説明

植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するためのキット及びその利用

【課題】植物を用いて、O型糖鎖修飾された有用タンパク質を製造するためのキットを提供する。
【解決手段】本発明の植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するためのキットは、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素、及びそれをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも一つを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するためのキット及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真核細胞内で発現するタンパク質のほとんどは、何らかの翻訳後修飾を受けている。
【0003】
中でもN型糖鎖による修飾については、生理学的・生物学的に重要な役割を果たすことが明らかにされている。例えば、植物では、N型糖鎖による修飾が環境ストレス耐性に関与することが報告されている。また、例えば特許文献1には、植物細胞を用いてヒト型のN型糖鎖結合タンパク質を製造する方法が開示されている。
【0004】
一方、O型糖鎖による修飾については、哺乳類、酵母等において、その関連酵素遺伝子等が明らかにされている。
【特許文献1】国際公開第WO/2000/034490号パンフレット(2000年6月15日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、医薬品等に利用可能な有用タンパク質を植物で製造することには様々な利点がある。例えば、植物に対する遺伝子操作は比較的容易であること、培養の際、動物病原の汚染を回避できること等の利点が挙げられる。
【0006】
しかしながら、植物はO型糖鎖の修飾機構を有していない。そのため、O型糖鎖による修飾が機能等に大きな役割を与えるタンパク質の製造には、植物を利用することができなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物を用いて、O型糖鎖修飾された有用タンパク質を製造するための、キット及びこれを利用した技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行なった。
【0009】
タンパク質のO型糖鎖修飾が、哺乳類動物等のみならず、仮に植物にとっても重要なものであれば、植物がO型糖鎖修飾機構を有してしかるべきである。ところが、植物はこれを有していない。このことから、植物においては、タンパク質にO型糖鎖は結合しないということが当然のように推測できた。また、O型糖鎖修飾機構を有さない植物にO型糖鎖修飾に関連する遺伝子を導入しても、当然に、当該遺伝子が正常に機能しないであろうと予想された。
【0010】
しかし、本発明者らは、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素をコードするポリヌクレオチドを植物に導入して発現させると、O型糖鎖により修飾されたタンパク質を得ることができることを見出し、本発明に想到するに至った。
【0011】
このように、本発明は、従来の予想に反した全く新たな知見に基づいてなされたものであり、以下の発明を包含する。
【0012】
即ち、本発明に係る植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するためのキットは、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素、及びそれをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも一つを備えていることを特徴としている。
【0013】
さらに、本発明に係るキットは、ガラクトース転移酵素及びその酵素をコードするポリヌクレオチドのうちの、少なくとも一つをさらに備えていることがより好ましい。
【0014】
また、本発明に係る植物は、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素をコードするポリヌクレオチド、及びN‐アセチルガラクトサミンを結合させる対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するための組成物は、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素、及びそれをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも一つを含むことを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係るO型糖鎖結合タンパク質の製造方法は、植物内又は植物の抽出物内で、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素を合成する合成工程を含んでいてもよい。
【0017】
また、本発明に係るO型糖鎖結合タンパク質の製造方法は、植物の抽出物に、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素を混合する混合工程を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するためのキットは、以上のように、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素、及びそれをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも一つを備えているので、植物を用いて、O型糖鎖修飾された有用タンパク質を製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<1.本発明に係る植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するためのキット>
本発明に係る植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するためのキット(以下、「本発明に係るキット」という。)は、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素、及びそれをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも一方を備えていればよい。本発明に係るキットによれば、植物を用いてO型糖鎖結合タンパク質を製造することができる。
【0020】
