説明

栽培室及びその空調装置

【課題】人工光源を使った植物工場の栽培室を、低コストで植物の生長に適した環境に維持することができるようにする。
【解決手段】点灯により排熱を発生する照明24が配置される第1の領域22と、照明24の照射によって生長する植物25が配置される第2の領域23とをともに内部に備える栽培室20の空調装置21である。第1の領域22に存在する第1の空気を栽培室20の外部に排気するための第1の排気装置27と、第2の領域23に存在する第2の空気を栽培室20の外部に排気するための、第1の排気装置22とは異なる第2の排気装置28と、第2の排気装置28により排気された第2の空気を冷却して除湿し、除湿された第2の空気を、第1の排気装置27により排気された第1の空気と混合して所定の温度の空調空気とする混合装置28と、混合装置28により生成された空調空気を、第2の領域23に吹き出す吹出し装置30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培室及びその空調装置に関し、例えば、人工光源を使った植物工場の栽培室を、低コストで植物の生長に適した環境に維持することができる省エネルギー型の空調装置と、この空調装置を備える栽培室とに関する。
【背景技術】
【0002】
「植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」プロジェクトが、「生物機能活用型循環産業システム創造プログラム」の一環として、経済産業省により2006年度より開始されている。このプロジェクトは、具体的には、例えば新規な医薬成分や機能性物質といった高付加価値物質を生産可能な遺伝子組換え植物、及びこの遺伝子組換え植物を効率的かつ安全に生産するための閉鎖型遺伝子組換え植物工場を、新たに開発することを目的とする。
【0003】
この閉鎖型遺伝子組換え植物工場には、工場内への昆虫の侵入や、人、物、空気及び水を介した病原体の流入を確実に阻止する衛生管理や、2004年2月19日に施行されたいわゆるカルタヘナ法(「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」、平成15年6月18日法律第97号)に基づく遺伝子拡散防止処置が求められる。
【0004】
この閉鎖型遺伝子組換え植物工場のみならず非組換え植物工場といった、植物を室内で栽培する植物工場には、一般的に、太陽光の代わりに人工光源(照明)の点灯及び消灯によって人工的に作られる昼夜(照明の点灯時を「明期」といい、照明の消灯時を「暗期」という)の時間はもちろんのこと、気温、湿度、CO濃度、気流、光(強度、波長)、さらには水耕栽培の培養液の温度や養分組成といった、栽培する植物種に応じた栽培環境の確実な制御が求められる。
【0005】
植物工場の栽培室では、基本的に、植物に光合成を活発に行わせるため高い照度が必要である。例えば、レタス等の葉物野菜の光要求量は約15000lx程であり、また、ダイズなどの豆類の光要求量は約50000lx程である。このように、植物工場の栽培室は、事業所の一般的な照度(通常700lx程度)と比較すると、かなり明るい環境である。このような照度を確保するために、植物工場の栽培室に、多数の蛍光灯を高密度に配置するか、あるいはメタルハライドランプや高圧ナトリウムランプといった高出力の照明を配置する必要がある。
【0006】
他方、植物工場の栽培室では、植物の光合成に欠かせない光以外にも、栽培室内の温湿度を、植物の生長の促進に最適な範囲に独立して制御し、かつそれぞれの設定値を明期と暗期とで変更できるようにする必要もある。例えば、レタスの水耕栽培では、気温は、明期22〜25℃、暗期約20℃、かつ湿度60%RH前後に制御することが望ましいとされる。
【0007】
図6(a)は、上述した照明の点灯により多量に発生する排熱(以下「照明排熱」という)を室外に放出する従来法による栽培室1の空調方法を模式的に示す説明図であり、図6(b)は、照明排熱を空調機器2で処理する従来法による栽培室1の空調方法を模式的に示す説明図である。なお、図6(a)及び図6(b)における矢印は空気の流れを示す。
【0008】
