説明

植物の生長を促進する方法

【課題】植物の生長促進方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)[式中、R、R2、R3及びR4のいずれか一がトリフルオロメチル基を、その他は水素原子を表す。]
で示される化合物又はその農学的に許容される塩を植物に処理すること;具体的には当該化合物が5-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸、6-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸、4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸等の化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生長を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの化学物質には、植物に施用することによって植物の生長を促進する効果を示すものが知られている。例えば、アミノレブリン酸はその施用により植物に対して生長促進効果を示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「Biosynthesis, biotechnological production and applications of 5-aminolevulinic acid」 K. Sasaki et al., (2002) Applied Microbial Biotechnology 58: pp. 23-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、植物の生長を促進する優れた方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の化合物を植物に施用することによってその植物の生長が促進されることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
即ち、本発明は次の通りである。
[1]下記式(1)

[式中、R、R2、R3及びR4のいずれか一がトリフルオロメチル基を、その他は水素原子を表す。]
で示される化合物又はその農学的に許容される塩(以下、本化合物と記すことがある。)を、植物に処理することを特徴とする植物の生長促進方法(以下、本発明方法と記すことがある。)。
[2]式(1)で示される化合物が、下記の化合物群Aから選ばれる化合物である前項[1]に記載の方法。
<化合物群A>
(1)5-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸
(2)6-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸
(3)4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸
(4)7-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸
[3]植物が、非生物的ストレスに暴露された又は暴露されるであろう植物である前項[1]又は[2]に記載の植物の生長促進方法。
[4]植物への処理が、散布処理、土壌処理、種子処理又は水耕処理である前項[1]から[3]のいずれか一に記載の方法。
[5]植物への処理が、種子処理である前項[1]から[3]のいずれか一に記載の方法。
[6]植物がイネ、トウモロコシ、又はコムギである前項[1]から[5]のいずれか一に記載の方法。
[7]植物が遺伝子組換え植物である前項[1]から[6]のいずれか一に記載の方法。
[8]非生物的ストレスが高温ストレスである前項[3]から[7]のいずれか一に記載の方法。
[9]非生物的ストレスが低温ストレスである前項[3]から[7]のいずれか一に記載の方法。
[10]非生物的ストレスが乾燥ストレスである前項[3]から[7]のいずれか一に記載の方法。
[11]植物の生長を促進するための、前記式(1)で示される化合物又はその農学的に許容される塩の使用。
[12]前記式(1)で示される化合物又はその農学的に許容される塩と不活性成分とを含有することを特徴とする植物生長促進組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によって、優れた植物生長促進方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、植物の生長を促進する(以下、「生長促進」と記すことがある。)とは、苗立ち率向上、健全葉数増加、草丈増、植物体重量増加、葉面積増加、種子又は果実の数又は重量の増加、着花数又は着果数の増加、根部生長の増加をいう。
【0009】
生長促進は、以下にあげるパラメーターを用いて定量化が可能である。
(1)苗立ち率
植物の種子を、例えば土壌中、ろ紙上、寒天培地上、砂上などに播種し、一定期間栽培する。栽培の全ての期間中あるいは一部の期間中に非生物的ストレスを負荷した後、生き残った幼植物の割合を調査する。
(2)健全葉数又は健全葉率
各植物について健全な葉の枚数を数え、総健全葉数を調査する。あるいは植物の全ての葉数に対する健全葉数の割合を調査する。
(3)草丈
各植物について地上部分の茎の根元から先端の枝葉までの長さを測定する。
(4)植物体重量
各植物の地上部を切り取り、重量を測定して、植物新鮮重量を求める、あるいは切り取ったサンプルを乾燥させた後に重量を測定して、植物乾燥重量を求める。
(5)葉面積
植物をデジタルカメラで撮影し、写真の緑色の部分の面積を画像解析ソフト例えばWin ROOF(三谷商事社製)で定量することにより、あるいは目視による評価によって、植物の葉面積を求める。
(6)葉色
植物の葉をサンプリングし、葉緑素計(例えばSPAD−502、コニカミノルタ製)を用いて葉緑素量を測定することにより、葉色を求める。また、植物をデジタルカメラで撮影し、写真の緑色の部分の面積を画像解析ソフト例えばWin ROOF(三谷商事社製)で色抽出を行い定量することにより、植物の葉の緑色部分の面積を求める。
(7)種子あるいは果実の数又は重量
植物を種子あるいは果実が結実あるいは登熟するまで栽培した後、植物当りの果実数を計測あるいは植物当りの総果実重量を測定する。また、種子が登熟するまで栽培した後、例えば穂数、登熟歩合、千粒重などの収量構成要素を調査する。
(8)着花率、着果率、結実率、又は種子充填率
植物を着果するまで栽培した後、着花数と着果数を数え着果率%(着果数/着花数×100)を求める。種子登熟後に結実数と種子充填数を数え結実率(結実数/着花数×100)、種子充填率%(種子充填数/結実数×100)を求める。