本発明に係るキットは、N‐アセチルガラクトサミンを結合させる対象のタンパク質(O型糖鎖を結合させる対象のタンパク質ということもできる。以下、「標的タンパク質」という。)として、植物が有していないタンパク質を採用する場合、特に有利な効果を発揮する。例えば、O型糖鎖の結合がその機能に重大な影響を与えるタンパク質を製造する場合、従来、動物細胞を利用する必要があったが、本発明に係るキットを用いれば、植物にO型糖鎖結合タンパク質を製造させることができるので、培養の際、動物病原の汚染を回避できる等の点において有利である。
【0021】
本明細書において「O型糖鎖」とは、タンパク質のセリン残基及び/又はスレオニン残基に結合している糖鎖を意味する。また、「O型糖鎖結合タンパク質」とは、O型糖鎖が結合したタンパク質を意味する。なお、本明細書において「A及び/又はB」と記載したとき、「A」、「B」、又は「A及びB」を意味する。
【0022】
本明細書における「植物」には様々な形態の植物が包含される。例えば、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織等)、種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞等の培養細胞)、プロトプラスト、カルス等が挙げられる。
【0023】
また、本明細書において「植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造する」とは、植物を用いてO型糖鎖結合タンパク質を製造すること意味する。ここで用いる植物の種類、形態としては、特に限定されず、植物から得た抽出物であってもよい。つまり、植物の抽出物を用いてO型糖鎖結合タンパク質を製造することも「植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造する」の範疇である。
【0024】
また、本明細書において「ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素」とは、タンパク質中のセリン残基及び/又はスレオニン残基に、N‐アセチルガラクトサミンを結合させる活性を有する酵素を意味する。以下、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素を「ppGalNAcT」と表記し、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素をコードするポリヌクレオチドを「ppGalNAcT遺伝子」と表記し、タンパク質中のセリン残基及び/又はスレオニン残基に、N‐アセチルガラクトサミンを結合させる活性を「ppGalNAcT活性」と表記する。
【0025】
本発明に係るキットにおいて利用できる植物の種類としては、特に限定されない。例えば、種々の単子葉植物、双子葉植物、樹木等の植物全般に適用することができる。例えば、単子葉植物としては、例えばウキクサ属植物(ウキクサ)及びアオウキクサ属植物(アオウキクサ,ヒンジモ)が含まれるうきくさ科植物;カトレア属植物、シンビジウム属植物、デンドロビューム属植物、ファレノプシス属植物、バンダ属植物、パフィオペディラム属植物、オンシジウム属植物等が含まれる、らん科植物;がま科植物、みくり科植物、ひるむしろ科植物、いばらも科植物、ほろむいそう科植物、おもだか科植物、とちかがみ科植物、ほんごうそう科植物、いね科植物、かやつりぐさ科植物、やし科植物、さといも科植物、ほしぐさ科植物、つゆくさ科植物、みずあおい科植物、いぐさ科植物、びゃくぶ科植物、ゆり科植物、ひがんばな科植物、やまのいも科植物、あやめ科植物、ばしょう科植物、しょうが科植物、かんな科植物、ひなのしゃくじょう科植物等を例示することができる。
【0026】
また、双子葉植物としては、例えばアサガオ属植物(アサガオ)、ヒルガオ属植物(ヒルガオ,コヒルガオ,ハマヒルガオ)、サツマイモ属植物(グンバイヒルガオ、サツマイモ)、ネナシカズラ属植物(ネナシカズラ、マメダオシ)が含まれるひるがお科植物;ナデシコ属植物(カーネーション等)、ハコベ属植物、タカネツメクサ属植物、ミミナグサ属植物、ツメクサ属植物、ノミノツヅリ属植物、オオヤマフスマ属植物、ワチガイソウ属植物、ハマハコベ属植物、オオツメクサ属植物、シオツメクサ属植物、マンテマ属植物、センノウ属植物、フシグロ属植物、ナンバンハコベ属植物が含まれるなでしこ科植物;もくまもう科植物、どくだみ科植物、こしょう科植物、せんりょう科植物、やなぎ科植物、やまもも科植物、くるみ科植物、かばのき科植物、ぶな科植物、にれ科植物、くわ科植物、いらくさ科植物、かわごけそう科植物、やまもがし科植物、ぼろぼろのき科植物、びゃくだん科植物、やどりぎ科植物、うまのすずくさ科植物、やっこそう科植物、つちとりもち科植物、たで科植物、あかざ科植物、ひゆ科植物、おしろいばな科植物、やまとぐさ科植物、やまごぼう科植物、つるな科植物、すべりひゆ科植物、もくれん科植物、やまぐるま科植物、かつら科植物、すいれん科植物、まつも科植物、きんぽうげ科植物、あけび科植物、めぎ科植物、つづらふじ科植物、ろうばい科植物、くすのき科植物、けし科植物、ふうちょうそう科植物、あぶらな科植物、もうせんごけ科植物、うつぼかずら科植物、べんけいそう科植物、ゆきのした科植物、とべら科植物、まんさく科植物、すずかけのき科植物、ばら科植物、まめ科植物、かたばみ科植物、ふうろそう科植物、あま科植物、はまびし科植物、みかん科植物、にがき科植物、せんだん科植物、ひめはぎ科植物、とうだいぐさ科植物、あわごけ科植物、つげ科植物、がんこうらん科植物、どくうつぎ科植物、うるし科植物、もちのき科植物、にしきぎ科植物、みつばうつぎ科植物、くろたきかずら科植物、かえで科植物、とちのき科植物、むくろじ科植物、あわぶき科植物、つりふねそう科植物、くろうめもどき科植物、ぶどう科植物、ほるとのき科植物、しなのき科植物、あおい科植物、あおぎり科植物、さるなし科植物、つばき科植物、おとぎりそう科植物、みぞはこべ科植物、ぎょりゅう科植物、すみれ科植物、いいぎり科植物、きぶし科植物、とけいそう科植物、しゅうかいどう科植物、さぼてん科植物、じんちょうげ科植物、ぐみ科植物、みそはぎ科植物、ざくろ科植物、ひるぎ科植物、うりのき科植物、のぼたん科植物、ひし科植物、あかばな科植物、ありのとうぐさ科植物、すぎなも科植物、うこぎ科植物、せり科植物、みずき科植物、いわうめ科植物、りょうぶ科植物、いちやくそう科植物、つつじ科植物、やぶこうじ科植物、さくらそう科植物、いそまつ科植物、かきのき科植物、はいのき科植物、えごのき科植物、もくせい科植物、ふじうつぎ科植物、りんどう科植物、きょうちくとう科植物、ががいも科植物、はなしのぶ科植物、むらさき科植物、くまつづら科植物、しそ科植物、なす科植物(トマト等)、ごまのはぐさ科植物、のうぜんかずら科植物、ごま科植物、はまうつぼ科植物、いわたばこ科植物、たぬきも科植物、きつねのまご科植物、はまじんちょう科植物、はえどくそう科植物、おおばこ科植物、あかね科植物、すいかずら科植物、れんぷくそう科植物、おみなえし科植物、まつむしそう科植物、うり科植物、ききょう科植物、きく科植物等を例示できる。
【0027】
