棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子
【課題】低温条件下における酸素吸蔵放出能に優れた棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を提供する。
【解決手段】ここで開示されるセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子は、棒形状を有しており、上記ナノ粒子の長軸方向における長さが15nm以上300nm以下であり、上記ナノ粒子の長軸方向に直交する幅方向における厚さが5nm以上20nm以下であり、上記長軸方向の長さを上記幅方向の厚さで除することにより得られるアスペクト比が3以上50以下であることを特徴とする。このようなセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子は、低温条件下(例えば300℃以下)において優れた酸素吸蔵放出能を発揮する。
【解決手段】ここで開示されるセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子は、棒形状を有しており、上記ナノ粒子の長軸方向における長さが15nm以上300nm以下であり、上記ナノ粒子の長軸方向に直交する幅方向における厚さが5nm以上20nm以下であり、上記長軸方向の長さを上記幅方向の厚さで除することにより得られるアスペクト比が3以上50以下であることを特徴とする。このようなセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子は、低温条件下(例えば300℃以下)において優れた酸素吸蔵放出能を発揮する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に用いられるセリア−ジルコニア複合酸化物に関する。詳しくは、低温条件下における酸素吸蔵放出能に優れる棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子、及び該ナノ粒子を主体とする触媒担体用粉体材料と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化するために、いわゆる三元触媒が広く用いられている。三元触媒は効率的にその浄化機能を発揮することができる条件として、排ガスに含まれる空気と燃料の比(空燃比)が理論空燃比(ストイキ)前後の一定範囲内であることが必要とされる。このため三元触媒には、該空燃比範囲を広げる目的で酸素吸蔵放出能(Oxgen Strage Capacity;OSC)を有する材料(以下、「OSC材料」ともいう。)が触媒担体として併用されている。
代表的なOSC材料としてはセリア(CeO2)が挙げられる。セリアがOSCを有するのは、4CeO2←→2Ce2O3+O2(1)の反応式で表されるCe4+からCe3+への価数変化を伴う反応が可逆的に進行することに由来する。セリアは上記反応により排ガス中の雰囲気に応じて酸素の吸蔵・放出を行い、結果として触媒近傍の雰囲気を制御することができる。
【0003】
上記セリアの酸素吸蔵放出能(OSC)を向上させるために、セリアに一定量のジルコニウム(Zr)を固溶させることが有効であることが知られている。ジルコニウムをセリアに固溶させたセリア−ジルコニア複合酸化物が、セリアと比較して高いOSCを発揮する理由は以下の通りに説明される。即ち、セリア−ジルコニア複合酸化物の結晶構造はセリアの蛍石構造を維持しており、Ceイオンのサイトの一部がイオン半径のより小さいZrイオンに置換されている。ここで、上記反応式(1)で示したCeイオンの価数変化を伴う反応においては、Ceイオンの膨張により格子に歪みが生じる。セリア−ジルコニア複合酸化物では置換されたZrイオンにより上記Ceイオンの価数変化に伴う体積膨張が緩和され、安定的に上記反応が進行することにより、バルク内の酸素移動が十分に行われ(即ちバルク酸素の利用率が高まり)OSCが向上する。
【0004】
一方、研究段階ではセリアナノ粒子に関して、そのナノ形状を厳密に制御することによりOSCが向上し得るとの報告がある。非特許文献1には、水熱合成法に基づいて棒状セリアナノ粒子(ナノロッド)、立方体状セリアナノ粒子(ナノキューブ)、多面体状セリアナノ粒子(ナノポリヘドラ)など、種々の粒子形状を有するセリアナノ粒子を選択的に合成することが可能であり、これらのセリアナノ粒子はその粒子形状に依存してOSCが大きく変化することが報告されている。即ち、セリアを構成物とした触媒担体材料を作製するうえで、セリア粒子のナノ形状を高度に制御することの重要性が示唆されている。
【0005】
ところで、OSC材料を排ガス浄化用触媒の担体材料として用いる場合、一般に該担体材料の比表面積が大きいほど、即ち粒径が小さいほど、触媒活性が向上する傾向があるため上記OSC材料の粒径制御は重要である。粒径が十分に小さい(例えば、粒径が数百nm未満の)セリア系化合物を製造する方法としては、例えば特許文献1に、平均粒径が0.1nm以上10nm未満であることを特徴とした、セリウム元素及びマンガン元素を含む複合酸化物を含有する研磨用砥粒とその製造方法について開示されている。しかし、上記セリウム−マンガン複合酸化物ナノ粒子は、粒径は小さい(10nm未満)ものの、利用分野上粒子形状を厳密に揃える必要がなく、特定の形状を有するナノ粒子を製造するという技術的思想は存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−155914号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー・B、2005年、109巻、pp.24380−24385
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のセリア系化合物を排ガス浄化用触媒の担体材料として用いた場合において、該排ガス浄化用触媒のOSCは未だ不十分であり改善の余地がある。特に近年需要の大きいハイブリッド車は、モータ駆動およびエンジン駆動の頻繁な切り替えが起こる条件下での走行が予定されており、排ガス浄化用触媒の温度が十分に高くない状態でいきなりエンジン駆動が始まる場合など、冷間状態から触媒作用を発揮しなければならない状況が多い。よって、低温条件下(例えば300℃以下)における排ガス浄化用触媒の浄化性能向上は重要な課題であり、排ガス浄化用触媒に用いられるOSC材料についても同様に、できるだけ低い温度からOSCを発揮することが求められている。
セリアの低温条件下でのOSCを向上させるためには上述した通り、(1)ジルコニウムを一定量固溶させる、(2)粒子形状を厳密に制御する、(3)粒径を制御し十分に小さい粒径及び狭い粒度分布とする、など種々の方法が考えられるが、従来上記3つの要件を全て満たす材料は得られていなかった。本発明は、かかる課題を解決すべく創出されたものであり、低温条件下(例えば300℃以下)においても高いOSCを発揮するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を提供することを目的とする。また、かかるセリア−ジルコニア複合酸化物を主体とする触媒担体用粉体材料を提供することを他の目的とする。さらに、かかる触媒担体用粉体材料を製造する好適な方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、様々な角度から検討を加え、上記目的を実現することのできる本発明を創出するに至った。
即ち、ここに開示されるセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子は、棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物から成るナノ粒子である。また上記ナノ粒子の長軸方向における長さが15nm以上300nm以下であり、上記ナノ粒子の長軸方向に直交する幅方向における厚さが5nm以上20nm以下である。さらに上記長軸方向の平均長さを上記幅方向の厚さで除することにより得られるアスペクト比が3以上50以下であることを特徴とする。
かかるセリア−ジルコニア複合酸化物(以下、「CZ複合酸化物」ともいう。)ナノ粒子は、従来のセリア系粒子と比較し低温条件下(例えば300℃以下)において優れたOSCを示す。
【0010】
ここに開示されるCZ複合酸化物ナノ粒子の好ましい一態様は、上記CZ複合酸化物に占めるジルコニアの固溶率が17mol%以上23mol%以下(好ましくは18mol%以上20mol%以下)であることを特徴とする。ここで上記ジルコニアの固溶率は、上記CZ複合酸化物ナノ粒子に対するX線回折(XRD)測定による分析により得られる値である。特に限定するものではないが、上記分析は典型的にはCZ複合酸化物ナノ粒子等の試料をXRD測定した場合に得られる(111)面に帰属される回折ピークのピークシフト値を読み取り、ベガード則に従って算出することにより行われ得る。
かかるジルコニア固溶率が上記範囲内であると、低温条件下(例えば300℃以下)におけるOSCが一層向上する。またジルコニア固溶率が上記範囲内であるCZ複合酸化物ナノ粒子は、ジルコニア固溶率が上記範囲未満であるCZ複合酸化物ナノ粒子と比較して高い耐熱特性を有し、高温条件下(例えば600℃以上1000℃以下)におけるOSCが向上する傾向がある。
【0011】
また、ここに開示される触媒担体用粉体材料はCZ複合酸化物ナノ粒子を主体とするものであり、該粉体材料のうち50個数%以上(好ましくは60個数%以上、より好ましくは70個数%以上)がここに開示されるいずれかのCZ複合酸化物ナノ粒子であることを特徴とする。
