説明

植物・菌類育成成形体及びその製造方法

【課題】軽量で水はけが良く、敷設後は自然に分解する生分解性を有し、且つ、発芽率の高いという特徴を備えた新たな植物・菌類育成成形体を提供する。
【解決手段】火山性シリカ化合物と、火山性シリカ化合物と、水に不溶で、エチルアルコールに可溶であって、100℃以下の温度で軟化し、且つ室温下では固体である天然産品由来物質と、を含有する植物・菌類育成成形体、より好ましい態様として、火山性シリカ化合物と、前記天然産品由来物質と、植物の種子又は菌類の胞子と、を含有する植物・菌類育成成形体を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地面や壁面等に敷設することで植物や菌類を育成可能な環境を提供することができる植物・菌類育成成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、屋上や建物壁面の緑化は、温暖化対策としても注目されており、このような用途に使われる緑化技術が注目されている。また、学校の校庭や幼稚園の園庭の芝生化も進められており、このような用途に利用できる新たな緑化技術も望まれている。そこで、この種の目的に関連した技術を調べてみると、次のような提案が為されている。
【0003】
例えば特許文献1には、屋根上等の耐荷重強度の低い所でも、芝を育成することができる軽量床付き天然芝として、立気泡で且つ通気性を有するプラスチック発泡成形体からなる芝床上に、芝の種子を蒔いて発芽させるか或いは該芝床上に芝張りして芝を育成し、芝の根を芝床に活着させたことを特徴とする軽量床付き天然芝が開示されている。
【0004】
特許文献2には、屋上、法面等の緑化に好適に使用される生分解性植物育成基材として、培土基材に、熱融着性生分解性繊維Aと、熱融着性生分解性繊維Bを配合してなる生分解性植物育成基材、及び該生分解性植物育成基材を加熱処理して固化する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、板状の生分解性成分から成るボードの表面に蔓草を植生してなる緑化ボードが開示されている。
【0006】
特許文献4には、播種した種子の発芽と生育が順調に進む植生用基盤として、木質または/および草質の破砕チップと、肥料成分と、水との間で水和反応を起こして水和化合物を生成する物質を必須成分として含む結合材と、水との混合物の圧縮成形体である植生用基盤が開示されている。
【0007】
特許文献5には、廃棄物の焼却灰から製造するナノ複合酸化物材料を土壌改良材として混合した土壌を、生分解性の繊維を使用して織った袋状の二重又は三重織物植生マット材の中に封入して製造した緑化用の植生マットを建造物の屋上、ベランダ、グランド及び砂漠において使用する緑化方法が開示されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−009778号公報
【特許文献2】特開2005−295946号公報
【特許文献3】特開2007−195445号公報
【特許文献4】特開2009−148215号公報
【特許文献5】特開2010−252766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
屋上などの緑化や、校庭・園庭の芝生化などを考慮すると、植物などの育成の観点からは、発芽率が高く、且つ、水はけが良くなければならない。また、施工工事や建物への負担軽減の観点からは、軽量であることが望ましい。そしてまた、敷設したことによって環境を汚染するようなことは避けなければならない。
【0010】
そこで本発明の目的は、軽量で水はけが良く、敷設後は自然に分解し、且つ、発芽率を高くすることができるという特徴を備えた新たな植物・菌類育成成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、火山性シリカ化合物と、水に不溶で、エチルアルコールに可溶であって、100℃以下の温度で軟化し、且つ室温下では固体である天然産品由来物質(以下、単に「前記天然産品由来物質」とも称する)と、を含有する植物・菌類育成成形体を提案する。
また、より好ましい態様として、火山性シリカ化合物と、前記天然産品由来物質と、植物の種子又は菌類の胞子と、を含有する植物・菌類育成成形体を提案する。
【0012】
