説明

検出具の施工用シート及び施工方法

【課題】密着性のよい取り付けが可能な検出具の施工用シート及び施工方法を提供すること。
【解決手段】粘着力の弱い中央粘着部32と、その中央粘着部32の周りに配置された粘着力の強い外周粘着部31とを備えた粘着シートに対し、検知線11とフィルム12とを一体に重ねた検出具13が中央粘着部32に剥離可能に貼り付けられ、更に粘着シート31,32には、検出具13に合わせて開口部33aの形成されたマスキングシート33が、粘着部31,32に対して剥離可能に貼り付けられた検出具の施工用シート30。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属疲労による構造体などの亀裂をモニタリングする疲労亀裂検知システムを構成する検出具の施工用シート及び施工方法に関し、特に曲面部分などの平面でない検出部分に対して簡単に、且つ適切に取り付けることが可能な検出具の施工用シート及び施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼橋などには、疲労亀裂を早期発見するため手段として下記特許文献1に示すような疲労亀裂検知システムが利用されている。同システムでは、鋼橋表面に検知線が貼り付けられ、鋼橋の亀裂に伴って生じる当該検知線の断線状況を検出することで亀裂の発生が確認されていた。そこで使用される検知線は、鋼橋の亀裂想定箇所を通るようにして貼り付けられるが、同文献のもでは、2本の検知線を一対のフィルムで挟み込んだ検出具が用いられ、それが鋼橋に対して硬めの接着剤によって接着される。
【特許文献1】特開2005−156552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述した従来の疲労亀裂検知システムでは、構造物に疲労亀裂が発生した場合に接着剤が割れ、それと同時に接着された検知線も切れなければならない。そのため、構造物表面に密着していることが重要であり、例えば浮いているような接着状態は避けなければならない。そこで従来は、構造物表面に塗布した接着剤に検出具を当て、気密な接着状態を得るためローラなどで押さえ込み、板状マグネットで接着及び養生していた。
しかし、それでは検出具の取り付けに手間がかかる他、平面では問題ないものの検出箇所が曲面や段差面などのように複雑な形状の表面では、検出具の適切な取り付けが困難であった。すなわち、湾曲したり折り曲げられた状態の検出具は、フィルムの弾性力によって接着剤が固まる前に浮いてしまうなどして、密着した取り付けが困難であった。
【0004】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、密着性のよい取り付けが可能な検出具の施工用シート及び施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る検出具の施工用シートは、粘着力の弱い中央粘着部と、その中央粘着部の周りに配置された粘着力の強い外周粘着部とを備えた粘着シートに対し、検知線とフィルムとを一体に重ねた検出具が前記中央粘着部に剥離可能に貼り付けられ、更に前記粘着シートには、前記検出具に合わせて開口部の形成されたマスキングシートが、前記粘着部に対して剥離可能に貼り付けられたものであることを特徴とする。
また、本発明に係る検出具の施工用シートは、前記粘着シートが、粘着力の強い面積の大きな外シートに対し、粘着力の弱い面積の小さな内シートを粘着面が同一方向になるように重ね合わせたものであることが好ましい。
また、本発明に係る検出具の施工用シートは、前記外シートはクラフト粘着テープ又は布粘着テープで形成され、前記内シートはビニールテープで形成されたものであることが好ましい。
【0006】
本発明に係る検出具の施工方法は、粘着力の弱い中央粘着部と、その中央粘着部の周りに配置された粘着力の強い外周粘着部とを備えた粘着シートに対し、検知線とフィルムとを一体に重ねた検出具を前記中央粘着部に剥離可能に貼り付け、前記検出具に合わせた開口部の形成されたマスキングシートを前記粘着部に対して剥離可能に貼り付け、前記マスキングシートの開口部から現れる前記検出具に接着剤を塗布し、前記マスキングを剥がして前記検出具が被検出物の所定箇所に位置するように前記粘着シートを当該被検出物に貼り付け、前記接着剤が乾いた後に前記粘着シートを剥がすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明によれば、施工用シートを用いることにより、その施工用シートに接着剤を塗布し、マスキングシートを剥がして所定の検出対象箇所に貼り付け、接着剤が乾いた後に粘着シートを剥がすだけで、簡単に検出具を取り付けることができる。