説明

植物における貯蔵物質含量の改変方法

本発明は、レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンを発現する形質転換植物を使用する、植物における貯蔵物質の含量の改変方法に関する。本発明はまた、対応植物およびその用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンを発現する形質転換植物を使用することによる、植物の貯蔵物質含量の改変方法、対応植物およびそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
植物における貯蔵物質は蓄積物質として作用し、植物組織により形成され、細胞内に蓄積する。貯蔵物質の具体例としては、多糖類(炭水化物、例えばリケニン、デンプン、グリコーゲン、ポリフルクトサン)、タンパク質、脂肪、ポリホスフェートおよびポリヒドロキシアルカノエートが挙げられる。必要に応じて、例えば、種子発芽、成長および他のエネルギー消費過程において栄養素の不足が生じた場合には、貯蔵物質は代謝およびエネルギー生成に戻される。
【0003】
貯蔵物質は貴重な栄養原料(穀類、堅果、果実、香辛料など)であり、多数のヒト用食物の基礎を形成し、産業用油脂をも提供しうる。薬理学的に活性な成分を含有しているため、医学用に使用される貯蔵物質もある(出典:CD Rompp Chemie Lexikon - Version 1.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1995)。
【0004】
また、貯蔵物質は、再生可能で生態環境学的に許容される産業用原料として益々頻繁に使用されるようになっており、例えば、包装材料の製造にデンプンを使用したり、燃料、例えばバイオディーゼルまたは潤滑油として植物油を使用することが可能である。
【0005】
植物の二次代謝産物(代謝作用も参照されたい)として公知のもの(例えば、色素、毒素、精油、アルカロイド、果実の酸は、一般には、貯蔵物質に属するものとしては分類されていない(出典:Rompp Lexikon Chemie - Version 2.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1999 “Reservestoffe”[貯蔵物質])。
【0006】
植物においては、貯蔵物質は、種子において又は貯蔵器官において炭水化物前駆体から形成される。スクロースは主要な炭素源およびエネルギー源であり、発生中の種子へ又は貯蔵器官へ葉により輸送される。葉内のスクロースは、光合成により得られたデンプンにより形成される。発生中の種子へ輸送されたスクロースは、貯蔵脂質の脂肪酸の合成のためだけでなく、貯蔵タンパク質および貯蔵デンプンの合成にも利用される。
【0007】
例えば、種子は、以下の合計3つの異なる形態の貯蔵物質を含む:貯蔵脂質、貯蔵タンパク質およびデンプン。それらの3つの貯蔵物質の比率は植物によって様々である。したがって、例えば、ナタネ品種は、その乾燥物に基づいて、約48%の貯蔵脂質、19%のデンプンおよび21%の貯蔵タンパク質を含み、一方、ダイズは22%の脂質、12%のデンプンおよび37%のタンパク質を含む(Biochemistry & Molecular Biology of the Plant ed. Buchanan, Gruissem, Jones 2000, American Society of Plant Physiologists)。
【0008】
植物油(脂質)から得られうる脂肪酸に特に関心が持たれる。それは、例えば可塑剤、滑沢剤、界面活性剤、化粧品などの原料として使用されたり、食品および飼料産業における貴重な原料として使用される。したがって、例えば、中鎖脂肪酸を含有するナタネ油を提供することが特に好都合である。なぜなら、これらは、界面活性剤の製造のために特に必要だからである。
【0009】
組換え法による植物代謝経路の標的化モジュレーションは、植物代謝が有利に改変されるのを可能にする。これは、従来の育種法を用いた場合には、達成されるとしても面倒な工程を経なければ達成され得ないものである。したがって、例えば、特異な脂肪酸、例えば、ある種の高度不飽和脂肪酸は、特定の植物においてのみ合成されるか、全く合成されず、したがって、問題の酵素をトランスジェニック植物において発現させることによる標的化法でしか製造することができない(例えば、Millarら (2000) Trends Plant Sci 5:95-101)。
【0010】
デンプンは、貯蔵物質として、種子内に貯蔵されるだけでなく、他の貯蔵器官内にも貯蔵される。重要なデンプン貯蔵器官は胚軸および根である。皮質柔組織の細胞の増殖および肥大は塊根、例えばジャガイモ塊茎を与え、根頸領は需根作物、例えばテンサイまたはヤムイモを与える。
【0011】
したがって、例えば、デンプンはジャガイモの乾燥物の主要構成成分である。したがって、ジャガイモは、食料としての用途に加えて、飼料として並びにデンプンおよびアルコールを得るための原料として使用される。1988年には、全世界で2億6970万トンのジャガイモが収穫された(出典:CD Rompp Chemie Lexikon - Version 1.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1995)。
【0012】
米国特許第6,372,961号、WO 98/12913およびWO 00/00597は、植物における酸素同化を促進するための、ヘモグロビンまたは構造的に関連したタンパク質(ミオグロビン、細菌ヘモグロビン)の利用を記載している。これは、対応トランスジェニック植物の発芽またはエネルギー生成を改善すること、および低酸素条件下でさえも正常な成長を確保することを意図したものである。産生される二次代謝産物の量も増加すると記載されている(WO 98/12913、6頁24行)。貯蔵物質の産生の増加はこれらの文献からは明らかではない。
【0013】
したがって、植物を使用することにより、植物の貯蔵器官における貯蔵物質含量を増加させて、栽培面積、肥料などのより良好な利用を達成し、かつより良好な収量を得ることが、本発明の目的である。特に、デンプンまたは油の生産を改善または可能にすることが意図される。
【発明の開示】
【0014】
この目的は、植物における貯蔵物質含量を改変するための本発明方法において、レグヘモグロビンを発現する形質転換植物を使用することにより達成される。この目的はまた、レグヘモグロビンを発現する形質転換植物により、およびその使用により達成される。
【0015】
驚くべきことに、レグヘモグロビンを発現させることにより、貯蔵物質含有形質転換植物が、その(より高い)貯蔵物質含量のために、栽培面積、肥料などのより良好な利用、したがって、より良好な貯蔵物質(特に、デンプンおよび油)収量を可能にすることが見出された。したがって、本発明の植物の経済的に有利な使用が可能である。
【0016】
レグヘモグロビンはヘモグロビンタンパク質のファミリーに属し、その機能は酸素の可逆的結合および供給である。それは豆類(マメ科植物)の根粒に由来し、脊椎動物のミオグロビンに類似しており、単離されうる赤色物質の形態をとる。O2の可逆的結合の結果として、レグヘモグロビンは、根粒菌により窒素が固定された場合には、高い酸素要求性を満たしうる。そのアポタンパク質は植物細胞により形成され、ヘムは該細菌により形成される(出典:CD Rompp Chemie Lexikon - Version 1.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1995)。
【0017】
本発明のもう1つの好ましい形態においては、植物における貯蔵物質含量を改変するための本発明方法において、ヘモグロビンまたはレグヘモグロビンおよびヘモグロビンを発現する形質転換植物を使用する。したがって、本発明はまた、レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンを発現する形質転換植物およびその使用に関する。
【0018】
本発明においては、ヘモグロビンはプロトポルフィリンの鉄(II)錯体を意味すると理解される。
【0019】
本出願においては、発現は、DNAまたはRNAからスタートする遺伝情報が遺伝子産物(ポリペプチドまたはタンパク質、この場合はレグヘモグロビンまたはヘモグロビン)に変換されることを意味すると理解され、過剰発現なる語をも含むと意図される。過剰発現は、外来タンパク質または天然に存在するタンパク質が、より大量に産生されるよう、または宿主細胞の全タンパク質含量の大部分を占めるよう、増強された発現を意味する。
【0020】
形質転換は、生物、特に植物に遺伝情報が導入されることを意味すると理解される。これは、当業者に公知の全ての情報導入方法、例えばマイクロインジェクション、エレクトロポレーション、粒子射撃、アグロバクテリウムまたは化学物質媒介取り込み(例えば、ポリエチレングリコール媒介DNA取り込み、またはシリコンカーボネート繊維技術によるもの)を包含すると意図される。遺伝情報は、DNA、RNA、プラスミドとしてまたは任意の他の方法で細胞内に導入され、組換えにより宿主ゲノム内に組み込まれた形態で又は遊離の形態で若しくは独立してプラスミドとして存在しうる。したがって、本発明の目的においては、形質転換植物は、遺伝的に改変された植物である。
【0021】
貯蔵物質は、多糖類(好ましくは、炭水化物)、タンパク質、脂肪、ポリホスフェートおよびポリヒドロキシアルカノエート、特に好ましくは、リケニン、デンプン、グリコーゲン、ポリフルクトサンを意味すると理解される。
【0022】
前記の化合物のうち、炭水化物および脂肪が非常に好ましい。貯蔵物質として最も好ましいものはデンプンおよび油である。
【0023】
デンプンは当業者に公知である。更なる情報は、Rompp Chemie Lexikon - CD Version 2.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1999を参照されたい。
