説明

植物生育用岩石

【課題】この発明は用土を用いずに養分を供給することができる植物育成用岩石を提供することにある。
【解決手段】植物生育用岩石1には、一端が表面に開口され他端が閉塞されていて、内部には植物Pの養分となる液体Lを保持することができる複数の保液孔3が水平よりも上方へ傾斜した角度で設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は草木などの植物を生育させるための植物生育用岩石に関する。
【背景技術】
【0002】
自然の中では岩石の表面に植物が生育することがある。岩石に植物が生育する場合、岩石の表面に風化によって裂け目ができ、その裂け目が長い年月の間に広がり、そこに風化によってできた砂や風によって運ばれた土、或いは枯葉などが用土として堆積する。岩石の表面に用土が堆積すれば、雨水による湿潤状態を所定期間にわたって持続させることができる。このような岩石の表面に風や鳥によって種子が運ばれて植物が生育するということがある。
【0003】
このようにして岩石の表面に植物が生育した状態は自然の景観を呈することになるから、観賞用として貴重なものとなる。
【0004】
特許文献1には岩石に類似するさんご礁に、その表面から底面まで貫通する複数の穴を設け、その穴に発芽した植物の苗を植え付けるようにした、さんご礁を用いた盆栽が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−267049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に示されたさんご礁を用いた盆栽は、さんご礁石灰岩の表面から底部に貫通する複数の穴及びその穴から分岐して底部に開口する穴を設け、その穴に発芽した植物の根を通して植え付けるようにしている。
【0007】
しかしながら、さんご礁石灰岩に形成された貫通穴に植物の根を通すだけでは、養分となる液体を供給しても、その液体は上記貫通穴にほとんど留まることなく流出してしまうから、その植物に養分を供給することができないということになる。
【0008】
そこで、上述したようにさんご礁に表面から底面に貫通する穴を開け、そのさんご礁を植木鉢に入れられた用土の上に置く。そして、上記さんご礁に形成した穴に植物の根を通し、その根を鉢の用土に張らせるようにしている。
【0009】
しかしながら、このような構成によると、植物を育てるためにはさんご礁石灰岩だけでは不十分で、用土が入れられた植木鉢から水分などの養分の供給が必要になる。しかも、さんご礁石灰岩を植木鉢の用土の上に置いて植物を育てるようにすると、その外観はさんご礁石灰岩に植物が直接着生している自然の状態から大きくかけ離れたものとなるから、好ましくないということがある。
【0010】
この発明は、植物生育用岩石に植物が育成するための養分を保持させることができるようにすることで、植木鉢を用いずに植物を植物生育用岩石の表面で育成させることができるようにした植物生育用岩石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、植物を生育させるための植物生育用岩石であって、
上記植物生育用岩石には、一端が表面に開口され他端が閉塞されていて、内部には上記植物の養分となる液体を保持することができる複数の保液孔が水平よりも上方へ傾斜した角度で設けられていることを特徴とする植物生育用岩石にある。
【0012】
少なくとも2つの保液孔が上記植物生育用岩石の内部で連通していることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、植物生育用岩石に、一端が表面に開口し他端が閉塞されて内部に植物の養分となる液体を保持することができる複数の保液孔を水平よりも上方へ傾斜した角度で設けるようにした。
【0014】
そのため、植物生育用岩石の表面に植物を保持しておくと、植物の根が生長してその一部は上記保液孔に入り込み、保液孔に保持された養分となる液体を吸収し、他の一部は岩石の表面に張って湿潤した表面の液体を吸収するから、植物を上記植物生育用岩石の表面で良好に生長させることができる。
【0015】