かかる触媒担体用粉体材料は特に低温条件下(例えば300℃以下)におけるOSCが高いため、該粉体材料を担体として使用した排ガス浄化用触媒の低温活性が向上する。また、かかる粉体材料の平均粒子サイズは十分に小さく、さらに粒度分布が狭いため、該粉体材料を触媒担体として用いると触媒種の分散性が向上し浄化性能が向上する。
【0012】
本発明によると、CZ複合酸化物ナノ粒子を主体とする触媒担体用粉体材料を製造する方法が提供される。その方法は、棒形状を有するセリアナノ粒子を用意する工程と、該セリアナノ粒子とジルコニウムイオン含有水溶液とを混合してジルコニウムを導入する工程と、該混合液から取り出した粉末を焼成することにより棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を合成する焼成工程と、を包含する。
かかる製造方法は、ここに開示されるいずれかの触媒担体用粉体材料の製造方法として好ましく採用され得る。かかる製造方法によると棒形状を有し、平均粒子サイズが十分に小さく(例えば長さが15nm以上300nm以下かつ厚さが5nm以上20nm以下)、かつ粒度分布が狭いCZ複合酸化物ナノ粒子を収率よく(典型的には50個数%以上、好ましくは60個数%以上、より好ましくは70個数%以上)合成することができる。
【0013】
ここに開示される触媒担体用粉体材料の製造方法の好ましい一態様では、上記導入工程において上記セリアナノ粒子におけるセリア(CeO2)と、上記ジルコニウムイオン含有水溶液中のジルコニウムイオンと、の合計に対する該ジルコニウムイオンの混合率が20mol%以上40mol%以下(好ましくは23mol%以上30mol%以下)であることを特徴とする。
かかる製造方法において上記混合率を上記範囲内とすると、CZ複合酸化物に占めるジルコニアの固溶率が比較的高い(例えば15mol%以上、好ましくは17mol%以上、より好ましくは概ね20mol%の)CZ複合酸化物ナノ粒子を得ることができる。ジルコニアの固溶率が高いCZ複合酸化物ナノ粒子は、高OSCと高耐熱特性を有するため触媒担体用粉体材料として好適に用いられる。
【0014】
ここに開示される触媒担体用粉体材料の製造方法の他の好ましい一態様では、上記焼成工程における焼成温度が500℃以上700℃以下(好ましくは550℃以上650℃以下)であることを特徴とする。
かかる製造方法において上記焼成温度が上記範囲内であると、アスペクト比が比較的高い(例えば3以上50以下の)棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子が収率良く(例えば50個数%以上、好ましくは60個数%以上、より好ましくは70個数%以上)得られる傾向がある。かかるCZ複合酸化物ナノ粒子は低温条件下において高いOSCを有するため、上記粉体材料を用いた排ガス浄化用触媒は高い浄化性能を発揮し得る。
【0015】
ここに開示される触媒担体用粉体材料の製造方法の他の好ましい一態様では、上記焼成工程における焼成時間が1時間以上5時間以下であることを特徴とする。
かかる製造方法において上記焼成時間が上記範囲内であると、粒子形状、及び粒子サイズが比較的均一に揃ったCZ複合酸化物ナノ粒子が収率良く得られる傾向がある。かかるCZ複合酸化物ナノ粒子は低温条件下において高いOSCを有するため、上記粉体材料を用いた排ガス浄化用触媒は一層高い浄化性能を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a),(b)はいずれも参考例1に係るセリアナノ粒子のTEM写真である。
【図2】(a),(b)はいずれも参考例2に係るセリアナノ粒子のTEM写真である。
【図3】参考例1に係るXRD測定結果を示す図である(縦軸:count(単位なし)、横軸:2θ(deg))。
【図4】実施例1に係るXRD測定結果を示す図である(縦軸:count(単位なし)、横軸:2θ(deg))。
【図5】比較例1に係るXRD測定結果を示す図である(縦軸:count(単位なし)、横軸:2θ(deg))。
【図6】参考例1及び実施例1〜5に係る、ジルコニア固溶率とジルコニウムイオン混合率との関係を示した図である(縦軸:ジルコニア固溶率(mol%)、横軸:ジルコニウムイオン混合率(mol%))。
【図7】実施例4に係るXRD測定結果を示す図である(縦軸:count(単位なし)、横軸:2θ(deg))。
【図8】実施例1に係るCZ複合酸化物ナノ粒子のTEM写真である。
【図9】実施例6に係るCZ複合酸化物ナノ粒子のTEM写真である。
【図10】OSC評価試験における測定モードの概略を模式的に説明する図である。
【図11】各材料に係る300℃の温度条件下におけるOSC評価の結果を示すグラフである(縦軸:OSC測定値(任意単位))。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、自動車における排ガス浄化用触媒の配置などに関するような一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
ここに開示される棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は、長軸方向における長さが15nm以上300nm以下(好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上、さらに好ましくは60nm以上、例えば80nm以上200nm以下)であり、かつ、上記長軸方向に直交する幅方向における厚さが5nm以上20nm以下(好ましくは15nm以下、例えば5nm以上10nm以下)である。また、上記長軸方向の長さを上記幅方向の厚さで除することにより得られるアスペクト比が3以上50以下(好ましくは5以上30以下、例えば10以上25以下)である。
【0019】
なお本明細書において「長さ」及び「厚さ」はTEM(透過型電子顕微鏡)またはSEM(走査型電子顕微鏡)を用いた観察により測定した長さである。また本明細書において「棒形状」または「棒状」とは、「球形状」(例えば略球形状の顆粒形状)と区別する用語であり、特に限定するものではないが典型的には長軸方向に直交する方向における断面形状が略長方形である細長い形状をいう。ここで本明細書でいう「棒形状」は、例えば「針状」又は「ワイヤ状」等と称される形状を含む概念であり、上記長さ、上記厚さ、上記アスペクト比の各値が上記範囲内であると認識される限りにおいて、多少の折れ曲り(例えば長軸方向から約1〜10°傾斜した方向への屈曲など)や多少の湾曲(例えば曲率半径500nmの湾曲など)などを許容する概念である。かかるナノ粒子の形状についてはTEM又はSEMによる観察により判定することができる。
【0020】
かかる棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は、好ましくは(110)面および(100)面により構成されている。ここで(110)面又は(100)面は、ミラー指数により示される結晶面の一つであり、結晶学その他の結晶構造を扱う技術・学術分野で周知の表示態様である。
【0021】
かかる棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は低温条件下(例えば300℃以下)において高いOSCを発揮する。かかる粒子が低温条件下において高OSC性能を発現する理由は以下の通りに説明される。即ち、CZ複合酸化物の主たる骨格を構成するセリア(CeO2)において、該セリアを構成する主たる結晶面((111)面、(100)面、(110)面)からの酸素放出量はそれぞれ異なるとされている。計算によると上記主要な結晶面のうち(110)面は酸素空孔を造りやすいとの推定がなされており、該(110)面を多くもつ結晶形状のセリアでは低温条件下での酸素放出が起こりやすいと考えられる。よって主に(110)面および(100)面より構成される棒形状を有するセリアナノ粒子は低温でのOSCが高く、同様の理由から棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子に関しても低温条件下でのOSCが向上する。
【0022】
上述するOSCと粒子形状との関係に鑑みると、棒形状のCZ複合酸化物は一定範囲のアスペクト比を有することがOSC向上に関して有利である。かかるアスペクト比は3以上50以下(好ましくは5以上30以下、例えば10以上25以下)であることが好適である。上記アスペクト比が3より小さすぎる場合、あるいは50より大きすぎる場合、低温条件下におけるOSCが低下する傾向があり好ましくない。
【0023】
また、ここに開示される棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は、セリア(CeO2)にジルコニア(ZrO2)が固溶したCZ複合酸化物から成る。ここで、上記CZ複合酸化物に占める上記ジルコニアの固溶率は17mol%以上23mol%以下(より好ましくは18mol%以上20mol%以下)であることが好ましい。ジルコニアの固溶率が17mol%より少なすぎると、CZ複合酸化物ナノ粒子の低温条件下におけるOSCが低下する傾向があり、また、耐熱性が低下する傾向がある。
【0024】
ここに開示されるCZ複合酸化物ナノ粒子、及び該CZ複合酸化物ナノ粒子を主体とする粉体材料の製造方法は、以下の工程を包含する。即ち、棒形状を有するセリアナノ粒子を用意する工程と、該セリアナノ粒子とジルコニウムイオン含有水溶液を混合してジルコニウムを導入する工程と、該混合液から取り出した粉末を焼成することにより棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を合成する焼成工程と、を包含する。
【0025】
