説明

核酸増幅反応装置、当該核酸増幅反応装置に用いる基板、及び核酸増幅反応方法

【課題】検出感度の良好な核酸増幅反応装置を提供すること。
【解決手段】核酸増幅反応の反応場となる細管形状に形成された反応領域と、反応領域を加熱する温度制御手段と、反応領域の一端から管腔内に光を照射する照射手段と、反応領域の他端から出射する前記光の光量を検出する検出手段と、を備える核酸増幅反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅反応装置、当該核酸増幅反応装置に用いる基板、及び核酸増幅反応方法に関する。より詳細には、核酸増幅反応の反応場となる反応領域を細管形状に形成し、これを備える核酸増幅反応装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PCR法(Polymerase Chain Reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)やLAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)等による遺伝子増幅反応を行って検証することが微量核酸の定量分析の標準的手法となっている。このような手法によって、遺伝子発現解析、遺伝的疾患、癌化、微生物やウイルス等の感染症の検査、またSNP解析等の遺伝子解析が進められている。
ここで、核酸の増幅産物を検出する方法において、インターカレーター法や蛍光標識プローブ法等のように蛍光物質を用いる蛍光検出方法、また増幅過程での副産物のピロリン酸にマグネシウムイオン等の金属イオンで水に不溶又は難溶性の塩を形成した濁度物質を用いる濁度検出法等が主として用いられている(特許文献1〜3)。
上述のような核酸の増幅産物を検出する方法を用いて、遺伝子発現解析、感染症検査、またSNP解析等の遺伝子解析が行える核酸増幅反応装置が広く市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−237207号公報
【特許文献2】国際公開第01/83817号パンフレット
【特許文献3】特許413347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の濁度検出装置ではウェル状の核酸増幅の反応場を用いているが、更なる検出感度の向上が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、より高い検出感度が得られる核酸増幅反応装置、当該核酸増幅反応装置に用いる基板、及び核酸増幅反応方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本発明は、核酸増幅反応の反応場となる細管形状に形成された反応領域と、反応領域を加熱する温度制御手段と、反応領域の一端から管腔内に光を照射する照射手段と、反応領域の他端から出射する前記光の光量を検出する検出手段と、を備える核酸増幅反応装置を提供する。
【0007】
前記核酸増幅反応装置において、前記反応領域が複数配列され、前記照射手段は、一つの光源から発せられた前記光を各反応領域の一端から管腔内に導光する導光手段を含んでなるのが好適である。
前記核酸増幅反応装置において、前記検出手段は、各反応領域の一端から出射する前記光の光量を検出する一次元センサを含んでなるのが好適である。
前記核酸増幅反応装置において、前記反応領域が同一の平面上に互いに平行に配列され、前記温度制御手段は、前記平面に対向する面上に設けられているのが好適である。
【0008】
また、本発明は、核酸増幅反応の反応場となる細管形状に形成された反応領域が配設された基板を提供する。更に、前記反応領域の入射側及び/又は出射側に曲面が設定されるのが好適である。
また、本発明は、核酸の増幅反応の反応場となる細管形状に形成された反応領域の一端から管腔内に光を照射して、反応領域の他端から出射する前記光の光量を検出することにより、増幅反応の進行に伴って生じる濁度物質による前記光の散乱光量を検出する核酸増幅反応方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より高い検出感度が得られる核酸増幅反応装置、基板及び核酸増幅反応方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係わる核酸増幅反応装置における概念図を示す。
