説明

椅子用張材の張設構造

【課題】嵌合部材を、ねじ止めすることなく、容易に枠体に着脱することができ、張材の張設作業および分別廃棄作業を容易に行うことができ、しかも、椅子の使用時には、嵌合部材が枠体から外れることがないようにした椅子用張材の張設構造を提供する。
【解決手段】枠体13における切込み16と、それに対向する嵌合部材17との対向面のいずれか一方に、枠体13の表裏方向に延出する係合凸部20を設け、同じくいずれか他方に、係合凸部20が嵌合する係合凹部13hを設け、張材14の張力による嵌合部材17の回転偶力により、係合凸部20と係合凹部13hとの離脱を阻止するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子用張材の張設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィスの執務スペースや会議室等で使用される事務用椅子においては、弾性を有する表皮材、すなわち張材が張設された背凭れによって、着座者の背中を支持するようにしたものが、多くみられるようになっている。この種の椅子の背凭れは、アルミニウムなどの成形しやすい金属や、合成樹脂によって閉ループ状に成形された背枠(枠体)の前面を張材によって覆い、張材の周縁部を背枠の後面または側面に止着することにより、張材を背枠に張設するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、パイプ材によって形成された脚フレームに、背凭れが連結されたいわゆるカンチレバータイプの椅子も根強い需要を有している。この種の椅子には、脚フレームにおける背凭れとの連結部分に肘掛が設けられているものがある(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0004】
このような肘掛を有する椅子においては、側面視コの字状に形成されたパイプ製の脚フレームの上部における肘掛部の後端に、背枠の中間部が連結されている。なお、座は、脚フレームの前脚の中間に設けられた座支持部によって支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4061160号公報
【特許文献2】実公平07−037552号公報
【特許文献3】特許第4108322号公報
【特許文献4】特開2007−289705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の肘掛を有するカンチレバータイプの椅子は、背凭れにおける背枠の表面側に突部が設けられ、この突部が脚フレームに連結されているため、張材に突部を貫通させる孔を設けることにより、張材の周縁部を背枠の後面又は側面の凹溝に係合させるものがある。この場合には、表皮材の孔が露呈するため、体裁が悪くなる。
【0007】
また、突部を背枠の外側方に突出させ、背枠の凹溝を突部より前方(表面側)に設けるものがある。しかし、この場合には、凹溝を開口させるための金型の抜き方向と、突部を形成するための金型の抜き方向とが交差するため、同じ金型によって一度に成形できなくなる。この場合、成形工程が一工程増えるため、作業が面倒でコストアップになるという問題が発生する。このような問題は、背凭れを脚フレームに連結する場合に限らず、背凭れを座に連結する場合にも同様に発生する。
【0008】
上記のような問題を解決するため、本出願人は、閉ループ状の枠体の表面に張材を張設するとともに、前記枠体の外周面における裏面寄りの部分に、椅子の他の部材と連結するための突部を設け、椅子の座または背凭れとして使用する椅子用張材の張設構造において、前記枠体における前記突部より表面側の部分に切込みを設け、この切込みに、嵌合部材を嵌合して取付け、前記枠体における前記突部より表面寄りの外周面と、前記嵌合部材の外周面とに、張材の周縁部を嵌合して止着する凹溝を設けた椅子用張材の張設構造を提供している(特願2010−027957号)。
【0009】
しかし、この椅子用張材の張設構造においては、嵌合部材を枠体の切込みに嵌合して、そこにねじ止めしているため、そのねじ止め作業が煩雑であり、また分別廃棄する際にも、そのねじを外さなければならず、その作業が煩雑である。
【0010】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたもので、嵌合部材を、ねじ止めすることなく、容易に枠体に着脱することができ、張材の張設作業および分別廃棄作業を容易に行うことができ、しかも、椅子の使用時には、嵌合部材が枠体から外れることがないようにした椅子用張材の張設構造を提供することを目的としている。