上記棒形状を有するセリアナノ粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば水熱合成法により好適に作製され得る。典型的な水熱合成法に基づく棒形状を有するセリアナノ粒子の製造方法は以下の通りである。即ち、水溶性セリウム化合物が溶解した水溶液に所定の濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液を混合させ、水酸化セリウムの沈殿を生成させる。ここで上記セリウム化合物水溶液中のセリウムイオン1molに対し、上記水酸化ナトリウムは100〜140mol相当とすることが好適である。次いで得られた水酸化セリウムの沈殿物を耐圧反応容器に設置し、100℃〜130℃程度の恒温で5〜10時間程度加熱することにより、棒形状を有するセリアナノ粒子が生成する。
上記水溶性セリウム化合物としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物等が好適に用いられる。上記セリウム化合物におけるセリウムの価数は3価であってもよいし、4価であってもよい。これらのセリウム化合物は上記のうち一種のみを使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。上記セリウム化合物のうち、硝酸塩は好適に用いられ、より好適には硝酸セリウム(III)を用いることができる。
【0026】
上記導入工程における上記セリアナノ粒子と上記ジルコニウムイオン含有水溶液の混合率に関しては、上記セリアナノ粒子におけるセリアの物質量と、上記ジルコニウムイオン含有水溶液中のジルコニウムイオンの物質量と、の合計に対する該ジルコニウムイオンの物質量比が20mol%以上40mol%以下(より好ましくは23mol%以上30mol%以下、例えば23mol%以上28mol%以下)の範囲で混合することが好ましい。
上記ジルコニウムイオンの混合率が20mol%より少なすぎると、セリアに十分な量のジルコニアが固溶しないため、得られた粉体材料のOSC及び耐熱性が低下する傾向がある。また、上記ジルコニウムイオンの混合率が40mol%より多すぎると、ジルコニアがセリアに固溶しきれず一部が析出することがあり、得られた粉体材料に占めるCZ複合酸化物の含有率が相対的に低下し、該粉体材料のOSCが低下する傾向がある。
【0027】
上記焼成工程における焼成温度は500℃以上700℃以下(より好ましくは550℃以上650℃以下、さらに好ましくは575℃以上625℃以下)であると好適である。上記焼成温度が700℃より高すぎると、棒形状が一部破壊したCZ複合酸化物ナノ粒子が得られがちであり、粒子形状の不均一化およびアスペクト比の低下が起こる傾向がある。かかるCZ複合酸化物ナノ粒子を主体とする粉体材料は低温条件下(例えば300℃以下)におけるOSCが低下する傾向があり好ましくない。また上記焼成温度が500℃より低すぎる場合、セリアへのジルコニアの固溶率が低下し、得られた粉体材料の低温条件下におけるOSCが低下する傾向があるため好ましくない。
【0028】
上記焼成工程における焼成時間は1時間以上5時間以下(好ましくは1時間以上2時間以下)であると好適である。焼成時間が上記範囲より短すぎると、セリアへのジルコニアの固溶率が低下する傾向があり好ましくない。また、焼成時間が上記範囲より長すぎる場合、ジルコニアの固溶率は既に飽和しており、さらに得られる粒子の形状またはサイズが不均一になる虞があるため好ましくない。
【0029】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示
すものに限定することを意図したものではない。
【0030】
<セリアナノ粒子の粒子形状>
まず棒形状を有するセリアナノ粒子と、従来用いられている粒状形状を有するセリアナノ粒子とを水熱合成法に基づいて製造し、両者の性状及び性能を比較することにより、セリア粒子の形状とOSCとの関係について調べた。
(参考例1;棒形状を有するセリアナノ粒子)
水酸化ナトリウム3840gを14.68kgのイオン交換水に溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液を調製した。また硝酸セリウム(III)六水和物347.38gを1kgのイオン交換水に溶解させ硝酸セリウム水溶液を調製した。得られた水酸化ナトリウム水溶液と硝酸セリウム水溶液を混合し300rpmで30分間撹拌した後、該混合液をオートクレーブに移し、オートクレーブ内を窒素置換した。窒素雰囲気下で上記混合液を50rpmで撹拌しながら100℃まで昇温した後、撹拌を止めて100℃で24時間保持した。その後、撹拌しながら室温まで冷却し、得られたスラリーを吸引濾過することにより沈殿物(セリアナノ粒子)を得た。この沈殿物をイオン交換水で十分に洗浄したのち、80℃で24時間以上減圧乾燥することにより棒形状を有するセリアナノ粒子を得た。かかる製造方法により製造されたセリアナノ粒子を参考例1に係るセリアナノ粒子とする。
【0031】
(参考例2;多面体形状を有するセリアナノ粒子)
水酸化ナトリウム64gをイオン交換水14.0kgに溶解させ水酸化ナトリウム水溶液を得た。硝酸セリウム(III)六水和物347gをイオン交換水1kgに溶解させ硝酸セリウム水溶液を得た。得られた水酸化ナトリウム水溶液と硝酸セリウム水溶液を混合し30分間撹拌した後、オートクレーブに移し、撹拌しながら100℃に昇温し、撹拌を止めて100℃で24時間保持した。冷却後、得られたスラリーを吸引濾過することにより沈殿物を得た。この沈殿物をイオン交換水で十分に洗浄したのち、80℃で24時間以上減圧乾燥することにより多面体形状を有するセリアナノ粒子を得た。かかる製造方法により製造されたセリアナノ粒子を参考例2に係るセリアナノ粒子とする。
【0032】
図1及び図2に参考例1及び参考例2に係るセリアナノ粒子のTEM写真を示す。図1(a),(b)より明らかなように、参考例1に係るセリアナノ粒子は棒形状を有しており、長さが100〜300nm、かつ厚さが5〜20nmの範囲にある粒子が、TEM観察の限りにおいて生成物全体の90個数%以上確認された。一方、図2(a),(b)より明らかなように、参考例2に係るセリアナノ粒子は多面体形状を有しており、その粒子径が5〜15nmである粒子が全体の90個数%以上確認された。
かかる2種類のセリアナノ粒子(参考例1及び2)について、300℃条件下のOSCを測定した。OSCの測定方法および測定値の算出方法は下記に詳述する。OSC測定の結果を表1に示す。
表1に示す結果より明らかなように、棒形状を有するセリアナノ粒子(参考例1)は多面体形状を有するセリアナノ粒子(参考例2)と比較して高いOSC(約1.5倍)を発揮した。即ち、300℃条件下におけるOSCに関して、セリアナノ粒子が棒形状であることの優位性が確認された。
【0033】
【表1】
【0034】
<CZ複合酸化物ナノ粒子の製造>
次に、棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子を製造し、その構造や組成などを調べた。
(実施例1;棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子)
棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は、棒形状を有するセリアナノ粒子を用意する工程と、該セリアナノ粒子にジルコニウム(Zr)を導入する工程と、続いて焼成することによりジルコニアを固溶させる工程とを含有する。以下、実施例1に係るCZ複合酸化物ナノ粒子の製造方法について上記各工程に分けて詳述する。
1.棒形状を有するセリアナノ粒子の合成工程
上記参考例1に係るセリアナノ粒子と同様の製造プロセス及び組成により棒形状を有するセリアナノ粒子を製造した。
2.Zr導入工程
上記で得られた棒形状を有するセリアナノ粒子5gをイオン交換水20mlに分散させて分散液を調製した。また、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物3.0gをイオン交換水20mlに溶解させオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を得た。得られたセリアナノ粒子分散液とオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を混合し10分間撹拌したのち、80℃で蒸発乾固させ、90℃で一晩乾燥させた。ここで、セリアナノ粒子とジルコニウムイオン含有水溶液の混合割合に関して、混合液中のセリアとジルコニウムイオンの合計に対する該ジルコニウムイオンの混合率は28mol%である。
3.焼成工程
上記で得られた乾燥品を乳鉢ですり潰し、600℃で2時間焼成することにより棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子を得た。ここで得られた該ナノ粒子を実施例1に係る粉体材料とする。
【0035】
(実施例2〜4;棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子)
上記実施例1に係る製造方法のうち、上記Zr導入工程におけるジルコニウムイオンの混合率を17〜39mol%の範囲で変化させたこと以外は、同様のプロセスによりCZ複合酸化物ナノ粒子を製造した。具体的には、上記ジルコニウムイオン混合率を17mol%(実施例2)、23mol%(実施例3)、及び39mol%(実施例4)と設定し、その他の製造条件は実施例1と同様とすることにより、3種類の棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例2〜4)を得た。
【0036】
(実施例5および6;棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子)
