説明

標的物質の測定方法および測定試薬

【課題】 被験試料中の標的物質を、低濃度から高濃度にわたる広い測定範囲において、簡便な操作で精度よく、かつ再現性よく定量できる測定方法、および該測定方法に好適に用いられる測定試薬の提供。
【解決手段】 標的物質または標的物質と同じ特異性をもつ物質からなる特異的物質を含有する特異的物質溶液を、検出用物質を含有する検出溶液に添加して得られる混合液の吸光度が最大となる際の特異的物質溶液中の特異的物質濃度を求めて基準濃度とする第一過程と、前記検出溶液と同一種の第二の検出溶液に、基準濃度以上の特異的物質溶液と、濃度既知の標的物質を含む標準溶液とを添加して、その吸光度を測定する第二過程と、前記検出溶液と同一種の第三の検出溶液に、第二過程と同一濃度の特異的物質溶液と、被験試料とを添加して、その吸光度を測定する第三過程とを有し、前記検出溶液が、多価アルコールを含有することを特徴とする標的物質の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験試料に含まれる標的物質を、該標的物質に特異的に結合する検出用物質を用いて検出する測定方法および測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
病院や検査センター等においては、自動分析装置の発達とともに、用手法で検査されていた免疫血清部門の臨床検査も急速に自動化が進んでいる。このような臨床検査に用いられる測定方法も多種類に渡り、例えばRIA(ラジオイムノアッセイ)、EIA(エンザイムイムノアッセイ)、TIA(免疫比濁法)、LIA(ラテックス免疫比濁法)等の測定方法が用いられている。これらの方法のうち、RIAやEIAは、放射性物質や酵素を利用するため、それぞれの測定法に合った専用機種を必要とする。これに対し、TIAやLIA等の凝集法では、抗原−抗体反応により生じる凝集に伴う反応液の濁度の変化を測定するため、非常に簡便に行うことができる。そのため、TIAやLIAは汎用自動分析装置への適用が可能であり、これらを用いた免疫血清検査を生化学検査と同一ラインで実施する方式が採用されている。
【0003】
これらの測定方法には、それぞれ、その測定方法に適した検出濃度があり、検体溶液(被験試料)中における抗原の存在量に応じて適用されている。例えばTIAは、比較的高濃度の抗原の測定に用いられており、例えば、血清中に比較的多量に存在する免疫グロブリンの測定には、通常、TIAが用いられている。また、LIAはTIAよりも高感度であるため、より低濃度の抗原に対して好適に用いられる。
しかし、これらの測定方法では、被験試料中の標的物質を、低濃度から高濃度にわたる広い測定範囲において精度よく検出することは困難である。
例えば、被験試料中の抗原濃度が低い場合、TIAでは感度が不十分な場合がある。
また、地帯現象の問題もある。すなわち、TIAやLIA等の凝集法においては、一般的には、吸光度の上昇値から検量線を作成して濃度の判定を行っているが、これは、通常、抗原の濃度に比例して吸光度が上昇するためである。しかし、被験試料中に抗原が過剰量存在する場合、逆に、抗原の濃度に比例して吸光度が減少する現象(地帯現象)が生じ、被験試料中の抗原濃度が誤って判定される可能性がある。例えば免疫グロブリンはヒト血清成分の中で、正常時でもアルブミンに次ぐ量が存在するが、ミエローマ血清等の検体では、数万mg/dlという、正常値の数十倍もの量が存在しており、抗原過剰による誤判定が生じる可能性がある。
【0004】
このような問題に対し、例えば低濃度における高感度の検出を実現する目的で、抗体等の検出試薬または検体を多量に用いたり、増感剤等の添加物を加えたりする等の対策が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
また、高濃度の抗原を含むと予想される検体を希釈して吸光度を測定する方法が用いられている。さらに、地帯現象を抑制する目的で、抗体等を担持した不溶性担体に加えて特定の高分子物質を含有する免疫測定試薬、測定値が所定の基準値以上である被験試料を判定したのち特定濃度の試薬で測定する方法、担体に固定された抗体等と別に抗体を存在させる方法等が提案されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。