〔本発明に係るキットの構成:ppGalNAcT遺伝子を備える形態〕
本発明に係るキットが備えるppGalNAcT遺伝子としては、上述のppGalNAcTとしての活性を有するポリペプチドをコードするものである限り、特に限定されない。例えば、ヒト等の哺乳類動物、鳥類、爬虫類等の様々な生物に由来するppGalNAcT遺伝子が、本発明に係るキットに包含され得る。より具体的には、GalNAc‐T2(例えばGenBankアクセッション番号NM_004481)、GalNAc‐T1(例えばGenBankアクセッション番号NM_020474)が例示される。
【0028】
また、本発明に係るキットが包含し得るポリヌクレオチドとしては、上述した具体例のポリヌクレオチドの相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、ppGalNAcT活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド等を挙げることができる。なお、ここでストリンジェントな条件でハイブリダイズするとは、60℃で2×SSC洗浄条件下で結合することを意味する。上記ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行なうことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(ハイブリダイズしにくくなる)。
【0029】
ppGalNAcT遺伝子を取得する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法により、上述した哺乳類動物等から単離することができる。例えば、既知のppGalNAcT遺伝子の塩基配列に基づき作製したプライマー対を用いて、上述の哺乳類動物等のcDNA又はゲノミックDNAを鋳型としてPCRを行なうこと等によりppGalNAcT遺伝子を得ることができる。また、ppGalNAcT遺伝子は、従来公知の方法により化学合成して得ることもできる。
【0030】
本発明に係るキットは、ppGalNAcT遺伝子を発現させるための発現ベクターを備えるものであってもよい。ppGalNAcTの発現ベクターとしては、ppGalNAcT遺伝子とプロモーターとを含めば特に限定されるものではない。
【0031】
発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、又はコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、本発明に係るキットを用いて、ppGalNAcT遺伝子を備えるベクターを、アグロバクテリウム法により植物体に導入する場合、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
【0032】
上記プロモーターは、植物体内で遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、アクチンプロモーター、ノパリン合成酵素のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニットプロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター又はアクチンプロモーターをより好ましく用いることができる。上記各プロモーターを用いれば、得られる発現ベクターでは、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。
【0033】
上記プロモーターは、転写因子をコードする遺伝子を発現しうるように連結され、ベクター内に導入されていればよく、発現ベクターとしての具体的な構造は特に限定されるものではない。
【0034】
上記発現ベクターは、上記プロモーター及びppGalNAcT遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選択マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記発現ベクターは、さらにT‐DNA領域を有していてもよい。T‐DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
【0035】
ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることができる。上記発現ベクターにおいては、ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成したり、強力なプロモーターがプラスミドのコピー数を減少させたりするような現象の発生を防止することができる。
【0036】
上記選択マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。これにより、上記抗生物質を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選別することができる。
【0037】
上記翻訳効率を高めるためのポリヌクレオチドとしては、例えばタバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、上記転写因子をコードする遺伝子の翻訳効率を高めることができる。このように、上記発現ベクターには、その目的に応じて、さまざまなDNAセグメントを含ませることができる。
【0038】
発現ベクターを構築する具体的な方法としては、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター及びppGalNAcT遺伝子、並びに必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入する方法が例示される。また、ppGalNAcT遺伝子とプロモーターと(必要に応じてターミネーター等)とを連結して発現カセットを構築し、これをベクターに導入すればよい。
【0039】
発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、ppGalNAcT遺伝子、ターミネーターの順となっていればよい。また、発現ベクターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素やライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
【0040】
また、上記発現ベクターの増殖方法(生産方法)も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。一般的には大腸菌をホストとして当該大腸菌内で増殖させればよい。このとき、ベクターの種類に応じて、好ましい大腸菌の種類を選択してもよい。
【0041】
なお、本発明に係るキットは、上述した発現ベクターの母体となるベクター、プロモーター、選択マーカー、翻訳効率を高めるためのポリヌクレオチド、ターミネーターを、ppGalNAcT遺伝子とは別の容器に包含させた上で、備えていてもよい。
