植物生長調整補助剤を使用した再分化植物体の作製方法
【課題】再分化の基本培地に添加するだけで発根を促進し、効率よく短期間でカルスから再分化体が得られる植物生長調整補助剤を使用した再分化植物体の作製方法を提供する。
【解決手段】植物体、例えばイネ、トルコギキョウ等、の一部から誘導されたカルスを、グルタチオン、好ましくは酸化型グルタチオン、を含有する再分化培地で培養する。
【解決手段】植物体、例えばイネ、トルコギキョウ等、の一部から誘導されたカルスを、グルタチオン、好ましくは酸化型グルタチオン、を含有する再分化培地で培養する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体の一部を細胞分裂して誘導した組織塊であるカルスを効率よく短期間に再分化させるグルタチオンからなる植物生長調整補助剤、及び該植物生長調整補助剤を使用した再生植物体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物体のもつ分化全能性を利用した組織培養技術は、均質な優良クローンの増産、ウィルスフリー植物の再生、新品種作出を目的とした育種に不可欠なものになっている。植物体の組織培養技術は、通常、カルス培養等によってカルス等の組織を増殖させ、次いで増殖組織を再分化させている。これらの組織培養技術で用いられる基本培地や炭素源及び植物生長調整剤(植物ホルモン)の種類、濃度あるいは培養温度等が大きな役割を担っていることが知られている。
しかしながら、異なる品種間では培養に用いる培地組成も異なり、共通する一般的手法の確立が困難で、それぞれの品種固有の技術にたよらざるを得ない。また、同一種内においても、用いる植物種の倍数性などの遺伝的な要因や培養材料(外植体)のエイジなどの生理的な要因によって、安定的な再現性を得ることが困難になることが多い。再分化が効率よく得られる植物材料においても、同調性に欠ける場合がある。
また、カルスを継代培養していくに従って分化能が徐々に低下していくことも知られており、カルスを経由して大量の再分化体を得ようとする場合は、その都度カルス誘導が必要となる。
【0003】
高等植物へ外来遺伝子を導入する形質転換系や細胞融合には組織培養技術が応用されている。例えば、アグロバクテリウム形質転換法においては、植物片又はカルスにアグロバクテリウムを感染させたあと、選抜用抗生物質を含む再分化培地に移して培養を行い、外来遺伝子が導入された細胞を選抜しつつ再分化させる過程を経る。この際、植物種によっては植物細胞内に外来遺伝子が導入されているにもかかわらず、再分化能の低さから形質転換効率が著しく低い、または形質転換体が得られない場合がある。また、遠縁の組み合わせによる細胞融合雑種の作出では、融合細胞が得られた場合でも、再分化能が低いために途中の段階で一方の染色体が脱落してしまったり、完全な植物体へと再分化できないという問題もある。
このように、その形質転換の成否を決定する要因は、目的とする植物の組織培養技術(再分化技術)であると考えられている。
【0004】
従来、効率よく短期間で再分化させるために、いくつかの提案がなされてきた。例えば、特許文献1には、ポテトエクストラクトを添加したカルス増殖培地で培養して得られた不定胚様のカルスを主要無機塩類濃度を低減した再分化培地に移植することによるイネ科植物の再生方法が、特許文献2には、増殖させたカルスをある程度乾燥させてから再分化培地に移植し、静置培養するイグサのカルス再分化法が、特許文献3には、サイトカイニン系の植物ホルモンを含有するpH調整された合成培地に置床して培養するケナフのカルス再分化方法が、特許文献4には、スターチスの植物体の一部をピクロラムを含有する培地で培養し、カルスを誘導、培養増殖し、そのカルスをサイトカイニンを含有する培地で培養する再分化植物体を作製する方法が、それぞれ報告されている。
更に、特許文献5、6及び7には、エンターバクター属、バチルス属あるいはシュードモナス属に属する微生物を培養し、該培養液から抽出した植物カルス細胞分化剤が開示されている。
しかしながら、これら方法はいずれも品種や生理的な要因が限定的であると共に、その効果も十分なものとは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−219851号公報
【特許文献2】特開平6−153730号公報
【特許文献3】特開2000−217457号公報
【特許文献4】特開2000−270854号公報
【特許文献5】特開平5−49470号公報、
【特許文献6】特開平10−191966号公報、
