説明

植物の栽培方法、および植物の栽培装置

【課題】植物を破壊することなく、その栽培環境を適正化しながら植物を栽培する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する測定工程;当該植物が被検体である場合の被検体経時変化パターンと、当該植物が所望の環境で栽培された対照体である場合の対照体経時変化パターンとを比較する比較工程;および上記比較工程において、被検体経時変化パターンが上記対照体経時変化パターンと一致しなくなった場合に、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする適正化工程、を含む植物の栽培方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培方法および植物の栽培装置に関するものである。具体的には、植物の特定部位の外径の経時変化パターンを指標として、植物の栽培環境を評価し、上記外径の経時変化パターンを所望の栽培環境で栽培された場合の経時変化パターンに合致するように栽培環境を適正化するという植物の栽培方法、およびその方法を実施するための手段を備えた植物の栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物生産は栽培されている栽培環境に強く依存している。植物の生理機能に悪影響を与える栽培環境を環境ストレスといい、例えば、栄養ストレス、水ストレス、塩ストレス等が挙げられる。植物が受ける環境ストレスを受けると、植物の生理機能は悪影響を受けるため、植物生産性が低下してしまう。そこで、環境ストレスを迅速に評価する方法の開発が求められている。
【0003】
そのような方法の一つとして、環境ストレスを受けた植物に現れる様々な症状を読み取ることにより、その環境ストレスを評価するという方法がある。例えば、環境ストレスを評価する一般的な手法として、葉色、果実色または草丈を観察する方法を挙げることができる。(非特許文献1)。
【0004】
上記方法は環境ストレスを評価する一般的な手法である。しかしながら、これらの方法は目視により植物器官が示す欠乏症状を判断するため、明確な基準を設定することが出来ない。それゆえ環境ストレスの評価結果の客観性に乏しくなり、評価の再現性を確立することが出来ないという欠点がある。
【0005】
そこで、植物の生産現場では目視に頼らない客観的な環境ストレスの評価方法の開発が求められており、目視では確認できない情報を用いた評価方法が確立されてきた。例えば栄養ストレスでは、植物を構成する栄養元素量を測定する方法を用いることで植物に不足する必須元素を評価することが出来る。
【0006】
しかし、上記植物を構成する栄養元素量を測定する方法には、植物試料を採取する工程、サンプルを分解する工程、サンプルを調製する工程、機器を用いて測定する工程等の多くの工程が必要とされる。それゆえ、評価結果が得られるまでに時間がかかるという欠点、1日で測定できる試料の数が限られてしまうという欠点、または植物を破壊しなければならないという欠点がある。さらに上記サンプルを分解する工程では硝酸、過塩素酸、硫酸等の劇薬の使用が必要であるため、当該工程を行う人に対して危険が伴うという欠点がある。また、植物を採取するため個体間差により測定精度が低下する点等の欠点がある。
【0007】
そこで、植物の生産現場では、植物の栽培環境の変化に伴って、刻一刻と変化する植物の状態を非破壊でより迅速かつ簡便に高精度で測定する方法が望まれている。さらに栽培中の植物にどのような環境ストレスが負荷されているかを特定し、それを迅速に取り除くことにより、植物のその年の収量を安定させることが求められている。
【0008】
そこで植物の栽培環境を、生産者の経験を基にした非客観的な指標に基づいて評価するのではなく、数値に基づくより客観的な指標に基づいて評価する方法の開発されている。例えば、トマトの茎周や節間長の変化を測定し、その測定データを指標とした生育評価方法を挙げることができる(非特許文献2)。
【0009】
しかしながら、この生育評価方法には測定精度が低い点、迅速な評価が不可能である点、および農作物の生育不良の原因が不明瞭な点等の多くの問題が存在する。迅速な評価が不可能である理由は、収穫した農作物の収量を基に評価を下しているからである。すなわち、当該生育評価方法では、農作物に評価結果が得られたときにはすでに収穫されているため、栽培中の植物が受けている環境ストレスを評価することはできない。また、上記生育評価方法において、農作物の生育不良の原因が不明瞭である理由として、上記生育評価方法によって得られた測定データが示す兆候から、植物が受けている各栄養欠乏状態を特定することが不可能である事が原因の一つとして挙げられる。
【0010】
植物に必須な栄養素は17種類が確認されており、このうち、植物の農業生産には窒素、リン、カリウムの3種類が収量を左右する主要な必須栄養元素である。非特許文献2に記載の生育評価方法では上記各栄養素に対する測定データが調査されていないため、どの栄養欠乏状態がどのような結果を測定データに与えるかを特定していない。それゆえ、上記生育評価方法では、「極端に灌水を控えたか、あるいは多肥としたため」、または「生育中期に肥料が不足していたことが原因」といったような不明瞭で複数の原因を示唆することしかできない。
【0011】
また、植物の茎径を非破壊に高精度で測定する技術は1970年頃から使用されており、茎径が光、水、湿度等の環境要因に左右されることが明らかになった(非特許文献3,非特許文献4,非特許文献5)。Klepperらは、茎径の変化を高精度で測定することで(a)気温、光強度、湿度、土壌水分等の環境変化を受けて茎径が微細な変化を示すこと、(b)茎径は日中に収縮し、夜間に膨潤するという経日変化が生じることを示唆した(非特許文献3)。この経日変化の一つの要因として、植物の水分吸収や植物内での水の動態が原因であると考えられている。しかしながら、これらの測定方法は実験の域を出ず、1990年代になってパーソナルコンピュータが発達するまでは、植物の茎径を非破壊に高精度で測定する技術を用いて植物の栽培環境を評価するという方法を、生産現場に持ち込むことは不可能であった(非特許文献6)。
【0012】
本明細書に記載の歪ゲージ式変位計を用いた測定システムも植物の茎径を非破壊に高精度で測定する技術であり、高精度連続測定を可能にする装置の一つである。この装置は従来、航空機、車両等の各部材の応力や変形を高精度測定することを目的として利用されていた。このような高精度連続測定装置を用いることで、植物が受ける環境ストレスを早期に評価することができる。例えば、Endoらはニホンナシの果実と茎径変化の測定により水分条件が果樹の生長に最も大きな影響を与えると結論づけている(非特許文献7)。
【0013】
このことから、歪ゲージ式変位計は生産現場でも利用可能なシステムの一つであると考えられる。さらに、同システムが水ストレス(非特許文献8)、塩ストレス(非特許文献9)等の環境ストレス、リン欠乏(非特許文献10)の栄養ストレス評価に有益である事が示唆されている。
【0014】
Imaiらは、ニホンナシの茎径収縮、果実の直径変化、および植物体内の水分状態を歪ゲージ式変位計を用いて測定した結果から、樹体にストレスを与えない土壌水分を求め、灌水のタイミングを決定する栽培管理方法を報告している(非特許文献7)。また、Fujitaらはカキを用いた実験から、塩ストレスによって果実径や茎径より早期に影響を受ける報告した(非特許文献8)。また、栄養ストレスにおいては、これまでにリン欠乏が解析され、早期評価に寄与できる新たな知見が得られている(非特許文献10)。
【非特許文献1】社団法人農山漁村文化協会発行、「農業技術体系土壌施肥編 4 土壌診断 生育診断」、生理障害の診断、1984年、pp323−456
【非特許文献2】久保省三著、日本土壌肥料学会監修、編者植物栄養実験法編集委員会編集、「生育評価法(トマト)」、植物栄養実験法、株式会社博友者発行、1990年、pp397−401
【非特許文献3】Klepper,B., Browning, V.D. and Taylor, H.M. 1971.「Stem diameter in relation to plant water stress.」,Plant Physiol, 48: 683-685
【非特許文献4】Sheriff, D. W. 1976. 「A new dendrometer for the measurement of small stems in the laboratory.」,Journal of Experimental Botany, 96: 175-183
【非特許文献5】Beedlow,P.A., Daly, D.S. and Thiedem, M.E. 1986. 「A new device for measuring fluctuation in plant stem diameter: implications for monitoring plant responses.」, Environment Monitoring and Assessment, 6: 277-282
【非特許文献6】Link, S.O., Thide, M.E. and vanBavel, M.G. 1998. 「An improved strain-gauge for continuous field measurement of stem and fruit diameter.」, Journal of Experimental Botany, 49: 1583-1587
【非特許文献7】Endo, M. 1975. 「Studies on the daily change in fruit size of the Japanese pear.IV.」, Journal of the Japanese Society for Horticultural Science, 43: 347-358
【非特許文献8】Imai, S., Honda, T. and Fujiwara, T. 1994. 「Influence of soil moisture on daily variations of fruit and stem diameter of Japanese pear “Kousui”.」, Environment Control in Biology, 32: 155-162
【非特許文献9】Fujita, K., Ito, J., Mohapatora, P.K., Saneoka, H., Lee, K., Kurban, H., Kawai, K. and Ohkura, K. 2003. 「Circadian rhythm of stem and fruit diameter dynamics of Japanease persimmon (Diospyrus kaki Thunb.) is affected by deficiency of water in saline environments.」, Functional Plant Biology, 30: 747-754
【非特許文献10】Fujita, K., Okada, M., Lei, K., Ito, J., Ohkura, K., Adu-Gyamfi, J.J. and Mohapatora, P.K. 2003. 「Effect of P-deficiency on photoassimilate partitioning and rhythmic changes in fruit and stem diameter of tomato (Lycopersicon esculentum) during fruit growth.」, Journal of Experimental Botany, 54: 2519-2528
