検査装置および検査方法
【課題】検出精度を簡易に向上させることが可能な検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】検査装置1は、カップリング材(導波材)としての粉体12と、粉体12を介して被検査体2側へ入射弾性波Winを供給すると共に被検査体2側からの反射弾性波Wrefを粉体12を介して取得する弾性波入出力部(振動子13、発信部14および受信部15)と、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づくように、粉体12の音響インピーダンスZを変化させるインピーダンス制御部(圧力容器11、加圧ピストン17、駆動部18および制御部19)とを備えている。簡易な手法によって、反射弾性波Wrefにおける被検査体2の表面S1での反射成分が低減され、被検査体2内部の空隙(欠陥)21での反射成分が検出し易くなる。
【解決手段】検査装置1は、カップリング材(導波材)としての粉体12と、粉体12を介して被検査体2側へ入射弾性波Winを供給すると共に被検査体2側からの反射弾性波Wrefを粉体12を介して取得する弾性波入出力部(振動子13、発信部14および受信部15)と、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づくように、粉体12の音響インピーダンスZを変化させるインピーダンス制御部(圧力容器11、加圧ピストン17、駆動部18および制御部19)とを備えている。簡易な手法によって、反射弾性波Wrefにおける被検査体2の表面S1での反射成分が低減され、被検査体2内部の空隙(欠陥)21での反射成分が検出し易くなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波等の弾性波を利用して、被検査体内部の空隙や欠陥等についての検査を行う検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検査体の内部における空隙や欠陥等の有無を検査する非破壊検査手法として、弾性波の一種である超音波を用いた探傷法(超音波探傷法)が挙げられる(例えば、特許文献1〜3参照)。この超音波探傷法は、その検査手法の簡便さから、機械材料や構造物の探傷法として最も一般的な手法である。超音波探傷法は、振動子(探蝕子)と被検査体との位置関係によって、接触式と非接触式とに大別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−192649号公報
【特許文献2】特開1997−133664号公報
【特許文献3】特開1996−105870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接触式では、基本的には振動子を被検査体に直接接触させた状態で被検査体へ超音波を入射させ、被検査体で反射された超音波を検出することにより、被検査体内部の検査を行うようになっている。この接触式では、比較的効率良く被検査体中に超音波信号を送出することができるものの、被検査体内部の表面近傍における空隙や欠陥等を検査するのが困難である。これは、この表面近傍は、振動子にとって、入射信号(入射パルス)と反射信号(反射エコー)とが分離できない領域(不感帯)となるためである。
【0005】
一方、非接触式では、振動子を被検査体に対して非接触とした状態で、上記のように被検査体側で反射された超音波を検出することにより、被検査体内部の検査を行うようになっている。この非接触式の超音波探傷法として代表的なものは、水を超音波のカップリング材(導波材)として用いた水浸法が挙げられる。この水浸法では、音響インピーダンス(特性音響インピーダンス)が非常に小さい空気を介してでは困難な探傷が可能となると共に、上記した接触式のような振動子自体の不感帯の問題は生じない。ただし、カップリング材としての水(液体)と固体である被検査体とでは、通常、音響インピーダンスが依然として大きく異なる。このため、被検査体の表面において大きな反射成分(反射エコー)が生じることになり、被検査体内部(表面近傍)の空隙や欠陥等での反射成分を、被検査体表面での反射成分と分離するのが困難となる。
【0006】
なお、水浸法における水の代わりに、ゲル状物質をカップリング材として用いた非接触式の超音波探傷法も提案されているが、やはり被検査体とカップリング材との音響インピーダンスの差が大きいことから、上記した水浸法の場合と同様の問題が生じることになる。
【0007】
このように、従来の超音波等の弾性波を用いた検査手法(超音波探傷法等)では、接触式および非接触式を問わず、被検査体内部の表面近傍における空隙や欠陥等を検査するのが困難であり、検出精度が低くなってしまっていた。
【0008】
なお、上記特許文献2では、カップリング材に所定の材料(粉末等)を添加することにより、被検査体に応じてカップリング材の音響インピーダンスを調整する手法が提案されている。ただし、このような手法では、音響インピーダンスの調整範囲が限定され、また、被検査体ごとに個別にカップリング材の材料成分を調整するのは非常に煩雑であることから、簡便な手法の提案が望まれる。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、検出精度を簡易に向上させることが可能な検査装置および検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の検査装置は、導波材と、この導波材を介して被検査体側へ入射弾性波を供給すると共に、被検査体側からの反射弾性波を導波材を介して取得する弾性波入出力部と、被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、導波材の音響インピーダンスを変化させるインピーダンス制御部とを備えたものである。
【0011】
本発明の検査方法は、導波材を介して被検査体側へ入射弾性波を供給すると共に、被検査体側からの反射弾性波を導波材を介して取得することにより、被検査体の検査を行う際に、この被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、導波材の音響インピーダンスを変化させるようにしたものである。
【0012】
本発明の検査装置および検査方法では、導波材を介して被検査体側へ入射弾性波が供給され、被検査体側からの反射弾性波が導波材を介して取得されることにより、被検査体の検査が行われる。この際、被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、導波材の音響インピーダンスが変化する。これにより、被検査体と導波材との音響インピーダンス差が小さくなるため、反射弾性波における被検査体表面での反射成分が低減する。また、被検査体に応じた導波材の材料の個別調整等が不要であるため、導波材の音響インピーダンス制御を簡易に行うことができる。
【0013】
本発明の検査装置では、上記インピーダンス制御部が、被検査体の音響インピーダンスと略同一となるように、導波材の音響インピーダンスを制御するのが好ましい。このように構成した場合、被検査体と導波材との音響インピーダンス差がほとんどなくなる(望ましくは0(ゼロ)となる)ため、被検査体表面での反射成分が更に低減する(ほとんどなくなるか、0となる)。したがって、検出精度が更に向上する。
【0014】
本発明の検査装置では、上記インピーダンス制御部が、導波材へ印加する圧力を変化させることによって、導波材の音響インピーダンスを変化させるようにすることが可能である。その場合、インピーダンス制御部が、被検査体および導波材を収容する容器と、導波材に対して圧力を印加するためのピストンと、ピストンを変位させる駆動部と、この駆動部によるピストンの変位量を制御することにより、導波材へ印加する圧力を制御する制御部とを有するようにすることが可能である。
【0015】
本発明の検査装置では、導波材が粉体からなるようにするのが好ましい。このように構成した場合、導波材による被検査体への悪影響(例えば、被検査体を濡らしたり、汚染すること等)が回避されると共に、導波材の再利用が可能となる(検査の度に導波材を取り換えることが不要となる)ため、検査の際の利便性が向上する。この場合において、粉体が、複数種類の粒径を有する粒子が混合されてなるようにしたり、複数種類の材料の粒子が混合されてなるようにしたり、あるいはこれらの組み合わせからなる(複数種類の粒径を有する粒子と、複数種類の材料の粒子とが、それぞれ混合されてなる)ようにしてもよい。これらのように構成した場合、例えば、導波材における音響インピーダンスの変化幅を広げることが可能となったり、音響インピーダンスの値の微調整がし易くなったりする。
【0016】
本発明の検査装置では、上記弾性波入出力部が、入射弾性波を出力すると共に反射弾性波を入力する1または複数の振動子と、振動子に対して入射弾性波を発生させるための入力信号を供給する発信部と、振動子へ入力された反射弾性波に基づいて、被検査体の検査に用いられる出力信号を生成する受信部とを有するようにすることが可能である。この場合において、上記出力信号の時間変化を表示する表示部を設けるようにするのが好ましい。このように構成した場合、導波材の音響インピーダンスの変化量を調整し易くなる。すなわち、例えば、出力信号の時間変化を随時(リアルタイムで)観察しながら、被検査体内部の空隙や欠陥等での反射成分が観測し易くなるように、音響インピーダンスの変化量を調整したりすることができるようになる。
【0017】