【特許文献1】特開平9−304388号公報
【特許文献2】特開平9−304389号公報
【特許文献3】特開平10−239317号公報
【特許文献4】特許第3005400号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、増感剤は、吸光度の上昇を非特異的に促進させるものであり、また検体に含まれるイムノコンプレックス等をも凝集させうることから、誤判定の要因となりやすい。
また、検体溶液を希釈する場合、特に検体が多数であると多大な時間と労力が希釈操作に費やされ、また希釈に伴う濃度測定結果の誤差の可能性が発生する。さらに、地帯現象を抑制する工夫を行っても、地帯現象は測定原理に由来するものであって完全に回避することはできず、誤判定の可能性が残る。
さらに、検査に際して、低頻度とはいえ遭遇する可能性のある高濃度な検体に対応するために、検査において取り扱う検体に対して一律に、抗体を多量に用いたり、添加物を加えたりすることは、経済的でなく、また不必要に非特異的な反応を増長して検査精度を低下させる。逆に、高濃度の抗原を含む検体にのみ、上記のような処理を行うことは、特に自動分析機器への適用を妨げる。
このように、被験試料に含まれる抗原等の標的物質を、低濃度から高濃度に渡って簡便かつ精度よく定量することは困難であった。
【0006】
このような問題に対し、本発明者らは、被験試料中の標的物質を、低濃度から高濃度にわたる広い測定範囲において簡便な操作で精度よく定量できる測定方法として、標的物質または標的物質と同じ特異性をもつ物質からなる特異的物質を、検出用物質を含有する検出溶液に添加した際に、吸光度が最大となる基準濃度を求め、該基準濃度以上の濃度領域、すなわち吸光度減少域(プロゾーン)において検量線を作成して被験試料中の標的物質濃度の測定を行う方法を提案している(特願2003−282674)。
この発明は、優れたものであるが、より一層高い再現性を発現することが求められている。
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、被験試料中の標的物質を、低濃度から高濃度にわたる広い測定範囲において、簡便な操作で精度よく、かつ再現性よく定量できる測定方法、および該測定方法に好適に用いられる測定試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、さらに検討を重ねた結果、上記測定方法で用いられる検出溶液に多価アルコールを配合することにより、上記課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明の標的物質の測定方法は、被験試料中の標的物質濃度を、該標的物質と特異的に結合する検出用物質を用いて測定する方法において、
標的物質または標的物質と同じ特異性をもつ物質からなる特異的物質を含有する特異的物質溶液を、検出用物質を含有する検出溶液に添加して得られる混合液の吸光度が最大となる際の前記特異的物質溶液中の特異的物質濃度を求めて基準濃度とする第一過程と、
前記検出溶液と同一種の第二の検出溶液に、前記基準濃度以上の特異的物質溶液と、濃度既知の標的物質を含む標準溶液とを添加して、その吸光度を測定する第二過程と、
前記検出溶液と同一種の第三の検出溶液に、前記第二過程と同一濃度の特異的物質溶液と、被験試料とを添加して、その吸光度を測定する第三過程とを有し、
前記検出溶液が、多価アルコールを含有することを特徴とする。
また、本発明の標的物質の測定試薬は、被験試料中の標的物質の測定試薬であって、
標的物質に特異的に結合する検出用物質および多価アルコールとを含有する検出溶液と、標的物質または標的物質と同じ特異性をもつ物質からなる特異的物質を含有する特異的物質溶液とを備え、前記特異的物質溶液中の特異的物質濃度が、該特異的物質溶液を前記検出溶液に添加して得られる混合液の吸光度が最大となる基準濃度以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の測定方法によれば、被験試料中の標的物質を、低濃度から高濃度にわたる広い測定範囲において、簡便な操作で精度よく、かつ再現性よく定量できる。また、本発明の測定試薬は、本発明の測定方法に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明の標的物質の測定方法について説明する。
