説明

植物の温度ストレスによる影響を軽減する方法

【課題】植物の温度ストレスによる影響を軽減する方法を提供すること。
【解決手段】温度ストレスに暴露された又は暴露されるであろう植物に、下記式(I)で示される化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物を施用する。


[式中、Rはフェニル基、ナフチル基又は芳香族複素環基を示し、これらの基はハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基等で置換されていてもよく、Rは水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、Xは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Yは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の温度ストレスによる影響を軽減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物が、生育もしくは発芽の適温の上限または下限を超えるような環境要因、いわゆる温度ストレスに遭遇すると、緩やかにあるいは急激に細胞の生理機能が低下して様々な障害が現れる場合がある。植物ホルモンや植物生長調節剤等のいくつかの化学物質に、植物の温度ストレスによる影響を軽減する効果を有するものがあることが知られているが、実際には効果の点では十分とはいえない。一方で、4−オキソ−4−[(2−フェニルエチル)アミノ]−酪酸およびその誘導体は、根部の生長を促進する活性を有することが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1参照)。しかし、植物の温度ストレスによる影響の軽減効果については、知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4087942号公報
【特許文献2】特開2001−139405
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Plant and Soil 255: 67-75 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物の温度ストレスによる影響を軽減する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の化合物を施用された植物は、温度ストレスに暴露された場合においても、当該ストレスによる影響が抑制されることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち、本発明は次の通りの構成をとるものである。
[1]
植物の温度ストレスによる影響を軽減する方法であって、
温度ストレスに暴露された又は暴露されるであろう植物に、有効量の下記式(I)で示される化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物(以下、本化合物と記すことがある。)を施用することを特徴とする方法(以下、本発明方法と記すことがある。);

式(I)

[式中、Rはフェニル基、ナフチル基又は芳香族複素環基を示し、これらの基はハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルキニル基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基及びジ(炭素数1〜6のアルキル)アミノ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよく、
は水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、
Xは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基を示し、
Yは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基を示す。]
[2]
式(I)において
がフェニル基、1−ナフチル基又は3−インドリル基(但し、これらの基はその水素原子がハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基及び炭素数1〜6のアルコキシ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよい)であり、
が、水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基であり、
Xが、直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基であり、
Yが、直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基である、
前項1記載の方法;
[3]
式(I)において、
がフェニル基、4−ヨードフェニル基、1−ナフチル基又は3−インドリル基であり、
が水酸基又はメトキシ基であり、
Xがエチレン基又はテトラメチレン基であり、
Yがエチレン基又はトリメチレン基である前項1記載の方法;
[4]
式(I)で示される化合物が、下記化合物群Aから選ばれる化合物である前項1記載の方法;
<化合物群A>
(1)4−オキソ−4−(2−フェニルエチル)アミノ酪酸(以下、化合物aと記すことがある。)
(2)4−オキソ−4−(4−フェニルブチル)アミノ酪酸メチル(以下、化合物bと記すことがある。)
(3)4−オキソ−4−(2−フェニルエチル)アミノ酪酸メチル(以下、化合物cと記すことがある。)
(4)4−オキソ−4−(4−フェニルブチル)アミノ酪酸(以下、化合物dと記すことがある。)
(5)5−オキソ−5−[2−(3−インドリル)エチル]アミノ吉草酸(以下、化合物eと記すことがある。)
(6)5−オキソ−5−[(1−ナフチル)メチル]アミノ吉草酸(以下、化合物fと記すことがある。)
(7)4−オキソ−4−[2−(4−ヨードフェニル)エチル]アミノ酪酸メチル(以下、化合物gと記すことがある。)
[5]
施用が、土壌灌注処理、散布処理、水耕処理又は種子処理である前項1〜4記載の方法;
[6]
種子処理が、本化合物を100kg種子当り30〜500g処理する種子処理である前項5記載の方法;
[7]
植物がイネ、トウモロコシ、ダイズ、コムギ又はトマトである前項1〜6記載の方法;[8]
植物が遺伝子組換え植物である前項1〜7記載の方法;
[9]
温度ストレスが高温ストレスである前項1〜8記載の方法;
[10]
温度ストレスが低温ストレスである前項1〜8記載の方法;
[11]
温度ストレスによる影響が、以下の(1)〜(11)に記載の少なくとも1つの植物表現型の変化により示される前項1〜10記載の方法;
<植物表現型>
(1)発芽率
(2)苗立ち率
(3)健全葉数
(4)草丈
(5)植物重量
(6)葉面積
(7)葉色
(8)種子・果実の数又は重量
(9)収穫物の品質
(10)着花率、着果率
(11)クロロフィル蛍光収率
[12]
植物の温度ストレスによる影響を軽減するための、前記式(I)で示される化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物の使用;
[13]
温度ストレスによる影響が、以下の(1)〜(11)に記載の少なくとも1つの植物表現型の変化により示される、前項12記載の使用;
<植物表現型>
(1)発芽率
(2)苗立ち率
(3)健全葉数
(4)草丈
(5)植物重量
(6)葉面積
(7)葉色
(8)種子・果実の数又は重量
(9)収穫物の品質
(10)着花率、着果率
(11)クロロフィル蛍光収率
【発明の効果】
【0008】
本発明方法を用いることによって、植物の温度ストレスによる影響を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においては、植物が生育もしくは発芽の適温の上限または下限を超えるような適温外の温度環境に暴露された結果、植物細胞の生理機能の低下を来たすような環境要因を「温度ストレス」と総称し、適温の上限を超える場合を高温ストレス、適温の下限を超える場合を低温ストレスという。植物の生育適温または発芽適温は植物によって異なり、一般的に発芽適温は生育適温より高温になる場合が多い。
植物の温度ストレスによる影響は、温度ストレスに暴露されていない植物と暴露された植物とを次の植物表現型の変化について比較することにより、把握される。即ち、当該植物表現型は植物の温度ストレスによる影響の指標となる。
<植物表現型>
(1)発芽率
(2)苗立ち率
(3)健全葉数
(4)草丈
(5)植物重量
(6)葉面積
(7)葉色
(8)種子・果実の数又は重量
(9)収穫物の品質
(10)着花率、着果率
(11)クロロフィル蛍光収率
【0010】
本明細書においては、温度ストレスを以下の式であらわされる「ストレスの強さ」によって定量化することができる。
【0011】
式:「ストレスの強さ」=100×「温度ストレスに暴露されていない植物におけるいずれか一つの植物表現型」/「温度ストレスに暴露された植物における当該いずれか一つの植物表現型」
【0012】
本発明方法は、前記式で表される「ストレスの強さ」が、105〜200、好ましくは110〜180、より好ましくは120〜160である温度ストレスに暴露された又は暴露されるであろう植物に適用するものである。
【0013】
植物が温度ストレスに暴露されることによって、前記の表現型の少なくとも1つが変化する。すなわち、温度ストレスにより、
(1)発芽率低下
(2)苗立ち率低下
(3)健全葉数の減少
(4)草丈低下
(5)植物重量減少
(6)葉面積増加率の低下
(7)葉色退色
(8)種子あるいは果実の数又は重量の減少
(9)収穫物の品質の悪化
(10)着花率、着果率の低下
(11)クロロフィル蛍光収率の低下
等が観察され、これを指標として植物の温度ストレスによる影響の大きさを測定することができる。
本発明は、式(I)で示される化合物を植物に施用することにより、温度ストレスに暴露された又は暴露されるであろう植物の前記温度ストレスによる影響を軽減する方法である。温度ストレスによる影響の軽減効果は、式(I)で示される化合物を処理した植物と処理しない植物とを、当該植物が温度ストレスに暴露された後の前記指標を比較することによって評価することができる。
本発明において対象となる植物が温度ストレスに暴露されうるステージは、発芽期、栄養生長期、生殖生長期、収穫期を含む全ての植物の生育ステージを含む。
本発明に使用される本化合物の施用時期は、植物のいずれの生育ステージであってもよく、例えば、播種時前、播種時、播種後出芽前後などの発芽期、育苗時、苗移植時、挿し木又は挿し苗時、定植後の生育時などの栄養生長期、開花前、開花中、開花後、出穂直前又は出穂期などの生殖生長期、収穫予定前、成熟予定前、果実の着色開始期などの収穫期が挙げられる。また、本化合物の施用対象は、温度ストレスに暴露された植物であっても暴露されるであろう植物であってもよい。即ち、温度ストレスに暴露された植物のみならず、温度ストレスに暴露される前の植物に予防的に適用することもできる。
【0014】
本発明方法において使用される本化合物は、
下記式(I)

