説明

植物栽培装置

【課題】本発明は、植物体の外部環境条件の調整に合わせて植物体の内部条件も調整することができる植物栽培装置を提供することを目的とするものである。
【解決手段】植物栽培装置は、水を含む培地物質Mを収容する筺体1と、収容された培地物質Mで栽培される植物体Pに対して上方から光を照射する照明ボード3と、培地物質Mに接触して培地物質Mと電気的に導通した状態に設定される電極体2と、電極体2に負電圧を印加して負電位状態にするとともに照明ボード3に電流を供給して照射制御を行う制御部8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内において植物に人工光源を照射して栽培する植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全及び安心な食物への関心の高まりに伴い、農薬を使用せずに農作物等の植物の栽培を室内で行う植物工場が注目されてきている。植物工場では、人工光源を用いて植物に光を照射するとともに肥料を必要に応じて投与し、栽培室内の温度及び湿度等を制御して植物の生育に最適な環境を人工的に実現することで、害虫の影響を受けず天候にも左右されることなく安定した品質の植物を生育することができるようになる。
【0003】
こうした植物栽培装置としては、例えば、特許文献1では、植物の光合成に必要な赤色の光源としての赤色LEDと、植物の光形態形成に必要な青色の光源としての青色LEDとを備え、赤色LEDの分布数よりも青色発光LEDの分布数を少なくして赤色と青色の相対の光強度比をほぼ8:1〜12:1程度とした植物栽培用の照明設備が記載されている。また、特許文献2では、断熱壁で囲まれたキャビネット本体の上面または側面に照明窓を設けてLED照明具を照明窓に対面するように設置し、更にキャビネット本体には、植物の育成状況を検出する育成検出センサー、植物の育成環境を監視する育成環境監視手段、育成環境を生成する育成環境生成手段、及び育成環境監視手段からの情報に基づき育成環境生成手段を制御する育成環境制御手段を備えた植物育成装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献3では、大地と電気絶縁した土壌に植えた植物に直流負電圧を印加することにより、植物の組織中を流れる水に溶け込んでいるミネラルのイオン化を促して植物に吸収され易くすると共に、植物の細胞の新陳代謝の働きを活発にして、植物の成長を促進させる植物促成栽培装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−086860号公報
【特許文献2】特開2003−079254号公報
【特許文献3】特開2002−017164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1及び2では、植物体に照射する光源の色や光量を調整したり、温度や湿度の管理を行って植物体の外部環境を制御するようにしているが、植物体の生体内に直接作用するものではない。これに対して、特許文献3では、植物体に負電圧を印加することで植物体の内部に直接作用するようにしているが、外部環境に関しては十分な対応がなされていない。
【0007】
植物体に対しては、単に一定の外部環境を設定するだけでは十分とはいえず、植物体の成長に対応した環境条件の調整が必要で、そうした環境条件の調整に合わせて植物体の内部条件も変化させることで、植物体の成長に合わせた最適な成長条件を整えることができる。
【0008】
そこで、本発明は、植物体の外部環境条件の調整に合わせて植物体の内部条件も調整することができる植物栽培装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る植物栽培装置は、水を含む培地物質を収容する筺体と、収容された前記培地物質で栽培される植物体に対して上方から光を照射する光源と、前記培地物質に接触して前記培地物質と電気的に導通した状態に設定される電極体と、前記電極体に負電圧を印加して負電位状態にするとともに前記光源に電流を供給して照射制御を行う制御手段とを備えていることを特徴とする。さらに、前記電極体は、格子状に形成されるとともに前記筺体内の所定位置に保持されることを特徴とする。さらに、前記電極体は、前記培地物質に挿し込まれて保持されることを特徴とする。さらに、前記培地物質に接触する水分検知用電極体と、前記水分検知用電極体の導通状態の有無を検知する水分検知手段とを備え、前記制御手段は、前記水分検知手段からの検知信号に基づいて前記培地物質に対する水供給制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記のような構成を備えることで、照明を調整するとともに植物体の内部を負電位状態にすることで活性化させるので、植物体の外部環境及び内部を最適の状態に調整して植物体の成長を促進させることができる。そして、こうした条件設定を連動させて設定することができるので、植物体の内外の条件を統合して調整することで植物体の成長に合わせた栽培を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る実施形態に関する概略構成図である。
