説明

椅子の座等における表皮材張設構造

【課題】座における基板表面への表皮材の張設時の作業性を向上させることができるようにした椅子の座等における表皮材張設構造を提供する。
【解決手段】椅子の座8等における基板10の表面を、表皮材18により覆い、この表皮材の周縁に止着した縁材22を、基片23の先端部に弾性係止爪24を設けたものとし、基板10の周縁部に、縁材22を挿入しうる挿入孔15を設け、この挿入孔15に、縁材22を裏面側より挿入し、かつ弾性係止爪24を、挿入孔15の表面側の開口縁部に形成した係止段部17に係止させるとともに、基板10の表面に、複数のリブ16を、挿入孔を跨ぐようにして設け、かつ縁材22におけるリブ16に対応する部位に、縁材22を挿入孔15に挿入したとき、リブ16に嵌合するようにした切欠き25を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子の座、背凭れ、またはヘッドレスト等(それらを総称して、座等という)における表皮材の張設構造に関する。
【0002】
従来、例えば椅子の座における基板の表面に、表皮材を張設する構造として、表皮材の周縁に、合成樹脂製の基片と、この基片の先端部に連設した弾性係止片とからなる縁材を止着し、この縁材の弾性係止片を、基片に重なり合うように倒立U字状に折り曲げた状態で、縁材を、基板の裏面周縁部に設けた挿入溝へ挿入し、弾性係止片の弾性復元力を利用して、弾性係止片の遊端を、挿入溝の開口縁部に突設した係止突起に係止させることにより、基板の表面に表皮材を張設するようにしたものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−244103号公報
【0003】
しかし、特許文献1記載の表皮材張設構造では、弾性係止片を、基片に対して倒立U字状に折り曲げなければならず、その作業が煩雑であるとともに、その際、大きな力を必要とし、作業性が悪い。
【0004】
また、基板の周縁部を倒立U字状に屈曲させることにより、挿入溝を形成しているので、基板全体が厚くなり、座等全体を薄型化することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑み、基板表面への表皮材の張設時の作業性を向上させることができるとともに、基板の周縁部の強度を低下させることなく、基板全体を薄型化できるようにした椅子の座等における表皮材張設構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
(1) 椅子の座等における基板の表面を覆う表皮材の周縁に止着した縁材を、基板の裏面側に係止させることにより、表皮材を基板の表面に張設した椅子の座等における表皮材張設構造において、前記縁材を、基片の先端部に弾性係止爪を設けたものとし、前記基板に、その周縁部に沿って設けた長孔状の挿入孔に、前記縁材を裏面側より挿入し、かつ前記弾性係止爪を、前記挿入孔の表面側の開口縁部に係止させるとともに、前記挿入孔の長手方向の中間部に、挿入孔の対向面を架橋するリブを設け、このリブに対応する前記縁材の上縁に、前記リブが嵌合しうる切欠きを設け、前記縁材を挿入孔に挿入したとき、前記切欠きがリブに嵌合するようにする。
【0007】
(2) 上記(1)項において、縁材における基片と弾性係止爪とが、鋭角をなすようにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
請求項1記載の発明によると、長孔状の挿入孔は、中間部がリブにより架橋されているので、この挿入孔を、基板の周縁部に沿って長く形成しても、基板の周縁部の強度が低下することはなく、しかも、基板の周縁部を倒立U字状に屈曲させることにより、挿入溝を形成する従来のものより、基板全体を薄型化することができる。
また、切欠きがリブに嵌合するようにして、縁材を挿入孔へ挿入することにより、縁材は、切欠きとリブとの係合により案内されて、位置決めされるので、基板への表皮材の装着時の作業性を向上させることができる。
【0009】
請求項2記載の発明によると、縁材における基片と弾性係止爪とが、鋭角をなすようにしてあるので、弾性係止爪を折り曲げることなく、挿入孔への縁材の挿入が簡単に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態を備える椅子の前方から見た全体斜視図である。この実施形態では、椅子の座における表皮材の張設構造に本発明を適用している。
