説明

植物保管装置

【課題】保存用水を保管する植物に適した糖度および溶存酸素濃度に調整することができ、植物を良好な状態で保管することのできる植物保管装置を提供すること。
【解決手段】植物2を保管する保管容器3と、保管容器中の保存用水4に糖分5を補給する糖分供給部6と、保管容器に酸素溶解水7を供給する酸素溶解水供給部8とを備え、保管容器の内部に、保存用水の糖度、溶存酸素濃度をそれぞれ所定の時間毎に測定する糖度測定手段9と、溶存酸素濃度測定手段10とが設けられ、検出された保存用水の糖度および溶存酸素濃度に基づいて、糖分供給部と酸素溶解水供給部の動作を制御し、保管容器中の保存用水の糖度および溶存酸素濃度を保管する植物に適したものに調整する制御部11が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切花などの植物を保管する植物保管装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保管中の植物は、呼吸を行っており、多くの酸素が必要とされる。呼吸のエネルギー源は糖であり、細胞を維持するために必要不可欠な栄養分である。トラックなどの搬送手段や倉庫などに保管される植物は、光合成をほとんど行うことができないため、呼吸に必要な糖は、根または茎などが浸漬される、保管容器中に貯留された保存用水から吸収される。したがって、保存用水の糖度は、経時的に低下し、また、呼吸の際に、保存用水中に溶解している酸素も同時に吸収されることから、植物はやがて劣化することになる。
【0003】
一方、下記特許文献1には、培養液中に酸素または空気を加圧溶解させ、培養液の溶存酸素濃度を高める気体溶解装置を備えた水耕栽培システムが記載されている。この水耕栽培システムでは、培養液の溶存酸素濃度を水耕栽培槽に取り付けられた溶存酸素計で常時測定し、その測定値に基づいて気体溶解装置などの運転を制御する制御装置を備えてもいる。
【0004】
このような水耕栽培システムは、培養液の溶存酸素濃度を栽培作物の根部の生育状況に適応したレベルに制御、管理することを可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−6859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、特許文献1には、植物を水耕栽培する際の培養液の溶存酸素濃度を制御、管理することが記載されているが、培養液の糖度を制御、管理することは記載されていない。このため、たとえ呼吸に必要な溶存酸素濃度を実現することができても、糖の枯渇が懸念され、保管される植物は、エネルギー不足となり、生理的活動の維持が難しくなって、上記劣化の問題が起こるのではないかと予想される。
【0007】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、保存用水を保管する植物に適した糖度および溶存酸素濃度に調整することができ、植物を良好な状態で保管することのできる植物保管装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の植物保管装置は、保存用水が貯留され、植物を保管する保管容器と、この保管容器中の保存用水に糖分を補給する糖分供給部と、保管容器に酸素溶解水を供給する酸素溶解水供給部とを備えた植物保管装置であって、保管容器では、その内部に、保存用水の糖度を所定の時間毎に常時測定する糖度測定手段と、保存用水の溶存酸素濃度を所定の時間毎に測定する溶存酸素濃度測定手段とが設けられ、糖度測定手段が検出した保存用水の糖度および溶存酸素濃度測定手段が検出した保存用水の溶存酸素濃度に基づいて、糖分供給部と酸素溶解水供給部の動作を制御し、保管容器中の保存用水の糖度および溶存酸素濃度を保管する植物に適したものに調整する制御部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
この植物保管装置においては、酸素溶解水供給部は、溶解タンクを有する気体溶解装置を備え、この気体溶解装置は、溶解タンク中に供給される水に空気を加圧溶解させ、通常の水よりも溶存酸素濃度の高い酸素溶解水を生成することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の植物保管装置によれば、保存用水を保管する植物に適した糖度および溶存酸素濃度に調整することができ、植物を良好な状態で保管することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の植物保管装置の一実施形態を概略的に示した構成図である。
【図2】図1に示した酸素溶解水供給部が備える気体溶解装置を例示した要部斜視図である。
