説明

植物病害防除方法及び防除剤

【課題】 バークホルデリア属の微生物を利用した新規な防除手段を提供する。
【解決手段】 バークホルデリア属に属し、植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物を、植物の葉面に散布することを特徴とする植物病害防除方法、及びバークホルデリア属に属し、植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物を含有することを特徴とする葉面散布用植物病害防除剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用した植物病害防除方法及び植物病害防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
病害の防除は適期に処理することが重要であるが、化学物質を用いた防除剤は作物残留などの観点から処理回数や収穫前の使用は制限される。一方、微生物防除剤は散布時期や回数などの規制が少なく、化学物質を用いた防除剤の使用できない場面で適期に使用でき、病害の発生による被害を少なくすることができる。
【0003】
このような微生物防除剤には、従来から様々な微生物が利用されてきた。バークホルデリア属(Burkholderia)の微生物も、このような防除剤に利用されてきた微生物の一つである。バークホルデリア属の微生物を利用した防除剤及び防除方法としては、例えば、以下のようなものが知られている。
【0004】
特許文献1には、バークホルデリア・グラジオリ(Burkholderia gladioli)に属する微生物の懸濁液にイネの種籾を浸漬することにより、イネもみ枯細菌病などを防除する方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、バークホルデリア・グラジオリに属する微生物を米ぬかやふすまなどと共に土壌中に混入し、青枯病菌を減少させる方法が記載されている。
【0006】
非特許文献1には、バークホルデリア・グラジオリに属する微生物を根に接種したニラやネギを混植することにより、ユウガオつる割病やトマト萎凋病などの土壌病害を防除する方法が記載されている。
【0007】
非特許文献2には、バークホルデリア・グラジオリに属する微生物をイネの種子に接種し、イネ苗立枯細菌病などを防除する方法が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開平9-124426号公報
【特許文献2】特開平8-245328号公報
【非特許文献1】百町満朗監修、「拮抗微生物による作物病害の生物防除」、クミアイ化学工業株式会社、2003年、p.42-47
【非特許文献2】百町満朗監修、「拮抗微生物による作物病害の生物防除」、クミアイ化学工業株式会社、2003年、p.57-63
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、バークホルデリア属の微生物を利用した防除方法は、既に幾つか知られていたが、微生物を葉面に散布して防除効果を発揮させる方法は知られていなかった。
【0010】
本発明は、バークホルデリア属の微生物を利用した新規な防除手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、バークホルデリア属の微生物をチャやキュウリの葉に接種することにより、チャ輪斑病やキュウリ炭疽病などに対し高い防除能を発揮することを見出した。
【0012】
バークホルデリア属の微生物は一般に土壌細菌と認識されていることから、土壌ではなく、葉面に接種した場合であっても防除効果を発揮できるということは、全く予想外のことであった。
【0013】
本発明は、以上の知見に基づき、完成されたものである。
【0014】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(19)を提供する。
【0015】
(1)バークホルデリア属に属し、植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物を、植物の葉面に散布することを特徴とする植物病害防除方法。
【0016】
(2)微生物が、バークホルデリア・グラジオリに属する微生物であることを特徴とする(1)に記載の植物病害防除方法。
【0017】
(3)微生物が、配列番号1に記載の塩基配列と97%以上相同な塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物であることを特徴とする(1)に記載の植物病害防除方法。
【0018】
(4)微生物が、配列番号1に記載の塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物であることを特徴とする(1)に記載の植物病害防除方法。
【0019】
(5)微生物が、受託番号NITE P-607で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-3株、受託番号NITE P-608で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-4株、又は受託番号NITE P-609で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt3-UV2株あることを特徴とする(1)に記載の植物病害防除方法。
【0020】