本発明の検査装置では、上記入射弾性波および上記反射弾性波としてはそれぞれ、例えば、超音波を用いることが可能である。ただし、超音波の他にも、被検査体の条件に応じて、より周波数の低い弾性波を用いるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の検査装置および検査方法によれば、被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、導波材の音響インピーダンスを変化させるようにしたので、簡易な手法によって、反射弾性波における被検査体表面での反射成分を低減することができる。このことにより、被検査体内部に入射する弾性波のパワーが増大するため、内部の空隙や欠陥等での反射成分を検出し易くすることができる。また、被検査体表面での反射成分を低減することができることから、従来の手法では被検査体表面での反射成分に隠れて見えなかった、表面近傍の空隙や欠陥等での反射成分が検出し易くなる。よって、このような被検査体内部(特に被検査体表面近傍)の空隙や欠陥等を検査する際の検出精度を簡易に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図2】カップリング材としての粉体に印加される圧力とその粉体の音響インピーダンスとの関係の一例を表す特性図である。
【図3】比較例1に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図4】比較例2に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図5】実施の形態の実施例1に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図6】実施例1に係る検査の際の経過時間と反射波の電圧値との関係の一例を表す特性図である。
【図7】実施の形態の実施例2に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図8】実施例2に係る検査の際の経過時間と反射波の電圧値との関係の一例を表す特性図である。
【図9】図1に示した検査装置における他の検査態様例を表す図である。
【図10】変形例に係るカップリング材としての粉体の構成例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
<実施の形態>
[検査装置1の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る検査装置(検査装置1)の概略構成を模式的に表したものである。検査装置1は、後述する超音波等の弾性波を利用して、被検査体2内部の空隙や欠陥等(ここでは、空隙(欠陥)21とする)についての検査(非破壊検査)を行う装置(非接触式の超音波探傷法を用いた検査装置)である。
【0022】
この検査装置1は、圧力容器11(容器)、後述するカップリング材(導波材)としての粉体12、振動子(探蝕子)13、発信部14、受信部15、表示部16、加圧ピストン17(ピストン)、駆動部18および制御部19を備えている。ここで、振動子13、発信部14および受信部15が、本発明における「弾性波入出力部」の一具体例に対応し、圧力容器11、加圧ピストン17、駆動部18および制御部19が、本発明における「インピーダンス制御部」の一具体例に対応する。なお、本発明の一実施の形態に係る検査方法は、本実施の形態の検査装置1において具現化されるため、以下併せて説明する。
【0023】
圧力容器11は、被検査体2および粉体12を収容する容器であり、高耐圧性を示すように構成されている。このような圧力容器11は、例えばステンレス等の材料からなる。
【0024】
粉体12は、検査の際に弾性波(後述する入射弾性波Winおよび反射弾性波Wref)を効率良く伝播させるための媒体(カップリング材,導波材)であり、ここでは圧力容器11内で被検査体2の周囲を覆うように充填されている。このような粉体12としては、例えばセラミック粉末や金属粉末等の材料が挙げられる。このうち、特にエンジニアリングプラスチックにおける探傷検査の際には、アルミナ(Al2O3)粉末を用いるのが好ましく、また、マグネシウム(Mg)合金における探傷検査の際には、タングステン(W)粉末を用いるのが好ましい。後述する粉体12の音響インピーダンスZが変化する範囲内に、各々の被検査体2を構成する材料の音響インピーダンスZを含むからである。なお、この粉体12における各粒子の粒径は、3〜80μm程度である。
【0025】
振動子13は、粉体12を介して被検査体2側へ入射弾性波Win(入射信号,入射パルス)を出力(供給)すると共に、被検査体2側からの反射弾性波Wref(反射信号,反射エコー)を入力(取得)する素子であり、例えば圧電セラミックスを用いた圧電素子等からなる。具体的には、例えば圧電素子の両面間に電圧が印加されると、その電圧の大きさに応じて圧電素子が伸縮し、電気信号を機械的信号に変換する(入射弾性波Winを発信する)。一方、反射弾性波Wrefによる機械的信号が入力すると、例えばその振動量に応じた電圧が圧電素子の両端間に発生することにより、逆に機械的信号を電気信号に変換する(反射弾性波Wrefを受信する)。振動子13では、このような電気信号と機械的信号との間の変換(圧電効果)を利用して、入射弾性波Winの送信および反射弾性波Wrefの受信を行うことが可能となっている。また、ここでは複数の振動子13が圧力容器11内に埋設されると共に、アレイ状に配置されている。このようなアレイ状の配置により、後述する電子走査(複数の振動子13の順次動作や、位相差を持たせた駆動による指向性制御)が実現されるようになっている。
【0026】
発信部14は、各振動子13に対して、入射弾性波Winを発生させるための電気信号を供給するものである。
【0027】
受信部15は、各振動子13へ入力された反射弾性波Wrefに対応する電気信号に基づいて、被検査体2の検査に用いられる出力信号を生成するものである。なお、このような出力信号は、表示部16へ出力されるようになっている。
【0028】
表示部16は、受信部15から供給される上記出力信号の時間変化を表示するものである。具体的には、後述するように、反射弾性波Wrefの波高値(電圧値等)と経過時間(反射時間)との対応関係を随時(リアルタイムに)表示することが可能となっている。なお、このような表示部16としては、CRT(Cathode Ray Tube)や液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、PDP(Plasma Display Panel)、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の各種方式のディスプレイを用いることが可能である。
【0029】
加圧ピストン17は、粉体12に対して圧力を印加するためのピストンであり、圧力容器11内の被検査体2の上方(被検査体2を基準として振動子13の埋設面とは反対側)に配置されている。そして、ここでは、加圧ピストン17が図1中の矢印P1で示したように変位(上下方向に変位)することにより、粉体12に対して圧力を印加することが可能となっている。なお、詳細は後述するが、粉体12に印加される圧力Pが変化することにより、例えば図2に示したように、それに応じて粉体12の音響インピーダンスZも変化(この例では、略線形に変化)するようになっている。
【0030】
駆動部18は、加圧ピストン17を駆動するものであり、例えば各種方式のアクチュエータを用いて構成されている。この駆動部18は、具体的には加圧ピストン17を上下方向(矢印P1の方向)に変位させるようになっている。
【0031】
制御部19は、発信部14、受信部15、表示部16および駆動部18における各動作を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータ等からなる。本実施の形態では特に、この制御部19は、駆動部18による加圧ピストン17の変位量を制御することにより、粉体12へ印加する圧力Pを制御する。このようにして、粉体12へ印加する圧力Pを変化させることにより、それに応じて上記したように、粉体12の音響インピーダンスZを変化させることが可能となっている。この際、詳細は後述するが、制御部19は、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づく(好ましくは略同一となる)ように、駆動部18および加圧ピストン17を介して粉体12の音響インピーダンスZを変化させるようになっている。
【0032】
[検査装置1の作用・効果]
(基本動作)
この検査装置1では、発信部14から振動子13に対して入力信号(電気信号)が供給されると、各振動子13はその入力信号に応じて振動し、粉体12を介して被検査体2側へ入力弾性波Winが供給(送信)される。具体的には、例えば複数の振動子13が時分割的に、入力弾性波Winを出力する。
【0033】
すると、被検査体2側(例えば、被検査体2内部の空隙(欠陥)21や、加圧ピストン17の加圧面等)において入射弾性波Winが反射され、反射弾性波Wrefとして振動子13側へ伝播する。ここで、被検査体2内部の空隙(欠陥)21における音響インピーダンスZは、一般に被検査体2自体の音響インピーダンスZと比べて極めて低いことから、この空隙(欠陥)21において入射弾性波Winの反射が生じる。このようにして得られた被検査体2側からの反射弾性波Wrefは、粉体12を介して振動子13へと入力される。各振動子13は、反射弾性波Wrefの振動量に応じた出力信号(電気信号)を出力する。具体的には、例えば複数の振動子13が時分割的に、そのような反射弾性波Wrefの受信を行う。
【0034】
そして、表示部16には、このような出力信号の時間変化が表示される。具体的には、例えば反射弾性波Wrefの波高値と経過時間(反射時間)との対応関係がリアルタイムに表示され、これにより被検査体2内部における空隙(欠陥)21の有無等の検査が行われる。
【0035】
(特徴的部分の作用)
次に、本実施の形態の検査装置1における特徴的部分の作用について、比較例(比較例1,2)と比較しつつ詳細に説明する。
【0036】
(比較例1)
図3は、比較例1に係る検査装置(検査装置101)の概略構成を模式的に表したものである。この比較例1の検査装置101は、振動子13、発信部14、受信部15、表示部16および制御部19を備えている。すなわち、検査装置101は、検査装置1において、圧力容器11、粉体12、加圧ピストン17および駆動部18を設けないようにした(省いた)ものとなっている。
