説明

核酸高分子の分解方法及び分解装置

【課題】時間空間を制御して核酸高分子の特定部位を分解する核酸高分子の分解方法及び分解装置を提供する。
【解決手段】微粒子に結合したプローブ核酸高分子を標的核酸高分子の特定の位置で特異的相補鎖対形成(ハイブリダイズ)させ、次に微粒子を高エネルギー状態にすることにより、時間空間を制御して微粒子近傍の標的核酸高分子の部位を切断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸高分子の特定部位を分解する核酸高分子の分解方法及び分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNA等の核酸高分子の特定部位を分解する方法として、例えば、制限酵素によるDNAの特定部位の切断が知られている。この制限酵素は主に二重鎖DNAの位置特異的切断を触媒する酵素であり、DNAの切断がすべてリン酸ジエステル結合の加水分解により進行する。また、DNAリガーゼを用いて切断断片と他のDNA断片を自由に結合できる。
【0003】
また、化学合成された分子によるDNAの特定部位を切断する方法が知られている。例えば特許文献1には、化学合成された分子としてテキサフィリンを用い、オリゴヌクレオチドにテキサフィリンを共有結合させ、DNAの特定部位切断を可能とする方法が記載されている。この場合、DNAの切断は、光分解的切断である。切断は、加水分解(水分子が結合を破壊するように結合をはさんで添加される)ではないと考えられており、また切断は、単独の酸化(光の非存在下で酸化反応が結合の破壊を引き起こす)ではないとも考えられている。切断の機構の詳細は今のところ不明である。
【0004】
また、リボザイムによるDNAの特定部位を切断する方法も知られている。例えば、特許文献2には、RNAがすべて、標的RNAとハイブリッドを形成するように適切に設計されたオリゴヌクレオチドすなわち外部ガイド配列を用いて、原核細胞または真核細胞由来のRNase Pによる切断に特異性を付与する方法が記載されている。これは標的RNAの機能発現の防止や生体内における疾患起因遺伝子または障害を起こす遺伝子発現の防止のために有用である。また、この方法によれば、上記の制限酵素による核酸の切断の場合と同様、DNA切断がすべてリン酸ジエステル結合の加水分解により進行し、DNAリガーゼを用いて切断断片と他のDNA断片を自由に結合できる。
【0005】
【特許文献1】特表平10−508581号公報
【特許文献2】特表平10−508181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、制限酵素によるDNAの切断方法では、切断部位は予め酵素の種類により決まったDNA配列部位になるため、自由な位置での切断は困難である。また、酵素による核酸切断の時間空間の制御は困難である。さらに、DNA、RNAの切断部位の塩基がメチル化等により修飾されている場合に切断の効率が低下する。
【0007】
また、特許文献1の方法では、酵素による核酸切断の時間空間の制御は困難である。
【0008】
さらに特許文献2の方法でも、制限酵素による核酸の切断の場合と同様、リボザイムによる方法も触媒による核酸の切断であるため時間空間の制御が困難である。また、制限酵素による核酸の切断の場合と同様、リボザイムによる場合もDNA、RNAの切断部位の塩基がメチル化等により修飾されている場合に切断の効率が低下する。
【0009】
本発明は、時間空間を制御して核酸高分子の特定部位を分解する核酸高分子の分解方法及び分解装置である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、標的核酸高分子を分解する核酸高分子の分解方法であって、プローブ核酸高分子と微粒子とを結合させて、プローブ核酸高分子結合微粒子を形成する工程と、標的核酸高分子を前記プローブ核酸高分子結合微粒子に含まれるプローブ核酸高分子に付加させて、付加微粒子を形成する工程と、前記付加微粒子に含まれる微粒子を高エネルギー状態にして、前記高エネルギー状態となった微粒子からのエネルギー移動により前記標的核酸高分子を分解する工程と、を含む。
【0011】
また、前記核酸高分子の分解方法において、生成する前記高エネルギーの領域は微小な領域であることが好ましい。
【0012】
また、前記核酸高分子の分解方法において、前記微粒子に電磁波、音波及び超音波のうちの少なくとも1つを照射することによって、前記微粒子を高エネルギー状態にすることが好ましい。
【0013】
また、前記核酸高分子の分解方法において、前記電磁波は、レーザーであることが好ましい。
【0014】
また、前記核酸高分子の分解方法において、前記微粒子は、金属微粒子であることが好ましい。
【0015】
また、前記核酸高分子の分解方法において、前記標的核酸高分子は、DNA及びRNAのうち少なくとも1つであることが好ましい。
【0016】
また、前記核酸高分子の分解方法において、前記プローブ核酸高分子は、DNA、RNA及びPNAのうち少なくとも1つであることが好ましい。
【0017】
また、本発明は、標的核酸高分子を分解する核酸高分子の分解装置であって、プローブ核酸高分子と微粒子とを結合させ、前記プローブ核酸高分子に標的核酸高分子を付加させた付加微粒子を収容するための収容部と、前記付加微粒子に含まれる微粒子を高エネルギー状態にするためのエネルギー供給手段と、を有し、前記高エネルギー状態となった微粒子からのエネルギー移動により前記標的核酸高分子を分解する。
【0018】
また、前記核酸高分子の分解装置において、さらに、前記収容部中の付加微粒子を分散させるための分散手段を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、微粒子に結合したプローブ核酸高分子を標的核酸高分子の特定の位置で特異的相補鎖対形成させ(以下、ハイブリダイズ(hybridize)またはハイブリダイゼーシ