【0024】
本発明の目的においては、「油」は中性および/または極性脂質ならびにこれらの混合物を含む。表1に示されているものは例示にすぎず、限定的なものではない。
【表1】

【0025】
中性脂質は、好ましくはトリアシルグリセリドを意味する。脂質は、中性のものだけでなく極性のものも含め、広範囲の異なる脂肪酸を包含しうる。表2に示す脂肪酸は例示にすぎず、限定的なものではない。
【表2】

【0026】
更なる情報は、同様にRompp Chemie Lexikon - CD Version 2.0, Stuttgart/New York: Georg Thieme Verlag 1999を参照されたい。
【0027】
本発明においては、すべての植物が本発明方法の実施に適している。
【0028】
「植物」は、すべての一年草および多年草の単子葉および双子葉植物を含み、例えばカボチャ(Cucurbita)、バラ(Rosa)、ブドウ(Vitis)、クルミ(Juglans)、オランダイチゴ(Fragaria)、ロトス(ハス、スイレン、ミヤコグサ)(Lotus)、ウマゴヤシ(Medicago)、オノブリキス(Onobrychis)、クローバ(Trifolium)、トリゴネラ(Trigonella)、アズキ(Vigna)、ミカン(Citrus)、アマ(Linum)、ゲンノショウコ(Geranium)、キャッサバ(Manihot)、ニンジン(Daucus)、シロイヌナズナ(Arabidopsis)、アブラナ(Brassica)、ダイコン(Raphanus)、カラシ(Sinapis)、アトロパ(Atropa)、トウガラシ(Capsicum)、チョウセンアサガオ(Datura)、ヒヨス(Hyoscyamus)、トマト(Lycopersicon)、タバコ(Nicotiana)、ナス(Solarium)、ペチュニア(Petunia)、ジギタリス(Digitalis)、マヨラナ(Majorana)、シコリウム(Cichorium)、ヒマワリ(Helianthus)、アキノノゲシ(Lactuca)、イヌムギ(Bromus)、アスパラガス(Asparagus)、キンギョソウ(Antirrhinum)、ヘテロカリス(Heterocallis)、ネメシス(Nemesis)、テンジクアオイ(Pelargonium)、キビ(Panicum)、ペニセツム(Pennisetum)、キンポウゲ(Ranunculus)、キオン(Senecio)、サルメンバナ(Salpiglossis)、キュウリ、メロン(Cucumis)、ブロワアリア(Browaalia)、ダイズ(Glycine)、エンドウ(Pisum)、インゲンマメ(Phaseolus)、ロリウム(Lolium)、イネ(Oryza)、トウモロコシ(Zea)、カラスムギ(Avena)、オオムギ(Hordeum)、ライムギ(Secale)、パンコムギ(Triticum)、モロコシ(Sorghum)、ピセア(Picea)およびドロノキ(Populus)属の植物を含むが、これらに限定されるものではない。
【0029】
好ましい植物は以下の科の植物である:ヒユ(Amaranthaceae)、キク(Asteraceae)、アブラナ(Brassicacea)、ナデシコ(Carophyllaceae)、アカザ(Chenopodiaceae)、キク(Compositae)、アブラナ(Cruciferae)、ウリ(Cucurbitaceae)、シソ(Labiatae)、マメ(Leguminosae)、パピリオノイデアエ(Papilionoideae)、ユリ(Liliaceae)、アマ(Linaceae)、アオイ(Malvaceae)、バラ(Rosaceae)、アカネ(Rubiaceae)、ユキノシタ(Saxifragaceae)、ゴマノハグサ(Scrophulariaceae)、ナス(Solanacea)、アオギリ(Sterculiaceae)、ツルナ(Tetragoniaceae)、ツバキ(Theaceae)、セリ(Umbelliferae)。
【0030】
好ましい単子葉植物は、特に、単子葉作物植物、例えばイネ科植物(Gramineae)、例えばイネ、トウモロコシ、コムギまたは他の穀類種、例えばオオムギ、キビおよびモロコシ、ライムギ、ライコムギまたはエンバク、またはサトウキビおよび全ての種類の草から選ばれる。本発明の、特に好ましくは、双子葉植物に適用される。好ましい双子葉植物は、特に、双子葉作物植物、例えば、
・キク科(Asteraceae)植物、例えばヒマワリ、マンジュギクまたはキンセンカなど、
・キク科(Compositae)植物、特に、アキノノゲシ属(Lactuca)植物、特に、サチバ(sativa)(レタス)など、
・アブラナ科(Cruciferae)植物、特に、アブラナ属(Brassica)植物、特に、ナプス(napus)(ナタネ)、カンペストリシス(campestris)(ビート)、オレラセアcv タスチエ(oleracea cv Tastie)(キャベツ)、オレラセアcv スノウボールY(oleracea cv Snowball Y)(カリフラワー)およびオレラセアcv エンペラー(oleracea cv Emperor)(ブロッコリー)、および他のキャベツ;ならびにアラビドプシス属(Arabidopsis)植物、特に、サリアナ(thaliana)およびクレッス(cress)またはカノラ(canola)など、
・ウリ科(Cucurbitaceae)植物、例えばメロン、カボチャまたはズッキーニなど、
・マメ科(Leguminosae)植物、特に、ダイズ属(Glycine)植物、特に、マックス(max)(ダイズ)、ソヤ(soya)、アルファルファ、エンドウ、インゲンマメ(bean)またはラッカセイなど、
・アカネ科(Rubiaceae)植物、好ましくは、サブクラス ラミイダエ(Lamiidae)、例えばアラビアコーヒーノキ(Coffea arabica)またはリベリアコーヒーノキ(Coffea liberica)(コーヒーの木)など、
・ナス科(Solanaceae)植物、特に、トマト属(Lycopersicon)植物、特に、エスクレンツム(esculentum)(トマト)、ナス属(Solanum)植物、特に、ツベロスム(tuberosum)(ジャガイモ)およびメロンゲナ(melongena)(ナス)、ならびにタバコまたはパプリカなど、
・アオギリ科(Sterculiaceae)植物、好ましくは、サブクラス ジレニイダエ(Dilleniidae)、例えばカカオ(Theobroma cacao)(カカオの木)など、
・ツバキ科(Theaceae)植物、好ましくは、サブクラス ジレニイダエ(Dilleniidae)、例えばチャ(Camellia sinensis)またはテア・シネンシス(Thea sinensis)(茶の木)など、
・セリ科(Umbelliferae)植物、特に、ニンジン属(Daucus)植物(特に、カロタ(carota)(ニンジン))およびセロリ(Apium)(特に、グラベオレンス・デュルス(graveolens dulce)(セロリ))など;ならびにトウガラシ属(Capsicum)植物、特に、アヌム(annum)(トウガラシ)など、
ならびに亜麻仁、ダイズ、綿、大麻、アマ、キュウリ、ホウレンソウ、ニンジン、テンサイ、および種々の木、堅果、ブドウの木(grapevine)の種、特に、バナナおよびキーウィフルーツから選ばれる。
【0031】
観賞植物、有用な又は観賞用の木、花、切り花、低木または芝生も含まれる。限定的なものではなく例示として挙げられうる植物は、被子植物、コケ植物、例えば苔類(Hepaticae)(タイ類)および蘚類(Musci)(セン類);シダ植物、例えばシダ類、トクサ類およびヒカゲノカズラ類;裸子植物、例えば球果植物、ソテル類、イチョウおよびグネタラエ(Gnetalae)、バラ科(Rosaceae)植物、例えばバラ、ツツジ(Ericaceae)、例えばロドデンドロンおよびアザレア、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)植物、例えばポインセチヤおよびクロトン、ナデシコ科(Caryophyllaceae)植物、例えばナデシコ属植物(ナデシコ、セキチク、カーネーションなど)、ナス科(Solanaceae)植物、例えばペチュニア、イワタバコ科(Gesneriaceae)植物、アフリカスミレ、ツリフネソウ科(Balsaminaceae)植物、例えばツリフネソウ属植物(ツリフネソウ、ホウセンカ)、ラン科(Orchidaceae)植物、例えばラン、アヤメ科(Iridaceae)植物、例えばグラジオラス、アヤメ属植物(アヤメ、イチハツ、ハナショウブなど)、フリージアおよびクロッカス、キク科(Compositae)植物、例えばマリーゴールド、フウロソウ科(Geraniaceae)植物、例えばゼラニウム、ユリ科(Liliaceae)、例えばドラセナ、クワ科(Moraceae)、例えばイチジク属植物、サトイモ科(Araceae)、例えばフィロデンドロン、その他多数である。
【0032】
さらに、本発明の目的のための植物は、光合成活性を有しうる他の生物、例えば藻類、ラン細菌、セン類である。好ましい藻類としては、緑藻類、例えば、ヘマトコックス属(Haematococcus)、フェダクチルム・トリコルナツム(Phaedactylum tricornatum)、ボルボックス属(Volvox)またはドゥナリエラ属(Dunaliella)の藻類が挙げられる。シネコシスチス(Synechocystis)が特に好ましい。
【0033】