このような植物・菌類育成成形体は、例えば、前記天然産品由来物質をエチルアルコールに溶解し、得られた溶解物と火山性シリカ化合物とを混合した後、該エチルアルコールを揮発させ、次いで植物の種子又は菌類の胞子を混合し、100℃以下の温度で加圧成形し、次いで加熱して前記天然産品由来物質と火山性シリカ化合物とを結着させることで製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明が提案する植物・菌類育成成形体において、その主成分である火山性シリカ化合物は、多孔質であるため、軽量で、かつ水はけに優れている。また、前記天然産品由来物質は、100℃以下の温度で軟化し、且つ室温下では固体であるから結着性(粘着性)を有しており、火山性シリカ化合物を結着させて成形体を得ることができる。さらに、火山性シリカ化合物及び前記天然産品由来物質ともに、天然物に由来するため、環境へ悪影響を及ぼすことがないばかりか、土に敷設した後は自然に分解して土に戻すことができる点でも優れている。
【0014】
また、製造方法に関しても、植物の種子等を水分と接触させることなく成形体を製造することができるため、加工の影響で発芽が始まることがない。しかも、前記天然産品由来物質は、エチルアルコールに溶解し、かつ低温加熱で硬化するため、製造過程で植物の種子等を混入しても、薬剤や熱さらには圧力の影響で植物の種子が死滅することがなく、発芽率を高めることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明するが、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<本植物・菌類育成成形体A>
本実施形態に係る植物・菌類育成成形体A(以下「本植物・菌類育成成形体A」と称する)は、火山性シリカ化合物と、水に不溶で、且つエチルアルコールに可溶であって、100℃以下の温度で軟化し、且つ室温下では固体である天然産品由来物質(以下、単に「前記天然産品由来物質」とも称する)と、を含有する植物・菌類育成成形体である。
【0017】
本植物・菌類育成成形体Aは、植物などを育成する土壌として利用することができる。例えば屋上や建物壁面、或いは学校の校庭や幼稚園の園庭などに敷設し、その上に植物の種子などを散布することにより、植物を育成することができる。
【0018】
(火山性シリカ化合物)
火山性シリカ化合物としては、例えばシラス、フライアッシュ、バーミキュライト、パーライトなどを挙げることができる。中でも、パーライトは、通気性、保水性、排水性が良好であり、多孔質・発泡性で非常に軽量であるため取り扱いが容易である。しかも、天然由来であるから、環境適合性にも優れている点で最も好ましい。また、パーライトは、バーミキュライトと違い、アスベストを含んでいない点でも好ましい。
【0019】
パーライト(Perlite)としては、火山岩として産出されるパーライトでも、黒曜石を高温で熱処理してできる黒曜石発泡パーライト、或いは、真珠岩や脂岩を粉砕した後、急速に加熱して膨張させた真珠岩発泡パーライトのいずれでもよい。
【0020】
(前記天然産品由来物質)
前記天然産品由来物質としては、水に不溶で、エチルアルコールに可溶であって、100℃以下の温度で軟化し、且つ室温下では固体である物質であって、天然産品由来の物質であればよい。
前記天然産品由来物質が水に不溶であれば、発芽させるために本植物・菌類育成成形体A若しくはB(成形体Bについては後述する)に水を供給した際、成形体が急激に崩壊するのを防ぐことができる。
【0021】
この際、「水に不溶」とは、実質的に水に不溶であればよいという意味である。すなわち、天然産品由来の物質であるため、不純物も多く、水に可溶な成分を含んでいる場合であっても、主成分が水に溶けなければよい。この際、主成分とは、少なくとも50質量%以上、中でも80質量%以上、その中でも90質量%以上を占める成分を意味する。
「エチルアルコールに可溶」とは、実質的にエチルアルコールに可溶であればよいという意味である。すなわち、天然産品由来の物質であるため、不純物も多く、エチルアルコールに溶けない成分を含んでいる場合であっても、主成分がエチルアルコールに可溶であればよいという意味である。この際、主成分とは、少なくとも50質量%以上、中でも80質量%以上、その中でも90質量%以上を占める成分を意味する。
「100℃以下の温度で軟化し、且つ室温下では固体である」とは、室温下、具体的には20℃では固体であって、加熱すれば軟化するが、その軟化温度が100℃以下であるという意味である。
「天然産品由来の物質」とは、天然産品に由来する物質と同じ種類であればよいという意味である。すなわち、実際に用いる物質が、天然産品を工業的に加工して得られたものや、工業的に製造されたものであっても、天然産品に由来する物質と同じ種類であればよいという意味である。