【0042】
〔本発明に係るキットの構成:ppGalNAcTを備える形態〕
本発明に係るキットが備えるppGalNAcTとしては、ppGalNAcT活性を有するポリペプチドであれば限定されない。なお、本明細書において、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」又は「タンパク質」と交換可能に使用される。
【0043】
例えば、本発明に係るキットが備えるppGalNAcTとしては、上述のppGalNAcT遺伝子によりコードされるものであってもよい。
【0044】
また、天然の精製産物、化学合成手順の産物、及び原核生物宿主又は真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。また、組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、ミリスチル化され得るか、又は非ミリスチル化され得る。さらに、本発明にかかるポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0045】
また、本発明に係るキットが備えるppGalNAcTは、従来公知のタンパク質保存用試薬に予め溶解されていてもよい。
【0046】
〔その他の構成〕
本発明に係るキットは、本発明の効果を損なわない範囲で様々な他の試薬等を備えていてもよい。O型糖鎖はN‐アセチルガラクトサミンを基本骨格として、ガラクトース、N‐アセチルグルコサミン、シアル酸等の他の糖及び/又は酸により構成される。そこで、本発明に係るキットは、O型糖鎖を構成する糖及び/又は酸の転移酵素を含んでいてもよい。このような転移酵素としては、ガラクトース転移酵素、ST6GALNAC1(alpha-N-acetyl-neuraminyl-2,3-beta-galactosyl-1,3)-N-acetylgalactosaminide alpha-2,6-sialyltransferase 1(GenBankアクセッション番号 NC_000017)、core 1 synthase, glycoprotein-N-acetylgalactosamine 3-beta-galactosyltransferase, 1(GenBankアクセッション番号 NC_000007)、UDP-GlcNAc:betaGal beta-1,3-N-acetylglucosaminyltransferase 6 (core3 synthase)(GenBankアクセッション番号 NC_000011)、ST3 beta-galactoside alpha-2,3-sialyltransferase 1(GenBankアクセッション番号 NM_003033)等が好ましく例示できる。また、例えば、Varki, Ajit; Cummings, Richard; Esko, Jeffrey; Freeze, Hudson; Hart, Gerald; Marth, Jamey., Essentials of Glycobiology., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999, のChapter 8、Fig. 8-3, 8-4, 8-5, 8-6に記載されているO型糖鎖結合タンパク質の合成工程における各工程を触媒する酵素を備えていてもよい。
【0047】
なお、ppGalNAcT以外の酵素であって、O型糖鎖を構成する糖又は酸の転移酵素を、説明の便宜のため「更なる転移酵素」と表記する。本発明に係るキットが更なる転移酵素を備えることで、任意のO型糖鎖を、標的タンパク質に結合させることができる。
【0048】
本発明に係るキットは、上記更なる転移酵素をコードするポリヌクレオチドを含んでもよい。また、これらのポリヌクレオチドの相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、それぞれの酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド等を包含してもよい。
【0049】
上記更なる転移酵素をコードするポリヌクレオチドを取得する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法により、多くの哺乳類動物、鳥類、爬虫類等から単離することができる。例えば、既知のガラクトース転移酵素をコードする遺伝子の塩基配列に基づき作製したプライマー対を用いることができる。このプライマー対を用いて、上述の哺乳類動物等のcDNA又はゲノミックDNAを鋳型としてPCRを行なうこと等によりポリヌクレオチドを得ることができる。また、更なる転移酵素をコードするポリヌクレオチドは、従来公知の方法により化学合成して得ることもできる。
【0050】
これらのポリヌクレオチドについては、ppGalNAcT遺伝子とは容器を分けて、別の容器に入れて提供してもよい。
【0051】
また、本発明に係るキットが上記更なる転移酵素のポリヌクレオチドを備える場合、当該ポリヌクレオチドを備える発現ベクターの形態であってもよい。この発現ベクターについては、上述したppGalNAcTの発現ベクターの説明に準じる。
【0052】
なお、本発明に係るキットにおいて、更なる転移酵素をコードするポリヌクレオチドは、上述のppGalNAcTの発現ベクターに導入されていてもよく、ppGalNAcTの発現ベクター及び更なる転移酵素の発現ベクターを別々の発現ベクターとしてもよい。
【0053】
また、本発明に係るキットは標的タンパク質及び/又は標的タンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、「標的タンパク質遺伝子」という。)を備えている形態であってもよい。標的タンパク質遺伝子は、ppGalNAcT遺伝子とは別々の発現ベクターに導入されていてもよく、一つの発現ベクターに両方の遺伝子が導入されていてもよい。この形態は、標的タンパク質として植物が有していないものを採用する場合において有効である。当該形態に係るキットによれば、当該キットの利用者は標的タンパク質及び/又は標的タンパク質遺伝子を別途調整する必要がなく、より簡便にO型糖鎖結合タンパク質を製造することができるからである。
【0054】
また、本発明に係るキットが包含し得る他の試薬等としては、ここまで説明したものに限定されるものではない。例えば、ppGalNAcT、上記更なる転移酵素、標的タンパク質、これらをコードするポリヌクレオチドを安定的に保持するための試薬、バッファー等を含んでもよいし、当該ポリヌクレオチドをベクターに導入するための制限酵素、リガーゼ等の試薬を含んでもよい。また、植物細胞、植物からの抽出物を含んでもよいし、当該ポリヌクレオチドを植物細胞に導入するための試薬を含んでもよい。また、本発明に係るキットは、複数の異なる試薬を、適切な容量及び/又は形態で混合していてもよいし、それぞれ別の容器により提供してもよい。