本発明の標的物質の測定方法は、被験試料中の標的物質濃度を該標的物質と特異的に結合する検出用物質を用いて測定するものである。
【0010】
被験試料としては、性状が液体であればよく、例えば、血液、血清、体液、尿や、固体の検体を分散した液の上清等が挙げられる。
標的物質としては、特に制限はなく、たとえば各種疾病やアレルギー等の原因物質、病原菌、生理活性物質、それらの抗体等が挙げられる。具体的には、免疫グロブリン(例えば、ヒト及び動物免疫グロブリン、変性免疫グロブリン)、各種ウイルス抗原(例えば、肝炎ウイルス関連抗原、風疹HA抗原等)、種々の細菌、真菌、毒素等の微生物抗原(例えば、トキソプラズマ、梅毒トレポネーマ等)、各種血漿タンパク成分(例えば、α−フェトプロテイン、C反応性タンパク(CRP)、アルブミン、補体成分等)、各種ホルモン(例えば、エストロゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、(HCG)等)、抗体(例えば、抗CEA(carcinoembryonic antigen)抗体、抗反応性タンパク抗体、抗フィブリノーゲン抗体、抗γ−グロブリン抗体等)、ホルモン受容体(例えば、甲状腺刺激ホルモンリセプター、HCGリセプター等)、酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ、コリンエステラーゼ等)、基質(例えば、コレステロール、尿酸等)、ヘモグロビン誘導体、糖誘導体(例えば糖化合物、糖タンパク質等)が挙げられる。
【0011】
検出用物質は、標的物質と特異的に結合するもの、すなわち標的物質と結合する部位を有するものであればよく、測定しようとする標的物質に応じて適宜設定することができる。たとえば、検出用物質として抗免疫グロブリン抗体を用いれば、標的物質として免疫グロブリンを検出することができる。
検出用物質としては、例えば、抗原−抗体反応、酵素−基質反応、又はリガンド−受容体反応等によって標的物質と結合する物質が挙げられる。抗原−抗体反応により標的物質と特異的に結合する検出用物質としては、たとえば標的物質が抗原である場合は抗体を用いることができ、標的物質が抗体である場合は抗原を用いることができる。
これらの中でも、検出用物質が抗原−抗体反応により標的物質と特異的に結合するものであると、標的物質である抗原または抗体と結合する抗体または抗原が多種にわたって入手可能であるため、多種の標的物質を測定できることから好ましい。
【0012】
検出用物質として抗体を用いる場合、その抗体の由来は限定されず、例えば、ウサギ抗体、ラット抗体、マウス抗体、ヤギ抗体などいかなる動物種の血清由来のものも使用できる。コストの面で、ヤギ血清から精製した抗体が好ましい。
また抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。
また、抗体は、抗体そのものであってもよく、抗体を断片化して得られる、F(ab’)等の抗体フラグメント(標的物質と結合する部位を有する)であってもよい。
抗体の精製方法および純度は特に制限されず、例えば、硫安塩析等によって精製された抗体を用いることができる。
【0013】
本発明の測定方法においては、まず、標的物質または標的物質と同じ特異性をもつ物質からなる特異的物質を含有する特異的物質溶液を、検出用物質を含有する検出溶液に添加して得られる混合液の吸光度が最大となる際の前記特異的物質溶液中の特異的物質濃度を求めて基準濃度とする第一過程を行う。
【0014】
基準濃度を求める際に用いられる特異的物質としては、標的物質であってもよく、標的物質と同じ特異性をもつ物質であってもよいが、特に、標的物質であることが好ましい。
