説明

植物のバイオマス量及び/又は種子量を増産させる遺伝子及びその利用方法

【課題】植物バイオマス量を大幅に増産できる技術を提供する。
【解決手段】植物体において、特定な配列のアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の遺伝子を過剰発現させた植物体、及び所定の遺伝子を過剰発現させることによるバイオマス量及び/又は種子量を増産する方法、バイオマス量及び/又は種子量が増産した植物体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマス(biomass)とは、一般的には一定面積あたりに生息または存在する生物の総量を指し、特に植物を対象とした場合は、単位面積あたりの乾重量を意味する。バイオマスの単位は、質量又はエネルギー量で数値化する。バイオマスという表現は、「生物体量」、「生物量」も同義語であり、植物バイオマスの場合には「現存量(Standing crop)」の語が使われることもある。植物バイオマスは、大気中の二酸化炭素を太陽エネルギーを用いて固定して生成されるため、いわゆるカーボンニュートラルなエネルギーとして捕らえることができる。したがって、植物のバイオマスを増加させることは、地球環境保全、地球温暖化防止、温室効果ガス排出低減の効果がある。従って、植物バイオマスを増産させる技術は産業上の重要性が高い。
【0003】
一方、植物は、その一部の組織自体(種子、根、葉茎など)を目的として栽培されたり、油脂などの種々の物質生産を目的として栽培されたりする。例えば、植物が生産する油脂としては、大豆油、ごま油、オリーブ油、椰子油、米油、綿実油、ひまわり油、コーン油、べに花油、パーム油及び菜種油等が古来より知られており、家庭用途や工業用途に広く利用されている。また、植物が生産する油脂は、バイオディーゼル燃料やバイオプラスチックの原料としても使用され、石油代替エネルギーとして適用性が広がっている。
【0004】
特に、サトウキビなどのエネルギー作物は、バイオ燃料の原料となるため、植物自体の総量(植物バイオマス量)を増産させることが期待されている。このような状況において、植物バイオマス量を増産させるには、単位耕地面積あたりの生産性の向上が必要となる。ここで単位耕地面積あたりの栽培個体数が一定であると仮定すると、個体あたりのバイオマス量の向上が必要であることが判る。
【0005】
しかしながら、植物バイオマス量は、多数の遺伝子が関与すると考えられており(いわゆる量的形質の一種)、個別の遺伝子導入、遺伝子操作では効果的に増産できないと考えられている。一方、多数の遺伝子を望ましい状態で植物に導入することは非常に困難であり、また、導入できたとしても望ましい形質が確実に獲得できるわけではないといった問題があった。
【0006】
植物バイオマスを増産させる技術としては、例えば特許文献1〜7に開示されるような種々の遺伝子導入技術が知られていた。しかしながら、いずれの技術においてもバイオマス増産効果としては十分とは言えなかった。
【0007】
また、特許文献8には、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子(FBA1遺伝子)を過剰発現させることによって、成長性及び病害抵抗性が向上した形質転換植物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−505410号
【特許文献2】特表2001−519659号
【特許文献3】特表2007−530063号
【特許文献4】特開2005−130770号
【特許文献5】特表2000−515020号
【特許文献6】特表平9−503389号
【特許文献7】特開2005−52114号
【特許文献8】WO2007/091634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、上述したような実情に鑑み、植物バイオマス量を大幅に向上させる新規な機能を有する遺伝子を探索し、植物バイオマス量を大幅に増産できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、特徴的な共通配列を有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させることで、植物バイオマス量を大幅に向上できるといった新規知見を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る植物体は、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させたものである。
【0012】
また、本発明に係るバイオマス量を増産させる方法は、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させる方法である。
【0013】
さらに、本発明に係る植物体の製造方法は、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させた形質転換植物を準備する工程と、前記形質転換植物の後代植物のバイオマス量を測定し、当該バイオマス量が有意に向上した系統を選抜する工程とを含む方法である。
【0014】
本発明において、上記プロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子は、At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子若しくは当該遺伝子に機能的に等価な遺伝子とすることができる。
【0015】
本発明において、上記プロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子が、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードするものであることが好ましい。
【0016】
(a)配列番号5に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号5に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、プロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質
(c)配列番号4に示す塩基配列の相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされプロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質
【0017】
また、本発明において、上記機能的に等価な遺伝子は、シロイヌナズナ以外の生物由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子を挙げることができる。シロイヌナズナ以外の生物としては、イネ(Oryza sativa)、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)、アルファルファ(Medicago sativa)、ヒメツリカネゴケ(Physcomitrella patens)、アイスプラント(Mesembryanthemum crystallinum)、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)、トウモロコシ(Zea mays)、アブラナ(Brassica rapa)、トマト(Solanum lycopersicum)、ミゾホオズキ(Mimulus guttatus)、単細胞紅藻類のCyanidioschyzon merolaeからなる群から選ばれる一種を挙げることができる。
【0018】
一方、本発明において、上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子は、At2g01140遺伝子若しくは当該遺伝子に機能的に等価な遺伝子とすることができる。
【0019】
本発明において、上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子が、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードすることが好ましい。
【0020】
(a)配列番号32に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号32に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、グルタチオンが結合することによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すタンパク質
(c)配列番号31に示す塩基配列の相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、グルタチオンが結合することによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すタンパク質
【0021】
また、本発明において、上記機能的に等価な遺伝子は、シロイヌナズナ以外の生物由来のグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を挙げることができる。シロイヌナズナ以外の生物は、イネ(Oryza sativa)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)、シトカスプルース(Picea sitchensis)及びトウモロコシ(Zea mays)からなる群から選ばれる一種を挙げることができる。
【0022】
本発明において対象とする植物は、双子葉植物、例えばアブラナ科植物、アブラナ科植物の中でもシロイヌナズナやアブラナを挙げることができる。一方、本発明において対象とする植物は、単子葉植物、例えばイネ科植物、イネ科植物の中でもイネやサトウキビを挙げることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る植物体は、野生型と比較してバイオマス量及び/又は種子量が有意に向上したものとなる。また、本発明に係るバイオマス量及び/又は種子量を増産する方法は、対象とする植物の野生型と比較して大幅にバイオマス量及び/又は種子量を増産することができる。さらに、本発明に係る植物体の製造方法は、野生型と比較してバイオマス量及び/又は種子量が大幅に向上した植物体を製造することができる。したがって、本発明を適用することによって、例えば、植物自体を生産物としたときの生産性の向上を達成することができ、低コスト化を達成することができる。また、本発明を適用することによって、例えば、種子自体を生産物としたときの生産性や、種子に含まれる成分を生産物としたときの生産性の向上を達成することができ、低コスト化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1−1】At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラムを用いてアラインメント解析した結果を示す特性図である。
【図1−2】At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラムを用いてアラインメント解析した結果を示す特性図である。
【図1−3】At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラムを用いてアラインメント解析した結果を示す特性図である。
【図2−1】At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640及びAt5g27930-AtPP2C6-7がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラムを用いてアラインメント解析した結果を示す特性図である。
【図2−2】At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640及びAt5g27930-AtPP2C6-7がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラムを用いてアラインメント解析した結果を示す特性図である。
【図2−3】At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640及びAt5g27930-AtPP2C6-7がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラムを用いてアラインメント解析した結果を示す特性図である。
【図3−1】EEF02079、ABK94899、EEE88847、EEF36097、CAO42215、At2g01140、ABK24286、ABK25226、ABK24568、ACG47464、ACG47669及びOs01g0118000がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラムを用いてアラインメント解析した結果を示す特性図である。
【図3−2】EEF02079、ABK94899、EEE88847、EEF36097、CAO42215、At2g01140、ABK24286、ABK25226、ABK24568、ACG47464、ACG47669及びOs01g0118000がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラムを用いてアラインメント解析した結果を示す特性図である。
【図4】EEF02079、ABK94899、EEE88847、EEF36097、CAO42215、At2g01140、ABK24286、ABK25226、ABK24568、ACG47464、ACG47669、Os01g0118000、At4g38970、At2g21330及びBAA77604について作成した系統樹である。
【図5】野生型及びPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体の地上部を撮影した写真である。
【図6】野生型及びPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体の地上部のバイオマス量を測定した結果を示す特性図である。野生型は、12個体の平均値、形質転換植物体は、5個体の平均値。
【図7】野生型及びPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体の種子量を測定した結果を示す特性図である。野生型は、12個体の平均値、形質転換植物体は、5個体の平均値。
【図8】野生型、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体にFBA1遺伝子(At2g01140)を導入した形質転換植物体の地上部を撮影した写真である。
【図9】PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体にFBA1遺伝子(At2g01140)を導入した形質転換植物体の地上部のバイオマス量を測定した結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る植物体は、特徴的な共通配列を有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させたものであり、野生型と比較してバイオマス量が有意に向上している。本発明に係る植物体としては、上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子及び上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を植物組織の全体に亘って過剰発現させたものであっても良いが、植物組織の少なくとも一部において過剰発現させたものであっても良い。ここで植物組織とは、葉、茎、種子、根及び花等の植物器官を含む意味である。
【0027】
プロテインホスファターゼ2C遺伝子