しかも接着剤が乾くまで粘着シートが検出具を押さえ付けているため、検出具を被検出物に対して密着性よく取り付けることができる。そして、粘着シートを外シートと内シートを重ね合わせた簡単な構成にし、しかも外シートにクラフト粘着テープや布粘着テープを、内シートにはビニールテープを使用することにより、極めて安価に施工用シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明に係る検出具の施工用シート及び施工方法について一実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
先ず、本実施形態の検出具を説明する前に、検出具が使用される亀裂検知システムについて簡単に説明する。図1は、亀裂検知システムを示した概念図である。この亀裂検知システム1は、被検出物Wに取り付ける亀裂検知装置10と、その亀裂検知装置10から送信される亀裂情報を受信及び管理する情報管理装置20とから構成されている。
【0009】
亀裂検知装置10は、非接触型のICタグを使用したものであり、そのICタグとの通信により、情報管理装置20によって亀裂情報が管理できるように構成されている。亀裂検知装置10は、被検出物Wに対し、亀裂Rの発生が予測される亀裂想定箇所に検知線11が接着される。検知線11は、検知装置本体15から出た導線16に接続され、閉回路となるように構成されている。
【0010】
ここでは、中間に位置する直線部11aが、被検出物Wにおいて亀裂が発生し易い箇所に対応している。そして、その直線部分11aに、検知線11をフィルムで挟み込んだ検出具13が使用され、その検出具13が、被検出物Wに対して接着剤によって固められた状態で取り付けられている。これにより、被検出物Wに亀裂Rが入った場合、その亀裂Rが検出具13にも達し、固められた接着剤とともにフィルムや検知線11が切れるようになっている。なお、検出具13以外の部分の検知線11は、被検出物Wに対して接着剤などで単純に接着され、検知装置本体15は両面テープなどによって被検出物Wへ接着される。
【0011】
検知装置本体15は、検知線11の断線情報を記憶し、情報管理装置20との間で情報の送受信を行うICタグが設けられている。そのICタグは、情報の記憶や送受信などを制御するCPUからなる制御部や、断線情報を記憶するメモリ、検知線11の断線による通電遮断状態を保持する自己保持回路、そして無線通信するための通信回路やアンテナからなる通信部などを備え、それらが集積されたICチップによって形成されている。
【0012】
亀裂検知装置10は、ICタグや電源が小型ケースに入れられた軽量なものであって、場合によってはシリコンが充填され、防振、防湿および防塵によって障害を防止できるようになっている。そして、電源から検知線11に対して電流が流され、その通電の遮断によって亀裂Rの発生によって生じる検知線11の断線を検知するよう構成されている。
【0013】
一方、情報管理装置20は、亀裂検知装置10との間でデータの受信を行うためのアンテナ21が設けられ、それがデータ処理を行う情報管理装置としてパーソナルコンピュータ(管理PC)22がケーブル23によって接続されている。この管理PC22には、亀裂検知装置10から受け取った情報をディスプレイに表示し、亀裂の状態を確認するようになっている。また、表やグラフにする管理ソフトが格納されている。
【0014】
こうした亀裂検知システム1では、例えば図2に示すように、被検出物Wであるロボットアーム40へ取り付けられる。なお、図に示した亀裂検知装置10の大きさは、ロボットアーム40に対する実際の比率とは異なる。この亀裂検知装置10は、検知装置本体15と検知線11が被検出物であるアームロボット40に取り付けられるが、特に検知線11の一部である検出具13が亀裂発生可能箇所であるアーム治具41のクランク部分などに接着剤によって固められる。
【0015】
ところで、亀裂Rの発生が予測される亀裂想定箇所は平面ばかりではなく、曲面や段差面があるが、極めて微小な初期の疲労亀裂を検出するためには、検出具13が取付面から浮くことなく接着剤によって気密に固定されることが重要である。そこで本実施形態では、曲面や段差面などのように平面ではない場所でも確実に検出具13を適切に取り付けることができるように、以下に説明する施工用シートを利用した施工方法が採用されている。
【0016】