(9)根部生長の増加
植物を土壌あるいは水耕にて栽培し、その根部の長さを計測する、あるいは根部を切り取りその新鮮重量等を測定する。
【0010】
本発明方法において本化合物を植物に処理する場合、当該植物の全体であっても一部分(茎葉、芽、花、果実、穂、種子、球根、塊茎、根等)であっても良く、又当該植物の種々の生育ステージ(播種時前、播種時、播種後出芽前後などの発芽期、育苗時、苗移植時、挿し木又は挿し苗時、定植後の生育時などの栄養生長期、開花前、開花中、開花後、出穂直前又は出穂期などの生殖生長期、収穫予定前、成熟予定前、果実の着色開始期などの収穫期)であって良い。ここで球根とは、鱗茎、球茎、根茎、塊根、および担根体を意味する。また、苗としては、実生、挿し木等を含むものとする。
【0011】
本発明方法において使用される下記式(1)

[式中、R、R2、R3、及びR4のいずれか一がトリフルオロメチル基を、その他は水素原子を表す。]
で示される化合物又はその農学的に許容される塩は、公知の方法で製造することができ、又は試薬として購入することができる。
【0012】
式(1)で示される化合物の具体例としては、式(1)のR、R2、R3及びR4が、表1に示される基の組合せである化合物(本化合物1〜本化合物4)が挙げられる。
【0013】
【表1】

【0014】
式(1)で表される化合物は、農学的に許容される塩基との塩であってもよい。式(1)で表される化合物の農学的に許容される塩は次に挙げられるものである。
【0015】
アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、又はマグネシウムの塩);アンモニアとの塩;モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩。
【0016】
本発明方法において本化合物を使用する場合、本化合物のみで使用してもよいが、後述するとおり種々の不活性成分(固体担体、液体担体、界面活性剤、その他の製剤用補助剤等)を用いて製剤化された植物生長促進組成物として使用することができる。
【0017】
製剤化の際に用いられる固体担体としては、例えばカオリンクレー、アッタパルジャイトクレー、ベントナイト、モンモリロナイト、酸性白土、パイロフィライト、タルク、珪藻土、方解石等の鉱物、トウモロコシ穂軸粉、クルミ殻粉等の天然有機物、尿素等の合成有機物、炭酸カルシウム、硫酸アンモニウム等の塩類、合成含水酸化珪素等の合成無機物等からなる微粉末又は粒状物等が挙げられ、液体担体としては、例えばキシレン、アルキルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素類、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類、ダイズ油、綿実油等の植物油、石油系脂肪族炭化水素類、エステル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、及び水が挙げられる。
【0018】
界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルリン酸エステル塩、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネートホルモアルデヒド重縮合物等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、及びアルキルトリメチルアンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤が挙げられる。
【0019】
その他の製剤用補助剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、アラビアガム、アルギン酸及びその塩、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ザンサンガム等の多糖類、アルミニウムマグネシウムシリケート、アルミナゾル等の無機物、防腐剤、着色剤、及びPAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT等の安定化剤が挙げられる。
【0020】
本発明方法において、本化合物を植物に処理する場合、本化合物の有効量を植物又はその栽培地に処理することにより行われる。植物又は植物の栽培地に処理する場合は、本化合物は1回もしくは複数回処理する。
【0021】
本発明方法における施用方法としては、具体的には、例えば、茎葉散布等の植物の茎葉、花器又は穂への処理、植物を植えつける前又は植えつけた後の土壌(栽培地)への処理、種子消毒や種子浸漬、種子コート等の種子への処理、苗への処理、種芋等の球根への処理等が挙げられる。
【0022】
本発明方法における植物の茎葉、花器又は穂への処理としては、具体的には、例えば、茎葉散布、樹幹散布等の植物の表面に施用する処理方法が挙げられる。また、開花前、開花中、開花後を含む開花時期における花器あるいは植物全体に散布処理する方法が挙げられる。また、穀物等おいては出穂時期の穂あるいは植物全体に散布する方法が挙げられる。
【0023】
本発明方法における土壌処理方法としては、例えば、土壌への散布、土壌混和、土壌への薬液潅注(薬液潅水、土壌注入、薬液ドリップ)が挙げられ、処理する場所としては例えば、植穴、作条、植穴付近、作条付近、栽培地の全面、植物地際部、株間、樹幹下、主幹畦、培土、育苗箱、育苗トレイ、苗床等が挙げられ、処理時期としては播種前、播種時、播種直後、育苗期、定植前、定植時、及び定植後の生育期等が挙げられる。また、上記土壌処理において、複数の本化合物を植物に同時に処理してもよく、本化合物を含有するペースト肥料等の固形肥料を土壌へ施用してもよい。また、本化合物を潅水液に混合してもよく、例えば、潅水設備(潅水チューブ、潅水パイプ、スプリンクラー等)への注入、条間湛水液への混入、水耕液へ混入等が挙げられる。また、あらかじめ潅水液と本化合物を混合し、例えば、上記潅水方法やそれ以外の散水、湛水等のしかるべき潅水方法を用いて処理することができる。
【0024】
本発明方法における種子への処理としては、対象とする植物の種子、球根等に本化合物を処理する方法であって、具体的には、例えば、本化合物の懸濁液を霧状にして種子表面もしくは球根表面に吹きつける吹きつけ処理、本化合物の水和剤、乳剤、又はフロアブル剤等に少量の水を加えるか、又はそのままで種子もしくは球根に塗付する塗沫処理、本化合物の溶液に一定時間種子を浸漬する浸漬処理、フィルムコート処理、ペレットコート処理が挙げられる。
【0025】
