植物におけるエチレン感受性を調節する鍵となるエチレンホルモンシグナル伝達経路タンパク質の標的ターンオーバーの制御
植物細胞におけるエチレン応答の制御可能な発現についての遺伝子発現システムは活性化カセットおよび標的カセットを含み、活性化カセットは応答エレメントを認識するDNA結合ドメイン、エクジソン受容体リガンド結合ドメインおよび活性化ドメインを含み、標的カセットは誘導性プロモーターを含み、このプロモーターは応答エレメントと、活性化ドメインに対して応答性の最小プロモーターとを動作可能に関連して含む。誘導性プロモーターは選択された調節タンパク質をコードする核酸配列の発現を制御し、この調節タンパク質は植物における特定のシグナルタンパク質のエチレンに対する感受性を変調する。活性化カセットおよび標的カセットの構成要素間の相互作用は、誘導用組成物の存在下、植物細胞において、選択された調節タンパク質の発現を増大させ、ひいては植物におけるシグナルタンパク質の発現および蓄積を低減させ、それにより、植物細胞におけるエチレン感受性を低減させる。これは調節タンパク質の発現の増大は、特にエチレンの存在下において、誘導用組成物の添加のタイミング、濃度および期間によって制御される。トランスジェニック植物細胞、組織、器官および植物体が提供アズ−、これらは誘導用組成物の存在下でエチレン感受性を制御する。このようなトランスジェニック植物および組織におけるエチレン感受性および/またはエチレン生産は、成熟、花の老化および植物の他のエチレン感受性機能を操作する目的のために制御されうる。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
植物ホルモンであるエチレンは、発芽、花および果実の発生中の応答、並びに様々な環境ストレス要因、例えば、干ばつ、高温、過剰な塩分および病気などに対する植物の応答をはじめとする植物のライフサイクルにわたる多くの生理学的プロセスを調節するシグナル伝達分子である(例えば、Chenら、2005年Annals of Botany、95;901−915;Czarnyら、2006年 Biotechnol.Adv.、24:410−419を参照)。エチレン生合成経路およびシグナル伝達/調節経路並びにネットワークは充分に説明されている。例えば、The Plant Cell、2002年(編集者American Society of Plant Biologists)ページS131−S151、Wangらの「エチレン生合成およびシグナル伝達ネットワーク(Ethylene Biosynthesis and Signaling Networks)」における図1および2を参照。
【0002】
エチレンシグナル伝達経路におけるいくつかの鍵となるステップは植物において高度に調節されている。EIN2(エチレン非感受性2)およびEIN3(エチレン非感受性3)タンパク質の双方については、その発現はエチレンによって誘導され、これは増大したエチレン応答を導く。さらに、EIN2およびEIN3タンパク質の双方は、それぞれ、ETP1(EIN2標的タンパク質1)およびETP2(EIN1標的タンパク質2)またはEBF1(EIN3−結合Fボックスタンパク質1)およびEBF2(EIN3−結合Fボックスタンパク質2)によってターンオーバーのための標的にされる。これらの鍵となる応答シグナル伝達タンパク質のターンオーバーは、ホルモンであるエチレンの非存在下で抑制されているまたは「オフ」の状態に植物を維持するのを助ける。トランスジェニックシロイヌナズナにおけるETP1もしくはETP2(Qiaoら、Genes Dev.、23:000−000;2008年2月12日にオンラインで刊行)またはEBF1もしくはEBF2(GuoおよびEcker、2003、Cell、115:667−677)の構成的過剰発現は部分的なエチレン非感受性をもたらし、そしてEIN2もしくはEIN3タンパク質の蓄積をそれぞれ低減させた。
【0003】
商業的には、果実および野菜および花をはじめとする植物におけるエチレン応答を調節する一般的な方法は、植物、果実、花もしくは野菜に、例えば、1−メチルシクロプロペン(1−MCP、アグロウフレッシュ(AgroFresh)、インコーポレーティド)のような化学物質を添加することを伴う。1−MCPは、エチレンが植物組織におけるその受容体に結合するのを妨げる植物生長調節剤として使用される化合物である。エチレン感受性の一時的な消耗は、植物生長の商業的に価値のある操作のなかでもとりわけ、植物のストレスへの抵抗性もしくは耐性、熟成の遅れ、老化、もしくは開花を増大させうる。
【0004】
より最近では、例えば、特に、米国特許第6294716号、米国特許出願公開第2006/0200875号、2005/0066389号、2005/0060772号および2004/0128719号において、改変されたエチレン応答受容体または植物におけるエチレン応答に関連する他のタンパク質で植物細胞を遺伝的に形質転換する提案が示唆されてきた。このようなシステムはエチレン経路における様々な変異型遺伝子の発現に関連する。これらのシステムは一般に、様々な示唆されたプロモーターを使用して、構成的タンパク質および組織特異的タンパク質をはじめとするタンパク質の発現を進める。
【0005】
化学的に調節された遺伝子発現システムの使用が植物における使用に提案されてきており、概して(M.Padidim,2003 Curr.Opin Plant Biol.、6(2):169−77)、多くのこのようなシステムは実験的なもののみであり、または特定の欠点を有すると報告されてきた。これらの欠点の中には、とりわけ、毒性もしくは揮発性誘導剤、低い誘導レベル、植物における劣った転移/移動、植物に対して非毒性である誘導剤に対して遺伝子の発現を「オフ」にするゆっくりとした能力または不充分な特異性の使用がある。このような遺伝子発現システムは全ての植物において普遍的に有用ではなく、そしてその操作可能な構成要素の選択およびその組み立ては多くの場合困難である。
【0006】
先行技術の例においては、エチレン経路遺伝子の発現は典型的には、植物の全ての組織および部分において常にオンであり、または植物の特定の組織において常にオンである。しかし、組織特異的プロモーターまたは低レベル構成的プロモーターはリーキーでありうるかまたは望まれない誘導剤によって誘導されうる。このような従来のプロモーターは植物におけるホルモン発現の厳密な調節を可能にしない。エチレン経路遺伝子の発現のタイミング、期間およびレベルは通常の生理学的機能のために重要である。自由自在でのおよび決定された期間でのエチレン非感受性の誘導は、先行技術によっては成功裏に示されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6294716号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0200875号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0066389号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0060772号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0128719号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chenら、2005年Annals of Botany、95;901−915
【非特許文献2】Czarnyら、2006年Biotechnol.Adv.、24:410−419
【非特許文献3】The Plant Cell、2002年(編集者American Society of Plant Biologists)ページS131−S151、Wangらの「エチレン生合成およびシグナル伝達ネットワーク(Ethylene Biosynthesis and Signaling Networks)」における図1および2
【非特許文献4】Qiaoら、Genes Dev.、23:000−000;2008年2月12日にオンラインで刊行
【非特許文献5】GuoおよびEcker、2003、Cell、115:667−677
【非特許文献6】M.Padidim,2003Curr.Opin Plant Biol.、6(2):169−77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
エチレン感受性の制御可能で一時的な調節を可能にする組成物および方法についての必要性が当該技術分野において存在している。これは、エチレンの存在によって直接その発現が誘導される遺伝子産物について特に重要である。このような組成物および方法は農作物および食品における、並びに他の植物における安全で効果的な使用のために必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に記載される組成物および方法は、エチレン感受性の調節が安全かつ確実に、例えば、一時的な、定性的なおよび/または定量的な方法で制御されうるトランスジェニック植物、植物細胞、組織、器官、果実もしくは花を提供することによって当該技術分野における必要性を満足する。これらの組成物および方法は遺伝子発現、ひいてはホルモン発現の厳密な調節を示し、かつ農作物および食品における使用に、並びに他の商業的に価値のある植物における使用に安全である。
【0011】
一形態においては、遺伝子発現システムは、特定のエチレン誘導性(ethylene−inducible)タンパク質の植物細胞における蓄積を制御可能に抑制するために提供される。このシステムは活性化カセットおよび標的カセットを含み、これらは1以上のプラスミド上に存在しうる。活性化カセットは好適なプロモーター、DNA結合ドメイン(DBD)、エクジソン受容体リガンド結合ドメイン(EcRLBD)および活性化ドメイン(AD)を含む。標的カセットは化学誘導プロモーター(これは化学誘導組織特異的プロモーターでありうる)を含み、このプロモーターはDBDが結合する応答エレメントと、ADに対して応答性の最小プロモーターとを動作可能に関連して含む。この化学誘導プロモーターは標的核酸配列の発現を制御し、この標的核酸配列は選択された調節タンパク質もしくはそのフラグメントをコードし、この調節タンパク質もしくはそのフラグメントは発現状態でEIN2もしくはEIN3遺伝子産物の発現を低減させるように機能する。2つのカセットの構成要素間の相互作用は、植物細胞内で誘導用組成物と共にある場合には、その調節タンパク質の発現を制御可能に増大させ、およびエチレンの存在下での植物におけるEIN2もしくはEIN3遺伝子産物の蓄積を抑制する。EIN2もしくはEIN3遺伝子産物の蓄積の抑制は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御されうる。誘導用組成物は植物の細胞によって吸収されることができおよび植物の細胞内に転移させられることができ、細胞内では誘導用組成物は活性化ドメインと相互作用して、標的カセットの化学誘導プロモーターをオンにする。よって、このシステムはエチレンの存在に対する植物の通常の反応(すなわち、エチレン誘導性タンパク質、例えば、EIN2もしくはEIN3の発現を増大させ、このことは植物における下流のエチレンシグナル伝達経路のさらなる活性化をもたらす)に打ち勝つのに充分に高いレベルで調節タンパク質を発現することにより、植物細胞におけるエチレン感受性の制御可能で選択的な調節を可能にする。
【0012】
別の実施形態においては、安定にもしくは一時的に上記遺伝子発現システムを発現する植物細胞が提供される。
別の実施形態においては、安定にもしくは一時的に上記遺伝子発現システムを発現する植物組織もしくは器官が提供される。
別の実施形態においては、安定にもしくは一時的に上記遺伝子発現システムを発現するトランスジェニック植物が提供される。
【0013】
別の実施形態においては、このようなトランスジェニック植物もしくはその部分を提供する方法は、植物における少なくとも1つの細胞を本明細書に記載される遺伝子発現システムで形質転換し;形質転換された植物細胞から植物細胞、組織、器官もしくは植物体(intact plant)を生じさせ;並びに、植物細胞、組織、器官もしくは植物体がエチレンの存在下で誘導用組成物と接触させられる場合にEIN2もしくはEIN3の蓄積の抑制もしくは低減を示す植物細胞、組織、器官もしくは植物体を選択することを伴う。上述のように、EIN2/EIN3タンパク質蓄積の調節は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御され、結果として充分に高レベルでの調節タンパク質の発現の増大をもたらす。誘導用組成物は植物細胞、組織、器官もしくは植物体によって吸収されることができ、またはそれらの中に転移されうる。
【0014】
さらなる形態においては、エチレン誘導タンパク質、例えば、EIN2もしくはEIN3の発現からもたらされる植物におけるエチレン感受性を制御する方法は、トランスジェニック植物もしくはその部分の細胞に誘導用組成物を適用することを伴い、その植物は本明細書において記載される遺伝子発現システムを安定的もしくは一時的に発現する細胞を含む。誘導用組成物は植物細胞によって吸収されることができ、または植物細胞内に転移されうる。誘導用組成物の存在下で、エチレンに対する植物細胞の応答、すなわち、EIN2もしくはEIN3の通常の増大、およびさらにはエチレンシグナル伝達経路の下流の活性化は選択された時間にわたって抑制されもしくは低減され;並びに、エチレンに対する植物細胞の応答は、植物から誘導剤をなくすることによって、選択された時間の後で増大させられる。このEIN2/EIN3タンパク質発現の調節は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間、並びに植物をエチレン非感受性にするのに充分高いレベルで調節タンパク質を発現するその能力によって制御される。ある実施形態においては、誘導用組成物のタイミング、濃度もしくは期間は調節タンパク質の過剰発現によって、エチレンの存在下で植物細胞中のエチレン誘導性シグナルタンパク質の蓄積を低減もしくは抑制するのを可能にする。
【0015】
これらの方法および組成物の他の形態および利点は以下の詳細な記載においてさらに説明される。
【発明の効果】
【0016】
本明細書に記載される組成物および方法は、植物におけるエチレン感受性の制御可能な調節のための組成物および方法についての当該技術分野における必要性に取り組む。より具体的には、本明細書において記載される組成物および方法は、選択された量の化学誘導剤の使用、並びにEIN2/EIN3調節タンパク質(それぞれ、ETP1およびETP2、もしくはEBF1およびEBF2)の高レベルの発現に基づく、エチレンにより誘導される(ethylene−induced)タンパク質、例えば、EIN2もしくはEIN3の発現レベルの意図的な変化が植物をエチレン非感受性にするのを可能にする。植物のホルモン調節を操作するこのような能力は、以下に記載される利点の中でも特に、農作物の生長および熟成についての農業的利点を提供する。
【0017】
本発明者は実際のエチレン非感受性を達成する鍵が、エチレンによって誘導されるシグナルタンパク質の量に打ち勝つために、鍵となるエチレン誘導性シグナルタンパク質のターンオーバーを標的にしている調節タンパク質の充分なレベルを得ることに依拠していることを決定した。植物をエチレンに対して非感受性にすることは、その植物に特定の利点、例えば、本明細書において論じられるようなストレスに対する耐性を提供する。しかし、エチレン感受性は植物の通常の成長および発達のためにある時点では必要とされる。よって、本明細書において論じられる組成物および方法は植物のエチレンに対する非感受性のレベルおよびタイミングを厳密に制御するのに有用であり、並びにその植物のさらなる通常の成長および発達を確実にするためにその植物をエチレン感受性の状態に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は実施例1および配列番号1に開示されるように特定されるカセットの構成要素を伴う、遺伝子発現システム(G10−90p−VGE−NosT−5xGAL−M35S−ETP1−35ST)の活性化カセットおよび標的カセットの双方を運ぶように設計されたプラスミドp201の例の概略図である。このプラスミドのカセット部分は配列番号1に報告される。市販のプラスミド骨格は、他のプラスミド骨格と容易に置き換えられうるので、配列リストまたは図面には提供されない。
【図2】図2はGVE受容体で媒介されるETP2の誘導性発現を使用するETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットの双方を含む(G10−90p−GVE−NosT−5xGAL−M35S−ETP2−35ST)ように設計されたプラスミドp202の例の概略図である。このプラスミドのカセット部分は配列番号2において報告される。市販のプラスミド骨格は、他のプラスミド骨格と容易に置き換えられうるので、配列リストまたは図面には提供されない。
【図3A】図3Aは、設計されたプラスミドp1004[G10−90p−VGE−NosT−5xGAL−M35S−ETP1およびMMVp−def−rbcS−E9t]の例の概略図であり、その構成要素、すなわち、G10−90構成的プロモーター、VP16活性化ドメインおよびGAL4 DNA結合ドメイン、並びにNOSターミネーター配列と関連する野生型エクジソン受容体リガンド結合ドメイン、5コピーのGAL4応答エレメントおよび最小35Sプロモーターからなる誘導性プロモーター、ETP1遺伝子、35Sターミネーター配列、MMVプロモーター、P−DEFマーカー遺伝子およびrbcS−E9ターミネーターは配列番号3および図3B〜3Iに示される。
【図3B】図3Bはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3C】図3Cはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3D】図3Dはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3E】図3Eはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3F】図3Fはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3G】図3Gはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3H】図3Hはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3I】図3Iはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4A】図4Aは、設計されたプラスミドp1005[G10−90p−GVE−NosT−5xGAL−M35S−ETP2およびMMVp−def−rbcS−E9t]の例の概略図であり、その構成要素、すなわち、G10−90構成的プロモーター、GAL4 DNA結合ドメイン、VP16活性化ドメイン、並びにNOSターミネーター配列と関連して記載される野生型エクジソン受容体リガンド結合ドメイン、5コピーのGAL4応答エレメントおよび最小35Sプロモーター(配列表4のヌクレオチド2493〜2548)からなる誘導性プロモーター、ETP2遺伝子、35Sターミネーター配列、MMVプロモーター、P−DEFマーカー遺伝子およびrbcS−E9ターミネーターは配列番号4および図4B〜4Iに示される。
【図4B】図4Bはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4C】図4Cはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4D】図4Dはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4E】図4Eはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4F】図4Fはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4G】図4Gはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4H】図4Hはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4I】図4Iはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
I.遺伝子発現システム
植物細胞における安定なもしくは一時的な発現のための遺伝子発現もしくは調節システムが使用される。このようなシステムの構成要素は少なくとも2つの遺伝子発現カセットを含み、そのそれぞれは植物細胞内で発現されうる。
【0020】
ある実施形態においては、活性化カセットと称される第1の遺伝子発現カセットは、好適なプロモーターの制御下でそれと動作可能に関連している以下の構成要素をコードする、植物細胞内で発現可能なポリヌクレオチドを含む:(a)DNA結合ドメイン(DBD)、このDNA結合ドメインは応答エレメントを認識し、この応答エレメントは発現が調節されるべき遺伝子、すなわち、ETP1/ETP2もしくはEBF1/EBF2のような調節タンパク質をコードする遺伝子と関連しており、この調節タンパク質は鍵となるエチレン誘導性シグナルタンパク質、例えば、EIN2およびEIN3のターンオーバーを標的とする;(b)リガンド結合ドメイン(LBD)、このリガンド結合ドメインはエクジソン受容体リガンド結合ドメイン(EcRLBD)もしくはその機能的フラグメントを含む;並びに(c)植物への適用に適する誘導用組成物の存在下で活性化される活性化もしくはトランス活性化ドメイン(AD)。ある実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:LBDがDBDの下流にあり、DBDはADの下流にある。別に実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:LBDがADの下流にあり、ADはDBDの下流にある。別の実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:DBDがLBDの下流にあり、LBDはADの下流にある。別の実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:DBDはADの下流にあり、ADはLBDの下流にある。別の実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:ADはLBDの下流にあり、LBDはDBDの下流にある。別の実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:ADはDBDの下流にあり、DBDはLBDの下流にある。活性化カセットは好ましくはカセットの3’末端に位置するターミネーターも含む。これらの構成要素の具体的な種類は以下で論じられる。
【0021】
第2の遺伝子発現カセット、すなわち、標的カセットは以下の構成要素をコードするポリヌクレオチドを含む。1つの構成要素は化学誘導プロモーターであり、この化学誘導プロモーターは、活性化カセットによってコードされるタンパク質のDBDが結合する応答エレメント(RE)と、活性化カセットのADに応答性の最小プロモーターとを動作可能に関連するように含む。この他の構成要素は、ETP1/ETP2もしくはEBF1/EBF2のような調節タンパク質、またはそのようなタンパク質の機能性フラグメントをコードする標的核酸配列であり、この調節タンパク質は鍵となるエチレン誘導性シグナルタンパク質、例えば、それぞれEIN2およびEIN3のターンオーバーを標的とする。ある実施形態においては、核酸配列はセンス方向である。誘導性プロモーターは選択された調節タンパク質をコードする配列の発現を制御している。
【0022】
別の実施形態においては、活性化および/または標的カセットはさらに、例えば、タンパク質配列をコードする核酸配列の下流にターミネーター配列を、および場合によっては選択可能なマーカーを含む。このようなマーカーは、抗生物質もしくは他の化学物質の存在下で遺伝子を取り込んだ細胞を選択するために周知でありかつ使用される。これらの任意の構成要素は以下でより詳細に論じられる。
【0023】
この遺伝子発現システムは、活性化カセットおよび標的カセットの構成要素が、植物細胞内にあってかつ誘導用組成物と共同して働く場合に、選択された調節タンパク質の発現を調節するように機能する。選択された調節タンパク質の変調および調節は植物細胞におけるエチレン感受性を選択的に変調させる。例えば、ある変調は、調節タンパク質の発現を低減させることによる植物細胞のエチレン感受性の増大を伴う。別の実施形態においては、エチレンの存在下での植物の通常の競合反応に打ち勝つのに充分高いレベルに調節タンパク質の発現を増大させることにより植物細胞のエチレン感受性が低減させられ、すなわち、これは通常、シグナルタンパク質EIN2もしくはEIN3の遺伝子産物の発現および蓄積を増大させるように働く。エチレン経路を変調する調節タンパク質のこの発現は、遺伝子発現システムの構成要素と誘導用組成物との相互作用によって、特にエチレンの存在下で、植物細胞において制御される。誘導用組成物は植物の細胞によって吸収されることができ、および/または植物の細胞内に転移されることができる。
【0024】
シグナルタンパク質のターンオーバーを調節する調節タンパク質の発現レベルに言及する場合の用語「充分に高いレベルの発現」は、10ppmのエチレンもしくは10μmのACC(1−アミノシクロプロパン−1−カルボン酸)に対する細胞もしくは植物の応答を変える発現レベルを意味する。ある実施形態においては、調節タンパク質の発現レベルは、エチレンもしくはACCの存在により通常もたらされるシグナルタンパク質の発現の増大に打ち勝つのに充分高い。別の実施形態においては、調節タンパク質の発現レベルはエチレンもしくはACCの存在下でシグナルタンパク質の発現を低減させるのに充分高い。別の実施形態においては、調節タンパク質の発現レベルはストレスをかけられた植物におけるシグナルタンパク質のストレス誘導エチレン生産に打ち勝ち、よって植物をエチレン非感受性にし、かつ植物に対するストレスの悪影響を克服するのに充分高い。
【0025】
このシステムのある実施形態においては、第1のカセットおよび第2のカセットは、図1および2のような単一のプラスミド上に存在する。別の実施形態においては、第1および第2のカセットは別々のプラスミド上に存在する。
【0026】
遺伝子発現システムの別の実施形態においては、第1の遺伝子発現カセットはDBDおよび第1のLBDを含むことができ;第2のカセットはADおよび第2の異なるLBDを含むことができ;並びに第3のカセットは第1のポリペプチドのDBDが結合する応答エレメントをコードするポリヌクレオチド、第2のカセットのADによって活性化されるプロモーター、およびその発現が調節されるべき標的調節遺伝子を含む。このシステムにおいては、ADおよびDBDは2つの異なるタンパク質に動作可能に関連しており、この2つの異なるタンパク質は誘導用組成物の存在下で標的遺伝子発現を活性化する。ある実施形態においては、第1のLBDはEcR LBDであることができ、一方、第2のLBDはレチノイドX受容体からのLBDであることができる。別の実施形態においては、第2のLBDはEcR LBDであることができ、一方、第1のLBDはレチノイドX受容体からのLBDであることができる。このような構成は米国特許第7091038号もしくは2005年12月1日に公開された米国特許出願公開第2005/0266457に記載されている。
【0027】
用語「動作可能に関連」とは、一方の機能が他方によって影響を受ける単一の核酸フラグメント上の核酸配列の連関をいう。例えば、プロモーターがコード配列の発現に影響を及ぼすことができる場合に(すなわち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある場合に)、プロモーターはそのコード配列と動作可能に関連している。コード配列はセンスもしくはアンチセンス方向で調節配列に動作可能に関連しうる。
【0028】
本明細書において使用される場合、用語「発現」とは核酸もしくはポリヌクレオチドから生じるセンスRNA(mRNA)もしくはアンチセンスRNAの転写および安定的な蓄積をいう。ある実施形態においては、発現とはmRNAのタンパク質もしくはポリペプチドへの翻訳をいう。別の実施形態においては、遺伝子発現システムの構成要素は植物細胞内で一時的に発現されうる。別の実施形態においては、遺伝子発現システムの構成要素は植物細胞の染色体への組み込みによって安定的に発現されうる。一時的発現対安定的に組み込まれた発現の選択は本明細書に記載される遺伝子発現システムを生じさせおよび使用する当業者によって選択されうる。
【0029】
用語「カセット」、「発現カセット」および「遺伝子発現カセット」は、特定の制限部位でまたは相同組み替えによって核酸またはポリヌクレオチドに挿入されうるDNAのセグメントをいう。DNAのセグメントは目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、カセットおよび制限部位は、好適な方向での転写および翻訳に適する読み取りフレームにカセットを挿入することを確実にするように設計される。これらのベクターまたはプラスミドは場合によっては、特定の宿主細胞の形質転換を容易にするポリヌクレオチドに加えて、目的のポリペプチドをコードし、構成要素を有するポリヌクレオチドを含むことができる。このようなカセットは、ある実施形態においては、宿主細胞において目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの増強された発現を可能にする構成要素も含む。これらの構成要素には、これらに限定されないが、プロモーター、最小プロモーター、エンハンサー、応答エレメント、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列などが挙げられうる。