【0055】
なお、本明細書中において使用される場合、用語「キット」は、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュ等)を備えた包装が意図される。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備える」は、ppGalNAcT及び/又はppGalNAcT遺伝子が、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図される。このときppGalNAcT及び/又はppGalNAcT遺伝子は、特に限定されないが、従来公知の緩衝液等の保存液に溶解された状態であってもよいし、精製された状態であってもよい。また、本発明に係るキットは、上述のppGalNAcT、上記更なる転移酵素、標的タンパク質、これらをコードするポリヌクレド、その他の試薬等を同一の容器に混合して備えても別々の容器に備えてもよい。
【0056】
また、本発明に係るキットには、植物においてO型結合タンパク質を製造するための手順等を記載した指示書を含んでもよい。紙又はその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能なディスク又はCD−ROM等のような電子媒体に付されてもよい。
【0057】
〔本発明に係るキットの使用方法〕
本発明に係るキットの使用方法の例を以下に説明するが、これに限定されるものではなく、植物においてO型糖鎖結合タンパクを製造可能なように使用すればよい。
【0058】
本発明に係るキットがppGalNAcT遺伝子を備えている場合、当該ppGalNAcT遺伝子を、植物又は植物からの抽出物等の中で発現させてもよい。ppGalNAcT遺伝子を発現させる方法としては、特に限定されず、上述の発現ベクターを用いる等、従来公知の植物内での遺伝子発現方法を用いてもよい。
【0059】
また、標的タンパク質については、セリン残基及び/又はスレオニン残基が含まれていればよい。例えば、標的タンパク質としては、植物が有しているポリペプチド(以下、「内在タンパク質」という。)でもよく、植物以外の生物が有しているポリペプチド(以下、「外来タンパク質」という。)でもよい。
【0060】
内在タンパク質としては、例えば、グルテリン(Glutelin、例えばコメ由来のものなど)(Kishimoto T, Watanabe M, Mitsui T, Hori H.Glutelin basic subunits have a mammalian mucin-type O-linked disaccharide side chain.Arch Biochem Biophys. 1999 Oct 15;370(2):271-277)等を挙げることができる。
【0061】
外来タンパク質としては、例えば、エリスロポエチン、Synthetic peptide(例えばOtvos,L. Jr., Krivuika. et al., Biochim. Biophys. Acta., 1995, 1267, 55-64を参照)、ムチン(例えばShogren, R., et al., Biochemistry, 1989, 28, 5525-5536を参照)、HSP−1、HSP−2(熱ショックタンパク質、例えばCalvete, J. J., et al., Biochem. J., 1995, 310, 615-622を参照)、T1 fragment of glycophorin A(例えばPieper, J., et al., Nat. Struct. Biol., 1996, 3, 228-232を参照)、DAF(崩壊促進因子、例えば、Coyne, K. E., et al., J. Immunol., 1992, 149, 2906-2913を参照)、G−CSF(顆粒球コロニー刺激因子、例えばOh-eda, M., et al., J. Biol. Chem., 1990, 265, 11432-11435を参照)、PSGL−1(P−selection glycoprotein ligand−1、例えばMaly, P., et al., Cell, 1996, 86, 643-653を参照)、ZP−3(卵膜蛋白(zona pellucida protein 3)、例えば、Yurewicz, E. C., et al., Mol. Reprod. Dev., 1992, 33, 182を参照)、Peptides in MHC(major histocompatibility complex)−groove(例えば、Haurum, J.S., et al., J. Exp. Med., 1994, 180, 739-744、Haurum, J.S., et al., Eur. J. Immunol., 1995, 25, 3270-3276を参照)、InterLeukin−5(例えば、Kodama, S., et al., Eur. J. Biochem., 1993, 211, 903-908を参照)、Lactase−phlorizin hydrolase(例えば、Naim, H. Y., and Lentze, M. J., J. Biol. Chem., 1992, 267, 25494-25504)、Glycophorin A(例えば、Remaley, A. T., J. Biol. Chem., 1991, 266, 24176-24183を参照)、GF−II(insulin−like growth factor II、例えば、Daughaday, W.H., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 1993, 90, 5823-5827を参照)。
【0062】
内在タンパク質にN‐アセチルガラクトサミンを結合させる場合、植物細胞又は抽出物内にppGalNAcT遺伝子を導入して、内在タンパク質をコードするポリヌクレオチドと共に発現させてもよく、植物の抽出物にppGalNAcTを混合してもよい。
【0063】
外来ポリペプチドにN‐アセチルガラクトサミンを結合させる場合、ppGalNAcT遺伝子を発現させる植物細胞又は抽出物内に、当該外来ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを併せて導入してこれを発現させてもよく、抽出物内にppGalNAcT及び当該外来タンパク質を混合してもよい。
【0064】
植物に対するppGalNAcT遺伝子及び標的タンパク質遺伝子の導入方法としては特に限定されるものではなく、従来公知の植物の形質転換方法を用いてもよい。例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法等が用いられる。アグロバクテリウム法を用いる場合は、上述の発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著,植物遺伝子操作マニュアル,1990,27‐31pp,講談社サイエンティフィック,東京)などにしたがって無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。