最も好ましいのは油植物、すなわち、高い油含量を既に天然で有する及び/又は油の工業的製造に使用される植物である。これらの植物は、高い油含量および/または産業上関心のある特定の脂肪酸組成を有しうる。好ましい植物は少なくとも1%の脂質含量を有する。油植物には例えば以下のものが含まれる:ボラゴ・オフィシナリス(Borago officinalis)(ルリチシャ)、ブラッシカ(Brassica)種、例えばブラッシカ・カンペストリス(B. campestris)、ブラッシカ・ナプス(B. napus)、ブラッシカ・ラパ(B. rapa)(カラシまたはナタネ)、カンナビス・サチバ(Cannabis sativa)(大麻)、カルタムス・チンクトリウス(Carthamus tinctorius)(ベニバナ)、ココス・ヌシフェラ(ココナッツ)、クランベ・アビッシニカ(Crambe abyssinica)(ハマナ)、クフェア(Cuphea)種(クフェア種は中鎖脂肪酸、特に産業用の中鎖脂肪酸を提供する)、エラエイス・グイネンシス(Elaeis guinensis)(アブラヤシ)、エラエイス・オレイフェラ(Elaeis oleifera)(アメリカン・オイル・パーム(American oil palm))、グリシン・マックス(Glycine max)(ダイズ)、ゴッシピウム・ヒルスツム(Gossypium hirsutum)(リクチメン)、ゴッシピウム・バルバデンス(Gossypium barbadense)(エジプトメン)、ゴッシピウム・ヘルバセウム(Gossypium herbaceum)(アジアメン)、ヘリアンツス・アンヌウス(Helianthus annuus)(ヒマワリ)、リヌム・ウシタチッシムム(Linum usitatissimum)(アマ)、エノテラ・ビエンニス(Oenothera biennis)(オオマツヨイグサ)、オレア・ユーロペア(Olea europea)(オリーブ)、オリザ・サチバ(Oryza sativa)(イネ)、リシヌス・コムニス(Ricinus communis)(ヒマ)、セサムム・インジクム(Sesamum indicum)(ゴマ)、グリシン・マックス(Glycine max)(ダイズ)、トリチクム(Triticum)種(コムギ)、ゼア・マイス(Zea mays)(トウモロコシ)および種々の堅果種、例えばクルミまたはアーモンド。使用する植物がマメ属(Leguminosae)の植物(マメ類)に属する場合には、本発明の範囲は、共生生物としての外来タンパク質(レグヘモグロビン、ヘモグロビン)(すなわち、天然に存在しないヘモグロビンおよび/またはレグヘモグロビン)の発現、あるいは天然に存在するレグヘモグロビンを過剰発現させるための該植物の改変を含む。
【0034】
最も好ましいのはジャガイモ、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)およびナタネである。
【0035】
前記植物に、以下の植物のレグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンよりなるレグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンを発現させることが有利である:キバナノウチワマメ(Lupinus luteus)(LGB1_LUPLU, LGB2_LUPLU)、ダイズ(Glycine max)(LGBA_SOYBN, LGB2_SOYBN, LGB3_SOYBN)、アルファルファ(Medicago sativa)(LGB1-4_MEDSA)、メジカゴ・トルンクラタ(Medicago trunculata)(LGB1_MEDTR)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)(LGB1_PHAVU, LGB2_PHAVU)、ソラマメ(Vicia faba)(LGB1_VICFA, LGB2_VICFA)、エンドウ(Pisum sativum)(LGB1_PEA, LGB2_PEA)、ササゲ(Vigna unguiculata)(LGB1_VIGUN)、ミヤコグサ(Lotus japonicus)(LGB_LOTJA)、シカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)(LGB_PSOTE)、セスバニア・ロストラタ(Sesbania rostrata)(LGB1_SESRO)、グラウカモクマオウ(Casuarina glauca)(HBPA_CASGL)およびカンバラリア・リネアタ(Canvalaria lineata)(HBP_CANLI)、フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)(HBL0_PHYPA)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(HBL1_ARATH, HBL2_ARATH)、ゴッシピウム・ヒルスツム(Gossypium hirsutum)(HBL1_GOSHI, HBL2_GOSHI)、アルファルファ(Medicago sativa)(HBL1_MEDSA)、イネ(Oryza sativa)(HBL1_ORYSA, HBL2_ORYSA, HBL3_ORYSA, HBL4_ORYSA)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)(HBL2_BRANA)、トマト(Lycopersicon esculentum)、(HBL2_LYCES)、オオムギ(Hordeum vulgare)(HBL_HORVU)、トウモロコシ(Zea mays)(HBL_MAIZE)、トレマ・トメントサ(Trema tomentosa)(HBL_TRETO)、グラウカモクマオウ(Casuarina glauca)(HBP1_CASGL, HBP2_CASGL, HBPA_CASGL)、パラスポニア・リジダ(Parasponia rigida)(HBPL_PARAD)。各場合の括弧内にはSwiss-Protデータベースエントリーが示されている。
【0036】
特に有利な植物は、レグヘモグロビンをコードする配列番号1の配列、および/またはヘモグロビンをコードする配列番号3および/または5の配列を含む植物である。ミヤコグサ(Lotus japonicus)のレグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンが好ましく使用される。形質転換された植物は、増加した量の貯蔵物質を産生するようになる。
【0037】
本発明はまた、貯蔵物質を産生するために、配列番号1に示すレグヘモグロビンおよび/または配列番号3および5に示すヘモグロビンを発現する植物を含む。
【0038】
本発明の好ましい変形は、レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンを貯蔵器官特異的に発現する植物の形態をとる。
【0039】
一般に、前記植物は特定の器官内に貯蔵物質を蓄積する。具体例としては、鱗茎、塊茎、種子、仁、堅果、葉などが挙げられる。本発明の目的においては、貯蔵器官は果実を意味すると理解される。果実は、栄養組織として種子を包囲する植物の器官を示す総称である。可食性果実(特に、「果実」)だけでなく、マメ類、穀類、堅果、香辛料および調合薬(果実(fructus)および種子(semen)を参照)も挙げられるべきである。もちろん、貯蔵物質の貯蔵は植物全体で起こってもよい。
【0040】
レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンは、好ましくは、塊茎特異的または種子特異的に発現される。
【0041】
適当な植物は、前記のものすべてである。以下のものが好ましい:ジャガイモ、シロイヌナズナ、ナタネ、ダイズ、ラッカセイ、トウモロコシ、キャッサバ、ヤムイモ、コメ、ヒマワリ、ライムギ、オオムギ、ホップ、エンバク、デュラムコムギおよびパンコムギ、ルピナス、エンドウ、クローバー、ビート、キャベツ、蔓植物など。それらはSaatgutverkehrsgesetz [ドイツ国種子取引法](Blatt fur PMZ [特許・商標法に関する特許公報] 1986, p.3, 最終版Blatt fur PMZ 2002, p. 68)の栽培品種一覧に直接見出されうる。
【0042】
特に好ましいのは塊茎産生植物、特にジャガイモ、または種子産生植物、特にシロイヌナズナ、ナタネまたはダイズである。
【0043】
組織特異的発現は、例えば、組織特異的プロモーターを使用することにより達成されうる。そのような組織特異的発現は例えば米国特許第6,372,961号11欄44行以下から公知である。
【0044】
本発明は更に、植物において使用するための、レグヘモグロビンをコードする配列番号1に示すヌクレオチド配列および対応する遺伝子構造体またはベクター、ならびに本発明により植物を形質転換するためのそれらの使用に関する。
【0045】
特に、本発明はまた、配列番号1に対して約70%、好ましくは80%、特に好ましくは85%、90%、特に91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する、レグヘモグロビンをコードするヌクレオチド配列の使用を含む。
【0046】
本発明は更に、植物において使用するための、ヘモグロビンをコードする配列番号3および5に示すヌクレオチド配列および対応する遺伝子構造体またはベクター、ならびに植物を形質転換するためのそれらの使用に関する。特に、本発明はまた、配列番号3および5に対して約70%、好ましくは80%、特に好ましくは85%、90%、特に91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する、ヘモグロビンをコードするヌクレオチド配列の使用を含む。
【0047】
ヌクレオチド配列なる語は、(i)示されている配列に厳密に対応する、または(ii)示されている配列に遺伝暗号の縮重の範囲内で対応する少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む、または(iii)ヌクレオチド配列(i)もしくは(ii)に相補的であるヌクレオチド配列にハイブリダイズする少なくとも1つのヌクレオチドを含む、そして、適当な場合には、(iv)(i)における「機能中立センス突然変異」を含む、すべてのヌクレオチド配列を意味すると理解される。この場合、「機能中立センス突然変異」なる語は、化学的に類似したアミノ酸(例えば、アラニンによるグリシン、またはトレオニンによるセリン)の置換を意味する。
