説明

植物の保水容器

【課題】切り花など植物を挿した状態で、水を補給すると同時に、液漏れがなく、携帯に便利で、アクセサリーとしても利用できる、コスト的に安価な容器を供給することを目的とする。
【解決手段】水を主体とする液体を収容する容器と、容器の口部に植物の茎を挿入した状態で容器の口部を液密的に封止する口部封止手段と、該口部封止手段を該容器に固定する茎を挿入する開口部をもつキャップと、からなり、口部封止手段を弾力性のある部材を複数枚重ね、該部材は中心から放射状に少なくとも3本以上の切り込みを設け、切り込みの方向を互い違いに配した構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切り花など植物を運搬したり携帯したりする植物の保水容器に関する。特に少量の本数の切り花などを、アクセサリーとして身に着けたり、手に持ったりする際の携帯に好適な植物の保水容器に関する。
【背景技術】
【0002】
切り花など観賞用の植物は生産地、小売店、消費者の各段階で運搬の必要がある。この段階で、鮮度を維持することが必要であり、いかに簡便に水を漏らすことなく植物に水を補給するかが重要課題である。このための手段として従来からいろいろな方法が提案されており、例えば、特許文献1では、袋の口部内面に対向させて防水シール材を部分的に貼着し、花の茎に袋の口部を巻きつけて防水シール材の外周を花の茎とともに結束して袋内の水漏れを防いでいる。また、特許文献2では、水を収容する収縮・変形可能容器と容器口部にゴム製の十字または放射状の切り込み部をもち、茎を強く押し込むことで容器を密閉し、容器内の減圧で容器が収縮・変形して水と茎の接触を保つ方法を開示している。
また、特許文献3では、水を収容する収縮・変形可能容器と容器口部に口部封止手段として、吸水性ポリマーを担持した母材であるシートなどの口部封止手段を液密的に設ける方法を開示している。また、特許文献4には、花を挿す発泡合成樹脂製の吸水性フォームと該フォームを保持しうる花保持部が中底を介して水筒部に一体的に連結され、花を挿したときに、毛細管現象により、水筒部から吸水性フォームに水を供給する携帯用の花束ハンドルを開示している。特許文献1乃至3は主として長距離運搬用の容器であり、特許文献4はパーティーや結構式などで花束を手にもつための容器である。
【0003】
しかしながら、特許文献1乃至4に記載の方法は、構造が複雑なため、製造コストがかかるという欠点がある。
さらに、上記各文献には、切り花をアクセサリーとして携帯するという観点はみられない。切り花を胸のポケットやハンドバックに挿してアクセサリーとする行為は古くからあるが、従来は花の茎部を銀紙などで包む程度で、アクセサリーとしているため、切り花に水は供給されず、短時間で花の鮮度が失われてしまう。また付着している水分や樹液や花粉などで衣服を汚す可能性も大きい。また、ただ挿すだけでは、花がぶらぶらして、花が最も見栄えのする方向を維持できない。本来最も美しいと思われるアクセサリーとしての切り花の用途は、簡便な収容容器がないため、広がっていない。
【特許文献1】特開2003−252379
【特許文献2】特開平10−4787
【特許文献3】特開平8−172911
【特許文献4】実開平6−15442
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような状況に対して、切り花など植物を挿した状態で、水を補給すると同時に、液漏れがなく、携帯に便利で、アクセサリーとしても利用できる、コスト的に安価な植物の保水容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による植物の保水容器は、液体を収容する容器本体と、植物の茎を挿入した状態で容器本体の口部を液密的に封止する口部封止手段と、茎を挿入する開口部を有し、かつ、口部封止手段を容器本体に固定するキャップと、を備え、該口部封止手段は、切り込み部を有する封止部材を、上面側から見て切り込み部が重ならないように複数枚積層した構成としたことを特徴とする(請求項1)。
【0006】
この場合、封止部材は、中心から放射状に伸びる前記切り込み部を少なくとも3本以上備えて成ることを特徴とする(請求項2)。
さらに、前記容器本体の底部内壁面を、封止部材と該内壁面とで植物の茎を支持可能となるように構成したことを特徴とする(請求項3)。
封止部材だけで花を固定しようとすれば、1点で支持するため、かなり強い力で押えることが必要となる。そのような強い力を加える部材を使用すると、花を挿す時にも強い力が必要になり、茎をいためることになる。封止部材と容器本体の底部または内壁面の2点で支持すれば、封止部材に必要な押える力は、ずっと少なくて済む。