ョン(hybridization)という)、次に微粒子を高エネルギー状態にすることにより、時
間空間を制御して微粒子近傍の標的核酸高分子の部位を切断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書において「高エネルギー状態」とは通常の状態から少しでも高いエネルギー状態にあることをいう。これは、微粒子を構成する原子、分子の振動回転励起、電子の励起、電子の集団励起、また励起状態の緩和による熱エネルギー、また高エネルギーを有する微粒子の構成粒子やそのイオン、または電子、ラジカル、さらにはプラズマ状態などが含まれる。またこれらのエネルギーが周囲の溶媒に緩和し、溶媒自体が高エネルギー状態になった場合や常温常圧では存在しない
物質状態や高圧状態も含む。また、「表面近傍」とは具体的には微粒子表面から外部または内部に100nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは1nm以下の範囲のことをいう。
【0021】
本実施形態に係る核酸高分子の分解方法について説明する。
【0022】
(1)プローブ核酸高分子(探索子用核酸高分子)と微粒子との結合によるプローブ核酸高分子結合微粒子の形成。
まず、標的核酸高分子(ターゲット核酸高分子)中の特定の部位に相補的に付加するプローブ核酸高分子と微粒子とを結合させ、プローブ核酸高分子結合微粒子を形成する。プローブ核酸高分子は、DNA、RNA及びPNAのうち少なくとも1つである。プローブ核酸高分子を標的核酸高分子の切断対象となる位置と相補的に付加するように適切に設計することにより、標的核酸高分子の目的の位置への特異性を付与することができる。この場合、制限酵素のような特異性付与に関する制限がない。
【0023】
プローブ核酸高分子の長さとしては特に制限はないが、10mer〜50merのものを用いると標的核酸高分子と付加し易いので好適である。標的核酸高分子の分解位置を精度良くするためには、プローブ核酸高分子の長さはできるだけ長い方が良い。また、微粒子の量に対するプローブ核酸高分子の量は、特に制限はないが、1〜数十個の範囲、例えば1〜50個の範囲が好ましい。
【0024】
プローブ核酸高分子と微粒子とを結合させる方法としては、例えば、溶液のpH、プローブ核酸高分子のイオン状態等を変化させる等により、プローブ核酸高分子を微粒子の表面に選択的に吸着させる方法、あるいはプローブ核酸高分子と親和性を持つように微粒子の表面を修飾する方法、微粒子と親和性を持つようにプローブ核酸高分子を修飾する方法、その他適当な手法によりプローブ核酸高分子と微粒子表面とを化学的に結合(イオン結合、共有結合、配位結合、金属結合、水素結合、ファンデルワールス結合等)させる方法、微粒子の表面付近にプローブ核酸高分子が入り込むように収着させる方法、また、プローブ核酸高分子の末端を化学修飾し微粒子と結合する方法、すなわち、例えば、微粒子として金微粒子を、プローブ核酸高分子としてDNAを用いた場合については、このDNAの末端を例えばチオール標識したものを用意し、これを金微粒子の表面に結合させる方法等が挙げられる。プローブ核酸高分子の末端の化学修飾としては、このチオール標識の他にもビオチン化標識、ジコキシジエニン化等が挙げられる。
【0025】
プローブ核酸高分子としてPNAを用いるとより効果的な場合がある。PNAとは「Peptide Nucleic Acid」の略で、核酸(DNA、RNA)に替わる物質として開発された化学合成核酸アナログである。PNAは、核酸の基本骨格構造である五単糖・リン酸骨格を、グリシンを単位とするポリアミド骨格に置換したもので、核酸によく似た3次元構造を有する。PNAは以下の利点を有する。
【0026】
(a)PNAは、プローブDNAあるいはプローブRNAと比較して相補的核酸に対し、非常に特異的でかつ強力に結合する。また、核酸の二重鎖に入り込み相補部分とハイブリダイズする性質を持つ。
(b)PNAと標的核酸高分子とのハイブリダイゼーション反応が迅速に行われるため、DNAまたはRNAをプローブ核酸高分子として用いるより反応時間を大幅に短縮することができる。
(c)PNAは電荷のない中性の安定した骨格構造を有するため、溶液のpH、塩濃度等に影響されることなくハイブリダイゼーションが進行する。
(d)PNAは生体内に存在しない化学合成物質のため、核酸、タンパク分解酵素、加水分解等によりほとんど分解されることがない。
【0027】
本実施形態において使用される微粒子としては、金属微粒子、非金属微粒子、高分子微粒子等が挙げられる。また、微粒子中には、レーザー等を吸収する有機色素等を含有させて複合微粒子としてもよい。さらに、プローブ核酸高分子と親和性を持たせるために微粒子の表面を修飾してもよい。
【0028】
金属微粒子としては、典型金属、遷移金属の微粒子であれば特に制限はないが、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Hf、Ta、W、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Re、ランタノイド、アクチノイド等の遷移金属、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi等が挙げられる。遷移金属の中では、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Mo、W、Ta及びNbであることがより好ましく、Au、Ag及び白金族(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)等の貴金属であることが酸化されにくいこと等の点からさらに好ましく、Au、Ptが特に好ましい。また、Au、Pt等の表面プラズモン共鳴やバンド間遷移等の光吸収が強く起こるような金属微粒子も好ましい。また、Au、Ag、Cu等の表面プラズモン共鳴帯が可視領域にある金属微粒子もさらに好ましい。また、GaAs、GaTe、CdSe等の複合金属の微粒子であってもよい。
