説明

案内溝付き走路を用いたエア浮上搬送装置

【課題】従来のエア浮上搬送方式ではガラス等の薄板部材以外の一般的形状の物品の搬送は困難であった。また浮上した被搬送物のガイド機構が被搬送物と接触するため、歩留りが低下するという問題があった。本発明は一般的形状の物品の搬送を可能とし、曲線走路にも対応可能な非接触的エア浮上によって柔軟且つ低コストでクリーンな新しいエア浮上搬送装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明では、中央に案内溝2を有し上面と案内溝側面2aに加圧空気による静圧スラスト軸受け機能を備えた浮上走行用走路1と、浮上用シュー5に乗り偏荷重でも安定した浮上が可能なエア浮上搬送台3と、搬送台3の進行方向を案内する案内子7及び案内溝2に非接触的に勘合する平滑で可撓性のある案内子構成部材8と、搬送台3駆動用として案内溝2の内側に設置された駆動手段4を主要な構成要素として、曲線走路の場合にも対応可能な、非接触エア浮上搬送装置を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中央に案内溝を有する走路を用い、当該走路の上面及び案内溝側面に加圧空気による静圧スラスト軸受け機能を適宜構成することにより、当該静圧スラスト軸受け機能を用いて物品を載せた搬送台をエア浮上搬送する技術に関し、前記走路が曲線をなす場合であっても、物品を載せた搬送台を走路に沿って非接触的且つ安定的にエア浮上搬送するのに好適な、エア浮上搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体集積回路基板、微細加工が必要な精密製品、医薬品、或いは化粧品等の工業製品の製造工程においては、製造工程をクリーンな環境に保つため、発塵が無いクリーンな手段で搬送することが望まれている。その様な要望を実現する一方式として、被搬送物をエアにより浮上させ、処理装置の間を非接触的に移動させるエア浮上搬送方式がある。
【0003】
従来、この様なエアによる浮上搬送方式は、例えば特許文献1、特許文献2に記載されているように、ガラス基板等の様に薄くて大型サイズの被搬送物を、静圧空気軸受の機能を備えた搬送路上に直接に載置し、搬送路に沿って流す方式が一般的であった。また搬送路の形態としては直線的な例が多く、曲線的な搬送経路の例は見られなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−176091公報
【0005】
【特許文献2】特開2005−154040公報
【0006】
また一般的にエアにより浮上した被搬送物は浮遊して位置が定まらないため、特許文献1に記載されているように搬送路沿いにローラー等の機械的な案内機構を設置し、被搬送物の端部を連続して機械的に拘束する必要があった。
【0007】
上記文献に一例を示したように、従来のエアによる浮上搬送方式には次の様な課題があり、これが、エアによる浮上搬送が有しているクリーンで且つ低コストの搬送という特長が、クリーン搬送を必要とする多くの分野で必ずしも十分に応用されない原因になっていた。これは低コストのクリーン搬送を実現する上で、解決すべき課題であった。
1.ガラス基板等の様に薄くて大型サイズの被搬送物は、静圧軸受け機能を持つ搬送路上に直接に載置して浮上搬送する方法が実用化されているが、一般的形状の物品をこの様な方法でエア浮上搬送することは困難である。一般的形状の物品はエア浮上搬送台に載せることによりエア浮上搬送が可能になるが、その際に搬送台に作用するエア浮上圧力と搬送荷重分布をバランスさせなければ搬送台に傾動モーメントが発生し、搬送台の浮上隙間が平行な隙間ではなくなるため、安定した非接触搬送を実現することは難しくなる。
2.従来のエア浮上搬送方式では、直線搬送路で搬送経路を構成しなければならず、搬送経路を柔軟にレイアウトすることが難しい。また搬送方向を変える場合にはロボット等の高価な方向転換装置が必要になり、搬送装置のコストが増加する。
3.従来のエア浮上搬送方式では、搬送経路沿いに被搬送物の端部を案内する機構が必要になるため、搬送装置のコストが増加する。また当該案内機構が被搬送物と接触するため、場合によっては案内機構に起因する発塵や接触部のロスのために、製造工程の歩留まりが低下する恐れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の技術的な課題を解決し、エアによる浮上搬送方式の技術に関して、従来のエア浮上搬送方式では実現できない柔軟且つ低コストでクリーンな新エア浮上搬送装置を提供するものであり、具体的には以下の目的を達成しようとするものである。
1.任意の被搬送物を載せたエア浮上搬送台を、偏荷重でも傾きモーメントを生じることなく安定的に浮上搬送すること。
2.任意の被搬送物を載せたエア浮上搬送台を、高価な搬送方向転換装置等を使わずに、曲線走路を用いて、周囲の条件に合わせて搬送経路を柔軟に設定できるようにすること。
3.任意の被搬送物を載せたエア浮上搬送台を、ガイドローラー等の機械的な案内機構を用いずに、走路面の中央に設けた案内溝に勘合する非接触的案内子により、走路に沿って非接触的に案内することにより、従来のエア浮上搬送方式では避けることが困難であった案内機構からの発塵及び案内機構と被搬送物の接触等の歩留り低下要因を除去すること。
