説明

棒状樹脂成形品及びその成形方法

【目的】 引張破壊荷重が高い棒状樹脂成形品を提供する。
【構成】 繊維を含有した熱可塑性合成樹脂組成物を、肉抜き孔を設けた金型キャビティに射出させ、肉抜き孔方向と実質的に平行に前記繊維を強く配向させた棒状樹脂成形品であって、特に成形品中の繊維が長い場合に効果が大きい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、繊維を混入させることにより強化され且つ断面を円形又は角形等とする棒状樹脂成形品及びその成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】樹脂成形品は軽量化するのに有利であると共に、錆による腐食の心配がないので水と接する箇所で好適に使用できる反面、樹脂単独では引張強度および曲げ強度に乏しい欠点がある。そこで、樹脂内に繊維を混入せしめることによって強度を高める技術が一般に知られており、多くの棒状製品に、そのような樹脂組成物を使用したものが実用化されている。このような繊維の混入による強化は、繊維とマトリックス樹脂の密着、繊維の強度、繊維の伸び及び繊維の配向によって大きく左右されるといっても過言でない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし従来の成形法ではその繊維の配向の問題に関しての考慮がなく、そのため材料の持っている性能を十分に発揮した高い強度の棒状樹脂成形品が得られなかった。また、その原因解明もされていないのが実情であった。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、成形品中に含有される繊維の配向状態を解明し、それによって繊維の補強効果を有効に利用して強度をより向上させ品質の安定化を図ることに成功した棒状樹脂成形品及びその成形方法である。その第1の手段の構成は、繊維を含有する熱可塑性合成樹脂による棒状樹脂成形品であって、その長手方向の全体又は一部分に樹脂流動方向と実質的に平行に設置された肉抜き孔を有し、その肉抜き孔の長手方向に直交する断面における、その肉抜き孔を設ける前の断面積に対して、その肉抜き溝を設けた後の断面積の比率が70%以上、及びその肉抜き溝を設けた後の断面積に対して、コア層の断面積の比率が70%以下となる前記繊維を流動方向と実質的に平行に強く配向させた棒状樹脂成形品である。ここでいうコア層とはスキン層以外の断面の部分を指し、またスキン層とは成形品表層部の繊維が流動方向と実質的に平行に配向している部分を指し、そして実質的に平行とは、樹脂流動方向と繊維との平均角度が45度未満であることをいう。また、第2手段として肉抜き孔による肉抜き後の成形品の、肉抜き前の成形品に対する重量平均繊維長の保持率を、60%以上とした棒状樹脂成形品である。同様に、第3手段として前記繊維を重量平均繊維長0.3mm以上とした棒状樹脂成形品で、繊維長が長くなる程肉抜き孔設置による繊維配向変化効果が大きくなり、望ましい。更に、第4手段として繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を、肉抜き孔を付与した成形品の長手方向の端部に相当する部位に設定されたゲートを介して製品部キャビティ内へ、充填させることを特徴とする棒状樹脂成形品の成形方法である。
【0005】
【作用】上記第1手段により、肉抜き孔を形成する前の断面積に対する、その肉抜き孔を形成した後の断面積の比率が70%以上、及びその肉抜き孔を形成した後の断面積に対するコア層の断面積の比率を70%以下とするので、金型製品部キャビティ壁面及び肉抜き孔を構成する金型コア壁面に接する成形品表層(スキン層)では、成形充填時に強化繊維が剪断を強く受け、樹脂流動方向(成形品軸方向)に強く配向し、その配向方向に対する引張強度及び曲げ強度を大幅に向上させる事ができる。また、肉抜きにより成形品の軽量化を計ることも出来る。また、肉抜き孔による肉抜き後の成形品の、肉抜き前の成形品に対する重量平均繊維長の保持率を、60%以上とする第2手段により、また、繊維を長くする第3手段により、これらの効果を更に高めることができる。更に、肉抜き孔を付与した成形品の長手方向の端部に相当する部位に設定されたゲートを介して製品部キャビティ内へ充填させる第4手段により、強化繊維が流動方向と同一の一定方向に平行に強く配向されることにより、同様にその長手方向に対する引張強度及び曲げ強度を大幅に向上させる事ができる。