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、従来までは、歪みゲージ式変位法等を用いて、植物の栽培環境を迅速に非破壊で評価するという方法は報告されていた。しかしながら、その評価に基づいてその栽培環境を適正化することはできなかった。
【0016】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、植物を破壊することなく、その栽培環境を適正化しながら植物を栽培する方法、およびその方法を実施するための栽培装置を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の発明者は、植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定した結果、植物の栽培環境の種類によって特定部位の外径の経時変化パターンが異なることを発見した。
【0018】
そして、上記経時変化パターンを指標として、植物の栽培環境を評価し、上記経時変化パターンを所望の栽培環境である場合の経時変化パターンに合致させるようにすることによって、植物を破壊することなく、その栽培環境を所望の栽培環境になるように適正化しながら植物を栽培できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の植物の栽培方法は、下記の(i)〜(iii)を含むことを特徴としている:(i)植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する測定工程;(ii)当該植物が被検体である場合の被検体経時変化パターンと、当該植物が所望の環境で栽培された対照体である場合の対照体経時変化パターンとを比較する比較工程;、および(iii)上記比較工程において、被検体経時変化パターンが上記対照体経時変化パターンと一致しなくなった場合に、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする適正化工程。
【0020】
これにより、上記(i)を実時間(リアルタイム)で行うことができる。それゆえ、上記(ii)および(iii)も実時間(リアルタイム)で行うことができる。また、上記(ii)では、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較するため、客観的な比較を行うことができる。さらに上記(iii)では、当該被検体経時変化パターンが当該対照体経時変化パターンに合致するように適正化を行うため、適正化の指標が明確である。それゆえ植物の栽培環境を的確に適正化することができる。したがって、植物が常に所望の栽培環境で栽培されるように、植物の栽培環境を客観的に的確に適正化しながら栽培することができる。
【0021】
また、本発明の植物の栽培方法において、上記測定工程は、第一暗期、明期、第二暗期の順の光周期で植物を栽培した時の、当該植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する工程であり、かつ上記比較工程は、被検体と対照体とにおいて、明期における外径の経時変化量の最大絶対値、および、第二暗期になった時から植物の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間を、被検体と対照体との間で比較する工程であることが好ましい。
【0022】
これにより、当該被検体の植物の栽培環境の評価を、上記最大絶対値、および上記時間の2点を比較することにより評価することができる。それゆえ、当該被検体の植物の栽培環境の評価を非常に簡便に、客観的に行うことができる。
【0023】
また本発明の植物の栽培方法は、上記比較工程において、被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値未満であり、かつ対照体の特定部位の外径の経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して短い場合に、当該被検体の植物の栽培環境は窒素欠乏状態にあると評価することが好ましい。
【0024】
これにより、当該被検体の植物の栽培環境が窒素欠乏状態であるか否かを、上記最大絶対値、および上記時間の2点を比較することにより評価することができる。それゆえ、当該被検体の植物の栽培環境の評価を非常に簡便に、客観的に行うことができる。
【0025】
また本発明の植物の栽培方法は、上記比較工程において、被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値未満であり、かつ対照体の特定部位の外径経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して長い場合に、当該被検体の植物の栽培環境はリン欠乏状態にあると評価することが好ましい。
【0026】
これにより当該被検体の植物の栽培環境がリン欠乏状態であるか否かを、上記最大絶対値、および上記時間の2点を比較することにより評価することができる。それゆえ、当該被検体の植物の栽培環境の評価を非常に簡便に、客観的に行うことができる。
【0027】
また本発明の植物の栽培方法は、上記比較工程において、被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値よりも大きく、かつ対照体の特定部位の外径の経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して短い場合に、当該被検体の植物の栽培環境はカリウム欠乏状態にあると評価することが好ましい。
【0028】
これにより、当該被検体の植物の栽培環境がカリウム欠乏状態であるか否かを、上記最大絶対値、および上記時間の2点を比較することにより評価することができる。それゆえ、当該被検体の植物の栽培環境の評価を非常に簡便に、客観的に行うことができる。
【0029】
また、本発明の植物の栽培方法において、上記適正化工程は、上記植物の栽培環境が、窒素欠乏状態にあると評価された場合に、栽培環境中に窒素を添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする適正化工程であることが好ましい。これにより、栽培環境を適切に適正化しながら植物を栽培することができる。
【0030】
また、本発明の植物の栽培方法において、上記適正化工程は、上記植物の栽培環境が、リン欠乏状態にあると評価された場合に、栽培環境中にリンを添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする工程であることが好ましい。これにより、植物の栽培環境を適切に適正化しながら植物を栽培することができる。
【0031】
また、本発明の植物の栽培方法において、上記適正化工程は、上記植物の栽培環境が、カリウム欠乏状態にあると評価された場合に、栽培環境中にカリウムを添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする工程であることが好ましい。これにより、栽培環境を適切に適正化しながら植物を栽培することができる。
【0032】
また、本発明の植物の栽培方法において、上記測定工程は、歪みゲージ式変位法を用いて測定されることが好ましい。これにより、植物を破壊することなく、特定部位の微細な形態的変化を精度よく連続測定することができる。それゆえ、栽培環境のわずかな変化に基づく特定部位の微量な経時変化パターンを連続測定することができる。したがって、栽培環境を精密に適正化しながら植物を栽培することができる。
【0033】
また、本発明の植物の栽培方法において、上記特定部位が、茎または果実であることが好ましい。茎または果実は、葉等の植物の他の部位と比べて厚みが大きいため、歪みゲージ式変位法に用いる歪ゲージ式変位計を茎または果実に安定に取り付けることができる。それゆえ、外径のわずかな変化を正確に測定することができる。
【0034】
また、本発明の植物の栽培方法において、植物の栽培を水耕栽培法で行うことが好ましい。水耕栽培では、栄養元素は栽培液に溶けて均一な状態になっている。それゆえ、植物間の栄養状態を均一化しやすい。また、栄養元素を添加した場合、添加された栄養元素は栽培液に簡便に拡散するため、栽培液の組成を、簡便に制御することができる。
【0035】
また、本発明の植物の栽培装置は、下記の(iv)〜(vi)を備えることを特徴としている:(iv)植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定するための測定手段:(v)当該植物が被検体である場合の被検体経時変化パターンと、当該植物が所望の環境で栽培された対照体である場合の対照体経時変化パターンとを比較するための比較手段;および(vi)上記比較において、被検体経時変化パターンが上記対照体経時変化パターンと一致しなくなった場合に、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにするための適正化手段。
【0036】
上記構成によれば、測定手段を用いて被検体の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する。そして比較手段により当該測定によって得られた被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較し、被検体経時変化パターンが対照体経時変化パターンに合致しないときには、適正化手段を用いて被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにすることにより栽培環境を適正化する。以下、これを繰り返すことにより、植物の栽培環境を、常に所望の栽培環境になるように適正化することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の植物の栽培方法によれば、上記(i)を実時間(リアルタイム)で行うことができる。それゆえ、上記(ii)および(iii)も実時間(リアルタイム)で行うことができる。また、上記(ii)では、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較するため、客観的な比較を行うことができる。さらに上記(iii)では、当該被検体経時変化パターンが当該対照体経時変化パターンに合致するように適正化を行うため、適正化の指標が明確である。それゆえ植物の栽培環境を的確に適正化することができる。したがって、植物が常に所望の栽培環境で栽培されるように、植物の栽培環境を客観的に的確に適正化しながら栽培することができる。
【0038】
また、本発明の植物の栽培装置は、測定手段を用いて被検体の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する。そして比較手段により当該測定によって得られた被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較し、被検体経時変化パターンが対照体経時変化パターンに合致しないときには、適正化手段を用いて被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにすることにより栽培環境を適正化する。以下、これを繰り返すことにより、植物の栽培環境を、常に所望の栽培環境になるように適正化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0040】
(1:植物の栽培方法)
本発明の栽培方法に用いることのできる植物としては、特に限定されるものではないが、棒状の茎を有する植物、または、ほぼ球形で表面が滑らかな果実を有する植物であることが好ましい。そのような植物として、例えば、トマト、ナス、タバコ、トウモロコシ、カキ、またはニホンナシ等を挙げることができる。
【0041】
