説明

植物栽培方法

【課題】
本発明は、植物の栽培方法に関するものであり、非常に簡単な作業により、積極的に肥料や農薬を用いなくても、植物の生育を促進すると共に各種病気の発生を抑制することができ、しかも植物の可食部位の栄養価を著しく高めることができる新規な植物栽培方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
黄土を含有する土壌を植物育成用の培地とし、これに地下水や温泉水の如きミネラル成分含有水溶液を施与することを特徴とする植物栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古来、我国日本国においては、自然に温泉が湧出した温泉地が各地に多数点在している。又、最近では、ボーリングなどによって人工的に湧出或いは揚湯された都市型の造成温泉が人気となっている。
【0003】
このような温泉は、通常の入浴目的以外には、主に疲労回復や健康促進を図るための湯治や飲泉などに使用されており、その他、温泉卵などに代表される温泉の熱や蒸気での食品加工などにも利用されている。
【0004】
又、最近では、温泉水を植物栽培に利用する試みも行われている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−159597号公報
【0006】
前記特許文献1に記載の発明は、温泉水に含まれる各種ミネラル分を植物に与えることにより、植物の生育促進及び各種ミネラル分による栽培植物の生理障害の防止を図り、もって植物の可食部位の栄養価及び含有ミネラルの種類とその量の向上による食品としての高機能化、及び糖度や食味の向上により嗜好性を高めるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に記載の発明は、主に水耕栽培に特化したものであり、植物栽培用の培地として土壌を使用する点については、ほとんど言及されてはいなかった。
【0008】
そこで、本発明者が、植物栽培用の培地としての土壌と温泉水の組み合わせにより生じる相乗的な効果について鋭意検討を重ねた結果、黄土を含有する土壌を植物育成用の培地とし、これにミネラル成分含有水溶液を施与することを特徴とする本発明の植物栽培方法を完成するに至ったのである。
【0009】
即ち、黄土には、モンモルナイト、イルライト及びカオリナイトなどの強力な陰イオンを発生する粘土質成分を有することから、金属イオンなどのプラスイオンが溶けている溶液と接触すると、該溶液中のプラスイオンを速やかに吸着する特性がある。本発明者はまずこの点に着目し、係る黄土を含有する土壌に、温泉水などの各種ミネラル成分を含有する水溶液を施用すると、土壌中にミネラル成分が長期間保持されることから、積極的に肥料や農薬を用いなくても、植物の生育を促進することができるとの知見を得たのである。
【0010】
又、黄土表面の蜂の巣のような多孔質構造には、堆肥過程で内包された微生物の働きによって、カタラーゼ、ディフェノール・オキシダーゼ、サカラーゼ、及びプロテアーゼを主成分とする多量の酵素が含まれている。本発明者はこの点にも着目し、係る黄土を含有する土壌に対して温泉水などの各種ミネラル成分を含有する水溶液を施用すると、当該ミネラル成分によって黄土内の酵素に著しい活性化が生じ、殺菌効果を高め、もって害虫や各種病気の発生を抑制することができるとの知見を得たのである。
【0011】
しかも、温泉水等を施用することによって生じる適度な塩ストレスは、植物の可食部位の栄養価、糖度及び食味を向上し、その嗜好性を著しく高めるとの知見も得たのである。
【0012】
本発明は、前記知見に基づき完成されたものであって、非常に簡単な作業により、積極的に肥料や農薬を用いなくても、植物の生育を促進すると共に各種病気の発生を抑制することができ、しかも植物の可食部位の栄養価を著しく高めることができる新規な植物栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の課題を解決する手段である本発明の植物栽培方法は、黄土を含有する土壌を植物育成用の培地とし、これにミネラル成分含有水溶液を施与することを特徴とする。
以下、本発明の植物栽培方法について詳細に説明する。
【0014】
本発明の植物栽培方法に用いられる「黄土」とは、主に中国北西部やモンゴル南部の砂漠地方において、直径0.01〜0.05mm位の微粒子が風によって運ばれ、5000万〜1億年以上かけて堆積・堆肥化して出来た黄灰色の土のことをいう。