【0022】
前記天然産品由来物質の具体例としては、例えばセラック樹脂、ロジン、コーバル、ダンマル、マスチック、サンダラック、麒麟血(きりんけつ)などを挙げることができる。中でも、入手の容易さなどから、セラック樹脂、ロジンが特に好ましい。
【0023】
(セラック樹脂)
セラック樹脂は、シェラックとも称される生分解性の結着剤である。
セラック樹脂は、ラックカイガラムシ(Laccifer lacca)などが分泌する虫体被覆物を精製して得られる樹脂状の物質である。熱により軟化して(軟化点は70℃付近)粘着性(結着性)を示し、さらに高温で加熱することにより熱硬化性を示す。すなわち、通常は、熱軟化性であるが、一定の温度以上で熱硬化性を示すようになるため、植物の種子などを死滅させることのない比較的低温で熱硬化させることができる。また、アルコール系溶剤のみに溶け、他の有機溶剤には耐性を示すという特徴を有している。
【0024】
JIS K 5909では、セラック樹脂の硬化時間を170℃において測定すると規定されている。しかしながら、本発明者は、このような高温下での熱硬化を行うと、内包された植物の種子が死滅するので不適当であると考え、セラック樹脂などの前記天然産品由来物質が加熱により軟化して、その後冷却することにより混合されたパーライトの粒子を結着し、実用上十分な強度を発現することを見出し、本発明に至ったものである。
【0025】
(ロジン)
ロジンは、マツ科の植物の樹液(松脂)を蒸留して得られる天然樹脂である。より具体的には、例えば松の幹に傷を付けてしみ出したテレビン油を蒸留して回収されるガムロジンや、松の材木チップに化学薬品を加え、高い温度と高い圧力の下で分解してパルプ繊維を取り出すクラフト法において副産物として得られるトールロジン、松の切り株をチップ状に加工して溶剤抽出により得られるウッドロジンなどを挙げることができる。
いずれのロジンも、アビエチン酸やパラストリン酸などの樹脂酸を主成分としており、セラック樹脂同様に生分解性の結着剤として有用である。また、熱により軟化して(軟化点は70〜80℃付近)粘着性(結着性)を示し、さらに高温で加熱することにより熱硬化性を示す。すなわち、通常は、熱軟化性であるが、一定の温度以上で熱硬化性を示すようになるため、植物の種子などを死滅させることのない比較的低温で熱硬化させることができる。
なお、ロジンの場合には、50℃程度での成形可能であるため、おそらく若干残留エチルアルコールにより軟化温度が下がって成形できるものと考えられる。この時、ロジンは厳密には硬化しているのではなく、単に可塑化してパーライトを結合するものと考えることができる。
【0026】
(含有割合)
火山性シリカ化合物と、前記天然産品由来物質との含有割合は、質量割合として、火山性シリカ化合物:前記天然産品由来物質=5:5〜9.5:0.5であるのが好ましい。9.5:0.5以上に前記天然産品由来物質を含んでいれば、成形体とするのに十分な結着性を得ることができる。他方、火山性シリカ化合物:前記天然産品由来物質の割合が5:5以下となるように前記天然産品由来物質を含んでいれば、内部の種子の発芽を阻害する程固くなり過ぎることもない。
よって、かかる観点から、特に火山性シリカ化合物:前記天然産品由来物質=6:4〜9:1であるのがさらに好ましく、その中でも7:3〜9:1であるのがさらに好ましい。
【0027】
<本植物・菌類育成成形体B>
本実施形態に係る植物・菌類育成成形体B(以下「本植物・菌類育成成形体B」と称する)は、火山性シリカ化合物と、前記天然産品由来物質と、植物の種子又は菌類の胞子と、を含有する植物・菌類育成成形体である。
本植物・菌類育成成形体Bは、既に植物の種子又は菌類の胞子を含有しているから、例えば屋上や建物壁面、或いは学校の校庭や幼稚園の園庭などに敷設した後、水を供給することで、植物を育成することができる。
【0028】
火山性シリカ化合物及び前記天然産品由来物質の種類、並びに含有割合は、本植物・菌類育成成形体Aと同様である。
【0029】
(植物の種子又は菌類の胞子)
植物・菌類育成成形体Bが含有し得る植物の種子としては、例えば芝草などのイネ科の植物、クローバーなどの牧草類の種子を代表例として挙げることができる。但し、種子から発芽して成長する植物であれば、その種子が限定されるものではない。
また、植物・菌類育成成形体Bが含有し得る菌類の胞子としては、例えばキノコ類、シダ類、コケ類などを代表例として挙げることができる。