[式中、Rはフェニル基、ナフチル基又は芳香族複素環基を示し、これらの基はハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルキニル基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基及びジ(炭素数1〜6のアルキル)アミノ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよく、
は水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、
Xは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基を示し、
Yは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基を示す。]
で示される化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物である。
【0015】
式(1)で表される化合物は、特許第4087942号公報または特開2001−139405に記載された化合物であり、例えば、当該公報に記載された方法によって合成することができる。
【0016】
本化合物として、好ましくは、式(I)において、
がフェニル基、1−ナフチル基又は3−インドリル基(但し、これらの基はその水素原子がハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基及び炭素数1〜6のアルコキシ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよい)であり、
が、水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基であり、
Xが、直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基であり、
Yが、直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基である、
化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物
が挙げられる。
本化合物として、さらに好ましくは、式(I)において、
がフェニル基、4−ヨードフェニル基、1−ナフチル基又は3−インドリル基であり、
が水酸基又はメトキシ基であり、
Xがエチレン基又はテトラメチレン基であり、
Yがエチレン基又はトリメチレン基である
化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物
が挙げられる。
【0017】
本化合物として、具体的には、
<化合物群A>
(1)4−オキソ−4−(2−フェニルエチル)アミノ酪酸
(2)4−オキソ−4−(4−フェニルブチル)アミノ酪酸メチル
(3)4−オキソ−4−(2−フェニルエチル)アミノ酪酸メチル
(4)4−オキソ−4−(4−フェニルブチル)アミノ酪酸
(5)5−オキソ−5−[2−(3−インドリル)エチル]アミノ吉草酸
(6)5−オキソ−5−[(1−ナフチル)メチル]アミノ吉草酸
(7)4−オキソ−4−[2−(4−ヨードフェニル)エチル]アミノ酪酸メチル
を挙げることができ、当該化合物は、植物の温度ストレスによる影響を効果的に軽減しうる点から好ましい。
【0018】
式(1)で表される化合物は、塩基との塩であってもよい。式(1)で表される化合物の塩基性塩は次に挙げられるものである。
アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、またはマグネシウムの塩);アンモニアとの塩;モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノ−低級アルキルアミン、ジ−低級アルキルアミン、トリ−低級アルキルアミン、モノ−ヒドロキシ低級アルキルアミン、ジ−ヒドロキシ低級アルキルアミン、トリ−ヒドロキシ低級アルキルアミン等の有機アミンとの塩。
【0019】
本発明方法において使用する場合の本化合物は、本化合物のみでも使用することが可能であるが、後述するとおり種々の不活性成分を用いて製剤化して使用することができる。
【0020】
製剤化の際に用いられる固体担体としては、例えばカオリンクレー、アッタパルジャイトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、酸性白土、パイロフィライト、タルク、珪藻土、方解石等の鉱物、トウモロコシ穂軸粉、クルミ殻粉等の天然有機物、尿素等の合成有機物、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム等の塩類、合成含水酸化珪素等の合成無機物等からなる微粉末又は粒状物等が挙げられ、液体担体としては、例えばキシレン、アルキルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、ダイズ油、綿実油等の植物油、石油系脂肪族炭化水素類、エステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、及び水が挙げられる。
【0021】
界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル塩、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネートホルモアルデヒド重縮合物等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルトリメチルアンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤が挙げられる。
【0022】
その他の製剤用補助剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、アラビアガム、アルギン酸及びその塩、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ザンサンガム等の多糖類、アルミニウムマグネシウムシリケート、アルミナゾル等の無機物、防腐剤、着色剤、及びPAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT等の安定化剤が挙げられる。
【0023】
本発明方法は、通常、本化合物の有効量を植物又はその生育場所に施用することにより行われる。施用対象となる植物とは、茎葉、芽、花、果実、穂、種子、球根、塊茎、根、苗等が挙げられる。ここで球根とは、鱗茎、球茎、根茎、塊根、および担根体を意味する。また、苗としては、本明細書においては、挿し木、種黍等を含むものとする。植物の生育場所としては、植物を植えつける前または植えつけた後の土壌等が挙げられる。
植物又は植物の生育場所に施用する場合は、本化合物は、対象植物に対して、1回もしくは複数回処理する。
【0024】
本発明方法における施用方法としては、具体的には、例えば、茎葉散布等の植物の茎葉、花器又は穂への処理、土壌処理等の植物の栽培地への処理、種子消毒・種子浸漬・種子コート等の種子への処理、苗への処理、種芋等の球根への処理等が挙げられる。
【0025】
本発明方法における植物の茎葉、花器又は穂への処理としては、具体的には、例えば、茎葉散布、樹幹散布等の植物の表面に施用する処理方法が挙げられる。また、開花前、開花中、開花後を含む開花時期における花器あるいは植物全体に散布処理する方法が挙げられる。また、穀物等おいては出穂時期の穂あるいは植物全体に散布する方法が挙げられる。
【0026】
本発明方法における土壌処理方法としては、例えば、土壌への散布、土壌混和、土壌への薬液潅注(薬液潅水、土壌注入、薬液ドリップ)が挙げられ、処理する場所としては例えば、植穴、作条、植穴付近、作条付近、栽培地の全面、植物地際部、株間、樹幹下、主幹畦、培土、育苗箱、育苗トレイ、苗床等が挙げられ、処理時期としては播種前、播種時、播種直後、育苗期、定植前、定植時、及び定植後の生育期等が挙げられる。また、上記土壌処理において、複数種の本化合物を植物に同時に処理してもよく、本化合物を含有するペースト肥料等の固形肥料を土壌へ施用してもよい。また、本化合物を潅水液に混合してもよく、例えば、潅水設備(潅水チューブ、潅水パイプ、スプリンクラー等)への注入、条間湛水液への混入、水耕液へ混入等が挙げられる。また、あらかじめ潅水液と本化合物を混合し、例えば、上記潅水方法やそれ以外の散水、湛水等のしかるべき潅水方法を用いて処理することができる。また、シート状やひも状等に加工した樹脂製剤を作物に巻き付ける、作物の近傍に張り渡す及び/又は株元の土壌表面に敷く等の方法で本化合物を使用することもできる。
【0027】
本発明方法における種子への処理としては、例えば、温度ストレスから保護しようとする植物の種子、球根等に本化合物を処理する方法であって、具体的には、例えば、本化合物の懸濁液を霧状にして種子表面もしくは球根表面に吹きつける吹きつけ処理、本化合物の水和剤、乳剤、またはフロアブル剤等に少量の水を加えるか、またはそのままで種子もしくは球根に塗付する塗沫処理、本化合物の溶液に一定時間種子を浸漬する浸漬処理、フィルムコート処理、ペレットコート処理が挙げられる。
【0028】
本発明方法における苗への処理としては、例えば、本化合物を水で適当な有効成分濃度に希釈調製した希釈液を苗全体に散布する散布処理、その希釈液に苗を浸漬する浸漬処理、粉剤に調製した本化合物を苗全体に付着させる塗布処理が挙げられる。また、苗を植えつける前または植えつけた後の土壌への処理としては、例えば、本化合物を水で適当な有効成分濃度に希釈調製した希釈液を、苗を植えつけた後に苗及び周辺土壌に散布する方法、粒剤または粒剤等の固形剤に調製した本化合物を、苗を植えつけた後周辺土壌に散布する方法が挙げられる。
また、本化合物は水耕栽培における水耕液に混合して用いてもよく、また組織培養における培地成分の1つとして用いてもよい。水耕栽培に使用する場合は、通常用いられる園試等の水耕栽培用の培地に培地中濃度として0.001ppm〜10000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。また組織培養や細胞培養時に使用する場合は、通常用いられるMS培地等の植物組織培養用の培地に、培地中濃度として0.001ppm〜10000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。この場合、定法に従い、炭素源としての糖類、各種植物ホルモン等を適宜加えることができる
