説明

植物栽培装置

【課題】簡単な構造としながら灌水パイプから灌水される水を全面に均一に拡散して植物を理想的な状態で生育する。
【解決手段】植物栽培装置は、合成繊維を含む繊維が立体的に集合されてなる繊維マット層1と、この繊維マット層1の上に所定の間隔で配管している複数の給水孔2Aを有する灌水パイプ2と、この灌水パイプ2の間であって繊維マット層1の上に載置してなる植物栽培層3と、繊維マット層1の下に配設されて、それ自体を貫通する排水開口4Aを有する支持層4とを備え、灌水パイプ2から灌水される水を植物栽培層3と繊維マット層1に供給している。さらに、植物栽培装置は、繊維マット層1の間に、繊維マット層1よりも水拡散性の高い灌水拡散マット層5を設けており、灌水パイプ2から灌水される水を灌水拡散マット層5でもって繊維マット層1に拡散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、建物の屋上等のコンクリート、あるいは地面のアスファルト等の人工地盤、庭園、公園、ゴルフ場、サッカー場、テニスコート等の競技場の表面緑化に使用される植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、屋上や庭のコンクリート面に、芝等の植物を栽培する植物栽培装置を開発した(特許文献1参照)。この植物栽培装置は、合成繊維を含む繊維の織布の廃棄屑から分離された廃棄繊維を立体的に集合し、所定の圧力でプレスして廃棄繊維の間に無数の空隙ができる状態で廃棄繊維の交点をバインダーで結合している。この植物栽培装置は、廃棄屑から分離された廃棄繊維に、バインダーとして低融点のポリエステル系合成繊維を混合し、立体的に集合した廃棄繊維を加熱状態でプレスして、低融点のポリエステル系合成繊維を溶融して廃棄繊維を結合する。
【0003】
この植物栽培装置をさらに改良する装置も開発している(特許文献2参照)。この植物栽培装置は、すのこ状部を備えた支持体の上に、繊維層を積層している。繊維層は、繊維を立体的に集合して繊維の間に無数の空隙ができる状態で繊維の交点をバインダーで結合したものである。支持体は、すのこ状部に、繊維層で生育した植物の根が挿通し得る上方開口の透孔を設けている。さらに、支持体は、下方に空間形成部を有し、その空間形成部は、支持体を建物の屋上等に載置した状態で、透孔を通じて支持部の下方に伸びた植物の根が張ることができると共に、排水できるようにしている。
【0004】
以上の構造の植物栽培装置は、全体を極めて軽くできるので、建物の屋上緑化に最適である。ただ、この構造の植物栽培装置は、繊維層に給水するために定期的に散水する必要がある。とくに、夏期の暑いとき等は、頻繁に散水して灌水する必要がある。灌水を簡単にするために、灌水パイプを埋設する植物栽培装置を開発した(特許文献3参照)。この植物栽培装置は、灌水パイプでもって内部に灌水するので簡単に能率よく灌水できる。この構造の植物栽培装置は、所定の間隔で灌水パイプに設けた給水孔から灌水するので、全面に均一に灌水するのが難しい。この弊害を解消するための植物栽培装置も開発されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−258387号公報
【特許文献2】特開2002−330627号公報
【特許文献3】特開2005−34045号公報
【特許文献4】特開2008−17812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4に記載される植物栽培装置は、植栽基盤の上面に交差するように溝を設けている。溝の底面には非透水層を設けている。この溝に給水孔のある灌水パイプを配管し、灌水パイプの給水孔から灌水される水を溝の底に設けた非透水層で拡散して、植栽基盤に分散させる。この構造の植物栽培装置は、灌水パイプから灌水される水を均一に拡散するのが極めて難しい。とくに、溝の底面に設けている非透水層が水平でないと水を均一に拡散できなくなる。
【0007】
本発明は、さらにこの欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、簡単な構造としながら灌水パイプから灌水される水を全面に均一に拡散して植物を理想的な状態で生育できる植物栽培装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の植物栽培装置は、前述の目的を達成するために以下の構成を備える。
