説明

植物系樹脂含有組成物及びそれを用いた植物系樹脂含有成形体

【課題】環境負荷が小さく、樹脂特性の高い植物系樹脂含有組成物及び植物系樹脂含有成形体を提供する。
【解決手段】本発明の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、添加剤とを含む植物系樹脂含有組成物であって、前記添加剤は、シリカ、ウォラストナイト、植物繊維、ガラスフレーク、ガラス繊維、及びタルクからなる群から選択された少なくとも1種類であることを特徴とする。また、本発明の植物系樹脂含有成形体は、上記本発明の植物系樹脂含有組成物から形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物系樹脂含有組成物とそれを用いた植物系樹脂含有成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油に代表される化石資源の大量消費による枯渇と、二酸化炭素濃度の増加による地球温暖化が問題になりつつある。そのため、石油由来の汎用樹脂を植物由来のポリ乳酸等の植物系樹脂で置き換えようとする動きが世界的に盛んになっている。ポリ乳酸は、枯渇する心配のないトウモロコシ等の植物から作られ、廃棄後も土中の微生物の働きにより無害な水と二酸化炭素に分解される。また、ポリ乳酸は、その焼却によって発生した水と二酸化炭素が再び光合成により植物に戻るという循環型の素材であり、環境に低負荷である。
【0003】
最近では、ノートパソコン、携帯電話等の電子機器の筐体に対してもポリ乳酸を主成分とした植物系樹脂を使用することが提案されている(特許文献1参照。)。しかし、樹脂としてのポリ乳酸は、曲げ強さ等の剛性は大きいが、アイゾット衝撃強度等の耐衝撃性が弱く、荷重たわみ温度等の耐熱性が低いため、電子機器の筐体に単体で用いるのは困難である。そのため、ポリ乳酸等の植物系樹脂と、石油系樹脂とを混合した材料等が検討されている。しかし、現状では筐体材料の要求特性を満たすような植物系樹脂を主成分とした材料は開発されていない。
【0004】
そこで注目されるのが、より優れた特性を持つ植物系樹脂であるポリアミド11である。ポリアミド11は、ヒマシ油等の植物油を原料にして製造される植物系樹脂であり、耐薬品性や耐熱性が高い。このため、ポリアミド11は、従来主として自動車用部品等の材料として使用されてきた。但し、ポリアミド11は結晶性樹脂であり、成形時にバリやヒケ等が発生しやすいという欠点があるため、製品の外観部品に用いられた例は報告されていない。
【0005】
これまで、結晶性ポリアミドに非晶性ポリアミドを混合することにより、表面平滑性等の外観性を向上させたポリアミド樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照。)。また、芳香族ポリアミドに各種の樹脂を混合することにより、成形性を向上させた複合樹脂材料も提案されている(特許文献3参照。)。
【0006】
なお、本発明に関連する技術文献としては、特許文献4〜特許文献23がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−244645号公報
【特許文献2】特開平10−219105号公報
【特許文献3】特開2001−226557号公報
【特許文献4】特開昭63−277651号公報(特許第2544315号)
【特許文献5】特開2004−190026号公報
【特許文献6】国際公開第98/49235号パンフレット
【特許文献7】特開昭64−79258号公報
【特許文献8】特開平5−255585号公報
【特許文献9】特開平9−124927号公報
【特許文献10】特開平3−20355号公報
【特許文献11】特開平5−255586号公報
【特許文献12】特開2004−83911号公報
【特許文献13】特開2003−96227号公報
【特許文献14】特開2005−232298号公報
【特許文献15】特表2005−520904号公報
【特許文献16】特開2004−35705号公報
【特許文献17】特開2004−204104号公報
【特許文献18】特開2004−339505号公報
【特許文献19】特開平5−170990号公報
【特許文献20】特表平9−507265号公報
【特許文献21】特開平11−241020号公報
【特許文献22】特開2003−82228号公報
【特許文献23】特開2006−45390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載のポリアミド樹脂組成物では、結晶性ポリアミドとしてポリアミド6(ナイロン6)やポリアミド66(ナイロン66)を用いているものの、ポリアミド11については何ら記載されておらず、ましてやポリアミド11を用いて電子機器の筐体を形成することについては一切記載されていない。
【0009】
また、特許文献2に記載の手法により、ポリアミド11に非晶性ポリアミドを混合してポリアミド樹脂組成物を作製し、このポリアミド樹脂組成物を用いて成形体を形成しても、層状剥離を起こしやすく、十分な樹脂特性が得られなかった。これは、植物由来のポリアミド11と石油由来の非晶性ポリアミドとは相溶性が低く、成分が均一な材料にはなりにくいことに原因があると考えられる。一方、ともに石油由来の結晶性ポリアミドと非晶性ポリアミドとでは相溶性が高いため、特許文献2の手法により樹脂特性が向上したものと考えられる。
【0010】
さらに、特許文献3にはポリアミド11を用いた複合樹脂材料については一切記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、非晶性樹脂とを含む植物系樹脂含有組成物であって、前記非晶性樹脂は、ABS樹脂、AS樹脂、ASA樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン及びポリアリレートからなる群から選ばれた少なくとも1種類の樹脂であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第2の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、添加剤とを含む植物系樹脂含有組成物であって、前記添加剤は、シリカ、ウォラストナイト、植物繊維、ガラスフレーク、ガラス繊維、及びタルクからなる群から選択された少なくとも1種類であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の植物系樹脂含有成形体は、上記本発明の植物系樹脂含有組成物から形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境負荷が小さく、樹脂特性の高い植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、本発明の植物系樹脂含有組成物を用いることにより、寸法性が高く、機械強度特性に優れる植物系樹脂含有成形体として、携帯電話やノートパソコン等の電子機器の外観部品を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の植物系樹脂含有成形体の一例を示すノートパソコン用筐体の正面図である。
【図2】図2は、水平燃焼試験法を説明する側面図である。
【図3】図3は、実施形態5の植物系樹脂含有組成物に含まれる各成分の分散構造を示す模式図である。
【図4】図4は、ASTM曲げ試験片の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ポリアミド11を含んだ樹脂の樹脂特性を改善するために、ポリアミド11に非晶性樹脂を混合することに解決の第1のポイントがあることを見出し、また、ポリアミド11と非晶性樹脂とを含んだ樹脂組成物に各種の成分を添加することに解決の第2のポイントがあることを見出し、本発明を完成するに至った。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
(実施形態1)
先ず、本発明の植物系樹脂含有組成物の実施形態について説明する。本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、非晶性樹脂とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、ポリアミド11と非晶性樹脂とを混合して用いることにより、成形性や機械特性を向上できる。
【0018】
上記非晶性樹脂とは、分子鎖が互いに規則正しく配列して周期性のある高次構造を有する結晶部分の割合が、結晶性樹脂に比べて少ない樹脂をいい、例えば、ABS樹脂、AS樹脂、ASA樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート等が該当する。
【0019】
上記非晶性樹脂は、ABS樹脂であることが好ましい。これにより、成形時のバリやヒケを効果的に防止できる。これは、ABS樹脂の溶融粘度は、ポリアミド11の溶融粘度に比べて1〜2桁高い値であり、ポリアミド11にABS樹脂を混合することにより、ポリアミド11単独に比べて溶融粘度が高まり、成形時にバリやヒケが発生しにくくなったと考えられる。
【0020】
上記ポリアミド11と上記ABS樹脂との重量混合比は、7:3〜3:7であることが好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて樹脂特性を向上できるからである。
【0021】
また、ポリアミド11とABS樹脂との重量混合比は、5:5〜3:7であることがより好ましい。これにより、本実施形態の植物系樹脂含有組成物の荷重たわみ温度を80℃以上にすることができる。なお、荷重たわみ温度については後述する。
【0022】
上記ABS樹脂の溶融粘度は、10Pa・s以上5.0×104Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0×104Pa・s以上5.0×104Pa・s以下である。この範囲内であれば、成形時のバリやヒケをより効果的に防止できるからである。
【0023】
ここで、本明細書における溶融粘度は、溶融温度が230℃及び移動速度が10mm/minの条件で、JIS K7199で規定するプラスチックの流れ特性試験法により、東洋精機製作所製の粘度測定装置“キャピログラフ 1B”(商品名)を用いて測定したときの溶融粘度をいうものとする。
【0024】
また、上記ポリアミド11の溶融粘度は、1.0Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることが好ましい。この範囲のポリアミド11は、入手が容易だからである。さらに、上記ポリアミド11の溶融粘度は、5.0×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることがより好ましい。ポリアミド11の溶融粘度が高く、且つ上記ABS樹脂の溶融粘度に近いほど、ポリアミド11とABS樹脂との混合性が良好となり、また、ポリアミド11の溶融粘度が高いほど、成形時にバリやヒケが発生しにくくなるからである。
【0025】
上記ABS樹脂は、α−メチルスチレン変性ABS樹脂又はN−フェニルマレイミド変性ABS樹脂であることが好ましい。これらの変性ABS樹脂は耐熱性が高いため、荷重たわみ温度を高くすることができる。また、通常のABS樹脂の場合と比べて、より少ない量で実用上必要な荷重たわみ温度70℃を得ることができる。これにより、植物由来のポリアミド11の比率が向上し、より植物系特性の高い植物系樹脂含有組成物を提供できる。
【0026】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらにエポキシ基含有樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、オキサゾリン含有樹脂等の添加剤を含むことが好ましい。これらの添加剤を用いることにより、ポリアミド11とABS樹脂との混合性がさらに向上し、成形後の層状剥離の発生を抑制することができる。
【0027】
これらの添加剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、樹脂特性を向上できるからである。
【0028】
上記エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。
【0029】
また、上記オキサゾリン含有樹脂としては、例えば、アクリロニトリル・オキサゾリン・スチレン共重合体、スチレン・オキサゾリン共重合体等を使用できる。
【0030】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃剤を含むことが好ましい。これにより、難燃性が向上して延焼が抑制できる。この難燃剤としては、リン酸エステル、トリアジン化合物等の有機系難燃性が好ましい。リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等が使用できる。また、トリアジン化合物としては、例えば、メラミンシアヌレート、ポリリン酸メラミン、メラミン等が使用できる。
【0031】
上記難燃剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、難燃性を向上できるからである。
【0032】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0033】
次に、実施形態1について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1−1)
<樹脂組成物の作製>
アルケマ社製の高粘度ポリアミド11“リルサン”(商品名、溶融粘度:2.0×103Pa・s/230℃)70重量部と、旭化成社製のABS樹脂“スタイラック”(商品名、溶融粘度:3.0×103Pa・s/230℃)30重量部とを(混合重量比7:3)、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“ベルストルフZE40A”(商品名)を用いて混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0035】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度60℃、シリンダ温度230℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30秒で射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。なお、ASTM曲げ試験片は、アメリカ材料試験協会(American Society for Testing and Material)が制定している工業規格のD790に規定されている曲げ試験片である。
【0036】
(実施例1−2)
高粘度ポリアミド11とABS樹脂との混合重量比を5:5とした以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0037】
(実施例1−3)
高粘度ポリアミド11とABS樹脂との混合重量比を3:7とした以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0038】
(実施例1−4)
高粘度ポリアミド11“リルサン”70重量部に代えて、アルケマ社製の低粘度ポリアミド11“リルサン”(商品名、溶融粘度:8.0×102Pa・s/230℃)70重量部を用いた以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0039】
(実施例1−5)
実施例1−1の樹脂組成物100重量部に、さらにエポキシ基含有樹脂として東亜合成社製のエポキシアクリル樹脂“アルフォン”(商品名)を5重量部添加した以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0040】
(実施例1−6)
アルケマ社製の高粘度ポリアミド11“リルサン”70重量部と、UMGABS社製のN−フェニルマレイミド変性ABS樹脂“バルクサム”(商品名、溶融粘度:2.0×104Pa・s/230℃)30重量部とを混合し(混合重量比7:3)、これにさらにエポキシ基含有樹脂として東亜合成社製のエポキシアクリル樹脂“アルフォン”を5重量部添加した以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0041】
(実施例1−7)
エポキシアクリル樹脂“アルフォン”5重量部に代えて、荒川化学社製のスチレンマレイン酸樹脂“アラスター”(商品名)を5重量部用いた以外は、実施例1−6と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0042】
(実施例1−8)
エポキシアクリル樹脂“アルフォン”5重量部に代えて、オキサゾリン含有樹脂として日本触媒社製のオキサゾリンAS樹脂“エポクロス”(商品名)を5重量部用いた以外は、実施例1−6と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0043】
(実施例1−9)
アルケマ社製の高粘度ポリアミド11“リルサン”70重量部と、UMGABS社製のN−フェニルマレイミド変性ABS樹脂“バルクサム”30重量部とを混合し(混合重量比7:3)、これにさらにエポキシ基含有樹脂として東亜合成社製のエポキシアクリル樹脂“アルフォン”5重量部と、難燃剤として大八化学社製のトリフェニルホスフェート10重量とを添加した以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0044】
(比較例1−1)
旭化成社製のABS樹脂“スタイラック”のみを用いた以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0045】
(比較例1−2)
アルケマ社製の高粘度ポリアミド11“リルサン”のみを用いた以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0046】
(比較例1−3)
アルケマ社製の低粘度ポリアミド11“リルサン”のみを用いた以外は、実施例1−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0047】
以上の実施例1−1〜実施例1−9及び比較例1−1〜比較例1−3の樹脂組成物の組成を表1−1に示す。なお、表1−1において、ポリアミド11をPA11と、N−フェニルマレイミド変性ABS樹脂を耐熱ABS樹脂と、エポキシ基含有樹脂をエポキシと、スチレンマレイン酸樹脂をマレイン酸と、オキサゾリン含有樹脂をオキサゾリンと、それぞれ表記した。
【0048】
【表1−1】

【0049】
次に、上記実施例1−1〜実施例1−9及び比較例1−1〜比較例1−3の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0050】
<成形性の評価>
各試験片のバリ、ヒケの有無を観察して成形性を評価した。成形性の評価基準は以下のとおりとし、その結果を表1−2おいてはそれぞれ、微小、小、中、大と表示した。
(1)微小:バリ/ヒケの最大値が、0μm/0μm〜30μm/20μm
(2)小:バリ/ヒケの最大値が、31μm/21μm〜60μm/30μm
(3)中:バリ/ヒケの最大値が、61μm/31μm〜100μm/40μm
(4)大:バリ/ヒケの最大値が、101μm/41μm以上
【0051】
<表面状態の評価>
各試験片の表面を観察して表面状態を評価した。表面状態の評価基準は以下のとおりとし、その結果を表1−2おいてはそれぞれ、優、良、不良と表示した。
(1)優:表面に層状剥離なし
(2)良:表面の一部に層状剥離を観察
(3)不良:表面の大部分に層状剥離を観察
【0052】
【表1−2】