【0037】
この検査装置101では、上記した本実施の形態の検査装置1とは異なり、カップリング材(導波材)が設けられていない。したがって、検査装置101では、振動子13から空気を介して被検査体2側へ入力弾性波Winが供給されると共に、被検査体2側からの反射弾性波Wrefが空気を介して振動子13へ供給される。
【0038】
ここで、空気の音響インピーダンスZは非常に小さいため、振動子13から空気中に放射されるパワーは僅かである。加えて、空気と被検査体2とでは、音響インピーダンスZの差異が大きいことから、検査装置101では、空気中に放射された僅かなパワーのほとんどが、被検査体2の表面S1で反射されてしまう。このため、比較例1では、被検査体2内部の空隙(欠陥)21からの反射成分を検出することは、ほとんど不可能である。
【0039】
(比較例2)
一方、図4に示した比較例2に係る検査装置(検査装置201)は、容器200、カップリング材(導波材)202、振動子13、発信部14、受信部15、表示部16および制御部19を備えている。すなわち、この検査装置201は、上記比較例1の検査装置101において、圧力容器11および粉体12の代わりに容器200およびカップリング材202を設けると共に、加圧ピストン17および駆動部18を省いたものとなっている。
【0040】
この検査装置201では、カップリング材202として、例えば、水等の液体やゲル状物質などが用いられている。そして、振動子13からこのカップリング材202を介して被検査体2側へ入力弾性波Winが供給されると共に、被検査体2側からの反射弾性波Wrefがカップリング材202を介して振動子13へ供給される。なお、図4に示した構成において、カップリング材202として水を用いるようにしたものが、いわゆる「水浸法」と呼ばれる検査方法に対応する。
【0041】
検査装置201では、音響インピーダンスZの値が空気よりも大きいカップリング材202を用いて検査を行っている。このため、上記比較例1と比べると被検査体2との音響インピーダンスZの差異が小さくなり、被検査体2の内部の空隙(欠陥)21を検出することは可能である。
【0042】
しかしながら、カップリング材202としての液体やゲル状物質と、固体である被検査体2とでは、通常、音響インピーダンスZが依然として大きく異なる。このため、被検査体2の表面S1における大きな反射成分が残存してしまい、被検査体2の表面S1近傍の空隙(欠陥)21での反射成分を検出するのは困難である。すなわち、この比較例2においても、特に被検査体2の表面S1近傍の空隙(欠陥)21の検出精度が低くなってしまう。
【0043】
なお、比較例2において、カップリング材202に所定の材料(粉末等)を添加することにより、被検査体2に応じてカップリング材202の音響インピーダンスZを調整する手法も考えられる。しかしながら、粉末の添加等により調整可能な音響インピーダンスZの範囲は狭い範囲に限られており、また、そのように被検査体2ごとに個別にカップリング材202の材料成分を調整するのは、非常に煩雑となってしまう。
【0044】
(実施の形態)
これに対して本実施の形態の検査装置1では、図1に示したように、制御部19は、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づくように、駆動部18および加圧ピストン17を介して、粉体12の音響インピーダンスZを変化させる。具体的には、制御部19は、駆動部18による加圧ピストン17の変位量を制御することにより、粉体12へ印加する圧力Pを制御する。そして、例えば図2に示したように、粉体12に印加される圧力Pが変化するのに応じて粉体12の音響インピーダンスZも変化することを利用して、この粉体12の音響インピーダンスZを制御する。すなわち、制御部19は、粉体12へ印加する圧力Pを変化させることにより、粉体12の音響インピーダンスZを変化させる。
【0045】
このように、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づくように粉体12の音響インピーダンスZが変化することにより、被検査体2と粉体12との音響インピーダンスZの差異が、上記比較例1,2と比べて小さくなる。その結果、本実施の形態では比較例1,2と比べ、反射弾性波Wrefにおける被検査体2の表面S1での反射成分が低減し、被検査体2内部(表面近傍)の空隙(欠陥)21での反射成分を検出するのが容易となる。
【0046】
このとき、制御部19は、被検査体2の音響インピーダンスZと略同一(望ましくは同一)となるように、粉体12の音響インピーダンスZを制御するのが好ましい。そのように制御した場合、被検査体2と粉体12との音響インピーダンスZの差がほとんどなくなる(望ましくは0(ゼロ)となる)ため、被検査体2の表面S1での反射成分が更に低減する(ほとんどなくなるか、0となる)。したがって、被検査体2内部(表面近傍)の空隙(欠陥)21での反射成分と被検査体2の表面S1での反射成分を検出するのが、更に容易となる。
【0047】
また、本実施の形態では、比較例2において前述したような、被検査体2に応じたカップリング材202の材料(ここでは粉体12の材料)の個別調整等が不要であるため、粉体12における音響インピーダンスZの制御を簡易に行うことができる。
【0048】
(実施例1)
ここで、図5は、本実施の形態の実施例1に係る検査態様を模式的に表したものである。この実施例1では、被検査体2Aとしてマグネシウム(Mg)合金(音響インピーダンスZ=8.6MPa・s/m)を用い、粉体12としてタングステン(W)粉末を用いた。前述した図2は、このタングステン粉末へ印加される圧力Pに対するタングステン粉末の音響インピーダンスZの変化特性を示したものである。この図2により、タングステン粉末の音響インピーダンスZは、圧力Pが12MPaから32MPaに増加するのに応じて、6.0MPa・s/mから9.0MPa・s/mまで略線形に変化することが分かる。ここでは、タングステン粉末の音響インピーダンスZ=8.6MPa・s/m(圧力P=31.8MPa)に設定し、上記したマグネシウム合金の音響インピーダンスZ=8.6MPa・s/mと同一となるようにした。また、この実施例1および後述する実施例2では、検査装置1における振動子13の個数を1つとした。実施例1は、被検査体2A内に空隙(欠陥)21が存在しない場合の実施例に対応しているため、入力弾性波Winおよび反射弾性波Wrefとしての超音波が被検査体2Aをどの程度透過するのかを確認した。なお、この超音波の周波数は5MHzとし、タングステン粉末の平均粒径は4.2μmとした。
【0049】
図6は、実施例1に係る検査の際の特性例(反射時間と反射弾性波Wrefの電圧値との関係の一例)を表したものであり、表示部16における表示内容(探傷図形)に相当している。この図6により、被検査体2Aの表面S1での反射成分が、加圧ピストン17の表面(加圧面)S0での反射成分(ピストン面反射成分,背面反射成分;以下同様)と比べて極めて小さいことから、入射弾性波Winのうちのほとんどの成分(エネルギー)が被検査体2Aを通過し、加圧ピストン17の表面S0において反射されていることが分かる。これに対して、従来の検査手法である水浸法では、表面S1での反射成分の大きさが、図6における表面S0での反射成分と同程度となる。したがって、従来の検査手法と比べ、被検査体2の表面S1での反射成分が大幅に低減していることが確認された。
【0050】
(実施例2)
また、図7は、本実施の形態の実施例2に係る検査態様を模式的に表したものである。この実施例2では、被検査体2Aと隣接して、厚さ0.6mmのマグネシウム合金からなる被検査体2Bを配置し、振動子13側から被検査体2B,2Aの順に積層された積層構造となるようにした。これらの被検査体2B,2A間の界面S2が、被検査体2全体の内部に存在する空隙(欠陥)21に相当する。すなわち、この実施例2は、被検査体2の内部(振動子13側の表面付近)に空隙(欠陥)21が存在する場合の実施例に対応することから、空隙(欠陥)21に相当する界面S2での反射成分がどの程度の大きさになるのかを確認した。なお、この実施例2においても実施例1と同様に、タングステン粉末の音響インピーダンスZ=8.6MPa・s/m(圧力P=31.8MPa)に設定している。
【0051】
図8は、実施例2に係る検査の際の特性例(反射時間と反射弾性波Wrefの電圧値との関係の一例)を表したものであり、例えば表示部16における表示内容(探傷図形)に相当している。ここで、被検査体2に欠陥がない場合の実施例に相当する図6では、界面S1からの反射成分は小さい値であった。これに対して、表面S1近傍の内部欠陥を模擬した被検査体2A,2Bを検査した図8においては、界面S2からの反射成分が存在するため、大きな反射成分が観測されている。また、図6では、振動子13から送出された入射弾性波Winのほとんどが、被検査体2と粉体12との界面において反射されることなく透過するため、表面S0からの非常に大きな反射成分が観測されている。これに対して、図8においては、ほとんどの入射弾性波Winが界面S2において反射されることから、この界面S2を越えて透過していく成分は小さいため、界面S0からの反射成分は非常に小さくなっている。これらのことから、被検査体2と粉体12との音響インピーダンスZを相対的に近づけることによって、被検査体2内部(特に被検査体2の表面S1近傍)の空隙や欠陥等を検査する際の検出精度が向上することが確認(実証)された。
【0052】
