説明

椅子の背凭れ等における張材の張設構造

【課題】 枠体が椅子の外観に占める割合が小さく、デザイン的にスマートであり、軽量化、部品数の削減、および組立性の向上を図ることができるようにした椅子の背凭れ構造を提供する。
【解決手段】 枠体17の表面に張材23を張設した椅子の背凭れ等における張材の張設構造において、張材23における相対する1対の縁部を、枠体17における互いに対向する1対の枠杆18a、18bの表面から、外側縁を回って裏面へ巻き付けるとともに、張材23の両縁部に止着した、先端部に鉤形部25dを有する縁材25を、両枠杆18a、18bにおける内側面と表面との角部に係止することにより、張材23を枠体17に張設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子の背凭れ、座またはヘッドレスト等(以下それらを代表して単に背凭れという)における張材の張設構造に関する。
【0002】
従来の椅子の背凭れにおける張材の張設構造として、予めテンションが与えられた張材の周囲に、縁材をモールド成形により取り付け、この縁材を背枠の前面側に形成された溝条に嵌合して取付けることにより、背枠の前面に張材を張設したものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、張材の周縁部に止着した挟入片を、背枠の外周部の背面に設けた周方向の保持溝内へ嵌入し、背枠の背面に取り付けた締付枠をもって、前記挟入片を保持溝内へ押し入れることにより、張材に張力を付与して背枠の上面に張材を張設したものが知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特表平8−507935号公報
【特許文献2】特開2004−49685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前者は、使用者が着座する時に張材に加わる力に対する背枠の撓みを防止するために、背枠の幅を大きくとる必要があり、また、張材の周囲の縁材が嵌合する溝条が、背枠の前面側に形成されていて、背枠の周囲が張材から露出するため、背枠が椅子の外観に占める割合が大きすぎて、デザイン的なスマートさに欠けるという問題がある。
【0005】
また、後者は、使用者が着座する時に、張材に加わる力に対する背枠の撓みを、背枠と締付枠との2重の枠材により防止するようになっているため、背凭れの外周に、張材により覆われた背枠と張材により覆われていない締付枠とが重なった状態で外部に露呈し、やはりデザイン的なスマートさに欠けるだけでなく、重量が大となるとともに、部品点数が多く、組立に時間が掛かり、コスト高になるという問題がある。
【0006】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑み、枠体が椅子の外観に占める割合が小さく、デザイン的にスマートであり、軽量化、部品数の削減、および組立性の向上を図ることができるようにした椅子の背凭れ構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
(1) 枠体の表面に張材を張設した椅子の背凭れ等における張材の張設構造において、張材における相対する1対の縁部を、枠体における互いに対向する1対の枠杆の表面から、外側縁を回って裏面へ巻き付けるとともに、張材の両縁部に止着した、先端部に鉤形部を有する縁材を、前記両枠杆における内側面と表面との角部に係止することにより、張材を枠体に張設する。
【0008】
(2) 上記(1)項において、1対の枠杆の表面に、内側縁に沿う凹溝を設け、この凹溝に、縁材の鉤形部における折り返し片を係合させる。
【0009】
(3) 上記(2)項において、1対の枠杆の表面における内側縁と凹溝との間の面を、縁材の鉤形部における先端部に折り返し片が連設された外向片の厚さ分だけ凹入させ、縁材の先端面が枠杆の表面とほぼ整合するようにする。
【0010】
(4) 上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、縁材の先端面に、表面側の張材が圧接するようにする。
【0011】
(5) 上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、枠体における他の互いに対向する1対の枠杆の外側面に、長手方向を向く凹溝を設け、これに張材における他の相対する1対の縁部とそれに固着した縁材とを嵌合する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