(6)植物病害が、チャ輪斑病、チャ炭疽病、キュウリ炭疽病、キュウリうどんこ病、キュウリ灰色カビ病、トマト夏疫病、トマト葉かび病、ネギさび病、イチゴ炭疽病、又はシバさび病であることを特徴とする(1)乃至(5)のいずれかに記載の植物病害防除方法。
【0021】
(7)植物病原菌が、アルテルナリヤ属、ボトリティス属、コクリオボールス属、コレトトリカム属、フザリウム属、ジベレラ属、ペスタロチオプシス属、ピリキュラリア属、リゾクトニア属、スクレロチニア属、プクキニア属、バークホルデリア属、エルビニア属、シュードモナス属、又はキサントモナス属に属する微生物であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれかに記載の植物病害防除方法。
【0022】
(8)植物が、双子葉植物であることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の植物病害防除方法。
【0023】
(9)バークホルデリア属に属し、植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物を含有することを特徴とする葉面散布用植物病害防除剤。
【0024】
(10)微生物が、バークホルデリア・グラジオリに属する微生物であることを特徴とする(9)に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【0025】
(11)微生物が、配列番号1に記載の塩基配列と97%以上相同な塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物であることを特徴とする(9)に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【0026】
(12)微生物が、配列番号1に記載の塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物であることを特徴とする(9)に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【0027】
(13)微生物が、受託番号NITE P-607で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-3株、受託番号NITE P-608で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-4株、又は受託番号NITE P-609で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt3-UV2株あることを特徴とする(9)に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【0028】
(14)植物病害が、チャ輪斑病、チャ炭疽病、キュウリ炭疽病、キュウリうどんこ病、キュウリ灰色カビ病、トマト夏疫病、トマト葉かび病、ネギさび病、イチゴ炭疽病、又はシバさび病であることを特徴とする(9)乃至(13)のいずれかに記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【0029】
(15)植物病原菌が、アルテルナリヤ属、ボトリティス属、コクリオボールス属、コレトトリカム属、フザリウム属、ジベレラ属、ペスタロチオプシス属、ピリキュラリア属、リゾクトニア属、スクレロチニア属、プクキニア属、バークホルデリア属、エルビニア属、シュードモナス属、又はキサントモナス属に属する微生物であることを特徴とする(9)乃至(14)のいずれかに記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【0030】
(16)植物が、双子葉植物であることを特徴とする(9)乃至(15)のいずれかに記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【0031】
(17)受託番号NITE P-607で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-3株。
【0032】
(18)受託番号NITE P-608で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-4株。
【0033】
(19)受託番号NITE P-609で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt3-UV2株。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、新規な植物病害防除方法及び防除剤を提供する。本発明の防除方法等は、防除に微生物を利用するため、化学物質を利用する防除方法のように、処理回数や収穫前の使用制限を受けることなく、適用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0036】
本発明の植物病害防除方法及び植物病害防除剤は、バークホルデリア属に属し、植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物を利用するものである。
【0037】