【0011】
図1に示すように、リクライニング椅子(1)は、先端部にキャスタ(2)が設けられた放射状の複数本の脚杆(3)を有する脚体(4)を備えている。脚体(4)の中央には、伸縮式の脚柱(5)が立設され、脚柱(5)の上端には、背凭れ(6)が、後傾し得るようにして設けられている。
【0012】
また、脚柱(5)の上端には、肘掛け(7)と座(8)とが設けられており、この座(8)は、背凭れ(6)の後傾と連動して、後下方に移動するようになっている。
【0013】
次に、図2〜図5を参照して、座(8)の構造について説明する。
図2及び図3に示すように、座(8)は、表面(上面)にクッション材(9)が必要に応じて設けられるほぼ水平の基板(10)を有しており、この基板(10)は、硬質合成樹脂材料により、平面視ほぼ方形をなすように形成され、その表面には、前後及び左右方向に複数本の補強用リブ(11)(11)が設けられている。
【0014】
基板(10)の前縁部(10a)には、その前縁とほぼ平行をなすように、中央部が外側(前方)に膨らむ底面視円弧状の長孔状とした嵌合孔(12)が、上下に貫通するように設けられている。
【0015】
図4及び図6に示すように、この嵌合孔(12)には、下端縁が内上方に傾斜する複数のリブ(13a)と、下端縁がリブ(13a)の下端縁のほぼ中間の高さにおいてほぼ水平をなす複数のリブ(13b)とが、嵌合孔(12)の長手方向に適宜の間隔(好ましくは等間隔)をもって、交互に、また、嵌合孔(12)の前後における対向面(12a)(12a)のほぼ上半部同士を架橋するようにして設けられている。
【0016】
嵌合孔(12)における前後の対向面(12a)(12a)の下端、すなわち嵌合孔(12)の下端開口部の対向縁には、互いに内向きに突出する前後1対の係止突条(14)(14)が設けられている。
両係止突条(14)(14)の対向縁には、リブ(13a)(13b)を成形するための型抜き用の切欠き(14a)が設けられている。
【0017】
図2、図3、及び図5〜図8に示すように、基板(10)の両側縁部(10b)(10b)及び後縁部(10c)には、基板(10)の両側縁及び後縁に沿う長孔状の挿入孔(15)が、それぞれ上下に貫通するようにして設けられている。
【0018】
各挿入孔(15)には、複数のリブ(16)が、各挿入孔(15)の長手方向に適宜の間隔(好ましくは等間隔)をもって、各挿入孔(15)の対向面(15a)(15a)を架橋するようにして設けられている。
また、挿入孔(15)における上端の内側の開口縁部には、係止段部(17)が形成されている。
【0019】
基板(10)とクッション材(9)との表面を覆う表皮材(18)は、例えば革、合成皮革、布(織物、編物)等からなるものが好適に使用される。
【0020】
表皮材(18)の前縁(18a)には、第1の縁材(19)が止着されている。この縁材(19)は、図3及び図4に示すように、基板(10)の前周縁部(10a)に設けた嵌合孔(12)とほぼ同幅とした、弾性を有する合成樹脂製の細長い平板状に形成され、その幅の中央部において、表皮材(18)の前縁(18a)に縫着されている。
【0021】
縁材(19)の両側縁部には、厚さを中間部の板厚より大とした玉縁(20)(20)が形成されており、縁材(19)の中間部が撓み易いようにしてある。
また、表皮材(18)の外側に突出する縁材(19)の遊縁には、基板(10)の嵌合孔(12)における複数のリブ(13b)に嵌合しうる複数の方形の切欠き(21)が、リブ(13b)の間隔と等間隔をもって設けられている。
【0022】
この複数の切欠き(21)を設けたことにより、縁材(19)は、図3に想像線で示す直線状の状態から、同じく実線で示すように、中央部が外側、すなわち前方に膨らむ円弧状をなすように、水平方向に容易に湾曲させることができる。また、後述するように、基板(10)への表皮材(18)の張設時に、各切欠き(21)を、対応するリブ(13b)の下縁に嵌合させることにより、表皮材(18)の張設作業を容易に行うことができる。
【0023】
図3及び図5〜図8に示すように、表皮材(18)の左右両側縁(18b)(18b)及び後縁(18c)には、第2の縁材(22)がそれぞれ止着されている。この縁材(22)は、弾性を有する合成樹脂製の細長い帯板状とした基片(23)と、この基片(23)の先端部(図3及び図5〜図8に示すように、基片(23)を上下方向に向けたときの上端部)に、基片(23)に対して鋭角をなす倒立V字状に連設されたやじり状の弾性係止爪(24)とを有し、基片(23)の基端部(同上下端部)において、表皮材(18)の左右両側縁(18b)(18b)及び後縁(18c)に縫着されている。