植物栽培装置は、合成繊維を含む繊維が立体的に集合されてなる繊維マット層1と、この繊維マット層1の上に所定の間隔で配管している複数の給水孔2Aを有する灌水パイプ2と、この灌水パイプ2の間であって繊維マット層1の上に載置してなる植物栽培層3と、繊維マット層1の下に配設されて、それ自体を貫通する排水開口4Aを有する支持層4とを備え、灌水パイプ2から灌水される水を植物栽培層3と繊維マット層1に供給している。さらに、植物栽培装置は、繊維マット層1の間に、繊維マット層1よりも水拡散性の高い灌水拡散マット層5を設けており、灌水パイプ2から灌水される水を灌水拡散マット層5でもって繊維マット層1に拡散している。
【0009】
本発明の植物栽培装置は、簡単な構造としながら灌水パイプから灌水される水を全面に均一に拡散して植物を理想的な状態で生育できる特長がある。それは、本発明の植物栽培装置が、合成繊維を含む繊維が立体的に集合されてなる繊維マット層の間に、繊維マット層よりも水拡散性の高い灌水拡散マット層を設けており、灌水パイプから灌水される水を灌水拡散マット層でもって繊維マット層に拡散しているからである。この灌水拡散マット層は、灌水パイプから供給される水を全体に拡散し、拡散された水を繊維マット層に均一に供給して、繊維マット層の全面の水分率を均一化させる。したがって、この植物栽培装置は、灌水パイプから灌水される水を、繊維マット層の全面に均一に拡散でき、植物を理想的な状態で生育できる。
【0010】
さらに、本発明の植物栽培装置は、勾配のある傾斜面に設置する状態、すなわち、植物栽培装置を水平面に対して傾斜する姿勢で設置する状態においても、灌水パイプから灌水される水を、繊維マット層の全面に拡散させて、植物を理想的な状態で生育できる特長がある。それは、灌水パイプから灌水される水を、灌水拡散マット層によって、上方に移行させて全体に拡散できるからである。植物栽培装置が設置される建物の屋上等の人工地盤は、通常、雨水をスムーズに排水するために、水勾配(最低でも1/200程度)を設けている。このように、勾配がある人工地盤に植物栽培装置を設置する場合、灌水パイプから灌水される水が、傾斜面の下側である水下側に移行しやすいため、従来の植物栽培装置では、傾斜面の上側である水上側には十分に給水されず、水上側の植物が枯れる等の問題点があった。これに対して、本発明の植物栽培装置では、灌水パイプから灌水される水を、水拡散性の高い灌水拡散マット層で全体に拡散するので、勾配を設けた傾斜面に配置する状態においても、灌水された水を水上側に移行させて拡散でき、水上側にも十分に給水して水上側の植物を理想的に生育できる。
【0011】
本発明の植物栽培装置は、灌水拡散マット層5を、繊維マット層1よりも繊維を高密度に集合してなる層とすることができる。
【0012】
本発明の植物栽培装置は、灌水拡散マット層5を、繊維マット層1よりも細い繊維を高密度に集合してなる層とすることができる。
【0013】
本発明の植物栽培装置は、灌水拡散マット層5を、繊維マット層1よりも親水性に優れた繊維を集合してなる層とすることができる。
【0014】
本発明の植物栽培装置は、繊維マット層1の表面と中間に灌水拡散マット層5を設けることができる。
【0015】
本発明の植物栽培装置は、繊維マット層1の中間に、複数層の灌水拡散マット層5を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例にかかる植物栽培装置の拡大断面図である。
【図2】図1に示す植物栽培装置の断面斜視図である。
【図3】図1に示す植物栽培装置の支持層と繊維マット層の分解斜視図である。
【図4】本発明の他の実施例にかかる植物栽培装置の拡大断面図である。
【図5】本発明の他の実施例にかかる植物栽培装置の拡大断面図 である。
【図6】灌水パイプの配設状態の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための植物栽培装置を例示するものであって、本発明は植物栽培装置を以下のものに特定しない。
【0018】
