8.0)5μLを添加し、得られた前処理液をピペッティングで混合した。ただちに金属イオンが反応し、リン酸化物の沈殿を生じた。
3.卓上小型遠心分離機(6000rpm)により10秒間遠心分離し、沈殿物をペレットにした。
4.洗浄バッファー(10mMリン酸バッファー、pH8.0、0.1% Tween20)92.5μLを添加し、軽くピペッティングした。
5.卓上小型遠心分離機で軽くスピンダウンした後、添加した洗浄バッファー95μLを抜き取った(洗浄1回目)。
6.洗浄バッファー95μLを加え、軽くピペッティングした後に添加した洗浄バッファー95μLを抜き取った(洗浄2回目)。この操作を2回(2回洗浄)または4回(4回洗浄)繰り返した。洗浄したペレットを核酸増幅の試料とした。
7.ポジティブコントロール(PC)として、塩化鉄(III)水溶液を添加せず、検体液のみを核酸増幅の試料とした。また、ネガティブコントロール(NC)として、100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液を核酸増幅の試料とした。
8.LAMP法による核酸増幅
以下に示すLAMP反応液20μLを上記試料に添加し、ABI−7700(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて沈殿物に含まれる核酸を増幅した。
LAMP反応液(Loopamp DNA増幅キット、栄研化学(株)製)の基本組成
Tris-HCl(pH8.8) 20mM
KCl 10mM
(NH4)2SO4 10mM
MgSO4 8mM
Tween20 0.1%
ベタイン(Betaine) 0.8M
dNTPs 5.6mM
インナープライマー(FIP,BIP) 3.2μM
アウタープライマー(F3,B3) 0.8μM
(ループプライマー 1.6μM)
YO(オキサゾールイエロー) 0.25μg/mL
Bstポリメラーゼ 8U/tube
【0061】
プライマー:
・DNA増幅系 λDNA LH4.3
FIP:AGGCCAAGCT GCTTGCGGTA GCCGGACGCT ACCAGCTTCT
BIP:CAGGACGCTG TGGCATTGCA GATCATAGGT AAAGCGCCAC GC
F3: AAAACTCAAAT CAACAGGCG
B3: GACGGATATCA CCACGATCA
鋳型
市販(タカラバイオ(株))のλDNA(48.5kbp)を希釈して使用した。
核酸増幅
検体液から回収した核酸を含む沈殿物に20μLに調製したLAMP反応液(1.25×)を添加し、そのままABI−7700を用いて反応温度64℃で増幅した。図1に示すように核酸の増幅を確認した。
【0062】
実施例2
水酸化鉄(III)を用いた共沈法による核酸の回収およびLAMP法による核酸増幅
検体液としてリン酸バッファーの代わりに0.25Mの水酸化ナトリウムを含む溶液を用いた以外、実施例1と同様にして実験を行った。図2に示すように核酸の増幅を確認した。
【0063】
実施例3
リン酸銅(II)を用いた共沈法による核酸の回収およびLAMP法による核酸増幅
塩化鉄の代わりに硫酸銅を用いた以外、実施例1と同様にして実験を行った。硫酸銅水溶液には50mMの硫酸を含む。図3に示すように核酸の増幅を確認した。
【0064】
実施例4
検体液からのRNAの回収およびLAMP法によるRNAの増幅
検体をSARS管理検体へ変更し、核酸増幅をRNA増幅系で行った以外、実施例1と同様にして実験を行った。
LAMP反応液(Loopamp RNA増幅キット、栄研化学(株)製)の基本組成
Tris−HCl(pH8.8) 20mM
KCl 10mM
(NH4)2SO4 10mM
MgSO4 8mM
Tween20 0.1%
ベタイン(Betaine) 0.8M
dNTPs 5.6mM
インナープライマー(FIP,BIP) 3.2μM
アウタープライマー(F3,B3) 0.8μM
(ループプライマー 1.6μM)
YO(オキサゾールイエロー) 0.25μg/mL
酵素混合物(enzyme mix) 1μL/tube
【0065】
プライマー
・RNA増幅系 SARSキット
FIP:TGCATGACAG CCCTCGAAGA AGCTATTCGT CAC
BIP:GCTGTGGGTA CTAACCTACC TGTCAACATA ACCAGTCGG
F3: CTAATATGTT TATCACCCGC
B3: CTCTGGTGAA TTCTGTGTT
FLP:AAAGCCAATC CACGC
BLP:CCAGCTAGGA TTTTCTACAG G
鋳型
SARS管理検体(400コピー/5μL;542b)を使用
核酸増幅
検体液から回収した核酸を含む沈殿物に20μLに調製したLAMP反応液(1.25×)を添加し、そのままABI−7700を用いて反応温度62.5℃で増幅した。図4に示すように核酸の増幅を確認した。
【0066】
実施例5
濾紙による核酸の回収
実施例1で生成した沈澱物を濾紙に回収する実験を行った。沈澱物を生成させた反応液を洗浄液で1mLとした後、ろ過デバイスでろ過し、1mLの洗浄バッファーで2回洗浄した後、その濾紙をLAMP反応液へ投入した。ポジティブコントロール(PC)およびネガティブコントロール(NC)についても同様の操作を行った。蛍光リアルタイム測定機ロータージーンを用いて増幅を調べた。図5に示すように核酸の増幅を確認した。