【0030】
他に示されない限りは、本明細書において使用される全ての他の用語には、当該技術分野における従来の意味があてはまる。例えば、米国特許第7,091,038号の用語の定義を参照。
【0031】
A.活性化カセットのプロモーター
このシステムのある実施形態においては、活性化カセットのプロモーターは、形質転換された植物細胞内でDBD、LBDおよびAD配列の発現を制御することができる核酸配列(DNAまたはRNA)である。一般に、活性化カセットのこれら3つの主要な構成要素は選択されたプロモーター配列に対して3’に位置する。プロモーター配列はエンハンサーと称される近接したおよびより離れた上流エレメントからなる。「エンハンサー」はプロモーター活性を刺激することができるDNA配列であり、プロモーターの本来の構成要素でありうるか、もしくはプロモーターのレベルまたは特異性を増強させるために挿入された異種構成要素でありうる。この文脈における有用なプロモーターは、その全体が本来の遺伝子からのものであることができ、または天然に認められる異なるプロモーターに由来する異なる構成要素から構成されることができ、またはさらには、合成DNAセグメントを含むこともできる。
【0032】
ある実施形態においては、活性化カセットのプロモーターは構成的プロモーター、例えば、このカセットで形質転換された植物細胞が活性化カセット構成要素を持続的に生産しているように、ほとんどの細胞タイプにおいて、ほとんどの時点で遺伝子が発現されるようにするプロモーターである。例えば、この活性化カセットに有用な特定の構成的プロモーターには、限定されないが、例示されたG10−90プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、キャッサバモザイクウイルスプロモーター、ゴマノハグサモザイクウイルスプロモーター、バドナウイルス(Badnavirus)プロモーター、ミラビリス(Mirabilis)モザイクウイルスプロモーター、ルビスコ(Rubisco)プロモーター、アクチンプロモーターまたはユビキチンプロモーターが挙げられる。
【0033】
さらに他の実施形態においては、異なる組織または細胞タイプにおいて遺伝子の発現を管理するプロモーター(「組織特異的」、「細胞特異的」もしくは「植物器官特異的プロモーター」)がこの目的のために使用されうる。望ましくは、このようなプロモーターは植物組織および植物細胞において固有のもしくは機能的であるか、または植物組織および植物細胞において固有のもしくは機能的なプロモーターの変異体である。しかし、植物細胞内で機能する他のソース、例えば、ほ乳類、無脊椎動物などからの他の組織および細胞のためのプロモーターもこの目的のために使用されうる。さらに他の実施形態は、発生の異なる段階において(「発生特異的プロモーター」もしくは「細胞分化特異的プロモーター」)、または異なる環境もしくは生理的条件に応じて構成要素を発現するプロモーターを使用する。組織特異的プロモーターの広大なリストについては、Gallie,米国特許出願公開第2005/0066389号、これは次の遺伝子に由来する種子特異的プロモーターを記載する:トウモロコシからのMAC1(Sheridan,1996,Genetics 142:1009−1020);トウモロコシからのCat3(GenBank番号L05934,Abler,1993,Plant Mol.Biol.22:10131−10138);シロイヌナズナ(Arabidopsis)からのvivparous−1(Genbank番号U93215);シロイヌナズナからのatmyc1(Urao,1996,Plant Mol.Biol.32:571−576;Conceicao,1994,Plant5:493−505);西洋アブラナからのnapAおよびBnCysP1(GenBank番号J02798,Josefsson,1987,JBL26:12196−12201,Wanら,2002,Plant J30:1−10);並びに、西洋アブラナからのnapin遺伝子ファミリー(Sjodahl,1995,Planta 197:264−271)。果実特異的プロモーターには、CYP78A9遺伝子からのプロモーター(ItoおよびMeyerowitz,2000,Plant Cell 12:1541−1550)が挙げられる。他の組織特異的プロモーターには、胚珠特異的BEL1遺伝子、これは以下に記載される:Reiser,1995 Cell 83:735−742,GenBank番号U39944;Ray,1994 Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:5761−5765、および卵細胞および中心細胞特異的FIE1プロモーターが挙げられる。萼片および花弁特異的プロモーターには、シロイヌナズナ花ホメオティック遺伝子APETALA1(AP1)(Gustafson Brown,1994 Cell 76:131−143;Mandel,1992 Nature 360:273−277)、関連するプロモーター、AP2(例えば、Drews,1991 Cell 65:991−1002;Bowman,1991 Plant Cell 3:749−758参照)が挙げられる。別の有用なプロモーターは、シロイヌナズナの異常な花器官(ufo)遺伝子の発現を制御するものである(Bossinger,1996 Development 122:1093−1102)。さらなる組織特異的プロモーターには、トウモロコシ花粉特異的プロモーター(Guerrero,1990 Mol.Gen.Genet.224:161−168)が挙げられ;Wakeley,1998 Plant Mol.Biol.37:187−192;Ficker,1998 Mol.Gen.Genet.257:132−142;Kulikauskas,1997 Plant Mol.Biol.34:809−814;Treacy,1997 Plant Mol.Biol.34:603−611)によって記載されるプロモーターも参照。有用なプロモーターには、FUL遺伝子からのもの(MandelおよびYanofsky,1995 Plant Cell,7:1763−1771)、およびSHP1およびSHP2遺伝子からのプロモーター(Flanaganら1996 Plant J 10:343−353;Savidgeら,1995 Plant Cell 7(6):721−733)が挙げられる。プロモーターはTA29遺伝子に由来することができる(Goldbergら,1995 Philos Trans.R.Soc.Lond.B.Biol.Sci.350:5−17)。
【0034】
他の好適なプロモーターには、西洋アブラナからの2S貯蔵タンパク質をコードする遺伝子(Dasgupta,1993 Gene 133:301−302);シロイヌナズナからの2s種子貯蔵タンパク質遺伝子ファミリー;西洋アブラナからのオレオシン20kDをコードする遺伝子、GenBank番号M63985;大豆からのオレオシンAをコードする遺伝子、Genbank番号U09118、およびオレオシンBをコードする遺伝子、Genbank番号U09119;シロイヌナズナからのオレオシンをコードする遺伝子、Genbank番号Z17657;トウモロコシからのオレオシン18kDをコードする遺伝子、GenBank番号J05212およびLee,1994 Plant Mol.Biol.26:1981−1987;ならびに、大豆からの低分子量硫黄リッチタンパク質をコードする遺伝子(Choi,1995 Mol Gen,Genet.246:266−268)からのものが挙げられる。トマトからの組織特異的E8プロモーター、およびATHB−8、AtPIN1、AtP5K1またはTED3遺伝子からのプロモーター(Baimaら,2001 Plant Physiol.126:643−655,Galaweilerら,1998 Science 282:2226−2230;Elgeら,2001 Plant J.26:561−571;Igarashiら,1998 Plant Mol.Biol.36:917−927)も有用である。
【0035】
果実の成熟、老化および落葉中、並びにより少ない程度に落花中に活性なトマトプロモーターが使用されうる(Blume,1997 Plant J.12:731−746)。他の典型的なプロモーターには、ジャガイモ(Solanum tuberosum L.)の雌しべ特異的プロモーター、雌しべ特異的塩基性エンドキチナーゼをコードするSK2遺伝子(Ficker,1997 Plant Mol.Biol.35:425−431);トランスジェニックアルファルファの成長点の表皮組織において活性な、エンドウ(Pisum sativum cv.Alaska)からのBlec4遺伝子が挙げられる。栄養組織において特に活性な様々なプロモーター、例えば、ジャガイモ塊茎の主要貯蔵タンパク質であるパタチンを制御するプロモーター(例えば、Kim,1994 Plant Mol.Biol.26:603−615;およびMartin,1997 Plant J.11:53−62)、およびアグロバクテリウムリゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)からのORF13プロモーター(Hansen,1997 Mol.Gen.Genet.254:337−343)が使用されうる。他の有用な栄養組織特異的プロモーターには:サトイモ(Colocasia esculenta L.Schott)球茎タンパク質ファミリーのタリン(tarin)からのグロブリンをコードする遺伝子のタリンプロモーター(Bezerra,1995 Plant Mol.Biol.28:137−144);サーキュリンプロモーター(de Castro,1992 Plant Cell 4:1549−1559)およびタバコ根特異的遺伝子TobRB7のためのプロモーター(Yamamoto,1991 Plant Cell 3:371−382)が挙げられる。葉特異的プロモーターには、リブロースビホスフェートカルボキシラーゼ(RBCS)プロモーター、トマトRBCS1、RBCS2およびRBCS3A遺伝子(Meier,1997 FEBS Lett.415:91−95)が挙げられる。葉身および葉鞘における葉肉細胞においてほとんど排他的に高レベルで発現するリブロース二リン酸カルボキシラーゼプロモーター(Matsuoka,1994 Plant J.6:311−319)、集光性クロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子プロモーター(Shiina,1997 Plant Physiol.115:477−483;Casal,1998 Plant Physiol.116:1533−1538)、シロイヌナズナmyb−関連遺伝子プロモーター(Atmyb5;Li,1996 FEBS Lett.379:117−121)、およびAtmyb5プロモーター(Busk,1997 Plant J.11:1285−1295)は有用なプロモーターである。
【0036】
有用な栄養組織特異的プロモーターには、分裂組織(根端および成長点)プロモーター、例えば、「SHOOTMERISTEMLESS(シュートメリステムレス)」および「SCARECROW」プロモーター(Di Laurenzio,1996 Cell 86:423−433;および、Long,1996 Nature 379:66−69)が挙げられる。別の有用なプロモーターは3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムAリダクターゼHMG2遺伝子(例えば、Enjuto,1995 Plant Cell.7:517−527を参照)の発現を制御する。分裂組織特異的発現を示すトウモロコシおよび他の種からのknl関連遺伝子、例えば、Granger,1996 Plant Mol.Biol.31:373−378;Kerstetter,1994 Plant Cell 6:1877−1887;Hake,1995 Philos.Trans.R.Soc.Lond.B.Biol.Sci.350:45−51参照、例えば、シロイヌナズナKNAT1またはKNAT2プロモーター(例えば、Lincoln,1994 Plant Cell 6:1859−1876を参照)も有用である。
【0037】
活性化カセットのある実施形態においては、プロモーターは誘導性または調節可能であることができ、例えば、細胞を薬剤、生物学的分子、化学物質、リガンド、光または他の刺激に曝露またはこれらで処理した後で核酸配列の発現を生じさせる。このような誘導性プロモーターの非限定的なリストには、PR 1−aプロモーター、原核生物リプレッサー−オペレーター系および高級真核生物転写活性化系、例えば、米国特許第7091038号に詳細が記載されているものが挙げられる。このようなプロモーターには、大腸菌からのテトラサイクリン(Tet)およびラクトース(Lac)リプレッサー−オペレーター系が挙げられる。他の誘導性プロモーターには、トウモロコシの干ばつ誘導性プロモーター;ジャガイモからの寒冷、干ばつおよび高塩分誘導性プロモーター、シロイヌナズナの老化誘導性プロモーターSAG12、並びにLEC1、LEC2、FUS3、AtSERK1、およびAGLI5の胚形成関連プロモーターが挙げられ、これら全ては当業者に知られている。植物ホルモン、例えば、オーキシンまたはサイトカイニンなどへの曝露により誘導性である他の植物プロモーターが米国特許出願公開第2005/0066389号および米国特許第6,294,716号に記載されるように、この文脈において有用である。
【0038】
DBD、LBDおよびADの配列の発現を進めることができるあらゆるプロモーターが活性化カセットの目的に本質的に好適であり、これらプロモーターには、以下のものが挙げられるがこれらに限定されない:ウイルスプロモーター、バクテリアプロモーター、植物プロモーター、合成プロモーター、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生特異的プロモーター、誘導性プロモーター、光調節プロモーター;発病もしくは病気関連プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス19S、カリフラワーモザイクウイルス35S、CMV35S最小、キャッサバ葉脈モザイクウイルス(CsVMV)、ゴマノハグサモザイクウイルス、バドナウイルス、ミラビリスモザイクウイルス、クロロフィルa/b結合タンパク質、リブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ、芽特異的、根特異的、キチナーゼ、ストレス誘導性、ライスツングロバシリフォームウイルス(rice tungro bacilliform virus)、植物スーパープロモーター、ジャガイモロイシンアミノペプチダーゼ、硝酸レダクターゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、スクロースシンターゼ、マンノピンシンターゼ、ノパリンシンターゼ、オクトピンシンターゼ、ユビキチン、ゼインタンパク質、アクチンおよびアントシアニンプロモーター。本発明の好ましい実施形態においては、プロモーターは、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、キャッサバ葉脈モザイクウイルスプロモーター、およびカリフラワーモザイクウイルス35S最小プロモーター、ゴマノハグサモザイクウイルスプロモーター、バドナウイルスプロモーター、ミラビリスモザイクウイルス、ユビキチン(Ubc)プロモーター、およびアクチンプロモーターからなる群から選択される。
【0039】
B.DBD
本明細書において使用される場合、用語「DNA結合ドメイン」は、このDNA結合ドメインが特定の応答エレメントと関連するように機能する限りは、DNA結合タンパク質の最小ポリペプチド配列からDNA結合タンパク質の全長までを含む。DNA結合ドメインは、リガンドの存在下または非存在下でREのDNA配列に結合し、このREの制御下で下流遺伝子の転写を開始もしくは抑制する。遺伝子発現ユニットのある実施形態においては、DBDは活性化カセット内に位置し、一方、応答エレメントは標的カセット内に位置する。
【0040】
DNA結合ドメインは、既知の応答エレメントと関連するあらゆるDNA結合ドメインであることができ、例えば、合成およびキメラDNA結合ドメイン、またはその類似体、組み合わせもしくは改変体が挙げられる。ある実施形態においては、DBDはGAL4 DBD、LexA DBD、転写因子DBD、グループH核受容体メンバーDBD、ステロイド/チロイドホルモン核受容体スーパーファミリーメンバーDBD、またはバクテリアLacZ DBDである。より好ましくは、DBDは昆虫エクジソン受容体DBD、GAL4 DBD(本明細書の実施例のプラスミドに示されている配列を参照)、またはLexA DBDである。このようなDBDの配列は公然と入手可能であり、例えば、米国特許第7091038号、または米国特許出願公開第2005/0266457号のような公報に記載されている。他の実施形態においては、このカセットにおいて有用なDBDには、限定されないが、cIプロモーターまたはlacプロモーターから得られるDNA結合ドメインが挙げられ、これらも公然と入手可能な配列である。
【0041】
C.エクジソンLBDおよび任意の第2のLBD
遺伝子発現システムのある実施形態において、エクジソン受容体(EcR)LBDは無脊椎動物エクジソン受容体もしくはその変異体の全部または一部分を含む。EcRは、シグネチャー(signature)DNAおよびリガンド結合ドメインおよび活性化ドメインによって特徴づけられる核ステロイド受容体スーパーファミリーのメンバーである(Koelleら 1991,Cell,67:59 77;米国特許第6245531号(Stanford)も参照)。エクジソン受容体は多くのステロイド化合物、例えば、ポナステロンAおよびムリステロンAなど、並びに非ステロイド化合物に対して応答性である。EcRは5つのモジュラードメイン、すなわち、A/B(トランス活性化)、C(DNA結合、ヘテロダイマー化)、D(ヒンジ、ヘテロダイマー化)、E(リガンド結合、ヘテロダイマー化およびトランス活性化)、並びにF(トランス活性化)ドメインを有する。これらのドメインのいくつか、例えば、A/B、CおよびEなどは、それらが他のタンパク質に融合される場合に、その機能を保持している。本明細書において記載される遺伝子発現システムにおいてLBDとして使用するのに好適なEcRの部分はドメインD、EおよびFを含む。例えば、野生型EcR LBDは配列番号1のヌクレオチド990〜1997に存在する。
【0042】
好ましくは、EcRは鱗翅目EcR、双翅目EcR、節足動物EcR、同翅目EcRおよび半翅目EcRである。より好ましくは、使用するEcRはハマキガ類のトウヒシントメハマキ(Choristoneura fumiferana)EcR(CfEcR)、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)EcR(TmEcR)、タバコスズメガ(Manduca sexta)EcR(MsEcR)、オオタバコガ(Heliothies virescens)EcR(HvEcR)、カイコガEcR(BmEcR)、キイロショウジョウバエEcR(DmEcR)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)EcR(AaEcR)、クロバエ類のルシリア・クプリナ(Lucilia capitata)EcR(LcEcR)、チチュウカイミバエ(Ceratitis capitata)EcR(CcEcR)、トノサマバッタ(Locusta migratoria)EcR(LmEcR)、モモアカアブラムシ(Myzus persicae)EcR(MpEcR)、シオマネキ(Uca pugilator)EcR(UpEcR)、マダニ(Amblyomma americanum)EcR(AmaEcR)、シルバーリーフコナジラミ(Bamecia argentifoli)EcR(BaEcR)、またはツマグロヨコバイ(Nephotetix cincticeps)EcR(NcEcR)などである。さらにより好ましくは、LBDはトウヒシントメハマキEcR(CfEcR)またはキイロショウジョウバエEcR(DmEcR)である。
【0043】
様々な野生型もしくは変異型EcRの配列は公然と入手可能であり、例えば、米国特許第7091038号、国際公開第97/38117号および米国特許第6333318号、第6265173号および第5880333号のような公報に記載されている。以下の実施例は野生型EcR配列を使用するが、同様に機能する変異型配列が当業者によって選択されうることが予想される。ある実施形態においては、例えば、変異型エクジソン受容体は上で引用された米国特許出願公開第2005/0266457号に記載されるような変異を含むものであり、例えば、少なくとも1つの変異を含むグループH核受容体リガンド結合ドメインである。ある実施形態においては、例えば、配列番号2における1374〜1376に相当するヌクレオチド位置において、コドンACA(Thr)をコドンGTG(Val)に変える変異を含むエクジソンLBDが有用なEcRLBDであろう。この変異型EcRLBDはT52Vとも称されるが、全長CfEcRにおけるアミノ酸位置335におけるThrからValへの変異をコードする。その公報において記載されるEcRLBDのさらに他のものが本明細書に記載される遺伝子発現システムにおいて有用であり得る。別の実施形態においては、変異型エクジソン受容体LBDは米国特許第6245531号(Stanford)に記載されているものであり、または当該技術分野において知られている他の変異型配列の中でもとりわけ、トランケートEcRLBD配列もしくは欠失変異体である。別の実施形態においては、500mM未満の塩および少なくとも37℃でのハイブリダイゼーション工程並びに少なくとも63℃での2×SSPEでの洗浄工程のような従来のハイブリダイゼーション条件下で、既知のEcRLBDもしくは変異型配列をハイブリダイズするポリヌクレオチドによってLBDはコードされる。
【0044】
ある実施形態においては、遺伝子発現システムは第2のLBDを使用する。第2のLBDはエクジソン受容体ポリペプチドではないが、第2の核受容体のリガンド結合ドメインであることができる。このような第2の結合ドメインには、限定されないが、脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメイン、無脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメイン、ウルトラスピラクルタンパク質リガンド結合ドメイン、およびキメラリガンド結合ドメイン、ここで当該キメラリガンド結合ドメインは2つのポリペプチドフラグメントを含み、その第1のポリペプチドフラグメントが脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメイン、無脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメインまたはウルトラスピラクルタンパク質リガンド結合ドメイン由来であり、かつその第2のポリペプチドフラグメントが異なる脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメイン、無脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメインまたはウルトラスピラクルタンパク質リガンド結合ドメイン由来であるキメラリガンド結合ドメインが挙げられる。例えば、米国特許出願公開第2005/0266457号に記載されているような結合ドメインを参照。このようなLBDは当業者に周知であり、かつ文献において充分に説明されている。
【0045】
1種以上の好適なEcRLBD配列を選択し、それを以下で例示される配列の代わりに使用することは、過度の実験を行うことなく、本明細書における教示が与えられる当業者の能力の範囲内にある。
【0046】
D.活性化ドメイン
遺伝子発現システムにおいて有用な活性化もしくはトランス活性化ドメイン(「AD」と略す)はあらゆるグループH核受容体メンバーAD、ステロイド/チロイドホルモン核受容体AD、合成もしくはキメラAD、ポリグルタミンAD、塩基性もしくは酸性アミノ酸AD、VP16 AD、GAL4 ADおよびNF−κB AD、BP64 AD、B42酸性活性化ドメイン(B42AD)、p65トランス活性化ドメイン(p65AD)、グルココルチコイド活性化ドメイン、またはこれらの類似体、組み合わせもしくは改変体でありうる。特定の実施形態においては、ADは合成もしくはキメラADであるか、またはEcR、グルココルチコイド受容体、VP16、GAL4、NF−κBもしくはB42酸性活性化ドメインADから得られる。好ましくは、ADはEcR AD、VP16 AD、B42 AD、またはp65 ADである。このような活性化ドメインの配列は、米国特許第7,091,038号のような公報においてまたは本明細書に記載される他の文献において公然と利用可能である。典型的なVP16ADは本明細書の実施例において記載されるプラスミドにおいて説明される。このようなドメインは当業者に周知であり、かつ文献において充分に説明されている。
【0047】
E.標的カセットの「誘導性」プロモーターシステム
ある実施形態においては、標的カセットのプロモーターは複数構成要素プロモーター配列である。それは最小プロモーターを含み、この最小プロモーターは応答エレメントの1以上のコピーと動作可能に関連しており、この応答エレメントは活性化カセット内のDNA結合ドメインに対応する。
【0048】
最小プロモーターは、本明細書において使用される場合、コアプロモーター(すなわち、転写の開始を媒介する配列)および5’非翻訳領域(5’UTR)を含み、エンハンサー配列を含まない。よって、遺伝子発現システムの実施形態において使用するために、最小プロモーターは、活性化カセットにおける使用について項目「A」において上述したあらゆるプロモーターに由来する最小プロモーターであることができる。ターゲットカセットの特定の実施形態において、望まれる最小プロモーターには、カリフラワーモザイクウイルス35S最小プロモーター;合成E1b最小プロモーター(配列番号8;米国特許第7091038号を参照);および合成TATA最小プロモーター(TATATA;米国特許出願公開第2005/0228016号を参照)が挙げられる。本明細書において記載される遺伝子発現システムにおいて有用な最小プロモーターは、文献に充分に記載されている多くのプロモーターから当業者によって容易に選択されうる。35S最小プロモーターの配列は後述の実施例において記載されるプラスミド中に記載される。
【0049】
標的カセットの誘導性プロモーターの他の部分は最小プロモーターに対して5’または3’側に位置する応答エレメント(RE)を含む。あるREは2つの異なるもしくは同じ最小プロモーターをそれぞれの側に有することができ、2つの異なるタンパク質を発現することができる。ある実施形態においては、REは最小プロモーターに操作上または動作可能に関連している。応答エレメントは、活性化カセットのDNA結合ドメインとの相互作用を介して媒介されるプロモーターに応答をもたらす1以上のシス作動性DNAエレメントである。このDNAエレメントはその配列内でパリンドローム(完全もしくは不完全)でありうるか、または変化しうる数のヌクレオチドによって分離された配列モチーフもしくはハーフサイト(half site)からなることができる。このハーフサイトは類似もしくは同じであってよく、そして直接反復もしくは逆方向反復で配列されてよく、または単一のハーフサイトとして配置されてよく、または直列に隣接するハーフサイトのマルチマーとして配置されてよい。天然のエクジソン受容体の応答エレメントのDNA配列の例はCherbas L.ら1991 Genes Dev.5,120−131;D’Avino PP.ら1995 Mol.Cell.Endocrinol,113:19およびAntoniewski C.ら1994 Mol.Cell Biol.14,4465−4474などの文献に記載されている。REは活性化カセットのDNA結合ドメインに対応するあらゆる応答エレメント、またはその類似体、組み合わせもしくは改変体であることができる。標的カセットにおいて、単一のREが使用されうるか、または複数のRE、すなわち、同じREの複数のコピーもしくは2種以上の異なるREのいずれかが使用されうる。REは改変されうるか、または酵母からのGAL−4タンパク質(Sadowskiら1988 Nature,335:563−564を参照)もしくは大腸菌からのLexAタンパク質(BrentおよびPtashne 1985,Cell,43:729−736を参照)のような他のDNA結合タンパク質ドメインのための応答エレメント、またはキメラ受容体に適合するための特異的相互作用のために設計され、改変されおよび選択されるタンパク質との標的相互作用に特異的な合成応答エレメント(例えば、Kimら1997 Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,94:3616−3620を参照)で置き換えられうる。特定の実施形態においては、REはGAL4からのRE(GAL4RE)、好ましくは、2以上のコピーである。後述の実施例は5コピーのGAL4RE(5xGAL4)の使用を示す。しかし、他の好適なREには、限定されないが、LexA、グループH核受容体RE、ステロイド/チロイドホルモン核受容体RE、または合成DNA結合ドメインを認識する合成REが挙げられる。他の実施形態においては、REはエクジソン応答エレメント(EcRE)、またはポリヌクレオチド配列を含むLexA RE(オペロン「op」)である。このようなREの全ては文献において充分に説明されており、かつ本明細書の教示を得た当業者によって容易に選択されうる。