【0030】
(使用方法)
本植物・菌類育成成形体Bは、例えば土上に載置し放置して発芽を待つことも可能であるが、土中に埋めた状態で発芽を待つようにすることで発芽率をより一層高めることができる。
【0031】
<その他の成分>
植物・菌類育成成形体A及びBは、上記のほか、高分子吸水剤や、成形体の含水率が5%未満となるように各種添加組成物を含有させてもよい。
【0032】
(高分子吸水剤)
高分子吸水剤としては、例えばポリアクリル酸塩系樹脂、ポリスルホン酸塩系樹脂、無水マレイン酸塩系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂などを挙げることができる。具体的には、AQUASORB(商品名)を挙げることができる。
【0033】
植物・菌類育成成形体A及びBに高分子吸水剤を配合することで、植物・菌類育成成形体A及びBに水を供給した後に成形体を容易に崩壊させることができる。すなわち、高分子吸水剤は吸水することにより急激に体積膨張を起こすので、この体積膨張によって成形体は崩壊する。そして、このような崩壊により、芽や根が伸びにくい種類の植物であっても、容易に発芽できるようになる。よって、高分子吸収剤の添加量を増やせば、植物・菌類育成成形体A及びBの崩壊速度を速めることができる。
【0034】
(添加組成物)
植物・菌類育成成形体A及びBは、上記のほか、土や肥料、炭酸カルシウム、セラック樹脂の硬化促進剤であるクエン酸などの有機酸類、防かび剤、動物の忌避物質などを適宜配合することができる。
但し、水分を含む物を植物・菌類育成成形体Bに配合すると、敷設する前に発芽する可能性があるため好ましくない。よって、植物・菌類育成成形体Bに配合する添加組成物の含水率は、成形体全体の含水率が5%未満となるように調整するのが好ましい。
【0035】
<植物・菌類育成成形体A及びBの構造>
本植物・菌類育成成形体は、火山性シリカ化合物と前記天然産品由来物質、或いはさらに種子等を含有する層のみからなる単層構成であってもよいし、多層構成でもよい。
例えば、火山性シリカ化合物と前記天然産品由来物質、或いはさらに種子等を含有する層の上側に、火山性シリカ化合物と前記天然産品由来物質を含有し、且つ種子などを含有しない表面層を設けることもできる。また、例えば、火山性シリカ化合物と前記天然産品由来物質、或いはさらに種子等を含有する層の下側に肥料を含有する層を設けることもできる。
【0036】
<植物・菌類育成成形体A及びBの製造方法>
植物・菌類育成成形体Aは、前記天然産品由来物質をエチルアルコールなどのアルコールに溶解し、得られた溶解物と火山性シリカ化合物とを混合した後、該アルコールを揮発させ、次いで100℃以下の温度で加圧成形し、次いで加熱して前記天然産品由来物質と火山性シリカ化合物とを結着させることで製造することができる。
【0037】
他方、植物・菌類育成成形体Bは、前記天然産品由来物質をエチルアルコールなどのアルコールに溶解し、得られた溶解物と火山性シリカ化合物とを混合した後、該アルコールを揮発させ、次いで植物の種子又は菌類の胞子を混合し、100℃以下の温度で加圧成形し、次いで加熱して前記天然産品由来物質と火山性シリカ化合物とを結着させることで製造することができる。
【0038】
このように植物の種子等が水分と接触することなく製造することができるため、加工の影響で発芽が始まることがない。しかも、前記天然産品由来物質は、エチルアルコールなどに溶解し、かつ低温加熱で硬化するため、製造過程で植物の種子等を混入しても、薬剤や熱さらには圧力の影響で植物の種子が死滅することがなく、発芽率を好適に維持することができる。
【0039】
具体的な一例を挙げるとすれば、先ず、セラック樹脂をエチルアルコールに溶解してパーライトと混合した後、加熱してエチルアルコールを除去することにより、表面にセラック樹脂が付着したパーライトを作製する。これを、例えば50℃、5kgf/cm程度の低温、低圧で加熱、加圧すれば、パーライトの粒子を結着させることができる。この温度、圧力であれば、植物の種子を死滅させることがない。
市販のセラック樹脂の軟化点は70℃程度であり、この温度以上に加熱すれば軟化して結着剤として作用する。しかしながら、上記の通り、加熱温度が使用したセラック樹脂の融点以下でも結着できることが明らかになった。これは、エチルアルコール除去処理を行っても、僅かにエチルアルコールが残っており、この影響でセラック樹脂の軟化点が下がるためであると考えられる。僅かに残存したエチルアルコールは、結着により成形されたパーライト固化体を室温程度の環境に置くことで容易に除去することができるので、封止された植物種子が長時間にわたりエチルアルコールに接触することがないので、死滅することはない。