【0053】
<曲げ強さの測定>
各試験片を用いて曲げ強さを測定した。具体的には、インストロン社製の万能試験機“INSTORON5581”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外は日本工業規格(JIS) K 7203に準拠して、曲げ強さ試験を行った。その結果を曲げ弾性率として表1−3に示す。
【0054】
<アイゾット衝撃強度の測定>
各試験片を用いてアイゾット衝撃強度を測定した。具体的には、東洋精機製作所製のアイゾット衝撃試験機“B−121202403”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外はJIS K 7110に準拠して、アイゾット衝撃試験を行った。その結果を表1−3に示す。
【0055】
<荷重たわみ温度の測定>
各試験片を用いて荷重たわみ温度を測定した。具体的には、安田精機製作所製のヒートデストーションテスタ“148HD−PC”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外はJIS K 7207に準拠して、荷重たわみ温度試験を行った。その結果を表1−3に示す。
【0056】
<難燃性の評価>
各試験片を用いて燃焼試験を行った。具体的には、UL94垂直燃焼試験法に準拠した方法により、UL燃焼テストチャンバー(商品名:HVUL、東洋精機社製)で約2.0cmのバーナー炎を上記試験片に接触させて燃焼試験を行い、難燃性を評価した。その結果を燃焼時間(s)として表1−3に示した。
【0057】
<反りの測定>
前述の実施例1−1〜実施例1−9及び比較例1−1〜比較例1−3で作製したペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、新潟鉄工所製の射出成形機“NED100V”(商品名)を用いて、金型温度60℃、シリンダ温度230℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30秒で射出成形して、薄肉の板状試験片(150mm×100mm×1mm)を成形した。各板状試験片を70℃で10分加熱後、平面基板に載置して、平面基板と試験片との最大距離を測定し、その値を反り(mm)として表1−3に示す。
【0058】
【表1−3】

【0059】
表1−2及び表1−3から、高粘度ポリアミド11とABS樹脂のみを用いた実施例1−1〜実施例1−3では、ABS樹脂の割合が上昇するほど成形性が向上するとともに、荷重たわみ温度も上昇した。また、高粘度ポリアミド11とABS樹脂との重量混合比が5:5〜3:7である実施例1−2と実施例1−3では、荷重たわみ温度を80℃以上にすることができた。
【0060】
また、低粘度ポリアミド11を用いた実施例1−4では、成形性の向上は見られず、特にバリの抑制が困難であった。実施例1−1の組成にエポキシ基含有樹脂を添加した実施例1−5では、実施例1−1に比べて表面状態が急激に改善した。
【0061】
N−フェニルマレイミド変性ABS樹脂(耐熱ABS樹脂)を用いた実施例1−6〜実施例1−8では、成形性がさらに向上するとともに、機械特性も大幅に向上した。また、難燃剤を添加した実施例1−9では、十分な難燃性を確保できた。さらに、実施例1−1〜実施例1−9では、比較例1−2と比較例1−3に比べて、いずれも反りが半減した。
【0062】
(実施形態2)
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、ABS樹脂と、難燃剤とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、ポリアミド11と非晶性樹脂であるABS樹脂とを混合して用いることにより、成形性や機械強度特性を向上できる。さらに、難燃剤を添加することにより、難燃性が向上して延焼が抑制できる。
【0063】
ポリアミド11にABS樹脂を混合して用いることにより、成形時のバリやヒケを効果的に防止できる。これは、ABS樹脂の溶融粘度は、ポリアミド11の溶融粘度に比べて1〜2桁高い値であり、ポリアミド11にABS樹脂を混合することにより、ポリアミド11単独に比べて溶融粘度が高まり、成形時にバリやヒケが発生しにくくなると考えられる。
【0064】
上記ポリアミド11と上記ABS樹脂との重量混合比は、8:2〜2:8であることが好ましく、7:3〜3:7がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて樹脂特性を向上できるからである。
【0065】
さらに、ポリアミド11とABS樹脂との重量混合比が、8:2〜6:4であれば、成形性及び対環境性が向上する。また、ポリアミド11とABS樹脂との重量混合比が、5:5〜2:8であれば、荷重たわみ温度を80℃以上にすることができる。
【0066】
上記ABS樹脂の溶融粘度は、10Pa・s以上5.0×104Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0×104Pa・s以上5.0×104Pa・s以下である。この範囲内であれば、成形時のバリやヒケをより効果的に防止できるからである。
【0067】
また、上記ポリアミド11の溶融粘度は、0.1Pa・s以上2.0×104Pa・s以下であることが好ましい。この範囲のポリアミド11は、入手が容易だからである。さらに、上記ポリアミド11の溶融粘度は、5.0×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることがより好ましい。ポリアミド11の溶融粘度が高く、且つ上記ABS樹脂の溶融粘度に近いほど、ポリアミド11とABS樹脂との混合性が良好となり、また、ポリアミド11の溶融粘度が高いほど、成形時にバリやヒケが発生しにくくなるからである。
【0068】
上記ABS樹脂は、α−メチルスチレン変性ABS樹脂又はN−フェニルマレイミド変性ABS樹脂であることが好ましい。これらの変性ABS樹脂は耐熱性が高いため、荷重たわみ温度を高くすることができる。また、通常のABS樹脂の場合と比べて、より少ない量で実用上必要な荷重たわみ温度70℃を得ることができる。これにより、植物由来のポリアミド11の比率が向上し、より植物系特性の高い植物系樹脂含有組成物を提供できる。
【0069】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらにエポキシ基含有樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、オキサゾリン含有樹脂等の添加剤を含むことが好ましい。これらの添加剤を用いることにより、ポリアミド11とABS樹脂との混合性がさらに向上し、成形後の層状剥離の発生を抑制することができる。
【0070】
これらの添加剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、樹脂特性を向上できるからである。
【0071】
上記エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。
【0072】
また、上記オキサゾリン含有樹脂としては、例えば、アクリロニトリル・オキサゾリン・スチレン共重合体、スチレン・オキサゾリン共重合体等を使用できる。
【0073】
上記難燃剤としては、燐系難燃剤、トリアジン系難燃剤等の有機系難燃剤が好ましい。燐系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等のリン酸エステルが使用できる。また、トリアジン系難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、ポリリン酸メラミン、メラミン等のトリアジン化合物が使用できる。
【0074】
上記難燃剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、成形性や機械強度特性を保持しつつ、さらに難燃性を向上できるからである。
【0075】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃補助剤を含むことが好ましい。これにより、難燃性がさらに向上する。但し、難燃補助剤のみでは十分な難燃性の発揮は困難であるため、難燃剤と難燃補助剤とを併用する必要がある。
【0076】
上記難燃補助剤としては、モンモリロナイト、タルク等の微細な板状鉱物、又は低融点ガラス(融点が320〜380℃のガラス)、ホウ酸亜鉛、シリコーン、四フッ化エチレン(PTFE)等が好ましく、特にモンモリロナイトは、燃焼中の溶融物の落下(ドリップ)の防止に効果がある。また、低融点ガラスは、常温では強化材として機能して剛性を向上させる効果があり、燃焼時には溶融して樹脂表面を酸素から隔離する層を形成し、難燃性を向上させる効果があり、ドリップも抑制できる。
【0077】
上記難燃補助剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、3重量部以上40重量部以下が好ましく、5重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、成形性や機械強度特性を保持しつつ、さらに難燃性を向上できるからである。
【0078】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0079】
次に、実施形態2について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例2−1)
<樹脂組成物の作製>
アルケマ社製のポリアミド11“リルサン”(商品名、溶融粘度:1.5×103Pa・s/230℃)70重量部と、旭化成社製のABS樹脂“スタイラック”(商品名、溶融粘度:3.0×103Pa・s/230℃)30重量部とに(混合重量比7:3)、さらに難燃剤として大八化学社製のトリフェニルホスフェート5重量部を加えて、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”(商品名)を用いて混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0081】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度50℃、シリンダ温度230℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30sで射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0082】
(実施例2−2)
トリフェニルホスフェートに代えて、難燃剤として日産化学工業社製のメラミンシアヌレートを5重量部用いた以外は、実施例2−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0083】
(実施例2−3)
トリフェニルホスフェートの添加量を15重量部とし、さらに難燃補助剤としてズートケミー触媒社製のモンモリロナイト“ナノフィル”(商品名)を5重量部加えた以外は、実施例2−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0084】
(実施例2−4)
メラミンシアヌレートの添加量を10重量部とし、さらに難燃補助剤としてモンモリロナイト“ナノフィル”を5重量部加えた以外は、実施例2−2と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0085】
(実施例2−5)
アルケマ社製のポリアミド11“リルサン”を60重量部、UMG ABS社製のABS樹脂“TM−21”(商品名、溶融粘度:2×103Pa・s/230℃)を40重量部(混合重量比6:4)、難燃剤として味の素ファインテクノ社製のトリキシレニルホスフェート“クロニテックスTXP”を10重量部用いた以外は、実施例2−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0086】
(実施例2−6)
難燃補助剤として旭ファイバーグラス社製の低融点ガラス(融点約360℃)を5重量部加えた以外は、実施例2−5と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0087】
(比較例2−1)
トリフェニルホスフェートを添加しなかった以外は、実施例2−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0088】
(比較例2−2)
難燃補助剤としてモンモリロナイト“ナノフィル”を2重量部加えた以外は、比較例2−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0089】
(比較例2−3)
ABS樹脂“スタイラック”のみを用いた以外は、比較例2−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0090】
(比較例2−4)
ポリアミド11“リルサン”のみを用いた以外は、比較例2−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0091】
以上の実施例2−1〜実施例2−4及び比較例2−1〜比較例2−4の樹脂組成物の組成を表2−1に示す。なお、表2−1において、ポリアミド11をPA11と、トリフェニルホスフェートをTPPと、トリキシレニルホスフェートをTXPと、メラミンシアヌレートをMCと、それぞれ表記した。
【0092】
【表2−1】

【0093】
次に、上記実施例2−1〜実施例2−4及び比較例2−1〜比較例2−4の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0094】
先ず、実施形態1と同様にして成形性及び表面状態の評価を行った。その結果を表2−2に示す。
【0095】
【表2−2】

【0096】
次に、実施形態1と同様にして曲げ強さ(曲げ弾性率)、アイゾット衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定を行った。その結果を表2−3に示す。
【0097】
【表2−3】

【0098】
<難燃性の評価>
上記試験片を用いて水平燃焼試験を行って、難燃性を評価した。具体的には、図2に示すように、試験片1を試験台2に水平に固定し、バーナー3のバーナー炎を試験片1に接触させ、着火から自己消火するまでの燃焼時間と、自己消化後の非燃焼部の長さとを測定し、また燃焼中に試験片1の溶融物が落下するドリップの有無を観察した。試験片1の厚さTは3.2mm、長さLは127mm、つかみ幅Wは20mm、接炎幅Fは10mm、接炎時間は30sである。本水平燃焼試験では、60s経過しても自己消火しない場合には、自己消火性なしと判断し、その時点で強制消火した。その結果を表2−4に示す。
【0099】
【表2−4】