【0029】
非金属微粒子としては、有機色素、有機顔料等の有機化合物、無機顔料等の無機化合物等の微粒子が挙げられる。
【0030】
高分子微粒子としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ラテックス等の微粒子が挙げられる。また、高分子微粒子中に有機色素、有機顔料等の有機化合物、無機顔料等の無機化合物等を含有させたり、光吸収の大きな基を化学的に結合させたりしてもよい。
【0031】
微粒子の平均粒径としては、微粒子の溶液中での高い分散性が望ましい等の点から、100μm以下であることが好ましく、1nm〜100nmの範囲であることがより好ましく、1nm〜10nmの範囲であることがさらに好ましい。金属微粒子の平均粒径が1nmより小さいと、照射レーザー等の波長が短波長になる傾向があり、操作が煩雑になる可能性がある。また、微粒子の平均粒径の大きさによって標的物の分解反応を起こさせる領域を制御できるため、微粒子の平均粒径は分解の目的等に応じて選択すればよい。なお、微粒子の平均粒径は、例えば大塚電子製の光散乱測定装置(DLS−7000型)を用いて測定することができる。
【0032】
金属微粒子の製造方法としては、水等の液体中で金属プレート表面をレーザー照射またはマイクロ波照射によりアブレーションするSF−LAS法(Surfactant-free laser ablation in solution)、界面活性剤を添加した水等の液体中で金属プレート表面をレーザー照射またはマイクロ波照射によりアブレーションするSC−LAS法(Surfactant-controlled laser ablation in solution)、化学的に還元する方法、溶液中で放電する方法等が挙げられ、特に制限はない。金属微粒子に界面活性剤を添加することにより、金属微粒子を安定化させることができ、製造において操作が容易となる等のため、好ましい。
【0033】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性の界面活性剤を使用することができる。通常は、界面活性剤の溶解度、溶媒中の金属微粒子の安定化力等の点からドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が使用される。
【0034】
(2)プローブ核酸高分子結合微粒子に含まれるプローブ核酸高分子への標的核酸高分子の付加による付加微粒子の形成。
次に、前記プローブ核酸高分子結合微粒子に含まれるプローブ核酸高分子に標的核酸高分子を付加、すなわち標的核酸高分子の特定の位置でプローブ核酸高分子を特異的相補鎖対形成させて、付加微粒子を形成する。例えば、上記プローブ核酸高分子結合微粒子として、金微粒子にプローブDNAを結合させたものを用いた場合、プローブDNAを含む溶液と標的核酸高分子として標的DNAを含む溶液を混合し、ハイブリダイゼーションさせる。
【0035】
ハイブリダイゼーションさせるときの、反応液の温度は通常25℃〜75℃の範囲で行われるが、30℃〜40℃の範囲が好ましい。また、反応時間は通常1時間〜48時間の範囲で行われるが、5時間〜12時間の範囲が好ましい。プローブDNAの長さが長い場合には、反応温度を上げてプローブDNAの絡み合いを低減するとハイブリダイズしやすくなる傾向にある。例えば、プローブDNAを含む溶液と標的核酸高分子として標的DNAを含む溶液を混合し、混合溶液を60℃に24時間保ちハイブリダイゼーションさせる。
【0036】
また効率よくハイブリダイゼーションが起こるために添加物を加えてもよい。界面活性剤(SDS、NP−40(Polyoxyethylene(9)Octylphenyl Ether)等)や有機溶媒(ホルムアミド、酢酸など)の溶液中では、DNA、RNAなどの標的核酸高分子の2次構造が破壊され、プローブ核酸高分子が接近しやすくなるという利点がある。
【0037】
(3)微粒子を高エネルギー状態することによる標的核酸高分子の分解。
最後に、付加微粒子に含まれる微粒子を高エネルギー状態にして、高エネルギー状態となった微粒子からの周囲へのエネルギー移動により標的核酸高分子を特定部位で分解する。
【0038】
本発明の実施形態に係る核酸高分子の分解装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。分解装置1は、エネルギー供給手段であるレーザー発生装置10と、集光手段であるレンズ12と、収容部であるセル14と、分散手段である撹拌子16と、を備える。
【0039】
さらに詳細に説明すると、分解装置1において、例えば有底四角筒状のセル14の内底部に撹拌子16を備え、セル14の開口部26の図1における上方にレンズ12が配置され、レンズ12の図1における上方にはレーザー発生装置10が配置されている。
【0040】
本実施形態に係る核酸高分子の分解装置1の動作について図1に基づいて説明する。まず、付加微粒子20を含む反応液22が準備され、セル14に入れられる。このとき、付加微粒子20は通常、反応液22に分散された状態である。
【0041】
その後、反応液22を撹拌子16で撹拌しながら、レーザー発生装置10から発せられるレーザー24がレンズ12により集光され、セル14中の反応液22に照射される。レーザー24が所定の強度、所定の時間、付加微粒子20が分散した反応液22に照射されると、付加微粒子20中の微粒子30は高エネルギー状態となり、高エネルギー状態となった微粒子30から周囲へのエネルギー移動により、微粒子30の表面近傍に存在する標的核酸高分子28が特定部位で分解される。分解効率、位置選択性等の向上のために、反応液22にレーザー24を照射するときにレーザー24をレンズ12等の集光手段により反応液22中で集光させることが好ましい。