以上のように本実施の形態では、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づくように、粉体12の音響インピーダンスZを変化させるようにしたので、簡易な手法によって、反射弾性波Wrefにおける被検査体2の表面S1での反射成分を低減することができる。このことにより、被検査体2の内部への入射弾性波Winのパワーが増大するため、内部の空隙や欠陥等での反射成分を検出し易くすることができる。また、被検査体2の表面S1での反射成分を低減することができることから、従来の手法では被検査体2の表面S1での反射成分に隠れて見えなかった、表面S1近傍の空隙や欠陥等での反射成分が検出し易くなる。よって、このような被検査体内部(特に被検査体2の表面S1近傍)の空隙や欠陥等を検査する際の検出精度を簡易に向上させることが可能となる。
【0053】
また、被検査体2の表面S1での反射成分を抑えることができるため、例えば図9に示したように、複雑な形状(粗い表面S1を有する)被検査体2を検査する場合にも、入射弾性波Winを効率良く被検査体2の内部へ入射させることができ、検出精度を向上させることが可能となる。
【0054】
更に、本実施の形態では、上記したように、入射弾性波Winを効率良く被検査体2の内部へ入射させることができることから、被検査体2内部における表面近傍の空隙や欠陥等には限られず、被検査体2内部の深い部分(例えば中心付近)における空隙や欠陥等についても、従来の手法と比べて高い精度で検出することが可能となる。
【0055】
加えて、特に制御部18が、被検査体2の音響インピーダンスZと略同一となるように粉体12の音響インピーダンスZを制御するようにした場合には、被検査体2と粉体12との音響インピーダンスZの差がほとんどなくなる(望ましくは0となる)ため、被検査体2の表面S1での反射成分を更に低減する(ほとんどなくなるか、0とする)ことができ、検出精度を更に向上させることが可能となる。
【0056】
また、カップリング材(導波材)が粉体12からなるようにしたので、カップリング材による被検査体2への悪影響(例えば、被検査体2を濡らしたり、汚染すること等)を回避することができると共に、カップリング材を再利用することが可能となる(検査の度にカップリング材を取り換えることが不要となる)ため、検査の際の利便性を向上させることも可能となる。
【0057】
更に、受信部15から供給される出力信号の時間変化を表示する表示部16を設けるようしたので、粉体12の音響インピーダンスZの変化量を調整し易くすることができる。すなわち、例えば図8に示したような出力信号の時間変化を随時(リアルタイムで)観察しながら、被検査体2の内部の空隙や欠陥等での反射成分が観測し易くなるように、音響インピーダンスZの変化量を調整したりすることが可能となる。
【0058】
<変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例について説明する。なお、実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0059】
上記実施の形態では、例えば図10(A)に示したように、粉体12が、1種類の粒径R1を有する粒子12からなる場合について説明したが、これには限られず、粉体12が以下のような構成となっていてもよい。
【0060】
すなわち、例えば図10(B)に示したように、粉体12が、複数種類(ここでは2種類)の粒径R1,R2を有する粒子(粒径R1の粒子121および粒径R2の粒子122)が混合されてなるようにしてもよい。一般に、粒径が小さくなるのに応じて音響インピーダンスZも低くなる傾向にあることから、この場合、例えば、粉体12における音響インピーダンスZの変化幅を広げたり、音響インピーダンスZの値の微調整をし易くしたりすることが可能となる。
【0061】
あるいは、例えば図10(C)に示したように、粉体12が、複数種類(ここでは2種類)の材料(音響インピーダンスZが異なる複数種類の材料)の粒子121,123が混合されてなるようにしてもよい。このように構成した場合も、粉体12における音響インピーダンスZの変化幅を広げたり、音響インピーダンスZの値の微調整をし易くしたりすることが可能となる。
【0062】
なお、図10(B)および図10(C)の構成を組み合わせたもの(粉体12が、複数種類の粒径を有する粒子と、複数種類の材料の粒子とが、それぞれ混合されてなる)としてもよい。すなわち、例えば図10(C)中に示したように、粉体12が、粒径R1の粒子121および粒径R3の粒子123が混合されてなるようにしてもよい。
【0063】
<その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0064】
例えば、上記実施の形態等では、カップリング材(導波材)が粉体からなり、音響インピーダンスZを圧力によって調整する場合について説明したが、これには限られない。すなわち、電界や磁界によって体積や物性が変化する材料をカップリング材として用いると共に印加する電界や磁界を変化させることにより、音響インピーダンスZを調整するようにしてもよい。また、その他にも、温度によって物性が変化したり相変化する材料などをカップリング材として用い、それらの温度を変化させることによって音響インピーダンスZを調整するようにしてもよい。
【0065】
更に、上記実施の形態等では、入射弾性波Winおよび反射弾性波Wrefがそれぞれ、主に超音波からなる場合について説明したが、これには限られず、被検査体の条件に応じて、超音波よりも周波数の低い弾性波を用いるようにしてもよい。ここで、超音波の中でも相対的に高い周波数のものを用いた場合、例えば、上記した表面S1での反射成分と界面S2での反射成分とを時間軸上で分離し易くすることができるため、望ましいと言える。
【0066】
これは、詳細には以下の理由によるものである。すなわち、従来の手法では、まず、表面S1での反射成分が相対的に大きいため、被検査体内部への入射する弾性波のパワーが小さくなる。また、被検査体内部の欠陥等からの反射弾性波は、界面(表面S1)において再反射されるため、振動子13へ戻ってくるときの反射弾性波のパワーは更に小さくなってしまう。これらのことから、表面S1での反射成分と界面S2での反射成分とを時間軸上で分離できる(表面S1での反射成分と内部欠陥等での反射成分とが、時間軸上の別の位置に存在する)状態であっても、従来の手法では、内部欠陥等での反射成分の検出は難しいと言える。これに対して上記実施の形態等で説明した手法では、音響インピーダンスZの調整によって、表面S1での反射成分や再反射成分が抑えられるため、内部欠陥等から十分なパワーを持つ反射波が得られる。しかも、この内部欠陥等での反射成分は、表面S1での反射成分とは時間軸上の別の位置に存在することになるため、容易に検出することが可能となる。その結果、上記実施の形態等の手法では、より小さな内部欠陥等まで検出することが可能となる。
【0067】
加えて、上記実施の形態等では、検査装置の構成を具体的に挙げて説明したが、検査装置の構成はこれには限られず、他の構成としてもよい。具体的には、例えば、複数の振動子ではなく1つの振動子を用いて検査を行うようにしてもよい。また、振動子を圧力容器における2つ以上の面上に配置するようにしてもよい。更に、カップリング材を被検査体の周囲全体に配置するのではなく、例えば振動子と被検査体との間の一部分にのみ配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…検査装置、11…圧力容器、12…粉体(カップリング材)、121,122,123…粒子、13…振動子、14…発信部、15…受信部、16…表示部、17…加圧ピストン、18…駆動部、19…制御部、2,2A,2B…被検査体、21…空隙(欠陥)、Win…入射弾性波、Wref…反射弾性波、S0,S1…表面、S2…界面、R1,R2,R3…粒径。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波等の弾性波を利用して、被検査体内部の空隙や欠陥等についての検査を行う検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検査体の内部における空隙や欠陥等の有無を検査する非破壊検査手法として、弾性波の一種である超音波を用いた探傷法(超音波探傷法)が挙げられる(例えば、特許文献1〜3参照)。この超音波探傷法は、その検査手法の簡便さから、機械材料や構造物の探傷法として最も一般的な手法である。超音波探傷法は、振動子(探蝕子)と被検査体との位置関係によって、接触式と非接触式とに大別される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−192649号公報
【特許文献2】特開1997−133664号公報
【特許文献3】特開1996−105870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接触式では、基本的には振動子を被検査体に直接接触させた状態で被検査体へ超音波を入射させ、被検査体で反射された超音波を検出することにより、被検査体内部の検査を行うようになっている。この接触式では、比較的効率良く被検査体中に超音波信号を送出することができるものの、被検査体内部の表面近傍における空隙や欠陥等を検査するのが困難である。これは、この表面近傍は、振動子にとって、入射信号(入射パルス)と反射信号(反射エコー)とが分離できない領域(不感帯)となるためである。
【0005】
一方、非接触式では、振動子を被検査体に対して非接触とした状態で、上記のように被検査体側で反射された超音波を検出することにより、被検査体内部の検査を行うようになっている。この非接触式の超音波探傷法として代表的なものは、水を超音波のカップリング材(導波材)として用いた水浸法が挙げられる。この水浸法では、音響インピーダンス(特性音響インピーダンス)が非常に小さい空気を介してでは困難な探傷が可能となると共に、上記した接触式のような振動子自体の不感帯の問題は生じない。ただし、カップリング材としての水(液体)と固体である被検査体とでは、通常、音響インピーダンスが依然として大きく異なる。このため、被検査体の表面において大きな反射成分(反射エコー)が生じることになり、被検査体内部(表面近傍)の空隙や欠陥等での反射成分を、被検査体表面での反射成分と分離するのが困難となる。