【図2】電極体の設置状態に関する斜視図である。
【図3】水分検知用電極体に関する概略構成図である。
【図4】本体制御部に関する概略構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて詳しく説明する。図1は、本発明に係る実施形態に関する概略構成図である。植物栽培装置は、食用又は観賞用の植物体Pを収容して栽培するための筺体1を備えている。植物体Pは、電気的に絶縁性の材料からなる筺体1内の下部に収容された培地物質Mに植栽されて成長するようになっている。培地物質Mは、水を含み植物体Pが根を張って持続的に成長可能な物質であればよく、例えば、培地物質として養分を含む土又は水を用いれば、公知の土耕栽培又は水耕栽培を行うことができる。培地物質Mに対しては、図示せぬ供給手段により水や養分が必要に応じて供給されるようになっている。
【0013】
培地物質Mには電極体2が接触して電気的に導通状態となるように設置されている。電極体2は、銅、銀等の金属製材料又はこれらの金属をメッキした電気的に導通性を有する材料からなる。導通材料として銀を用いた場合には、培地物質Mの抗菌効果を得ることもできる。
【0014】
図2は、電極体2の設置状態に関する外観斜視図である。電極体2は、格子状の開口が形成された網状に形成されており、培地物質Mの表面全体を覆うように接触して設置される。この例では、筺体1の内周面に設けられた支持突起10に電極体2の周縁部を保持することで、電極体2を安定した状態で培地物質Mの表面に保持することができる。培地物質Mとして土を用いる場合には、電極体2を支持突起10に設置した状態で土を筺体1内に投入して土の表面が電極体2の上面と同じレベルとなるように均せば、電極体2を培地物質Mに確実に接触させて導通状態に設定することができる。また、水耕栽培の場合には、植物体Pを保持するボードの下面に電極体2を張り付けておくことで培地物質Mである水に確実に接触させて導通状態に設定することができる。そして、水を含む培地物質Mに接触するように設置された電極体2は、水を介して培地物質Mと電気的に導通した状態に設定される。
【0015】
なお、上述した例では、電極体2の形状は網状に形成されているが、培地物質と電気的に導通状態となる形状であればよく、網状以外の形状にしてもよい。例えば、電極体2を棒状に形成して培地物質Mに挿し込むように設置してもよい。
【0016】
こうして、培地物質Mの表面に設置されることで、電極体2の設置及び取り外しが簡単に行えるようになり、培地物質Mの入れ替え等の作業が容易に行える。また、電極体を網状に形成することで、植物体Pを開口に植栽すれば電極体2が邪魔になることはない。
【0017】
筺体1内の上面には、光源として複数のLED(発光ダイオード)が縦横に平面状に配列された照明ボード3が取り付けられている。使用するLEDとしては、赤色、青色、緑色、白色といった可視光を照射するものや近赤外線、紫外線といった可視光以外の光を照射するものが挙げられ、照射する植物体に合わせて選択される。
【0018】
植物の成長に作用する光の波長は630nm〜700nmが最も有効であると言われており、LEDを用いることで、低消費電力で有効な波長に対応した光を照射することができる。この例では、赤色LED30及び青色LED31を適当な比率で混在させて光源として使用している。赤色LED30は、光合成に有効な波長である640nm〜690nmの光を照射することができ、青色LED31は、植物の形態形成に有効な420nm〜470nmの光を照射することができる。
【0019】
使用するLEDの種類や配列数については、植物に合わせて最適なものを選択して実装すればよい。また、光源としては、LED以外に、ナトリウムランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、外部電極蛍光ランプ、ハイブリッド電極蛍光ランプ等の光源を用いてもよい。
【0020】
照明ボード3は、制御部8の本体制御部80に接続されており、後述するように、照明制御部80から供給される電流によりLEDの発光強度が制御されて、植物体Pに照射される光量が調整される。
【0021】
また、本体制御部80は、電極体2にも接続されており、後述するように、電極体2に負電圧を印加して負電位状態にする。筺体1内の培地物質Mには、水分検知用電極体6が挿し込まれており、水分検知用電極体6も本体制御部80に接続されている。図3は、水分検知用電極体6に関する概略構成図である。水分検知用電極体6は、所定の厚さの基板60の片面または両面に一対の電極61及び62が形成されている。そして、基板60の全体には電気的に絶縁性を有する繊維を撚った接続糸63が巻き付けられており、巻き付けられた接続糸63は電極61及び62に接触した状態に設定されている。