【図2】本発明に係わる核酸増幅反応装置における光学系路の概念図を示す。
【図3】本発明に係わる基板の例示を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
1.核酸増幅反応装置
(1)反応領域
(a)基板
(b)核酸増幅反応
(c)核酸増幅(産物)の検出方法
(2)温度制御手段
(3)照射手段
(4)検出手段
2.核酸増幅反応装置の動作
(1)変形例
(a)RT−LAMP装置の動作
(b)RT−PCR装置の動作
【0013】
<1.核酸増幅反応装置>
図1は、本発明に係わる核酸増幅反応装置を側面視した概念図である。また、図2は、本発明に係わる核酸増幅反応装置における光学系路の概念図である。
なお、以下に説明する図面では、説明の便宜上、装置の構成等を簡略化して示している。
【0014】
本発明に係わる核酸増幅反応装置1は、核酸増幅反応を制御して、核酸を増幅させ、定量するための、反応領域2、温度制御手段3、照射手段4及び検出手段5から構成されている。
本発明の核酸増幅反応装置1は、照射手段4と検出手段5との間に温度制御手段3及び脱着可能な反応領域2(基板6)が配置されている。
更に、反応領域2と照射手段4の間や反応領域2と検出手段5の間には、隙間9,10を適宜設けてもよい。この隙間9,10には、光量や光成分等を調整するために、適宜、フィルタ(図示せず)、集光レンズ(図示せず)や絞り11を配設してもよい。
尚、本発明の核酸増幅反応装置1には、本発明の装置に関しての各種動作(例えば、光制御、温度制御、核酸増幅反応、検出制御、検出光量算出やモニタリング等)を制御する制御部(図示せず)が備えられている。
以下に各構成について詳細に説明する。
【0015】
(1)反応領域
前記反応領域2は、核酸の増幅反応の反応場となるエリアであり、細管形状に形成されている。前記反応領域2は、単数又は複数配列の何れでもよいが、複数配列されるのが好適である。複数配列により、検出感度や検出精度が良好で、コンパクトに多くのサンプルを効率よく測定することができる。
従来のように核酸の増幅反応の反応場がウェル状である核酸増幅反応装置では、反応場中の光線通過距離が短いため検出感度はあまり良くない。また、各構成は二次元的な配置となるため、例えばフォトダイオード(PD)アレイ等の検出器数や光源数等の各パーツ数も多くなり易い。このため、個々の特性ばらつき等が生じやすくなり、検出精度が低下しやすい。各構成の二次元的な配置やパーツ数増加により、装置全体が大きくなり、また高コストとなる。
これに対し、上述のように核酸の増幅反応の反応場を細管形状とすることにより、反応領域中の微量な核酸でも検出することが可能となる。また、反応場中の光線通過距離をより長く設定することも可能となることから、初期反応時(低散乱)での検出感度が向上する。また、これにより初期反応時からのモニタリングも良好となる。
更に、各構成を一次元的に配置することが可能となることから、光源数や検出器数等の各パーツ数も少なくできるので、個々の特性ばらつき等も低減でき、検出精度を向上させることも可能となる。また、これにより、装置の性能や信頼性を確保しつつ、装置全体の小型化、特に薄型化や低コスト化も可能となる。
【0016】
更に、前記反応領域2は、複数の場合、同一の平面上に互いに平行に配列されているのが好適である。このように複数の反応領域を一次元配列とすることにより、当該配列の平面(例えば、上面や底面)に対向する部材(面)として温度制御手段を設けることも可能となる。これにより、検出感度や検出精度が良好で、かつコンパクトな配置で多くのサンプルを効率よく測定することができる。
【0017】
(a)基板
前記反応領域2は、例えば、核酸増幅反応用マイクロチップ等の反応容器(例えば、基板)内に形成されているのが好適である。このような反応容器であれば、上述のように幅方向への複数配列や同一平面上平行配列等といった配列を適宜形成し易い。