図6(a)および図6(b)に示すように、栽培室1の天井面1aに多数配置された、例えばメタルハライドランプや高圧ナトリウムランプ、さらには蛍光灯といった照明3の点灯により発生する照明排熱は、
【0009】
図6(a)に示すように、栽培室1の壁面1bに吸込み口4及び吹出し口5を設け、吸込み口4の外部に設けた送風機6を作動することによって栽培室1の外部に放出するとともに吹出し口5から外部の空気を栽培室1の内部に吹出し、栽培室1の床面1cに配置された栽培棚8により栽培される植物7からの水分を含んだ空気を、空調機器2によって植物7の生育に適した温湿度の空気(以下「空調空気」という)に空調すること、あるいは、
【0010】
図6(b)に示すように、照明3による照明排熱により温度上昇するとともに栽培室1の床面1cに配置された栽培棚8により栽培される植物7からの水分を含んだ空気を、空調機器2によって冷却及び除湿した後に再熱すること
によって、空調空気として、栽培される植物7が占有する容積の大小にかかわらず栽培室1の躯体をなす壁面1b、床面1c又は天井面1a等から栽培室1の室内全体に供給していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、図6(a)に示す空調では、照明排熱を栽培室1の室外に放出するために、環境負荷を高めることになるとともに省エネルギーに反する。
【0012】
また、図6(b)に示す空調では、照明排熱を空調機器2で一旦冷却してから空調空気とするために再熱する必要があるので、冷却に多大なエネルギーコストを要することになり、植物の生産コストを上昇させる一因となり、植物工場を実現する上の大きな技術課題となっている。
【0013】
図7(a)は、レタスのような葉菜類9を植物工場の栽培室1で栽培する状況を示す説明図であり、図7(b)は、ダイズやトマトのような豆類や果菜類10を植物工場の栽培室で栽培する状況を示す説明図である。
【0014】
図7(a)に示すように、レタスのような葉菜類9を栽培する場合には、余り高い照度は必要でないので、例えば、蛍光灯11を多段に多数配置した多段式栽培棚12を用いて栽培すればよい。
【0015】
これに対し、図7(b)に示すように、果実や種子を収穫するダイズやトマト等の豆類や果菜類10を栽培する場合には、高い照度でなければ実がつかないため、栽培室1には高密度に照明3を配置するか、あるいは高出力な照明3を配置する必要がある。さらに、これらの植物10を栽培する場合には、草丈が伸びる空間を確保するため、レタス等の葉菜類9を栽培する場合に比べて、栽培室1の天井高さを充分に確保する必要がある。このため、図6(a)及び図6(b)に示す空調により栽培期間を通じて栽培室1全体を空調してしまうと、空調の風量や搬送動力が極めて大きくなってしまう。
【0016】
また、ダイズやトマトのような草丈の大きくなる植物10では、図7(b)に示すように、株間で葉が繁り、群落を形成する。群落の内部は葉や枝が密集しているので、風の流れが妨げられ、空調空気が届き難くなる。
【0017】
さらに、植物10から水分が蒸散するため、空調空気が届き難い群落の内部は高湿度となり、カビや病気が発生し易い環境へと悪化してしまう。
【0018】
本発明は、従来の技術が有するこれらの課題に鑑みてなされたものであり、例えば、人工光源を使った植物工場の栽培室を、低コストで植物の生長に適した環境に維持することができる省エネルギー型の空調装置と、この空調装置を備える栽培室とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、
(a)例えば植物工場の栽培室において、室内の空調換気を、照明付近の領域と栽培棚付近の領域とに観念的な意味で分割し、照明排熱による高温の空気を空調空気の再熱に利用することによって、栽培棚の環境を、低コストかつ省エネルギーで植物の生長に適した環境に維持できること、
【0020】
(b)このようにして得られた空調空気により、栽培棚付近を局所的に空調すること、例えば、栽培棚の上方であって植物の直近に、その表面、望ましくは全面から空調空気を吹き出すための多孔性通風路を配置して、空調空気を植物へ向けて吹き出すことにより、よりいっそう、栽培棚の環境を、低コストかつ省エネルギーで植物の生長に適した環境に維持できること、及び