本化合物を、植物または植物の生育場所に処理する場合、その処理量は、処理する植物の種類、製剤形態、処理時期、気象条件等によって変化させ得るが、1000m2あたり有効成分量として、通常0.1〜1000g、好ましくは1〜500gの範囲である。
土壌に全面混和する場合は、その処理量は、1000m2あたり有効成分量として、通常0.1〜1000g、好ましくは1〜500gである。
乳剤、水和剤、フロアブル剤、マイクロカプセル剤等は、通常水で希釈して散布することにより処理する。この場合、有効成分の濃度は、通常0.01〜10000ppm、好ましくは1〜5000ppmの範囲である。粉剤、粒剤等は通常希釈することなくそのまま処理する。
種子への処理においては、種子1粒に対する本化合物の重量としては、通常0.0001〜5mg、好ましくは0.005〜1mgの範囲であり、種子100kgに対する本化合物の重量としては、通常5〜1000g、好ましくは30〜500g、さらに好ましくは50〜200gの範囲である。また、種子を浸漬処理する場合は、有効成分の濃度が0.01〜10000ppmの範囲で溶解または懸濁して用いることができる。
苗への処理においては、苗1つに対する本化合物の重量としては、通常0.01〜20mg、好ましくは0.1〜10mgの範囲である。苗を植えつける前または植えつけた後の土壌への処理においては、1000m2あたり本化合物の重量としては、通常0.1〜100g、好ましくは1〜50gの範囲である。
本発明により温度ストレスによる影響の軽減が可能な植物として、以下のようなものが挙げられる。
【0029】
農作物;トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、エンバク、ソルガム、ワタ、ダイズ、ピーナッツ、ソバ、テンサイ、キャノーラ、ナタネ、ヒマワリ、サトウキビ、タバコ、エンドウ等、
野菜;ナス科野菜(ナス、トマト、ピーマン、トウガラシ、ジャガイモ等)、ウリ科野菜(キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、スイカ、メロン、スカッシュ等)、アブラナ科野菜(ダイコン、カブ、セイヨウワサビ、コールラビ、ハクサイ、キャベツ、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワー等)、キク科野菜(ゴボウ、シュンギク、アーティチョーク、レタス等)、ユリ科野菜(ネギ、タマネギ、ニンニク、アスパラガス)、セリ科野菜(ニンジン、パセリ、セロリ、アメリカボウフウ等)、アカザ科野菜(ホウレンソウ、フダンソウ等)、シソ科野菜(シソ、ミント、バジル等)、イチゴ、サツマイモ、ヤマノイモ、サトイモ等、
花卉、
観葉植物、
シバ、
果樹;仁果類(リンゴ、セイヨウナシ、ニホンナシ、カリン、マルメロ等)、核果類(モモ、スモモ、ネクタリン、ウメ、オウトウ、アンズ、プルーン等)、カンキツ類(ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、堅果類(クリ、クルミ、ハシバミ、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツ、マカダミアナッツ等)、液果類(ブルーベリー、クランベリー、ブラックベリー、ラズベリー等)、ブドウ、カキ、オリーブ、ビワ、バナナ、コーヒー、ナツメヤシ、ココヤシ等、
果樹以外の樹;チャ、クワ、花木、街路樹(トネリコ、カバノキ、ハナミズキ、ユーカリ、イチョウ、ライラック、カエデ、カシ、ポプラ、ハナズオウ、フウ、プラタナス、ケヤキ、クロベ、モミノキ、ツガ、ネズ、マツ、トウヒ、イチイ)等。
【0030】
本発明により温度ストレスによる影響の軽減が可能な植物として、より好ましくはイネ、トウモロコシ、ダイズ、コムギ、トマトなどが挙げられる。
【0031】
上記「植物」とは、イソキサフルトール等のHPPD阻害剤、イマゼタピル、チフェンスルフロンメチル等のALS阻害剤、グリホサート等のEPSP合成酵素阻害剤、グルホシネート等のグルタミン合成酵素阻害剤、セトキシジム等のアセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤、ブロモキシニル、ジカンバ、2,4−D等の除草剤に対する耐性を古典的な育種法、もしくは遺伝子組換え技術により付与された植物も含まれる。
【0032】
古典的な育種法により耐性を付与された「植物」の例として、イマゼタピル等のイミダゾリノン系ALS阻害型除草剤に耐性のナタネ、コムギ、ヒマワリ、イネがありClearfield(登録商標)の商品名で既に販売されている。同様に古典的な育種法によるチフェンスルフロンメチル等のスルホニルウレア系ALS阻害型除草剤に耐性のダイズがあり、STSダイズの商品名で既に販売されている。同様に古典的な育種法によりトリオンオキシム系、アリールオキシフェノキシプロピオン酸系除草剤等のアセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤に耐性が付与された植物の例としてSRコーン等がある。アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤に耐性が付与された植物は、プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、1990年、87巻、p.7175−7179等に記載されている。また、アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤に耐性の変異アセチルCoAカルボキシラーゼが、ウィード・サイエンス(Weed Science)、2005年、53巻、p.728−746等に報告されており、こうした変異アセチルCoAカルボキシラーゼ遺伝子を遺伝子組換え技術により植物に導入するかもしくは抵抗性付与に関わる変異を植物アセチルCoAカルボキシラーゼに導入することにより、アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤に耐性の植物を作出することができる。さらに、キメラプラスティ技術(Gura T.1999.Repairing the Genome's Spelling Mistakes. Science 285:316-318.)に代表される塩基置換変異導入核酸を植物細胞内に導入して植物のアセチルCo
Aカルボキシラーゼ遺伝子やALS遺伝子等に部位特異的アミノ酸置換変異を導入することにより、アセチルCoAカルボキシラーゼ阻害剤やALS阻害剤等に耐性の植物を作出することができる。
【0033】
遺伝子組換え技術により耐性を付与された植物の例として、グリホサート耐性のトウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネ、テンサイ品種があり、ラウンドアップレディ(RoundupReady(登録商標))、AgrisureGT等の商品名で既に販売されている。同様に遺伝子組換え技術によるグルホシネート耐性のトウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネ品種があり、リバティーリンク(LibertyLink(登録商標))等の商品名で既に販売されている。同様に遺伝子組換え技術によるブロモキシニル耐性のワタはBXNの商品名で既に販売されている。
【0034】
上記「植物」とは、遺伝子組換え技術を用いて、例えば、バチルス属で知られている選択的毒素等を合成することが可能となった植物も含まれる。
【0035】
この様な遺伝子組換え植物で発現される毒素として、バチルス・セレウスやバチルス・ポピリエ由来の殺虫性タンパク;バチルス・チューリンゲンシス由来のCry1Ab、Cry1Ac、Cry1F、Cry1Fa2、Cry2Ab、Cry3A、Cry3Bb1またはCry9C等のδ−エンドトキシン、VIP1、VIP2、VIP3またはVIP3A等の殺虫タンパク;線虫由来の殺虫タンパク;さそり毒素、クモ毒素、ハチ毒素または昆虫特異的神経毒素等動物によって産生される毒素;糸状菌類毒素;植物レクチン;アグルチニン;トリプシン阻害剤、セリンプロテアーゼ阻害剤、パタチン、シスタチン、パパイン阻害剤等のプロテアーゼ阻害剤;リシン、トウモロコシ−RIP、アブリン、ルフィン、サポリン、ブリオジン等のリボゾーム不活性化タンパク(RIP);3−ヒドロキシステロイドオキシダーゼ、エクジステロイド−UDP−グルコシルトランスフェラーゼ、コレステロールオキシダーゼ等のステロイド代謝酵素;エクダイソン阻害剤;HMG−CoAリダクターゼ;ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル阻害剤等のイオンチャネル阻害剤;幼若ホルモンエステラーゼ;利尿ホルモン受容体;スチルベンシンターゼ;ビベンジルシンターゼ;キチナーゼ;グルカナーゼ等が挙げられる。
【0036】
また、この様な遺伝子組換え植物で発現される毒素として、Cry1Ab、Cry1Ac、Cry1F、Cry1Fa2、Cry2Ab、Cry3A、Cry3Bb1、Cry9C、Cry34AbまたはCry35Ab等のδ−エンドトキシンタンパク、VIP1、VIP2、VIP3またはVIP3A等の殺虫タンパクのハイブリッド毒素、一部を欠損した毒素、修飾された毒素も含まれる。ハイブリッド毒素は組換え技術を用いて、これらタンパクの異なるドメインの新しい組み合わせによって作り出される。一部を欠損した毒素としては、アミノ酸配列の一部を欠損したCry1Abが知られている。修飾された毒素としては、天然型の毒素のアミノ酸の1つまたは複数が置換されている。
【0037】
これら毒素の例、及びこれら毒素を合成することができる組換え植物は、EP−A−0374753、WO93/07278、WO95/34656、EP−A−0427529、EP−A−451878、WO03/052073等に記載されている。
【0038】
これらの組換え植物に含まれる毒素は、特に、甲虫目害虫、半翅目害虫、双翅目害虫、鱗翅目害虫、線虫類への耐性を植物へ付与する。
【0039】