本発明の植物栽培方法においては、前記黄土を含有する土壌を植物育成用の培地とする。
【0015】
即ち、本発明においては、黄土をそのまま用いるばかりではなく、係る黄土を任意の土壌に散布したり、混合したりして、果樹栽培を含む畑地や水田の土壌、ハウス土壌、育苗用培土、鉢土又はベッド栽培用培土等の植物育成用の培地としとして用いるのである。
【0016】
なお、土壌に対する黄土の含有割合としては、係る土壌の質や育成する植物の種類などに応じて適宜決定すれば良く、特に限定されるものではない。一般的には、土壌1mに対し、50g(好ましくは100g)程度以上の黄土が含有されるようにすることが好ましい。
【0017】
又、本発明においては、前記土壌及び黄土からなる植物栽培用の培地にその他の成分を施用することを否定するものではなく、必要に応じて所望の腐食、堆肥資材、コンポスト、及び農薬などを適宜配合散布等の手段により施用しても良い。
【0018】
そして、本発明の植物栽培方法は、前述の黄土を含有する土壌(植物育成用の培地)に対して、ミネラル成分含有水溶液を施与する点に最も大きな特徴を有する。
【0019】
ここで、本発明の植物栽培方法において用いられる「ミネラル成分含有水溶液」とは、地下水や温泉水の如きミネラルを含有した水溶液のことをいう。
【0020】
即ち、本発明においては、このミネラル成分含有水溶液として、各種ミネラル成分から選ばれた少なくとも1種以上を人為的に溶かし込んだ水溶液を用いても良い。しかしながら、本発明においては、収穫物の安全性に鑑みて、人工的にミネラル成分を配合した水溶液よりも、地下水や温泉水などの天然由来のミネラル成分を含有する水溶液を用いることが好ましく、特に、比較的ミネラル成分が多量に含まれる温泉水由来の成分を用いることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明における「温泉水」とは、わが国において1948年7月10日に制定された温泉法第2条に定義された広義の温泉水のことを意味する。
【0022】
又、温泉水の泉質としては、特に限定されるものではないが、土壌の酸性化を防止するために、酸性のものよりアルカリ性のもの(アルカリ泉質)がより好ましい。
【0023】
更に、本発明において「〜由来の成分」とは、地下水や温泉水をそのまま用いるばかりではなく、係る温泉水を任意の倍率に希釈したり、濃縮したりして用いたり、或は乾燥させて採取したミネラル成分を再び水に溶かしてものを用いても良いことを意味する。
【0024】
但し、ミネラル成分含有水溶液中のナトリウム成分が極端に多い場合、塩害をはじめとした植物に与える悪影響が懸念されるため、一般的には、ミネラル成分含有水溶液中のナトリウムの割合が、塩化ナトリウム量に換算して、10〜40mg/リットルの範囲になるように温泉水を調整することが好ましい。
【0025】
ところで、取水する地域によって地下水や温泉水に含まれる成分に差異があるのは当然であり、その成分の差異によって本発明の植物栽培方法の効果が現れるのに多少の時間的な差が生じる場合があることも当然である。しかしながら、本発明においては、ミネラル成分含有水溶液を主に潅水として継続的に使用することから、たとえ一部のミネラル成分が少なくて、所望の効果が現れるのが遅くなる場合があっても、その後の継続的な施用により徐々に土壌中に蓄積していき、最終的には十分な量のミネラル成分が保持されることになる。
【0026】
従って、ミネラル成分含有水溶液中に含まれるミネラル成分の含有量としては、特に限定されるものではなく、取水場所も特に限定されるものではないが、一般的には、当該水溶液含まれる代表的な成分量(塩化物換算)として、カリウムイオン0.5〜1.5mg/リットル、カルシウムイオン3〜10mg/リットル、及びマグネシウムイオン0.5〜1.5mg/リットル程度が含有されるように調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、前記構成を有し、非常に簡単な作業により、積極的に肥料や農薬を用いなくても、植物の生育を促進すると共に各種病気の発生を抑制することができ、しかも植物の可食部位の栄養価を著しく高めることができる新規な植物栽培方法である。
【0028】
即ち、本発明の植物栽培方法において、黄土を含有する土壌に対して温泉水の如きミネラル成分含有水溶液を施用すると、当該黄土の有するプラスイオン吸着能により、土中でのミネラル成分の長期保持が可能となり、積極的に肥料や農薬を用いなくても、植物の生育を促進することができるのである。