上記実施例1に係る製造方法のうち、上記焼成工程における焼成温度を500℃〜700℃の範囲で変化させたこと以外は同様のプロセス及び組成により、CZ複合酸化物ナノ粒子を製造した。具体的には、上記焼成温度を500℃(実施例5)および700℃(実施例6)に設定し、その他の製造条件は実施例1と同様とすることにより、2種類の棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例5および6)を得た。
【0037】
(比較例1;多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子)
CZ複合酸化物ナノ粒子に関して粒子形状とOSCの関係を調べるために、上記参考例2で得られた多面体形状を有するセリアナノ粒子に対してジルコニアを固溶させることにより、多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子を製造した。
具体的には、参考例2に係る製造方法により得られた多面体形状を有するセリアナノ粒子を用いて、上記実施例1に係るZr導入工程及び焼成工程と同様のプロセスを経ることにより該セリアナノ粒子にジルコニアを固溶させ、多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(比較例1)を得た。
以上の複数の実施例、及び比較例にかかる製造条件および生成物については表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
<XRD測定とジルコニア固溶率>
得られたセリアナノ粒子(参考例1)およびCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例1〜6、比較例1)の合計8種類のサンプルについてX線回折(XRD)測定を行い、その結晶構造の同定とジルコニア固溶率の算出を行った。図3〜5に参考例1、実施例1、および比較例1に係るナノ粒子のXRD測定の結果(チャート)を示す(図3:参考例1、図4:実施例1、図5:比較例1)。
図3〜5より明らかなように、棒形状を有するセリアナノ粒子(参考例1)、棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例1)、および多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(比較例1)はいずれも蛍石型結晶構造を有することが確認された。
次に上記各サンプルに係るXRD測定結果からジルコニア固溶率を算出した。具体的には、上記XRD測定結果から得られた(111)面に帰属されるピーク(概ね測定角2θ=28°付近のピーク)の位置から参考例1に係るセリアナノ粒子を基準としてジルコニア固溶率を算出した。該ジルコニア固溶率と上記ジルコニウム導入工程におけるジルコニウムイオン混合率との関係を図6に示す。
【0040】
図6に示す参考例1及び実施例1〜4に係るジルコニア固溶率の結果より明らかなように、ジルコニウムイオン混合率が23mol%未満の範囲でジルコニウム固溶率はジルコニウムイオン混合率にほぼ比例する関係を示すが、混合率が概ね23mol%以上の範囲ではジルコニア固溶率は20mol%付近で飽和することが確認された。
図7に実施例4(即ちジルコニウムイオン混合率が39mol%)に係るCZ複合酸化物ナノ粒子のXRD測定結果を示す。図7より明らかなように、(111)面に帰属されるピーク(測定角2θが28°付近)のより広角側(測定角2θが30°付近)においてジルコニア(ZrO2)に由来する回折ピークが観測され、このことから実施例4にかかるサンプルでは固溶せずに析出したジルコニアが存在することが確認される。
以上の結果より、Zr導入工程におけるジルコニウムイオン混合率が23〜28mol%程度であるとき、ジルコニアの析出を防止しながら高いジルコニア固溶率を達成することができることが判る。
【0041】
次に、焼成工程における焼成温度が生成物に与える影響について調べた。即ち、上記CZ複合酸化物ナノ粒子にかかる製造方法の中で焼成温度のみを変化させて製造した実施例1(焼成温度:600℃)、実施例5(焼成温度:500℃)、および実施例6(焼成温度:700℃)についてXRD測定及びTEM観察を行った。
表2及び図6にXRD測定による分析により算出された実施例5、6に係るジルコニア固溶率の結果を示す。図6に図示するように、焼成温度が600℃(実施例1)である場合、該温度が500℃である場合(実施例5)と比較してジルコニア固溶率が増加することが確認された。
図8及び図9に、それぞれ実施例1及び実施例6に係るCZ複合酸化物ナノ粒子のTEM写真を示す。図8から明らかなように実施例1にかかるCZ複合酸化物ナノ粒子は長さ15〜110nm、厚さ5〜15nm、アスペクト比3〜30程度の棒形状を有しており、かかる範囲内の棒形状を有するナノ粒子が、得られた粉体試料全体の70個数%以上存在していることが確認された。
一方、図9より明らかなように実施例6に係るCZ複合酸化物ナノ粒子は長さ5〜50nm、厚さ5〜10nm、アスペクト比1〜7程度の棒形状、又は粒状形状を有しており、実施例1(図8)と比較すると、全体的に長さ及びアスペクト比がいずれも減少していることが判る。しかしながら依然として、長さ15nm以上50nm以下、厚さ5nm以上10nm以下、アスペクト比が3以上7以下の棒形状を有するナノ粒子が、得られた粉体試料全体の50個数%以上確認された。図8及び図9に示す結果より、焼成温度が600℃より高くなるのに従い、CZ複合酸化物ナノ粒子の粒子形状が破壊され、短い棒形状又は粒状形状となる傾向があることが確認された。
【0042】
<OSC測定>
上述した各材料についてOSCの評価試験を行った。測定方法は以下の通りである。
即ち、上記参考例、実施例、又は比較例に係るナノ粒子の適当量を熱重量分析計(TG)に設置し、該TG内を300℃で維持したまま図10に示す組成のガスを交互に切り替えて流入させ、その時のサンプルの質量変化を測定することによりOSCを評価した。具体的な流入ガスの種類およびモードは図10に示す通りである。即ち(1)1%水素(H2)ガス(バランスガスは窒素ガス)を7分間、(2)窒素(N2)ガスを3分間、(3)10%酸素(O2)ガス(バランスガスは窒素ガス)を5分間、の一連のガス流入を1セットとし、繰り返し合計4セットのガスを流入させ、各セットにおける10%酸素ガス流入時の質量増量分をOSCとみなした。このとき、1セット目で得られたデータは破棄し、2〜4セット目で得られた合計3回の質量増加量の平均値を試料質量で除した値をOSC測定値(任意単位)とした。OSC測定値の結果を表1、表2、及び図11に示す。
【0043】
表1、表2、及び図11に示した結果より明らかなように、棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例1〜6)は、多面体形状を有するセリアナノ粒子(参考例2)、及び多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(比較例1)と比較し、300℃の温度条件下において高いOSC性能を発揮することが確認された。また、棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例1〜6)は、同じく棒形状を有するセリアナノ粒子(参考例1)と比較し、300℃条件下において高いOSCを発揮した。
実施例1〜6に係るCZ複合酸化物ナノ粒子の中で比較すると、ジルコニウムイオン混合率が17mol%である実施例2と比較し、該混合率が28mol%である実施例1はより高いOSCを示した。また、焼成温度が500℃である実施例5、及び700℃である実施例6と比較して、焼成温度が600℃である実施例1に係るCZ複合酸化物ナノ粒子はより高いOSCを発揮し、良好であることが確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に用いられるセリア−ジルコニア複合酸化物に関する。詳しくは、低温条件下における酸素吸蔵放出能に優れる棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子、及び該ナノ粒子を主体とする触媒担体用粉体材料と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排ガスに含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化するために、いわゆる三元触媒が広く用いられている。三元触媒は効率的にその浄化機能を発揮することができる条件として、排ガスに含まれる空気と燃料の比(空燃比)が理論空燃比(ストイキ)前後の一定範囲内であることが必要とされる。このため三元触媒には、該空燃比範囲を広げる目的で酸素吸蔵放出能(Oxgen Strage Capacity;OSC)を有する材料(以下、「OSC材料」ともいう。)が触媒担体として併用されている。
代表的なOSC材料としてはセリア(CeO2)が挙げられる。セリアがOSCを有するのは、4CeO2←→2Ce2O3+O2(1)の反応式で表されるCe4+からCe3+への価数変化を伴う反応が可逆的に進行することに由来する。セリアは上記反応により排ガス中の雰囲気に応じて酸素の吸蔵・放出を行い、結果として触媒近傍の雰囲気を制御することができる。
【0003】