さらに、この明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0019】
図1ないし図3に示す植物栽培装置は、合成繊維を含む繊維を立体的に集合している繊維マット層1と、この繊維マット層1の上に所定の間隔で配管している無数の給水孔2Aを有する灌水パイプ2と、この灌水パイプ2の間または上であって繊維マット層1の上に載置している植物栽培層3と、繊維マット層1の下に配設されて、それ自体を貫通する排水開口4Aを有する支持層4とを備えている。図の植物栽培装置は、屋上等に設置されるもので、人工地盤10の表面に防根シート15を敷設し、防根シート15の上に支持層4を載せている。防根シート15は、植物の根が人工地盤10の防水層を傷つけないように敷設する非透水性のシートである。
【0020】
繊維マット層1は、合成繊維で編み組みされた織布の廃棄屑から分離された廃棄繊維を立体的に集合して、所定の圧力でプレスして廃棄繊維の間に無数の空隙ができる状態で廃棄繊維の交点をバインダーで結合したものである。
【0021】
繊維マット層1は、縫製工場で多量に発生している織布の切れ端である廃棄屑を有効利用して製造される。織布の廃棄屑は、開繊して繊維状に加工できる。ただ、繊維マット層は、廃棄屑から開繊した繊維だけでなく、バージン繊維を含有させることができるのはいうまでもない。開繊は、たとえば、織布の廃棄屑を表面から針で引っかいて繊維状に加工する。ただ、本発明は、廃棄屑を繊維状に分離する方法を特定しない。廃棄屑を廃棄繊維に加工する方法は、現在使用され、あるいはこれから開発される全ての方法を利用できる。
【0022】
繊維マット層1は、合成繊維を含む織布の廃棄屑を利用する。廃棄屑に含まれる合成繊維は、ポリエステル系合成繊維、たとえばテトロン(登録商標)が適している。ポリエステル系合成繊維は、強靭性で耐久性に富み、しかも耐薬品性に優れているので、長期間安定して使用できる。したがって、廃棄屑には、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、最適には80重量%以上のポリエステル系合成繊維を含むものを使用する。ただ、廃棄屑には、ポリアミド系合成繊維やポリアクリル系合成繊維等の合成繊維、あるいは、天然繊維のものも使用できる。
【0023】
繊維状に分離された廃棄繊維は、繊維の方向が揃わないように、方向性なく所定の厚さに集合する。このとき、廃棄繊維を結合するために、バインダー繊維を添加する。バインダー繊維には、低融点のポリエステル繊維を使用する。ただし、バインダー繊維には、低融点のポリエステル繊維以外の繊維、すなわち、廃棄繊維よりも低融点の繊維が使用できる。バインダー繊維の添加量は、全体の5〜30重量%とする。バインダー繊維の添加量が少ないと、廃棄繊維を充分に結合できなくなる。バインダー繊維の添加量が多すぎると、廃棄繊維の間の空隙率が低下すると共に、原料コストが高くなる。バインダー繊維は、廃棄屑から製造したものでなくて、別に製造された原料として添加するからである。
【0024】
バインダー繊維は、廃棄繊維に添加して均一に分散される。バインダー繊維の添加された廃棄繊維は、所定の厚さに立体的に方向性なく集合した後、加熱、加圧して、廃棄繊維の交点を熱溶融されたバインダー繊維で結合する。所定の厚さに集合した廃棄繊維をプレスして薄くする割合は、繊維マット層の用途によって最適値に設定されるが、たとえば、集合した状態の厚さに対して10〜50%、最適には約25%とする。
【0025】
集合した廃棄繊維を薄くプレスすると廃棄繊維の空隙が小さくなって密に集合される。このため、廃棄繊維の空隙が微細になって、保水性が向上して排水性が低下する。反対に、厚くプレスすると、排水性が良くなるが保水性が低下する。したがって、集合した廃棄繊維をプレスする割合は、保水性と排水性とを考慮して、栽培する植物に最適な値とする。本発明の植物栽培装置は、種々の植物の栽培に使用されるので、栽培する植物に最適な保水性と排水性に繊維マット層1を調整して、植物をより快適な環境で生育できる。
【0026】
廃棄繊維を集合する厚さは、繊維マット層1の厚さが最適な厚さとなるように調整される。たとえば、コンクリート等の人工地盤10に芝マット12を載せて生育させ、あるいは、コンクリート等の人工地盤10に花等の種を蒔いて、これを生育させる植物栽培装置は、繊維マット層1の好ましい厚さが1〜5cm、最適な厚さが1.5〜3cmである。したがって、プレスしてこの厚さとなるように、バインダー繊維を添加して廃棄繊維を集合させる。