また、1つもしくは複数の殺虫性の害虫抵抗性遺伝子を含み、1つまたは複数の毒素を発現する遺伝子組換え植物は既に知られており、いくつかのものは市販されている。これら遺伝子組換え植物の例として、YieldGard(登録商標)(Cry1Ab毒素を発現するトウモロコシ品種)、YieldGard Rootworm(登録商標)(Cry3Bb1毒素を発現するトウモロコシ品種)、YieldGard Plus(登録商標)(Cry1Ab毒素とCry3Bb1毒素とを発現するトウモロコシ品種)、Herculex I(登録商標)(Cry1Fa2毒素と、グルホシネートへの耐性を付与する為にホスフィノトリシン N−アセチルトランスフェラーゼ(PAT)とを発現するトウモロコシ品種)、NuCOTN33B(登録商標)(Cry1Ac毒素を発現するワタ品種)、Bollgard I(登録商標)(Cry1Ac毒素を発現するワタ品種)、Bollgard II(登録商標)(Cry1Ac毒素とCry2Ab毒素とを発現するワタ品種)、VIPCOT(登録商標)(VIP毒素を発現するワタ品種)、NewLeaf(登録商標)(Cry3A毒素を発現するジャガイモ品種)、NatureGard(登録商標)Agrisure(登録商標)GT Advantage(GA21 グリホサート耐性形質)、Agrisure(登録商標)CB Advantage(Bt11コーンボーラー(CB)形質)、Protecta(登録商標)等が挙げられる。
【0040】
上記「植物」とは、遺伝子組換え技術を用いて、選択的な作用を有する抗病原性物質を産生する能力を付与されたものも含まれる。
抗病原性物質の例として、PRタンパク等が知られている(PRPs、EP−A−0392225)。このような抗病原性物質とそれを産生する遺伝子組換え植物は、EP−A−0392225、WO95/33818、EP−A−0353191等に記載されている。
こうした遺伝子組換え植物で発現される抗病原性物質の例として、例えば、ナトリウムチャネル阻害剤、カルシウムチャネル阻害剤(ウイルスが産生するKP1、KP4、KP6毒素等が知られている。)等のイオンチャネル阻害剤;スチルベンシンターゼ;ビベンジルシンターゼ;キチナーゼ;グルカナーゼ;PRタンパク;ペプチド抗生物質、ヘテロ環を有する抗生物質、植物病害抵抗性に関与するタンパク因子(植物病害抵抗性遺伝子と呼ばれ、WO03/000906に記載されている。)等の微生物が産生する抗病原性物質等が挙げられる。このような抗病原性物質とそれを産生する遺伝子組換え植物は、EP−A−0392225、WO95/33818、EP−A−0353191等に記載されている。
【0041】
上記「植物」とは、遺伝子組換え技術を用いて、油糧成分改質やアミノ酸含量増強形質等の有用形質を付与した植物も含まれる。例として、VISTIVE(登録商標)(リノレン含量を低減させた低リノレン大豆)又はhigh−lysine(high−oil)corn(リジン又はオイル含有量を増量したコーン)等が挙げられる。
【0042】
さらに、上記の古典的な除草剤形質又は除草剤耐性遺伝子、殺虫性害虫抵抗性遺伝子、抗病原性物質産生遺伝子、油糧成分改質やアミノ酸含量増強形質等の有用形質について、これらを複数組み合わせたスタック品種も含まれる。
【0043】
植物はその生育適温又は発芽適温よりも高い温度に暴露された場合、生体内の生理代謝機能が低下し、生育又は発芽が阻害されて植物の活力の低下を来たし、高温ストレスに暴露された状態となる。具体的には、植物が生育期にある場合、高温ストレスとなる条件としては、植物が栽培されている環境における平均栽培温度が25℃以上、より厳しくは30℃以上、更に厳しくは35℃以上である条件を挙げることができる。本発明方法を用いれば、このような高温ストレス条件下において植物の温度ストレスによる影響を軽減することが可能となる。そして、植物の温度ストレスによる影響が軽減されたことは、前記の温度ストレスによる影響を示す指標を測定することによって評価することができる。
【0044】
また、植物はその生育適温又は発芽適温よりも低い温度に植物が暴露された場合、生体内の生理代謝機能が低下し、生育又は発芽が阻害されて植物の活力の低下を来たし、低温ストレスに暴露された状態となる。具体的には、植物が生育期にある場合、低温ストレスとなる条件としては、植物が栽培されている環境における平均栽培温度が15℃以下、より厳しくは10℃以下、更に厳しくは5℃以下である条件を挙げることができる。本発明方法を用いれば、このような低温ストレス条件下において植物の温度ストレスによる影響を軽減することが可能となる。そして、植物の温度ストレスによる影響が軽減されたことは、前記の温度ストレスによる影響を示す指標の改善を測定することによって評価することができる。
【0045】
本発明では、温度ストレスによる影響の指標として、(1)発芽率、(2)苗立ち率、(3)健全葉数、(4)草丈、(5)植物重量、(6)葉面積、(7)葉色、(8)種子あるいは果実の数又は重量、(9)
収穫物の品質、(10)着花率、着果率、(11)クロロフィル蛍光収率などの植物表現型を用いることができる。
【0046】
当該指標は、次のようにして測定することができる。
(1)発芽率
植物の種子を、例えば土壌中、ろ紙上、寒天培地上、砂上などに播種して発芽させ、播種数に対する発芽数の割合を調査する。
(2)苗立ち率
植物の種子を、例えば土壌中、ろ紙上、寒天培地上、砂上などに播種し、一定期間栽培する。栽培の全ての期間中あるいは一部の期間中に温度ストレスを負荷した後、生き残った幼植物の割合を調査する。
(3)健全葉数
各植物について健全な葉の枚数を数え、総健全葉数を調査する。あるいは植物の全ての葉数に対する健全葉数の割合を調査する。
(4)草丈
各植物について地上部分の茎の根元から先端の枝葉までの長さを測定する。
(5)植物重量
各植物の地上部を切り取り、重量を測定して、植物新鮮重量を求める、あるいは切り取ったサンプルを乾燥させた後に重量を測定して、植物乾燥重量を求める。
(6)葉面積
植物をデジタルカメラで撮影し、写真の緑色の部分の面積を画像解析ソフト例えばWin ROOF(三谷商事社製)で定量することにより、植物の葉面積を求める。
(7)葉色
植物の葉をサンプリングし、葉緑素計(例えばSPAD−502、コニカミノルタ製)を用いて葉緑素量を測定することにより、葉色を求める。
(8)種子あるいは果実の数又は重量
植物を果実が結実あるいは完熟するまで栽培した後、植物当りの果実数を計測あるいは植物当りの総果実重量を測定する。また、種子が登熟するまで栽培した後、例えば穂数、登熟歩合、千粒重などの収量構成要素を調査する。
(9)収穫物の品質
植物を果実が完熟するまで栽培した後、例えば糖度計を用いて、完熟果の糖度を測定することで収穫物の品質を評価する。
(10)着花率、着果率
植物を着果するまで栽培した後、着花数と着果数をかぞえ着果率%(着果数/着花数×100)を求める。
(11)クロロフィル蛍光収率
パルス変調クロロフィル蛍光測定装置(例えば、IMAGING-PAM、WALZ社製)を用いて、植物のクロロフィル蛍光値(Fv/Fm)を測定することによって、クロロフィル蛍光収率を求める。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を製剤例、処理例、及び試験例にてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の例のみに限定されるものではない。なお、以下の例において、部は特にことわりの無い限り重量部を示す。
【0048】
製剤例1
本化合物を3.75部、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエ−テル14部、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム6部、及びキシレン76.25部をよく混合することにより乳剤を得る。
【0049】
製剤例2
本化合物を10部、ホワイトカーボンとポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩との混合物(重量割合1:1)35部、及び水55部を混合し、湿式粉砕法で微粉砕することによりフロアブル製剤を得る。
【0050】
製剤例3
本化合物を15部、ソルビタントリオレエ−ト1.5部、及びポリビニルアルコ−ル2部を含む水溶液28.5部を混合し、湿式粉砕法で微粉砕した後、この中にキサンタンガム0.05部及びアルミニウムマグネシウムシリケ−ト0.1部を含む水溶液45部を加え、さらにプロピレングリコ−ル10部を加えて攪拌混合しフロアブル製剤を得る。
【0051】
製剤例4
本化合物を45部、プロピレングリコールを5部(ナカライテスク製)、Soprophor FLKを5部(ローディア日華製)、アンチフォームCエマルションを0.2部(ダウコーニング社製)、プロキセルGXLを0.3部(アーチケミカル製)、及びイオン交換水を49.5部の割合で混合し、原体スラリーを調製する。該スラリー100部に150部のガラスビーズ(Φ=1mm)を投入し、冷却水で冷却しながら、2時間粉砕する。粉砕後、ガラスビーズをろ過により除き、フロアブル製剤を得る。
【0052】
製剤例5
本化合物を50.5部、NNカオリンクレーを38.5部(竹原化学工業製)、Morwet D425を10部、Morwer EFWを1.5部(アクゾノーベル社製)の割合で混合し、AIプレミックスを得る。当プレミックスをジェットミルで粉砕し、粉剤を得る。
【0053】
製剤例6
本化合物を5部、合成含水酸化珪素1部、リグニンスルホン酸カルシウム2部、ベントナイト30部、及びカオリンクレー62部をよく粉砕混合し、水を加えてよく練り合せた後、造粒乾燥することにより粒剤を得る。
【0054】
製剤例7
本化合物を3部、カオリンクレー87部、及びタルク10部をよく粉砕混合することにより粉剤を得る。
【0055】
製剤例8
本化合物を22部、リグニンスルホン酸カルシウム3部、ラウリル硫酸ナトリウム2部、及び合成含水酸化珪素73部をよく粉砕混合することにより水和剤を得る。
【0056】
種子処理例1
製剤例1に準じて作製した乳剤を、ソルガム乾燥種子100kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans−Ulrich Hege GmbH製)を用いて500ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0057】
種子処理例2
製剤例2に準じて作製したフロアブル製剤を、ナタネ乾燥種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans−Ulrich Hege GmbH製)を用いて50ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0058】
種子処理例3