本発明方法における苗への処理としては、例えば、本化合物を水で適当な有効成分濃度に希釈調製した希釈液を苗全体に散布する散布処理、その希釈液に苗を浸漬する浸漬処理、粉剤に調製した本化合物を苗全体に付着させる塗布処理が挙げられる。また、苗を植えつける前又は植えつけた後の土壌への処理としては、例えば、本化合物を水で適当な有効成分濃度に希釈調製した希釈液を、苗を植えつけた後に苗及び周辺土壌に散布する方法、粒剤又は粒剤等の固形剤に調製した本化合物を、苗を植えつけた後周辺土壌に散布する方法が挙げられる。
【0026】
また、本化合物を水耕栽培における水耕液に混合して用いてもよく、また組織培養における培地成分の1つとして用いてもよい。本発明方法における水耕処理方法としては、水耕栽培に使用する場合に、通常用いられる園試等の水耕栽培用の水耕培地に培地中濃度として0.001ppm〜1,000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。また組織培養や細胞培養時に使用する場合は、通常用いられるムラシゲ・スクーグ培地等の植物組織培養用培地やホグランド水耕培養液等の水耕培地に、培地中濃度として0.001ppm〜1,000ppmの範囲で溶解又は懸濁して用いることができる。この場合、定法に従い、炭素源としての糖類、各種植物ホルモン等を適宜加えることができる
本化合物を、植物又は植物の生育場所に処理する場合、その処理量は、処理する植物の種類、製剤形態、処理時期、気象条件等によって変化させ得るが、10,000m2あたり有効成分量として、通常0.1〜10,000グラム、好ましくは1〜1,000グラムの範囲である。土壌に全面混和する場合は、その処理量は、10,000m2あたり有効成分量として、通常0.1〜10,000グラム、好ましくは1〜1,000グラムである。
【0027】
乳剤、水和剤、フロアブル剤、マイクロカプセル剤等は、通常水で希釈して散布することにより処理する。この場合、有効成分の濃度は、通常0.1〜10,000ppm、好ましくは1〜1000ppmの範囲である。粉剤、粒剤等は通常希釈することなくそのまま処理する。
【0028】
種子への処理においては、種子100キログラムに対する本化合物の重量としては、通常0.01〜1,000グラム、好ましくは0.1〜100グラムの範囲である。
【0029】
本発明方法が適用可能な植物としては、下記の植物が挙げられる。
【0030】
農作物:トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ソルガム、ワタ、ダイズ、ラッカセイ、ソバ、テンサイ、セイヨウアブラナ、ヒマワリ、サトウキビ、タバコ、ホップ等。
【0031】
野菜:ナス科野菜(ナス、トマト、ジャガイモ、トウガラシ、ピーマン等)、ウリ科野菜(キュウリ、カボチャ、ズッキーニ、スイカ、メロン、マクワウリ等)、アブラナ科野菜(ダイコン、カブ、セイヨウワサビ、コールラビ、ハクサイ、キャベツ、アブラナ、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワー等)、キク科野菜(ゴボウ、シュンギク、アーティチョーク、レタス等)、ユリ科野菜(ネギ、タマネギ、ニンニク、アスパラガス等)、セリ科野菜(ニンジン、パセリ、セロリ、アメリカボウフウ等)、アカザ科野菜(ホウレンソウ、フダンソウ等)、シソ科野菜(シソ、ミント、バジル等)、マメ科作物(エンドウ、インゲンマメ、アズキ、ソラマメ、ヒヨコマメ等)、イチゴ、サツマイモ、ヤマノイモ、サトイモ、コンニャク、ショウガ、オクラ等。
【0032】
果樹:仁果類(リンゴ、ナシ、セイヨウナシ、カリン、マルメロ等)、核果類(モモ、スモモ、ネクタリン、ウメ、オウトウ、アンズ、プルーン等)、カンキツ類(ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ等)、堅果類(クリ、クルミ、ハシバミ、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツ、マカダミアナッツ等)、液果類(ブルーベリー、クランベリー、ブラックベリー、ラズベリー等)、ブドウ、カキ、オリーブ、ビワ、バナナ、コーヒー、ナツメヤシ、ココヤシ、アブラヤシ等。
【0033】
果樹以外の樹木:チャ、クワ、花木類(サツキ、ツバキ、アジサイ、サザンカ、シキミ、サクラ、ユリノキ、サルスベリ、キンモクセイ等)、街路樹(トネリコ、カバノキ、ハナミズキ、ユーカリ、イチョウ、ライラック、カエデ、カシ、ポプラ、ハナズオウ、フウ、プラタナス、ケヤキ、クロベ、モミノキ、ツガ、ネズ、マツ、トウヒ、イチイ、ニレ、トチノキ等)、サンゴジュ、イヌマキ、スギ、ヒノキ、クロトン、マサキ、カナメモチ、等。
【0034】
芝生:シバ類(ノシバ、コウライシバ等)、バミューダグラス類(ギョウギシバ等)、ベントグラス類(コヌカグサ、ハイコヌカグサ、イトコヌカグサ等)、ブルーグラス類(ナガハグサ、オオスズメノカタビラ等)、フェスク類(オニウシノケグサ、イトウシノケグサ、ハイウシノケグサ等)、ライグラス類(ネズミムギ、 ホソムギ等)、カモガヤ、オオアワガエリ等。
その他:花卉類(バラ、カーネーション、キク、トルコギキョウ、カスミソウ、ガーベラ、マリーゴールド、サルビア、ペチュニア、バーベナ、チューリップ、アスター、リンドウ、ユリ、パンジー、シクラメン、ラン、スズラン、ラベンダー、ストック、ハボタン、プリムラ、ポインセチア、グラジオラス、カトレア、デージー、シンビジューム、ベゴニア等)、バイオ燃料植物(ヤトロファ、ベニバナ、アマナズナ類、スイッチグラス、ミスカンサス、クサヨシ、ダンチク、ケナフ、キャッサバ、ヤナギ等)、観葉植物等。
【0035】
本発明に適用可能な植物として、好ましくは、チャ、リンゴ、ナシ、ブドウ、オウトウ、モモ、ネクタリン、カキ、ウメ、スモモ、ダイズ、レタス、キャベツ、トマト、ナス、キュウリ、スイカ、メロン、インゲンマメ、エンドウ、アズキ、シバ、セイヨウアブラナ、イチゴ、アーモンド、トウモロコシ、ソルガム、ソラマメ、ハクサイ、ジャガイモ、ラッカセイ、イネ、コムギ、サトイモ、コンニャク、ヤマノイモ、ダイコン、カブ、パセリ、マクワウリ、オクラ、ショウガ、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、ブルーベリー、クリ、ホップ、バジルが挙げられ、より好ましくはイネ科植物またはナス科植物、更に好ましくはイネが植物、また更に好ましくはイネ、コムギ、トウモロコシなどが挙げられる。
【0036】
上記「植物」には、植物に除草剤耐性を付与する遺伝子や害虫に対する選択的毒素を産生する遺伝子、植物に病害抵抗性を付与する遺伝子、非生物的ストレスを緩和する遺伝子などが遺伝子組換え法あるいは交配育種によって導入された組換え植物や、これら遺伝子を複数導入したスタック品種の植物も含まれる。
【0037】