(1) 請求項1記載の発明によると、互いに対向する1対の枠杆のほぼ全周に張材を巻き付けて、張材の縁部に止着した、先端部に鉤形部を有する縁材を、枠杆における内側面と表面との角部に係止するので、枠体が外部に露呈することがなく、デザイン的にスマートな印象を与えることができるだけでなく、従来の2重の枠材を用いるものより軽量化、部品点数の削減、および組立性の向上を図ることができる。
【0013】
(2) 請求項2記載の発明によると、枠杆の表面に設けた凹溝に、縁材の鉤形部における折り返し片を係合させることにより、縁材が枠杆から外れにくくなり、張材を確実に張設することができる。
【0014】
(3) 請求項3記載の発明によると、縁材の先端面と枠杆の表面とがほぼ整合するので、美麗な外観を呈することができるとともに、着座者の背中等が張材を介して枠体に当接した際の突起感をなくし、快適な着座感を得ることができる。
【0015】
(4) 請求項4記載の発明によると、縁材の先端面に、表面側の張材が圧接することにより、縁材が枠体からさらに外れにくくなる。
【0016】
(5) 請求項5記載の発明によると、枠体における互いに対向する1対の枠杆間の張材の張設構造と、それらと異なる方向にある1対の枠杆間の張材の張設構造とを異ならせることにより、張材の張り強さを張材の方向によって異ならせたり、外面に現れる形状を枠体の方向によって異ならせたりすることができ、デザインを多様化することができる。また、張材の縦と横との張設構造をこのように互いに異ならせると、張材を三次元的に湾曲するように張るときに都合がいい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態を備える椅子の正面図、図2は同じく側面図である。この実施形態では、椅子の背凭れにおける張材の張設構造に本発明を適用している。
【0018】
図1および図2に示すように、リクライニング椅子(1)は、先端部にキャスタ(2)が設けられた放射状の5本の脚杆(3)を有する脚体(4)を備えている。脚体(4)の中央には、ガススプリング(5)を備える伸縮式の脚柱(6)が立設され、脚柱(6)の上端には、支基(7)の後部が固着されている。
【0019】
支基(7)は、前半部の上面が開口する平面菱形のほぼ中空箱状をなし、支基(7)の前部両側面には、左右両方に延出する腕部(8)(8)が一体的に形成されている。
【0020】
支基(7)の前後方向のほぼ中央には、左右方向を向く六角軸よりなる枢軸(9)が貫通され、支基(7)より両側方に突出する枢軸(9)の両端部には、背凭れ(10)を支持する左右1対の背凭れ支持杆(11)(11)における前方を向く下部の前端部に形成された左右方向を向く筒部(11a)(11a)が固嵌され、枢軸(9)と背凭れ支持杆(11)(11)と背凭れ(10)とは、枢軸(9)の軸線を中心として、互いに一体となって、支基(7)に対して回動し得るようになっている。
【0021】
支基(7)の内部には、枢軸(9)を反時計回り方向に付勢すゴムトーションユニットとその付勢力調整手段(図示略)とが、また支基(7)の前部下面の中央には、ゴムトーションユニットと連係されて、ゴムトーションユニットの付勢力を補助するガススプリングユニット(13)がそれぞれ設けられ、これらによって、背凭れ(10)を起立する方向に向けて付勢する付勢手段が形成されている。
【0022】
左右の背凭れ支持杆(11)(11)における枢軸(9)より若干後方の部分には、短寸の起立腕(12)(12)が上向きに突設されており、各起立腕(12) (12)の上端部には、座(14)の両側部を支持する前後方向を向く左右1対の座受けフレーム(15)(15)の後端部が、左右方向を向く軸(16)をもって、それぞれ連結されている。
【0023】
次に、図3〜図6を参照して、背凭れの構造について説明する。
【0024】
図3に示すように、背凭れ(10)における枠体(17)は、正面形がほぼ方形(下部が若干幅狭となっている)の合成樹脂製の前面枠(18)を備えている。前面枠(18)は、左右方向を向く上下の上枠杆(18a)および下枠杆(18b)と、この上下枠杆(18a)(18b)の各端部同士を連結するとともに、上下枠杆(18a)(18b)より幅広とした、ほぼ上下方向を向く左側枠杆(18c)および右側枠杆(18d)とからなっている。これらの上下枠杆(18a)(18b)および左右側枠杆(18c)(18d)には、後述する張材の周縁が止着されている。