【0027】
廃棄繊維にバインダー繊維を添加して所定の厚さに集合し、その後、加熱加圧して廃棄繊維を交点で結合する方法は、廃棄繊維の間の空隙を少なくすることなく、すなわち、保水性と排水性を低下することなく、廃棄繊維を所定の厚さに結合できる。バインダー繊維を熱で溶融して、廃棄繊維を結合する方法は、たとえば、所定の厚さに集合した廃棄繊維を、バインダー繊維が溶融する温度まで加熱し、その後、プレスしてバインダー繊維を冷却、硬化させて廃棄繊維を結合できる。この方法は、集合した廃棄繊維をコールドプレスで加圧して、能率よく製造できる。ただ、ホットプレスを使用して、集合した廃棄繊維を熱板で加熱しながら加圧して、バインダー繊維を溶融させて、廃棄繊維を結合することもできる。
【0028】
さらに繊維マット層1は、バインダー繊維を使用することなく、未硬化の状態では液状ないしペースト状のバインダーを廃棄繊維を集合するときに噴霧し、その後、プレスしてバインダーを硬化させて、廃棄繊維を結合することもできる。
【0029】
さらに、図の植物栽培装置は、繊維マット層1の間に、繊維マット層1よりも水拡散性の高い灌水拡散マット層5を設けている。この灌水拡散マット層5は、灌水パイプ2から灌水される水を全体に拡散して繊維マット層1に均一に供給する。この灌水拡散マット層5は、水分率の高い領域にある水を水分率の低い領域に移行して、灌水パイプ2から供給される水分を全体に拡散する。全体に均一に拡散された灌水拡散マット層5の水は、積層している繊維マット層1に移行して、繊維マット層1の水分率を均一化する。すなわち、灌水拡散マット層5は、灌水パイプ2から供給される水分を平面方向に移行させて全体に拡散し、拡散された水分を繊維マット層1に移行して、繊維マット層1の全面の水分率を均一にする。灌水拡散マット層5は、厚さを1〜5mmとして、灌水パイプ2から供給される水を速やかに全体に拡散できる。灌水拡散マット層は、厚くすると保水性と導水性とを高くして水の拡散性を向上できるが、コストが高くなる。反対に薄くすると、水の拡散性が低下する。したがって、灌水拡散マット層の厚さは、これらのことを考慮して前述の範囲とする。
【0030】
この灌水拡散マット層5は、繊維マット層1よりも水拡散性を高くするために、繊維マット層1よりも繊維を高密度に集合し、繊維の間にできる空隙を繊維マット層1よりも微細な空隙として、毛細管現象による水の拡散性を向上している。この灌水拡繊維マット層5は、立体的に集合される無数の繊維の間に形成される微細な空隙によって、優れた保水性と導水性とを実現しながら、吸収した水分を毛細管現象で速やかに平面方向に移行する。さらに、灌水拡散マット層5は、繊維マット層1よりも細い繊維を高密度に集合することで、繊維の間にできる空隙をより微細な空隙として、より優れた保水性と導水性とを実現しながら、毛細管現象による水の拡散性を向上できる。さらにまた、灌水拡散マット層5は、繊維マット層1の繊維よりも親水性に優れた繊維を集合することで、優れた保水性と導水性とを実現しながら、水分の拡散特性を向上することもできる。繊維マット層よりも親水性に優れた繊維を使用する灌水拡散マット層は、繊維の間にできる空隙を繊維マット層の繊維間の空隙よりも小さくすることなく、繊維マット層よりも水拡散性を高くすることもできる。ただ、灌水拡散マット層の繊維を繊維マット層の繊維よりも親水性に優れたものを使用し、さらに繊維の間の空隙を、繊維マット層の繊維の空隙よりも微細な空隙とすることで、灌水拡散マット層は繊維マット層よりもさらに優れた水拡散性を実現することができる。したがって、好ましくは、灌水拡散マット層は、使用する繊維の親水性を繊維マット層よりも優れたものとし、さらに、繊維マット層よりも繊維を密に集合して、空隙を繊維マット層よりも微細な空隙として、より優れた水拡散性を実現する。
【0031】