花の茎の形状は、細い茎から太い茎、くの字に曲がったものや、茎の途中にふくらみのある茎など、さまざまであって、口部封止部の開口部や容器本体の上部は挿し込む可能性のある花の茎にあわせ、広いものになる。例えば、容器本体が円筒状の場合、細くてまっすぐな茎だと、容器本体底部壁面で固定できず、花を固定できない。これに対し、容器本体の下部空間を、例えば円錐状に細くすれば、細い茎でも必ず壁面に接触固定でき、2点支持が可能になる。このことは、室内で花瓶に生ける場合には必要ないことではあるが、携帯用のアクセサリーとして用いる場合には、人の動きで容器が動き、花を最も綺麗に見せる角度が変ってしまったり、衣服に接触して衣服を汚すことのないようにするため、必要欠くべからざる要件である。
【0007】
さらに、容器本体またはキャップに、クリップ部を備えたことを特徴とする(請求項4)。
アクセサリーとして携帯するには手に持つだけでなく、クリップがついていれば、胸のポケットに固定したり、ハンドバックに挿し込んで持ち歩くことが可能になり、極めて便利になる。クリップは、容器本体側につけても、キャップ側につけてもよい。
【0008】
さらに、封止部材の積層部に、密着防止用スペーサーを備えたことを特徴とする(請求項5)。
口部封止手段を構成する複数枚の部材を固定するとき、中心部が開口しているキャップの縁で部材の縁を押えて容器本体に固定するのが簡便であるが、その際、押える力が強すぎると、上下の部材が密着し、密着面での摩擦力が大きくなって、茎を挿す際に大きな力が必要になる。自動機械で製作する場合は、適切な押圧力をいつも一定に加えることができるが、再使用する際などは、押える圧力に、バラツキが生じる。スペーサーを挿入することにより、上下の部材が過度に密着することを防止でき、自動機械で製作する場合や再使用の際の押圧力の許容範囲を広げる効果がある。
【0009】
さらに、封止部材は、表面が撥水性の樹脂で被覆処理されて成ることを特徴とする(請求項6)。
本発明の特徴は、茎を挿入したときに生じる空隙を小さくすることにより、水の表面張力による力で止水する構造である。このため、複数枚の封止部材として表面張力の小さい撥水性の大きい部材を使えば止水効果は向上する。しかし部材の特性やコストなどの制約があるため、部材の強度や弾性力などと撥水性能が必ずしも一致するとは限らない。
このようなときに部材の表面を撥水性の素材で被覆することで同様の効果が得られる。被覆方法としては、薄い撥水性の皮膜を部材に接着したり、部材の表面に撥水性樹脂を吹き付けたりすることで目的を達成できる。撥水性の素材としては、フッ素系高分子や、シリコーン系高分子などが利用できる。
【0010】
さらに、封止部材に、弾力性のある材質を用いたことを特徴とする(請求項7)。
口部封止部の部材としては、弾力のある天然ゴムやニトリルゴムやシリコーンゴム、フッ素系ゴムなどの各種ゴム、比較的柔らかい塩ビ、ポリエチレンなどのプラスチックなどを好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、茎を挿さない状態では、容器を封止状態にして、容器内の水の蒸発を防止し、茎を挿した状態では、茎が抜けないようにしっかりと保持するとともに、茎と部材との間に生じる空間を最小として、わずかに生じる空間は水の表面張力で実質的に液漏れを防止できる。
【0012】
また、切り込み部を3本以上とすることにより、湾曲した茎や断面が凸凹した形状の茎や複数の細い茎を束ねた形状でも、部材片がフレキシブルに茎に密着できるようになって、空隙の面積をより小さくできる。
さらに、容器本体の底部内壁面を円錐状に細くなる形状にする等、封止部材と内壁面とで植物の茎を支持可能にすることにより、容器の口部に植物の茎を挿入した状態で、口部封止部と容器下部の2点で固定できるので、花の位置がぶれなくなる。これにより細い茎から太い茎まで、いろいろな茎の形状でも容器壁面に接触・固定可能となる。
さらに、容器本体またはキャップに、クリップをつけることで、胸のポケットやハンドバックの縁に差し込んで固定でき、アクセサリーとして携帯できる。
さらに、口部封止手段を構成する複数枚の部材の固定する部分に、それぞれの部材と部材の間に、スペーサーを挿入し、開口部分の部材同士が密着することを防止する構造とすることで、部材を収容容器に固定する際の押圧力をかけすぎた場合、茎を挿す際、部材同士の摩擦力によって、過度に大きな力を必要とする不具合を回避でき、固定するための押圧力の許容範囲を広くすることができる。