【0006】
なお、水浸法における水の代わりに、ゲル状物質をカップリング材として用いた非接触式の超音波探傷法も提案されているが、やはり被検査体とカップリング材との音響インピーダンスの差が大きいことから、上記した水浸法の場合と同様の問題が生じることになる。
【0007】
このように、従来の超音波等の弾性波を用いた検査手法(超音波探傷法等)では、接触式および非接触式を問わず、被検査体内部の表面近傍における空隙や欠陥等を検査するのが困難であり、検出精度が低くなってしまっていた。
【0008】
なお、上記特許文献2では、カップリング材に所定の材料(粉末等)を添加することにより、被検査体に応じてカップリング材の音響インピーダンスを調整する手法が提案されている。ただし、このような手法では、音響インピーダンスの調整範囲が限定され、また、被検査体ごとに個別にカップリング材の材料成分を調整するのは非常に煩雑であることから、簡便な手法の提案が望まれる。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、検出精度を簡易に向上させることが可能な検査装置および検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の検査装置は、導波材と、この導波材を介して被検査体側へ入射弾性波を供給すると共に、被検査体側からの反射弾性波を導波材を介して取得する弾性波入出力部と、被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、導波材の音響インピーダンスを変化させるインピーダンス制御部とを備えたものである。
【0011】
本発明の検査方法は、導波材を介して被検査体側へ入射弾性波を供給すると共に、被検査体側からの反射弾性波を導波材を介して取得することにより、被検査体の検査を行う際に、この被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、導波材の音響インピーダンスを変化させるようにしたものである。
【0012】
本発明の検査装置および検査方法では、導波材を介して被検査体側へ入射弾性波が供給され、被検査体側からの反射弾性波が導波材を介して取得されることにより、被検査体の検査が行われる。この際、被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、導波材の音響インピーダンスが変化する。これにより、被検査体と導波材との音響インピーダンス差が小さくなるため、反射弾性波における被検査体表面での反射成分が低減する。また、被検査体に応じた導波材の材料の個別調整等が不要であるため、導波材の音響インピーダンス制御を簡易に行うことができる。
【0013】
本発明の検査装置では、上記インピーダンス制御部が、被検査体の音響インピーダンスと略同一となるように、導波材の音響インピーダンスを制御するのが好ましい。このように構成した場合、被検査体と導波材との音響インピーダンス差がほとんどなくなる(望ましくは0(ゼロ)となる)ため、被検査体表面での反射成分が更に低減する(ほとんどなくなるか、0となる)。したがって、検出精度が更に向上する。
【0014】
本発明の検査装置では、上記インピーダンス制御部が、導波材へ印加する圧力を変化させることによって、導波材の音響インピーダンスを変化させるようにすることが可能である。その場合、インピーダンス制御部が、被検査体および導波材を収容する容器と、導波材に対して圧力を印加するためのピストンと、ピストンを変位させる駆動部と、この駆動部によるピストンの変位量を制御することにより、導波材へ印加する圧力を制御する制御部とを有するようにすることが可能である。
【0015】
本発明の検査装置では、導波材が粉体からなるようにするのが好ましい。このように構成した場合、導波材による被検査体への悪影響(例えば、被検査体を濡らしたり、汚染すること等)が回避されると共に、導波材の再利用が可能となる(検査の度に導波材を取り換えることが不要となる)ため、検査の際の利便性が向上する。この場合において、粉体が、複数種類の粒径を有する粒子が混合されてなるようにしたり、複数種類の材料の粒子が混合されてなるようにしたり、あるいはこれらの組み合わせからなる(複数種類の粒径を有する粒子と、複数種類の材料の粒子とが、それぞれ混合されてなる)ようにしてもよい。これらのように構成した場合、例えば、導波材における音響インピーダンスの変化幅を広げることが可能となったり、音響インピーダンスの値の微調整がし易くなったりする。
【0016】
本発明の検査装置では、上記弾性波入出力部が、入射弾性波を出力すると共に反射弾性波を入力する1または複数の振動子と、振動子に対して入射弾性波を発生させるための入力信号を供給する発信部と、振動子へ入力された反射弾性波に基づいて、被検査体の検査に用いられる出力信号を生成する受信部とを有するようにすることが可能である。この場合において、上記出力信号の時間変化を表示する表示部を設けるようにするのが好ましい。このように構成した場合、導波材の音響インピーダンスの変化量を調整し易くなる。すなわち、例えば、出力信号の時間変化を随時(リアルタイムで)観察しながら、被検査体内部の空隙や欠陥等での反射成分が観測し易くなるように、音響インピーダンスの変化量を調整したりすることができるようになる。
【0017】
本発明の検査装置では、上記入射弾性波および上記反射弾性波としてはそれぞれ、例えば、超音波を用いることが可能である。ただし、超音波の他にも、被検査体の条件に応じて、より周波数の低い弾性波を用いるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の検査装置および検査方法によれば、被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、導波材の音響インピーダンスを変化させるようにしたので、簡易な手法によって、反射弾性波における被検査体表面での反射成分を低減することができる。このことにより、被検査体内部に入射する弾性波のパワーが増大するため、内部の空隙や欠陥等での反射成分を検出し易くすることができる。また、被検査体表面での反射成分を低減することができることから、従来の手法では被検査体表面での反射成分に隠れて見えなかった、表面近傍の空隙や欠陥等での反射成分が検出し易くなる。よって、このような被検査体内部(特に被検査体表面近傍)の空隙や欠陥等を検査する際の検出精度を簡易に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施の形態に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図2】カップリング材としての粉体に印加される圧力とその粉体の音響インピーダンスとの関係の一例を表す特性図である。
【図3】比較例1に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図4】比較例2に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図5】実施の形態の実施例1に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図6】実施例1に係る検査の際の経過時間と反射波の電圧値との関係の一例を表す特性図である。
【図7】実施の形態の実施例2に係る検査装置の概略構成例を表す図である。
【図8】実施例2に係る検査の際の経過時間と反射波の電圧値との関係の一例を表す特性図である。
【図9】図1に示した検査装置における他の検査態様例を表す図である。
【図10】変形例に係るカップリング材としての粉体の構成例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
<実施の形態>
[検査装置1の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る検査装置(検査装置1)の概略構成を模式的に表したものである。検査装置1は、後述する超音波等の弾性波を利用して、被検査体2内部の空隙や欠陥等(ここでは、空隙(欠陥)21とする)についての検査(非破壊検査)を行う装置(非接触式の超音波探傷法を用いた検査装置)である。
【0022】
この検査装置1は、圧力容器11(容器)、後述するカップリング材(導波材)としての粉体12、振動子(探蝕子)13、発信部14、受信部15、表示部16、加圧ピストン17(ピストン)、駆動部18および制御部19を備えている。ここで、振動子13、発信部14および受信部15が、本発明における「弾性波入出力部」の一具体例に対応し、圧力容器11、加圧ピストン17、駆動部18および制御部19が、本発明における「インピーダンス制御部」の一具体例に対応する。なお、本発明の一実施の形態に係る検査方法は、本実施の形態の検査装置1において具現化されるため、以下併せて説明する。
【0023】
圧力容器11は、被検査体2および粉体12を収容する容器であり、高耐圧性を示すように構成されている。このような圧力容器11は、例えばステンレス等の材料からなる。
【0024】
粉体12は、検査の際に弾性波(後述する入射弾性波Winおよび反射弾性波Wref)を効率良く伝播させるための媒体(カップリング材,導波材)であり、ここでは圧力容器11内で被検査体2の周囲を覆うように充填されている。このような粉体12としては、例えばセラミック粉末や金属粉末等の材料が挙げられる。このうち、特にエンジニアリングプラスチックにおける探傷検査の際には、アルミナ(Al2O3)粉末を用いるのが好ましく、また、マグネシウム(Mg)合金における探傷検査の際には、タングステン(W)粉末を用いるのが好ましい。後述する粉体12の音響インピーダンスZが変化する範囲内に、各々の被検査体2を構成する材料の音響インピーダンスZを含むからである。なお、この粉体12における各粒子の粒径は、3〜80μm程度である。
【0025】