【0050】
標的カセットにおいては、この「誘導性プロモーター」は、調節核酸配列もしくは遺伝子に動作可能に関連し、その発現を制御する。その遺伝子の高レベルの発現はエチレン誘導性シグナルタンパク質、例えば、EIN2もしくはEIN3の蓄積を低減させるように働き、それにより以下で明らかにされるようにエチレン感受性を変調する。標的カセットの誘導性プロモーターは化学誘導用組成物もしくは誘導剤によって誘導され、この組成物もしくは誘導剤は、活性化カセットのリガンド結合ドメインと接触する場合に、最小プロモーターの応答エレメントを活性化する。
【0051】
F.選択された調節タンパク質をコードする核酸配列
このシステムにおいて有用な核酸配列は、EIN2もしくはEIN3のようなエチレン誘導性シグナルタンパク質のターンオーバーを調節することにより、植物におけるエチレン感受性またはエチレン生産を改変する選択された調節タンパク質をコードする。このような核酸配列には、特定の実施形態においては、EIN3結合F−ボックスタンパク質、EBF1およびEBF2が挙げられる。別の実施形態においては、選択される調節タンパク質はF−ボックスタンパク質ETP1およびETP2である(上述のQiaoら、2008)。
【0052】
このようなETP1核酸配列の例は、配列番号1のヌクレオチド2557〜3804に特定される(GENBANK Acc.No.NM 112874も参照)。このようなETP2核酸配列の例は、配列番号2のヌクレオチド2551〜3717に特定される(GENBANK Acc.No.NM 112777も参照)。EBF1核酸配列の例はGENBANK Acc.No.NM 128106として公表されている。EBF2核酸配列の例はGENBANK Acc.No.NM 122444として公表されている。これらの配列は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0053】
野生型、すなわち天然に発現している植物調節遺伝子の使用に加えて、遺伝子発現システムはこれらの遺伝子配列およびコードされたタンパク質に有用な変異を含む特定の核酸配列を含むことも可能である。
【0054】
本明細書に記載される本発明のある実施形態においては、特定の植物についての選択されたシグナルタンパク質EIN2もしくはEIN3のターンオーバーを制御する野生型調節遺伝子が本明細書において記載される遺伝子発現システムにおいておよび方法において使用され、エチレンの存在下でのシグナルタンパク質の蓄積を阻害することによって植物におけるエチレン感受性を制御もしくは変調する。別の実施形態においては、植物細胞におけるエチレン感受性もしくはエチレン生産を媒介する野生型タンパク質の変異体が使用される。さらなる実施形態においては、エチレンの存在下でのシグナルタンパク質の蓄積を阻害することによってある種の植物細胞においてエチレン感受性もしくはエチレン生産を変調するタンパク質をコードする遺伝子の野生型もしくは変異体が別の種類の植物細胞において使用され、例えば、潜在的なRNAサイレンシングをなくするためにこのような使用が望まれる。
【0055】
G.任意の構成要素
遺伝子発現システムのカセットに認められる任意の構成要素には、ターミネーション制御領域が挙げられる。このようなターミネーターもしくはポリアデニル化配列も本発明の特定の実施形態における活性化および標的カセットにおいて使用されうる。このような領域は、好ましい宿主本来の様々な遺伝子に由来する。本発明のある実施形態においては、ターミネーション制御領域は、合成ポリアデニル化シグナル、ノパリンシンターゼ(nos)、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、オクトピンシンターゼ(ocs)、アグロバクテリウム、ウイルスおよび植物ターミネーター配列などを含むか、またはこれらに由来する。
【0056】
選択可能なマーカーには、その効果、すなわち、抗生物質耐性、除草剤耐性などに基づいて選択されうる抗生物質もしくは化学物質耐性遺伝子、比色マーカー、酵素、蛍光マーカーなどが挙げられうる。当該技術分野で知られ、使用されている選択可能なマーカー遺伝子の例には、アンピシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ヒグロマイシン、アクチノニン(PDF1遺伝子)、ビアラホス除草剤、グリホサート除草剤、スルホンアミド、マンノースなどに対する耐性をもたらす遺伝子;並びに、表現型マーカーとして使用される遺伝子、すなわち、アントシアニン制御遺伝子、イソペンタニルトランスフェラーゼ遺伝子、GUSおよびルシフェラーゼが挙げられる。
【0057】
他の調節配列、例えば、プラスミドにおけるスペーサー配列として機能するヌクレオチド配列、および他のマイナーな制御配列、酵素切断部位なども、本明細書において記載された特定の実施形態に従って植物細胞を形質転換するのためのカセットを含むプラスミド中に、もしくはカセット中に認められうる。
【0058】
好適なターミネーション配列、選択可能マーカーおよび他の従来のプラスミド制御配列は、当業者に周知で、かつ本明細書における教示をもたらす文献において充分に記載されているこのような数多くの配列から、当業者によって容易に選択されうる。
【0059】
H.遺伝子発現システムに有用な誘導用組成物/誘導剤
遺伝子発現システムが植物において発現される場合に、選択された調節タンパク質の発現の変調、例えば、そのタンパク質の過剰発現は、選択されたシグナルタンパク質の発現および蓄積に対する調節タンパク質による制御に基づいて植物細胞内のエチレン感受性を選択的に調節するために使用される。調節タンパク質の過剰発現はシグナルタンパク質の発現の低減を生じさせる。エチレンの存在下では、調節タンパク質の過剰発現はシグナルタンパク質に対するエチレンの通常の影響(すなわち、増大した発現)に打ち勝つのに充分高いレベルである。調節タンパク質の過剰発現の程度は植物に適用される誘導用組成物のタイミング、期間および量によって制御可能である。ある実施形態においては、誘導用組成物は植物の細胞と接触して配置される化学物質である。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物の細胞によって吸収される化学物質である。さらに別の実施形態においては、誘導用組成物は植物細胞内に転移される化学物質である。誘導用組成物は活性化カセットのEcRLBDに非常に特異的なリガンドでもある。誘導用組成物もしくはリガンドの活性化カセットのLBDへの結合は標的カセットの誘導性プロモーターの誘導および選択された調節タンパク質をコードする核酸配列の発現をもたらす。よって、このシステムは、シグナルタンパク質の発現を低減もしくは抑制することにより、植物におけるエチレン感受性を調節する。誘導用組成物は植物細胞、組織および器官に対する低い毒性によっても特徴づけられる。誘導用組成物はエチレン感受性の調節を「オフ」にするために植物から素早く枯渇する能力、および調節の効果的な制御を可能にする能力も有し、これらは以下でより詳細に記載される。
【0060】
このような有効な誘導用組成物には、エクジソンリガンド結合ドメインに優先的に結合するリガンドがある。ある実施形態においては、これらのリガンドには、ジアシルヒドラジン化合物、例えば、市販のテブフェノジド(ダウアグロサイエンス)、メトキシフェノジド(ダウアグロサイエンス)、ハロフェノジド(ダウアグロサイエンス)、およびクロマフェノジド(日本化薬)(国際公開第96/027673および米国特許第5,530,028号)が挙げられる。他の有用な誘導剤は非ステロイド系リガンド、例えば、米国特許第6,258,603号に記載されるジベンゾイルヒドラジン誘導体である。さらに他の有用な誘導剤は、米国特許出願公開第2005/0228016号に詳細に記載される4−テトラヒドロキノリン誘導体である。さらなる多くの好適な化合物、例えば、1−アロイル−4−(アリールアミノ)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(THQ)がKumarらJ.Biol.Chem.2004,279(26):27211−8;HormannらJ.Comput Aided Mol.Res2003 17(2−4):135−53;TiceらBioorg Med Chem Lett 2003,13(11:1883−6;およびTiceら2003 Bioorg Med Chem Lett.2003 13(3):475−8に示される。
【0061】
よって、遺伝子発現システムは化学誘導用組成物もしくは誘導剤によって誘導されもしくは「オン」にされ、この化学誘導用組成物もしくは組成物は活性化カセットのリガンド結合ドメインと接触する場合に、応答エレメントの最小プロモーターを活性化し、これによりシグナルタンパク質EIN2もしくはEIN3の発現を抑制する調節核酸配列もしくは遺伝子の発現をオンにして、植物をエチレン非感受性にする。この遺伝子発現システムは、シグナルタンパク質の発現に対するエチレンの影響に打ち勝つのに充分高いレベルで調節遺伝子を外部的に発現させるための手段も提供する。
【0062】
II.トランスジェニック植物、植物細胞、組織もしくは器官
上述のように、遺伝子発現システムは、植物、植物細胞または植物の他の組織もしくは器官に組み込まれるように設計される。場合によっては、このような組み込みは一時的でもありうる。しかし、本発明の特定の実施形態においては、植物の染色体への安定的な組み込みが望まれる。
【0063】
ある実施形態においては、トランスジェニック植物細胞は、上述のような遺伝子発現システムを発現し、エチレン感受性が一時的かつ可逆的に制御されるように設計される。このような植物細胞は、ある実施形態においては、遺伝子発現システムの活性化カセットおよび標的カセットでトランスフェクトされたまたは形質転換された細胞である。ある実施形態においては、活性化カセットおよび標的カセットは同じプラスミド上にある場合には、このプラスミドで植物細胞はトランスフェクトされるかまたは形質転換される。別の実施形態においては、活性化カセットおよび標的カセットが別々のプラスミド上にある場合には、双方のプラスミドで別々にもしくは一緒に同じ植物細胞はトランスフェクトされるかもしくは形質転換される。あるいは、その2種の別々のプラスミドのそれぞれで同じ植物の異なる細胞がトランスフェクトされるかまたは形質転換される。さらに他の実施形態においては、その2種のプラスミドのそれぞれで、別々に、異なる植物が形質転換され、単一種のプラスミドを運ぶそれぞれの植物は性的に交配されて、双方のプラスミドを含む交配種を生じさせ、これにより機能的な誘導性システムをもたらす。
【0064】
トランスフェクションは、表現型の変化をもたらすように外来もしくは異種RNAもしくはDNAを細胞内に導入することを伴う。形質転換は、結果的に遺伝的に安定な形質をもたらす植物細胞の染色体DNAへの核酸フラグメントの移送および組み込みをいう。よって、形質転換核酸フラグメントを含む植物細胞は「トランスジェニック」もしくは「組み替え」もしくは「形質転換」生物と称される。よって、最初に形質転換もしくはトランスフェクトされた植物細胞の子孫も、その染色体に一時的にもしくは安定的に組み込まれたカセットを有する。
【0065】
A.形質転換
植物細胞の形質転換は、活性化カセットのみ、標的カセットのみ、または双方のカセットを含むベクターもしくはプラスミドを生じさせることを伴う。図1、2、3A〜3I、および4A〜4Iの例を参照。好適なベクターと植物との組み合わせは、当業者に容易に明らかとなり、例えば、Maligaら1994(植物分子生物学における方法;実験室マニュアル) Methods in Plant Molecular Biology:A Laboratory Manual,コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州に見いだされうる。
【0066】
例えば、好適な「ベクター」は核酸を植物細胞内にクローニングするおよび/または移行させるためのあらゆる手段である。ベクターは、別のDNAセグメントが、その結合したセグメントの複製をもたらすように結合されうるレプリコンであることができる。「レプリコン」は、DNA複製の自律ユニットとして、すなわち、それ自身の制御下で複製可能なように機能するあらゆる遺伝的構成要素(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)である。遺伝子発現システムで植物細胞を形質転換するのに有用なベクターには、細胞内に核酸を導入するためのウイルス系手段および非ウイルス系手段の双方が挙げられる。核酸を操作し、応答エレメントおよびプロモーターを遺伝子に組み込むなどのために、当該技術分野において既知の多数のベクターが使用されうる。可能なベクターには、例えば、プラスミドまたは改変された植物ウイルス、例えば、ラムダ誘導体のようなバクテリオファージ、またはプラスミド、例えば、pBR322もしくはpUCプラスミド誘導体、またはブルースクリプトベクターが挙げられる。DNA末端へヌクレオチド配列(リンカー)をライゲーションすることにより、相補的な付着端もしくは酵素で修飾された好適な挿入部位を有する選択されたベクターに、好適なDNAフラグメントをライゲーションする従来の手段が知られている。植物細胞を形質転換するのに使用されうるあらゆるウイルス系もしくは非ウイルス系ベクターがこの目的のために有用である。非ウイルス系ベクターには、プラスミド、リポソーム、電荷を有する脂質(サイトフェクチン)、DNA−タンパク質複合体、およびバイオポリマーが挙げられる。遺伝子発現システムのカセットに加えて、ベクターは1以上の調節領域、および/または核酸移行の結果(どの組織に移行するか、発現の期間など)をモニタリングし、測定し、選択するのに有用な選択可能なマーカーも含みうる。
【0067】
用語「プラスミド」は、通常、環状2本鎖DNA分子の形態の染色体外構成要素をいう。このような構成要素は、あらゆるソースに由来する、自己複製配列、ゲノム組み込み配列、ファージもしくはヌクレオチド配列、線状、環状もしくはスーパーコイルの、1本鎖もしくは2本鎖のDNAもしくはRNAであることができ、多くのヌクレオチド配列は、プロモーターフラグメントおよび好適な3’非翻訳配列と共に選択された遺伝子産物のためのDNA配列を細胞内に導入することができる独自の構造に結合されもしくは組み替えられている。
【0068】
ベクターもしくはプラスミドは、当該技術分野で知られた方法、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈降、リポフェクション(リソソーム融合)、遺伝子銃の使用、またはDNAベクタートランスポーター(例えば、Wuら1992,J.Biol.Chem.267:963−967;WuおよびWu,1988,J.Biol.Chem.263:14621−14624;並びに、Hartmutら米国特許第5354844号を参照)によって所望の植物細胞内に導入されうる。あるいは、カチオン性脂質の使用が負に帯電した核酸のカプセル封入を促進することができ、負に帯電した細胞膜との融合も促進できる(FelgnerおよびRingold,1989 Science 337:387−388)。核酸の移送に特に有用な脂質化合物および組成物は米国特許第6172048号、第6107286号および第5459127号に記載されている。他の分子、例えば、カチオン性オリゴペプチドもしくはカチオン性ポリマー(例えば、米国特許第5856435号)、またはDNA結合タンパク質に由来するペプチド(例えば、米国特許第6200956号)なども核酸のトランスフェクションを容易にするのに有用である。裸のDNAプラスミドとしてのベクターを導入することも可能である(米国特許第5693622号、第5589466号および第5580859号を参照)。受容体に媒介されたDNA送達アプローチも、遺伝子発現カセットで植物細胞の形質転換を行うために使用されうる。例えば、アグロバクテリウム媒介リーフディスク形質転換法(Horschら,1988 Leaf Disc Transformation:Plant Molecular Biology Manual)または当該技術分野において知られた他の方法を用いて、植物の形質転換が達成されうる。
【0069】
B.繁殖およびスクリーニング
よって、上述のように、植物における少なくとも1つの細胞を上述の遺伝子発現システムで形質転換した後に(単一種のプラスミドで、もしくはそれぞれが異なるカセットを含む複数種の形質転換プラスミドとして)、トランスジェニック植物、植物組織もしくは植物器官を生じさせる方法は、選択された植物に典型的な条件下で形質転換された植物細胞もしくは植物から上述のような植物もしくは植物交配種を繁殖させることをさらに含む。次いで、植物は、形質転換された植物細胞の表現型特徴を含むもしくは示す植物(細胞、組織、器官)を選択するためにスクリーニングされる。例えば、植物が遺伝子発現カセットの所望の組み込まれた核酸配列を含むかどうかを決定するために、引き続いて、得られた植物またはその細胞、組織および器官のスクリーニングが行われ、これも当業者に知られている。例えば、プラスミド内の1以上のレポーター遺伝子もしくはマーカーの使用によって、安定的に染色体に組み込まれた導入DNAを有する細胞が選択されうる。以下の実施例において、カナマイシン、アクチノニンもしくはビアラホスがこの目的のために使用される。
【0070】
成功裏に組み込まれた発現システムを有する植物(組織もしくは器官)は、その植物が上述のような誘導用組成物と接触する場合に素早いエチレン非感受性を示す。あらゆる植物(植物細胞、組織もしくは器官を含む)がこのような形質転換を受けることができ、よって組み替え植物が従来の手段によって繁殖させられうる。遺伝子発現システムでの形質転換およびそれによるそのエチレン感受性の調節を受けうることが特に望まれる植物には、双子葉植物、単子葉植物、装飾用植物、顕花植物、並びに人または動物に摂取される植物が挙げられる。限定されることなく、このような植物には、イネ、トウモロコシ、小麦、大麦、モロコシ、キビ、スイッチグラス、ススキ(miscanthus)、グラス(grass)、オーツ麦、トマト、ジャガイモ、バナナ、キウイフルーツ、アボカド、メロン、マンゴー、サトウキビ、テンサイ、タバコ、パパイヤ、桃、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、レタス、キャベツ、カリフラワー、タマネギ、ブロッコリー、芽キャベツ、綿、キャノーラ、ブドウ、大豆、菜種、アスパラガス、豆類、ニンジン、キュウリ、ナス、メロン、オクラ、パースニップ、落花生、コショウ、パインアップル、カボチャ(squash)、サツマイモ、ライ麦、カンタロープ、エンドウ、カボチャ(pumpkin)、ヒマワリ、ホウレンソウ、リンゴ、サクランボ、クランベリー、グレープフルーツ、レモン、ライム、ネクタリン、オレンジ、モモ、ナシ、タンジェロ、タンジェリン、ユリ、カーネーション、キク、ペチュニア、バラ、ゼラニウム、スミレ、グラジオラス、ラン、ライラック、野生リンゴ、モミジバフウ、カエデ、ポインセチア、ニセアカシア、セイヨウトネリコ、ポプラ、シナノキおよびシロイヌナズナが挙げられる。
【0071】
植物組織および器官には、限定されないが、栄養組織、例えば、根、茎もしくは葉、および生殖組織、たとえば、果実、胚珠、胚、胚乳、外皮、種子、種皮、花粉、花弁、萼片、雌しべ、花、葯またはあらゆる胚組織が挙げられる。
【0072】
III.エチレン感受性を制御する方法
このようなトランスジェニック植物、細胞、組織、花、種子もしくは器官は、充分な期間にわたって好適な時点で適用される誘導用組成物の有効量を用ることによるエチレン感受性を制御する方法にかけられることができ、EIN2もしくはEIN3のようなシグナルタンパク質の蓄積を、特に植物細胞がエチレンに曝露される場合に阻害することができる。誘導用組成物は、トランスジェニック植物、植物細胞、植物組織もしくは植物器官の細胞と接触されうるか、これらに吸収されうるか、および/またはこれらに移行しうる。適用技術には、限定されないが、植物または植物と接触している土壌もしくは媒体を、誘導剤で浸せきし、噴霧し、粉末散布し、ドレンチング(drenching)し、ディッピングし、もしくは液体供給する(irrigating)ことが挙げられる。
【0073】
選択された調節もしくはターンオーバータンパク質の発現を増大させることにより、誘導用組成物の存在下でのエチレンに対する植物細胞の応答が調節される。選択されたタンパク質がEPT1である後述の実施例においては、誘導剤の適用はEPT1の発現を増大させ、これはEIN2の発現を低減もしくは抑制し、細胞内でのその蓄積を抑制し、それによりその植物のエチレンに対する感受性を低減させる。この感受性の低減は、誘導剤がその植物(細胞、組織もしくは器官)に適用されている期間にわたって続き、かつ活性剤の適用が停止された後でその植物が残りの誘導剤を代謝し続ける期間にわたって続く。さらに、エチレン誘導性シグナルタンパク質の誘導および発現に対するエチレンの直接競合効果に対抗するのに必要な程度まで調節タンパク質を過剰発現することによって、エチレンの存在下でこの低減は起こりうる。選択された時間の後で、植物から誘導剤を枯渇させることによって、エチレンに対する植物細胞の応答は野生型に戻され、この場合には増大する。シグナルタンパク質の発現に影響を及ぼしおよび植物細胞におけるエチレン感受性もしくはエチレン生産を変調する調節タンパク質の発現の「制御」、「変調」または「調節」はいくつかの方法で達成されうる。本方法のある実施形態においては、調節タンパク質発現の調節(その発現の量的大きさを含む)は植物への誘導用組成物の適用のタイミングによって制御される。別の実施形態においては、植物に適用される誘導用組成物の濃度は、タンパク質の発現(その発現の量的大きさを含む)およびこれによるエチレン感受性を制御するように使用される。さらなる実施形態においては、タンパク質発現の調節(その発現の量的大きさを含む)は植物への誘導用組成物の適用の期間により制御される。所望の結果を得るために、その植物の成長中に、誘導用組成物の適用のこれらパラメーターのいずれか1つ、2つもしくは3つ全部が変更されうる。
【0074】
タイミングを通じた制御の一例として、誘導用組成物は植物の生長サイクルにおける選択された時点で、例えば、植物の発芽、果実成熟もしくは開花のいずれかの前もしくは後で、または、環境条件に応答して(例えば、植物がストレス要因、例えば、病原体もしくは干ばつに曝露される前もしくは後で)、エチレン感受性を調節するように適用されうる。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物の生長サイクルにおける複数の時点で適用される。さらに他の実施形態においては、誘導用組成物の適用は、エチレン感受性を制御するために、選択された時点で停止される。適用の所望のタイミングは処理される植物の種類、誘導用組成物の効力、および植物に対するその潜在的な細胞毒性効果に応じて選択され、変化しうる。
【0075】
誘導用組成物濃度による制御の一例として、誘導用組成物の種類、植物の種類、適用のタイミング(すなわち、誘導用組成物の適用の時点で植物がエチレンに曝露されるかまたは曝露されてきたか)、植物のサイズおよび年齢(例えば、苗もしくは成熟した植物)、適用の環境(例えば、圃場において、または組織培養、植木鉢もしくは他の実験的もしくは成長用コンテナにおいて)に基づいて、誘導用組成物は選択された濃度で植物に適用される。ある実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも0.01μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも0.1μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも1μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも10μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも20μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも50μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも100μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも200μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも500μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも700μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも1mMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも3mMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも5mMの濃度で適用される。さらに別の実施形態においては、この濃度は0.01μM〜少なくとも5mMの間の部分である濃度の中から選択される。
【0076】
植物におけるエチレン感受性もしくはエチレン生産を媒介するタンパク質の変調を制御する第3の方法は、誘導用組成物の適用の期間を変化させることを伴う。例えば、植物への誘導用組成物の適用の期間は、望まれる効果、誘導剤の有効性、および望まれない細胞毒性効果の可能性に応じて、少なくとも10分から少なくとも2週間、もしくはそれより長い時間の範囲であり得る。望まれる場合には、誘導用組成物の適用は数日の期間にわたってなされうる。ある実施形態においては、誘導用組成物の適用は数週間の期間にわたってなされうる。ある実施形態においては、上記濃度が概して少なくとも10分間にわたって植物に適用される。別の実施形態においては、上記濃度が少なくとも20分間にわたって植物に適用され、エチレンの非存在下でシグナルタンパク質の蓄積を低減させる。別の実施形態においては、シグナルタンパク質の発現を通常は増大させるエチレンに植物細胞が曝露される場合には、誘導用組成物は少なくとも30分間適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも1時間にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも2時間にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも5時間にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも12時間にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも1日にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも2日にわたって適用される。ある実施形態においては、誘導用組成物を少なくとも2週間もしくは2週間以下にわたって適用することが必須である場合があるかまたは望ましい場合がある。ある実施形態においては、植物がエチレンの非存在下にある場合、例えば、植物がストレスを受ける前に、または植物にとってストレスのある条件を見越して、シグナルタンパク質の蓄積を抑制するように、適用のタイミングおよび濃度は当業者によって選択される。別の実施形態においては、植物がエチレンの存在下にある場合、例えば、植物がストレスを受けている間に、シグナルタンパク質の蓄積を抑制するように、適用のタイミングおよび濃度は当業者によって選択される。
【0077】
例えば、あるプロトコルは約10〜240分間で植物あたり10μMを超えて適用して、植物がエチレンの非存在下にある場合でのシグナルタンパク質の蓄積を低減もしくは抑制することを伴う。例えば、あるプロトコルは約5時間〜2日間で植物あたり50μMを超えて適用して、植物細胞内のシグナルタンパク質の発現および蓄積に対するエチレンの競合反応に打ち勝つ。例えば、以下の実施例7を参照すると、実施例7は誘導剤の濃度が植物によって示されるエチレン感受性の程度をどのように調節するかを示す。適用のタイミングによる制御に類似する方法においては、異なる成長段階での植物の要件変化に応じるもしくは環境条件の変化に応じる誘導用組成物の濃度が使用されうる。
【0078】
すでに詳述された様々な誘導剤の組成および物理化学特性は、望まれる生物学的効果を得るのに必要な適用時間および濃度に影響を及ぼしうる。本明細書において提供された教示を考慮すると、適用の濃度、タイミングおよび期間、並びに誘導用組成物自体は経験豊かな栽培者によって過度の実験をすることなく選択されうる。
【0079】
概して、誘導剤の適用停止とその誘導剤に対する植物の応答の反転との間の時間は、植物のサイズ、適用の方法、および適用される誘導剤の量に応じて、約2日以上である。
【0080】
