説明

検知具対策用シリンダ錠

【課題】仕切板の強度性をそのまま維持しながら、レバータンブラー錠或いはロータリーディスクタンブラー錠の不正解錠に対する安全性の向上を図ることができる。
【解決手段】外筒の前方側に回転可能に装着されたキーガイドと、一方、外筒の後方側に回転可能に装着されたテールピース部材と、該テールピース部材とキーガイドとの所定空間にバネ部材で所定方向に付勢されていると共に解錠用被検知部分を有する可動障害子並びに中央部に鍵孔を有する仕切板とが互いに対向するように外筒の長さ方向に複数枚並べられている検知具対策用シリンダ錠に於いて、仕切板の少なくとも一側面の下端部に、検知具のセンサーが解錠用検知部分の方向へ回転する際、該センサーを受け止める検知阻害用小突起を設けた検知具対策用シリンダ錠。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ錠のダンブラーの解錠用被検知部分(シリンダのコード、例えば解錠切欠位置)を検知することができる検知具を用いた不正解錠に対する検知具対策用シリンダ錠に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンブラーの解錠用被検知部分を検知することができる検知具(例えば特許文献2、特許文献3等)に記載されているように「検知治具セット」或は「検知具」と称されているもの。)を用いた不正解錠に対する防御性を高めるシリンダ錠の一例として、出願人が貴庁に提案した特許文献1を記載する。
【0003】
図11及び図12は、特許文献1に記載のシリンダ錠の第1実施例とその要部(仕切板3)をそれぞれ示す。
【0004】
図11及び図12に於いて、Xはシリンダ錠で、このシリンダ錠Xは、その外筒2内に全体形状が略C字形状のレバーダンブラー(可動障害子)11及びガイド機能を有する仕切り板(内筒に相当する部材)3を外筒の長さ方向にそれぞれ複数枚備えている。
前記外筒2の前方側に回転可能に装着されかつ鍵孔を有する図示しないキーガイドと前記外筒2の後方側に回転可能に装着された図示しないテールピース部材は、前記レバーダンブラー11の基端部並びに仕切り板3の一端部をそれぞれ貫通する横軸(支軸)12で一体的に連結され一つの回転ユニットを構成している。また、前記キーガイドとテールピース部材には、横軸12に対して所定間隔離間してバックアップピン8が水平方向に架設されている。
【0005】
さらに、シリンダ錠Xは、外筒2内にカム溝1と各レバーダンブラー11の解錠切欠9にそれぞれ係脱可能な長杆状のロッキングバー6を備えている。また、各レバーダンブラー11はそれぞれバネ部材(例えば板バネ)18で所定方向に付勢されている。そして、仕切り板3にはキーガイドと整合する鍵孔4が形成され、該鍵孔4に「検知具セットY」の一つ(検知具)が差し込まれる。
【0006】
検知具セットYの一つは、例えば特許文献1〜特許文献3に記載されているように、挿入先端部にL型に折り曲げ形成された小パイプ状の案内部分19を有し、この案内部分19から薄平の細線(センサーという)20が繰り出される(伸縮可能)。
【0007】
しかして、特許文献1の段落0022には、「上記のように構成された請求項1に記載の発明の一実施例によるシリンダ錠は、先端をL字形に曲げた細いパイプ19を鍵孔4内に差込み、パイプ19を通して薄平の細線(センサー)を仕切板3に押圧するようにして繰り出し、次いでパイプ19を回して細線をタンブラーと仕切板との間に隙間に差し込むと共に解錠切欠9の位置を検知しようとしても、本発明においてはセンサーをタンブラー方向に押し曲げる仕切板3の部分が切り欠かれているので、センサーはその弾性によりタンブラーから離間し、結局、解錠切欠の角度位置を検知することができない」、と言及している。
【0008】
付言すると、特許文献1の内筒に相当する仕切り板3は、図12で示すように中央部のリング状部分21を除き、下側の半分が左右対称に切欠22、22されているので、弾性のセンサー20は仕切板3の下端部側に相当する受け面(切欠された所)に当接せず、該センサー20が小パイプ状の案内部分19から繰り出されるに連れてレバーダンブラー(可動障害子)11の他端部から離間することから、解錠切欠の角度位置を検知することができないという訳である。
【0009】
