説明

植物可食部の食味改良剤

【課題】農作物の可食部における、糖度の上昇、甘味と酸味のバランス向上、アミノ酸などのうま味成分の向上などをもたらす、呈味性成分の食味改良剤を提供する。
【解決手段】酵母細胞壁を酵素等で分解して得られた酵母細胞壁分解物を幼苗、及び/又は畑へ定植後の苗に与えることにより、植物可食部の食味を改良する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の種子・根・茎・葉面もしくは果実に、溶液状態、もしくは固体状態で葉面散布、土壌散布、土壌潅水、土壌潅注等の方法で、又は水耕栽培等の培養液に添加する方法で投与する植物可食部の食味改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や工芸作物、果樹などの農作物を含む植物は、最終的に農作物として一般消費者の飲食に供されるため、農業生産の現場においてはその食味(香り、糖度、酸味、色調、硬度など)の向上が求められている。
【0003】
農業生産において、農作物の健全育成を図ることは重要課題であり、農作物を含む植物の品質を向上させるために、植物生長促進剤などが用いられている。しかし、化学合成によって製造された植物生長促進剤等の薬剤は、植物の生長に著しい効果がある反面、環境に対する負荷等の影響が出てしまう可能性がある。特に、無機化合物などを用いる場合、人体への影響や植物自体に与える影響、或いは果実に対する影響等も考慮して、その使用量などを厳密に制限することが必要であった。特に、近年では食材として用いられる野菜や果実、工芸作物などの安全性が問われており、化学物質を利用しない植物の栽培方法(有機農法)等が着目されている。
特に、禾穀類、いも類、野菜、根菜、葉菜、果菜、果樹等の農作物(あるいは工芸作物)は食味の向上が求められている。食味については甘味(糖度)や酸味またはうま味成分であるアミノ酸などの成分が可食部の成分として多く含まれるか、あるいはバランスよく調整されることにより、食材のおいしさを一般消費者に提供できるものである。
【0004】
これまで、植物の生長促進剤としては、リボ核酸もしくはリボ核酸分解物を10〜40%を含有する酵母エキスにプロリン又はウラシルをそれぞれ0.5〜20%添加したものを禾穀類の幼穂形成の前後より出穂までの期間に、あるいは果菜、根菜、花卉、果樹などへの肥料として施用することを特徴とする禾穀類、果菜、根菜、花卉、果樹等の増収方法が開示されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開昭63-45211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明においては、農作物の可食部の糖度の上昇、甘味と酸味のバランス向上、アミノ酸などのうま味成分の向上など、呈味性成分の向上を含む食味改良剤が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酵母細胞壁を酵素等で分解して得られた酵母細胞壁分解物を幼苗、及び/又は畑へ定植後の苗に与えることにより、植物可食部の食味を改良できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、酵母細胞壁分解物を含む植物可食部の食味改良剤を提供する。
また、本発明は、植物可食部の食味を改良するための酵母細胞壁分解物の使用を提供する。
さらに、本発明は、植物活性剤に酵母細胞壁分解物を添加することを特徴とする、該植物活性剤の植物可食部の食味改良効果を向上させる方法を提供する。
また、本発明は、前記植物可食部の食味改良剤を幼苗及び/又は定植後の苗に与えることを含む栽培方法を提供する。
なお、本明細書において、「植物」は、植物の語自体から認識され得るもの、例えば穀物、種子、球根、草花、野菜、根菜、葉菜、果菜、いも類、果実、果樹、香草(ハーブ)、光合成能を有する単細胞生物、分類学上の植物等を意味するものとする。
また、「可食部」とは、一般の食品流通過程において食用として用いられる部位のことを指し、主に果樹・果菜の場合は果実部、根菜の場合は根部、葉菜の場合は葉部、穀物の場合はイネ、ムギなどの種子部分、いも類の場合は塊茎、塊根部である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、植物品質を改良し、特に植物可食部の食味の改善を可能とすることが期待される、植物可食部の食味改良剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の植物可食部の食味改良剤は酵母細胞壁分解物を含む。