植物体内において過剰発現させるプロテインホスファターゼ2C遺伝子は、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする。なお、参考文献(TRENDS in Plant Science Vol.9 No.5 May 2004 Pages 236-243)の第237頁に挙げられたFigure1.topographic cladogramにおいてグループEとして分類された遺伝子群は、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子である。なお、参考文献によれば、シロイヌナズナにおいては、76個のプロテインホスファターゼ2C遺伝子が予測されており、これら遺伝子についてT-Coffeeソフトウェア(参考文献;Notredame, C. et al. 2000 T-Coffee: a novel method for fast and accurate multiple sequence alignment. J. Mol. Biol. 302, 205-247)を用いて系統樹を作成した結果が参考文献のFigure1として開示されている。この系統樹において、グループEに分類されたプロテインホスファターゼ2C遺伝子は、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードしている。配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列は、上述した分類におけるグループEに特徴的な配列であって、他のグループとの明確な区別基準となる配列である。
【0028】
上述した分類におけるグループEには、シロイヌナズナ由来のAt1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270で特定されるプロテインホスファターゼ2C遺伝子が含まれている。これらシロイヌナズナ由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラム(国立遺伝学研究所のDDBJで使用できる(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html))を用いてアラインメント解析した結果を図1に示す(使用したアミノ酸配列置換行列表はデフォルト値のBLOSUMマトリックスを使用した)。図1に示すように、これらグループEに分類されるプロテインホスファターゼ2C遺伝子は、I〜IIIと表記した領域において特徴的な共通配列を有することが判る。これらI〜IIIと表記した領域を、後述するイネ由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子とともにアライメント解析することで、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列を定義することができる。
【0029】
ここで、配列番号1に示すアミノ酸配列において、Xaaとして表記されたアミノ酸残基は任意のアミノ酸であり、如何なるアミノ酸に限定されるものではない。但し、配列番号1に示すアミノ酸配列におけるN末端側から1番目のアミノ酸残基は、ロイシン(三文字表記:Leu、一文字表記:L、以下同様)又はフェニルアラニン(Phe、F)であることが好ましい。配列番号1に示すアミノ酸配列におけるN末端側から4番目のアミノ酸残基は、バリン(Val、V)、イソロイシン(Ile、I)又はメチオニン(Met、M)であることが好ましい。配列番号1に示すアミノ酸配列におけるN末端側から16番目のアミノ酸残基は、セリン(Ser、S)又はアラニン(Ala、A)であることが好ましい。配列番号1に示すアミノ酸配列におけるN末端側から17番目のアミノ酸残基は、リジン(Lys、K)、アルギニン(Arg、R)、グルタミン(Gln、Q)又はアスパラギン(Asn、N)であることが好ましい。すなわち、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる共通配列としては、より具体的に(L/F)XG(V/I/M)FDGHGXXGXXX(S/A)(K/R/Q/N)XVであることが好ましい。このアミノ酸配列において、カッコ内の複数のアミノ酸は当該位置において取りうるアミノ酸残基のバリエーションを示している。また、下記アミノ酸配列において、Xは、当該位置において任意のアミノ酸残基を取りうることを意味している。
【0030】
また、この共通配列は、図1中の領域IのN末端側に3アミノ酸酸基:(D/E/N)XXを含む配列としてもよい。
【0031】
ここで配列番号2に示すアミノ酸配列において、Xaaとして表記されたアミノ酸残基は任意のアミノ酸であり、如何なるアミノ酸に限定されるものではない。但し、配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から5番目のアミノ酸残基は、グリシン(Gly、G)、アラニン(Ala、A)又はセリン(Ser、S)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から6番目のアミノ酸残基は、バリン(Val、V)、ロイシン(Leu、L)又はイソロイシン(Ile、I)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から9番目のアミノ酸残基は、イソロイシン(Ile、I)、バリン(Val、V)、フェニルアラニン(Phe、F)、メチオニン(Met、M)又はロイシン(Leu、L)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から12番目のアミノ酸残基は、グリシン(Gly、G)又はアラニン(Ala、A)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から15番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)、バリン(Val、V)又はイソロイシン(Ile、I)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から17番目のアミノ酸残基は、イソロイシン(Ile、I)、バリン(Val、V)又はメチオニン(Met、M)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から18番目のアミノ酸残基は、グリシン(Gly、G)又はアラニン(Ala、A)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から22番目のアミノ酸残基は、アスパラギン酸(Asp、D)又はヒスチジン(His、H)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から26番目のアミノ酸残基は、バリン(Val、V)又はイソロイシン(Ile、I)であることが好ましい。配列番号2に示すアミノ酸配列におけるN末端側から27番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)、メチオニン(Met、M)又はイソロイシン(Ile、I)であることが好ましい。すなわち、配列番号2に示すアミノ酸配列からなる共通配列としては、より具体的にSGXT(G/A/S)(V/L/I)XX(I/V/F/M/L)XX(G/A)XX(L/V/I)X(I/V/M)(A/G)NXG(D/H)SRA(V/I)(L/M/I)であることが好ましい。このアミノ酸配列において、カッコ内の複数のアミノ酸は当該位置において取りうるアミノ酸残基のバリエーションを示している。また、下記アミノ酸配列において、Xは、当該位置において任意のアミノ酸残基を取りうることを意味している。
【0032】
ここで配列番号3に示すアミノ酸配列において、Xaaとして表記されたアミノ酸残基は任意のアミノ酸であり、如何なるアミノ酸に限定されるものではない。但し、配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から4番目のアミノ酸残基は、メチオニン(Met、M)、バリン(Val、V)又はフェニルアラニン(Phe、F)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から5番目のアミノ酸残基は、セリン(Ser、S)、アラニン(Ala、A)又はトレオニン(Thr、T)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から7番目のアミノ酸残基は、アラニン(Ala、A)又はセリン(Ser、S)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から8番目のアミノ酸残基は、フェニルアラニン(Phe、F)、イソロイシン(Ile、I)又はバリン(Val、V)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から14番目のアミノ酸残基は、リシン(Lys、K)又はグルタミン酸(Glu、E)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から18番目のアミノ酸残基は、バリン(Val、V)又はロイシン(Leu、L)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から19番目のアミノ酸残基は、イソロイシン(Ile、I)又はバリン(Val、V)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から23番目のアミノ酸残基は、グルタミン酸(Glu、E)、グルタミン(Gln、Q)又はアスパラギン酸(Asp、D)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から24番目のアミノ酸残基は、イソロイシン(Ile、I)、バリン(Val、V)又はフェニルアラニン(Phe、F)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から29番目のアミノ酸残基は、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)又はバリン(Val、V)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から30番目のアミノ酸残基は、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)又はアスパラギン(Asn、N)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から33番目のアミノ酸残基は、アスパラギン酸(Asp、D)、アスパラギン(Asn、N)又はヒスチジン(His、H)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から35番目のアミノ酸残基は、フェニルアラニン(Phe、F)又はチロシン(Tyr、Y)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から36番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)、イソロイシン(Ile、I)、バリン(Val、V)、フェニルアラニン(Phe、F)又はメチオニン(Met、M)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から37番目のアミノ酸残基は、バリン(Val、V)、ロイシン(Leu、L)又はイソロイシン(Ile、I)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から38番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)又はバリン(Val、V)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から40番目のアミノ酸残基は、トレオニン(Thr、T)又はセリン(Ser、S)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から43番目のアミノ酸残基は、バリン(Val、V)、イソロイシン(Ile、I)又はメチオニン(Met、M)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から44番目のアミノ酸残基は、トリプトファン(Trp、W)又はフェニルアラニン(Phe、F)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から45番目のアミノ酸残基は、アスパラギン酸(Asp、D)又はグルタミン酸(Glu、E)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から47番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)、イソロイシン(Ile、I)又はメチオニン(Met、M)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から48番目のアミノ酸残基は、セリン(Ser、S)、トレオニン(Thr、T)又はプロリン(Pro、P)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から49番目のアミノ酸残基は、アスパラギン(Asn、N)又はセリン(Ser、S)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から52番目のアミノ酸残基は、バリン(Val、V)又はアラニン(Ala、A)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から55番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)、バリン(Val、V)、イソロイシン(Ile、I)又はメチオニン(Met、M)であることが好ましい。配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から56番目のアミノ酸残基は、イソロイシン(Ile、I)又はバリン(Val、V)であることが好ましい。すなわち、配列番号3に示すアミノ酸配列からなる共通配列としては、より具体的にGXA(M/V/F)(S/A/T)R(A/S)(F/I/V)GDXXX(K/E)XXG(V/L)(I/V)XXP(E/Q/D)(I/V/F)XXXX(I/L/V)(T/S)XX(D/N/H)X(F/Y)(L/I/V/F)(V/L/I)(L/V)A(T/S)DG(V/I/M)(W/F)(D/E)X(L/I/M)(S/T/P)(N/S)XX(V/A)XX(L/V/I/M)(I/V)であることが好ましい。このアミノ酸配列において、カッコ内の複数のアミノ酸は当該位置において取りうるアミノ酸残基のバリエーションを示している。また、下記アミノ酸配列において、Xは、当該位置において任意のアミノ酸残基を取りうることを意味している。
【0033】
ただし、配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から20番目のアミノ酸残基は、アラニン(Ala、A)、セリン(Ser、S)又はシステイン(Cys、C)であることがより好ましい。また、配列番号3に示すアミノ酸配列におけるN末端側から50番目のアミノ酸残基は、アスパラギン酸(Asp、D)、グルタミン酸(Glu、E)、リシン(Lys、K)、グルタミン(Gln、Q)又はアスパラギン(Asn、N)であることがより好ましい。
【0034】
所定の位置において取りうるアミノ酸残基のバリエーションは以下の理由によるものである。参考文献(1)(「マッキー生化学」第3版 5章アミノ酸・ペプチド・タンパク質 5.1アミノ酸、監修:市川厚、監訳:福岡伸一、発行者:曽根良介、発行所:(株)化学同人、ISBN4-7598-0944 -9)でも記載されているように、アミノ酸は同様の性質(化学的性質や物理的大きさ)を持つ側鎖に従って分類される事がよく知られる。また、タンパク質の活性を保持したまま、所定のグループに分類されるアミノ酸残基間における分子進化上の置換が頻度高く起こることがよく知られる。この考えを基に、参考文献(2): Henikoff S., Henikoff J.G., Amino-acid substitution matrices from protein blocks, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 10915-10919 (1992)中の、Fig.2でアミノ酸残基の置換変異のスコアマトリックス(BLOSUM)が提唱され、広く使用されている。参考文献(2)では、側鎖の化学的性質が似たもの同士のアミノ酸置換は、タンパク質全体に与える構造や機能変化が少なくなると言う知見に基づくものである。上記参考文献(1)及び(2)によれば、マルチプルアラインメントで考慮するアミノ酸の側鎖のグループは、化学的性質や物理的大きさなどの指標を基にして考えることができる。これは、参考文献(2)に開示されたスコアマトリックス(BLOSUM)において、スコアの0以上の値を持つアミノ酸、好ましくは1以上の値を持つアミノ酸のグループとして示される。代表的なグループとしては、下記の8つが上げられる。その他の細かいグループ分けは、当該スコアの値の0以上同士のアミノ酸グループ、好ましくは1以上同士のアミノ酸グループ、さらに好ましくは2以上のアミノ酸グループであれば良い。
