説明

植物育成用光源装置

【課題】人に不快感を与えることなしに植物を効率よく育成することができる植物育成用光源装置を提供する。
【解決手段】本発明の植物育成用光源装置は、白色LEDと赤色LEDとを備えてなり、照射光の色温度が2800K〜6500Kであり、かつ、当該照射光における波長400〜500nmの放射束強度に対する波長600〜700nmの放射束強度の比が1.52〜4.56の範囲にあることを特徴とする。前記白色LEDは、その放射光の色温度が4000〜10000Kのものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEDを備えた植物育成用光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工の光源を利用して野菜、果物、花卉などを育成する植物工場の実用化が進んでおり、この植物工場においては、天候や昼夜、季節などの日射条件の影響を受けることなく、植物を安定的かつ効率的に育成することが可能である。
このような植物工場において使用される植物育成用光源装置としては、従来、植物の光合成に有効な波長660nm付近の赤色光および波長450nm付近の青色光を放射するものが用いられており、青色LEDと赤色LEDとを備えてなるもの(特許文献1参照。)、白色LEDと赤色LEDとを備えてなり、照射光の全放射エネルギー量に対する、波長600〜700nmの光の放射エネルギー量の割合が25〜50%で、波長500〜600nmの光の光放射エネルギー量の割合が15〜30%であるもの(特許文献2参照。)などが提案されている。
また、植物を育成するための光としては、一般に、赤色光の光合成量子束密度と青色光の光合成量子束密度との比が7:3〜9:1が好ましいとされている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の植物育成用光源装置においては、照射光は、青色LEDからの青色光と赤色LEDからの赤色光との混光、すなわち赤〜青紫色の光であるため、植物の育成において、水遣り、植付け、収穫などの作業を行う際に人に不快感を与える、という問題がある。また、植物を育成しながら鑑賞する場合には、光源として不適である。
また、特許文献2に記載の植物育成用光源装置においては、赤色光と青色光とのバランスが適正でないため、十分な光合成ができなかったり、植物の葉の形態形成が十分に行われなかったりする、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−103167号公報
【特許文献2】特開2010−130986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、人に不快感を与えることなしに植物を効率よく育成することができる植物育成用光源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の植物育成用光源装置は、白色LEDと赤色LEDとを備えてなり、照射光の色温度が2800K〜6500Kであり、かつ、当該照射光における波長400〜500nmの放射束強度に対する波長600〜700nmの放射束強度の比が1.52〜4.56の範囲にあることを特徴とする。
【0007】
本発明の植物育成用光源装置においては、前記白色LEDは、その放射光の色温度が4000〜10000Kのものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の植物育成用光源装置によれば、照射光の色温度が2800K〜6500Kであることにより、当該照射光は白色系の光として視認されるため、人に不快感を与えることがなく、しかも、照射光における波長400〜500nmの放射束強度に対する波長600〜700nmの放射束強度の比が1.52〜4.56の範囲にあることにより、植物を効率よく育成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の植物育成用光源装置の一例を示す正面図である。
【図2】図1に示す植物育成用光源装置における白色LEDユニットの構成を示す説明用断面図である。
【図3】図1に示す植物育成用光源装置における赤色LEDユニットの構成を示す説明用断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の植物育成用光源装置の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の植物育成用光源装置の一例を示す正面図である。この植物育成用光源装置10においては、矩形の枠体11内に複数の白色LED20および複数の赤色LED30が縦横に並ぶよう配置されている。
