説明

森林機能回復工法

【課題】
従来、スギ、ヒノキ等の人工林では、森林整備で立木密度を低下させて林内照度を確保すると下層植生が回復するとされてきた。しかし、過密に植栽された人工林は低照度で長期間維持されることか、土壌中に多量の種子を包含しておらず、有機物含有量が低下して土壌が単粒化してしまうことが問題である。対処法は、森林表層の土を採取する手法や採取した土壌や地下茎をバックに詰め込み緑化する手法、山地に自生する実生苗木の地上部を切断して森林へ戻す工法が考案されたが、緑化が主目的であるので森林機能を回復する手法となっていなかった。
【解決手段】
森林の木本類、草本類から採取した種子(3)及び種子が混在している森林周辺の表層土壌(3′)とバーク堆肥(4)と腐蝕促進土(5)を混合撹拌してなる客土(2)を植生基盤材(1)として吹付機(12)で対象となる森林の土壌面(G)に吹き付けて森林回復基盤層(A)を形成することを特徴とする森林機能回復工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間伐、枝打ち等の森林整備が遅れることによって土壌の単粒化が進んで森林の土砂流出防止機能等の公益機能が低下している森林に対して、土壌の団粒化を促進する客土及び対象森林の周辺の種子及び土壌を用いることで下層の植生を急速に回復させ、森林土壌の機能を改善することを可能としたものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にスギ、ヒノキに代表される人工林では、間伐、枝打ち等の森林整備事業によって、立木密度を低下させることで森林内照度を確保すれば下層植生が回復するとされてきた。しかし、過密に植栽された人工林内は低照度によって維持されている期間が長いことから土壌中に多量の種子を包含していないのが一般的である。
このような環境であることから、有機物含有量の低下に伴って土壌の単粒化が進行してしまうことが問題となっている。対処法としては、森林表層の表土を採取する手法や採取した土壌や地下茎をバックに詰め込み緑化する手法及び山地に自生している実生苗木の地上部を切断して森林へ戻す工法等が考案されてきた。
【特許文献1】特開2003−313874号公報の発明
【特許文献2】特開2007−231731号公報の発明
【特許文献3】特開2001−120011号公報の発明
【特許文献4】特開2005−256520号公報の発明
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが,上記の従来工法では、対象となる緑化箇所周辺で種子や土壌、地下茎を採取しているものの最適な環境である森林周辺から対象となる機能低下した森林への種子や土壌、地下茎の導入とはなっていなかった。このことから、森林自体の機能を回復する手法となっておらず,植物を増やして景観に配慮した緑化を行うことが主たる目的であるので、どの植物でもいいから生やしている状態である。
また、このような考えに基づいていることから、森林土壌の構造を改善するに至っておらず、導入した土壌が植生に適合せずに発芽生育していないのが問題となっている。
【0004】
そこで、本発明では、森林の機能を回復するために単粒化している土粒子を団粒化させる役割をになう腐植の形成をバーク堆肥系資材に代表される有機質資材及び泥炭等の腐植促進土、土壌分析に基づいた肥料、森林の機能改善が必要な森林周辺から採取した種子の生育によって早期に改善できることにより、従来の課題を解決し且つ発明の目的を達成するようにした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1は、森林機能回復工法において、間伐、枝打ち等の森林整備が遅れることによって有機物不足が起こり、土壌の団粒化が損なわれて土砂流出防止等の公益的機能が維持できなくなったスギ、ヒノキ等の人工林に対して周辺の森林に成育している木本類、草本類から採取した種子と、種子が混ざっている周辺森林の表層土壌と、バーク堆肥を混合した客土と粘結剤と用水による混合物と混合して森林機能回復基盤材として吹付機で対象となる森林土壌面に吹き付けることによって、下層植生を早期に回復させると共に、機能低下した森林土壌構造の改善を図るようにしものである。
【0006】
本発明の第2は、第1の発明に係る森林機能回復工法において、有機質資材であるバーク堆肥、腐植促進土、肥料、採取された種子を有機質資材100の割合でハイドロシーダー又はモルタル・コンクリート吹付機などの吹付機の中で混合して森林機能回復基盤材を作成し、当該基盤材吹付機によって対象森林の土壌面に吹き付けを行うようにしたものである。
【0007】