また、本発明は、張材を張設した枠体を椅子の他の部材に連結するようにした椅子において、枠体の成形時の型抜きが容易であり、枠体を容易に成形できるだけでなく、張材が緩むのを抑制でき、しかも体裁がよく、コストアップを抑制できるようにした椅子用張材の張設構造を提供することをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)枠体における一部の表面側の部分に切込みを設け、この切込みに、嵌合部材を嵌合して取付け、前記枠体における外周部と、前記嵌合部材の外周部とに、互いに連続する凹溝を設け、この凹溝に張材の周縁部を嵌合して止着することにより、前記枠体の表面に張材を張設してなる椅子用張材の張設構造において、前記枠体における切込みと、それに対向する嵌合部材との対向面のいずれか一方に、枠体の表裏方向に延出する係合凸部を設け、同じくいずれか他方に、前記係合凸部が嵌合する係合凹部を設け、前記張材の張力による前記嵌合部材の回転偶力により、前記係合凸部と係合凹部との離脱を阻止するようにする。
【0012】
このような構成とすると、枠体の切込みに嵌合された嵌合部材の表面寄りの部分が、張材の張力によって枠体の内方に引張され、このときの嵌合部材の回転偶力により、係合凸部と係合凹部との間における摩擦力が増大し、いわゆるスティック現象を起こして、嵌合部材が枠体から離脱するのが阻止される。
【0013】
また、枠体における外周部と嵌合部材の外周部とに、互いに連続するようにして設けられた凹溝に、張材の周縁部が連続して嵌合されており、張材の張力により嵌合部材に回転偶力が作用すると、枠体側の凹溝の縁と嵌合部材側の凹溝の縁との間において張材を挟みつけようとする力が発生し、その力によって、張材の周縁部が両凹溝から離脱しにくくなるとともに、嵌合部材が枠体から離脱するのを阻止する力が助長される。
【0014】
したがって、嵌合部材を、ねじ等の止着手段を用いることなく、枠体の切込みに嵌合させるだけで、簡単にかつ確実に係合させることができ、張材の張設作業を容易にすることができる。
椅子を廃棄するため、枠体と張材とを分別するときは、ねじ等の止着手段を緩めることなく、例えば張材を引き剥がすだけで、嵌合部材を枠体から簡単に分離させることができ、分別作業を容易にすることができる。
【0015】
(2)上記(1)項において、複数の係合凸部を、枠体または嵌合部材の長手方向に並設し、そのいずれかの係合凸部同士を、枠体または嵌合部材の長手方向を向く連結部によって連結する。
【0016】
このような構成とすると、係合凸部の強度を大とし、ひいては嵌合部材を小型化することができる。
【0017】
(3)上記(1)または(2)項において、係合凸部を角柱状とし、かつ係合凹部を角孔とする。
【0018】
このような構成とすると、係合凸部および係合凹部を容易に成形することができる。
【0019】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、前記枠体の切込みの少なくとも一部の表面側の形状を、長手方向の幅が枠体の内方寄りの部分より外方寄りの部分が小となるあり溝状とし、かつ前記切込みのあり溝状の部分に嵌合する嵌合部材の形状を、前記あり溝に補形をなす形状とする。
【0020】
このような構成とすると、嵌合部材が、枠体の外側方に脱落するのを確実に阻止することができる。
【0021】
(5)上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、前記枠体の切込みにおける外側方への開口部の一方の縁に、外側方に向かって弧状に拡開する拡張部を設け、前記嵌合部材における対応部分に、前記拡張部に補形をなす突出部を設ける。
【0022】
このような構成とすると、嵌合部材を枠体の切込みに嵌合する際に、嵌合部材の角部が切込みの内面に当接して、欠損するのを未然に防止することができる。
また、背凭れに凭れかかったときに、枠体の外側面における切込み寄りの部位に応力が集中するのを防止することができる。
【0023】
(6)上記(1)〜(5)項のいずれかにおいて、前記枠体の外周面における裏面寄りの部分に、椅子の他の部材と連結するための突部を設け、前記枠体における前記突部より表面側の部分に切込みを設け、この切込みに、嵌合部材を嵌合して取付ける。
【0024】