なお、図11は、シリンダ錠Xの手前(図示しないキーガイド)側から見た概略断面説明図であり、検知具のセンサー20は、手前側のレバーダンブラー11の他端部と向こう側の仕切り板3との間(隙間)に入り込んでいることを示している。また、特許文献2、特許文献3等に記載の検知具セットYは自明事項なので、その詳細は割愛する。また、符号の一部は特許文献1のものを援用している。
【特許文献1】特開2005−213943号公報
【特許文献2】登録実用新案第3140537号公報
【特許文献3】登録実用新案第3063990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の所期の目的は、特許文献1の問題点を解消することである。検知具セットYの対象となるシリンダ錠Xは、キーガイドとテールピース部材の所定空間に複数枚の可動障害子(レバーダンブラーまたはロータリディスクダンブラー)と仕切板とが互いに対向或は隣接するように外筒の長さ方向(その内周面の母線方向)に並べられているが、前記仕切板は、いわば内筒部材に相当するので、それ相当の強度性が要求される。
【0011】
しかるに、特許文献1は、可動障害子の解錠切欠の角度位置を検知することができないという利点を有するものの、バックアップピン8が貫通する中央部の部分が、図12で示すようにリング状部分21に形成されていると共に、左右の切欠部分22,22の縁部と鍵孔4の間の細い部分23、23が、部分的に細く成るので、内筒としての強度を考慮すると問題であった(リング状部分21や細い部分23が破損する恐れがある)。
【0012】
そこで、本発明の所期の目的は、特許文献1の利点を生かしながら、仕切板の強度性を確保することである。第2の目的は、可動障害子の回転の邪魔にならないこと、検知治具Yのセンサーの回転を確実に阻止すること等である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の検知具対策用シリンダ錠は、外筒の前方側に回転可能に装着されたキーガイドと、一方、外筒の後方側に回転可能に装着されたテールピース部材と、該テールピース部材と前記キーガイドとの所定空間にバネ部材で所定方向に付勢されていると共に解錠用被検知部分を有する可動障害子並びに中央部に鍵孔を有する円盤状の仕切板とが互いに対向するように外筒の長さ方向に複数枚並べられている検知具対策用シリンダ錠に於いて、前記円盤状仕切板の少なくとも一側面の下端部に、前記検知具のセンサーが前記解錠用検知部分の方向へ回転する際、該センサーを受け止める検知阻害用小突起を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
(a)仕切板の強度性をそのまま維持しながら、レバータンブラー錠或いはロータリーディスクタンブラー錠の不正解錠に対する安全性の向上を図ることができる。
(b)検知阻害部分が「小突起」なので、可動障害子の動きの妨げにならない、検知治具Yのセンサーの回転を確実に阻止することができる等の利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1乃至図10に示す本発明を実施するための最良の形態(第1実施例)により説明する。
【0016】
(1)発明の実施の環境
図1は右側面側から見た概略縦断面説明図、図2は背面(テールピース部材)側から見た概略縦断面説明図である。なお、ここではシリンダ錠X1のキーガイド側が正面である。また、図11及び図12に記載の従来例のシリンダ錠Xと同一の部分には説明の便宜上同一の符号を付す。
【0017】
図1、図2、図9、図10に於いて、X1はシリンダ錠、Yは検知具セット或検知具(図9、図10)、1はカム溝、2は外筒、3は仕切板、4は仕切板の鍵孔、5は複数枚の仕切板で構成された内筒、6はロッキングバー、7は仕切板とレバーダンブラー(可動障害子)11との間の隙間(スロット)、8はバックアップピン、9はレバーダンブラーの他端部側に形成された解錠用被検知部分(シリンダのコード)、11はレバーダンブラー(可動障害子)、12は支軸としての横軸、13はキーガイド、14はテールピース部材、18はバネ部材、19は検知具Yの小パイプ状の案内部分、20はセンサー(薄平の細線)である。
【0018】
(3)検知具対策用シリンダ錠−主要部
検知具対策用シリンダ錠X1の主要部は、外筒2の前方側に回転可能に装着されたキーガイド13と、外筒2の後方側に回転可能に装着されたテールピース部材14と、該テールピース部材14と前記キーガイド13との所定空間21にバネ部材18で所定方向に付勢されていると共に解錠用被検知部分9(ロータリディスクダンブラーの場合には解錠凸部)を有する可動障害子11と中央部に鍵孔4を有する仕切板3とが互いに対向或は隣接するように外筒の長さ方向に複数枚並べられており、前記仕切板3の少なくとも一つの下端部の一側面に、検知具Yのセンサー20の回転を阻止する検知阻害用小突起26が少なくとも一つ設けられている。