さらに、口部封止手段を構成する複数枚の部材の表面を、撥水性の樹脂で覆う処理をすることで、茎と部材との間に生じる空間の止水効果を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る保水容器について説明する。図1は、本発明に係る保水容器1に切り花を差し込んだ状態を示す断面図である。2は切り花、2aは茎、3は容器本体であり、容器本体3には水や栄養剤がはいっている。4は口部封止部、5はキャップ、6はクリップである。
【0014】
図2は、口部封止部4の詳細構成を示す平面図(a)及び断面図(b)である。口部封止部4は2枚の弾力性のある板状の封止部材7、8から構成され、それぞれの部材は、中心から外周部に向かって、等角度の放射状に切り込み9、10をいれてある。2枚の封止部材7、8は、お互いを重ねる際、切り込みの位置が互い違いになるように配する。例えば、図2のように各4本の切り込みで十字様の切り込みであれば、下面の封止部材8は上面の封止部材7に対し45度回転した配置にする。封止部材7、8は、3の容器本体3の縁と、キャップ5の縁によって押圧されて容器本体に固定される。
【0015】
図3は封止部材7、8に切り花の茎を差し込んだ状態を斜視的に図示した図である。
1枚の部材であれば、スリットにより分離された部材片11は茎の差込み方向に舌状に湾曲し、茎をおさえる形になるので、空隙12が生じる。この空隙12の面積は、茎の太さが大きくなればなるほど広がり、例えば1本の切り込み長が4mmの4本の十字様の切り込みのある部材に、直径4mmの円柱を挿した場合、約5.8mm2の三角形状の空間が4つできる。この大きさの空間では内部の水は、容器を傾ければ漏れ出してしまう。これに対し、図4の平面図で示すように、2枚の封止部材7,8を45度回転して配した場合は、上面の部材で生じている空間を覆うように下面の部材片がカバーするため、2枚の部材片で生じる空間13は約0.95mm2の空間が8つとなる。合計面積は1枚の場合の1/3になり、さらに1つずつの独立した空隙の面積は1/6となる。この大きさの空間では水の表面張力により、傾けた程度では水は漏れ出さず、逆さまにしても強い力を加えない限り漏れ出さない程度のシール性が生じる。
【0016】
保水容器に挿した花は、いずれ花瓶などに活け変える必要があり、挿した茎を抜くことを考慮しておく必要がある。細くまっすぐな茎の場合は、そのまま引き抜くことが可能であるが、一般には、茎は凹凸であったり、枝分かれしている場合があり、その場合は茎を傷めずにそのまま引き抜くことは不可能である。図5は茎を挿した状態で容器本体3とキャップ5を外した状態を示す図である。各封止部材には縁近くまで切込みを入れてあるので、縁を固定する押さえがなくなれば、容易に指の力で引きちぎることが可能である。封止部材がなくなれば、キャップを茎から抜くことができる。封止部材のみ交換すれば再使用可能である。
【0017】
アクセサリー用途としては、切り花の径はせいぜい4mm程度である。従って、切り込みの長さは、茎の凸凹を考慮すれば、1本の切り込みの長さは3.5mm程度が適当であり、押さえ代も含めた部材の直径は10mm程度が適当である。
また、部材の厚みは、使用部材の弾力性やスリットの長さ、部材の枚数などで異なるが、1本の切り込み長が3.5mmの4本の十字様の切り込みで2枚構成の場合、0.5mmから1mm程度が適当である。
【0018】
図6は容器本体3の断面詳細構成を示すものである。容器本体3は上部14が開放円筒状の容器が製作しやすい。上部14は封止部材7、8がはいるように開いており、封止部材7、8の縁を受けられるように受部15を設けてある。上部14の外周部には、キャップを固定するように雄ネジ16が形成されている。また、携帯用に便利なようにクリッップ6を取り付けてある。これらは、プラスチック成型により簡単に製作可能である。
【0019】
図7は、図6の容器本体3に対応するキャップ5の詳細構成を示すものである。キャップ5は封止部材7、8を押えるための縁18を残して開口されている。キャップ内側には、容器本体に固定するための雌ネジ17を形成してある。
【0020】
なお、図6、図7に示した容器本体とキャップの形状は例示であり、例えば、クリップはキャップ側につけてもよい。また容器本体とキャップの固定はネジでなくともしっかりと固定できる機構のものであればよい。また、封止部材を受ける受部を容器本体の上端円周部と兼用する方法でもよい。
【0021】
封止部材を容器本体に固定する方法として、本発明では、植物の茎を挿入する開口部をもつ該口部封止手段を該容器に固定するキャップを用いているが、キャップとは別に複数枚の部材だけを押えて収容したブロックを、キャップで容器本体に固定してもよい。これらは全て本発明に包含される。
【0022】