使用する微生物は、バークホルデリア属に属し、植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物であれば特に限定されないが、バークホルデリア・グラジオリAnt-3株、バークホルデリア・グラジオリAnt-4株、又はバークホルデリア・グラジオリAnt3-UV2株を使用するのが好ましい。Ant-3株及びAnt-4株は、本発明者によって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、それぞれ受託番号NITE P-607及びNITE P-608として寄託されている(受託日:2008年7月8日)。また、Ant3-UV2株は、Ant-3株に紫外線照射処理をすることにより得られた変異株であり、この菌株は独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに、受託番号NITE P-609として寄託されている(受託日:2008年7月8日)。
【0038】
微生物としては、上述したAnt-3株、Ant-4株又はAnt3-UV2株の代わりに、以下の微生物を使用してもよい。
【0039】
(A)バークホルデリア・グラジオリに属する微生物:Ant-3株、Ant-4株及びAnt3-UV2株は、バークホルデリア・グラジオリに属する。従って、バークホルデリア・グラジオリに属する微生物には、Ant-3株等と同様に植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物が多数存在する可能性が高く、当業者であればそのような性質を持つ微生物を容易に分離できると考えられる。
【0040】
(B)Ant-3株の16SrDNAに対して高い相同性を示す16SrDNAを有する微生物:Ant-3株の16SrDNA(塩基配列は配列番号1に示すとおりである。)に対して高い相同性を示す16SrDNAを有する微生物は、Ant-3株と近縁の菌株であると考えられる。従って、Ant-3株の16SrDNAに対して高い相同性を示す16SrDNAを有する微生物には、Ant-3株等と同様に植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物が多数存在する可能性が高く、当業者であればそのような性質を持つ微生物を容易に分離できると考えられる。ここで、「高い相同性」とは、97%以上の相同性、好ましくは99%以上の相同性、更に好ましくは99.9%以上の相同性、最も好ましくは100%の相同性を意味する。
【0041】
(C)Ant-3株、Ant-4株又はAnt3-UV2株に変異処理を施した微生物:実例としてAnt-3株に紫外線照射処理をすることにより、Ant-3株よりも強い抗菌作用を示すAnt3-UV2株が得られている。従って、変異処理を施すことにより、Ant3-UV2株と同様に母株よりも強い抗菌作用を示す菌株が得られる可能性が高く、当業者であればそのような性質を持つ微生物を容易に作製できると考えられる。変異処理としては、変異剤による処理、紫外線照射、X線照射などを例示できるが、紫外線照射が好ましい。紫外線照射の条件は特に限定されないが、照射する紫外線の波長が220〜270nm、紫外線の強度が2〜7ワット、照射源と微生物との距離が30〜50cm、照射時間が2〜10時間程度となるようにすることが好ましい。
【0042】
本発明に使用する微生物の培養方法は特に限定されず、バークホルデリア属の微生物に一般的に適用されている方法によって培養することができる。培地としては、例えば、PDA培地、ポテト半合成培地、YDCA培地などを使用することができる。培養温度は特に限定されないが、15〜35℃とするのが好ましく、24〜30℃とするのが更に好ましい。
【0043】
上述した微生物は、製剤化し、植物の葉面に散布して使用する。製剤中には微生物以外の成分が含まれていてもよい。このような微生物以外の成分としては、例えば、溶媒、担体、製剤中の微生物の安定性を保つ成分、微生物の増殖を補助する成分、微生物の葉面への付着を補助する成分などを例示できる。微生物の安定性を保つ成分としては、例えばスキムミルクやアミノ酸類等、微生物の増殖を補助する成分としては、例えば、蔗糖など糖類、アミノ酸、ペプトン、茶葉粉末などの天然素材などを挙げることができる。微生物の葉面への付着を補助する成分としては、例えば、界面活性剤や分散剤などを挙げることができる。製剤中の微生物濃度は特に限定されないが、105〜1012cfu/mlであることが好ましく、1010〜1012cfu/mlであることが更に好ましい。
【0044】
微生物の散布量は、植物の病害をを防除できる範囲内であれば特に限定されないが、圃場1 m2当り、通常、105〜1010cfu/ml、好ましくは、106〜108cfu/mlで散布する。
【0045】
防除対象とする植物は、単子葉植物であってもよいが、双子葉植物であることが好ましい。双子葉植物としては、チャ、キュウリ、トマト、イチゴなどを例示でき、単子葉植物としては、イネ、ムギ、ネギ、シバなどを例示できる。
【0046】
防除対象とする病害としては、チャ輪斑病、チャ炭疽病、キュウリ炭疽病、キュウリうどんこ病、キュウリ灰色カビ病、トマト夏疫病、トマト葉かび病、ネギさび病、イチゴ炭疽病、シバさび病などを例示できる。
【0047】
