説明

植物育成装置及び透光性部材

【課題】赤色光優勢光源の下で、植物の視認性及び鑑賞性に優れ、植物本来の色を観察することができる植物育成装置及びそれに利用可能な透光性部材を提供する。
【解決手段】内部に植物を収容可能な空間を有し、透光性を有する窓部が形成されたケーシングと、その空間内に光を照射する光源とを備えた植物育成装置であって、前記光源が、赤色光と赤色光以外の可視光とを、赤色光が光合成光量子束密度値で50%以上となるように発するものであり、前記窓部には、赤色光を優勢的に内側に反射する反射膜が設けられているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工光を照射して植物を栽培する植物育成装置及びそれに利用可能な透光性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工光を照射して植物を栽培する植物育成装置が知られている。当該植物育成装置では、植物の生育を促進するために、多くの場合、赤色光が優勢的に用いられるが、このような場合、植物育成装置内の植物は装置外からは赤みを帯びて見える(非特許文献1、2)。
【0003】
このように植物が本来の色とは異なり赤みを帯びて見えると、育成対象が野菜である場合は食欲をそそらず、鑑賞性も低下してしまう。また、植物本来の色が確認できないと、植物の健康状態を把握することが困難になり、育成管理が難しくなる。
【0004】
更に、植物の生育を促進するために照射した赤色光が装置外に漏出すると、植物への赤色光の照射効率が低下してしまい、充分な植物の生育促進効果が得られにくくなる。
【0005】
特許文献1には、白色LEDと異色LEDとを使用した植物育成鑑賞装置において、透光性の筒状カバーに波長選択反射膜を設けることが開示されている。しかし、先行文献1では、異色LEDとして青緑色LEDが使用されており、赤色LEDを使用することは開示されていない。また、波長選択反射膜がどの程度の割合で青緑色光を反射するかは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3158290号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://ameblo.jp:80/ledsaien/entry-10989832245.html
【非特許文献2】http://www.keystone-tech.co.jp/news/piccolo-A4.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みなされたものであって、赤色光優勢光源の下で、植物の視認性及び鑑賞性に優れ、植物本来の色を観察することができる植物育成装置及びそれに利用可能な透光性部材を提供することをその主たる所期課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る植物育成装置は、内部に植物を収容可能な空間を有し、透光性を有する窓部が形成されたケーシングと、その空間内に光を照射する光源とを備えた植物育成装置であって、前記光源が、赤色光と赤色光以外の可視光とを、赤色光が光合成光量子束密度値で50%以上となるように発するものであり、前記窓部には、赤色光を優勢的に内側に反射する反射膜が設けられていることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、光源からは、赤色光と赤色光以外の可視光との混合光が、赤色光が優勢となるように射出しているところ、前記窓部が赤色光の一部をカットすることにより、光源から窓部へ直接向かい窓部を透過して装置外に放射される光をより自然な光、例えば白色光とすることができる。その場合、本発明に係る植物育成装置内で育成されている植物を、ケーシングに設けられた窓部を介して外部から観察すると、当該観察者には光源からは白色光が射出されているように視認され、植物育成装置内で育成されている植物を植物本来の色をもって観察することができる。従って、本発明によれば、植物を育成するための光として赤色光を使用しても、植物の健康状態を正確に把握することができるとともに、植物の鑑賞性も向上する。
【0011】
また、本発明によれば、植物の生育を促進する赤色光が窓部を介して装置外に漏出することを防ぐことができるので、赤色光の利用率が上がり、効率的に植物を生育することができる。このため、赤色LEDの設置数を抑えたり、赤色光の強度を下げたりしても、効率的に植物を生育することができる。なお、このような赤色光を優勢的に反射する反射膜が形成されたカットフィルタとしては、例えば、赤色光を90%程度反射するものが入手可能である。また、反射膜としてはフィルム以外にコーティングであってもよい。更に、赤色光を優勢的に反射するマジックミラーやハーフミラーであってもよい。
【0012】
前記光源及び前記反射膜は、前記光源から前記窓部へ直接向かい前記窓部を透過して装置外へ放射される光が白色光となるように構成してあることが好ましい。
【0013】