このような構成とすると、枠体における突部より表面側の部分には切込みが設けられているので、この部分の外周面には凹溝を設ける必要がなく、したがって、枠体の外周面に凹溝を形成するための金型の抜き方向と、突部を形成するための金型の抜き方向とが交差することがない。そのため、枠体の成形時の型抜きが容易であり、枠体を、簡単な構造の金型によって、一行程で容易に成形でき、コストダウンを図ることができる。
また、枠体の切込みに、嵌合部材を嵌合して取付け、この嵌合部材の外周面と枠体の外周面とに設けた凹溝に、張材の周縁部を嵌合して止着することにより、枠体における突部の表面側に、張材を、弛むことなく、確実に、しかも体裁よく張設することができる。
さらに、張材には、枠体の突部を貫通させる孔等を設ける必要がないので、張材の強度を保つことができるとともに、体裁をよくすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、嵌合部材を、ねじ止めすることなく、容易に枠体に着脱することができ、張材の張設作業および分別廃棄作業を容易に行うことができ、しかも、椅子の使用時には、嵌合部材が枠体から外れることがないようにした椅子用張材の張設構造を提供することができる。
また、本発明によると、張材を張設した枠体を椅子の他の部材に連結するようにした椅子において、枠体の成形時の型抜きが容易であり、枠体を容易に成形できるだけでなく、張材が緩むのを抑制でき、しかも体裁がよく、コストアップを抑制できるようにした椅子用張材の張設構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態を備える椅子の正面図である。
【図2】椅子の側面図である。
【図3】椅子を正面の左上方から見た分解斜視図である。
【図4】枠体の切込み部分を前方の右側方から見た拡大斜視図である。
【図5】切込みに嵌合部材を嵌合したときの枠体の一部の拡大正面図である。
【図6】嵌合部材を後方の左下方から見た斜視図である。
【図7】図5のVII−VII線横断平面図である。
【図8】図5のVIII−VIII線横断平面図である。
【図9】図1のIX−IX線において縦断したときの座の後部の拡大縦断平面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態における切込みに嵌合部材を嵌合したときの枠体の一部の拡大正面図である。
【図11】同じく、嵌合部材を外したときの枠体における切込み部分を前方の右側方から見た拡大斜視図である。
【図12】第2の実施形態における嵌合部材を後方の左下方から見た斜視図である。
【図13】図10のXIII−XIII線拡大横断平面図である。
【図14】図10のXIV−XIV線拡大横断平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
図1〜図9は、本発明を椅子の背凭れに適用した第1の実施形態を示す。図1は、本発明の第1の実施形態を備える椅子の正面図、図2は、同じく側面図である。
【0028】
この椅子1は、背凭れ10と、座11と、背凭れ10および座11を支持する脚フレーム12とを有している。背凭れ10は、図3に示すように、閉ループ状の枠体13と、この枠体13の表面(前面)13aに張設された張材14とを有している。
【0029】
張材14は、メッシュ材料によって伸縮可能に形成されている。この張材14の周縁部14aは袋状に形成され、その中に、弾性を有する合成樹脂製の細長い平板状縁材14b(図7参照)が挿入されている。またはその縁材14bを周縁部14aに直接縫着または固着してもよい。
【0030】
枠体13の両側部の外側面13bにおける裏面(後面)13c寄りの部分には、枠体13を脚フレーム12と連結するための左右1対の外向耳片(突部)15、15が設けられている。
【0031】
図4に示すように、各外向耳片15の上下部には、正面視において、枠体13に向かって上下方向に漸次円弧状をなして拡開する補強リブ15a、15aが設けられている。また、各外向耳片15は前面が開口する中空枠状をなし、その内部には、複数の補強リブ15bが、互いに交差するようにして設けられている。
【0032】
各外向耳片15の先端には、前方を向くボス15cが設けられ、ボス15cの外周面には、複数のスプライン15dが設けられている。また、ボス15cの内部には、枠体13の前方を向く有底孔15eが設けられ、有底孔15eの底部には、図5に示すように、前後方向を向く貫通孔15fが設けられている。外向耳片15におけるこれらの構造は、図3に示すように、脚フレーム12における後述する肘掛け部40と結合するためのものである。
【0033】