以上の灌水拡散マット層5は、合成繊維または天然繊維を立体的に集合してなるシート材である不織布である。ただ、灌水拡繊維マット層には、灌水パイプから供給される水分を速やかに全体に拡散して、繊維マット層よりも水拡散性の優れた全てのもの、例えば、布、ろ紙、織物等も使用できる。さらに、灌水拡繊維マット層は、以上のシート材を単独で使用し、あるいは複数を積層したものを使用することもできる。複数のシート材を積層してなる灌水拡繊維マット層は、水拡散性に優れたシート材を内部に配置して、保水性に優れたシート材を表面側に積層することで、供給される水をより理想的に拡散して、繊維マット層全面の水分率を均一にできる。
【0032】
図1ないし図3に示す植物栽培装置は、繊維マット層1の中間に灌水拡散マット層5を積層している。この灌水拡散マット層5は、繊維マット層1の中間に、剥離しないように積層している。このように、繊維マット層1の中間に積層される灌水拡散マット層5は、上下に積層される繊維マット層1全体の水分率を均一にする。さらに、図4に示す植物栽培装置は、繊維マット層1の中間に複数層の灌水拡散マット層5を設けている。この植物栽培装置は、繊維マット層1の中間に配設される複数層の灌水拡散マット層5によって、より効率よく繊維マット層1全体の水分率を均一に調整できる。さらにまた、図5に示す植物栽培装置は、繊維マット層1の表面と中間に灌水拡散マット層5を配設している。この植物栽培装置も、繊維マット層1の表面と中間に配設された2層の灌水拡散マット層5でもって、より効率よく繊維マット層1全体の水分率を均一に調整できる。灌水パイプ2の下に配設されて、灌水パイプ2から直接に水が供給される灌水拡散マット層5は、灌水パイプ2から供給される水を拡散して、繊維マット層1に移行する。灌水拡散マット層5と灌水パイプ2との間に繊維マット層1が配設される植物栽培装置は、灌水パイプ2から供給される水分を繊維マット層1を介して灌水拡散マット層5に供給する。この植物栽培装置は、灌水パイプ2の近傍にある繊維マット層1に多量の水が供給されて、この領域で水分が過剰な状態となり、過剰な水分が繊維マット層1から灌水拡散マット層5に供給されて全体に均一に拡散される。灌水拡散マット層5で均一に拡散された水分は、再び繊維マット層1に供給されて繊維マット層1の全面に均一に水分を供給する。
【0033】
灌水パイプ2は、所定の間隔で、繊維マット層1の上に、平行あるいは碁盤格子状に配管される。繊維マット層1の上に配管される全ての灌水パイプ2は、互いに直列あるいは並列に連結されて給水装置に連結される。灌水パイプ2は所定の間隔で吸水孔2Aを設けている。図6に示す植物栽培装置は、複数本の灌水パイプ2を所定の間隔で互いに平行に配管している。この図に植物栽培装置は、1つの繊維マット層1の上面に1列に灌水パイプ2を配置している。ただ、植物栽培装置は、1つの繊維マット層に複数列の灌水パイプを配置することもできる。
【0034】
図1と図4に示す植物栽培装置は、繊維マット層1の上面に灌水溝6を設けており、この灌水溝6に灌水パイプ2を配管している。このように、繊維マット層1に灌水溝6を設けて灌水パイプ2を配管する構造は、灌水パイプ2を灌水溝6で位置決めしながら繊維マット層1の正確な位置に配置できる特長がある。図の繊維マット層1は、中間に配設される灌水拡散マット層5の上側に積層される繊維マット層1を直線状に除去して灌水溝6を設けている。この植物栽培装置は、灌水拡散マット層5の上に灌水パイプ2を配管できるので、灌水パイプ2から供給される水を直接に、中間の灌水拡散マット層5に給水して、灌水パイプ2から供給される水を灌水拡散マット層5で速やかに平面方向に移行して、繊維マット層1の全面に拡散できる。
【0035】
さらに、灌水パイプ2は、図5に示すように、繊維マット層1に灌水溝を設けることなく、繊維マット層1の上面に載せて配管することもできる。この灌水パイプ2は、図示しないが、繊維マット層を貫通する線材やひも材で支持層に連結して、所定の位置に配管することができる。この線材やひも材は、たとえば、結束状態を解除して、灌水パイプを繊維マット層から分離することができる。図5に示す植物栽培装置は、繊維マット層1の表面に灌水拡散マット層5を設けて、繊維マット層1の上面に載せられる灌水パイプ2を、表面に設けた灌水拡散マット層5の上に配管している。この植物栽培装置は、灌水パイプ2から供給される水を、表面と中間の灌水拡散マット層5の両方で全体に拡散して、繊維マット層1に供給するので、灌水パイプ2から供給される水をより効果的に拡散しながら、繊維マット層1に均一に給水できる。