【0065】
ppGalNAcT遺伝子及び標的タンパク質遺伝子は、別々の発現ベクターに導入されていてもよく、一つの発現ベクターに両方の遺伝子が導入されていてもよい。
【0066】
ppGalNAcT遺伝子及び標的タンパク質遺伝子を、別々の発現ベクターに導入した場合、それぞれの発現ベクターを用いた形質転換は、一度に行なってもよく、二段階で行なってもよい。「二段階で形質転換を行なう」とは、いずれか一方の発現ベクターを導入して、当該発現ベクターの導入が確認された形質転換植物に対して、他方の発現ベクターを導入することをいう。このように二段階で形質転換を行なうことで、最初に導入した方の発現ベクターを最も安定して高発現する植物を予め選抜することができる。ここで選抜された植物に他方の発現ベクターを導入すれば、両者の発現ベクターがそれぞれ安定して高発現する植物を高確率に取得することが可能となる。それゆえ、O型結合タンパク質を高生産することができる植物を少ない労力と時間で取得することができ、その結果、効率よく、かつ、安価、安全に有用タンパク質を大量生産することが可能になる。
【0067】
また、本発明に係るキットがppGalNAcTを備える形態である場合、その使用方法としては、特に限定されるものではないが、例えば植物の抽出物にppGalNAcTを混合してもよい。
【0068】
植物の抽出物としては、植物から抽出したものである限り、特に限定されるものではなく、例えば従来公知の溶媒を用いて抽出したものであってもよいし、植物をすり潰して濾過したり、搾り取ったりして得たものでもよい。
【0069】
<2.本発明に係る植物>
本発明に係る植物は、ppGalNAcT遺伝子、及びN‐アセチルガラクトサミンを結合させる対象のポリペプチド(標的タンパク質)をコードするポリヌクレオチド(標的タンパク質遺伝子)を備えていればよい。
【0070】
例えば、植物の染色体、ミトコンドリア等に存在するゲノム中に、ppGalNAcT遺伝子及び標的タンパク質遺伝子が導入されていてもよい。
【0071】
植物に対する遺伝子の導入方法、遺伝子を導入する植物の形態、種類等については、本発明に係るキットについて説明した事項に準じればよい。なお、標的タンパク質として植物が有しているものを採用する場合、ppGalNAcT遺伝子のみを植物に導入してもよいし、標的タンパク質をさらに高発現させるため、両方の遺伝子を植物に導入してもよい。
【0072】
<3.組成物>
本発明に係るO型糖鎖結合タンパク質を製造するための組成物(以下、「本発明に係る組成物」という。)は、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素(ppGalNAcT)、及びそれをコードするポリヌクレオチド(ppGalNAcT遺伝子)のうちの少なくとも一つを含めばよい。
【0073】
本発明に係る組成物において、ppGalNAcTを包含する場合、その濃度としては特に限定されない。この場合、従来公知のタンパク質用緩衝液にppGalNAcTを溶解したものであってもよい。このような緩衝液としては、ppGalNAcTを保存可能であれば限定されないが、例えば、次の文献にて、酵素活性を測定する際に用いられている緩衝液を使用することができる。Wandall HH, et al., J Biol Chem., 1997 Sep 19;272(38):23503-23514、Zhang Y, et al., J Biol Chem., 2003, Jan 3;278(1):573-584、Bennett EP, et al, J Biol Chem., 1998, Nov 13;273(46):30472-30481。また、例えば、Iwasaki H, et al., J Biol Chem., 2003, Feb 21;278(8):5613-5621には、25mM Tris−HCl (pH 7.4), 5mM MnCl, 0.1% Triton X−100の混合液を、保存用の緩衝液として使用できる。また、これらの緩衝液にはグリセロール等の酵素安定化剤を包含させてもよい。
【0074】
また、本発明に係る組成物において、ppGalNAcT遺伝子を包含する場合、その濃度としては特に限定されない。また、ppGalNAcT遺伝子は、従来公知の核酸保存用の緩衝液に溶解されていればよい。
【0075】
本発明に係る組成物は、上述した更なる転移酵素及び/又はこれをコードするポリヌクレオチド、標的タンパク質及び/又は標的タンパク質遺伝子を含んでいてもよい。
【0076】
<4.本発明に係るO型糖鎖結合タンパク質の製造方法1>
本発明に係るO型糖鎖結合タンパク質の製造方法としては、植物内又は植物の抽出物内で、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素を合成する合成工程を含んでいてもよい。
【0077】
上記合成工程の具体的な方法としては、植物内又は植物の抽出物内でppGalNAcTを合成させることが可能であれば、特に限定されない。
【0078】
例えば植物内でppGalNAcT遺伝子を発現させてもよい。この場合、上記合成工程は、植物細胞内にppGalNAcT遺伝子を導入する導入工程を行ない、次に、ppGalNAcT遺伝子が導入された植物細胞を培養する培養工程を行なう工程であってもよい。
【0079】
上記導入工程としては、植物細胞内にppGalNAcT遺伝子を導入する工程である限り限定されない。例えば、上述した従来公知の植物の形質転換方法を用いてもよい。
【0080】
上記培養工程では、ppGalNAcT遺伝子が導入された植物細胞を、培養細胞の状態で維持してもよいし、葉、根、茎等の組織に分化させてもよいし、完全な植物体に再生してもよい。また、植物の抽出物内でppGalNAcTを合成させてもよい。例えば、ppGalNAcT遺伝子を植物抽出物内に混合した上で、無細胞発現系によりppGalNAcTを発現させてもよい。
【0081】
上記合成工程の後は、植物内又は植物の抽出物からO型糖鎖結合タンパク質を精製してもよい。O型糖鎖結合タンパク質の精製については、従来公知のN型糖鎖タンパク質の精製方法を適用してもよい。例えば、O型糖鎖結合タンパク質を特異的に認識するレクチンを用いてもよい。
【0082】
<5.本発明に係るO型糖鎖結合タンパク質の製造方法2>
本発明に係るO型糖鎖結合タンパク質の製造方法としては、植物の抽出物に、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素を混合する混合工程を含んでいてもよい。
【0083】