以下の実施例は、植物におけるETP1、ETP2の発現を増大させることおよび/またはEIN2の発現を低減させることがどのように植物をエチレンに対して低感受性にするかを詳述する。しかし、当業者は、同様の方法で、植物における他の調節タンパク質、例えば、EBF1、EBF2の発現を増大させることおよび/または他のエチレン誘導シグナルタンパク質、例えば、EIN3の発現を低減させることが植物をエチレンに対して低感受性にすることを容易に認識するであろう。植物から誘導剤を奪うことによって選択された時間の後で、エチレンに対する植物細胞の応答は逆にさせられ、この場合は増大する。このことは、通常誘導剤が除去された後で、植物が正常に発生し、成長し、および熟成し続けることを可能にする。
【0081】
本明細書において記載される遺伝子発現システムで安定的に形質転換された植物への誘導剤の適用は、エチレンに対して感受性の植物成長、例えば、老化、果実熟成、発芽、病原体耐性、落葉、落花、つぼみの落下、丸莢(boll)の落下、果実の落下、および開花、並びに干ばつ、高温、植物密度および塩分などの条件により引き起こされるようなストレスに対する植物の応答などの一以上の特徴の制御を可能にする。
【0082】
本明細書に記載される方法は、より具体的には、植物のエチレン非感受性を増大させることによって、病気に対する植物の抵抗性および/または耐性を増大させるための方法としても使用されうる。あるいは、本方法は、植物のエチレン非感受性を増大させることによって、例えば、貯蔵もしくは輸送の目的のために、植物、組織もしくは器官の成熟もしくは開花を遅らせるために適用されうる。さらに別の実施形態においては、本明細書に記載される、誘導用組成物の好適な時点での適用で形質転換された植物を使用する方法は、誘導用組成物を適用することによって、望まれない成長条件下、例えば、干ばつもしくは過剰な高温下にある植物の処理によって、エチレンに対する感受性を低減させ、かつ植物をより容易に環境条件に耐性にすることを可能にする。植物繁殖および成長の分野の当業者は、形質転換された植物および上記核酸配列の発現の誘導方法が本明細書の教示に基づいた利益をもたらすであろう事例を容易に選択できる。
【0083】
よって、本明細書に記載される方法を使用する、誘導剤の適用のタイミング、期間または濃度は、植物の成長中に変更されることができ、かなりの精度でエチレン感受性およびこれによる植物の生長特性を制御できる。
【0084】
IV.実施例
以下の実施例は、構成的G10−90プロモーターの制御下にあってかつこれと動作可能に関連している、(a)5コピーのGAL4応答エレメントを含む応答エレメントを認識するGAL4 DBD;(b)ドメインD、EおよびFを含むエクジソン受容体LBD;並びに(c)誘導用組成物の存在下で活性化されるVP16ADを含む活性化カセットを含む上記遺伝子発現システムの使用を示す。標的カセットは誘導性プロモーターを含み、この誘導性プロモーターは、VP16ADの活性化に対して応答性の最小35プロモーターの上流に配置された5コピーのGAL4応答エレメントを動作可能に関連するように含み、この誘導性プロモーターは(e)ETP1タンパク質をコードする核酸配列の発現を制御する。この実施形態によると、活性化カセットおよび標的カセットの構成要素は、植物細胞内にある場合、植物細胞内でETP1タンパク質の発現を調節し、エチレン感受性を選択的に低減させる。このタンパク質発現は誘導用組成物との相互作用によって制御され、誘導用組成物は選択された調節タンパク質の発現を増大させ、これはひいてはEIN2の発現を低減させ、植物細胞におけるエチレン感受性を低減させる。タンパク質発現中のこの調節は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御される。
【0085】
より詳細には、例示される遺伝子発現システムは単一のプラスミドp201上に存在する活性化カセットおよび標的カセットを含む。このプラスミドは図1に概略的に示される。さらに他の典型的なプラスミドp202が図2に示される。図1および2のそれぞれのプラスミドの遺伝子発現カセット構成要素の核酸配列はそれぞれ配列番号1および2としてさらに特定される。実施例において論じられる他のプラスミドp1004およびp1005の遺伝子発現カセット構成要素のヌクレオチド配列は図3A〜3Iおよび4A〜4I、並びに配列番号3および4に開示される。
【0086】
次の実施例は上記組成物および方法の特定の実施形態を示す。これらの実施例は特許請求の範囲および明細書の開示を限定するものではない。
【0087】
実施例1:プラスミド
個々にクローニングされる遺伝子カセット構成要素は活性化カセットのために以下のものを含む:
G10−90構成的プロモーター、
VP16活性化ドメイン、
GAL4DNA結合ドメイン、および
NOSターミネーター配列と関連するエクジソン受容体リガンド結合ドメイン。 同様に、標的カセット構成要素が個々にクローニングされ、標的カセット構成要素は以下のものを含む:
5コピーのGAL4応答エレメントおよび最小35Sプロモーターからなる誘導性プロモーター、並びに
ETP1遺伝子(GENBANK Acc.No.NM 112874)またはETP2遺伝子(GENBANK Acc.No.NM 112777)および
35Sターミネーター配列。
全ての個々の配列は以下に記載される配列番号1におけるヌクレオチド番号によって特定される。
【0088】
活性化カセットの組み立てにおいて、次の構成要素は2つの異なる順に結合されて、2種の異なる活性化カセットを作成する:
VP16AD→GAL4 LBD→EcR(DEF)のDBD(VGEと略する);および
GAL4 LBD→VP16AD→EcR(DEF)のDBD(GVEと略する)。
【0089】
以下のプラスミドは上記構成要素について、EcR LBD、VGEもしくはGVEとしての構成要素の順序、標的カセットの誘導性プロモーターの影響下にある遺伝子の選択、並びにプラスミド骨格をはじめとする具体的な選択肢を有するが、このような構成要素の全ては当業者によって選択されることができ、かつこのプラスミドは過度の実験をすることなく容易に操作されうることが理解されるべきである。以下の具体的なプラスミドは例示のためだけである。
【0090】
以下、プラスミドDNAはpブルースクリプトIISK−骨格(ストラタジーン)内で造られる。SK−複数クローニングサイト領域は、8bp切断酵素のための認識部位を含む新たな複数クローニングサイトで置き換えられる。これらの酵素切断部位のいくつかは図1、2、3A〜3Iおよび4A〜4Iの例示プラスミドにおいて特定される。
ヌクレオチド配列を確認するために、例となる大腸菌プラスミドが準備され、配列決定される。このようなプラスミドは、図1、2、3A〜3Iおよび4A〜4Iに示されるような各構成要素の付加/欠失/交換のための独自の酵素切断部位を含んでいる。よって、それぞれの全構築物は、植物形質転換のためのバイナリーベクターをはじめとする最適な他のベクターに移されうる。
SK−マイナスプラスミドにおいて作成された構築物はバイナリープラスミドpBIN19(American Type Culture Collection Accession番号37327)に移される。pBIN19はすでにネオマイシン植物選択可能マーカー遺伝子、LB、RBおよびnptII選択可能マーカーを有しているので、図および/または配列表は骨格配列を示しておらず、目的の遺伝子発現配列のみを示し、すなわち、遺伝子発現システムの主要構成要素、例えば、Ec受容体および誘導性ETP1もしくはETP2は左側境界と右側境界との間にクローニングされる。
【0091】
トランスジェニック植物の生産における使用のために、次のアグロバクテリウムバイナリープラスミドが選択される:
G10−90プロモーター駆動VGE受容体および誘導性ETP1を含むトランスジェニック植物を得るためにp201[G10−90p−VGE−NosT−5xGAL−M35S−ETP1]が使用される。p201の発現カセット構成要素は配列番号1に示されており、すなわち、G10−90構成的プロモーター(配列番号1のヌクレオチド1〜243)、VP16活性化ドメイン(配列番号1のヌクレオチド249〜529)、GAL4DNA結合ドメイン(配列番号1のヌクレオチド534〜985)、およびNOSターミネーター配列(配列番号1のヌクレオチド2070〜2364)と関連しているエクジソン受容体リガンド結合ドメイン(配列番号1のヌクレオチド990〜1997)、5コピーのGAL4応答エレメント(配列番号1のヌクレオチド2391〜2492)および最小35Sプロモーター(配列番号1のヌクレオチド2499〜2554)からなる誘導性プロモーター、ETP1遺伝子(配列番号1のヌクレオチド2557〜3804)、並びに35Sターミネーター配列(配列番号1の3828〜4038)。
【0092】
p201[G10−90p−GVE−NosT−5xGAL−M35S−ETP2]は、G10−90プロモーター駆動VGE受容体および誘導性ETP2を含むトランスジェニック植物を得るために使用されるプラスミドである。図2および配列番号2を参照。p202の発現カセット構成要素は、G10−90構成的プロモーター(配列番号2のヌクレオチド1〜243)、GAL4DNA結合ドメイン(配列番号2のヌクレオチド276〜716)、VP16活性化ドメイン(配列番号2のヌクレオチド717〜974)、およびNOSターミネーター配列(配列番号2のヌクレオチド2064〜2358)と関連している上記T52V変異型エクジソン受容体リガンド結合ドメイン(配列番号2のヌクレオチド984〜1991)、5コピーのGAL4応答エレメント(配列番号2のヌクレオチド2385〜2486)および最小35Sプロモーター(配列番号2のヌクレオチド2493〜2548)からなる誘導性プロモーター、ETP2遺伝子(配列番号2のヌクレオチド2551〜3717)、並びに35Sターミネーター配列(配列番号2の3741〜3951)。
【0093】
p1004[G10−90p−VGE−NosT−5xGAL−M35S−ETP1、およびMMVp−def−rbcS−E9t]およびその構成要素は配列番号3に示され、構成要素のマップおよび配列は図3A〜3Iに示される。これらの構成要素は、G10−90構成的プロモーター(配列番号3のヌクレオチド1〜243)、VP16活性化ドメイン(配列番号3のヌクレオチド249〜529)、GAL4DNA結合ドメイン(配列番号3のヌクレオチド534〜985)、およびNOSターミネーター配列(配列番号3のヌクレオチド2070〜2364)と関連しているエクジソン受容体リガンド結合ドメイン(配列番号3のヌクレオチド990〜1997)、5コピーのGAL4応答エレメント(配列番号3のヌクレオチド2391〜2492)および最小35Sプロモーター(配列番号3のヌクレオチド2499〜2554)からなる誘導性プロモーター、ETP1遺伝子(配列番号3のヌクレオチド2557〜3804)、35Sターミネーター配列(配列番号3のヌクレオチド3828〜4038)、MMVプロモーター(配列番号3のヌクレオチド6265〜5629)、P−DEFマーカー遺伝子(配列番号3のヌクレオチド5567〜4746)、並びにrbcS−E9ターミネーター(配列番号3のヌクレオチド4719〜4075)である。
【0094】
p1005[G10−90p−GVE−NosT−5xGAL−M35S−ETP2およびMMVp−def−rbcS−E9t]およびその構成要素は配列番号4に示され、構成要素のマップおよび配列は図4A〜4Iに示される。これらの構成要素は、G10−90構成的プロモーター(配列番号4のヌクレオチド1〜243)、GAL4DNA結合ドメイン(配列番号4のヌクレオチド276〜716)、VP16活性化ドメイン(配列番号4のヌクレオチド717〜974)、およびNOSターミネーター配列(配列番号4のヌクレオチド2064〜2358)と関連している上述のエクジソン受容体リガンド結合ドメイン(配列番号4のヌクレオチド984〜1991)、5コピーのGAL4応答エレメント(配列番号4のヌクレオチド2385〜2486)および最小35Sプロモーター(配列番号4のヌクレオチド2493〜2548)からなる誘導性プロモーター、ETP2遺伝子(配列番号4のヌクレオチド2551〜3717)、35Sターミネーター配列(配列番号4のヌクレオチド3741〜3951)、MMVプロモーター(配列番号4のヌクレオチド6178〜5542)、P−DEFマーカー遺伝子(配列番号4のヌクレオチド5483〜4662)、並びにrbcS−E9ターミネーター(配列番号4のヌクレオチド4632〜3988)である。
【0095】
実施例2:トランスジェニックシロイヌナズナ植物の生産
シロイヌナズナ植物は実施例1からのプラスミドで、アグロバクテリウムを用い、標準的なフローラルディッププロトコールを用いて形質転換される。種子が収穫されカナマイシン含有培地上に蒔かれる。形質転換植物はカナマイシン上で成長する能力について選択され、ETP1またはETP2遺伝子の存在を確認するためにPCRでスクリーニングされた。ポジティブ形質転換体は自家受粉させてT1種子を生じさせる。種子はカナマイシン含有培地上で成長させられ、導入遺伝子のホモ接合型の系統を特定する。エチレン非感受性の誘導について試験するためにホモ接合型の植物が使用される。
【0096】
実施例3:シロイヌナズナ植物成長に及ぼすエチレン感受性の調節の影響
実施例2の形質転換されたシロイヌナズナ植物におけるエチレン感受性の変調を決定するためにトリプル応答アッセイ(上述のGuzmanおよびEcker、1990、後述のように改変される)が使用される。野生型、ein2−5(エチレン非感受性変異型対照)並びにp1004もしくはp1005シロイヌナズナ形質転換体の苗がアッセイされる。シロイヌナズナ種子は表面が滅菌され、暗所で、4日間、4℃で、20μMの誘導剤中で水分を吸収させられた。この種子は1%スクロースおよび20μMの誘導剤を含み、20μMのACC(エチレンの前駆体)を含むか、含まない0.5×MS上に蒔かれ、そして21℃で4から8日間暗所で成長させられた。いくつかの実験においては、対照として、5μMのAgNO3(エチレン非感受性を誘導するエチレンの阻害剤)が培地に添加される。エチレンに対する応答は最終日にスコア化される。誘導剤の存在下で、ETP1もしくはETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットを含むトランスジェニック植物は、エチレン前駆体ACCの存在下で成長した非誘導のトランスジェニック植物と比較して増大した芽の長さおよび/または変化した根の成長に基づくエチレン非感受性を示す。この実施例の結果は、遺伝子発現システムおよびそれにより形質転換される植物は、選択された誘導用組成物で処理される場合に、その誘導用組成物に応答する遺伝子発現システムが成功裏にエチレン感受性の調節を可能にすること示すであろうことが予想される。誘導剤の存在下でのETP1もしくはETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットを含むトランスジェニック植物は、同じ状況下での非誘導トランスジェニック植物と比較して増大した根の長さに基づいて、エチレン非感受性を示すことが予想される。
【0097】
実施例4:トランスジェニックトマト植物の生産、および植物成長に及ぼすエチレン感受性の調節の影響
実施例1からのプラスミドを用いて、アグロバクテリウムによって、標準的な方法を用いてトマト子葉片が形質転換される。想定される形質転換体はカナマイシンまたはアクチノニンを用いて選択され、PCR分析によって確認される。ポジティブ形質転換体は2回自家受粉されて、導入遺伝子についてホモ接合型の系統を得る。実施例3の方法と類似の方法でエチレン感受性の誘導について試験するためにホモ接合型植物が使用される。
形質転換トマト植物におけるエチレン感受性の変調を決定するためにトリプル応答アッセイ(上述のGuzmanおよびEcker、1990、後述のように改変される)が使用される。独立してp1004またはp1005ホモ接合体系統からの種子は暗所で、20μMのACCを含む0.5×MS培地+1%スクロース上で発芽させられる。ACC上での発芽はトマト苗の成長を阻害する。同じ系統からの種子は20μMのACCプラス20μMの誘導剤の存在下で発芽させられる。苗は21℃で4から8日間暗所で成長させられる。エチレンに対する応答は最終日にスコア化される。
誘導剤の存在下で、ETP1もしくはETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットを含むトランスジェニック植物は、エチレン前駆体ACCの存在下で成長する非誘導のトランスジェニック植物と比較して増大した芽の長さおよび/または変化した根の成長に基づくエチレン非感受性を示す。この実施例は、遺伝子発現システムおよびそれにより形質転換される植物は、選択される誘導用組成物で処理される場合に、その誘導用組成物に応答する遺伝子発現システムが成功裏にエチレン感受性の調節を可能にすることをさらに示す。
【0098】
実施例5:トランスジェニックトウモロコシ植物の生産およびトウモロコシ植物成長に及ぼすエチレン感受性の調節の影響
トウモロコシ植物は実施例1のプラスミドを用いて、微粒子衝突(microparticle bombardment)によって形質転換される。想定される形質転換体はアクチノニンまたはビアラホスを用いて選択され、PCR分析によって確認される。ポジティブ形質転換体は近交系B73と戻し交配されて活力を増大させる。上述のように生産されるトランスジェニックトウモロコシ植物はエチレン感受性の変調について試験される。エチレン感受性の変調は植物をエチレンの前駆体であるACCに曝露し、エチレンで誘導される遺伝子の誘導の変化を測定することにより分子レベルで決定される。温室で成長中のトランスジェニックT0トウモロコシ植物から茎の外皮(stalk sheath)組織が摘出され、インビトロバイオアッセイにおいて使用される。ETP1もしくはETP2の発現を誘導するために、摘出された組織は水または20μM誘導剤で2日間処理される。2日間の誘導期間の後で、この組織は1日間、0、1または10μMのACCで処理されてエチレンを生じさせ、次いでRNAを調製するために収穫され、使用される。
エチレン誘導性遺伝子(ACCオキシダーゼ)の誘導はアプライドバイオシステムズ7900HFファーストリアルタイムPCRシステム(ABI)で定量的PCRを用いて測定され、逆転写酵素(RT)についてはTaqManアッセイキット(ABI)が使用され、PCRは製造者の推奨するプロトコールを使用する。内部対照としてトウモロコシ18sを使用して各サンプルについての発現を正規化する。
【0099】
プライマーおよびプローブの配列は次の通りである:
【表1】
【0100】
遺伝子発現を決定するために、0μMの誘導剤プラス0μMのACC対照の処理におけるACCオキシダーゼ発現が各トウモロコシ系統について正規化される。
【0101】
誘導用化合物の存在下でETP1もしくはETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットを含むトランスジェニック植物は、ACCオキシダーゼの低減された発現に基づいてエチレン非感受性を示す。同様のアプローチを用いて、当業者はEIN2もしくはEIN3をコードするエチレン誘導性遺伝子の誘導の低減を測定することもできる。
【0102】
実施例6:エチレン非感受性に及ぼすACC濃度の影響
一つのp1004系統または一つのp1005系統からのホモ接合型種子が、20μMの誘導剤と5μMのAgNO3または様々な量(すなわち、1.0〜20μM)のエチレン前駆体であるACCとを含む培地上で4日間発芽させられ次いで成長させられる。暗所で10日間の成長の後で胚軸および根の長さが測定される。エチレンはEIN2を誘導する一方で、ETP1およびETP2の誘導はターンオーバーのためのEIN2タンパク質を標的とするので、胚軸および根のわずかに少ない伸長によって認められるように、より高いACC濃度で達成される非感受性のレベルの幾分かの低減があり得ることが予想される。この例は、ETP1もしくはETP2の誘導はエチレン非感受性を誘導することができ、植物の非感受性のレベルはETP1もしくはETP2の誘導のレベルによって調節されうることを示す。
【0103】
実施例7:誘導剤濃度の関数としての植物におけるエチレン非感受性の程度
一つのp1004含有系統または一つのp1005含有系統からのホモ接合型種子が20μMのACCおよび様々な量(すなわち、0.5〜20μM)の誘導剤を含む培地上で発芽させられる。暗所で10日間の成長の後で胚軸および根の長さが測定される。エチレンはEIN2を誘導する一方で、ETP1およびETP2の誘導はターンオーバーのためのEIN2タンパク質を標的とするので、胚軸および根のわずかに少ない伸長によって認められるように、より低い誘導剤濃度で達成されるエチレン非感受性のレベルの幾分かの低減があり得ることが予想される。この例は、ETP1もしくはETP2の誘導はエチレン非感受性を誘導することができ、植物の非感受性のレベルはETP1もしくはETP2の誘導のレベルを調節することによって変調されうることを示す。
【0104】
実施例8:植物におけるエチレン非感受性の一時的な誘導
誘導されたエチレン非感受性植物が、誘導剤がもはや提供されない場合にエチレン感受性に戻ることを示すために、p1004系統またはp1005系統の1つからのホモ接合型種子が、20μMのACCおよび10〜20μMの誘導剤を含む培地上で、2、4、6、8または14日間発芽させられる。暗所で14日間成長させた後、エチレン非感受性を評価するために胚軸および根が測定される。ACCの存在下で、エチレン非感受性苗木はより長い胚軸および根を有することが期待される。誘導剤の非存在下においては、その苗木はエチレンに対して感受性になり、暗所における矮小の成長を示すことが予想される。よって、戻された苗木の根および胚軸の成長は感受性の苗木および非感受性の苗木の中間であろう。誘導された苗木から誘導剤が除かれると、その苗木は非誘導の対照の苗木と比較してエチレン感受性の状態に戻ることが予想される。上記実施例はETP1もしくはETP2のヌクレオチド配列の使用を示すが、本明細書は同様の方法で他の調節遺伝子、例えば、EBF1およびEBF2の発現を調節する能力を当業者にあきらかに提供する。エチレンシグナル伝達経路タンパク質EIN3は、同様にエチレンによって誘導され、そしてEBF1およびEBF2によるターンオーバーの標的とされる。よって、本明細書に記載される方法および組成物の使用によるEBF1およびEBF2の誘導および調節は、非常に選択的でかつ一時的なエチレン非感受性の状態をもたらすであろうし、そのエチレン非感受性は誘導剤の除去によってエチレン感受性に戻ることができる。
【0105】
上述の実施形態の多くの修飾および変更が本明細書に含まれ、かつ当業者に自明であると考えられる。本明細書に記載される組成物および方法に対するこのような修飾および変更は添付の特許請求の範囲に包含されると考えられる。
【0106】
上に示され、参照される特許、特許出願および公報、並びに非特許文献をはじめとする全ての文献、並びに、添付の図面および/または配列表は、本明細書の明示的な教示と整合する限りは、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。しかし、本明細書におけるあらゆる参考文献の引用は、そのような参考文献が本出願に対する「先行技術」として利用可能であることの承認として解釈されるべきではない。
【背景技術】
【0001】
植物ホルモンであるエチレンは、発芽、花および果実の発生中の応答、並びに様々な環境ストレス要因、例えば、干ばつ、高温、過剰な塩分および病気などに対する植物の応答をはじめとする植物のライフサイクルにわたる多くの生理学的プロセスを調節するシグナル伝達分子である(例えば、Chenら、2005年Annals of Botany、95;901−915;Czarnyら、2006年 Biotechnol.Adv.、24:410−419を参照)。エチレン生合成経路およびシグナル伝達/調節経路並びにネットワークは充分に説明されている。例えば、The Plant Cell、2002年(編集者American Society of Plant Biologists)ページS131−S151、Wangらの「エチレン生合成およびシグナル伝達ネットワーク(Ethylene Biosynthesis and Signaling Networks)」における図1および2を参照。
【0002】
エチレンシグナル伝達経路におけるいくつかの鍵となるステップは植物において高度に調節されている。EIN2(エチレン非感受性2)およびEIN3(エチレン非感受性3)タンパク質の双方については、その発現はエチレンによって誘導され、これは増大したエチレン応答を導く。さらに、EIN2およびEIN3タンパク質の双方は、それぞれ、ETP1(EIN2標的タンパク質1)およびETP2(EIN1標的タンパク質2)またはEBF1(EIN3−結合Fボックスタンパク質1)およびEBF2(EIN3−結合Fボックスタンパク質2)によってターンオーバーのための標的にされる。これらの鍵となる応答シグナル伝達タンパク質のターンオーバーは、ホルモンであるエチレンの非存在下で抑制されているまたは「オフ」の状態に植物を維持するのを助ける。トランスジェニックシロイヌナズナにおけるETP1もしくはETP2(Qiaoら、Genes Dev.、23:000−000;2008年2月12日にオンラインで刊行)またはEBF1もしくはEBF2(GuoおよびEcker、2003、Cell、115:667−677)の構成的過剰発現は部分的なエチレン非感受性をもたらし、そしてEIN2もしくはEIN3タンパク質の蓄積をそれぞれ低減させた。
【0003】
商業的には、果実および野菜および花をはじめとする植物におけるエチレン応答を調節する一般的な方法は、植物、果実、花もしくは野菜に、例えば、1−メチルシクロプロペン(1−MCP、アグロウフレッシュ(AgroFresh)、インコーポレーティド)のような化学物質を添加することを伴う。1−MCPは、エチレンが植物組織におけるその受容体に結合するのを妨げる植物生長調節剤として使用される化合物である。エチレン感受性の一時的な消耗は、植物生長の商業的に価値のある操作のなかでもとりわけ、植物のストレスへの抵抗性もしくは耐性、熟成の遅れ、老化、もしくは開花を増大させうる。
【0004】
より最近では、例えば、特に、米国特許第6294716号、米国特許出願公開第2006/0200875号、2005/0066389号、2005/0060772号および2004/0128719号において、改変されたエチレン応答受容体または植物におけるエチレン応答に関連する他のタンパク質で植物細胞を遺伝的に形質転換する提案が示唆されてきた。このようなシステムはエチレン経路における様々な変異型遺伝子の発現に関連する。これらのシステムは一般に、様々な示唆されたプロモーターを使用して、構成的タンパク質および組織特異的タンパク質をはじめとするタンパク質の発現を進める。
【0005】
化学的に調節された遺伝子発現システムの使用が植物における使用に提案されてきており、概して(M.Padidim,2003 Curr.Opin Plant Biol.、6(2):169−77)、多くのこのようなシステムは実験的なもののみであり、または特定の欠点を有すると報告されてきた。これらの欠点の中には、とりわけ、毒性もしくは揮発性誘導剤、低い誘導レベル、植物における劣った転移/移動、植物に対して非毒性である誘導剤に対して遺伝子の発現を「オフ」にするゆっくりとした能力または不充分な特異性の使用がある。このような遺伝子発現システムは全ての植物において普遍的に有用ではなく、そしてその操作可能な構成要素の選択およびその組み立ては多くの場合困難である。
【0006】
先行技術の例においては、エチレン経路遺伝子の発現は典型的には、植物の全ての組織および部分において常にオンであり、または植物の特定の組織において常にオンである。しかし、組織特異的プロモーターまたは低レベル構成的プロモーターはリーキーでありうるかまたは望まれない誘導剤によって誘導されうる。このような従来のプロモーターは植物におけるホルモン発現の厳密な調節を可能にしない。エチレン経路遺伝子の発現のタイミング、期間およびレベルは通常の生理学的機能のために重要である。自由自在でのおよび決定された期間でのエチレン非感受性の誘導は、先行技術によっては成功裏に示されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6294716号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0200875号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0066389号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0060772号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0128719号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chenら、2005年Annals of Botany、95;901−915
【非特許文献2】Czarnyら、2006年Biotechnol.Adv.、24:410−419
【非特許文献3】The Plant Cell、2002年(編集者American Society of Plant Biologists)ページS131−S151、Wangらの「エチレン生合成およびシグナル伝達ネットワーク(Ethylene Biosynthesis and Signaling Networks)」における図1および2
【非特許文献4】Qiaoら、Genes Dev.、23:000−000;2008年2月12日にオンラインで刊行
【非特許文献5】GuoおよびEcker、2003、Cell、115:667−677