前記反応領域2は、単数又は複数の基板から形成することができる。この形成された基板6内に、核酸増幅反応の反応場となる前記反応領域2が細管形状で単数又は複数配設されているのが好適である。このときの細管形状は、長手方向(光軸方向)の長さが、この高さや幅よりも長い立体形状を採るものであれば、限定されない。当該立体形状とは、例えば、長方体形状や円柱形状等が挙げられる。
また、前記基板6(前記反応領域2)の光軸上の両端の面は、光学検出が可能なように形成されているのが好適である。具体的には、前記基板6(前記反応領域2)の一端は光が照射(入射)される面であり、他端は反応領域(反応場中の光線通路)を通過した光が出射される面である。この入射面と出射面の構成については、例えば、入射面及び出射面が互いに平行する対向面とすること;入射面及び/又は出射面に凹凸の曲率を持たせること(例えば、図3参照)等が挙げられる。
【0018】
そして、前記基板6の入射側及び/又は出射側に凹凸の曲面を設定することが好適である。この曲面を設定する位置としては、前記基板6(前記反応領域2)の光軸上の端部、具体的には入射部及び/又は出射部に設定するのが好適である。
ここで、より具体的に、入射側に曲面を設定するとは、入射側にある前記反応領域2の入射面21又は前記基板6の入射面61の少なくとも何れか一方の面を凹曲面又は凸曲面とするのが好適である。これにより、管腔内を導光する光が増加すると共に入射端での光量損失が減少するので、光の利用効率が向上する。
また、出射側に曲面を設定するとは、出射側の前記反応領域2の出射面22又は前記基板6の出射面62の少なくとも何れか一方の面を凹曲面又は凸曲面とするのが好適である。これにより、光の取り出し効率が増加すると共に管腔内のある角度において伝搬する光線に対して曲率を最適化することで内部の散乱の影響に対する感度を向上することが可能となる。
斯様に入射側及び/又は出射側に曲面を設定することにより、検出感度、特に濁度検出の感度が向上する。
【0019】
このような曲面を設定した前記基板6の例示物としては、例えば、図3(a)〜(d)のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
詳細に説明すると、例えば、曲面の凹部分が光透過性のある素材であり、この端部を平面としたもの(例えば図3(d)参照)が例示される。例えば、曲面の凹部分が空間となっているもの;凹部分が空洞であり、この端部に光透過性のある素材で平面が形成されているもの(例えば図3(b)参照)が例示される。また、例えば、曲面の凸部分の内部に透過性のある素材が充填されたもの(例えば図3(a)参照);凸部分の表面は透過性のある素材であって、その内側が空洞(空間)であるもの(例えば図3(c)参照)が例示される。
【0020】
また、前記基板6(前記反応領域2)の出射側及び入射側が平面であると、蛍光検出の場合には励起長(励起する距離)を長く取ることが可能となるので、反応初期時の微弱蛍光に対する感度が向上するので、好適である。
【0021】
前記基板6の立体形状としては、例えば、長方体形状や円柱形状等が挙げられる。
前記基板6の立体形状うち、単数の前記反応領域2を有する円柱形状は、随時測定を行い易いので、好適である。このときLAMP法であれば等温反応であるため、検体の測定開始時間を統一しなくとも適宜測定できるので、作業効率がより向上する。また、前記円柱形状は、入射面・出射面に曲率を検出感度や検出精度を向上させるように持たせることが容易であるので、好適である。
また、単数又は複数の前記反応領域2を有する長方体形状は、多くの検体を同時に測定できるので作業効率がよく、好適である。複数の前記反応領域2を有する長方体形状の場合、それぞれの光軸上の出射面及び/又は入射面に上述のような凹凸の曲率を持たせてもよい。上述の長方体形状を採用することにより、反応場中の光線通過距離を長くすることができると共に、温度制御手段3との接触面が広く、加熱が伝わり易い。よって、前記反応領域2の温度制御が行い易いので、検出感度や検出精度が向上する。
【0022】