酵母細胞壁分解物は、例えば酵母細胞壁を、酵素等で処理することによって得ることができる。酵母細胞壁として、酵母そのものを用いてもよく、又は自己消化法(酵母菌体内に本来あるタンパク質分解酵素等を利用して菌体を可溶化する方法)、酵素分解法(微生物や植物由来の酵素製剤を添加して可溶化する方法)、熱水抽出法(熱水中に一定時間浸漬して可溶化する方法)、酸あるいはアルカリ分解法(種々の酸あるいはアルカリを添加して可溶化する方法)、物理的破砕法(超音波処理や、高圧ホモジェナイズ法、グラスビーズ等の固形物と混合して混合・磨砕することにより破砕する方法)、凍結融解法(凍結・融解を1回以上行うことにより破砕する方法)等により得られた細胞壁、あるいは酵母から酵母エキスを抽出した後の残渣を用いてもよい。
本発明で使用する酵母としては、分類学上あるいは工業利用上酵母と称されるものであれば特に制限はなく、ビール酵母、パン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、焼酎酵母、その他アルコール発酵用酵母等が挙げられる。
酵母細胞壁を分解する酵素としては、グルカナーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、トランスグルコシダーゼ、デキストラナーゼ、グルコースイソメラーゼ、セルラーゼ、ナリンギナーゼ、ヘスペリジナーゼ、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、インベルターゼ、ラクターゼ、キチナーゼ、リゾチーム、イヌリナーゼ、キトサナーゼ、α-ガラクトシダーゼ、プロテアーゼ、パパイン、ペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、フィターゼ、酸性フォスファターゼ、ホスホジエステラーゼ、カタラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、タンナーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、デアミナーゼ、ヌクレアーゼなどの工業的に利用できる酵素を用いることができる。例えば、グルカナーゼを含む任意の酵素を用いることができ、市販されているツニカーゼ(大和化成(株)製)、YL-NL及びYL-15(いずれも天野エンザイム(株)製)等を用いることができる。酵母細胞壁を分解する酵素の添加量は、酵母細胞壁乾物重量に対し、一般に0.00001〜10000重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜2重量%である。前記酵素により酵母細胞壁を分解する際の条件は、使用する酵素の種類、酵素の添加量等に応じて、当業者によって適宜決定すればよい。
一方、酵母細胞壁の分解には、酵素分解法以外に、50MPaの高圧ホモジナイザーでの分解や、熱水抽出、酵母細胞壁分解菌(例えばPseudomonas paucimobilis、Arthrobacter luteusなど)を接種し酵母細胞壁分解物を得ることができる。
【0010】
本発明の植物可食部の食味改良剤は、単独で用いてもよく、また農薬、肥料、園芸用培養土等と組み合わせて用いてもよい。また、特定防除資材に添加して用いてもよい。近年では天然由来から得られた病害虫・雑草防除作用又は植物生理機能を増進する成分について特定防除資材として認可する政策もとられている。この特定防除資材とは特定農薬とも呼ばれ、農薬取締法に基づき指定された農業用資材である。特定防除資材(特定農薬)は原材料に照らし農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかであると確認された農薬でなければならず、(1)病害虫や雑草に対する防除効果又は農作物等の生理機能の増進若しくは抑制の効果が確認されること、(2)農作物等、人畜及び水産動植物への安全性が確認されることが満たされていなければならない。
また、本発明の植物可食部の食味改良剤の形態は、液状、粉状、顆粒状等のいずれの形態で製品化してもよい。また、散布に関しては、上記製品を直接散布しても、あるいは水等で適当な濃度になるように希釈して散布してもよい。さらに、散布方法も特に限定されず、例えば、植物の種子、葉、茎等に直接散布する方法、培養苗や順化苗の葉茎に直接散布(潅水、潅注)する方法、土壌中に散布する方法等のいずれであってもよい。なお、肥料中に配合する場合、肥料としては、窒素、燐酸、カリウムを含有する化学肥料、油カス、魚カス、骨粉、海藻粉末、アミノ酸、糖類、ビタミン類などの有機質肥料等、その種類は限定されない。
【0011】
本発明の植物可食部の食味改良剤には、酵母細胞壁分解物の植物可食部の食味向上に対する効果を妨げない範囲で、水溶性溶剤、界面活性剤等の成分を配合することができる。