【0019】
(4)シリンダ錠−具体的構成
図1及び図2を参照してシリンダ錠X1の具体的構成について付言する。特許文献1に記載されているように、シリンダ錠X1は、その内周面2aの母線に沿ってカム溝1を形成した外筒2と、この外筒2の前方側に回転可能に装着されたキーガイド13と、外筒の後方側に回転可能に装着されたテールピース部材14と、該テールピース部材14と前記キーガイド13との所定空間21にバネ部材18で所定方向に付勢されていると共に、スロット(間隙)7を介して中心軸線方向に積層的に並べられた複数の仕切板3、3によって構成され、かつ中心部に鍵孔4を有する内筒5と、この内筒5の母線に沿って延在し、かつ該内筒5の外周部において半径方向に移動可能に案内されると共に、前記カム溝1と係合する外側縁が外方に突出する方向に付勢されたロッキングバー6とを有している。
【0020】
また、前記仕切板3の間の各スロット7に、夫々全体の形状が、略C字形状に形成され、その一端部(基端部)が横軸12を介して揺動自在に軸支されていると共に、鍵孔4に挿入された図示しない鍵の側端縁と干渉する方向に付勢され、常態では内筒5の内周端縁を軸線方向に貫通するバックアップピン8に係止され、かつ他端部(自由端部)の外側端縁の適宜箇所にロッキングバー6の内側縁を受入れる解錠切欠9が形成されているレバータンブラー11が挿設されている。
【0021】
上記構成に於いて、タンブラー群の夫々が鍵孔4に挿通された図示しない合鍵の対応する鍵溝と係合したとき、各レバータンブラー11の解錠用被検知部分(解錠切欠)9がロッキングバー6の内側縁と整合するように構成されている。
【0022】
したがって、合鍵を鍵孔4に挿入して内筒5を外筒2内で回動させると、カム溝1とロッキングバー6との間に生じる楔作或は摺接用によるロッキングバー6の内筒中心軸方向への移動が可能になることから、内筒5は解錠方向に回動する。
【0023】
(5)新規事項−仕切板3
図3は、仕切板3の一例を示している。図3は背面(テールピース部材)側から見た斜視図である。円盤状の仕切板3の裏側に相当いる一側面3aの下端部の中央部には、ロッキングバー6の内側縁を受け入れる段差状の切欠部分25が形成されている。本実施例では、この切欠部分25を基準として円盤状仕切板3の一側面3aの下端部の左右部位に小突起26、26が一対形成されている。なお、仕切板3の上端部の中央部には、横軸用の軸孔27が形成されており、また、羽根形状の鍵孔4付近には、バックアップピン用の貫通孔28が形成されている。
【0024】
(6)レバータンブラー11
図6は可動障害子の一例としてのレバータンブラーを示している。レバータンブラー11は、前述したように、例えば略C字形状に形成され、その一端部11aが軸孔31及び横軸12を介して揺動自在に軸支されている。この一端部11aから下方へと湾曲状に延びる他端部11bの適宜箇所には、ロッキングバー6の内側縁を受入れる解錠切欠9が形成され、普通一般に前記解錠切欠9の形成位置(角度)は、前記軸孔31を基準してそれぞれ異なる。
【0025】
そして、レバータンブラー11の内周端縁11cは、鍵孔4に挿入された図示しない鍵の側端縁と干渉する方向に付勢されていると共に、常態では内筒5の内周端縁を軸線方向に貫通するバックアップピン8に係止されていることから、前記バックアップピン8はレバータンブラー11を所定位置に係止するストッパーとしの機能を果たす。なお、符号32はバネ部材の一端部を取付ける円形切欠状の取付け部分である。
【0026】
(7)効果
図7乃至図10は、本発明の効果について説明する各概略説明図である。図7は背面(テールピース部材)側から見た斜視図で、図面上検知対象である手前側のレバータンブラーは便宜上省略してある。
【0027】
検知具Yの操作手順の詳細は、公序良俗の観点から割愛するが、図7では、検知具Yの小パイプ状の案内部分19が、向こう側のレバータンブラー11の内周端11cを通過すると共に仕切板3の鍵孔4へと差し込まれ、かつ、案内部分19が回転可能、センサー20が繰り出し可能等であることを示している。
【0028】