前記反応領域2の基板6への形成方法は、特に限定されないが、例えば、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、又はプラスチック製基板層のナノインプリントや射出形成、切削加工によって行うことが好適である。
例えば、前記反応領域2の形成方法としては、1つの基板上に長手方向に沿って反応領域(光線通路)となる溝を研磨切削加工や鋳型成形等にて形成し、この基板の上面に他の基板を配置すること;1つの基板の内部に光軸方向の両端を貫通させた細管形状の管腔を形成し、この両端を封止・研磨すること等が挙げられる。
また、前記基板6の材料は、特に限定されず、検出方法や加工容易性、耐久性等を考慮して適宜選択するのが好適である。当該材料としては、光透過性のある素材で所望の検出方法に応じて適宜選択すればよく、例えば、ガラスや各種プラスチック(ポリプロピレン、ポリカーボネイト、シクロオレフィンポリマー、ポリジメチルシロキサン等)が挙げられる。
このようにして形成された反応領域2には、核酸増幅反応に必要な試薬類を予め充填していてもよい。
また、前記形成された反応領域2は、大気圧に対して負圧とされた、減圧状態とするのが好適である。これにより、目的とする核酸や核酸増幅反応に必要な試薬類を入れたシリンジ等で穿刺注入すれば、これら核酸等が簡単に反応領域内に流入されるので、核酸増幅反応を行い易い。さらに、穿刺注入するための穿刺孔(図示せず)が設けられるのが好適である。当該穿刺孔は、光軸上に配設されず(好ましくは、反応領域の側方に配設し)、前記反応領域2と流路を介して繋がっているのが好適である。
【0023】
このように本発明の基板を用いれば、検出感度や検出精度が良好となる。また、複数の反応領域2を幅方向に一次元的に配列させ易いので、コンパクトな配置で多くのサンプルを効率よく測定することができる。
よって、核酸増幅反応装置の検出感度及び検出精度が向上し、更に装置の性能や信頼性を確保しつつ、装置全体の小型化、特に薄型化や低コスト化も可能となる。
【0024】
(b)核酸増幅反応
本発明において、「核酸増幅反応」には、温度サイクルを実施する従来のPCR(polymerase chain reaction)法や、温度サイクルを伴わない各種等温増幅法が含まれる。等温増幅法としては、例えば、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法やSMAP(SMartAmplification Process)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法(登録商標)、TRC(transcription-reverse transcription concerted)法、SDA(strand displacement amplification)法、TMA(transcription-mediated amplification)法、RCA(rolling circle amplification)法等が挙げられる。
この他、「核酸増幅反応」には、核酸の増幅を目的とする変温あるいは等温による核酸増幅反応が広く包含されるものとする。また、これらの核酸増幅反応には、リアルタイムPCR(RT−PCR)法やRT−LAMP法などの増幅核酸鎖の定量を伴う反応も包含される。
【0025】
また、「試薬」には、上記の核酸増幅反応において、増幅核酸鎖を得るために必要な試
薬であって、具体的には、標的核酸鎖に相補的な塩基配列とされたオリゴヌクレオチドプ
ライマー、核酸モノマー(dNTP)、酵素、反応緩衝液(バッファー)溶質などが含ま
れる。
【0026】
前記PCR法は、「熱変性(約95℃)→プライマーのアニーリング(約55〜60℃)→伸長反応(約72℃)」という増幅サイクルを連続的に行う。
また、前記LAMP法とは、DNAのループ形成を利用して、一定温度でDNAやRNAからdsDNAを増幅産物として得る方法である。一例として、成分(i)、(ii)(iii)を加え、インナープライマーが鋳型核酸上の相補的配列に対して安定的な塩基対結合を形成することができ、かつ鎖置換型ポリメラーゼが酵素活性を維持しうる温度でインキュベートすることにより進行する。このときのインキュベート温度は50〜70℃、時間は1分〜10時間程度が好適である。