【0021】
(c)さらに、多孔性通風路からの空調空気の吹き出し高さを植物の草丈に応じて変更自在とすることにより、空調領域を植物の生長に応じた必要最小限な範囲とできること
を知見して、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0022】
本発明は、点灯により排熱を発生する照明が配置される第1の領域と、この照明の照射によって生長する植物が配置される第2の領域とをともに内部に備える栽培室の空調装置であって、第1の領域に存在する第1の空気を栽培室の外部に排気するための第1の排気装置と、第2の領域に存在する第2の空気を栽培室の外部に排気するための、第1の排気装置とは異なる第2の排気装置と、第2の排気装置により排気された第2の空気を冷却して除湿し、除湿された第2の空気を、第1の排気装置により排気された第1の空気と混合して所定の温度の空調空気、望ましくは所定の温度および湿度の空調空気とする混合装置と、混合装置により生成された空調空気を、第2の領域に吹き出す吹出し装置とを備えることを特徴とする栽培室の空調装置である。
【0023】
この本発明では、混合装置が、第2の排気手段により排気された第2の空気を冷却して除湿するための冷却装置を有することが望ましい。
これらの本発明では、吹出し装置が、混合装置により混合された空気を送る送風機と、この送風機により送られる空気を第2の領域へ導く通風路とを有することが望ましい。
【0024】
これらの本発明では、第1の領域が栽培室の天井部に設けられるとともに、第2の領域が栽培室の下部、例えば床部に設けられることが望ましい。
これらの本発明では、第1の排気装置が、第1の空気を排出するための第1の吸込み口を、栽培室の壁面又は天井面に有するとともに、第2の排気装置が、第2の空気を排出するための第2の吸込み口を、栽培室の壁面又は床面に有することが望ましい。
【0025】
これらの本発明では、第2の領域には植物を栽培するための栽培棚が配置されるとともに、通風路は、送風機から栽培棚の上方へかけて、配置されることが望ましい。
これらの本発明では、通風路のうち栽培棚の上方に位置する部分には、通風路から上方へ向けて分岐するとともに、その表面から第2の領域へむけて空調空気を吹き出すための多孔性通風路が配置されることが望ましい。
【0026】
これらの本発明では、多孔性通風路が、外壁に複数の吹き出し孔が穿設された筒状体、又は外壁が繊維状材料により構成された筒状体により構成されることが望ましい。
これらの本発明では、多孔性通風路が、植物の草丈が伸びる範囲で空調空気の吹出し高さを変更することができるように、構成されることが望ましい。
別の観点からは、本発明は、上述した本発明に係る空調装置を備えることを特徴とする植物工場の栽培室である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、植物工場の栽培室を、低コストで植物の生長に適した環境に維持することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明に係る空調装置を備える栽培室の一例を、一部を簡略化するとともに透視状態で模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明に係る空調装置を備える栽培室の縦断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る空調装置を構成する吹出し装置の要部を示す二面図である。
【図4】図4(a)および図4(b)は、いずれも、本発明に係る空調装置を構成する吹出し装置における吹出し高さの調節機構を示す説明図である。
【図5】図5は、吹出し装置により吹出し高さを調整する状況を示す説明図であり、図5(a)は最大風量の時を示し、図5(b)は最小風量の時を示し、図5(c)は任意の風量の時を示す。
【図6】図6(a)は、照明排熱を室外に放出する従来法による栽培室の空調方法を模式的に示す説明図であり、図6(b)は、照明排熱を空調機器で処理する従来法による栽培室の空調方法を模式的に示す説明図である。