【非特許文献6】M.Padidim,2003Curr.Opin Plant Biol.、6(2):169−77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
エチレン感受性の制御可能で一時的な調節を可能にする組成物および方法についての必要性が当該技術分野において存在している。これは、エチレンの存在によって直接その発現が誘導される遺伝子産物について特に重要である。このような組成物および方法は農作物および食品における、並びに他の植物における安全で効果的な使用のために必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に記載される組成物および方法は、エチレン感受性の調節が安全かつ確実に、例えば、一時的な、定性的なおよび/または定量的な方法で制御されうるトランスジェニック植物、植物細胞、組織、器官、果実もしくは花を提供することによって当該技術分野における必要性を満足する。これらの組成物および方法は遺伝子発現、ひいてはホルモン発現の厳密な調節を示し、かつ農作物および食品における使用に、並びに他の商業的に価値のある植物における使用に安全である。
【0011】
一形態においては、遺伝子発現システムは、特定のエチレン誘導性(ethylene−inducible)タンパク質の植物細胞における蓄積を制御可能に抑制するために提供される。このシステムは活性化カセットおよび標的カセットを含み、これらは1以上のプラスミド上に存在しうる。活性化カセットは好適なプロモーター、DNA結合ドメイン(DBD)、エクジソン受容体リガンド結合ドメイン(EcRLBD)および活性化ドメイン(AD)を含む。標的カセットは化学誘導プロモーター(これは化学誘導組織特異的プロモーターでありうる)を含み、このプロモーターはDBDが結合する応答エレメントと、ADに対して応答性の最小プロモーターとを動作可能に関連して含む。この化学誘導プロモーターは標的核酸配列の発現を制御し、この標的核酸配列は選択された調節タンパク質もしくはそのフラグメントをコードし、この調節タンパク質もしくはそのフラグメントは発現状態でEIN2もしくはEIN3遺伝子産物の発現を低減させるように機能する。2つのカセットの構成要素間の相互作用は、植物細胞内で誘導用組成物と共にある場合には、その調節タンパク質の発現を制御可能に増大させ、およびエチレンの存在下での植物におけるEIN2もしくはEIN3遺伝子産物の蓄積を抑制する。EIN2もしくはEIN3遺伝子産物の蓄積の抑制は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御されうる。誘導用組成物は植物の細胞によって吸収されることができおよび植物の細胞内に転移させられることができ、細胞内では誘導用組成物は活性化ドメインと相互作用して、標的カセットの化学誘導プロモーターをオンにする。よって、このシステムはエチレンの存在に対する植物の通常の反応(すなわち、エチレン誘導性タンパク質、例えば、EIN2もしくはEIN3の発現を増大させ、このことは植物における下流のエチレンシグナル伝達経路のさらなる活性化をもたらす)に打ち勝つのに充分に高いレベルで調節タンパク質を発現することにより、植物細胞におけるエチレン感受性の制御可能で選択的な調節を可能にする。
【0012】
別の実施形態においては、安定にもしくは一時的に上記遺伝子発現システムを発現する植物細胞が提供される。
別の実施形態においては、安定にもしくは一時的に上記遺伝子発現システムを発現する植物組織もしくは器官が提供される。
別の実施形態においては、安定にもしくは一時的に上記遺伝子発現システムを発現するトランスジェニック植物が提供される。
【0013】
別の実施形態においては、このようなトランスジェニック植物もしくはその部分を提供する方法は、植物における少なくとも1つの細胞を本明細書に記載される遺伝子発現システムで形質転換し;形質転換された植物細胞から植物細胞、組織、器官もしくは植物体(intact plant)を生じさせ;並びに、植物細胞、組織、器官もしくは植物体がエチレンの存在下で誘導用組成物と接触させられる場合にEIN2もしくはEIN3の蓄積の抑制もしくは低減を示す植物細胞、組織、器官もしくは植物体を選択することを伴う。上述のように、EIN2/EIN3タンパク質蓄積の調節は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御され、結果として充分に高レベルでの調節タンパク質の発現の増大をもたらす。誘導用組成物は植物細胞、組織、器官もしくは植物体によって吸収されることができ、またはそれらの中に転移されうる。
【0014】
さらなる形態においては、エチレン誘導タンパク質、例えば、EIN2もしくはEIN3の発現からもたらされる植物におけるエチレン感受性を制御する方法は、トランスジェニック植物もしくはその部分の細胞に誘導用組成物を適用することを伴い、その植物は本明細書において記載される遺伝子発現システムを安定的もしくは一時的に発現する細胞を含む。誘導用組成物は植物細胞によって吸収されることができ、または植物細胞内に転移されうる。誘導用組成物の存在下で、エチレンに対する植物細胞の応答、すなわち、EIN2もしくはEIN3の通常の増大、およびさらにはエチレンシグナル伝達経路の下流の活性化は選択された時間にわたって抑制されもしくは低減され;並びに、エチレンに対する植物細胞の応答は、植物から誘導剤をなくすることによって、選択された時間の後で増大させられる。このEIN2/EIN3タンパク質発現の調節は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間、並びに植物をエチレン非感受性にするのに充分高いレベルで調節タンパク質を発現するその能力によって制御される。ある実施形態においては、誘導用組成物のタイミング、濃度もしくは期間は調節タンパク質の過剰発現によって、エチレンの存在下で植物細胞中のエチレン誘導性シグナルタンパク質の蓄積を低減もしくは抑制するのを可能にする。
【0015】
これらの方法および組成物の他の形態および利点は以下の詳細な記載においてさらに説明される。
【発明の効果】
【0016】
本明細書に記載される組成物および方法は、植物におけるエチレン感受性の制御可能な調節のための組成物および方法についての当該技術分野における必要性に取り組む。より具体的には、本明細書において記載される組成物および方法は、選択された量の化学誘導剤の使用、並びにEIN2/EIN3調節タンパク質(それぞれ、ETP1およびETP2、もしくはEBF1およびEBF2)の高レベルの発現に基づく、エチレンにより誘導される(ethylene−induced)タンパク質、例えば、EIN2もしくはEIN3の発現レベルの意図的な変化が植物をエチレン非感受性にするのを可能にする。植物のホルモン調節を操作するこのような能力は、以下に記載される利点の中でも特に、農作物の生長および熟成についての農業的利点を提供する。
【0017】
本発明者は実際のエチレン非感受性を達成する鍵が、エチレンによって誘導されるシグナルタンパク質の量に打ち勝つために、鍵となるエチレン誘導性シグナルタンパク質のターンオーバーを標的にしている調節タンパク質の充分なレベルを得ることに依拠していることを決定した。植物をエチレンに対して非感受性にすることは、その植物に特定の利点、例えば、本明細書において論じられるようなストレスに対する耐性を提供する。しかし、エチレン感受性は植物の通常の成長および発達のためにある時点では必要とされる。よって、本明細書において論じられる組成物および方法は植物のエチレンに対する非感受性のレベルおよびタイミングを厳密に制御するのに有用であり、並びにその植物のさらなる通常の成長および発達を確実にするためにその植物をエチレン感受性の状態に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は実施例1および配列番号1に開示されるように特定されるカセットの構成要素を伴う、遺伝子発現システム(G10−90p−VGE−NosT−5xGAL−M35S−ETP1−35ST)の活性化カセットおよび標的カセットの双方を運ぶように設計されたプラスミドp201の例の概略図である。このプラスミドのカセット部分は配列番号1に報告される。市販のプラスミド骨格は、他のプラスミド骨格と容易に置き換えられうるので、配列リストまたは図面には提供されない。
【図2】図2はGVE受容体で媒介されるETP2の誘導性発現を使用するETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットの双方を含む(G10−90p−GVE−NosT−5xGAL−M35S−ETP2−35ST)ように設計されたプラスミドp202の例の概略図である。このプラスミドのカセット部分は配列番号2において報告される。市販のプラスミド骨格は、他のプラスミド骨格と容易に置き換えられうるので、配列リストまたは図面には提供されない。
【図3A】図3Aは、設計されたプラスミドp1004[G10−90p−VGE−NosT−5xGAL−M35S−ETP1およびMMVp−def−rbcS−E9t]の例の概略図であり、その構成要素、すなわち、G10−90構成的プロモーター、VP16活性化ドメインおよびGAL4 DNA結合ドメイン、並びにNOSターミネーター配列と関連する野生型エクジソン受容体リガンド結合ドメイン、5コピーのGAL4応答エレメントおよび最小35Sプロモーターからなる誘導性プロモーター、ETP1遺伝子、35Sターミネーター配列、MMVプロモーター、P−DEFマーカー遺伝子およびrbcS−E9ターミネーターは配列番号3および図3B〜3Iに示される。
【図3B】図3Bはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3C】図3Cはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3D】図3Dはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3E】図3Eはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3F】図3Fはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3G】図3Gはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3H】図3Hはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図3I】図3Iはp1004の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4A】図4Aは、設計されたプラスミドp1005[G10−90p−GVE−NosT−5xGAL−M35S−ETP2およびMMVp−def−rbcS−E9t]の例の概略図であり、その構成要素、すなわち、G10−90構成的プロモーター、GAL4 DNA結合ドメイン、VP16活性化ドメイン、並びにNOSターミネーター配列と関連して記載される野生型エクジソン受容体リガンド結合ドメイン、5コピーのGAL4応答エレメントおよび最小35Sプロモーター(配列表4のヌクレオチド2493〜2548)からなる誘導性プロモーター、ETP2遺伝子、35Sターミネーター配列、MMVプロモーター、P−DEFマーカー遺伝子およびrbcS−E9ターミネーターは配列番号4および図4B〜4Iに示される。
【図4B】図4Bはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4C】図4Cはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4D】図4Dはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4E】図4Eはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4F】図4Fはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4G】図4Gはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4H】図4Hはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【図4I】図4Iはp1005の構成要素を示す配列マップを形成する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
I.遺伝子発現システム
植物細胞における安定なもしくは一時的な発現のための遺伝子発現もしくは調節システムが使用される。このようなシステムの構成要素は少なくとも2つの遺伝子発現カセットを含み、そのそれぞれは植物細胞内で発現されうる。
【0020】
ある実施形態においては、活性化カセットと称される第1の遺伝子発現カセットは、好適なプロモーターの制御下でそれと動作可能に関連している以下の構成要素をコードする、植物細胞内で発現可能なポリヌクレオチドを含む:(a)DNA結合ドメイン(DBD)、このDNA結合ドメインは応答エレメントを認識し、この応答エレメントは発現が調節されるべき遺伝子、すなわち、ETP1/ETP2もしくはEBF1/EBF2のような調節タンパク質をコードする遺伝子と関連しており、この調節タンパク質は鍵となるエチレン誘導性シグナルタンパク質、例えば、EIN2およびEIN3のターンオーバーを標的とする;(b)リガンド結合ドメイン(LBD)、このリガンド結合ドメインはエクジソン受容体リガンド結合ドメイン(EcRLBD)もしくはその機能的フラグメントを含む;並びに(c)植物への適用に適する誘導用組成物の存在下で活性化される活性化もしくはトランス活性化ドメイン(AD)。ある実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:LBDがDBDの下流にあり、DBDはADの下流にある。別に実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:LBDがADの下流にあり、ADはDBDの下流にある。別の実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:DBDがLBDの下流にあり、LBDはADの下流にある。別の実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:DBDはADの下流にあり、ADはLBDの下流にある。別の実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:ADはLBDの下流にあり、LBDはDBDの下流にある。別の実施形態においては、活性化カセットにおける構成要素は以下の5’から3’順に存在する:ADはDBDの下流にあり、DBDはLBDの下流にある。活性化カセットは好ましくはカセットの3’末端に位置するターミネーターも含む。これらの構成要素の具体的な種類は以下で論じられる。
【0021】
第2の遺伝子発現カセット、すなわち、標的カセットは以下の構成要素をコードするポリヌクレオチドを含む。1つの構成要素は化学誘導プロモーターであり、この化学誘導プロモーターは、活性化カセットによってコードされるタンパク質のDBDが結合する応答エレメント(RE)と、活性化カセットのADに応答性の最小プロモーターとを動作可能に関連するように含む。この他の構成要素は、ETP1/ETP2もしくはEBF1/EBF2のような調節タンパク質、またはそのようなタンパク質の機能性フラグメントをコードする標的核酸配列であり、この調節タンパク質は鍵となるエチレン誘導性シグナルタンパク質、例えば、それぞれEIN2およびEIN3のターンオーバーを標的とする。ある実施形態においては、核酸配列はセンス方向である。誘導性プロモーターは選択された調節タンパク質をコードする配列の発現を制御している。
【0022】
別の実施形態においては、活性化および/または標的カセットはさらに、例えば、タンパク質配列をコードする核酸配列の下流にターミネーター配列を、および場合によっては選択可能なマーカーを含む。このようなマーカーは、抗生物質もしくは他の化学物質の存在下で遺伝子を取り込んだ細胞を選択するために周知でありかつ使用される。これらの任意の構成要素は以下でより詳細に論じられる。
【0023】
この遺伝子発現システムは、活性化カセットおよび標的カセットの構成要素が、植物細胞内にあってかつ誘導用組成物と共同して働く場合に、選択された調節タンパク質の発現を調節するように機能する。選択された調節タンパク質の変調および調節は植物細胞におけるエチレン感受性を選択的に変調させる。例えば、ある変調は、調節タンパク質の発現を低減させることによる植物細胞のエチレン感受性の増大を伴う。別の実施形態においては、エチレンの存在下での植物の通常の競合反応に打ち勝つのに充分高いレベルに調節タンパク質の発現を増大させることにより植物細胞のエチレン感受性が低減させられ、すなわち、これは通常、シグナルタンパク質EIN2もしくはEIN3の遺伝子産物の発現および蓄積を増大させるように働く。エチレン経路を変調する調節タンパク質のこの発現は、遺伝子発現システムの構成要素と誘導用組成物との相互作用によって、特にエチレンの存在下で、植物細胞において制御される。誘導用組成物は植物の細胞によって吸収されることができ、および/または植物の細胞内に転移されることができる。
【0024】
シグナルタンパク質のターンオーバーを調節する調節タンパク質の発現レベルに言及する場合の用語「充分に高いレベルの発現」は、10ppmのエチレンもしくは10μmのACC(1−アミノシクロプロパン−1−カルボン酸)に対する細胞もしくは植物の応答を変える発現レベルを意味する。ある実施形態においては、調節タンパク質の発現レベルは、エチレンもしくはACCの存在により通常もたらされるシグナルタンパク質の発現の増大に打ち勝つのに充分高い。別の実施形態においては、調節タンパク質の発現レベルはエチレンもしくはACCの存在下でシグナルタンパク質の発現を低減させるのに充分高い。別の実施形態においては、調節タンパク質の発現レベルはストレスをかけられた植物におけるシグナルタンパク質のストレス誘導エチレン生産に打ち勝ち、よって植物をエチレン非感受性にし、かつ植物に対するストレスの悪影響を克服するのに充分高い。
【0025】
このシステムのある実施形態においては、第1のカセットおよび第2のカセットは、図1および2のような単一のプラスミド上に存在する。別の実施形態においては、第1および第2のカセットは別々のプラスミド上に存在する。
【0026】
遺伝子発現システムの別の実施形態においては、第1の遺伝子発現カセットはDBDおよび第1のLBDを含むことができ;第2のカセットはADおよび第2の異なるLBDを含むことができ;並びに第3のカセットは第1のポリペプチドのDBDが結合する応答エレメントをコードするポリヌクレオチド、第2のカセットのADによって活性化されるプロモーター、およびその発現が調節されるべき標的調節遺伝子を含む。このシステムにおいては、ADおよびDBDは2つの異なるタンパク質に動作可能に関連しており、この2つの異なるタンパク質は誘導用組成物の存在下で標的遺伝子発現を活性化する。ある実施形態においては、第1のLBDはEcR LBDであることができ、一方、第2のLBDはレチノイドX受容体からのLBDであることができる。別の実施形態においては、第2のLBDはEcR LBDであることができ、一方、第1のLBDはレチノイドX受容体からのLBDであることができる。このような構成は米国特許第7091038号もしくは2005年12月1日に公開された米国特許出願公開第2005/0266457に記載されている。
【0027】
用語「動作可能に関連」とは、一方の機能が他方によって影響を受ける単一の核酸フラグメント上の核酸配列の連関をいう。例えば、プロモーターがコード配列の発現に影響を及ぼすことができる場合に(すなわち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある場合に)、プロモーターはそのコード配列と動作可能に関連している。コード配列はセンスもしくはアンチセンス方向で調節配列に動作可能に関連しうる。
【0028】
本明細書において使用される場合、用語「発現」とは核酸もしくはポリヌクレオチドから生じるセンスRNA(mRNA)もしくはアンチセンスRNAの転写および安定的な蓄積をいう。ある実施形態においては、発現とはmRNAのタンパク質もしくはポリペプチドへの翻訳をいう。別の実施形態においては、遺伝子発現システムの構成要素は植物細胞内で一時的に発現されうる。別の実施形態においては、遺伝子発現システムの構成要素は植物細胞の染色体への組み込みによって安定的に発現されうる。一時的発現対安定的に組み込まれた発現の選択は本明細書に記載される遺伝子発現システムを生じさせおよび使用する当業者によって選択されうる。
【0029】
用語「カセット」、「発現カセット」および「遺伝子発現カセット」は、特定の制限部位でまたは相同組み替えによって核酸またはポリヌクレオチドに挿入されうるDNAのセグメントをいう。DNAのセグメントは目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、カセットおよび制限部位は、好適な方向での転写および翻訳に適する読み取りフレームにカセットを挿入することを確実にするように設計される。これらのベクターまたはプラスミドは場合によっては、特定の宿主細胞の形質転換を容易にするポリヌクレオチドに加えて、目的のポリペプチドをコードし、構成要素を有するポリヌクレオチドを含むことができる。このようなカセットは、ある実施形態においては、宿主細胞において目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの増強された発現を可能にする構成要素も含む。これらの構成要素には、これらに限定されないが、プロモーター、最小プロモーター、エンハンサー、応答エレメント、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列などが挙げられうる。
【0030】
他に示されない限りは、本明細書において使用される全ての他の用語には、当該技術分野における従来の意味があてはまる。例えば、米国特許第7,091,038号の用語の定義を参照。
【0031】
A.活性化カセットのプロモーター
このシステムのある実施形態においては、活性化カセットのプロモーターは、形質転換された植物細胞内でDBD、LBDおよびAD配列の発現を制御することができる核酸配列(DNAまたはRNA)である。一般に、活性化カセットのこれら3つの主要な構成要素は選択されたプロモーター配列に対して3’に位置する。プロモーター配列はエンハンサーと称される近接したおよびより離れた上流エレメントからなる。「エンハンサー」はプロモーター活性を刺激することができるDNA配列であり、プロモーターの本来の構成要素でありうるか、もしくはプロモーターのレベルまたは特異性を増強させるために挿入された異種構成要素でありうる。この文脈における有用なプロモーターは、その全体が本来の遺伝子からのものであることができ、または天然に認められる異なるプロモーターに由来する異なる構成要素から構成されることができ、またはさらには、合成DNAセグメントを含むこともできる。
【0032】
ある実施形態においては、活性化カセットのプロモーターは構成的プロモーター、例えば、このカセットで形質転換された植物細胞が活性化カセット構成要素を持続的に生産しているように、ほとんどの細胞タイプにおいて、ほとんどの時点で遺伝子が発現されるようにするプロモーターである。例えば、この活性化カセットに有用な特定の構成的プロモーターには、限定されないが、例示されたG10−90プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、キャッサバモザイクウイルスプロモーター、ゴマノハグサモザイクウイルスプロモーター、バドナウイルス(Badnavirus)プロモーター、ミラビリス(Mirabilis)モザイクウイルスプロモーター、ルビスコ(Rubisco)プロモーター、アクチンプロモーターまたはユビキチンプロモーターが挙げられる。
【0033】
さらに他の実施形態においては、異なる組織または細胞タイプにおいて遺伝子の発現を管理するプロモーター(「組織特異的」、「細胞特異的」もしくは「植物器官特異的プロモーター」)がこの目的のために使用されうる。望ましくは、このようなプロモーターは植物組織および植物細胞において固有のもしくは機能的であるか、または植物組織および植物細胞において固有のもしくは機能的なプロモーターの変異体である。しかし、植物細胞内で機能する他のソース、例えば、ほ乳類、無脊椎動物などからの他の組織および細胞のためのプロモーターもこの目的のために使用されうる。さらに他の実施形態は、発生の異なる段階において(「発生特異的プロモーター」もしくは「細胞分化特異的プロモーター」)、または異なる環境もしくは生理的条件に応じて構成要素を発現するプロモーターを使用する。組織特異的プロモーターの広大なリストについては、Gallie,米国特許出願公開第2005/0066389号、これは次の遺伝子に由来する種子特異的プロモーターを記載する:トウモロコシからのMAC1(Sheridan,1996,Genetics 142:1009−1020);トウモロコシからのCat3(GenBank番号L05934,Abler,1993,Plant Mol.Biol.22:10131−10138);シロイヌナズナ(Arabidopsis)からのvivparous−1(Genbank番号U93215);シロイヌナズナからのatmyc1(Urao,1996,Plant Mol.Biol.32:571−576;Conceicao,1994,Plant5:493−505);西洋アブラナからのnapAおよびBnCysP1(GenBank番号J02798,Josefsson,1987,JBL26:12196−12201,Wanら,2002,Plant J30:1−10);並びに、西洋アブラナからのnapin遺伝子ファミリー(Sjodahl,1995,Planta 197:264−271)。果実特異的プロモーターには、CYP78A9遺伝子からのプロモーター(ItoおよびMeyerowitz,2000,Plant Cell 12:1541−1550)が挙げられる。他の組織特異的プロモーターには、胚珠特異的BEL1遺伝子、これは以下に記載される:Reiser,1995 Cell 83:735−742,GenBank番号U39944;Ray,1994 Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:5761−5765、および卵細胞および中心細胞特異的FIE1プロモーターが挙げられる。萼片および花弁特異的プロモーターには、シロイヌナズナ花ホメオティック遺伝子APETALA1(AP1)(Gustafson Brown,1994 Cell 76:131−143;Mandel,1992 Nature 360:273−277)、関連するプロモーター、AP2(例えば、Drews,1991 Cell 65:991−1002;Bowman,1991 Plant Cell 3:749−758参照)が挙げられる。別の有用なプロモーターは、シロイヌナズナの異常な花器官(ufo)遺伝子の発現を制御するものである(Bossinger,1996 Development 122:1093−1102)。さらなる組織特異的プロモーターには、トウモロコシ花粉特異的プロモーター(Guerrero,1990 Mol.Gen.Genet.224:161−168)が挙げられ;Wakeley,1998 Plant Mol.Biol.37:187−192;Ficker,1998 Mol.Gen.Genet.257:132−142;Kulikauskas,1997 Plant Mol.Biol.34:809−814;Treacy,1997 Plant Mol.Biol.34:603−611)によって記載されるプロモーターも参照。有用なプロモーターには、FUL遺伝子からのもの(MandelおよびYanofsky,1995 Plant Cell,7:1763−1771)、およびSHP1およびSHP2遺伝子からのプロモーター(Flanaganら1996 Plant J 10:343−353;Savidgeら,1995 Plant Cell 7(6):721−733)が挙げられる。プロモーターはTA29遺伝子に由来することができる(Goldbergら,1995 Philos Trans.R.Soc.Lond.B.Biol.Sci.350:5−17)。
【0034】
他の好適なプロモーターには、西洋アブラナからの2S貯蔵タンパク質をコードする遺伝子(Dasgupta,1993 Gene 133:301−302);シロイヌナズナからの2s種子貯蔵タンパク質遺伝子ファミリー;西洋アブラナからのオレオシン20kDをコードする遺伝子、GenBank番号M63985;大豆からのオレオシンAをコードする遺伝子、Genbank番号U09118、およびオレオシンBをコードする遺伝子、Genbank番号U09119;シロイヌナズナからのオレオシンをコードする遺伝子、Genbank番号Z17657;トウモロコシからのオレオシン18kDをコードする遺伝子、GenBank番号J05212およびLee,1994 Plant Mol.Biol.26:1981−1987;ならびに、大豆からの低分子量硫黄リッチタンパク質をコードする遺伝子(Choi,1995 Mol Gen,Genet.246:266−268)からのものが挙げられる。トマトからの組織特異的E8プロモーター、およびATHB−8、AtPIN1、AtP5K1またはTED3遺伝子からのプロモーター(Baimaら,2001 Plant Physiol.126:643−655,Galaweilerら,1998 Science 282:2226−2230;Elgeら,2001 Plant J.26:561−571;Igarashiら,1998 Plant Mol.Biol.36:917−927)も有用である。