【0048】
本発明には、コード領域(構造遺伝子)の前(5'側、すなわち上流)および/または後(3'側、すなわち下流)の配列領域も含まれる。特に、これは、調節機能を有する配列領域を含む。それは転写、RNAの安定性、RNAのプロセシングおよび翻訳に影響を及ぼしうる。調節配列の具体例としては、とりわけ、プロモーター、エンハンサー、オペレーター、ターミネーターまたは翻訳エンハンサーが挙げられる。
【0049】
関心のあるタンパク質(レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビン)はアイソフォームをも含む。アイソフォームは、同じ又は匹敵する作用を有するが、異なる一次構造を有するタンパク質を意味すると理解される。
【0050】
本発明においては、改変形態は、タンパク質の機能に悪影響を及ぼすことなく配列内、例えばポリペプチドのN末端および/またはC末端、あるいは保存されたアミノ酸の領域内に改変を含むタンパク質を意味すると理解される。これらの改変は、アミノ酸の置換の形態で、公知方法により行うことが可能である。
【0051】
以下の実施例により、本発明を更に詳しく説明することとする。
【実施例】
【0052】
1.モデル生物
ジャガイモおよびシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を実験のモデル生物として使用した。それらの2つの植物種は高等植物(種子植物類)のメンバーを代表する。それらのDNA配列またはポリペプチド配列の高い相同性のため、それらは他の植物種のモデル植物として使用されうる。
【0053】
2.一般的方法
a)ジャガイモまたはシロイヌナズナ植物の栽培
シロイヌナズナ植物を、0.5% スクロースを添加したMurashige-Skoog培地(Ogasら, 1997 Science 277:91-94)またはコンポスト(Focks & Benning, 1998 Plant Physiology 118:91-101)上で生育させた。均一な発芽および開花期を得るために、まず、種子を播き又はコンポスト上にばらまき、ついで4℃で2日間発芽させた。開花後、さやに標識をつけた。ついで、標識に従い、6〜20日齢の開花後のさやを収穫した。ジャガイモ植物は、Dietzeら, 1995(Gene Transfer to Plants, Eds. Potrykus and Spangenberg, Springer Lab Manual, Berlin, Heidelberg, 24-29)に記載のとおりに生育させた。
【0054】
b)植物からの全RNAおよびポリA+ RNAの単離
発現構築物を作製するために、RNAおよびポリA+ RNAを単離した。以下のプロトコールに記載のとおりに、シロイヌナズナのさやまたはジャガイモの塊茎またはミヤコグサ(Lotus japonicus)の根からRNAを単離した。6〜40日齢の植物材料を収穫し、液体窒素中でショック(shock)凍結させた。更なる使用まで、該材料を-80℃で保存した。75mgの該材料を冷却乳鉢内で微粉末に粉砕し、Ambion RNAqueosキットの溶解バッファー200μlで処理した。ついで全RNAを該製造業者の説明書に従い単離した。RNAを50μlの溶出バッファー(Ambion)で溶出し、1:100希薄溶液の吸光度に基づき、260nmで光度計(Eppendorf)を使用して、その濃度を測定した。40μg/mlのRNAは吸光度1に対応する。RNアーゼを含有しない水を使用して、該RNA溶液を1μg/μlの濃度にした。アガロース電気泳動により該濃度を確認した。
【0055】
ポリA+ RNAを単離するために、Amersham Pharmaciaのオリゴ(dT)セルロースを製造業者の説明書に従い使用した。RNAおよびポリA+ RNAを-70℃で保存した。
【0056】
3.cDNAライブラリーの構築
ミヤコグサ(Lotus japonicus)およびシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)RNAからcDNAライブラリーを構築するために、第1鎖合成は、マウス白血病ウイルス(Clontech)由来の逆転写酵素およびオリゴ-dTプライマーを使用して行い、一方、第2鎖合成は、DNAポリメラーゼIクレノウ酵素とのインキュベーションおよび12℃(2時間)、16℃(1時間)および22℃(1時間)でのRNアーゼHによる切断により行った。この反応を65℃(10分間)でのインキュベーションにより停止させ、ついで氷上に移した。T4 DNAポリメラーゼ(Roche, Mannheim)を使用して二本鎖DNA分子を37℃(30分間)で平滑末端化した。該ヌクレオチドをフェノール/クロロホルム抽出およびセファデックスG5遠心カラムにより取り出した。EcoRI/NotIアダプター(Pharmacia, Freiburg, Germany)をT4 DNAリガーゼ(Roche, 12℃、一晩)により該cDNA末端に連結し、NotIで再切断し、ポリヌクレオチドキナーゼ(Roche, 37℃、30分間)とのインキュベーションによりリン酸化した。この混合物を低融点アガロースゲル上での分離に供した。200塩基対を超えるDNA分子を該ゲルから溶出し、フェノール抽出し、Elutip Dカラム(Schleicher und Schuell, Dassel, Germany)上で濃縮し、クローニングベクターpSPORT1(Invitrogen, Karlsruhe)に連結した(製造業者の材料を使用し、製造業者の説明書に従い行った)。
【0057】
4.DNA配列決定およびコンピューター解析
標準的な方法、特に、ABI PRISM Big Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(Perkin-Elmer, Weiterstadt, Germany)を使用するチェーンターミネーション法によるDNA配列決定に、セクション2に記載のcDNAライブラリーを使用した。in vivoバルク(bulk)切除および寒天プレート上のDH5αの再形質転換によるcDNAライブラリーからの予備的プラスミド調製(Stratagene, Amsterdam, the Netherlandsの「材料およびプロトコール」に詳しく記載されている)の後、ランダム単一クローンの配列決定を行った。Qiagen DNA調製ロボット(Qiagen, Hilden)を該製造業者のプロトコールに従い使用して、アンピシリンを添加したLuriaブロス内で増殖させた大腸菌(E. coli)の一晩培養物からプラスミドDNAを調製した(Sambrookら (1989) (Cold Spring Harbor Laboratory Press: ISBN 0-87969-309-6)を参照されたい)。
【0058】
Bio-Max(Munich, Germany)から市販されている標準的なソフトウェアパッケージEST-MAXを使用して、該配列を処理し、注釈をつけた。比較アルゴリズムおよびクエリー配列をBLASTプログラム(Altschulら (1997) “Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs”, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)と共に使用して、相同遺伝子の検索を行った。
【0059】
5.ジャガイモにおける塊茎特異的発現およびシロイヌナズナにおける種子特異的発現のための発現構築物の作製
a)塊茎特異的発現
NotIおよびKpnIを使用してレグヘモグロビン遺伝子LljibをベクターpSportIから切り出し、クレノウ酵素とのインキュベーションによりNotI切断部位を平滑末端化した。ベクターpART33への連結のために、後者をBamHIで消化し、ついで該切断部位を、クレノウ酵素とのインキュベーションにより平滑末端化し、ついで該産物をKpnIで消化した。pART33は既に、塊茎特異的発現のためのB33プロモーター(1459 bp; Liu XJ, Prat S, Willmitzer L, Frommer WB (1990) cis regulatory elements directing tuber-specific and sucrose-inducible expression of a chimeric class I patatin promoter/GUS-gene fusion. Mol Gen Genet. 223(3):401-6)およびOCSターミネーター(766bp)を含んでいる。全構築物を、NotIを使用してpART33から切り出し、植物形質転換ベクターpART27にクローニングした。
【0060】
b)種子特異的発現
レグヘモグロビン遺伝子LljibをベクターpART33からベクターpBINUSP内に再クローニングした。このために、まず、構築物pART33-LegHbをAsp718Iで消化し、突出部をクレノウフラグメントで平滑末端化した。ついで該線状化構築物をXbaIで消化し、このようにして得られた遺伝子を、XbaI/SmaIで切断したpBINUSP内に4℃で一晩連結させた。
【0061】
ヘモグロビン遺伝子1 AtHb1をベクターpART33からベクターpBINUSP内に再クローニングした。このために、まず、構築物pART33-AtHb1をAsp718Iで消化し、突出部をクレノウフラグメントで平滑末端化した。ついで該線状化構築物をXbaIで消化し、このようにして得られた遺伝子を、XbaI/SmaIで切断したpBINUSP内に4℃で一晩連結させた。
【0062】
ヘモグロビン遺伝子2 AtHb2をベクターpART33からベクターpBINUSP内に再クローニングした。このために、まず、構築物pART33-AtHb2をAsp718Iで消化し、突出部をクレノウフラグメントで平滑末端化した。ついで該線状化構築物をXbaIで消化し、このようにして得られた遺伝子を、XbaI/SmaIで切断したpBINUSP内に4℃で一晩連結させた。