【0024】
縁材(22)の先端部には、基板(10)の挿入孔(15)における複数のリブ(16)に嵌合しうる複数の方形の切欠き(25)が、リブ(16)の間隔と等間隔をもって設けられている。
【0025】
この複数の切欠き(25)を設けたことにより、基板(10)への表皮材(18)の張設作業が容易になる。すなわち、縁材(22)を挿入孔(15)に挿入する際に、この切欠き(25)をリブ(16)に嵌合することにより、縁材(22)の挿入孔(15)への挿入及び位置決めが容易になる。
【0026】
次に、図6〜図8を参照して、基板(10)への表皮材(18)の張設要領について説明する。
前縁(18a)に、第1の縁材(19)を、また表皮材(18)の左右両側縁(18b)(18b)及び後縁(18c)に、第2の縁材(22)をそれぞれ縫着した表皮材(18)を、上面にクッション材(9)を取り付けた基板(10)の上方より被せた後、後縁(18c)に取り付けた縁材(22)を、図8に想像線で示すように、基板(10)の下方において、先端を上方に向けて、基板(10)における後縁部(10c)の挿入孔(15)に、下方より挿入する。
【0027】
このとき、縁材(22)の切欠き(25)を、基板(10)の挿入孔(15)における複数のリブ(16)に嵌合させつつ、縁材(22)を挿入孔(15)に挿入することにより、縁材(22)は、挿入孔(15)へ案内されるとともに、容易に位置決めされる。
【0028】
縁材(22)の挿入孔(15)への挿入時に、弾性係止爪(24)は、基片(23)とほぼ平行となるように弾性変形させられて、挿入孔(15)を通過し、通過後、復元力により、下端部が基片(23)に対して拡開して、係止段部(17)に係合し、それによって、縁材(22)は、挿入孔(15)より抜け止めされ、図8に実線で示すように、表皮材(18)の後縁(18c)は、基板(10)の後縁部(10c)の下面に取り付けられる。
【0029】
次に、表皮材(18)の両側縁(18b)(18b)に取り付けた縁材(22)を、上記と同様の要領で、図7に示すように、基板(10)の両側縁部(10b)(10b)の挿入孔(15)に、順次、または同時に、下方より挿入し、表皮材(18)の両側縁(18b)(18b)を、基板(10)の両側縁部(10b)(10b)の下面に取り付ける。
【0030】
その後、図6に想像線で示すように、表皮材(18)の前縁(18a)に取り付けた縁材(19)を、基板(10)の下方において、先端を基板(10)の内側の斜め上方に向けて、基板(10)の前縁部(10a)における嵌合孔(12)に、下方より挿入する。
【0031】
このとき、縁材(19)における複数の切欠き(21)を、対応するリブ(13b)の下縁部に嵌合させると、縁材(19)を、嵌合孔(12)に深く挿入することができるとともに、縁材(19)は、嵌合孔(12)に対して、左右方向に簡単に位置決めされる。
【0032】
縁材(19)全体が、前後の係止突条(14)(14)より上方の嵌合孔(12)内に嵌合された後、縁材(19)を若干前方に移動させて、縁材(19)の前縁を、前方の係止突条(14)の上面に係止させる。
【0033】
その後、縁材(19)から手または保持具を離すと、縁材(19)は、表皮材(18)の張力により、前縁を支点として、後部が下向き回動し、図6に実線で示すように、後縁が後方の係止突条(14)の上面に当接し、縁材(19)は、ほぼ水平となって、その前後の縁が前後の係止突条(14)(14)に係止されて、嵌合孔(12)より抜け止めされ、表皮材(18)の張設作業が完了する。
【0034】
このようにして表皮材(18)が張設された状態で、例えば、着座者の動き等により、表皮材(18)が引きつられて緊張しても、図9に示すように、縁材(19)の前後方向の中間部が、下方に弾性変形することにより、その緊張力を吸収することができ、表皮材(18)に掛かる引張荷重を緩和して、表皮材(18)の耐久性を向上することができる。
【0035】
また、上述のようにして、縁材(19)を嵌合孔(12)に嵌合係止させると、縁材(19)を簡単に基板(10)に装着することができ、基板(10)表面への表皮材(18)の張設時の作業性を向上させることができる。
【0036】