【0035】
1)脂肪族疎水性アミノ酸グループ(ILMVグループ)
このグループは、上記参考文献(1)で示された中性非極性アミノ酸のうち、脂肪属性の疎水性側鎖をもつアミノ酸のグループであり、V(Val、バリン)、L(Leu、ロイシン)、I(Ile、イソロイシン)及びM(Met、メチオニン)から構成される。参考文献(1)による中性非極性アミノ酸と分類されるもののうちFGACWPは以下理由で、この「脂肪族疎水性アミノ酸グループ」には含めない。G(Gly、グリシン)やA(Ala、アラニン)はメチル基以下の大きさで非極性の効果が弱いからである。C(Cys、システイン)はS-S結合に重要な役目を担う場合があり、また、酸素原子や窒素原子と水素結合を形成する特性があるからである。F(Phe、フェニルアラニン)やW(Trp、トリプトファン)は側鎖がとりわけ大きな分子量をもち、かつ、芳香族の効果が強いからである。P(Pro、プロリン)はイミノ酸効果が強く、ポリペプチドの主鎖の角度を固定してしまうからである。
【0036】
2)ヒドロキシメチレン基をもつグループ(STグループ)
このグループは、中性極性アミノ酸のうちヒドロキシメチレン基を側鎖に持つアミノ酸のグループであり、S(Ser、セリン)とT(Thr、スレオニン)から構成される。SとTの側鎖に存在する水酸基は、糖の結合部位であるため、あるポリペプチド(タンパク質)が特定の活性を持つために重要な部位である場合が多い。
【0037】
3)酸性アミノ酸(DEグループ)
このグループは、酸性であるカルボキシル基を側鎖に持つアミノ酸のグループであり、D(Asp、アスパラギン酸)とE(Glu、グルタミン酸)から構成される。
【0038】
4)塩基性アミノ酸(KRグループ)
このグループは、塩基性アミノ酸のグループであり、K(Lys、リジン)とR(Arg、アルギニン)から構成される。これらKとRは、pHの広い範囲で正に帯電し塩基性の性質をもつ。一方、塩基性アミノ酸に分類されるH(His、ヒスチジン)はpH7においてほとんどイオン化されないので、このグループには分類されない。
【0039】
5)メチレン基=極性基(DHNグループ)
このグループは、全てα位の炭素元素に側鎖としてメチレン基が結合しその先に極性基を有すると言う特徴を持つ。非極性基であるメチレン基の物理的大きさが酷似している特徴を持ち、N(Asn、アスパラギン、極性基はアミド基)、D(Asp、アスパラギン酸、極性基はカルボキシル基)とH(His、ヒスチジン、極性基はイミダゾール基)から成る。
【0040】
6)ジメチレン基=極性基(EKQRグループ)
このグループは、全てα位の炭素元素に側鎖としてジメチレン基以上の直鎖炭化水素が結合しその先に極性基を有すると言う特徴を持つ。非極性基であるジメチレン基の物理的大きさが酷似している特徴を持つ。E(Glu、グルタミン酸、極性基はカルボキシル基)、K(Lys、リジン、極性基はアミノ基)、Q(Gln、グルタミン、極性基はアミド基)、R(Arg、アルギニン、極性基はイミノ基とアミノ基)から成る。
【0041】
7)芳香族(FYWグループ)
このグループには、側鎖にベンゼン核を持つ芳香族アミノ酸であり、芳香族特有の化学的性質を特徴とする。F(Phe、フェニルアラニン)、Y(Tyr、チロシン)、W(Trp、トリプトファン)から成る。
【0042】
8)環状&極性(HYグループ)
このグループには、側鎖に環状構造を持つと同時に極性も持つアミノ酸で、H(H、ヒスチジン、環状構造と極性基は共にイミダゾール基)、Y(Tyr、チロシン、環状構造はベンゼン核で極性基は水酸基)から成る。
【0043】
以上のように、配列番号1〜3に示す所定のアミノ酸配列においては、Xaaとして示すアミノ酸残基を任意のアミノ酸としても良いが、Xaaとして示すアミノ酸残基を上記1)〜8)のグループ内でアミノ酸置換しても良いことが判る。すなわち、本発明において、植物体内で過剰発現させるプロテインホスファターゼ2C遺伝子は、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有する限り、如何なる植物由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子であってもよい。
【0044】
より具体的に、シロイヌナズナにおいて配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子としては、At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270が挙げられ、本発明ではこれら遺伝子群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子を過剰発現させる。なかでも、本発明では、At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640及びAt5g27930-AtPP2C6-7からから選ばれる少なくとも1種の遺伝子を過剰発現させることが好ましい。特に本発明においては、At3g16800、At3g05640及びAt5g27930-AtPP2C6-7からから選ばれる少なくとも1種の遺伝子を過剰発現させることがより好ましく、At3g05640で特定される遺伝子を過剰発現させることが最も好ましい。
【0045】
なお、At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640及びAt5g27930-AtPP2C6-7がコードするアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラム(国立遺伝学研究所のDDBJで使用できる(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html))を用いてアラインメント解析した結果を図2に示す(使用したアミノ酸配列置換行列表はデフォルト値のBLOSUMマトリックスを使用した)。
【0046】
すなわち、図2にはAt1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640及びAt5g27930-AtPP2C6-7がコードするプロテインホスファターゼ2Cにおける3つの共通配列が示されている。図2におけるI〜IIIと表記した領域を、後述するイネ由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子のオーソログとともにアライメント解析することで、上述した配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列は、それぞれ配列番号48〜55に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列と言い換えることができる。
【0047】
配列番号48に示す共通配列は、より具体的に(L/F)CG(V/I/M)FDGHGXXGXX(V/I)(S/A)(K/R)XVである。配列番号49に示す共通配列は、より具体的にSGXT(G/A/S)(V/L)XX(I/V/F/L)XX(G/A)XX(L/V/I)X(I/V/M)(A/G)NXG(D/H)SRA(V/I)(L/M/I)である。配列番号50に示す共通配列は、より具体的にGLA(M/V)(S/A)R(A/S)(F/L)GDXX(L/I/V)KX(Y/F/H)G(V/L)(I/V)XXP(E/Q/D)(I/V/F)XXXX(I/L/V)(T/S)XXDX(F/Y)(L/I/V/M)(V/L/I)LA(T/S)DG(V/I/M)WDX(L/I/M/V)(S/T)NX(E/D)(V/A)XX(L/V/I)(I/V)である。
【0048】
なお、これらアミノ酸配列において、カッコ内の複数のアミノ酸は当該位置において取りうるアミノ酸残基のバリエーションを示している。また、これらアミノ酸配列において、Xは、当該位置において任意のアミノ酸残基を取りうることを意味している。
【0049】
ただし、配列番号49に示すアミノ酸配列におけるN末端側から9番目のアミノ酸残基は、イソロイシン(Ile、I)、バリン(Val、V)又はフェニルアラニン(Phe、F)であることがより好ましい。また、配列番号49に示すアミノ酸配列におけるN末端側から11番目のアミノ酸残基は、グルタミン(Gln、Q)又はヒスチジン(His、H)であることがより好ましい。さらに配列番号49に示すアミノ酸配列におけるN末端側から13番目のアミノ酸残基は、リシン(Lys、K)、グルタミン酸(Glu、E)、セリン(Ser、S)、グルタミン(Gln、Q)、アスパラギン酸(Asp、D)又はアスパラギン(Asn、N)であることがより好ましい。
【0050】
ただし、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から7番目のアミノ酸残基は、アラニン(Ala、A)であることがより好ましい。また、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から8番目のアミノ酸残基は、フェニルアラニン(Phe、F)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から11番目のアミノ酸残基は、フェニルアラニン(Phe、F)又はチロシン(Tyr、Y)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から13番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)又はイソロイシン(Ile、I)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から15番目のアミノ酸残基は、アスパラギン酸(Asp、D)、セリン(Ser、S)又はグルタミン酸(Glu、E)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から20番目のアミノ酸残基は、セリン(Ser、S)、アラニン(Ala、A)又はシステイン(Cys、C)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から27番目のアミノ酸残基は、ヒスチジン(His、H)又はアルギニン(Arg、R)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から34番目のアミノ酸残基は、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)又はヒスチジン(His、H)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から36番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)、イソロイシン(Ile、I)又はバリン(Val、V)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から47番目のアミノ酸残基は、ロイシン(Leu、L)、イソロイシン(Ile、I)又はバリン(Val、V)であることがより好ましい。さらに、配列番号50に示すアミノ酸配列におけるN末端側から50番目のアミノ酸残基は、リシン(Lys、K)、グルタミン酸(Glu、E)、グルタミン(Gln、Q)、アスパラギン酸(Asp、D)又はアスパラギン(Asn、N)であることがより好ましい。
【0051】
一例として、At3g05640で特定される遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号4に示し、At3g05640で特定される遺伝子によりコードされるプロテインホスファターゼ2Cのアミノ酸配列を配列番号5に示す。
【0052】
また、本発明においては、上記で列挙した遺伝子と機能的に等価な遺伝子を過剰発現させても良い。ここで機能的に等価な遺伝子とは、例えばシロイヌナズナ以外の生物由来であって配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列(好ましくは配列番号48〜50に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列。以下同様)をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子を含む意味である。また、機能的に等価な遺伝子とは、プロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を意味する。プロテインホスファターゼ2C活性とは、Mg2+又はMn2+依存型のセリン/スレオニンホスファターゼ(Ser/Thrホスファターゼ)活性を意味する。従って、ある遺伝子がプロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質をコードするか否かは、当該遺伝子の産物がMg2+又はMn2+存在下においてセリン/スレオニンホスファターゼ活性を有するか否かを検討すればよい。セリン/スレオニンホスファターゼ活性を測定する手法は、従来公知の手法を適宜使用することができる。例えば、市販の活性測定キットProFluor(登録商標)Ser/Thr Phosphatase Assay(Promega社製)を使用することができる。
【0053】
ここで、シロイヌナズナ以外の生物としては、何ら限定されないが、例えばイネを挙げることができる。すなわち、機能的に等価な遺伝子としては、イネにおけるOs05g0358500遺伝子を挙げることができる。Os05g0358500遺伝子のコーディング領域の塩基配列を配列番号6に示し、当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号7に示す。また、イネ由来の遺伝子であって、上記機能的に等価な遺伝子としては、Os11g0109000(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号8及び9に示す)、Os12g0108600(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号10及び11に示す)、Os02g0471500(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号12及び13に示す)、Os04g0321800(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号14及び15に示す)、Os11g0417400(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号16及び17に示す)、Os07g0566200(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号18及び19に示す)、Os08g0500300(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号20及び21に示す)、Os02g0224100(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号22及び23に示す)及びOs02g0281000(塩基配列及びアミノ酸配列を配列番号51及び52に示す)及びを挙げることができる。
【0054】