防除対象とする病害微生物は、真菌、細菌のいずれであってもよく。真菌としては、アルテルナリヤ・アルテルナータ(Alternaria alternata)などのアルテルナリヤ属の微生物、ボトリティス・シネレア(Botrytis cinerea)などのボトリティス属の微生物、コクリオボールス・ミヤベアヌス(Cochliobolus miyabeanus)などのコクリオボールス属の微生物、コレトトリカム・ラゲナリウム(Colletotrichum lagenarium)やコレトトリカム・テアエーシネンシス(Colletotrichum theae-sinensis)などのコレトトリカム属の微生物、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)などのフザリウム属の微生物、ジベレラ・フジクロイ(Gibberella fujikuroi)などのジベレラ属の微生物、ペスタロチオプシス・ロンギセタ(Pestalotiopsis longiseta)などのペスタロチオプシス属の微生物、ピリキュラリア・オリゼ(Pyricularia oryzae)などのピリキュラリア属の微生物、リゾクトニア・ソラニ(Rhizoctonia solani)などのリゾクトニア属の微生物、スクレロチニア・スクレロチオラム(Sclerotinia sclerotiorum)などのスクレロチニア属の微生物、プクキニア・アーリー(Puccinia allii)などのさび菌類などの微生物を挙げることができ、細菌としては、バークホルデリア・カリオフィリー(Burkholderia caryophylli)などのバークホルデリア属の微生物、エルビニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)などのエルビニア属の微生物、シュードモナス・ソラナセアラム(Pseudomonas solanacearum)やシュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)などのシュードモナス属の微生物、キサントモナス・シトリ(Xanthomonas citri)などのキサントモナス属の微生物などを挙げることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0049】
〔実施例1〕 拮抗菌の分離と選抜
静岡県より購入したチャの小苗(品種やぶきた)を温室内でポット植えして栽培した。その苗から新抽出葉一枚を指などからの雑菌混入に注意しながら無菌のプラスチックチューブに入れてフタをした。そのチューブを実験室に持ち帰り滅菌蒸留水5mlを加えて攪拌後、25℃定温器におよそ24時間保った。その溶液およそ20 μlをPDA培地のプレート上に滴下し、うすく塗布した。そのプレートを25℃で2-3日インキュベートし、生じたコロニーを分離菌とした。
【0050】
予めPDAプレート上にプラグ接種し3日間培養したチャ輪斑病菌(Pestalotiopsis longiseta)の菌叢先端部からおよそ1 cm離れた位置に、先の分離プレートに生じた各コロニーからそれぞれ菌泥を直接塗布し対峙培養した。2-3日後分離菌株と P. longisetaの境界面に拮抗阻害によるクリアーゾーンを生じた株を拮抗菌株として選抜した。
【0051】
〔実施例2〕 分離菌株の活性評価
分離65株中11株に拮抗作用を認めた。その11株について、阻止円法や対峙培養法で活性評価をした。その結果Ant-1, 2, 3, 4の4株が特に活性が高く、選抜された。その4株について切り葉を用いたチャ輪斑病菌に対する防除効力を検定した。
【0052】
〔実施例3〕 高活性菌株の選抜
更に活性の高い拮抗菌の分離を数回試みたが、高い活性菌株を新たに見出すことができなかった。そこで高活性株を得る目的でそれまで最も活性の高かったAnt-3株の菌液を薄く塗布したPDAプレートをクリーンベンチで消費電力15Wの殺菌灯(製品名:GL-15、製造元:東芝製、照射波長:253.7nm、紫外線強度4.9W)の下、およそ40cmの距離にふたを取って3時間照射した。培養後現れたコロニーを採取し、Ant 3-UV1-8の8菌株を得て対峙培養で拮抗活性を調べた。多くは母株に勝らなかったが、Ant 3-UV2株だけが母株に比べ幾分高い活性を示した。
【0053】
〔実施例4〕 チャ輪斑病に対する切り葉試験法
培地上で活性を示した拮抗菌についてチャ葉上での輪斑病菌の発病抑制効力を検討した。
【0054】
(1)拮抗菌処理
ポット植え苗木から硬化前の新葉を採集し、中肋を挟んだ両側の各2箇所、計4箇所に、径6 mmのコルクボーラーを用いて円形の傷を付けた。付傷した葉は107-8 cfu/ml拮抗菌の菌液に浸漬した後、新聞紙上に並べて風乾した。
【0055】
(2)輪斑病菌の接種
ふた付きのスチロール製ボックスの底に水を含ませた濾紙を敷きその上に拮抗菌処理後風乾したチャ葉を並べた。1視野50-70胞子(x100双眼顕微鏡)を含む輪斑病菌の胞子液40μlをチャ葉の付傷円内に滴下して接種した。滴下後ふたを閉めて、25℃定温器内に5-7日間インキュベートし、発病させた。
【0056】
(3)防除効力の評価法
接種部位ごとの発病程度を以下の基準で0-5の発病度に類別評価した。
【0057】
【表1】

【0058】
調査後発病度を以下の式に当てはめて防除価を算出した。
【0059】
防除価 = (1 - 処理区平均発病度 / 無処理平均発病度) x 100
本試験の結果は表2及び表3に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
〔実施例5〕 キュウリ炭疽病(Colletotrichum lagenarium)のポット試験法
培地上で拮抗性を示したチャ病害以外の病原菌のうち、まずキュウリ炭疽病に対する効力をポット試験で検討した。
【0063】
(1)育苗