本化合物を、殺虫剤、殺菌剤、及び特定の除草剤に対するセーフナー等と同時に種子に処理してもよく、またそれらと同時に植物に施用してもよい。
【0038】
また、本発明方法は、本化合物の処理される植物が、非生物的ストレスに暴露された又は暴露されるであろう植物であっても良い。当該非生物的ストレスは、下記式で表される「ストレスの強さ」の値として、105〜200、好ましくは110〜180、より好ましくは120〜160であればよい。
【0039】
式(I):「ストレスの強さ」=100×「非生物的ストレス条件に暴露されていない植物におけるいずれか一つの植物表現型」/「非生物的ストレス条件に暴露された植物における当該いずれか一つの植物表現型」
【0040】
ここで、「非生物的ストレス」とは、高温ストレス又は低温ストレスである温度ストレス、乾燥ストレス又は過湿ストレスである水分ストレス、塩ストレス等の非生物的ストレス条件に暴露された場合に植物細胞の生理機能の低下を来たし、植物の生理状態が悪化して生育が阻害されるようなストレスをいう。高温ストレスとは、植物の生育適温又は発芽適温よりも高い温度に暴露された場合に受けるストレスをいい、具体的には、植物が栽培されている環境における平均栽培温度が25℃以上、より厳しくは30℃以上、更に厳しくは35℃以上である条件を挙げることができる。 低温ストレスとは、植物の生育適温又は発芽適温よりも低い温度に暴露された場合に受けるストレスをいい、具体的には、植物が栽培されている環境における平均栽培温度が15℃以下、より厳しくは10℃以下、更により厳しくは5℃以下である条件を挙げることができる。 また、乾燥ストレスとは、植物は降雨量や灌水量の減少により土壌中の水分含量が減少し、吸水が阻害され植物の生育が阻害されるような水分環境に暴露された場合に受けるストレスをいい、具体的には、土壌の種類により値は異なることがあるが、植物が栽培されている土壌含水率が15重量%以下、より厳しくは10重量%以下、更に厳しくは、7.5重量%以下が水分ストレスのある条件、又は、植物が栽培されている土壌のpF値が、2.3以上、厳しくは2.7以上、更に厳しくは3.0以上の条件を挙げることができる。過湿ストレスとは土壌中の水分含量が過剰になり植物の生育が阻害されるような水分環境に暴露された場合に受けるストレスをいい、具体的には、土壌の種類により値は異なることがあるが、植物が栽培されている土壌含水率が30重量%以上、厳しくは40重量%以上、更に厳しくは50重量%以上の、又は、植物が栽培されている土壌のpF値が1.7以下、厳しくは1.0以下、更に厳しくは0.3以下である。 なお、土壌のpF値は、「土壌・植物栄養・環境事典」(大洋社、1994年、松坂ら)の61〜62頁の「pF値測定法」に記述されている原理に従い、測定することができる。 また、塩ストレスとは、植物が栽培されている土壌あるいは水耕液中の塩類の蓄積により浸透圧が上昇し植物の吸水が阻害される結果、生育が阻害されるような環境に暴露された場合に受けるストレスをいい、具体的には、土壌あるいは水耕液中の塩による浸透圧ポテンシャルが0.2MPa(NaCl濃度では2,400ppm)以上、厳しくは0.25MPa以上、さらに厳しくは0.30MPaである条件である。土壌における浸透圧は、土壌を水で希釈して上澄み液の塩濃度を分析することによって、以下のラウールの式に基づいて求めることができる。
【0041】
ラウールの式 π(atm)=cRT
R=0.082(L・atm/mol・K)
T=絶対温度(K)
c=イオンモル濃度(mol/L)
1atm=0.1MPa
【実施例】
【0042】
以下、本発明を製剤例、製造例及び試験例にてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の例のみに限定されるものではない。なお、以下の例において、部は特にことわりの無い限り重量部を示す。
【0043】
製造例1
2−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒド5.0g、チオグリコール酸メチル3.3g、炭酸カリウム4.0gおよびDMF50mlの混合物を60℃で2時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した。反応混合物に水を加え、tert−ブチルメチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮した。残渣をメタノールから再結晶し、5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル6.3gを得た。
5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル300mg、水酸化リチウム一水和物66mg、水2mlおよびメタノール6mlの混合物を75℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、減圧下濃縮した。残渣に水を加え、tert−ブチルメチルエーテルで3回洗浄した。水層に濃塩酸を加えた後、tert−ブチルメチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮し、5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸(本化合物1)280mgを得た。
[本化合物1]
1H-NMR(CDCl3) δ: 8.24(s, 1H), 8.21(s, 1H), 8.02(d, J=8.7Hz, 1H), 7.72(d, J=8.7Hz, 1H)
【0044】
製造例2
2−フルオロ−4−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒド1.11g、チオグリコール酸メチル739mg、炭酸カリウム1.3gおよびDMF20mlの混合物を140℃で2時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した。反応混合物に水を加え、tert−ブチルメチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮し、6−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル848mgを得た。
6−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル400mg、水酸化リチウム一水和物105mg、水3mlおよびメタノール9mlの混合物を75℃で2時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、減圧下濃縮した。残渣に水を加え、tert−ブチルメチルエーテルで3回洗浄した。水層に濃塩酸を加えた後、クロロホルムで3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮し、6−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸(本化合物2)355mgを得た。