枠体13における外向耳片15より前方の部分、すなわち表面13a寄りの部分には、図3および図4に示すように、外向耳片15の基部とほぼ等高をなす上下方向の切込み16、16が設けられている。枠体13の切込み16が設けられた部分は、上部が上下方向に直線状をなし、下部は僅かに枠体13の内方に向かって湾曲する弧状をなしている。
【0034】
図4に示すように、切込み16における枠体13の内側面13d寄りの部分、および外側面13b寄りの部分には、枠体13の表面13aに向かって突出する上下方向を向く1対の突条13e、13fが、切込み16の上下縁に連続するようにして設けられている。
【0035】
枠体13における内側面13d側の突条13eは、枠体の内側面13d、および表面13aと連続している。外側面13b側の突条13fは、枠体13の外側面13b、および表面13aより切込み16の内方に位置している。
【0036】
切込み16における1対の突条13e、13f間の後部には、左右方向を向く複数の補強リブ13gが上下方向に互いに離間するようにして設けられている。
この切込み16における1対の突条13e、13f間の前端から補強リブ13gの前縁までの部分によって、枠体13の長手方向を向く係合凹部13hが形成されている。
枠体13の切込み16部分における突条13fの外側の部分で、かつ外向耳片15より前方の部分には、切欠き13iが設けられている。
【0037】
切込み16の上下縁は、それらの上下方向の間隔が枠体13の内方寄りの部分から外方寄りの部分に向かって漸次小となる傾斜面16a、16aと、両傾斜面16a、16aの外側端部より外側方に向かって互いに平行をなして延出する平行面16b、16bとからなっている。
【0038】
左右の切込み16には、図3、図5、および図6に示すように、嵌合部材17がそれぞれ嵌合されている。各嵌合部材17は、正面視において、切込み16とほぼ補形をなす形状をしている。すなわち、嵌合部材17は、前方から見て上部がほぼ直線状をなし、下部が枠体13の内方に向かって僅かに湾曲する弧状をなすとともに、切込み16における上下の傾斜面16a、16a間のあり溝状部分と補形をなすあり状の部分と、その外側に連設され、かつ切込み16の上下の平行面16b、16b間に嵌合される矩形部分とからなり、嵌合部材17の上下縁は、切込み16における上下の傾斜面16a、16aと対向する傾斜面17a、17aと、切込み16における上下の平行面16b、16bと対向する平行面17b、17bとを備えている。
【0039】
また、切込み16における平行面16b、16b間は、枠体13の表裏両方向と外側方とに開口しているが、あり溝状部分は、枠体13の表面のみに開口しており、切込み16における平行面16b、16b間に嵌合された嵌合部材17の矩形部分は、枠体13の表裏両方向と外側方とに露呈しているが、切込み16におけるあり溝状部分に嵌合されたあり状の部分は、枠体13の表面のみに露呈している。
【0040】
嵌合部材17の表面(前面)17cにおける内側面17d寄りの部分には、複数の肉抜き孔17e(図5および図8参照)が上下方向に互いに離間するようにして設けられている。嵌合部材17の表面17c、および外側面17fは、それぞれ枠体13の表面13a、および外側面13bとほぼ連続する面をなしている。嵌合部材17の内側面17dは、切込み16における内側面13側の突条13eの外側面と当接するかまたは近設するようにしてある。
【0041】
図6に示すように、嵌合部材17の外周部である矩形部分における外側面17f寄りの後面には、後方に向かって突出し、かつ互いに平行をなして上下方向を向く左右1対の突条18a、18bが設けられている。両突条18a、18bは、嵌合部材17の上端縁から下端縁まで連続している。
【0042】
内側の突条18bにおける上下方向の中央部には、枠体13の切込み16部分における切欠き13iに嵌合するようにした後方を向く突片18cが設けられている。
【0043】
嵌合部材17の後面における内側面17d寄りの部分の中央部とその上下部とには、枠体13の切込み16部分における係合凹部13hに嵌合するようにした、左右方向を向く板状の複数の係合凸部20、21が、互いに上下方向に離間するようにして設けられている。
【0044】
図6および図8に示すように、複数の係合凸部20、21の前後方向の幅は、嵌合部材17の内側面17dから外側面17fに向かって漸次小となるようにしてある。
また、複数の係合凸部20の中間部同士、および複数の係合凸部21の中間部同士は、嵌合部材17の長手方向を向く連結部22、23によってそれぞれ連結されている。