水溶性溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどの2価アルコールや、グリセリンのような3価アルコール等が挙げられる。
【0012】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤及び陰イオン界面活性剤等水に溶解するものが使用できる。
非イオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレン樹脂酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、アルキル(ポリ)グリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(ポリ)グリコシド等が挙げられる。好ましくは、窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤及びエステル基含有非イオン界面活性剤が挙げられる。特に好ましくは、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンポリグリセリン脂肪酸エステル等のオキシアルキレン基を含むエステル基含有非イオン界面活性剤や、アルキル(ポリ)グリコシド等の糖骨格を有する窒素原子を含まないエーテル基含有非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0013】
陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系及びリン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。好ましくは、カルボン酸系及びリン酸エステル系界面活性剤である。カルボン酸系界面活性剤としては、例えば炭素数6〜30の脂肪酸又はその塩、多価カルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルアミドエーテルカルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマー酸塩、ポリマー酸塩、トール油脂肪酸塩等が挙げられる。スルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸の縮合物塩、ナフタレンスルホン酸の縮合物塩等が挙げられる。硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、トリスチレン化フェノール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノール硫酸エステル塩、アルキルポリグリコシド硫酸塩等が挙げられる。リン酸エステル系界面活性剤として、例えばアルキルリン酸エステル塩、アルキルフェニルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩等が挙げられる。前記塩としては、例えば金属塩(Na、K、Ca、Mg、Zn等)、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、脂肪族アミン塩等が挙げられる。
【0014】
両性界面活性剤としては、アミノ酸系、ベタイン系、イミダゾリン系、アミンオキサイド系が挙げられる。アミノ酸系としては、例えばアシルアミノ酸塩、アシルサルコシン酸塩、アシロイルメチルアミノプロピオン酸塩、アルキルアミノプロピオン酸塩、アシルアミドエチルヒドロキシエチルメチルカルボン酸塩等が挙げられる。ベタイン系としては、アルキルジメチルベタイン、アルキルヒドロキシエチルベタイン、アシルアミドプロピルヒドロキシプロピルアンモニアスルホベタイン、アシルアミドプロピルヒドロキシプロピルアンモニアスルホベタイン、リシノレイン酸アミドプロピルジメチルカルボキシメチルアンモニアベタイン等が挙げられる。イミダゾリン系としては、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルエトキシカルボキシメチルイミダゾリウムベタイン等が挙げられる。アミンオキサイド系としては、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルジエタノールアミンオキサイド、アルキルアミドプロピルアミンオキサイド等が挙げられる。
上記界面活性剤は、単独で、又は二種以上混合して使用してもよい。
【0015】
本発明の植物可食部の食味改良剤は、更に、ペプチド、多糖類、糖タンパク質及び脂質から選ばれるエリシター活性を有する物質の一種以上を含有するものを添加することもできる。エリシター活性とは、植物体内におけるファイトアレキシン等の抗菌性物質の合成を誘発する作用である。