振動子13は、粉体12を介して被検査体2側へ入射弾性波Win(入射信号,入射パルス)を出力(供給)すると共に、被検査体2側からの反射弾性波Wref(反射信号,反射エコー)を入力(取得)する素子であり、例えば圧電セラミックスを用いた圧電素子等からなる。具体的には、例えば圧電素子の両面間に電圧が印加されると、その電圧の大きさに応じて圧電素子が伸縮し、電気信号を機械的信号に変換する(入射弾性波Winを発信する)。一方、反射弾性波Wrefによる機械的信号が入力すると、例えばその振動量に応じた電圧が圧電素子の両端間に発生することにより、逆に機械的信号を電気信号に変換する(反射弾性波Wrefを受信する)。振動子13では、このような電気信号と機械的信号との間の変換(圧電効果)を利用して、入射弾性波Winの送信および反射弾性波Wrefの受信を行うことが可能となっている。また、ここでは複数の振動子13が圧力容器11内に埋設されると共に、アレイ状に配置されている。このようなアレイ状の配置により、後述する電子走査(複数の振動子13の順次動作や、位相差を持たせた駆動による指向性制御)が実現されるようになっている。
【0026】
発信部14は、各振動子13に対して、入射弾性波Winを発生させるための電気信号を供給するものである。
【0027】
受信部15は、各振動子13へ入力された反射弾性波Wrefに対応する電気信号に基づいて、被検査体2の検査に用いられる出力信号を生成するものである。なお、このような出力信号は、表示部16へ出力されるようになっている。
【0028】
表示部16は、受信部15から供給される上記出力信号の時間変化を表示するものである。具体的には、後述するように、反射弾性波Wrefの波高値(電圧値等)と経過時間(反射時間)との対応関係を随時(リアルタイムに)表示することが可能となっている。なお、このような表示部16としては、CRT(Cathode Ray Tube)や液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、PDP(Plasma Display Panel)、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の各種方式のディスプレイを用いることが可能である。
【0029】
加圧ピストン17は、粉体12に対して圧力を印加するためのピストンであり、圧力容器11内の被検査体2の上方(被検査体2を基準として振動子13の埋設面とは反対側)に配置されている。そして、ここでは、加圧ピストン17が図1中の矢印P1で示したように変位(上下方向に変位)することにより、粉体12に対して圧力を印加することが可能となっている。なお、詳細は後述するが、粉体12に印加される圧力Pが変化することにより、例えば図2に示したように、それに応じて粉体12の音響インピーダンスZも変化(この例では、略線形に変化)するようになっている。
【0030】
駆動部18は、加圧ピストン17を駆動するものであり、例えば各種方式のアクチュエータを用いて構成されている。この駆動部18は、具体的には加圧ピストン17を上下方向(矢印P1の方向)に変位させるようになっている。
【0031】
制御部19は、発信部14、受信部15、表示部16および駆動部18における各動作を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータ等からなる。本実施の形態では特に、この制御部19は、駆動部18による加圧ピストン17の変位量を制御することにより、粉体12へ印加する圧力Pを制御する。このようにして、粉体12へ印加する圧力Pを変化させることにより、それに応じて上記したように、粉体12の音響インピーダンスZを変化させることが可能となっている。この際、詳細は後述するが、制御部19は、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づく(好ましくは略同一となる)ように、駆動部18および加圧ピストン17を介して粉体12の音響インピーダンスZを変化させるようになっている。
【0032】
[検査装置1の作用・効果]
(基本動作)
この検査装置1では、発信部14から振動子13に対して入力信号(電気信号)が供給されると、各振動子13はその入力信号に応じて振動し、粉体12を介して被検査体2側へ入力弾性波Winが供給(送信)される。具体的には、例えば複数の振動子13が時分割的に、入力弾性波Winを出力する。
【0033】
すると、被検査体2側(例えば、被検査体2内部の空隙(欠陥)21や、加圧ピストン17の加圧面等)において入射弾性波Winが反射され、反射弾性波Wrefとして振動子13側へ伝播する。ここで、被検査体2内部の空隙(欠陥)21における音響インピーダンスZは、一般に被検査体2自体の音響インピーダンスZと比べて極めて低いことから、この空隙(欠陥)21において入射弾性波Winの反射が生じる。このようにして得られた被検査体2側からの反射弾性波Wrefは、粉体12を介して振動子13へと入力される。各振動子13は、反射弾性波Wrefの振動量に応じた出力信号(電気信号)を出力する。具体的には、例えば複数の振動子13が時分割的に、そのような反射弾性波Wrefの受信を行う。
【0034】
そして、表示部16には、このような出力信号の時間変化が表示される。具体的には、例えば反射弾性波Wrefの波高値と経過時間(反射時間)との対応関係がリアルタイムに表示され、これにより被検査体2内部における空隙(欠陥)21の有無等の検査が行われる。
【0035】
(特徴的部分の作用)
次に、本実施の形態の検査装置1における特徴的部分の作用について、比較例(比較例1,2)と比較しつつ詳細に説明する。
【0036】
(比較例1)
図3は、比較例1に係る検査装置(検査装置101)の概略構成を模式的に表したものである。この比較例1の検査装置101は、振動子13、発信部14、受信部15、表示部16および制御部19を備えている。すなわち、検査装置101は、検査装置1において、圧力容器11、粉体12、加圧ピストン17および駆動部18を設けないようにした(省いた)ものとなっている。
【0037】
この検査装置101では、上記した本実施の形態の検査装置1とは異なり、カップリング材(導波材)が設けられていない。したがって、検査装置101では、振動子13から空気を介して被検査体2側へ入力弾性波Winが供給されると共に、被検査体2側からの反射弾性波Wrefが空気を介して振動子13へ供給される。
【0038】
ここで、空気の音響インピーダンスZは非常に小さいため、振動子13から空気中に放射されるパワーは僅かである。加えて、空気と被検査体2とでは、音響インピーダンスZの差異が大きいことから、検査装置101では、空気中に放射された僅かなパワーのほとんどが、被検査体2の表面S1で反射されてしまう。このため、比較例1では、被検査体2内部の空隙(欠陥)21からの反射成分を検出することは、ほとんど不可能である。
【0039】
(比較例2)
一方、図4に示した比較例2に係る検査装置(検査装置201)は、容器200、カップリング材(導波材)202、振動子13、発信部14、受信部15、表示部16および制御部19を備えている。すなわち、この検査装置201は、上記比較例1の検査装置101において、圧力容器11および粉体12の代わりに容器200およびカップリング材202を設けると共に、加圧ピストン17および駆動部18を省いたものとなっている。
【0040】
この検査装置201では、カップリング材202として、例えば、水等の液体やゲル状物質などが用いられている。そして、振動子13からこのカップリング材202を介して被検査体2側へ入力弾性波Winが供給されると共に、被検査体2側からの反射弾性波Wrefがカップリング材202を介して振動子13へ供給される。なお、図4に示した構成において、カップリング材202として水を用いるようにしたものが、いわゆる「水浸法」と呼ばれる検査方法に対応する。
【0041】
検査装置201では、音響インピーダンスZの値が空気よりも大きいカップリング材202を用いて検査を行っている。このため、上記比較例1と比べると被検査体2との音響インピーダンスZの差異が小さくなり、被検査体2の内部の空隙(欠陥)21を検出することは可能である。
【0042】
しかしながら、カップリング材202としての液体やゲル状物質と、固体である被検査体2とでは、通常、音響インピーダンスZが依然として大きく異なる。このため、被検査体2の表面S1における大きな反射成分が残存してしまい、被検査体2の表面S1近傍の空隙(欠陥)21での反射成分を検出するのは困難である。すなわち、この比較例2においても、特に被検査体2の表面S1近傍の空隙(欠陥)21の検出精度が低くなってしまう。
【0043】
なお、比較例2において、カップリング材202に所定の材料(粉末等)を添加することにより、被検査体2に応じてカップリング材202の音響インピーダンスZを調整する手法も考えられる。しかしながら、粉末の添加等により調整可能な音響インピーダンスZの範囲は狭い範囲に限られており、また、そのように被検査体2ごとに個別にカップリング材202の材料成分を調整するのは、非常に煩雑となってしまう。
【0044】
(実施の形態)
これに対して本実施の形態の検査装置1では、図1に示したように、制御部19は、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づくように、駆動部18および加圧ピストン17を介して、粉体12の音響インピーダンスZを変化させる。具体的には、制御部19は、駆動部18による加圧ピストン17の変位量を制御することにより、粉体12へ印加する圧力Pを制御する。そして、例えば図2に示したように、粉体12に印加される圧力Pが変化するのに応じて粉体12の音響インピーダンスZも変化することを利用して、この粉体12の音響インピーダンスZを制御する。すなわち、制御部19は、粉体12へ印加する圧力Pを変化させることにより、粉体12の音響インピーダンスZを変化させる。
【0045】