キュウリ種子、品種「ときわ地這」を苗箱に播種し、およそ10日後その幼苗各一株を径8 cmプラスチックポットに移植栽培した。およそ播種20日後の本葉2枚に達した苗をポット試験に供試した。
【0064】
(2)拮抗菌の処理
PDA斜面培地に48時間培養の拮抗菌に滅菌蒸留水10 mlを加えて攪拌懸濁した。その菌液を蒸留水で希釈し、およそ107-8cfu/mlに調整した。その菌液を接種当日とその2日前にキュウリの本葉が十分濡れるように、噴霧器で散布した。
【0065】
(3)接種
キュウリ炭疽病菌をPDAプレートに、およそ2週間培養後、形成された分生胞の胞子浮遊液を準備した。拮抗菌散布0日及び2日後に胞子浮遊液をキュウリ葉に均一に噴霧接種し、24時間およそ25℃の接種箱に保った。その後、20-30℃の温室内におよそ1週間管理し、発病させた。
【0066】
(4)調査
薬剤散布時に展葉していた下位2葉について、葉ごとの発病程度を発病病斑数により0-5の発病度に類別評価した。
【0067】
【表4】

【0068】
調査後以下の式に当てはめて防除価を算出した。
【0069】
防除価 = (1 - 処理区平均発病度 / 無処理平均発病度) x 100
本試験の結果は表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
〔実施例6〕 キュウリうどんこ病(Sphaerotheca fuliginea)に対するポット試験法
先の試験で拮抗菌がキウリ炭疽病に有効であったことから、他のキュウリ病害としてうどんこ病について効力を検討した。
【0072】
(1)育苗
キュウリ品種「ときわ地這」本葉2葉期の苗を用いた。育苗は炭疽病試験に準ずる。
【0073】
(2)拮抗菌の処理
実施例5と同様に行った。
【0074】
(3)接種
キュウリうどんこ病が発病した小苗を理化学研究所より譲り受けて、接種源として供試した。拮抗菌を散布した小苗に、散布当日及び3日後に接種源の葉表に形成された分生胞子を絵の具筆を用いて、ふりかけ接種した。
【0075】
(4)調査
およそ10日後、散布時展葉していた下位2葉について発病程度を調査した。葉ごとの病斑面積により0-5の発病度に類別評価した。
【0076】
【表6】

【0077】
調査後以下の式に当てはめて防除価を算出した。
【0078】
防除価 = (1 - 処理区平均発病度 / 無処理平均発病度) x 100
本試験の結果は表7に示す。
【0079】
【表7】

【0080】
〔実施例7〕 抗菌スペクトラム
チャ輪斑病菌、キュウリ炭疽病菌を含む種々の植物病原真菌、植物病原細菌に対する、本菌(Ant-3及びAnt 3-UV2株)の拮抗性を対峙培養により検討した。拮抗性の認められた菌株のリストは表8に示す。
【0081】
【表8】

【0082】
〔実施例8〕 Ant-3株の16SrRNA塩基配列による同定
(1)方法
(1−1)DNA 抽出
PDブロス培地を用い、Ant-3株を48時間震蕩培養し、その後、4000rpmで遠心し、ペレット状に集菌し、プロトコール(篠田吉史、加藤暢夫、桑田直樹 :16SrRNA遺伝子解析による細菌の系統分類法、島津評論(2000))に従いDNA抽出した。DNAは純水に溶かし260nmと280nmで核酸濃度を測定した。
【0083】
(1−2)16SrRNA遺伝子の増幅と精製
表9に示すforwardおよびreverseプライマーを使用し、PCRで16SrDNAを増幅した。精製はHigh Pure Cleanup Microkit(Roche社製)により行った。ゲル電気泳動により1.5kbのDNAが増幅されていることを確認した。
【0084】
【表9】

【0085】
(1−3)シークエンス
キャピラリーシークエンサーABI PRISM 3130 Genetic Analyzer(Applied Biosystems社)によるダイレクトシークエンスにより判読した。
【0086】
(1−4)塩基配列データーの解析
塩基配列の解析にはDNASISを用いた。相同検索はDDBJ(DNAバンク)のBLASTによった。アライメント作成はCLC Free Workbenchを使用した。
【0087】
(2)結果
Ant-3株の16SrDNAの塩基配列を配列番号1に示す。相同検索の結果、菌株Ant-3の16SrDNAの塩基配列はBLASTに登録されたBurkholderia gladioliのstrain R1879, 223gr-1, S10, R406, S12及びNIAS1065の16SrDNAの塩基配列と99%以上の確率で一致し、Ant-3株はB. gladioliとほぼ同定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バークホルデリア属に属し、植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物を、植物の葉面に散布することを特徴とする植物病害防除方法。
【請求項2】
微生物が、バークホルデリア・グラジオリに属する微生物であることを特徴とする請求項1に記載の植物病害防除方法。
【請求項3】
微生物が、配列番号1に記載の塩基配列と97%以上相同な塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物であることを特徴とする請求項1に記載の植物病害防除方法。
【請求項4】
微生物が、配列番号1に記載の塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物であることを特徴とする請求項1に記載の植物病害防除方法。