しかも、上記保液孔を上記植物生育用岩石に水平よりも上方へ傾斜した角度で設けたことで、養分となる液体を上記保液孔に貯えることができるから、液体の供給頻度を低減することが可能となるばかりか、植物生育用岩石の上方から液体を供給したときに、その液体が上記保液孔に良好に入り込み易い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施の形態を示す植物育成用岩石の断面図。
【図2】植物育成用岩石の表面に植物が着床した状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の一実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は植物育成用岩石1の断面図を示し、この植物育成用岩石1は天然の火山岩などの表面が凹凸状の多孔質材料が用いられ、底面2はほぼ平坦面に形成されていて、全体として台形状や山形状などの所望する形状となっている。
【0018】
なお、植物育成用岩石1としては天然の火山岩に代えて多孔質セラミックなどの天然の火山岩のように表面が凹凸状の材料を所望する形状に形成したものであってもよい。また、底面2は安定性よく設置できるようほぼ平坦面としたが、平坦面でなく、凹凸状などであっても差し支えなく、要は安定性よく設置できればよい。
【0019】
上記植物育成用岩石1には、一端が表面に開口し、他端が内部で閉塞した複数の保液孔3がたとえばドリルなどによって水平な状態よりも上方へ傾斜した角度で形成されている。つまり、保液孔3は植物育成用岩石1の表面に開口した一端が内部で閉塞した他端よりも上方に位置する角度で形成されている。なお、複数の保液孔3は内径寸法が同径のものだけでなく、異なる径のものがあっても差し支えない。
【0020】
上記保液孔3には後述するように育成される植物P(図2に示す)の養分となる雨水や市水などの水、或いは液体肥料を含む水などの液体Lが供給保持される。植物Pとしては苔類、岩ヒバ、ユキノシタ、セッコク、風ランなど、乾燥と湿潤の差が大きくても生育できる植物であることが好ましい。
【0021】
上記植物育成用岩石1が保液孔3を有することで、その保液孔3に植物の養分となる液体Lを収容保持しておくことができる。そのため、植物育成用岩石1の表面に供給された液体Lが直ちに流れ落ちて植物育成用岩石1が早期に乾燥することが防止されるから、液体Lの供給頻度を低減させることができる。
【0022】
上記保液孔3は、植物育成用岩石1の表面に開口した一端が内部で閉塞した他端よりも上方に位置する角度で形成されているため、植物生育用岩石1の表面に液体Lがジョウロや降水などによって供給されたとき、その液体Lが上記保液孔3の開口した一端から内部に入り込み易いということもある。
【0023】
具体的には、上記保液孔3が傾斜して形成されていると、その保液孔3の植物育成用岩石1の表面の一端の開口形状は長円形状を含む楕円形状となる。上記保液孔3の開口形状が楕円形状であると、液体Lを散水するなどして供給したときに、上記保持孔3の開口に生じる液体Lの膜の表面張力が保液孔3の長軸方向と短軸方向とで不均衡となって維持され難い状態になる。
【0024】
そのため、植物育成用岩石1の表面に液体Lを散水するなどして供給すると、保液孔3の開口に膜が生じても、その膜は供給された液体Lが衝突するなどして、外部からわずかな衝撃を受けるだけで維持できなくなるから、保液孔3が比較的小径であっても、その内部に液体Lが入り込み易くなるということがある。
【0025】
しかも、保液孔3が傾斜して形成されていることで、保液孔3は植物育成用岩石1の表面に楕円形状で開口する。保液孔3の楕円形状の開口面の上側の部分と下側の部分とは垂直面に対して前後方向にずれが生じる。つまり、植物育成用岩石1の表面において、上記保液孔3の開口面の上側の部分が下側の部分よりも垂直方向に対して前後方向のどちらかにずれて位置するようになる。
【0026】
そのため、上記保液孔3の上側の部分と下側の部分のずれによって、上記保液孔3内への液体Lの流入経路と、保液孔3内の空気の流出経路が確保されることになる。つまり、空気よりも重い液体Lは主に保液孔3の内周面の下側の部分を伝わって内部に流入し、保液孔3内の空気は、保液孔3の内周面の上側の部分を伝わって保液孔3内に流入する液体Lによって液体Lの量と同じ量だけ内部から押し出されることになる。