【0025】
図4に示すように、左右側枠杆(18c)(18d)の外側面には、上下方向を向く1対の縦溝条(19)(20)が設けられている。
【0026】
図5に示すように、上枠杆(18a)の前面には、上枠杆(18a)の下縁に沿うほぼ左右方向を向く凹溝(21)が、また下枠杆(18b)の前面には、下枠杆(18b)上縁に沿うほぼ左右方向を向く凹溝(22)がそれぞれ設けられている。
上枠杆(18a)の前面における下縁と凹溝(21)との間の面(21a)、および下枠杆(18b)の前面における上縁と凹溝(22)との間の面(22a)は、後述する縁材(25)における外向片(25b)の厚さ分だけ凹入され、各縁材(25)を上枠杆(18a)の下面と前面との角部、および下枠杆(18b)の上面と前面との角部に正規に係合させたとき、各縁材(25)の先端面が上枠杆(18a)および下枠杆(18b)の前面とほぼ整合するようにしてある。
【0027】
張材(23)は、例えば高張力プラスチックその他の弾性を有する繊維をネット状に編むかまたは織ったネット状もしくはメッシュ状のものが好ましいが、単なる織布、合成樹脂製シート、多孔質性シー材等により形成してもよい。張材(23)の左右の側縁には、1対の凹溝(19)(20)に嵌入される合成樹脂製の縁材(24)(24)が、また上下縁には、先端部に鉤形部(25d)(25d)を有し、上記凹溝(21)(22)に係合される合成樹脂製の縁材(25)(25)が、それぞれモールド成形により固着されている。
【0028】
縁材(25)は、基片(25a)と、その先端から外側方を向く外向片(25b)と、外向片(25b)の先端から基片(25a)とほぼ平行に折り返された折り返し片(25c)とからなり、この外向片(25b)と折り返し片(25c)とにより、鉤形部(25d)が形成されている。
【0029】
縁材(24)(24)(25)(25)が取付けられる張材(23)の寸法は、縁材(24)(24)(25)(25)が凹溝(19)(20)および凹溝(21)(22)に挿入または係合されたとき、張材(23)に適切な張力が付与されるように予め定められている。
【0030】
従って、図4〜図6に示すように、張材(23)の左右の縁材(24)(24)を左右側枠杆(18c)(18d)の両凹溝(19)(20)に嵌入するとともに、張材(23)の上下の端部近傍を、上下枠杆(18a)(18b)の前面から上下面を経て後面へ巻き付けるようにして、上下の縁材(25)(25)を、上下の凹溝(21)(22)に係合させることにより、張材(23)を、前面枠(18)の前面全体に亘って緊張状態で張設することができる。
【0031】
このように、前面枠(18)の前面、すなわち枠体(17)の前面全てが張材(23)で覆われるため、椅子の外観に占める枠体(17)の割合が小さく、デザイン的にスマートな印象を与えることができる。
【0032】
図3および図5に示すように、前面枠(18)における上枠杆(18a)の後面両側部には、平面視円弧状の上補強枠杆(26)の左右の端部が、その中央部が上枠杆(18a)より後下方に離間するようにして一体的に結合され、上補強枠杆(26)と上枠杆(18a)とは、中央部が後方に凹入する平面視三ケ月状をなしている。
【0033】
上補強枠杆(26)は、上枠杆(18a)と協働して、枠体(17)の上部の強度を保つとともに、着座者が背凭(10)に凭れた際に、上枠杆(18a)が若干弾性撓曲するのを許容する作用をする。
【0034】
なお、上補強枠杆(26)には、その前方の上枠杆(18a)と離間していることを利用して、張材(23)の取付を妨げることなく、例えばヘッドレストや、衣服を掛けるためのハンガーバー(いずれも図示略)等を着脱自在に取付けることができる。
また、上補強枠杆(26)は、椅子を移動する際の手掛けとしても使用することができる。
【0035】
図3、図5および図6に示すように、前面枠(18)における左右側枠杆(18c)(18d)の下端部には、左右方向を向く下補強枠杆(27)の両端部が一体的に結合されている。下枠杆(18b)は、その中央部が下補強枠杆(27)より前方に離間するようにして、両端部が下補強枠杆(27)の両端部前面に当接され、かつねじ(28)をもって、前方よりねじ止めされている。
【0036】
張材(23)の下端部は、下枠杆(18b)を下補強枠杆(27)の前面にねじ止めした後に、下枠杆(18b)に下方より巻き付けられ、下方の縁材(25)の折り返し片(25c)を下枠杆(18b)の凹溝(22)に係止することにより、下枠杆(18b)に取り付けられる。