【0063】
6.植物形質転換プラスミド
植物を形質転換するためには、pBINのようなバイナリーベクターを使用することが可能である(Bevan, M., Nucleic Acids Res. 12 (1984), 8711-8721)。該バイナリーベクターは、cDNAをセンスまたはアンチセンス配向でT-DNA内に連結することにより構築することが可能である。該cDNAの5'側では、植物プロモーターが該cDNAの転写を活性化する。該cDNAの3'側にはポリアデニル化配列が位置する。
【0064】
組織特異的発現は、組織特異的プロモーターを使用して達成することが可能である。例えば、種子特異的発現は、ナピン(napin)またはLeB4またはUSPプロモーターを該cDNAの5'側にクローニングすることにより達成することが可能である。他の任意の種子特異的プロモーター要素も使用することができる。植物全体における構成的発現を達成するためには、CaMV 35Sプロモーターを使用することが可能である。
【0065】
7.アグロバクテリウムの形質転換および植物の形質転換
植物のアグロバクテリウム媒介形質転換は、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)株GV3101(pMP90)(KonczおよびSchell, Mol. Gen. Genet. 204 (1986) 383-396)またはLBA4404(Clontech)を使用して行うことができる。該細菌は、当業者によく知られた標準的な形質転換技術を用いて形質転換することが可能である(Deblaereら, Nucl. Acids. Tes. 13 (1984), 4777-4788)。
【0066】
植物自体のアグロバクテリウム媒介形質転換も同様に、当業者に公知の標準的な形質転換および再生技術を用いて行うことが可能である(Gelvin, Stanton B., Schilperoort, Robert A., Plant Molecular Biology Manual, 2nd Ed., Dordrecht: Kluwer Academic Publ., 1995, in Sect., Ringbuch Zentrale Signatur: BT11-P ISBN 0-7923-2731-4; Glick, Bernard R., Thompson, John E., Methods in Plant Molecular Biology and Biotechnology, Boca Raton: CRC Press, 1993, 360 S., ISBN 0-8493-5164-2)。
【0067】
アグロバクテリウムによるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の形質転換は、Bechtholdら, 1993(C.R. Acad. Sci. Ser. III Sci. Vie., 316, 1194-1199)の方法により行った。減圧浸潤を無しですませるよう、この方法を改変した。
【0068】
形質転換のために、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)Col0の種子を湿らせたコンポスト上に播き、4℃で2日間発芽させ、短日条件(8時間の光、21℃)下で4〜6週間生育させた。ついで、開花を誘導するために、該植物を長半日(long half day)条件(16時間の光、21℃)に移行させた。約10日後、花序は、浸漬に十分な程度に大きくなった。該花序を1/2 MS溶液(MurashigeおよびSkoog, 後記を参照されたい)(pH5.7)、5% スクロース、44μM ベンジルアミノプリン(Sigma)および0.03% Silwet L-77(Lehle Seeds, USA)中のアグロバクテリウム懸濁液に浸漬する。600nmにおける該アグロバクテリウム懸濁液の光学密度は0.8であるべきである。該細菌は、YEB培地(0.5% バクトトリプトン、0.5% バクトペプトン、0.1% 酵母エキス、0.5% スクロースおよび2mM MgCl2)内で予め増殖させる。
【0069】
該植物の浸漬後、さらに約3週間継続して該植物を湿らせた。ついで灌水を止め、該植物を乾燥させて種子を得た。得られた種子を、1/2 MS溶液(pH5.7)、50μgのカナマイシン、250μgのチメンチン(Timentin)および0.8% 寒天を含有するプレート上に播いた。耐性実生を1つずつコンポスト内へ移植した。
【0070】
ジャガイモ(Solanum tuberosum L.)の形質転換は、Dietzeらの方法(Gene transfer to plants, I. PotrykusおよびG. Spangenberg編, Springer Lab Manual, 1995, pp. 24-29)により行った。使用した出発材料はDesiree(デシレー)品種であった。形質転換のために、2% スクロースを添加した10mlの2 MS溶液(MurashigeおよびSkoog (1962) A revised medium for rapid growth and bioassays with tobacco tissue cultures. Physiol. Plant., 15, 473-497の標準MS培地)中で、ジャガイモ品種Desireeの無菌シュート培養物の葉5〜6枚を注意深く平衡化した。長さ1〜2mmの切片を、中央葉脈に対して直角に、該葉から切り出し、新鮮な2 MS培地内に配置する。TプラスミドpART27-JpLegで形質転換された50μlのアグロバクテリウム溶液を該新鮮培地内に加える。アグロバクテリウム溶液を葉切片全体に分布させ、該プレートを暗室中、22〜24℃で2日間インキュベートする。2日後、該葉切片をCIM培地(1.5% グルコース、5mg/l NAA、0.1mg/l BAP、250mg/l Claforinおよび50mg/l カナマイシンまたはヒグロマイシンを添加したMS培地)に移し、7日間インキュベートする。ついで該葉切片をSIM培地(2mg/l ゼアチン、0.02mg/l NAA、0.02mg/l GA3、250mg/l Claforinおよび50mg/l カナマイシンまたはヒグロマイシンを添加したMS培地)に移す。1〜2週間後、得られたトランスジェニックシュート(長さ1〜1.5cm)を切り出し、RIM培地(250mg/l Claforinを添加したMS培地)に移すことが可能である。3〜4週間後、該シュートは葉および根を形成し、該植物をコンポスト内に移植することが可能である。
【0071】
この方法においては、使用した各葉ごとに、2〜3個の独立したトランスジェニック系統を得ることが可能である。
【0072】
他の代替手段である粒子射撃、ポリエチレングリコール媒介DNA取り込みまたはシリコンカーボネート繊維技術を用いる植物形質転換は、例えばFreelingおよびWalbot “The maize handbook” (1993) ISBN 3-540-97826-7, Springer Verlag New Yorkに記載されている。
【0073】
8.形質転換植物におけるレグヘモグロビンおよびヘモグロビン発現の分析
形質転換植物におけるレグヘモグロビン活性を転写レベルで測定した。
【0074】
遺伝子の転写レベル(遺伝子の翻訳に利用可能なRNAの量を示す)を測定するための適当な方法は、後記のとおりにノーザンブロットを行うことである(参考のために、Ausubelら (1988) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley: New Yorkまたは前記の実施例セクションを参照されたい)。この場合、レグヘモグロビンに結合するプライマーを、検出可能な標識(通常、放射能標識または化学発光標識)で標識する。その結果、該生物の培養物の全RNAを抽出し、ゲル上で分離し、安定なマトリックスに移し、このプローブと共にインキュベートすると、該プローブの結合および結合度は、関心のある遺伝子(レグヘモグロビンまたはヘモグロビン)のmRNAの存在およびその量をも示す。この情報は、形質転換された遺伝子の転写の度合を示す。細胞性全RNAは、多数の方法(それらのすべては当技術分野において公知であり、例えば、Bormann, E. R.ら, (1992) Mol. Microbiol. 6:317-326に記載の方法が挙げられる)を用いて細胞、組織または器官から調製することが可能である。
【0075】
ノーザンハイブリダイゼーション:
RNAのハイブリダイゼーションのために、20μgの全RNAまたは1μgのポリ(A)+ RNAを、Amasino(1986, Anal. Biochem. 152, 304)に記載されているとおり、ホルムアルデヒドを使用する1.25%アガロースゲル内のゲル電気泳動により分離し、10×SSCを使用する毛細管吸引により正荷電ナイロンメンブレン(Hybond N+, Amersham, Braunschweig)に移行させ、UV光により固定化し、ハイブリダイゼーションバッファー(10% (w/v) 硫酸デキストラン、1 M NaCl、1% SDS、100mg ニシン精子DNA)を使用して68℃で3時間プレハイブリダイズした。該プレハイブリダイゼーション工程中、α32P-dCTP(Amersham Pharmacia, Braunschweig, Germany)を使用して、Highprime DNA標識キット(Roche, Mannheim, Germany)によるDNAプローブの標識付けを行った。標識DNAプローブを加えた後、同じバッファー中、68℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。洗浄工程は、2×SSCを使用して15分間を2回、および1×SSC、1% SDSを使用して68℃で30分間を2回行った。密封フィルターの露光を-70℃で1〜14日間行った。
