説明

構造物表面の除染方法および除染剤

【課題】建築物、道路など構造物の内側や外側の被除染表面に対し、低コストで放射性物質などの汚染物質を回収することができ、二次汚染を生じさせることのない除染方法および除染剤を提供することを目的とする。
【解決手段】アルギン酸の一価金属塩(A)と、アルギン酸塩以外の多価金属塩を含む除染剤(B)を、被除染表面に塗布または散布した後にゲル化させる塗布ゲル化工程と、ゲル化して放射性汚染物質を吸着内包した除染剤を、建築物などの表面から除去する除染剤除去工程とを有することを特徴とする除染方法であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物表面の除染方法および除染剤に係り、特に、放射性物質を含む汚染物が付着した建築物、道路など構造物の外部表面および内部表面の除染技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電、原子力研究などの原子力関連施設や、放射性廃棄物の処理施設では、放射性物質の取扱い作業などによって、周辺の建物、道路などの外部や内部表面が、ヨウ素,ストロンチウム,セシウム,プルトニウムなどの放射性物質によって汚染されることがある。また、それら施設が自然災害などの被害を受けて制御不能となり、放射性物質が大気中に放出される事故が発生すると、広範囲にわたる領域の建物、道路などの表面が放射性物質によって汚染されることもある。
【0003】
放出される放射性物質には半減期の長い元素も多く、建築物、道路などの外部および内部表面に付着したものは強い放射線を出し続けるので、周辺に生活する人にとっては放射線被爆による健康被害の危険性が高い。したがって、放射性物質の付着した構造物については、なるべく早期の除染が望まれる。
【0004】
従来、建築物、道路など構造物の表面に放射性汚染物質が付着している場合には、高圧流水を汚染面に当てて洗浄し、発生した廃液を回収して、最終処分場で処理することが行われている。しかしながら、構造物の表面をくまなく高圧洗浄することは容易でなく、洗浄、廃液回収、運搬および処分に多大なコストがかかることがある。
また高圧洗浄時には放射性汚染物質を含む飛沫が飛散し、除染対象物以外の場所へ汚染を拡散してしまうおそれがある。さらに、放射性汚染物質を含む洗浄廃液が適切に回収されない場合、放射性物質を含む排水が周囲に流出したり、地下浸透したりして、より汚染範囲を広げてしまうことも懸念される。
【0005】
近年、このような課題に対して、下記の処理方法が提案されている。
【0006】
特許文献1は、粘着剤をポリマーシートの片面に張り付けてなる養生シートを有することを特徴とする除染シートである。また、特許文献2は、界面活性除染剤と光触媒からなるゲル除染剤を光触媒反応させて被汚染面に塗装被膜を形成し、皮膜を除去することにより除染することを特徴としている。さらに、特許文献3は、スチレン−ブタジエン共重合体などからなる水溶性エマルジョンを被除染面に塗布し、フィルム状にして除染することを特徴としている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−318693号公報
【特許文献2】特開平11−101894号公報
【特許文献3】特表2004−533499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のような除染方法では、粘着剤の表面積以上には汚染物質を取り込むことができず、しかも凹凸のある表面では充分に除染することができない。また、特許文献2のような除染方法および除染剤では、光触媒のコストが高い上に、ゲル化のためには紫外線、X線などの放射光発生装置が必要で、広範囲の表面に適用することは困難である。さらに特許文献3のようなスチレン−ブタジエン共重合体などを含む除染剤は生物分解され難く、除染作業時に除染剤の取り残しがあると、除染斉自体が残留して、環境に負荷をかけるという課題があった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、放射性物質に汚染された構造物の表面を除染するために、アルギン酸塩からなるゲルにより被除染表面を覆い、放射性汚染物質を吸着内包させ、除去することが有効であることを知見し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、
(1) アルギン酸の一価金属塩と、アルギン酸塩以外の多価金属塩とを主な成分とする除染剤を、被除染表面に塗布または散布し、被除染表面にアルギン酸ゲルからなる塗膜を形成する工程と、形成された塗膜とともに被除染表面に付着している放射性物質を剥離除去する除去工程とを有することを特徴とする除染方法に関する。
【0012】
(2) 請求項1記載の塗膜形成工程において、アルギン酸の一価金属塩を主な成分とする除染剤(A)と、アルギン酸塩以外の多価金属塩を主な成分とする除染剤(B)とに分け、被除染表面に対してA,Bを連続して散布または塗布し、ゲル化させることを特徴とする請求項1記載の除染方法に関する。
【0013】
(3) また、上記(1)〜(2)記載の除染剤であって、アルギン酸の一価金属塩(A)が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムの少なくとも1つであることを特徴とする除染剤に関する。
【0014】