エリシター活性を有する物質は、植物に固有の物質が種々知られており、対象とする植物に応じて適宜選定すればよいが、グルカンオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、ヘプタ−β−グルコシド、システミン、カゼインタンパクのキモトリプシン分解物などの外因性エリシター、オリゴガラクチュロン酸、ヘキソース、ウロン酸、ペントース、デオキシヘキソースなどの内因性エリシター、その他に、ショ糖エステル、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カラギーナン、真菌類の菌糸分解物、海藻抽出物などが挙げられ、水溶性で安定供給可能なものが好ましい。
【0016】
本発明の植物可食部の食味改良剤は、更に、植物生長調節剤を添加することもできる。植物生長調節剤としては、オーキシン拮抗剤としては、マレイン酸ヒドラジド剤、ウニコナゾール剤等、オーキシン剤としては、インドール酪酸剤、1-ナフチルアセトアミド剤、4-CPA剤等、サイトカイニン剤としては、ホルクロルフェニュロン剤等、ジベレリン剤としてはジベレリン剤等、その他のわい化剤としては、ダミノジット剤等、蒸散抑制剤としては、パラフィン剤等、その他の植物生長調整剤としては、コリン剤等、生物由来の植物生長調整剤としては、クロレラ抽出物剤等、エチレン剤としては、エテホン剤等が挙げられる。
【0017】
本発明の植物可食部の食味改良剤は、酵母細胞壁分解物を乾物として0.00001〜30質量%、特に0.001〜0.1質量%含有することが好ましい。また、本発明の植物可食部の食味改良剤は、好ましくは酵母細胞壁分解物を乾物として10アール当たり10〜800gで与えられ、より好ましくは10アール当たり50〜250gで与えられる。上記範囲内で与えることで、より有効な植物可食部の食味改良効果を得ることができる。
【0018】
また、植物活性剤に、酵母細胞壁分解物を添加することで、植物活性剤の植物可食部の食味改良効果を向上させることができる。用いる植物活性剤は、公知の植物活性剤であればいずれであってもよい。具体的には、エチレン剤、オーキシン剤(インドール酪酸、エチクロゼート剤、クロキシホナック剤、ジクロルプロップ剤、1−ナフチルアセトアミド剤、4−CPA剤など)、オーキシン拮抗剤(マレイン酸ヒドラジド剤など)、サイトカイニン剤(ベンジルアミノプリン剤、ホルクロルフェニュロン剤など)、ジベレリン剤、ジベレリン生合成阻害剤(イナベンフィド剤、ウニコナゾールP剤、クロルメコート剤、パクロブトラゾール剤、フルルプリミドール剤、メピコートクロリド剤、プロヘキサジオンカツシウム塩剤、トリネキサパックエチル剤など)、矮化剤(ダミノジッド剤、イマザピル剤など)、イソプロチオラン剤、オキシン硫酸塩剤、過酸化カルシウム剤、シアナミド剤、塩化カルシウム・硫酸カルシウム剤、コリン剤、デシルアルコール剤、ピペロニルブトキシド剤(ピペルニブトキサイド剤)ペンディメタリン剤、MCPA剤、MCPB剤、NAC剤(カルバリル剤)、キノキサリン系・DEP剤、ピラフルフェンチル剤、プロヒドロジャスモン剤、アブシジン酸剤、クロレラ抽出物、シイタケ菌糸体抽出物などが挙げられる。植物活性剤への酵母細胞壁分解物の添加量は、酵母細胞壁分解物を乾物として0.00001〜30質量%の範囲が好ましく、特に0.001〜0.1質量%の範囲が好ましい。
【0019】
本発明の植物可食部の食味改良剤を幼苗、及び/又は畑へ定植後の苗に与えることにより、植物品質の改良を行い、特に植物可食部の呈味性を向上させることができる。
【実施例】
【0020】
(酵母細胞壁液1の調製)
ビール醸造後の酵母を原料とし、自己消化法により得られた、乾物濃度15質量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え、pHを5.5に調整後、乾物質量に対し0.7%のYL-15(天野エンザイム)を添加し、55℃で18時間反応させ、80℃で10分間処理した後に1500gの酵母細胞壁液1を得た。
【0021】
(実施例1)
イチゴ(品種:ペチカ)苗を定植し、EC0.6に調整した養液土耕1号(大塚化学)を施用し、1週間後に、養液土耕1号(大塚化学)に乾物濃度10ppmとなるように酵母細胞壁液1を混入した液肥を施肥した。定植後、70日目に果実の収穫を行い、果実の糖度、酸度、糖酸比の測定を行った。
【0022】
(実施例2)
イチゴ(品種:ペチカ)苗を定植し、EC0.6に調整した養液土耕1号(大塚化学)を施用し、1週間後に、養液土耕1号(大塚化学)に乾物濃度100ppmとなるように酵母細胞壁液1を混入した液肥を施肥した。定植後、70日目に果実の収穫を行い、果実の糖度、酸度、糖酸比の測定を行った。