さらに、シロイヌナズナ及びイネ以外の植物由来であって、上記機能的に等価な遺伝子としては、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)由来の遺伝子(UniProt データベース アクセッション番号A9P973、A9PFS0及びA9P7U4)を挙げることができ、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来の遺伝子(UniProt データベース アクセッション番号A7PRZ8、A7Q8H4、A7PV59、A5C3B0、A5BF43、A7QFG6、A7P4H7、A5C0C9、A5AP53、A7QQF9及びA5BDP5)を挙げることができ、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)由来の遺伝子(UniProt データベース アクセッション番号Q2HW33及びQ4L0F8)を挙げることができ、アルファルファ(Medicago sativa)由来の遺伝子(GenBank データベースアクセッション番号AY651248)を挙げることができ、ヒメツリカネゴケ(Physcomitrella patens)由来の遺伝子(UniProt データベースアクセッション番号A9SE70、A9SE69及びA9RFU1)を挙げることができ、アイスプラント(Mesembryanthemum crystallinum)由来の遺伝子(UniProt データベース アクセッション番号2511453C)を挙げることができ、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)由来の遺伝子(UniProt データベースアクセッション番号A8HQG8)を挙げることができ、トウモロコシ(Zea mays)由来の遺伝子(GenBank データベース アクセッション番号BT024031、BT017414及びBT024134)を挙げることができ、アブラナ(Brassica rapa)由来の遺伝子(GenBank データベース アクセッション番号AC189312及びAC189579)を挙げることができ、トマト(Solanum lycopersicum)由来の遺伝子(GenBank データベース アクセッション番号AP009550、AP009302及びAP009278)を挙げることができ、ミゾホオズキ(Mimulus guttatus)由来の遺伝子(GenBank データベース アクセッション番号AC182571)を挙げることができ、単細胞紅藻類の(Cyanidioschyzon merolae)由来の遺伝子(GenBank データベースアクセッション番号AP006489)を挙げることができる。
【0055】
これらに代表されるシロイヌナズナ以外の植物における、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子は、上記で列挙したシロイヌナズナ由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子の塩基配列やプロテインホスファターゼ2Cのアミノ酸配列に基づいて、GenBank等の公知のデータベースから容易に検索・同定することができる。
【0056】
なお、本発明においては過剰発現させるプロテインホスファターゼ2C遺伝子としては、上述したような配列番号4〜23に示した塩基配列及びアミノ酸配列からなるプロテインホスファターゼ2C遺伝子に限定されるものではない。すなわち、プロテインホスファターゼ2C遺伝子としては、配列番号4〜23の奇数番号に示したアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸配列が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、且つ、プロテインホスファターゼ2C活性を有するものであっても良い。ここで、複数個のアミノ酸としては、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。なお、アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子をコードする塩基配列を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。塩基配列に変異を導入するには、Kunkel法またはGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-KやMutant-G(何れも商品名、TAKARA Bio社製))等を用いて、あるいはLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット(商品名、TAKARA Bio社製)を用いて変異が導入される。また、変異導入方法としては、EMS(エチルメタンスルホン酸)、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-Nニトロソグアニジン、その他の発ガン性化合物に代表されるような化学的変異剤を使用する方法でも良いし、X線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、イオンビームに代表されるような放射線処理や紫外線処理による方法でも良い。
【0057】
また、過剰発現させるプロテインホスファターゼ2C遺伝子としては、配列番号4〜23に示した塩基配列及びアミノ酸配列からなるプロテインホスファターゼ2C遺伝子の相同遺伝子であってもよい。ここで、相同遺伝子とは、一般的に、共通の祖先遺伝子から進化分岐した遺伝子を意味しており、2種類の種の相同遺伝子(オルソログ(ortholog))及び同一種内で重複分岐により生じた相同遺伝子(パラログ(paralog))を含む意味である。換言すると、上述した「機能的に等価な遺伝子」にはオルソログやパラログといった相同遺伝子を含む意味である。但し、上述した「機能的に等価な遺伝子」には、共通遺伝子から進化せず、単に類似した機能を有する遺伝子も含まれている。
【0058】
配列番号4〜23に示した塩基配列及びアミノ酸配列からなるプロテインホスファターゼ2C遺伝子に類似する遺伝子としては、これらアミノ酸配列に対する類似度(Similarity)が例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上であるアミノ酸配列を有し、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を挙げることができる。ここで、類似度の値は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラムを実装したコンピュータプログラム及び遺伝子配列情報を格納したデータベースを用いてデフォルトの設定で求められる値を意味する。
【0059】
また、配列番号4〜23に示した塩基配列及びアミノ酸配列からなるプロテインホスファターゼ2C遺伝子に類似する遺伝子は、植物ゲノム情報が明らかとなっていない場合には、対象となる植物からゲノムを抽出するか或いは対象となる植物のcDNAライブラリーを構築し、配列番号4〜23に示した塩基配列及びアミノ酸配列からなるプロテインホスファターゼ2C遺伝子の少なくとも一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするゲノム領域或いはcDNAを単離することで同定することができる。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、45℃、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーション、その後の50〜65℃、0.2〜1×SSC、0.1%SDSでの洗浄が挙げられ、或いはそのような条件として、65〜70℃、1×SSCでのハイブリダイゼーション、その後の65〜70℃、0.3×SSCでの洗浄を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。
【0060】
このプロテインホスファターゼ2C遺伝子を過剰発現させる手法としては、対象とする植物体における内因性のプロテインホスファターゼ2C遺伝子のプロモーターを改変する手法、過剰発現を可能とするプロモーターの制御下に外因性のプロテインホスファターゼ2C遺伝子を配置した発現ベクターを導入する手法、あるいはこれら両手法を同時におこなう手法をあげることができる。
【0061】
一例としては、過剰発現を可能とするプロモーターの制御下に上述したプロテインホスファターゼ2C遺伝子を配置した発現ベクターを対象の植物に導入する手法が好ましい。
【0062】
グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子
植物体内において過剰発現させるグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子は、グルタチオンに結合することで活性が制御され、葉緑体等のプラスチド内においてフルクトース1,6-ビスリン酸をジヒドロキシアセトンリン酸とグリセルアルデヒド3-リン酸とに変換する反応(可逆反応)を触媒する活性を有する酵素をコードする遺伝子である。グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子は、上記活性を有する酵素をコードする遺伝子であれば、如何なる植物由来の遺伝子であっても良いし、植物から単離した遺伝子に突然変異を導入した変異型遺伝子であっても良い。
【0063】
一例としては、シロイヌナズナ由来のグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を使用することができる。シロイヌナズナ由来のグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子については、WO2007/091634号公報にFBA1遺伝子として開示されている。このFBA1遺伝子におけるコーディング領域の塩基配列を配列番号31に示し、FBA1遺伝子によりコードされるグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼのアミノ酸配列を配列番号32に示す。また、シロイヌナズナにおけるFBA1遺伝子は、At2g01140遺伝子とも呼称される。
【0064】
また、本発明においては、上記At2g01140遺伝子と機能的に等価な遺伝子を過剰発現させても良い。ここで機能的に等価な遺伝子とは、例えばシロイヌナズナ以外の生物由来であってグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有する遺伝子を含む意味である。また、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性は、例えば、基質としてフルクトース1,6-ビスリン酸を含む緩衝液において活性測定対象のタンパク質を作用させ、生成したジヒドロキシアセトンリン酸及び/又はグリセロアルデヒド-3-リン酸を測定することで測定することができる。或いは、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性は以下のように測定することもできる。すなわち先ず、基質としてフルクトース1,6-ビスリン酸を含む緩衝液において活性測定対象のタンパク質を作用させる。生成したグリセロアルデヒド-3-リン酸に対してトリオースリン酸イソメラーゼを作用させてジヒドロキシアセトンリン酸を生成させる。このジヒドロキシアセトンリン酸をグリセロール-3-リン酸脱水素酵素の存在下でグリセロール-3-リン酸に変化する際、NADHがβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD)となるため、NADH に由来する340nmの吸光度が減少する。よってこのNADHの減少速度を測定することにより活性測定対象のタンパク質についてアルドラーゼ活性を評価することができる。
【0065】
また、評価対象のタンパク質についてグルタチオン結合性は、当該タンパク質のアミノ酸配列におけるグルタチオン結合配列の有無によって評価することもできるし、グルタチオントランスフェラーゼ及びグルタチオンの存在下に評価対象のタンパク質を作用させ、グルタチオンの結合の有無を測定することによって評価することもできる。
【0066】
さらに、評価対象のタンパク質がプラスチド型であるかについては、当該タンパク質のアミノ酸配列におけるトランジットペプチド配列の有無によって評価することもできるし、当該タンパク質と蛍光タンパク質等のレポーターとの融合タンパク質をコードする遺伝子を導入した植物を作製し、レポーターを検出することで当該タンパク質のプラスチド局在性を検出することによって評価することもできる。
【0067】
ここで、シロイヌナズナ以外の生物としては、何ら限定されないが、例えばイネ(Oryza sativa)を挙げることができる。すなわち、機能的に等価な遺伝子としては、イネにおけるOs01g0118000遺伝子を挙げることができる。Os01g0118000遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号43に示す。
【0068】
さらに、シロイヌナズナ及びイネ以外の植物由来であって、上記機能的に等価な遺伝子としては、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来の遺伝子(NCBI Entrez Protein databaseのアクセッション番号CAO42215(配列番号40))、トウゴマ(Ricinus communis)由来の遺伝子(NCBI Entrez Protein databaseのアクセッション番号EEF36097(配列番号39))、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)由来の遺伝子(NCBI Entrez Protein databaseのアクセッション番号EEE88847(配列番号38)、EEF02079(配列番号36)及びABK94899(配列番号37))、シトカスプルース(Picea sitchensis)由来の遺伝子(NCBI Entrez Protein databaseのアクセッション番号ABK24568(配列番号35)、ABK24286(配列番号33)及びABK25226(配列番号34))及びトウモロコシ(Zea mays)由来の遺伝子(NCBI Entrez Protein databaseのアクセッション番号ACG47464(配列番号41)及びACG47669(配列番号42))を挙げることができる。
【0069】
これらに代表されるシロイヌナズナ以外の植物における、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有する遺伝子は、上記で列挙したシロイヌナズナ由来のFBA1遺伝子(At2g01140遺伝子)の塩基配列や当該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に基づいて、GenBank等の公知のデータベースから容易に検索・同定することができる。
【0070】
配列番号32〜43に示したアミノ酸配列について、CLUSTAL W (1.83) multiple sequence alignmentプログラム(国立遺伝学研究所のDDBJで使用できる(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top-j.html))を用いてアラインメント解析した結果を図3に示す(使用したアミノ酸配列置換行列表はデフォルト値のBLOSUMマトリックスを使用した)。図3に示すように、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子は、非常に高い相同性を示していることが判る。また、配列番号32〜43に示したアミノ酸配列のグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子及びシロイヌナズナにおけるフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子(FBA2遺伝子(At4g38970)、FBA3遺伝子(At2g21330))並びにタバコにおけるフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子(BAA77604)について系統樹を作成した結果を図4に示す。図4の破線枠に示すように、配列番号32〜43に示したアミノ酸配列のグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子は、シロイヌナズナにおけるFBA2遺伝子、FBA3遺伝子及びタバコにおけるBAA77604遺伝子と異なる一群を形成している。