(4) さらに、上記(1)〜(3)記載の除染剤であって、アルギン酸塩以外の多価金属塩(B)が、カルシウム、亜鉛、銅、バリウム、鉄、アルミニウム、ニッケル及びマンガンからなる化合物の少なくとも1つであることを特徴とする除染剤に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、イオン交換反応によってゲル化するアルギン酸の性質を応用した除染剤を塗布または散布するもので、放射性物質で汚染された広範囲かつ凹凸のある表面であってもこれをまんべんなく覆い、付着した汚染物質を効果的に除去できる。また、大量の水を使う高圧洗浄とは異なり、室内においても除染処理が可能である。本発明の除染剤は、特殊な装置や硬化剤を使うことなく、常温でゲル化して固化するので、除染処理が容易でかつ除染にかかるコストを低減することができる。また、被汚染表面の放射性汚染物質を集中的に固化し、剥離除去できるので、高圧洗浄のように放射性物質を含む洗浄水を周囲に撒き散らすこともない。発生する廃棄物は回収が容易であり、発生量も最小限に留めることができるため、回収と処分にかかるコストを大幅に抑えることができる。また、放射性物質は除染剤によってゲル状に固化された塗膜中に包含されているので、廃棄物運搬時などにおいて放射性物質が周囲に漏洩したり、作業者に移行したりすることを防ぐことができる。さらに、本発明による除染剤は主成分が天然植物由来のアルギン酸であることから、発生する廃棄物は生物分解されやすく、環境への負担が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】 本発明に係る除染方法および除染剤の一実施形態を示す正断面図であって、被汚染表面に除染剤を塗布または散布した図である。
【図2】 本発明に係る除染方法および除染剤の一実施形態を示す正断面図であって、被汚染表面の放射性汚染物資を吸着内包してゲル化した除染剤を示す図である。
【図3】 本発明に係る除染方法および除染剤の一実施形態を示す正断面図であって、建築物などの表面から、放射性汚染物資を吸着内包してゲル化した除染剤を除去した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
第一実施例として、
除染剤として、アルギン酸の一価金属塩がアルギン酸ナトリウム水溶液からなる除染剤(A)と、塩化カルシウム水溶液からなる除染剤(B)を用意する。
【0019】
次に、除染剤を任意の手段、例えばブラシ、ローラー、シャワーあるいは噴霧によって被除染表面に塗布または散布する。続いて除染剤(B)を任意の手段、例えばブラシ、ローラー、シャワーあるいは噴霧によって、図1のように被汚染表面に塗布する。この時、除染剤(A)と除染剤(B)を塗布する順序および回数に特に制限は無い。
【0020】
除染剤(A)と除染剤(B)が接触混合することにより、除染剤中のアルギン酸分子とカルシウムイオンによるイオン架橋反応が起こりゲル化する。この際、図2のように除染剤は被除染表面において汚染物質を内含しながら固化する。
【0021】
所定の時間が経過し十分にゲル化が進行すると、図3に示すようにゲル化した除染剤を建物など構造物の表面から剥離、除去することができるようになる。このとき、内包された汚染物質も、ゲル化した除染剤と共に除去される。
【0022】
第二実施例として、
アルギン酸ナトリウムと硫酸カルシウム、およびゲル化時間調整剤としてピロリン酸ナトリウム、グルコノデルタラクトンを含む除染剤(C)を用意し、これを溶解して水溶液とする。
【0023】
除染剤(C)の溶液を任意の手段、例えばブラシ、ローラー、シャワーあるいは噴霧によって、被除染表面に塗布または散布する。
【0024】
除染剤(C)に含まれるアルギン酸ナトリウムとカルシウム塩は、ゲル化時間調整剤の働きにより、図2のように、被除染表面に展開した後にイオン化し、架橋反応によりゲル化する。このとき、除染剤は被除染表面で汚染物質を内含しながら固化する。
【0025】
所定の時間が経過し十分にゲル化が進行すると、図3に示すようにゲル化した除染剤を建物などの構造物の表面から剥離、除去することができるようになる。このとき、内包された汚染物質も、ゲル化した除染剤と共に除去される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸の一価金属塩と、アルギン酸塩以外の多価金属塩とを主な成分とする除染剤を、被除染表面に塗布または散布し、被除染表面にアルギン酸ゲルからなる塗膜を形成する工程と、形成された塗膜とともに被除染表面に付着している放射性物質を剥離除去する除去工程とを有することを特徴とする除染方法。
【請求項2】
請求項1記載の塗膜形成工程において、アルギン酸の一価金属塩を主な成分とする除染剤(A)と、アルギン酸塩以外の多価金属塩を主な成分とする除染剤(B)とに分け、被除染表面に対してA,Bを連続して散布または塗布し、ゲル化させることを特徴とする請求項1記載の除染方法。
【請求項3】
請求項1〜2記載の除染剤であって、アルギン酸の一価金属塩が、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、またはアルギン酸アンモニウムの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の除染剤。
【請求項4】
請求項1〜3記載の除染剤であって、アルギン酸塩以外の多価金属塩が、カルシウム、亜鉛、銅、バリウム、鉄、アルミニウム、ニッケル及びマンガンからなる化合物の少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の除染剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−96984(P2013−96984A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253236(P2011−253236)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(300068030)株式会社キミカ (3)
【出願人】(506066098)株式会社バイノス (8)
【上記1名の代理人】
【識別番号】300068030
【氏名又は名称】株式会社キミカ