【0100】
表2−2及び表2−3から、実施例2−1〜実施例2−4では、ABS樹脂のみを用いた比較例2−3及びポリアミド11のみを用いた比較例2−4と比べて、成形性と機械強度特性が向上したことが分かる。また、表2−4から、実施例2−1〜実施例2−4では、難燃剤を用いなかった比較例2−1〜比較例2−3に比べて、燃焼時間が短く、自己消火性を有することが分かる。さらに、モンモリロナイトを添加した実施例2−3、2−4及び比較例2−2では、ドリップは認められなかった。
【0101】
(実施形態3)
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、ABS樹脂と、粘度調整剤とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、ポリアミド11と非晶性樹脂であるABS樹脂とを混合して用いることにより、成形性や機械強度特性を向上できる。さらに、粘度調整剤を添加することにより、ポリアミド11とABS樹脂との混合性が向上して、成形性や機械強度特性がより向上する。
【0102】
ポリアミド11にABS樹脂を混合して用いることにより、成形時のバリやヒケを効果的に防止できる。これは、ABS樹脂の溶融粘度は、ポリアミド11の溶融粘度に比べて1〜2桁高い値であり、ポリアミド11にABS樹脂を混合することにより、ポリアミド11単独に比べて溶融粘度が高まり、成形時にバリやヒケが発生しにくくなると考えられるからである。
【0103】
上記ポリアミド11と上記ABS樹脂との重量混合比は、8:2〜2:8であることが好ましく、7:3〜3:7がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて樹脂特性を向上できるからである。
【0104】
さらに、ポリアミド11とABS樹脂との重量混合比が、8:2〜6:4であれば、成形性及び対環境性が向上する。また、ポリアミド11とABS樹脂との重量混合比が、5:5〜2:8であれば、荷重たわみ温度を80℃以上にすることができる。
【0105】
上記ABS樹脂の溶融粘度は、10Pa・s以上5.0×104Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0×104Pa・s以上5.0×104Pa・s以下である。この範囲内であれば、成形時のバリやヒケをより効果的に防止できるからである。
【0106】
また、上記ポリアミド11の溶融粘度は、0.1Pa・s以上2.0×104Pa・s以下であることが好ましい。この範囲のポリアミド11は、入手が容易だからである。さらに、上記ポリアミド11の溶融粘度は、5.0×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることがより好ましい。ポリアミド11の溶融粘度が高く、且つ上記ABS樹脂の溶融粘度に近いほど、ポリアミド11とABS樹脂との混合性が良好となり、また、ポリアミド11の溶融粘度が高いほど、成形時にバリやヒケが発生しにくくなるからである。
【0107】
上記ABS樹脂は、α−メチルスチレン変性ABS樹脂又はN−フェニルマレイミド変性ABS樹脂であることが好ましい。これらの変性ABS樹脂は耐熱性が高いため、荷重たわみ温度を高くすることができる。また、通常のABS樹脂の場合と比べて、より少ない量で実用上必要な荷重たわみ温度70℃を得ることができる。これにより、植物由来のポリアミド11の比率が向上し、より植物系特性の高い植物系樹脂含有組成物を提供できる。
【0108】
上記粘度調整剤としては、ポリオレフィンを主鎖とするグラフト樹脂を使用できる。また、上記グラフト樹脂の主鎖となるポリオレフィンとしては、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(EGMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体(EEA/MAH)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)及びプロピレン−無水マレイン酸共重合体(PP/MAH)等が使用できる。さらに、上記グラフト樹脂の側鎖となる樹脂としては、アクリル樹脂、AS樹脂、ポリスチレン等のABS樹脂との混合性が高い樹脂が好ましい。
【0109】
上記粘度調整剤の含有量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して1重量部以上40重量部以下であることが好ましく、5重量部以上10重量部以下がより好ましい。1重量部未満では添加の効果がなく、40重量部を超えると剛性が低下しやすくなるからである。
【0110】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらにエポキシ基含有樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、オキサゾリン含有樹脂等の添加剤を含むことが好ましい。これらの添加剤を用いることにより、ポリアミド11とABS樹脂との混合性がさらに向上し、成形後の層状剥離の発生を抑制することができる。
【0111】
これらの添加剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、樹脂特性を向上できるからである。
【0112】
上記エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。また、上記オキサゾリン含有樹脂としては、例えば、アクリロニトリル・オキサゾリン・スチレン共重合体、スチレン・オキサゾリン共重合体等を使用できる。
【0113】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃剤を含むことが好ましい。これにより、難燃性が向上して延焼が抑制できる。この難燃剤としては、燐系難燃剤、トリアジン系難燃剤等の有機系難燃剤が好ましい。燐系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等のリン酸エステルが使用できる。また、トリアジン系難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、ポリリン酸メラミン、メラミン等のトリアジン化合物が使用できる。
【0114】
上記難燃剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、成形性や機械強度特性を保持しつつ、さらに難燃性を向上できるからである。
【0115】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0116】
次に、実施形態3について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
(実施例3−1)
<樹脂組成物の作製>
アルケマ社製の高粘度ポリアミド11“リルサン(BESN)”(商品名、溶融粘度:1.5×103Pa・s/230℃)70重量部と、旭化成社製のABS樹脂“スタイラック”(商品名、溶融粘度:3.0×103Pa・s/230℃)30重量部とに(混合重量比7:3)、さらに粘度調整剤として日本油脂社製のグラフト樹脂“モディパーA4200”〔商品名、主鎖:エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(EGMA)、側鎖:ポリメチルメタクリレート(PMMA)〕5重量部を加えて、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”(商品名)を用いて混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0118】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度50℃、シリンダ温度230℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30sで射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0119】
(実施例3−2)
グラフト樹脂“モディパーA4200”に代えて、日本油脂社製のグラフト樹脂“モディパーA8400”〔商品名、主鎖:エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体(EEA/MAH)、側鎖:AS樹脂(AS)〕を5重量部用いた以外は、実施例3−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0120】
(実施例3−3)
グラフト樹脂“モディパーA4200”に代えて、白石カルシウム社製の無水マレイン酸変性ポリプロピレン“ポリボンド3002”〔商品名、主鎖:ポリプロピレン(PP)、側鎖:無水マレイン酸(MAH)〕を5重量部用いた以外は、実施例3−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0121】
(比較例3−1)
グラフト樹脂“モディパーA4200”を添加しなかった以外は、実施例3−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0122】
(比較例3−2)
高粘度ポリアミド11“リルサン(BESN)”30重量部と、ABS樹脂“スタイラック”70重量部とを用いた以外は、比較例3−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0123】
(比較例3−3)
高粘度ポリアミド11“リルサン(BESN)”に代えて、低粘度ポリアミド11“リルサン(BMN)”(商品名、溶融粘度:0.8×103Pa・s/230℃)を70重量部用いた以外は、比較例3−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0124】
(比較例3−4)
ABS樹脂“スタイラック”のみを用いた以外は、比較例3−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0125】
(比較例3−5)
高粘度ポリアミド11“リルサン(BESN)”のみを用いた以外は、比較例3−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0126】
(比較例3−6)
低粘度ポリアミド11“リルサン(BMN)”のみを用いた以外は、比較例3−3と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0127】
以上の実施例3−1〜実施例3−3及び比較例3−1〜比較例3−6の樹脂組成物の組成を表3−1に示す。なお、表3−1において、高粘度ポリアミド11をPA11Hと、低粘度ポリアミド11をPA11Lと、それぞれ表記した。また、表3−1で主鎖及び側鎖とは、粘度調整剤に用いたグラフト樹脂の主鎖及び側鎖を意味する。
【0128】
【表3−1】

【0129】
次に、上記実施例3−1〜実施例3−3及び比較例3−1〜比較例3−6の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0130】
先ず、実施形態1と同様にして成形性及び表面状態の評価を行った。その結果を表3−2に示す。
【0131】
【表3−2】

【0132】
次に、実施形態1と同様にして曲げ強さ(曲げ弾性率)、アイゾット衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定を行った。その結果を表3−3に示す。
【0133】
【表3−3】

【0134】
表3−2及び表3−3から、単にポリアミド11とABS樹脂の二種の樹脂を混合した比較例3−1〜比較例3−3では、ポリアミド11の含有量が多いほど表面状態が劣悪で、ヒケやバリが増加することが分かる。特に、低粘度のポリアミド11を用いた比較例3−3では、バリを抑制できない。一方、高粘度のポリアミド11を用いた場合では、ポリアミド11の含有量が多い比較例3−1の場合でも成形性や機械強度特性のバランスがとれている。この比較例3−1の樹脂組成物に粘度調整剤としてグラフト樹脂を添加した実施例3−1〜実施例3−3では、ヒケやバリが抑制されるとともに、層状剥離が減少し、表面状態が劇的に向上した。また、機械強度特性については、実施例3−1及び実施例3−2では、剛性の低下が小さく、耐衝撃性も大幅に向上した。しかし、側鎖にスチレンやアクリルを含まないグラフト樹脂を用いた実施例3−3では、成形性の改善効果が低く、剛性の低下も大きい。
【0135】
(実施形態4)
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、ABS樹脂と、ポリカーボネートとを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、ポリアミド11と非晶性樹脂であるABS樹脂とを混合して用いることにより、成形性や機械強度特性を向上できる。さらに、非晶性樹脂であるポリカーボネートを添加することにより、熱間強度(高温時の強度)が向上する。
【0136】
ポリアミド11にABS樹脂を混合して用いることにより、成形時のバリやヒケを効果的に防止できる。これは、ABS樹脂の溶融粘度は、ポリアミド11の溶融粘度に比べて1〜2桁高い値であり、ポリアミド11にABS樹脂を混合することにより、ポリアミド11単独に比べて溶融粘度が高まり、成形時にバリやヒケが発生しにくくなると考えられるからである。
【0137】
さらに、ポリアミド11及びABS樹脂にポリカーボネートを加えると熱間強度が向上する。これは、より熱間強度が高いポリカーボネートが母材中に分散し、補強材としての役割を果たすと考えられるからである。
【0138】
上記各成分の含有量としては、ポリアミド11を40重量%以上80重量%以下、ABS樹脂を10重量%以上40重量%以下、及びポリカーボネートを5重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて樹脂特性を向上できるからである。
【0139】
上記ABS樹脂の溶融粘度は、10Pa・s以上5.0×104Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0×104Pa・s以上5.0×104Pa・s以下である。この範囲内であれば、成形時のバリやヒケをより効果的に防止できるからである。
【0140】
また、上記ポリカーボネートの溶融粘度は、10Pa・s以上5.0×104Pa・s以下であることが好ましい。この範囲内であれば、他の成分との混合性が良好となるからである。
【0141】
また、上記ポリアミド11の溶融粘度は、0.1Pa・s以上2.0×104Pa・s以下であることが好ましい。この範囲のポリアミド11は、入手が容易だからである。さらに、上記ポリアミド11の溶融粘度は、5.0×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることがより好ましい。ポリアミド11の溶融粘度が高く、且つ上記ABS樹脂と上記ポリカーボネートの溶融粘度に近いほど、ポリアミド11、ABS樹脂及びポリカーボネートの混合性が良好となり、また、ポリアミド11の溶融粘度が高いほど、成形時にバリやヒケが発生しにくくなるからである。
【0142】
上記ABS樹脂は、α−メチルスチレン変性ABS樹脂又はN−フェニルマレイミド変性ABS樹脂であることが好ましい。これらの変性ABS樹脂は耐熱性が高いため、荷重たわみ温度を高くすることができる。また、通常のABS樹脂の場合と比べて、より少ない量で実用上必要な荷重たわみ温度70℃を得ることができる。これにより、熱間強度を維持しつつ植物由来のポリアミド11の比率を高めることができ、より植物系特性の高い植物系樹脂含有組成物を提供できる。
【0143】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに板状鉱物を含むことが好ましい。これにより熱間強度をさらに向上させることができる。この板状鉱物としては、モンモリロナイト、タルク等の微細な粉状の板状鉱物が好ましい。
【0144】
上記板状鉱物の添加量は、ポリアミド11、ABS樹脂及びポリカーボネートの合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上25重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、成形性や機械強度特性を保持しつつ、さらに熱間強度を向上できるからである。
【0145】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃剤を含むことが好ましい。これにより、難燃性が向上して延焼が抑制できる。この難燃剤としては、燐系難燃剤、トリアジン系難燃剤等の有機系難燃剤が好ましい。燐系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等のリン酸エステルが使用できる。また、トリアジン系難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、ポリリン酸メラミン、メラミン等のトリアジン化合物が使用できる。
【0146】
上記難燃剤の添加量は、ポリアミド11、ABS樹脂及びポリカーボネートの合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、成形性や機械強度特性を保持しつつ、さらに難燃性を向上できるからである。
【0147】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらにエポキシ基含有樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、オキサゾリン含有樹脂等の添加剤を含むことが好ましい。これらの添加剤を用いることにより、ポリアミド11とABS樹脂とポリカーボネートとの混合性がさらに向上し、成形後の層状剥離の発生を抑制することができる。
【0148】
これらの添加剤の添加量は、ポリアミド11、ABS樹脂及びポリカーボネートの合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、樹脂特性を向上できるからである。
【0149】
上記エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。また、上記オキサゾリン含有樹脂としては、例えば、アクリロニトリル・オキサゾリン・スチレン共重合体、スチレン・オキサゾリン共重合体等を使用できる。
【0150】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0151】
次に、実施形態4について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0152】
(実施例4−1)
<樹脂組成物の作製>
アルケマ社製のポリアミド11“リルサン”(商品名、溶融粘度:1.5×103Pa・s/230℃)70重量部と、旭化成社製のABS樹脂“スタイラック”(商品名、溶融粘度:3.0×103Pa・s/230℃)20重量部と、三菱エンジニアリングプラスチック社製のポリカーボネート“ユーピロン”(商品名)10重量部とを、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”(商品名)を用いて混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0153】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度50℃、シリンダ温度230℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30sで射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0154】
(実施例4−2)
実施例4−1の樹脂組成物に、さらに板状鉱物としてタルク20重量部を添加した以外は、実施例1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0155】
(比較例4−1)
ポリカーボネート“ユーピロン”を添加せず、ポリアミド11“リルサン”を70重量部及びABS樹脂“スタイラック”を30重量部用いた以外は、実施例4−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0156】
(比較例4−2)
ポリアミド11“リルサン”のみを用いた以外は、実施例4−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0157】
(比較例4−3)
ABS樹脂“スタイラック”のみを用いた以外は、実施例4−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0158】
(比較例4−4)
ポリカーボネート“ユーピロン”のみを用いた以外は、実施例4−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0159】
以上の実施例4−1、4−2及び比較例4−1〜比較例4−4の樹脂組成物の組成を表4−1に示す。なお、表4−1において、ポリアミド11をPA11と、ポリカーボネートをPCと、それぞれ表記した。
【0160】
【表4−1】

【0161】
次に、上記実施例4−1、4−2及び比較例4−1〜比較例4−4の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0162】
先ず、実施形態1と同様にして成形性及び表面状態の評価を行った。その結果を表4−2に示す。
【0163】
【表4−2】

【0164】
次に、実施形態1と同様にして曲げ強さ(曲げ弾性率)、アイゾット衝撃強度、荷重たわみ温度及び反りの測定を行った。その結果を表4−3に示す。
【0165】
【表4−3】