製剤例3に準じて作製したフロアブル製剤を、トウモロコシ乾燥種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans−Ulrich Hege GmbH製)を用いて40ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0059】
種子処理例4
製剤例4に準じて作製したフロアブル製剤を5部、ピグメントBPD6135(Sun Chemical製)を5部、及び水を35部混和し、混和物を調製する。該混和物を、ワタ乾燥種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans−Ulrich Hege GmbH製)を用いて60ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0060】
種子処理例5
製剤例5に準じて作製した粉剤を、トウモロコシ乾燥種子10kgに対し、50g粉衣処理することにより、処理種子を得る。
【0061】
種子処理例6
製剤例7に準じて作製した紛剤を、イネ乾燥種子100kgに対し、40g粉衣処理することにより、処理種子を得る。
【0062】
種子処理例7
製剤例2に準じて作製したフロアブル製剤を、ダイズ乾燥種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans−Ulrich Hege GmbH製)を用いて50ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0063】
種子処理例8
製剤例3に準じて作製したフロアブル製剤を、コムギ乾燥種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans−Ulrich Hege GmbH製)を用いて50ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0064】
種子処理例9
製剤例4に準じて作製したフロアブル製剤を5部、ピグメントBPD6135(Sun Chemical製)を5部、水を35部混和し、ジャガイモ塊茎片10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans−Ulrich Hege GmbH製)を用いて70ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0065】
種子処理例10
製剤例4に準じて作製したフロアブル製剤を5部、ピグメントBPD6135(Sun Chemical製)を5部、水を35部混和し、ヒマワリ種子10kgに対し、回転式種子処理機(シードドレッサー、Hans−Ulrich Hege GmbH製)を用いて70ml塗沫処理することにより、処理種子を得る。
【0066】
種子処理例11
製剤例5に準じて作製した粉剤を、テンサイ乾燥種子10kgに対し、40g粉衣処理することにより、処理種子を得る。
【0067】
試験例1 トマト水耕栽培における高温ストレスによる影響軽減評価試験(健全葉数)
(供試植物)
トマト種子(品種:パティオ)を水耕栽培用スポンジに播種し、1000倍希釈したハイポネックス(ハイポネックスジャパン株式会社製)を水耕液として用い、温度:22-25℃、湿度:55-75%、照度:5000Lux、日長16時間の条件下で、3〜4週間栽培した。3葉期のトマトを試験に供した。
(本化合物の施用)
化合物a、化合物b、化合物c、化合物d、化合物e 、化合物f、化合物gは、各試験濃度の10,000倍濃度のDMSO溶液を調製し、これを蒸留水100mlに対して10μL添加して、供試液とした。化合物aのナトリウム塩は250,000ppm水溶液を調製し、これを100mlの蒸留水に各試験濃度になるように添加し、次いで、DMSOを10μL添加して供試液とした。対照として、蒸留水100mlに対して10μLのDMSOを添加した水溶液を供試液とした。
次に、100mlの各供試液と上記の供試植物3個体を角型カップ(C-AP角カップ88-200身、中央化学株式会社製)に入れ、温度:22-25℃、湿度:55-75%、照度:5000Lux、明期16時間/暗期8時間の条件下で、2日間栽培した。
(高温ストレス試験)
下記の条件に設定した人工気象器に供試液を施用した前記供試植物を入れ、ストレス試験を実施した。
温度:50℃、5時間、照度:6500-7900Lux、湿度:50%
(評価)
前記高温ストレス試験後、供試植物各個体について健全な葉の枚数(子葉2枚、本葉3枚)を数え、6段階評価(完全枯死の場合[0]枚、ストレス処理前と同様に健全な場合[5]枚)を行った。供試植物3個体の評価を合算し、各化合物水溶液を供試した群とDMSOのみ添加した水溶液(対照)を供試した群との結果を比較した。その結果、各化合物水溶液を供試したカップ内の植物(本発明試験区)の健全葉の数は、対照と比べて明らかに多く、温度ストレスによる影響が軽減されていた。
【0068】
試験例2 コムギ種子処理による高温ストレスによる影響軽減評価試験(植物重量)
(種子処理)
5% (V/V) color coat red (Becker Underwood, Inc.)、5% (V/V) CF-Clear (Becker Underwood, Inc.)、0.4% Maxim XL (Syngenta)を含むBlank slurry溶液を調製した。種子1g当り0.5〜2mgとなるように化合物aのナトリウム塩をBlank slurryに溶解しslurry溶液とした。種子処理機(HEGE11、Hans-Ulrich Hege社製)を用いて、コムギ種子(品種;Apogee)50g当り、1.3mlのSlurry溶液を混和させて種子コーティングした後、種子を乾燥させた。また、対照としては、slurry溶液の替わりにBlank slurry溶液を用いて種子コーティングし、無処理区用種子とした。コーティングされた種子をプラスチックポット中の培土(愛菜)に5粒ずつ播種し、温度:20-25℃、湿度:50-75%、照度:5300Lux、日長16時間の条件にて18日間栽培した。ストレス試験前に1ポット当り3株に間引きした。
(高温ストレス試験)
播種後18日目の前記供試植物を、温度:昼40℃/夜30℃、湿度:昼63%/夜70%、照度:7100Lux、日長16時間の条件にて14日間栽培した。
(評価方法)
前記ストレス試験後(播種後32日目)に4〜7ポットにつき、供試植物の地上部新鮮重量を調査した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
試験例3 コムギ茎葉散布処理による高温ストレスによる影響軽減評価試験(植物重量)
(供試植物)
コムギ(品種:Apogee)をプラスチックポット(φ55 mm×高さ58mm)中の培土(愛菜)に播種し、温度:20-25℃、湿度:50-75%、照度:5300Lux、日長16時間の条件下で、1週間栽培した。
(本化合物の施用)
0.5mgの化合物aにホワイトカーボンとポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩との混合物(重量割合1:1)を約120mg、水300μlを添加し、湿式粉砕法で微粉砕することにより、化合物aのフロアブル製剤を得た。このフロアブル製剤を水50mlで希釈して散布液を得た。該散布液に、展着剤として0.2%リノーを添加した後、自動散布機を用いて十分量散布処理(6ポット当り45ml)した。また、対照として、化合物aを含まないフロアブル製剤を調製し、無処理区に散布した。温度:20-25℃、湿度:50-75%、照度:5300Lux、日長16時間の条件下で、2日間栽培した。
(高温ストレス試験)
下記の条件に設定した人工気象器に、散布処理した前記供試植物を入れ、ストレス試験を実施した。
温度:45℃、17時間、照度:6500-7900Lux、湿度:50%
(評価方法)
前記ストレス試験後、温度:20-25℃、湿度:50-75%、照度:5300Lux、日長16時間の条件下で、供試植物を4日間栽培した後、目視評価を実施し、また地上部新鮮重量を調査した。その結果、化合物a処理区では無処理区と比較して、目視評価において高温ストレスによる萎れや枯れの緩和が観察され、また地上部新鮮重量が大きくなった。
【0071】
試験例4 トマト潅注処理による高温ストレスによる影響軽減評価試験(着果率)
(供試植物)
トマト種子(品種:マイクロトム)をプラスチックポット中の培土(愛菜)に播種し、温室(温度設定:25℃)にて約4週間栽培した。
(本化合物の施用)
化合物aのナトリウム塩水溶液を播種後15日目および播種後22日目の計2回、1株当り50ml土壌潅注処理した。また、対照として、蒸留水を1株当り50ml土壌潅注処理し、無処理区とした。
(高温ストレス試験)
前記潅注処理後、第1花房が開花する時期(1〜2花が開花、播種後32日目)まで栽培した植物を、ストレス暴露区では、温度:昼40℃/夜30℃、湿度:昼63%/夜70%、照度:7100Lux、日長16時間の条件にて7日間栽培した。ストレス非暴露区では、温室(温度設定:25℃)にて7日間栽培した。
(評価)
前記ストレス試験後、供試植物を温室(温度設定:25℃)にて13日間栽培した後、着花数と着果数をかぞえ着果率%(着果数/着花数×100)を求めた。無処理区では、高温ストレス暴露により着果率が減少したが、化合物a処理区では、無処理区と比較して着果率減少が大幅に緩和された。
【0072】
試験例5 トマト散布処理による高温ストレスによる影響軽減評価試験(種子あるいは果実の数又は重量、着果率)
(供試植物)
トマト種子(品種:マイクロトム)をプラスチックポット中の培土(愛菜)に播種し、温室(温度設定:25℃)にて約4週間、第1花房が開花する時期(1〜2花が開花)まで栽培する。
(本化合物の施用)
化合物a〜gのいずれかの本化合物水溶液に展着剤として0.2%リノーを添加した後、供試植物全体に1株当り10ml散布する。
また、上記化合物溶液を、供試植物の茎葉に1株当り10ml散布する。散布処理後、2時間程度風乾させる。
対照として、展着剤としての0.2%リノーのみを添加した蒸留水を同様に散布処理し、無処理区とする。
(高温ストレス試験)
散布処理した前記供試植物を、温度:昼40℃/夜30℃、湿度:昼63%/夜70%、照度:7100Lux、日長16時間の条件にて7日間栽培する。
(評価)
ストレス試験後、供試植物を温室(温度設定:25℃)にて約2週間栽培する。着花数と着果数をかぞえ着果率%(着果数/着花数×100)を求める。また、果実の直径を計測し、平均値を求める。また、ストレス試験後、果実が完熟するまで栽培したのち、果実の総重量を調査する。