上記セリアの酸素吸蔵放出能(OSC)を向上させるために、セリアに一定量のジルコニウム(Zr)を固溶させることが有効であることが知られている。ジルコニウムをセリアに固溶させたセリア−ジルコニア複合酸化物が、セリアと比較して高いOSCを発揮する理由は以下の通りに説明される。即ち、セリア−ジルコニア複合酸化物の結晶構造はセリアの蛍石構造を維持しており、Ceイオンのサイトの一部がイオン半径のより小さいZrイオンに置換されている。ここで、上記反応式(1)で示したCeイオンの価数変化を伴う反応においては、Ceイオンの膨張により格子に歪みが生じる。セリア−ジルコニア複合酸化物では置換されたZrイオンにより上記Ceイオンの価数変化に伴う体積膨張が緩和され、安定的に上記反応が進行することにより、バルク内の酸素移動が十分に行われ(即ちバルク酸素の利用率が高まり)OSCが向上する。
【0004】
一方、研究段階ではセリアナノ粒子に関して、そのナノ形状を厳密に制御することによりOSCが向上し得るとの報告がある。非特許文献1には、水熱合成法に基づいて棒状セリアナノ粒子(ナノロッド)、立方体状セリアナノ粒子(ナノキューブ)、多面体状セリアナノ粒子(ナノポリヘドラ)など、種々の粒子形状を有するセリアナノ粒子を選択的に合成することが可能であり、これらのセリアナノ粒子はその粒子形状に依存してOSCが大きく変化することが報告されている。即ち、セリアを構成物とした触媒担体材料を作製するうえで、セリア粒子のナノ形状を高度に制御することの重要性が示唆されている。
【0005】
ところで、OSC材料を排ガス浄化用触媒の担体材料として用いる場合、一般に該担体材料の比表面積が大きいほど、即ち粒径が小さいほど、触媒活性が向上する傾向があるため上記OSC材料の粒径制御は重要である。粒径が十分に小さい(例えば、粒径が数百nm未満の)セリア系化合物を製造する方法としては、例えば特許文献1に、平均粒径が0.1nm以上10nm未満であることを特徴とした、セリウム元素及びマンガン元素を含む複合酸化物を含有する研磨用砥粒とその製造方法について開示されている。しかし、上記セリウム−マンガン複合酸化物ナノ粒子は、粒径は小さい(10nm未満)ものの、利用分野上粒子形状を厳密に揃える必要がなく、特定の形状を有するナノ粒子を製造するという技術的思想は存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−155914号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー・B、2005年、109巻、pp.24380−24385
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のセリア系化合物を排ガス浄化用触媒の担体材料として用いた場合において、該排ガス浄化用触媒のOSCは未だ不十分であり改善の余地がある。特に近年需要の大きいハイブリッド車は、モータ駆動およびエンジン駆動の頻繁な切り替えが起こる条件下での走行が予定されており、排ガス浄化用触媒の温度が十分に高くない状態でいきなりエンジン駆動が始まる場合など、冷間状態から触媒作用を発揮しなければならない状況が多い。よって、低温条件下(例えば300℃以下)における排ガス浄化用触媒の浄化性能向上は重要な課題であり、排ガス浄化用触媒に用いられるOSC材料についても同様に、できるだけ低い温度からOSCを発揮することが求められている。
セリアの低温条件下でのOSCを向上させるためには上述した通り、(1)ジルコニウムを一定量固溶させる、(2)粒子形状を厳密に制御する、(3)粒径を制御し十分に小さい粒径及び狭い粒度分布とする、など種々の方法が考えられるが、従来上記3つの要件を全て満たす材料は得られていなかった。本発明は、かかる課題を解決すべく創出されたものであり、低温条件下(例えば300℃以下)においても高いOSCを発揮するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を提供することを目的とする。また、かかるセリア−ジルコニア複合酸化物を主体とする触媒担体用粉体材料を提供することを他の目的とする。さらに、かかる触媒担体用粉体材料を製造する好適な方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、様々な角度から検討を加え、上記目的を実現することのできる本発明を創出するに至った。
即ち、ここに開示されるセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子は、棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物から成るナノ粒子である。また上記ナノ粒子の長軸方向における長さが15nm以上300nm以下であり、上記ナノ粒子の長軸方向に直交する幅方向における厚さが5nm以上20nm以下である。さらに上記長軸方向の平均長さを上記幅方向の厚さで除することにより得られるアスペクト比が3以上50以下であることを特徴とする。
かかるセリア−ジルコニア複合酸化物(以下、「CZ複合酸化物」ともいう。)ナノ粒子は、従来のセリア系粒子と比較し低温条件下(例えば300℃以下)において優れたOSCを示す。
【0010】
ここに開示されるCZ複合酸化物ナノ粒子の好ましい一態様は、上記CZ複合酸化物に占めるジルコニアの固溶率が17mol%以上23mol%以下(好ましくは18mol%以上20mol%以下)であることを特徴とする。ここで上記ジルコニアの固溶率は、上記CZ複合酸化物ナノ粒子に対するX線回折(XRD)測定による分析により得られる値である。特に限定するものではないが、上記分析は典型的にはCZ複合酸化物ナノ粒子等の試料をXRD測定した場合に得られる(111)面に帰属される回折ピークのピークシフト値を読み取り、ベガード則に従って算出することにより行われ得る。
かかるジルコニア固溶率が上記範囲内であると、低温条件下(例えば300℃以下)におけるOSCが一層向上する。またジルコニア固溶率が上記範囲内であるCZ複合酸化物ナノ粒子は、ジルコニア固溶率が上記範囲未満であるCZ複合酸化物ナノ粒子と比較して高い耐熱特性を有し、高温条件下(例えば600℃以上1000℃以下)におけるOSCが向上する傾向がある。
【0011】
また、ここに開示される触媒担体用粉体材料はCZ複合酸化物ナノ粒子を主体とするものであり、該粉体材料のうち50個数%以上(好ましくは60個数%以上、より好ましくは70個数%以上)がここに開示されるいずれかのCZ複合酸化物ナノ粒子であることを特徴とする。
かかる触媒担体用粉体材料は特に低温条件下(例えば300℃以下)におけるOSCが高いため、該粉体材料を担体として使用した排ガス浄化用触媒の低温活性が向上する。また、かかる粉体材料の平均粒子サイズは十分に小さく、さらに粒度分布が狭いため、該粉体材料を触媒担体として用いると触媒種の分散性が向上し浄化性能が向上する。
【0012】
本発明によると、CZ複合酸化物ナノ粒子を主体とする触媒担体用粉体材料を製造する方法が提供される。その方法は、棒形状を有するセリアナノ粒子を用意する工程と、該セリアナノ粒子とジルコニウムイオン含有水溶液とを混合してジルコニウムを導入する工程と、該混合液から取り出した粉末を焼成することにより棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を合成する焼成工程と、を包含する。
かかる製造方法は、ここに開示されるいずれかの触媒担体用粉体材料の製造方法として好ましく採用され得る。かかる製造方法によると棒形状を有し、平均粒子サイズが十分に小さく(例えば長さが15nm以上300nm以下かつ厚さが5nm以上20nm以下)、かつ粒度分布が狭いCZ複合酸化物ナノ粒子を収率よく(典型的には50個数%以上、好ましくは60個数%以上、より好ましくは70個数%以上)合成することができる。
【0013】
ここに開示される触媒担体用粉体材料の製造方法の好ましい一態様では、上記導入工程において上記セリアナノ粒子におけるセリア(CeO2)と、上記ジルコニウムイオン含有水溶液中のジルコニウムイオンと、の合計に対する該ジルコニウムイオンの混合率が20mol%以上40mol%以下(好ましくは23mol%以上30mol%以下)であることを特徴とする。
かかる製造方法において上記混合率を上記範囲内とすると、CZ複合酸化物に占めるジルコニアの固溶率が比較的高い(例えば15mol%以上、好ましくは17mol%以上、より好ましくは概ね20mol%の)CZ複合酸化物ナノ粒子を得ることができる。ジルコニアの固溶率が高いCZ複合酸化物ナノ粒子は、高OSCと高耐熱特性を有するため触媒担体用粉体材料として好適に用いられる。
【0014】
ここに開示される触媒担体用粉体材料の製造方法の他の好ましい一態様では、上記焼成工程における焼成温度が500℃以上700℃以下(好ましくは550℃以上650℃以下)であることを特徴とする。
かかる製造方法において上記焼成温度が上記範囲内であると、アスペクト比が比較的高い(例えば3以上50以下の)棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子が収率良く(例えば50個数%以上、好ましくは60個数%以上、より好ましくは70個数%以上)得られる傾向がある。かかるCZ複合酸化物ナノ粒子は低温条件下において高いOSCを有するため、上記粉体材料を用いた排ガス浄化用触媒は高い浄化性能を発揮し得る。
【0015】
ここに開示される触媒担体用粉体材料の製造方法の他の好ましい一態様では、上記焼成工程における焼成時間が1時間以上5時間以下であることを特徴とする。
かかる製造方法において上記焼成時間が上記範囲内であると、粒子形状、及び粒子サイズが比較的均一に揃ったCZ複合酸化物ナノ粒子が収率良く得られる傾向がある。かかるCZ複合酸化物ナノ粒子は低温条件下において高いOSCを有するため、上記粉体材料を用いた排ガス浄化用触媒は一層高い浄化性能を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a),(b)はいずれも参考例1に係るセリアナノ粒子のTEM写真である。
【図2】(a),(b)はいずれも参考例2に係るセリアナノ粒子のTEM写真である。