【0166】
表4−2及び表4−3から、ポリアミド11のみを用いた比較例4−2では耐衝撃性(アイゾット衝撃強度)は高いが、剛性(曲げ弾性率)及び熱間強度(荷重たわみ温度)は低いことが分かる。このポリアミド11にABS樹脂を添加した比較例4−1では、剛性及び熱間強度が向上した。このポリアミド11とABS樹脂の組成物に、さらにポリカーボネートを添加した実施例4−1、それにさらにタルクを添加した実施例4−2では、剛性及び熱間強度がさらに向上した。また、実施例4−1及び実施例4−2では、比較例4−2と比べて反りが半減した。
【0167】
(実施形態5)
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、ABS樹脂と、層状珪酸塩とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、ポリアミド11と、非晶性樹脂であるABS樹脂と、層状珪酸塩とを混合して用いることにより、ポリアミド11含有樹脂組成物の成形性や機械強度特性を向上できる。
【0168】
また、本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、層状珪酸塩がポリアミド11中に分散していることを特徴とする。これにより、ポリアミド11と層状珪酸塩との混合性が向上し、層状珪酸塩の添加による上記樹脂特性の向上の効果がより発揮されやすくなる。
【0169】
上記層状珪酸塩としては、珪酸マグネシウム又は珪酸アルミニウムの層から構成される層状フィロ珪酸鉱物を例示することができる。具体的には、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、スティブンサイト等のスメクタイト系粘土鉱物、及びバーミキュライト系粘土鉱物、ハロイサイト系粘土鉱物等を用いることができ、これらの層状珪酸塩は、天然のものであっても、合成されたものであってもよい。これらのなかでも特にモンモリロナイトが好ましい。モンモリロナイトは、ポリアミド11に対する補強効果が特に大きいからである。
【0170】
上記層状珪酸塩をポリアミド11中に均一に分散させる方法については特に制限はないが、例えば、層状珪酸塩と膨潤化剤とを予め接触させて層状珪酸塩の層間を拡げて層間にモノマーを取り込みやすくした後、ポリアミドモノマーと層状珪酸塩とを混合して重合する方法(特開昭62−74957号公報参照)によってもよい。また、層状珪酸塩とポリアミド11とを混練機により溶融混練してもよい。
【0171】
上記層状珪酸塩の含有量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して0.1重量部以上10重量部以下が好ましく、3重量部以上5重量部以下がより好ましい。層状珪酸塩の含有量が0.1重量部未満では、層状珪酸塩によるポリアミド11に対する補強効果が小さく、剛性や耐熱性に優れたポリアミド樹脂組成物が得られない。一方、この含有量が10重量部を超えると、ポリアミド樹脂組成物の伸度特性が低下し、剛性や耐熱性等のバランスのとれた成形品が得られない。特に、上記含有量が3重量部以上5重量部以下では、ポリアミド樹脂組成物の荷重たわみ温度を80℃以上にすることができる。
【0172】
ポリアミド11にABS樹脂を混合して用いることにより、成形時のバリやヒケを効果的に防止できる。これは、ABS樹脂の溶融粘度は、ポリアミド11の溶融粘度に比べて1〜2桁高い値であり、ポリアミド11にABS樹脂を混合することにより、ポリアミド11単独に比べて溶融粘度が高まり、成形時にバリやヒケが発生しにくくなると考えられる。
【0173】
上記ポリアミド11と上記ABS樹脂との重量混合比は、7:3〜3:7であることが好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて樹脂特性を向上できるからである。また、ポリアミド11とABS樹脂との重量混合比は、5:5〜3:7であることがより好ましい。これにより、本実施形態の植物系樹脂含有組成物の荷重たわみ温度を80℃以上にすることができる。
【0174】
上記ABS樹脂の溶融粘度は、10Pa・s以上5.0×104Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0×104Pa・s以上5.0×104Pa・s以下である。この範囲内であれば、成形時のバリやヒケをより効果的に防止できるからである。
【0175】
また、上記ポリアミド11の溶融粘度は、1.0Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることが好ましい。この範囲のポリアミド11は、入手が容易だからである。さらに、上記ポリアミド11の溶融粘度は、5.0×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることがより好ましい。ポリアミド11の溶融粘度が高く、且つ上記ABS樹脂の溶融粘度に近いほど、ポリアミド11とABS樹脂との混合性が良好となり、また、ポリアミド11の溶融粘度が高いほど、成形時にバリやヒケが発生しにくくなるからである。
【0176】
上記ABS樹脂は、α−メチルスチレン変性ABS樹脂又はN−フェニルマレイミド変性ABS樹脂であることが好ましい。これらの変性ABS樹脂は耐熱性が高いため、荷重たわみ温度を高くすることができる。また、通常のABS樹脂の場合と比べて、より少ない量で実用上必要な荷重たわみ温度70℃を得ることができる。これにより、植物由来のポリアミド11の比率が向上し、より植物系特性の高い植物系樹脂含有組成物を提供できる。
【0177】
図3に本実施形態の植物系樹脂含有組成物に含まれる各成分の分散構造の模式図を示す。本実施形態の植物系樹脂含有組成物では、層状珪酸塩12とABS樹脂13とは、ポリアミド11樹脂11中に分散している。その結果、層状珪酸塩12及びABS樹脂13は、ポリアミド11樹脂11によって被覆されることになる。この分散構造により、層状珪酸塩12の層内部にもポリアミド11の一部が侵入するとともに、ABS樹脂とポリアミド11との接合面積も増加し、ポリアミド11樹脂11、層状珪酸塩12及びABS樹脂13がそれぞれ強固に結合することにより、ポリアミド樹脂組成物の剛性や耐熱性が向上すると考えられる。
【0178】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらにエポキシ基含有樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、オキサゾリン含有樹脂等の添加剤を含むことが好ましい。これらの添加剤を用いることにより、ポリアミド11とABS樹脂との混合性がさらに向上し、成形後の層状剥離の発生を抑制することができる。
【0179】
これらの添加剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、樹脂特性を向上できるからである。
【0180】
上記エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。また、上記オキサゾリン含有樹脂としては、例えば、アクリロニトリル・オキサゾリン・スチレン共重合体、スチレン・オキサゾリン共重合体等を使用できる。
【0181】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃剤を含むことが好ましい。これにより、難燃性が向上して延焼が抑制できる。この難燃剤としては、リン酸エステル、トリアジン化合物等の有機系難燃剤が好ましい。リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等が使用できる。また、トリアジン化合物としては、例えば、メラミンシアヌレート、ポリリン酸メラミン、メラミン等が使用できる。
【0182】
上記難燃剤の添加量は、ポリアミド11とABS樹脂との合計重量100重量部に対して、5重量部以上40重量部以下が好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、さらに難燃性を向上できるからである。
【0183】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0184】
次に、実施形態5について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0185】
(実施例5−1)
<樹脂組成物の作製>
先ず、アルケマ社製の高粘度ポリアミド11“リルサン”(商品名、溶融粘度:2.0×103Pa・s/230℃)70重量部と、旭化成社製のABS樹脂“スタイラック”(商品名、溶融粘度:3.0×103Pa・s/230℃)30重量部と、層状珪酸塩として山形県産の天然モンモリロナイト(層間Na型)を水ひ処理により精製したクニミネ工業社製の高純度モンモリロナイト“クニピア−F”(商品名)3重量部とを準備した。
【0186】
次に、上記ポリアミド11“リルサン”70重量部と上記モンモリロナイト“クニピア−F”6重量部とを、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“ベルストルフZE40A”(商品名)を用いて溶融混合し、層状珪酸塩がポリアミド11で被覆され、層状珪酸塩の層内にポリアミド11を挿入したポリアミド樹脂混合物を作製した。溶融混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状のポリアミド樹脂組成物を作製した。
【0187】
続いて、上記ポリアミド樹脂組成物に、上記ABS樹脂“スタイラック”30重量部を加えて(ポリアミド11とABS樹脂との重量混合比7:3)、上記押出機“ベルストルフZE40A”を用いて溶融混練した。溶融混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0188】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度60℃、シリンダ温度230℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30sで射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0189】
(実施例5−2)
高純度モンモリロナイト“クニピア−F”の添加量を3重量部とした以外は、実施例5−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0190】
(比較例5−1)
高純度モンモリロナイト“クニピア−F”を全く添加しなかった以外は、実施例5−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0191】
(比較例5−2)
ABS樹脂“スタイラック”のみを用いた以外は、実施例5−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0192】
以上の実施例5−1、5−2及び比較例5−1、5−2の樹脂組成物の組成を表5−1に示す。なお、表5−1において、ポリアミド11をPA11と表記した。
【0193】
【表5−1】

【0194】
次に、上記実施例5−1、5−2及び比較例5−1、5−2の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0195】
先ず、実施形態1と同様にして成形性及び表面状態の評価を行った。その結果を表5−2に示す。
【0196】
【表5−2】

【0197】
次に、実施形態1と同様にして曲げ強さ(曲げ弾性率)、アイゾット衝撃強度及び荷重たわみ温度の測定を行った。その結果を表5−3に示す。
【0198】
【表5−3】

【0199】
表5−2及び表5−3から、実施例5−1、5−2では、ポリアミド11とABS樹脂のみを用いた比較例5−1、及びABS樹脂のみを用いた比較例5−2と比べて、成形性と機械強度特性が向上したことが分かる。
【0200】
(実施形態6)
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、変性ポリフェニレンエーテルと、添加剤とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、ポリアミド11と非晶性樹脂である変性ポリフェニレンエーテルとを混合して用いることにより、成形性を向上できる。さらに、添加剤を添加することにより、各種の樹脂特性を向上できる。
【0201】
ポリアミド11に変性ポリフェニレンエーテルを混合して用いることにより、成形時のバリやヒケを効果的に防止できる。これは、変性ポリフェニレンエーテルの溶融粘度は、ポリアミド11の溶融粘度に比べて1〜2桁高い値であり、ポリアミド11に変性ポリフェニレンエーテルを混合することにより、ポリアミド11単独に比べて溶融粘度が高まり、成形時にバリやヒケが発生しにくくなると考えられる。
【0202】
上記ポリアミド11と上記変性ポリフェニレンエーテルとの重量混合比は、8:2〜5:5であることが好ましく、7:3〜6:4がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて樹脂特性を向上できるからである。
【0203】
上記変性ポリフェニレンエーテルの溶融粘度は、10Pa・s以上5.0×104Pa・s以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0×104Pa・s以上5.0×104Pa・s以下である。この範囲内であれば、成形時のバリやヒケをより効果的に防止できるからである。
【0204】
また、上記ポリアミド11の溶融粘度は、1.0Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることが好ましい。この範囲のポリアミド11は、入手が容易だからである。さらに、上記ポリアミド11の溶融粘度は、5.0×102Pa・s以上5.0×103Pa・s以下であることがより好ましい。ポリアミド11の溶融粘度が高く、且つ上記変性ポリフェニレンエーテルの溶融粘度に近いほど、ポリアミド11と変性ポリフェニレンエーテルとの混合性が良好となり、また、ポリアミド11の溶融粘度が高いほど、成形時にバリやヒケが発生しにくくなるからである。
【0205】
上記変性ポリフェニレンエーテルは、スチレン変性ポリフェニレンエーテルであることが好ましい。スチレン変性ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテルとポリスチレンとのポリマーアロイであり、ポリアミド11との相溶性が高いからである。スチレン変性ポリフェニレンエーテルにおけるポリフェニレンエーテルとポリスチレンとの重量混合比は特に限定されないが、7:3〜8:2とすればよい。
【0206】
上記添加剤は、充填材、粘度調整剤及び難燃剤からなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。充填材を添加することにより、機械強度特性が向上し、粘度調整剤を添加することにより、ポリアミド11と変性ポリフェニレンエーテルとの相溶性が向上して、成形性や機械強度特性がより向上し、難燃剤を添加することにより、難燃性が向上して延焼が抑制できる。
【0207】
上記添加剤としては、ポリフェニレンサルファイド及び芳香族ポリアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種類の樹脂を使用することもできる。ポリフェニレンサルファイド及び芳香族ポリアミドは、結晶化金型温度が100℃以上の熱可塑性樹脂であり、これらの少なくとも1種類を添加することにより、耐熱性が向上する。また、ポリフェニレンサルファイド及び芳香族ポリアミドの膨張係数は約5×105cm/cm/℃であり、ポリアミド11の膨張係数約1×106cm/cm/℃に比べて非常に低いため、射出成形時のヒケや反り等を抑制できる。ポリフェニレンサルファイド及び/又は芳香族ポリアミドと、上記充填材、粘度調整剤及び難燃剤とを併用することもできる。
【0208】
上記添加剤の含有量は、ポリアミド11と変性ポリフェニレンエーテルとの合計重量100重量部に対して5重量部以上40重量部以下であることが好ましく、10重量部以上20重量部以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、各種の樹脂特性を向上できるからである。
【0209】
上記充填材は、板状鉱物であることが好ましい。板状鉱物の添加により、機械強度特性がより向上する。板状鉱物としては、タルク、モンモリロナイト及びマイカからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0210】
上記粘度調整剤は、N−フェニルマレイミド変性スチレン樹脂、オキサゾリン混合スチレン樹脂及びエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの添加により、ポリアミド11と変性ポリフェニレンエーテルとの相溶性が向上して、成形性や機械強度特性がより向上する。
【0211】
上記難燃剤は、燐系難燃剤及びトリアジン系難燃剤からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの添加により、難燃性がより向上する。燐系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等のリン酸エステル及び赤燐等が使用できる。また、トリアジン系難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、ポリリン酸メラミン、メラミン等が使用できる。
【0212】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに他の添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を添加することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0213】
次に、実施形態6について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0214】
(実施例6−1)
<樹脂組成物の作製>
アルケマ社製のポリアミド11“リルサン”(商品名)70重量部と、旭化成社製の変性ポリフェニレンエーテル“ザイロン”(商品名)30重量部とに(混合重量比7:3)、粘度調整剤として日本触媒社製のN−フェニルマレイミド変性スチレン樹脂“イミレックス”(商品名)10重量部を加えて、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“ベルストルフZE40A”(商品名)を用いて混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0215】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度60℃、シリンダ温度250℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30秒で射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0216】
(実施例6−2)
樹脂組成物の材料に、充填材として日本タルク社製のタルク“MS”(商品名)20重量部をさらに加えた以外は、実施例6−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0217】
(実施例6−3)
樹脂組成物の材料に、充填材としてタルク“MS”10重量部と、燐系難燃剤として大八化学社製のトリフェニルホスフェート10重量部とをさらに加えた以外は、実施例6−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0218】
(実施例6−4)
樹脂組成物の材料に、充填材としてタルク“MS”10重量部と、燐系難燃剤として燐化学工業社製の赤燐“ノーバペレット”(商品名)10重量部とをさらに加えた以外は、実施例6−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0219】
(実施例6−5)
樹脂組成物の材料に、充填材としてタルク“MS”10重量部と、トリアジン系難燃剤として日産化学工業社製のメラミンシアヌレート10重量部とをさらに加えた以外は、実施例6−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0220】
(実施例6−6)
N−フェニルマレイミド変性スチレン樹脂“イミレックス”に代えて、三菱エンジニアリングプラスチックス社製のポリフェニレンサルファイド“ノバップス”(商品名)を10重量部用いた以外は、実施例6−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0221】
(実施例6−7)
樹脂組成物の材料に、充填材としてタルク“MS”10重量部と、燐系難燃剤として大八化学社製のトリフェニルホスフェート10重量部とをさらに加えた以外は、実施例6−6と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0222】
(実施例6−8)
樹脂組成物の材料に、充填材としてタルク“MS”10重量部と、燐系難燃剤として赤燐“ノーバペレット”10重量部とをさらに加えた以外は、実施例6−6と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0223】
(実施例6−9)
樹脂組成物の材料に、充填材としてタルク“MS”10重量部と、トリアジン系難燃剤として日産化学工業社製のメラミンシアヌレート10重量部とをさらに加えた以外は、実施例6−6と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0224】
(比較例6−1)
樹脂組成物の材料として、変性ポリフェニレンエーテル“ザイロン”のみを用いた以外は、実施例6−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0225】
(比較例6−2)
樹脂組成物の材料として、ポリアミド11“リルサン”のみを用いた以外は、実施例6−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0226】
(比較例6−3)
樹脂組成物の材料として、ポリアミド11“リルサン”70重量部及び変性ポリフェニレンエーテル“ザイロン”30重量部のみを用いた以外は、実施例6−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0227】
以上の実施例6−1〜実施例6−5及び比較例6−1〜比較例6−3の樹脂組成物の組成を表6−1に示す。なお、表6−1において、ポリアミド11をPA11と、変性ポリフェニレンエーテルを変性PPEと、N−フェニルマレイミド変性スチレン樹脂をN−PMIと、トリフェニルホスフェートをTPPと、メラミンシアヌレートをMCと、それぞれ表記した。
【0228】
【表6−1】

【0229】
次に、上記実施例6−1〜実施例6−5及び比較例6−1〜比較例6−3の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0230】
先ず、実施形態1と同様にして成形性及び表面状態の評価を行った。その結果を表6−2に示す。
【0231】
【表6−2】

【0232】
次に、実施形態1と同様にして曲げ強さ(曲げ弾性率)、アイゾット衝撃強度、荷重たわみ温度の測定及び難燃性の評価を行った。その結果を表6−3に示す。
【0233】
【表6−3】