【0036】
灌水パイプ2は、繊維マット層1の広い領域に均一に給水するために、所定の間隔で給水孔2Aを設けている。灌水パイプ2は、各々の給水孔2Aから等しい水量を排水して、繊維マット層1の全体にむらなく灌水する。複数本の灌水パイプ2は、図6の平面図に示すように、太い供給管8に分岐して連結しており、この供給管8を介して給水装置9に連結している。
【0037】
供給管8は、給水装置9に連結される。給水装置9は、自動又は手動灌水コントローラ(図示せず)を備えており、一定の時間経過する毎に、灌水パイプ2に所定量の水を供給する。給水装置9は、自動又は手動灌水コントローラのタイマーで開閉される開閉弁を備えており、あるいはタイマーで運転を制御する水ポンプを備える。開閉弁は水道に連結され、タイマーが開閉弁を開いて灌水パイプ2に給水し、開閉弁を閉弁して給水を停止する。水ポンプを備える給水装置9は、タイマーで水ポンプを運転して、灌水パイプ2に水を供給し、水ポンプの運転を停止して水の供給を停止する。
【0038】
植物栽培層3は、灌水パイプ2から供給される水を保水する保水性と、余分な水を排水する排水性とを有し、かつ植物の根を生育させる無数の空隙を有する。この植物栽培層3は、繊維マット層1の上に配管される灌水パイプ2の間または上であって、繊維マット層1の上に積層するように配置される。植物栽培層3は、繊維マット層1の上に分離できるように積層することができる。この植物栽培装置は、植物栽培層3と灌水パイプ2を繊維マット層1から分離して、灌水パイプ2と植物栽培層3を交換できる。
【0039】
植物栽培層3は、繊維を立体的に集合している繊維集合層3A、あるいは植物栽培用土3Bである。繊維集合層3Aの植物栽培層3は、繊維マット層1と同じように繊維を集合して、保水性を有するものも使用できる。繊維集合層3Aは、廃棄繊維等の繊維を所定の厚さに集合するときに、繊維の間に肥料粒13を分散して供給することができる。この繊維集合層3Aは、肥料粒13を繊維の空隙に分散して配設する。このため、植物を生育させるときに、肥料粒13から肥料成分が供給されて、植物をよく繁殖できる特長がある。肥料粒13は、繊維の隙間から移動しない大きさの粒として、繊維集合層3Aの内部に保持される。
【0040】
植物栽培層3の植物栽培用土3Bは、無機あるいは有機の粉粒体を所定の厚さの板状に成形している。この植物栽培用土3Bには、たとえば、無機の粉粒体としてゼオライトやパーライトが使用でき、有機の粉粒体として、ヤシガラ繊維やピートモスが使用できる。この植物栽培用土3Bは、繊維マット層1の上に載せて簡単に配置できる。ただ、粉粒体である植物栽培用土3Bを繊維マット層1の上に所定の厚さに敷設することもできる。粉粒体である植物栽培用土3Bは、この上に芝マット12などを載せて、芝11等の植物を生育させると植物の根が生育する。生育した植物の根は、粉粒体の植物栽培用土3Bを板状に結合する。このため、植物栽培層3が根詰まりし、あるいは灌水パイプ2が詰まる状態まで長期間使用されると、粉粒体の植物栽培用土3Bは板状に結合される。このため、繊維マット層1から分離するとき、植物栽培用土3Bは板状に結合している。このため、植物栽培用土3Bの植物栽培層3も、繊維マット層1から簡単に分離できる。
【0041】
図に示す植物栽培層3は、上に芝マット12を載せて芝11を生育させているが、植物栽培層3は、上に種を蒔いて、あるいは、植物栽培層3に種を埋め込んで植物を生育させることもできる。
【0042】
さらに、図4の植物栽培装置は、繊維マット層1と植物栽培層3との境界部分に、根の生育を抑制する抑制緩衝層16を設けている。抑制緩衝層16は、植物栽培層3で生育する植物の根が、植物栽培層3から繊維マット層1に成長するのを抑制する。植物の根は、植物栽培層3で繁殖し、抑制緩衝層16を通過して繊維マット層1に成長するのが抑制される。このため、抑制緩衝層16のある植物栽培装置は、植物の根が植物栽培層3と繊維マット層1とを結合するのを少なくして、植物栽培層3を繊維マット層1から簡単に分離できる。
【0043】