特異的物質溶液の分散媒としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。かかる分散媒としては、たとえばリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス緩衝液、グッドの緩衝液等が挙げられる。媒体のpHは好ましくは5.5〜8.5である。
また、特異的物質溶液には、安定剤としてウシ血清アルブミン、ショ糖等;測定感度向上剤としてポリエチレングリコール、デキストラン等の水溶性多糖類;防腐剤としてアジ化ナトリウム;塩濃度調整剤として塩化ナトリウム等の添加剤を適宜添加することができる。
また、特異的物質溶液は、後述する検出溶液と同様に、多価アルコールを含有していてもよい。
【0015】
検出溶液は、検出用物質と多価アルコールとを必須成分として含有する。これにより、本発明の測定方法によって測定される結果の再現性が優れたものとなる。
多価アルコールは、同一分子内に複数の水酸基を持つ比較的低分子量のアルコールであって、たとえばグリセリン、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,2,6−ヘキサントリオール、ソルビトール、1,1,4,4−テトラキスヒドロキシメチルシロキサン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールなど、工業的に製造される通常のアルコールを用いられる。これらは免疫診断薬として大量に使用されるため、グレードとしては高純度のもの、すなわち試薬1級もしくは試薬特級レベルのものが望ましい。
検出溶液中の多価アルコール濃度は、検出溶液の総容積に対し、1〜50容積%が好ましく、1〜30容積%がより好ましい。
【0016】
検出溶液中、検出用物質は、検出溶液中にそのまま分散させて用いてもよいし、不溶性担体に担持させて用いてもよいが、不溶性担体に担持させて用いることが好ましい。これにより、標的物質濃度の変化量に対する吸光度の変化率がより高くなるため、感度の高い検出を行うことができる。
検出用物質を不溶性担体に担持させて用いる場合、検出用物質としては、不溶性担体の凝集を妨げないものを用いることが好ましい。
【0017】
不溶性担体としては、有機高分子粒子、無機物質粒子、ラテックス粒子、細胞膜片、血球、微生物等が挙げられる。これらの中でも、工業的に一定の品質性能のものを大量生産できることから、ラテックス粒子が好ましい。
ラテックス粒子の材料としては、粒径を比較的一定に、また、工業的に一定の品質、性能のものを大量生産することができるものであれば、特に制限はなく、例えばスチレン、塩化ビニル、アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のビニル系モノマーの単一重合体や共重合体;スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体等が挙げられる。これらのうち、抗体等の物質の吸着性に優れており、かつ、生物学的活性を長期間保持できる等の観点から、ポリスチレン系のポリマー粒子がさらに好ましい。
ラテックス粒子の粒径は、0.01〜10μmが好ましく、0.03〜1μmが特に好ましい。
また、特異的物質溶液と検出溶液との混合液中での不溶性担体の濃度は、標的物質の性質、予想される存在量、得られる散乱光強度等を考慮して適宜決定することができ、一般的には、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜1質量%が特に好ましい。
【0018】
不溶性担体に検出用物質を担持させる場合、その方法としては、物理的に吸着させる方法、化学的に結合させる方法等を用いることができる。物理的に吸着させる場合には、不溶性担体と検出用物質を単に混合すればよい。また、化学的に結合させる場合には、不溶性担体もしくは検出用物質の表面に存在する官能基を利用して、または適当な官能基を有するスペーサを介して結合させることができる。前記スペーサとしては、カルボジイミド、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル等が挙げられる。
【0019】
検出溶液の分散媒としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。かかる分散媒としては、上記特異的物質溶液の分散媒として例示したものと同様のものが挙げられる。