上記混合工程の具体的な方法としては、植物の抽出物にppGalNAcTを混合する限り、特に限定されない。例えば、単に植物の抽出物にppGalNAcTを滴下するだけでもよく、攪拌してもよい。植物の抽出物中に含まれるUDP−GalNAcを基質としてO型糖鎖が生成される。また、植物の抽出物中にUDP−GalNAcが含まれない場合は別途添加すればよいし、含まれる場合であっても、さらに添加してもよい。
【0084】
上記混合工程の後は、植物の抽出物からO型糖鎖結合タンパク質を精製すればよい。O型糖鎖結合タンパク質の精製については、従来公知の型糖鎖結合タンパク質の精製方法を用いて行なえばよい。
【0085】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0086】
<実施例1.形質転換植物細胞の作出>
ヒト組織から、ppGalNAcT遺伝子及びガラクトース転移酵素遺伝子をクローニングした。
【0087】
ppGalNAcT遺伝子については、次の方法で得た。肝臓由来ヒトcDNAライブラリーを鋳型(ORIGENE TECHNOLOGIES INC. Multiple Choice(TM) Human cDNA)とし、プライマーU1−F(5'-GGCGGATCCAAGGAGATATAACAATGAGAAAATTTGCATACTGCAAGGTGGTC-3')(配列番号1)およびU1−R(5'-GGCGAGCTCTCAGAATATTTCTGGCAGGGTGACGTTTCG-3')(配列番号2)を用いたPCRで増幅することで、ppGalNAcT遺伝子を含むDNA断片を得た。これをBamHIおよびSacIで切断後、TiプラスミドpBI121のBamHI/SacIサイトに導入し、プラスミドpBI‐GalNAc‐T1を構築した。
【0088】
ガラクトース転移酵素遺伝子について、次の方法で得た。肝臓由来ヒトcDNAライブラリーを鋳型(ORIGENE TECHNOLOGIES INC. Multiple Choice(TM) Human cDNA)を鋳型とし、プライマーGT−F(5'-GGCGGATCCAAGGAGATATAACAATGGCCTCTAAATCCTGGCTGAATTTTTTA-3')(配列番号3)およびGT−R(5'-GGCGAGCTCTCAAGGATTTCCTAACTTCACTTTTGTATC-3')(配列番号4)を用いたPCRで増幅することにより、ガラクトース転移酵素遺伝子を含むDNA断片を得た。これをBamHIおよびSacIで切断後、pBI121のBamHI/SacIサイトに導入し、プラスミドpBI―C1GALT1を構築した。
【0089】
次に、それぞれのベクターを共にタバコBY2培養細胞にアグロバクテリウム法によりco‐transformation形質転換した。得られた形質転換細胞から、mRNAを調製して、N‐アセチルガラクトサミン転移酵素遺伝子及びガラクトース転移酵素遺伝子の発現をノーザン分析により確認した。そして、両方の転移酵素遺伝子を共に発現する形質転換細胞を選抜した。なお、この実験に供した植物細胞300個のうち、両方の転移酵素遺伝子を共に発現する形質転換細胞は2個であった。このうち、mRNA量の高かった形質転換細胞(以下、「TX13株」という。)をさらに選抜して、Murashige‐Skoog培地を用いて懸濁培養した。
【0090】
<実施例2.O型糖鎖結合タンパク質の確認>
実施例1にて懸濁培養したTX13株を、1.5mlの175mM Tris‐HCl緩衝液(pH7.5)に懸濁させた。得られた懸濁液中の細胞を乳鉢及び乳棒を用いてホモジナイズした後、遠心分離(8,000rpm、15分、4℃)に供した。次に上澄み(細胞抽出液)を回収した。同様にして、非形質転換BY2細胞(以下、「BY2野生株」という。)から細胞抽出液を調製した。
【0091】
次に、TX13株及びBY2野生株から得た細胞抽出液を、それぞれレクチンカラムに通じさせ、糖タンパク質をレクチンに吸着させた。非吸着画分については廃棄した。なお、レクチンカラムとしては、ジャッカリン(Jacalin)レクチン0.5mlを、Bio‐Rad社製カラム(品番737−1006 内径1cm 長さ5cm)に充填したものを用いた。ジャッカリンは、Galβ(1‐3)GalNAc構造を認識する。
【0092】
次に、20mlの175mM Tris‐HCl緩衝液(pH7.5)でレクチンカラムを洗浄して、溶出液を回収した。さらに、10mMのメチルガラクトピラノシドを含む175mM Tris‐HCl緩衝液(pH7.5)により、吸着したタンパク質を溶出して、1ml(フラクション1)、1ml(フラクション2)、1ml(フラクション3)、1ml(フラクション4)、6ml(フラクション5)として回収した。
【0093】
次に、各細胞抽出液に由来するフラクション1〜3を、12.5%SDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。結果を図1に示す。図1は、本実施例における電気泳動の結果を示す図であり、図1の(a)はTX13株の細胞抽出液を用いた結果を示し、(b)はBY2野生株の細胞抽出を用いた結果を示す。また、図1の(a)及び(b)において各レーンの上に示す番号はフラクションの番号を示しており、「2&3」はフラクション2及び3の混合物を電気泳動に供したことを示している。
【0094】
図1の(a)の三角印にて示すように、TX13株の細胞抽出液では、BY2野生株の細胞抽出からは確認されなかったレクチン結合性タンパク質が確認された。
【0095】
次に、各細胞抽出液に由来するフラクション1及び2を超純水に対して透析した後、凍結乾燥した。得られた生成物を0.2M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)に溶解した後、α‐N‐アセチルガラクトサミニダーゼ(生化学工業社製)を加えて、3日間37℃に保温した。なお、本明細書の実施例において「超純水」とは、Milli‐Qシステム(ミリポア社製)を用いて精製した水である。
【0096】
次に、保温後の溶液をCarbograph(GL‐Science社製)を用いて精製した。まず、当該溶液をCarbographに通し、次に5mlの50mM 酢酸アンモニウム(pH7.0)で洗浄し、60%アセトニトリルを含有する50mM 酢酸アンモニウム(pH7.0)で糖鎖を溶出した。次に、得られた溶液を凍結乾燥した。
【0097】
凍結乾燥後の試料にPA化試薬(2‐アミノピリジン(Wako社製)552mgに対して200μlの酢酸(Wako社製)を混合したもの)を適量加えて、90℃で1時間インキュベートした。次に、試料を室温で冷却した後、等量の還元試薬(ジメチルアミノボラン(Wako社製)39mgに対して200μlの酢酸を混合したもの)を加えて、80℃で40分間インキュベートした。次に、反応停止のために等量の蒸留水を加えた。
【0098】
得られた溶液に、超純水飽和のフェノール溶液:クロロホルム溶液(1:1)を等量加えて、未反応のPA化試薬を抽出した。この抽出の操作を再度繰り返した。次に、クロロホルム溶液を混合して、得られた水層部分を抽出した。
【0099】