【0045】
嵌合部材17の後面における係合凸部20、21と、内側の突条18bとの間には、枠体13の切込み16部分における突条13fが嵌合するようにした上下方向を向く凹溝17gが設けられている。
【0046】
図7に示すように、枠体13のほぼ全外周部(切込み16部分を除く)には、張材14の周縁部を嵌合して止着するための、後方に向かって開口する凹溝24が設けられている。
【0047】
また、嵌合部材17の外周部である矩形部分の後面にも、両突条18a、18bによって、後方に向かって開口する凹溝25が、枠体13の凹溝24と連続するようにして形成されている。
なお、この実施形態においては、両凹溝24、25は、枠体13および嵌合部材17の外周部に、後方に向かって開口するように設けてあるが、外側方に向かって開口するように設けることもある。
【0048】
嵌合部材17は、その係合凸部20、21が枠体13の切込み16部分における係合凹部13hに嵌合し、かつ凹溝17gに枠体13の切込み16部分における突条13fが嵌合するようにして枠体13の切込み16に嵌合されることにより、表面17cおよび外側面17fが枠体13における表面13aおよび外側面13bとそれぞれ同一面をなし、かつ凹溝25が枠体13の凹溝24と連続するようになっている。
【0049】
嵌合部材17を枠体13の切込み16に嵌合した後、図7および図8に示すように、枠体13の凹溝24と嵌合部材17の凹溝25とに、張材14の周縁部14aを、縁材14bとともに圧嵌して止着することにより、枠体13および嵌合部材17の表面に張材14が張設される。
【0050】
枠体13および嵌合部材17の表面に張材14が張設されると、その張材14の張力により、嵌合部材17は、その内側の後部を中心として、外側の前部が枠体13の内方に向かって回動しようとし、そのときの嵌合部材17の回転偶力により、係合凸部20、21と係合凹部13hとの間における摩擦力が増大し、いわゆるスティック現象を起こして、嵌合部材17が枠体13から離脱するのが阻止される。
【0051】
また、枠体13側の突条13fが第2の係合凸部、嵌合部材17の凹溝17gが第2の係合凹部をなして、それらの嵌合部分に嵌合部材17の回転偶力が作用することによっても、それらの間の摩擦力が増大し、嵌合部材17が枠体13から離脱するのが阻止される。
【0052】
さらに、枠体13における外周部と嵌合部材17の外周部とに、互いに連続するようにして設けられた凹溝24、25に、張材14の周縁部14aおよび縁材14bが連続して嵌合され、かつ止着されることにより、張材14の周縁部14aが両凹溝24、25から離脱しにくくなるとともに、嵌合部材17が枠体13から離脱するのを阻止する力が助長される。
【0053】
したがって、嵌合部材17を、ねじ等の止着手段を用いることなく、枠体13の切込み16に嵌合させるだけで、簡単にかつ確実に係合させることができ、張材14の張設作業を容易にすることができる。
【0054】
椅子を廃棄するため、枠体13と張材14とを分別するときは、ねじ等の止着手段を緩めることなく、例えば張材14を引き剥がすだけで、嵌合部材17を枠体13から簡単に分離させることができ、分別作業を容易にすることができる。
【0055】
図3および図9に示すように、枠体13の下部における表面13aの左右方向の中央部には、正面視矩形の切込み26が設けられ、切込み26より裏面13c寄りの部分には、座11に連結するための突部として、前下方を向く下部連結片27が設けられている。
【0056】
切込み26は、下部連結片27より、枠体13の前方、すなわち、表面13a寄りの部分に設けられている。切込み26の左右両端は、上下方向を向く平行面をなしている。切込み26の奧端面には、前後方向を向くねじ挿通孔28が設けられている。
【0057】
図9に示すように、切込み26には、嵌合部材29が嵌合されている。この嵌合部材29は、前方から見て、切込み26とほぼ補形をなしている。また、嵌合部材29は、縦断側面視において、前方に向かって開口するコ字状をなし、その外周部である下部には、枠体13の外周部に設けられた凹溝24と連続する、後方に向かって開口する凹溝30が設けられている。
【0058】
嵌合部材29は、凹溝30が枠体13の凹溝24と連続するようにして、枠体13の切込み26に嵌合した状態で、枠体13の後方よりねじ挿通孔28に挿通した止めねじ31をもって枠体13に固着されている。
【0059】
嵌合部材29を枠体13に固着した後、張材14の周縁部14aと縁材14bとを、嵌合部材17の凹溝25に嵌合するのと同様の要領で嵌合して、止着する。