また、検出溶液には、特異的物質溶液と同様、任意に添加剤を添加することができる。
【0020】
本発明において、基準濃度は、例えば以下のようにして求めることができる。
まず、特異的物質を含有する特異的物質溶液を、特異的物質濃度を変化させて検出溶液に添加し、得られる混合液について、添加してから一定時間経過後に、その吸光度を測定し、横軸に特異的物質溶液中の特異的物質濃度、縦軸に測定された吸光度をとってグラフを作成する。該グラフにおいては、吸光度は、ある特定濃度に達するまでは濃度に比例して上昇し、該特定濃度を超えると濃度に比例して減少する。そして、該グラフから、吸光度が最大となったときの特異的物質溶液の特異的物質濃度を求め、該濃度を基準濃度とする。
吸光度の測定に使用する機器は、経時的に混合液の吸光度を測定しうるものであれば特に限定されないが、汎用の生化学自動分析装置が好ましい。
なお、前記基準濃度は、検出用物質と標的物質との親和性、検出用物質の濃度等から、前もって計算により推定しておくこともできる。
【0021】
ついで、前記検出溶液と同一種の第二の検出溶液に、前記基準濃度以上の特異的物質溶液と、濃度既知の標的物質を含む標準溶液とを添加して、その吸光度を測定する第二過程を行う。
ここで、「前記検出溶液と同一種」とは、第一過程において用いた検出溶液と、組成、濃度、温度、pH等の条件が全て同一であることを示す。また、「基準濃度以上の特異的物質溶液」とは、特異的物質を、基準濃度以上の濃度で含む特異的物質溶液を意味する。
第二の検出溶液への特異的物質溶液および標準溶液の添加の順番は特に限定されず、たとえば特異的物質溶液を添加した後に標準溶液を添加してもよいし、特異的物質溶液と標準溶液とを同時に添加してもよい。
【0022】
第二過程における吸光度の測定は、たとえば特異的物質溶液を添加した後に標準溶液を添加する場合は、標準溶液を添加してから一定時間後に測定する。また、特異的物質溶液と標準溶液とを同時に添加する場合は、これらを添加してから一定時間経過後に測定する。
吸光度の測定条件は前記第一過程と同様とする。
このようにして測定される吸光度を、標準溶液における標準物質の濃度に対してプロットすることにより、検量線を作成することができる。ここでは、標準溶液における標的物質濃度に比例して吸光度が低下する検量線が得られる。
【0023】
なお、検出溶液に添加する特異的物質溶液の特異的物質濃度を、前記基準濃度以上の領域のうちいずれの濃度に設定するかを選択することで、微少濃度から高濃度に渡る濃度範囲の標的物質を、より正確に定量することができる。例えば、微少濃度の標的物質を測定する場合は、特異的物質濃度を基準濃度よりも大きくすることにより、標的物質の濃度の微小な違いに対してより吸光度の差が大きい検量線を得ることができる。
また、高濃度の標的物質を測定する場合は、特異的物質濃度を基準濃度以上かつ基準濃度付近とすることが好ましい。これにより、用いる検出用物質が少なくてすみ、さらに経済的である。
【0024】
ついで、前記検出溶液と同一種の第三の検出溶液に、前記第二過程と同一濃度の特異的物質溶液と、被験試料とを添加して、その吸光度を測定する第三過程を行う。
すなわち、まず、前記第一過程、第二過程において用いた検出溶液と同一種の検出溶液を別に調製し、この検出溶液に、第二過程で第二の検出溶液に添加した特異的物質溶液と同一濃度の特異的物質溶液と、被験試料とを添加する。このとき、第三の検出溶液と特異的物質溶液と被験試料との比率(容積比)は、前記第二過程における第二の検出溶液と特異的物質溶液と標準試料との比率と同様とする。また、第三の検出溶液への特異的物質溶液および被験試料の添加の順番は、第二過程における第二の検出溶液への特異的物質溶液および標準溶液の添加の順番と同様とする。
特異的物質溶液および被験試料の添加後、前記第二過程における吸光度の測定と同一の時間経過後に、吸光度を測定する。なお、吸光度の測定条件は、前記第一過程および第二過程と同様とする。
引き続いて、第二過程で作成した検量線上で、第三過程で得た吸光度と同一の値を示す点に対応する標的物質の濃度を参照することにより、被験試料に含まれる標的物質の濃度を求めることができる。