【0067】
実施例6
吸着法による核酸の回収およびLAMP法による核酸増幅
1.50mMのHClを含む100mM塩化鉄(III)水溶液2.5μLをPCRチューブに分注した。
2.鋳型を含まない疑似検体液(100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液)5μLを添加し、得られた前処理液をピペッティングで混合した。ただちに金属イオンが反応し沈殿(リン酸化物あるいは水酸化物)を生じた。
3.卓上小型遠心機(6000rpm)で10秒間遠心分離し、沈殿をペレットにした。
4.上清5μL抜き取り、鋳型核酸(104コピーのλDNA)溶液5μL添加して軽くピペッティングし、10分間放置することによって鋳型核酸を無機沈澱に吸着させた。
5.以下、実施例1のプロトコールと同様の操作で洗浄を行い、核酸増幅の試料とした。
6.ポジティブコントロール(PC)として、検体液のみを核酸増幅の試料とした。また、ネガティブコントロール(NC)として、100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液を核酸増幅の試料とした。
7.上記の試料をLAMP反応に供した。実施例1および2の共沈法による場合と比較した結果を図6に示す。図6(A)および(B)に示すように、無機塩としてリン酸鉄を用いた場合、水酸化鉄を用いた場合のいずれの場合においても核酸の増幅を確認した。
【0068】
実施例7
マグネタイトを用いた核酸の回収
1.50mMのHClを含む100mM塩化鉄(III)水溶液2.5μLおよび0.2%マグネタイト懸濁液1μLをPCRチューブに分注した。
2.0.3M水酸化ナトリウム水溶液、0.15%Tween20を含む前処理液に鋳型核酸溶液(検体液)5μLを添加し、95℃で5分間加熱した後に室温で冷却したものを1のチューブに分注し、得られた液をピペッティングで混合した。
3.ネオジウム磁石上にチューブを配置し、沈殿を凝集させた。7.5μLを残して上清を抜き取った。
4.ネオジウム磁石上で洗浄バッファー(10mMリン酸バッファーpH8.0、0.1% Tween20)92.5μLを添加し、軽くピペッティングした後、添加した洗浄バッファー95μLを抜き取った。(洗浄1回目)
5.ネオジウム磁石上で洗浄バッファー92.5μLを添加し、軽くピペッティングした後、添加した洗浄バッファー95μLを抜き取った。(洗浄2回目)
6.対照として水酸化鉄を用いず、マグネタイトのみを添加した前処理液を調製し、これに検体液を加えて同様に処理した。また、ポジティブコントロール(PC)として、検体液のみを核酸増幅の試料とした。また、ネガティブコントロール(NC)として、100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液を核酸増幅の試料とした。
7.以下、実施例1のプロトコールと同様の操作でLAMP反応に供した。図7に示すように核酸の増幅を確認した。
【0069】
実施例8
核酸回収における牛血清アルブミン(BSA)の効果
実施例1および6の前処理液(反応溶液)にBSAを1質量%となるように添加し、実験を行った。図8(A)および(B)に示すように、前処理液中にBSAが存在してもリン酸鉄(III)への鋳型DNAの吸着を阻害せず、逆に、BSAを前処理液に1質量%含有する共沈法においては、LAMP反応の立ち上がり時間がPCコントロールとほぼ等しく、見かけ上高い回収率を示すことが分った。
【0070】
実施例9
検体液からの核酸の回収およびPCR法による核酸増幅
(1)実施例1と同様にして、検体液から核酸(鋳型DNA)を含む沈殿物ペレットを回収した。得られた沈殿物ペレットに洗浄バッファー(100mMリン酸バッファー、0.1% Tween20)100μLを加え、実施例1と同様にして洗浄した(この洗浄操作を4回繰り返した)。洗浄した沈殿物ペレットに以下のPCR反応液25μLを加え、以下の条件により核酸を増幅した。
PCR反応液の基本組成:
dNTP 1.8mM
Z−Taq(タカラバイオ(株)製) 1Unit
プライマー 0.5μM
BSA 1質量%
YO(オキサゾールイエロー) 0.25μg/mL
(Z−Taqバッファー中)
PCR装置: iCycler(バイオラッド社製)
プライマー配列:
F AAAACTCAAATCAACAGGCG
B GACGATATCACCACGATCA
PCR条件:
95℃−60℃−72℃を40サイクル行った。
【0071】
(2)対照実験
(a)ポジティブコントロール:検体の代わりに以下の擬似検体を用いた以外、(1)と同様にして核酸を増幅した。
擬似検体:0.1質量%Tween20、1質量%BSA、鋳型DNA(106コピー)を含む100mMリン酸バッファー(pH8.0)
(b)ネガティブコントロール:検体の代わりに100mMリン酸バッファーpH8.0または水酸化ナトリウム水溶液0.25M水溶液を用いた以外、(1)と同様にして核酸を増幅した。
(c)リン酸鉄なし:100mMの塩化鉄(III)水溶液(50mMのHClを含む)2.5μLを添加しなかった以外、(1)と同様にして核酸を増幅した。
【0072】
(3)結果