【0035】
果実の成熟、老化および落葉中、並びにより少ない程度に落花中に活性なトマトプロモーターが使用されうる(Blume,1997 Plant J.12:731−746)。他の典型的なプロモーターには、ジャガイモ(Solanum tuberosum L.)の雌しべ特異的プロモーター、雌しべ特異的塩基性エンドキチナーゼをコードするSK2遺伝子(Ficker,1997 Plant Mol.Biol.35:425−431);トランスジェニックアルファルファの成長点の表皮組織において活性な、エンドウ(Pisum sativum cv.Alaska)からのBlec4遺伝子が挙げられる。栄養組織において特に活性な様々なプロモーター、例えば、ジャガイモ塊茎の主要貯蔵タンパク質であるパタチンを制御するプロモーター(例えば、Kim,1994 Plant Mol.Biol.26:603−615;およびMartin,1997 Plant J.11:53−62)、およびアグロバクテリウムリゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)からのORF13プロモーター(Hansen,1997 Mol.Gen.Genet.254:337−343)が使用されうる。他の有用な栄養組織特異的プロモーターには:サトイモ(Colocasia esculenta L.Schott)球茎タンパク質ファミリーのタリン(tarin)からのグロブリンをコードする遺伝子のタリンプロモーター(Bezerra,1995 Plant Mol.Biol.28:137−144);サーキュリンプロモーター(de Castro,1992 Plant Cell 4:1549−1559)およびタバコ根特異的遺伝子TobRB7のためのプロモーター(Yamamoto,1991 Plant Cell 3:371−382)が挙げられる。葉特異的プロモーターには、リブロースビホスフェートカルボキシラーゼ(RBCS)プロモーター、トマトRBCS1、RBCS2およびRBCS3A遺伝子(Meier,1997 FEBS Lett.415:91−95)が挙げられる。葉身および葉鞘における葉肉細胞においてほとんど排他的に高レベルで発現するリブロース二リン酸カルボキシラーゼプロモーター(Matsuoka,1994 Plant J.6:311−319)、集光性クロロフィルa/b結合タンパク質遺伝子プロモーター(Shiina,1997 Plant Physiol.115:477−483;Casal,1998 Plant Physiol.116:1533−1538)、シロイヌナズナmyb−関連遺伝子プロモーター(Atmyb5;Li,1996 FEBS Lett.379:117−121)、およびAtmyb5プロモーター(Busk,1997 Plant J.11:1285−1295)は有用なプロモーターである。
【0036】
有用な栄養組織特異的プロモーターには、分裂組織(根端および成長点)プロモーター、例えば、「SHOOTMERISTEMLESS(シュートメリステムレス)」および「SCARECROW」プロモーター(Di Laurenzio,1996 Cell 86:423−433;および、Long,1996 Nature 379:66−69)が挙げられる。別の有用なプロモーターは3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムAリダクターゼHMG2遺伝子(例えば、Enjuto,1995 Plant Cell.7:517−527を参照)の発現を制御する。分裂組織特異的発現を示すトウモロコシおよび他の種からのknl関連遺伝子、例えば、Granger,1996 Plant Mol.Biol.31:373−378;Kerstetter,1994 Plant Cell 6:1877−1887;Hake,1995 Philos.Trans.R.Soc.Lond.B.Biol.Sci.350:45−51参照、例えば、シロイヌナズナKNAT1またはKNAT2プロモーター(例えば、Lincoln,1994 Plant Cell 6:1859−1876を参照)も有用である。
【0037】
活性化カセットのある実施形態においては、プロモーターは誘導性または調節可能であることができ、例えば、細胞を薬剤、生物学的分子、化学物質、リガンド、光または他の刺激に曝露またはこれらで処理した後で核酸配列の発現を生じさせる。このような誘導性プロモーターの非限定的なリストには、PR 1−aプロモーター、原核生物リプレッサー−オペレーター系および高級真核生物転写活性化系、例えば、米国特許第7091038号に詳細が記載されているものが挙げられる。このようなプロモーターには、大腸菌からのテトラサイクリン(Tet)およびラクトース(Lac)リプレッサー−オペレーター系が挙げられる。他の誘導性プロモーターには、トウモロコシの干ばつ誘導性プロモーター;ジャガイモからの寒冷、干ばつおよび高塩分誘導性プロモーター、シロイヌナズナの老化誘導性プロモーターSAG12、並びにLEC1、LEC2、FUS3、AtSERK1、およびAGLI5の胚形成関連プロモーターが挙げられ、これら全ては当業者に知られている。植物ホルモン、例えば、オーキシンまたはサイトカイニンなどへの曝露により誘導性である他の植物プロモーターが米国特許出願公開第2005/0066389号および米国特許第6,294,716号に記載されるように、この文脈において有用である。
【0038】
DBD、LBDおよびADの配列の発現を進めることができるあらゆるプロモーターが活性化カセットの目的に本質的に好適であり、これらプロモーターには、以下のものが挙げられるがこれらに限定されない:ウイルスプロモーター、バクテリアプロモーター、植物プロモーター、合成プロモーター、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生特異的プロモーター、誘導性プロモーター、光調節プロモーター;発病もしくは病気関連プロモーター、カリフラワーモザイクウイルス19S、カリフラワーモザイクウイルス35S、CMV35S最小、キャッサバ葉脈モザイクウイルス(CsVMV)、ゴマノハグサモザイクウイルス、バドナウイルス、ミラビリスモザイクウイルス、クロロフィルa/b結合タンパク質、リブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ、芽特異的、根特異的、キチナーゼ、ストレス誘導性、ライスツングロバシリフォームウイルス(rice tungro bacilliform virus)、植物スーパープロモーター、ジャガイモロイシンアミノペプチダーゼ、硝酸レダクターゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、スクロースシンターゼ、マンノピンシンターゼ、ノパリンシンターゼ、オクトピンシンターゼ、ユビキチン、ゼインタンパク質、アクチンおよびアントシアニンプロモーター。本発明の好ましい実施形態においては、プロモーターは、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、キャッサバ葉脈モザイクウイルスプロモーター、およびカリフラワーモザイクウイルス35S最小プロモーター、ゴマノハグサモザイクウイルスプロモーター、バドナウイルスプロモーター、ミラビリスモザイクウイルス、ユビキチン(Ubc)プロモーター、およびアクチンプロモーターからなる群から選択される。
【0039】
B.DBD
本明細書において使用される場合、用語「DNA結合ドメイン」は、このDNA結合ドメインが特定の応答エレメントと関連するように機能する限りは、DNA結合タンパク質の最小ポリペプチド配列からDNA結合タンパク質の全長までを含む。DNA結合ドメインは、リガンドの存在下または非存在下でREのDNA配列に結合し、このREの制御下で下流遺伝子の転写を開始もしくは抑制する。遺伝子発現ユニットのある実施形態においては、DBDは活性化カセット内に位置し、一方、応答エレメントは標的カセット内に位置する。
【0040】
DNA結合ドメインは、既知の応答エレメントと関連するあらゆるDNA結合ドメインであることができ、例えば、合成およびキメラDNA結合ドメイン、またはその類似体、組み合わせもしくは改変体が挙げられる。ある実施形態においては、DBDはGAL4 DBD、LexA DBD、転写因子DBD、グループH核受容体メンバーDBD、ステロイド/チロイドホルモン核受容体スーパーファミリーメンバーDBD、またはバクテリアLacZ DBDである。より好ましくは、DBDは昆虫エクジソン受容体DBD、GAL4 DBD(本明細書の実施例のプラスミドに示されている配列を参照)、またはLexA DBDである。このようなDBDの配列は公然と入手可能であり、例えば、米国特許第7091038号、または米国特許出願公開第2005/0266457号のような公報に記載されている。他の実施形態においては、このカセットにおいて有用なDBDには、限定されないが、cIプロモーターまたはlacプロモーターから得られるDNA結合ドメインが挙げられ、これらも公然と入手可能な配列である。
【0041】
C.エクジソンLBDおよび任意の第2のLBD
遺伝子発現システムのある実施形態において、エクジソン受容体(EcR)LBDは無脊椎動物エクジソン受容体もしくはその変異体の全部または一部分を含む。EcRは、シグネチャー(signature)DNAおよびリガンド結合ドメインおよび活性化ドメインによって特徴づけられる核ステロイド受容体スーパーファミリーのメンバーである(Koelleら 1991,Cell,67:59 77;米国特許第6245531号(Stanford)も参照)。エクジソン受容体は多くのステロイド化合物、例えば、ポナステロンAおよびムリステロンAなど、並びに非ステロイド化合物に対して応答性である。EcRは5つのモジュラードメイン、すなわち、A/B(トランス活性化)、C(DNA結合、ヘテロダイマー化)、D(ヒンジ、ヘテロダイマー化)、E(リガンド結合、ヘテロダイマー化およびトランス活性化)、並びにF(トランス活性化)ドメインを有する。これらのドメインのいくつか、例えば、A/B、CおよびEなどは、それらが他のタンパク質に融合される場合に、その機能を保持している。本明細書において記載される遺伝子発現システムにおいてLBDとして使用するのに好適なEcRの部分はドメインD、EおよびFを含む。例えば、野生型EcR LBDは配列番号1のヌクレオチド990〜1997に存在する。
【0042】
好ましくは、EcRは鱗翅目EcR、双翅目EcR、節足動物EcR、同翅目EcRおよび半翅目EcRである。より好ましくは、使用するEcRはハマキガ類のトウヒシントメハマキ(Choristoneura fumiferana)EcR(CfEcR)、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)EcR(TmEcR)、タバコスズメガ(Manduca sexta)EcR(MsEcR)、オオタバコガ(Heliothies virescens)EcR(HvEcR)、カイコガEcR(BmEcR)、キイロショウジョウバエEcR(DmEcR)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)EcR(AaEcR)、クロバエ類のルシリア・クプリナ(Lucilia capitata)EcR(LcEcR)、チチュウカイミバエ(Ceratitis capitata)EcR(CcEcR)、トノサマバッタ(Locusta migratoria)EcR(LmEcR)、モモアカアブラムシ(Myzus persicae)EcR(MpEcR)、シオマネキ(Uca pugilator)EcR(UpEcR)、マダニ(Amblyomma americanum)EcR(AmaEcR)、シルバーリーフコナジラミ(Bamecia argentifoli)EcR(BaEcR)、またはツマグロヨコバイ(Nephotetix cincticeps)EcR(NcEcR)などである。さらにより好ましくは、LBDはトウヒシントメハマキEcR(CfEcR)またはキイロショウジョウバエEcR(DmEcR)である。
【0043】
様々な野生型もしくは変異型EcRの配列は公然と入手可能であり、例えば、米国特許第7091038号、国際公開第97/38117号および米国特許第6333318号、第6265173号および第5880333号のような公報に記載されている。以下の実施例は野生型EcR配列を使用するが、同様に機能する変異型配列が当業者によって選択されうることが予想される。ある実施形態においては、例えば、変異型エクジソン受容体は上で引用された米国特許出願公開第2005/0266457号に記載されるような変異を含むものであり、例えば、少なくとも1つの変異を含むグループH核受容体リガンド結合ドメインである。ある実施形態においては、例えば、配列番号2における1374〜1376に相当するヌクレオチド位置において、コドンACA(Thr)をコドンGTG(Val)に変える変異を含むエクジソンLBDが有用なEcRLBDであろう。この変異型EcRLBDはT52Vとも称されるが、全長CfEcRにおけるアミノ酸位置335におけるThrからValへの変異をコードする。その公報において記載されるEcRLBDのさらに他のものが本明細書に記載される遺伝子発現システムにおいて有用であり得る。別の実施形態においては、変異型エクジソン受容体LBDは米国特許第6245531号(Stanford)に記載されているものであり、または当該技術分野において知られている他の変異型配列の中でもとりわけ、トランケートEcRLBD配列もしくは欠失変異体である。別の実施形態においては、500mM未満の塩および少なくとも37℃でのハイブリダイゼーション工程並びに少なくとも63℃での2×SSPEでの洗浄工程のような従来のハイブリダイゼーション条件下で、既知のEcRLBDもしくは変異型配列をハイブリダイズするポリヌクレオチドによってLBDはコードされる。
【0044】
ある実施形態においては、遺伝子発現システムは第2のLBDを使用する。第2のLBDはエクジソン受容体ポリペプチドではないが、第2の核受容体のリガンド結合ドメインであることができる。このような第2の結合ドメインには、限定されないが、脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメイン、無脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメイン、ウルトラスピラクルタンパク質リガンド結合ドメイン、およびキメラリガンド結合ドメイン、ここで当該キメラリガンド結合ドメインは2つのポリペプチドフラグメントを含み、その第1のポリペプチドフラグメントが脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメイン、無脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメインまたはウルトラスピラクルタンパク質リガンド結合ドメイン由来であり、かつその第2のポリペプチドフラグメントが異なる脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメイン、無脊椎動物レチノイドX受容体リガンド結合ドメインまたはウルトラスピラクルタンパク質リガンド結合ドメイン由来であるキメラリガンド結合ドメインが挙げられる。例えば、米国特許出願公開第2005/0266457号に記載されているような結合ドメインを参照。このようなLBDは当業者に周知であり、かつ文献において充分に説明されている。
【0045】
1種以上の好適なEcRLBD配列を選択し、それを以下で例示される配列の代わりに使用することは、過度の実験を行うことなく、本明細書における教示が与えられる当業者の能力の範囲内にある。
【0046】
D.活性化ドメイン
遺伝子発現システムにおいて有用な活性化もしくはトランス活性化ドメイン(「AD」と略す)はあらゆるグループH核受容体メンバーAD、ステロイド/チロイドホルモン核受容体AD、合成もしくはキメラAD、ポリグルタミンAD、塩基性もしくは酸性アミノ酸AD、VP16 AD、GAL4 ADおよびNF−κB AD、BP64 AD、B42酸性活性化ドメイン(B42AD)、p65トランス活性化ドメイン(p65AD)、グルココルチコイド活性化ドメイン、またはこれらの類似体、組み合わせもしくは改変体でありうる。特定の実施形態においては、ADは合成もしくはキメラADであるか、またはEcR、グルココルチコイド受容体、VP16、GAL4、NF−κBもしくはB42酸性活性化ドメインADから得られる。好ましくは、ADはEcR AD、VP16 AD、B42 AD、またはp65 ADである。このような活性化ドメインの配列は、米国特許第7,091,038号のような公報においてまたは本明細書に記載される他の文献において公然と利用可能である。典型的なVP16ADは本明細書の実施例において記載されるプラスミドにおいて説明される。このようなドメインは当業者に周知であり、かつ文献において充分に説明されている。
【0047】
E.標的カセットの「誘導性」プロモーターシステム
ある実施形態においては、標的カセットのプロモーターは複数構成要素プロモーター配列である。それは最小プロモーターを含み、この最小プロモーターは応答エレメントの1以上のコピーと動作可能に関連しており、この応答エレメントは活性化カセット内のDNA結合ドメインに対応する。
【0048】
最小プロモーターは、本明細書において使用される場合、コアプロモーター(すなわち、転写の開始を媒介する配列)および5’非翻訳領域(5’UTR)を含み、エンハンサー配列を含まない。よって、遺伝子発現システムの実施形態において使用するために、最小プロモーターは、活性化カセットにおける使用について項目「A」において上述したあらゆるプロモーターに由来する最小プロモーターであることができる。ターゲットカセットの特定の実施形態において、望まれる最小プロモーターには、カリフラワーモザイクウイルス35S最小プロモーター;合成E1b最小プロモーター(配列番号8;米国特許第7091038号を参照);および合成TATA最小プロモーター(TATATA;米国特許出願公開第2005/0228016号を参照)が挙げられる。本明細書において記載される遺伝子発現システムにおいて有用な最小プロモーターは、文献に充分に記載されている多くのプロモーターから当業者によって容易に選択されうる。35S最小プロモーターの配列は後述の実施例において記載されるプラスミド中に記載される。
【0049】
標的カセットの誘導性プロモーターの他の部分は最小プロモーターに対して5’または3’側に位置する応答エレメント(RE)を含む。あるREは2つの異なるもしくは同じ最小プロモーターをそれぞれの側に有することができ、2つの異なるタンパク質を発現することができる。ある実施形態においては、REは最小プロモーターに操作上または動作可能に関連している。応答エレメントは、活性化カセットのDNA結合ドメインとの相互作用を介して媒介されるプロモーターに応答をもたらす1以上のシス作動性DNAエレメントである。このDNAエレメントはその配列内でパリンドローム(完全もしくは不完全)でありうるか、または変化しうる数のヌクレオチドによって分離された配列モチーフもしくはハーフサイト(half site)からなることができる。このハーフサイトは類似もしくは同じであってよく、そして直接反復もしくは逆方向反復で配列されてよく、または単一のハーフサイトとして配置されてよく、または直列に隣接するハーフサイトのマルチマーとして配置されてよい。天然のエクジソン受容体の応答エレメントのDNA配列の例はCherbas L.ら1991 Genes Dev.5,120−131;D’Avino PP.ら1995 Mol.Cell.Endocrinol,113:19およびAntoniewski C.ら1994 Mol.Cell Biol.14,4465−4474などの文献に記載されている。REは活性化カセットのDNA結合ドメインに対応するあらゆる応答エレメント、またはその類似体、組み合わせもしくは改変体であることができる。標的カセットにおいて、単一のREが使用されうるか、または複数のRE、すなわち、同じREの複数のコピーもしくは2種以上の異なるREのいずれかが使用されうる。REは改変されうるか、または酵母からのGAL−4タンパク質(Sadowskiら1988 Nature,335:563−564を参照)もしくは大腸菌からのLexAタンパク質(BrentおよびPtashne 1985,Cell,43:729−736を参照)のような他のDNA結合タンパク質ドメインのための応答エレメント、またはキメラ受容体に適合するための特異的相互作用のために設計され、改変されおよび選択されるタンパク質との標的相互作用に特異的な合成応答エレメント(例えば、Kimら1997 Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,94:3616−3620を参照)で置き換えられうる。特定の実施形態においては、REはGAL4からのRE(GAL4RE)、好ましくは、2以上のコピーである。後述の実施例は5コピーのGAL4RE(5xGAL4)の使用を示す。しかし、他の好適なREには、限定されないが、LexA、グループH核受容体RE、ステロイド/チロイドホルモン核受容体RE、または合成DNA結合ドメインを認識する合成REが挙げられる。他の実施形態においては、REはエクジソン応答エレメント(EcRE)、またはポリヌクレオチド配列を含むLexA RE(オペロン「op」)である。このようなREの全ては文献において充分に説明されており、かつ本明細書の教示を得た当業者によって容易に選択されうる。
【0050】
標的カセットにおいては、この「誘導性プロモーター」は、調節核酸配列もしくは遺伝子に動作可能に関連し、その発現を制御する。その遺伝子の高レベルの発現はエチレン誘導性シグナルタンパク質、例えば、EIN2もしくはEIN3の蓄積を低減させるように働き、それにより以下で明らかにされるようにエチレン感受性を変調する。標的カセットの誘導性プロモーターは化学誘導用組成物もしくは誘導剤によって誘導され、この組成物もしくは誘導剤は、活性化カセットのリガンド結合ドメインと接触する場合に、最小プロモーターの応答エレメントを活性化する。
【0051】
F.選択された調節タンパク質をコードする核酸配列
このシステムにおいて有用な核酸配列は、EIN2もしくはEIN3のようなエチレン誘導性シグナルタンパク質のターンオーバーを調節することにより、植物におけるエチレン感受性またはエチレン生産を改変する選択された調節タンパク質をコードする。このような核酸配列には、特定の実施形態においては、EIN3結合F−ボックスタンパク質、EBF1およびEBF2が挙げられる。別の実施形態においては、選択される調節タンパク質はF−ボックスタンパク質ETP1およびETP2である(上述のQiaoら、2008)。
【0052】
このようなETP1核酸配列の例は、配列番号1のヌクレオチド2557〜3804に特定される(GENBANK Acc.No.NM 112874も参照)。このようなETP2核酸配列の例は、配列番号2のヌクレオチド2551〜3717に特定される(GENBANK Acc.No.NM 112777も参照)。EBF1核酸配列の例はGENBANK Acc.No.NM 128106として公表されている。EBF2核酸配列の例はGENBANK Acc.No.NM 122444として公表されている。これらの配列は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0053】
野生型、すなわち天然に発現している植物調節遺伝子の使用に加えて、遺伝子発現システムはこれらの遺伝子配列およびコードされたタンパク質に有用な変異を含む特定の核酸配列を含むことも可能である。
【0054】
本明細書に記載される本発明のある実施形態においては、特定の植物についての選択されたシグナルタンパク質EIN2もしくはEIN3のターンオーバーを制御する野生型調節遺伝子が本明細書において記載される遺伝子発現システムにおいておよび方法において使用され、エチレンの存在下でのシグナルタンパク質の蓄積を阻害することによって植物におけるエチレン感受性を制御もしくは変調する。別の実施形態においては、植物細胞におけるエチレン感受性もしくはエチレン生産を媒介する野生型タンパク質の変異体が使用される。さらなる実施形態においては、エチレンの存在下でのシグナルタンパク質の蓄積を阻害することによってある種の植物細胞においてエチレン感受性もしくはエチレン生産を変調するタンパク質をコードする遺伝子の野生型もしくは変異体が別の種類の植物細胞において使用され、例えば、潜在的なRNAサイレンシングをなくするためにこのような使用が望まれる。
【0055】
G.任意の構成要素
遺伝子発現システムのカセットに認められる任意の構成要素には、ターミネーション制御領域が挙げられる。このようなターミネーターもしくはポリアデニル化配列も本発明の特定の実施形態における活性化および標的カセットにおいて使用されうる。このような領域は、好ましい宿主本来の様々な遺伝子に由来する。本発明のある実施形態においては、ターミネーション制御領域は、合成ポリアデニル化シグナル、ノパリンシンターゼ(nos)、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、オクトピンシンターゼ(ocs)、アグロバクテリウム、ウイルスおよび植物ターミネーター配列などを含むか、またはこれらに由来する。
【0056】
選択可能なマーカーには、その効果、すなわち、抗生物質耐性、除草剤耐性などに基づいて選択されうる抗生物質もしくは化学物質耐性遺伝子、比色マーカー、酵素、蛍光マーカーなどが挙げられうる。当該技術分野で知られ、使用されている選択可能なマーカー遺伝子の例には、アンピシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ヒグロマイシン、アクチノニン(PDF1遺伝子)、ビアラホス除草剤、グリホサート除草剤、スルホンアミド、マンノースなどに対する耐性をもたらす遺伝子;並びに、表現型マーカーとして使用される遺伝子、すなわち、アントシアニン制御遺伝子、イソペンタニルトランスフェラーゼ遺伝子、GUSおよびルシフェラーゼが挙げられる。
【0057】
他の調節配列、例えば、プラスミドにおけるスペーサー配列として機能するヌクレオチド配列、および他のマイナーな制御配列、酵素切断部位なども、本明細書において記載された特定の実施形態に従って植物細胞を形質転換するのためのカセットを含むプラスミド中に、もしくはカセット中に認められうる。
【0058】
好適なターミネーション配列、選択可能マーカーおよび他の従来のプラスミド制御配列は、当業者に周知で、かつ本明細書における教示をもたらす文献において充分に記載されているこのような数多くの配列から、当業者によって容易に選択されうる。
【0059】
H.遺伝子発現システムに有用な誘導用組成物/誘導剤
遺伝子発現システムが植物において発現される場合に、選択された調節タンパク質の発現の変調、例えば、そのタンパク質の過剰発現は、選択されたシグナルタンパク質の発現および蓄積に対する調節タンパク質による制御に基づいて植物細胞内のエチレン感受性を選択的に調節するために使用される。調節タンパク質の過剰発現はシグナルタンパク質の発現の低減を生じさせる。エチレンの存在下では、調節タンパク質の過剰発現はシグナルタンパク質に対するエチレンの通常の影響(すなわち、増大した発現)に打ち勝つのに充分高いレベルである。調節タンパク質の過剰発現の程度は植物に適用される誘導用組成物のタイミング、期間および量によって制御可能である。ある実施形態においては、誘導用組成物は植物の細胞と接触して配置される化学物質である。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物の細胞によって吸収される化学物質である。さらに別の実施形態においては、誘導用組成物は植物細胞内に転移される化学物質である。誘導用組成物は活性化カセットのEcRLBDに非常に特異的なリガンドでもある。誘導用組成物もしくはリガンドの活性化カセットのLBDへの結合は標的カセットの誘導性プロモーターの誘導および選択された調節タンパク質をコードする核酸配列の発現をもたらす。よって、このシステムは、シグナルタンパク質の発現を低減もしくは抑制することにより、植物におけるエチレン感受性を調節する。誘導用組成物は植物細胞、組織および器官に対する低い毒性によっても特徴づけられる。誘導用組成物はエチレン感受性の調節を「オフ」にするために植物から素早く枯渇する能力、および調節の効果的な制御を可能にする能力も有し、これらは以下でより詳細に記載される。
【0060】