【図7】図7(a)は、レタスのような葉菜類を植物工場の栽培室で栽培する状況を示す説明図であり、図7(b)は、ダイズやトマトのような豆類や果菜類を植物工場の栽培室で栽培する状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る空調装置21を備える栽培室20の一例を、一部を簡略化するとともに透視状態で模式的に示す斜視図である。また、図2は、本発明に係る空調装置21を備える栽培室20の縦断面図である。
【0030】
空調装置21は、植物工場の栽培室20の空調装置である。図1では、図面を見易くするために、栽培室20の躯体をなす天井面20a、床面20b、4つの壁面20cは、いずれも、それぞれの角部を二点鎖線で示すことによって、透明の状態で示す。
この栽培室20の内部には、第1の領域22と、第2の領域23とが設けられている。
【0031】
第1の領域22には、照明24が多数配置される。図1では1列に7基配置された照明24のみを示し、他の照明は図面を見易くするために省略しているが、実際には4列に28基の照明24が天井面20aの全域に配置されている。各照明24は、例えばメタルハライドランプや高圧ナトリウムランプ、さらには蛍光灯といった、点灯により排熱を発生する照明である。
【0032】
第2の領域23には、照明24の照射によって生長する植物25が配置される。
第1の領域22が栽培室20の天井面20aの近傍の天井部に設けられるとともに、第2の領域23が栽培室20の下部、例えば床面20bの近傍の床部に設けられることが、植物25が例えばダイズやトマトといった草丈が大きくなる植物である場合には植物25の生長のための空間を確保し易いために、望ましいが、第1の領域22は天井部以外の位置に形成されていてもよく、また、第2の領域23も床部以外の位置に形成されていてもよい。
【0033】
植物25は、第2の領域23に含まれる床面20bに配置された栽培棚26によって、栽培される。
空調装置21は、第1の排気装置27と、第2の排気装置28と、混合装置29と、吹出し装置30とを備える。空調装置21のこれらの構成要素を、以下に順次説明する。
【0034】
[第1の排気装置27]
第1の排気装置27は、第1の吸込み口31と、第1の吸込み口31及び送風機32を接続する通風路33とを有する。第1の排気装置27は、送風機32を起動することによって、第1の領域22に存在する第1の空気(照明24の照明排熱)を、栽培室20の外部に排気するための排気装置である。
【0035】
第1の吸込み口31は、第1の領域22に存在する第1の空気(照明24の照明排熱)を排出することができる位置に設置されていればよく、特定の位置に限定する必要はないが、例えば、栽培室20の天井面20a又は壁面20cであって、照明24の点灯面付近であって照明排熱で温度が上昇した空気が多く滞留する位置がよく、具体的には、図2であれば、栽培室20の天井面20aから照明24の下端よりやや下の位置に設けることが望ましい。設置位置が照明から離れすぎると、照明排熱を効率的に排気できないため、できるだけ近く、照明24の点灯面からの距離が50cm以下となる位置への設置が望ましい。
【0036】
[第2の排気装置28]
第2の排気装置28は、第2の吸込み口34と、第2の吸込み口34及び後述する冷却装置36を接続する通風路35とを有する。第2の排気装置28は、送風機32を起動することによって、第2の領域22に存在する第2の空気(植物25から水分が蒸散することによる高湿度の空気)を、栽培室20の外部に排気するための排気装置である。
【0037】
第2の吸込み口34は、第2の領域23に存在する第2の空気(高湿度の空気)を排出することができる位置に設置されていればよく、特定の位置に限定する必要はないが、例えば、栽培室20の床面20b又は壁面20cであって、床面20b又は壁面20cから多孔性通風路39の先端までの位置であるとともに、床面高さから多孔性通風路の半分高さの間の設置高さに設けることが望ましい。なお、多孔性通風路39の長さは、栽培室に植える植物の草丈に応じて、適宜決定すればよい。
【0038】
図1、2に示すように、第2の排気装置28は、上述した第1の排気装置27から完全に独立した別異の排気装置である。