次に、図8を参照して本発明の他の実施形態について説明する。同図において、(a)は部品展開斜視図、(b)は平面図である。本実施形態に係る口部封止部20は、2枚の封止部材7、8の間にリング状の平板のスペーサー21を挿入した構成を備えている。上述のようにスペーサーを挿入することにより、上下の部材が過度に密着することを防止でき、自動機械で製作する場合や再使用の際の押圧力の許容範囲を広げることができる。スペーサーの厚みは、厚すぎると、茎を挿入したときに生じる空隙が大きくなるので、必要最小限にする必要があり、部材の厚みや直径で変るが、4mm程度以下を用いることができる。例えば、直径10mm程度の口部封止部材であれば0.5mm程度が適当である。
【0023】
さらに、図9を参照して本発明の他の実施形態について説明する。同図において、(a)は側面図、(b)は平面図である。挿し込む茎の径が太くなると、より大口径の口部封止部が必要となり、茎を挿したときに生じる空隙が大きくなる。そのようなときには、部材の放射状の切り込みの数を増加させたり、部材を2枚以上重ねたりすることが有効である。本実施形態に係る口部封止部22は、封止部材22a、22bを上下2枚重ね、切り込みを60度間隔に6本設けた構成を備えている。下面の封止部材22bは上面の封止部材22aに対し30度回転して配置する。また図10は、封止部材25、26、27を上中下3枚重ね、切り込みの数を十字様の4本にした例である。同図において、(a)は側面図、(b)は平面図である。上中下面の3枚の部材はそれぞれ30度回転して配置する。図9、図10に示すように、空隙24、28の面積はより小さくなり、止水効果はさらに向上する。
【0024】
なお、上述の各実施形態では、1つの保水容器に1本の切り花を挿す場合を記述したが、細い茎であれば、複数本挿すこともできる。また、アクセサリーとしての用途だけでなく、輸送時間がかかり、途中で水を補給する必要のある長距離輸送にも使用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る保水容器を示す図である。
【図2】口部封止部の構造を示す平面図及び側面図である。
【図3】口部封止部に茎を差し込んだ状態を斜視的に示す図である。
【図4】口部封止部に茎を差し込んだ状態を示す平面図である。
【図5】口部封止部に茎を差し込んだ状態で容器本体とキャップをはずした図である。
【図6】容器本体の形状を示す図である。
【図7】図6の容器本体に対応するキャップの形状を示す図である。
【図8】口部封止部の部材のあいだにスペーサーを挿入した状態を示す構成図と断面図である。
【図9】口部封止部の部材を2枚重ねで切り込みの数を6本にした状態を示す図である。
【図10】口部封止部の部材を3枚重ねで切り込みの数を十字様の4本にした状態を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 保水容器
3 容器本体
4、20、22 口部封止部
5 キャップ
6 クリップ
7、8、22a、22b、25、26、27 封止部材
21 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する容器本体と、
植物の茎を挿入した状態で容器本体の口部を液密的に封止する口部封止手段と、
茎を挿入する開口部を有し、かつ、口部封止手段を容器本体に固定するキャップと、
を備え、
該口部封止手段は、切り込み部を有する封止部材を、上面側から見て切り込み部が重ならないように複数枚積層した構成としたことを特徴とする植物の保水容器。
【請求項2】
前記封止部材は、中心から放射状に伸びる前記切り込み部を少なくとも3本以上備えて成ることを特徴とする請求項1記載の植物の保水容器。
【請求項3】
前記容器本体の底部内壁面を、前記口部封止部と該内壁面とで植物の茎を支持可能となるように構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の植物の保水容器。
【請求項4】
前記容器本体又は前記キャップは、クリップ部を備えて成ることを特徴とする請求項1乃至3記載の植物の保水容器。
【請求項5】
前記封止部材の積層部に、密着防止用スペーサーを備えたことを特徴とする請求項1乃至4記載の植物の保水容器。
【請求項6】
前記封止部材は、表面が撥水性の樹脂で被覆処理されて成ることを特徴とする請求項1乃至5記載の植物の保水容器。
【請求項7】
前記封止部材に、弾力性のある材質を用いたことを特徴とする請求項1乃至6記載の植物の保水容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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