【0022】
接続糸63は、水に接触すると吸水する性質を備えており、吸水された水は毛細管現象により接続糸63全体に及ぶようになる。そのため、培地物質Mに挿し込まれた水分検知用電極体6の周囲に水が存在していると、接続糸63が吸水して導電性を帯びるようになって電極61及び62が導通状態となる。また、水分検知用電極体6の周囲から水がなくなると、接続糸63が乾燥して絶縁状態となって電極61及び62は絶縁状態となる。
【0023】
したがって、電極61及び62の導通状態の有無を検知することで、培地物質M内の水分の有無を検知することができる。なお、以上説明した例では、検知感度を向上させるために接続糸63が巻き付けられているが、接続糸63を巻き付けずに電極61及び62の間を培地物質M内の水分により直接導通させるようにして水分検知を行うこともできる。
【0024】
水分検知用電極体6は、培地物質Mと接触していればよく、上述した面状の形状以外に棒状や針状に形成して培地物質Mに挿し込むようにしてもよい。また、水分検知用電極体6を電極体2の設置位置近傍に配置することで、電極体2と培地物質Mとの間の導通状態を併せて検知することができる。
【0025】
さらに、電極体2を水分検知用に用いることもできる。例えば、水分検知用の電極体を筺体1内の底面に設置して電極体2に対向配置しておき、電極体2と水分検知用の電極体との間の導通状態をチェックすることで、培地物質M内の水分の有無や分布状態を検知するとともに電極体2が培地物質Mとの間で電気的に導通状態となっているかチェックすることができる。この場合、培地物質Mの底面及び表面に電極体が配置されているので、培地物質M内の水分の分布状態に応じて電極体の間に3次元的に流れる電流の変化を把握しやすくなり、培地物質M内の水分の状態を検知することもできる。
【0026】
筺体1内の側面には、気温調整部4及び湿度調整部5が取り付けられている。気温調整部4は、気温制御部81により制御される。気温制御部81は、筺体1内の側面に取り付けられて筺体1内の空気の温度を検知する気温検知センサ40からの検知信号に基づいて気温調整部4を駆動して筺体1内の気温を設定温度に維持するように制御する。気温調整部4としては、ペルチェ素子等を用いた駆動機構が挙げられる。
【0027】
湿度調整部5は、湿度制御部82により制御される。湿度制御部82は、筺体1内の側面に取り付けられた湿度検知センサ50からの検知信号に基づいて湿度調整部5を駆動して筺体1内の湿度を設定湿度に維持するように制御する。湿度調整部5としては、加湿器及び除湿器を組み合せて用いればよい。
【0028】
植物栽培装置は、筺体1内の培地物質Mに水を供給するポンプ7、ポンプ7から供給される水を筺体1内に送給する供給管に設けられたヒータ70を備えており、筺体1内の底部には培地物質Mの温度を検知する培地温度検知センサ71が取り付けられている。
【0029】
本体制御部80は、電極体2と水分検知用電極体6との間の導通状態に基づいて水が基準量よりも少なくなった場合にはポンプ7を駆動制御して筺体1内の培地物質Mに水を供給するように制御する。また、培地温度検知センサ71からの検知信号に基づいて培地温度が基準温度よりも低くなった場合には、ヒータ70を加熱制御して供給する水を加熱して培地温度を上昇させるように制御する。
【0030】
図4は、本体制御部80に関する概略ブロック構成図である。本体制御部80は、駆動制御部801及び電源供給部802を備えており、駆動制御部801は、マイコン等の情報処理装置を用いて外部からの検知信号や設定情報に基づいて駆動制御を行う。電源供給部802は、電源803に接続されており、駆動制御部801からの制御信号に基づいて電極体2及び照明ボード3のLEDに電源を供給する。
【0031】
駆動制御部801は、LEDに供給する電流を制御して筺体1内の照明のオン・オフ及び光量調整等を行う照明制御回路801a、電極体2に印加する負電圧を制御して植物体の負電位状態を調整する負電位制御回路801b、筺体1内の水分状態に応じてポンプ7を駆動制御するとともに供給する水の加熱制御を行う水供給制御回路801cを備えている。
【0032】
電源供給部802は、電源803から供給される電流又は電圧を整流する整流回路802a、整流回路802aから供給された電圧に基づいて4倍電圧といった高電圧の負電圧(−400V〜−100V)にして電極体2に印加する高電圧回路802b、整流回路802aから供給された電圧に基づいて駆動制御部801に一定電圧を供給する定電圧回路802c、定電圧回路802cから供給される一定電圧に基づいて一定電流をLEDに供給する定電流回路802dを備えている。
【0033】