成分(i)インナープラマー2種、又は更にアウタープライマー2種、又は更にループプライマー2種;成分(ii)鎖置換型ポリメラーゼ;成分(iii)基質ヌクレオチド。
【0027】
(c)核酸増幅(産物)の検出方法
前記核酸増幅の検出方法としては、例えば、濁度物質、蛍光物質や化学発光物質等を用いる方法が挙げられる。
【0028】
また、前記濁度物質を用いる方法としては、例えば核酸増幅反応の結果生じるピロリン酸とこれに結合可能な金属イオンにより生じた濁度物質を用いる方法等が挙げられる。当該金属イオンは、一価又は二価の金属イオンであり、ピロリン酸と結合すると水に不溶又は難溶性の塩を形成して濁度物質となる。
当該金属イオンとしては、具体的には、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン及び二価遷移金属イオン等が挙げられる。このうち、例えば、マグネシウム(II)、カルシウム(II)及びバリウム(II)等のアルカリ土類金属イオン;亜鉛(II)、鉛(II)、マンガン(II)、ニッケル(II)及び鉄(II)等の二価遷移金属イオン等から選ばれる1種又は2以上が好ましい。更に好ましくは、マグネシウム(II)、マンガン(II)、ニッケル(II)及び鉄(II)である。
当該金属イオンを添加するときの濃度は、0.01〜100mMの範囲であれば好適である。検出波長は、300〜800nmとするのが好適である。
【0029】
また、前記蛍光物質や化学発光物質を用いる方法としては、例えば、二本鎖核酸に特異的に挿入されて蛍光を発する蛍光色素(誘導体)を用いるインターカレート方法、増幅する核酸配列に特異的なオリゴヌクレオチドに蛍光色素を結合させたプローブを用いる標識プローブ方法等が挙げられる。
前記標識プローブ法としては、例えばハイブリダイゼーション(Hyb)プローブ法、加水分解(TaqMan)プローブ法等が挙げられる。
前記Hybプローブ法は、予め2種のプローブが近接するようにデザインされたドナー色素でラベルされたプローブとアクセプター色素でラベルされたプローブという2種のプローブを用いる方法である。そして、当該2種のプローブが標的核酸にハイブリダイズするとドナー色素により励起されたアクセプター色素が蛍光を発する。
また、前記TaqManプローブ法は、レポーター色素とクエンチャー色素の2つが近接するようにラベルされているプローブを用いる方法である。そして、当該プローブが核酸伸長の際に加水分解され、このときクエンチャー色素とレポーター色素とが離れ、レポーター色素が励起されると蛍光を発する。
【0030】
前記蛍光物質を用いる方法に使用する蛍光色素(誘導体)としては、SYBR(登録商標) Green I、SYBR(登録商標) Green II、SYBR(登録商標)Gold、YO (Oxazole Yellow)、TO (Thiazole Orange)、PG (Pico(登録商標)Green)、臭化エチジウム等が挙げられる。
前記化学発光物質を用いる方法に使用する有機化合物としては、ルミノール、ロフィン、ルシゲニン、シュウ酸エステル等が挙げられる。
【0031】
(2)温度制御手段
前記温度制御手段3は、前記反応領域2を加熱するためのものである。従来の反応領域がウェル状である場合と比較して、本発明のように長手方向(光軸上)に細長い反応領域2とすることにより、反応領域2は温度制御手段3との接触面を広くすることが可能となる。これにより、熱印加性が向上することから核酸増幅の温度制御が行い易くなるので、PCR法やLAMP法等の核酸増幅反応を良好に行うことができる。よって、検出感度や検出精度を向上させることが可能となる。
前記温度制御手段3としては、特に限定されないが、例えば、ペルチェ等のヒータや光透過性のあるITOヒータ等が挙げられる。前記温度制御手段3は、光線通路上に配設しなくてもよいため、当該ヒータは低コストの不透過性のものを使用することも可能である。
また、前記温度制御手段3の形状としては、例えば薄膜状や平板状、単数又は複数の筒状やU字状等が挙げられる。
また、前記温度制御手段3は、前記反応領域2に接するように配設されればよく、例えば、前記反応領域2の上部、下部、側部や外周部等の何れの位置に配設してもよい。