【0234】
ポリアミド11と変性ポリフェニレンエーテルとを単に混合しただけの比較例6−3では表面状態が不良となったが、比較例6−1に粘度調整剤(N−フェニルマレイミド変性スチレン樹脂)を添加した実施例6−1では表面状態が劇的に改善した。また、実施例6−1に充填材(タルク)をさらに添加した実施例6−2では曲げ弾性率(剛性)が大幅に向上した。さらに、難燃剤を添加した実施例6−3〜実施例6−5では十分な難燃性を確保できた。
【0235】
(実施形態7)
次に、本発明の植物系樹脂含有成形体の実施形態について説明する。本実施形態の植物系樹脂含有成形体は、実施形態1〜6のいずれかの植物系樹脂含有組成物から形成された樹脂成形体である。これにより、対環境性に非常に優れ、且つ成形性及び機械特性が高い植物系樹脂含有成形体を提供できる。
【0236】
本実施形態の植物系樹脂含有成形体には、例えば、ノートパソコン、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、携帯電話、カーナビゲーションシステム等の電子機器の筐体が含まれる。図1は、本実施形態の植物系樹脂含有成形体の一例を示すノートパソコン用筐体の正面図である。図1の筐体は、射出成形により形成できる。
【0237】
(実施形態8)
次に、本発明の植物系樹脂含有組成物の他の実施形態について説明する。本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド11と、平均粒径が0.01μm以上50μm以下のシリカとを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を用いることにより、環境負荷の小さな樹脂組成物を提供できる。また、ポリアミド11とシリカとを混合して用いることにより、ポリアミド11単独に比べて成形性を向上できる。
【0238】
上記シリカの平均粒径は、0.1μm以上5μm以下がより好ましい。これにより、成形性をより向上できる。また、シリカの平均粒径を2μm以上4μm以下とすれば、特にバリの発生を抑制することができる。
【0239】
上記シリカの含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、5重量%以上50重量%以下が好ましく、5重量%以上15重量%以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて成形性を向上できるからである。
【0240】
また、本実施形態の樹脂組成物の溶融粘度は、2×102Pa・s以上であることが好ましい。これにより、バリやヒケをより効果的に抑制できる。
【0241】
上記シリカの形状は、顆粒状であることが好ましい。これにより、シリカを含む樹脂組成物の異方性が小さくなり、ヒケを小さくできる。上記シリカの純度は、99.8%以上であることが好ましい。これにより、シリカとポリアミド11の界面における接合力を有効に働かせることができる。
【0242】
上記シリカの表面は、エポキシ基含有樹脂でコーティングされていることが好ましい。これにより、ポリアミド11とシリカとの接合が強固となる。ここで、エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。
【0243】
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、非晶性樹脂を含むことが好ましい。これにより、機械特性を向上できる。非晶性樹脂とは、分子鎖が互いに規則正しく配列して周期性のある高次構造を有する結晶部分の割合が、結晶性樹脂に比べて少ない樹脂をいい、例えば、ABS樹脂、AS樹脂、ASA樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート等が該当する。
【0244】
上記非晶性樹脂の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、30重量%以上70重量%以下であることが好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、機械特性を向上できるからである。
【0245】
本実施形態の樹脂組成物には、ポリアミド11の結晶化を進めて剛性と耐熱性とを高めるために、結晶核剤を配合することが好ましい。結晶核剤には有機系核剤と無機系核剤とがあり、有機系核剤としては、例えば、安息香酸金属塩、有機リン酸エステル金属塩等があり、無機系核剤としては、例えば、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン等がある。
【0246】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに添加剤として、難燃剤、導電剤、吸湿剤、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0247】
本実施形態の樹脂組成物は、上記材料を混合し、さらに混練することにより作製できる。混合方法としては、ポリアミド11のペレットとシリカ粉末とをドライブレンドして混合してもよく、また、シリカ粉末の一部をポリアミド11のペレットに予めプリブレンドし、残りのシリカ粉末とポリアミド11のペレットとをドライブレンドして混合してもよい。混合機としては、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー等を使用できる。
【0248】
混練は押出機を用いて行うことができる。押出機としては、単軸押出機、二軸押出機のいずれも使用できるが、同方向二軸押出機を使用することが好ましい。ポリアミド11のペレットとシリカ粉末とのより均一な混合が可能だからである。溶融温度は、210℃〜230℃以下とする。
【0249】
さらに、シリカ粉末は、サイドフィーダー等を用いて単軸押出機又は二軸押出機に供給してもよい。
【0250】
次に、実施形態8について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0251】
(実施例8−1)
<樹脂組成物の作製>
80℃で6時間乾燥したアルケマ社製のポリアミド11ペレット“リルサン BESN”(商品名、押出成形グレード)95重量部と、シーアイ化成社製の微細シリカ粉末(平均粒径:0.15μm、純度:99.9%、性状:非晶質)5重量部とをドライブレンドして混合し、この混合物をテクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW−30MG”(商品名)を用いて、溶融温度220℃で混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット(樹脂組成物)を作製した。
【0252】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレットを80℃で6時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度70℃、シリンダー温度250℃、射出速度10mm/s、保圧50kgf/cm2、冷却時間30秒で射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0253】
(実施例8−2)
ポリアミド11ペレットを90重量部及び微細シリカ粉末を10重量部用いた以外は、実施例8−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0254】
(実施例8−3)
ポリアミド11ペレットを85重量部及び微細シリカ粉末を15重量部用い、金型温度を40℃とした以外は、実施例8−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0255】
(実施例8−4)
金型温度を65℃とした以外は、実施例8−3と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0256】
(実施例8−5)
金型温度を70℃とした以外は、実施例8−3と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0257】
(比較例8−1)
微細シリカ粉末を一切添加しなかった以外は、実施例8−3と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0258】
<溶融粘度の測定>
実施例8−1〜実施例8−5及び比較例8−1の樹脂組成物の溶融粘度を、溶融温度230℃及び流動速度が10mm/minの条件で、JIS K7199で規定するプラスチックの流れ特性試験法により、東洋精機製作所製の粘度測定装置“キャピログラフ 1B”(商品名)を用いて測定した。その結果を表8−1に示す。
【0259】
【表8−1】

【0260】
<ヒケの測定>
実施例8−1〜実施例8−5及び比較例8−1で作製した試験片のヒケを、アルバック社製の表面形状測定器“Dektak30 30ST”(商品名)を用いて測定した。具体的には、図4に示す試験片21の長手方向の両端部からそれぞれ1cm内側のゲート22及びエンド23と、その間のセンター24におけるヒケの大きさ(最大値)を測定した。測定は試験片の表側と裏側とでそれぞれ行った。なお、図4おいて、25は成形時の樹脂流れ方向を示し、26はイジェクトピン跡であり、イジェクトピン跡26がある面が裏面である。
【0261】
<バリの測定>
実施例8−1〜実施例8−5及び比較例8−1で作製した試験片のバリを、倒置型光学顕微鏡で拡大して撮影し、その撮像からバリの大きさ(最大値)をノギスで測定し、その値を上記顕微鏡の倍率(33.5倍)で割ってバリの大きさとした。
【0262】
以上のヒケとバリの測定の結果を表8−2に示す。
【0263】
【表8−2】

【0264】
表8−2から、シリカの含有量が5〜15重量%で、金型温度が65℃以上の場合に、ポリアミド11単独(比較例8−1)に比べて、ヒケがより小さくなり、バリも同程度であることが分かる。
【0265】
(実施例8−6)
80℃で6時間乾燥したアルケマ社製のポリアミド11ペレット“リルサン BMN0”(商品名、押出成形グレード)90重量部と、シーアイ化成社製の微細シリカ粉末(平均粒径:0.15μm、純度:99.9%、性状:非晶質)10重量部とを用い、金型温度を40℃とした以外は、実施例8−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0266】
(実施例8−7)
金型温度を70℃とした以外は、実施例8−6と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0267】
(比較例8−2)
微細シリカ粉末を一切添加しなかった以外は、実施例8−6と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0268】
<溶融粘度の測定>
実施例8−6、8−7及び比較例8−2の樹脂組成物の溶融粘度を前述と同様にして測定した。その結果を表8−3に示す。
【0269】
【表8−3】

【0270】
<ヒケ及びバリの測定>
実施例8−6、8−7及び比較例8−2で作製した試験片のヒケ及びバリを前述と同様にして測定した。その結果を表8−4に示す。
【0271】
【表8−4】

【0272】
表8−4から、実施例8−6及び実施例8−7では、ポリアミド11単独(比較例8−2)に比べて、ヒケ及びバリが共に小さくなることが分かる。
【0273】
(実施例8−8)
アルケマ社製のポリアミド11ペレット“リルサン BESN”(商品名、押出成形グレード)95重量部と、東ソー・シリカ社製の微細シリカ粉末(平均粒径:3.1μm)5重量部とを用い、微細シリカ粉末をドライブレンドに代えてサイドフィーダーより導入した以外は、実施例8−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0274】
(実施例8−9)
ポリアミド11ペレットを90重量部及び微細シリカ粉末を10重量部用いた以外は、実施例8−8と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0275】
(実施例8−10)
ポリアミド11ペレットを85重量部及び微細シリカ粉末を15重量部用い、金型温度を40℃とした以外は、実施例8−8と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0276】
(実施例8−11)
金型温度を65℃とした以外は、実施例8−10と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0277】
(実施例8−12)
金型温度を70℃とした以外は、実施例8−10と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0278】
<溶融粘度の測定>
実施例8−8〜実施例8−12の樹脂組成物の溶融粘度を前述と同様にして測定した。その結果を表8−5に示す。
【0279】
【表8−5】

【0280】
<ヒケの測定>
実施例8−8〜実施例8−12で作製した試験片のヒケ及びバリを前述と同様にして測定した。その結果を前述の比較例8−1の結果と共に表8−6に示す。
【0281】
【表8−6】

【0282】
表8−6から、シリカの平均粒径を3.1μmとすることにより、ポリアミド11単独(比較例8−1)に比べて、特にバリが小さくなり、ヒケも若干小さくなることが分かる。
【0283】
(実施形態9)
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド11と、ウォラストナイトとを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を用いることにより、環境負荷の小さな樹脂組成物を提供できる。また、ポリアミド11とウォラストナイトとを混合して用いることにより、ポリアミド11単独に比べて成形性を向上できる。ここで、ウォラストナイト(珪灰石)は、CaO・SiO2の組成を有する白色の繊維状、塊状の天然鉱物である。
【0284】
上記ウォラストナイトの含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、5重量%以上50重量%以下が好ましく、5重量%以上15重量%以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて成形性を向上できるからである。
【0285】
また、本実施形態の樹脂組成物の溶融粘度は、2×102Pa・s以上であることが好ましい。これにより、バリをより効果的に抑制できる。
【0286】
上記ウォラストナイトの形状は、繊維状であることが好ましい。これにより、樹脂組成物の溶融粘度が向上し、バリをより効果的に抑制できる。
【0287】
上記ウォラストナイトのアスペクト比は3〜10であることが好ましく、その繊維長は1μm〜180μmであることが好ましい。アスペクト比が3未満又は繊維長が1μm未満ではウォラストナイトが繊維の形状を維持できなくなり、アスペクト比が10を超える場合、又は繊維長が180μmを超える場合には、樹脂組成物を成形体とした際に表面状態が悪化する。
【0288】
上記ウォラストナイトの表面は、エポキシ基含有樹脂又はアミノシラン系樹脂でコーティングされていることが好ましい。これにより、ポリアミド11とウォラストナイトとの接合が強固となり、成形性も向上する。ここで、エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。また、アミノシラン系樹脂としては、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を使用できる。
【0289】
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、実施形態8と同様に非晶性樹脂を含むことが好ましい。これにより、機械特性を向上できる。非晶性樹脂の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、10重量%以上70重量%以下であることが好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、機械特性を向上できるからである。
【0290】
本実施形態の樹脂組成物には、ポリアミド11の結晶化を進めて剛性と耐熱性とを高めるために、結晶核剤を配合することが好ましい。結晶核剤には有機系核剤と無機系核剤とがあり、有機系核剤としては、例えば、安息香酸金属塩、有機リン酸エステル金属塩等があり、無機系核剤としては、例えば、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン等がある。
【0291】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに添加剤として、難燃剤、導電剤、吸湿剤、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0292】
本実施形態の樹脂組成物は、上記材料を混合し、さらに混練することにより作製できる。混合方法としては、ポリアミド11のペレットとウォラストナイトとをドライブレンドして混合してもよく、また、ウォラストナイトの一部をポリアミド11のペレットに予めプリブレンドし、残りのウォラストナイトとポリアミド11のペレットとをドライブレンドして混合してもよい。混合機としては、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー等を使用できる。
【0293】
混練は押出機を用いて行うことができる。押出機としては、単軸押出機、二軸押出機のいずれも使用できるが、同方向二軸押出機を使用することが好ましい。ポリアミド11のペレットとウォラストナイトとのより均一な混合が可能だからである。溶融温度は、210℃〜230℃以下とする。
【0294】
さらに、ウォラストナイトは、サイドフィーダー等を用いて単軸押出機又は二軸押出機に供給してもよい。
【0295】
次に、実施形態9について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0296】
(実施例9−1)
<樹脂組成物の作製>
80℃で6時間乾燥したアルケマ社製のポリアミド11ペレット“リルサン BESN”(商品名、押出成形グレード)95重量部と、エポキシ基含有樹脂でコーティングされた川鉄鉱業社製のウォラストナイト“PH−450[E070]”(商品名)5重量部とをドライブレンドして混合し、この混合物をテクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW−30MG”(商品名)を用いて、溶融温度220℃で混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット(樹脂組成物)を作製した。
【0297】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレットを80℃で6時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度70℃、シリンダー温度240℃、射出速度50mm/s、保圧40kgf/cm2、冷却時間30秒で射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0298】
(実施例9−2)
ポリアミド11ペレットを90重量部及びウォラストナイト“PH−450[E070]”を10重量部用い、金型温度を40℃とした以外は、実施例9−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0299】
(実施例9−3)
金型温度を65℃とした以外は、実施例9−2と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0300】
(実施例9−4)
金型温度を70℃とした以外は、実施例9−2と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0301】
(実施例9−5)
ポリアミド11ペレットを90重量部用い、ウォラストナイト“PH−450[E070]”5重量部に代えて、アミノシラン系樹脂でコーティングされた川鉄鉱業社製のウォラストナイト“PH−450[A070]”(商品名)10重量部を用いた以外は、実施例9−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0302】
(実施例9−6)
ポリアミド11ペレットを90重量部用い、ウォラストナイト“PH−450[E070]”5重量部に代えて、何もコーティングされていない川鉄鉱業社製のウォラストナイト“PH−450”(商品名)10重量部を用いた以外は、実施例9−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0303】
(実施例9−7)
ポリアミド11ペレットを85重量部及びウォラストナイト“PH−450[E070]”を15重量部用いた以外は、実施例9−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0304】
(比較例9−1)
ウォラストナイトを一切添加しなかった以外は、実施例9−2と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0305】
<溶融粘度の測定>
実施例9−1〜実施例9−7及び比較例9−1の樹脂組成物の溶融粘度を実施形態8と同様にして測定した。その結果を表9−1に示す。
【0306】
【表9−1】