このような有効な誘導用組成物には、エクジソンリガンド結合ドメインに優先的に結合するリガンドがある。ある実施形態においては、これらのリガンドには、ジアシルヒドラジン化合物、例えば、市販のテブフェノジド(ダウアグロサイエンス)、メトキシフェノジド(ダウアグロサイエンス)、ハロフェノジド(ダウアグロサイエンス)、およびクロマフェノジド(日本化薬)(国際公開第96/027673および米国特許第5,530,028号)が挙げられる。他の有用な誘導剤は非ステロイド系リガンド、例えば、米国特許第6,258,603号に記載されるジベンゾイルヒドラジン誘導体である。さらに他の有用な誘導剤は、米国特許出願公開第2005/0228016号に詳細に記載される4−テトラヒドロキノリン誘導体である。さらなる多くの好適な化合物、例えば、1−アロイル−4−(アリールアミノ)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン(THQ)がKumarらJ.Biol.Chem.2004,279(26):27211−8;HormannらJ.Comput Aided Mol.Res2003 17(2−4):135−53;TiceらBioorg Med Chem Lett 2003,13(11:1883−6;およびTiceら2003 Bioorg Med Chem Lett.2003 13(3):475−8に示される。
【0061】
よって、遺伝子発現システムは化学誘導用組成物もしくは誘導剤によって誘導されもしくは「オン」にされ、この化学誘導用組成物もしくは組成物は活性化カセットのリガンド結合ドメインと接触する場合に、応答エレメントの最小プロモーターを活性化し、これによりシグナルタンパク質EIN2もしくはEIN3の発現を抑制する調節核酸配列もしくは遺伝子の発現をオンにして、植物をエチレン非感受性にする。この遺伝子発現システムは、シグナルタンパク質の発現に対するエチレンの影響に打ち勝つのに充分高いレベルで調節遺伝子を外部的に発現させるための手段も提供する。
【0062】
II.トランスジェニック植物、植物細胞、組織もしくは器官
上述のように、遺伝子発現システムは、植物、植物細胞または植物の他の組織もしくは器官に組み込まれるように設計される。場合によっては、このような組み込みは一時的でもありうる。しかし、本発明の特定の実施形態においては、植物の染色体への安定的な組み込みが望まれる。
【0063】
ある実施形態においては、トランスジェニック植物細胞は、上述のような遺伝子発現システムを発現し、エチレン感受性が一時的かつ可逆的に制御されるように設計される。このような植物細胞は、ある実施形態においては、遺伝子発現システムの活性化カセットおよび標的カセットでトランスフェクトされたまたは形質転換された細胞である。ある実施形態においては、活性化カセットおよび標的カセットは同じプラスミド上にある場合には、このプラスミドで植物細胞はトランスフェクトされるかまたは形質転換される。別の実施形態においては、活性化カセットおよび標的カセットが別々のプラスミド上にある場合には、双方のプラスミドで別々にもしくは一緒に同じ植物細胞はトランスフェクトされるかもしくは形質転換される。あるいは、その2種の別々のプラスミドのそれぞれで同じ植物の異なる細胞がトランスフェクトされるかまたは形質転換される。さらに他の実施形態においては、その2種のプラスミドのそれぞれで、別々に、異なる植物が形質転換され、単一種のプラスミドを運ぶそれぞれの植物は性的に交配されて、双方のプラスミドを含む交配種を生じさせ、これにより機能的な誘導性システムをもたらす。
【0064】
トランスフェクションは、表現型の変化をもたらすように外来もしくは異種RNAもしくはDNAを細胞内に導入することを伴う。形質転換は、結果的に遺伝的に安定な形質をもたらす植物細胞の染色体DNAへの核酸フラグメントの移送および組み込みをいう。よって、形質転換核酸フラグメントを含む植物細胞は「トランスジェニック」もしくは「組み替え」もしくは「形質転換」生物と称される。よって、最初に形質転換もしくはトランスフェクトされた植物細胞の子孫も、その染色体に一時的にもしくは安定的に組み込まれたカセットを有する。
【0065】
A.形質転換
植物細胞の形質転換は、活性化カセットのみ、標的カセットのみ、または双方のカセットを含むベクターもしくはプラスミドを生じさせることを伴う。図1、2、3A〜3I、および4A〜4Iの例を参照。好適なベクターと植物との組み合わせは、当業者に容易に明らかとなり、例えば、Maligaら1994(植物分子生物学における方法;実験室マニュアル) Methods in Plant Molecular Biology:A Laboratory Manual,コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州に見いだされうる。
【0066】
例えば、好適な「ベクター」は核酸を植物細胞内にクローニングするおよび/または移行させるためのあらゆる手段である。ベクターは、別のDNAセグメントが、その結合したセグメントの複製をもたらすように結合されうるレプリコンであることができる。「レプリコン」は、DNA複製の自律ユニットとして、すなわち、それ自身の制御下で複製可能なように機能するあらゆる遺伝的構成要素(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)である。遺伝子発現システムで植物細胞を形質転換するのに有用なベクターには、細胞内に核酸を導入するためのウイルス系手段および非ウイルス系手段の双方が挙げられる。核酸を操作し、応答エレメントおよびプロモーターを遺伝子に組み込むなどのために、当該技術分野において既知の多数のベクターが使用されうる。可能なベクターには、例えば、プラスミドまたは改変された植物ウイルス、例えば、ラムダ誘導体のようなバクテリオファージ、またはプラスミド、例えば、pBR322もしくはpUCプラスミド誘導体、またはブルースクリプトベクターが挙げられる。DNA末端へヌクレオチド配列(リンカー)をライゲーションすることにより、相補的な付着端もしくは酵素で修飾された好適な挿入部位を有する選択されたベクターに、好適なDNAフラグメントをライゲーションする従来の手段が知られている。植物細胞を形質転換するのに使用されうるあらゆるウイルス系もしくは非ウイルス系ベクターがこの目的のために有用である。非ウイルス系ベクターには、プラスミド、リポソーム、電荷を有する脂質(サイトフェクチン)、DNA−タンパク質複合体、およびバイオポリマーが挙げられる。遺伝子発現システムのカセットに加えて、ベクターは1以上の調節領域、および/または核酸移行の結果(どの組織に移行するか、発現の期間など)をモニタリングし、測定し、選択するのに有用な選択可能なマーカーも含みうる。
【0067】
用語「プラスミド」は、通常、環状2本鎖DNA分子の形態の染色体外構成要素をいう。このような構成要素は、あらゆるソースに由来する、自己複製配列、ゲノム組み込み配列、ファージもしくはヌクレオチド配列、線状、環状もしくはスーパーコイルの、1本鎖もしくは2本鎖のDNAもしくはRNAであることができ、多くのヌクレオチド配列は、プロモーターフラグメントおよび好適な3’非翻訳配列と共に選択された遺伝子産物のためのDNA配列を細胞内に導入することができる独自の構造に結合されもしくは組み替えられている。
【0068】
ベクターもしくはプラスミドは、当該技術分野で知られた方法、例えば、トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム沈降、リポフェクション(リソソーム融合)、遺伝子銃の使用、またはDNAベクタートランスポーター(例えば、Wuら1992,J.Biol.Chem.267:963−967;WuおよびWu,1988,J.Biol.Chem.263:14621−14624;並びに、Hartmutら米国特許第5354844号を参照)によって所望の植物細胞内に導入されうる。あるいは、カチオン性脂質の使用が負に帯電した核酸のカプセル封入を促進することができ、負に帯電した細胞膜との融合も促進できる(FelgnerおよびRingold,1989 Science 337:387−388)。核酸の移送に特に有用な脂質化合物および組成物は米国特許第6172048号、第6107286号および第5459127号に記載されている。他の分子、例えば、カチオン性オリゴペプチドもしくはカチオン性ポリマー(例えば、米国特許第5856435号)、またはDNA結合タンパク質に由来するペプチド(例えば、米国特許第6200956号)なども核酸のトランスフェクションを容易にするのに有用である。裸のDNAプラスミドとしてのベクターを導入することも可能である(米国特許第5693622号、第5589466号および第5580859号を参照)。受容体に媒介されたDNA送達アプローチも、遺伝子発現カセットで植物細胞の形質転換を行うために使用されうる。例えば、アグロバクテリウム媒介リーフディスク形質転換法(Horschら,1988 Leaf Disc Transformation:Plant Molecular Biology Manual)または当該技術分野において知られた他の方法を用いて、植物の形質転換が達成されうる。
【0069】
B.繁殖およびスクリーニング
よって、上述のように、植物における少なくとも1つの細胞を上述の遺伝子発現システムで形質転換した後に(単一種のプラスミドで、もしくはそれぞれが異なるカセットを含む複数種の形質転換プラスミドとして)、トランスジェニック植物、植物組織もしくは植物器官を生じさせる方法は、選択された植物に典型的な条件下で形質転換された植物細胞もしくは植物から上述のような植物もしくは植物交配種を繁殖させることをさらに含む。次いで、植物は、形質転換された植物細胞の表現型特徴を含むもしくは示す植物(細胞、組織、器官)を選択するためにスクリーニングされる。例えば、植物が遺伝子発現カセットの所望の組み込まれた核酸配列を含むかどうかを決定するために、引き続いて、得られた植物またはその細胞、組織および器官のスクリーニングが行われ、これも当業者に知られている。例えば、プラスミド内の1以上のレポーター遺伝子もしくはマーカーの使用によって、安定的に染色体に組み込まれた導入DNAを有する細胞が選択されうる。以下の実施例において、カナマイシン、アクチノニンもしくはビアラホスがこの目的のために使用される。
【0070】
成功裏に組み込まれた発現システムを有する植物(組織もしくは器官)は、その植物が上述のような誘導用組成物と接触する場合に素早いエチレン非感受性を示す。あらゆる植物(植物細胞、組織もしくは器官を含む)がこのような形質転換を受けることができ、よって組み替え植物が従来の手段によって繁殖させられうる。遺伝子発現システムでの形質転換およびそれによるそのエチレン感受性の調節を受けうることが特に望まれる植物には、双子葉植物、単子葉植物、装飾用植物、顕花植物、並びに人または動物に摂取される植物が挙げられる。限定されることなく、このような植物には、イネ、トウモロコシ、小麦、大麦、モロコシ、キビ、スイッチグラス、ススキ(miscanthus)、グラス(grass)、オーツ麦、トマト、ジャガイモ、バナナ、キウイフルーツ、アボカド、メロン、マンゴー、サトウキビ、テンサイ、タバコ、パパイヤ、桃、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、ブルーベリー、レタス、キャベツ、カリフラワー、タマネギ、ブロッコリー、芽キャベツ、綿、キャノーラ、ブドウ、大豆、菜種、アスパラガス、豆類、ニンジン、キュウリ、ナス、メロン、オクラ、パースニップ、落花生、コショウ、パインアップル、カボチャ(squash)、サツマイモ、ライ麦、カンタロープ、エンドウ、カボチャ(pumpkin)、ヒマワリ、ホウレンソウ、リンゴ、サクランボ、クランベリー、グレープフルーツ、レモン、ライム、ネクタリン、オレンジ、モモ、ナシ、タンジェロ、タンジェリン、ユリ、カーネーション、キク、ペチュニア、バラ、ゼラニウム、スミレ、グラジオラス、ラン、ライラック、野生リンゴ、モミジバフウ、カエデ、ポインセチア、ニセアカシア、セイヨウトネリコ、ポプラ、シナノキおよびシロイヌナズナが挙げられる。
【0071】
植物組織および器官には、限定されないが、栄養組織、例えば、根、茎もしくは葉、および生殖組織、たとえば、果実、胚珠、胚、胚乳、外皮、種子、種皮、花粉、花弁、萼片、雌しべ、花、葯またはあらゆる胚組織が挙げられる。
【0072】
III.エチレン感受性を制御する方法
このようなトランスジェニック植物、細胞、組織、花、種子もしくは器官は、充分な期間にわたって好適な時点で適用される誘導用組成物の有効量を用ることによるエチレン感受性を制御する方法にかけられることができ、EIN2もしくはEIN3のようなシグナルタンパク質の蓄積を、特に植物細胞がエチレンに曝露される場合に阻害することができる。誘導用組成物は、トランスジェニック植物、植物細胞、植物組織もしくは植物器官の細胞と接触されうるか、これらに吸収されうるか、および/またはこれらに移行しうる。適用技術には、限定されないが、植物または植物と接触している土壌もしくは媒体を、誘導剤で浸せきし、噴霧し、粉末散布し、ドレンチング(drenching)し、ディッピングし、もしくは液体供給する(irrigating)ことが挙げられる。
【0073】
選択された調節もしくはターンオーバータンパク質の発現を増大させることにより、誘導用組成物の存在下でのエチレンに対する植物細胞の応答が調節される。選択されたタンパク質がEPT1である後述の実施例においては、誘導剤の適用はEPT1の発現を増大させ、これはEIN2の発現を低減もしくは抑制し、細胞内でのその蓄積を抑制し、それによりその植物のエチレンに対する感受性を低減させる。この感受性の低減は、誘導剤がその植物(細胞、組織もしくは器官)に適用されている期間にわたって続き、かつ活性剤の適用が停止された後でその植物が残りの誘導剤を代謝し続ける期間にわたって続く。さらに、エチレン誘導性シグナルタンパク質の誘導および発現に対するエチレンの直接競合効果に対抗するのに必要な程度まで調節タンパク質を過剰発現することによって、エチレンの存在下でこの低減は起こりうる。選択された時間の後で、植物から誘導剤を枯渇させることによって、エチレンに対する植物細胞の応答は野生型に戻され、この場合には増大する。シグナルタンパク質の発現に影響を及ぼしおよび植物細胞におけるエチレン感受性もしくはエチレン生産を変調する調節タンパク質の発現の「制御」、「変調」または「調節」はいくつかの方法で達成されうる。本方法のある実施形態においては、調節タンパク質発現の調節(その発現の量的大きさを含む)は植物への誘導用組成物の適用のタイミングによって制御される。別の実施形態においては、植物に適用される誘導用組成物の濃度は、タンパク質の発現(その発現の量的大きさを含む)およびこれによるエチレン感受性を制御するように使用される。さらなる実施形態においては、タンパク質発現の調節(その発現の量的大きさを含む)は植物への誘導用組成物の適用の期間により制御される。所望の結果を得るために、その植物の成長中に、誘導用組成物の適用のこれらパラメーターのいずれか1つ、2つもしくは3つ全部が変更されうる。
【0074】
タイミングを通じた制御の一例として、誘導用組成物は植物の生長サイクルにおける選択された時点で、例えば、植物の発芽、果実成熟もしくは開花のいずれかの前もしくは後で、または、環境条件に応答して(例えば、植物がストレス要因、例えば、病原体もしくは干ばつに曝露される前もしくは後で)、エチレン感受性を調節するように適用されうる。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物の生長サイクルにおける複数の時点で適用される。さらに他の実施形態においては、誘導用組成物の適用は、エチレン感受性を制御するために、選択された時点で停止される。適用の所望のタイミングは処理される植物の種類、誘導用組成物の効力、および植物に対するその潜在的な細胞毒性効果に応じて選択され、変化しうる。
【0075】
誘導用組成物濃度による制御の一例として、誘導用組成物の種類、植物の種類、適用のタイミング(すなわち、誘導用組成物の適用の時点で植物がエチレンに曝露されるかまたは曝露されてきたか)、植物のサイズおよび年齢(例えば、苗もしくは成熟した植物)、適用の環境(例えば、圃場において、または組織培養、植木鉢もしくは他の実験的もしくは成長用コンテナにおいて)に基づいて、誘導用組成物は選択された濃度で植物に適用される。ある実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも0.01μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも0.1μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも1μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも10μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも20μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも50μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも100μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも200μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも500μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも700μMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも1mMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも3mMの濃度で適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は植物あたり少なくとも5mMの濃度で適用される。さらに別の実施形態においては、この濃度は0.01μM〜少なくとも5mMの間の部分である濃度の中から選択される。
【0076】
植物におけるエチレン感受性もしくはエチレン生産を媒介するタンパク質の変調を制御する第3の方法は、誘導用組成物の適用の期間を変化させることを伴う。例えば、植物への誘導用組成物の適用の期間は、望まれる効果、誘導剤の有効性、および望まれない細胞毒性効果の可能性に応じて、少なくとも10分から少なくとも2週間、もしくはそれより長い時間の範囲であり得る。望まれる場合には、誘導用組成物の適用は数日の期間にわたってなされうる。ある実施形態においては、誘導用組成物の適用は数週間の期間にわたってなされうる。ある実施形態においては、上記濃度が概して少なくとも10分間にわたって植物に適用される。別の実施形態においては、上記濃度が少なくとも20分間にわたって植物に適用され、エチレンの非存在下でシグナルタンパク質の蓄積を低減させる。別の実施形態においては、シグナルタンパク質の発現を通常は増大させるエチレンに植物細胞が曝露される場合には、誘導用組成物は少なくとも30分間適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも1時間にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも2時間にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも5時間にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも12時間にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも1日にわたって適用される。別の実施形態においては、誘導用組成物は少なくとも2日にわたって適用される。ある実施形態においては、誘導用組成物を少なくとも2週間もしくは2週間以下にわたって適用することが必須である場合があるかまたは望ましい場合がある。ある実施形態においては、植物がエチレンの非存在下にある場合、例えば、植物がストレスを受ける前に、または植物にとってストレスのある条件を見越して、シグナルタンパク質の蓄積を抑制するように、適用のタイミングおよび濃度は当業者によって選択される。別の実施形態においては、植物がエチレンの存在下にある場合、例えば、植物がストレスを受けている間に、シグナルタンパク質の蓄積を抑制するように、適用のタイミングおよび濃度は当業者によって選択される。
【0077】
例えば、あるプロトコルは約10〜240分間で植物あたり10μMを超えて適用して、植物がエチレンの非存在下にある場合でのシグナルタンパク質の蓄積を低減もしくは抑制することを伴う。例えば、あるプロトコルは約5時間〜2日間で植物あたり50μMを超えて適用して、植物細胞内のシグナルタンパク質の発現および蓄積に対するエチレンの競合反応に打ち勝つ。例えば、以下の実施例7を参照すると、実施例7は誘導剤の濃度が植物によって示されるエチレン感受性の程度をどのように調節するかを示す。適用のタイミングによる制御に類似する方法においては、異なる成長段階での植物の要件変化に応じるもしくは環境条件の変化に応じる誘導用組成物の濃度が使用されうる。
【0078】
すでに詳述された様々な誘導剤の組成および物理化学特性は、望まれる生物学的効果を得るのに必要な適用時間および濃度に影響を及ぼしうる。本明細書において提供された教示を考慮すると、適用の濃度、タイミングおよび期間、並びに誘導用組成物自体は経験豊かな栽培者によって過度の実験をすることなく選択されうる。
【0079】
概して、誘導剤の適用停止とその誘導剤に対する植物の応答の反転との間の時間は、植物のサイズ、適用の方法、および適用される誘導剤の量に応じて、約2日以上である。
【0080】
以下の実施例は、植物におけるETP1、ETP2の発現を増大させることおよび/またはEIN2の発現を低減させることがどのように植物をエチレンに対して低感受性にするかを詳述する。しかし、当業者は、同様の方法で、植物における他の調節タンパク質、例えば、EBF1、EBF2の発現を増大させることおよび/または他のエチレン誘導シグナルタンパク質、例えば、EIN3の発現を低減させることが植物をエチレンに対して低感受性にすることを容易に認識するであろう。植物から誘導剤を奪うことによって選択された時間の後で、エチレンに対する植物細胞の応答は逆にさせられ、この場合は増大する。このことは、通常誘導剤が除去された後で、植物が正常に発生し、成長し、および熟成し続けることを可能にする。
【0081】
本明細書において記載される遺伝子発現システムで安定的に形質転換された植物への誘導剤の適用は、エチレンに対して感受性の植物成長、例えば、老化、果実熟成、発芽、病原体耐性、落葉、落花、つぼみの落下、丸莢(boll)の落下、果実の落下、および開花、並びに干ばつ、高温、植物密度および塩分などの条件により引き起こされるようなストレスに対する植物の応答などの一以上の特徴の制御を可能にする。
【0082】
本明細書に記載される方法は、より具体的には、植物のエチレン非感受性を増大させることによって、病気に対する植物の抵抗性および/または耐性を増大させるための方法としても使用されうる。あるいは、本方法は、植物のエチレン非感受性を増大させることによって、例えば、貯蔵もしくは輸送の目的のために、植物、組織もしくは器官の成熟もしくは開花を遅らせるために適用されうる。さらに別の実施形態においては、本明細書に記載される、誘導用組成物の好適な時点での適用で形質転換された植物を使用する方法は、誘導用組成物を適用することによって、望まれない成長条件下、例えば、干ばつもしくは過剰な高温下にある植物の処理によって、エチレンに対する感受性を低減させ、かつ植物をより容易に環境条件に耐性にすることを可能にする。植物繁殖および成長の分野の当業者は、形質転換された植物および上記核酸配列の発現の誘導方法が本明細書の教示に基づいた利益をもたらすであろう事例を容易に選択できる。
【0083】
よって、本明細書に記載される方法を使用する、誘導剤の適用のタイミング、期間または濃度は、植物の成長中に変更されることができ、かなりの精度でエチレン感受性およびこれによる植物の生長特性を制御できる。
【0084】
IV.実施例
以下の実施例は、構成的G10−90プロモーターの制御下にあってかつこれと動作可能に関連している、(a)5コピーのGAL4応答エレメントを含む応答エレメントを認識するGAL4 DBD;(b)ドメインD、EおよびFを含むエクジソン受容体LBD;並びに(c)誘導用組成物の存在下で活性化されるVP16ADを含む活性化カセットを含む上記遺伝子発現システムの使用を示す。標的カセットは誘導性プロモーターを含み、この誘導性プロモーターは、VP16ADの活性化に対して応答性の最小35プロモーターの上流に配置された5コピーのGAL4応答エレメントを動作可能に関連するように含み、この誘導性プロモーターは(e)ETP1タンパク質をコードする核酸配列の発現を制御する。この実施形態によると、活性化カセットおよび標的カセットの構成要素は、植物細胞内にある場合、植物細胞内でETP1タンパク質の発現を調節し、エチレン感受性を選択的に低減させる。このタンパク質発現は誘導用組成物との相互作用によって制御され、誘導用組成物は選択された調節タンパク質の発現を増大させ、これはひいてはEIN2の発現を低減させ、植物細胞におけるエチレン感受性を低減させる。タンパク質発現中のこの調節は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御される。
【0085】
より詳細には、例示される遺伝子発現システムは単一のプラスミドp201上に存在する活性化カセットおよび標的カセットを含む。このプラスミドは図1に概略的に示される。さらに他の典型的なプラスミドp202が図2に示される。図1および2のそれぞれのプラスミドの遺伝子発現カセット構成要素の核酸配列はそれぞれ配列番号1および2としてさらに特定される。実施例において論じられる他のプラスミドp1004およびp1005の遺伝子発現カセット構成要素のヌクレオチド配列は図3A〜3Iおよび4A〜4I、並びに配列番号3および4に開示される。
【0086】
次の実施例は上記組成物および方法の特定の実施形態を示す。これらの実施例は特許請求の範囲および明細書の開示を限定するものではない。
【0087】
実施例1:プラスミド
個々にクローニングされる遺伝子カセット構成要素は活性化カセットのために以下のものを含む:
G10−90構成的プロモーター、
VP16活性化ドメイン、
GAL4DNA結合ドメイン、および
NOSターミネーター配列と関連するエクジソン受容体リガンド結合ドメイン。 同様に、標的カセット構成要素が個々にクローニングされ、標的カセット構成要素は以下のものを含む:
5コピーのGAL4応答エレメントおよび最小35Sプロモーターからなる誘導性プロモーター、並びに
ETP1遺伝子(GENBANK Acc.No.NM 112874)またはETP2遺伝子(GENBANK Acc.No.NM 112777)および
35Sターミネーター配列。
全ての個々の配列は以下に記載される配列番号1におけるヌクレオチド番号によって特定される。
【0088】
活性化カセットの組み立てにおいて、次の構成要素は2つの異なる順に結合されて、2種の異なる活性化カセットを作成する:
VP16AD→GAL4 LBD→EcR(DEF)のDBD(VGEと略する);および
GAL4 LBD→VP16AD→EcR(DEF)のDBD(GVEと略する)。
【0089】
以下のプラスミドは上記構成要素について、EcR LBD、VGEもしくはGVEとしての構成要素の順序、標的カセットの誘導性プロモーターの影響下にある遺伝子の選択、並びにプラスミド骨格をはじめとする具体的な選択肢を有するが、このような構成要素の全ては当業者によって選択されることができ、かつこのプラスミドは過度の実験をすることなく容易に操作されうることが理解されるべきである。以下の具体的なプラスミドは例示のためだけである。
【0090】
以下、プラスミドDNAはpブルースクリプトIISK−骨格(ストラタジーン)内で造られる。SK−複数クローニングサイト領域は、8bp切断酵素のための認識部位を含む新たな複数クローニングサイトで置き換えられる。これらの酵素切断部位のいくつかは図1、2、3A〜3Iおよび4A〜4Iの例示プラスミドにおいて特定される。
ヌクレオチド配列を確認するために、例となる大腸菌プラスミドが準備され、配列決定される。このようなプラスミドは、図1、2、3A〜3Iおよび4A〜4Iに示されるような各構成要素の付加/欠失/交換のための独自の酵素切断部位を含んでいる。よって、それぞれの全構築物は、植物形質転換のためのバイナリーベクターをはじめとする最適な他のベクターに移されうる。
SK−マイナスプラスミドにおいて作成された構築物はバイナリープラスミドpBIN19(American Type Culture Collection Accession番号37327)に移される。pBIN19はすでにネオマイシン植物選択可能マーカー遺伝子、LB、RBおよびnptII選択可能マーカーを有しているので、図および/または配列表は骨格配列を示しておらず、目的の遺伝子発現配列のみを示し、すなわち、遺伝子発現システムの主要構成要素、例えば、Ec受容体および誘導性ETP1もしくはETP2は左側境界と右側境界との間にクローニングされる。
【0091】
トランスジェニック植物の生産における使用のために、次のアグロバクテリウムバイナリープラスミドが選択される:
G10−90プロモーター駆動VGE受容体および誘導性ETP1を含むトランスジェニック植物を得るためにp201[G10−90p−VGE−NosT−5xGAL−M35S−ETP1]が使用される。p201の発現カセット構成要素は配列番号1に示されており、すなわち、G10−90構成的プロモーター(配列番号1のヌクレオチド1〜243)、VP16活性化ドメイン(配列番号1のヌクレオチド249〜529)、GAL4DNA結合ドメイン(配列番号1のヌクレオチド534〜985)、およびNOSターミネーター配列(配列番号1のヌクレオチド2070〜2364)と関連しているエクジソン受容体リガンド結合ドメイン(配列番号1のヌクレオチド990〜1997)、5コピーのGAL4応答エレメント(配列番号1のヌクレオチド2391〜2492)および最小35Sプロモーター(配列番号1のヌクレオチド2499〜2554)からなる誘導性プロモーター、ETP1遺伝子(配列番号1のヌクレオチド2557〜3804)、並びに35Sターミネーター配列(配列番号1の3828〜4038)。