図3は、検出具の施工用シートを示した図であり、図(a)から図(d)にかけて施工用シート30の作成工程と、検出具の接着時の状態が示されている。
施工用シート30は、先ず図3(a)に示すように、面積の大きい長方形の外シート31に対し、その中央に面積の小さい長方形の内シート32が接着面を上にして重ねられて粘着シートが形成される。外シート31は粘着力が強いものであって、例えばクラフト粘着テープや布粘着テープが使用され、内シート32は比較的粘着力が弱いものであって、例えばビニールテープが使用される。
【0017】
次に、図3(b)に示すように、2本の検知線11が一対のフィルム12に挟み込まれた検出具13が、粘着シートの内シート32部分に貼り付けられる。その後、外シート31の大きさに合わせた長方形状であって、中央部分には検出具13の大きさに合わせた開口部33aの形成されたマスキングシート33が、外シート31及び内シート32の粘着面に重ねられている。
【0018】
マスキングシート33は、外シート31や内シート32から容易に剥がすことができるようにフッ素樹脂シートなどが使用される。こうして、施工用シート30は、通常はマスキングシート33によって粘着シートの接着面が隠され、開口部33aから検出具13が表に現れた状態で構成されている。こうして、検出具13の取り付けが何時でもできるように施工用シート30が用意されている。
【0019】
そこで、検出具13を被検出物に接着させる施工方法では、この施工用シート30が使用される。
検出具13の取り付けに当たっては、先ず図3(d)に示すように、マスキングシート33の開口部33aを埋めるようにして検出具13の上に接着剤35が塗布される。マスキングシート33は、開口部33aが検出具13の大きさに合わせて形成されているため、開口部33aからはみ出した分はマスキングシート33に付着して取り除かれる。従って、マスキングシート33が剥がされると、検出具13には接着剤35が綺麗に重ねられて塗布される。
【0020】
そして、マスキングシート33を剥がすことで、接着剤35の周りの外シート31が現れる。そこで、図4に示すように外シート31が被検出物Wに貼り付けられる。図4は、被検出物Wの亀裂想定箇所であって、角パイプ43の端部がベースプレート45に突き当てられ、当該部分が溶接によって接合されている。施工用シート30は、このような亀裂想定箇所に対し、直交する角パイプ43とベースプレート45の表面と、その間の溶接面との形状に沿うように折り曲げられ、外シート31の接着力によって貼り付けられる。
【0021】
そして、接着剤35が乾燥して被検出物Wに検出具13が固定されるまで、この外シート31による押さえの状態が維持される。このとき、外シート31の下では、検出具13と接着剤35とが被検出物Wに押さえ付けられるようにして保持されている。検出具13は、その周りが全て粘着力の強い外シート31の接着によって押さえられているため、2面の面形状に沿って接着剤35が安定して押さえ付けられ、その状態が維持される。
【0022】
続いて、所定時間の経過によって接着剤35が固まると、外シート31が被検出物Wから剥がされる。このとき外シート31は粘着力が強いが、検出具13や接着剤35が直接貼り付けられている内シート32は粘着力が弱いため、外シート31を剥がす際に一緒になって検出具13を剥がしたり、引張りによって浮かせてしまうことなく取り外すことができる。そして、外シート31と内シート32が剥がされた後は、被検出物Wには図5に示すように、角パイプ43やベースプレート45の表面に沿って接着剤35で固定された検出具13が残る。
【0023】
被検出物Wには、図1及び図2に示すように検知装置本体15が貼り付けられ、そこから出た導線16と検出具13が接続されて閉回路が構成される。それには、検出具13において、例えばフィルム12の端部が部分的に剥がされ、現れた検知線11に対して、検知装置本体15から出た導線16が接続される。なお、本実施形態の検出具13は、検知線11とフィルム12の長さが揃えられているが、検知線11の端部がはみ出るように形成したものであってもよい。
【0024】
ところで、こうして検出具13を取り付けた亀裂検知システム1では、図2に示す被検出物Wのロボットアーム40の駆動が行われる間、検知線11に対しては常時通電が行われ、その通電状態を監視することによって亀裂検出が行われる。その際、情報管理装置20へは一定時間間隔で通電情報が送信され、通電確認が行われている。そして、所定の条件に従った断線状態が確認されると、亀裂であると判断され、その情報が所定の無線通信間隔で情報管理装置20へ送られ、そこでは、受け取った情報をディスプレイに表示し、亀裂の状態を確認する。また、表やグラフにし管理データを作成する。
