説明

植栽用マルチシート

【課題】 光が透過しにくい植栽用マルチシートを提供する。
【解決手段】 この植栽用マルチシートは、ヒメイワダレソウを土壌に植栽する際に用いるものである。植栽用マルチシートは、不織布単体よりなるものであっても、不織布の上層に光反射層や、下層に保水層が設けられていてもよい。不織布は、コットン繊維等のセルロース繊維よりなる構成繊維が集積されると共に、構成繊維相互間が交絡されて一体化されている。構成繊維表面には、カーボンブラック等の光不透過性粒子が付着している。この植栽マルチシートは、土壌全体に敷設された後、一部に孔を開けて、そこにヒメイワダレソウの苗を植えるという方法で用いられる。そして、この状態で放置しておけば、約1年後には、土壌をヒメイワダレソウで緑化しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平地、法面又は土手等(以下、「法面等」という。)の土壌にヒメイワダレソウ等のクマツヅラ科イワダレソウ属植物(以下、単に「ヒメイワダレソウ等植物」という。)を植栽して、土壌を緑化する際に用いる植栽用マルチシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、法面等の土壌を緑化する方法としては、当該土壌に、ヒメイワダレソウ等植物を植栽する方法が採用されている。ヒメイワダレソウ等植物が採用される理由は、雑草よりも比較的繁殖能力が高いこと、害虫がつきにくいこと、開花期間が長いこと、肥料が不要であること等の利点があるからである。
【0003】
ヒメイワダレソウ等植物が雑草よりも比較的高い繁殖能力を持つとはいえ、雑草の種類によっては、繁殖競争に負けるということがあった。すなわち、ヒメイワダレソウ等植物が成長して土壌を覆い尽くした後においては繁殖競争に負けることは殆どないが、土壌を覆い尽くす前の成長時には、雑草の種類によっては繁殖競争に負け、土壌全体がヒメイワダレソウ等植物で覆われずに、部分的に雑草で覆われた場所が生じるということがあった。そして、部分的に雑草で覆われた場所が生じると、上記した利点が損なわれ、法面等の土壌の緑化が不十分になる。
【0004】
このため、法面等の土壌全体に、コットン繊維100%の不織布よりなるマルチシートを敷設した後、このマルチシートの一部に孔を開けて、そこにヒメイワダレソウの苗を植えつける方法が提案されている(非特許文献1)。この方法は、マルチシートで被覆された土壌では、雑草が繁殖しにくいため、植えつけたヒメイワダレソウの苗が繁殖成長して、ヒメイワダレソウで土壌が覆い尽くされることになる。そして、このマルチシートは、コットン繊維100%で構成されているため、1年程度で自然に分解消失する。したがって、ヒメイワダレソウの植栽に当たり、マルチシートを除去するという作業が不要になり、好ましいものである。
【0005】
【非特許文献1】http://www.kawakita-net.com/(グリーンコスモ法面緑化工法の項目)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1記載の方法によっても、土壌全体がヒメイワダレソウで覆い尽くされずに、雑草が一部繁殖するということがあった。雑草が繁殖するということは、マルチシートで覆われた箇所で光が透過しており、雑草の芽が光合成を十分に行っているということである。本発明は、マルチシートで覆われた箇所において、光を透過させにくくして、雑草の繁殖を抑制又は防止しうるマルチシートを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、まず、非特許文献1に記載されているコットン繊維100%の不織布よりなるマルチシートが、何故に光を透過させやすいのかを検討した。本発明者は、この不織布は構成繊維が集積されてなるものであるため、構成繊維相互間の間隙から光が透過するのではないかと考えた。このため、構成繊維相互間が緻密に密着しており、構成繊維相互間の間隙の少ない不織布を、マルチシートとして使用することを試みた。
【0008】
しかしながら、構成繊維相互間の間隙の少ない緻密な不織布であっても、結果は殆ど変わらなかった。本発明者は、さらにこの原因を究明すべく検討を進めたところ、構成繊維自体が光(特に可視光)を透過するためであることを見出した。すなわち、コットン繊維は、肉眼で見ると白色又は黄灰色となっているが、これは可視光を全部を反射しているのではない。光学顕微鏡でコットン繊維を観察すれば分かるように、コットン繊維はかなりの量の可視光を透過している。そこで、本発明者は、構成繊維自体を光不透過性にすればよいのではないかと考え、実験を重ねた結果、本発明に至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、土壌にクマツヅラ科イワダレソウ属植物を植栽する際に使用する植栽用マルチシートにおいて、該植栽用マルチシートは、セルロース繊維又はタンパク質繊維よりなる構成繊維が集積されると共に該構成繊維相互間が交絡されて一体化され、かつ、該構成繊維表面に光不透過性粒子が付着されてなる不織布を備えていることを特徴とする植栽用マルチシートに関するものである。