【0076】
9.目的産物の産生に及ぼす組換えレグヘモグロビンの効果の分析
植物、真菌、藻類、繊毛虫における、または目的化合物(例えば、脂肪酸)の産生に及ぼす、遺伝的改変の効果は、改変した微生物または改変した植物を適当な条件(例えば、前記の条件)下で生育させ、目的産物(すなわち、脂質または炭水化物)の産生の増加に関して培地および/または細胞成分を分析することにより、判定することが可能である。これらの分析技術は当業者に公知であり、分光法、薄層クロマトグラフィー、種々のタイプの染色方法、酵素的および微生物学的方法ならびに分析用クロマトグラフィー、例えば高速液体クロマトグラフィーを含む(例えば、Ullman, Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. A2, pp. 89-90およびpp. 443-613, VCH: Weinheim (1985); Fallon, A.ら, (1987) “Applications of HPLC in Biochemistry“ in: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Vol. 17; Rehmら (1993) Biotechnology, Vol. 3, Chapter III: “Product recovery and purification“, pp. 469-714, VCH: Weinheim; Belter, P.A.ら, (1988) Bioseparations: downstream processing for Biotechnology, John Wiley and Sons; Kennedy, J.F.およびCabral, J.M.S. (1992) Recovery processes for biological Materials, John Wiley and Sons; Shaeiwitz, J.A.およびHenry, J.D. (1988) Biochemical Separations, in: Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. B3; Chapter 11, pp. 1-27, VCH: Weinheim; ならびにDechow, F.J. (1989) Separation and purification techniques in biotechnology, Noyes Publicationsを参照されたい)。
【0077】
前記方法に加えて、Cahoonら (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96 (22):12935-12940およびBrowseら (1986) Analytic Biochemistry 152:141-145に記載されているとおりに、植物脂質を植物材料から抽出する。脂質または脂肪酸の定性的および定量的分析はChristie, William W., Advances in Lipid Methodology, Ayr/Scotland: Oily Press (Oily Press Lipid Library; 2); Christie, William W., Gas Chromatography and Lipids. A Practical Guide - Ayr, Scotland: Oily Press, 1989, Repr. 1992, IX, 307 S. (Oily Press Lipid Library; 1); "Progress in Lipid Research, Oxford: Pergamon Press, 1 (1952) - 16 (1977) 題名: Progress in the Chemistry of Fats and Other Lipids CODENに記載されている。
【0078】
化合物が産生される全体的な効率を判定するために、発酵最終産物を測定することに加えて、目的化合物を産生させるのに利用される代謝経路の他の成分(例えば、中間体および二次産物)を分析することも可能である。分析方法は培地内の栄養素(例えば、糖、炭化水素、窒素源、ホスフェートおよび他のイオン)の量の測定、バイオマス組成およびその成長の測定、生合成経路を経る通常の代謝産物の産生の分析、ならびに発酵過程中に生成する気体の測定を含む。これらの測定の標準的な方法は、Applied Microbial Physiology; A Practical Approach, P.M. Rhodes and P.F. Stanbury, Ed., IRL Press, pp. 103-129; 131-163および165-192 (ISBN: 0199635773)ならびにそこに引用されている参考文献に記載されている。
【0079】
一例として、脂肪酸(略語: FAME, 脂肪酸メチルエステル; GC-MS, 気-液クロマトグラフィー/質量分析; TAG, トリアシルグリセロール; TLC, 薄層クロマトグラフィー)の分析が挙げられる。
【0080】
脂肪酸産物の存在の決定的な証拠は、Christieおよびそこに引用されている参考文献(1997, in: Advances on Lipid Methodology, Fourth edition: Christie, Oily Press, Dundee, 119-169; 1998, Gaschromatographie-Massenspektrometrie-Verfahren [Gas-chromatographic/mass-spectrometric method], Lipide 33:343-353)に種々記載されている標準的な分析法(GC、GC-MSまたはTLC)に従い組換え生物を分析することにより得られうる。
【0081】
分析すべき材料を、音波処理、ガラスミル、液体窒素およびミル中での粉砕、または他の任意の適用可能な方法により破壊することが可能である。破壊後、該材料を遠心分離する必要がある。沈降物を蒸留水に再懸濁させ、100℃で10分間加熱し、氷上で冷却し、再遠心分離し、ついで2% ジメトキシプロパンを含有するメタノール中の0.5M 硫酸中に90℃で1時間抽出すると、加水分解油および脂質化合物が得られ、これはメチル交換された脂質を与える。これらの脂肪酸メチルエステルを石油エーテル中に抽出し、最後に、170℃〜240℃で20分間および240℃で5分間の温度勾配で毛管カラム(Chrompack, WCOT Fused Silica, CP-Wax-52 CB, 25マイクロメートル, 0.32 mm)を使用するGC分析にかける。得られた脂肪酸メチルエステルの正体を、商業的入手元(すなわち、Sigma)から入手可能な標準品を使用して確定する必要がある。
【0082】
10.シロイヌナズナの成熟種子におけるミヤコグサ・レグヘモグロビン、シロイヌナズナ・ヘモグロビン1、シロイヌナズナ・ヘモグロビン2の発現
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のトランスジーン、すなわちヘモグロビン1およびヘモグロビン2(AtHb1およびAtHb2)、ならびにミヤコグサ(Lotus japonicus)由来のトランスジーン、すなわちレグヘモグロビン(LjLegHb)、の発現を確認するために、ノーザンブロット分析を行った。このために、トランスジェニック植物および野生型植物の成熟種子からの全RNAを単離し、電気泳動により分離し、転写産物を、対応するジゴキシゲニン標識プローブを使用して検出した。各系統ごとに2〜4回の独立した分析を行った。例えば、図1は、ミヤコグサ・レグヘモグロビン(LjLegHb)、シロイヌナズナ・ヘモグロビン1(AtHb1)またはシロイヌナズナ・ヘモグロビン2(AtHb2)のいずれかを発現するトランスジェニック・シロイヌナズナ系統の成熟T2種子を用いた発現分析の結果を示す。形質転換遺伝子は、分析した系統のほとんどすべてにおいて転写される。なぜなら、対応mRNAが検出されうるからである。これに対して、対照においては、転写産物は全く検出することができない。
【0083】
11.ミヤコグサ・レグヘモグロビンおよびシロイヌナズナ・ヘモグロビンを発現する形質転換シロイヌナズナ植物の油含量の分析
ミヤコグサ・レグヘモグロビン、シロイヌナズナ・ヘモグロビン1またはシロイヌナズナ・ヘモグロビン2を発現するトランスジェニック・シロイヌナズナ植物の種子中の油含量は、全脂肪酸の定量により間接的に測定する。このためには以下のプロトコールを用いる。
【0084】
Blight & Dyer, 1959 Can. J. Biochem. Physiol. 37:911の方法により、種子から脂質を抽出した。各測定ごとに、5〜10粒の種子を1.2mlのQiagenミクロチューブ(Qiagen, Hilden)内に移し、Retschミル(MM300, Retsch (Haan))中で粉砕し、全脂質を500μlのクロロホルム/メタノール(2:1, ペンタデカン酸(C15)を内部標準として含有)の添加により抽出する。500μlの50mM リン酸カリウムバッファー(pH7.5)を添加した後、相を分離した。有機相をPyrexチューブ内に移し、蒸発乾固させる。この後、Benning & Sommerville, 1992 J. Bacteriol. 174: 6479-6487の方法を用いて、メタノール中の1N H2SO4および2% (v/v) ジメトキシプロパンを80℃で1時間添加することにより全脂肪酸の誘導体化を行って脂肪酸メチルエステルを得る。これらの脂肪酸メチルエステルを石油エーテルで抽出し、最後に、毛管カラム(Chrompack, WCOT Fused Silica, CP-Wax-52, 25マイクロメーター 0.32 mm)を使用するガスクロマトグラフィーにより分析する。脂肪酸メチルエステルのシグナル面積を既知濃度の内部標準のシグナル面積と比較することにより、全脂肪酸を定量する。シロイヌナズナにおける油含量に関するもう1つの指標は、実質的に貯蔵脂質中にしか存在しない脂肪酸エイコセン酸(20:1Δ11)の量である。