【0006】
【実施例】本発明に係る棒状樹脂成形品及びその成形方法、ならびにその方法で使用する金型構造を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る固定型と可動型とからなる射出成形用金型であって棒状試験片の射出成形用金型を例示している。1は成形機のノズルに接続されるスプルー、4は製造しようとする成形品の製品部キャビティであってその上下の端部にはネジ山を設けてある。2はスプルー1から製品部キャビティ4に向けて溶融樹脂を流すためのランナー、3はランナー2から製品部キャビティ4の上端に設ける 樹脂を流入させるためのゲートである。5は肉抜き用のピンであってピンのサイズ変更及び脱着ができる構造としている。他に金型には、図示しないが成形品及びランナーを突き出すためのエジェクター並びに金型の冷却温調を行なうための冷却回路が設置されている。
【0007】熱可塑性合成樹脂組成物としては、一般に繊維強化熱可塑性樹脂として知られているものがいずれも使用できるが、ガラス繊維、カーボン繊維又は合成繊維などの長繊維に、押出し機で溶融した熱可塑性プラスチックを含浸させ、適当な長さに切断してペレット化したものが好適に使用される。この熱可塑性合成樹脂組成物は、長繊維の折損を最低限に留めるため、圧縮比が小さく、深溝のスクリューを備え、ノズルの大きな射出装置を使用して射出することが望ましく、特に逆流防止弁を備えたものが好ましい。
【0008】このような熱可塑性合成樹脂組成物を用いて、周知の射出手段によって樹脂成形品を成形する。図1R>1のように成形品に肉抜き孔を設けることにより、強化繊維を肉抜き孔と平行の方向又は流動方向へ、より強く配向させることが出来る。つまり、肉抜き孔により成形品の断面積は減少するが、断面係数を考慮した引張強度の向上はもちろんであるが、さらに引張破壊荷重の向上もみられる。溶融樹脂中の重量平均繊維長が長い場合はこの傾向がより顕著となる。肉抜き孔の寸法はマトリックス樹脂の種類並びに棒状成形品の径及び厚み等の条件により変化するが、例えばマトリックス樹脂をポリアミド66、径がφ10mmの棒状成形品の場合、肉抜き孔はφ3mmぐらいが適当である。この場合、肉抜き孔を設ける前の断面積は、5.02π= 25.0π mm2である。そして、肉抜き孔を設けた後の断面積は、肉抜き孔を形成する肉厚部の断面積に相当する5.02π-1.52π= 22.75π mm2である。したがって、肉抜き孔を設ける前の断面積に対する、その肉抜き孔を設け後の断面積の比率は、22.75π/25.0π = 91.0 (%)となる。また、成形品の断面積が大きくなる場合には、肉抜き孔の内周面に凹凸状に若しくは襞状に形成し、孔の断面形状を円形、楕円形若しくは多角形とする肉抜き孔を複数本又は円形孔の内側に放射状に隔壁を設け、分割される断面を扇形とする孔を複数本設けることも有効である。本発明において、上記のような肉抜き孔は、本発明の目的を達成するために意図的に設けられるものであり、製品としての機能上必須なものとして設けられる孔とは区別される。
【0009】<実験例>棒状の成形品にて、肉抜き孔を有した成形品と有しない成形品の引張破壊荷重と引張強度の比較を試みた。又成形品破断面の繊維配向の断面観察も行った。断面積及びコア層面積の計測並びに断面観察は図2の断面a−aから断面d−dまでの各部分で行い、断面観察の繊維配向からコア層C及びスキン層SO,SIを測定した。ここで肉抜き孔の周面に位置する内側スキン層SI及び外側スキン層SO以外の残った部分がコア層Cである。実験は前記実施例の図1の金型を使用し、図2の肉抜きを有しない射出成形品及び3種類の肉抜きを有する射出成形品を得た。成形条件、実験条件、実験結果は下記表1から表4に示す。ここで使用した熱可塑性合成樹脂組成物は、ポリアミド66をマトリックス樹脂とし、ガラス繊維を50重量%含有させた短繊維及び長繊維の強化樹脂材料(ペレット長12.7mm)である。また、重量平均繊維長の保持率は、肉抜き溝を設置する前の重量平均繊維長に対する肉抜き設置した後の重量平均繊維長の比率を示す。断面積比率は、肉抜き溝を設置する前の断面積に対する肉抜き溝を設置した後の断面積の比率を示す。コア層面積比率は、肉抜き溝を設置した後の全断面積に対するコア層の断面積の比率を示す。
【0010】
【表1】