具体的に説明すると、互いに直列に接続された例えば15個の白色LED20が一方向(図1において左右方向)に並ぶよう配置されてなる例えば8つの白色LED列20Rと、それぞれ直列に接続された例えば15個の赤色LED30が一方向(図1において左右方向)に並ぶよう配置されてなる例えば8つの赤色LED列30Rとが、白色LED20および赤色LED30が並ぶ一方向に垂直な他方向に沿って交互に配列されている。
図示の例では、白色LED列20Rの各々は、互いに直列に接続された、それぞれ一方向に並ぶ3つの白色LED20を備えてなる5つの白色LEDユニット20Uが、互いに直列に接続された状態で一方向に並ぶよう配置されて構成され、一方、赤色LED列30Rは、互いに直列に接続された、それぞれ一方向に並ぶ3つの赤色LED30を備えてなる5つの赤色LEDユニット30Uが、互いに直列に接続された状態で一方向に並ぶよう配置されて構成されている。また、白色LED列20Rの各々は、互いに並列に接続された状態で電源に接続された点灯回路(図示省略)に電気的に接続され。一方、赤色LED列30Rの各々は、互いに並列に接続された状態で電源に接続された点灯回路(図示省略)に電気的に接続されている。
【0011】
図2は、白色LEDユニット20Uの構成を示す説明用断面図である。白色LEDユニット20Uは、例えばアルミニウムよりなる板状基体の表面に絶縁膜が形成されてなる基板27上に、3つの白色LED20が並ぶよう配置されて構成されている。
白色LED20の各々においては、配線基板21の表面上における中央位置には、青色LED素子22が固定されて配置され、透明性樹脂中に蛍光体が含有されてなる半球状のレンズ層23が、青色LED素子22の表面を覆うよう形成されている。また、配線基板21の表面には、当該配線基板21の表面から離間するに従って拡径するテーパ状の光反射面が形成された筒状の光反射部材24が、当該光反射面が青色LED素子22を包囲するよう配置され、この光反射部材24の外周面には樹脂よりなる筒状の筐体25が配置されている。また、光反射部材24の筒孔内には、当該光反射部材24の光反射面に適合するテーパ状の周面を有する、透明性樹脂またはガラスよりなるレンズ部材26が、その光入射面がレンズ層23に空気層Sを介して対向するよう配置されている。
【0012】
青色LED素子22としては、メタル基板上に、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)の窒化物よりなる4元系の光半導体材料を結晶成長させることによって得られるものを用いることができる。また、青色LED素子22からの光のピーク波長は例えば420〜470nmである。
レンズ層23中に含有される蛍光体としては、白色光が得られるものであれば特に限定されず、黄色蛍光体、緑色蛍光体、赤色蛍光体を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、具体的には、YAG系蛍光体、TAG系蛍光体などが挙げられる。
【0013】
図3は、赤色LEDユニット30Uの構成を示す説明用断面図である。赤色LEDユニット30Uは、例えばアルミニウムよりなる板状基体の表面に絶縁膜が形成されてなる基板37上に、3つの赤色LED30が並ぶよう配置されて構成されている。
赤色LED30の各々においては、配線基板31の表面上における中央位置には、赤色LED素子32が固定されて配置され、透明性樹脂よりなる半球状のレンズ層33が、赤色LED素子32の表面を覆うよう形成されている。また、配線基板31の表面には、当該配線基板31の表面から離間するに従って拡径するテーパ状の光反射面が形成された筒状の光反射部材34が、当該光反射面が赤色LED素子32を包囲するよう配置され、この光反射部材34の外周面には樹脂よりなる筒状の筐体35が配置されている。また、光反射部材34の筒孔内には、当該光反射部材34の光反射面に適合するテーパ状の周面を有する、透明性樹脂またはガラスよりなるレンズ部材36が、その光入射面がレンズ層33に空気層Sを介して対向するよう配置されている。
【0014】
赤色LED素子32としては、GaPよりなる基板上に、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)のリン化物よりなる4元系の光半導体材料を結晶成長させることによって得られるものを用いることができる。また、赤色LED素子32からの光のピーク波長は例えば640〜680nmである。