【0039】
[混合装置29]
混合装置29は、冷却装置36と、冷却装置36及び通風路33を接続する通風路37とを有する。冷却装置36は、第2の排気装置28により排気された、高湿度の第2の空気を冷却して除湿するための装置である。また、通風路37は、除湿された第2の空気を、通風路33内を流れる、第1の排気装置27により排気された第1の空気と合流させて混合することにより、所定の温度、望ましくは所定の温度および湿度の空調空気を形成するためのものである。
【0040】
なお、図1、2に示すように、通風路33には、通風路33内を流れる第1の空気の流動量を調節し、また遮断するためのダンパ33aが設けられるとともに、通風路37には、通風路37内を流れる第2の空気の流動量を調節し、また遮断するためのダンパ37aが設けられる。ダンパ33a、37aは、この種のダンパとして周知慣用のものを用いればよく、特定のダンパには制限されない。
【0041】
冷却装置36には、この種の冷却装置として周知慣用のものを用いればよく、特定の冷却装置には限定されない。
このように、混合装置29は、第2の排気装置28により排気された第2の空気(高湿度の空気)を冷却して除湿し、除湿された第2の空気を、第1の排気装置27により排気された第1の空気(高温の照明排熱)と混合して所定の温度の空調空気とするための装置である。
【0042】
[吹出し装置30]
図3は、吹出し装置30の要部を示す二面図である。
吹出し装置30は、送風機32と、通風路38と、多孔性通風路39とを有する。
送風機32は、混合装置28により混合された空気を送るためのものである。
【0043】
通風路38は、送風機32により送られる空気を、第2の領域23へ導くためのものである。通風路38は、送風機32から栽培棚26の上方へかけて、配置される。
図1〜3に示すように、多孔性通風路39は、送風機32から栽培棚26の上方へかけて配置された通風路32のうち栽培棚26の上方に位置する部分に、通風路32から上方へ向けて分岐して、複数本(図示例では3本)配置される。
【0044】
図4は、吹出し装置30における吹出し高さの調節機構を示す説明図であり、図4(a)は、多孔性通風路39が、外壁が繊維状材料により構成された筒状体により構成される場合であり、図4(b)は、多孔性通風路39が、外壁に複数の吹き出し孔が穿設された筒状体により構成される場合である。なお、図4(a)、図4(b)の左図は植物23の草丈が低い時期を示し、図4(a)、図4(b)の右図は植物23の草丈が高くなった時期を示す。
【0045】
各多孔性通風路39は、例えば、図4(a)に示すように外壁が繊維状材料により構成された筒状体により構成されることや、図4(b)に示すように外壁に複数の吹き出し孔が穿設された筒状体(パンチングメタルからなる筒状体)により構成されることが望ましい。これにより、多孔性通風路39は、その表面の外周面の一部又は全面から第2の領域23へむけて空調空気を吹き出すことができる。
【0046】
図4(a)に示すように、多孔性通風路39が、外壁が繊維状材料により構成された筒状体により構成される場合には、多孔性通風路39の一部をプレート40やひも41等で潰すことにより、多孔性通風路39からの風の吹出し高さを簡単に調整することができるので、植物25の草丈に応じて多孔性通風路39を潰す位置を適宜変更すればよい。
【0047】
また、図4(b)に示すように、多孔性通風路39が、外壁に複数の吹き出し孔が穿設された筒状体により構成される場合には、多孔性通風路39の内部にフロートや落とし蓋42を吊り下げることにより、多孔性通風路39からの風の吹出し高さを調整することができるので、植物25の草丈に応じてフロートや落とし蓋42を吊り下げ高さを適宜変更すればよい。
【0048】
このようにして、多孔性通風路39は、植物25の草丈が伸びる範囲で空調空気の吹出し高さを変更することができるように、構成されることが望ましい。
図4を参照しながら説明したようにして、吹出し装置30における多孔性通風路39の吹出し高さを決めた後、吹出し高さに合わせた風量に調整する。風量は、送風機32の回転数をインバータ43により変化させることによって、調整する。以下に、風量の調整方法の一例を示す。