【0307】
<ヒケ及びバリの測定>
実施例9−1〜実施例9−7及び比較例9−1で作製した試験片のヒケ及びバリを実施形態8と同様にして測定した。その結果を表9−2に示す。なお、表9−2においてウォラストナイトの添加量をWN量(wt%)として示した。
【0308】
【表9−2】

【0309】
表9−2から、ウォラストナイトを加えた実施例9−1〜実施例9−7は、ポリアミド11単独の比較例9−1に比べて、バリがより小さくなり、ヒケも同程度であることが分かる。また、金型温度を変化させた実施例9−2〜実施例9−4の比較から、金型温度が65℃以上の場合に、バリが急激に小さくなることが分かる。さらに、ウォラストナイトの形態を変えた実施例9−4〜実施例9−6の比較から、エポキシ基含有樹脂でコーティングしたウォラストナイトが、バリの抑制に最も効果があり、その次に効果があるのはアミノシラン系樹脂でコーティングしたウォラストナイトであることが分かる。
【0310】
(実施形態10)
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、植物繊維とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。さらに、植物繊維を含むことにより、耐熱性を向上できる。
【0311】
上記ポリアミド11と上記植物繊維との重量混合比は、9:1〜5:5であることが好ましい。この範囲内であれば、植物系樹脂含有組成物の対環境性を維持しつつ、その耐熱性を向上できるからである。
【0312】
上記植物繊維としては、例えば、セルロース・アセテート繊維、木材繊維、ケナフ及びリネンから選ばれる少なくとも1種が使用できるが、これらに限定はされない。この中でセルロース・アセテート繊維が最も好ましい。セルロース・アセテート繊維を含むことにより、植物系樹脂含有組成物の耐熱性と難燃性をより向上できるからである。
【0313】
上記植物繊維の繊維径、繊維長は、例えば、セルロース・アセテート繊維では繊維径:0.01〜1μm、繊維長:1〜100μm、ケナフでは繊維径:1〜100μm、繊維長:1〜10mm、リネンでは繊維径:1〜100μm、繊維長:1〜10mmの範囲内とすればよい。また、木材繊維として木粉を用いた場合には、その粒径は1〜100μmとすればよい。上記繊維径及び粒径は、電子顕微鏡、光学顕微鏡等により測定できる。
【0314】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と植物繊維とを混練機により溶融混練してペレットとして用いればよい。
【0315】
上記植物繊維は、ポリオレフィンによって被覆されていることが好ましい。これにより、ポリアミド11と植物繊維との混合性が向上するとともに、難燃性も向上する。また、一般にポリオレフィンの融点は、ポリアミド11の融点(180〜190℃)より低いため、ポリアミド11と植物繊維の混合時の溶融粘度を引き下げることができ、より低温での溶融混練が可能となり、ポリアミド11の熱分解を抑制できる。さらに、ポリオレフィンは吸湿性が低いため、混合した植物繊維が吸水することを防止でき、水分に対して安定した樹脂材料を提供できる。
【0316】
上記ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が使用できるが、これらに限定されない。また、上記ポリオレフィンは、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の変性ポリオレフィンがより好ましい。変性ポリオレフィンは、ポリアミド11との混合性がより高く、また、植物繊維による吸水の防止効果が大きく、さらに、植物系樹脂組成物に柔軟性を付与することができるからである。
【0317】
上記植物繊維をポリオレフィンで被覆する方法としては、植物繊維と、ペレット状又は粉末状のポリオレフィンとを混練機により溶融混練してペレット又は粉末とし、その後に、ポリアミド11とそのペレット又は粉末とを混練機により溶融混練し、前述と同様に最終的にペレットとすればよい。また、粉末状のポリオレフィンの場合には、植物繊維とポリオレフィン粉末とを混合攪拌した後、熱プレス機等により押し固めたものを切断・粉砕し、その後は上記と同様にしてポリアミド11と溶融混練すればよい。
【0318】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃剤を含むことが好ましい。これにより、難燃性が向上して延焼が抑制できる。
【0319】
上記難燃剤の含有量は、植物系樹脂含有組成物の全重量に対して5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。この範囲内であれば、植物系樹脂含有組成物の対環境性及び耐熱性を維持しつつ、その難燃性を向上できるからである。
【0320】
上記難燃剤としては、燐系難燃剤、トリアジン系難燃剤等の有機系難燃剤が好ましい。燐系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等のリン酸エステルが使用できる。また、トリアジン系難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、ポリリン酸メラミン、メラミン等のトリアジン化合物が使用できる。
【0321】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃補助剤を含むことが好ましい。これにより、難燃性がさらに向上する。但し、難燃補助剤のみでは十分な難燃性の発揮は困難であるため、難燃剤と難燃補助剤とを併用する必要がある。
【0322】
上記難燃補助剤としては、モンモリロナイト、タルク等の微細な板状鉱物が好ましく、特にモンモリロナイトは、燃焼中の溶融物の落下(ドリップ)の防止に効果がある。
【0323】
また、本実施形態の植物系樹脂含有組成物に前述のポリオレフィンが含まれる場合には、難燃補助剤としては、赤燐、黒鉛、水酸化マグネシウム等を添加すれば、難燃性がより向上する。
【0324】
上記難燃補助剤の添加量は、植物系樹脂含有組成物の全重量に対して、5重量%以上15重量%以下が好ましい。この範囲内であれば、植物系樹脂含有組成物の対環境性及び耐熱性を維持しつつ、さらにその難燃性を向上できるからである。
【0325】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0326】
次に、実施形態10について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0327】
(実施例10−1)
<樹脂組成物の作製>
アルケマ社製のポリアミド11“リルサンB”(商品名)90重量部と、植物繊維としてダイセル化学工業社製のセルロース・アセテート繊維“セルグリーン”(商品名、平均繊維径:3μm、平均繊維長:20μm)10重量部とを、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”(商品名)を用いて溶融混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0328】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度40℃、シリンダ温度210℃、射出速度50mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30sで射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0329】
(実施例10−2)
ポリアミド11を70重量部、セルロース・アセテート繊維を30重量部用いた以外は、実施例10−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0330】
(実施例10−3)
ポリアミド11を50重量部、セルロース・アセテート繊維を50重量部用いた以外は、実施例10−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0331】
(実施例10−4)
セルロース・アセテート繊維に代えて、木材繊維として秋田杉の削り粉(粒径:10μm〜1mm)を30重量部用いた以外は、実施例10−2と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0332】
(実施例10−5)
ポリアミド11を65重量部、木材繊維を25重量部、難燃剤として大八化学社製のトリフェニルホスフェートを10重量部用いた以外は、実施例10−4と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0333】
(実施例10−6)
セルロース・アセテート繊維に代えて、リネン(平均繊維径:60μm、平均繊維長:5mm)を30重量部用いた以外は、実施例10−2と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0334】
(実施例10−7)
白石カルシウム社製の無水マレイン酸変性ポリエチレン“ポリボンド”(商品名)50重量部と、木材繊維として秋田杉の削り粉(粒径:10μm〜1mm)50重量部とを、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”(商品名)を用いて溶融混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物Aを作製した。
【0335】
次に、アルケマ社製のポリアミド11“リルサンB”(商品名)40重量部と、上記樹脂組成物A50重量部と、難燃剤として大八化学社製のトリフェニルホスフェート10重量部とを、上記同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”を用いて溶融混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物Bを作製した。
【0336】
上記樹脂組成物Bを用いた以外は、実施例10−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0337】
(実施例10−8)
木材繊維に代えて、リネン(平均繊維径:60μm、平均繊維長:5mm)を25重量部用い、トリフェニルホスフェートに代えて、日産化学工業社製のメラミンシアヌネレートを10重量部用いた以外は、実施例10−7と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0338】
(比較例10−1)
ポリアミド11のみを用い、植物繊維を添加しなかった以外は、実施例10−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0339】
(比較例10−2)
セルロース・アセテート繊維のみを用い、ポリアミド11を添加しなかった以外は、実施例10−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0340】
(比較例10−3)
旭化成社製のABS樹脂“スタイラック”(商品名)のみを用いた以外は、比較例10−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0341】
(比較例10−4)
帝人社製のポリカーボネート“パンライト”(商品名)のみを用いた以外は、比較例10−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0342】
以上の実施例10−1〜実施例10−8及び比較例10−1〜比較例10−4の樹脂組成物の組成を表10−1に示す。なお、表10−1において、ポリアミド11をPA11と、セルロース・アセテート繊維をCAと、ポリカーボネートをPCと、木材繊維を木粉と、無水マレイン酸変性ポリエチレンをPE/MAHと、トリフェニルホスフェートをTPPと、メラミンシアヌレートをMCと、それぞれ表記した。
【0343】
【表10−1】

【0344】
次に、上記実施例10−1〜実施例10−8及び比較例10−1〜比較例10−4の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0345】
<曲げ強さの測定>
各試験片を用いて曲げ強さを測定した。具体的には、インストロン社製の万能試験機“INSTORON5581”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外はJIS K 7203に準拠して、曲げ強さ試験を行った。また、各試験片を蒸留水に完全に水没させ、23℃、相対湿度45%の室内に24時間放置した後、上記と同様にして吸湿後の曲げ強さ試験を行った。これらの結果を曲げ弾性率として表10−2に示す。
【0346】
<アイゾット衝撃強度の測定>
各試験片を用いてアイゾット衝撃強度を測定した。具体的には、東洋精機製作所製のアイゾット衝撃試験機“B−121202403”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外はJIS K 7110に準拠して、アイゾット衝撃試験を行った。その結果を表10−2に示す。
【0347】
<荷重たわみ温度の測定>
各試験片を用いて荷重たわみ温度を測定した。具体的には、安田精機製作所製のヒートデストーションテスタ“148HD−PC”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外はJIS K 7207に準拠して、荷重たわみ温度試験を行った。その結果を表10−2に示す。
【0348】
【表10−2】

【0349】
<難燃性の評価>
上記で使用した試験片と長さのみ異なる試験片を用いて水平燃焼試験を行って、難燃性を評価した。具体的には、図2に示すように、試験片1を試験台2に水平に固定し、バーナー3のバーナー炎を試験片1に接触させ、着火から自己消火するまでの燃焼時間と、自己消化後の非燃焼部の長さとを測定し、また燃焼中に試験片1の溶融物が落下するドリップの有無を観察した。試験片1の厚さTは3.2mm、長さLは127mm、つかみ幅Wは20mm、接炎幅Fは10mm、接炎時間は30sとした。本水平燃焼試験では、60s経過しても自己消火しない場合には、自己消火性なしと判断し、その時点で強制消火した。その結果を表10−3に示す。
【0350】
【表10−3】

【0351】
表10−2から、植物繊維を添加した実施例10−1〜実施例10−8では、ポリアミド11のみの比較例10−1に比べて荷重たわみ温度(耐熱性)が向上したことが分かる。また、植物繊維を添加した実施例10−1〜実施例10−6では、ポリアミド11のみの比較例10−1に比べて曲げ弾性率(剛性)が大きくなり、植物繊維の含有量が増えるに伴って剛性が大きくなることが分かる。しかし、実施例10−1〜実施例10−6では、吸湿後の剛性は全て低下した。一方、無水マレイン酸変性ポリエチレンで予め植物繊維を被覆した実施例10−7及び10−8では、吸湿後の剛性が低下しなかった。また、表10−3から、セルロース・アセテート繊維を用いた実施例10−1〜実施例10−3、難燃剤を添加した実施例10−5、10−7及び10−8では、難燃性が向上した。
【0352】
(実施形態11)
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド11と、ガラスフレークとを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を用いることにより、環境負荷の小さな樹脂組成物を提供できる。また、ポリアミド11とガラスフレークとを混合して用いることにより、ポリアミド11単独に比べて成形性を向上できる。
【0353】
上記ガラスフレークの平均粒径は、10μm以上50μm以下であることが好ましい。平均粒径が10μm未満ではガラスフレークの添加の効果が少なくなり、平均粒径が50μmを超えると樹脂組成物を成形体とした際に表面状態が悪化する。本明細書における平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定するものとする。
【0354】
上記ガラスフレークの含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、5重量%以上50重量%以下が好ましく、5重量%以上40重量%以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、ポリアミド11単独に比べて成形性を向上できるからである。
【0355】
また、本実施形態の樹脂組成物の溶融粘度は、2×102Pa・s以上であることが好ましい。これにより、バリをより効果的に抑制できる。
【0356】
また、上記ガラスフレークの厚さは、1μm以上10μm以下であることが好ましい。厚さが1μm未満ではガラスフレークの形状維持が困難になり、厚さが10μmを超えると樹脂組成物を成形体とした際に表面状態が悪化する。
【0357】
上記ガラスフレークの表面は、エポキシ基含有樹脂又はアミノシラン系樹脂でコーティングされていることが好ましい。これにより、ポリアミド11とガラスフレークとの接合が強固となり、成形性も向上する。ここで、エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。また、アミノシラン系樹脂としては、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を使用できる。
【0358】
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、実施形態8と同様に非晶性樹脂を含むことが好ましい。これにより、機械特性を向上できる。非晶性樹脂の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、10重量%以上30重量%以下であることが好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、機械特性を向上できるからである。
【0359】
本実施形態の樹脂組成物には、ポリアミド11の結晶化を進めて剛性と耐熱性とを高めるために、結晶核剤を配合することが好ましい。結晶核剤には有機系核剤と無機系核剤とがあり、有機系核剤としては、例えば、安息香酸金属塩、有機リン酸エステル金属塩等があり、無機系核剤としては、例えば、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン等がある。
【0360】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに添加剤として、難燃剤、導電剤、吸湿剤、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0361】
本実施形態の樹脂組成物は、上記材料を混合し、さらに混練することにより作製できる。混合方法としては、ポリアミド11のペレットとガラスフレークとをドライブレンドして混合してもよく、また、ガラスフレークの一部をポリアミド11のペレットに予めプリブレンドし、残りのガラスフレークとポリアミド11のペレットとをドライブレンドして混合してもよい。混合機としては、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー等を使用できる。
【0362】
混練は押出機を用いて行うことができる。押出機としては、単軸押出機、二軸押出機のいずれも使用できるが、同方向二軸押出機を使用することが好ましい。ポリアミド11のペレットとガラスフレークとのより均一な混合が可能だからである。溶融温度は、210℃〜230℃以下とする。
【0363】
さらに、ガラスフレークは、サイドフィーダー等を用いて単軸押出機又は二軸押出機に供給してもよい。
【0364】
次に、実施形態11について本発明を実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0365】
(実施例11−1)
<樹脂組成物の作製>
80℃で6時間乾燥したアルケマ社製のポリアミド11ペレット“リルサン BESN”(商品名、押出成形グレード)95重量部と、日本板硝子社製のガラスフレーク粉末“REF−015”(商品名、平均粒径:15μm)5重量部とをドライブレンドして混合し、この混合物をテクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW−30MG”(商品名)を用いて、溶融温度230℃で混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット(樹脂組成物)を作製した。
【0366】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレットを80℃で6時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度70℃、シリンダー温度250℃、射出速度10mm/s、保圧40kgf/cm2、冷却時間30秒で射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0367】
(実施例11−2)
ポリアミド11ペレットを90重量部及びガラスフレーク粉末“REF−015”を10重量部用い、保圧を45kgf/cm2とした以外は、実施例11−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0368】
(実施例11−3)
ポリアミド11ペレット80重量部と、ガラスフレーク粉末“REF−015”10重量部とをドライブレンドして混合し、さらに混練時にサイドフィーダーを用いて上記ガラスフレーク粉末を所定量加え、射出速度を50mm/sとした以外は、実施例11−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0369】
(比較例11−1)
ガラスフレークを一切添加せず、金型温度を40℃とした以外は、実施例11−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0370】
(比較例11−2)
平均粒径15μmのガラスフレーク粉末“REF−015”に代えて、平均粒径160μmの日本板硝子社製のガラスフレーク粉末“REF−160”(商品名)を用いた以外は、実施例11−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0371】
<溶融粘度の測定>
実施例11−1〜実施例11−3及び比較例11−1、11−2の樹脂組成物の溶融粘度を実施形態8と同様にして測定した。その結果を表11−1に示す。
【0372】
【表11−1】