【図3】図2に示した気体溶解装置が有する溶解タンクの断面図である。
【図4】図1に示した酸素溶解水供給部が備える空気調節手段を例示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記のとおり、図1は、本発明の植物保管装置の一実施形態を概略的に示した構成図である。
【0013】
植物保管装置1は、植物2としての切花2aを保管する保管容器3を備えている。保管容器3の内部には、切花2aを保存するための保存用水4が供給され、貯留される。保存用水4は、通常の水よりも溶存酸素濃度の高い酸素溶解水を主な成分とし、液糖などの糖分などが添加されるものである。
【0014】
また、植物保管装置1は、保管容器3中の保存用水4に呼吸のエネルギー源となる液糖などの糖分5を補給する糖分供給部6と、保管容器3に酸素溶解水7を供給する酸素溶解水供給部8とを備えている。糖分供給部6および酸素溶解水供給部8は、ともに保管容器3に、配管などを介して接続され、連通している。また、糖分供給部6および酸素溶解水供給部8は、ともにポンプを備え、ポンプの作動によって糖分5、酸素溶解水7のそれぞれが保管容器3に供給されるようにしている。
【0015】
糖分5および酸素溶解水7は、保管容器3中で混合され、保存用水4となる。糖分供給部6が供給する糖分5には、必要に応じて延命剤などの添加成分を混合することができる。糖分5と酸素溶解水7、さらに添加成分の混合が均一に行われ、均質な保存用水4が生成するために、保管容器3には、攪拌装置を設けることができる。また、保管容器3では、保存用水4の新旧入れ替えのために、底部に、開閉自在な排水栓を設けることもできる。排水栓の開放によって、古くなった保存用水4を保管容器3の外部に排水することができる。
【0016】
このような植物保管装置1では、保管容器3の内部に、保存用水4の糖度を所定の時間毎に測定する糖度測定手段9と、保存用水4の溶存酸素濃度を所定の時間毎に測定する溶存酸素濃度測定手段10とが設けられている。これらの糖度測定手段9および溶存酸素濃度測定手段10には、それぞれ、その機能に応じた各種のセンサや機器を、公知のものを含め、適宜採用することができる。糖度測定手段9および溶存酸素濃度測定手段10が検出する保存用水4の糖度および溶存酸素濃度は、電気信号として出力される。糖度測定手段9および溶存酸素濃度測定手段10における保存用水4の糖度、溶存酸素濃度を測定する時間間隔は、たとえば、保存用水4の量や切花2aの量および品種などに応じ、測定値に大きな変動が生じない程度の間隔で適宜設定することができる。その間隔は、等間隔であってもなくてもよく、また、常時または常時と見なせるような短時間での繰り返しなどとすることができる。
【0017】
そして、植物保管装置1では、糖度測定手段9および溶存酸素濃度測定手段10に電気的に接続され、糖度測定手段9および溶存酸素濃度測定手段10から出力される糖度および溶存酸素濃度に関する電気信号が入力される制御部11が設けられている。制御部11は、また、糖分供給部6が備える糖分供給用のポンプおよび酸素溶解水供給部8が備える酸素溶解水供給用のポンプとも電気的に接続されている。さらに、制御部11には、切花2aの品種などに応じた保存用水4の糖度および溶存酸素濃度に関するデータがあらかじめ記憶されている。したがって、制御部11は、糖度測定手段9および溶存酸素濃度測定手段10から出力され、入力された糖度および溶存酸素濃度をあらかじめ記憶しているデータと照合し、たとえば、記憶しているデータの下限値以下の場合には、糖分供給用および酸素溶解水供給用のポンプに作動のコマンドを送信し、上限値以内の場合には、ポンプに停止のコマンドを送信する。これらのコマンドを受信してポンプは作動または停止し、糖分供給部6から糖分5が保管容器3中の保存用水4に補給または停止され、同じく、酸素溶解水供給部8から酸素溶解水7が保管容器3に供給または停止される。糖度測定手段9および溶存酸素濃度測定手段10の測定は、測定値に大きな変動が生じない程度の所定の時間毎に行われるので、保管容器3中の保存用水4の糖度および溶存酸素濃度がほぼ一定に保持され、切花2aの呼吸にともなう保存用水4の糖度および溶存酸素濃度の低下が抑制され、切花2aの経時的な劣化を抑制することができる。
【0018】
このように、制御部11は、糖度測定手段9が検出した保存用水4の糖度および溶存酸素濃度測定手段10が検出した保存用水4の溶存酸素濃度に基づいて、糖分供給部6と酸素溶解水供給部8の動作を制御し、保管容器3中の保存用水4の糖度および溶存酸素濃度を保管する切花2aに適したものに調整する。
【0019】
このような制御部11は、たとえば、保存用水4の糖度および溶存酸素濃度に関するデータや、ポンプの作動および停止を行うプログラムなどが記憶されたマイクロコンピュータなどによって実現可能である。