【0049】
図5は、吹出し装置30により吹出し高さを調整する状況を示す説明図であり、図5(a)は最大風量の時を示し、図5(b)は最小風量の時を示し、図5(c)は任意の風量の時を示す。
【0050】
(i)図5(a)に示すように、多孔性通風路39の吹出し最大高さをL1とし、その時の送風機32の風量をQ1、回転数をN1とする。
(ii)図5(b)に示すように、多孔性通風路39からの吹出し最小高さを予め決めておき、その時の吹出し高さをL0、風量をQ0、送風機32の回転数をN0とする。
【0051】
(iii)吹出し高さにかかわらず、一定の面風速で吹き出すためには、吹出し高さに比例する風量を吹き出せばよい。したがって、
Q0=(L0/L1)×Q1 ・・・・・・(1)
となる。一方、送風機32の風量は回転数の比に比例する。これを式で表すと、
Q1/Q0=N1/N0 ・・・・・・(2)
となる。(2)式よりQ0=(N0/N1)×Q1が得られ、これを(1)式に代入すると、
N0=(L0/L1)×N1 ・・・・・・(3)
が得られる。
【0052】
(iv)同様に、図5(c)に示すように、任意の吹き出し高さLxから吹き出す場合、回転数Nxは
Nx=(Lx/L1)×N1 ・・・・・・(4)
となる。
【0053】
(v)したがって、吹出し高さL1の時の回転数N1に吹出し高さの比Lx/L1をかけた回転数となるように、送風機32の回転数をインバータで調整すれば、どの吹き出し高さにおいても、常に適正な風量で吹出すことができる。
【0054】
本発明によれば、以下に列記する効果が得られる。
(1)栽培室20の内部の空気を、照明24付近の高温の空気のゾーンと、栽培棚26付近の低温かつ高湿度の空気のゾーンとに観念的な意味で分けて、換気する。
例えば、図1、2に示すように、吸込み口31、34を、照明24付近と、栽培棚26付近とに分けて配置し、吸込み口34からの空気を、除湿を目的として冷却装置36により冷却した後に、吸込み口31からの高温の空気と混合することによって、温度を上げ、目標温度を有する空調空気としてから栽培棚26へ送風することができる。これにより、照明24の照明排熱等を有効利用することができ、空調の再熱処理と同じ効果を得られるため、省エネルギーを図ることができる。これにより、植物25の生産コストの上昇を抑制することができる。
【0055】
(2)栽培棚26の中央部には、空調空気の送風用の通風路38を略水平に配設し、この通風路38から多孔性通風路39を垂直に分岐する。図3に示すように、多孔性通風路39により植物25を栽培する第2の領域23のみを局所的に空調することができるため、栽培室20全体を空調する、図6に示す方式よりも少ない風量で空調することができるので、搬送動力が低減でき、省エネルギーを図ることができる。
【0056】
(3)多孔性通風路39には、図5に示すように、植物25の生長(草丈の高低)に応じて吹出し高さを調整する機構を組み込むので、植物25の草丈に応じて吹出し高さを変化させた後、送風機32の回転数をインバータ43で制御して風量を調整することにより、さらに風量を低減でき、上項に加えて搬送動力を低減して省エネルギーを図ることができる。
【0057】
(4)植物25の頂点の直近に配置された多孔性通風路39から、植物25の周辺部の設定温度に近づけた空調空気を緩やかに吹き出すことができるので、植物25の群落の内部にも送風することが可能となる。このため、植物25の群落の内部の温度環境目標値に制御でき、植物25の生長の最適環境を容易に作り出すことができる。
【0058】
(5)多孔性通風路39を用いることにより、吹出し面積を広く確保することができるので、植物25の草丈にあわせた空調や直近から吹き出しても植物25にストレスを与えない風速での空調が可能になるとともに、吹出し口と植物25との距離が近いため、温度のばらつきを抑制することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 栽培室
1a 天井面
1b 壁面
1c 床面
2 空調機器
3 照明
4 吸込み口
5 吹出し口
6 送風機
7 植物
8 栽培棚
9 葉菜類
10 豆類や果菜類
11 蛍光灯
12 多段式栽培棚