【0010】
本発明に係る植栽用マルチシートは、土壌にクマツヅラ科イワダレソウ属植物を植栽する際に使用するものである。クマツヅラ科イワダレソウ属植物としては、イワダレソウやヒメイワダレソウ及びそれらの改良種を挙げることができる。また、クマツヅラ科イワダレソウ属植物に限定している理由は、法面等の土壌の緑化にとって、それらが前述したような種々の利点を有しているからである。
【0011】
本発明に係る植栽用マルチシートは、不織布よりなるか又はこの不織布を具備したものである。不織布の構成繊維としては、セルロース繊維又はタンパク質繊維が用いられる。これらの繊維を用いる理由は、セルロース繊維もタンパク質繊維も、土壌に敷設しておくと、自然に分解し肥料となるからである。すなわち、本発明に係る植栽用マルチシートを採用すれば、土壌に敷設した後、それを除去する必要はなく、放置しておけば分解し肥料となるのである。セルロース繊維としては、コットン繊維、レーヨン短繊維又は長繊維、麻繊維、パルプ等を用いることができる。タンパク質繊維としては、羊毛や絹繊維を用いることができる。
【0012】
構成繊維は多数集積されると共に交絡されて一体化され、所定の引張強度を持つ不織布となっている。構成繊維を集積させただけでは、構成繊維相互間が一体化されず、所定の引張強度を持つ不織布を得られず、土壌に敷設することが困難となる。また、構成繊維相互間をバインダー樹脂等で結合して一体化することも考えられるが、バインダー樹脂等を用いると、これが土壌に残存し、環境に悪影響を与える恐れがあるため、好ましくない。したがって、構成繊維は集積されると共に交絡されて、構成繊維相互間が一体化されるのである。交絡の手段としては、水流交絡法やニードルパンチ法を採用することができる。ニードルパンチ法は構成繊維の集積量が少ない場合には、有効に交絡することができないので、このような場合は水流交絡法を採用するのが好ましい。また、水流交絡法でもニードルパンチ法でも、短繊維の方が有効に交絡できるので、レーヨン繊維や絹繊維の場合、短繊維を用いる方が好ましい。なお、コットン繊維、麻繊維、パルプ及び羊毛は、いずれも短繊維で提供されている。
【0013】
本発明においては、構成繊維表面に光不透過性粒子が付着している。光不透過性粒子としては、可視光を透過しにくいものが用いられ、特に、400〜700nmの波長の可視光を透過しにくいものが用いられる。この理由は、光合成では、主として400〜700nmの波長領域の光が使われるからである。光不透過性粒子としては、具体的には、カーボンブラック、ピグメントグリーン7、亜鉛華、群青、紺青等が用いられる。しかしながら、本発明に係る植栽用マルチシートは、土壌に敷設した後、放置しておくものであるため、環境に悪影響を及ぼさないカーボンブラックを用いるのが好ましい。光不透過性粒子は、その粒子径が概ね0.2〜23μmの範囲内になるように調整された後に、構成繊維表面に付着される。すなわち、光不透過性粒子と、光不透過性粒子を構成繊維表面に付着するための接着剤とを含む溶液を、構成繊維表面に付与して光不透過性粒子を付着させるのであるが、この溶液中における光不透過性粒子の粒子径を0.2〜23μmの範囲内になるように調整するのである。粒子径が0.2μm未満のものは、光不透過性能が不十分であるため好ましくない。また、粒子径が23μmを超えるものは、構成繊維表面から脱落しやすくなるため好ましくない。なお、光不透過性粒子の粒子径は、「HORIBA Laser Scattering Particle Size Distribution Analyzer LA−950」なる測定機器を用いて測定されたものである。
【0014】
カーボンブラック等の光不透過性粒子を構成繊維表面に付着させるための接着剤としては、澱粉系や、大豆タンパク等のタンパク質系の接着剤を用いるのが好ましい。これらの接着剤は、一般に用いられている有機合成系のアクリル系接着剤等と異なり、環境下で放置しておけば、自然に分解するからである。接着剤と光不透過性粒子とは、溶媒中に溶解又は分散され、接着剤溶液として調整される。溶媒としては水が好ましく、接着剤水溶液として調整されるのが一般的である。構成繊維表面に光不透過性粒子を付着させるには、一般的に、構成繊維が集積されると共に交絡されて一体化された不織布本体を得た後に、この不織布本体に接着剤水溶液を含浸したり塗布したり或いは噴霧すればよい。そして、接着剤水溶液中の水を乾燥蒸発させれば、不織布本体を構成している構成繊維表面に、光不透過性粒子が接着剤によって付着されるのである。