【0042】
本実施形態において分解の対象となる標的核酸高分子28は、DNA及びRNAのうち少なくとも1つである。標的核酸高分子28が核酸の場合、一本鎖核酸でも二本鎖核酸で
もよい。二本鎖核酸の場合、プローブ核酸高分子としてPNAを使用すると効率よく二本鎖核酸に入り込み、相補的な部位とハイブリダイズを起こさせることができる。
【0043】
反応液22に使用される溶媒としては、付加微粒子20を均一に分散、懸濁あるいは溶解させることができればよく特に制限はないが、水や一般的な有機溶媒を使用することができる。水としては、特に制限はなく、例えば、水道水、地下水、イオン交換水等の純水、超純水等が挙げられるが、分解効率を向上させるためには不純物が少ない方がよく、通常はイオン交換水等の純水、超純水が用いられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の直鎖飽和炭化水素系溶媒、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素系溶媒、アセトニトリル等を用いることができる。この中で、適用範囲が広いことから水、アルコール系溶媒が好ましく、水がより好ましい。
【0044】
反応液22中の付加微粒子20の濃度は、付加微粒子20を懸濁、分散できる程度の濃度であれば特に制限はないが、通常、1015個/mL以下である。
【0045】
微粒子30の量に対する標的核酸高分子28の量は特に制限はないが、微粒子1個に対して標的核酸高分子の個数が1〜数十個の範囲、例えば1〜50個の範囲が好ましい。
【0046】
付加微粒子20を含む反応液22を収容するための収容部であるセル14としては特に制限はないが、通常、石英、ガラス等の材質のものが使用される。収容部はセル14の代わりにガラス、シリコン、アクリル等の有機高分子、サファイヤやアルミナ等の無機物等の基板であってもよい。
【0047】
本実施形態では微粒子30を高エネルギー状態にするために付加微粒子20にレーザーを照射しているが、微粒子30を高エネルギー状態にするための手段であれば特に制限はなく、例えば、マイクロ波、可視光、紫外光、赤外光、X線、γ線等の電磁波あるいは音波(弾性波)等を照射すればよい。電磁波としては、マイクロ波、可視光、紫外光、赤外光が好ましく、レーザーであってもよい。また、音波としては超音波が好ましい。
【0048】
前述したように「高エネルギー状態」とは、通常の状態から少しでも高いエネルギー状態にあることをいうが、例えば、波長532nmのパルスレーザー光を照射した場合は、微粒子30がレーザー光を1光子吸収して通常の状態から5eV程度以上高い状態となる。
【0049】
反応液22に照射されるレーザー24のエネルギー密度は水中でプラズマが発生しない程度、0.1mW/cm〜1010W/cmの範囲であり、0.1mW/cm〜10W/cmの範囲であることが好ましい。
【0050】
反応液22中でのレーザー24等の集光領域は、(1μm)〜(1mm)の範囲、好ましくは(1μm)〜(0.2mm)の範囲であることが好ましい。装置上の制約から集光領域は(1μm)程度より小さく絞ることは困難であり、集光領域が(1mm)程度より大きい範囲であると、分解効率が低下する場合がある。また、レーザー24等の照射はパルス状であってもよいし、連続的であってもよい。
【0051】
反応液22に照射されるレーザー24等の強度は、微粒子30が高エネルギー状態となり効率よく標的核酸高分子28が分解される強度であれば特に制限はないが、パルスレーザーの場合、100μJ/パルス〜100mJ/パルスの範囲であることが好ましく、1mJ/パルス〜20mJ/パルスの範囲であることがより好ましい。連続波レーザー(C
Wレーザー)の場合は、0.1mW〜10Wの範囲であることが好ましい。レーザー24の強度が大きいと標的核酸高分子28の分解効率が高くなるが、レーザー24の照射強度が100μJ/パルスより低いと、標的核酸高分子28の分解が進行しない場合があり、100mJ/パルスより大きいと、集光領域の大きさによっては、溶媒自体が誘電破壊する場合があり、さらには容器(セル)が損傷する場合がある。レーザー24等の強度を高くすると標的核酸高分子28の分解部分の範囲が大きくなるため、レーザー強度の調整により標的核酸高分子28の分解部分の範囲を制御することができる。
【0052】
反応液22にレーザー24等を照射する時間は、特に制限はないが、通常1パルス幅の時間〜100分の範囲、好ましくは、1パルス幅の時間〜10分の範囲である。パルスレーザーの場合、パルス周波数は特に制限はないが、好ましくは5Hz〜20Hzの範囲である。
【0053】
反応液22に照射されるレーザー24等の波長としては、微粒子30の種類に応じて効率よく高エネルギー状態となる波長を選択すればよく特に制限はないが、例えば、微粒子30として金属微粒子を使用する場合、金属微粒子の表面プラズモン共鳴波長付近の波長であること、金属微粒子が大きな吸収係数を有する波長であること、金属微粒子のバンド間遷移付近の波長であること等が好ましい。ここで、大きな吸収係数とは、100M−1cm−1以上の強度の吸収であることが好ましい。例えば、微粒子30が金微粒子の場合はその表面プラズモン共鳴波長付近の532nmの波長を用いることが好ましい。微粒子30が白金微粒子の場合のように、可視領域に特に強い吸収を有さない場合は、どの波長のレーザーを用いてもよい。微粒子30がレーザー24等を吸収しない場合、あるいはレーザー24の吸収効率が低い場合には、前述したように微粒子30中に、レーザー24等を吸収する有機色素等を含有させてもよい。
【0054】