【0085】
シロイヌナズナの形質転換の後、トランスジェニック系統を抗生物質耐性により選択する。この目的には、形質転換シロイヌナズナ植物のT1種子をヒグロマイシン含有選択プレート上で発芽させる。油含量の定量的測定のために、各場合に4つの独立したトランスジェニック系統のT2種子を分析した。個々の系統について5〜9回の独立した測定を行い、対応する平均を計算した。
【0086】
ミヤコグサ・レグヘモグロビンを発現するトランスジェニック植物の成熟T2種子における油含量の測定の結果を、例として、表3および図2に示す。本発明においては、系統4および5におけるミヤコグサ・レグヘモグロビンの発現は、それぞれ17.14%および17.54%の顕著な油含量の増加をもたらす。
【0087】
シロイヌナズナ・ヘモグロビン1を発現するトランスジェニック植物の成熟T2種子における油含量の測定の結果を、例として、表4および図3に示す。本発明においては、系統35、13および39におけるシロイヌナズナ・ヘモグロビン1の発現は、それぞれ9.78%、12.22%および51.16%の顕著な油含量の増加をもたらす。
【0088】
シロイヌナズナ・ヘモグロビン2を発現するトランスジェニック植物の成熟T2種子における油含量の測定の結果を、例として、表5および図4に示す。本発明においては、系統2、10および11におけるシロイヌナズナ・ヘモグロビン2の発現は、それぞれ16.25%、21.86%および23.80%の顕著な油含量の増加をもたらす。
【0089】
12.ミヤコグサ・レグヘモグロビンを発現する形質転換ジャガイモ植物におけるデンプン含量の測定
ジャガイモ植物のデンプン含量および塊茎を測定するために、Scheele C. von, Svensson, G. および Rasmusson J., Die Bestimmung des Starkegehalts und der Trockensubstanz der Kartoffel mit Hilfe des spezifischen Gewichts [ジャガイモのデンプン含量および乾燥物の比重による測定]. Landw. Vers Sta. 127: 67-96, 1937に記載の密度測定を用いる。ついで密度測定値を変換し、その結果を用いてデンプン含量を見積もることが可能である。該変換には以下の式を使用した。空気中および水中の両方で塊茎を秤量することにより比密度を求めた。ここで、xは空気中の質量、yは水中の質量である。比密度はx/(x-y)から求められる。さらに、560個の測定サンプルの平均を計算した。以下の関係が確立されている(Burton W.G. (1989) The Potato. Longman, New York):
乾燥物% = 24.182 + [211.04 * (比密度 - 1.0988)]
デンプン% = 17.546 + [199.07 * (比密度 - 1.0988)]。
【0090】
レグヘモグロビンを発現する植物および比較目的の対照植物を測定するために、種々のトランスジェニック系統および対照植物の、異なるサイズのジャガイモ塊茎を使用した。異なるサイズは、観察された効果をすべての塊茎サイズにおいて再現するのに役立つ。
【0091】
レグヘモグロビンを発現するジャガイモからのデンプンの後処理または回収は、当業者によく知られた通常の方法(例えば、米国特許出願第2001/0041199 A1号第4頁、実施例1に記載されている方法)により行うことが可能である。
【0092】
レグヘモグロビンを発現する植物および比較目的の対照植物の塊茎中のデンプン含量を測定するために、該植物を温室内およびポリハウス(polyhouse)内の両方で生育させた。異なる栽培方法は、観察された効果を異なる気候条件下で再現するのに役立つ。観察された効果をすべての塊茎サイズにおいて再現するために、測定には、異なるサイズのジャガイモ塊茎を使用した。
【0093】
例として、表6は、対照植物と比較したトランスジェニック系統のデータを示す。それらの全ては温室内で生育させたものである。各場合に、1つの系統からの異なる塊茎の6回の測定ならびに得られた平均および標準偏差が示されている。本発明においては、40.77%の顕著なデンプン含量の増加がトランスジェニック系統において認められた。他の系統においても同様の値が得られた。
【0094】
図5は、対照植物と比較した4つの独立したトランスジェニック系統の平均デンプン含量を示す。それらの全ては2003年5月から2003年9月までの期間にGolmにあるポリハウス内で生育させたものである。平均データは、334個の塊茎(系統13)、358個の塊茎(系統57)、380個の塊茎(系統45)、384個の塊茎(系統54)および151個の塊茎(野生型)に基づく。本発明においては、レグヘモグロビンを発現する形質転換植物の塊茎のデンプン含量の顕著な増加が、ポリハウスで一般的な気候条件下でも認められ、これは、温室から得られた結果を確認するものである。栽培期間中にポリハウスで一般的に用いられる温度条件を図6に示す。
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】ミヤコグサ・レグヘモグロビン(LiLegHb)、シロイヌナズナ・ヘモグロビン1(AtHb1)またはシロイヌナズナ・ヘモグロビン2(AtHb2)で形質転換されたトランスジェニック・シロイヌナズナ植物の成熟種子でのノーザンブロット分析。使用した全RNAの量は、リボソームRNA(rRNA)の量と比較することにより測定した。
【図2】LjLegHbを発現するトランスジェニック・シロイヌナズナ系統のT2種子における油含量を、対照の場合と比較して示すグラフ。各場合に5〜10粒の種子に対する4〜9回の測定からのデータ(黒色の丸)ならびに得られた平均および対応する標準偏差(灰色の丸)が示されている。
【図3】AtHb1を発現するトランスジェニック・シロイヌナズナ系統のT2種子における油含量を、対照の場合と比較して示すグラフ。各場合に5〜10粒の種子に対する4〜9回の測定からのデータ(黒色の丸)ならびに得られた平均および対応する標準偏差(灰色の丸)が示されている。
【図4】AtHb2を発現するトランスジェニック・シロイヌナズナ系統のT2種子における油含量を、対照の場合と比較して示すグラフ。各場合に5〜10粒の種子に対する4〜9回の測定からのデータ(黒色の丸)ならびに得られた平均および対応する標準偏差(灰色の丸)が示されている。
【図5】レグヘモグロビンを発現するジャガイモ塊茎のデンプン含量を、野生型の場合と比較して示す。植物を2003年夏にGolmにあるポリハウス内で生育させ、成熟塊茎を収穫した。デンプン含量は、塊茎の比重を測定することにより測定した。データは、各場合に334個の塊茎(系統13)、358個の塊茎(系統57)、380個の塊茎(系統45)、384個の塊茎(系統54)および151個の塊茎(野生型)に基づく。
【図6】ミヤコグサ・レグヘモグロビンを過剰発現するトランスジェニック・ジャガイモ植物を生育させたポリハウス内での温度測定。それぞれ最高および最低温度が示されている。
【配列表】











【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのレグヘモグロビンを発現する形質転換植物。
【請求項2】
レグヘモグロビンをコードする配列番号1の少なくとも1つの配列を含む、請求項1記載の形質転換植物。
【請求項3】
配列番号1に対して約70%の同一性を有する配列を含む、請求項2記載の形質転換植物。
【請求項4】
少なくとも1つのヘモグロビンまたは少なくとも1つのレグヘモグロビンおよび少なくとも1つのヘモグロビンを発現する形質転換植物。
【請求項5】
レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンが、キバナノウチワマメ(Lupinus luteus)、ダイズ(Glycine max)、アルファルファ(Medicago sativa)、メジカゴ・トルンクラタ(Medicago trunculata)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、ソラマメ(Vicia faba)、エンドウ(Pisum sativum)、ササゲ(Vigna unguiculata)、ミヤコグサ(Lotus japonicus)、シカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)、セスバニア・ロストラタ(Sesbania rostrata)、グラウカモクマオウ(Casuarina glauca)およびカンバラリア・リネアタ(Canvalaria lineata)よりなる群の植物から選ばれる、請求項1〜4のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項6】
レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンがミヤコグサ(Lotus japonicus)およびシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)に由来する、請求項1〜5のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項7】
レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンを貯蔵器官特異的に発現する、請求項1〜6のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項8】
少なくとも1つのレグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンを塊茎特異的および/または種子特異的に発現する、請求項1〜7のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項9】