茎が棒状であれば、歪ゲージ式変位計等を用いて茎径の測定を行う場合、当該装置をその荷重を支えることができるように上記茎部に安定して取り付けることができる。その結果、当該装置の荷重によって植物自体が倒伏するのを防ぐことができる。
【0042】
また、果実がほぼ球形でその表面が滑らかであれば、果実が均一に収縮と膨潤とを繰り返すので、歪ゲージ式変位計を用いて果実径の変化量を正確に測定することができる。さらに上記果実は歪みゲージ式変位計の取り付けに耐えられる堅さを備えていることが好ましい。これにより、歪みゲージ式変位計とそれを取り付けるための器具とで果実を挟むようにして、歪みゲージ式変位計を果実に取り付けた場合に、挟む力によって当該果実がつぶれることや変形することを防ぐことができ、果実径の変化をより正確に測定することができる。
【0043】
本発明の植物の栽培方法は、測定工程、比較工程、および適正化工程を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0044】
<測定工程>
本発明の栽培方法に含まれている測定工程は、植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定するものである。
【0045】
上記経時変化パターンとは、植物の特定部位の外径の大きさと時間との対応関係を示す情報を指す。そのような情報は、例えば、グラフや表を用いて表すことができる。
【0046】
グラフの場合、上記情報は、植物の特定部位の外径の大きさと時間との対応関係を示す波形として表すことができる。また表の場合、上記情報は、植物の特定部位の外径の大きさと時間との対応関係を示す数値として表すことができる。
【0047】
上記グラフや表を作成する方法としては、特に限定されず、microsoft excel(登録商標)等の表計算ソフトを用いることにより作成することができる。
【0048】
植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する方法としては、特に限定されず従来公知の方法を用いることができる。例えば、歪みゲージ式変位法やレーザー式変位計を用いた方法、固定した植物の特定部位に光を照射して拡大された影の大きさの変化を測定する方法等を挙げることができる。
【0049】
それらの方法の中でも歪みゲージ式変位法を用いることが好ましい。歪みゲージ式変位法を用いることにより、ある測定時点での植物の特定部位の外径を初期値として、植物の特定部位の外径の変化を、当該初期値からの経時変化量として測定することができる。また、上記植物の特定部位の外径の経時変化量がマイクロメートル単位の微量な変化量であっても、精度よく実時間(リアルタイム)で連続測定することができる。それゆえ、植物の特定部位の外径の大きさと時間との対応関係を示す詳細な情報を得ることができる。
【0050】
なお、上記レーザー式変位計を用いた方法とは、対象物にレーザー光線を当てることにより対象物との距離を測定する方法である。レーザー式変位計は、発光素子と光位置検出素子とを備えた構成であり、例えばKEYENCE社製LB−040やLB−080等を利用することができる。一般的にレーザー式変位計を用いた方法では、上記発光素子からレーザー光線を測定対象物に照射した後、当該測定対象物から拡散反射されたレーザー光線の一部が、上記光位置検出素子上にスポットとして検出される。測定対象物の位置が変化するとスポットの位置も変化するので、そのスポットの位置を検出することにより対象物の位置がどの程度を変化したかを測定することができる。
【0051】
この方法によれば、レーザー光線を植物の特定部位の外径に照射することにより、当該外径の大きさが変化すると、光位置検出素子上に検出されるスポットの位置が変化する。そこで、このスポットの位置の変化量を測定することにより外径の変化量を測定することができる。
【0052】
測定工程において、測定される植物の特定部位としては、特に限定されないが、茎または果実等を好適に用いることができる。茎または果実は、葉等の植物の他の部位と比べて厚みが大きいため、歪みゲージ式変位法に用いる歪ゲージ式変位計を茎部または果実部に安定に取り付けることができる。それゆえ、外径のわずかな変化を正確に測定することができる。
【0053】
歪ゲージ式変位法は、金属体をセンサーとして、その金属体に機械的な歪みが加えられた時に生じる電気抵抗の変化を測定することにより、当該歪みを測定する方法である。歪ゲージ式変位法を用いて植物の特定部位の外径の変化を測定する方法の一実施形態を以下に記載する。なお歪ゲージ式変位法は、市販されている歪ゲージ式変位計を用いて実現される。当該歪ゲージ式変位計としては、例えば、ミネベア社製の歪みゲージ式変位計を挙げることができる。
【0054】
まず、歪ゲージ式変位計を上述した植物の特定部位に取り付ける。歪ゲージ式変位計の特定部位への取り付け方法は、例えば[Iwao, K. and Takano, T. 1988. 「Studies on measurements of plant physiological information and their agricultural applications (1) Development of non-invasive measurements of water content in plant」 Environ. Control in Biol. 26:139-145]に記載の方法を挙げることができる。すなわち、ゴム紐等で変位計と特定部位とを固定し、茎と変位計のレバーとの間にシリコンゴムのチューブをバネとして入れ、最後にピンチコックを取り付け、レバーの位置を調整する。レバーは、変位計に設置されている金属体とつながっている。したがって、特定部位の外径が変化してレバーの変位が生じることにより、上記金属体に歪みが生じ特定部位の外径の変化を測定することができる。
【0055】
特定部位が膨潤すると歪ゲージ式変位計は、茎の表面と共に押し出される。ここで、ピンチコックの内径は一定値に固定され、レバーはバネによりピンチコック側に押し付けられている。レバーはピンチコックによって動きが拘束されているので特定部位が膨潤した分の外径の変化を測定することができる。反対に、特定部位が収縮すると、収縮と共に変位計も移動し、収縮した分の外径の変化を測定することができる。
【0056】
歪ゲージ式変位計に設置されている金属体をデータロガーに接続することにより特定部位の外径の大きさの経時変化をコンピューターに自動収録することができる。データロガーは公知のものを適宜選択の上採用し得る。公知のデータロガーとしては、例えばDE−1000型、NEC三栄社製のデータロガー、KEYENCE社製NR−1000が利用可能である。
【0057】
本測定工程は、特に限定されないが、第一暗期、明期、第二暗期の順の光周期で植物を栽培した時の、当該植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する工程であることが好ましい。この場合、第一暗期、明期、第二暗期の順の光周期で植物が栽培されればよい。それゆえ、温度、湿度、栄養等のその他の栽培条件は、特に限定されず本発明の栽培方法に用いられる植物に最適な条件を任意に設定できる。
【0058】
上記暗期とは、光周期の内、植物に一定量の光が当たらない一定期間のことをいう。上記「植物に一定量の光が当たらない」とは、植物栽培環境雰囲気における光量が2000ルクスよりも低い状態のことをいう。上記第一暗期と第二暗期とにおいては、暗期の光量や、暗期の時間の長さ等は同一でなくてよい。また、上記明期とは、光周期の内、植物に一定量の光が当たる一定時間のことをいう。上記「植物に一定量の光が当たる」とは、植物栽培環境雰囲気における光量が2000ルクス以上である状態のことをいう。
【0059】
「第一暗期、明期、第二暗期の順の光周期で栽培する」方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、遮光容器の中で栽培されている植物に対して、公知の人工気象器等を用い、当該人工気象器内の照明を点灯している期間を明期、当該照明を消灯している時間を暗期としてもよい。
【0060】
第一暗期、明期、第二暗期の順の光周期で植物を栽培することにより、当該植物の特定部位の外径の大きさが変化する。暗期(第一暗期および第二暗期)においては、一般に植物の特定部位の外径は大きくなり、明期においては、植物の特定部位の外径は小さくなる。これは、下記の理由のためである。
【0061】
すなわち、植物は根等から吸収した水分を、蒸散によって排出している。蒸散は植物が光を感受し葉等にある気孔が開くことにより起こる。暗期においては、植物に光が当たらないため、蒸散が起こらず植物内にある水分は排出されない。したがって暗期においては、植物内の水分量が上昇し植物自体が膨潤する。それゆえ、植物の特定部位も膨潤し、植物の特定部位の外径が大きくなる。
【0062】
暗期とは反対に、明期においては、植物に光が当たり、蒸散が起こるため植物から水分が排出される。明期において蒸散によって減少する水分量が、吸収によって増加する水分量よりも多くなると、植物内の水分量が減少するため植物自体が収縮する。それゆえ、植物の特定部位も収縮し、植物の特定部位の外径が小さくなる。
【0063】
したがって、第一暗期から明期になると、植物の特定部位の外径は小さくなり、明期から第二暗期になると植物の特定部位の外径は大きくなる。つまり、第一暗期、明期、第二暗期の順の光周期で栽培すると、植物の特定部位の外径の大きさは時間と共に変化する。そのため、上記光周期で栽培することにより、植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定することができる。
【0064】
<比較工程>
本発明の栽培方法に含まれている比較工程は、当該植物が被検体である場合の被検体経時変化パターンと、当該植物が所望の環境で栽培された対照体である場合の対照体経時変化パターンとを比較するものである。上記比較を行うことにより、被検体の栽培環境が所望の栽培環境にあるか否かを評価することができる。
【0065】
所望の栽培環境とは、植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定することができる栽培環境であれば、特に限定されるものではなく、本発明の栽培方法を実施しようとする者が任意に設定することができる。上記所望の栽培環境として、例えば、植物が生育不良に陥らず健康に生育することができる栽培環境(以下、「適正環境」と記載する。)や、環境ストレス下にある栽培環境等を挙げることができる。
【0066】
上記環境ストレスとは、植物の生理機能に悪影響を与える環境状態のことをいい、例えば、栄養ストレス、水ストレス、塩ストレス等が挙げられる。上記栄養ストレスとは、栽培環境中に植物の生育に必要な栄養元素が欠乏している状態のことであり、例えば、窒素欠乏状態、リン欠乏状態、またはカリウム欠乏状態等を挙げることができる。
【0067】
被検体の栽培環境が、窒素欠乏状態、リン欠乏状態、またはカリウム欠乏状態にあるか否かを評価する方法としては、特に限定されない。例えば、被検体経時変化パターンが上記の栽培環境の場合の対照体経時変化パターンに合致するか否かを比較することにより評価することができる。また、下記に記載しているように、被検体経時変化パターンと適正環境の場合の対照体パターンとの違いを比較することにより評価することができる。
【0068】
被検体経時変化パターンとの比較に用いられる対照体経時変化パターンは1種類である必要はなく複数用いることができる。例えば、対照体経時変化パターンとして、適正環境の場合のものと環境ストレス下にある栽培環境の場合のものとを併用することによって、被検体の栽培環境が、適正環境にあるか否かを評価するだけでなく、当該環境ストレス下にあるか否かも的確に評価することができる。
【0069】