【特許文献7】特開平10−229875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、再分化の基本培地に添加することで誘導条件の統一性に寄与でき、効率よく短期間で再分化体が得られる植物生長調整補助剤を提供することを課題とする。また、本発明は、植物体の一部から誘導されたカルスを効率よく短期間で再分化させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するための手段は、下記の通りである。
(1)グルタチオンからなる植物生長調整補助剤、
(2)グルタチオンが酸化型グルタチオンである、上記(1)記載の植物生長調整補助剤、
(3)植物体の一部から誘導されたカルスを、グルタチオンを含有する培地で培養することを特徴とする、再分化植物体の作製方法、
(4)グルタチオンが酸化型グルタチオンである、上記(3)記載の再分化植物体の作製方法、
(5)植物体がイネである上記(3)又は(4)記載の再分化植物体の作製方法、
(6)植物体がトルコギキョウである上記(3)又は(4)記載の再分化植物体の作製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、再分化の基本培地に添加するだけで、発根を促進し、効率よく短期間でカルスから再分化体が得られる植物生長調整補助剤、及び該植物生長調整補助剤を使用した再分化植物体の作製方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】トルコギキョウの幼植物体から誘導されたカルスを再分化寒天培地に移した状態の写真である。
【図2】トルコギキョウ:再分化培地に移して30日目の、滅菌水をスポットした培地の細胞の写真である。
【図3】トルコギキョウ:再分化培地に移して30日目の、1mMGSSG溶液をスポットした培地の細胞の写真である。
【図4】トルコギキョウ:再分化培地に移して30日目の、10mMGSSG溶液をスポットした培地の細胞の写真である。
【図5】トルコギキョウ:再分化培地に移して30日目の、100mMGSSG溶液をスポットした培地の細胞の写真である。
【図6】トルコギキョウ:図4のシャーレを裏から見た拡大写真(一部)である。
【図7】トルコギキョウ:図5のシャーレを裏から見た写真である。
【図8】イネ:再分化培地に移して4日目の、滅菌水をスポットした培地の細胞の写真である。
【図9】イネ:再分化培地に移して4日目の、10mMGSSG溶液をスポットした培地の細胞の写真である。
【図10】イネ:図9のCの四角囲み内の拡大写真である。
【図11】イネ:図9のDの四角囲み内の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう植物体とは、作物、野菜、果樹、花きなどが挙げられ、好ましくはイネ科、リンドウ科などの植物があげられ、更に好ましくはイネ、トルコギキョウなどである。
また、植物体の一部とは、カルス誘導可能な植物体の一部、例えば、葉、茎、根、葯、子葉、胚軸などが挙げられる。
【0011】
本発明の植物生長調整補助剤であるグルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンを構成アミノ酸とするトリペプチドで、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン、及びこれらの混合物のいずれでもよいが、酸化型グルタチオンが特に好ましい。
グルタチオンは、培地、好ましくは再分化培地に添加される。添加方法は任意であるが、固体培地を用いる場合は、グルタチオンの1mM〜500mM溶液、好ましくは5〜100mM溶液、として添加、液体培地を用いる場合は、グルタチオン濃度として0.01mM〜10mMとなるように添加することが好ましい。これより濃度が低いと再分化効率があがらず、一方、これを超えて用いても効果はなく、逆に再分化効率が低下する場合がある。
【0012】
本発明の再分化植物体の作製方法において用いられるカルスは、植物体の一部から誘導されたものであり、形質転換系のものでも良い。
植物体の一部からカルスの誘導は、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、植物体の一部を、植物組織培養に用いられている培地、例えば、MS培地、LS培地、N6培地等の基本培養液に、ショ糖などの栄養源を加え、これに植物ホルモン、例えば2,4−ジクロロフェノキシ酢酸等のオーキシン、カイネチン、ベンジルアデニン等のサイトカイニン等を加えて調整される固体培地あるいは液体培地で培養することにより、カルスを得ることができる。
カルスを誘導する培養条件は、光存在下あるいは不存在下、15〜35℃で静置あるいは振とう培養すればよい。
【0013】
誘導されたカルスは、増殖(継代)培地に移植され培養されるが、直接、後述する再分化培地に移植することもできる。