【0071】
なお、シロイヌナズナにおけるFBA2遺伝子及びFBA3遺伝子がコードするフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードは、グルタチオンによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すといった特徴を有してない。
【0072】
ところで、本発明においては過剰発現させるグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子としては、上述したような配列番号31に示した塩基配列、配列番号32〜43に示したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子に限定されるものではない。すなわち、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子としては、配列番号32〜43に示したアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸配列が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、且つ、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するものであっても良い。ここで、複数個のアミノ酸としては、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。なお、アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上述した「プロテインホスファターゼ2C遺伝子」の欄で開示した手法を適用することができる。
【0073】
また、過剰発現させるグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子としては、配列番号31に示した塩基配列、配列番号32〜43に示したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の相同遺伝子であってもよい。ここで、相同遺伝子とは、一般的に、共通の祖先遺伝子から進化分岐した遺伝子を意味しており、2種類の種の相同遺伝子(オルソログ(ortholog))及び同一種内で重複分岐により生じた相同遺伝子(パラログ(paralog))を含む意味である。換言すると、上述した「機能的に等価な遺伝子」にはオルソログやパラログといった相同遺伝子を含む意味である。但し、上述した「機能的に等価な遺伝子」には、共通遺伝子から進化せず、単に類似した機能を有する遺伝子も含まれている。
【0074】
配列番号31に示した塩基配列、配列番号32〜43に示したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子に類似する遺伝子としては、これらアミノ酸配列に対する類似度(Similarity)が例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上であるアミノ酸配列を有し、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を挙げることができる。ここで、類似度の値は、上述した「プロテインホスファターゼ2C遺伝子」の欄で開示した手法を適用した値を意味する。
【0075】
また、配列番号31に示した塩基配列を含む遺伝子、配列番号32〜43に示したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子に類似する遺伝子は、植物ゲノム情報が明らかとなっていない場合には、対象となる植物からゲノムを抽出するか或いは対象となる植物のcDNAライブラリーを構築し、配列番号31に示した塩基配列を含む遺伝子、配列番号32〜43に示したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の少なくとも一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするゲノム領域或いはcDNAを単離することで同定することができる。ここで、ストリンジェントな条件とは、上述した「プロテインホスファターゼ2C遺伝子」の欄で開示した条件を意味する。ハイブリダイゼーションは、上述した「プロテインホスファターゼ2C遺伝子」の欄で開示した手法を適用することができる。
【0076】
このグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を過剰発現させる手法としては、上述した「プロテインホスファターゼ2C遺伝子」の欄で開示した手法を適用することができる。
【0077】
発現ベクター
発現ベクターは、過剰発現を可能とするプロモーターと、上述したプロテインホスファターゼ2C遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を含むように構築する。なお、プロテインホスファターゼ2C遺伝子を含む発現ベクターと、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を含む発現ベクターとを別個に準備しても良い。
【0078】
発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
【0079】
プロモーターは、植物体内でプロテインホスファターゼ2C遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を過剰発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター、オレオシン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、アクチン遺伝子プロモーター又はユビキチン遺伝子プロモーターをより好ましく用いることができる。上記各プロモーターを用いれば、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。
【0080】
また、プロモーターとしては、植物における部位特異的に過剰発現させる機能を有するものを使用することもできる。このようなプロモーターとしては、従来公知の如何なるプロモーターを使用することができる。このようなプロモーターを使用して、上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子やグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を部位特異的に過剰発現させることによって、過剰発現した植物器官を野生型と比較して増大させることができる。
【0081】
なお、発現ベクターは、プロモーター、上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子及び上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選別マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記組換え発現ベクターは、さらにT−DNA領域を有していてもよい。T−DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
【0082】
転写ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることできる。上記組換えベクターにおいては、転写ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成し、強力なプロモーターがプラスミドのコピー数を減少させるといった現象の発生を防止することができる。
【0083】
形質転換体選別マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。これにより、上記抗生物質を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選別することができる。
【0084】
翻訳効率を高めるための塩基配列としては、例えばタバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、上記融合遺伝子の翻訳効率を高めることができる。このように、上記組換え発現ベクターには、その目的に応じて、さまざまなDNAセグメントを含ませることができる。
【0085】
組換え発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター、上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子及び/又は上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子、並びに転写抑制転換ポリヌクレオチド、並びに必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入すればよい。例えば、上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子又は上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子とプロモーターと(必要に応じて転写ターミネーター等)とを連結して発現カセットを構築し、これをベクターに導入すればよい。発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子又は上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子、ターミネーターの順となっていればよい。また、発現ベクターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素やライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
【0086】
また、上記発現ベクターの増殖方法(生産方法)も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。一般的には大腸菌をホストとして当該大腸菌内で増殖させればよい。このとき、ベクターの種類に応じて、好ましい大腸菌の種類を選択してもよい。
【0087】
形質転換
上述した発現ベクターは、一般的な形質転換方法によって対象の植物内に導入される。発現ベクターを植物細胞に導入する方法(形質転換方法)は特に限定されるものではなく、植物細胞に応じた適切な従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法や直接植物細胞に導入する方法を用いることができる。アグロバクテリウムを用いる方法としては、例えば、Bechtold, E., Ellis, J. and Pelletier, G. (1993) In Planta Agrobacterium-mediated gene transfer by infiltration of adult Arabidopsis plants. C.R. Acad. Sci. Paris Sci. Vie, 316, 1194-1199. あるいは、Zyprian E, Kado Cl, Agrobacterium-mediated plant transformation by novel mini-T vectors in conjunction with a high-copy vir region helper plasmid. Plant Molecular Biology, 1990, 15(2), 245-256.に記載された方法を用いることができる。
【0088】
発現ベクターを直接植物細胞に導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。
【0089】
また、DNAを直接植物細胞に導入する方法を採るなら、対象とする遺伝子の発現に必要な転写ユニット、例えばプロモーターや転写ターミネーターと、対象とする遺伝子を含んだDNAがあれば十分であり、ベクター機能が必須ではない。さらに、転写ユニットを有さない対象とする遺伝子のタンパク質コード領域のみを含むDNAであっても、宿主の転写ユニット内にインテグレートし、対象となる遺伝子を発現することができればよい。
【0090】
上記発現ベクターや、発現ベクターを含まず対象となる遺伝子を含んだ発現カセットが導入される植物細胞としては、例えば、花、葉、根等の植物器官における各組織の細胞、カルス、懸濁培養細胞等を挙げることができる。ここで、発現ベクターは、生産しようとする種類の植物体に合わせて適切なものを適宜構築してもよいが、汎用的な発現ベクターを予め構築しておき、それを植物細胞に導入してもよい。
【0091】
発現ベクターの導入対象となる植物、換言するとバイオマス増産対象の植物としては、特に限定されない。すなわち、上述したプロテインホスファターゼ2C遺伝子及び上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を過剰発現させることによって、あらゆる植物体についてバイオマス増産効果を期待することができる。対象となる植物としては、例えば、双子葉植物、単子葉植物、例えばアブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科等に属する植物(下記参照)が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。
【0092】
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa、Brassica napus、Brassica campestris)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)、カブ(Brassica rapa var. rapa)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、ミズナ(Brassica rapa var. lancinifolia)、コマツナ(Brassica rapa var. peruviridis)、パクチョイ(Brassica rapa var. chinensis)、ダイコン(Raphanus sativus)、ワサビ(Wasabia japonica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solaneum tuberosum)、トマト(Lycopersicon lycopersicum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ペチュニア(Petunia)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum sativum)、ソラマメ(Vicia faba)、フジ(Wisteria floribunda)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. japonicus)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、アズキ(Vigna angularis)、アカシア(Acacia)など。
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、ヒマワリ(Helianthus annuus)など。
ヤシ科:アブラヤシ(Elaeis guineensis、Elaeis oleifera)、ココヤシ(Cocos nucifera)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、ロウヤシ(Copernicia)など。
ウルシ科:ハゼノキ(Rhus succedanea)、カシューナットノキ(Anacardium occidentale)、ウルシ(Toxicodendron vernicifluum)、マンゴー(Mangifera indica)、ピスタチオ(Pistacia vera)など。