上記(1)および(2)により得られた結果を図9に示す。図9から明らかなように、リン酸鉄を用いた本発明のリン酸鉄共沈法の場合は、対照のリン酸鉄なしの場合より増幅サイクルが速かった。このことからリン酸鉄共沈法により回収された鋳型DNAを含む沈殿物から直接PCR法により増幅できることがわかる。ポジティブコントロールの増幅サイクルから推定したリン酸鉄共沈法の回収率は1〜10%であった。なお、ネガティブコントロールで起きている反応は非特異増幅と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図2】実施例2の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図3】実施例3の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図4】実施例4の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図5】実施例5の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図6】実施例6の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフであり、(A)はリン酸鉄を用いた場合を示し、(B)は水酸化鉄を用いた場合を示す。
【図7】実施例7の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図8】実施例8の方法による核酸増幅反応において、反応時間に対する蛍光強度の関係を示すグラフであり、(A)は共沈法におけるBSAの効果を示し、(B)は吸着法におけるBSAの効果を示す。
【図9】実施例9の方法による核酸増幅反応において、サイクル数に対する蛍光強度の関係を示すグラフである。
【図10】(a)無機塩として水酸化鉄を用い、遠心分離によって核酸を回収する方法を示す概略図である。(b)無機塩として水酸化鉄を用い、磁気分離によって核酸を回収する方法を示す概略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩を含有し、該無機塩が核酸との沈殿を生成する、核酸回収試薬。
【請求項2】
無機陽イオンが鉄イオンおよび/または銅イオンである、請求項1に記載の核酸回収試薬。
【請求項3】
無機陰イオンがリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンである、請求項1または2に記載の核酸回収試薬。
【請求項4】
無機塩が水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅およびリン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の核酸回収試薬。
【請求項5】
無機塩が水酸化鉄であり、さらに、マグネタイトを含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の核酸回収試薬。
【請求項6】
無機塩がアルカリ水溶液中に含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の核酸回収試薬。
【請求項7】
さらに、アルブミン類を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の核酸回収試薬。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の核酸回収試薬を含む、核酸増幅用試薬キット。
【請求項9】
核酸と無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩との沈殿現象を利用して核酸を回収する、核酸回収方法。
【請求項10】
核酸と無機塩とを共沈させる、請求項9に記載の核酸回収方法。
【請求項11】
無機塩の沈殿物を生成させた後、核酸を添加し、該無機塩の沈殿物に該核酸を吸着させる、請求項9に記載の核酸回収方法。
【請求項12】
無機陽イオンが鉄イオンおよび/または銅イオンである、請求項9〜11のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項13】
無機陰イオンがリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンである、請求項9〜12のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項14】
無機塩が水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅およびリン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9〜13のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項15】
無機塩として水酸化鉄を用い、水酸化鉄およびマグネタイトと核酸を接触させ、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物を生成させる、請求項9に記載の核酸回収方法。
【請求項16】
さらに、アルブミン類を含有する、請求項9〜15のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項17】