そのため、後述する適正化工程では、当該環境ストレスに対する的確な対応をとることができる。例えば、上記環境ストレスが栄養ストレスである場合には、欠乏している栄養元素を栽培環境中へ添加することにより、栄養ストレスに対する的確な対応をとることができる。そして、被検体経時変化パターンが適正環境の場合のものに合致するように、上記対応をとることにより、被検体の栽培環境をより的確に適正化することができる。
【0070】
被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較する方法としては、特に限定されず、例えば、被検体の特定部位の外径の大きさと時間との対応関係を示す情報が、対照体のその情報と同じ情報であるか否かを調べることにより比較することができる。
【0071】
ここで、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとがグラフを用いて表されている場合には、被検体経時変化パターンの波形が対照体経時変化パターンの波形と同じ波形であるか否かを調べることにより比較することができる。また、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとが表を用いて表されている場合には、被検体経時変化パターンの数値が対照体経時変化パターンの数値と同じ値であるか否かを調べることにより比較することができる。
【0072】
本比較工程では、被検体と対照体とにおいて、明期における外径の経時変化量の最大絶対値、および、第二暗期になった時から植物の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間を、被検体と対照体との間で比較することが好ましい。これにより、当該被検体の植物の栽培環境の評価を、上記最大絶対値、および上記時間の2点を比較することにより評価することができる。それゆえ、当該被検体の植物の栽培環境の評価を非常に簡便に、客観的に行うことができる。ただし本比較工程はこれに限定されるものではない。なお、「明期における特定部位の外径の経時変化量の最大絶対値」は、暗期の任意の時点における特定部位の外径(ゼロ点)に対する明期における特定部位の外径の経時変化量の内、最も大きい絶対値のことをいう。
【0073】
後述の実施例で示すように、被検体の栽培環境が窒素欠乏状態、リン欠乏状態、またはカリウム欠乏状態になってから初期の段階で、当該被検体の被検体経時変化パターンと、適正環境の場合の対照体の対照体経時変化パターンとに違いが生じる。そこで、その違いを比較することにより、被検体の栽培環境が窒素欠乏状態、リン欠乏状態、またはカリウム欠乏状態であるか否かを早期に評価することができる。
【0074】
本明細書において被検体の窒素欠乏状態を早期に評価するとは、植物の生育に必要な窒素量が栽培環境から供給されなくなってから初期の段階(1〜2日目)で、かつ被検体中の窒素含有率が対照体と比較しても差が無い、もしくは極めて僅差の場合でも、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較することにより、被検体が窒素欠乏状態にあると評価することをいう。
【0075】
また、本明細書において被検体のリン欠乏状態を早期に評価するとは、植物の生育に必要なリン量が栽培環境から供給されなくなってから初期の段階(1〜2日目)で、かつ被検体中の窒素含有率が対照体と比較しても差が無い、もしくは極めて僅差の場合でも、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較することにより、被検体がリン欠乏状態にあると評価することをいう。
【0076】
また、本明細書において被検体のカリウム欠乏状態を早期に評価するとは、植物の生育に必要なカリウム量が栽培環境から供給されなくなってから初期の段階(1〜2日目)で、かつ被検体中の窒素含有率が対照体と比較しても差が無い、もしくは極めて僅差の場合でも、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較することにより、被検体がカリウム欠乏状態にあると評価することをいう。
【0077】
窒素欠乏状態の具体的な評価方法は以下の通りである。ただし本発明は以下に限定されるものではない。つまり上記比較によって、被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値未満であり、かつ対照体の特定部位の外径の経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して短い場合に、当該被検体の栽培環境は窒素欠乏状態にあると評価することができる。
【0078】
また、リン欠乏状態の具体的な評価方法は以下の通りである。ただし本発明は以下に限定されるものではない。つまり上記比較によって、被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値未満であり、かつ対照体の特定部位の外径経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して長い場合に当該被検体の栽培環境はリン欠乏状態にあると評価することができる。
【0079】
また、カリウム欠乏状態の具体的な評価方法は以下の通りである。ただし本発明は以下に限定されるものではない。つまり被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値よりも大きく、かつ対照体の特定部位の外径の経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して短い場合に、当該被検体の栽培環境はカリウム欠乏状態にあると評価することができる。
【0080】
本発明に用いられる対照体は、特に限定されないが、被検体と同種の植物であることが好ましい。植物の種類が異なることによって、吸収される水分量、排出される水分量、生長に必要な栄養元素の種類、または生長に必要な栄養元素量等が異なる場合があり、これが上記経時変化パターンに影響をおよぼす場合がある。対照体と被検体とが同種であれば、そのような影響を軽減することができ、より正確に本比較工程を実施することができる。
【0081】
また、上記対照体の栽培条件は特に限定されないが、対照体と被検体とは同一の条件で栽培されることが好ましい。植物の温度や湿度等の栽培条件が異なることにより、吸収される水分量や、排出される水分量が異なる場合があり、これが上記経時変化パターンに影響をおよぼす場合がある。対照体と被検体とが同一の条件で栽培されることによって、そのような影響を軽減することができ、より正確に比較工程を実施することができる。
【0082】
本比較工程に用いられる上記対照体経時変化パターンは、被検体経時変化パターンと同時に測定されたものであってもよいし、予め測定されたものであってもよい。
【0083】
上記生長に必要な栄養元素とは、例えば、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、イオウ、マンガン、ホウ素、亜鉛、銅、モリブデン、塩素、コバルトを挙げることができる。植物に供給される上述の栄養素の態様としては特に限定されるものではないが、例を挙げれば、窒素を含む化合物(Ca(NO・4HO、NaNO、NHCl)リンを含む化合物(NaHPO 2HO)、カリウムを含む化合物(KSO、 KCl)、カルシウムを含む化合物(CaCl 2HO)、マグネシウムを含む化合物(MgSO 7HO)、鉄を含む化合物(C1012FeNa)、イオウを含む化合物(KSO、MgSO)、マンガンを含む化合物(MnSO 4HO)、ホウ素を含む化合物(HBO)、亜鉛を含む化合物(ZnSO 7HO)、銅を含む化合物(CuSO 5HO)、モリブデンを含む化合物(NaMoO 2HO)、塩素を含む化合物(CaCl 2HO)、コバルトを含む化合物(CoSO 7HO)を挙げることができる。
【0084】
<適正化工程>
本発明の植物の栽培方法に含まれている適正化工程は、上記比較工程において、被検体経時変化パターンが上記対照体経時変化パターンと一致しなくなった場合に、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする工程である。上記「被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする」とは、被検体の特定部位の外径の大きさと時間との対応関係を示す情報を、対照体のその情報と類似する情報(好ましくは同じ情報)になればよく、必ずしも完全に一致させる必要はない。
【0085】
ここで、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとがグラフを用いて表されている場合には、被検体経時変化パターンの波形が対照体経時変化パターンの波形に類似する波形(好ましくは同じ波形)になればよく、必ずしも完全に一致させる必要はない。
【0086】
また、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとが表を用いて表されている場合には、被検体経時変化パターンの数値が対照体経時変化パターンの数値に近似する値(好ましくは同じ値)になればよく、必ずしも完全に一致させる必要はない。
【0087】
すなわち、本明細書において「被検体の栽培環境を適正化する」とは、被検体の栽培環境を対照体の栽培環境に近づけることを意味する。
【0088】
上記適正化工程では、特に限定されないが、例えば、上記植物の栽培環境が、栄養ストレスであると評価された場合に、欠乏している栄養元素を栽培環境中へ添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにすることにより、被検体の栽培環境を栄養ストレスから適正環境に適正化することができる。
【0089】
具体的には、上記栄養ストレスが、窒素欠乏状態である場合に、栽培環境中に窒素を添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにすることにより、被検体の栽培環境を窒素欠乏状態から適正環境に適正化することができる。
【0090】
また、上記栄養ストレスが、リン欠乏状態である場合に、栽培環境中にリンを添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにすることにより被検体の栽培環境をリン欠乏状態から適正環境に適正化することができる。
【0091】
また、上記栄養ストレスが、カリウム欠乏状態である場合に、栽培環境中にカリウムを添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにすることにより被検体の栽培環境をカリウム欠乏状態から適正環境に適正化することができる。
【0092】
栽培環境中へ欠乏している栄養元素を添加する方法は、特に限定されないが、例えば、水耕栽培で栽培している場合には、欠乏している栄養元素を栽培液に従来公知の方法を用いて添加する方法や、土壌栽培で栽培している場合には、植物が栽培されている付近の土壌に窒素、欠乏している栄養元素を従来公知の方法を用いて散布する方法等を挙げることができる。また、その他の方法として、葉面散布等を用いて直接欠乏している栄養元素を植物に給与する方法も用いることができる。
【0093】
本発明の栽培方法は、土壌栽培または水耕栽培のどちらの方法で栽培されている植物に適用され得るが、上述したように、水耕栽培では栄養元素は栽培液に溶けているので、栽培液中の栄養元素の組成や濃度は均一である。それゆえ、特定部位の外径の経時変化パターンの誤差を減らすことや、再現性のある結果を容易に得ることができ、正確性の高い評価を行うことができる。さらに、水耕栽培では、栄養元素を添加した場合、添加された栄養元素は栽培液に簡便に拡散するため欠乏している栄養元素を素早く植物に補給することができる。したがって、本発明の栽培方法は水耕栽培で栽培されている植物により好適に用いることができる。