増殖(継代)培地は、前記のMS培地、LS培地、N6培地等に、糖類、無機塩、ビタミン、オーキシン、必要に応じてアミノ酸等を添加したものであり、固体培地を用いることができるが液体培地が好ましい。
培養条件は、カルス誘導培養条件と同様である。
増殖培地においては、カルスの継代を1〜4週間毎に行うことが好ましい。
【0014】
このようにして得られたカルスを再分化するには、再分化培地にグルタチオンが添加された培地が用いられる。
グルタチオンの添加方法は任意であるが、例えば、再分化培地として固体培地を用い、固体培地上に置いたろ紙に添加する場合は、グルタチオンの1〜500mM溶液、好ましくは5〜100mM溶液、として添加(グルタチオンとして0.01mg〜10mg、好ましくは0.05mg〜2mg)、また、液体培地を用いる場合は、グルタチオン濃度として0.01mM〜10mMとなるようにグルタチオンあるいはその溶液を添加すること、が好ましい。また、グルタチオンは水溶液中では不安定なため、特に液体培地において
は、数度にわたって添加することが望ましい。
グルタチオンの濃度がこれより低いと再分化効率があがらず、一方、これを超えて用いても効果はなく、逆に再分化効率が低下する場合がある。
用いられる再分化培地としては、従来公知の培地が用いられ、例えば、上述したMS培地、LS培地、N6培地等に、糖類、無機塩、ビタミン、オーキシン、必要に応じてアミノ酸等が添加されたものである。
培地は固体培地あるいは液体培地を用いることができるが、固体培地の方が好ましい。固体培地を調整するときのゲル化剤としては、寒天、ジェランガム等が挙げられる。
培養条件は、光存在下、15〜35℃で静置培養することが望ましい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
実施例1
カルス誘導寒天培地(MS4D)にトルコギキョウ(Eustoma grandiflorum)の幼植物体を移し、14時間明期・10時間暗期、25℃の条件下で培養した。約8週間後に誘導されたカルスを以下の実験に供した。
再分化寒天培地(R2Rからナフタレン酢酸及びゼアチンを除いたもの)の9cm角シャーレ中央部に1cm×8.5cmのろ紙を置き、ろ紙上に200μLの1mM、10mM、100mM酸化型グルタチオン(GSSG)溶液又は滅菌水をスポットしたあと、培地上にカルスを移し、14時間明期・10時間暗期、25℃の条件下で培養した。再分化寒天培地に移した状態のカルスを図1に示す。
再分化培地に移して30日目の細胞を観察したところ、滅菌水をスポットした培地の細胞では緑化と細胞増殖は認められたものの、発根は認められなかった(図2)。
これに対してGSSG溶液をスポットした培地の細胞では、1mM(図3)、10mM(図4)、100mM(図5)と、濃度依存的に根の伸長度及び発根頻度が高かった。根はトルコギキョウに特有の緑根であった。(図6は図4のシャーレを裏から見た拡大写真(一部)、図7は図5のシャーレを裏からみた写真である。)
GSSGの濃度依存的に発根が促進されたことから、GSSGには再分化過程において発根を促進する効果があることが分かる。
【0016】
実施例2
カルス誘導寒天培地(MS4D)に種皮を除き滅菌したイネ(日本晴品種)種子をまき、30℃の連続光下で培養した。4週間後に誘導されたカルスを、カルス継代培地(R2S)に移し、30℃の連続光下で振とう培養した。7〜11日おきにカルス継代培地を交換すると、約2ヶ月後にほぼ均一な大きさを持つ培養細胞が得られた。
再分化寒天培地(R2R)の9cm角シャーレ中央部に1cm×8.5cmのろ紙を置き、ろ紙上に200μLの10mM−GSSG溶液または滅菌水をスポットしたあと、培地上に培養細胞を置き、30℃の連続光下で培養した。
再分化培地に移して4日目の培養細胞を観察したところ、滅菌水をスポットした培地の細胞では変化が見られなかった(図8)。これに対して10mM−GSSG溶液をスポットした培地の細胞では発根が見られた(図9)。(図10及び図11は、図9のC及びDの四角囲み内の拡大写真である。)。
この結果から、GSSGには植物細胞に対して再分化を促進する効果があることが分かる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体の一部を細胞分裂して誘導した組織塊であるカルスを効率よく短期間に再分化させるグルタチオンからなる植物生長調整補助剤、及び該植物生長調整補助剤を使用した再生植物体の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物体のもつ分化全能性を利用した組織培養技術は、均質な優良クローンの増産、ウィルスフリー植物の再生、新品種作出を目的とした育種に不可欠なものになっている。植物体の組織培養技術は、通常、カルス培養等によってカルス等の組織を増殖させ、次いで増殖組織を再分化させている。これらの組織培養技術で用いられる基本培地や炭素源及び植物生長調整剤(植物ホルモン)の種類、濃度あるいは培養温度等が大きな役割を担っていることが知られている。