このように、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づくように粉体12の音響インピーダンスZが変化することにより、被検査体2と粉体12との音響インピーダンスZの差異が、上記比較例1,2と比べて小さくなる。その結果、本実施の形態では比較例1,2と比べ、反射弾性波Wrefにおける被検査体2の表面S1での反射成分が低減し、被検査体2内部(表面近傍)の空隙(欠陥)21での反射成分を検出するのが容易となる。
【0046】
このとき、制御部19は、被検査体2の音響インピーダンスZと略同一(望ましくは同一)となるように、粉体12の音響インピーダンスZを制御するのが好ましい。そのように制御した場合、被検査体2と粉体12との音響インピーダンスZの差がほとんどなくなる(望ましくは0(ゼロ)となる)ため、被検査体2の表面S1での反射成分が更に低減する(ほとんどなくなるか、0となる)。したがって、被検査体2内部(表面近傍)の空隙(欠陥)21での反射成分と被検査体2の表面S1での反射成分を検出するのが、更に容易となる。
【0047】
また、本実施の形態では、比較例2において前述したような、被検査体2に応じたカップリング材202の材料(ここでは粉体12の材料)の個別調整等が不要であるため、粉体12における音響インピーダンスZの制御を簡易に行うことができる。
【0048】
(実施例1)
ここで、図5は、本実施の形態の実施例1に係る検査態様を模式的に表したものである。この実施例1では、被検査体2Aとしてマグネシウム(Mg)合金(音響インピーダンスZ=8.6MPa・s/m)を用い、粉体12としてタングステン(W)粉末を用いた。前述した図2は、このタングステン粉末へ印加される圧力Pに対するタングステン粉末の音響インピーダンスZの変化特性を示したものである。この図2により、タングステン粉末の音響インピーダンスZは、圧力Pが12MPaから32MPaに増加するのに応じて、6.0MPa・s/mから9.0MPa・s/mまで略線形に変化することが分かる。ここでは、タングステン粉末の音響インピーダンスZ=8.6MPa・s/m(圧力P=31.8MPa)に設定し、上記したマグネシウム合金の音響インピーダンスZ=8.6MPa・s/mと同一となるようにした。また、この実施例1および後述する実施例2では、検査装置1における振動子13の個数を1つとした。実施例1は、被検査体2A内に空隙(欠陥)21が存在しない場合の実施例に対応しているため、入力弾性波Winおよび反射弾性波Wrefとしての超音波が被検査体2Aをどの程度透過するのかを確認した。なお、この超音波の周波数は5MHzとし、タングステン粉末の平均粒径は4.2μmとした。
【0049】
図6は、実施例1に係る検査の際の特性例(反射時間と反射弾性波Wrefの電圧値との関係の一例)を表したものであり、表示部16における表示内容(探傷図形)に相当している。この図6により、被検査体2Aの表面S1での反射成分が、加圧ピストン17の表面(加圧面)S0での反射成分(ピストン面反射成分,背面反射成分;以下同様)と比べて極めて小さいことから、入射弾性波Winのうちのほとんどの成分(エネルギー)が被検査体2Aを通過し、加圧ピストン17の表面S0において反射されていることが分かる。これに対して、従来の検査手法である水浸法では、表面S1での反射成分の大きさが、図6における表面S0での反射成分と同程度となる。したがって、従来の検査手法と比べ、被検査体2の表面S1での反射成分が大幅に低減していることが確認された。
【0050】
(実施例2)
また、図7は、本実施の形態の実施例2に係る検査態様を模式的に表したものである。この実施例2では、被検査体2Aと隣接して、厚さ0.6mmのマグネシウム合金からなる被検査体2Bを配置し、振動子13側から被検査体2B,2Aの順に積層された積層構造となるようにした。これらの被検査体2B,2A間の界面S2が、被検査体2全体の内部に存在する空隙(欠陥)21に相当する。すなわち、この実施例2は、被検査体2の内部(振動子13側の表面付近)に空隙(欠陥)21が存在する場合の実施例に対応することから、空隙(欠陥)21に相当する界面S2での反射成分がどの程度の大きさになるのかを確認した。なお、この実施例2においても実施例1と同様に、タングステン粉末の音響インピーダンスZ=8.6MPa・s/m(圧力P=31.8MPa)に設定している。
【0051】
図8は、実施例2に係る検査の際の特性例(反射時間と反射弾性波Wrefの電圧値との関係の一例)を表したものであり、例えば表示部16における表示内容(探傷図形)に相当している。ここで、被検査体2に欠陥がない場合の実施例に相当する図6では、界面S1からの反射成分は小さい値であった。これに対して、表面S1近傍の内部欠陥を模擬した被検査体2A,2Bを検査した図8においては、界面S2からの反射成分が存在するため、大きな反射成分が観測されている。また、図6では、振動子13から送出された入射弾性波Winのほとんどが、被検査体2と粉体12との界面において反射されることなく透過するため、表面S0からの非常に大きな反射成分が観測されている。これに対して、図8においては、ほとんどの入射弾性波Winが界面S2において反射されることから、この界面S2を越えて透過していく成分は小さいため、界面S0からの反射成分は非常に小さくなっている。これらのことから、被検査体2と粉体12との音響インピーダンスZを相対的に近づけることによって、被検査体2内部(特に被検査体2の表面S1近傍)の空隙や欠陥等を検査する際の検出精度が向上することが確認(実証)された。
【0052】
以上のように本実施の形態では、被検査体2の音響インピーダンスZに相対的に近づくように、粉体12の音響インピーダンスZを変化させるようにしたので、簡易な手法によって、反射弾性波Wrefにおける被検査体2の表面S1での反射成分を低減することができる。このことにより、被検査体2の内部への入射弾性波Winのパワーが増大するため、内部の空隙や欠陥等での反射成分を検出し易くすることができる。また、被検査体2の表面S1での反射成分を低減することができることから、従来の手法では被検査体2の表面S1での反射成分に隠れて見えなかった、表面S1近傍の空隙や欠陥等での反射成分が検出し易くなる。よって、このような被検査体内部(特に被検査体2の表面S1近傍)の空隙や欠陥等を検査する際の検出精度を簡易に向上させることが可能となる。
【0053】
また、被検査体2の表面S1での反射成分を抑えることができるため、例えば図9に示したように、複雑な形状(粗い表面S1を有する)被検査体2を検査する場合にも、入射弾性波Winを効率良く被検査体2の内部へ入射させることができ、検出精度を向上させることが可能となる。
【0054】
更に、本実施の形態では、上記したように、入射弾性波Winを効率良く被検査体2の内部へ入射させることができることから、被検査体2内部における表面近傍の空隙や欠陥等には限られず、被検査体2内部の深い部分(例えば中心付近)における空隙や欠陥等についても、従来の手法と比べて高い精度で検出することが可能となる。
【0055】
加えて、特に制御部18が、被検査体2の音響インピーダンスZと略同一となるように粉体12の音響インピーダンスZを制御するようにした場合には、被検査体2と粉体12との音響インピーダンスZの差がほとんどなくなる(望ましくは0となる)ため、被検査体2の表面S1での反射成分を更に低減する(ほとんどなくなるか、0とする)ことができ、検出精度を更に向上させることが可能となる。
【0056】
また、カップリング材(導波材)が粉体12からなるようにしたので、カップリング材による被検査体2への悪影響(例えば、被検査体2を濡らしたり、汚染すること等)を回避することができると共に、カップリング材を再利用することが可能となる(検査の度にカップリング材を取り換えることが不要となる)ため、検査の際の利便性を向上させることも可能となる。
【0057】
更に、受信部15から供給される出力信号の時間変化を表示する表示部16を設けるようしたので、粉体12の音響インピーダンスZの変化量を調整し易くすることができる。すなわち、例えば図8に示したような出力信号の時間変化を随時(リアルタイムで)観察しながら、被検査体2の内部の空隙や欠陥等での反射成分が観測し易くなるように、音響インピーダンスZの変化量を調整したりすることが可能となる。
【0058】
<変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例について説明する。なお、実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0059】
上記実施の形態では、例えば図10(A)に示したように、粉体12が、1種類の粒径R1を有する粒子12からなる場合について説明したが、これには限られず、粉体12が以下のような構成となっていてもよい。
【0060】
すなわち、例えば図10(B)に示したように、粉体12が、複数種類(ここでは2種類)の粒径R1,R2を有する粒子(粒径R1の粒子121および粒径R2の粒子122)が混合されてなるようにしてもよい。一般に、粒径が小さくなるのに応じて音響インピーダンスZも低くなる傾向にあることから、この場合、例えば、粉体12における音響インピーダンスZの変化幅を広げたり、音響インピーダンスZの値の微調整をし易くしたりすることが可能となる。
【0061】
あるいは、例えば図10(C)に示したように、粉体12が、複数種類(ここでは2種類)の材料(音響インピーダンスZが異なる複数種類の材料)の粒子121,123が混合されてなるようにしてもよい。このように構成した場合も、粉体12における音響インピーダンスZの変化幅を広げたり、音響インピーダンスZの値の微調整をし易くしたりすることが可能となる。
【0062】
なお、図10(B)および図10(C)の構成を組み合わせたもの(粉体12が、複数種類の粒径を有する粒子と、複数種類の材料の粒子とが、それぞれ混合されてなる)としてもよい。すなわち、例えば図10(C)中に示したように、粉体12が、粒径R1の粒子121および粒径R3の粒子123が混合されてなるようにしてもよい。