【0092】
p201[G10−90p−GVE−NosT−5xGAL−M35S−ETP2]は、G10−90プロモーター駆動VGE受容体および誘導性ETP2を含むトランスジェニック植物を得るために使用されるプラスミドである。図2および配列番号2を参照。p202の発現カセット構成要素は、G10−90構成的プロモーター(配列番号2のヌクレオチド1〜243)、GAL4DNA結合ドメイン(配列番号2のヌクレオチド276〜716)、VP16活性化ドメイン(配列番号2のヌクレオチド717〜974)、およびNOSターミネーター配列(配列番号2のヌクレオチド2064〜2358)と関連している上記T52V変異型エクジソン受容体リガンド結合ドメイン(配列番号2のヌクレオチド984〜1991)、5コピーのGAL4応答エレメント(配列番号2のヌクレオチド2385〜2486)および最小35Sプロモーター(配列番号2のヌクレオチド2493〜2548)からなる誘導性プロモーター、ETP2遺伝子(配列番号2のヌクレオチド2551〜3717)、並びに35Sターミネーター配列(配列番号2の3741〜3951)。
【0093】
p1004[G10−90p−VGE−NosT−5xGAL−M35S−ETP1、およびMMVp−def−rbcS−E9t]およびその構成要素は配列番号3に示され、構成要素のマップおよび配列は図3A〜3Iに示される。これらの構成要素は、G10−90構成的プロモーター(配列番号3のヌクレオチド1〜243)、VP16活性化ドメイン(配列番号3のヌクレオチド249〜529)、GAL4DNA結合ドメイン(配列番号3のヌクレオチド534〜985)、およびNOSターミネーター配列(配列番号3のヌクレオチド2070〜2364)と関連しているエクジソン受容体リガンド結合ドメイン(配列番号3のヌクレオチド990〜1997)、5コピーのGAL4応答エレメント(配列番号3のヌクレオチド2391〜2492)および最小35Sプロモーター(配列番号3のヌクレオチド2499〜2554)からなる誘導性プロモーター、ETP1遺伝子(配列番号3のヌクレオチド2557〜3804)、35Sターミネーター配列(配列番号3のヌクレオチド3828〜4038)、MMVプロモーター(配列番号3のヌクレオチド6265〜5629)、P−DEFマーカー遺伝子(配列番号3のヌクレオチド5567〜4746)、並びにrbcS−E9ターミネーター(配列番号3のヌクレオチド4719〜4075)である。
【0094】
p1005[G10−90p−GVE−NosT−5xGAL−M35S−ETP2およびMMVp−def−rbcS−E9t]およびその構成要素は配列番号4に示され、構成要素のマップおよび配列は図4A〜4Iに示される。これらの構成要素は、G10−90構成的プロモーター(配列番号4のヌクレオチド1〜243)、GAL4DNA結合ドメイン(配列番号4のヌクレオチド276〜716)、VP16活性化ドメイン(配列番号4のヌクレオチド717〜974)、およびNOSターミネーター配列(配列番号4のヌクレオチド2064〜2358)と関連している上述のエクジソン受容体リガンド結合ドメイン(配列番号4のヌクレオチド984〜1991)、5コピーのGAL4応答エレメント(配列番号4のヌクレオチド2385〜2486)および最小35Sプロモーター(配列番号4のヌクレオチド2493〜2548)からなる誘導性プロモーター、ETP2遺伝子(配列番号4のヌクレオチド2551〜3717)、35Sターミネーター配列(配列番号4のヌクレオチド3741〜3951)、MMVプロモーター(配列番号4のヌクレオチド6178〜5542)、P−DEFマーカー遺伝子(配列番号4のヌクレオチド5483〜4662)、並びにrbcS−E9ターミネーター(配列番号4のヌクレオチド4632〜3988)である。
【0095】
実施例2:トランスジェニックシロイヌナズナ植物の生産
シロイヌナズナ植物は実施例1からのプラスミドで、アグロバクテリウムを用い、標準的なフローラルディッププロトコールを用いて形質転換される。種子が収穫されカナマイシン含有培地上に蒔かれる。形質転換植物はカナマイシン上で成長する能力について選択され、ETP1またはETP2遺伝子の存在を確認するためにPCRでスクリーニングされた。ポジティブ形質転換体は自家受粉させてT1種子を生じさせる。種子はカナマイシン含有培地上で成長させられ、導入遺伝子のホモ接合型の系統を特定する。エチレン非感受性の誘導について試験するためにホモ接合型の植物が使用される。
【0096】
実施例3:シロイヌナズナ植物成長に及ぼすエチレン感受性の調節の影響
実施例2の形質転換されたシロイヌナズナ植物におけるエチレン感受性の変調を決定するためにトリプル応答アッセイ(上述のGuzmanおよびEcker、1990、後述のように改変される)が使用される。野生型、ein2−5(エチレン非感受性変異型対照)並びにp1004もしくはp1005シロイヌナズナ形質転換体の苗がアッセイされる。シロイヌナズナ種子は表面が滅菌され、暗所で、4日間、4℃で、20μMの誘導剤中で水分を吸収させられた。この種子は1%スクロースおよび20μMの誘導剤を含み、20μMのACC(エチレンの前駆体)を含むか、含まない0.5×MS上に蒔かれ、そして21℃で4から8日間暗所で成長させられた。いくつかの実験においては、対照として、5μMのAgNO3(エチレン非感受性を誘導するエチレンの阻害剤)が培地に添加される。エチレンに対する応答は最終日にスコア化される。誘導剤の存在下で、ETP1もしくはETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットを含むトランスジェニック植物は、エチレン前駆体ACCの存在下で成長した非誘導のトランスジェニック植物と比較して増大した芽の長さおよび/または変化した根の成長に基づくエチレン非感受性を示す。この実施例の結果は、遺伝子発現システムおよびそれにより形質転換される植物は、選択された誘導用組成物で処理される場合に、その誘導用組成物に応答する遺伝子発現システムが成功裏にエチレン感受性の調節を可能にすること示すであろうことが予想される。誘導剤の存在下でのETP1もしくはETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットを含むトランスジェニック植物は、同じ状況下での非誘導トランスジェニック植物と比較して増大した根の長さに基づいて、エチレン非感受性を示すことが予想される。
【0097】
実施例4:トランスジェニックトマト植物の生産、および植物成長に及ぼすエチレン感受性の調節の影響
実施例1からのプラスミドを用いて、アグロバクテリウムによって、標準的な方法を用いてトマト子葉片が形質転換される。想定される形質転換体はカナマイシンまたはアクチノニンを用いて選択され、PCR分析によって確認される。ポジティブ形質転換体は2回自家受粉されて、導入遺伝子についてホモ接合型の系統を得る。実施例3の方法と類似の方法でエチレン感受性の誘導について試験するためにホモ接合型植物が使用される。
形質転換トマト植物におけるエチレン感受性の変調を決定するためにトリプル応答アッセイ(上述のGuzmanおよびEcker、1990、後述のように改変される)が使用される。独立してp1004またはp1005ホモ接合体系統からの種子は暗所で、20μMのACCを含む0.5×MS培地+1%スクロース上で発芽させられる。ACC上での発芽はトマト苗の成長を阻害する。同じ系統からの種子は20μMのACCプラス20μMの誘導剤の存在下で発芽させられる。苗は21℃で4から8日間暗所で成長させられる。エチレンに対する応答は最終日にスコア化される。
誘導剤の存在下で、ETP1もしくはETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットを含むトランスジェニック植物は、エチレン前駆体ACCの存在下で成長する非誘導のトランスジェニック植物と比較して増大した芽の長さおよび/または変化した根の成長に基づくエチレン非感受性を示す。この実施例は、遺伝子発現システムおよびそれにより形質転換される植物は、選択される誘導用組成物で処理される場合に、その誘導用組成物に応答する遺伝子発現システムが成功裏にエチレン感受性の調節を可能にすることをさらに示す。
【0098】
実施例5:トランスジェニックトウモロコシ植物の生産およびトウモロコシ植物成長に及ぼすエチレン感受性の調節の影響
トウモロコシ植物は実施例1のプラスミドを用いて、微粒子衝突(microparticle bombardment)によって形質転換される。想定される形質転換体はアクチノニンまたはビアラホスを用いて選択され、PCR分析によって確認される。ポジティブ形質転換体は近交系B73と戻し交配されて活力を増大させる。上述のように生産されるトランスジェニックトウモロコシ植物はエチレン感受性の変調について試験される。エチレン感受性の変調は植物をエチレンの前駆体であるACCに曝露し、エチレンで誘導される遺伝子の誘導の変化を測定することにより分子レベルで決定される。温室で成長中のトランスジェニックT0トウモロコシ植物から茎の外皮(stalk sheath)組織が摘出され、インビトロバイオアッセイにおいて使用される。ETP1もしくはETP2の発現を誘導するために、摘出された組織は水または20μM誘導剤で2日間処理される。2日間の誘導期間の後で、この組織は1日間、0、1または10μMのACCで処理されてエチレンを生じさせ、次いでRNAを調製するために収穫され、使用される。
エチレン誘導性遺伝子(ACCオキシダーゼ)の誘導はアプライドバイオシステムズ7900HFファーストリアルタイムPCRシステム(ABI)で定量的PCRを用いて測定され、逆転写酵素(RT)についてはTaqManアッセイキット(ABI)が使用され、PCRは製造者の推奨するプロトコールを使用する。内部対照としてトウモロコシ18sを使用して各サンプルについての発現を正規化する。
【0099】
プライマーおよびプローブの配列は次の通りである:
【表1】
【0100】
遺伝子発現を決定するために、0μMの誘導剤プラス0μMのACC対照の処理におけるACCオキシダーゼ発現が各トウモロコシ系統について正規化される。
【0101】
誘導用化合物の存在下でETP1もしくはETP2の発現のための活性化カセットおよび標的カセットを含むトランスジェニック植物は、ACCオキシダーゼの低減された発現に基づいてエチレン非感受性を示す。同様のアプローチを用いて、当業者はEIN2もしくはEIN3をコードするエチレン誘導性遺伝子の誘導の低減を測定することもできる。
【0102】
実施例6:エチレン非感受性に及ぼすACC濃度の影響
一つのp1004系統または一つのp1005系統からのホモ接合型種子が、20μMの誘導剤と5μMのAgNO3または様々な量(すなわち、1.0〜20μM)のエチレン前駆体であるACCとを含む培地上で4日間発芽させられ次いで成長させられる。暗所で10日間の成長の後で胚軸および根の長さが測定される。エチレンはEIN2を誘導する一方で、ETP1およびETP2の誘導はターンオーバーのためのEIN2タンパク質を標的とするので、胚軸および根のわずかに少ない伸長によって認められるように、より高いACC濃度で達成される非感受性のレベルの幾分かの低減があり得ることが予想される。この例は、ETP1もしくはETP2の誘導はエチレン非感受性を誘導することができ、植物の非感受性のレベルはETP1もしくはETP2の誘導のレベルによって調節されうることを示す。
【0103】
実施例7:誘導剤濃度の関数としての植物におけるエチレン非感受性の程度
一つのp1004含有系統または一つのp1005含有系統からのホモ接合型種子が20μMのACCおよび様々な量(すなわち、0.5〜20μM)の誘導剤を含む培地上で発芽させられる。暗所で10日間の成長の後で胚軸および根の長さが測定される。エチレンはEIN2を誘導する一方で、ETP1およびETP2の誘導はターンオーバーのためのEIN2タンパク質を標的とするので、胚軸および根のわずかに少ない伸長によって認められるように、より低い誘導剤濃度で達成されるエチレン非感受性のレベルの幾分かの低減があり得ることが予想される。この例は、ETP1もしくはETP2の誘導はエチレン非感受性を誘導することができ、植物の非感受性のレベルはETP1もしくはETP2の誘導のレベルを調節することによって変調されうることを示す。
【0104】
実施例8:植物におけるエチレン非感受性の一時的な誘導
誘導されたエチレン非感受性植物が、誘導剤がもはや提供されない場合にエチレン感受性に戻ることを示すために、p1004系統またはp1005系統の1つからのホモ接合型種子が、20μMのACCおよび10〜20μMの誘導剤を含む培地上で、2、4、6、8または14日間発芽させられる。暗所で14日間成長させた後、エチレン非感受性を評価するために胚軸および根が測定される。ACCの存在下で、エチレン非感受性苗木はより長い胚軸および根を有することが期待される。誘導剤の非存在下においては、その苗木はエチレンに対して感受性になり、暗所における矮小の成長を示すことが予想される。よって、戻された苗木の根および胚軸の成長は感受性の苗木および非感受性の苗木の中間であろう。誘導された苗木から誘導剤が除かれると、その苗木は非誘導の対照の苗木と比較してエチレン感受性の状態に戻ることが予想される。上記実施例はETP1もしくはETP2のヌクレオチド配列の使用を示すが、本明細書は同様の方法で他の調節遺伝子、例えば、EBF1およびEBF2の発現を調節する能力を当業者にあきらかに提供する。エチレンシグナル伝達経路タンパク質EIN3は、同様にエチレンによって誘導され、そしてEBF1およびEBF2によるターンオーバーの標的とされる。よって、本明細書に記載される方法および組成物の使用によるEBF1およびEBF2の誘導および調節は、非常に選択的でかつ一時的なエチレン非感受性の状態をもたらすであろうし、そのエチレン非感受性は誘導剤の除去によってエチレン感受性に戻ることができる。
【0105】
上述の実施形態の多くの修飾および変更が本明細書に含まれ、かつ当業者に自明であると考えられる。本明細書に記載される組成物および方法に対するこのような修飾および変更は添付の特許請求の範囲に包含されると考えられる。
【0106】
上に示され、参照される特許、特許出願および公報、並びに非特許文献をはじめとする全ての文献、並びに、添付の図面および/または配列表は、本明細書の明示的な教示と整合する限りは、その全体が、参照により本明細書に組み込まれる。しかし、本明細書におけるあらゆる参考文献の引用は、そのような参考文献が本出願に対する「先行技術」として利用可能であることの承認として解釈されるべきではない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物細胞におけるエチレン誘導性タンパク質の蓄積を制御可能に抑制するための遺伝子発現システムであって、
当該遺伝子発現システムは活性化カセットおよび標的カセットを含み;
前記活性化カセットは好適なプロモーターの制御下でこれと動作可能に関連して、(a)選択された応答エレメントを認識するDNA結合ドメイン(DBD)、(b)エクジソン受容体リガンド結合ドメイン(EcRLBD)、および(c)誘導用組成物の存在下で活性化される活性化ドメイン(AD)を含み;
前記標的カセットは(d)誘導性プロモーターを含み、前記誘導性プロモーターは(a)のDBDが結合する応答エレメントと(c)のADに対して応答性の最小プロモーターとを動作可能に関連して含み、前記誘導性プロモーターは(e)選択された調節タンパク質をコードする核酸配列の発現を制御し、前記調節タンパク質は発現状態でEIN2もしくはEIN3遺伝子産物の発現を低減させるように機能し;
前記活性化カセットおよび標的カセットは、植物細胞内で誘導用組成物と共にある場合には動作可能に関連して相互作用を可能にし、前記選択された調節タンパク質の発現を制御可能に増大させ、エチレンの存在下での植物におけるEIN2もしくはEIN3遺伝子産物の蓄積を抑制し、EIN2もしくはEIN3タンパク質発現の前記蓄積の抑制は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御可能である;
遺伝子発現システム。
【請求項2】
活性化カセットおよび標的カセットが同じプラスミド上に存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
活性化カセットおよび標的カセットが別々のプラスミド上に存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
活性化カセットのプロモーターが構成的プロモーター、植物細胞特異的プロモーター、植物組織特異的プロモーター、植物器官特異的プロモーター、誘導性プロモーター、発達特異的プロモーターおよび細胞分化特異的プロモーターからなる群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
プロモーターが構成的プロモーターである請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
DBDがGAL4 DBD、LexA DBD、転写因子DBD、グループH核受容体メンバーDBD、ステロイド/チロイドホルモン核受容体スーパーファミリーメンバーDBD、バクテリアLacZ DBD、EcR DBD、cIプロモーターDBDからなる群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
エクジソン受容体EcRLBDが無脊椎動物エクジソン受容体もしくはその変異体の全部もしくは一部分を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
活性化ドメインがVP16、グルココルチコイド活性化ドメイン、およびGal4活性化ドメインからなる群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
誘導性プロモーターが最小プロモーター配列と、活性化カセットにおけるDNA結合ドメインに対応する1コピー以上の応答エレメントとを動作可能に関連して含む請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
選択されたタンパク質をコードする核酸配列がEIN2調節遺伝子ETP1およびETP2、EIN3結合F−ボックスタンパク質EBF1およびEBF2、並びにこれらの変異体からなる群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
遺伝子発現システムが活性化カセットおよび標的カセットを含み、
前記活性化カセットは構成的G10−90プロモーターの制御下でこれと動作可能に関連して、(a)5コピーのGAL4応答エレメントを含む応答エレメントを認識するGaL4 DBD、(b)エクジソン受容体LBD、および(c)誘導用組成物の存在下で活性化されるVP16ADを含み;
前記標的カセットは(d)誘導性プロモーターを含み、前記誘導性プロモーターは5コピーのGaL4応答エレメントと、VP16ADの活性化に対して応答性の最小35Sプロモーターとを動作可能に関連して含み、前記誘導性プロモーターは(e)ETP1もしくはETP2タンパク質をコードする核酸配列の発現を制御し;
前記活性化カセットおよび標的カセットは、植物細胞内で誘導用組成物と共にある場合には動作可能に関連して相互作用を可能にし、ETP1もしくはETP2タンパク質の発現を制御可能に増大させ、エチレンの存在下での植物におけるEIN2遺伝子産物の蓄積を抑制し、EIN2タンパク質発現の前記蓄積の抑制は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御可能である;
請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
請求項1または11に記載の遺伝子発現システムを安定的に発現するトランスジェニック植物細胞、トランスジェニック植物組織もしくは器官、またはトランスジェニック植物を含む組成物。
【請求項13】
(a)請求項1または11に記載の遺伝子発現システムで植物における少なくとも1つの細胞を形質転換し、
(b)形質転換された植物細胞から植物を発生させ、並びに
(c)形質転換された植物細胞を含む植物であって、その植物がエチレンの存在下で誘導用組成物と接触させられる場合にエチレン非感受性を示し、その変調が誘導用組成物の適用のタイミング、濃度、および期間によって制御される、形質転換された植物細胞を含む植物を選択する
ことを含む、トランスジェニック植物を生産する方法。
【請求項14】
誘導用組成物をトランスジェニック植物の細胞に適用し、前記植物は請求項1または11に記載の遺伝子発現システムを安定的に発現する細胞を含み、前記誘導用組成物のタイミング、濃度または期間によって、調節タンパク質の過剰発現がエチレンの存在下での植物細胞内のエチレン誘導性シグナルタンパク質の蓄積を低減もしくは抑制させることを含む、植物におけるエチレン感受性を調節する方法。
【請求項15】
誘導用組成物がジアシルヒドラジン化合物である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
制御されるエチレン感受性が、老化、果実熟成、ストレス応答、発芽、病原体耐性、落葉、落花、つぼみの落下、丸莢の落下、果実の落下、開花、並びに干ばつ、高温、植物密度および塩分に対する応答からなる群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項1】
植物細胞におけるエチレン誘導性タンパク質の蓄積を制御可能に抑制するための遺伝子発現システムであって、
当該遺伝子発現システムは活性化カセットおよび標的カセットを含み;
前記活性化カセットは好適なプロモーターの制御下でこれと動作可能に関連して、(a)選択された応答エレメントを認識するDNA結合ドメイン(DBD)、(b)エクジソン受容体リガンド結合ドメイン(EcRLBD)、および(c)誘導用組成物の存在下で活性化される活性化ドメイン(AD)を含み;
前記標的カセットは(d)誘導性プロモーターを含み、前記誘導性プロモーターは(a)のDBDが結合する応答エレメントと(c)のADに対して応答性の最小プロモーターとを動作可能に関連して含み、前記誘導性プロモーターは(e)選択された調節タンパク質をコードする核酸配列の発現を制御し、前記調節タンパク質は発現状態でEIN2もしくはEIN3遺伝子産物の発現を低減させるように機能し;
前記活性化カセットおよび標的カセットは、植物細胞内で誘導用組成物と共にある場合には動作可能に関連して相互作用を可能にし、前記選択された調節タンパク質の発現を制御可能に増大させ、エチレンの存在下での植物におけるEIN2もしくはEIN3遺伝子産物の蓄積を抑制し、EIN2もしくはEIN3タンパク質発現の前記蓄積の抑制は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御可能である;
遺伝子発現システム。
【請求項2】
活性化カセットおよび標的カセットが同じプラスミド上に存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
活性化カセットおよび標的カセットが別々のプラスミド上に存在する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
活性化カセットのプロモーターが構成的プロモーター、植物細胞特異的プロモーター、植物組織特異的プロモーター、植物器官特異的プロモーター、誘導性プロモーター、発達特異的プロモーターおよび細胞分化特異的プロモーターからなる群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
プロモーターが構成的プロモーターである請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
DBDがGAL4 DBD、LexA DBD、転写因子DBD、グループH核受容体メンバーDBD、ステロイド/チロイドホルモン核受容体スーパーファミリーメンバーDBD、バクテリアLacZ DBD、EcR DBD、cIプロモーターDBDからなる群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
エクジソン受容体EcRLBDが無脊椎動物エクジソン受容体もしくはその変異体の全部もしくは一部分を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
活性化ドメインがVP16、グルココルチコイド活性化ドメイン、およびGal4活性化ドメインからなる群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
誘導性プロモーターが最小プロモーター配列と、活性化カセットにおけるDNA結合ドメインに対応する1コピー以上の応答エレメントとを動作可能に関連して含む請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
選択されたタンパク質をコードする核酸配列がEIN2調節遺伝子ETP1およびETP2、EIN3結合F−ボックスタンパク質EBF1およびEBF2、並びにこれらの変異体からなる群から選択される請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
遺伝子発現システムが活性化カセットおよび標的カセットを含み、
前記活性化カセットは構成的G10−90プロモーターの制御下でこれと動作可能に関連して、(a)5コピーのGAL4応答エレメントを含む応答エレメントを認識するGaL4 DBD、(b)エクジソン受容体LBD、および(c)誘導用組成物の存在下で活性化されるVP16ADを含み;
前記標的カセットは(d)誘導性プロモーターを含み、前記誘導性プロモーターは5コピーのGaL4応答エレメントと、VP16ADの活性化に対して応答性の最小35Sプロモーターとを動作可能に関連して含み、前記誘導性プロモーターは(e)ETP1もしくはETP2タンパク質をコードする核酸配列の発現を制御し;
前記活性化カセットおよび標的カセットは、植物細胞内で誘導用組成物と共にある場合には動作可能に関連して相互作用を可能にし、ETP1もしくはETP2タンパク質の発現を制御可能に増大させ、エチレンの存在下での植物におけるEIN2遺伝子産物の蓄積を抑制し、EIN2タンパク質発現の前記蓄積の抑制は誘導用組成物の適用のタイミング、濃度および期間によって制御可能である;
請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
請求項1または11に記載の遺伝子発現システムを安定的に発現するトランスジェニック植物細胞、トランスジェニック植物組織もしくは器官、またはトランスジェニック植物を含む組成物。
【請求項13】
(a)請求項1または11に記載の遺伝子発現システムで植物における少なくとも1つの細胞を形質転換し、
(b)形質転換された植物細胞から植物を発生させ、並びに
(c)形質転換された植物細胞を含む植物であって、その植物がエチレンの存在下で誘導用組成物と接触させられる場合にエチレン非感受性を示し、その変調が誘導用組成物の適用のタイミング、濃度、および期間によって制御される、形質転換された植物細胞を含む植物を選択する
ことを含む、トランスジェニック植物を生産する方法。
【請求項14】
誘導用組成物をトランスジェニック植物の細胞に適用し、前記植物は請求項1または11に記載の遺伝子発現システムを安定的に発現する細胞を含み、前記誘導用組成物のタイミング、濃度または期間によって、調節タンパク質の過剰発現がエチレンの存在下での植物細胞内のエチレン誘導性シグナルタンパク質の蓄積を低減もしくは抑制させることを含む、植物におけるエチレン感受性を調節する方法。
【請求項15】
誘導用組成物がジアシルヒドラジン化合物である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
制御されるエチレン感受性が、老化、果実熟成、ストレス応答、発芽、病原体耐性、落葉、落花、つぼみの落下、丸莢の落下、果実の落下、開花、並びに干ばつ、高温、植物密度および塩分に対する応答からなる群から選択される請求項14に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図4I】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図3E】
【図3F】
【図3G】
【図3H】
【図3I】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図4I】
【公表番号】特表2012−519486(P2012−519486A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553030(P2011−553030)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/025872
【国際公開番号】WO2010/101884
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2010/025872
【国際公開番号】WO2010/101884
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】
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