【図3】参考例1に係るXRD測定結果を示す図である(縦軸:count(単位なし)、横軸:2θ(deg))。
【図4】実施例1に係るXRD測定結果を示す図である(縦軸:count(単位なし)、横軸:2θ(deg))。
【図5】比較例1に係るXRD測定結果を示す図である(縦軸:count(単位なし)、横軸:2θ(deg))。
【図6】参考例1及び実施例1〜5に係る、ジルコニア固溶率とジルコニウムイオン混合率との関係を示した図である(縦軸:ジルコニア固溶率(mol%)、横軸:ジルコニウムイオン混合率(mol%))。
【図7】実施例4に係るXRD測定結果を示す図である(縦軸:count(単位なし)、横軸:2θ(deg))。
【図8】実施例1に係るCZ複合酸化物ナノ粒子のTEM写真である。
【図9】実施例6に係るCZ複合酸化物ナノ粒子のTEM写真である。
【図10】OSC評価試験における測定モードの概略を模式的に説明する図である。
【図11】各材料に係る300℃の温度条件下におけるOSC評価の結果を示すグラフである(縦軸:OSC測定値(任意単位))。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、自動車における排ガス浄化用触媒の配置などに関するような一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
ここに開示される棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は、長軸方向における長さが15nm以上300nm以下(好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上、さらに好ましくは60nm以上、例えば80nm以上200nm以下)であり、かつ、上記長軸方向に直交する幅方向における厚さが5nm以上20nm以下(好ましくは15nm以下、例えば5nm以上10nm以下)である。また、上記長軸方向の長さを上記幅方向の厚さで除することにより得られるアスペクト比が3以上50以下(好ましくは5以上30以下、例えば10以上25以下)である。
【0019】
なお本明細書において「長さ」及び「厚さ」はTEM(透過型電子顕微鏡)またはSEM(走査型電子顕微鏡)を用いた観察により測定した長さである。また本明細書において「棒形状」または「棒状」とは、「球形状」(例えば略球形状の顆粒形状)と区別する用語であり、特に限定するものではないが典型的には長軸方向に直交する方向における断面形状が略長方形である細長い形状をいう。ここで本明細書でいう「棒形状」は、例えば「針状」又は「ワイヤ状」等と称される形状を含む概念であり、上記長さ、上記厚さ、上記アスペクト比の各値が上記範囲内であると認識される限りにおいて、多少の折れ曲り(例えば長軸方向から約1〜10°傾斜した方向への屈曲など)や多少の湾曲(例えば曲率半径500nmの湾曲など)などを許容する概念である。かかるナノ粒子の形状についてはTEM又はSEMによる観察により判定することができる。
【0020】
かかる棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は、好ましくは(110)面および(100)面により構成されている。ここで(110)面又は(100)面は、ミラー指数により示される結晶面の一つであり、結晶学その他の結晶構造を扱う技術・学術分野で周知の表示態様である。
【0021】
かかる棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は低温条件下(例えば300℃以下)において高いOSCを発揮する。かかる粒子が低温条件下において高OSC性能を発現する理由は以下の通りに説明される。即ち、CZ複合酸化物の主たる骨格を構成するセリア(CeO2)において、該セリアを構成する主たる結晶面((111)面、(100)面、(110)面)からの酸素放出量はそれぞれ異なるとされている。計算によると上記主要な結晶面のうち(110)面は酸素空孔を造りやすいとの推定がなされており、該(110)面を多くもつ結晶形状のセリアでは低温条件下での酸素放出が起こりやすいと考えられる。よって主に(110)面および(100)面より構成される棒形状を有するセリアナノ粒子は低温でのOSCが高く、同様の理由から棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子に関しても低温条件下でのOSCが向上する。
【0022】
上述するOSCと粒子形状との関係に鑑みると、棒形状のCZ複合酸化物は一定範囲のアスペクト比を有することがOSC向上に関して有利である。かかるアスペクト比は3以上50以下(好ましくは5以上30以下、例えば10以上25以下)であることが好適である。上記アスペクト比が3より小さすぎる場合、あるいは50より大きすぎる場合、低温条件下におけるOSCが低下する傾向があり好ましくない。
【0023】
また、ここに開示される棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は、セリア(CeO2)にジルコニア(ZrO2)が固溶したCZ複合酸化物から成る。ここで、上記CZ複合酸化物に占める上記ジルコニアの固溶率は17mol%以上23mol%以下(より好ましくは18mol%以上20mol%以下)であることが好ましい。ジルコニアの固溶率が17mol%より少なすぎると、CZ複合酸化物ナノ粒子の低温条件下におけるOSCが低下する傾向があり、また、耐熱性が低下する傾向がある。
【0024】
ここに開示されるCZ複合酸化物ナノ粒子、及び該CZ複合酸化物ナノ粒子を主体とする粉体材料の製造方法は、以下の工程を包含する。即ち、棒形状を有するセリアナノ粒子を用意する工程と、該セリアナノ粒子とジルコニウムイオン含有水溶液を混合してジルコニウムを導入する工程と、該混合液から取り出した粉末を焼成することにより棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を合成する焼成工程と、を包含する。
【0025】
上記棒形状を有するセリアナノ粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば水熱合成法により好適に作製され得る。典型的な水熱合成法に基づく棒形状を有するセリアナノ粒子の製造方法は以下の通りである。即ち、水溶性セリウム化合物が溶解した水溶液に所定の濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液を混合させ、水酸化セリウムの沈殿を生成させる。ここで上記セリウム化合物水溶液中のセリウムイオン1molに対し、上記水酸化ナトリウムは100〜140mol相当とすることが好適である。次いで得られた水酸化セリウムの沈殿物を耐圧反応容器に設置し、100℃〜130℃程度の恒温で5〜10時間程度加熱することにより、棒形状を有するセリアナノ粒子が生成する。
上記水溶性セリウム化合物としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物等が好適に用いられる。上記セリウム化合物におけるセリウムの価数は3価であってもよいし、4価であってもよい。これらのセリウム化合物は上記のうち一種のみを使用してもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。上記セリウム化合物のうち、硝酸塩は好適に用いられ、より好適には硝酸セリウム(III)を用いることができる。
【0026】
上記導入工程における上記セリアナノ粒子と上記ジルコニウムイオン含有水溶液の混合率に関しては、上記セリアナノ粒子におけるセリアの物質量と、上記ジルコニウムイオン含有水溶液中のジルコニウムイオンの物質量と、の合計に対する該ジルコニウムイオンの物質量比が20mol%以上40mol%以下(より好ましくは23mol%以上30mol%以下、例えば23mol%以上28mol%以下)の範囲で混合することが好ましい。
上記ジルコニウムイオンの混合率が20mol%より少なすぎると、セリアに十分な量のジルコニアが固溶しないため、得られた粉体材料のOSC及び耐熱性が低下する傾向がある。また、上記ジルコニウムイオンの混合率が40mol%より多すぎると、ジルコニアがセリアに固溶しきれず一部が析出することがあり、得られた粉体材料に占めるCZ複合酸化物の含有率が相対的に低下し、該粉体材料のOSCが低下する傾向がある。
【0027】
上記焼成工程における焼成温度は500℃以上700℃以下(より好ましくは550℃以上650℃以下、さらに好ましくは575℃以上625℃以下)であると好適である。上記焼成温度が700℃より高すぎると、棒形状が一部破壊したCZ複合酸化物ナノ粒子が得られがちであり、粒子形状の不均一化およびアスペクト比の低下が起こる傾向がある。かかるCZ複合酸化物ナノ粒子を主体とする粉体材料は低温条件下(例えば300℃以下)におけるOSCが低下する傾向があり好ましくない。また上記焼成温度が500℃より低すぎる場合、セリアへのジルコニアの固溶率が低下し、得られた粉体材料の低温条件下におけるOSCが低下する傾向があるため好ましくない。
【0028】
上記焼成工程における焼成時間は1時間以上5時間以下(好ましくは1時間以上2時間以下)であると好適である。焼成時間が上記範囲より短すぎると、セリアへのジルコニアの固溶率が低下する傾向があり好ましくない。また、焼成時間が上記範囲より長すぎる場合、ジルコニアの固溶率は既に飽和しており、さらに得られる粒子の形状またはサイズが不均一になる虞があるため好ましくない。
【0029】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示
すものに限定することを意図したものではない。