【0023】
(比較例1)
イチゴ(品種:ペチカ)苗を定植し、EC0.6に調整した養液土耕1号(大塚化学)を施用し、1週間後に、養液土耕1号(大塚化学)を施肥した。定植後、70日目に果実の収穫を行い、果実の糖度、酸度、糖酸比の測定を行った。実施例1、2及び比較例1の測定結果を表1に示す。
【0024】
表1 糖度・酸度・糖酸比(70日目)

【0025】
(結果)
酵母細胞壁液を施用しなかった比較例1と比較し、酵母細胞壁液を施用した実施例1〜2では糖酸比が上昇することが明らかとなった。このことから、酵母細胞壁液を施用することにより、糖酸比が上昇し、食味を向上させることが明らかとなった。
【0026】
(実施例3)
イチゴ(品種:きみのひとみ)苗を定植し、定植直後に、EC0.6に調整した養液土耕1号(大塚化学)に乾物濃度250ppmとなるように酵母細胞壁液1を混入した液肥を施肥した。その後、30日毎にEC0.6に調整した養液土耕1号(大塚化学)に酵母細胞壁固形分を250ppm混入した液肥を施肥した。定植後100日目に果実の収穫を行い、熟練したパネル20名が食し、好きな方を選択する2点比較法にて行った。
【0027】
(比較例2)
イチゴ(品種:きみのひとみ)苗を定植し、定植直後に、EC0.6に調整した養液土耕1号(大塚化学)を施肥した。その後、30日毎にEC0.6に調整した養液土耕1号(大塚化学)を施肥した。定植後100日目に果実の収穫を行い、熟練したパネル20名が食し、好きな方を選択する2点比較法にて行った。結果を表2に示す。
【0028】
表2 好きと答えた人数

【0029】
(結果)
酵母細胞壁液を施用しなかった比較例2のイチゴの方がおいしいと答えたパネルが6名であったのに対し、酵母細胞壁液を施用した実施例3のイチゴの方がおいしいと答えたパネルは14名であった。クレーマーの迅速有意差検定の結果、5%水準で有意差が認められた。このことから、酵母細胞壁液を施用することにより、食味を向上させる効果があることが明らかとなった。
【0030】
(酵母細胞壁液2の調製)
ビール醸造後の酵母を原料とし、酵素分解法により得られた、乾物濃度15質量%の酵母液1.5Lから遠心分離により上清を除去し、酵母細胞壁スラリー1000gを得た。水500gを加え、pHを5.5に調整後、乾物質量に対し0.5%のYL-15(天野エンザイム)を添加し、55℃で18時間反応させ、80℃で10分間処理した後に1500gの酵母細胞壁液2を得た。
【0031】
(実施例4:育苗期1回散布)
育苗ポットにチンゲンサイ(夏栄)種子を播種し発芽させ、播種から11日目の幼苗に乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液2に浸潤した。酵母細胞壁液浸潤1週間後に定植し、3週間チンゲンサイの苗を育苗した。定植から1ヶ月経過したチンゲンサイ苗6株を無作為に抽出し、グルコース含量を測定した。
【0032】
(実施例5:育苗期1回散布、生育期1回散布)
育苗ポットにチンゲンサイ(夏栄)種子を播種し発芽させ、播種から11日目の幼苗に乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液2に浸潤した。酵母細胞壁液浸潤から1週間後に定植し、定植後2週間目に酵母細胞壁液2の葉面散布を行い、その後2週間チンゲンサイ苗を生育させた。定植から1ヶ月経過したチンゲンサイ苗6株を無作為に抽出し、グルコース含量を測定した。
【0033】
(実施例6:育苗期1回散布、生育期2回散布)
育苗ポットにチンゲンサイ(夏栄)種子を播種し発芽させ、播種から11日目の幼苗に乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液2に浸潤した。酵母細胞壁液浸潤から1週間後に定植した。定植後2週間目に酵母細胞壁液2の葉面散布を行い、その1週間後に2回目の酵母細胞壁液2の葉面散布を行った。定植から1ヶ月経過したチンゲンサイ苗6株を無作為に抽出し、グルコース含量を測定した。
【0034】
(比較例3)
育苗ポットにチンゲンサイ(夏栄)種子を播種し発芽させ、播種から18日目の幼苗を定植した。定植から1ヶ月経過したチンゲンサイ苗6株を無作為に抽出し、グルコース含量を測定した(表3)。
【0035】
表3

【0036】
(結果)
酵母細胞壁液を施用しなかった比較例3と比較し、酵母細胞壁液を施用した実施例3〜5ではグルコース含量が増加することが明らかとなった。このことから、酵母細胞壁液を施用することにより、グルコース含量が増加し、食味を向上させることが明らかとなった。
【0037】
(実施例7)