【0015】
本発明の植物育成用光源装置10においては、照射光の色温度が2800K〜6500Kとされる。照射光の色温度が2800K未満である場合には、照射光は赤みの大きいものであるため、人に不快感を与える。一方、照射光の色温度が6500Kを超える場合には、照射光は青みの大きいものであるため、目に対する刺激が強く、目がちかちかすることなど人に不快感を与える。
【0016】
また、白色LED20の各々は、その放射光の色温度が4000〜10000Kのものであることが好ましい。白色LED20放射光の色温度が4000K未満である場合には、当該放射光は赤味成分の割合が大きいものであるため、一般的に植物は節間伸長となる、という問題がある。また、赤味成分の割合が大きいことにより、植物本来の色を正しく観察することもできない。一方、白色LED20放射光の色温度が10000Kを超える場合には、当該放射光は青味成分の割合が大きいため、一般的に植物は徒長抑制されるが、アントシアニン含有による葉の着色が多くなりすぎる、という問題がある。
【0017】
また、本発明の植物育成用光源装置10においては、照射光における波長400〜500nmの放射束強度に対する波長600〜700nmの放射束強度の比(以下、「赤/青放射束強度比」という。)が1.52〜4.56とされる。赤/青放射束強度比が1.52未満である場合には、照射光における波長600〜700nmの赤色光の割合が小さいため、植物の育成において適正な形態形成を行うことができず、植物の茎が細くなったり、葉のみが大きく成長したりする。一方、赤/青放射束強度比が4.56を超える場合には、照射光における波長400〜500nmの青色光の割合が小さいため、植物の成長が抑制されたり、正常な育成を続けられなくなったりする。
【0018】
ここで、植物を育成するための光としては、一般に、赤色光の光合成量子束密度と青色光の光合成量子束密度との比が7:3〜9:1が好ましいとされている。
照射光における赤/青放射束強度比と、植物における青色光の光合成量子束密度に対する赤色光の光合成量子束密度の比(以下、「赤/青光合成量子束密度比」という。)との関係について説明すると、植物の光合成感度曲線において、波長400〜500nmの青色光の感度と、波長500〜700nmの緑色光の感度と、波長600〜700nmの赤色光の感度と比が約24:32:44である(特開2009−87602号公報参照)ことから、
赤/青光合成量子束密度比=(赤/青放射束強度比)×44/24
の式が成り立つ。
従って、照射光の赤/青放射束強度比が1.52〜4.56であれば、赤/青光合成量子束密度比は2.79〜8.36となり、植物を育成するための光として適正なものである。
【0019】
本発明の植物育成用光源装置10においては、白色LED20または赤色LED30に供給される直流電流の電流値を変えたり、白色LED20と赤色LED30との個数比を変えたり、白色LED20を色温度の異なるものに変更することによって、照射光の色温度や、赤/青放射束強度比を調整することができる。
【0020】
本発明の植物育成用光源装置10によれば、照射光の色温度が2800K〜6500Kで、例えば白熱電球乃至蛍光灯と同等の色温度であることにより、当該照射光は白色系の光として視認されるため、人に不快感を与えることがなく、しかも、照射光における波長400〜500nmの放射束強度に対する波長600〜700nmの放射束強度の比が1.52〜4.56の範囲にあることにより、植物を効率よく育成することができる。
【0021】
本発明の植物育成用光源装置においては、上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
例えば白色LED20および赤色LED30の各々の数および配列は、照射光の色温度および赤/青放射束強度比が上記の範囲内にあれば、図1に示すものに限定されず適宜設定することができる。
また、白色LED20および赤色LED30の接続状態は特に限定されず、例えば白色LED20および赤色LED30の全部が直列に接続されていてもよく、白色LEDユニット20Uまたは赤色LEDユニット30Uごとに並列に接続されていてもよい。。
また、白色LED20および赤色LED30は、点灯回路を介して異なる電源に接続されていてもよい。
また、照射光の色温度または赤/青放射束強度比を調整することを目的として青色LEDが設けられていてもよい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の植物育成用光源装置の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