本化合物処理区では、無処理区と比較して着果率の増加、果実数の増加、果実の直径の増加、および果実の総重量の増加が認められる。
【0073】
試験例6 コムギ穂散布処理による高温ストレスによる影響軽減評価試験(種子あるいは果実の数又は重量)
(供試植物)
コムギ種子(品種;Perigee、又はApogee)をプラスチックポット中の培土(愛菜)に播種し、温室(温度設定:25℃)にて約4週間、出穂期まで栽培する。
(本化合物の施用)
化合物a〜gのいずれかの本化合物水溶液に展着剤として0.2%リノーを添加した後、開花7日前から1週間おきに数回、植物全体に1株当り10ml散布する。また、対照として、展着剤としての0.2%リノーのみを添加した蒸留水を同様に散布処理し、無処理区とする。
(高温ストレス試験)
散布処理した前記供試植物を、温度:昼32℃/夜22℃、湿度:昼63%/夜70%、照度:7100Lux、日長16時間の条件にて14日間栽培する。
(評価方法)
ストレス試験後、供試植物を温室(温度設定:25℃)にて、子実登熟するまで栽培し、穀粒重量を調査する。本化合物処理区では、無処理区と比較して穀粒重量の増加が認められる。
【0074】
試験例7 シロイヌナズナ水耕栽培における高温又は低温ストレスによる影響軽減評価試験(苗立ち率、葉面積、クロロフィル蛍光収率)
(供試植物)
水耕栽培用スポンジ片(1cm×1cm×0.2cm)にMS培地(2.5mM MES、2%ショ糖、1000倍希釈Gamborgビタミン溶液<シグマ社、G1019>を含む)を浸漬し、スポンジ上に表面消毒したシロイヌナズナ種子(ecotype Columbia)を5〜8粒ずつ播種する。低温処理(4℃、2-4日間)後、温度:23℃、湿度:45%、照度:3500Lux、明期16時間/暗期8時間の条件下で、6日間栽培する。
(移植および本化合物の施用)
24ウェルプレート(SUMILON MS-80240)に0.01〜100ppm濃度の化合物a〜gのいずれかの本化合物を含むMS培地(MS培地:2.5mM MES、2%ショ糖、及び1000倍希釈Gamborgビタミン溶液<シグマ社、G1019>を含む培地)を0.5mlずつ分注し、各ウェルに滅菌したコットン片を敷く。上記シロイヌナズナ実生をスポンジ当り1〜2個体にまびいた後、各ウェルにスポンジごと移植して、一晩生育させる。
前記「本化合物を含むMS培地」は次のとおり調製する。すなわち、化合物a、化合物b、化合物c、化合物d、化合物e 、化合物f、化合物gは、各試験濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製し、これをMS培地0.5mlに対して0.5μL添加する。化合物aのナトリウム塩は250,000ppm水溶液を調製し、これを0.5mlのMS培地に各試験濃度になるように添加し、次いで、この培地0.5mlに対して、DMSOを0.5μL添加する。対照として、0.1%DMSOを添加したMS培地を調製し、無処理区とする。
(高温ストレス試験)
24ウェルプレートのふたをパラフィルムでシールしてウォーターインキュベータに浸漬して45℃で60分間インキュベートする。
(低温ストレス試験)
24ウェルプレートのふたをサージカルテープでシールして、温度:0-1℃、湿度:40-70%、照度:3000Lux、明期16時間/暗期8時間の条件下で、6日間栽培する。
(評価)
前記ストレス試験後、供試植物を、温度:23℃、湿度:45%、照度:3500Lux、明期16時間/暗期8時間の条件下で、3-5日間栽培した後、各ウェルの写真をデジタルカメラで撮影し、写真の緑色の部分の面積を画像解析ソフトWin ROOF(三谷商事社製)で定量することにより、植物体の大きさを定量する。また、前記ストレス試験1日後に、パルス変調クロロフィル蛍光測定装置(IMAGING-PAM、WALZ社製)を用いて、各ウェルのクロロフィル蛍光値(Fv/Fm)を測定する。
各本化合物処理区では、無処理区と比較して植物が大きくなり、地上部の生長促進が認められる。また、各本化合物処理区では、無処理区と比較してクロロフィル蛍光値の増加が認められる。
【0075】
試験例8 トウモロコシ潅注処理による低温ストレスによる影響軽減評価試験(植物重量、クロロフィル蛍光収率、葉色)
(供試植物)
トウモロコシ種子(品種:パイオニア120 31P41)をプラスチックポット中の培土(愛菜)に播種し、温度:20-25℃、湿度:50-75%、照度:4500Lux、日長16時間の条件下で、7日間栽培する。
(本化合物の施用)
各試験濃度の1000倍濃度の化合物a〜gのいずれかの本化合物のDMSO溶液を調製し、蒸留水にて希釈する。化合物aのナトリウム塩は250,000ppm水溶液を希釈して試験液を調製する。このように調製した試験液50mlを前記供試植物の株元に土壌潅注した後、温度:20-25℃、湿度:50-75%、照度:4500Lux、日長16時間の条件下で、2日間栽培する。
化合物a〜gのいずれかの本化合物の対照としては0.1%DMSOを添加した蒸留水を、化合物aのナトリウム塩の対照としては蒸留水を、同様に土壌潅注処理し、無処理区とする。
(低温ストレス試験)
土壌潅注した前記供試植物を、温度:2-4℃、湿度:40-70%、照度:3500Lux、明期16時間/暗期8時間の条件にて5日間栽培する。
(評価)
前記ストレス試験後、温度:20-25℃、湿度:50-75%、照度:4500Lux、日長16時間の条件下で、供試植物を4日間栽培した後、植物重量および本葉の長さを測定する。また、ストレス試験1日後に、パルス変調クロロフィル蛍光測定装置(MAXI-IMAGING-PAM, WALZ)を用いて、クロロフィル蛍光値(Fv/Fm)を測定する。また、葉緑素計(SPAD−502、コニカミノルタ製)を用いて葉緑素量を測定する。
各本化合物処理区では、無処理区と比較して本葉の長さおよび植物重量が増加し、地上部の生長促進が認められる。また、各本化合物処理区では、無処理区と比較してクロロフィル蛍光値の増加および葉緑素量の増加が認められる。
【0076】
試験例9 イネ水耕栽培における低温ストレスによる影響軽減評価試験(草丈、植物重量、クロロフィル蛍光収率)
(供試植物)
イネ種子(品種:日本晴)を、1000ppmベンレートを含む蒸留中に浸漬し、30℃にて1日間インキュベートする。該種子を蒸留水で洗浄した後、さらに1日間蒸留水中でインキュベートして催芽処理を行う。288穴セルトレーの底に綿を敷き、催芽処理した種子を播種する。水耕栽培液(8倍希釈した木村B水耕栽培溶液)を加え、昼28℃/夜23℃、湿度:60%、照度:7100Lux、日長12時間の条件にて3-10日間栽培する。
(本化合物の施用)
化合物a〜gのいずれかの本化合物は各試験濃度の1000倍濃度のDMSO溶液を調製し、水耕栽培液にて希釈する。化合物aのナトリウム塩は250,000ppm水溶液を水耕栽培液にて希釈して試験濃度に調製する。化合物を含むこれら水耕栽培液に上記イネ実生を移し、昼28℃/夜23℃、湿度:60%、照度:7100Lux、日長12時間の条件にて7-10日間栽培する。
化合物a〜gのいずれかの本化合物の対照としては0.1%DMSOを添加した水耕栽培液を、化合物aのナトリウム塩の対照としては水耕栽培液を用いて上記イネ実生を栽培し、無処理区とする。
(低温ストレス試験)
本化合物処理中の実生を、ストレス暴露区では、温度:2-4℃、湿度:40-70%、照度:3500Lux、日長12時間の条件にて、またストレス非暴露区では、温度:25-30℃、湿度:50-75%、照度:4500Lux、日長12時間の条件下で、3-7日間栽培する。
(評価)
ストレス試験後に草丈および地上部重量を調査する。また、パルス変調クロロフィル蛍光測定装置(MAXI-IMAGING-PAM, WALZ)を用いて、クロロフィル蛍光値(Fv/Fm)を測定する。
ストレス暴露区ではストレス非暴露区と比較して、無処理区における草丈の抑制、地上部重量の減少、クロロフィル蛍光値の低下が認められる。ストレス暴露区においては、化合物aのNa塩又は化合物b処理区では、無処理区と比較して、草丈、地上部重量、クロロフィル蛍光値が増加する。
【0077】
試験例10 コムギ種子処理による高温ストレスによる影響軽減評価試験(植物重量)
(種子処理)
5% (V/V) color coat red (Becker Underwood, Inc.)、5% (V/V) CF-Clear (Becker Underwood, Inc.)、0.4% Maxim XL (Syngenta)を含むBlank slurry溶液を調製した。種子1g当り5mgとなるように、4−オキソ−4−(2−フェニルエチル)アミノ酪酸メチル(化合物c)、または5−オキソ−5−[2−(3−インドリル)エチル]アミノ吉草酸(化合物e)をBlank slurryに溶解しslurry溶液とした。50ml遠沈管を用いて、コムギ種子(品種;Apogee)50g当り、1.3mlのSlurry溶液を混和させて種子コーティングした後、種子を乾燥させた。また、対照としては、slurry溶液の替わりにBlank slurry溶液を用いて種子コーティングし、無処理区用種子とした。コーティングされた種子をプラスチックポット中の培土(愛菜)に5粒ずつ播種し、設定温度が昼18℃/夜15℃の温調温室にて17日間栽培した。ストレス試験前に1ポット当り3株に間引きした。
(高温ストレス試験)
播種後17日目の前記供試植物を、温度:昼36℃/夜32℃、湿度:昼50%/夜60%、照度:7000Lux、日長12時間の条件にて人工気象室内で19日間栽培した。
(評価)
前記ストレス試験後(播種後36日目)に、7〜9ポットにつき供試植物の地上部新鮮重量を調査した。その結果、種子1g当り5mgの化合物c又は化合物eにて種子処理したコムギは、これら供試化合物で種子処理しなかったコムギ(無処理区)に比べて、地上部新鮮重量が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明方法を用いることによって、植物の温度ストレスによる影響を軽減することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の温度ストレスによる影響を軽減する方法であって、
温度ストレスに暴露された又は暴露されるであろう植物に、有効量の下記式(I)で示される化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物を施用することを特徴とする方法。