【0373】
<ガラスフレークの含有量の測定>
樹脂組成物の作製時のガラスフレークの添加量と、樹脂成形体を作製した後の最終的なガラスフレークの含有量とは、一致しない場合がある。特に、サイドフィーダーを用いてガラスフレークを供給して混練した場合には、サイドフィーダーによるガラスフレークの供給量が定量的ではないので、最終的な含有量を確認する必要がある。そこで、以下のようにして、試験片のガラスフレークの含有量を測定した。
【0374】
試験片のガラスフレークの含有量の測定は、添加したガラスフレークの密度と、試験片の密度とを測定して計算により求めた。密度は、マイクロメリティックス(Micromeritics)社製のガス置換式密度計“Accu Pyc 1330”(商品名)を用いて測定した。その結果を表11−2に示す。
【0375】
<ヒケの測定>
実施例11−1〜実施例11−3及び比較例11−1、11−2で作製した試験片のヒケを、アルバック社製の表面形状測定器“Dektak30 30ST”(商品名)を用いて測定した。測定は試験片の表側(イジェクトピン跡がない側)と裏側(イジェクトピン跡がある側面)とでそれぞれ行った。
【0376】
<バリの測定>
実施例11−1〜実施例11−3及び比較例11−1、11−2で作製した試験片のバリを、倒置型光学顕微鏡で拡大して撮影し、その撮像からバリの大きさ(最大値)をノギスで測定し、その値を上記顕微鏡の倍率(33.5倍)で割ってバリの大きさとした。
【0377】
以上のヒケとバリの測定の結果を表11−2に示す。なお、表11−2においてガラスフレークの含有量をGF量(wt%)として示した。
【0378】
【表11−2】

【0379】
表11−2から、平均粒径が50μm以下のガラスフレークを加えた実施例11−1〜実施例11−3は、ポリアミド11単独の比較例11−1及び平均粒径が50μmを超えるガラスフレークを加えた比較例11−2に比べて、バリがより小さくなり、ヒケも同程度であることが分かる。
【0380】
(実施形態12)
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、ポリフェニレンサルファイドと、ガラス繊維とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、ポリアミド11と耐熱性樹脂であるポリフェニレンサルファイドとを混合して用いることにより、耐熱性や寸法安定性を向上できる。さらに、結晶核材として機能するガラス繊維を含むことにより、成形時の結晶化度を高め、成形性や曲げ弾性率等の機械強度特性を向上できる。
【0381】
上記ポリアミド11の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、40重量%以上80重量%以下が好ましく、より好ましくは60重量%以上70重量%以下である。上記ポリフェニレンサルファイドの含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、10重量%以上40重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以上30重量%以下である。上記ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、5重量%以上20重量%以下が好ましく、より好ましくは10重量%以上15重量%以下である。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を維持しつつ、ポリアミド11単独に比べて樹脂特性を向上できるからである。
【0382】
上記ガラス繊維の平均繊維径は5μm以上15μm以下が好ましく、8μm以上12μm以下がより好ましい。また、その平均繊維長は1mm以上5mm以下が好ましく、2mm以上4mm以下がより好ましい。上記平均繊維径及び平均繊維長は、電子顕微鏡、光学顕微鏡等により測定できる。
【0383】
上記ガラス繊維は、ポリフェニレンサルファイドによって少なくともその一部が被覆されていることが好ましい。これにより、ポリアミド11とガラス繊維との混合性が向上し、ポリアミド11中にガラス繊維がほぼ均一に分散できるので、樹脂特性がより向上する。即ち、ポリアミド11中にガラス繊維は分散しにくいが、ガラス繊維の少なくとも一部がポリフェニレンサルファイドにより被覆されていると、ポリアミド11中での分散性が向上し、ポリアミド11とガラス繊維との混合性が向上する。
【0384】
上記ポリフェニレンサルファイドとしては、具体的にはポリ−p−フェニレンサルファイド、ポリ−m−フェニレンサルファイド等を使用できる。
【0385】
上記ガラス繊維をポリフェニレンサルファイドで被覆する方法としては、ガラス繊維と、ペレット状又は粉末状のポリフェニレンサルファイドとを混練機により溶融混練してペレット又は粉末とし、その後に、ポリアミド11とそのペレット又は粉末とを混練機により溶融混練し、最終的に目的とするペレットとすればよい。
【0386】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃剤を含んでいてもよい。これにより、難燃性が向上して延焼が抑制できる。
【0387】
上記難燃剤の含有量は、植物系樹脂含有組成物の全重量に対して5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。この範囲内であれば、植物系樹脂含有組成物の対環境性を維持しつつ、その難燃性を向上できるからである。
【0388】
上記難燃剤としては、燐系難燃剤、トリアジン系難燃剤等の有機系難燃剤が好ましい。燐系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等のリン酸エステルが使用できる。また、トリアジン系難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、ポリリン酸メラミン、メラミン等のトリアジン化合物が使用できる。
【0389】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0390】
次に、実施形態12について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0391】
(実施例12−1)
<樹脂組成物の作製>
先ず、アルケマ社製のポリアミド11“リルサン”(商品名、溶融粘度:1.5×103Pa・s/230℃)70重量部と、ポリプラスチック社製のポリフェニレンサルファイド“フォートロン”(商品名)20重量部と、旭ファイバーグラス社製のガラス繊維(平均繊維径:10μm、平均繊維長:3mm)10重量部とを準備した。
【0392】
次に、上記ポリフェニレンサルファイド“フォートロン”20重量部と、上記ガラス繊維10重量部とを、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”(商品名)を用いて300℃で溶融混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物Aを作製した。
【0393】
続いて、上記ポリアミド11“リルサン”70重量部と、上記樹脂組成物A30重量部とを、上記同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”を用いて290℃で溶融混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物Bを作製した。
【0394】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物Bを90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度50℃、シリンダ温度280℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30sで射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0395】
(比較例12−1)
上記ポリアミド11“リルサン”のみを用い、シリンダ温度を230℃とした以外は、実施例12−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0396】
(比較例12−2)
上記ガラス繊維を用いず、上記ポリアミド11“リルサン”70重量部及び上記ポリフェニレンサルファイド“フォートロン”30重量部を用いた以外は、実施例12−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0397】
(比較例12−3)
上記ポリフェニレンサルファイドを用いず、上記ポリアミド11“リルサン”90重量部及び上記ガラス繊維10重量部を用い、シリンダ温度を230℃とした以外は、実施例12−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0398】
以上の実施例12−1及び比較例12−1〜比較例12−3の樹脂組成物の組成を表12−1に示す。なお、表12−1において、ポリアミド11をPA11と、ポリフェニレンサルファイドをPPSと、ガラス繊維をGFと、それぞれ表記した。
【0399】
【表12−1】

【0400】
次に、上記実施例12−1及び比較例12−1〜比較例12−3の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0401】
<成形性の評価>
各試験片のバリ、ヒケの有無を観察して成形性を評価した。その結果を表12−2に示す。成形性の評価基準は以下のとおりとし、その結果を表12−2おいてはそれぞれ、微小、小、中、大と表示した。
(1)微小:バリ/ヒケの最大値が、0μm/0μm〜30μm/20μm
(2)小:バリ/ヒケの最大値が、31μm/21μm〜60μm/30μm
(3)中:バリ/ヒケの最大値が、61μm/31μm〜100μm/40μm
(4)大:バリ/ヒケの最大値が、101μm/41μm以上
【0402】
【表12−2】

【0403】
<曲げ強さの測定>
各試験片を用いて曲げ強さを測定した。具体的には、インストロン社製の万能試験機“INSTORON5581”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外はJIS K 7203に準拠して、曲げ強さ試験を行った。その結果を曲げ弾性率として表12−3に示す。
【0404】
<アイゾット衝撃強度の測定>
各試験片を用いてアイゾット衝撃強度を測定した。具体的には、東洋精機製作所製のアイゾット衝撃試験機“B−121202403”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外はJIS K 7110に準拠して、アイゾット衝撃試験を行った。その結果を表12−3に示す。
【0405】
<荷重たわみ温度の測定>
各試験片を用いて荷重たわみ温度を測定した。具体的には、安田精機製作所製のヒートデストーションテスタ“148HD−PC”(商品名)を使用し、試験片の大きさ以外はJIS K 7220に準拠して、荷重たわみ温度試験を行った。その結果を表12−3に示す。
【0406】
【表12−3】

【0407】
表12−2及び表12−3から、実施例12−1では、ポリアミド11のみを用いた比較例12−1、ガラス繊維を含まない比較例12−2及びポリフェニレンサルファイドを含まない比較例12−3と比べて、成形性と機械強度特性が向上したことが分かる。
【0408】
(実施形態13)
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド11と、断面の縦横比が1:1.8〜1:5のガラス繊維とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を用いることにより、環境負荷の小さな樹脂組成物を提供できる。また、ポリアミド11と上記ガラス繊維とを混合して用いることにより、通常のガラス繊維に比べて耐衝撃性の低下を抑制できる。
【0409】
上記ガラス繊維の縦横比が1:1.8より小さいと寸法性の低下を抑制できない。また、縦横比が1:5を超えると製造が困難になる。ガラス繊維の縦横比は、電子顕微鏡を用いた観察により求めることができる。
【0410】
上記ガラス繊維の断面形状は、通常のガラス繊維の断面形状である円形とは異なり、例えば、楕円形、偏平形、繭形等となるが、これらに限定はされない。
【0411】
上記ガラス繊維の平均繊維長は、1mm以上3mm以下が好ましい。1mm未満では耐衝撃性の低下を抑制する効果が小さく、3mmを超えると樹脂への混合作業性が低下する。上記平均繊維長は、光学顕微鏡等を用いて測定できる。
【0412】
上記ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、5重量%以上20重量%以下が好ましく、10重量%以上15重量%以下がより好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、寸法性の低下を抑制できるからである。
【0413】
また、本実施形態の樹脂組成物の溶融粘度は、2×102Pa・s以上であることが好ましい。これにより、バリをより効果的に抑制できる。
【0414】
上記ガラス繊維の表面は、エポキシ基含有樹脂又はアミノシラン系樹脂でコーティングされていることが好ましい。これにより、ポリアミド11と上記ガラス繊維との接合が強固となり、成形性も向上する。ここで、エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ変性アクリル樹脂、エポキシ変性スチレンアクリル樹脂等を使用できる。また、アミノシラン系樹脂としては、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を使用できる。
【0415】
さらに、本実施形態の樹脂組成物は、実施形態8と同様に非晶性樹脂を含むことが好ましい。これにより、機械特性を向上できる。非晶性樹脂の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、10重量%以上30重量%以下であることが好ましい。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を保持しつつ、機械特性を向上できるからである。
【0416】
本実施形態の樹脂組成物には、ポリアミド11の結晶化を進めて剛性と耐熱性とを高めるために、結晶核剤を配合することが好ましい。結晶核剤には有機系核剤と無機系核剤とがあり、有機系核剤としては、例えば、安息香酸金属塩、有機リン酸エステル金属塩等があり、無機系核剤としては、例えば、タルク、マイカ、モンモリロナイト、カオリン等がある。
【0417】
本実施形態の樹脂組成物は、さらに添加剤として、難燃剤、導電剤、吸湿剤、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0418】
本実施形態の樹脂組成物は、上記材料を混合し、さらに混練することにより作製できる。混練は押出機を用いて行うことができる。押出機としては、単軸押出機、二軸押出機のいずれも使用できるが、同方向二軸押出機を使用することが好ましい。ポリアミド11のペレットと上記ガラス繊維とのより均一な混合が可能だからである。溶融温度は、210℃〜230℃以下とする。また、上記ガラス繊維は、サイドフィーダー等を用いて単軸押出機又は二軸押出機に供給することが好ましい。
【0419】
次に、実施形態13について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0420】
(実施例13−1)
<樹脂組成物の作製>
85℃で6時間乾燥したアルケマ社製のポリアミド11ペレット“リルサン BESN”(商品名、押出成形グレード)95重量部と、日東紡績社製のガラス繊維“CSH 3PA−870”(商品名、断面形状:繭形、縦横比=1:2、平均繊維長:3mm)5重量部とを、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW−30MG”(商品名)を用いて、溶融温度250℃で混練した。上記ガラス繊維の供給は全てサイドフィーダーを用いて行った。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット(樹脂組成物)を作製した。
【0421】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレットを85℃で6時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度70℃、シリンダー温度250℃、射出速度50mm/s、保圧40kgf/cm2、冷却時間30秒で射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0422】
(実施例13−2)
ガラス繊維“CSH 3PA−870”を10重量部用いた以外は、実施例13−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0423】
(実施例13−3)
ガラス繊維“CSH 3PA−870”を15重量部用いた以外は、実施例13−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0424】
(比較例13−1)
ガラス繊維を一切添加しなかった以外は、実施例13−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0425】
(比較例13−2)
ガラス繊維“CSH 3PA−870”に代えて、日東紡績社製のガラス繊維“CS 3PE−455”(断面形状:円形、平均繊維長:3mm)を5重量部用いた以外は、実施例13−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0426】
(比較例13−3)
ガラス繊維“CS 3PE−455”を10重量部用いた以外は、実施例13−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0427】
(比較例13−4)
ガラス繊維“CS 3PE−455”を15重量部用いた以外は、実施例13−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0428】
<ガラス繊維の含有量の測定>
樹脂組成物の作製時のガラス繊維の添加量と、樹脂成形体を作製した後の最終的なガラス繊維の含有量とは、一致しない場合がある。特に、サイドフィーダーを用いてガラス繊維を供給して混練した場合には、サイドフィーダーによるガラス繊維の供給量が定量的ではないので、最終的な含有量を確認する必要がある。そこで、実施形態11と同様にして、試験片のガラス繊維の含有量を測定した。その結果を表13−1に示す。なお、表13−1では、ガラス繊維の含有量をGF量(wt%)と表記した。
【0429】
次に、上記実施例13−1〜実施例13−3及び比較例13−1〜比較例13−4の各試験片を用いて実施形態12と同様にして、アイゾット衝撃強度、曲げ強さ(曲げ弾性率)及び荷重たわみ温度を測定した。その結果を表13−1に示す。
【0430】
【表13−1】