【0020】
図2は、図1に示した酸素溶解水供給部が備える気体溶解装置を例示した要部斜視図であり、図3は、図2に示した気体溶解装置が有する溶解タンクの断面図である。
【0021】
気体溶解装置12は、中空な箱型の溶解タンク13を有している。
【0022】
溶解タンク13は水平に配置され、その底部13aには、流入口14が溶解タンク13の底面を上下に貫通して形成されている。流入口14に対応して溶解タンク13の底部13aには、ポンプ15が設けられ、ポンプ15は、溶解タンク13のほぼ直下に配置されている。ポンプ15は、上記のとおりの、酸素溶解水7の供給用のポンプを兼ねることができる。ポンプ15と溶解タンク13は、流入流路16によって接続され、連通している。また、図示していないが、ポンプ15の吸込側15aには、水道または貯水槽などの水源から供給される水がポンプ15に流れ込む部分に、空気供給路が接続されている。
【0023】
このため、空気供給路を通じて送り込まれる空気は水中に混入され、気液混合流体となり、この気液混合流体が、流入口14から溶解タンク13の内部に上方に噴出する。ポンプ15は、このような気液混合流体の噴出を可能とするように、水を所定の圧力に加圧する。
【0024】
また、溶解タンク13の底部13aには、流出口17が、溶解タンク13の底面を上下に貫通して形成されている。流出口17に対応して溶解タンク13の底部13aには、流出流路18が接続され、流出流路18は、図1に示した保管容器3に連通している。
【0025】
このような気体溶解装置12では、運転を開始すると、ポンプ15の作動によって、気液混合流体が流入流路16を通じて溶解タンク13の内部に供給される。気液混合流体は、溶解タンク13の上壁部13bの内面に向かって流入口14から噴出し、溶解タンク13の内部に流入する。流入した気液混合流体は、溶解タンク13の上壁部13bの内面に衝突し、跳ね返り、次第に溶解タンク13の底部13aに溜まっていく。また、上壁部13bの内面に衝突し、跳ね返る気液混合流体は、溶解タンク13内に貯留する水19の水面に落下し、貯留する水19を攪拌する。その結果、加圧状態において空気が水に溶解し、溶存酸素濃度が飽和濃度よりも高い酸素溶解水7が生成する。酸素溶解水7は、溶解タンク13の内部に貯留し、一部が流出口17を通じて流出流路18に流出して溶解タンク13の外部に取り出され、図1に示した保管容器3に供給される。
【0026】
また、溶解タンク13には、気体循環経路20が設けられている。気体循環経路20は、取出口21を一端に有し、他端に取込口22を有している。取出口21は、溶解タンク13の上端部に形成されている。一方、取込口22は、流入流路16の流入口14の付近に形成されている。流入流路16において取込口22が形成された部分は、その断面積を最小断面積から下流側に向けて急拡大させた急拡大部23とされている。急拡大部23は、エジェクタなどによって形成することができる。
【0027】
気体溶解装置12の運転中、気体循環経路20の取出口21付近と取込口22付近には圧力差が生じる。取出口21付近の圧力Pは取込口22付近の圧力Pよりも大きい(P>P)。このときの圧力差ΔP(=P−P)にしたがって、溶解タンク13内の上部などに貯留している未溶解の空気24が吸引され、取出口21から引き抜かれた後、取込口22から送り出され、急拡大部23において気液混合流体に導入される。
【0028】
したがって、溶解タンク13は、内部に貯留している未溶解の空気24を急拡大部23に循環させることができ、未溶解の空気24を循環させながら水19に溶解させることができる。上記圧力差ΔPが大きいほど空気24の循環量が多くなり、気液接触面積の拡大にともない空気24の溶解効率が高くなる。また、水19に導入される未溶解の空気24は気泡として取り込まれるので、水19との気液接触面積は大きくなる。このように、気体循環経路20によって未溶解の空気24を循環させながら水19に溶解させるとともに、未溶解の空気24を気泡として水19に導入することができるので、空気の溶解効率が高くなる。
【0029】
また、気体循環経路20の取出口21が溶解タンク13の上端部に形成されているので、未溶解の空気24がなくなるまで長時間の循環運転が可能である。しかも、未溶解の空気24を水19に混合させる分、水19の体積流量が増加し、流速が速くなり、気液の攪拌がさらに良好に行われることになる。
【0030】
また、気体循環経路20の取込口22が溶解タンク13の底部13a側に設けられているので、溶解タンク13の内部における水19と空気24の接触距離が比較的長くなり、接触時間も長くなるため、溶解効率がさらに高くなる。
【0031】