【0030】
<セリアナノ粒子の粒子形状>
まず棒形状を有するセリアナノ粒子と、従来用いられている粒状形状を有するセリアナノ粒子とを水熱合成法に基づいて製造し、両者の性状及び性能を比較することにより、セリア粒子の形状とOSCとの関係について調べた。
(参考例1;棒形状を有するセリアナノ粒子)
水酸化ナトリウム3840gを14.68kgのイオン交換水に溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液を調製した。また硝酸セリウム(III)六水和物347.38gを1kgのイオン交換水に溶解させ硝酸セリウム水溶液を調製した。得られた水酸化ナトリウム水溶液と硝酸セリウム水溶液を混合し300rpmで30分間撹拌した後、該混合液をオートクレーブに移し、オートクレーブ内を窒素置換した。窒素雰囲気下で上記混合液を50rpmで撹拌しながら100℃まで昇温した後、撹拌を止めて100℃で24時間保持した。その後、撹拌しながら室温まで冷却し、得られたスラリーを吸引濾過することにより沈殿物(セリアナノ粒子)を得た。この沈殿物をイオン交換水で十分に洗浄したのち、80℃で24時間以上減圧乾燥することにより棒形状を有するセリアナノ粒子を得た。かかる製造方法により製造されたセリアナノ粒子を参考例1に係るセリアナノ粒子とする。
【0031】
(参考例2;多面体形状を有するセリアナノ粒子)
水酸化ナトリウム64gをイオン交換水14.0kgに溶解させ水酸化ナトリウム水溶液を得た。硝酸セリウム(III)六水和物347gをイオン交換水1kgに溶解させ硝酸セリウム水溶液を得た。得られた水酸化ナトリウム水溶液と硝酸セリウム水溶液を混合し30分間撹拌した後、オートクレーブに移し、撹拌しながら100℃に昇温し、撹拌を止めて100℃で24時間保持した。冷却後、得られたスラリーを吸引濾過することにより沈殿物を得た。この沈殿物をイオン交換水で十分に洗浄したのち、80℃で24時間以上減圧乾燥することにより多面体形状を有するセリアナノ粒子を得た。かかる製造方法により製造されたセリアナノ粒子を参考例2に係るセリアナノ粒子とする。
【0032】
図1及び図2に参考例1及び参考例2に係るセリアナノ粒子のTEM写真を示す。図1(a),(b)より明らかなように、参考例1に係るセリアナノ粒子は棒形状を有しており、長さが100〜300nm、かつ厚さが5〜20nmの範囲にある粒子が、TEM観察の限りにおいて生成物全体の90個数%以上確認された。一方、図2(a),(b)より明らかなように、参考例2に係るセリアナノ粒子は多面体形状を有しており、その粒子径が5〜15nmである粒子が全体の90個数%以上確認された。
かかる2種類のセリアナノ粒子(参考例1及び2)について、300℃条件下のOSCを測定した。OSCの測定方法および測定値の算出方法は下記に詳述する。OSC測定の結果を表1に示す。
表1に示す結果より明らかなように、棒形状を有するセリアナノ粒子(参考例1)は多面体形状を有するセリアナノ粒子(参考例2)と比較して高いOSC(約1.5倍)を発揮した。即ち、300℃条件下におけるOSCに関して、セリアナノ粒子が棒形状であることの優位性が確認された。
【0033】
【表1】
【0034】
<CZ複合酸化物ナノ粒子の製造>
次に、棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子を製造し、その構造や組成などを調べた。
(実施例1;棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子)
棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子は、棒形状を有するセリアナノ粒子を用意する工程と、該セリアナノ粒子にジルコニウム(Zr)を導入する工程と、続いて焼成することによりジルコニアを固溶させる工程とを含有する。以下、実施例1に係るCZ複合酸化物ナノ粒子の製造方法について上記各工程に分けて詳述する。
1.棒形状を有するセリアナノ粒子の合成工程
上記参考例1に係るセリアナノ粒子と同様の製造プロセス及び組成により棒形状を有するセリアナノ粒子を製造した。
2.Zr導入工程
上記で得られた棒形状を有するセリアナノ粒子5gをイオン交換水20mlに分散させて分散液を調製した。また、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物3.0gをイオン交換水20mlに溶解させオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を得た。得られたセリアナノ粒子分散液とオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を混合し10分間撹拌したのち、80℃で蒸発乾固させ、90℃で一晩乾燥させた。ここで、セリアナノ粒子とジルコニウムイオン含有水溶液の混合割合に関して、混合液中のセリアとジルコニウムイオンの合計に対する該ジルコニウムイオンの混合率は28mol%である。
3.焼成工程
上記で得られた乾燥品を乳鉢ですり潰し、600℃で2時間焼成することにより棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子を得た。ここで得られた該ナノ粒子を実施例1に係る粉体材料とする。
【0035】
(実施例2〜4;棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子)
上記実施例1に係る製造方法のうち、上記Zr導入工程におけるジルコニウムイオンの混合率を17〜39mol%の範囲で変化させたこと以外は、同様のプロセスによりCZ複合酸化物ナノ粒子を製造した。具体的には、上記ジルコニウムイオン混合率を17mol%(実施例2)、23mol%(実施例3)、及び39mol%(実施例4)と設定し、その他の製造条件は実施例1と同様とすることにより、3種類の棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例2〜4)を得た。
【0036】
(実施例5および6;棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子)
上記実施例1に係る製造方法のうち、上記焼成工程における焼成温度を500℃〜700℃の範囲で変化させたこと以外は同様のプロセス及び組成により、CZ複合酸化物ナノ粒子を製造した。具体的には、上記焼成温度を500℃(実施例5)および700℃(実施例6)に設定し、その他の製造条件は実施例1と同様とすることにより、2種類の棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例5および6)を得た。
【0037】
(比較例1;多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子)
CZ複合酸化物ナノ粒子に関して粒子形状とOSCの関係を調べるために、上記参考例2で得られた多面体形状を有するセリアナノ粒子に対してジルコニアを固溶させることにより、多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子を製造した。
具体的には、参考例2に係る製造方法により得られた多面体形状を有するセリアナノ粒子を用いて、上記実施例1に係るZr導入工程及び焼成工程と同様のプロセスを経ることにより該セリアナノ粒子にジルコニアを固溶させ、多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(比較例1)を得た。
以上の複数の実施例、及び比較例にかかる製造条件および生成物については表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
<XRD測定とジルコニア固溶率>
得られたセリアナノ粒子(参考例1)およびCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例1〜6、比較例1)の合計8種類のサンプルについてX線回折(XRD)測定を行い、その結晶構造の同定とジルコニア固溶率の算出を行った。図3〜5に参考例1、実施例1、および比較例1に係るナノ粒子のXRD測定の結果(チャート)を示す(図3:参考例1、図4:実施例1、図5:比較例1)。
図3〜5より明らかなように、棒形状を有するセリアナノ粒子(参考例1)、棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例1)、および多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(比較例1)はいずれも蛍石型結晶構造を有することが確認された。
次に上記各サンプルに係るXRD測定結果からジルコニア固溶率を算出した。具体的には、上記XRD測定結果から得られた(111)面に帰属されるピーク(概ね測定角2θ=28°付近のピーク)の位置から参考例1に係るセリアナノ粒子を基準としてジルコニア固溶率を算出した。該ジルコニア固溶率と上記ジルコニウム導入工程におけるジルコニウムイオン混合率との関係を図6に示す。
【0040】
図6に示す参考例1及び実施例1〜4に係るジルコニア固溶率の結果より明らかなように、ジルコニウムイオン混合率が23mol%未満の範囲でジルコニウム固溶率はジルコニウムイオン混合率にほぼ比例する関係を示すが、混合率が概ね23mol%以上の範囲ではジルコニア固溶率は20mol%付近で飽和することが確認された。
図7に実施例4(即ちジルコニウムイオン混合率が39mol%)に係るCZ複合酸化物ナノ粒子のXRD測定結果を示す。図7より明らかなように、(111)面に帰属されるピーク(測定角2θが28°付近)のより広角側(測定角2θが30°付近)においてジルコニア(ZrO2)に由来する回折ピークが観測され、このことから実施例4にかかるサンプルでは固溶せずに析出したジルコニアが存在することが確認される。