前記光源としては、例えば、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED、緑色LED、及び、青色LEDを具備するものが用いられる。
【0014】
また、前記光源としては、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED、及び、青色LED素子と黄色蛍光体とを備えた白色LEDを具備するものを用いてもよい。
【0015】
更に、前記光源としては、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED、及び、青色LED素子と緑色蛍光体とを備えたLEDを具備するものや、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED、及び、青色LED素子と黄色蛍光体と緑色蛍光体とを備えたLEDを具備するものを用いてもよい。
【0016】
前記赤色LEDとしては、そのピーク波長が光合成に利用されやすい650〜670nmの波長領域に含まれる赤色光を発するものが好適に用いられる。
【0017】
更に必要に応じて窓部に緑色の透光性膜を設けて、窓部から外部に放射される光の色補正を行ってもよい。
【0018】
赤色光を用いて大規模に植物を栽培する植物育成工場では、以下のような構成を有する透光性部材を備えた窓を設けることにより、本発明に係る植物育成装置と同様に植物本来の色を観察することができる。すなわち本発明に係る透光性部材は、赤色光と赤色光以外の可視光との混合光を、赤色光が50%以上優勢となるように発し、当該光を植物に向けて照射する光源が設けられた植物育成空間と、他の空間とを仕切る透光性部材であって、赤色光を優勢的に反射する反射膜が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
このような構成の本発明によれば、植物の視認性及び鑑賞性とともに、植物本来の色を観察することができる植物育成装置を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る植物育成装置の全体斜視図。
【図2】同実施形態に係る植物育成装置の内部構成を示す図。
【図3】同実施形態における植物育成槽を示す断面図。
【図4】同実施形態における光源を示す平面図。
【図5】同実施形態における窓部での光の透過状態を示す図。
【図6】他の実施形態における窓部での光の透過状態を示す図。
【図7】他の実施形態における窓部での光の透過状態を示す図。
【図8】他の実施形態に係る植物育成工場の植物育成室の外観を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る植物育成装置1は、植物Vの水耕栽培を小規模に行うためのものであり、図1〜3に示すように、内部に植物Vを収容してこれを育成するためのケーシング2と、当該ケーシング2内に設けられた植物育成槽3と、植物育成槽3内で育成されている植物Vに上方から光を照射する光源4と、を備えている。
【0023】
以下に各部を詳述する。
ケーシング2は、中空直方体状をなすもので、各壁の内面は略全面白色反射面に構成されている。当該ケーシングには、透光性の窓部21が形成されている。
【0024】
窓部21は、ケーシング2の前壁に形成されており、ケーシング2の前壁に形成された開口部に開閉可能に取り付けられた透明板211から構成されている。当該透明板211の全面には赤色光を90%程度反射するカットフィルタ212が貼付してある。当該カットフィルタ212としては、具体的には、例えば、600nm付近に光の反射率と透過率との高低が逆転する境界を有し、約600nm以上の波長範囲で反射率が高まる誘電体多層膜(例えば、シャープカットフィルタ)が基板上に形成されたもの等が用いられる。
【0025】
植物育成槽3は、植物Vを育成するために必要な栄養分が含まれた養液Nが流れるように構成されているものであり、概略直方体状の上面が開口した槽である。植物育成槽3には、養液Nを貯留する養液貯留タンク31と、養液貯留タンク31から養液Nを汲み上げるポンプ32と、規定の水位を超えた養液Nを養液貯留タンク31に戻すオーバーフロー部33と、植物Vを養液N上に浮かべるための植物載置部34(図示しない)と、が設けられている。
【0026】
養液貯留タンク31には、大量の養液Nが貯留してあり、ポンプ32とオーバーフロー部33が接続してある。養液貯留タンク31は、蒸発や植物Vの蒸散等により植物育成槽3内の養液Nが減少した場合に養液Nの補充を行う等するために用いられる。
【0027】
ポンプ32としては、例えば、水生生物を鑑賞するための水槽において水を循環させるために用いられるような小型の水中ポンプが用いられる。なお、水中ポンプは、内部の回転部分や軸受けが液体で満たされている状態においてポンプ作用を営むことを前提として設計されているものである。ポンプ32は、養液貯留タンク31から養液Nを汲み上げる程度の容量を備えたものであり、養液貯留タンク31の養液N中に吸入口321が開口してあり、植物育成槽3に養液Nを吐出するための吐出口322が開口してある。