抑制緩衝層16は、植物栽培層3と繊維マット層1との境界部分に設けた密度に差のある層や空気層である。密度に差のある抑制緩衝層16は、図4に示すように、繊維集合層3Aの下面に、内部よりも高密度な高密度表面層を設け、この高密度表面層を抑制緩衝層16とすることができる。この抑制緩衝層16は植物栽培層3に設けられる。ただ、抑制緩衝層は、繊維マット層の上面に設けることもできる。繊維集合層3Aの下面に設けられ、あるいは、繊維マット層の上面に設けられる抑制緩衝層16は、繊維を高密度に集合してなる高密度シートを製作し、これを表面に通水性のある状態で接着して製作される。また、繊維を所定の厚さに立体的に集合した後、表面をヒータで加熱し、表面部分の繊維を内部の繊維よりも変形しやすくし、この状態で加圧して繊維の交点を熱溶融されたバインダー繊維で結合して表面に高密度な抑制緩衝層16を設けることもできる。
【0044】
さらに、植物栽培層と繊維マット層は、互いに対向する面を凹凸形状として、積層状態で空気層を設けて抑制緩衝層とすることもできる。たとえば、植物栽培層の下面を凹凸面とし、あるいは繊維マット層の上面を凹凸面とし、あるいはまた植物栽培層の下面と繊維マット層の上面とを互いに合致しない凹凸面として、積層状態で境界に空気層の抑制緩衝層を設けることができる。
【0045】
植物栽培層3を植物栽培用土3Bとする植物栽培装置は、図5に示すように、繊維マット層1の上に粒度の異なる粉粒体を敷設して抑制緩衝層16とすることができる。この抑制緩衝層16には、植物栽培用土3Bよりも小さい粒の粉粒体を、たとえば0.5〜2cmの厚さに敷設し、あるいは、植物栽培用土3Bよりも大きい流体を1〜2cmの厚さに敷設し、あるいはまた、植物栽培用土3Bとは異なる材質であって、平均粒径を0.5〜2cmとする大きな合成樹脂製の粒体を1〜2cmの厚さに敷設して抑制緩衝層16とすることができる。
【0046】
支持層4は、合成樹脂の射出成型により全体を一体的に成形している。支持層4は、それ自体を上下に貫通する排水開口4Aを有すると共に、下面に支持脚4Bを突出させて、下面に排水層4Cを設けている。支持層4と繊維マット層1は、同じ外形の四角形で、互いに積層状態に連結している。支持層4と繊維マット層1は、繊維マット層1を貫通する止ピン7で支持層4に連結している。図3に示す支持層4は、止ピン7を挿通して係止する筒状のボス4Dを一体成形して設けている。この支持層4は、止ピン7の先端部に設けたフック部7Aがボス4Dの内側に設けた係止部(図示せず)に係止されて、繊維マット層1を外れないように連結する。このように、繊維マット層1を支持層4に連結する構造は、支持層4を人工地盤10に敷設して、繊維マット層1も一緒に敷設できる。
【0047】
さらに、繊維マット層1を連結してなる支持層4は、図6に示すように、人工地盤10に敷設する状態で、互いに隣接する支持層4同士を連結部材14で連結している。図に示す連結部材14は、縦横に連結される4つの支持層4の隅部に固定された止ピン7を連結している。この連結部材14は、止ピン7に設けた中心孔に挿入する連結ロッドを四隅に備えており、これらの連結ロッドを止ピン7に挿入して互いに隣接する4つの支持層4を連結している。この連結構造は、繊維マット層1を固定してなる支持層4を人工地盤10に敷設する状態で、極めて簡単に連結して固定できる。
【0048】
以上の植物栽培装置は、水平な人工地盤10の上に水平な姿勢で設置する状態を示している。ただ、本発明の植物栽培装置は、必ずしも水平な人工地盤の上に水平な姿勢で設置する必要はなく、勾配のある傾斜面に設置することもできる。すなわち、本発明の植物栽培装置は、傾斜する姿勢で設置しながら、灌水パイプから灌水される水を繊維マット層の全面に拡散することもできる。それは、灌水パイプから灌水される水を、灌水拡散マット層によって上方に移行させて拡散できるからである。この植物栽培装置は、たとえば、建物の屋上等の人工地盤であって、雨水をスムーズに排水するために水勾配を設けた傾斜面の上に設置して、灌水パイプから灌水される水を、灌水拡散マット層で上方に移行させて繊維マット層の全面に拡散させる。勾配がある傾斜面に植物栽培装置を設置する場合、灌水パイプから灌水される水が、傾斜面の下側である水下側に移行しやすいため、従来の植物栽培装置では、灌水パイプから灌水される部分よりも上側の水上側には十分に給水できなかった。このため、水上側に配置される植物が枯れる等の問題点があった。これに対して、本発明の植物栽培装置では、灌水パイプから灌水される水を、水拡散性の高い灌水拡散マット層でもって上方に移行させるので、勾配を設けた傾斜面に配置する状態においても、灌水パイプから灌水される水を灌水部分より水上側に確実に給水できる。したがって、水上側に配置される植物が枯れるのを防止して理想的に育成できる。