照明制御回路801aは、定電流回路802cを制御してLEDに入力される電流を調整して光量調整を行う。例えば、リニアに電流値を調整して光量調整したり、パルス状の電流を印加しそのデューティ比を変化させて光量調整すればよい。
【0034】
負電位制御回路801bは、水分検知用電極体6の導通状態を検知する水分検知回路804からの検知信号に基づいて電極体2に印加する負電圧を制御する。例えば、水分検知回路804が水分が無いことを検知した場合には、高電圧回路802bから電極体2に負電圧が印加されないように制御する。また、水分検知回路804の検知信号は照明制御回路801aにも入力されて水分が検知されない場合には、照明をオフにするように制御する。
【0035】
そして、水分検知回路804の検知信号は水供給制御回路801cにも入力されて水分が検知されない場合には、ポンプ7が駆動開始され筺体1内に水が供給されるようになる。供給された水が培地物質M内を行き渡って水分検知用電極体6の周囲に水が到達すると、水分検知回路804が水分があることを検知するようになり、照明制御回路801aが照明をオンするとともに負電位制御回路801bが電極体2に負電圧を印加するように制御する。
【0036】
このように、LEDの照明制御を行う場合には電極体2に負電圧が印加されて負電位状態となるため、植物体P全体が負電位状態に設定されて光が照射されるようになる。したがって、植物体Pの葉緑素や細胞を負電位状態にして活性化させながら光を照射して光合成及び形態合成といった活動を活発化させ成長を促進させることができる。また、培地物質Mに含まれる水分の有無を検知して電極体に印加する負電圧を制御するようにしているので、電極体が培地物質と導通状態でなく負電位状態に設定できない場合に無駄に負電圧が印加されないようにすることができる。
【0037】
また、培地温度検知センサ71からの検知信号により培地温度を検知する培地温度検知回路805から送信される培地温度データが水供給制御回路801cに入力されて、培地温度が低い場合にはヒータ70の加熱制御が行われるようになる。
【0038】
電源803としては、商用の交流電源を使用してもよいが、バッテリ、太陽電池等の直流電源を使用することもできる。また、太陽光発電、太陽熱発電、風力発電、振動発電等の環境負荷の少ない電気エネルギーをバッテリに蓄電して電源として使用してもよい。
【0039】
以上のように、植物体に対する外部環境条件として照明、温度、湿度を調整して植物体に最適な環境条件を設定することができ、また植物体の内部を負電位状態にすることで活性化させるので、植物体の成長を促進させることができる。そして、こうした条件設定を連動させて設定することができるので、植物体の内外の条件を統合して設定することで植物体の成長に合わせた栽培を行うことが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、サラダ菜、わさび、レタス、もやし、かいわれだいこん、いちご、ハーブ類等の食用植物、菊、パンジー等の観賞用植物を栽培するのに好適である。
【符号の説明】
【0041】
1 筺体
2 電極体
3 照明ボード
4 温度調整部
5 湿度調整部
6 水分検知用電極体
7 ポンプ
8 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む培地物質を収容する筺体と、収容された前記培地物質で栽培される植物体に対して上方から光を照射する光源と、前記培地物質に接触して前記培地物質と電気的に導通した状態に設定される電極体と、前記電極体に負電圧を印加して負電位状態にするとともに前記光源に電流を供給して照射制御を行う制御手段とを備えていることを特徴とする植物体栽培装置。
【請求項2】
前記電極体は、格子状に形成されるとともに前記筺体内の所定位置に保持されることを特徴とする請求項1に記載の植物体栽培装置。
【請求項3】
前記電極体は、前記培地物質に挿し込まれて保持されることを特徴とする請求項1に記載の植物体栽培装置。
【請求項4】
前記培地物質に接触する水分検知用電極体と、前記水分検知用電極体の導通状態の有無を検知する水分検知手段とを備え、前記制御手段は、前記水分検知手段からの検知信号に基づいて前記培地物質に対する水供給制御を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の植物体栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−101619(P2011−101619A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257945(P2009−257945)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(506087163)タイヨー電子株式会社 (10)
【Fターム(参考)】