4.任意の被搬送物を載せたエア浮上搬送台を、走路面の中央に設けた案内溝を利用して例えばリニアモータなどの手段により、非接触的に駆動及び位置決め制御を行うこと。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明では中央に案内溝を有する浮上走行用走路と、偏荷重でも安定的に浮上走行できるエア浮上搬送台と、当該搬送台の進行方向を案内するために前記案内溝に非接触的に勘合する案内子と、前記搬送台を駆動するために前記案内溝内に配置された駆動手段、を主要な構成要素として、エア浮上搬送装置を構成した。
【0010】
更に本発明では、前記浮上走行用走路の上面及び案内溝側面に、加圧空気による静圧スラスト軸受け機能を持たせ、当該静圧スラスト軸受け機能により、前記搬送台が前記走路上で浮上し、且つ前記案内溝に勘合する案内子が空気層を介して非接触的に案内溝に沿って滑ることを可能にした。なお前記静圧スラスト軸受の構造は、前記走路の上面及び案内溝側面にポケットとランドを有する離散型の構造でもよいし、或いは、前記走路を多孔質材又は表面に均一に細孔を穿けた部材で製作し走路面から空気を噴出させる分布型の構造としてもよい。
【0011】
更に本発明では、前記搬送台は4乃至6個の浮上用シューを介して前記走路上で浮上する方式とし、その際に当該各シューの中央部に前記搬送台の脚部が乗る構造とした。これにより前記搬送台の搬送荷重が前記各シューの中央部に分散して掛かるため、前記各シューには前記搬送荷重による傾きモーメントが生じることはない。これにより仮に前記搬送台に被搬送物が片寄って置かれた場合でもエア浮上の隙間は安定的に平行に維持され、安定した非接触エア浮上搬送を実現することができる。
【0012】
更に本発明では、前記案内溝に勘合する案内子を平滑で可撓性のある材料で構成することにより前記走路が曲線をなす場合にも案内子が前期案内溝に倣って非接触的に滑ることを可能にした。また当該案内子と前記搬送台を前後2箇所で回転対偶により結合することにより、前記搬送台が前記案内子に進行方向を案内されて、走路が曲線をなす場合にも走路に倣ってエア浮上走行することを可能にした。
【0013】
更に本発明では、前記案内溝内に例えばリニアモータなどの非接触的な駆動手段を配置し当該駆動手段により前記案内子を駆動することにより、前記搬送台を非接触的に走行させ位置決め制御することを可能にした。即ち、リニアモータの一例として、前記案内溝内に配列された一連のコイルを固定子とし且つ前記案内溝に勘合して非接触的に摺動する前記案内子と一体で構成された磁極を可動子としてリニアモータを構成し、前記コイル配列を適切なシーケンスで励磁すれば前記可動子と一体の前記案内子を駆動することができる。前記案内子と前記搬送台は前後2箇所で回転対偶により結合されているので、前記案内子をリニアモータで駆動することにより、前記搬送台を非接触的に走行させ、その加減速度と停止位置を制御することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように、本発明によれば一般的な形状の物品をエア浮上搬送台に載せて、曲線走路に沿って、安定的且つ非接触的にエア浮上搬送することが可能になり、以下の効果を期待出来る。
1.薄板等を対象とした従来式のエア浮上搬送では扱えなかった一般的な形状の物品を、本発明に関わる浮上安定性が良く信頼性が高いエア浮上搬送台に載せることで、クリーン且つ低コストで搬送することができる。
2.一般的な形状の物品を載せたエア浮上搬送台を、曲線走路に沿ってエア浮上搬送することができる。このためクリーンルーム内部の搬送経路レイアウトの自由度が高くなり、建屋の建設コストを抑えることができる。同時にロボット等の高価な搬送方向転換装置を使わずに済むので、搬送装置のコストも抑えることができる。
3.従来の薄板等のエア浮上搬送方式では、被搬送物案内機構からの発塵を避けることは困難であったが、本発明に関わる中央に案内溝を有する浮上走路と当該案内溝に非接触的に勘合する案内子を用いることにより、被搬送物を載せたエア浮上搬送台を高い信頼性で非接触的に案内することができ、案内機構からの発塵及び案内機構と被搬送物との接触によるロス等の歩留り低下要因を除くことができるので、搬送ラインの生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明にかかる実施形態を図面により説明する。図1は本発明に関わるエア浮上搬送装置の構成要素を示す概念図である。図1において1は一例として多孔質材で構成された走路、1aは走路1に供給する加圧空気の通路である。2は走路中央の案内溝部分を示す。走路1の上面及び案内溝2の側面2aは、通路1aから供給された加圧空気が多孔質材の表面から噴出すため、静圧スラスト軸受け機能を持っている。また3はエア浮上搬送台、4は当該搬送台駆動手段の一例として案内溝内に配置されたリニアモータのコイル配列を示す。走路1は図示のように適宜な長さの直線モジュール及び曲線モジュールを接続して構成され、またコイル配列4は加減速度を与える目的で使用されるので、必ずしも走路1の全長にわたり設置する必要はない。
【0016】