本発明の第3は、第1の発明に係る森林機能回復工法において有機質資材であるバーク堆肥は、pH(H2O)で5.5〜7.5、電気伝導度が0.9ms/cm以下となるものを用い、土壌の団粒化を促進する素材については有機物含有量70%以上、pH(H2O)で3.5〜6.0の値のものを利活用するものである。
【0008】
本発明の第4は、第1の発明に係る森林機能回復工法において、対象地の森林土壌の化学性の分析値を用いて陽イオン交換容量に占めるCa、Mg、K等の塩基量の過不足量に見合った施肥設計を利活用して導入する植物に適合した培地を作ることにある。
【0009】
本発明の第5は、第1の発明に係る森林機能回復工法において、客土に混合する肥料については、対象地の森林土壌の化学性の分析値を用いて陽イオン交換容量に占めるCa、Mg、K等の塩基量の過不足量に見合った施肥設計を利活用するようにしたものである。
【0010】
本発明の第6は、第1の発明に係る森林機能回復工法において、客土に混合する種子は、機能を回復する必要がある森林周辺に存在する森林地帯から採取したものとし、客土を麻等の分解性の袋に詰めて対象となる森林に設置する方法を含めるようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記の構成であることから、次の効果がある。すなわち、バーク堆肥及び腐植促進土を混合したものと周辺森林の表層土壌から採取した種子及び土壌を用いることにより、単粒構造となって機能低下した森林土壌を団粒化させる改良効果が期待できる。また、この土壌改良効果の発現によって、森林土壌が降雨等の外的ストレスによって流亡し難い土壌環境を構築することが可能となり、酸性雨に対しても耐性を持つ環境に中長期的に保持することが可能となる。基材の吹き付けについては、通常の緑化工法で理活用されている機械の利用が可能である。
【0012】
ま、本発明にあっては、土壌の塩基飽和度を有機質資材であるバーク堆肥へ腐
植促進土の混合量を可変することにより変更できることから,周辺森林から採取し
た植物種の成育環境に合った森林土壌環境とすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)土壌の団粒化を維持できる森林土壌の環境では,土壌pHが5.0〜6.0となるのに比較すると、現在の間伐や枝打ち等の森林整備が遅れている森林土壌では土壌のpHが4.4以下となってしまい,有機物及び有機物由来の塩類等が流亡して土壌構造が単粒化して砂質化してしまっていることを確認したことにある。このような環境では,降雨等の外的ストレスに対して非常に弱く立木であるスギ、ヒノキの足場が崩れ易くなっていることを確認している。
(2)有機物資材であるバーク系堆肥4、樹皮や廃材等を1〜2年程度養生した後に製品化されるので、初期の段階ではpHが8.0程度となり、アルカリ性となる。
このような資材単独では、単粒土壌17化した土壌粒子19を結び付ける腐植の形成が行われないことから、腐植促進土5を混合して培地を作ることによって早期に腐植を形成して団粒土壌18化を図る。また、機能回復させたい森林周辺から採取した種子の混入した表層土壌3′を混合することで、郷土植物が成育することから団粒化のスピードは飛躍的に増加する。
(3)バーク系資材及び腐植促進土5は、降雨が連続すると流亡してしまうことが懸念される。このように導入した客土2が流亡しないようにするために酢酸ビニール系粘結剤8や中性の無機系固化剤を酢酸ビニール系では、1m3に対して1kg、無機系固化剤では10〜20kg添加することで問題を解決している。
(4)液体状の木酢液や竹酢液では、腐植促進剤として短期的に同様な効果を発現させことも可能となるが、降雨等で容易に流亡してしまう。この間題を粉末〜粗粒のピートモス、泥炭、燻製炭及び人工腐植土等の腐植促進土を用いることにより解決している。
【実施例】
【0014】
次に、本発明の実施例を説明する。図1において、1は森林機能回復基盤材であり、後述の客土に粘結剤を用水と混合した混合物を加えて撹拌することにより得る。2は客土であり、後述の採取種子及び種子が混在している表層土壌にバーク堆肥4腐植促進土を混合撹拌して得る。3は森林に成育している木本類、草本類から採取した種子、3′は種子が混在している森林周辺地帯(図3)から採取する表層土壌、4はバーク堆肥であり、C/N比で35以下、有機物含有量70%以上の資材を用いることとし、pH(H2O)で5.5〜7.5、電気伝導度が0.9ms/cm以下の値のものを利活用する。5は腐植促進土であり,ピートモス、泥炭、燻製炭及び人工腐植土等の腐植促進土については、有機物含有量70%以上、pH(H2O)で3.5〜6.0の値のものを利活用する。
6・6′は客土2を吹付機12に搬送するベルトコンベア、7〜9は客土2に加えて吹付材を作るための部材である。すなわち、客土2を森林表土と一体化するために例えば酢酸ビニール系粘結剤又は無機系中性固化剤等を可とし、粘結剤8を用水9と混合した混合物7を得る。