したがって、上述した作用によって、植物育成用岩石1の表面に供給された液体Lが保液孔3内に流入し易いということになる。
【0027】
たとえば、保液孔3を10mm程度の、比較的小さな内径寸法で形成すると、植物育成用岩石1の表面に供給された液体Lが上述したように内部に入り難いということがあるが、保液孔3を植物育成用岩石1の表面に開口面の形状が楕円形状となるよう傾斜して形成すれば、植物育成用岩石1の表面に供給された液体Lを比較的良好に内部に流入させることが可能となる。
【0028】
つまり、保液孔3内に液体Lを流入させて保持するために、保液孔3の内径寸法を植物育成用岩石1の外観を損なったり、植物育成用岩石1の強度を低下させるような大径寸法とせずにすむということがある。
【0029】
上記保液孔3を、植物育成用岩石1を設置したときに水平面に対して垂直となる角度で形成すると、上記植物育成用岩石1の表面の凹凸形状にもよるが、上記保液孔3の開口面が円形、若しくは円形に近い形状になり易いから、液体Lが内部に入り難くいということがある。
【0030】
したがって、上記保液孔3は植物育成用岩石1を設置したときに水平面に対して垂直にならないよう傾斜させて形成することが好ましい。しかしながら、保液孔3の内径寸法を上方から供給された液体Lが流入し易い大きさに形成できれば、上記保液孔3は垂直に形成しても差し支えない。
【0031】
また、上記植物育成用岩石1の表面の凹凸形状によっては、上記保液孔3を水平面に対して垂直に形成した場合でも、上記保液孔3の開口形状が楕円形状になることがあるから、そのような場合には上記保液孔3を水平面に対して垂直に形成してもよい。
【0032】
つまり、この実施の形態では、保液孔3は上方から供給された液体Lを内部に貯えることができる角度、つまり水平よりも上方に傾斜した角度で形成されていればよいが、上記保液孔3の開口面の形状が楕円形状となるよう形成すれば、保液孔3の内径寸法が比較的小さな場合であっても、内部に液体Lを良好に流入させることができる。
【0033】
上記植物育成用岩石1に形成された複数の保液孔3のうち、たとえば2つ或いは3つの保液孔3は、上記植物育成用岩石1の内部で連通するよう形成されている。2つ或いは3つの保液孔3が連通していれば、1つの保液孔3の液体Lが減少したとき、その保液孔3に他の保液孔3の液体Lが流入する。
【0034】
そのため、2つ或いは3つの保液孔3のうちの、1つの保液孔3に植物Pの根rが生長している場合、その保液孔3に他の保液孔3の液体Lが流入するなどし、植物Pの根rが他の保液孔3の液体Lを吸収できるから、そのことによっても液体Lの供給頻度を低減させることができる。
【0035】
しかも、図2に示すように、植物Pの根rは連通した1つの保液孔3から他の保液孔3へ入り込んで生長する。そのため、植物Pの根rが単に1つの保液孔3内に入り込んだ場合に比べ、植物育成用岩石1の保液孔3内に強く張ることができるから、植物Pを強風などにより離脱することのない安定した状態で育成させることができる。
【0036】
なお、2つ或いは3つの保液孔3を連通させるようにした場合について説明したが、4つ以上の保液孔3を連通させるようにしても差し支えない。
【0037】
上述した構成の植物育成用岩石1を用いて植物Pを育成する場合、まず、植物Pを植物育成用岩石1の表面に弾性素材の輪ゴムや紐などの図示しない保持部材によって動き難いように保持しておく。そして、水や液体肥料などの液体Lを、定期的に植物育成用岩石1の上方から表面全体に対して散水供給する。
【0038】
植物育成用岩石1の表面に供給された液体Lの一部は凹凸状の表面に溜まったり、溜まることなく表面を保湿し、さらには表面から内部に浸透して植物Pに供給され、残りの液体Lは一端を植物育成用岩石1の表面に開口させた保液孔3内に入り込んで貯えられる。
【0039】