【0094】
(2:栽培装置)
本発明の植物の栽培装置は、下記の(iv)〜(vi)を備える装置である。
【0095】
(iv)植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定するための測定手段(1):
(v)当該植物が被検体である場合の被検体経時変化パターンと、当該植物が所望の環境で栽培された対照体である場合の対照体経時変化パターンとを比較するための比較手段(2);
および(vi)上記比較において、被検体経時変化パターンが上記対照体経時変化パターンと一致しなくなった場合に、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにするための適正化手段(3)。
【0096】
以下、図7に示すフロ−チャートにより、本発明の植物の栽培装置を説明する。
【0097】
本発明の植物の栽培装置では、上記測定手段(1)によって、被検体の被検体経時変化パターンが測定される。そして、測定された被検体経時変化パターンの情報は、上記比較手段(2)に伝達される。上記比較手段(2)により、当該被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較し、当該被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとが合致しないときには、合致していないという情報が適正化手段(3)に伝達される。その結果、適正化手段(3)によって被検体の栽培環境が適正化される。以下、これを繰り返すことにより、被検体の栽培環境を常に所望の環境に維持することができる。
【0098】
上記測定手段(1)としては、上記<測定工程>に記載されている測定工程を実施することができれば特に限定されないが、歪みゲージ式変位計またはレーザー式変位計等を備えることが好ましい。
【0099】
歪みゲージ式変位計を備えた測定手段(1)を被検体に用いることにより、被検体の特定部位の外径の経時変化が微小であっても精度よく実時間(リアルタイム)で測定することができる。それゆえ、その後比較手段(2)および適正化手段(3)によって実施される工程をより精密に行うことができるため、栽培環境をより的確に適正化しながら被検体を栽培することができる。
【0100】
また、上記測定手段(1)には、測定手段(1)を植物の特定部位に安定に取り付けるための取り付け手段が設けられていることが好ましい。取り付け手段としては、特に限定されず、紐、ゴム、または接着テープ等従来公知のものを任意に用いることができる。取り付け手段を用いて測定手段を安定に植物の特定部位に取り付けることにより、測定される経時変化パターンの信頼性を向上することができる。
【0101】
上記比較手段(2)は、上記<比較工程>に記載されている比較工程を実施することができれば特に限定されないが、上記被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとを比較し、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとが合致しているか否かを判断し、合致していない場合には、その情報を適正化手段に伝達することができるソフトウエアが導入されたコンピューターが備えられていることが好ましい。上記コンピューターを用いることにより、被検体経時変化パターンと対照体経時変化パターンとの比較を自動で行うことができる。
【0102】
また、上記コンピューターに、被検体経時変化パターンおよび対照体経時変化パターンを記憶するための記憶手段や、上記比較、判断、または伝達を表示するための表示手段等が備えられていてもよい。上記記憶手段としては特に限定されず、ハードディスク、データロガー等の従来公知のものを用いることができる。また、上記表示手段も特に限定されず、液晶ディスプレイ、またはプラズマディスプレイ等の従来公知のものを用いることができる。
【0103】
適正化手段(3)は、上記<適正化工程>に記載されている適正化工程を実施することができれば特に限定されず、例えば、スプリンクラー等の従来公知の散布装置が備えられていても良い。適正化手段(3)に、上記散布装置が備えられている場合には、水、栄養元素等を被検体の栽培環境中に散布することができる。水または栄養元素等の散布量や散布期間、ないしは栄養元素の種類等を調節することにより、被検体経時変化パターンを対照体経時変化パターンに合致させるようにすることができる。
【0104】
また、適正化手段(3)には、比較手段(2)からの情報に基づいて上記スプリンクラー等を自動で駆動することができる駆動手段が備えられていてもよい。この場合には、合致していないという情報が駆動手段に伝達され、その後、駆動手段により上記スプリンクラー等が駆動される。その結果、上記スプリンクラー等によって被検体の栽培環境が適正化される。
【0105】
上記駆動手段としては、特に限定されず、例えば、モーター等の動力部と、当該動力部と適正手段とを連結する連結部とを備えた構成を挙げることができる。上記連結部は、上記動力部からの動力を上記スプリンクラー等に伝えることができれば特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
【0106】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下の実施例により、本発明をさらに、詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0107】
〔実施例1:トマトの栽培環境の評価〕
<トマトの栽培方法>
鉢植えのトマト(lycopersicon esculentum L., 品種:桃太郎8)を、広島大学大学院生物圏科学科が所有する温室内にて、最高気温32℃、最低気温20℃の条件で水耕栽培法により栽培した。各鉢には、下記の組成の栄養溶液が満たされていた。また、明期、暗期の光周期で栽培した。6時から18時の間を明期とし、それ以外の期間を暗期とした。明期における栽培環境の光量は最大で約65000ルクスであった。
栄養溶液:
N(Ca(NO 4HO) 50 mg l−1
P(NaHPO 2HO) 10 mg l−1
K(KSO/KCl 1:1) 40 mg l−1
Ca(CaClO) 30 mg l−1
Mg(MgSO 7HO) 20 mg l−1
Fe(Fe+3 EDTA) 1 mg l−1
Mn(MNSO 4HO) 0.2 mg l−1
B(HBO) 0.5 mg l−1
Zn(ZnSO 7HO) 0.01 mg l−1
Cu(CuSO 5HO) 0.01 mg l−1
Mo(NaMoO 2HO) 0.01 mg l−1
Co(CoSO 7HO) 0.01 mg l−1
トマトの栽培開始から74日目(第二果実期)の午前0時から、上記栄養溶液の代わりに窒素成分(Ca(NO・4HO)を含まない組成の上記栄養溶液(以下、「窒素欠乏栄養溶液」と称する)を用いることにより、トマトの栽培環境を窒素欠乏状態にした(窒素欠乏処理)。
【0108】
また、同様に、上記栄養溶液の代わりにリン成分(NaHPO 2HO)を含まない組成の上記栄養溶液(以下、「リン欠乏栄養溶液」と称する)を用いることにより、トマトの栽培環境をリン欠乏状態にした(リン欠乏処理)。
【0109】
また、同様に、上記栄養溶液の代わりにカリウム成分(KSO/KCl 1:1)を含まない組成の上記栄養溶液(以下、「カリウム欠乏栄養溶液」と称する)を用いることにより、トマトの栽培環境をカリウム欠乏状態にした(カリウム欠乏処理)。
【0110】
なお、74日目(第二果実期)以降も上記栄養溶液を用いて栽培されたトマトを対照体として用いた。
【0111】
<歪みゲージ式変位法を用いた茎径の経時変化の測定>
トマトの茎径の経時変化パターンを歪みゲージ式変位計(ミネベア社製、型番UL−20GR)を用いて測定した。具体的には、茎に歪みゲージ式変位計をゴム紐を用いて取り付けて、当該茎の茎径の経時変化を5分間隔で21日間連続して測定した。歪みゲージ式変位計のセンサーはデータロガー(DE−1000型、NEC三栄社製)に接続し、測定された茎径の経時変化を電子データとしてコンピューターに自動収録した。
【0112】
<窒素欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマトにおける茎径の経時変化パターンの測定>
窒素欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマトにおける茎径の経時変化パターンの測定は、以下の方法で測定した。すなわち上記<トマトの栽培方法>に記載の方法により、窒素欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマト(以下、「被検体のトマト(窒素)」と記載する。)、および対照体の茎径の経時変化を上記<歪みゲージ式変位法を用いた茎径の経時変化の測定>に記載の方法にしたがって測定した。
【0113】
図1は、窒素欠乏処理を行ってから0日〜21日後における、被検体のトマト(窒素)の茎径の経時変化と、対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図である。図1において、「−N」は、被検体のトマト(窒素)を表し、「cont」は、対照体を表す。
【0114】
縦軸は、窒素欠乏処理を行った次の日の午前0時における茎径を0とした時の茎径の経時変化パターンを表している。茎径の経時変化パターンが正のときは茎の膨潤を意味し、茎径の経時変化パターンが負のときは茎の収縮を意味する。横軸は、窒素欠乏処理後(トマトの栽培開始から74日目(第二果実期))の日数を表している。
【0115】
図1によれば、被検体のトマト(窒素)と、対照体とにおいて周期的な膨潤と収縮とを繰り返していることがわかる。また、対照体では窒素欠乏処理から日数が経つに連れ、日単位での茎径の経時変化パターンが正方向に移動していることがわかる。このことは、窒素欠乏処理から日数が経つに連れ、日単位で茎自体が太くなることを示している。一方、被検体のトマト(窒素)では、窒素欠乏処理から10日以降は、ほとんど日単位での茎径の経時変化パターンの正方向への移動はなく、茎の太さはほぼ一定であることがわかる。
【0116】
図2(a)は、窒素欠乏処理の日から1日後における、被検体のトマト(窒素)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図2(b)は、窒素欠乏処理の日から2日後における、被検体のトマト(窒素)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図2(c)は、窒素欠乏処理の日から11日後における、被検体のトマト(窒素)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図2(d)は、窒素欠乏処理の日から14日後における、被検体のトマト(窒素)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図である。
【0117】
図2(a)〜(d)において、縦軸は、窒素欠乏処理の日からそれぞれ1日目、2日目、11日目、および14日目の午前0時における茎径を0とした時の茎径の経時変化パターンを表している。ある時刻において茎径の経時変化パターンが正のときは、午前0時における茎よりもその時刻における茎は膨潤していること示し、ある時刻において茎径の経時変化パターンが負のときは、午前0時における茎よりもその時刻における茎は収縮していることを意味する。
【0118】
図2(a)〜(d)において、横軸は、時刻を表している。暗期は、横軸の数値で0:00〜6:00の間(第一暗期)、および18:00〜24:00の間(第二暗期)であり、明期は横軸の数値で6:00〜18:00の間である。
【0119】