【0025】
本発明の測定方法では、微少量から多量に渡る標的物質を、簡便かつ正確に定量することができる。そのため、高濃度の標的物質に対しても希釈操作を必要としないので、多数の試料を一括して取り扱いやすい。例えば生体由来の被験試料の個体差、正常・異常、標的物質の種類によらず、簡便な機構で自動分析を行えるので、コストダウン、分析に要する時間の短縮を実現できる。また、本発明の測定方法は、再現性にも優れており、信頼性の高い測定を行うことができる。
さらに、前記検出溶液において、検出用物質を不溶性担体に担持させて用いると、さらに感度よく標的物質を検出することができ、検出用物質の使用量を低減できる。
また、検出用物質として抗免疫グロブリン抗体を用いると、標的物質として免疫グロブリン(イムノグロブリン)を検出することができ、特に、従来は希釈せずに定量することが困難であったイムノグロブリンG(IgG)、イムノグロブリンA(IgA)、イムノグロブリンM(IgM)等の、正常検体に多量に存在する免疫グロブリンについても、希釈することなく正確に定量を行うことができる。
また、本発明の測定方法では、免疫グロブリン以外の、例えばC3、C4等を含む補体成分などの、正常検体に多量に存在する標的物質についても、被験試料を希釈することなく正確に定量を行うことができる。
本発明の測定方法は、病院や検査センター等において、汎用自動分析装置を用いた自動分析に好適に用いることができる。
【0026】
次に、本発明の標的物質の測定試薬について説明する。
本発明の標的物質の測定試薬は、標的物質に特異的に結合する検出用物質および多価アルコールとを含有する検出溶液と、標的物質または標的物質と同じ特異性をもつ物質からなる特異的物質を含有する特異的物質溶液とを備え、前記特異的物質溶液中の特異的物質濃度が、該特異的物質溶液を前記検出溶液に添加して得られる混合液の吸光度が最大となる基準濃度以上であることを特徴とする。
本発明の標的物質の測定試薬は、上記本発明の測定方法において好適に用いられる。すなわち、このような測定試薬に、濃度既知の標的物質を含む標準溶液を添加して一定時間経過後の吸光度を測定することにより検量線を作成し、別に、同一種の測定試薬に被験試料を添加して同一の時間経過後の吸光度を測定する。そして、その測定結果から、上記で作成した検量線を用いて、被験試料における標的物質濃度を求めることができる。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
(1)検出溶液および特異的物質溶液の調製
検出溶液として、抗ヒトIgGヤギポリクローナル抗体からなる検出用物質を、物理吸着でラテックス粒子からなる不溶性担体に担持させたラテックス試液(抗IgG抗体担持ラテックス試液)を下記の手順で調製した。
すなわち、抗ヒトIgGヤギポリクローナル抗体(International Immunology Corp.製:以下、「抗IgG抗体」という)からなる検出用物質を2.0mg/mlの濃度で、50mMのリン酸緩衝液(pH7.2:以下、「PBS」という)に溶解した液10.0mlに、平均粒径が110nmのポリスチレン粒子(藤倉化成(株)製:固形分1質量%)10.0mlを添加し、4℃で60分間撹拌した。次いで、この液にウシ血清アルブミン(以下、「BSA」という)を1質量%含有する50mMのPBS(pH7.2)を添加し、4℃で60分間撹拌した後、20000×gで60分間遠心分離して洗浄した。洗浄操作は3回行った。得られた沈殿物に、BSAを0.1質量%含有する50mMのPBS9.5mlと、グリセリン0.5mlとを添加し、ポリスチレン粒子を懸濁した後、超音波破砕機にて分散処理を行い、固形分1%(W/V)の抗IgG抗体担持ラテックス試液(グリセリン濃度5%(V/V))を得た。
【0028】
また、特異的物質としてヒトIgG(International Immunology Corp.製:以下、「IgG」という)を用い、下記の手順で、特異的物質の溶液(特異的物質溶液)を調製した。