【0015】
光不透過性粒子の付着量は、構成繊維表面全体を覆う程度の量であるのが好ましい。具体的には、構成繊維100重量部に対して、光不透過性粒子0.5〜5重量部程度でよい。光不透過性粒子の付着量が0.5重量部未満であると、構成繊維表面の一部が光不透過性粒子で覆われない可能性があり、光が透過しやすくなる傾向が生じる。光不透過性粒子の付着量が5重量部を超えても、光の不透過性はもはや向上しないので、それ以上付着させるのは不合理である。また、あまり多量に光不透過性粒子を付着させると、植栽用マルチシートの取り扱い時に、光不透過性粒子が脱落し、作業環境が悪くなる。
【0016】
本発明に係る植栽用マルチシートとして用いられる不織布の目付は、60〜100g/m2程度で十分である。不織布の目付が60g/m2未満であると、構成繊維量が少なくなるため、構成繊維相互間の間隙から光が透過しやすくなるため、好ましくない。不織布の目付が100g/m2超えても、本発明によれば、光不透過率は飽和状態となり、構成繊維量が多くなるだけで不合理である。本発明に係る植栽用マルチシートは、この不織布単体からなるものであってもよい。また、この不織布の上層に光反射層等を設けてもよいし、下層に保水層等を設けもよい。
【0017】
本発明に係る植栽用マルチシートは、以下のような方法で使用され、ヒメイワダレソウ等植物が植栽される。すなわち、まず、植栽の対象となる土壌全体に植栽用マルチシートを敷設する。植栽用マルチシートは、一般的に、幅が50cm〜2m程度の巻物として提供される。したがって、これを巻き戻しながら、土壌全体に敷設する。その後、植栽用マルチシートを破るか切り取って孔を開け、その部分の土壌を一部露出させる。そして、この露出した土壌に、ヒメイワダレソウ等植物の苗を植えて植栽する。その後、約3ケ月程度放置しておけば、ヒメイワダレソウ等植物が繁殖し、土壌全体がこの植物で覆われることになる。一方、植栽用マルチシートは、徐々に分解し、約3〜6ケ月程度で殆ど分解し、約1年程度経過すれば完全に分解する。そして、分解したセルロース繊維又はタンパク質繊維は肥料となるのである。なお、光不透過性粒子としてカーボンブラックを使用した場合には、それはそのまま土壌中に残存するが、環境上、全く悪影響がない。また、接着剤として、澱粉系やタンパク質系のものを使用した場合には、これも徐々に分解し肥料となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る植栽用マルチシートは、構成繊維表面に光不透過性粒子が付着してなる不織布を具備するものである。構成繊維表面に光不透過性粒子が付着しているので、光(可視光)は植栽用マルチシートで遮られ、土壌まで光が到達しない。したがって、土壌中に存在する雑草の芽は光合成ができずに、成長できない。一方、植栽用マルチシートに設けられた孔の土壌部分にはヒメイワダレソウ等植物の苗が植えられているので、これは光合成により成長する。すなわち、本発明に係る植栽用マルチシートを使用すれば、ヒメイワダレソウ等植物のみが成長し、雑草の成長は抑制される結果、土壌全体がヒメイワダレソウ等植物で覆われ、良好に土壌を緑化することができる。
【0019】
一方、植栽用マルチシートを構成している不織布は、その構成繊維としてセルロース繊維又はタンパク質繊維を使用しているので、ヒメイワダレソウ等植物が成長してゆくにしたがい、徐々に分解して消失し、肥料として機能する。したがって、本発明に係る植栽用マルチシートを使用すれば、マルチシートを除去するという作業が不要になる。
【0020】
さらに、光不透過性粒子としてカーボンブラックを使用すれば、これは分解はしないが土壌中に残存していても、環境に悪影響を与えない。また、光不透過性粒子を構成繊維表面に付着するための接着剤として、澱粉系や、大豆タンパク等のタンパク質系のものを使用すれば、これらも徐々に分解して消失し、肥料として機能する。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づいて、更に本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、コットン繊維100%からなる不織布であっても、構成繊維であるコットン繊維自体が可視光を透過するという知見を基にして、構成繊維表面に光不透過性粒子を付着させ、構成繊維自体が可視光を透過しにくくなるようにして、光不透過性に優れた植栽用マルチシートを得たものであると解釈されるべきである。