【0060】
なお、嵌合部材29と枠体13の切込み26部分とに、嵌合部材17における係合凸部20、21と切込み16における係合凹部13hと同様のものを設け、張材14の張力による嵌合部材29の回転偶力を利用して、嵌合部材29が切込み26から離脱するのを阻止し、止めねじ31を省略してもよい。
【0061】
図3に示すように、座11は、平面視矩形の閉ループ状の枠体34と、この枠体34に取付けられた座シェル35と、座シェル35に取付けられた座クッション36と、座クッション36の表面に被せられて張設された張材37とを有している。
【0062】
脚フレーム12は、図2および図3に示すように、前方に向かって開口する平面視コの字状のベース脚38と、このベース脚38の両前端から上方に延伸する1対の前脚39、39と、前脚39、39の上端から後方に向かってほぼ水平に延出する肘掛け部40、40とを有している。
【0063】
前脚39、39の中間部分は、左右方向を向く横杆41によって連結されている。この横杆41には、座11を支持する平面視コ字状の支持部42が、後方に突出するようにして設けられている。また肘掛け部40、40には、合成樹脂製の肘当て材43、43が設けられている。なお、脚フレーム12は、強度向上のため一部または全部を二重パイプ構造にするのが好ましい。
【0064】
図3に示すように、枠体13の外向耳片15と、脚フレーム12の肘掛け部40とは、外向耳片15の有底孔15e(図4参照)、および脚フレーム12の肘掛け部40に挿入されるねじ座44、45を介して、止めねじ46をもって連結されている。
【0065】
背凭れ10における枠体13の表面13a側に、張材14を張設するには、まず、図5および図9に示すように、枠体13の両側部における左右の切込み16、16、および下部の切込み26に、それぞれ嵌合部材17、17、および嵌合部材29を嵌合する。下部の嵌合部材29は、止めねじ31よって枠体13に止着する。
【0066】
その後、枠体13の表面13aに張材14を被せて、その周縁部14aを枠体13の外側面13bに沿って裏面13c側に引き寄せ、その周縁部14aと縁材14bとを、前方に向けつつ、枠体13の外周部の凹溝24と、各嵌合部材17の凹溝25と、嵌合部材29の凹溝30とに嵌合して、止着する。
なお、各嵌合部材17の凹溝25に、張材14の周縁部14aと縁材14bとを嵌合した状態で、各嵌合部材17を、枠体13の切込み16に嵌合してもよい。
【0067】
枠体13の表面13aに張材14が張設されると、各嵌合部材17は、上述したように、張材14の回転偶力により、枠体13から外れ難くくなる。
したがって、嵌合部材17を、ねじ等の止着手段を用いることなく、枠体13の切込み16に確実に取付けることができるため、張材14の張設作業が容易になる。
【0068】
また、椅子1を廃棄するため、枠体13と張材14とを分別するときは、ねじ等の止着手段を緩めることなく、簡単に嵌合部材27を枠体13から分離させ、張材14を簡単に分別することができるので、分別作業を容易にすることができる。
【0069】
さらに、枠体13における突部である各外向耳片15および下部連結片27の前方には、凹溝24を設ける必要がなく、したがって、枠体13の外側面13bに凹溝を形成するための金型の抜き方向と、枠体13を形成するための金型の抜き方向とが交差することがない。そのため、枠体13の成形時の型抜きが容易であり、枠体13を、簡単な構造の金型によって、一行程で容易に成形でき、コストダウンを図ることができる。
【0070】
各嵌合部材17の外側面17fおよび表面17c、並びに嵌合部材29の外側面および表面は、張材14によって覆われるので、背凭れの外観をよくすることができる。
【0071】
また、張材14には、枠体13の外向耳片15を貫通させる孔等を設ける必要がないので、張材14の強度を保つことができるとともに、体裁をさらによくすることができる。
【0072】
嵌合部材17の係合凸部20は、嵌合部材17の長手方向に複数並設され、各係合凸部20が連結部22によって連結されているため、係合凸部20の強度を高くし、ひいては嵌合部材17の強度を高くすることができ、嵌合部材17を小型化することができる。
【0073】
また、枠体13の切込み16、および嵌合部材17の長手方向の両端縁を、長手方向の幅が枠体13の内方から外方へ向かって漸次小となる、互いに補形をなす傾斜面16a、17aとしたことにより、嵌合部材17は、枠体13の外側方へ抜け外れることがなくなる。
【0074】