ウリ科:カボチャ(Cucurbita maxima、Cucurbita moschata、Cucurbita pepo)、キュウリ(Cucumis sativus)、カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)、ヒョウタン(Lagenaria siceraria var. gourda)など。
バラ科:アーモンド(Amygdalus communis)、バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus pumila var. domestica)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
ヤナギ科:ポプラ(Populus trichocarpa、Populus nigra、Populus tremula) など。
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、タケ(Phyllostachys)、サトウキビ(Saccharum officinarum)、ネピアグラス(Pennisetum pupureum)、エリアンサス(Erianthus ravenae)、ミスキャンタス(ススキ)(Miscanthus virgatum)、ソルガム(Sorghum)スイッチグラス(Panicum)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)、ユリ(Lilium)など。
【0093】
なかでも、サトウキビやトウモロコシ、ナタネ、ヒマワリ等のバイオ燃料の原料となりうるエネルギー作物を対象とすることが好ましい。エネルギー作物のバイオマスを増産することによって、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオメタノール、バイオDME、バイオGTL(BTL)及びバイオブタノール等のバイオ燃料の低コスト化を実現できるからである。
【0094】
また、上述したように、本発明で使用可能なプロテインホスファターゼ2C遺伝子及び上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子は、種々の植物から単離して使用することができるが、バイオマス増産対象の植物の種類に応じて、適宜選択して用いることができる。
【0095】
すなわち、バイオマス増産対象の植物が単子葉植物である場合には、プロテインホスファターゼ2C遺伝子として単子葉植物から単離したものを過剰発現させることが好ましい。特に、バイオマス増産対象の植物がイネである場合には、イネ由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子(配列番号6)を過剰発現させることが好ましい。上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子についても同様に、バイオマス増産対象の植物に対応して選択することができる。
【0096】
なお、本発明においては、バイオマス増産対象の植物が単子葉植物であったとしても、双子葉植物由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子やグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を過剰発現させても良い。すなわち、例えば、シロイヌナズナ由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子(配列番号4)及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子(配列番号31)は、双子葉植物に限らず、広く単子葉植物に分類される植物に過剰発現するように導入されてもよい。
【0097】
一方、プロテインホスファターゼ2C遺伝子を含む発現ベクターと、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を含む発現ベクターとを別個に準備した場合、これら発現ベクターをともに使用して形質転換しても良いし、一方の発現ベクターで形質転換して形質転換植物を得た後、他方の発現ベクターで当該形質転換植物を更に形質転換しても良い。例えば、一方の発現ベクターを用いて形質転換植物を得た後、当該形質転換植物の自殖種子を採取し、後代植物において導入した遺伝子が固定されていることを確認した後、当該後代植物に対して他方の発現ベクターで形質転換することができる。
【0098】
また、プロテインホスファターゼ2C遺伝子を導入した形質転換植物と、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を導入した形質転換植物とをそれぞれ作製し、これら形質転換植物を交配することにより、プロテインホスファターゼ2C遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を共に有する後代植物を得ても良い。
【0099】
さらには、突然変異の誘起、遺伝子活性化因子の導入等により、植物体が本来保有するプロテインホスファターゼ2C遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子の発現が活性化した植物体を選抜してもよい。
【0100】
その他の工程、その他の方法
上述した形質転換処理後、植物体のなかから適切な形質転換体を選抜する選抜工程を、従来公知の方法で行うことができる。選抜の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ハイグロマイシン耐性等の薬剤耐性を基準として選抜してもよいし、形質転換体を育成した後に、植物体そのもの、または任意の器官や組織の重量を測定して野生型と比較して有意に増産しているものを選抜してもよい。
【0101】
また、形質転換処理で得られた形質転換植物から定法に従って後代植物を得ることができる。上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子及び上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を過剰発現するといった形質を保持した後代植物を、そのバイオマス量を基準として選抜することによって、上記形質を有することでバイオマス量が増産された安定的な植物系統を作出することができる。なお、形質転換植物やその子孫から、植物細胞や種子、果実、株、カルス、塊茎、切穂、塊等の繁殖材料を得て、これらを基に上記形質を有することでバイオマス量が増産された安定的な植物系統を量産することも可能である。
【0102】
なお、本発明における植物体とは、成育した植物個体、植物細胞、植物組織、カルス、種子の少なくとも何れかが含まれる。つまり、本発明では、最終的に植物個体まで成育させることができる状態のものであれば、全て植物体とみなす。また、上記植物細胞には、種々の形態の植物細胞が含まれる。かかる植物細胞としては、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片等が含まれる。これらの植物細胞を増殖・分化させることにより植物体を得ることができる。なお、植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて、従来公知の方法を用いて行うことができる。
【0103】
以上説明したように、本発明によれば、上述したプロテインホスファターゼ2C遺伝子及び上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を過剰発現させることで、野生型の植物体と比較して、個体あたりのバイオマス量及び/又は種子量が有意に増産した植物体を提供することができる。ここで、バイオマス量が有意に増産するとは、野生型と比較して一個体あたりの総重量が統計的に有意に大となっていることを意味する。このとき、植物体の一部の組織が特異的に大となり、他の組織が野生型と同等であったとしても、植物体全体についての総重量が大であればバイオマス量が増産したと判断する。また、種子量が有意に増産するとは、野生型と比較して、一個体から採取される種子の総量及び/又は総数が統計的に有意に大となっていることを意味する。すなわち、種子一粒あたりの大きさが向上している場合、種子一粒あたりの大きさが同等で種子数が向上している場合又は種子一粒あたりの大きさが向上し、且つ種子数が向上している場合の如何なる場合でもよい。
【0104】
本発明によれば、植物体のバイオマス量及び/又は種子量が増産するため、植物体全体を生産目的とした場合及び植物体の一部の組織(例えば種子など)やその含有成分を生産目的とした場合のいずれにおいても生産性の向上を達成することができる。例えば、植物種子に含まれる油脂を生産目的とした場合、作付け面積あたりで回収できる油脂量を大幅に向上させることができる。ここで油脂としては、特に限定されず、例えば、大豆油、ごま油、オリーブ油、椰子油、米油、綿実油、ひまわり油、コーン油、べに花油及び菜種油等の植物由来の油脂を例示することができる。また、製造した油脂は、家庭用途や工業用途に広く利用することができ、更にはバイオディーゼル燃料の原料としても使用することができる。すなわち、本発明によれば上記プロテインホスファターゼ2C遺伝子及び上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を過剰発現する植物体を利用することによって、上述した家庭用途又は工業用途の油脂や、バイオディーゼル燃料等を低コストに製造することができる。
【0105】
遺伝子の発現を活性化させることにより、有用な形質を示す遺伝子改変技術を複数組み合わせて、有用形質を更に増強することは産業上大変重要である。しかしながら、どの遺伝子改変技術を組み合わせるかをみいだすことは、必ずしも容易であるとは言えず、技術開発の対象となる遺伝子が多い場合、多数の組合せに関して評価する必要が生じる。本発明で用いたプロテインホスファターゼ2C遺伝子は、植物ホルモンのうち特にジベレリン酸やアブシジン酸が関連する情報伝達に関与することが推定され、これらの情報伝達とは関連性が低いと考えられる、光合成に関連するグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を組み合わせることを試みた。その結果、両方の遺伝子を過剰発現させた植物体のバイオマス量及び/又は種子量の増産において相加効果を示した、このことから、プロテインホスファターゼ2C遺伝子のように、ジベレリン酸やアブシジン酸が関連する情報伝達に関連する遺伝子と、バイオマス量及び/又は種子量の増産において前記情報伝達の変化が主要要素とならない遺伝子とを組み合わせる場合においても相加効果を期待できる。そのような遺伝子として、AINTEGUMENTA(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97 942-947, (2000))、ARGOS(Plant Cell, 15, 1951-1961,( 2003))、ARL(Plant J., 47, 1-9, (2006))、AVP1(Science, 310, 121-125, (2005))及びARF2(Development, 133, 251-261, (2006))等を挙げることができる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0107】
〔参考例1〕
1.材料および方法
1−1.実験材料
実験材料にはシロイヌナズナ変異体(Activation-tag T-DNA lines: Weigel T-DNS lines、計20072系統)の種子を用いた。なお、種子はNottingham Arabidopsis Stock Centre(NASC) より購入した。実験材料として使用した種子についてはWeigel, D. et al., 2000, Plant Physiol. 122, 1003-1013を参考とすることができる。
【0108】
1−2.方法
1−2−1.塩耐性変異体の選抜
Weigel T-DNA linesの種子を、NaCl 125 mMあるいは150 mMを含む改変MS寒天(1%)培地〔B5培地のビタミン、ショ糖10 g/l、寒天(細菌培地用;和光純薬工業社製)8 g/L〕に無菌播種し、22℃、30〜100μmol/m2/secの照明下(16時間明期/8時間暗期のサイクル)で培養した。播種後2〜4週間後、塩耐性変異体候補を選抜した。なお、MS培地はMurashige, T. et al., 1962, Physiol. Plant. 15, 473-497を参照する。また、B5培地についてはGamborg, O.L. et al. , 1968, Experimental Cell Research 50, 151-158を参照する。
【0109】
1−2−2.DNA調製
選抜した耐塩性シロイヌナズナ系統のゲノムへのT-DNA挿入部位を、TAIL-PCR法により決定した。まず、栽培したシロイヌナズナから幼葉を採取し、液体窒素凍結下で粉砕した。QIAGEN社製DNA調製キット( DNeasy Plant Mini Kit)を用いてキット添付の標準プロトコルに従ってDNAを調製した。
【0110】
1−2−3.TAIL-PCR法及びT-DNA挿入部位の推定
Weigel T-DNA linesで用いられているアクティベーションタギング用ベクター(pSKI015 : GenBank accession No.AF187951)の左のT-DNA配列(T-DNA left border)付近に3種類の特異的プライマーTL1、TL2及びTL3を設定し、任意プライマーP1を用いて、以下のPCR反応液及び反応条件下でTAIL-PCR(島本功、佐々木卓治監修, 新版, 植物のPCR実験プロトコール, 2000, 83-89pp, 秀潤社, 東京 ; Liu, Y.G. and Whttier, R.F., 1995, Genomics 25, 674-681 ; Liu, Y.G. et al., Plant J., 8, 457-463, 1995)を行い、T-DNAに隣接するゲノムDNAを増幅した。
【0111】
プライマーTL1、TL2、TL3及びP1の具体的な配列は以下の通りである。
【0112】
TL1: 5'-TGC TTT CGC CAT TAA ATA GCG ACG G-3'(配列番号24)
TL2: 5'-CGC TGC GGA CAT CTA CAT TTT TG-3'(配列番号25)
TL3: 5'-TCC CGG ACA TGA AGC CAT TTA C-3'(配列番号26)
P1: 5'-NGT CGA SWG ANA WGA A-3'(配列番号27)
【0113】
なお、配列番号25において、nは、a、g、c又はtを表し(存在位置:1及び11)、またsは、g又はcを表し(存在位置:7)、さらにwは、a又はtを表す(存在位置:8及び13)。
1回目のPCR反応液組成及び反応条件をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
2回目のPCR反応液組成及び反応条件をそれぞれ表3及び表4に示す。
【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
3回目のPCR反応液組成及び反応条件をそれぞれ表5及び表6に示す。
【0120】
【表5】

【0121】
【表6】

【0122】
次いで、2回目と3回目の反応産物をアガロースゲルで電気泳動した後、増幅の有無と反応産物の特異性を確認した。また、3回目の増幅産物は、特異的プライマーTL3を用いて、直接BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit Ver.3.1(アプライドバイオシステム社製)でシーケンス反応を行い、ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステム社製)によって塩基配列の決定を行った。その結果、498bpの配列情報が得られた(配列番号28)。
【0123】
この得られた配列をThe Arabidopsis Information Resource(TAIR:http://www.arabidopsis.org/)のBLASTにより検索したところ、挿入部位はシロイヌナズナ3番染色体の遺伝子〔AGI(The Arabidopsis Genome Initiative gene code)コード:At3g05630〕と判明した。
【0124】
1−2−4.活性化されている遺伝子の予測