使用されるレーザー24の種類としては、照射するレーザーの波長に応じて選択すればよく特に制限はないが、例えば、半導体レーザー、固体レーザー、気体レーザー、色素レーザー、エキシマレーザー等を使用することができる。
【0055】
なお、反応液22に照射されるレーザー24は、セル14の開口部を通して照射されることが好ましい。セル14を通して照射されると、レーザー24の強度によっては、セル14自体がレーザーによりスパッタされ損傷を受けてしまう可能性がある。また、このため、セル14は透明な材質であることが好ましい。レーザー24の照射は、例えば図1に示すように、セル14の上面の開口部26を通して行われる。
【0056】
反応液22の温度は、標的核酸高分子28が効率的に分解される温度であれば特に制限はないが、0℃〜100℃の範囲、通常は10℃〜30℃の室温である。
【0057】
本実施形態に係る分解方法において、レーザー等の照射時に反応系を特に加圧する必要はなく、分解は通常は常圧下で行われる。なお、必要に応じて反応系を0.2MPa〜100MPaの範囲に加圧してもよい。
【0058】
セル14に入れられた反応液22は、撹拌子16や撹拌羽根等の分散手段により反応液22内の付加微粒子20が撹拌、分散されることが好ましい。また、撹拌の他に分散手段として超音波を用いて分散することもできる。撹拌、分散することによりレーザーを反応液全体に均一に照射することができる。付加微粒子20が撹拌子16等の分散手段を使用しなくても自然に分散している場合には分散手段は使用しなくてもよい。
【0059】
このように、付加微粒子20を溶媒に分散、溶解させてレーザー24等を付加微粒子20に照射することによって、高エネルギー状態になった微粒子30からの周囲へのエネル
ギー移動により標的核酸高分子28が特定部位で分解される。エネルギー移動の形態としては、熱エネルギー、高エネルギーを有する微粒子30の構成粒子、またはそのイオンや電子等が考えられる。レーザー照射で金微粒子を高エネルギー状態にする場合を例に説明すると、金微粒子の表面プラズモン共鳴によりレーザー光を吸収した電子のエネルギーが金微粒子の格子の振動エネルギーに緩和し、固体状態の金微粒子が溶解を始める。溶液状態になった金微粒子はさらに蒸発して原子状になる。このようにして高エネルギー状態の金微粒子表面から放出された金原子、金クラスター、金イオン、電子、ラジカル等の高エネルギー粒子が金微粒子表面近傍に存在する標的核酸高分子28を分解すると考えられる。また、放出された電子はレーザーの強い電場で加速され、これが周囲の金原子や溶媒分子と衝突してこれをイオン化し、ここから放出された電子がさらに次の分子と衝突し、雪崩のようにプラズマ状態等の高エネルギー状態に移行する。これらの高エネルギー粒子は微粒子表面から数10nm以下の微粒子表面近傍に存在すると考えられるので、標的核酸高分子28の分解される部位も微粒子表面近傍に存在するものに限られる。すなわち、分解される標的核酸高分子の部位は、微粒子表面近傍に存在する数塩基程度の部位に限られるため、位置特異的切断が進行する。
【0060】
この分解の概念図を図2に示す。末端がチオール標識されたプローブ核酸高分子32にチオール結合した金微粒子34(プローブ核酸高分子結合微粒子)と標的核酸高分子28とのハイブリッド(付加微粒子20)を含む溶液にレーザー24を照射し、金微粒子34の周囲に高エネルギー領域36を生成させる。すると近傍のプローブ核酸高分子32とともに標的核酸高分子28のうち金微粒子34の近傍にある部分が分解され切断される。
【0061】
通常、水等の溶媒に高強度のレーザーを照射すると、レーザーの集光領域(例えば、(1μm)以上)内の全てがプラズマ状態等になるが、本実施形態に係る方法では、レーザーの集光領域内の全てがプラズマ状態等になるわけではなく、レーザー集光領域内に存在する微粒子の近傍がプラズマ状態等になる。また、微粒子の平均粒径の大きさ及び照射レーザー強度等によってプラズマ状態等になる領域を制御することができるため、微粒子の平均粒径及び照射レーザー強度等を分解の目的等に応じて選択すれば、標的核酸高分子の分解反応を起こさせる領域を制御することができる。
【0062】
本実施形態においては、プローブ核酸高分子32と微粒子30とを結合させ、そのプローブ核酸高分子32に標的核酸高分子28を付加させた付加微粒子20としているため、選択的に標的核酸高分子28の特定部位を微粒子30の表面近傍に存在させている。その上で、レーザー24等を微粒子30に照射し、標的核酸高分子28の特定部位を選択的に分解することができる。上述したように、本実施形態では、高エネルギー粒子は微粒子表面近傍にほとんどが存在すると考えられるので、標的核酸高分子28の分解される範囲も微粒子表面近傍に存在するものに限られ、標的核酸高分子28の特定部位を選択的に分解することができ、微粒子18の表面近傍に存在しない標的核酸高分子28の部位はほとんど分解されない。また、微粒子周囲の高エネルギー状態による切断であるため標的核酸高分子の塩基の修飾による影響を受けない。
【0063】
ここで、標的核酸高分子が切断される領域は微粒子周囲の高エネルギー領域の大きさと一致すると考えられる。ここでは、レーザー照射による金微粒子周囲の高エネルギー状態領域の大きさを以下に見積もった。
【0064】
水中でレーザープラズマ形成に必要な電子を水分子から引き出すには〜1010W/cmのエネルギー密度が必要だが、以下に示す例でのレーザー照射のエネルギー密度は〜10W/cmであるため、レーザープラズマを生成するには十分なレーザー強度ではない。このとき、一方で金微粒子はレーザーの多光子吸収により104〜5K程度の温度になっていると考えられる。すると金の仕事関数は9.6eVなので、金微粒子を構成す
る金原子のうち約10−4〜10−3の割合の金原子が電子を放出すると考えられる。ここで金微粒子中の金原子の密度は、〜6.0×1022atoms/cmなので放出電子の密度は、〜1019/cm以上となる。水中でのプラズマ形成に必要な電子密度〜1018/cmより十分に大きい。