【0431】
表13−1から、断面形状が繭形のガラス繊維を添加した実施例13−1〜実施例13−3は、断面形状が円形のガラス繊維を添加した比較例13−2〜比較例13−4に比べて、アイゾット衝撃強度の低下を抑制することができた。
【0432】
(実施形態14)
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、ポリアミド11と、ガラス繊維、ウォラストナイト及びタルクからなる群から選ばれた少なくとも1種類と、難燃剤とを含む。ポリアミド11は、植物系樹脂であり、環境負荷が小さく、対環境性に非常に優れている。このポリアミド11を含むことにより、環境負荷の小さな植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、ポリアミド11にガラス繊維、ウォラストナイト及びタルクからなる群から選ばれた少なくとも1種類の充填材を混合して用いることにより、曲げ弾性率等の機械強度特性を向上できる。さらに、難燃剤を含むことにより、上記充填材の添加による難燃性の低下を抑制できる。
【0433】
上記ポリアミド11の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、60重量%以上80重量%以下が好ましく、より好ましくは65重量%以上70重量%以下である。上記充填材の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、5重量%以上25重量%以下が好ましく、より好ましくは15重量%以上20重量%以下である。この範囲内であれば、植物由来のポリアミド11の諸特性を維持しつつ、ポリアミド11単独に比べて樹脂特性を向上できるからである。
【0434】
上記ガラス繊維の平均繊維径は5μm以上15μm以下が好ましく、8μm以上12μm以下がより好ましい。また、その平均繊維長は1mm以上5mm以下が好ましく、2mm以上4mm以下がより好ましい。上記平均繊維径及び平均繊維長は、電子顕微鏡、光学顕微鏡等により測定できる。
【0435】
上記ウォラストナイト(珪灰石)は、CaO・SiO2の組成を有する白色の繊維状、塊状の天然鉱物である。ウォラストナイトの形状は、繊維状であることが好ましい。これにより、樹脂組成物の溶融粘度が向上し、バリをより効果的に抑制できる。また、ウォラストナイトのアスペクト比は3〜10であることが好ましく、その繊維長は1μm〜180μmであることが好ましい。アスペクト比が3未満又は繊維長が1μm未満ではウォラストナイトが繊維の形状を維持できなくなり、アスペクト比が10を超える場合、又は繊維長が180μmを超える場合には、樹脂組成物を成形体とした際に表面状態が悪化する。
【0436】
上記難燃剤の含有量は、樹脂組成物の全重量に対して、5重量%以上20重量%以下であることが好ましく、10重量%以上15重量%以下であることがより好ましい。この範囲内であれば、植物系樹脂含有組成物の対環境性及び機械強度特性を維持しつつ、その難燃性を向上できるからである。
【0437】
上記難燃剤としては、燐系難燃剤、トリアジン系難燃剤等の有機系難燃剤が好ましい。燐系難燃剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等のリン酸エステルが使用できる。また、トリアジン系難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、トリスイソシアヌレート等のトリアジン化合物が使用できる。
【0438】
本実施形態の植物系樹脂含有組成物は、さらに添加剤として、可塑剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、顔料、着色剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等を配合することも可能である。これらの添加により、耐衝撃性、耐熱性、剛性等がより改善されると共に、他の特性をも付与できる。これらの添加剤の選択にあたっては、植物由来のポリアミド11の特性に鑑みて、生物に対して無害なもので、燃焼により有毒ガスを発生しないなど、環境に対して低負荷な材料を選択することが好ましい。
【0439】
次に、実施形態14について実施例に基づき具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0440】
(実施例14−1)
<樹脂組成物の作製>
先ず、アルケマ社製のポリアミド11“リルサン”(商品名、溶融粘度:1.5×103Pa・s/230℃)70重量部に、日東紡社製のガラス繊維(平均繊維径:10μm、平均繊維長:3mm)15重量部と、難燃剤として大八化学社製のトリフェニルホスフェート15重量部とを加えて、テクノベル(TECHNOVEL)社製の同方向回転完全噛合型2ベントタイプ二軸押出機“KZW15”(商品名)を用いて混練した。混練後、溶融物を押出機の口金よりストランド状に押出し、水冷した後にペレタイザーで切断し、ペレット状の樹脂組成物を作製した。
【0441】
<樹脂成形体(試験片)の作製>
上記ペレット状の樹脂組成物を90℃で5時間乾燥した後、住友重機工業社製の横型射出成形機“SG50−SYCAP MIII”(商品名)を用いて、金型温度50℃、シリンダ温度250℃、射出速度100mm/s、二次圧力40kgf/cm2、冷却時間30sで射出成形して、ASTM曲げ試験片(12.7mm×127mm×3.2mm)を成形した。
【0442】
(実施例14−2)
ガラス繊維の添加量を20重量部とし、トリフェニルホスフェートに代えて、燐化学工業社製の赤燐“ノーバペレット”(商品名)10重量部を添加した以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0443】
(実施例14−3)
トリフェニルホスフェートに代えて、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のメラミン“メルパー”15重量を添加した以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0444】
(実施例14−4)
ガラス繊維に代えて、川鉄鉱業社製のウォラストナイト“PH−450”(商品名)15重量部を添加した以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0445】
(実施例14−5)
ウォラストナイトの添加量を20重量部とし、トリフェニルホスフェートに代えて、赤燐“ノーバペレット”10重量部を添加した以外は、実施例14−4と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0446】
(実施例14−6)
トリフェニルホスフェートに代えて、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のメラミン“メルパー”15重量を添加した以外は、実施例14−4と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0447】
(実施例14−7)
ガラス繊維に代えて、日本タルク社製のタルク“MS”(商品名)15重量部を添加した以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0448】
(実施例14−8)
タルクの添加量を20重量部とし、トリフェニルホスフェートに代えて、赤燐“ノーバペレット”10重量部を添加した以外は、実施例14−7と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0449】
(実施例14−9)
トリフェニルホスフェートに代えて、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のメラミン“メルパー”15重量を添加した以外は、実施例14−7と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0450】
(実施例14−10)
ポリアミド11“リルサン”(溶融粘度:1.5×103Pa・s/230℃)65重量部と、旭ファイバーグラス社製のガラス繊維(平均繊維径:10μm、平均繊維長:3mm)10重量部と、ウォラストナイト“PH−450”10重量部と、大八化学社製のトリフェニルホスフェート10重量部と、赤燐“ノーバペレット”5重量部とを用いた以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0451】
(実施例14−11)
赤燐“ノーバペレット”に代えて、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のメラミン“メルパー”5重量を添加した以外は、実施例14−10と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0452】
(実施例14−12)
トリフェニルホスフェートに代えて、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のメラミン“メルパー”10重量を添加した以外は、実施例14−10と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0453】
(実施例14−13)
ウォラストナイトに代えて、タルク“MS”10重量を添加した以外は、実施例14−10と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0454】
(実施例14−14)
赤燐“ノーバペレット”に代えて、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のメラミン“メルパー”5重量を添加した以外は、実施例14−13と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0455】
(実施例14−15)
トリフェニルホスフェートに代えて、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のメラミン“メルパー”10重量を添加した以外は、実施例14−13と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0456】
(比較例14−1)
上記ポリアミド11“リルサン”のみを用いた以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0457】
(比較例14−2)
上記ポリアミド11“リルサン”80重量部と、上記ガラス繊維20重量部とを用いた以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0458】
(比較例14−3)
上記ポリアミド11“リルサン”80重量部と、上記ウォラストナイト“PH−450”20重量部とを用いた以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0459】
(比較例14−4)
上記ポリアミド11“リルサン”80重量部と、上記タルク“MS”20重量部とを用いた以外は、実施例14−1と同様にしてASTM曲げ試験片を作製した。
【0460】
以上の実施例14−1〜実施例14−15及び比較例14−1〜比較例14−4の樹脂組成物の組成を表14−1に示す。なお、表14−1において、ポリアミド11をPA11と、ガラス繊維をGFと、トリフェニルホスフェートをTPPと、メラミンシアヌレートをMCと、それぞれ表記した。
【0461】
【表14−1】

【0462】
次に、上記実施例14−1〜実施例14−15及び比較例14−1〜比較例14−4の各ASTM試験片を用いて下記の樹脂特性の評価を行った。
【0463】
先ず、実施形態1と同様にして成形性を評価した。その結果を表14−2に示す。
【0464】
【表14−2】

【0465】
次に、実施形態1と同様にして曲げ強さ(曲げ弾性率)、アイゾット衝撃強度、荷重たわみ温度及び難燃性の評価を行った。その結果を表14−3に示す。
【0466】
【表14−3】

【0467】
表14−3から、実施例14−1〜実施例14−15では、充填材を添加することにより難燃性が低下した比較例14−2〜比較例14−4に比べて、難燃性の低下を抑制することができた。
【0468】
(実施形態15)
次に、本発明の植物系樹脂含有成形体の他の実施形態について説明する。本実施形態の植物系樹脂含有成形体は、実施形態8〜14のいずれかの植物系樹脂含有組成物から形成された樹脂成形体である。これにより、対環境性に非常に優れ、且つ成形性及び機械特性が高い植物系樹脂含有成形体を提供できる。
【0469】
本実施形態の樹脂成形体は、金型温度65℃以上で射出成形されていることが好ましい。これにより、成形性をより向上できる。
【0470】
また、本実施形態の樹脂成形体は、シリンダー温度225℃以上で射出成形されていることが好ましく、さらに保圧35kgf/cm2以上で射出成形されていることが好ましい。これにより、バリやヒケをより効果的に抑制できる。
【0471】
本実施形態の樹脂成形体の成形方法は特に限定されないが、実施形態8〜14の樹脂組成物を用いて射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等により成形することができる。成形条件としては、例えば射出成形の場合では、次のように設定できる。射出成形前の樹脂組成物の乾燥条件は、乾燥温度が70℃〜100℃、乾燥時間が4時間〜6時間である。また、射出成形の際の金型温度は、10℃〜85℃、シリンダー温度は、210℃〜230℃、冷却時間は、10秒〜90秒である。
【0472】
本実施形態の樹脂成形体には、例えば、ノートパソコン、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、携帯電話、カーナビゲーションシステム等の電子機器の筐体が含まれる。図1は、本発明の樹脂成形体の一例を示すノートパソコン用筐体の正面図である。図1の筐体は、射出成形により形成できる。
【0473】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本出願に開示された実施形態は一例であって、これらに限定はされない。本発明の範囲は、上述の明細書の記載よりも、添付されている請求の範囲の記載を優先して解釈され、請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0474】
以上説明したように本発明は、環境負荷が小さく、樹脂特性の高い植物系樹脂含有組成物を提供できる。また、本発明の植物系樹脂含有組成物を用いることにより、寸法性が高く、機械強度特性に優れる植物系樹脂含有成形体として、携帯電話やノートパソコン等の電子機器の外観部品を製造できる。
【符号の説明】
【0475】
1 試験片
2 試験台
3 バーナー
11 ポリアミド11樹脂
12 層状珪酸塩
13 ABS樹脂
21 試験片
22 ゲート
23 エンド
24 センター
25 樹脂流れ方向
26 イジェクトピン跡


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド11と、添加剤とを含む植物系樹脂含有組成物であって、
前記添加剤は、シリカ、ウォラストナイト、植物繊維、ガラスフレーク、ガラス繊維、及びタルクからなる群から選択された少なくとも1種類であることを特徴とする植物系樹脂含有組成物。
【請求項2】
前記添加剤は、シリカであり、
前記シリカの平均粒径が、0.01μm以上50μm以下である請求項1に記載の植物系樹脂含有組成物。
【請求項3】
前記添加剤は、ウォラストナイトである請求項1に記載の植物系樹脂含有組成物。
【請求項4】
前記添加剤は、植物繊維である請求項1に記載の植物系樹脂含有組成物。
【請求項5】
前記添加剤は、ガラスフレークであり、
前記ガラスフレークの平均粒径が、10μm以上50μm以下である請求項1に記載の植物系樹脂含有組成物。
【請求項6】
前記添加剤は、ガラス繊維であり、
前記植物系樹脂含有組成物は、さらにポリフェニレンサルファイドを含む請求項1に記載の植物系樹脂含有組成物。
【請求項7】
前記添加剤は、ガラス繊維であり、
前記ガラス繊維の断面の縦横比が、1:1.8〜1:5である請求項1に記載の植物系樹脂含有組成物。
【請求項8】
前記添加剤は、ガラス繊維であり、
前記植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃剤を含む請求項1に記載の植物系樹脂含有組成物。
【請求項9】
前記添加剤は、タルクであり、
前記植物系樹脂含有組成物は、さらに難燃剤を含む請求項1に記載の植物系樹脂含有組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の植物系樹脂含有組成物から形成されていることを特徴とする植物系樹脂含有成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−236443(P2011−236443A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189355(P2011−189355)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2007−536566(P2007−536566)の分割
【原出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】