10は発電機、11はコンプレッサ、12は湿式の森林機能回復基盤材1の吹付機であり、ハイドロシーダー又はモルタル吹付機を用いるものとする。13は揚水ポンプ、14は水槽、15は配電盤、16は基盤材1を森林土壌面Gに吹き付ける噴射ノズルを示す。
【0015】
「具体的な施工例における施工順序」
(1) 採取種子3及び種子が混在している表層土壌3′にバーク堆肥4と腐植促進土5を混合撹拌して客土2を得る。
(2) 上記の客土2に粘結剤8を用水9と混合した混合物7を加えて撹拌することにより森林機能回復基盤材1とする。
(3) 森林機能回復しようとする目的の森林土壌面Gに森林機能回復基盤材1を湿式の吹付機12を使ってノズル16による吹き付けを行う。
(4) 森林土壌面Gの目的に応じて厚さ1.0〜5.0cm程度に吹き付けて森林機能回復基盤層Aを形成する。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、林業の材価低迷に伴って森林整備の意欲が無くなり、間伐、枝打ち等の整備が遅れることで土壌環境が劣化して、立木の成長及び降雨で土壌養分が流亡し易い環境となっているスギ、ヒノキ等の人工林を生物多様性に満ちた森林環境へと回復することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】森林機能回復基盤を荒廃した森林に吹き付けることで、森林の土壌環境境を変化させることによる効果模式図である。
【図2】単粒土壌の森林に本発明の実施を行う概略説明図である。
【図3】団粒土壌の森林周辺地帯の概略明図である。
【符号の説明】
【0018】
1……森林機能回復基盤材
2……客土
3……種子(直接採取,土壌埋没分採取)
3′…種子が混在している表層土壌
4……バーク堆肥
5……腐植促進土(ピートモス,泥炭,燻製炭及び人工腐植土)
6……コンベア
7……混合物
8……粘結剤
9……用水
10……発電機
11……コンプレッサ
12……基盤材の吹付機
13……水汲み上げポンプ
14……水槽
15……配電盤
16……噴射ノズル
17……単粒土壌
18……団粒土壌
19……土壌粒子
A……森林機能回復基盤層
G……森林土壌面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
森林に成育している木本類、草本類から採取した種子(3)及び種子が混在している森林周辺の表層土壌(3′)とバーク堆肥(4)と腐蝕促進土(5)を混合撹拌してなる客土(2)と粘結材(8)と用水(9)からなる混合物(7)と混合してなる植生基盤材(1)を吹付機(12)で対象となる森林の土壌面(G)に吹き付けて森林機能回復基盤層(A)を形成することを特徴とする森林機能回復工法。
【請求項2】
使用する有機質基材はバーク系にピートモス、泥炭、燻製炭及び人工腐植土等の腐植促進土(5)を10〜50%混合したものを用いることと、有機質基材100の配合で設定してハイドロシーダー又はモルタル・コンクリート吹付機等の吹付機中で混合して森林機能回復基盤材(1)を作成し、当該基板材吹付機(12)によって対象森林への吹き付けを行うようにする請求項1記載の森林機能回復工法。
【請求項3】
有機質基材のバーク堆肥(4)は、C/N比で35以下、有機物含有料70%以上の資材を用いることとし、pH(H2O)で5.5〜7.5、電気伝導度が0.9ms/cm以下の値のものを利活用する請求項1記載の森林機能回復工法。
【請求項4】
森林内土壌の団粒化を促進するために用いるピートモス、泥炭、燻製炭及び人工腐植土等の腐植促進土(5)については、有機物含有量70%以上、pH(H2O)で3.5〜6.0の値のものを利活用する請求項1記載の森林機能回復工法。
【請求項5】
客土(2)に混合する肥料については、対象地の森林土壌の化学性の分析値を用いて陽イオン交換容量に占めるCa、Mg、K等の塩基量の過不足量に見合った施肥設計を利活用する請求項1記載の森林機能回復工法。
【請求項6】
客土(2)に混合する種子(3)は、機能を回復する必要がある森林周辺に存在する森林地帯から採取したものとし、客土(2)を麻等の分解性の袋に詰めて対象となる森林土壌面(G)に設置する方法を併用する請求項1記載の森林機能回復工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−52(P2010−52A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162859(P2008−162859)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000170646)国土防災技術株式会社 (23)
【Fターム(参考)】