【0028】
オーバーフロー部33は、規定の液量を超えた養液Nを養液貯留タンク31へと戻すように構成したものである。本実施形態では、植物育成槽3において既定の液量に対応する水位の高さに上向きに開口する排水口331が設けてあり、余分な養液Nは、排水口331から排水管を通って、養液貯留タンク31へと流すことができるように構成してある。
【0029】
植物載置部34(図示しない)は、植物育成槽3の側面板内面に掛けるための係止部を備えた板状体のものであり、当該板状体には貫通孔が設けており、当該貫通孔を通して植物Vの根を養液Nに浸漬できるようにしてある。
【0030】
養液Nは、ポンプ32により養液貯留タンク31から植物育成槽3へと移動し、植物育成槽3のオーバーフロー部33により余剰の養液Nは養液貯留タンク31へと戻り、植物育成槽3と養液貯留タンク31との間で循環する。
【0031】
光源4は、配線基板41に多数のLED42を敷設したもので、LED42から射出される光が植物Vの方に向けて進行するように設置してある。LED42としては、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED42Rと、緑色LED42Gと、青色LED42Bとが用いられており、各色LED42から射出される光合成光量子束密度(以下、PPFDという。)が、赤色LED42R:緑色LED42G:青色LED42B=10:1:1となるように調節・制御されている。当該PPFD比は、各色LED42の設置数を調整することによって調節することができ、例えば、各色LED42から発する光の強度が同等であるときは、図4に示すように、配線基板41に敷設する各色LED42の数の比を、赤色LED42R:緑色LED42G:青色LED42B=10:1:1とすればよい。また、各色LED42に流れる電流値を制御し発光比率や発光量を変えることによっても、PPFD比を調節することができる。
【0032】
このようなものであれば、図5に示すように、光源から射出される各色のPPFDの比が、赤色光:緑色光:青色光=10:1:1となるように設定されているところ、赤色光の90%程度は窓部21に設けられたカットフィルタ212により反射されるので、光源4から窓部21へ直接向かい窓部21から装置外に放射される光は、赤色光、緑色光、及び、青色光が、およそ、赤色光:緑色光:青色光=1:1:1のPPFD比で混ざり合った白色光となる。このため、植物育成装置1内で育成されている植物Vを、窓部21を介して観察すると、当該観察者には光源4からは白色光が射出されているように認知され、植物育成装置1内で育成されている植物Vを植物本来の色をもって観察することができる。従って、本実施形態によれば、植物Vを育成するための光として赤色光を使用しても、植物Vの健康状態を正確に把握することができるとともに、植物Vの鑑賞性も向上する。
【0033】
また、植物Vの生育を促進する赤色光が窓部21を介して装置外に漏出することを防ぐことができるので、赤色光の利用率が上がり、効率的に植物Vを育成することができる。このため、赤色LED42Rの設置数を抑えたり、赤色光の強度を下げても、効率的に植物Vを育成することができる。
【0034】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0035】
例えば、図6に示すように、光源4に設けるLED42として、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED42Rと、青色LED素子とYAG等の黄色蛍光体とを備えた白色LEDとを用い、各色LED42から射出される光の強度の比が、赤色LED42R:白色LED=5:1となるように調節・制御されていてもよい。
【0036】
このようなものであれば、青色LED素子と黄色蛍光体とを備えた白色LEDから発せられる白色光は、青色光と黄色光との混合光であって、やや青みを帯びた寒色系の白色光であり、一方、赤色光のうちの10%程度はカットフィルタ212により反射されずに窓部21を通して装置外に漏出するので、光源4から窓部21に直接向かい窓部21から装置外に放射される光は、寒色系の白色光と赤色光との混合光である赤みを帯びた暖色系の白色光となる。
【0037】
この場合、図7に示すように、更に透明板211に緑色の透光性フィルム213を貼付すれば、赤みを帯びた暖色系の白色光をより自然な白色光に色補正することが可能となる。
【0038】
また、LED42として、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED42Rと、緑色LED42Gと、青色LED42Bとを用いる場合であっても、各色LED42から射出されるPPFD比は、赤色LED42R:緑色LED42G:青色LED42B=10:1:1に限られず、育成対象である植物Vの生育に好適なPPFD比となるよう適宜決定すればよい。
【0039】
なお、この場合は、窓部21に貼付するカットフィルタ212が赤色光を反射する割合は90%に限定されず、窓部21を透過した赤色光の残部と赤色光以外の可視光との混合光が白色光として視認されるように、適宜赤色光の反射割合(透過割合)を設定すればよい。