しかしながら、異なる品種間では培養に用いる培地組成も異なり、共通する一般的手法の確立が困難で、それぞれの品種固有の技術にたよらざるを得ない。また、同一種内においても、用いる植物種の倍数性などの遺伝的な要因や培養材料(外植体)のエイジなどの生理的な要因によって、安定的な再現性を得ることが困難になることが多い。再分化が効率よく得られる植物材料においても、同調性に欠ける場合がある。
また、カルスを継代培養していくに従って分化能が徐々に低下していくことも知られており、カルスを経由して大量の再分化体を得ようとする場合は、その都度カルス誘導が必要となる。
【0003】
高等植物へ外来遺伝子を導入する形質転換系や細胞融合には組織培養技術が応用されている。例えば、アグロバクテリウム形質転換法においては、植物片又はカルスにアグロバクテリウムを感染させたあと、選抜用抗生物質を含む再分化培地に移して培養を行い、外来遺伝子が導入された細胞を選抜しつつ再分化させる過程を経る。この際、植物種によっては植物細胞内に外来遺伝子が導入されているにもかかわらず、再分化能の低さから形質転換効率が著しく低い、または形質転換体が得られない場合がある。また、遠縁の組み合わせによる細胞融合雑種の作出では、融合細胞が得られた場合でも、再分化能が低いために途中の段階で一方の染色体が脱落してしまったり、完全な植物体へと再分化できないという問題もある。
このように、その形質転換の成否を決定する要因は、目的とする植物の組織培養技術(再分化技術)であると考えられている。
【0004】
従来、効率よく短期間で再分化させるために、いくつかの提案がなされてきた。例えば、特許文献1には、ポテトエクストラクトを添加したカルス増殖培地で培養して得られた不定胚様のカルスを主要無機塩類濃度を低減した再分化培地に移植することによるイネ科植物の再生方法が、特許文献2には、増殖させたカルスをある程度乾燥させてから再分化培地に移植し、静置培養するイグサのカルス再分化法が、特許文献3には、サイトカイニン系の植物ホルモンを含有するpH調整された合成培地に置床して培養するケナフのカルス再分化方法が、特許文献4には、スターチスの植物体の一部をピクロラムを含有する培地で培養し、カルスを誘導、培養増殖し、そのカルスをサイトカイニンを含有する培地で培養する再分化植物体を作製する方法が、それぞれ報告されている。
更に、特許文献5、6及び7には、エンターバクター属、バチルス属あるいはシュードモナス属に属する微生物を培養し、該培養液から抽出した植物カルス細胞分化剤が開示されている。
しかしながら、これら方法はいずれも品種や生理的な要因が限定的であると共に、その効果も十分なものとは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−219851号公報
【特許文献2】特開平6−153730号公報
【特許文献3】特開2000−217457号公報
【特許文献4】特開2000−270854号公報
【特許文献5】特開平5−49470号公報、
【特許文献6】特開平10−191966号公報、
【特許文献7】特開平10−229875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は、再分化の基本培地に添加することで誘導条件の統一性に寄与でき、効率よく短期間で再分化体が得られる植物生長調整補助剤を提供することを課題とする。また、本発明は、植物体の一部から誘導されたカルスを効率よく短期間で再分化させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するための手段は、下記の通りである。
(1)グルタチオンからなる植物生長調整補助剤、
(2)グルタチオンが酸化型グルタチオンである、上記(1)記載の植物生長調整補助剤、
(3)植物体の一部から誘導されたカルスを、グルタチオンを含有する培地で培養することを特徴とする、再分化植物体の作製方法、
(4)グルタチオンが酸化型グルタチオンである、上記(3)記載の再分化植物体の作製方法、
(5)植物体がイネである上記(3)又は(4)記載の再分化植物体の作製方法、
(6)植物体がトルコギキョウである上記(3)又は(4)記載の再分化植物体の作製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、再分化の基本培地に添加するだけで、発根を促進し、効率よく短期間でカルスから再分化体が得られる植物生長調整補助剤、及び該植物生長調整補助剤を使用した再分化植物体の作製方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】トルコギキョウの幼植物体から誘導されたカルスを再分化寒天培地に移した状態の写真である。