【0063】
<その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0064】
例えば、上記実施の形態等では、カップリング材(導波材)が粉体からなり、音響インピーダンスZを圧力によって調整する場合について説明したが、これには限られない。すなわち、電界や磁界によって体積や物性が変化する材料をカップリング材として用いると共に印加する電界や磁界を変化させることにより、音響インピーダンスZを調整するようにしてもよい。また、その他にも、温度によって物性が変化したり相変化する材料などをカップリング材として用い、それらの温度を変化させることによって音響インピーダンスZを調整するようにしてもよい。
【0065】
更に、上記実施の形態等では、入射弾性波Winおよび反射弾性波Wrefがそれぞれ、主に超音波からなる場合について説明したが、これには限られず、被検査体の条件に応じて、超音波よりも周波数の低い弾性波を用いるようにしてもよい。ここで、超音波の中でも相対的に高い周波数のものを用いた場合、例えば、上記した表面S1での反射成分と界面S2での反射成分とを時間軸上で分離し易くすることができるため、望ましいと言える。
【0066】
これは、詳細には以下の理由によるものである。すなわち、従来の手法では、まず、表面S1での反射成分が相対的に大きいため、被検査体内部への入射する弾性波のパワーが小さくなる。また、被検査体内部の欠陥等からの反射弾性波は、界面(表面S1)において再反射されるため、振動子13へ戻ってくるときの反射弾性波のパワーは更に小さくなってしまう。これらのことから、表面S1での反射成分と界面S2での反射成分とを時間軸上で分離できる(表面S1での反射成分と内部欠陥等での反射成分とが、時間軸上の別の位置に存在する)状態であっても、従来の手法では、内部欠陥等での反射成分の検出は難しいと言える。これに対して上記実施の形態等で説明した手法では、音響インピーダンスZの調整によって、表面S1での反射成分や再反射成分が抑えられるため、内部欠陥等から十分なパワーを持つ反射波が得られる。しかも、この内部欠陥等での反射成分は、表面S1での反射成分とは時間軸上の別の位置に存在することになるため、容易に検出することが可能となる。その結果、上記実施の形態等の手法では、より小さな内部欠陥等まで検出することが可能となる。
【0067】
加えて、上記実施の形態等では、検査装置の構成を具体的に挙げて説明したが、検査装置の構成はこれには限られず、他の構成としてもよい。具体的には、例えば、複数の振動子ではなく1つの振動子を用いて検査を行うようにしてもよい。また、振動子を圧力容器における2つ以上の面上に配置するようにしてもよい。更に、カップリング材を被検査体の周囲全体に配置するのではなく、例えば振動子と被検査体との間の一部分にのみ配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1…検査装置、11…圧力容器、12…粉体(カップリング材)、121,122,123…粒子、13…振動子、14…発信部、15…受信部、16…表示部、17…加圧ピストン、18…駆動部、19…制御部、2,2A,2B…被検査体、21…空隙(欠陥)、Win…入射弾性波、Wref…反射弾性波、S0,S1…表面、S2…界面、R1,R2,R3…粒径。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波材と、
前記導波材を介して被検査体側へ入射弾性波を供給すると共に、前記被検査体側からの反射弾性波を前記導波材を介して取得する弾性波入出力部と、
前記被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、前記導波材の音響インピーダンスを変化させるインピーダンス制御部と
を備えた検査装置。
【請求項2】
前記インピーダンス制御部は、前記被検査体の音響インピーダンスと略同一となるように、前記導波材の音響インピーダンスを制御する
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記インピーダンス制御部は、前記導波材へ印加する圧力を変化させることにより、前記導波材の音響インピーダンスを変化させる
請求項1または請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記インピーダンス制御部は、
前記被検査体および前記導波材を収容する容器と、
前記導波材に対して圧力を印加するためのピストンと、
前記ピストンを変位させる駆動部と、
前記駆動部による前記ピストンの変位量を制御することにより、前記導波材へ印加する圧力を制御する制御部と
を有する請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記導波材が、粉体からなる
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記粉体が、複数種類の粒径を有する粒子が混合されてなる
請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
前記粉体が、複数種類の材料の粒子が混合されてなる
請求項5または請求項6に記載の検査装置。
【請求項8】
前記弾性波入出力部は、
前記入射弾性波を出力すると共に前記反射弾性波を入力する1または複数の振動子と、
前記振動子に対して、前記入射弾性波を発生させるための入力信号を供給する発信部と、
前記振動子へ入力された前記反射弾性波に基づいて、前記被検査体の検査に用いられる出力信号を生成する受信部と
を有する請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記出力信号の時間変化を表示する表示部を備えた
請求項8に記載の検査装置。
【請求項10】
前記入射弾性波および前記反射弾性波がそれぞれ、超音波からなる
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項11】
導波材を介して被検査体側へ入射弾性波を供給すると共に、前記被検査体側からの反射弾性波を前記導波材を介して取得することにより、前記被検査体の検査を行う際に、
前記被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、前記導波材の音響インピーダンスを変化させる
検査方法。
【請求項1】
導波材と、
前記導波材を介して被検査体側へ入射弾性波を供給すると共に、前記被検査体側からの反射弾性波を前記導波材を介して取得する弾性波入出力部と、
前記被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、前記導波材の音響インピーダンスを変化させるインピーダンス制御部と
を備えた検査装置。
【請求項2】
前記インピーダンス制御部は、前記被検査体の音響インピーダンスと略同一となるように、前記導波材の音響インピーダンスを制御する
請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記インピーダンス制御部は、前記導波材へ印加する圧力を変化させることにより、前記導波材の音響インピーダンスを変化させる
請求項1または請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記インピーダンス制御部は、
前記被検査体および前記導波材を収容する容器と、
前記導波材に対して圧力を印加するためのピストンと、
前記ピストンを変位させる駆動部と、
前記駆動部による前記ピストンの変位量を制御することにより、前記導波材へ印加する圧力を制御する制御部と
を有する請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記導波材が、粉体からなる
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記粉体が、複数種類の粒径を有する粒子が混合されてなる
請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
前記粉体が、複数種類の材料の粒子が混合されてなる
請求項5または請求項6に記載の検査装置。
【請求項8】
前記弾性波入出力部は、
前記入射弾性波を出力すると共に前記反射弾性波を入力する1または複数の振動子と、
前記振動子に対して、前記入射弾性波を発生させるための入力信号を供給する発信部と、
前記振動子へ入力された前記反射弾性波に基づいて、前記被検査体の検査に用いられる出力信号を生成する受信部と
を有する請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記出力信号の時間変化を表示する表示部を備えた
請求項8に記載の検査装置。
【請求項10】
前記入射弾性波および前記反射弾性波がそれぞれ、超音波からなる
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項11】
導波材を介して被検査体側へ入射弾性波を供給すると共に、前記被検査体側からの反射弾性波を前記導波材を介して取得することにより、前記被検査体の検査を行う際に、
前記被検査体の音響インピーダンスに相対的に近づくように、前記導波材の音響インピーダンスを変化させる
検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−202867(P2012−202867A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68552(P2011−68552)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
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