【0065】
溶液中プラズマ中の自由電子密度ρの生成方程式は、次式のように書ける。
【0066】
【数1】

【0067】
右辺の第一項は電子雪崩による自由電子の生成を表わし、ηは自由電子が水分子に衝突し、結合電子をたたき出す確率を表わす。この過程はレーザーパルス中に起こり続け、このようにして水分子から放出された自由電子はレーザーの強い電場によって加速され、さらに電子を水分子から放出する反応を行う。右辺第二項は自由電子の再結合、捕捉、拡散による自由電子密度の変化を表わす。gはこれらの効果を合わせたものである。最後の項はレーザーパルス照射中に多光子吸収により生成する自由電子を表わす。
【0068】
金微粒子からの電子の放出はレーザー照射の間に持続する。したがって、プラズマの大きさはレーザーパルス照射の初期に金微粒子から生成した自由電子の上記gで表わされる効果によって決まる存在領域の大きさとおおまかには一致するとしてよい。この自由電子の存在領域の大きさは上で述べたように電子の再結合、捕捉、拡散によって決定される。自由電子がレーザーの強い光子を吸収しているときは、自由電子の寿命はレーザーパルスの時間より長いと仮定する。よって、電子とホールの再結合は無視する。また局所ポテンシャル井戸への捕捉エネルギーはレーザーの1光子を吸収するだけで十分再イオン化することができるので、この効果も無視できる。
【0069】
これらの仮定から自由電子の存在領域の大きさはその拡散領域で決まると考えられる。その大きさ(dupper limit)は次式で決まる。
【0070】
【数2】

【0071】
ここで、Dは電子の拡散係数、τpは照射レーザーのパルス幅を表わす。また、Dは次
式で表される。
【0072】
【数3】

【0073】
ここで、εavは電子の平均エネルギー、mは電子の質量である。νは自由電子の水分子との衝突間隔時間である。εavとνは次式で計算できる。
【0074】
【数4】


【数5】

【0075】
ここで、Eionは電子の結合エネルギー、τは電子の水分子との衝突頻度である。Eionの値として金の仕事関数である9.6eVを、τの値として1.0×10−15secを代入した。すると、Dの値として5.9×10−5/secが得られる。するとdupper limitの値は〜7.0×10−6mとして求められる。実際はプラズマの大きさはdupper limitの値より小さいと考えられる。なぜなら、放出された電子と正に帯電した金微粒子とのクーロン相互作用やプラズマ生成に必要な電子の密度について考慮されていないからである。また仮に金微粒子を構成する金原子がすべて電子を放出したとすると、その電子密度は〜6.0×1022atoms/cmになる。これが均一に拡散しプラズマ形成に必要な電子密度まで下がるときの体積は(〜10−7m)となる。よって、この(〜10−7m)程度の大きさの領域内にある標的核酸高分子が切断されると考えられる。
【0076】
微粒子による標的核酸高分子の分解は、例えば、レーザー等を照射した後の反応液を、紫外可視吸収スペクトル、赤外吸収スペクトル、核磁気共鳴スペクトル等を測定することにより、あるいは高速液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、電気泳動等により確認することができる。
【0077】
このように、本実施形態に係る核酸高分子の分解方法により発生する、高エネルギー微粒子によるプラズマ等では空間及び時間の制御が容易である。すなわち、本実施形態に係る核酸高分子の分解方法によれば、放電プラズマと比較して非常に微小な領域、例えば(1nm)〜(〜100nm)レベルの微小領域に限定されたプラズマ等を発生させることができる。これによって微粒子の表面近傍に存在する標的核酸高分子を特定部位で分解することができる。また、レーザー等を用いて微粒子を高エネルギー状態にした場合、プラズマ等を1fsec〜100nsecのナノオーダの精度で生成できるため標的核酸高分子分解の時間制御も制限酵素による方法、化学合成された分子による方法、リボザイムによる方法等に比較して精度が非常に高い。
【0078】
また、膜構造物、例えば細胞などの内部にプローブ核酸高分子結合微粒子を封入し、このプローブ核酸高分子結合微粒子を細胞内部のDNAやRNAとハイブリダイゼーションさせた後、微粒子をレーザー等で高エネルギー状態にすることにより、この微粒子の近傍にあるDNAやRNA(標的核酸高分子)を選択的に分解することができる。この場合、微粒子表面近傍のみにプラズマ状態等が生成するため他の領域の混在物を破壊することはない。
【0079】
本実施形態に係る核酸高分子の分解方法及び分解装置は、DNA、RNAの分析全般の用途、医療用途、またはDNA、RNA分子の機能調査の用途等において使用することができる。
【0080】
高分子、特に生体高分子を扱う方法の発展に伴い、遺伝子操作の対象が下等生物から高等生物へと移行しつつあるなか、大きなDNA、RNA、タンパク質、糖鎖などを自在に操作する技術が重要になってきている。例えば、天然の制限酵素はプラスミドDNAの遺伝子操作に有用となるが、高等生物の巨大DNAを同じように制限酵素で処理すると、きわめて多数の箇所で切断が起こってしまい、正確な遺伝子操作は困難となる。そこで、本実施形態のように、微粒子、特に金属微粒子とプローブ核酸高分子とを結合させたプローブ核酸高分子結合微粒子を用いて、標的核酸高分子の特定の位置にハイブリダイゼーションさせ、微粒子を高エネルギー状態にすることによって位置特異的に標的核酸高分子を切
断することができる。その最大の長所は、(1)巨大なDNAでも望みの位置特異性をもって切断できることができる、(2)プローブ核酸高分子の用意が他の方法に比較して非常に簡単である、ことである。この方法を用いることにより、標的RNAの機能の発現を消失させ、生体内における疾患起因遺伝子または障害を起こす遺伝子の発現を防止することもできる。