【図2】トルコギキョウ:再分化培地に移して30日目の、滅菌水をスポットした培地の細胞の写真である。
【図3】トルコギキョウ:再分化培地に移して30日目の、1mMGSSG溶液をスポットした培地の細胞の写真である。
【図4】トルコギキョウ:再分化培地に移して30日目の、10mMGSSG溶液をスポットした培地の細胞の写真である。
【図5】トルコギキョウ:再分化培地に移して30日目の、100mMGSSG溶液をスポットした培地の細胞の写真である。
【図6】トルコギキョウ:図4のシャーレを裏から見た拡大写真(一部)である。
【図7】トルコギキョウ:図5のシャーレを裏から見た写真である。
【図8】イネ:再分化培地に移して4日目の、滅菌水をスポットした培地の細胞の写真である。
【図9】イネ:再分化培地に移して4日目の、10mMGSSG溶液をスポットした培地の細胞の写真である。
【図10】イネ:図9のCの四角囲み内の拡大写真である。
【図11】イネ:図9のDの四角囲み内の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう植物体とは、作物、野菜、果樹、花きなどが挙げられ、好ましくはイネ科、リンドウ科などの植物があげられ、更に好ましくはイネ、トルコギキョウなどである。
また、植物体の一部とは、カルス誘導可能な植物体の一部、例えば、葉、茎、根、葯、子葉、胚軸などが挙げられる。
【0011】
本発明の植物生長調整補助剤であるグルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンを構成アミノ酸とするトリペプチドで、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン、及びこれらの混合物のいずれでもよいが、酸化型グルタチオンが特に好ましい。
グルタチオンは、培地、好ましくは再分化培地に添加される。添加方法は任意であるが、固体培地を用いる場合は、グルタチオンの1mM〜500mM溶液、好ましくは5〜100mM溶液、として添加、液体培地を用いる場合は、グルタチオン濃度として0.01mM〜10mMとなるように添加することが好ましい。これより濃度が低いと再分化効率があがらず、一方、これを超えて用いても効果はなく、逆に再分化効率が低下する場合がある。
【0012】
本発明の再分化植物体の作製方法において用いられるカルスは、植物体の一部から誘導されたものであり、形質転換系のものでも良い。
植物体の一部からカルスの誘導は、従来公知の方法を用いることができる。すなわち、植物体の一部を、植物組織培養に用いられている培地、例えば、MS培地、LS培地、N6培地等の基本培養液に、ショ糖などの栄養源を加え、これに植物ホルモン、例えば2,4−ジクロロフェノキシ酢酸等のオーキシン、カイネチン、ベンジルアデニン等のサイトカイニン等を加えて調整される固体培地あるいは液体培地で培養することにより、カルスを得ることができる。
カルスを誘導する培養条件は、光存在下あるいは不存在下、15〜35℃で静置あるいは振とう培養すればよい。
【0013】
誘導されたカルスは、増殖(継代)培地に移植され培養されるが、直接、後述する再分化培地に移植することもできる。
増殖(継代)培地は、前記のMS培地、LS培地、N6培地等に、糖類、無機塩、ビタミン、オーキシン、必要に応じてアミノ酸等を添加したものであり、固体培地を用いることができるが液体培地が好ましい。
培養条件は、カルス誘導培養条件と同様である。
増殖培地においては、カルスの継代を1〜4週間毎に行うことが好ましい。
【0014】
このようにして得られたカルスを再分化するには、再分化培地にグルタチオンが添加された培地が用いられる。
グルタチオンの添加方法は任意であるが、例えば、再分化培地として固体培地を用い、固体培地上に置いたろ紙に添加する場合は、グルタチオンの1〜500mM溶液、好ましくは5〜100mM溶液、として添加(グルタチオンとして0.01mg〜10mg、好ましくは0.05mg〜2mg)、また、液体培地を用いる場合は、グルタチオン濃度として0.01mM〜10mMとなるようにグルタチオンあるいはその溶液を添加すること、が好ましい。また、グルタチオンは水溶液中では不安定なため、特に液体培地において
は、数度にわたって添加することが望ましい。
グルタチオンの濃度がこれより低いと再分化効率があがらず、一方、これを超えて用いても効果はなく、逆に再分化効率が低下する場合がある。
用いられる再分化培地としては、従来公知の培地が用いられ、例えば、上述したMS培地、LS培地、N6培地等に、糖類、無機塩、ビタミン、オーキシン、必要に応じてアミノ酸等が添加されたものである。