すなわち、グリシン50mM、食塩70mMを純水に溶解し、pH7.2に調整して、この溶液に、IgG濃度10mg/dl、15mg/dl、20mg/dl、25mg/dl、50mg/dl、75mg/dl、200mg/dl、500mg/dlとなるようにヒトIgGを混合し、特異的物質溶液を得た。
【0029】
(2)基準濃度の決定
まず、上記(1)で調製した各IgG濃度の特異的物質溶液を、上記(1)と同様の方法で調製したそれぞれ別の検出溶液(グリセリン濃度5%(V/V))に添加し、添加時から5分後の吸光度を測定した。以下、吸光度の測定は、自動汎用測定機日立7020形(日立製作所(株)製)を使用して、測定波長800nm、測定温度37℃で行った。
その結果、IgG濃度が25mg/dlの場合に、他の濃度の場合と比べて吸光度が最大となった。すなわち、IgGについての基準濃度は25mg/dlであった。
【0030】
(3)検量線の作成
ついで、上記(1)と同様の方法で調製したIgG濃度25mg/dlの特異的物質溶液300μlと、標準溶液として、標的物質として濃度既知のIgGを含む血清3μlとを混合した。
なお、標準溶液は、IgG濃度既知の血清を希釈することにより、IgG濃度0mg/dl、400mg/dl、1600mg/dl、3200mg/dl、4800mg/dl、8000mg/dlとなるように調製した。
この混合液に、上記(1)の方法で別に調製した検出溶液100μlを添加し、添加時から5分後の吸光度を測定した。標準溶液のIgG濃度に対して吸光度をプロットし、IgG測定用の検量線を作成した。結果を図1に示す。図1の横軸は標準溶液のIgG濃度であり、縦軸は吸光度である。
【0031】
(4)被験試料の測定
その後、上記(1)と同様の方法で調製したIgG濃度25mg/dlの特異的物質溶液300μlと、被験試料として、IgG濃度が1000mg/dlであるヒト血清3μlとを混合した。
この混合液に、上記(1)の方法で別に調製した検出溶液(グリセリン濃度5%)100μlを添加し、添加時から5分後の吸光度を測定した。得られた吸光度と上記(3)で作成した検量線を用いて、被験試料中のIgG濃度を求めた。その結果、検量線から求めた被験試料中のIgG濃度の値は1143mg/dlとなり、用いた被験試料のIgG濃度の値1142mg/dlとほぼ一致した。
同様の測定を、さらに9回行い、これらの結果の平均値と標準偏差を求めたところ、被験試料中のIgG濃度の平均値は1143mg/dlであり、標準偏差は17.86であった。
【0032】
[実施例2]
実施例1における(1)検出溶液および特異的物質溶液の調製で、検出溶液のグリセリン濃度を10%(V/V)とした以外は、実施例1と同様に検量線を作成した。その結果を図1に示す。
また、作成した検量線を用いて、上記と同様、被験試料中のIgG濃度の平均値と標準偏差(10回測定)を求めたところ、被験試料中のIgG濃度の平均値は1144mg/dlであり、標準偏差は15.40であった。
【0033】
[実施例3]
実施例1における(1)検出溶液および特異的物質溶液の調製で、検出溶液のグリセリン濃度を20%(V/V)とした以外は、実施例1と同様に検量線を作成した。その結果を図1に示す。
また、作成した検量線を用いて、上記と同様、被験試料中のIgG濃度の平均値と標準偏差(10回測定)を求めたところ、被験試料中のIgG濃度の平均値は1140mg/dlであり、標準偏差は11.66であった。
【0034】
[実施例4]
実施例1における(1)検出溶液および特異的物質溶液の調製で、検出溶液のグリセリン濃度を30%(V/V)とした以外は、実施例1と同様に検量線を作成した。その結果を図1に示す。
また、作成した検量線を用いて、上記と同様、被験試料中のIgG濃度の平均値と標準偏差(10回測定)を求めたところ、被験試料中のIgG濃度の平均値は1148mg/dlであり、標準偏差は11.65であった。
【0035】
[比較例1]
実施例1における(1)検出溶液および特異的物質溶液の調製で、検出溶液にグリセリンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に検量線を作成した。その結果を図1に示す。
また、作成した検量線を用いて、上記と同様、被験試料中のIgG濃度の平均値と標準偏差(10回測定)を求めたところ、被験試料中のIgG濃度の平均値は1151mg/dlであり、標準偏差は33.94であった。