【0029】
又、本発明の植物栽培方法において、黄土を含有する土壌に対して温泉水の如きミネラル成分含有水溶液を施用すると、当該ミネラル成分によって黄土内の酵素に著しい活性化が生じ、殺菌効果を高め、もって害虫や各種病気の発生を抑制することができるのである。
【0030】
しかも、本発明の植物栽培方法においては、温泉水の如きミネラル成分含有水溶液を施用することによる適度な塩ストレスが、植物の可食部位の栄養価、糖度及び食味を向上し、その嗜好性を著しく高めるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の植物栽培方法を実施するための最良の形態を実施例を挙げて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
ひと畝20mの畑に20cm間隔で定植したいちごの苗木の各根元に、韓国産の黄土350gを置き、3倍に希釈した温泉水(表1にその源泉成分を示す。)を、午前6時〜18時の間、2時間おきに3分間、潅水チューブを用いて散水した。
なお、前記潅水チューブは、10cm間隔で散水孔が設けられており、散水孔1個あたりの給水量は約60ml/分であった。
又、本実施例及び後述する各比較例においては、その他の肥料や農薬等は使用しなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
<比較例1>
ひと畝20mの畑に20cm間隔で定植したいちごの苗木に対し、前記実施例1と同様にして、3倍に希釈した温泉水を、午前6時〜18時の間、2時間おきに3分間、潅水チューブを用いて散水した。
即ち、比較例1においては、土壌に黄土が含有されていないことになる。
【0035】
<比較例2>
ひと畝20mの畑に20cm間隔で定植したいちごの苗木の各根元に、韓国産の黄土350gを置き、水道水を、前記実施例1と同様にして、午前6時〜18時の間、2時間おきに3分間、潅水チューブを用いて散水した。
即ち、比較例2においては、潅水にミネラル成分含有水溶液を用いていないことになる。
【0036】
<比較例3>
ひと畝20mの畑に20cm間隔で定植したいちごの苗木に対し、水道水を、前記実施例1と同様にして、午前6時〜18時の間、2時間おきに3分間、潅水チューブを用いて散水した。
即ち、比較例3においては、土壌に黄土が含有されていないうえ、潅水にミネラル成分含有水溶液を用いていないことになる。
【0037】
前記実施例1及び比較例1〜3におけるいちごの苗の生育状態及び実の結実状態を観察した結果、実施例1において栽培したいちごの苗は、全くといっていいほど害虫や病気に犯されることなく、良好な健康状態を保ったまま生長し、非常に大きく糖度の高い実を結実させた。
【0038】
一方、比較例1及び比較例2において栽培したいちごの苗は、多少害虫や病気に犯されている苗も見られたが、概ね良好な健康状態を保ったまま生長した。しかしながら、実施例1のものと比べてその生長は明らかに遅く、結実した実もやや小ぶりであった。
【0039】
又、比較例3において栽培したいちごの苗は、栽培開始後すぐに病気が発生して、その殆んどが枯れてしまい、結実に至るものはなかった。
【0040】
以上の結果より、本発明の植物栽培方法における植物生育促進効果、病気、害虫の発生の抑制効果、及び可食部位の栄養価を高める効果を確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄土を含有する土壌を植物育成用の培地とし、これにミネラル成分含有水溶液を施与することを特徴とする植物栽培方法。
【請求項2】
ミネラル成分含有水溶液が、地下水由来の成分からなる請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項3】
ミネラル成分含有水溶液が、温泉水由来の成分からなる請求項1に記載の植物栽培方法。
【請求項4】
温泉水が、アルカリ泉質の温泉水である請求項3に記載の植物栽培方法。

【公開番号】特開2010−158196(P2010−158196A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2156(P2009−2156)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(504122538)株式会社エルマック (2)
【Fターム(参考)】