培地は固体培地あるいは液体培地を用いることができるが、固体培地の方が好ましい。固体培地を調整するときのゲル化剤としては、寒天、ジェランガム等が挙げられる。
培養条件は、光存在下、15〜35℃で静置培養することが望ましい。
【実施例】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
実施例1
カルス誘導寒天培地(MS4D)にトルコギキョウ(Eustoma grandiflorum)の幼植物体を移し、14時間明期・10時間暗期、25℃の条件下で培養した。約8週間後に誘導されたカルスを以下の実験に供した。
再分化寒天培地(R2Rからナフタレン酢酸及びゼアチンを除いたもの)の9cm角シャーレ中央部に1cm×8.5cmのろ紙を置き、ろ紙上に200μLの1mM、10mM、100mM酸化型グルタチオン(GSSG)溶液又は滅菌水をスポットしたあと、培地上にカルスを移し、14時間明期・10時間暗期、25℃の条件下で培養した。再分化寒天培地に移した状態のカルスを図1に示す。
再分化培地に移して30日目の細胞を観察したところ、滅菌水をスポットした培地の細胞では緑化と細胞増殖は認められたものの、発根は認められなかった(図2)。
これに対してGSSG溶液をスポットした培地の細胞では、1mM(図3)、10mM(図4)、100mM(図5)と、濃度依存的に根の伸長度及び発根頻度が高かった。根はトルコギキョウに特有の緑根であった。(図6は図4のシャーレを裏から見た拡大写真(一部)、図7は図5のシャーレを裏からみた写真である。)
GSSGの濃度依存的に発根が促進されたことから、GSSGには再分化過程において発根を促進する効果があることが分かる。
【0016】
実施例2
カルス誘導寒天培地(MS4D)に種皮を除き滅菌したイネ(日本晴品種)種子をまき、30℃の連続光下で培養した。4週間後に誘導されたカルスを、カルス継代培地(R2S)に移し、30℃の連続光下で振とう培養した。7〜11日おきにカルス継代培地を交換すると、約2ヶ月後にほぼ均一な大きさを持つ培養細胞が得られた。
再分化寒天培地(R2R)の9cm角シャーレ中央部に1cm×8.5cmのろ紙を置き、ろ紙上に200μLの10mM−GSSG溶液または滅菌水をスポットしたあと、培地上に培養細胞を置き、30℃の連続光下で培養した。
再分化培地に移して4日目の培養細胞を観察したところ、滅菌水をスポットした培地の細胞では変化が見られなかった(図8)。これに対して10mM−GSSG溶液をスポットした培地の細胞では発根が見られた(図9)。(図10及び図11は、図9のC及びDの四角囲み内の拡大写真である。)。
この結果から、GSSGには植物細胞に対して再分化を促進する効果があることが分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体の再分化培地上にろ紙を置いて、該ろ紙に酸化型グルタチオンの1〜500mM溶液を添加し、当該培地上に植物体の一部から誘導されたカルスを移して培養することにより、カルスから発根させることを特徴とする、再分化植物体の作製方法。
【請求項2】
前記培地上に前記カルスを移すときに、前記ろ紙とカルスとの距離に勾配をつけて並べることを特徴とする、請求項1記載の再分化植物体の作成方法。
【請求項1】
固体の再分化培地上にろ紙を置いて、該ろ紙に酸化型グルタチオンの1〜500mM溶液を添加し、当該培地上に植物体の一部から誘導されたカルスを移して培養することにより、カルスから発根させることを特徴とする、再分化植物体の作製方法。
【請求項2】
前記培地上に前記カルスを移すときに、前記ろ紙とカルスとの距離に勾配をつけて並べることを特徴とする、請求項1記載の再分化植物体の作成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−165494(P2009−165494A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112136(P2009−112136)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【分割の表示】特願2003−154278(P2003−154278)の分割
【原出願日】平成15年5月30日(2003.5.30)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【分割の表示】特願2003−154278(P2003−154278)の分割
【原出願日】平成15年5月30日(2003.5.30)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】
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