式(I)

[式中、Rはフェニル基、ナフチル基又は芳香族複素環基を示し、これらの基はハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルキニル基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基及びジ(炭素数1〜6のアルキル)アミノ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよく、
は水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、
Xは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基を示し、
Yは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基を示す。]
【請求項2】
式(I)において、
がフェニル基、1−ナフチル基又は3−インドリル基(但し、これらの基はその水素原子がハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、炭素数1〜6のアルキル基及び炭素数1〜6のアルコキシ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよい)であり、
が、水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基であり、
Xが、直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基であり、
Yが、直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基である、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
式(I)において、
がフェニル基、4−ヨードフェニル基、1−ナフチル基又は3−インドリル基であり、
が水酸基又はメトキシ基であり、
Xがエチレン基又はテトラメチレン基であり、
Yがエチレン基又はトリメチレン基である、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
式(I)で示される化合物が、下記化合物群Aから選ばれる化合物である請求項1記載の方法。
<化合物群A>
(1)4−オキソ−4−(2−フェニルエチル)アミノ酪酸
(2)4−オキソ−4−(4−フェニルブチル)アミノ酪酸メチル
(3)4−オキソ−4−(2−フェニルエチル)アミノ酪酸メチル
(4)4−オキソ−4−(4−フェニルブチル)アミノ酪酸
(5)5−オキソ−5−[2−(3−インドリル)エチル]アミノ吉草酸
(6)5−オキソ−5−[(1−ナフチル)メチル]アミノ吉草酸
(7)4−オキソ−4−[2−(4−ヨードフェニル)エチル]アミノ酪酸メチル
【請求項5】
施用が、土壌灌注処理、散布処理、水耕処理又は種子処理である請求項1〜4記載の方法。
【請求項6】
種子処理が、下記式(I)で示される化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物を100kg種子当り30〜500g処理する種子処理である請求項5記載の方法。