[本化合物2]
1H-NMR(CDCl3) δ: 8.21(s, 1H), 8.20(s, 1H), 8.05-8.01(m, 1H), 7.69-7.64(m, 1H)
【0045】
製造例3
2−フルオロ−6−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒド1.00g、チオグリコール酸メチル633mg、炭酸カリウム1.21gおよびDMF15mlの混合物を130℃で2時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した。反応混合物に水を加え、tert−ブチルメチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮し、4−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル480mgを得た。
4−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル290mg、水酸化リチウム一水和物60mg、水2mlおよびメタノール6mlの混合物を75℃で1時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、減圧下濃縮した。残渣に水を加え、tert−ブチルメチルエーテルで3回洗浄した。水層に濃塩酸を加えた後、クロロホルムで3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮し、4−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸(本化合物3)240mgを得た。
[本化合物3]
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 13.92(br s, 1H), 8.47-8.43(m, 1H), 8.04(s, 1H), 7.92-7.88(m, 1H), 7.74-7.68(m, 1H)
【0046】
製造例4
2−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)ベンズアルデヒド1.10g、チオグリコール酸メチル663mg、炭酸カリウム1.03gおよびDMF15mlの混合物を60℃で2時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した。反応混合物に水を加え、tert−ブチルメチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮し、7−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル1.34gを得た。
7−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル800mg、水酸化リチウム一水和物154mg、水4mlおよびメタノール12mlの混合物を75℃で2時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、減圧下濃縮した。残渣に水を加え、tert−ブチルメチルエーテルで3回洗浄した。水層に濃塩酸を加えた後、tert−ブチルメチルエーテルで3回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下濃縮し、7−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸(本化合物4)632mgを得た。
[本化合物4]
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 13.84(br s, 1H), 8.37-8.32(m, 1H), 8.29(s, 1H), 7.98-7.94(m, 1H), 7.72-7.66(m, 1H)
【0047】
製造例5
5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル5.00g、炭酸ナトリウム4.00g、水20mlおよびメタノール60mlの混合物を80℃で3時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、減圧下濃縮した。残渣を水から再結晶し、5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸ナトリウム塩(以下、本化合物5と記す。)5.10gを得た。
[本化合物5]
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 8.22(s, 1H), 8.08(d, J=8.5Hz, 1H), 7.64(s, 1H), 7.57(d, J=8.5Hz, 1H)
【0048】
製造例6
5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸メチル5.00g、炭酸カリウム2.93g、水20mlおよびメタノール60mlの混合物を80℃で3時間攪拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、減圧下濃縮した。残渣を水から再結晶し、5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸カリウム塩(以下、本化合物6と記す。)3.74gを得た。
[本化合物6]
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 8.20(s, 1H), 8.07(d, J=8.5Hz, 1H), 7.61(s, 1H), 7.56(d, J=8.5Hz, 1H)
【0049】
製造例7
5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸300mg、イソプロピルアミン80mgおよびテトラヒドロフラン10mlの混合物を室温で1時間攪拌した。反応混合物を減圧下濃縮し、5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸イソプロピルアミン塩(以下、本化合物7と記す。)372mgを得た。
[本化合物7]