また、取込口22が流入流路16の急拡大部23に接続されているので、急拡大部23に発生する渦流によって空気24の吸引圧が高まり、循環量が増加する。しかも、急拡大部23における圧力勾配が剪断力として働き、水19に混入する気泡が微細化される。したがって、気液接触面積がさらに大きくなり、溶解効率がさらに高くなる。
【0032】
なお、気体溶解装置12では、空気は、運転前に溶解タンク13の内部に加圧状態で供給して貯留させておくこともできる。この場合、溶解タンク13には水のみを供給することもできる。
【0033】
図4は、図1に示した酸素溶解水供給部が備える空気調節手段を例示した斜視図である。
【0034】
酸素溶解水供給部8は、図2および図3に示したような気体溶解装置12を備えることができるが、気体溶解装置12で生成する酸素溶解水7の溶存酸素濃度をさらに高めるために、酸素分圧を空気よりも高めた高酸素濃度空気を溶解タンク13の内部に導入し、水に溶解させることができる。そのような高酸素濃度空気の生成のために、酸素溶解水供給部8は、図4に示した空気調節手段25を備えることができる。
【0035】
空気調節手段25は、酸素富化ユニット26を有している。酸素富化ユニット26は、中空な矩形板状のフレーム27と、フレーム27の表裏面に取り付けられる薄い酸素富化膜28とから形成される酸素富化モジュール29を複数枚備えたものである。フレーム27の表面部および裏面部には、内部の中空部に連通する孔30が格子状に規則的に配列されて形成されている。また、フレーム27の上端コーナー部には、内部の中空部に連通する、酸素分圧の高い高酸素濃度空気の流出口31が設けられている。
【0036】
このような酸素富化ユニット26では、吸引によって酸素富化モジュール29の表裏両側から内部に空気を流通させると、空気が酸素富化膜28を透過する際に、酸素は、酸素富化膜28を透過しやすいことから選択的に分離され、酸素濃度が約30%程度に高められた高酸素濃度空気が生成する。高酸素濃度空気は、フレーム27の内部の中空部を流れ、流出口31から取り出される。流出口31から取り出された高酸素濃度空気は、図3に示したポンプ15の吸込側15aに送り込まれる。
【0037】
このような空気調節手段25は、図1に示した保管容器3に供給する酸素溶解水7の溶存酸素濃度を高めることができ、切花2aの呼吸にともなう溶存酸素濃度の低下をより抑制することができる。
【0038】
以上のとおりの植物保管装置1は、保存用水4を保管する切花2aに適した糖度および溶存酸素濃度に調整することができ、切花2aを良好な状態で保管することを可能にする。
【0039】
もちろん、本発明は、以上の実施形態によって限定されるものではない。植物保管装置は、切花以外の、たとえば樹木や野菜などの保管も可能である。また、糖分供給部および酸素溶解水供給部の構成および構造などについては様々な態様が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 植物保管装置
2 植物
3 保管容器
4 保存用水
5 糖分
6 糖分供給部
7 酸素溶解水
8 酸素溶解水供給部
9 糖度測定手段
10 溶存酸素濃度測定手段
11 制御部
12 気体溶解装置
13 溶解タンク
25 空気調節手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保存用水が貯留され、植物を保管する保管容器と、この保管容器中の保存用水に糖分を補給する糖分供給部と、前記保管容器に酸素溶解水を供給する酸素溶解水供給部とを備えた植物保管装置であって、
前記保管容器では、その内部に、保存用水の糖度を所定の時間毎に測定する糖度測定手段と、保存用水の溶存酸素濃度を所定の時間毎に測定する溶存酸素濃度測定手段とが設けられ、
前記糖度測定手段が検出した保存用水の糖度および前記溶存酸素濃度測定手段が検出した保存用水の溶存酸素濃度に基づいて、前記糖分供給部と前記酸素溶解水供給部の動作を制御し、保管容器中の保存用水の糖度および溶存酸素濃度を保管する植物に適したものに調整する制御部が設けられている
ことを特徴とする植物保管装置。
【請求項2】
前記酸素溶解水供給部は、溶解タンクを有する気体溶解装置を備え、この気体溶解装置は、前記溶解タンク中に供給される水に空気を加圧溶解させ、通常の水よりも溶存酸素濃度の高い酸素溶解水を生成することを特徴とする請求項1に記載の植物保管装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−44916(P2012−44916A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189579(P2010−189579)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)