LEDとして下記の仕様の白色LED(1)〜白色LED(5)および赤色LED(1)を用い、下記表1に示す条件に従って本発明に係る植物育成用光源装置A1〜A8および比較用の植物育成用光源装置B1〜B7を作製した。
【0024】
[白色LED(1)]
定格電流が350mA、ピーク波長が450nmの青色LED素子を備えてなり、放射光の色温度が10000Kのもの。
[白色LED(2)]
定格電流が350mA、ピーク波長が450nmの青色LED素子を備えてなり、放射光の色温度が7000Kのもの。
[白色LED(3)]
定格電流が350mA、ピーク波長が450nmの青色LED素子を備えてなり、放射光の色温度が6000Kのもの。
[白色LED(4)]
定格電流が350mA、ピーク波長が450nmの青色LED素子を備えてなり、放射光の色温度が4000Kのもの。
[白色LED(5)]
定格電流が350mA、ピーク波長が450nmの青色LED素子を備えてなり、放射光の色温度が3000Kのもの。
[赤色LED(1)]
定格電流が350mA、ピーク波長が660±2.5nm、放射強度が約110mWの赤色LED素子を備えてなるもの。
【0025】
【表1】

【0026】
植物育成用光源装置A1〜A8および植物育成用光源装置B1〜B7の各々について、下記表2に示す条件で点灯させ、以下の方法により、照射光の赤/青放射束強度比、色温度、色度、平均演色評価指数Ra、および赤/青光合成量子束密度比を測定すると共に、照射光の白色度試験および植物育成試験を行った。結果を表2に示す。
【0027】
[赤/青放射束強度比、色温度、色度および平均演色評価指数の測定方法]
植物育成用光源装置における光照射面以外の5面を白色板(硫酸バリウムによる塗装などが施された、表面における波長400〜700nmの反射率が90%以上のもの)で覆い、光照射面から20cm離れた位置において、ウシオ製分光放射照度計スペクトロラジオメータ(USR−45V/D)により、赤/青放射束強度比を測定すると共に、色温度(JIS Z 8725準拠)、色度(JIS Z 8724準拠)および平均演色評価指数(JIS Z 8726準拠)を測定した。
[赤/青光合成量子束密度比の測定方法]
赤/青放射束強度比の値から下記式により算出した。
赤/青光合成量子束密度比=(赤/青放射束強度比)×44/24
[白色度試験方法]
10人の観察者による官能評価により、放射光の白色度を白色度を調査し、8割以上が白色に感じた場合を○、それ以外を×とした。
[植物育成試験方法]
育成作物種として、稲などの穀物類、イチゴ、葉菜類などがあるが、本試験では、比較的育成の簡単な葉菜類のリーフレタスを選択し、徒長、茎太さ、葉の厚みおよび大きさを評価し、いずれも問題なく成長したものを○とし、それ以外を×とした。
【0028】

【表2】

【0029】
表2の結果から明らかなように、本発明に係る植物育成用光源装置A1〜A8によれば、人に不快感を与えることがなしに植物を効率よく育成することが可能であることが理解される。
【符号の説明】
【0030】
10 植物育成用光源装置
11 枠体
20 白色LED
20R 白色LED列
20U 白色LEDユニット
21 配線基板
22 青色LED素子
23 レンズ層
24 光反射部材
25 筐体
26 レンズ部材
27 基板
30 赤色LED
30R 赤色LED列
30U 赤色LEDユニット
31 配線基板
32 赤色LED素子
33 レンズ層
34 光反射部材
35 筐体
36 レンズ部材
37 基板
S 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色LEDと赤色LEDとを備えてなり、照射光の色温度が2800K〜6500Kであり、かつ、当該照射光における波長400〜500nmの放射束強度に対する波長600〜700nmの放射束強度の比が1.52〜4.56の範囲にあることを特徴とする植物育成用光源装置。
【請求項2】
前記白色LEDは、その放射光の色温度が4000〜10000Kのものであることを特徴とする請求項1に記載の植物育成用光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−239417(P2012−239417A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112095(P2011−112095)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】