アルカリ性条件下で行う、請求項9〜16のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項18】
請求項9〜17のいずれかに記載の方法による核酸を含む沈殿物と、核酸増幅用試薬とを接触させる工程を含む、核酸増幅方法。
【請求項19】
核酸以外の物質を洗浄除去する工程を含む、請求項18に記載の核酸増幅方法。
【請求項20】
請求項15〜17のいずれかに記載の方法により回収した沈殿物について、以下の工程を施すことを含む、核酸増幅方法。
a)核酸を含む沈殿物を磁性体により吸着させ、核酸以外の物質を除去する工程、および
b)核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程。
【請求項21】
LAMP法を用いる、請求項18〜20のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【請求項1】
無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩を含有し、該無機塩が核酸との沈殿を生成する、核酸回収試薬。
【請求項2】
無機陽イオンが鉄イオンおよび/または銅イオンである、請求項1に記載の核酸回収試薬。
【請求項3】
無機陰イオンがリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンである、請求項1または2に記載の核酸回収試薬。
【請求項4】
無機塩が水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅およびリン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の核酸回収試薬。
【請求項5】
無機塩が水酸化鉄であり、さらに、マグネタイトを含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の核酸回収試薬。
【請求項6】
無機塩がアルカリ水溶液中に含まれる、請求項1〜5のいずれかに記載の核酸回収試薬。
【請求項7】
さらに、アルブミン類を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の核酸回収試薬。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の核酸回収試薬を含む、核酸増幅用試薬キット。
【請求項9】
核酸と無機陽イオンおよび無機陰イオンから構成される無機塩との沈殿現象を利用して核酸を回収する、核酸回収方法。
【請求項10】
核酸と無機塩とを共沈させる、請求項9に記載の核酸回収方法。
【請求項11】
無機塩の沈殿物を生成させた後、核酸を添加し、該無機塩の沈殿物に該核酸を吸着させる、請求項9に記載の核酸回収方法。
【請求項12】
無機陽イオンが鉄イオンおよび/または銅イオンである、請求項9〜11のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項13】
無機陰イオンがリン酸イオンおよび/または水酸化物イオンである、請求項9〜12のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項14】
無機塩が水酸化鉄、リン酸鉄、水酸化銅およびリン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9〜13のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項15】
無機塩として水酸化鉄を用い、水酸化鉄およびマグネタイトと核酸を接触させ、核酸、水酸化鉄およびマグネタイトを含む複合体からなる沈殿物を生成させる、請求項9に記載の核酸回収方法。
【請求項16】
さらに、アルブミン類を含有する、請求項9〜15のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項17】
アルカリ性条件下で行う、請求項9〜16のいずれかに記載の核酸回収方法。
【請求項18】
請求項9〜17のいずれかに記載の方法による核酸を含む沈殿物と、核酸増幅用試薬とを接触させる工程を含む、核酸増幅方法。
【請求項19】
核酸以外の物質を洗浄除去する工程を含む、請求項18に記載の核酸増幅方法。
【請求項20】
請求項15〜17のいずれかに記載の方法により回収した沈殿物について、以下の工程を施すことを含む、核酸増幅方法。
a)核酸を含む沈殿物を磁性体により吸着させ、核酸以外の物質を除去する工程、および
b)核酸を含む沈殿物と核酸増幅用試薬とを接触させる工程。
【請求項21】
LAMP法を用いる、請求項18〜20のいずれかに記載の核酸増幅方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−289376(P2008−289376A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135744(P2007−135744)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】
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