なお、嵌合部材17は、枠体13の金型成形ラインとは別のラインや、インジェクション成形等により成形することができ、コストを低減することができる。
また、椅子1を廃棄したり、張材14を交換したりする場合は、嵌合部材17を、枠体13の切込み16から簡単に取り外すことができるため、交換作業を簡単に行うことができるとともに、分別廃棄に寄与することができる。
【0075】
図10〜図14は、本発明を椅子の背凭れに適用した第2の実施形態を示す。
なお、以下の説明においては、図1〜図9に示す第1の実施形態におけるのと同一の部材および部分には、同一の符号を付して図示するに止め、詳細な説明は省略する。
【0076】
図10および図11に示すように、第2の実施形態においては、枠体13に設けた切込み48の上縁は、水平部48aと、その外側開口部に連続し、かつ上方に向かって弧状に拡開する拡張部48bとからなるものとし、切込み48における下縁は、第1の実施形態における切込み16の傾斜面16aと同様の傾斜面48cと、その外側開口部に連続する水平部48dとからなるものとし、水平部48dは、曲率中心が上方に位置する円弧状としてある。
【0077】
図11に示すように、切込み48には、第1の実施形態における切込み16の係合凹部13hと同様の上下方向に長い係合凹部48eが設けられ、その内部には、左右方向を向く複数の補強リブ48fが、互いに上下方向に離間するようにして設けられている。係合凹部48e内は、複数の補強リブ48fによって上下方向に区画され、図示の例では、7個の角孔48gが形成されている。
【0078】
切込み48に嵌合する嵌合部材49は、図10に示すように、正面形状が切込み48と補形をなし、切込み48における拡張部48bに対応する部分には、拡張部48bに補形をなすとともに、角部が円弧状をなす上向きの突出部49aが形成されている。
【0079】
図12に示すように、嵌合部材49の裏面には、枠体13の係合凹部48eにおける各角孔48gに嵌合するようにした角柱状の複数(図示の例では7個)の係合凸部50が、互いに上下方向に離間するようにして設けられている。
【0080】
嵌合部材49の表面には、各係合凸部50を中空角筒状とするべく複数の肉抜き孔51が、各係合凸部50と対応するようにして設けられている。
【0081】
嵌合部材49の外周部には、第1の実施形態における嵌合部材17における凹溝25と同様の凹溝52が、嵌合部材49を切込み48に正規に嵌合したとき、枠体13の凹溝24と連続するようにして設けられている。
【0082】
第2の実施形態においては、角柱状の複数の係合凸部50を、枠体13の係合凹部48eにおける各角孔48gに嵌合するようにして、嵌合部材49を枠体13の切込み48に嵌合し、かつ張材14の周縁部14aを、縁材14bとともに枠体13の凹溝24と嵌合部材49の凹溝52とに連続して圧嵌し、止着することにより、張材14の張力による嵌合部材49の回転偶力によって、嵌合部材49が枠体13から外れ難くなり、第1の実施形態と同様の作用および効果を奏することができる。
【0083】
また、嵌合部材49の係合凸部50を角柱状とし、それを枠体13の切込み48における係合凹部48eの各角孔48gに嵌合するようにしてあるので、枠体13および嵌合部材49の成形が容易になるだけでなく、枠体13に対する嵌合部材49の位置決めを確実なものとすることができるとともに、嵌合部材49の位置ずれを防止することができる。
【0084】
さらに、枠体13の切込み48における外側方への開口部の一方の縁に、外側方に向かって弧状に拡開する拡張部48bを設け、嵌合部材49における対応部分に、拡張部48bに補形をなす突出部49aを設けてあるので、嵌合部材49を枠体13の切込み48に嵌合する際に、嵌合部材49の角部が切込み48の内面に当接して、欠損するのを未然に防止することができる。
また、背凭れ10に凭れかかったときに、枠体13の外側面13bにおける切込み48寄りの部位に応力が集中するのを防止することができる。
【0085】
上記の第1および第2の実施形態は、本発明を椅子の背凭れに適用したものであるが、本発明は、その向きや形状を変更するだけで、椅子の座やヘッドレスト等にも適用することができる。
【0086】
本発明においては、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、幾多の異なる形態での実施が可能である。
(1)枠体13における凹溝24、および嵌合部材17、29、49の凹溝25、30、52を、枠体13等の外側方に開口するように設ける。