育苗用ポッドにエダマメ種子(品種:白鳥)を播種し、播種後10日目に乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液2を10分間、根に浸漬させた。播種後21日目に畑へ定植し、定植後5日目に乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液2を1株あたり10mL、根に潅注させた。定植後から2ヵ月後、無作為に選抜した5株について、糖度(Brix%)と食味を調査した。
【0038】
(比較例4)
育苗用ポッドにエダマメ種子(品種:白鳥)を播種し、播種後10日目に水道水を10分間、根に浸漬させた。播種後21日目に畑へ定植し、定植後5日目に水道水を1株あたり10mL、を根に潅注させた。定植後から2ヵ月後、無作為に選抜した5株について、糖度(Brix%)と食味を調査した。
【0039】
(食味評価方法)
実施例7あるいは比較例4で収穫したエダマメの食味を比較評価した。
評価は、湿重量60gのエダマメを、40gの食塩を加えた沸騰水1Lで5分間ゆでたものを熟練したパネル30名が食し、好きな方を選択する2点比較法にて行った。結果を表4及び5に示す。
【0040】
表4 糖度の結果





【0041】
表5 食味評価の結果

【0042】
(結果)
正規分布表(両側確立)により検定した結果、有意(危険率5%)に実施例7で栽培し収穫したエダマメを好んでいた。
【0043】
(実施例8)
育苗用ポッドにトマト種子(品種:ルネッサンス)を播種し、乾物濃度100ppmに調整した酵母細胞壁液1を1株あたり4mL潅注した。播種から1ヵ月後、養液栽培へ定植し、EC4から6で栽培し、週に1回、乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液1を、1株あたり約1Lずつ葉面散布した。播種から3ヶ月後及び4ヶ月後に収穫した全果実について、非破壊糖度計により糖度を計測した。
【0044】
(実施例9)
育苗用ポッドにトマト種子(品種:ルネッサンス)を播種した。播種から1ヶ月後に、養液栽培へ定植し、EC4から6で栽培した。定植後、週に1回、乾物濃度250ppmに調整した酵母細胞壁液1を、1株あたり約1Lずつ葉面散布した。播種から3ヶ月後及び4ヶ月後に収穫した全果実について、非破壊糖度計により糖度を計測した。
【0045】
(実施例10)
育苗用ポッドにトマト種子(品種:ルネッサンス)を播種し、乾物濃度100ppmに調整した酵母細胞壁液1を1株あたり4mL潅注した。播種から1ヵ月後、養液栽培へ定植し、EC4から6で栽培した。播種から3ヶ月後及び4ヶ月後に収穫した全果実について、非破壊糖度計により糖度を計測した。
【0046】
(比較例5)
育苗用ポッドにトマト種子(品種:ルネッサンス)を播種した。播種から1ヶ月後に、養液栽培へ定植し、EC4から6で栽培した。播種から3ヶ月後及び4ヶ月後に収穫した全果実について、非破壊糖度計により糖度を計測した。
【0047】
(結果)
実施例8〜10及び比較例5の可食部の糖度について、播種から3ヶ月目の前半・後半、4ヶ月目の前半・後半でそれぞれ測定した結果を図1に示す。
播種から3ヶ月目前半・後半、4ヶ月目前半・後半のいずれの時期においても、糖度は比較例5<実施例10<実施例9<実施例8の順に高くなり、酵母細胞壁液の施用回数または施用量の多かった順に糖度が高くなっていた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例8〜10及び比較例5のトマトの糖度の測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母細胞壁分解物を含む植物可食部の食味改良剤。
【請求項2】
酵母細胞壁分解物を乾物として0.00001〜30質量%含む請求項1記載の植物可食部の食味改良剤。
【請求項3】
酵母細胞壁分解物を有効成分として含む請求項1記載の植物可食部の食味改良剤。
【請求項4】
植物可食部の食味を改良するための酵母細胞壁分解物の使用。
【請求項5】
植物活性剤に酵母細胞壁分解物を添加することを特徴とする、該植物活性剤の植物可食部の食味改良効果を向上させる方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の食味改良剤を幼苗及び/又は定植後の苗に与えることを含む栽培方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−131562(P2007−131562A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325035(P2005−325035)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】