椅子の廃棄時には、ドライバー等の工具(図示略)を、張材(23)に突き刺して、ねじ(28)の頭部に係合し、ねじ(28)を回して外すことにより、下枠杆(18b)を下補強枠杆(27)から外すことができる。その後、張材(23)の上縁、次いで、左右の側縁を、縁材(25)(24)(24)とともに上枠杆(18a)および左右側枠杆(18c)(18d)から順次外すことにより、張材(23)を枠体(17)から分別して廃棄したり、新しいものと交換したりすることができる。
【0037】
上記の実施形態では、椅子の背凭れ(10)における張材(23)の張設構造に本発明を適用しているが、椅子の座(14)やヘッドレスト(図示略)における張材(23)の張設構造にも、本発明を適用することができる。
【0038】
なお、本発明においては、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、幾多の異なる形態での実施が可能である。
例えば、縁材(25)をL字状として、それを上枠杆(18a)における下面と前面との角部、および下枠杆(18b)における上面と前面との角部に係止するだけとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態を備える椅子の正面図である。
【図2】同じく、側面図である。
【図3】同じく、後方から視た全体斜視図である。
【図4】同じく、図1のIV−IV線断面図である。
【図5】同じく、背凭れの左上下部を拡大して右前方より見た縦断斜視図である。
【図6】同じく、背凭れの右下部を拡大して左前方より見た縦断斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
(1)リクライニング椅子
(2)キャスタ
(3)脚杆
(4)脚体
(5)ガススプリング
(6)脚柱
(7)支基
(8)腕部
(9)枢軸
(10)背凭れ
(11)支持杆
(11a)筒部
(12)起立腕
(13)ガススプリングユニット
(14)座
(15)座受けフレーム
(16)軸
(17)枠体
(18)前面枠
(18a)上枠杆
(18b)下枠杆
(18c)左側枠杆
(18d)右側枠杆
(19)(20)(21)(22)凹溝
(23)張材
(24)(25)縁材
(25a)基片
(25b)外向片
(25c)折り返し片
(25d)鉤形部
(26)補強枠杆
(27)下補強枠杆
(28)ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体の表面に張材を張設した椅子の背凭れ等における張材の張設構造において、張材における相対する1対の縁部を、枠体における互いに対向する1対の枠杆の表面から、外側縁を回って裏面へ巻き付けるとともに、張材の両縁部に止着した、先端部に鉤形部を有する縁材を、前記両枠杆における内側面と表面との角部に係止することにより、張材を枠体に張設したことを特徴とする椅子の背凭れ等における張材の張設構造。
【請求項2】
1対の枠杆の表面に、内側縁に沿う凹溝を設け、この凹溝に、縁材の鉤形部における折り返し片を係合させたことを特徴とする請求項1記載の椅子の背凭れ等における張材の張設構造。
【請求項3】
1対の枠杆の表面における内側縁と凹溝との間の面を、縁材の鉤形部における先端部に折り返し片が連設された外向片の厚さ分だけ凹入させ、縁材の先端面が枠杆の表面とほぼ整合するようにしたことを特徴とする請求項2記載の椅子の背凭れ等における張材の張設構造。
【請求項4】
縁材の先端面に、表面側の張材が圧接するようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の椅子の背凭れ等における張材の張設構造。
【請求項5】
枠体における他の互いに対向する1対の枠杆の外側面に、長手方向を向く凹溝を設け、これに張材における他の相対する1対の縁部とそれに固着した縁材とを嵌合したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の椅子の背凭れ等における張材の張設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−110001(P2006−110001A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299234(P2004−299234)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)