【請求項5】
微生物が、受託番号NITE P-607で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-3株、受託番号NITE P-608で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-4株、又は受託番号NITE P-609で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt3-UV2株あることを特徴とする請求項1に記載の植物病害防除方法。
【請求項6】
植物病害が、チャ輪斑病、チャ炭疽病、キュウリ炭疽病、キュウリうどんこ病、キュウリ灰色カビ病、トマト夏疫病、トマト葉かび病、ネギさび病、イチゴ炭疽病、又はシバさび病であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の植物病害防除方法。
【請求項7】
植物病原菌が、アルテルナリヤ属、ボトリティス属、コクリオボールス属、コレトトリカム属、フザリウム属、ジベレラ属、ペスタロチオプシス属、ピリキュラリア属、リゾクトニア属、スクレロチニア属、プクキニア属、バークホルデリア属、エルビニア属、シュードモナス属、又はキサントモナス属に属する微生物であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の植物病害防除方法。
【請求項8】
植物が、双子葉植物であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の植物病害防除方法。
【請求項9】
バークホルデリア属に属し、植物病原菌に対し抗菌作用を示す微生物を含有することを特徴とする葉面散布用植物病害防除剤。
【請求項10】
微生物が、バークホルデリア・グラジオリに属する微生物であることを特徴とする請求項9に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【請求項11】
微生物が、配列番号1に記載の塩基配列と97%以上相同な塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物であることを特徴とする請求項9に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【請求項12】
微生物が、配列番号1に記載の塩基配列からなる16SrDNAを有する微生物であることを特徴とする請求項9に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【請求項13】
微生物が、受託番号NITE P-607で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-3株、受託番号NITE P-608で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-4株、又は受託番号NITE P-609で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt3-UV2株あることを特徴とする請求項9に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【請求項14】
植物病害が、チャ輪斑病、チャ炭疽病、キュウリ炭疽病、キュウリうどんこ病、キュウリ灰色カビ病、トマト夏疫病、トマト葉かび病、ネギさび病、イチゴ炭疽病、又はシバさび病であることを特徴とする請求項9乃至13のいずれか一項に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【請求項15】
植物病原菌が、アルテルナリヤ属、ボトリティス属、コクリオボールス属、コレトトリカム属、フザリウム属、ジベレラ属、ペスタロチオプシス属、ピリキュラリア属、リゾクトニア属、スクレロチニア属、プクキニア属、バークホルデリア属、エルビニア属、シュードモナス属、又はキサントモナス属に属する微生物であることを特徴とする請求項9乃至14のいずれか一項に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【請求項16】
植物が、双子葉植物であることを特徴とする請求項9乃至15のいずれか一項に記載の葉面散布用植物病害防除剤。
【請求項17】
受託番号NITE P-607で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-3株。
【請求項18】
受託番号NITE P-608で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt-4株。
【請求項19】
受託番号NITE P-609で寄託されたバークホルデリア・グラジオリAnt3-UV2株。

【公開番号】特開2010−47532(P2010−47532A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214168(P2008−214168)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月11日 日本農薬学会発行の「日本農薬学会第33回大会講演要旨集」に発表
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】