このうち、前記温度制御手段3は、薄膜状や平板状の形状で、前記反応領域2の上部及び/又は下部に配設するのが、好適である。これにより、前記反応領域2の設置が簡単でありながら、前記反応領域2との接触面が増えて熱印加性が向上し、検出感度や精度が向上する。また、前記温度制御手段3が一次元的に配置できるため、装置全体の小型化、特に薄型化が可能となる。
更に、前記温度制御手段3は、前記反応領域2の平面に対応する面上に設けられているのが好適である。この反応領域の平面に対応する面は、例えば、前記温度制御手段3を本装置に支持する支持面であってもよく、また本装置の筐体の内面であってもよい。
【0032】
(3)照射手段
前記照射手段4は、前記反応領域2の一端(具体的には入射面)から管腔内に光を照射する光源7を単数又は複数備えるものである。
前記光源7は、特に限定されないが、目的とする核酸増幅物を良好に検出することができる所望の光を出射するものが好適である。前記光源7としては、例えば、レーザー光源、白色又は単色の発光ダイオード(LED)、水銀灯、タングステンランプ等が挙げられる。このうち、LEDが、低消費電力化や低コスト化が可能となるので、好適である。また、当該LEDは、各種フィルタを用いれば所望の光成分を得ることも可能であるので有利である。
尚、前記レーザー光源としては、レーザー光の種類によっては特に限定されないが、アルゴンイオン(Ar)レーザー、ヘリウム−ネオン(He-Ne)レーザー、ダイ(dye)レーザー、クリプトン(Cr)レーザー等を出射する光源であればよい。当該レーザー光源は、1種又は2種以上、自由に組み合わせて用いることができる。
【0033】
更に、前記照射手段4に、前記光源7から発せられた光を各反応領域2の一端から管腔内に導光する導光手段8を備えるのが好適である。当該導光手段8には、光入射端部81が設けられており、当該光入射端部81に、前記光源7の単数又は複数から出射された光が入射される。当該入射された光を各反応領域2の一端から管腔内に導光させるように部材(例えばプリズム、反射板や凹凸等)が、前記導光手段8の内部には設けられている。
前記導光手段8を配設することにより、光源の数を減らすことができ、特に一つの光源のみにしても各反応領域2に均一な光の照射を行うことができ、検出感度や検出精度も良好である。しかも、光源数を減らすことによって、装置全体の小型化、特に薄型化も可能となり、また低消費電力化も可能となる。
【0034】
尚、図2に示すように、前記照射手段4からの光L1は反応領域2に到達し、反応領域内での増幅反応の進行に伴って生成される濁度物質によって反射される或いは吸収される。そして、当該濁度物質による光の散乱光量又は透過光量(光L21,22)を、適宜絞り11、集光レンズ及び蛍光フィルタ等を通過して、検出手段5(光学検出器)にて検出する。
ここでの散乱光としては、例えば、前方散乱光、後方散乱光や側方散乱光等が挙げられるが、本装置において前方散乱光が容易に検出しやすく、検出感度もよいので、有利である。
【0035】
(4)検出手段
前記検出手段5は、反応領域2の他端(具体的には出射面)から出射する光L2の光量を検出することが可能な機構であればよい。当該検出手段5には、光学検出器が少なくとも備えられている。
前記光学検出器としては、特に限定されず、例えば、フォトダイオード(PD)アレイ、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサ等のエリア撮像素子、小型光センサ、ラインセンサースキャン、PMT(光電子倍増管)等が挙げられ、これらを適宜組み合わせてもよい。当該光学検出器で、濁度等を検出することが可能である。
【0036】
また、前記検出手段5は、各反応領域2の一端から出射する光の光量を検出する一次元センサを含んでなるのが好適である。
ここで、一次元センサとは、前記光学検出器を一次元的に配置したものである。当該一次元センタとしては、例えばラインセンサ等のように、複数の反応領域2の出射面に対向するように前記光学検出器を複数配置するものが挙げられる。一例として、フォトダイオード(光検出部)、CCD(転送部)及び信号検出器(出力部)等から構成されているCCDリニアイメージセンサが挙げられる。