【0081】
このように、本実施形態に係る核酸高分子の分解方法及び分解装置により、DNAやRNA等の核酸高分子の特定箇所のみを再現性よく切断することができ、遺伝子解析の効率を著しく向上することができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
<金微粒子の作製>
金微粒子はHAuClのクエン酸による還元法により作製した。1mMのHAuCl水溶液10mLを撹拌しながら加熱して還流条件下においた。これに38.8mMのクエン酸三ナトリウムをすばやく加えた。溶液の色が黄色から深赤に変わったら、さらに15分間撹拌した。溶液を室温(25℃)まで下げ、径が0.45μmのフィルターに通した。このように合成した金微粒子の平均粒径については、HAuClとクエン酸の濃度を調整し、13nmになるようにした。
【0084】
<金微粒子とプローブDNAとが結合したプローブ核酸高分子結合微粒子の作製>
平均粒径13nmの金微粒子を含む水溶液に末端をチオール化したプローブDNA(50mer)を5μMの濃度で混ぜ16時間放置した。さらに0.1MのNaCl、10mMのリン酸緩衝液(pH=7.0)の溶液にし、さらに40時間放置した。そしてこれを遠心と再分散を3回繰り返し、余分な物質を除去した。
【0085】
図3に本実施例1で使用したプローブ核酸と標的核酸M13mp18ssDNA 7249b.p.の塩基配列を示す。プローブ核酸は標的核酸の3601番目の塩基から塩基対を組むように設計した。また探索子核酸の5’端をチオール標識し、金微粒子と結合するようにした。
【0086】
<金微粒子とプローブDNAとが結合したプローブ核酸高分子結合微粒子と標的DNAのハイブリダイズとその確認>
標的DNAのM13mp18ssDNA(一本鎖DNA 7249b.p.)と上記プローブ核酸高分子結合微粒子を混合し、5分間60℃に保温した。さらにこれを室温(25℃)で3時間放置した。アガロースゲル電気泳動により確認したところ、これではハイブリダイズしなかった。そこで、放置時間が足りないと考えられたので、50℃で48時間放置した。アガロースゲル電気泳動にてハイブリダイゼーションの確認を行った。ゲルの写真を図4と図5に示す。
【0087】
図4からわかるように、標的DNAとハイブリダイズしたプローブDNAに結合した金微粒子はアガロース中をハイブリダイズしたまま泳動する。これが深紅色のバンドとしてアガロース中のレーン1と2の矢印Bの位置に観察された(図に点線を示す)。矢印Aは電気泳動の最前部を示す。矢印Aの最前部には標的DNAとハイブリダイズしなかったプローブDNAがそれに結合した金微粒子の深紅色のバンドとして観測された。また、このゲルにUV照射すると、図5からわかるように、図4で示した金微粒子のバンドと同じ位置に標的DNAにインターカレートした色素の蛍光のバンドがレーン1と2の矢印Bの位
置に観察された(図に点線を示す)。矢印Aは電気泳動の最前部を示す。これは標的DNAに金微粒子が結合したプローブDNAがハイブリダイズしていることを示している。ここで、溶液はリン酸バッファでpHを7.0に調整し、さらに0.1MのNaClを添加した。
【0088】
<標的DNAのレーザー照射による切断>
上記で作製した金微粒子が結合した探索子用DNAと標的DNAとのハイブリッド(付加微粒子)を含む溶液50μLを底面が0.5cm×0.5cmのセルに入れ、波長532nmで1パルスあたり4mJレーザーを5分間照射した。レーザー光はレンズを用いて、(0.1mm)程度になるように溶液中に集光した。この間、セルの底に長さ2mm幅1mmの撹拌子を入れ溶液を撹拌した。波長532nmは金微粒子の表面プラズモン共鳴に一致しているため、効率よく金微粒子を高エネルギー状態にすることができた。標的DNAの切断の確認はアガロースゲル電気泳動にて行った。
【0089】
図6は、標的DNA(M13ssDNA)と金微粒子が結合したプローブDNAとのハイブリッドを含む溶液にレーザー照射(4mJ/purse)した前後の溶液のアガロースゲル電気泳動を示す。矢印Aは泳動の最前部、矢印BはM13ssDNAのバンドの位置を示す。レーン4の溶液にレーザー照射したものをレーン2に、レーン5の溶液にレーザー照射したものをレーン3に示す。レーン4及び5で見られるM13ssDNAのバンド(図中、点線内)がレーン2及び3で見られないことから、レーザー照射後にM13ssDNAのバンドが消失し、M13ssDNAが切断されたことを示す。これはアガロースゲル電気泳動では確認できないほど標的DNAが分子量の小さなDNA片に分解したためと考えられる。レーン1はM13ssDNAのバンドの位置を確認するためにM13ssDNAのみを泳動した(図に点線を示す)。
【0090】
(実施例2)
<金微粒子とプローブDNAとが結合したプローブ核酸高分子結合微粒子と標的DNAのハイブリダイズとその確認>
標的DNAのM13mp18ssDNA(一本鎖DNA 7249b.p.)(濃度1.8×10−8M)と、図7に示したDNA−1とDNA−2をそれぞれプローブDNAとして用いたものが結合した金微粒子(濃度5.4×10−8M)を混合し、30℃に保温した。溶液はリン酸バッファー(0.01M)でpHを7.0に調整し、さらに0.1MのNaClになるようにNaClを添加した。
【0091】
図7に、本実施例2で使用したプローブDNAと標的DNA M13mp18ssDNA 7249b.p.の塩基配列を示す。プローブ核酸DNA−1(50mer)は標的DNAの3601番目の塩基から塩基対を組むように、プローブ核酸DNA−2(50mer)は標的DNAの7199番目の塩基から塩基対を組むように設計した。またプローブ核酸は5’端をチオール標識し金微粒子と結合するようにした。