図2(a)〜(d)によれば、被検体のトマト(窒素)と対照体との両方において暗期から明期になると茎径の経時変化パターンは小さくなり、明期から暗期になると茎径の経時変化パターンは大きくなることがわかる。このことは、第一暗期から明期になると茎は収縮し、明期から第二暗期になると茎は膨潤することを示している。
【0120】
また、図2(a)、(b)によれば、明期における被検体のトマト(窒素)の茎径の経時変化パターンの最大絶対値は、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大絶対値よりも小さいことがわかる。このことは、明期における茎の収縮が、被検体のトマト(窒素)よりも対照体の方が大きいことを示している。
【0121】
さらに、明期から第二暗期になった後、被検体のトマト(窒素)の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻は、対照体の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻が遅いことがわかる。このことは、明期から暗期になった後に茎の収縮が元に戻る時間が、被検体のトマト(窒素)よりも対照体の方が短いことを示している。
【0122】
また、図2(c)によれば、明期における被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンの最大絶対値は、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大絶対値よりも大きくなっていることがわかる。このことは、明期における茎の収縮が、被検体(窒素)よりも対照体の方が小さいことを示している。さらに、明期から第二暗期になった後、被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻は、対照体の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻がほぼ同じになっている。
【0123】
また、図2(d)によれば、明期における被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンの最大絶対値は、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大絶対値とほぼ同じである。さらに、明期から第二暗期になった後、被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻は、対照体の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻よりも遅くなっている。
【0124】
以上の結果から、窒素欠乏処理から1日〜2日後の被検体(窒素)において、午前0時における茎径の経時変化パターンを0とした時の、明期における茎径の経時変化パターンの最大絶対値が、対照体において、午前0時における茎径の経時変化パターンを0とした時の、明期における茎径の経時変化パターンの最大値絶対値よりも小さく、明期から第二暗期になった後、被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンにおいて、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻が、対照体の茎径の経時変化パターンにおいて、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻よりも遅い場合に、当該被検体(窒素)の栽培環境が窒素欠乏状態であると評価することができるということがわかった。またこの評価が窒素欠乏状態になってから、早期(1日〜2日目)に評価することができるということが確認された。
【0125】
<リン欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマトにおける茎径の経時変化パターンの測定>
リン欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマトにおける茎径の経時変化は以下の方法で観測した。すなわち、上記<トマトの栽培方法>に記載の方法により、リン欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマト(以下、「被検体(リン)」と記載する。)、および対照体の茎径の経時変化を上記<歪みゲージ式変位法を用いた茎径の経時変化パターンの観測>に記載の方法に従って観測した。
【0126】
図3は、リン欠乏処理を行ってから0日〜21日後における、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと、対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図である。図3は、横軸がリン欠乏処理後(トマトの栽培開始から74日目(第二果実期))の日数を表している以外は、図1と同様のことを表している。
【0127】
図3によれば、被検体(リン)と対照体とにおいて周期的な膨潤と収縮とを繰り返していることが分かる。また、対照体では日数が経つに連れ、日単位での茎径の経時変化パターンが正方向に移動していることが分かる。このことは、日数が経つに連れ、日単位で茎自体が太くなることを示している。一方、被検体(リン)では、リン欠乏処理から6日以降は、ほとんど日単位での茎径の経時変化パターンはなく、茎の太さはほぼ一定であることがわかる。
【0128】
図4(a)は、リン欠乏処理から2日後における、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図4(b)は、リン欠乏処理から9日後における、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図4(c)は、リン欠乏処理から17日後における、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図である。
【0129】
図4(a)〜(c)は、リン欠乏処理の日からそれぞれ2日後、9日後、および17日後を表すということ以外は、図2(a)と同様のことを表している。図4(a)〜(c)によれば、被検体(リン)と対照体との両方において暗期から明期になると茎径の経時変化パターンは小さくなり、明期から暗期になると茎径の経時変化パターンは大きくなることが分かる。このことは、暗期から明期になると茎は収縮し、明期から暗期になると茎は膨潤することを示している。
【0130】
図4(a)によれば、明期における被検体(リン)の茎径の経時変化パターンは、同時刻における対照体の茎径の経時変化パターンよりも大きいことがわかる。このことは、明期における茎の収縮が、被検体(リン)よりも対照体の方が小さいことを示している。また、明期における被検体(リン)の茎径の経時変化パターンの最大絶対値は、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大絶対値よりも小さいことがわかる。このことは、明期における茎の最大収縮が、被検体(リン)よりも対照体の方が小さいことを示している。さらに、明期から暗期になった後、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンが、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻は、対照体の茎径の経時変化パターンが、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻よりも早いことがわかる。このことは、明期から暗期になった後に茎の収縮が元に戻る時間が、被検体(リン)よりも対照体の方が短いことを示している。
【0131】
一方、図4(b)によれば、明期における被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと、同時刻における対照体の茎径の経時変化パターンとの間、にほとんど差がないことわかる。このことは、被検体(リン)と対照体とにおいて、明期における茎の収縮に差がないことを示している。また、明期における被検体(リン)の茎径の経時変化パターンの最大値と、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大値とにほとんど差がないことがわかる。このことは、被検体(リン)と対照体とにおいて、明期における茎の最大収縮に差がないことを示している。さらに、明期から第2暗期になった後、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンが、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻と、対照体の茎径の経時変化パターンが、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻とにほとんど差が無いことがわかる。このことは、明期から暗期になった後に茎の収縮が元に戻る時間が、被検体(リン)と対照体とに差が無いことを示している。
【0132】
図4(c)によれば、明期における被検体(リン)の茎径の経時変化パターンの最大値絶対値は、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大値よりも小さいことがわかる。このことは、対照体の方が被検体(リン)よりも、明期における茎の最大収縮が大きいことを示している。さらに、明期から第2暗期になった後、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンは、0に戻らず負の値のままになっている。このことは、被検体(リン)の茎径が、第2暗期の間収縮していることを示している。
【0133】
以上の結果から、被検体(リン)において、午前0時における茎径の経時変化パターンを0とした時の、明期における茎径の経時変化パターンの最大絶対値が、対照体において、午前0時における茎径の経時変化パターンを0とした時の、明期における茎径の経時変化パターンの最大値絶対値よりも小さく、明期から第二暗期になった後、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンにおいて、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻が、対照体の茎径の経時変化パターンにおいて、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻よりも早い場合に、当該被検体(リン)の栽培環境がリン欠乏状態であると評価することができるということがわかった。またこの評価がリン欠乏状態になってから、早期(1日〜2日目)に評価することができるということが確認された。
【0134】
<カリウム欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマトにおける茎径の経時変化パターンの測定>
カリウム欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマトにおける茎径の経時変化パターンは以下の方法で測定した。すなわち、上記<トマトの栽培方法>に記載の方法により、カリウム欠乏状態の栽培環境で栽培されているトマト(以下、「被検体(カリウム)」と記載する。)、および対照体の茎径の経時変化パターンを上記<歪みゲージ式変位法を用いた茎径の経時変化パターンの測定>に記載の方法にしたがって測定した。
【0135】
図5は、カリウム欠乏処理を行ってから0日〜21日後における、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンと、対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図である。図5は、横軸がカリウム欠乏処理後(トマトの栽培開始から74日目(第二果実期))の日数を表している以外は、図1と同様のことを表している。