ここで、従来のように反応領域をウェル状にすると光学検出器の配置が二次元的な配置となるため、検出手段にイメージセンサを採用した場合であっても検出手段の要求面積が大きくなる。これに対し、本発明のように前記反応領域2を細管形状とすることによって反応領域2を一次元的に配列できることから、前記検出手段5も一次元センサ方式とすることが可能となる。この一次元センサ方式を採用することにより、多くのサンプルを効率よく測定でき、検出感度や検出精度も良好である。また、これにより、低コスト、性能、信頼性を確保しつつ、装置全体の小型化、特に薄型化も可能となる。
【0037】
尚、本発明の核酸増幅反応装置1内に、励起フィルタや蛍光フィルタを配設してもよい。例えば、光源7と導光手段8との間や隙間9に励起フィルタを配設してもよく、また隙間10に蛍光フィルタを配設してもよい。
前記励起フィルタ(図示せず)により、核酸増幅反応の検出方法に応じて所望の特定波長の光成分としたり、また不要な光成分を除去できる。また、前記蛍光フィルタ(図示せず)により、検出に必要な光成分(散乱光、透過光や蛍光)にすることができる。これにより、検出感度や検出精度が向上する。
【0038】
<2.核酸増幅反応装置1の動作>
以下に、上述した核酸増幅反応装置1の動作及び濁度物質による散乱光量を検出する核酸増幅反応方法について、説明する。
前記光源7から、光L1が出射される。当該光L1は、前記光入射端部81から導光手段8に入射される。入射された光L1は、導光部材8内部のプリズム等の部材によって、反応領域2の入端面に到達するように照射される。
照射された光L1は、核酸の増幅反応の反応場となる細管形状に形成された反応領域2の一端(入射面)に照射され、管腔(細管形状)内に入射される。このとき、当該光L1は、反応領域2内で核酸増幅反応の進行に伴って生じる濁度物質に照射される。この照射された光L1は、反応領域2内の濁度物質の表面で反射されるか或いは吸収され、光L2(散乱光及び透過光)となる。この光L2は、反応領域の他端(出射面)から出射される。このとき、出射された光L2は、適宜、蛍光フィルタによって所望の光成分(例えば散乱光成分或いは透過光成分)にしてもよい。出射された光L2は、検出手段5(光学検出器)にて、出射された前記光の光量を検出する。すなわち、増幅反応の進行に伴って生じる濁度物質による前記光の散乱光量を検出する。
そして、図2に示すように、反応当初のL21の散乱光量(信号量A)が、核酸増幅反応が進行するに従って散乱光量(信号量)は減少し、反応終了のL22の散乱光量(信号量B)となる。
【0039】
斯様に、濁度検出による核酸増幅反応において、細管形状に形成された反応領域の一端から管腔内に光を照射して、反応領域の他端から出射する光の光量を検出することにより、増幅反応の進行に伴って生じる濁度物質により光の散乱光量を検出するのが好適である。
細管形状を採用することにより、光線通過距離を長くでき、導波条件(界面での全反射条件)が崩れやすくなることで、出射面に到達する(光軸方向の)散乱光量(或いは透過光量)が変化(減少)しやすくなるので、検出感度や検出精度が向上する。
【0040】
(1)変形例
本発明の核酸増幅反応装置は、反応終了後の反応領域2を、前記温度制御手段3等に設置して、核酸増幅検出装置としても使用可能である。
また、LAMP装置やPCR装置として用い、濁度物質検出にて核酸を定量することも可能である。
(a)RT−LAMP装置の動作
以下に、RT−LAMP装置において、ステップSl1の手順での核酸の検出方法について説明する。
温度制御ステップ(ステップSl1)にて、反応領域2内が一定温度(60〜65℃)になるように設定することで、各反応領域2内の核酸が増幅されてゆく。尚、このLAMP法では、一本鎖から二本鎖への熱変性が必要なく、この等温条件下、プライマーのアニーリングと核酸伸長とが繰り返り行われる。
この核酸増幅反応の結果、ピロリン酸が生成され、このピロリン酸に金属イオンが結合して不溶性又は難溶性の塩が形成され、この塩が濁度物質となる(測定波長300〜800nm)。この濁度物質に入射光(光L1)が照射されることで、散乱光(光L22)となる。この散乱光の散乱光量をリアルタイムに検出手段5で測定し、定量化する。また、透過光量からも定量化することは可能である。