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 8.23(s, 1H), 8.09(d, J=8.5Hz, 1H), 7.65(s, 1H), 7.58(d, J=8.5Hz, 1H), 3.34-3.26(m, 1H), 1.18(d, J=6.6Hz, 6H)
【0050】
製造例8
5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸300mg、ラウリルアミン238mgおよびtert−ブチルメチルエーテル10mlの混合物を室温で1時間攪拌した。反応混合物を減圧下濃縮し、5−(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸ラウリルアミン塩(以下、本化合物8と記す。)538mgを得た。
[本化合物8]
1H-NMR(DMSO-d6) δ: 8.23(s, 1H), 8.09(d, J=8.5Hz, 1H), 7.65(s, 1H), 7.58(d, J=8.5Hz, 1H), 2.78(t, J=7.6Hz, 2H), 1.57-1.50(m, 2H), 1.26-1.21(m, 18H), 0.84(t, J=6.7Hz, 3H)
製剤例1
本化合物1〜8のいずれかひとつの10部を、キシレン35部とN,N−ジメチルホルムアミド35部との混合物に溶解し、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル14部およびドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム6部を加え、良く攪拌混合して各々の10%乳剤を得る。
【0051】
製剤例2
本化合物1〜8のいずれかひとつの20部を、ラウリル硫酸ナトリウム4部、リグニンスルホン酸カルシウム2部、合成含水酸化珪素微粉末20部および珪藻土54部を混合した中に加え、良く攪拌混合して各々の20%水和剤を得る。
【0052】
製剤例3
本化合物1〜8のいずれかひとつの2部に、合成含水酸化珪素微粉末1部、リグニンスルホン酸カルシウム2部、ベントナイト30部およびカオリンクレー65部を加え充分攪拌混合する。ついでこれらの混合物に適当量の水を加え、さらに攪拌し、増粒機で製粒し、通風乾燥して各々の2%粒剤を得る。
【0053】
製剤例4
本化合物1〜8のいずれかひとつの1部を適当量のアセトンに溶解し、これに合成含水酸化珪素微粉末5部、PAP0.3部およびフバサミクレー93.7部を加え、充分攪拌混合し、アセトンを蒸発除去して各々の1%粉剤を得る。
【0054】
製剤例5
本化合物1〜8のいずれかひとつの10部;ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩50部を含むホワイトカーボン35部;および水55部を混合し、湿式粉砕法で微粉砕することにより、各々の10%フロアブル剤を得る。
【0055】
製剤例6
本化合物1〜8のいずれかひとつの0.1部をキシレン5部およびトリクロロエタン5部に溶解し、これを脱臭灯油89.9部に混合して各々の0.1%油剤を得る。
【0056】
試験例1 イネ水耕栽培による根部生長促進評価試験
(供試植物)
イネ(品種 日本晴)
(栽培、化合物処理)
本化合物1〜本化合物3の10,000ppmのDMSO溶液を調製し、1/4倍濃度のホグランド水耕栽培液(Hoagland and Arnon, California Agricultural Experiment Station 1950 Circular 347 pp.34)に、本化合物1〜本化合物3のいずれかひとつを10,000ppm濃度で含むDMSO溶液を1/10,000容添加し、本化合物1〜本化合物3のいずれかひとつを濃度1ppmで含む水耕栽培液をそれぞれ作製した。無処理区としては、1/4倍濃度のホグランド水耕栽培液にDMSOを1/10,000容添加した水耕栽培液を使用した。
イネ種子を、1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、次いで、70%エタノール溶液に浸漬して表面消毒し、その後、蒸留水で洗浄した。消毒後の種子を、前記の各試験濃度の供試化合物を含む水耕栽培液に浸し、暗黒下、温度28℃で3日間インキュベートし催芽処理を行った。
その後、各試験濃度の供試化合物を含む水耕栽培液30mlを、側面をボール紙で覆って遮光したプラスチック製のチューブ(直径:20mm×高さ:113mm)に分注し、スチレンボードとビニール製メッシュを用いて作製したフロートを浮かべ、水耕栽培液水面にそのフロート上に、催芽処理後の当該イネ種子を置いて、チューブ上面の照度4,000ルクス、温度26℃、湿度50%、日長16時間、で3日間栽培した。
(評価方法)
栽培後の当該イネ実生を、WinRHIZOシステム(REGENT INSTRUMENTS社製)で種子根長を測定した。各試験区での、4個体又は5個体の種子根長の測定値の平均値を求めた結果、本化合物1、本化合物2、又は本化合物3(いずれも濃度1ppm)で処理した試験区は、無処理区と比較して、明らかに種子根が長かった。
【0057】
試験例2 イネ浸漬処理による低温ストレス軽減評価試験
(供試植物)
イネ(品種 日本晴)
(栽培)
必要量のイネ種子を1,000ppm ベンレ−ト水溶液に浸け、30℃で一晩暗黒下で培養した。ベンレ−ト水溶液を蒸留水に置換して、30℃でさらに一晩暗黒下で培養し、催芽処理を行った。406穴プラグトレーの穴にろ紙を載せ、催芽処理後のイネ種子をろ紙上に播種した。これに1/2倍濃度の木村B水耕栽培液(Plant Science 119:39-47 (1996)参照)を加え、人工気象室内で以下の条件で5日間栽培した。
・温度 昼28℃/夜23℃、湿度70%、照度8,500ルクス、日長12時間
(化合物処理)
本化合物1の1,000ppm濃度のDMSO溶液を調製し、1/2倍濃度の木村B水耕栽培液にて希釈した。化合物を含む当該水耕栽培液を24穴プレートの各ウェルに2mlずつ分注し、生育したイネ実生を1ウェルに1個体ずつ移し、以下の条件下、照明培養棚で2日間栽培した。
「条件:温度25℃、照度5,000ルクス、日長12時間」
また、0.1%DMSOを含む水耕栽培液を用いて同様に栽培したイネ実生を無処理区とした。
(低温ストレス処理)
当該イネ実生を、24穴プレートごと保冷庫(MPR-1411、三洋電機製)内に移し、冷陰極管照明を用いて以下の条件で5日間栽培した。
「条件:温度4℃、照度3,500ルクス、日長12時間」
(評価)
低温ストレス処理後に、低温ストレス処理後のイネ実生を照明培養棚に移し、以下の条件で、さらに4日間栽培した。
「条件:温度25℃、照度5,000ルクス、日長12時間」