以上の結果より、Zr導入工程におけるジルコニウムイオン混合率が23〜28mol%程度であるとき、ジルコニアの析出を防止しながら高いジルコニア固溶率を達成することができることが判る。
【0041】
次に、焼成工程における焼成温度が生成物に与える影響について調べた。即ち、上記CZ複合酸化物ナノ粒子にかかる製造方法の中で焼成温度のみを変化させて製造した実施例1(焼成温度:600℃)、実施例5(焼成温度:500℃)、および実施例6(焼成温度:700℃)についてXRD測定及びTEM観察を行った。
表2及び図6にXRD測定による分析により算出された実施例5、6に係るジルコニア固溶率の結果を示す。図6に図示するように、焼成温度が600℃(実施例1)である場合、該温度が500℃である場合(実施例5)と比較してジルコニア固溶率が増加することが確認された。
図8及び図9に、それぞれ実施例1及び実施例6に係るCZ複合酸化物ナノ粒子のTEM写真を示す。図8から明らかなように実施例1にかかるCZ複合酸化物ナノ粒子は長さ15〜110nm、厚さ5〜15nm、アスペクト比3〜30程度の棒形状を有しており、かかる範囲内の棒形状を有するナノ粒子が、得られた粉体試料全体の70個数%以上存在していることが確認された。
一方、図9より明らかなように実施例6に係るCZ複合酸化物ナノ粒子は長さ5〜50nm、厚さ5〜10nm、アスペクト比1〜7程度の棒形状、又は粒状形状を有しており、実施例1(図8)と比較すると、全体的に長さ及びアスペクト比がいずれも減少していることが判る。しかしながら依然として、長さ15nm以上50nm以下、厚さ5nm以上10nm以下、アスペクト比が3以上7以下の棒形状を有するナノ粒子が、得られた粉体試料全体の50個数%以上確認された。図8及び図9に示す結果より、焼成温度が600℃より高くなるのに従い、CZ複合酸化物ナノ粒子の粒子形状が破壊され、短い棒形状又は粒状形状となる傾向があることが確認された。
【0042】
<OSC測定>
上述した各材料についてOSCの評価試験を行った。測定方法は以下の通りである。
即ち、上記参考例、実施例、又は比較例に係るナノ粒子の適当量を熱重量分析計(TG)に設置し、該TG内を300℃で維持したまま図10に示す組成のガスを交互に切り替えて流入させ、その時のサンプルの質量変化を測定することによりOSCを評価した。具体的な流入ガスの種類およびモードは図10に示す通りである。即ち(1)1%水素(H2)ガス(バランスガスは窒素ガス)を7分間、(2)窒素(N2)ガスを3分間、(3)10%酸素(O2)ガス(バランスガスは窒素ガス)を5分間、の一連のガス流入を1セットとし、繰り返し合計4セットのガスを流入させ、各セットにおける10%酸素ガス流入時の質量増量分をOSCとみなした。このとき、1セット目で得られたデータは破棄し、2〜4セット目で得られた合計3回の質量増加量の平均値を試料質量で除した値をOSC測定値(任意単位)とした。OSC測定値の結果を表1、表2、及び図11に示す。
【0043】
表1、表2、及び図11に示した結果より明らかなように、棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例1〜6)は、多面体形状を有するセリアナノ粒子(参考例2)、及び多面体形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(比較例1)と比較し、300℃の温度条件下において高いOSC性能を発揮することが確認された。また、棒形状を有するCZ複合酸化物ナノ粒子(実施例1〜6)は、同じく棒形状を有するセリアナノ粒子(参考例1)と比較し、300℃条件下において高いOSCを発揮した。
実施例1〜6に係るCZ複合酸化物ナノ粒子の中で比較すると、ジルコニウムイオン混合率が17mol%である実施例2と比較し、該混合率が28mol%である実施例1はより高いOSCを示した。また、焼成温度が500℃である実施例5、及び700℃である実施例6と比較して、焼成温度が600℃である実施例1に係るCZ複合酸化物ナノ粒子はより高いOSCを発揮し、良好であることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物から成るナノ粒子であって、
前記ナノ粒子の長軸方向における長さが15nm以上300nm以下であり、
前記ナノ粒子の長軸方向に直交する幅方向における厚さが5nm以上20nm以下であり、
前記長軸方向の長さを前記幅方向の厚さで除することにより得られるアスペクト比が3以上50以下であることを特徴とする、セリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子。
【請求項2】
前記セリア−ジルコニア複合酸化物に占めるジルコニアの固溶率が17mol%以上23mol%以下である、請求項1に記載のセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子。
【請求項3】
セリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を主体とする触媒担体用粉体材料であって、
前記粉体材料のうち50個数%以上が請求項1または2に記載のセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子であることを特徴とする、触媒担体用粉体材料。
【請求項4】
セリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を主体とする触媒担体用粉体材料を製造する方法であって、
棒形状を有するセリアナノ粒子を用意する工程と、
該セリアナノ粒子とジルコニウムイオン含有水溶液とを混合してジルコニウムを導入する工程と、
該混合液から取り出した粉末を焼成することにより棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を合成する焼成工程と、
を包含する触媒担体用粉体材料製造方法。
【請求項5】
前記導入工程において前記セリアナノ粒子におけるセリア(CeO2)と、前記ジルコニウムイオン含有水溶液中のジルコニウムイオンと、の合計に対する該ジルコニウムイオンの混合率が20mol%以上40mol%以下であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記焼成工程における焼成温度が500℃以上700℃以下である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記焼成工程における焼成時間が1時間以上5時間以下である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物から成るナノ粒子であって、
前記ナノ粒子の長軸方向における長さが15nm以上300nm以下であり、
前記ナノ粒子の長軸方向に直交する幅方向における厚さが5nm以上20nm以下であり、
前記長軸方向の長さを前記幅方向の厚さで除することにより得られるアスペクト比が3以上50以下であることを特徴とする、セリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子。
【請求項2】
前記セリア−ジルコニア複合酸化物に占めるジルコニアの固溶率が17mol%以上23mol%以下である、請求項1に記載のセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子。
【請求項3】
セリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を主体とする触媒担体用粉体材料であって、
前記粉体材料のうち50個数%以上が請求項1または2に記載のセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子であることを特徴とする、触媒担体用粉体材料。
【請求項4】
セリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を主体とする触媒担体用粉体材料を製造する方法であって、
棒形状を有するセリアナノ粒子を用意する工程と、
該セリアナノ粒子とジルコニウムイオン含有水溶液とを混合してジルコニウムを導入する工程と、
該混合液から取り出した粉末を焼成することにより棒形状を有するセリア−ジルコニア複合酸化物ナノ粒子を合成する焼成工程と、
を包含する触媒担体用粉体材料製造方法。
【請求項5】
前記導入工程において前記セリアナノ粒子におけるセリア(CeO2)と、前記ジルコニウムイオン含有水溶液中のジルコニウムイオンと、の合計に対する該ジルコニウムイオンの混合率が20mol%以上40mol%以下であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記焼成工程における焼成温度が500℃以上700℃以下である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記焼成工程における焼成時間が1時間以上5時間以下である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−236741(P2012−236741A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106649(P2011−106649)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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