ヘモグロビンをコードする配列番号3および5の少なくとも1つの配列またはレグヘモグロビンをコードする配列番号1の少なくとも1つの配列およびヘモグロビンをコードする配列番号3および5の少なくとも1つの配列を含む、請求項4〜8のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項10】
配列番号1、3および/または5に対して約70%の同一性を有する配列を含む、請求項4〜9のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項11】
デンプンおよび/または油を産生する、請求項1〜10のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項12】
単子葉作物植物、特にイネ科(Gramineae)の単子葉作物植物である、請求項1〜11のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項13】
双子葉作物植物、特にキク科(Asteraceae)、アブラナ科(Brassicacea)、キク科(Compositae)、アブラナ科(Cruciferae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、マメ科(Leguminosae)、アカネ科(Rubiaceae)、ナス科(Solanaceae)、アオギリ科(Sterculiaceae)、ツバキ科(Theaceae)またはセリ科(Umbelliferae)の双子葉作物植物である、請求項1〜12のいずれか1項記載の形質転換植物。
【請求項14】
ジャガイモ、シロイヌナズナ、ダイズまたはナタネである、請求項13記載の形質転換植物。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載の植物において使用するための、レグヘモグロビンをコードする配列番号1に示すヌクレオチド配列。
【請求項16】
請求項15記載の少なくとも1つのヌクレオチド配列を含んでなる遺伝子構造体。
【請求項17】
請求項15記載の少なくとも1以上のヌクレオチド配列または請求項16記載の1以上の遺伝子構造体を含んでなるベクター。
【請求項18】
請求項16記載の少なくとも1つの遺伝子構造体を含む、請求項1〜14のいずれか1項記載の植物。
【請求項19】
請求項17記載の少なくとも1つのベクターを含む、請求項1〜14のいずれか1項記載の植物。
【請求項20】
請求項4〜14のいずれか1項記載の植物において使用するための、ヘモグロビンをコードする配列番号3および5に示すヌクレオチド配列。
【請求項21】
請求項20記載の少なくとも1つのヌクレオチド配列を含んでなる遺伝子構造体。
【請求項22】
請求項20記載の少なくとも1以上のヌクレオチド配列または請求項21記載の1以上の遺伝子構造体を含んでなるベクター。
【請求項23】
請求項21記載の少なくとも1つの遺伝子構造体を含む、請求項4〜14のいずれか1項記載の植物。
【請求項24】
請求項24記載の少なくとも1つのベクターを含む、請求項4〜14のいずれか1項記載の植物。
【請求項25】
植物を、少なくとも1つのレグヘモグロビンを発現するように形質転換することを含んでなる、植物における貯蔵物質含量の改変方法。
【請求項26】
該植物を、レグヘモグロビンをコードする配列番号1の少なくとも1つの配列を含むように形質転換する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
植物を、配列番号1に対して約70%の同一性を有する配列を含むように形質転換する、請求項25または26記載の方法。
【請求項28】
植物を、少なくとも1つのヘモグロビンまたは少なくとも1つのレグヘモグロビンおよび少なくとも1つのヘモグロビンを発現するように形質転換することを含んでなる、植物における貯蔵物質含量の改変方法。
【請求項29】
レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンが、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、キバナノウチワマメ(Lupinus luteus)、ダイズ(Glycine max)、アルファルファ(Medicago sativa)、メジカゴ・トルンクラタ(Medicago trunculata)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、ソラマメ(Vicia faba)、エンドウ(Pisum sativum)、ササゲ(Vigna unguiculata)、ミヤコグサ(Lotus japonicus)、シカクマメ(Psophocarpus tetragonolobus)、セスバニア・ロストラタ(Sesbania rostrata)、グラウカモクマオウ(Casuarina glauca)およびカンバラリア・リネアタ(Canvalaria lineata)よりなる群の植物から選ばれる、請求項25〜28のいずれか1項記載の方法。
【請求項30】
レグヘモグロビンおよび/またはヘモグロビンがミヤコグサ(Lotus japonicus)およびシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)に由来する、請求項25〜29のいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
該植物を、レグヘモグロビンおよびヘモグロビンを貯蔵器官特異的に発現するように形質転換する、請求項25〜30のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
該植物を、レグヘモグロビンおよびヘモグロビンを塊茎特異的および/または種子特異的に発現するように形質転換する、請求項25〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
該植物を、ヘモグロビンをコードする配列番号3および/または5の少なくとも1つの配列、あるいはレグヘモグロビンをコードする配列番号1の少なくとも1つの配列およびヘモグロビンをコードする配列番号3および/または5の少なくとも1つの配列を含むように形質転換する、請求項25〜32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
該植物を、配列番号1、3および/または5の1つに対して約70%の同一性を有する配列を含むように形質転換する、請求項26〜33のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
該植物を、デンプンおよび/または油を産生するように形質転換する、請求項26〜34のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
単子葉作物植物、特にイネ科(Gramineae)の単子葉作物植物を形質転換する、請求項26〜35のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
双子葉作物植物、特にキク科(Asteraceae)、アブラナ科(Brassicacea)、キク科(Compositae)、アブラナ科(Cruciferae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、マメ科(Leguminosae)、アカネ科(Rubiaceae)、ナス科(Solanaceae)、アオギリ科(Sterculiaceae)、ツバキ科(Theaceae)またはセリ科(Umbelliferae)の双子葉作物植物を形質転換する、請求項26〜36のいずれか1項記載の方法。
【請求項38】
ジャガイモ、シロイヌナズナ、ダイズまたはナタネを形質転換する、請求項26〜37のいずれか1項記載の方法。
【請求項39】
請求項15記載の少なくとも1つのヌクレオチド配列を形質転換に使用する、請求項26〜38のいずれか1項記載の方法。
【請求項40】
請求項16記載の少なくとも1つの遺伝子構造体を形質転換に使用する、請求項25〜39のいずれか1項記載の方法。
【請求項41】
請求項17記載の少なくとも1つのベクターを形質転換に使用する、請求項25〜40のいずれか1項記載の方法。
【請求項42】
請求項20記載の少なくとも1つのヌクレオチド配列を形質転換に使用する、請求項28〜41のいずれか1項記載の方法。
【請求項43】
請求項21記載の少なくとも1つの遺伝子構造体を形質転換に使用する、請求項28〜42のいずれか1項記載の方法。
【請求項44】
請求項22記載の少なくとも1つのベクターを形質転換に使用する、請求項28〜43のいずれか1項記載の方法。
【請求項45】
デンプンおよび/または油の製造のための、請求項1〜14、18または19のいずれか1項記載の植物の使用。
【請求項46】
デンプンおよび/または油の製造のための、請求項1〜10、11〜24のいずれか1項記載の植物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−514547(P2006−514547A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−562824(P2004−562824)
【出願日】平成15年12月23日(2003.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014774
【国際公開番号】WO2004/057946
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
PYREX
【出願人】(301033396)マックス−プランク−ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー. (3)
【Fターム(参考)】