【0040】
なお、火山性シリカと前記天然産品由来物質とを混合する際、前記天然産品由来物質を水で溶解すると、植物の種子等を配合した時に意図しない発芽を引き起こすため、好ましくない。そこで、エチルアルコールなどの安全な有機溶剤を用いるのが好ましい。
中でも、エチルアルコールは、セラック樹脂やロジンなどの前記天然産品由来物質に対して溶解性を示すばかりか、人体並びに植物に対して毒性が十分に低く、自然界にも存在する物質であることから、それ自体が屋外の土壌などと混合されても環境に対する負荷がない点で優れている。さらに、沸点が78.3℃と低く、加熱や減圧によって揮発除去も容易であるので、火山性シリカと前記天然産品由来物質とを結着させる場合に100℃以下の温度で行うことができる点でも優れている。
【0041】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を下記実施例に基づいてさらに詳述する。
【0043】
(実施例1)
パーライトとセラック樹脂の混合質量比率が8:2になるように、パーライト(三井金属鉱業社製「パーライト加工用5号」)48gおよびセラック樹脂溶液(岐阜セラツク社製「GSN」、50%エタノール溶液)24gを混合した後、この混合溶液を減圧下、50℃で30分間加熱してエタノールを揮発除去し、混合粉末とした。この時のエタノール除去率は92%であった。
得られた混合粉末を、縦横それぞれ15cmの金型に入れて、50℃、5kgf/cmにて10分間プレスを行い、型から取り出した成形物を50℃の熱風オーブン中で1時間加熱してパーライト成形体を得た。この時のエタノール除去率は99%であった。
【0044】
(実施例2)
パーライトとセラック樹脂の混合質量比率が8:2になるように、パーライト(三井金属鉱業社製「パーライト加工用5号」)48g、セラック樹脂溶液(岐阜セラツク社製「GSN」、50%エタノール溶液)24gおよび吸水樹脂(製品名「AQUASORB3005KL」0.1gを混合した以降は実施例1と同様にしてパーライト成形体を得た。
【0045】
(実施例3)
パーライトとして、三井金属鉱業社製「パーライト加工用1号」を用いた以外は、実施例1と同様にしてパーライト成形体を得た。
【0046】
(実施例4)
パーライトとセラック樹脂の混合質量比率が8.5:1.5になるように、パーライト(三井金属鉱業社製「パーライト加工用1号」)51gおよびセラック樹脂溶液(岐阜セラツク社製「GSN」、50%エタノール溶液)18gを混合した後、この混合溶液を減圧下、50℃で30分間加熱してエタノールを揮発除去し、混合粉末とした。この時のエタノール除去率は94%であった。
得られた混合粉末を、縦横それぞれ15cmの金型に入れて、50℃、5kgf/cmにて10分間プレスを行い、型から取り出した成形物を50℃の熱風オーブン中で1時間加熱してパーライト成形体を得た。この時のエタノール除去率は99%であった。
【0047】
<曲げ試験>
次に説明するようにしてサンプル(パーライト成形体)を作製し、空隙率及び平均空隙直径を測定すると共に、3点曲げ試験を行った。
【0048】
(サンプルの作製)
原料とセラック樹脂との混合質量割合が、表1の「原料比」及び「樹脂比」となるように、原料及び天然産品由来物質を混合した後、この混合溶液を減圧下、50℃で30分間加熱してエチルアルコールを揮発除去し、混合粉末とした。得られた混合粉末を、縦横それぞれ15cmの金型に入れて、表1に示す「プレス温度」、「プレス圧力」及び「プレス時間」で加圧成型を行い、型から取り出した成形物を熱風オーブン中で、表1に示す「オーブン加熱温度」×「オーブン加熱時間」条件で加熱乾燥させて、表1に示す「サンプル厚み」のサンプル(パーライト成形体)を得た。
なお、「プレス圧力」は、サンプルに掛かる実圧力を示すものである。
【0049】
なお、表1において、原料としての「P5」とは、パーライト(三井金属鉱業社製「パーライト加工用5号」)、原料としての「P1」とは、パーライト(三井金属鉱業社製「パーライト加工用1号」)、原料としての「シラス」とは、産出されたシラスを1000℃程度に焼成して発泡させた微粒の中空体、所謂シラスバルーンからなるものである。
また、セラック樹脂溶液としては、岐阜セラツク社製「GSN」(50%エチルアルコール溶液)を用いた。
ロジン溶液としては、製品名(ガムロジンWW)をエチルアルコールに溶解したものを用いた。