さらに、上述のように、長孔状の嵌合孔(12)や挿入孔(15)の中間部を、リブ(13a)(13b)(16)により架橋することによって、それらを基板(10)の周縁部に沿って長く形成しても、基板(10)の周縁部の強度が低下することはなく、しかも、基板(10)の周縁部を倒立U字状に屈曲させることにより、挿入溝を形成する従来のものより、基板(10)全体を薄型化することができる。
【0037】
しかも、切欠き(21)(25)がリブ(13b)(16)に嵌合するようにして、縁材(19)(22)を嵌合孔(12)及び挿入孔(15)へ挿入することにより、縁材(19)(22)は、切欠き(21)(25)とリブ(13b)(16)との係合により案内されて、位置決めされるので、基板(10)への表皮材(18)の装着時の作業性を向上させることができる。
【0038】
なお、基板(10)への前後左右の縁材(19)(22)の装着順序は任意である。
例えば、最初に前方の縁材(19)を、基板(10)の前縁部(10a)の嵌合孔(12)に嵌合係止させた後、後方の縁材(22)を、基板(10)の後縁部(10c)の挿入孔(15)に挿入して、係止し、最後に左右の縁材(22)(22)を、基板(10)の両側縁部(10b)(10b)の挿入孔(15)(15)に挿入して、係止してもよい。
【0039】
また、本発明においては、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、幾多の異なる形態での実施が可能である。
さらに、上記の実施形態は、本発明を椅子の座に適用したものであるが、本発明は、その向きや形状を変更するだけで、椅子の背凭れやヘッドレスト等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態を備える椅子を、斜め前方から見た全体斜視図である。
【図2】座を構成する基板の平面図である。
【図3】基板と縁材とを斜め下方から見た分解斜視図である。
【図4】図3の要部の拡大分解斜視図である。
【図5】基板と縁材との一部を縦断して示す分解斜視図である。
【図6】図1のVI−VIに沿う拡大縦断側面図である。
【図7】図1のVII−VII線に沿う拡大縦断側面図である。
【図8】図1のVIII−VIII線に沿う拡大縦断側面図である。
【図9】表皮材に張力が掛かったときの図6の要部の拡大縦断側面図である。
【符号の説明】
【0041】
(1)リクライニング椅子
(2)キャスタ
(3)脚杆
(4)脚体
(5)脚柱
(6)背凭れ
(7)肘掛け
(8)座
(9)クッション材
(10)基板
(10a)前縁部
(10b)側縁部
(10c)後縁部
(11)補強用リブ
(12)嵌合孔
(12a)対向面
(13a)(13b)リブ
(14)係止突条
(14a)切欠き
(15)挿入孔
(15a)対向面
(16)リブ
(17)係止段部
(18)表皮材
(18a)前縁
(18b)側縁
(18c)後縁
(19)縁材
(20)玉縁
(21)切欠き
(22)縁材
(23)基片
(24)弾性係止爪
(25)切欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子の座等における基板の表面を覆う表皮材の周縁に止着した縁材を、基板の裏面側に係止させることにより、表皮材を基板の表面に張設した椅子の座等における表皮材張設構造において、
前記縁材を、基片の先端部に弾性係止爪を設けたものとし、前記基板に、その周縁部に沿って設けた長孔状の挿入孔に、前記縁材を裏面側より挿入し、かつ前記弾性係止爪を、前記挿入孔の表面側の開口縁部に係止させるとともに、前記挿入孔の長手方向の中間部に、挿入孔の対向面を架橋するリブを設け、このリブに対応する前記縁材の上縁に、前記リブが嵌合しうる切欠きを設け、前記縁材を挿入孔に挿入したとき、前記切欠きがリブに嵌合するようにしたことを特徴とする椅子の座等における表皮材張設構造。
【請求項2】
縁材における基片と弾性係止爪とが、鋭角をなすようにしたことを特徴とする請求項1記載の椅子の座等における表皮材張設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−312801(P2007−312801A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142270(P2006−142270)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)