アクティベートされている遺伝子を、1−2−3.により判明したT-DNA挿入部位(At3g05630)近傍10Kb以内に存在する推定Open reading frame(ORF)遺伝子の配列から予測した。
【0125】
1−2−5.予測した遺伝子の取得
1−2−4.でアクティベート(活性化)されていると予測したPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORF領域を含む断片を増幅するために、TAIR(http://www.arabidopsis.org/home.html)で公開されている配列情報を基にPCR用プライマー5640PF1及び5640PR1を設計・合成した。なおこれらプライマーの末端には、発現ベクターへ導入するときに必要となる制限酵素サイト(Bsr G IまたはSal I)を付加するように設計した。
【0126】
5640PF1(配列番号29):
5'-ACG CGT CGA CAT GGG ACA TTT CTC TTC CAT GTT CAA CGG-3'
5640PR1(配列番号30):
5'-TGT ACA TGT ACA CTA TAG AGA TGG CGA CGA CGA TGA AGA ATG G-3'
【0127】
1−2−2.記載の方法に従って、野生型シロイヌナズナ、Col-0エコタイプから鋳型DNAを調製した。酵素としてPhusion High-Fidelity DNA Polymerase(NEW ENGLAND BioLabs:NEB社製)、プライマーとして、上記5640PF1および5640PR1を用いた。PCRの反応液組成、および反応条件をそれぞれ表7及び8に示す。
【0128】
【表7】

【0129】
【表8】

【0130】
PCR増幅産物を、2%アガロースゲル(TAEバッファー)で電気泳動し、エチジウムブロマイドにより断片を染色した。目的断片を含むゲルをメスで切り出し、 GFX PCR DNA and GEL Band Purification Kit (Amersham社製)を用いて目的のDNA断片を溶出・精製した。得られたDNA断片に、A-Addition Kit(QIAGEN社製)を用いてアデニンを付加した。アデニンを付加した増幅DNAを、TOPO TA Cloning Kit(Invitrogen社製)を用いて、TA-Cloning用pCR2.1ベクターにライゲーション後、キット添付のコンピテントセル(E.coli TOP 10)に形質転換した。形質転換後、50μl/mlのカナマイシンを添加したLB培地で培養し、形質転換体を選抜した。出現したコロニーを50μl/mlのカナマイシンを添加したLB培地で液体培養し、得られた菌体からQIAGEN 社製Plasmid Mini Kitを用いてプラスミドDNA を調製した。得られたPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片をクローニングしたベクターの塩基配列決定および配列解析を行った。
【0131】
1−2−6.植物発現用ベクターの作製
タバコモザイクウイルス由来のomega配列を含む植物発現用ベクターpBI121に、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を挿入したコンストラクトの作製を行った。
【0132】
まず、1−2−5.でPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片をクローニングしたpCR2.1ベクターを、制限酵素SalI及びBsrGI で処理した。
【0133】
次に、同様にomega配列を含むpBI121を制限酵素SalI及びBsrGI で処理した。これら制限酵素消化産物について0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、GFX PCR DNA and GEL Band Purification Kit(Amersham)を用いて、ゲルより約2700bpのPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片及びomega配列を含むpBI121を、それぞれ分取・精製した。
【0134】
omega配列を含むpBI121の断片をベクターとしてPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入するため、ベクター:インサート比が1:10になるように混合し、等量のTaKaRa Ligation kit ver.2(タカラバイオ社製)を用いて16℃で一晩ライゲーション反応を行った。
【0135】
反応液の全量を100μlのコンピテントセル(E.coli strain DH5α,TOYOBO社製)に添加し、キット添付のプロトコルに従って形質転換を行った。50μg/mlのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し一晩培養し、出現したコロニーを50μg/mlのカナマイシンを添加したLB培地で液体培養し、得られた菌体からPlasmid Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてプラスミドDNAを調製した。
【0136】
得られたPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片をサブクローニングした発現ベクターの塩基配列決定および配列解析を行った。
【0137】
1−2−7.アグロバクテリウム法を用いたシロイヌナズナへの遺伝子導入
1−2−6.で作製した植物発現用ベクターをエレクトロポレーション法(Plant Molecular Biology Mannal, Second Edition , B. G. Stanton and A. S. Robbert, Kluwer Acdemic Publishers 1994)により、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)C58C1株に導入した。次いで植物発現用ベクターが導入されたアグロバクテリウム・ツメファシエンスを、Cloughらにより記載された浸潤法(Steven J. Clough and Andrew F. Bent, 1998, The Plant Journal 16, 735-743)により、野生型シロイヌナズナ エコタイプCol-0に導入した。
【0138】
カナマイシン含有培地で形質転換体を選抜し、自家受粉によりT1世代の植物を作製し、T2種子を得た。
【0139】
1−2−8.形質転換体の表現形の確認
1−2−7.で作製したT2種子を無菌播種し、バーミキュライト混合土を入れた直径50mmのポットに移植した。比較対象として非組換えシロイヌナズナを移植した。これを22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約30〜45μmol m-2 s-1で栽培し移植後合計11週間栽培した。栽培後、地上部の植物体を紙袋に入れ、22℃、湿度60%の条件で2週間乾燥させた後に、全バイオマス量及び種子量を電子天秤で秤量した。
【0140】
1−3.結果
上記1−2−8.の結果として、野生型及びPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体の地上部を撮影した写真を図5に示す。また、結果として、地上部の全バイオマス量及び種子量を測定した結果を図6及び図7に示す。
【0141】
図5、図6及び図7から、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体では、地上部の全バイオマス量が野生型と比較して大幅(約1.9〜2.1倍)に、また種子量も野生型と比較して大幅(約1.7〜1.8倍)に向上していることが明らかとなった。
【0142】
〔実施例1〕
本実施例1では、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)を導入した形質転換植物に対して、更にグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子(以下、FBA1遺伝子)を導入した形質転換植物を作製した。
【0143】
2.材料および方法
2−1.実験材料
実験材料には、1−2−7.で作製したPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体のT3世代以降の種子を用いた。野生型シロイヌナズナは、エコタイプCol-0を用いた。
【0144】
植物体は、正方形のプラスチックポット(6.5×6.5×5cm)の中に底からバーミキュライト(旭工業社製)、クレハ培養土(クレハ園芸培土、呉羽化学社製)、バーミキュライトを2:2:1の割合で3層に入れた土壌に播種し、生育温度22℃、長日(16−h明/8−h暗)条件で生育させた。
【0145】
2−2.方法
2−2−1.FBA1遺伝子(At2g01140)の取得
4週齢のシロイヌナズナの野生型Columbia(Col-0)からトータルRNAを単離し、Prost arfirststrand RT-PCRキット(Stratagene社製)を用いてRT−PCR(テンプレートRNA量5.0μg)を行い、cDNAを作製した。
【0146】
FBA1遺伝子(At2g01140)のcDNA配列(配列番号31)に基づいて設計した下記の特異的なプライマーを用いて、完全長cDNAを2つの断片としてPCRにより増幅し、それぞれの断片をpGEM−Tベクター(Promega社製)にTA-クローニングした。
1F−1:5’-GGATCCTATGGCGTCTGCTAG-3’(配列番号44)
1R−1:5’-ATCTGCAACGGTCTCGGGAGA-3’(配列番号45)
1F−2:5’-GTGTGGTCCGAGGTGTTCTTCT-3’(配列番号46)
1R−2:5’-GAGCTCGAGTAGGTGTAACCCTTG-3’(配列番号47)
【0147】
2つの断片をBstpIサイトで融合し、完全長cDNAを含むベクター(pGEM−FBA1)を構築した。形質転換植物を作出するためにpGEM−FBAlを制限酵素BamHIとSacIで処理後、断片をpBI121ベクターに導入した。
【0148】
2−2−2.植物発現用ベクターの作製
植物発現用ベクターpMAT137-HM(Matsuoka K. and Nakamura K., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 88, 834-838)に、2−2−1.で取得したFBA1遺伝子(At2g01140)を含む断片を挿入したコンストラクトの作製を行った。
【0149】
まず、pBI121ベクターに組み込まれたFBA1遺伝子とNOS terminatorを含むフラグメントをXbaIとEcoRIで切り出し、XbaIとEcoRIで処理したpBluscriptII(SK+)ベクター(Stratagene社製)に組み込んだ。その後、FBA1遺伝子とNOS terminatorを含むフラグメントをXbaIとKpnIで切り出し、XbaIとKpnIで処理したpMAT137-Hmベクターに組み込んだ。
【0150】
2−2−3.アグロバクテリウム法を用いたシロイヌナズナへの遺伝子導入
2−2−2.で作製した植物発現用ベクターpMAT137-Hmをエレクトロポレーション法(Plant Molecular Biology Mannal, Second Edition , B. G. Stanton and A. S. Robbert, Kluwer Acdemic Publishers 1994)により、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)C58C1株に導入した。次いで、植物発現用ベクターが導入されたアグロバクテリウム・ツメファシエンスを、Cloughらにより記載された浸潤法(Steven J. Clough and Andrew F. Bent, 1998, The Plant Journal 16, 735-743)により、野生型シロイヌナズナエコタイプCol-0に導入した。
【0151】
ハイグロマイシン含有培地で形質転換体を選抜し、自家受粉によりT1世代の植物を作製し、T2種子を得た。
【0152】
2−2−4.形質転換体の表現形の確認
2−2−3.で作製したT2種子を播種し、正方形のプラスチックポット(6.5×6.5×5cm)の中に底からバーミキュライト(旭工業社製)、クレハ培養土(クレハ園芸培土、呉羽化学社製)、バーミキュライトを2:2:1の割合で3層に入れた土壌に播種し、生育温度22℃、長日(16−h明/8−h暗)条件で生育させた。対象には参考例1における1−2−7.で作製したPP2C遺伝子を導入した形質転換植物体を用いた。これを22℃、16時間明期8時間暗期、光強度約70〜100μmol m-2 s-1で栽培し移植後合計11週間栽培した。栽培後、地上部の植物体を紙袋に入れ、22℃、湿度60%の条件で2週間乾燥させた後に、全バイオマス量を電子天秤で秤量した。
【0153】
2−3.結果
上記2−2−4.の結果として、野生型、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体及びPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体にFBA1遺伝子(At2g01140)を導入した植物体の地上部を撮影した写真を図8に示す。また、結果として、地上部の全バイオマス量を測定した結果を図9に示す。なお、図9に示したバイオマス量は、3個体を含むポット毎のバイオマス量を6個のポットについて測定し、その平均値を示している。
【0154】
図8から、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体にFBA1遺伝子(At2g01140)を導入した形質転換植物体では、地上部の大きさが野生型及びPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体と比較して向上していることが明らかとなった。
【0155】
また図9より、PP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体にFBA1遺伝子(At2g01140)を導入した形質転換植物体では、地上部の全バイオマス量がPP2C(protein phosphatase 2C)遺伝子(At3g05640)のORFを含む断片を導入した形質転換植物体と比較して約8〜14%向上していることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させた植物体。
【請求項2】
上記プロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子は、At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子若しくは当該遺伝子に機能的に等価な遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の植物体。
【請求項3】
上記プロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子が、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1記載の植物体。
(a)配列番号5に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号5に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、プロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質
(c)配列番号4に示す塩基配列の相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされプロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質
【請求項4】
上記機能的に等価な遺伝子は、シロイヌナズナ以外の生物由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子であることを特徴とする請求項2記載の植物体。
【請求項5】