【0040】
更に、本発明で用いられる反射膜は赤色光を優勢的に反射するものであれば、赤色光だけでなく、青色光や緑色光をある程度反射するものであってもよい。
【0041】
また、光源4に設けるLED42としては、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED42Rと、青色LED素子と緑色蛍光体とを備えたLEDとを組み合わせて用いてもよく、更には、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED42Rと、青色LED素子と黄色蛍光体と緑色蛍光体とを備えたLEDとを組み合わせて用いてもよい。光源4をこのように構成した場合であっても、植物育成装置1の窓部21からは白色光が放射されるので、植物育成装置1内で育成されている植物Vを植物本来の色をもって観察することができる。
【0042】
更に、前記実施形態では、植物育成装置1の窓部21に赤色光を反射するカットフィルタ212を設けたが、植物育成工場の植物育成室10の窓11に同様な赤色光を反射するカットフィルタ212を設けることにより、植物育成用の光として赤色光を用いる大規模な植物育成工場においても、見学者や作業者が植物本来の色を観察することが可能となる。
【0043】
その他、本発明は上記の各実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、前述した種々の構成の一部又は全部を適宜組み合わせて構成してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1・・・植物育成装置
2・・・ケーシング
21・・・窓部
212・・・カットフィルタ
4・・・光源
42・・・LED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に植物を収容可能な空間を有し、透光性を有する窓部が形成されたケーシングと、その空間内に光を照射する光源とを備えた植物育成装置であって、
前記光源が、赤色光と赤色光以外の可視光とを、赤色光が光合成光量子束密度値で50%以上となるように発するものであり、
前記窓部には、赤色光を優勢的に内側に反射する反射膜が設けられていることを特徴とする植物育成装置。
【請求項2】
前記光源及び前記反射膜が、前記光源から前記窓部へ直接向かい前記窓部を透過して装置外へ放射される光が白色光となるように構成してある請求項1記載の植物育成装置。
【請求項3】
前記光源が、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED、緑色LED、及び、青色LEDを具備するものである請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項4】
前記光源が、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED、及び、青色LED素子と黄色蛍光体とを備えた白色LEDを具備するものである請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項5】
前記光源が、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED、及び、青色LED素子と緑色蛍光体とを備えたLEDを具備するものである請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項6】
前記光源が、600〜680nmの波長領域に含まれる赤色光を発する赤色LED、及び、青色LED素子と黄色蛍光体と緑色蛍光体とを備えたLEDを具備するものである請求項1又は2記載の植物育成装置。
【請求項7】
前記窓部には、緑色の透光性膜が設けられている請求項3、4、5又は6記載の植物育成装置。
【請求項8】
前記赤色LEDは、そのピーク波長が650〜670nmの波長領域に含まれる赤色光を発するものである請求項3、4、5、6又は7記載の植物育成装置。
【請求項9】
赤色光と赤色光以外の可視光との混合光を、赤色光が50%以上優勢となるように発し、当該光を植物に向けて照射する光源が設けられた植物育成空間と、他の空間とを仕切る透光性部材であって、
赤色光を優勢的に反射する反射膜が設けられていることを特徴とする透光性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−99266(P2013−99266A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244167(P2011−244167)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(596099446)シーシーエス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】