【0049】
この植物栽培装置は、例えば、0〜1/50の勾配を設けた傾斜面に設置する状態において、灌水パイプから灌水される水を、灌水拡散マット層で上方に移行させて拡散し、勾配を設けた傾斜面の水上側にも理想的に給水できる。さらに、植物栽培装置は、灌水パイプから灌水される水を水上側に移行して拡散させる作用を大きくすることにより、さらに勾配の大きな傾斜面に設置することもできる。植物栽培装置が灌水される水を水上側に移行させる作用は、灌水拡散マット層の水拡散性や、繊維マット層に積層される灌水拡散マット層の厚さ、積層枚数等で調整できる。灌水拡散マット層は、高密度に集合する繊維の太さや材質、内部に形成される空隙率等によって保水性と通水性を調整して、より優れた水拡散性を実現できる。したがって、植物栽培装置は、灌水拡散マット層の保水性と通水性を調整して水拡散性を高くし、あるいは繊維マット層に積層される灌水拡散マット層の厚さを厚くし、あるいはまた、繊維マット層に積層する灌水拡散マット層の積層枚数を多くすることによって、灌水パイプから灌水される水を水上側に移行させる作用を大きくして、より勾配の大きな傾斜面に設置しながら、傾斜面の水上側にも理想的に給水できる。
【符号の説明】
【0050】
1…繊維マット層
2…灌水パイプ 2A…給水孔
3…植物栽培層 3A…繊維集合層
3B…植物栽培用土
4…支持層 4A…排水開口
4B…支持脚
4C…排水層
4D…ボス
5…灌水拡散マット層
6…灌水溝
7…止ピン 7A…フック部
8…供給管
9…給水装置
10…人工地盤
11…芝
12…芝マット
13…肥料粒
14…連結部材
15…防根シート
16…抑制緩衝層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を含む繊維が立体的に集合されてなる繊維マット層(1)と、この繊維マット層(1)の上に所定の間隔で配管している複数の給水孔(2A)を有する灌水パイプ(2)と、この灌水パイプ(2)の間または上であって繊維マット層(1)の上に載置してなる植物栽培層(3)と、前記繊維マット層(1)の下に配設されて、それ自体を貫通する排水開口(4A)を有する支持層(4)とを備え、前記灌水パイプ(2)から灌水される水を前記植物栽培層(3)と前記繊維マット層(1)に供給するようにしてなる植物栽培装置であって、
前記繊維マット層(1)の間に、前記繊維マット層(1)よりも水拡散性の高い灌水拡散マット層(5)を設けており、前記灌水パイプ(2)から灌水される水を灌水拡散マット層(5)でもって繊維マット層(1)に拡散するようにしてなる植物栽培装置。
【請求項2】
前記灌水拡散マット層(5)が、前記繊維マット層(1)よりも繊維を高密度に集合してなる層である請求項1に記載される植物栽培装置。
【請求項3】
前記灌水拡散マット層(5)が、前記繊維マット層(1)よりも細い繊維を高密度に集合してなる層である請求項2に記載される植物栽培装置。
【請求項4】
前記灌水拡散マット層(5)が、前記繊維マット層(1)よりも親水性に優れた繊維を集合してなる層である請求項1に記載される植物栽培装置。
【請求項5】
前記繊維マット層(1)の表面と中間に灌水拡散マット層(5)を設けている請求項1に記載される植物栽培装置。
【請求項6】
前記繊維マット層(1)の中間に複数層の灌水拡散マット層(5)を設けている請求項1又は5に記載される植物栽培装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−246423(P2010−246423A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97016(P2009−97016)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(301050555)アースコンシャス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】