【0041】
(b)RT−PCR装置の動作
ここで、RT―PCR装置において、ステップSp1(熱変性)、ステップSp2(プライマーのアニーリング)、ステップSp3(DNA伸長)の手順での核酸の検出方法について説明する。
熱変性ステップ(ステップSp1)では、反応領域2内が95℃になるように前記温度制御手段にて制御し、二本鎖DNAを変性させ一本鎖DNAとする。
続くアニーリングステップ(ステップSp2)では、反応領域2内が55℃となるように設定することで、プライマーが当該一本鎖DNAと相補的な塩基配列と結合させる。
次のDNA伸長ステップ(ステップSp3)では、反応領域2内が72℃となるように制御することで、プライマーをDNA合成の開始点として、ポリメラーゼ反応を進行させてcDNAを伸長させる。
このようなステップSp1〜Sp3の温度サイクルを繰り返すことによって、各反応領域2内のDNAは増幅されてゆく。この核酸増幅反応の結果、ピロリン酸が生成され、上述のようにして濁度物質を検出し、核酸量を定量化する。
【0042】
尚、蛍光検出にて検出する方法も可能である。このとき、核酸増幅反応において使用する蛍光物質に対応した励起フィルタ及び蛍光フィルタを配設し、上述の動作に準じて蛍光物質からの蛍光を検出し、核酸を定量化すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係わる核酸増幅反応装置は、光線通過距離を長く設定することが可能なため、従来の核酸増幅反応装置よりも、高い検出感度の測定が可能である。また、各構成を一次元的な配置とすることが可能なことから、装置全体の小型化、特に薄型のハンディタイプ化も可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 核酸増幅反応装置;2 反応領域;3 温度制御手段;4 照射手段;5 検出手段;6 基板;7 光源;8 導光手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸増幅反応の反応場となる細管形状に形成された反応領域と、
反応領域を加熱する温度制御手段と、
反応領域の一端から管腔内に光を照射する照射手段と、
反応領域の他端から出射する前記光の光量を検出する検出手段と、
を備える核酸増幅反応装置。
【請求項2】
前記反応領域が複数配列され、
前記照射手段は、一つの光源から発せられた前記光を各反応領域の一端から管腔内に導光する導光手段を含んでなる請求項1記載の核酸増幅反応装置。
【請求項3】
前記検出手段は、各反応領域の一端から出射する前記光の光量を検出する一次元センサを含んでなる請求項2記載の核酸増幅反応装置。
【請求項4】
前記反応領域が同一の平面上に互いに平行に配列され、
前記温度制御手段は、前記平面に対向する面上に設けられている請求項3記載の核酸増幅反応装置。
【請求項5】
前記反応領域が基板内に配列されている請求項4記載の核酸増幅反応装置。
【請求項6】
前記反応領域の入射側及び/又は出射側に曲面が設定される請求項5記載の核酸増幅反応装置。
【請求項7】
核酸増幅反応の反応場となる細管形状に形成された反応領域が配設された基板。
【請求項8】
前記反応領域の入射側及び/又は出射側に曲面が設定される請求項7記載の基板。
【請求項9】
核酸の増幅反応の反応場となる細管形状に形成された反応領域の一端から管腔内に光を照射して、反応領域の他端から出射する前記光の光量を検出することにより、増幅反応の進行に伴って生じる濁度物質による前記光の散乱光量を検出する核酸増幅反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−60908(P2012−60908A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206628(P2010−206628)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】