4日後、各処理区のイネ実生個体の地上部を写真撮影し、得られた画像データの緑色部分の面積を、画像解析ソフトWin ROOF(三谷商事社製)で定量して、植物の地上部の当該各個体の緑色面積を求めた。処理区毎に、2反復の緑色面積の1個体あたりの平均値を求めた。その結果、本化合物1を1ppmの処理濃度で処理した区において、無処理区と比べて明らかに植物体緑色面積が大きかった。
【0058】
試験例3 イネ水耕栽培による根部生長促進評価試験
(供試植物)
イネ(品種 日本晴)
(栽培、化合物処理)
本化合物4〜本化合物8の10,000 ppmのDMSO溶液を調製し、1/4倍濃度のホグランド水耕栽培液(Hoagland and Arnon, California Agricultural Experiment Station 1950 Circular 347 pp.34)に、本化合物4〜本化合物8のいずれかひとつを濃度10,000 ppmで含むDMSO溶液を1/10,000容添加し、本化合物4〜本化合物8のいずれかひとつを濃度1ppmで含む水耕栽培液をそれぞれ作製した。無処理区としては、1/4倍濃度のホグランド水耕栽培液にDMSOを1/10,000容添加した水耕栽培液を使用した。
イネ種子を、1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、次いで、70%エタノール溶液に浸漬して表面消毒し、その後、蒸留水で洗浄した。消毒後の種子を、前記の各試験濃度の供試化合物を含む水耕栽培液に浸し、暗黒下、温度28℃で3日間インキュベートし催芽処理を行った。
その後、各試験濃度の供試化合物を含む水耕栽培液30mlを、側面をボール紙で覆って遮光したプラスチック製のチューブ(直径:20mm×高さ:113mm)に分注し、スチレンボードとビニール製メッシュを用いて作製したフロートを浮かべ、水耕栽培液水面にそのフロート上に、催芽処理後の当該イネ種子を置いて、チューブ上面の照度4,000ルクス、温度26℃、湿度50%、日長16時間、で3日間栽培した。
(評価)
栽培後の当該イネ実生を、WinRHIZOシステム(REGENT INSTRUMENTS社製)で種子根長を測定した。各試験区での、4個体又は5個体の種子根長の測定値の平均値を求めた結果、本化合物4、本化合物5、本化合物6、本化合物7、又は本化合物8(いずれも濃度1ppm)で処理した試験区は、無処理区と比較して、明らかに種子根が長かった。
【0059】
試験例4 タバコ水耕栽培による低温ストレス影響軽減評価試験
(供試植物)
タバコ(Nicotiana benthamiana)
(栽培、化合物処理)
本化合物1、本化合物2、本化合物3、又は本化合物4のいずれかひとつを濃度10,000ppmで含むDMSO溶液を調製し、1/2倍濃度のムラシゲ・スクーグ培地(水1L当たり、ムラシゲ・スクーグ培地用混合塩類(和光純薬社製)を2.3g、ミオイノシトール(シグマアルドリッチ社製)を200mg、ニコチン酸(和光純薬社製)を2mg、ピリドキシン塩酸塩(和光純薬社製)を2mg、チアミン塩酸塩(和光純薬社製)を20mg、ショ糖(和光純薬社製)を 20g 、MES(同仁化学研究所社製)を1g、を含み、pH5.8に調整された培地)に、上記DMSO溶液を1/1,000容添加し、化合物を濃度10ppmで含む当該培地を作製した。無処理区としては、1/2倍濃度のムラシゲ・スクーグ培地にDMSOを1/1,000容添加した培地を使用した。
ベンサミアナタバコの種子を5μLの当該培地に播種し、22℃で一晩培養した。その後、本化合物を濃度10ppmで含む当該培地を45μL添加して照度4,000ルクス、温度22℃、日長16時間、で7日間栽培し、ベンサミアナタバコの実生を化合物で処理した。無処理区には1/2倍濃度のムラシゲ・スクーグ培地にDMSOを1/1,000容添加した培地を45μL添加して、同様に化合物処理を行った。
(低温ストレス処理)
化合物処理したベンサミアナタバコの実生を、照度2,000ルクス、温度1.5±1.0℃、日長16時間、で7日間栽培して低温ストレス処理した。
(評価)
低温処理したベンサミアナタバコの実生を、照度4,000ルクス、温度22℃、日長16時間、で3日間栽培した後、緑色の葉面積を目視評価した。完全に枯死した植物体を0、低温処理を行っていない植物体を5として、緑色面積を1/5刻みで6段階で評価し、1以上のものを軽減効果ありとした。目視評価の結果、無処理区の緑色葉面積に対して、本化合物1、本化合物2、本化合物3、又は本化合物4で処理した試験区は明らかに緑色葉面積が増加した。
【0060】
試験例5 トウモロコシ種子処理による低温ストレス軽減評価試験
(供試植物)
トウモロコシ(品種:黒もち)
(種子処理)
10% (V/V) color coat red (Becker Underwood, Inc.)、10% (V/V) CF-Clear (Becker Underwood, Inc.)、1.66% Maxim4FS(Syngenta)を含むブランクスラリー溶液を調製した。トウモロコシ種子100キログラム当り0.5グラム、5グラム又は50グラムの処理量となるように化合物1をそれぞれブランクスラリーに溶解し各濃度のスラリー溶液とした。50ml遠沈管(日本BD社製)に、トウモロコシ種子14.4g当り0.35mlのスラリー溶液を入れ、スラリー溶液が乾くまで攪拌し、当該種子をコーティングした。また、ブランクスラリーを用いてコーティングした種子を無処理区用種子とした。
(栽培)
種子処理後のトウモロコシ種子をポット(φ55 mm×高さ58mm)中の培土(愛菜)に1粒ずつ播種し、温度27℃、照度5,000ルクス、日長16時間の条件下で10日間栽培し、生育した実生を供試した。
(低温ストレス処理方法)
下記の温度条件に設定した人工気象室(VHT-2-15P-NC2-S、日本医化器械製作所製)に、播種後10日目のポットを入れ、以下の条件で、4日間栽培した。
「条件;温度2.5±1℃、日長16時間、照度5,000ルクス」
(評価)
低温ストレス処理後に、温度27℃、照度5,000ルクス、日長16時間で、4日間栽培した後、当該植物の地上部新鮮重量を秤量した。各処理条件で5反復をとり、それらを平均して1個体あたりの平均重量を求めた。
その結果、本化合物1を種子100キログラム当り0.5グラムで処理した区、5グラムで処理した区及び50グラムで処理した区では、いずれも無処理区と比べて明らかに地上部新鮮重量が大きかった。
【0061】
試験例6 コムギ散布処理による高温ストレスによる影響軽減評価試験
(供試植物)
コムギ(品種:アポジー)
(散布処理)
コムギ種子をプラスチックポット中の培土(愛菜)に5粒ずつ播種し、温度 昼18℃/夜15℃、照度7,000ルクスの人工気象室にて28日間栽培した。ストレス試験前に1ポット当り3個体に間引きした。