今仮に、検知具Yのセンサー(薄平の細線)20で検知しようとするといるレバータンブラーが、図9で符号を入れた右側のレバータンブラー11であるとする。すなわち、図9で示すように、右側のレバータンブラー11は、前後の仕切板3、3にサンドイッチ状に挟まれているが、前述したように仕切板3とレバータンブラー11の間には若干のスロット7が存在しており、そこにセンサー20が繰り出されて入り込んだ場合に於いて、検知者(いわゆる泥棒)が、図10で示すように、前記センサー20をレバータンブラー11の解錠切欠9の方向へ回転して該解錠切欠9の角度を検知しようとしても、一方(図面上、左側)の小突起26がセンサー20の回転を阻止する。
【0029】
したがって、円盤状の仕切板の強度性をそのまま確保した上で、解錠用被検知部分(解錠切欠)9が検知されることを防止することができる。この点は、検知具Yの小パイプ状の案内部分19の位置を変え、センサー20を反対方向へ回転させようとしても同様である。
【実施例】
【0030】
発明の実施の形態で示した実施例に於いて、可動障害子の一例としてのレバータンブラーを示しているが、もちろん、特許文献1に記載されているように、ロータリーディスクタンブラーであっても良い。レバータンブラー又はロータリーディスクタンブラーの如何を問わず、単数又は複数個の突起26は、可動障害子の動きの障害にならない位置に設けることは当然である。また、望ましくは、突起26の突起量は、仕切板3の半分程度である。さらに、突起26は全ての仕切板3に設ける必要はなく、仕切板3の少なくとも一つの一側面に少なくとも一つ設けられる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、主に錠前や建具の業界で利用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1乃至図10は本発明の最良の実施例を示す各説明図。図11及び図12は従来のシリンダ錠の一例を示す各説明図。
【図1】右側面側から見た概略縦断面説明図。
【図2】背面(テールピース部材)側から見た概略縦断面説明図。
【図3】背面(テールピース部材)側から見た仕切板の斜視図。
【図4】図3の4−4線断面図。
【図5】図3の5−5線断面図。
【図6】可動障害子の一例を示す斜視図。
【図7】検知具の検知方法を示す概略説明図。
【図8】検知具の検知方法を示す概略説明図。
【図9】図8の要部を示す概略説明図。
【図10】発明の効果を示す概略説明図。
【図11】従来のシリンダ錠の一例を示す説明図。
【図12】図11で採用されている仕切板の説明図。
【符号の説明】
【0033】
X1…シリンダ錠、1…カム溝、2…外筒、2a…内周面、3…仕切板、3a…一側面、4…鍵孔、5…内筒、6…ロッキングバー、7…スロット、8…バックアップピン、9…解錠用被検知部分(例えば解錠切欠)、11…可動障害子(例えばレバータンブラー)、12…横軸、13…キーガイド、14…テールピース部材、18…バネ部材、21…所定空間、25…切欠部分、26…小突起、27…軸孔、28…貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒の前方側に回転可能に装着されたキーガイドと、一方、外筒の後方側に回転可能に装着されたテールピース部材と、該テールピース部材と前記キーガイドとの所定空間にバネ部材で所定方向に付勢されていると共に解錠用被検知部分を有する可動障害子並びに中央部に鍵孔を有する円盤状の仕切板とが互いに対向するように外筒の長さ方向に複数枚並べられている検知具対策用シリンダ錠に於いて、前記円盤状仕切板の少なくとも一側面の下端部に、前記検知具のセンサーが前記解錠用検知部分の方向へ回転する際、該センサーを受け止める検知阻害用小突起を設けたことを特徴とする検知具対策用シリンダ錠。
【請求項2】
請求項1に於いて、検知阻害用小突起は、可動障害子の解錠用被検知部分の付近であって、かつ可動障害子の自由端部の外周端の外側に位置するように設けられていることを特徴とする検知具対策用シリンダ錠。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−84318(P2010−84318A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250897(P2008−250897)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)