【0025】
よって、本実施形態によれば、施工用シート30を使用して検出具13を固定するようにしたため、被検出物Wの亀裂想定箇所が図4及び図5に示すような直角の面などであっても、検出具13を浮かせることなく密着性良く接着剤35によって固定させることが可能になった。しかも、施工用シート30を使用すれば、接着剤35を塗布し、マスキングシート33を剥がして外シート31を貼り付けるだけの、極めて簡単な作業で検出具13を被検出物Wに固定させることができるようになった。また、施工用シート30は、接着剤が乾くまでの間、外シート31が検出具13を覆うようことによって養生するものとしても機能させることができる。更に、検出具13に接着剤35を塗布する際、マスキングシート33によって綺麗に塗布することができ、しかも簡単に行うことができる。
【0026】
以上、本発明に係る検出具の施工用シート及び施工方法の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、ほぼ直角な面に施工用シート30を使用して検出具13を固定する場合を示したが、このような形状以外にも取り付け可能である。
また、前記実施形態では、外シート31と内シート32の2枚を重ねた粘着シートを示したが、粘着力が部分的に異なる一枚の粘着シートから構成されるものであってもよい。
また、外シート31や内シート32に透明の粘着シートを使用し、接着や固定の状態が分かりやすいものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】亀裂検知システムを示した概念図である。
【図2】亀裂検知システムの被検出物への取り付け状態を示した図である。
【図3】検出具の施工用シートを示した図であり、当該施工用シートの作成工程と検出具の接着時の状態を示した図である。
【図4】被検出物の亀裂想定箇所に施工用シートを貼り付けた状態を示した図である。
【図5】被検出物の亀裂想定箇所に施工用シートによって検出具を貼り付けた状態を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
11 検知線
12 フィルム
13 検出具
30 施工用シート
31 外シート
32 内シート
33 マスキングシート
35 接着剤
W 被検出物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着力の弱い中央粘着部と、その中央粘着部の周りに配置された粘着力の強い外周粘着部とを備えた粘着シートに対し、検知線とフィルムとを一体に重ねた検出具が前記中央粘着部に剥離可能に貼り付けられ、更に前記粘着シートには、前記検出具に合わせて開口部の形成されたマスキングシートが、前記粘着部に対して剥離可能に貼り付けられたものであることを特徴とする検出具の施工用シート。
【請求項2】
請求項1に記載する検出具の施工用シートにおいて、
前記粘着シートは、粘着力の強い面積の大きな外シートに対し、粘着力の弱い面積の小さな内シートを粘着面が同一方向になるように重ね合わせたものであることを特徴とする検出具の施工用シート。
【請求項3】
請求項2に記載する検出具の施工用シートにおいて、
前記外シートはクラフト粘着テープ又は布粘着テープで形成され、前記内シートはビニールテープで形成されたものであることを特徴とする検出具の施工用シート。
【請求項4】
粘着力の弱い中央粘着部と、その中央粘着部の周りに配置された粘着力の強い外周粘着部とを備えた粘着シートに対し、
検知線とフィルムとを一体に重ねた検出具を前記中央粘着部に剥離可能に貼り付け、
前記検出具に合わせた開口部の形成されたマスキングシートを前記粘着部に対して剥離可能に貼り付け、
前記マスキングシートの開口部から現れる前記検出具に接着剤を塗布し、
前記マスキングを剥がして前記検出具が被検出物の所定箇所に位置するように前記粘着シートを当該被検出物に貼り付け、
前記接着剤が乾いた後に前記粘着シートを剥がす
ことを特徴とする検出具の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−44008(P2010−44008A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209568(P2008−209568)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】