20 本発明に係る栽培室
20a 天井面
20b 床面
20c 壁面
21 本発明に係る空調装置
22 第1の領域
23 第2の領域
24 照明
25 植物
26 栽培棚
27 第1の排気装置
28 第2の排気装置
29 混合装置
30 吹出し装置
31 第1の吸込み口
32 送風機
33 通風路
33a ダンパ
34 第2の吸込み口
35 通風路
36 冷却装置
37 通風路
37a ダンパ
38 通風路
39 多孔性通風路
40 プレート
41 ひも
42 フロートや落とし蓋
43 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点灯により排熱を発生する照明が配置される第1の領域と、該照明の照射によって生長する植物が配置される第2の領域とをともに内部に備える栽培室の空調装置であって、
前記第1の領域に存在する第1の空気を前記栽培室の外部に排気するための第1の排気装置と、
前記第2の領域に存在する第2の空気を前記栽培室の外部に排気するための、前記第1の排気装置とは異なる第2の排気装置と、
前記第2の排気装置により排気された第2の空気を冷却して除湿し、除湿された第2の空気を、前記第1の排気装置により排気された第1の空気と混合して所定の温度の空調空気とする混合装置と、
該混合装置により生成された空調空気を、前記第2の領域に吹き出す吹出し装置と
を備えることを特徴とする栽培室の空調装置。
【請求項2】
前記混合装置は、前記第2の排気手段により排気された前記第2の空気を冷却して除湿するための冷却装置を有する請求項1に記載された栽培室の空調装置。
【請求項3】
前記供給装置は、前記混合装置により混合された空気を送る送風機と、該送風機により送られる空気を前記第2の領域へ導く通風路とを有する請求項1又は請求項2に記載された栽培室の空調装置。
【請求項4】
前記第1の領域は前記栽培室の天井部に設けられるとともに、前記第2の領域は前記栽培室の下部に設けられる請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された栽培室の空調装置。
【請求項5】
前記第1の排気装置は、前記第1の空気を排出するための第1の吸込み口を、前記栽培室の壁面又は天井面に有するとともに、前記第2の排気装置は、前記第2の空気を排出するための第2の吸込み口を、前記栽培室の壁面又は床面に有する請求項4に記載された栽培室の空調装置。
【請求項6】
前記第2の領域には前記植物を栽培するための栽培棚が配置されるとともに、前記通風路は、前記送風機から前記栽培棚の上方へかけて、配置される請求項4又は請求項5に記載された栽培室の空調装置。
【請求項7】
前記通風路のうち前記栽培棚の上方に位置する部分には、該通風路から上方へ向けて分岐するとともに、その表面から前記第2の領域へむけて前記空調空気を吹き出すための多孔性通風路が配置される請求項6に記載された栽培室の空調装置。
【請求項8】
前記多孔性通風路は、外壁に複数の吹き出し孔が穿設された筒状体、又は外壁が繊維状材料により構成された筒状体により構成される請求項7に記載された栽培室の空調装置。
【請求項9】
前記多孔性通風路は、前記植物の草丈が伸びる範囲で前記空調空気の吹出し噴出高さを変更することができるように、構成される請求項7又は請求項8に記載された栽培室の空調装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載された空調装置を備えることを特徴とする栽培室。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−223892(P2011−223892A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94195(P2010−94195)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、「植物機能を活用した高度モノづくり基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000191319)新菱冷熱工業株式会社 (78)
【Fターム(参考)】