【0136】
図5によれば、被検体(カリウム)、および対照体の間に周期的な膨潤と収縮とを繰り返していることがわかる。また、対照体では日数が経つに連れ、日単位での茎径の経時変化パターンが正方向に移動していることがわかる。このことは、日数が経つに連れ、日単位で茎自体が太くなることを示している。さらに、被検体(カリウム)では、カリウム欠乏処理から3日以降は、ほとんど日単位での茎径の経時変化パターンはなく、茎の太さはほぼ一定であることがわかる。
【0137】
図6(a)は、カリウム欠乏処理から1日後における被検体(カリウム)の茎径の経時変化および対照体の茎径の経時変化を表すチャート図であり、図6(b)は、カリウム欠乏処理から2日後における、被検体(カリウム)の茎径の経時変化と対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図であり、図6(c)は、カリウム欠乏処理から4日後における被検体(カリウム)の茎径の経時変化と対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図であり、図6(d)は、カリウム欠乏処理から6日後における被検体(カリウム)被検体の茎径の経時変化と対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図であり、図6(e)は、カリウム欠乏処理から15日後における被検体(カリウム)の茎径の経時変化と対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図である。
【0138】
図6(a)〜(e)は、カリウム欠乏処理の日からそれぞれ1日後、2日後、4日後、6日後および15日後を表すということ以外は、図2(a)と同様のことを表している。
【0139】
図6(a)によれば、明期における被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターン、および同時刻における対照体の茎径の経時変化パターンの間にほとんど差がないことわかる。また、明期における被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンの最大値と、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大値とにほとんど差がないことがわかる。このことは、被検体(カリウム)および対照体の間において、明期における茎の最大収縮がほぼ同じであることを示している。
【0140】
さらに、明期から暗期になった後、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンが、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻、および対照体の茎径の経時変化パターンが、第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻の間に差が無いことがわかる。このことは、明期から暗期になった後に茎の収縮が元に戻る時間が、被検体(カリウム)および対照体の間に差が無いことを示している。
【0141】
図6(b)によれば、明期になることにより被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンは負の方向に移動し、8:00においてから18:00の間被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンは負の値となっている。また、第1暗期および第2暗期では、茎径の経時変化パターンは正の値となっている。一方、明期になることにより対照体の茎径の経時変化パターンは、負の方向に移動するが、第1暗期〜明期〜第2暗期を通して、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンは正の値となっている。このことは、被検体(カリウム)の茎は、明期において収縮し、第1暗期および第2暗期において膨張していることを示している。
【0142】
一方、対照体の茎は第1暗期〜明期〜第2暗期を通して、膨潤していることを示している。明期における被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンの最大値は、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大値よりも大きい。このことは、被検体(カリウム)の茎径の収縮量の最大値が対照体の茎径の収縮量の最大値よりも大きいことを示している。さらに、明期から暗期になった後、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻は、対照体の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻よりも遅いことがわかる。このことは、明期から暗期になった後に茎の収縮が元に戻る時間が、被検体(カリウム)の方が対照体よりも遅いことを示している。
【0143】
図6(c)によれば、明期における被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンの最大絶対値は、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大絶対値よりも大きいことがわかる。このことは、明期における茎の最大収縮が、被検体(カリウム)よりも対照体の方が大きいことを示している。さらに、明期から暗期になった後、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻は、対照体の茎径の経時変化パターンが第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻よりも遅いことがわかる。このことは、明期から暗期になった後に茎の収縮が元に戻る時間が、被検体(カリウム)よりも対照体の方が遅いことを示している。
【0144】
図6(d)によれば、明期における被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンの最大絶対値は、明期における対照体の茎径の経時変化パターンの最大絶対値よりも大きいことがわかる。このことは、明期における茎の最大収縮が、被検体(カリウム)よりも対照体の方が大きいことを示している。また、明期から第2暗期になった後、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンは、0に戻らず負の値のままになっている。このことは、被検体(カリウム)の茎径が、第2暗期の間収縮していることを示している。
【0145】
図6(e)によれば、明期になることにより被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンは負の方向に移動し、明期〜第二暗期の間被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンは負の値となっている。一方、明期になることにより対照体の茎径の経時変化パターンは、負の方向に移動するが、第1暗期〜明期〜第2暗期を通して、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンは正の値となっている。このことは、被検体(カリウム)の茎は、明期〜第2暗期の間収縮し、対照体の茎は第1暗期〜明期〜第2暗期を通して膨潤していることを示している。
【0146】
以上の結果から、カリウム欠乏処理から2日〜6日後の被検体(カリウム)において、午前0時における茎径の経時変化パターンを0とした時の、明期における茎径の経時変化パターンの最大絶対値が、対照体において、午前0時における茎径の経時変化パターンを0とした時の、明期における茎径の経時変化パターンの最大値絶対値よりも大きく、明期から第二暗期になった後、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターンにおいて第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻が、対照体の茎径の経時変化パターンにおいて第一暗期における経時変化パターンの最大値になる時刻よりも遅い場合に、当該(カリウム)の栽培環境がカリウム欠乏状態であると評価することができるということがわかった。またこの評価がカリウム欠乏状態になってから、早期(2日目)に評価することができるということが確認された。
【0147】
〔実施例2:トマトの栽培試験〕
<トマトの栽培方法>
トマト(lycopersicon esculentum L., 品種:桃太郎8)をセルポットに播種し、土耕栽培によって育苗された苗を、本実施例に用いた。育苗したトマト苗を播種36日後に水耕栽培に環境に移植した。水耕栽培環境はエアレーション設備を備えた培養液非循環型の70L容バットを用いて行われ、培養液は7日に1度の割合で交換された。培養液のpHは1Nの水酸化ナトリウムと1Nの塩酸を用いて1日に1度の割合でpH5.8〜6.2に調節された。なお上記栽培は、広島大学精密圃場内のガラスハウスで行われた。
【0148】
<茎径を用いた栄養欠乏の判定>
播種後68日目(第一果房肥大期)の植物個体を用いた。実施例1において記載した窒素欠乏処理をトマトに対して20日間行った(N欠乏区)。実施例1において記載したリン窒素欠乏処理をトマトに対して20日間行った(P欠乏区)。実施例1において記載したカリウム欠乏処理をトマトに対して20日間行った(K欠乏区)。実施例1において記載した栄養溶液を用いて20日間栽培されたトマトをコントロール区とした。上記の各処理(N欠乏処理×2区、P欠乏処理×2区、K欠乏処理×2区、コントロール区の栽培)はそれぞれ3個体に対して行われた。
【0149】
各区から無作為に選抜された1個体について、歪みゲージ式変位計を用いて茎径の測定を行った。茎径の測定は実施例1と同様に行われた。処理開始日よりN欠乏区、P欠乏区、K欠乏区で、それぞれ収録された茎径の変化を、24時間毎にコントロール区の茎径変化と比較した。
【0150】
上記比較の結果、実施例1に記載した判断基準によってP欠乏状態と判断された日の翌日の午前7:30から、2区ずつ存在するP欠乏区のうちの片方の実験区の個体に対して、コントロール区と同様の濃度となるようにリンを添加し栽培を継続した。
【0151】
<生育量の測定>
処理後0日目および20日目の各実験区のそれぞれ3個体について、葉、茎、根、第一果房、第二果房に仕分けて新鮮重を測定した後、70℃で7日間熱風乾燥した。乾燥後の各試料(葉、茎、根、第一果房、第二果房)を電子天秤により秤量した。
【0152】
<結果>
図8に各実験区における茎径の経時変化パターンを示した。図8(a)は処理開始後5日目のN欠乏区の結果、図8(b)は処理開始後5日目のP欠乏区の結果、図8(c)は処理開始後5日目のK欠乏区の結果を示した。なお、図8(a)、(b)、(c)中の太線はそれぞれN欠乏区、P欠乏区、K欠乏区の結果を示す。さらに、図8(a)、(b)、(c)中の細線はコントロール区の結果を示し、破線は光合成有効放射量を示す。破線がプラス値になっている場合は明期であることを示している。各実験区において、午前7:30の時点の茎径を0とした。
【0153】
図8(a)、(b)、(c)のそれぞれの結果は、実施例1で示した窒素欠乏状態の茎径の経時変化パターン、リン欠乏状態の茎径の経時変化パターン、カリウム欠乏状態の茎径の経時変化パターンとよく合致した。よって、各実験区ともにそれぞれの栄養元素の欠乏状態になったことが確認された。
【0154】