【0036】
上記結果から明らかなように、検出溶液にグリセリンを添加した実施例1〜4では、標準溶液のIgG濃度が低濃度から高濃度にいたるまで、IgG濃度と吸光度が一義的に対応する検量線を得ることができた。また、得られた検量線を用いて測定される結果は、精度にも再現性にも優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1における、標準溶液のIgG濃度に対する吸光度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料中の標的物質濃度を、該標的物質と特異的に結合する検出用物質を用いて測定する方法において、
標的物質または標的物質と同じ特異性をもつ物質からなる特異的物質を含有する特異的物質溶液を、検出用物質を含有する検出溶液に添加して得られる混合液の吸光度が最大となる際の前記特異的物質溶液中の特異的物質濃度を求めて基準濃度とする第一過程と、
前記検出溶液と同一種の第二の検出溶液に、前記基準濃度以上の特異的物質溶液と、濃度既知の標的物質を含む標準溶液とを添加して、その吸光度を測定する第二過程と、
前記検出溶液と同一種の第三の検出溶液に、前記第二過程と同一濃度の特異的物質溶液と、被験試料とを添加して、その吸光度を測定する第三過程とを有し、
前記検出溶液が、多価アルコールを含有することを特徴とする標的物質の測定方法。
【請求項2】
前記検出溶液中の多価アルコール濃度が1〜50容積%の範囲内である請求項1記載の標的物質の測定方法。
【請求項3】
前記多価アルコールが、グリセリンおよび/またはエチレングリコールである請求項1または2に記載の標的物質の測定方法。
【請求項4】
前記検出用物質が、抗原−抗体反応により標的物質と特異的に結合するものである請求項1ないし3のいずれかに記載の標的物質の測定方法。
【請求項5】
前記検出用物質が、検出溶液中で不溶性担体に担持されている請求項1ないし4のいずれかに記載の標的物質の測定方法。
【請求項6】
前記不溶性担体がラテックス粒子である請求項5に記載の標的物質の測定方法。
【請求項7】
前記検出用物質が抗免疫グロブリン抗体であり、前記標的物質が免疫グロブリンである請求項1ないし6のいずれかに記載の標的物質の測定方法。
【請求項8】
被験試料中の標的物質の測定試薬であって、
標的物質に特異的に結合する検出用物質と多価アルコールとを含有する検出溶液と、標的物質または標的物質と同じ特異性をもつ物質からなる特異的物質を含有する特異的物質溶液とを備え、前記特異的物質溶液中の特異的物質濃度が、該特異的物質溶液を前記検出溶液に添加して得られる混合液の吸光度が最大となる基準濃度以上であることを特徴とする標的物質の測定試薬。
【請求項9】
前記検出溶液中の多価アルコール濃度が1〜50容積%の範囲内である請求項8記載の標的物質の測定試薬。
【請求項10】
前記多価アルコールが、グリセリンおよび/またはエチレングリコールであることを特徴とする請求項8または9に記載の標的物質の測定試薬。
【請求項11】
前記検出用物質が、抗原−抗体反応により標的物質と特異的に結合するものである請求項8ないし9のいずれかに記載の標的物質の測定試薬。
【請求項12】
前記検出用物質が、検出溶液中で不溶性担体に担持されている請求項8ないし11のいずれかに記載の標的物質の測定試薬。
【請求項13】
前記不溶性担体がラテックス粒子である請求項12に記載の標的物質の測定試薬。
【請求項14】
前記検出用物質が抗免疫グロブリン抗体であり、前記標的物質が免疫グロブリンである請求項8ないし13のいずれかに記載の標的物質の測定試薬。



【図1】
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【公開番号】特開2006−105910(P2006−105910A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296377(P2004−296377)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】