式(I)

[式中、Rはフェニル基、ナフチル基又は芳香族複素環基を示し、これらの基はハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルキニル基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基及びジ(炭素数1〜6のアルキル)アミノ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよく、
は水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、
Xは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基を示し、
Yは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基を示す。]
【請求項7】
植物がイネ、トウモロコシ、ダイズ、コムギ、又はトマトである請求項1〜6記載の方法。
【請求項8】
植物が遺伝子組換え植物である請求項1〜7記載の方法。
【請求項9】
温度ストレスが高温ストレスである請求項1〜8記載の方法。
【請求項10】
温度ストレスが低温ストレスである請求項1〜8記載の方法。
【請求項11】
温度ストレスによる影響が、以下の(1)〜(11)に記載の少なくとも1つの植物表現型の変化により示される請求項1〜10記載の方法。
<植物表現型>
(1)発芽率
(2)苗立ち率
(3)健全葉数
(4)草丈
(5)植物重量
(6)葉面積
(7)葉色
(8)種子・果実の数又は重量
(9)収穫物の品質
(10)着花率、着果率
(11)クロロフィル蛍光収率
【請求項12】
植物の温度ストレスによる影響を軽減するための、下記式(I)で示される化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物の使用。

式(I)

[式中、Rはフェニル基、ナフチル基又は芳香族複素環基を示し、これらの基はハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルキニル基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基及びジ(炭素数1〜6のアルキル)アミノ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよく、
は水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、
Xは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基を示し、
Yは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基を示す。]
【請求項13】
温度ストレスによる影響が、以下の(1)〜(11)に記載の少なくとも1つの植物表現型の変化により示される、下記式(I)で示される化合物及びその農学的に許容される塩からなる群から選ばれる少なくとも一の化合物の使用。
<植物表現型>
(1)発芽率
(2)苗立ち率
(3)健全葉数
(4)草丈
(5)植物重量
(6)葉面積
(7)葉色
(8)種子・果実の数又は重量
(9)収穫物の品質
(10)着花率、着果率
(11)クロロフィル蛍光収率

式(I)

[式中、Rはフェニル基、ナフチル基又は芳香族複素環基を示し、これらの基はハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキルチオ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルケニル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜6のアルキニル基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキルアミノ基及びジ(炭素数1〜6のアルキル)アミノ基から選ばれる1〜5個の基で置換されていてもよく、
は水酸基、アミノ基又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示し、
Xは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基を示し、
Yは直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルキレン基又は直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜6のアルケニレン基を示す。]

【公開番号】特開2011−140484(P2011−140484A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273299(P2010−273299)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】