図9に、P欠乏状態と判断された日の翌日の午前7:30から、コントロール区と同様の濃度となるようにPを添加し20日間栽培した場合の個体の乾燥重量(図9中「P欠乏区(P添加あり)」)、Pを添加せずに20日間栽培した場合の個体の乾燥重量(図9中「P欠乏区(P添加なし)」)、コントロール区の20日目の個体の乾燥重量(図9中「コントロール区」)、処理0日目の個体の乾燥重量(図9中「0日目」)を示した。
【0155】
なお各データはTukey法(「4Steps エクセル統計 第二版 柳井久江 著、オーエムエス出版;星雲社」を参照のこと)を用いて危険率5%で統計解析を行った。図9中、各バーの上にあるアルファベットが同じである場合、その区間同士に有意差は認められないことを示し、各バーの上にあるアルファベットが異なっている場合、その区間同士で5%の危険率で有意差があることを示す。ただし、処理0日目の結果は統計解析を行っていない。
【0156】
図9の結果によれば、「コントロール区」と「P欠乏区(P添加あり)」との結果に有意差がなく(危険率5%)、「P欠乏区(P添加なし)」が「コントロール区」および「P欠乏区(P添加あり)」に対して有意に乾燥重量が軽い(危険率5%)ということがわかった。
【0157】
この結果から、植物の特定部位の外径(例えば茎径)の経時変化パターンを指標としてある栄養元素が欠乏していると判断された場合に、その栄養元素を適正な濃度に調整することで、植物の生育が適正化されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明は、植物の特定部位の外径の経時変化パターンを指標として、植物の栽培環境を評価し、上記経時変化パターンを所望の栽培環境の場合の外径の経時変化パターンに合致させるようにすることによって、栽培中の植物の栽培環境を適正化するという植物の栽培方法、およびその方法を実施するための栽培装置を提供する。
【0159】
本発明によれば、植物が常に所望の栽培環境で栽培されるように、植物の栽培環境を客観的に的確に適正化しながら栽培することができる。したがって、本発明は、食品産業、農業、医薬産業等の植物栽培に関係する産業に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】図1は、窒素欠乏処理を行ってから0日〜21日後における、窒素欠乏状態へと誘導されているトマトの茎径の経時変化、および対照体の茎径の経時変化を表すチャート図である。
【図2】図2(a)は、窒素欠乏処理の日から1日後における、被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図2(b)は、窒素欠乏処理の日から2日後における、被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図2(c)は、窒素欠乏処理の日から11日後における、被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図2(d)は、窒素欠乏処理の日から14日後における、被検体(窒素)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図である。
【図3】図3は、リン欠乏処理を行ってから0日〜21日後における、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと、対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図である。
【図4】図4(a)は、リン欠乏処理から2日後における、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図4(b)は、リン欠乏処理から9日後における、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図であり、図4(c)は、リン欠乏処理から17日後における、被検体(リン)の茎径の経時変化パターンと対照体の茎径の経時変化パターンとを表すチャート図である。
【図5】図5は、カリウム欠乏処理を行ってから0日〜21日後における、被検体(カリウム)の茎径の経時変化パターン、および対照体の茎径の経時変化パターンを表すチャート図である。
【図6】図6(a)は、カリウム欠乏処理から1日後における、被検体(カリウム)の茎径の経時変化および対照体の茎径の経時変化を表すチャート図であり、図6(b)は、カリウム欠乏処理から2日後における、被検体(カリウム)の茎径の経時変化と対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図であり、図6(c)は、カリウム欠乏処理から4日後における、被検体(カリウム)の茎径の経時変化と対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図であり、図6(d)は、カリウム欠乏処理から6日後における、被検体(カリウム)の茎径の経時変化と対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図であり、図6(e)は、カリウム欠乏処理から15日後における、被検体(カリウム)の茎径の経時変化と対照体の茎径の経時変化とを表すチャート図である。
【図7】本発明の植物の栽培装置を説明するフローチャートである。
【図8】実施例2における各実験区の茎径の経時変化パターンを示し、図8(a)は処理開始後5日目のN欠乏区の茎径の経時変化パターン、図8(b)は処理開始後5日目のP欠乏区の茎径の経時変化パターン、図8(c)は処理開始後5日目のK欠乏区の茎径の経時変化パターンである。
【図9】実施例2において、P欠乏状態と判断された日の翌日の午前7:30から、コントロール区と同様の濃度となるようにPを添加し20日間栽培した場合の個体の乾燥重量(「P欠乏区(P添加あり)」)、Pを添加せずに20日間栽培した場合の個体の乾燥重量(「P欠乏区(P添加なし)」)、コントロール区の20日目の個体の乾燥重量(「コントロール区」)、処理0日目の個体の乾燥重量(「0日目」)を示すヒストグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の栽培方法であって、下記の(i)〜(iii)を含むことを特徴とする方法:
(i)植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する測定工程;
(ii)当該植物が被検体である場合の被検体経時変化パターンと、当該植物が所望の環境で栽培された対照体である場合の対照体経時変化パターンとを比較する比較工程;および
(iii)上記比較工程において、被検体経時変化パターンが上記対照体経時変化パターンと一致しなくなった場合に、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする適正化工程。
【請求項2】
上記測定工程は、第一暗期、明期、第二暗期の順の光周期で植物を栽培した時の、当該植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定する工程であり、かつ
上記比較工程は、被検体と対照体とにおいて、明期における外径の経時変化量の最大絶対値、および、第二暗期になった時から植物の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間を、被検体と対照体との間で比較する工程であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記比較工程において、
被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値未満であり、かつ
対照体の特定部位の外径の経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して短い場合に、当該被検体の植物の栽培環境は窒素欠乏状態にあると評価することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記比較工程において、
被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値未満であり、かつ
対照体の特定部位の外径経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して長い場合に、当該被検体の植物の栽培環境はリン欠乏状態にあると評価することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記比較工程において、
被検体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値が、対照体の明期における外径の経時変化量の最大絶対値よりも大きく、かつ
対照体の特定部位の外径の経時変化量が第二暗期になった時から第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間が、第二暗期になった時から被検体の特定部位の外径の経時変化量が第一暗期における経時変化量の最大値に戻るまでの時間に比して短い場合に、当該被検体の植物の栽培環境はカリウム欠乏状態にあると評価することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
上記適正化工程は、
上記植物の栽培環境が、窒素欠乏状態にあると評価された場合に、栽培環境中に窒素を添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする工程であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
上記適正化工程は、
上記植物の栽培環境が、リン欠乏状態にあると評価された場合に、栽培環境中にリンを添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする工程であることを特徴とする請求項1、2、4の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
上記適正化工程は、
上記植物の栽培環境が、カリウム欠乏状態にあると評価された場合に、栽培環境中にカリウムを添加し、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにする工程であることを特徴とする請求項1、2、5の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
上記測定工程は、歪みゲージ式変位法を用いて測定されることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記特定部位が、茎または果実であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
植物の栽培を水耕栽培法で行うことを特徴とする、請求項1〜10の何れか1項に記載の植物の栽培方法。
【請求項12】
植物の栽培装置であって、下記の(iv)〜(vi)を備えることを特徴とする装置:
(iv)植物の特定部位の外径の経時変化パターンを測定するための測定手段;
(v)当該植物が被検体である場合の被検体経時変化パターンと、当該植物が所望の環境で栽培された対照体である場合の対照体経時変化パターンとを比較するための比較手段;および
(vi)上記比較において、被検体経時変化パターンが上記対照体経時変化パターンと一致しなくなった場合に、被検体経時変化パターンを上記対照体経時変化パターンに合致させるようにするための適正化手段。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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