尚成形機は株式会社大隈鉄工所製のOKM150を使用した。
【0011】
【表2】


尚、株式会社島津製作所製 万能試験機DSS−5000を使用した。
【0012】
【表3】


【0013】
【表4】


【0014】特に、引張試験後の断面は繊維が流動方向と平行に又はほぼ平行に配向しているスキン層部分の面積は、全体の面積に対し、肉抜き孔無しの時32%、肉抜き孔(III)の時71%であり、肉抜き孔によるコア層面積比率が繊維配向に大きな影響を与えていることが確認された。また、長繊維強化樹脂材料では長繊維の折損が短繊維の場合より生じやすく、肉抜き孔の径を大きくする程、繊維の折損による重量平均繊維長の短小化が顕著なので、肉抜き孔による肉抜き後の成形品の、肉抜き前の、即ち肉抜き孔を形成しない成形品に対する重量平均繊維長の保持率を、60%以上とすることが好ましい。
【0015】以上の結果より、樹脂に繊維を含有させた成形品に於いて、肉抜き孔を設けることにより、軽量化が図れるばかりか、有効断面積が減少するにもかかわらず、繊維の配向を改善した効果により引張強度は向上し、又引張破壊荷重も向上していることが確認された。又、長繊維強化材料の場合、その向上度合いが短繊維強化材料よりも大きい。
【0016】本実施例及び実験例はポリアミドについて説明したが、他の熱可塑性合成樹脂組成物、例えばPBT.PET.ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリウレタン等でも数値の違いはあるにしろ同様の結果が確認され、本発明で使用される熱可塑性合成樹脂、繊維の種類は自由に選択できる。
【0017】
【発明の効果】本発明によれば、繊維強化樹脂材料を用いた棒状成形品に於いて、肉抜き前の断面積に対して、肉抜き孔設置後の断面積の比率が70%以上、及びその肉抜き孔設置後の断面に於いてコア層の比率が70%以下となるように肉抜き孔を設けて成形することにより、金型製品部キャビティ壁面及び肉抜き孔を構成する金型コア壁面に接する成形品表層(スキン層)では、成形充填時に強化繊維が剪断を強く受け、樹脂流動方向(成形品軸方向)に繊維が強く配向し、その配向方向に対する引張強度を大幅に向上させる事が出来る。また、その肉抜き孔により軽量化を計ることが出来る。特に、肉抜き孔による肉抜き後の成形品の、肉抜き前の成形品に対する重量平均繊維長の保持率を、60%以上とする第2手段により、また、射出成形品中の強化繊維の重量平均繊維長を0.3mm以上とする長繊維強化樹脂材料を用いて、適切な肉抜き孔を設ける第3手段により、強化繊維の配向を一定方向に強く配向させることができ、その引張破壊荷重が向上できる。更に、肉抜き孔を付与した成形品の長手方向の端部に相当する部位に設定されたゲートを介して製品部キャビティ内へ充填させる第4手段により、強化繊維が流動方向と同一の一定方向に平行に強く配向されるので、同様にその長手方向に対する引張強度及び曲げ強度を大幅に向上させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る肉抜き孔を設けた棒状試験片の成形実験用金型の説明図である。
【図2】 実験例で採用した基本構造の説明図である。
【符号の説明】
1・・スプルー、2・・ランナー、3・・ゲート、4・・製品部キャビティ、5・・肉抜き孔用ピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維を含有する熱可塑性合成樹脂による棒状樹脂成形品であって、その長手方向の全体又は一部分に樹脂流動方向と実質的に平行に設置された肉抜き孔を有し、その肉抜き孔の長手方向に直交する断面における、その肉抜き孔を設ける前の断面積に対して、その肉抜き溝を設けた後の断面積の比率が70%以上、及びその肉抜き溝を設けた後の断面積に対して、コア層の断面積の比率が70%以下となる前記繊維を流動方向と実質的に平行に強く配向させた棒状樹脂成形品。
【請求項2】 前記肉抜き孔による肉抜き後の成形品の、肉抜き前の成形品に対する重量平均繊維長の保持率を、60%以上とする請求項1記載の棒状樹脂成形品。
【請求項3】 前記繊維を重量平均繊維長0.3mm以上とする請求項1の棒状樹脂成形品。
【請求項4】 繊維を含有する熱可塑性合成樹脂組成物を、肉抜き孔を付与した成形品の長手方向の端部に相当する部位に設定されたゲートを介して製品部キャビティ内へ、充填させることを特徴とする棒状樹脂成形品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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