【0050】
(3点曲げ試験)
3点曲げ試験は、JIS A 5440の「火山性ガラス質複層板(VSボード)」に記載されている曲げ試験としての、JIS A 1408の3点曲げ試験に準拠して行った。
具体的には、曲げ試験機(島津製作所社製「AG−1S」)を使用した2等分点1線加重方式を採用して行った。この際、曲げ試験機による加圧棒の移動速度は10.0mm/minとし、支持棒および加圧棒の半径は5.0mmとし、支点間距離(スパン)は100.0mmとした。
試験体の厚みは6mm前後で任意としたが、幅は20.0mm、長さは上記支点間距離(スパン)以上になるように成形、加工した。
【0051】
曲げ破壊荷重又は最大荷重は、試験体が破壊されるまでにかけられた最大の荷重として測定した。
曲げ強さ(ρ)は、JIS A 1408に記載された次の計算式から算出した。
ρ=3PL/2bt2
P:曲げ破壊最大荷重(最大荷重):mN
L:支店間距離(スパン):mm
b:試験体幅:mm
t:試験体厚み:mm
【0052】
(空隙率の測定方法)
空隙率の測定は、JIS R 1655が規定する「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔分布試験方法」に準拠して測定した。
【0053】
(平均空隙直径の測定方法)
平均空隙直径の測定方法は、JIS R 1655が規定する「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔分布試験方法」に準拠して測定した。
【0054】
【表1】

【0055】
(考察)
表1の結果、サンプルNo.1〜5を比較すると、セラック樹脂の比率が増加するにつれて、3点曲げ試験における最大荷重及び曲げ強さが上昇することが分かった。
サンプルNo.3、7及び8を比較すると、プレス圧力が高くなるほど、3点曲げ試験における最大荷重及び曲げ強さが上昇することが分かった。但し、プレス圧力が高くなると、発芽率の低下が懸念される。
サンプルNo.3、11及び12を比較すると、パーライト原料の種類によって3点曲げ試験の結果に差が認められたことから、例えばパーライト原料の種類を選択することによって、同じ配合比でも曲げ強度を調整できることが分かった。
また、サンプルNo.13などの結果から、ロジンもセラック樹脂と同様の機能を発揮することが確認できた。
【0056】
上記実施例並びに上記サンプル試験、さらにはこれまでの各種試験結果などからすると、十分な結着性と強度を得ることができ、しかも内部の種子の発芽を阻害することがないという観点から、火山性シリカ化合物と、天然産品由来物質例えばセラック樹脂との含有割合は、質量割合として、火山性シリカ化合物:天然産品由来物質=5:5〜9.5:0.5であるのが好ましく、中でも6:4〜9:1であるのがさらに好ましく、その中でも7:3〜9:1であるのがさらに好ましいと考えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火山性シリカ化合物と、水に不溶で、エチルアルコールに可溶であって、100℃以下の温度で軟化し、且つ室温下では固体である天然産品由来物質と、を含有する植物・菌類育成成形体。
【請求項2】
火山性シリカ化合物と、水に不溶で、エチルアルコールに可溶であって、100℃以下の温度で軟化し、且つ室温下では固体である天然産品由来物質と、植物の種子又は菌類の胞子と、を含有する植物・菌類育成成形体。
【請求項3】
前記天然産品由来物質が、セラック樹脂又はロジンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物・菌類育成成形体。
【請求項4】
さらに高分子吸水剤を含有する請求項1〜3の何れかに記載の植物・菌類育成成形体。
【請求項5】
さらに成形体の含水率が5%未満となる添加組成物を含有する請求項1〜4の何れかに記載の植物・菌類育成成形体。
【請求項6】
火山性シリカ化合物が、パーライトであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の植物・菌類育成成形体。
【請求項7】
請求項1記載の天然産品由来物質をエチルアルコールに溶解し、得られた溶解物と火山性シリカ化合物とを混合した後、該エチルアルコールを揮発させ、次いで植物の種子又は菌類の胞子を混合し、100℃以下の温度で加圧成形し、次いで加熱して前記天然産品由来物質と火山性シリカ化合物とを結着させることを特徴とする植物・菌類育成成形体の製造方法。