図2に搬送台3と浮上用シュー5の関係を示す。搬送台3は浮上用シュー5の上に乗って走路1上面の静圧スラスト軸受け機能により浮上する。6は搬送台3の脚の部分を示す。図3は図2の搬送台3を取除いた状態を示し、搬送台3は搬送台脚6により浮上用シュー5の中央部で支えられているため浮上用シュー5には搬送台の荷重による傾動モーメントは発生せず、浮上用シュー5は常に走路1の上面と平行を保って安定的に浮上することが可能になる。
【0017】
図4に走路中央の案内溝2と当該案内溝に勘合して非接触的に摺動する案内子7の関係を示す。案内溝2の側面2aは静圧スラスト軸受け機能を持っているので、案内子7を構成する平滑で可撓性のある部材8は案内溝側面2aとの間に生じる空気層の圧力に支えられ走路1が曲線をなす場合も案内溝に沿って非接触的に滑ることができる。また前記搬送台の駆動手段の一例としてリニアモータを用いる場合は、可動子として磁極9が案内子7と一体で構成されている。図5は搬送台駆動手段としてリニアモータを用いる場合の案内子7と駆動用リニアモータの固定子コイル配列4との関係を示す。2個の案内子7の間隔と固定子コイル配列4の配列間隔はリニアモータとして適切に設定されなければならない。
【0018】
図6に案内子7と搬送台3の関係を示す。2個の案内子7は搬送台3の前後2箇所で回転可能に取り付けられている。搬送台3は浮上用シュー5に乗って走路1の上面で浮上し、走路が曲線をなす場合も案内子7を構成する平滑で可撓性のある部材8が案内溝側面2aの静圧スラスト軸受け機能によって案内溝2に沿って滑ることにより非接触的に進行方向を案内され、一例としてリニアモータにより駆動される場合には、リニアモータの固定子コイル配列4により加減速度と停止位置を制御され、安定的な非接触エア浮上搬送を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の装置は各種のIC基盤、精密機器、化粧品及び医薬品等を製造する用途、或いは半導体ウェハーをカセットに入れて搬送する用途等の、クリーン搬送を要する用途に応用して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のエア浮上搬送装置の主要な構成要素を示す。
【図2】走路とエア浮上搬送台、浮上用シューの関係を示す。
【図3】走路と浮上用シュー、エア浮上搬送台脚の関係を示す。
【図4】走路中央の案内溝と、溝側面にそって滑る案内子の関係を示す。
【図5】案内子と案内溝内に設置されたリニアモータ固定子コイルの関係を示す。
【図6】本発明のエア浮上搬送装置の非接触エア浮上走行の状況を示す。
【符号の説明】
【0021】
1 一例として多孔質材で作られた走行用走路
1a 加圧空気の供給通路
2 走路中央の案内溝
2a 同上案内溝の側面
3 エア浮上搬送台
4 搬送台駆動手段の一例としてのリニアモーターの固定子コイル配列
5 搬送台の浮上用シュー
6 同上シューに乗るための搬送台の脚
7 案内溝に勘合して搬送台の進行方向を非接触的に案内する案内子
8 同上案内子を構成し案内溝側面の静圧スラスト軸受けの作用により案内溝に沿って 滑る働きをする、平滑で可撓性のある部材
9 搬送台駆動手段の一例としてリニアモータを用いる場合に、案内子と一体的に構成 されているリニアモータ可動子の磁極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に案内溝を有し且つ上面及び当該案内溝側面に加圧空気による静圧スラスト軸受け機能を備えたことを特徴とする走路と、当該走路の上面で浮上して物品を搬送する搬送台と、前記案内溝に嵌合し且つ前記搬送台と前後2箇所の回転対偶により結合され前記案内溝側面の静圧スラスト軸受け機能により非接触的に摺動して前記搬送台の進行方向を案内する案内子、とで構成されることを特徴とする、エア浮上搬送装置
【請求項2】
請求項1に記載のエア浮上搬送装置において、前記案内溝に勘合して静圧スラスト軸受け機能により非接触的に摺動する案内子を平滑で可撓性のある素材で構成することにより、前記走路が曲線をなす場合でも前記案内子による前記搬送台進行方向の非接触的案内を可能ならしめたことを特徴とする、エア浮上搬送装置
【請求項3】
請求項1に記載のエア浮上搬送装置において、前記搬送台が4乃至6個の浮上用シューを有し、且つ当該各シューの中央部分に前記搬送台の搬送荷重が掛かるように構成することにより、前記各浮上用シューには前記搬送荷重による傾きモーメントが生じないことを特徴とする、エア浮上搬送装置
【請求項4】
請求項1に記載のエア浮上搬送装置において、前記案内溝内に設置された適切な駆動手段により前記案内溝に勘合して非接触的に摺動する前記案内子を駆動し前記搬送台を走行させることを特徴とする、エア浮上搬送装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−266010(P2008−266010A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134750(P2007−134750)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(505326807)