上記保液孔3は、植物育成用岩石1の表面に開口した一端が内部に位置する他端よりも上方に位置するよう傾斜した角度で設けられている。そのため、植物育成用岩石1の上方から散水して供給された液体Lは上述したように保液孔3内に入り込み易いということがあるばかりか、保液孔3内に流入した液体Lはこの保液孔3が水平よりも上方に向かって傾斜していることで、水平若しくは下方に向かって傾斜している場合に比べて内部に確実に貯えられることになる。
【0040】
植物育成用岩石1の表面に保持された植物Pは、植物育成用岩石1の表面を湿潤させた液体Lや保液孔3内の貯えられた液体Lとの接触によって生長し、さらに新たな発根などによって根rが生長し、その根rは植物育成用岩石1の表面に定着したり、表面に定着しながら生長して液体Lが貯えられた保液孔3内へ入り込む。
【0041】
このようにして植物Pが植物育成用岩石1の表面に定着すると、その植物Pは植物育成用岩石1の表面に供給されてその表面に溜まったり、表面を湿潤させた液体L、或いは保液孔3内に溜まった液体Lを養分として吸収して生長することになる。
【0042】
なお、植物Pの根rが植物育成用岩石1の表面や保液孔3内に定着したならば、植物Pを保持した上記保持部材を除去する。
【0043】
上記植物育成用岩石1の表面に溜まったり、表面を湿潤させた液体Lは比較的短時間で乾燥してしまうが、保液孔3に貯えられた液体Lは比較的長時間にわたって残留するから、植物Pに対する液体Lの供給頻度を低減させることができる。
【0044】
言い換えれば、上記保液孔3に貯えられた液体Lによって植物育成用岩石1は全体として乾燥し難いため、植物育成用岩石1に定着した植物Pを安定した状態で育成することができる。
【0045】
植物育成用岩石1の表面に定着した植物Pの根rは、保液孔3内に入り込んで、この保液孔3の内面に対しても付着することになる。しかも、複数の保液孔3が植物育成用岩石1の内部で連通しているため、1つの保液孔3内に入り込んだ植物Pの根rは他の保液孔3内へ進入して定着する。
【0046】
それによって、植物Pの根rは植物育成用岩石1に対して強く付着して倒れ難く安定した状態となるから、そのことによっても植物Pの生長が促進され易いということになる。
【0047】
上記植物Pの根rは、保液孔3内に入り込んで液体Lに浸漬するだけでなく、植物育成用岩石1の表面に付着して生長する。
【0048】
そのため、保液孔3内に入り込んで液体Lに浸漬した根rは、酸素を十分に吸収することはできないが、その代わりに液体Lを吸収することができる。それに対して、植物育成用岩石1の表面に露出した根rは、液体Lを多くは吸収できないが、外部に露出しているため酸素を十分に吸収することができる。その結果、植物Pは、液体Lと酸素の吸収がバランスよく行われるから、そのことによって植物Pをバランスのとれた安定した状態で育成することができる。
【0049】
上記植物育成用岩石1に保液孔3を形成することで、従来のように用土を用いずに植物Pを育成することができる。そのため、植物育成用岩石1を、用土が入れられた植木鉢などの上に置かずにすむから、植物育成用岩石1の表面に植物Pが着生した自然状態の外観を損なうことなく、植物Pを育成及び観賞することができるなどのことがある。
【符号の説明】
【0050】
1…植物育成用岩石、3…保液孔、P…植物、r…根。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を生育させるための植物生育用岩石であって、
上記植物生育用岩石には、一端が表面に開口され他端が閉塞されていて、内部には上記植物の養分となる液体を保持することができる複数の保液孔が水平よりも上方へ傾斜した角度で設けられていることを特徴とする植物生育用岩石。
【請求項2】
少なくとも2つの保液孔が上記植物生育用岩石の内部で連通していることを特徴とする請求項1記載の植物生育用岩石。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−106522(P2013−106522A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251485(P2011−251485)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(593038790)
【Fターム(参考)】