(2)嵌合部材17の係合凸部20を切込み16に設け、切込み16の係合凹部13hを嵌合部材17の嵌合部材17に設ける。
(3)切込み16、および嵌合部材17の上下端の傾斜面16a、17aを、上下の幅が枠体13の内方から外方に向かって、漸次大となる傾斜面とする。
(4)切込み16、および嵌合部材17の上下端に、傾斜面16a、17aに代えて、係合凸部、および係合凹部を設ける。
(5)枠体13の下部の切込み26、および嵌合部材29に、枠体13の左右の切込み16、および嵌合部材17と同様に、係合凸部および係合凹部を設け、嵌合部材29のねじ止めを省略する。
(6)切込み26、および嵌合部材29の左右方向の両端に、切込み16および嵌合部材17の両端におけるのと同様の傾斜面を設ける。
(7)切込み16の後方に突部を設けない場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 椅子
10 背凭れ
11 座
12 脚フレーム
13 枠体
13a表面
13b外側面
13c裏面
13d内側面
13e、13f 突条
13g補強リブ
13h係合凹部
13i切欠き
14 張材
14a周縁部
14b縁材
15 外向耳片(突部)
15a、15b 補強リブ
15cボス
15dスプライン
15e有底孔
15f貫通孔
16 切込み
16a傾斜面
16b平行面
17 嵌合部材
17a傾斜面
17b平行面
17c表面
17d内側面
17e肉抜き孔
17f外側面
17g凹溝
18a、18b突条
18c突片
20、21 係合凸部
22、23 連結部
24、25 凹溝
26 切込み
27 下部連結片
28 ねじ挿通孔
29 嵌合部材
30 凹溝
31 止めねじ
34 枠体
35 座シェル
36 座クッション
37 張材
38 ベース脚
39 前脚
40 肘掛け部
41 横杆
42 支持部
43 肘当て材
44、45 ねじ座
46 止めねじ
48 切込み
48a水平部
48b拡張部
48c傾斜面
48d水平部
48e係合凹部
48f補強リブ
48g角孔
49 嵌合部材
49a突出部
50 係合凸部
51 肉抜き孔
52 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体における一部の表面側の部分に切込みを設け、この切込みに、嵌合部材を嵌合して取付け、前記枠体における外周部と、前記嵌合部材の外周部とに、互いに連続する凹溝を設け、この凹溝に張材の周縁部を嵌合して止着することにより、前記枠体の表面に張材を張設してなる椅子用張材の張設構造において、
前記枠体における切込みと、それに対向する嵌合部材との対向面のいずれか一方に、枠体の表裏方向に延出する係合凸部を設け、同じくいずれか他方に、前記係合凸部が嵌合する係合凹部を設け、前記張材の張力による前記嵌合部材の回転偶力により、前記係合凸部と係合凹部との離脱を阻止するようにしたことを特徴とする椅子用張材の張設構造。
【請求項2】
複数の係合凸部を、枠体または嵌合部材の長手方向に並設し、そのいずれかの係合凸部同士を、枠体または嵌合部材の長手方向を向く連結部によって連結した請求項1記載の椅子用張材の張設構造。
【請求項3】
係合凸部を角柱状とし、かつ係合凹部を角孔とした請求項1記載の椅子用張材の張設構造。
【請求項4】
前記枠体の切込みの少なくとも一部の表面側の形状を、長手方向の幅が前記枠体の内方寄りの部分より外方寄りの部分が小となるあり溝状とし、かつ前記切込みのあり溝状の部分に嵌合する嵌合部材の形状を、前記あり溝に補形をなす形状とした請求項1〜3のいずれかに記載の椅子用張材の張設構造。
【請求項5】
前記枠体の切込みにおける外側方への開口部の一方の縁に、外側方に向かって弧状に拡開する拡張部を設け、前記嵌合部材における対応部分に、前記拡張部に補形をなす突出部を設けた請求項1〜4のいずれかに記載の椅子用張材の張設構造。
【請求項6】
前記枠体の外周面における裏面寄りの部分に、椅子の他の部材と連結するための突部を設け、前記枠体における前記突部より表面側の部分に切込みを設け、この切込みに、嵌合部材を嵌合して取付けた請求項1〜5のいずれかに記載の椅子用張材の張設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−157602(P2012−157602A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20317(P2011−20317)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)