次に、抽出液を、常温で真空下に静置することで10分の1の液量まで濃縮して、液体クロマトグラフィー(HPLC)による解析に供した。
【0100】
また、コントロールとして、市販のGalβ(1‐3)GalNAc(Tronto Research Chemicals社製)に対しても同様の操作を行ない、HPLCに供した。即ち、Galβ(1‐3)GalNAc 1mgに対して上記PA化試薬を適量加えて、90℃で1時間インキュベートした。
【0101】
次に、試料を室温で冷却した後、等量の上記還元試薬を加えて、80℃で40分間インキュベートした。次に、反応停止のために等量の蒸留水を加えた。その後、超純水飽和のフェノール溶液:クロロホルム溶液(1:1)を等量加えて、未反応のPA化試薬を抽出した。この抽出の操作を再度繰り返した後、クロロホルム溶液を混合して、得られた水層部分を抽出した。この抽出液を常温で真空下に静置することで10分の1の液量まで濃縮して、HPLCに供した。
【0102】
HPLCによる解析については、次のようにして行なった。試料に対して、アセトニトリルが全量の80%となるように加えて、HPLC(SF‐HPLC)に供した。HPLCのカラムとしては、アミドカラム(Showa denko社製、型名:Asahipak NH2P‐50;4.6×250nm)を用いた。HPLCの装置としてはHITACHI FL Detector L‐7480を備えるHITACHI HPLCシステムを用いた。展開溶媒及びグラジェント等の詳細な条件は次の通りである。
展開溶媒:80%アセトニトリル
グラジェント:アイソクラチック
流速:0.7ml/分
検出:蛍光(Ex;310nm、Em;380nm)
カラム温度:30℃
結果を図2に示す。図2は、本実施例におけるHPLCの結果を示す図である。
【0103】
図2に示すように、TX13株の細胞抽出液を用いた結果、コントロールに由来するGalβ(1‐3)GalNAc‐PAと同じ位置にピークを検出した。このピークの溶出画分を分離精製した。このことから、TX13株の細胞抽出液にN‐アセチルガラクトサミンで修飾されたタンパク質が含まれていることが確認できた。
【0104】
次に、精製して得られたタンパク質(PA化糖鎖、上記フラクション2)の分子量をMALDI‐TOF‐MSにより測定した。装置としてautoflex(Bruker Daltonics社製)を用いた。レーザー強度を1800〜2000mbarとし、3.0×e−7以下の真空下でデータを得た。マトリックス試薬としては、蒸留水:アセトニトリルを1:1で混合した溶液に、10mgの2,5‐ジヒドロキシ安息香酸(Sigma社製)を混合した溶液を用いた。また、PA化糖鎖を溶解した蒸留水に、等量のマトリックス試薬を混合して、この内2μlをターゲットに置き、室温で乾燥させることで結晶化させた後、Reflector mode分析を行なった。
【0105】
結果を図3に示す。図3は本実施例のMALDI‐TOF‐MSの結果を示す図であり、図3の(a)はTX13細胞由来のPA化糖鎖の分子量を測定した結果を示し、図3の(b)はコントロールに由来するGalβ(1‐3)GalNAc‐PAの分子量を測定した結果を示す。
【0106】
図3の(a)及び(b)に示すように、TX13細胞由来のPA化糖鎖の分子量(m/z for [M+Na]=482)は、コントロール由来のGalβ(1‐3)GalNAc‐PAの分子量と同じであり、また構造から推測される分子量(483.5)とほぼ一致した。
【0107】
以上の結果から、植物細胞に導入したN‐アセチルガラクトサミン転移遺伝子及びガラクトース転移遺伝子が機能し、植物タンパク質にO型糖鎖を結合できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係るキットを用いれば、植物においてO型糖鎖をタンパク質に結合させることが可能となるので、有用タンパク質を植物で生産することができる。よって、本発明は、植物の工業的利用用途の拡大に寄与すると共に、医薬品産業、食品産業等の幅広い産業において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】実施例2における電気泳動の結果を示す図であり、(a)はTX13株の細胞抽出液を用いた結果を示し、(b)はBY2野生株の細胞抽出を用いた結果を示す。
【図2】実施例2におけるHPLCの結果を示す図である。
【図3】実施例2におけるMALDI‐TOF‐MSの結果を示す図であり、(a)はTX13細胞由来のPA化糖鎖の分子量を測定した結果を示し、(b)はコントロールに由来するGalβ(1‐3)GalNAc‐PAの分子量を測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素、及びそれをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも一つを備えていることを特徴とする植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するためのキット。
【請求項2】
ガラクトース転移酵素、及びその酵素をコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも一つをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載のキット。
【請求項3】
ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素をコードするポリヌクレオチド、及びN‐アセチルガラクトサミンを結合させる対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを備えていることを特徴とする形質転換植物。
【請求項4】
ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素、及びそれをコードするポリヌクレオチドのうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする植物においてO型糖鎖結合タンパク質を製造するための組成物。
【請求項5】
植物内又は植物の抽出物内で、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素を合成する合成工程を含むことを特徴とするO型糖鎖結合タンパク質の製造方法。
【請求項6】
植物の抽出物に、ポリペプチドN‐アセチルガラクトサミン転移酵素を混合する混合工程を含むことを特徴とするO型糖鎖結合タンパク質の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−115043(P2011−115043A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84649(P2008−84649)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】