【0022】
実施例1
平均繊度1.7デシテックス、平均繊維長25mmのコットン繊維を、カード機で開繊及び集積して、目付80g/m2の繊維ウェブを得た。この繊維ウェブに、ノズル径0.1mm、ノズルから水の噴出圧力6.86MPa、ノズルピッチ0.6mmの条件で水流を施し、コットン繊維相互間を交絡し一体化した不織布本体を得た。この不織布本体に、大日精化工業株式会社製の「バイオテックカラーAP 794 墨」を含浸した後、乾燥して、不織布本体に対して固形分を1重量%付与して不織布を得た。この不織布を、そのまま植栽用マルチシートとした。なお、「バイオテックカラーAP 794 墨」の組成は以下のとおりであり、乾燥後の固形分はカーボンブラックと大豆タンパク質系接着剤とからなる。
カーボンブラック(粒度範囲:0.226〜22.8μm) 15重量%
大豆タンパク質系接着剤 9重量%
水 残部
【0023】
実施例2
固形分を3重量%付与した他は、実施例1と同一の方法で植栽用マルチシートを得た。
【0024】
実施例3
固形分を5重量%付与した他は、実施例1と同一の方法で植栽用マルチシートを得た。
【0025】
比較例
実施例1で得られた不織布本体に、「バイオテックカラーAP 794 墨」を含浸せずに、不織布本体をそのまま植栽用マルチシートとした。
【0026】
実施例1〜3及び比較例で得られた植栽用マルチシートの遮光率(%)を、JIS L 1055 A法(照度計を用いる方法)に準拠して測定した。この結果を表1に示した。なお、光源としてはレフランプを使用し、照度は2000ルックス(lx)にして測定した。
[表1]
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遮光率(%)
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実施例1 91.5
実施例2 94.0
実施例3 95.1
比較例 78.8
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【0027】
表1の結果から明らかなように、光不透過性粒子であるカーボンブラックを構成繊維表面に付着した不織布よりなる実施例1〜3の植栽用マルチシートは、光不透過性粒子を付着していない不織布本体からなる比較例の植栽用マルチシートに比べて、遮光率が顕著に向上したものであった。したがって、実施例1〜3の植栽用マルチシートを使用して土壌を被覆すれば、比較例のものを使用した場合に比べて、被覆された土壌には光が透過しにくく、当該土壌に存在する雑草の芽は光合成ができないため、その成長を防止しうることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌にクマツヅラ科イワダレソウ属植物を植栽する際に使用する植栽用マルチシートにおいて、該植栽用マルチシートは、セルロース繊維又はタンパク質繊維よりなる構成繊維が集積されると共に該構成繊維相互間が交絡されて一体化され、かつ、該構成繊維表面に光不透過性粒子が付着されてなる不織布を備えていることを特徴とする植栽用マルチシート。
【請求項2】
セルロース繊維が、コットン繊維又はレーヨン短繊維である請求項1記載の植栽用マルチシート。
【請求項3】
構成繊維相互間が水流交絡法によって交絡されている請求項1記載の植栽用マルチシート。
【請求項4】
光不透過性粒子がカーボンブラックである請求項1記載の植栽用マルチシート。
【請求項5】
光不透過性粒子は、その粒子径が0.2〜23μmの範囲内に調整された後に、構成繊維表面に付着されたものである請求項1記載の植栽用マルチシート。
【請求項6】
不織布の目付が60〜100g/m2である請求項1記載の植栽用マルチシート。
【請求項7】
植栽の対象となる土壌全体に請求項1記載の植栽用マルチシートを敷設した後、該植栽用マルチシートに孔を開けて土壌の一部を露出させ、該土壌の一部に、クマツヅラ科イワダレソウ属植物の苗を植えることを特徴とするクマツヅラ科イワダレソウ属植物の植栽方法。

【公開番号】特開2009−50219(P2009−50219A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221513(P2007−221513)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(594054520)株式会社ユニチカテクノス (4)
【Fターム(参考)】