0.5ミリグラムの本化合物1に、ホワイトカーボンとポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートアンモニウム塩との混合物(重量割合1:1)を120ミリグラム、水を300μl添加し、湿式粉砕法で微粉砕することにより、化合物1のフロアブル製剤を得た。このフロアブル製剤を水50mlまたは、500mlで希釈しこれに展着剤として、リノー(日本農薬株式会社製)を5000倍希釈になるように添加して、本化合物1を10ppmまたは、1ppmの濃度で含有する散布液を得た。自動散布機を用いて散布液の十分量を前記コムギ実生に散布した。また、本化合物1を含まないフロアブル製剤を散布処理し、無処理区とした。
(高温ストレス処理)
播種後28日目の当該供試植物を、人工気象室内で、温度 昼36℃/夜32℃、湿度 昼50%/夜60%、照度 7,000ルクス、日長12時間の条件にて7日間栽培した。
(評価)
高温ストレス処理後に、人工気象室内で、温度 昼18℃/夜15℃、照度7,000ルクスで栽培した。高温ストレス処理90日目に、7ポットないしは8ポットの供試植物の穂の種子粒数および種子重量を測定し、一穂あたりの種子粒数および種子重量の平均値を求めた。その結果、本化合物1を1ppmおよび10ppmの濃度で処理したコムギは、本化合物1を処理しなかったコムギ(無処理区)に比べて、明らかに種子粒数および種子重量が大きかった。
【0062】
試験例7 イネ種子処理による乾燥ストレス影響軽減評価試験
(供試植物)
イネ(品種:日本晴)
(種子処理)
5% (V/V) color coat red (Becker Underwood, Inc.)、5% (V/V) CF-Clear (Becker Underwood, Inc.)、1% Maxim XL (Syngenta社製)を含むブランクスラリー溶液を調製した。イネ種子100キログラム当り50グラム又は100グラムとなるように本化合物1をそれぞれブランクスラリー溶液に溶解しスラリー溶液とした。50ml遠沈管(AGCテクノグラス社製)に、イネ種子10グラム当り0.3mlのスラリー溶液を入れ、スラリー溶液が乾くまで攪拌し、種子コーティングさせた。又、ブランクスラリー溶液を用いてコーティングした種子を無処理区用種子とした。
(栽培)
406穴プラグトレーの穴にろ紙を載せ、上記のように種子処理したイネ種子をろ紙上に播種して、1/2倍濃度の木村B水耕栽培液(Plant Science 119:39-47 (1996)参照)を添加し、温度 昼28℃/夜23℃、湿度60%、照度8500ルクス、日長12時間の条件で、17日間栽培した。
(乾燥ストレス処理)
生育したイネ実生を5株ずつ空の35ml平底テストチューブ(アシスト/Sarstedt製)に入れ、ふたをせずに、温度 昼28℃/夜23℃、湿度:60%、照度8,500ルクス、日長12時間で、2日間静置した。
(評価)
乾燥ストレス処理後の植物をホグランド水耕栽培液(Hoagland and Arnon, California Agricultural Experiment Station 1950 Circular 347 pp.34参照)100mlが入った遠沈管(AGCテクノグラス)に入れ、温度 昼28℃/夜23℃、湿度60%、照度8,500ルクス、日長12時間で、14日間栽培した。
14日後、各試験区の供試植物5個体をまとめて地上部新鮮重量を測定し、各試験区の3反復の平均値を求めた。その結果、本化合物1を、50グラム/100キログラム種子で処理した区及び100グラム/100キログラム種子で処理した区において、無処理区と比べて明らかに地上部新鮮重量が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明方法を用いることによって、効果的に植物の生長を促進することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)

[式中、R、R2、R3及びR4のいずれか一がトリフルオロメチル基を、その他は水素原子を表す。]
で示される化合物又はその農学的に許容される塩を、植物に処理することを特徴とする植物の生長促進方法。
【請求項2】
式(1)で示される化合物が、下記の化合物群Aから選ばれる化合物である請求項1に記載の方法。
<化合物群A>
(1)5-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸
(2)6-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸
(3)4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸
(4)7-(トリフルオロメチル)ベンゾ[b]チオフェン−2−カルボン酸
【請求項3】
植物が、非生物的ストレスに暴露された又は暴露されるであろう植物である請求項1又は請求項2に記載の植物の生長促進方法。
【請求項4】
植物への処理が、散布処理、土壌処理、種子処理又は水耕処理である請求項1から請求項3のいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
植物への処理が、種子処理である請求項1から請求項3のいずれか一に記載の方法。
【請求項6】
植物がイネ、トウモロコシ、又はコムギである請求項1から請求項5のいずれか一に記載の方法。
【請求項7】
植物が遺伝子組換え植物である請求項1から請求項6のいずれか一に記載の方法。
【請求項8】
非生物的ストレスが高温ストレスである請求項3から請求項7のいずれか一に記載の方法。
【請求項9】
非生物的ストレスが低温ストレスである請求項3から請求項7のいずれか一に記載の方法。
【請求項10】
非生物的ストレスが乾燥ストレスである請求項3から請求項7のいずれか一に記載の方法。
【請求項11】
植物の生長を促進するための、下記式(1)

[式中、R、R2、R3及びR4のいずれか一がトリフルオロメチル基を、その他は水素原子を表す。]
で示される化合物又はその農学的に許容される塩の使用。
【請求項12】
下記式(1)

[式中、R、R2、R3及びR4のいずれか一がトリフルオロメチル基を、その他は水素原子を表す。]
で示される化合物又はその農学的に許容される塩と不活性成分とを含有することを特徴とする植物生長促進組成物。

【公開番号】特開2012−250979(P2012−250979A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106475(P2012−106475)
【出願日】平成24年5月8日(2012.5.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】