上記シロイヌナズナ以外の生物は、イネ(Oryza sativa)、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)、アルファルファ(Medicago sativa)、ヒメツリカネゴケ(Physcomitrella patens)、アイスプラント(Mesembryanthemum crystallinum)、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)、トウモロコシ(Zea mays)、アブラナ(Brassica rapa)、トマト(Solanum lycopersicum)、ミゾホオズキ(Mimulus guttatus)、単細胞紅藻類のCyanidioschyzon merolaeからなる群から選ばれる一種であることを特徴とする請求項4記載の植物体。
【請求項6】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子は、At2g01140遺伝子若しくは当該遺伝子に機能的に等価な遺伝子であることを特徴とする請求項1記載の植物体。
【請求項7】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子が、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1記載の植物体。
(a)配列番号32に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号32に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、グルタチオンが結合することによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すタンパク質
(c)配列番号31に示す塩基配列の相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、グルタチオンが結合することによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すタンパク質
【請求項8】
上記機能的に等価な遺伝子は、シロイヌナズナ以外の生物由来のグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項6記載の植物体。
【請求項9】
上記シロイヌナズナ以外の生物は、イネ(Oryza sativa)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)、シトカスプルース(Picea sitchensis)及びトウモロコシ(Zea mays)からなる群から選ばれる一種であることを特徴とする請求項8記載の植物体。
【請求項10】
双子葉植物であることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の植物体。
【請求項11】
アブラナ科植物であることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の植物体。
【請求項12】
シロイヌナズナであることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の植物体。
【請求項13】
アブラナであることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の植物体。
【請求項14】
単子葉植物であることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の植物体。
【請求項15】
イネ科植物であることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の植物体。
【請求項16】
イネであることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の植物体。
【請求項17】
サトウキビであることを特徴とする請求項1乃至9いずれか一項記載の植物体。
【請求項18】
配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させる、バイオマス量及び/又は種子量を増産させる方法。
【請求項19】
上記プロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子は、At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子若しくは当該遺伝子に機能的に等価な遺伝子であることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
上記プロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子が、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする請求項18記載の方法。
(a)配列番号5に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号5に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、プロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質
(c)配列番号4に示す塩基配列の相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされプロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質
【請求項21】
上記機能的に等価な遺伝子は、シロイヌナズナ以外の生物由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子であることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項22】
上記シロイヌナズナ以外の生物は、イネ(Oryza sativa)、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)、アルファルファ(Medicago sativa)、ヒメツリカネゴケ(Physcomitrella patens)、アイスプラント(Mesembryanthemum crystallinum)、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)、トウモロコシ(Zea mays)、アブラナ(Brassica rapa)、トマト(Solanum lycopersicum)、ミゾホオズキ(Mimulus guttatus)、単細胞紅藻類のCyanidioschyzon merolaeからなる群から選ばれる一種であることを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子は、At2g01140遺伝子若しくは当該遺伝子に機能的に等価な遺伝子であることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項24】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子が、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする請求項18記載の方法。
(a)配列番号32に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号32に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、グルタチオンが結合することによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すタンパク質
(c)配列番号31に示す塩基配列の相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、グルタチオンが結合することによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すタンパク質
【請求項25】
上記機能的に等価な遺伝子は、シロイヌナズナ以外の生物由来のグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項26】
上記シロイヌナズナ以外の生物は、イネ(Oryza sativa)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)、シトカスプルース(Picea sitchensis)及びトウモロコシ(Zea mays)からなる群から選ばれる一種であることを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項27】
双子葉植物であることを特徴とする請求項18乃至26いずれか一項記載の方法。
【請求項28】
アブラナ科植物であることを特徴とする請求項18乃至26いずれか一項記載の方法。
【請求項29】
シロイヌナズナであることを特徴とする請求項18乃至26いずれか一項記載の方法。
【請求項30】
アブラナであることを特徴とする請求項18乃至26いずれか一項記載の方法。
【請求項31】
単子葉植物であることを特徴とする請求項18乃至26いずれか一項記載の方法。
【請求項32】
イネ科植物であることを特徴とする請求項18乃至26いずれか一項記載の方法。
【請求項33】
イネであることを特徴とする請求項18乃至26いずれか一項記載の方法。
【請求項34】
サトウキビであることを特徴とする請求項18乃至26いずれか一項記載の方法。
【請求項35】
配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなる3つの共通配列をN末端側からこの順で有するプロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子及びグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子を過剰発現させた形質転換植物を準備する工程と、
前記形質転換植物の後代植物のバイオマス量及び/又は種子量を測定し、当該バイオマス量及び/又は種子量が有意に向上した系統を選抜する工程とを含む、植物体の製造方法。
【請求項36】
上記プロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子は、At1g03590-AtPP2C6-6、At1g16220、At1g79630、At5g01700、At3g02750、At5g36250、At5g26010、At4g32950、At3g16800、At3g05640、At5g27930-AtPP2C6-7、At2g20050及びAt3g06270からなる群から選ばれる少なくとも1種の遺伝子若しくは当該遺伝子に機能的に等価な遺伝子であることを特徴とする請求項35記載の製造方法。
【請求項37】
上記プロテインホスファターゼ2Cをコードする遺伝子が、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする請求項35記載の製造方法。
(a)配列番号5に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号5に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、プロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質
(c)配列番号4に示す塩基配列の相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされプロテインホスファターゼ2C活性を有するタンパク質
【請求項38】
上記機能的に等価な遺伝子は、シロイヌナズナ以外の生物由来のプロテインホスファターゼ2C遺伝子であることを特徴とする請求項36記載の製造方法。
【請求項39】
上記シロイヌナズナ以外の生物は、イネ(Oryza sativa)、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)、アルファルファ(Medicago sativa)、ヒメツリカネゴケ(Physcomitrella patens)、アイスプラント(Mesembryanthemum crystallinum)、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)、トウモロコシ(Zea mays)、アブラナ(Brassica rapa)、トマト(Solanum lycopersicum)、ミゾホオズキ(Mimulus guttatus)、単細胞紅藻類のCyanidioschyzon merolaeからなる群から選ばれる一種であることを特徴とする請求項38記載の製造方法。
【請求項40】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子は、At2g01140遺伝子若しくは当該遺伝子に機能的に等価な遺伝子であることを特徴とする請求項35記載の製造方法。
【請求項41】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードする遺伝子が、以下の(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードすることを特徴とする請求項35記載の製造方法。
(a)配列番号32に示すアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号32に示すアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を含み、グルタチオンが結合することによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すタンパク質
(c)配列番号31に示す塩基配列の相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされ、グルタチオンが結合することによりフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を示すタンパク質
【請求項42】
上記機能的に等価な遺伝子は、シロイヌナズナ以外の生物由来のグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子であることを特徴とする請求項40記載の製造方法。
【請求項43】
上記シロイヌナズナ以外の生物は、イネ(Oryza sativa)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)、トウゴマ(Ricinus communis)、ブラック・コットンウッド(Populus trichocarpa)、シトカスプルース(Picea sitchensis)及びトウモロコシ(Zea mays)からなる群から選ばれる一種であることを特徴とする請求項42記載の製造方法。
【請求項44】
双子葉植物であることを特徴とする請求項35乃至43いずれか一項記載の製造方法。
【請求項45】
アブラナ科植物であることを特徴とする請求項35乃至43いずれか一項記載の製造方法。
【請求項46】
シロイヌナズナであることを特徴とする請求項35乃至43いずれか一項記載の製造方法。
【請求項47】
アブラナであることを特徴とする請求項35乃至43いずれか一項記載の製造方法。
【請求項48】
単子葉植物であることを特徴とする請求項35乃至43いずれか一項記載の製造方法。
【請求項49】
イネ科植物であることを特徴とする請求項35乃至43いずれか一項記載の製造方法。
【請求項50】
イネであることを特徴とする請求項35乃至43いずれか一項記載の製造方法。
【請求項51】
サトウキビであることを特徴とする請求項35乃至43いずれか一項記載の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−207199(P2010−207199A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60154(P2009−60154)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】