【0092】
<標的DNAのレーザー照射による切断>
作製した金微粒子が結合したプローブDNAと標的DNAのハイブリッド(付加微粒子)を含む溶液に波長532nmで1パルスあたり2mJのレーザーを5分間照射した(実施例1に比較してレーザー強度は弱い)。標的DNAの切断の確認はアガロースゲル電気泳動にておこなった。これを図8に示す。レーン1と2はそれぞれDNA−2とDNA−1をプローブDNAとして用いたものにレーザー照射したもの、レーン3と4はそれぞれDNA−2とDNA−1をプローブDNAとして用いたもののレーザー照射前のもの、MはRNAマーカーでその右側に塩基数を示した。左側の欄に表示した1、2、3merは標的核酸が1つの金微粒子にハイブリダイズした数を、A、Bはそれぞれレーン1と2に検出された標的DNAの切断生成物バンドの位置を示す(図に点線を示す)。標的位置に
よって長さの異なるDNAに切断されていることがアガロースゲル電気泳動で確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態に係る核酸高分子の分解装置の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る核酸高分子の分解方法の概略を示す図である。
【図3】本発明の実施例1で使用したプローブDNAと標的DNAの配列を示す図である。
【図4】本発明の実施例1におけるハイブリダイゼーション後の反応液のアガロースゲル電気泳動を示す写真である。
【図5】本発明の実施例1におけるハイブリダイゼーション後の反応液のアガロースゲル電気泳動において、ゲルにUVを照射したときの様子を示す写真である。
【図6】本発明の実施例1における標的DNAと金微粒子が結合したプローブDNAとのハイブリッドを含む溶液にレーザー照射した前後の溶液のアガロースゲル電気泳動を示す写真である。
【図7】本発明の実施例2で使用したプローブDNAと標的DNAの配列を示す図である。
【図8】本発明の実施例2におけるレーザー照射前後の反応液のアガロースゲル電気泳動を示す写真である。
【符号の説明】
【0094】
1 分解装置、10 レーザー発生装置、12 レンズ、14 セル、16 撹拌子、20 付加微粒子、22 反応液、24 レーザー、26 開口部、28 標的核酸高分子、30 微粒子、32 プローブ核酸高分子、34 金微粒子、36 高エネルギー領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸高分子を分解する核酸高分子の分解方法であって、
プローブ核酸高分子と微粒子とを結合させて、プローブ核酸高分子結合微粒子を形成する工程と、
標的核酸高分子を前記プローブ核酸高分子結合微粒子に含まれるプローブ核酸高分子に付加させて、付加微粒子を形成する工程と、
前記付加微粒子に含まれる微粒子を高エネルギー状態にして、前記高エネルギー状態となった微粒子からのエネルギー移動により前記標的核酸高分子を分解する工程と、
を含むことを特徴とする核酸高分子の分解方法。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸高分子の分解方法であって、
生成する前記高エネルギーの領域は微小な領域であることを特徴とする核酸高分子の分解方法。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の核酸高分子の分解方法であって、
前記微粒子に電磁波、音波及び超音波のうちの少なくとも1つを照射することによって、前記微粒子を高エネルギー状態にすることを特徴とする核酸高分子の分解方法。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸高分子の分解方法であって、
前記電磁波は、レーザーであることを特徴とする核酸高分子の分解方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の核酸高分子の分解方法であって、
前記微粒子は、金属微粒子であることを特徴とする核酸高分子の分解方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の核酸高分子の分解方法であって、
前記標的核酸高分子は、DNA及びRNAのうち少なくとも1つであることを特徴とする核酸高分子の分解方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸高分子の分解方法であって、
前記プローブ核酸高分子は、DNA、RNA及びPNAのうち少なくとも1つであることを特徴とする核酸高分子の分解方法。
【請求項8】
標的核酸高分子を分解する核酸高分子の分解装置であって、
プローブ核酸高分子と微粒子とを結合させ、前記プローブ核酸高分子に標的核酸高分子を付加させた付加微粒子を収容するための収容部と、
前記付加微粒子に含まれる微粒子を高エネルギー状態にするためのエネルギー供給手段と、
を有し、
前記高エネルギー状態となった微粒子からのエネルギー移動により前記標的核酸高分子を分解することを特徴とする核酸高分子の分解装置。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸高分子の分解装置であって、
さらに、前記収容部中の付加微粒子を分散させるための分散手段を有することを特徴とする核酸高分子の分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−104939(P2007−104939A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297943(P2005−297943)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
【Fターム(参考)】